説明

複合成形体、その製造方法及びフィルムコンデンサ

【課題】特許文献1に記載の複合誘電体シートは、プリント基板等の基板に組み込むことができるコンデンサを形成し、コンデンサとしての耐熱性及び誘電率を高めることができるが、例えばハイブリッドカーや燃料電池車に用いるコンデンサとしては、耐電圧性が不十分である。
【解決手段】本発明の複合成形体は、チタン酸バリウム等の無機誘電体成分及びポリエチレン等の有機結合剤成分を含み、上記無機誘電体成分の含有割合が50重量%以上である多孔質成形体と、上記多孔質成形体の空孔の一部を充填するように含浸されたエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合成形体、その製造方法及びフィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する意識の高まりから、ハイブリッドカーや燃料電池車が注目されている。ハイブリッドカーや燃料電池車には電動モータが搭載されており、この電動モータはインバータにより駆動制御される。そして、インバータを構成する回路には直流電圧を平滑化するための平滑用コンデンサが用いられている。
【0003】
ところで、次世代のハイブリッドカーや燃料電池車の開発では、動力性能の向上を目的として、より高い電圧で動作するモータ駆動方式が模索されている。これを受けて、平滑用コンデンサとしては、より耐電圧が高く誘電率が高いものが求められている。また、電圧上昇に伴ってインバータの温度が高くなるため、平滑用コンデンサとしては、より耐熱性の高いものが求められている。
【0004】
平滑用コンデンサに用いられるコンデンサとしては、フィルムコンデンサが知られている。フィルムコンデンサは、通常、樹脂フィルムと金属箔とを交互に積層した構造を有する。フィルムコンデンサにおいて、上述した諸特性は主にフィルムにより左右されるため、耐電圧が高く、誘電率が高く、耐熱性の高いフィルム材料が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1ではエポキシ樹脂からなる有機成分にセラミック粉末からなる無機成分を添加した熱硬化性複合誘電体フィルムが提案されている。この熱硬化性複合誘電体フィルムは、エポキシ樹脂を主成分としているため、耐熱性が高く、セラミック粉末が添加されているため、耐熱性及び誘電率が高い特性を備えている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−356619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の複合誘電体シートは、プリント基板等の基板に組み込むことができるコンデンサを形成し、コンデンサとしての耐熱性及び誘電率を高めることができるが、例えばハイブリッドカーや燃料電池車に用いるコンデンサとしては、耐電圧性が不十分であるという課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、耐電圧性、耐熱性及び誘電率に優れた複合成形体、その製造方法及びフィルムコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載の複合成形体は、無機誘電体成分及び有機結合剤成分を含み、上記無機誘電体成分の含有割合が50重量%以上である多孔質成形体と、上記多孔質成形体の空孔の一部を充填するように含浸された硬化性樹脂と、を有することを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の請求項2に記載の複合成形体は、請求項1に記載の発明において、上記多孔質成形体に占める上記空孔の割合が1〜70体積%であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項3に記載の複合成形体は、請求項1または請求項2に記載の発明において、上記空孔に耐熱性オイルが含浸されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項4に記載の複合成形体は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、上記無機誘電体成分は、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム及びチタン酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種のセラミックであることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の請求項5に記載の複合成形体は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発明において、上記有機結合剤成分は、重量平均分子量400,000以上のポリオレフィンからなることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項6に記載の複合成形体は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の発明において、上記硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の熱硬化性樹脂であることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の請求項7に記載の複合成形体は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の発明において、上記硬化性樹脂は、紫外線硬化型の硬化性樹脂または電子線硬化型の硬化性樹脂であることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の請求項8に記載の複合成形体は、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の発明において、上記多孔質成形体は、シート状の形状を有し、互いに対向する第1、第2の主面を有することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の請求項9に記載の複合成形体は、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の発明において、上記硬化性樹脂は、シート状の上記多孔質成形体の上記第1の主面から上記多孔質成形体の厚みの10〜100%の深さまで達するように、上記多孔質成形体に含浸されていることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の請求項10に記載の積層型電子部品は、請求項8または請求項9に記載のシート状の複合成形体が複数積層されてなる積層体と、上記積層体内に形成された内部導体と、を備えたことを特徴とするものである。
【0019】
本発明の請求項11に記載のフィルムコンデンサは、請求項8または請求項9に記載のシート状の複合成形体が複数積層されてなる積層体と、上記積層体の層間に形成され且つ上記積層体の両端面に交互に引き出された内部導体と、上記積層体の両端面に形成され且つ上記内部電極と電気的に接続された外部導体と、を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の請求項12に記載のフィルムコンデンサは、請求項8または請求項9に記載のシート状の複合成形体の上記第1の主面上に、その幅方向の一方の端部に絶縁マージン部が形成されるように内部導体が形成され、この内部導体が形成された二枚の上記シート状の複合成形体を、上記絶縁マージン部が両端に交互に位置するようにして重ねて巻回された巻回体と、上記巻回体の両端面に形成され且つ上記内部導体と電気的に接続された外部導体と、を備えたことを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明の請求項13に記載の複合成形体の製造方法は、無機誘電体成分及び有機結合剤成分を含み、上記無機誘電体成分の含有割合が50重量%以上であり、全体に占める空孔の割合が1〜80体積%である多孔質成形体を準備する工程と、上記多孔質成形体の空孔の一部を充填するように、未硬化の硬化性樹脂を含浸させる工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の請求項14に記載の複合成形体の製造方法は、請求項13に記載の発明において、上記未硬化の硬化性樹脂を硬化させた後に、上記多孔質成形体に占める上記空孔の割合が1〜70体積%となるように、上記未硬化の硬化性樹脂を含浸させることを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明の請求項15に記載の複合成形体の製造方法は、請求項13または請求項14に記載の発明において、上記未硬化の硬化性樹脂を硬化させた後、上記多孔質成形体を加熱加圧することを特徴とするものである。
【0024】
本発明の請求項16に記載の複合成形体の製造方法は、請求項15に記載の発明において、40〜120℃及び5〜100MPaの条件下で上記多孔質成形体を加熱加圧することを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の請求項17に記載の複合成形体の製造方法は、請求項13〜請求項16のいずれか1項に記載の発明において、上記多孔質成形体を作製する工程を備え、この工程は、無機誘電体成分、有機結合剤成分及び溶媒を混合して懸濁液を作製する工程と、上記懸濁液を上記懸濁液のゲル化温度以上の温度で加熱し、所定の形状に成形して中間成形体を得る工程と、上記中間成形体を上記懸濁液のゲル化温度以下の温度まで冷却する工程と、冷却された上記中間成形体を加熱加圧して多孔質成形体を得る工程と、を有することを特徴とするものである。
【0026】
即ち、本発明の複合成形体は、無機誘電体成分及び有機結合剤成分を含有する多孔質成形体と、多孔質成形体の空孔の一部を充填する硬化性樹脂と、を有して構成されている。
【0027】
上記多孔質成形体は、50重量%以上の無機誘電体成分及び有機結合剤成分を含有している。多孔質成形体が50重量%以上の無機誘電体成分を含有することによって、その誘電率を高めることができる。この含有量が50重量%未満になると、誘電率が低下する。また、無機誘電体成分の含有量が多すぎると有機結合剤成分によって無機誘電体成分を多孔質成形体として十分に結合することができず、多孔質成形体としての強度(靭性)が低下する。従って、無機誘電体成分の含有量は、93%以下が好ましい。また、有機結合剤成分を含有することによって無機誘電体成分を含有する多孔質成形体に延伸性を付与し、多孔質成形体を薄膜化することができる。
【0028】
上記多孔質成形体内には多数の空孔が分散して形成されている。多孔質成形体に占める空孔の割合は、1〜70体積%が好ましい。空孔の割合が1体積%未満になると空孔を分散させて形成することが技術的に難しくなり、その割合が70体積%を超えると多孔質成形体として十分な耐熱性が得難くなる。
【0029】
上記多孔質成形体には硬化性樹脂が含浸され、多孔質成形体の空孔の一部が硬化性樹脂によって充填されている。硬化性樹脂で空孔の一部を充填することによって複合成形体としての耐熱性を高めることができる。
【0030】
また、上記複合成形体は、上記多孔質成形体の空孔の一部に耐熱性オイルを含浸していることが好ましい。耐熱性オイルは、空孔を充填する硬化性樹脂の硬化処理後に収縮によって生じる空孔に充填されてボイド放電を抑制あるいは防止して複合成形体としての耐電圧性を高めることができ、また、耐熱性を更に高めることができる。
【0031】
上記多孔質成形体は、後述する積層型電子部品やフィルムコンデンサを形成するためには、例えば、互いに対向する第1、第2の主面を有するシート状であることが好ましい。多孔質成形体がシート状を有する場合には、硬化性樹脂がシート状の多孔質成形体の第1の主面からその厚みの10〜100%の深さまで含浸されていることが好ましい。硬化性樹脂が多孔質成形体の第1の主面からその深さ方向に含浸されているから、第1の主面が平滑になるため、凹凸のない内部導体や内部電極を形成し易くなる。硬化性樹脂の含浸深さが多孔質成形体の厚み方向の10%未満では、複合成形体として十分な耐熱性及び耐電圧性が得難くなる。また、硬化性樹脂は、多孔質成形体の一方の主面からだけではなく、両面から含浸させても良い。この場合、両面からの硬化性樹脂の含浸深さの合計が、多孔質成形体の厚みの10〜100%の深さになることが好ましい。
【0032】
而して、本発明に用いられる無機誘電体成分は、多孔質成形体の誘電率を高めるセラミックであれば特に制限されない。無機誘電体成分としては、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム及びチタン酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種のセラミックが好ましい。
【0033】
また、本発明に用いられる有機結合剤成分は、無機誘電体成分を結合して多孔質成形体としての一体性を保持する有機バインダーであれば特に制限されない。有機バインダーとしては、例えば重量平均分子量400,000以上のポリエチレン等のポリオレフィンが好ましい。重量平均分子量が400,000未満になると多孔質成形体としての強度が十分でなく、例えば多孔質成形体をシート状に成形する際の延伸性に劣り、複合成形体を薄膜化することが難しくなる。
【0034】
本発明に用いられる硬化性樹脂としては、例えば、熱処理によって硬化する熱硬化性樹脂、紫外線照射によって硬化するUV硬化性樹脂、あるいは電子線照射によって硬化するEB硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の熱硬化性樹脂が好ましい。
【0035】
本発明の積層型電子部品及びフィルムコンデンサは、上述のシート状の複合成形体を用いて製造することができる。
【0036】
即ち、本発明の積層型電子部品は、シート状に形成された本発明の複合成形体が複数積層されてなる積層体と、この積層体内に形成された内部導体と、を備えて構成されている。積層型電子部品としては、例えば、コンデンサ、多層配線基板等がある。積層型電子部品の積層体は、シート状の複合成形体が複数積層されているため、耐電圧性、耐熱性及び誘電率に優れた積層型電子部品を得ることができる。内部導体は、例えば、各複合成形体間に所定のパターンで形成された面内導体と、各層の面内導体を電気的に接続するように各層を所定のパターンで貫通する層間接続導体(ビア導体)と、を有している。また、内部導体は、積層体の各層間に形成された面内導体のみからなるものであっても良い。内部導体を形成する導電性材料は、特定の導電性材料に制限されるものではなく、Cu、Ni等を主成分として含有する、従来公知の導電性材料を用いることができる。
【0037】
また、本発明の積層型電子部品は、シート状に形成された本発明の複合成形体が複数積層されてなる積層体と、この積層体の層間に形成され且つこの積層体の両端面に交互に引き出された内部導体と、この積層体の両端面に形成され且つ内部電極と電気的に接続された外部導体と、を備えて構成されている。
【0038】
また、本発明のフィルムコンデンサは、シート状の複合成形体の第1の主面上に、その幅方向端部に絶縁マージン部が形成されるように内部導体が形成され、この内部導体が形成された二枚のシート状の複合成形体を、絶縁マージン部が対向するようにして重ねて巻回された巻回体と、この巻回体の両端面に形成され且つ内部電極と電気的に接続された外部電極と、を備え、巻回型のコンデンサとして構成されている。
【0039】
次に、本発明の複合成形体の製造方法について説明する。まず、本発明の複合成形体を製造する場合には、上記多孔質成形体と未硬化の硬化性樹脂を準備する。多孔質成形体は、上述した無機誘電体成分及び有機結合剤成分を含み、無機誘電体成分の含有割合が50重量%以上で、空孔の割合が1〜80体積%のものを準備する。未硬化の硬化性樹脂として、上述の熱硬化性樹脂の少なくともいずれか一種の未硬化の熱硬化性樹脂に溶媒を添加した混合溶液を調製する。
【0040】
その後、例えば、多孔質成形体の第1の主面(表面)に、未硬化の熱硬化性樹脂の混合溶液を塗布して、未硬化の熱硬化性樹脂を多孔質成形体に含浸させ、未硬化の硬化性樹脂で多孔質成形体の空孔の一部を充填し、溶媒を蒸発させて乾燥させる。シート状の多孔質成形体を用いる場合には、例えば多孔質成形体の第1の主面に混合溶液を塗布し、第1の主面から10〜100%の深さまで未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させる。硬化後の熱硬化性樹脂は、多孔質成形体の空孔の割合が1〜70体積%になるように含浸させる。その後、未硬化の熱硬化性樹脂が含浸された多孔質成形体を、40〜120℃の温度、5〜100MPaの圧力で加熱加圧して、熱硬化性樹脂を硬化させることによって本発明の複合成形体が得られる。
【0041】
上記多孔質成形体は、例えば図1の(a)に示すTダイ法及び同図の(b)に示す二軸延伸法によってフィルム状のものとして製造することができる。まず、無機誘電体成分として、例えばチタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム及びチタン酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種のセラミック粉末を準備し、このセラミック粉末をフィラーとして使用する。また、有機結合剤成分として、重量平均分子量が400,000以上のポリオレフィン、例えば粉末状のポリエチレンを準備する。
【0042】
図1の(a)に示すように、まず原料としてフィラー、ポリエチレン粉末及び溶媒をそれぞれ所定の配合比(例えば、53:5:42〜42:4:54)でホッパー1内に投入し、これらの原料をホッパー1内で攪拌機2によって攪拌、混合し、懸濁液(スラリー)Sとして調製する。溶媒としては、例えば、パラフィン、トルエン、キシレン、テトラリン、デカリン等が好ましく用いられる。このスラリーSを、ホッパー1から押出機3内に供給し、押出機3内でゲル化温度以上の温度に加熱した状態で、スクリュー3Aで圧縮し、均一に混練する。ゲル化温度は、ポリエチレンの重量平均分子量によって異なる。重量平均分子量が例えば1,500,000の場合には、ゲル化温度は160℃である。混練後のスラリーSを、押出機3からTダイ4を介してシート状の中間成形体Mとして押し出し、中間成形体MがTダイ4の下流側に配置された冷却ロール5を通す間に、中間成形体Mを冷却ロール5によってゲル化温度以下の温度まで急冷して固化する。更に、この中間成形体Mを冷却ロール5の下流側に配置された乾燥器6内で乾燥させた後、巻取り機7で巻き取る。乾燥器6内では中間成形体Mから溶媒が蒸発、除去される。
【0043】
巻取り機7で巻き取られた中間成形体Mは、例えば図1の(b)に示すように、二軸延伸されて、フィルム状の多孔質成形体Pになる。即ち、中間成形体Mを巻取り機7から縦延伸機8へ供給して縦方向に延伸した後、縦方向に延伸された中間成形体Mを横延伸機9へ供給して横方向に延伸してフィルム状に薄膜化した多孔質成形体Pとして巻取り機10で巻き取る。
【発明の効果】
【0044】
本発明の請求項1〜請求項17に記載の発明によれば、耐電圧性、耐熱性及び誘電率に優れた複合成形体、その製造方法及びフィルムコンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
次に、図2〜図5に示す実施形態に基づいて本発明のフィルムコンデンサ及び積層型電子部品について説明する。
本実施形態のフィルムコンデンサ及び積層型電子部品を作製する場合には、フィルム状に形成された多孔質成形体(多孔質フィルム)を準備し、この多孔質フィルムの空孔の一部に、第1の主面から硬化性樹脂、または硬化性樹脂及び硬化性オイルを含浸させて本実施形態の複合成形体を誘電体フィルムとして作製する。そして、この誘電体フィルムの第1の主面に例えば導体層を形成して、図2の(a)、(b)に示す本実施形態の複合材料フィルムをそれぞれ作製し、この複合材料フィルムを用いて、例えば図3〜図5の電子部品を作製する。
【0046】
図2の(a)に示す複合材料フィルム1は、誘電体フィルム1Aと、この誘電体フィルム1Aの上面に形成された導体層1Bと、を備えている。導体層1Bは、誘電体フィルム1A上面の右端部及び上下両端部以外の領域に、例えばAlを主成分とする導電性金属を真空蒸着することによって形成されている。従って、複合材料フィルム1は、誘電体フィルム1Aが右端部及び上下両端部で露呈する絶縁マージン部を有している。本実施形態の複合材料フィルム1を用いることによって図3に示す発明の積層型電子部品を作製することができる。
【0047】
また、図2の(b)に示す複合材料フィルム1’は、誘電体フィルム1’Aと、この誘電体フィルム1’Aの上面に形成された導体層1’Bと、を備えている。導体層1’Bは、誘電体フィルム1’A上面の一部(図2では上縁部)を残した大部分の領域に、例えばAlを主成分とする導電性金属を真空蒸着することによって形成されている。従って、この複合材料フィルム1’は、誘電体フィルム1’Aが上縁部のみで露呈する絶縁マージン部を有している。本実施形態の複合材料フィルム1’を用いることによって図4に示す本発明の巻回型電子部品を作製することができる。
【0048】
図3に示す本実施形態の電子部品10は、図2の(a)に示す複合材料フィルム1を複数枚積層して形成された積層体(部品本体)11と、この部品本体11の両端面を被覆し且つこれら両端面から露呈する内部導体としての内部電極層1Bに電気的に接続された外部導体としての外部電極12、12と、を備え、積層型電子部品(積層型コンデンサ)として形成されている。部品本体11は、複数の誘電体フィルム1Aと、上下の誘電体フィルム1A間に介在する内部電極層1Bと、最上層として積層された誘電体フィルム1Aと、を有し、上下の内部電極層1Bの端部は部品本体11の両端面から交互に露呈するように配置されている。そして、積層体11内の内部電極層1Bのない絶縁マージン部は、上下の誘電体フィルム1Aが熱圧着により一体化されている。外部電極12は、例えばZn及びSnを主成分とする導電性金属を部品本体11の両端面に金属溶射することによって形成されている。図2の(a)に示す複合材料フィルムを用いて図3に示す電子部品を作製する際には、内部電極層1Bが重なるように、且つ、誘電体フィルム1Aの露呈した部分が積層体11の側面に交互に引き出されるようにして、複数の複合材料フィルム1を積層する。尚、内部電極層1Bは、図2の(a)の導体層1Bに相当する。
【0049】
図4に示す本実施形態のフィルムコンデンサ20は、例えば図2の(b)に示す長尺状の複合材料フィルム1’が二枚積層して巻回されて形成された部品本体21と、この部品本体21の両端面に形成された外部電極22とを備え、巻回型電子部品(巻回型コンデンサ)として形成されている。二枚の複合材料フィルム1’は、それぞれの内部電極層1’Bが部品本体21の両端面から露呈するように配置されている。従って、部品本体21両端面の外部電極22は、部品本体21の両端面から露呈する二枚の複合材料フィルム1’の内部電極層1’Bに電気的に接続されている。本実施形態の外部電極22は、Zn及びSnを主成分とする導電性金属を部品本体21の両端面に金属溶射することによって形成されている。尚、内部電極層1’Bは、図2の(b)の導体層1’Bに相当する。
【0050】
また、図5に示す本実施形態の電子部品30は、部品本体31と、この部品本体31の上下両面に形成された外部導体32と、を備え、多層配線基板として構成されている。従って、本実施形態では電子部品30を多層配線基板30とも称する。部品本体31は、複数の誘電体層31Aが積層された積層体31と、この積層体31内に所定のパターンで形成された内部導体31Bと、を有している。内部導体31Bは、上下の誘電体層31Aの間に所定のパターンで形成された面内導体31Cと、上下の面内導体31C、31C及び面内導体31Cと外部導体32それぞれを電気的に接続するように各誘電体層31Aを所定のパターンで貫通するビア導体31Dと、を有している。
【0051】
誘電体層31Aには、例えばレーザ光を用いて、誘電体フィルム31Aに対して所定のパターンでビアホールを形成した後、スクリーン印刷により熱硬化型の導電性ペーストをビアホール内に埋め込んで熱硬化させ、ビア導体31Dを形成する。次いで、スクリーン印刷法を用いて熱硬化型の導電性ペーストを所定のパターンで塗布して熱硬化させ、面内導体31Cまたは外部電極32を形成して、配線パターンの異なる複数の複合材料フィルムを作製する。そして、これらの複合材料フィルムを所定の順序で複数枚積層することによって、柔軟性に富む、本実施形態の多層配線基板30を作製することができる。
【実施例】
【0052】
本実施例では複合材料フィルムを作製し、複合材料フィルムに用いられた誘電体フィルム(複合成形体)の電気的特性を評価した。
【0053】
実施例1
(1)複合材料フィルムの作製
本実施例では、ポリエチレン(重量平均分子量:18,000,000)を8重量%、チタン酸バリウムを92重量%含み、厚さが27μmで空孔率が53体積%の多孔質フィルムとして、例えばソルフィル(商標名:帝人株式会社製)を準備した。次に、多孔質フィルムの第1の主面(表面)に、エポキシ樹脂(重量平均分子量5,900、官能基当量180の主剤と、重量平均分子量24,000、官能基当量120の硬化剤と、を重量比3:2で含む)を50重量%含む溶液(溶媒:メチルエチルケトン)を塗布し、その後多孔質フィルムを金属製の枠に貼り付け、80℃で20分間乾燥させた後、110℃で2時間加熱して、エポキシ樹脂を硬化させて、複合成形体である誘電体フィルムを作製した。この誘電体フィルムは、長さが45mm、幅が25mm、厚さが31μmであった。そして、このようにして得られた誘電体フィルムの両面に、真空蒸着法を用いてAlを主成分とするアルミニウム膜を電極層として形成して形成し、実施例1の複合材料フィルムを1枚作製した。本実施例の複合材料フィルムは、表1に特性を有している。尚、表1における特徴欄の含浸とは、多孔質フィルムに対する熱硬化性樹脂の含浸処理を意味している。
【0054】
(2)誘電体フィルムの評価
上記複数の複合材料フィルムについて、LCRメータ(4284A;アジレント社製)を用いて、測定周波数1kHz、測定電圧1Vにおける比誘電率ε及び誘電損失tanδをそれぞれ測定し、それぞれの平均値を表1に示した。また、これらの複合材料フィルムについて、絶縁破壊試験装置(HVT−501A:S.Y.Electronics社製)を用いて、25℃(室温)と125℃のオイル中における絶縁破壊電圧をそれぞれ測定し、それぞれの平均値を表1に示した。
【0055】
実施例2
本実施例では、実施例1で作製した誘電体フィルムを120℃、100MPaの条件で加圧、延伸して実施例2の誘電体フィルムを作製した。延伸後の誘電体フィルムは、表1に示すように厚さが14μm、空孔率が7体積%であった。この誘電体フィルムを用いて実施例1と同一の要領で複合材料フィルムを作製した後、この複合材料フィルムについて実施例1と同一の評価を行い、その結果を表1に示した。本実施例では、多孔質フィルムに対して熱硬化性樹脂の含浸処理と加熱加圧処理を施したため、表1の特徴欄には、含浸+プレスとして示した。
【0056】
比較例1
本比較例では、誘電体フィルムとして実施例1、2で用いた多孔質フィルム(ソルフィル)をそのまま用いて電極層を形成した以外は、実施例1、2と同様にして表1に示す複合材料フィルムを作製し、この複合材料フィルムについて実施例1、2と同一の評価を行い、その結果を表1に示した。尚、表1の特徴欄にはソルフィルとして示した。
【0057】
比較例2
本比較例では、比較例1で用いた多孔質フィルム(ソルフィル)を120℃、100MPaで加熱加圧処理を施した以外は、比較例1と同一要領で複合材料フィルムを作製した後、この複合材料フィルムについて実施例1、2と同一の評価を行い、その結果を表1に示した。尚、表1の特徴欄にはプレスとして示した。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示す結果によれば、チタン酸バリウム及びポリエチレンを含み、チタン酸バリウムの含有割合が92重量%である多孔質フィルムと、多孔質フィルムの空孔の一部を充填するように含浸されたエポキシ樹脂と、を有する本発明の範囲にある誘電体フィルム(複合成形体)を用いた実施例1の複合材料フィルムは、25℃の室温から125℃の高温になっても、絶縁破壊電圧が殆ど低下せず、高温下でも高い耐電圧性を示し、耐熱性に優れていることが判った。また、実施例1で用いられた誘電体フィルムを更に加熱加圧して延伸処理をした複合材料フィルムは、実施例1と比較して比誘電率εが格段に高くなり、しかも実施例1と同様に高温下でも高い耐電圧性を示し、耐熱性に優れていることが判った。
【0060】
これに対して、比較例1のように熱硬化性樹脂を含浸させない多孔質フィルムをそのまま用いた複合材料フィルムは、室温では実施例1、2の複合材料フィルムと同様に高い耐電圧性を示すが、125℃の高温下では耐電圧性が急激に劣化し、耐熱性のないことが判った。比較例2の複合材料フィルムは、比較例1と比較して比誘電率εが高くなるが、比較例1と同様に耐熱性のないことが判った。
【0061】
以上説明したように本実施例によれば、チタン酸バリウム及びポリエチレンを含み、チタン酸バリウムの含有割合が92重量%である多孔質フィルムと、多孔質フィルムの空孔の一部を充填するように含浸されたエポキシ樹脂と、を有する複合材料フィルムは、環境温度が室温から100℃を超える高温に変化しても、絶縁破壊電圧が殆ど低下せず、高い耐電圧性を安定的に維持し、耐熱性に優れている。
【0062】
また、実施例1で用いられた多孔質フィルムを更に加熱加圧して延伸処理をした複合材料フィルムは、実施例1と比較して比誘電率εが格段に高くなり、しかも実施例1と同様に耐電圧性及び耐熱性に優れていることが判った。
【0063】
従って、本実施例の複合材料フィルムを図3に示す積層型電子部品10及び図4に示す巻回型電子部品20に用いることによって、高容量、高耐電圧性で耐熱性に優れた電子部品を得ることができる。また、本実施例の複合成形体を多層配線基板30の部品本体に用いることによって、高容量、高耐電圧性で耐熱性に優れた多層配線基板30を得ることができる。
【0064】
尚、本発明は、上記実施形態に何等制限されるものではない。要は、本発明の複合成形体は、無機誘電体成分及び有機結合剤成分を含み、上記無機誘電体成分の含有割合が50重量%以上である多孔質成形体と、上記多孔質成形体の空孔の一部を充填するように含浸された硬化性樹脂と、を有するものであれば良く、無機誘電体成分、有機結合剤成分及び硬化性樹脂は、特定の成分に制限されるものではない。また、本発明の複合成形体を用いたフィルムコンデンサや積層型電子部品であれば、本発明に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、例えばハイブリッドカーや燃料電池車に用いられるフィルムコンデンサや多層配線基板等の積層型電子部品等を製造する際に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】(a)、(b)はそれぞれ本発明の複合成形体に用いられる多孔質成形体を製造する工程を示す図で、(a)は中間成形体を製造する工程を示し、(b)は中間成形体から多孔質成形体を製造する工程を示す図である。
【図2】(a)、(b)はそれぞれ本発明の一実施形態の複合成形体を用いた複合材料フィルムを示す斜視図である。
【図3】図2に示す複合材料フィルムを用いて作製された本発明の積層型電子部品の一実施形態を示す断面図である。
【図4】図2に示す複合材料フィルムを用いて作製された本発明のコンデンサフィルムからなる巻回型電子部品を部分的に展開して示す斜視図である。
【図5】本発明の複合成形体を用いて作製された本発明の積層型電子部品の他の実施形態である多層配線基板を示す断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 複合材料フィルム
1A 誘電体フィルム(フィルム状の複合成形体)
1B 電極層、内部電極層(内部導体)
10 積層型電子部品
11 部品本体
12 外部電極(外部導体)
20 巻回型電子部品(フィルムコンデンサ)
21 部品本体
22 外部電極
30 多層配線基板(積層型電子部品)
31 部品本体
31A 誘電体層(複合成形体)
31B 内部導体
32 外部導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機誘電体成分及び有機結合剤成分を含み、上記無機誘電体成分の含有割合が50重量%以上である多孔質成形体と、
上記多孔質成形体の空孔の一部を充填するように含浸された硬化性樹脂と、
を有することを特徴とする複合成形体。
【請求項2】
上記多孔質成形体に占める上記空孔の割合が1〜70体積%であることを特徴とする請求項1に記載の複合成形体。
【請求項3】
上記空孔に耐熱性オイルが含浸されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の複合成形体。
【請求項4】
上記無機誘電体成分は、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム及びチタン酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種のセラミックであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項5】
上記有機結合剤成分は、重量平均分子量400,000以上のポリオレフィンからなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項6】
上記硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項7】
上記硬化性樹脂は、紫外線硬化型の硬化性樹脂または電子線硬化型の硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項8】
上記多孔質成形体は、シート状の形状を有し、互いに対向する第1、第2の主面を有することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項9】
上記硬化性樹脂は、シート状の上記多孔質成形体の上記第1の主面から上記多孔質成形体の厚みの10〜100%の深さまで達するように、上記多孔質成形体に含浸されていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の複合成形体。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載のシート状の複合成形体が複数積層されてなる積層体と、
上記積層体内に形成された内部導体と、
を備えたことを特徴とする積層型電子部品。
【請求項11】
請求項8または請求項9に記載のシート状の複合成形体が複数積層されてなる積層体と、
上記積層体の層間に形成され且つ上記積層体の両端面に交互に引き出された内部導体と、
上記積層体の両端面に形成され且つ上記内部電極と電気的に接続された外部導体と、
を備えたことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項12】
請求項8または請求項9に記載のシート状の複合成形体の上記第1の主面上に、その幅方向の一方の端部に絶縁マージン部が形成されるように内部導体が形成され、この内部導体が形成された二枚の上記シート状の複合成形体を、上記絶縁マージン部が両端に交互に位置するようにして重ねて巻回された巻回体と、
上記巻回体の両端面に形成され且つ上記内部導体と電気的に接続された外部導体と、
を備えたことを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項13】
無機誘電体成分及び有機結合剤成分を含み、上記無機誘電体成分の含有割合が50重量%以上であり、全体に占める空孔の割合が1〜80体積%である多孔質成形体を準備する工程と、
上記多孔質成形体の空孔の一部を充填するように、未硬化の硬化性樹脂を含浸させる工程と、
を備えたことを特徴とする複合成形体の製造方法。
【請求項14】
上記未硬化の硬化性樹脂を硬化させた後に、上記多孔質成形体に占める上記空孔の割合が1〜70体積%となるように、上記未硬化の硬化性樹脂を含浸させることを特徴とする請求項13に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項15】
上記未硬化の硬化性樹脂を硬化させた後、上記多孔質成形体を加熱加圧することを特徴とする請求項13または請求項14に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項16】
40〜120℃及び5〜100MPaの条件下で上記多孔質成形体を加熱加圧することを特徴とする請求項15に記載の複合成形体の製造方法。
【請求項17】
上記多孔質成形体を作製する工程を備え、
この工程は、
無機誘電体成分、有機結合剤成分及び溶媒を混合して懸濁液を作製する工程と、
上記懸濁液を上記懸濁液のゲル化温度以上の温度で加熱し、所定の形状に成形して中間成形体を得る工程と、
上記中間成形体を上記懸濁液のゲル化温度以下の温度まで冷却する工程と、
冷却された上記中間成形体を加熱加圧して多孔質成形体を得る工程と、
を有することを特徴とする請求項13〜請求項16のいずれか1項に記載の複合成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−5531(P2007−5531A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183192(P2005−183192)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】