複合材角部及び複合材角部の製造方法
【課題】 環状ガスタービンエンジン部品のフランジ角部の高樹脂密度領域を低減もしくはなくす方法の提供。
【解決手段】 ガスタービンエンジン部品及びガスタービンエンジンの複合材部品の製造方法は、互いにある角度で配置された第1及び第2の表面を有するツール(100)を準備する段階を含む。第1の表面と第2の表面との角部近傍で終端する端部を有する繊維セグメント(302)を第1の表面に取り付ける。繊維セグメント(302)及び第2の表面に繊維プリフォーム(301)を配置する。次いで、繊維プリフォーム(301)又は繊維セグメント(302)の1以上にマトリックス材料を加える。繊維セグメント(302)の端部を膨らませることができる十分な温度に繊維セグメント(302)及び繊維プリフォーム(301)を加熱する。次いでマトリックス材料を硬化して角部分の繊維分布が実質的に均一な複合材物品を形成する。
【解決手段】 ガスタービンエンジン部品及びガスタービンエンジンの複合材部品の製造方法は、互いにある角度で配置された第1及び第2の表面を有するツール(100)を準備する段階を含む。第1の表面と第2の表面との角部近傍で終端する端部を有する繊維セグメント(302)を第1の表面に取り付ける。繊維セグメント(302)及び第2の表面に繊維プリフォーム(301)を配置する。次いで、繊維プリフォーム(301)又は繊維セグメント(302)の1以上にマトリックス材料を加える。繊維セグメント(302)の端部を膨らませることができる十分な温度に繊維セグメント(302)及び繊維プリフォーム(301)を加熱する。次いでマトリックス材料を硬化して角部分の繊維分布が実質的に均一な複合材物品を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材物品及びその製造方法に関する。特に、本発明は複合材環状ガスタービンエンジン部品の角部に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機エンジン設計では、航空機の燃料効率及び推進性能を高めるため航空機エンジン部品の材料の軽量化が絶えず求められている。航空機部品は従来鋼鉄で作られてきた。しかし、鋼鉄は比較的重いため、アルミニウム又はチタニウムのような軽量高強度材料で置換されてきた。軽量部品の製造技術の進歩に伴って、グラファイト樹脂をポリイミド樹脂中に埋め込んだ複合材のような非金属材料が開発されている。複合材料は、マトリックス材料の内部に繊維を埋封した材料である。繊維はマトリックス材料を強化する。マトリックス中に埋め込む前の繊維構造体は一般にプリフォームと呼ばれる。グラファイト繊維を樹脂系に埋め込んだものには、材料を部品へと成形するのが難しいこと、多孔率が高いこと、微小亀裂、層間剥離、並びに装置及びプロセスが高価であることを始めとする短所がある。
【0003】
グラファイトエポキシ複合材ファンダクトは、Prattの米国特許第5145621号(以下、「‘621号特許」という。)に開示されたクロスオーバーツールを用いて製造されている。‘621号特許では、製織グラファイト繊維プリフォームを大型スプール上に取り付けて、グラファイトエポキシ複合材ファンダクトを形成する。繊維はスプールの両端でフランジを形成するように配置される。スプールの形状によって完成複合材の最終形状が実質的に決まる。クロスオーバーツールで、スプール上のグラファイトの繊維を引っ張って張力を与える。ツールでは、繊維のフランジ部を取り囲む複雑なスパイダーツールであって独立した3個の真空エンベロープと組み合わせたときに圧力を与えるスパイダーツールを用いて繊維を引っ張る。‘621号特許に開示されたクロスオーバーツール及び方法の短所としては、プロセスが複雑であり、ツールが高価で使用が難しいことが挙げられる。
【0004】
グラファイトエポキシ複合ファンケースは、Desautels他の米国特許第5597435号(以下、「‘435号特許」という。)に開示された、製造時に強化材料のプライに力を加えるのを補助するための弾性材料を利用した成形システムによっても製造されている。複合マトリックスの製造のため、未硬化の繊維強化プリプレグ型プライ(すなわちプライ)を金型に取り付ける。プリプレグプライは、金型に取り付ける前に未硬化マトリックス材料で含浸したプライである。プライを所定の位置に保持するため強制部材及び拘束部材をプライ上に配置する。強制部材は、拘束部材と金型上のプライの間に配置かれる。金型、プライ、拘束部材及び強制部材を炉に入れて加熱する。このアセンブリを加熱すると、強制部材が均一に膨張して均一な圧力がプライに加わる。その結果、温度の上昇に伴ってプライが圧縮される。’435号特許のプロセスは、材料の体積を減らすだけで、完成複合材に高強度及び均一性をもたらす繊維配向を与えるように織物を張りつめることがなされないという短所を有する。
【0005】
複合ファンケーシングの公知の製造法は、フランジ角部の樹脂密度が複合体に比して増大し、その結果フランジの圧縮強度が低下するという短所を有する。具体的には、樹脂密度の増加によって、製造時及び作動時の熱収縮に起因する微小亀裂を生じる。繊維強化材に比して樹脂密度が増大すると、強化材への応力の伝達が不十分となり、フランジの微小亀裂又は早期故障を起こしかねない。
【0006】
樹脂密度の増大の問題を軽減するため、樹脂密度が増大すると予測される空間内で繊維を撚って分布させることが行われている。撚り繊維は、硬化時に空間内で実質的にランダムに萎縮する。しかし、撚り繊維は、空間に十分に適応せず、樹脂密度の増大した領域が依然として残るという短所がある。また、ランダム分布のため繊維の配置が不揃いで、繊維の一部が垂直に配向しているため強度が幾分失われる。さらに、フランジの上記空間内の材料は繊維分布にバラツキがあり、不均一な特性をもたらす。
【特許文献1】米国特許第5145621号明細書
【特許文献2】米国特許第5597435号明細書
【特許文献3】米国特許第6485660号明細書
【特許文献4】米国特許第6353149号明細書
【特許文献5】米国特許第5952067号明細書
【特許文献6】米国特許第5746854号明細書
【特許文献7】米国特許第5419231号明細書
【特許文献8】米国特許第5171510号明細書
【特許文献9】米国特許第5026595号明細書
【特許文献10】米国特許第4986949号明細書
【特許文献11】米国特許第4468845号明細書
【特許文献12】米国特許第4467838号明細書
【特許文献13】国際公開第96/05386号パンフレット
【特許文献14】特開2002−052618号公報
【特許文献15】欧州特許出願公開第1464661号明細書
【特許文献16】欧州特許出願公開第1234654号明細書
【特許文献17】欧州特許出願公開第1031403号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、環状ガスタービンエンジン部品のフランジ角部の高樹脂密度領域を低減もしくはなくす方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガスタービンエンジン部品及び複合ガスタービンエンジン部品の製造方法は、互いにある角度で配置された第1及び第2の表面を有するツールを準備する段階を含む。第1の表面と第2の表面との角部近傍で終端する端部を有する繊維セグメントを第1の表面に取り付ける。繊維セグメント上及び第2の表面に繊維プリフォームを配置する。次いで、繊維プリフォーム又は繊維セグメントの1以上にマトリックス材料を加える。繊維セグメントの端部を膨らませることができる十分な温度に繊維セグメント及び繊維プリフォームを加熱する。次いでマトリックス材料を硬化して角部分の繊維分布が実質的に均一な複合材物品を形成する。
【0009】
本発明の別の態様は、互いにある角度で構成された1以上の表面を有する幾何形状の繊維強化樹脂を有するガスタービンエンジン用複合材物品である。繊維強化樹脂は、強化樹脂中の繊維密度が角度領域内で実質的に均一であり、角度領域は圧縮荷重及び引張荷重のいずれにも耐性である。
【0010】
本発明の一実施形態に係る方法及びツールは、高強度で組成が均一なフランジを有するファンケーシング、ベーン及び支柱のような複合材格納ダクトとしての用途に適した軽量強化マトリックス複合材料を形成する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る方法は、直径約10フィートの部材のように直径が約5フィートを超える円筒形部材を始めとする大型複合材部品の製造に特に適している。本発明の利点は、かかるフランジが大型複合材ファンケーシングのような大型部品を保持し、その格納特性を維持するのに適していることである。
【0012】
本発明の一実施形態に係る方法は、組成の均一性が高く、高樹脂密度領域のような欠陥の少ない繊維強化マトリックス複合材の製造方法を提供する。
【0013】
本発明の一実施形態に係る方法は、フランジ又はその近傍での材料の一貫性が向上しているため、廃棄及び/又は補修部材の少ないフランジ部品を製造できる。
【0014】
本発明のその他の特徴及び利点は、本発明の原理を例示した添付の図面と併せて以下の好ましい実施形態に関する詳細な説明を参酌することによって明らかになろう。
【0015】
図面全体を通して、同一又は類似の部品にはできるだけ同じ参照符号を付した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明に係る複合材格納ダクトを成形するための複合材ダクト成形ツール100を示す。ツール100は略円筒形の本体105を備える。第1の端板101及び第2の端板103が本体105両側の平面端部近傍に配置されている。本体105並びに第1の端板101及び第2の端板103は、ツール100で保持される被加工物よりも熱膨張係数の大きい材料で製造される。本体105並びに第1の端板101及び第2の端板103用の材料としては、特に限定されないが、金属又は合金が挙げられる。本体105に適した材料としては、アルミニウム及び鋼鉄が挙げられる。第1の端板101は応力緩和締結具111で本体105に締結される。本体105近傍の第2の端板103は本体105に取り付けられる。本体105は略円筒形の幾何形状を有する。略円筒形の本体105は、好ましくは、第1の端板101近傍の小さな直径から第2の端板103の大きな直径までテーパーが付けらる。図1では円筒形の本体105を示すが、本体は円筒形に限定されない。本体のその他の幾何形状としては、特に限定されないが、矩形、長円形及び三角形の幾何形状が挙げられる。別の実施形態では、本体105は、第1の端板101と第2の端板103の間の中間点で小さな直径径となり、本体105の両端で大きな直径となる略円筒形の幾何形状を有する。本体105は、完成後の強化マトリックス複合部品の取り出しを容易にするため、複数の着脱可能な構成部材で製造してもよい。
【0017】
図1は、第1の端板101の第2の端板103に近い方の面に隣接して本体の外周の周りに配置されたフランジシューの第1の組119を示す。フランジシュー107の第2の組121は、第2の端板の第1の端板101に近い方の面に新設して本体105の外周の周りに配置される。フランジシューの第1及び第2の組119及び121の各フランジシュー107は、フランジシュー接合部108で互いに接触する。フランジシュー107は、ツール100で保持される被加工物よりも熱膨張係数の大きい材料からなるプレートである。フランジシュー107用の材料としては、特に限定されないが、金属又は合金が挙げられる。フランジシュー107に適した材料としては、アルミニウム及び鋼鉄が挙げられる。フランジシュー107は、応力緩和締結具111で第1の端板101及び第2の端板103に締結される。応力緩和締結具111は、第1の端板101及び第2の端板103を締結するだけでなく、第1の端板101を本体105に締結する。図1に示すように、フランジシュー107を締結する応力緩和締結具111は、第1の端板101及び第2の端板103とフランジシュー107とを貫通する。第1の端板101を本体105に締結する応力緩和締結具111は、第1の端板101を貫通して本体105内に延在する。本発明では、応力緩和締結具111は、被加工物を装填する際に、第1の端板101と第1の組のフランジシュー119及び第2の組のフランジシュー121のフランジシュー107とを配置できるが、熱膨張その他の力による圧力に降伏する締結具であればよい。フランジシュー107を保持する締結具が適当な半径方向応力下で降伏し、端部フランジプレートを保持する締結具が降伏して軸方向応力を緩和するときに、応力緩和が起こる。応力緩和締結具111に適した材料としては、特に限定されないが、ナイロンが挙げられる。1以上のリザーバ109が第1の端板101の表面に配置される。リザーバ109は真空ライン115を介して真空源と流体連通してる。リザーバ109は別個の部品として示してあるが、第1の端板101と一体に製造してもよい。
【0018】
図2は、図面上で第1の端板101と第2の端板103が水平に配向したツール100の一実施形態を示す。図2に示す配向は、第1の端板101が第2の端板103の上で実質的に水平に配向し、本体105の中心軸が実質的に垂直方向に向いた状態でツール100をオートクレーブ内に装填する本発明の実施形態を例示したものである。この実施形態では、オートクレーブに言及するが、ツールを加熱・加圧する機能を有するチャンバであれば、どのようなチャンバも本発明での使用に適している。図2は、本体105の外周の周りに配置されたフランジシュー107を示す。第1の組のフランジシュー119は、第1の端板101の第2の端板103に近い方の面に締結される。第2の組のフランジシュー121は第2の端板103の第1の端板101に近い方の面に締結される。
【0019】
第2の端板103に隣接する表面に沿って各フランジシュー107間のフランジシュー接合部108にチャネル201が機械加工され、フランジシュー接合部108の本体105に隣接する内面205から外周まで流体連通を形成する。フランジシュー接合部108の外周にサイフォン管113が取り付けられ、第2の端板103に隣接するチャネル201と流体連通して配置される。サイフォン管113は、第1の端板101に隣接するリザーバ109と流体連通している。各リザーバ109は、真空下でマトリックス材料を収容できる中空チャンバである。各リザーバ109は、フランジシュー107と第1の端板101の下面と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203と流体連通している。キャビティ203は、被加工物の一部(図3〜図5の繊維織物301及び織物インサート302として示す)を挿入できる十分な容積のものである。被加工物は、好ましくは強化繊維織物の一部である。リザーバ109はまた、真空ライン115を介して真空源117と流体連通している。真空源117はリザーバ109を真空状態にしてリザーバ109内の材料を真空に引く。
【0020】
図3は、図2の矢視3−3断面図を示す。図3に示す断面図は、図面上で第1の端板101が水平に配向した第1の端板101の一部の拡大図である。第1の端板101及び本体105には、繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302が装填されている。織物インサート302は好ましくはまず本体105に取り付けられ、第1の端板101及び第2の端板103で終端するように配置される(図5も参照)。織物インサート302は、好ましくは織物又は織物セグメントの形態の二軸製織布材料である。繊維織物インサート302の形成に適した繊維としては、特に限定されないが、炭素、グラファイト、ガラス及びポリアミドの繊維が挙げられる。織物インサート302を構成する繊維は、好ましくはグラファイト繊維である。好ましい織物インサート302は、中心軸方向から+45°方向の2つの3k(3000ストランド)繊維束と、軸方向トウから−45°方向の2つの3k繊維束とを有する二軸織が挙げられる。織物インサート302は、二軸織物又は織物セグメントその他最終硬化複合材製品を強化できる構成の形態にあればよい。繊維織物プリフォーム301は、本体105から第1の端板101に沿って織物インサート302から離れる方向に延びるフランジ部305を備えるようにツール100に取り付けられる。応力緩和締結具111を用いてフランジシュー107を第1の端板101に締結す。同様に、第1の端板101は、応力緩和締結具111を用いて本体105に締結される。
【0021】
図3は、本体105に沿って配置された繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302を示す。繊維織物プリフォーム301は約90°の角度で屈曲した部分を含み、フランジシュー107と第1の端板101と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203内でフランジ形状をなす。織物インサート302が繊維織物プリフォーム301と本体105との間に配置されている。織物インサート302は、加熱時に膨らむことのできる端部を第1の端板101に隣接して有する。かかる膨張は、織物インサート端部での各繊維のほぐれを伴うものでもよい。フランジシュー107と第1の端板101と本体105とで画成されるキャビティ203は、マトリックス材料分配チャネル303を介してリザーバ109と流体連通している。リザーバ109は1以上の真空ライン115及び1以上のサイフォン管113と流体連通している。
【0022】
図4は、図2の矢視3−3断面図を示す。断面図は、図3の本体105、フランジシュー107、繊維織物プリフォーム301、織物インサート302及び第1の端板101と同じ構成の複合材ダクト成形ツール100の一部を示す。ただし、図4に示す実施形態では、サイフォン管113がフランジシュー107のサイフォン管凹部401内に挿入されている。サイフォン管113はマトリックス材料分配チャネル403と流体連通している。マトリックス材料分配チャネル403はサイフォン管113からフランジシュー107と第1の端板101と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203まで延在する。フランジシュー107と第1の端板101と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203は、リザーバチャネル405を介してリザーバ109と流体連通している。リザーバ109は、真空ライン115を介して真空源117と流体連通している。
【0023】
図5は、図2の矢視5−5断面図を示す。図5に示す断面図は図面上で第2の端板103が水平に配向した部分の拡大図であり、繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302の被加工物が装填されている。図5は、応力緩和締結具111を用いて第2の端板103に締結されたフランジシュー107を示す。第2の端板103は、第2の端板締結具505で本体105に締結される。第2の端板締結具505は、応力緩和締結具111のように圧力下で降伏することのない締結具である。第2の端板締結具505は、ツール100に発生する圧力下で降伏しない締結具であればどのようなものでもよい。別の実施形態では、第2の端板103と本体105は永久的に装着されていても、或いは機械加工によって単一部材としたものでもよい。この実施形態では、第2の端板103は本体105と一体化しており、本体105を第2の端板103から延在する単一部材として機械加工又は鋳造すればよい。或いは、本体105と第2の端板103を溶接してもよい。
【0024】
図5に示す実施形態では、サイフォン管113がフランジシュー107のサイフォン管凹部501内に挿入されている。サイフォン管113はマトリックス材料分配チャネル503と流体連通している。マトリックス材料分配チャネル503はサイフォン管からフランジシュー107と第2の端板103と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203まで延在する。
【0025】
図6は、本発明に係る複合材格納ダクトを成形するための複合材ダクト成形ツール100を示し、オートクレーブその他の雰囲気制御装置内に装填される前の、複合材へと成形される織物プリフォーム301、織物インサート302及びマトリックス材料601が装填されている。ツール100を図6に示す構成へと装填するため、まず第1の端板101及び第2の端板103の少なくとも一方を取り外す。織物インサート302を本体105上に配置する。織物インサート302の前後に追加の皮膜又は保護層を設けてもよいが、必須ではない。一実施形態では、織物インサート302は、本体105の直径まで膨張して本体105表面に密着させることができる管状織物セグメントであってもよい。取り付ける際に織物インサート302の各端部が第1の端板101及び第2の端板103の双方に当接するような長さに織物インサート302を切断する。織物インサート302を切断するため、織物インサート302を繊維の固定化又は粘着性付与に十分な量のマトリックス材料その他の樹脂と接触させる。必要とされる粘着性は、織物インサート302を実質的に膨らませずに所望の長さに切断できるのに十分な程度であればよい。樹脂の使用量が不十分であると、織物インサート302内の繊維が早期にほどけて、ツール100上の織物インサート302の位置決めが難しくなる体積に膨張しかねない。
【0026】
織物インサート302上に重ねられた繊維織物プリフォーム301の表面には、マトリックス材料601層が設けられる。マトリックス材料601は、好ましくは別々の部分へと量り分けることができるばら樹脂である。ばら樹脂は、最終形態(例えばシート又はプライ)には加工されておらず、別々の部分に分けることができる未硬化の樹脂である。室温で、ばら樹脂は好ましくは積層可能な固体である。ばら樹脂は実質的に矩形の部分に分けられ、繊維織物プリフォーム301の表面に配置される。なお、繊維織物プリフォーム301の表面に樹脂を加えるときの部分形状はどんなものでも、本発明での使用に適している。この部分を繊維織物プリフォーム301の表面に配置した後、矩形部分を表面形状に合わせる。矩形部分は好ましくは室温で積層可能である。適宜、樹脂の積層性を高めて、矩形部分の形状を表面形状に合わせるのを容易にすべく、ばら樹脂の矩形セクションを予熱してもよい。好適な樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ又はポリアミド樹脂が挙げられる。繊維織物プリフォーム301の中央部607(第1の端板101と第2の端板103との中間点)でのマトリックス材料601の被覆量が多く(つまり単位表面積当たりのマトリックス材料の量が多く)、繊維織物プリフォーム301の縁部609(第1の端板101及び第2の端板103近傍の領域)での被覆量が少なく(つまり単位表面積当たりのマトリックス材料の量が少なく)なるように、繊維織物プリフォーム301の表面をマトリックス材料で被覆する。この実施形態では、ばら樹脂を例にとったが、本発明では強化マトリックス複合材を形成し得るあらゆるマトリックス材料を使用できる。マトリックス材料601は、織物インサート302の繊維の固定化に用いた材料と同一でも異なるものでもよい。
【0027】
ツール100にマトリックス材料601を装填した後、マトリックス材料601で被覆した繊維織物プリフォーム301にエラストマーカウル603を配置する。カウル603は、マトリックス材料601の通過障壁となる材料から形成される。カウル603に適した材料としては、特に限定されないが、シリコーンが挙げられる。マトリックス材料と結合せず、熱及び圧力に耐え、柔軟性を備える材料であれば、どんなものでもカウル603の材料として使用できる。カウル603は、図1〜図5に示するようにマトリックス材料601がマトリックス材料分配チャネル503又はマトリックス材料分配真空チャネル303、403及び405、サイフォン管113又はリザーバ109に侵入しかねない場合に、第1の端板101及び第2の端板103近傍の領域でのマトリックス材料601の移動が繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302の内部及びそれらに沿ってしか起こらないように配置される。織物インサート302、繊維織物プリフォーム301、マトリックス材料601及びカウル603を配置したら、端板101、103及びフランジシュー107を図6に示す位置で締結する。ツール100が装填されたら、装填ツール100を真空バッグ605の内部に入れる。
【0028】
図7は、図6の領域600の拡大図を示す。図7に示すように、繊維織物プリフォーム301は、第2の端板103の表面部分及び本体105の表面部分の形状に順応して角度を形成する。織物インサート302は本体105の表面に沿って配置され、第2の端板103に隣接して終端する。織物インサート302は複数のプライ701で構成され、織物インサート302を形成する層の厚さを増すように積層される。図7では4層のプライを示したが、厚さを増減したり或いは繊維数を増減するため、どのような数のプライを使用し或いは選択してもよい。繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302をツール100に装填する際に、第2の端板103の表面と本体105の表面との角度のため間隙703が生じることがある。間隙703には、樹脂が流れ込んで樹脂密度の高いポケットを形成し得る領域が包含される。織物インサート302は、装置を加熱したときに膨らんで間隙703を埋める繊維を含むように選択される。織物インサート302の材料としては、特に限定されないが、炭素、グラファイト、ガラス及びポリアミド繊維が挙げられる。織物インサート302内の繊維は、樹脂なしで又は加熱樹脂のような低粘度樹脂に曝露されたときに膨らむように構成される。膨張に適した繊維の構成としては二軸グラファイト繊維が挙げられる。繊維は、好ましくは中心軸方向から+45°方向の2つの3k(3000ストランド)繊維束と、軸方向トウから−45°方向の2つの3k繊維束とを含む。織物インサート30の膨張は、繊維記憶、トウ内部の圧縮力の解放、その他織物インサート302内で繊維トウをほぐすことができる力を始めとする適当な機序で起こる。膨張は、装置が加熱され、織物インサート302の端部に粘着性を付与するのに用いた樹脂の粘度が低下したときに、間隙703を繊維が実質的に均一に充填するように起こる。
【0029】
図8は、硬化サイクルの加熱及び保持段階で加熱したときのツール100及び(図6に例示した)マトリックス材料601の運動を示す。マトリックス材料601は加熱すると液体又は流体となり、繊維織物プリフォーム301を含浸し始め、部分含浸繊維織物プリフォーム801を生じる。マトリックス材料601が液体又は流体となると、繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302の中央部607(第1の端板101と第2の端板103との中間点)から矢印803の方向に流れる。この時点で液体樹脂となったマトリックス材料601が繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302の中央部から外縁部609まで移動すると、マトリックス材料601から放出された空気、揮発性ガス、その他繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302内に捕捉されていてボイドの原因となりかねない不純物又はガスのような物質が、第1の端板101及び第2の端板103近傍の織物の外縁部609へと向かうバルクマトリックス材料601の流れによって押し出される。マトリックス材料601は、第1の端板101及び第2の端板103と本体105の接合部とで画成される角部にも流れ込む。マトリックス材料601の粘度が低下するので、織物インサート302の繊維はその切断端で膨らんで間隙703を満たすようになる。過剰のマトリックス材料601並びにマトリックス材料601からの空気、揮発性ガスその他サイフォン管113への空所流を生じかねない物質は、リザーバ109内又は図1〜図5に示すマトリックス材料分配チャネル403を通してフランジシュー107と第2の端板103と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203内へと吸い込まれる。
【0030】
図9は、図8の領域800の分解図を示す。図9に示す構成は図7に示す構成と同じである。ただし、ツール100が加熱されると、織物インサート302の端部で繊維の固定化に用いた材料の粘度が温度の上昇に伴って低下し、間隙703近傍のプライが解体などの機序によって膨らみ、部分的にほどけた繊維900が間隙703を満たす。膨張によって、硬化複合材の角部でマトリックス材料中の繊維が実質的に均一に分布させることができる。ほぐれた繊維900は好ましくは制御された膨張を呈するが、これは温度と得られるマトリックス材料の粘度、使用する織布又は織物セグメントの種類及び繊維材料によって左右される。
【0031】
図10は、硬化サイクルの加熱及び保持段階で加熱したときのツール100及び部分含浸繊維織物プリフォーム701を示す。第1の端板101、第2の端板103、本体105及びフランジシュー107は、部分含浸繊維織物プリフォーム801よりも熱膨張係数の大きい材料から製造される。その結果、図8に示すように加熱時に第1の端板101、第2の端板103、本体105及びフランジシュー107はいずれも矢印1001で示すようにあらゆる方向に膨張する。部分含浸繊維織物プリフォーム801は、本体105に比べて膨張度が少ない。部分含浸繊維織物プリフォーム801とツール100との熱膨張量の差は矢印1003で示す張力を生じ、部分含浸繊維織物プリフォーム801を張りつめるように作用する。マトリックス材料の硬化前に張りつめられた繊維織物プリフォーム801は、波もしわも実質的にない強度の高い均一な材料を与える。織物インサート302は図9に示すように膨らんで強化用繊維に隣接する空間を満たす。
【0032】
図11は、硬化サイクルの加熱及び保持段階で加圧したときのツール100を示す。フランジシュー107は、第1の端板101及び第2の端板103に平行な平面で大きな表面積1007をもつように製造される。硬化サイクルにおいてオートクレーブ内の圧力が高まると、真空バッグ605及びフランジシュー107表面でフランジシュー107の表面積1007に対して作用する矢印1005で示すオートクレーブ雰囲気の力が増す。フランジシュー107について選択される表面積1007が大きいほど、真空作用による力は大きくなる。フランジシュー107表面は、フランジ状形状をなす繊維織物プリフォーム301よりも表面積1007が大きく、オートクレーブ圧力からの実質的な位置保持力が加わる。圧力で繊維織物プリフォーム301が所定の位置に保持され、本体105が膨張して繊維織物プリフォーム301を張りつめる。硬化サイクルは、樹脂が十分に分布し、マトリックス材料が硬化するまで続けられる。
【0033】
図6〜図11は、マトリックス材料の含浸及び硬化プロセスの様々な段階を示す。図6は、オートクレーブ(図示せず)に装填する前のツール100を示す。図7〜図10は、加熱時のツール100を示す。図11は、オートクレーブ圧力下のツール100を示す。図6〜図11は、図1及び図2に示すツール100の本体105の円筒形部分の中心軸から径方向の断面を示す。図6〜図11は、図1及び図2に示す配置の本体105、第1の端板101、第2の端板103及びフランジシュー107を有するツール100を示す。便宜上、図6〜図11には、応力緩和締結具111及び505、サイフォン管113、リザーバ109、真空ライン115、マトリックス材料分配チャネル503又はマトリックス材料分布、真空チャネル303、403及び405は示していない。なお、これらの各構成要素は、オートクレーブに装填されるツール100に存在するとともに、ツール100を囲繞する真空膜又はバッグ605内に存在する。
【0034】
図12は、本発明に係る複合材格納ダクト1100を示す。複合材格納ダクト1100はツール100を用いて製造された製品である(図1〜図2参照)。複合材格納ダクト1100は、ダクト本体1103と一体化した高強度フランジ1101を有する単一部材である。フランジ1101の強度は複合材格納ダクト1100の機能に重要である。例えば格納ダクト1100は、ガスタービンエンジンのファンのファンブレードの格納に適したものでもよい。フランジの角部は繊維が実質的に均一に分布し、樹脂密度の高いポケットはほとんど又は全く存在しない。織物インサート302の使用によって角部1102は繊維密度が実質的に均一となるが、織物インサート302を使用しなければ間隙が樹脂で充填されていたはずである。角部1102は繊維密度が実質的に均一であるので、フランジは引張応力と圧縮応力のいずれにも優れた耐性を呈し、応力は繊維強化材に伝達され、樹脂ポケットが実質的に存在しないので亀裂を生じることなく応力が伝達される。
【0035】
複合材格納ダクト1100を締結具で他の部品に取り付けることができるように、フランジ1101に孔1105が機械加工される。フランジ1101は、複合材格納ダクト1100を他の部品に取り付けることができる表面を与える。他の部品としては、第2の複合材格納ダクト1100が挙げられる。2つの格納ダクトの取り付けると、長さを伸ばして収束及び発散ダクト部を有するダクトを得ることができるという利点がある。この実施形態では、複合材格納ダクト1100は、テーパー付きダクト本体1103を有し、ダクトの一方のフランジの直径はダクトの他方のフランジの直径よりも大きい。本発明の方法で成形した強固なフランジ1101は、複数の複合材を集成して大型部品を形成することができる。格納ダクト用途によっては、収束部と発散部とを有する格納ダクトが望ましい。一方で収束し、他方で発散する格納ダクト1100を形成するため、テーパー付き格納ダクト1100をダクト直径の小さい格納ダクト端部のフランジで第2の実質的に同一のテーパー付き格納ダクト1100に取り付ける。ダクト直径の小さい方のフランジ同士を取り付けることによって、集成格納ダクトの一端から中央部にかけて集束し、集成格納ダクトの中央部から他端にかけて発散するダクトを得ることができる。フランジは、ガスタービンエンジン(図示せず)の一部に締結することもできる。本発明の方法で成形した強固なフランジ1101は、複数の部品を互いに集成して大型部品を形成することができる。一実施形態では、フランジをガスタービンエンジンに締結して、実質的にファンブレード先端のなす経路の外周に沿ってガスタービンエンジンのファンブレード(図示せず)がダクト本体1103の内部1107に位置し、ファンブレードを格納できるようにする。
【0036】
本発明の格納ダクト1100のフランジ1101は高い強度を有する。高い強度に寄与する一つの因子は、フランジ1101が格納ダクト1100の一体部品として形成されることである。さらに、フランジ1101内部の繊維が張りつめられ、実質的に整列して強度を増す。繊維をいったん硬化すれば繊維は整列した状態にとどまり、優れた格納特性を与える。加えて、格納ダクト内部のマトリックス分布は、ダクト本体1103全体及びフランジ1101全体で実質的に均一である。フランジ1101内部の実質的に均一な分布はフランジ1101の高い強度に寄与する。フランジ1101は、壁部と同様に、プレストレスト強化繊維を有しており、均一なマトリックス分布を有する。
【0037】
図13は、本発明で使用される織物インサート302の一部を示す。織物インサート302は、好ましくは織物セグメント又は織物の形態の二軸製織布材料である。図13に示すように、織物インサート302は織物構造を有する。好ましくは織物インサート302は2つの独立したトウ1301からなり、繊維束を互いに実質的に45°の角度に配向するように製織したものからなる。繊維織物インサート302の形成に適した繊維としては、特に限定されないが、炭素、グラファイト、ガラス及びポリアミド繊維が挙げられる。織物インサート302を構成する繊維は、好ましくはグラファイト繊維を二軸織物に製織したものである。具体的な製織法は、織物インサート302の一部が膨らんで繊維の存在しない領域又は繊維密度の低い領域に繊維をもたらすことができるような製織法又は構成であればよい。織物インサート302は、中心軸方向から+45°方向の2つの3k(3000ストランド)繊維束と、軸方向トウから−45°方向の2つの3k繊維束とを含んでいてもよい。図13に示す織物インサート302の部分は、その繊維の固定化又は粘着性付与に十分なマトリックス材料その他の樹脂材料の添加によって形成された切断端1302を含む。材料を加熱するとマトリックス材料の粘度が低下するので固定化が解け、トウ1301が解体その他の膨張機構で膨らんで、織物インサート302近傍の領域を充填する。膨張は好ましくは切断端1302又はその近傍で最大となり、織物インサート302の大部分では小さい。この膨張によって、切断端1302近傍の領域での繊維分布が制御される。
【0038】
ツール100は、繊維織物プリフォーム301よりも熱膨張係数の大きい材料から製造される。ツール材料の一つの選択基準は、繊維織物プリフォーム301に望まれる張力の量である。所要の張力が大きいほど、ツール材料の熱膨張係数を大きくすべきである。所要の張力が小さいほど、ツール材料の熱膨張係数は小さくてすむ。好ましくは、ツール100は金属材料から製造される。繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302を構成する繊維は、金属材料に比して熱膨張係数が小さい。そのため、ツール100が加熱されると、ツール材料は繊維織物プリフォーム301の膨張速度よりも格段に速い速度で膨張する。繊維織物プリフォーム301の膨張とツール100の膨張との関係で生じる張力は、繊維織物プリフォーム301を張りつめるように作用し、繊維を実質的に整列させて、波及びしわが実質的に存在しない強度の高い均一な複合材を生じる。繊維に比してツール100の熱膨張が大きいほど、生ずる張力は大きくなる。ツール100の製造に適した材料としては、特に限定されないが、アルミニウム及び鋼鉄が挙げられる。
【0039】
複合マトリックス用の繊維織物プリフォーム301は、好ましくは製織繊維織物である。繊維織物は、強化マトリックス材料を形成できるプリフォームである。様々な繊維が複合マトリックス材料601での使用に適している。繊維を製織又は諸撚して複合プリフォームを形成してもよい。本発明の一実施形態では、繊維織物プリフォーム301は複数のストランド束の三軸織布である。三軸織布は、軸線方向に延びるストランド束と、軸方向束から約+60°に配向したストランド束と、軸方向束から約−60°に配向した第3のストランド束とを有する。繊維織物プリフォーム301の形成に適した繊維としては、特に限定されないが、炭素、グラファイト、ガラス及びポリアミド繊維が挙げられる。繊維は好ましくはグラファイト繊維である。繊維としては、特に限定されないが、三軸グラファイト繊維が挙げられる。好ましい繊維織物プリフォーム301は、軸方向の24k(24000ストランド)束トウと、軸方向トウから+60°方向の2つの12k(12000ストランド)束と、軸方向トウから−60°方向の2つの12k束とを有する三軸グラファイト繊維を含む。繊維の配向は好ましくは硬化前の繊維を張りつめることができる繊物を与えるものである。繊維織物プリフォーム301は好ましくはドライである。ドライとは、ツール100に繊維織物プリフォーム301を装填する前の繊維織物にマトリックス材料が含浸されていないことを意味する。繊維織物プリフォーム301は織物インサート302と同一でも異なるものでもよい。
【0040】
本発明の強化マトリックス複合材に用いるマトリックス材料601は、強化繊維で強化すると高強度マトリックス複合材を形成する硬化性材料である。本発明の強化複合材料に用いる好適なマトリックス材料601としては、特に限定されないが、エポキシ及びポリアミドが挙げられる。
【0041】
本発明の一実施形態では、ツール100は、好ましくは所定のスプール形状を有する。スプール形状は、略円筒形の本体105に2枚の端板101及び103を取り付けたものである。2枚の端板101及び103の少なくとも一方は本体に締結され、着脱可能である。本発明のこの実施形態では、ツール100は、ツール100に強化繊維材料を装填するため端板101及び103の平面が垂直に配向するような配置に配向される。グラファイト繊維織物プリフォーム301はスプールの本体105の周囲に配置される。プリフォームのフランジ部305は、端板101及び103の各々の長さに沿って配置される。第1の端板101及び第2の端板103に沿って延在する織物のフランジ部305はフランジ様形状を形成する。
【0042】
本発明の別の実施形態は、所望の複合材の形状をした表面を有するツール100を設ける段階を含む。本発明の一実施形態では、本体105は実質的に円筒形格納ダクトの形状である。この実施形態では、円筒形ダクトは好ましくは本体105の中心軸に向かって内側にテーパーが付けられる。完成強化マトリックス複合材の形状は、略円筒形に限定されない。フランジ外縁部を有するあらゆる形状を、本発明の方法を用いて製造することができる。略円筒形のダクト以外の好適な形状としては、特に限定されないが、複雑な断面形状を有するダクト(例えば、矩形ダクト、三角形ダクト又は長円形ダクト)、平面パネルその他壁構造を有する複雑な形状が挙げられる。さらに、外形的特徴部を有する壁構造も本発明のツール100及び方法を用いて成形することができる。本発明のツール100は、同様に、完成複合材と実質的に同じ形状の本体105を有する。
【0043】
図14は、本発明の方法を用いて成形することができる別の形状の例を示す。図示した幾何形状は、本体1401の角部に複数のフランジ1403を有する正方形ダクト1400である。正方形ダクト1400の成形に用いられるツールは図1〜図2に示すものと同様のツールを含むが、その表面は正方形ダクトを与えるように構成されており、強化繊維を整列させるため本体105が熱膨張で伸びるようにしてもよい。図14では正方形ダクトを示したが、矩形、長円形その他あらゆる形状のものを用いることができる。同様に、フランジ1403の構成はダクトを支持できるものであればよく、特に限定されないが、コーナーフランジ、タブフランジ又は中央面フランジが挙げられる。同様に、どのような数のフランジ1403を形成してもよい。
【0044】
図15は、図14の矢視15−15断面図を示す。フランジ1403は本体1401からダクト表面1405と実質的に直角に延在する。フランジの配置は、様々な構成のガスタービンエンジンその他の物品に取り付けることができるものである。
【0045】
図16は、図15の加熱前の領域1500の分解図を示す。図16では、繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302は、フランジ1403を形成するように配置されたプライ701を含む。フランジの角度は約90°に等しいが、どのような角度であってもよい。プリフォームを配置した角度で間隙703が形成される。
【0046】
図17は、図15の加熱時及び加熱後の領域1500の分解図を示す。図17では、織物インサート302が膨らんでほどけた繊維900が間隙703を満たす。ほどけた繊維は間隙703を十分に満たして、マトリックス材料中の繊維が実質的に均一に分布できるようにする。
【0047】
本発明の方法及びツール100は、大型部品を支持するとともに、過酷な応力下でも大型部品がその格納特性を維持できる十分強固なフランジを有する大型部品を製造することができる。本発明のツール100及び方法は、直径約10フィート以上の円筒形部品を始め、直径約5フィート以上の円筒形部品を含む大きな壁構造を有する部品の製造に特に適している。一実施形態では、本発明のツールは、実質的に均一なマトリックス分布と、圧縮及び引張応力に対する強いフランジ耐性と低いボイド含有率とを保持した直径約10フィート以上の円筒形部品を製造することができる。
【0048】
本発明のプロセスで製造できる製品としては、上述のファンケーシングが挙げられるが、ガスタービンエンジンに有用な他の部品も挙げられる。他の部品としては、例えば構造及び非構造ケーシング、ダクト及び/又はベーンが挙げられる。好ましくは、本発明に係る部品は環状幾何形状を含む。
【0049】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲から逸脱せずに様々な変更を加えることができ、本発明の構成要素を均等物で置き換えることができることは当業者には自明であろう。また、本発明の要旨から逸脱せずに、特定の状況又は材料を本発明の教示内容に適合させるための様々な変更をなすこともできる。したがって、本発明は、本発明を実施するための最良の形態として開示してきた実施形態に限定されるものではなく、本発明は特許請求の範囲に記載の技術的範囲に属するあらゆる実施形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの成形用ツールの斜視図。
【図2】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの成形用ツールの側面図。
【図3】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの成形用ツールの第1の部分の別の実施形態の断面図。
【図4】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの成形用ツールの第1の部分の別の実施形態の断面図。
【図5】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの成形用ツールの第2の部分の断面図。
【図6】本発明の一実施形態に係る加熱前の複合材格納ダクトの成形用ツール。
【図7】図6の領域600の分解図。
【図8】本発明の一実施形態に係る加熱時及び加熱後の複合材格納ダクトの成形用ツール。
【図9】図6の領域800の分解図。
【図10】本発明の一実施形態に係る加熱時の複合材格納ダクトの成形用ツール。
【図11】本発明の一実施形態に係る加熱時の複合材格納ダクトの成形用ツール。
【図12】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの斜視図。
【図13】二軸織布の一部22を示す図。
【図14】本発明の一実施形態に係る別の複合材物品の斜視図。
【図15】図14の矢視15−15断面図。
【図16】加熱前の図15の領域1500の分解図。
【図17】加熱時及び加熱後の図15の領域1500の分解図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材物品及びその製造方法に関する。特に、本発明は複合材環状ガスタービンエンジン部品の角部に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機エンジン設計では、航空機の燃料効率及び推進性能を高めるため航空機エンジン部品の材料の軽量化が絶えず求められている。航空機部品は従来鋼鉄で作られてきた。しかし、鋼鉄は比較的重いため、アルミニウム又はチタニウムのような軽量高強度材料で置換されてきた。軽量部品の製造技術の進歩に伴って、グラファイト樹脂をポリイミド樹脂中に埋め込んだ複合材のような非金属材料が開発されている。複合材料は、マトリックス材料の内部に繊維を埋封した材料である。繊維はマトリックス材料を強化する。マトリックス中に埋め込む前の繊維構造体は一般にプリフォームと呼ばれる。グラファイト繊維を樹脂系に埋め込んだものには、材料を部品へと成形するのが難しいこと、多孔率が高いこと、微小亀裂、層間剥離、並びに装置及びプロセスが高価であることを始めとする短所がある。
【0003】
グラファイトエポキシ複合材ファンダクトは、Prattの米国特許第5145621号(以下、「‘621号特許」という。)に開示されたクロスオーバーツールを用いて製造されている。‘621号特許では、製織グラファイト繊維プリフォームを大型スプール上に取り付けて、グラファイトエポキシ複合材ファンダクトを形成する。繊維はスプールの両端でフランジを形成するように配置される。スプールの形状によって完成複合材の最終形状が実質的に決まる。クロスオーバーツールで、スプール上のグラファイトの繊維を引っ張って張力を与える。ツールでは、繊維のフランジ部を取り囲む複雑なスパイダーツールであって独立した3個の真空エンベロープと組み合わせたときに圧力を与えるスパイダーツールを用いて繊維を引っ張る。‘621号特許に開示されたクロスオーバーツール及び方法の短所としては、プロセスが複雑であり、ツールが高価で使用が難しいことが挙げられる。
【0004】
グラファイトエポキシ複合ファンケースは、Desautels他の米国特許第5597435号(以下、「‘435号特許」という。)に開示された、製造時に強化材料のプライに力を加えるのを補助するための弾性材料を利用した成形システムによっても製造されている。複合マトリックスの製造のため、未硬化の繊維強化プリプレグ型プライ(すなわちプライ)を金型に取り付ける。プリプレグプライは、金型に取り付ける前に未硬化マトリックス材料で含浸したプライである。プライを所定の位置に保持するため強制部材及び拘束部材をプライ上に配置する。強制部材は、拘束部材と金型上のプライの間に配置かれる。金型、プライ、拘束部材及び強制部材を炉に入れて加熱する。このアセンブリを加熱すると、強制部材が均一に膨張して均一な圧力がプライに加わる。その結果、温度の上昇に伴ってプライが圧縮される。’435号特許のプロセスは、材料の体積を減らすだけで、完成複合材に高強度及び均一性をもたらす繊維配向を与えるように織物を張りつめることがなされないという短所を有する。
【0005】
複合ファンケーシングの公知の製造法は、フランジ角部の樹脂密度が複合体に比して増大し、その結果フランジの圧縮強度が低下するという短所を有する。具体的には、樹脂密度の増加によって、製造時及び作動時の熱収縮に起因する微小亀裂を生じる。繊維強化材に比して樹脂密度が増大すると、強化材への応力の伝達が不十分となり、フランジの微小亀裂又は早期故障を起こしかねない。
【0006】
樹脂密度の増大の問題を軽減するため、樹脂密度が増大すると予測される空間内で繊維を撚って分布させることが行われている。撚り繊維は、硬化時に空間内で実質的にランダムに萎縮する。しかし、撚り繊維は、空間に十分に適応せず、樹脂密度の増大した領域が依然として残るという短所がある。また、ランダム分布のため繊維の配置が不揃いで、繊維の一部が垂直に配向しているため強度が幾分失われる。さらに、フランジの上記空間内の材料は繊維分布にバラツキがあり、不均一な特性をもたらす。
【特許文献1】米国特許第5145621号明細書
【特許文献2】米国特許第5597435号明細書
【特許文献3】米国特許第6485660号明細書
【特許文献4】米国特許第6353149号明細書
【特許文献5】米国特許第5952067号明細書
【特許文献6】米国特許第5746854号明細書
【特許文献7】米国特許第5419231号明細書
【特許文献8】米国特許第5171510号明細書
【特許文献9】米国特許第5026595号明細書
【特許文献10】米国特許第4986949号明細書
【特許文献11】米国特許第4468845号明細書
【特許文献12】米国特許第4467838号明細書
【特許文献13】国際公開第96/05386号パンフレット
【特許文献14】特開2002−052618号公報
【特許文献15】欧州特許出願公開第1464661号明細書
【特許文献16】欧州特許出願公開第1234654号明細書
【特許文献17】欧州特許出願公開第1031403号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、環状ガスタービンエンジン部品のフランジ角部の高樹脂密度領域を低減もしくはなくす方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガスタービンエンジン部品及び複合ガスタービンエンジン部品の製造方法は、互いにある角度で配置された第1及び第2の表面を有するツールを準備する段階を含む。第1の表面と第2の表面との角部近傍で終端する端部を有する繊維セグメントを第1の表面に取り付ける。繊維セグメント上及び第2の表面に繊維プリフォームを配置する。次いで、繊維プリフォーム又は繊維セグメントの1以上にマトリックス材料を加える。繊維セグメントの端部を膨らませることができる十分な温度に繊維セグメント及び繊維プリフォームを加熱する。次いでマトリックス材料を硬化して角部分の繊維分布が実質的に均一な複合材物品を形成する。
【0009】
本発明の別の態様は、互いにある角度で構成された1以上の表面を有する幾何形状の繊維強化樹脂を有するガスタービンエンジン用複合材物品である。繊維強化樹脂は、強化樹脂中の繊維密度が角度領域内で実質的に均一であり、角度領域は圧縮荷重及び引張荷重のいずれにも耐性である。
【0010】
本発明の一実施形態に係る方法及びツールは、高強度で組成が均一なフランジを有するファンケーシング、ベーン及び支柱のような複合材格納ダクトとしての用途に適した軽量強化マトリックス複合材料を形成する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る方法は、直径約10フィートの部材のように直径が約5フィートを超える円筒形部材を始めとする大型複合材部品の製造に特に適している。本発明の利点は、かかるフランジが大型複合材ファンケーシングのような大型部品を保持し、その格納特性を維持するのに適していることである。
【0012】
本発明の一実施形態に係る方法は、組成の均一性が高く、高樹脂密度領域のような欠陥の少ない繊維強化マトリックス複合材の製造方法を提供する。
【0013】
本発明の一実施形態に係る方法は、フランジ又はその近傍での材料の一貫性が向上しているため、廃棄及び/又は補修部材の少ないフランジ部品を製造できる。
【0014】
本発明のその他の特徴及び利点は、本発明の原理を例示した添付の図面と併せて以下の好ましい実施形態に関する詳細な説明を参酌することによって明らかになろう。
【0015】
図面全体を通して、同一又は類似の部品にはできるだけ同じ参照符号を付した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明に係る複合材格納ダクトを成形するための複合材ダクト成形ツール100を示す。ツール100は略円筒形の本体105を備える。第1の端板101及び第2の端板103が本体105両側の平面端部近傍に配置されている。本体105並びに第1の端板101及び第2の端板103は、ツール100で保持される被加工物よりも熱膨張係数の大きい材料で製造される。本体105並びに第1の端板101及び第2の端板103用の材料としては、特に限定されないが、金属又は合金が挙げられる。本体105に適した材料としては、アルミニウム及び鋼鉄が挙げられる。第1の端板101は応力緩和締結具111で本体105に締結される。本体105近傍の第2の端板103は本体105に取り付けられる。本体105は略円筒形の幾何形状を有する。略円筒形の本体105は、好ましくは、第1の端板101近傍の小さな直径から第2の端板103の大きな直径までテーパーが付けらる。図1では円筒形の本体105を示すが、本体は円筒形に限定されない。本体のその他の幾何形状としては、特に限定されないが、矩形、長円形及び三角形の幾何形状が挙げられる。別の実施形態では、本体105は、第1の端板101と第2の端板103の間の中間点で小さな直径径となり、本体105の両端で大きな直径となる略円筒形の幾何形状を有する。本体105は、完成後の強化マトリックス複合部品の取り出しを容易にするため、複数の着脱可能な構成部材で製造してもよい。
【0017】
図1は、第1の端板101の第2の端板103に近い方の面に隣接して本体の外周の周りに配置されたフランジシューの第1の組119を示す。フランジシュー107の第2の組121は、第2の端板の第1の端板101に近い方の面に新設して本体105の外周の周りに配置される。フランジシューの第1及び第2の組119及び121の各フランジシュー107は、フランジシュー接合部108で互いに接触する。フランジシュー107は、ツール100で保持される被加工物よりも熱膨張係数の大きい材料からなるプレートである。フランジシュー107用の材料としては、特に限定されないが、金属又は合金が挙げられる。フランジシュー107に適した材料としては、アルミニウム及び鋼鉄が挙げられる。フランジシュー107は、応力緩和締結具111で第1の端板101及び第2の端板103に締結される。応力緩和締結具111は、第1の端板101及び第2の端板103を締結するだけでなく、第1の端板101を本体105に締結する。図1に示すように、フランジシュー107を締結する応力緩和締結具111は、第1の端板101及び第2の端板103とフランジシュー107とを貫通する。第1の端板101を本体105に締結する応力緩和締結具111は、第1の端板101を貫通して本体105内に延在する。本発明では、応力緩和締結具111は、被加工物を装填する際に、第1の端板101と第1の組のフランジシュー119及び第2の組のフランジシュー121のフランジシュー107とを配置できるが、熱膨張その他の力による圧力に降伏する締結具であればよい。フランジシュー107を保持する締結具が適当な半径方向応力下で降伏し、端部フランジプレートを保持する締結具が降伏して軸方向応力を緩和するときに、応力緩和が起こる。応力緩和締結具111に適した材料としては、特に限定されないが、ナイロンが挙げられる。1以上のリザーバ109が第1の端板101の表面に配置される。リザーバ109は真空ライン115を介して真空源と流体連通してる。リザーバ109は別個の部品として示してあるが、第1の端板101と一体に製造してもよい。
【0018】
図2は、図面上で第1の端板101と第2の端板103が水平に配向したツール100の一実施形態を示す。図2に示す配向は、第1の端板101が第2の端板103の上で実質的に水平に配向し、本体105の中心軸が実質的に垂直方向に向いた状態でツール100をオートクレーブ内に装填する本発明の実施形態を例示したものである。この実施形態では、オートクレーブに言及するが、ツールを加熱・加圧する機能を有するチャンバであれば、どのようなチャンバも本発明での使用に適している。図2は、本体105の外周の周りに配置されたフランジシュー107を示す。第1の組のフランジシュー119は、第1の端板101の第2の端板103に近い方の面に締結される。第2の組のフランジシュー121は第2の端板103の第1の端板101に近い方の面に締結される。
【0019】
第2の端板103に隣接する表面に沿って各フランジシュー107間のフランジシュー接合部108にチャネル201が機械加工され、フランジシュー接合部108の本体105に隣接する内面205から外周まで流体連通を形成する。フランジシュー接合部108の外周にサイフォン管113が取り付けられ、第2の端板103に隣接するチャネル201と流体連通して配置される。サイフォン管113は、第1の端板101に隣接するリザーバ109と流体連通している。各リザーバ109は、真空下でマトリックス材料を収容できる中空チャンバである。各リザーバ109は、フランジシュー107と第1の端板101の下面と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203と流体連通している。キャビティ203は、被加工物の一部(図3〜図5の繊維織物301及び織物インサート302として示す)を挿入できる十分な容積のものである。被加工物は、好ましくは強化繊維織物の一部である。リザーバ109はまた、真空ライン115を介して真空源117と流体連通している。真空源117はリザーバ109を真空状態にしてリザーバ109内の材料を真空に引く。
【0020】
図3は、図2の矢視3−3断面図を示す。図3に示す断面図は、図面上で第1の端板101が水平に配向した第1の端板101の一部の拡大図である。第1の端板101及び本体105には、繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302が装填されている。織物インサート302は好ましくはまず本体105に取り付けられ、第1の端板101及び第2の端板103で終端するように配置される(図5も参照)。織物インサート302は、好ましくは織物又は織物セグメントの形態の二軸製織布材料である。繊維織物インサート302の形成に適した繊維としては、特に限定されないが、炭素、グラファイト、ガラス及びポリアミドの繊維が挙げられる。織物インサート302を構成する繊維は、好ましくはグラファイト繊維である。好ましい織物インサート302は、中心軸方向から+45°方向の2つの3k(3000ストランド)繊維束と、軸方向トウから−45°方向の2つの3k繊維束とを有する二軸織が挙げられる。織物インサート302は、二軸織物又は織物セグメントその他最終硬化複合材製品を強化できる構成の形態にあればよい。繊維織物プリフォーム301は、本体105から第1の端板101に沿って織物インサート302から離れる方向に延びるフランジ部305を備えるようにツール100に取り付けられる。応力緩和締結具111を用いてフランジシュー107を第1の端板101に締結す。同様に、第1の端板101は、応力緩和締結具111を用いて本体105に締結される。
【0021】
図3は、本体105に沿って配置された繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302を示す。繊維織物プリフォーム301は約90°の角度で屈曲した部分を含み、フランジシュー107と第1の端板101と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203内でフランジ形状をなす。織物インサート302が繊維織物プリフォーム301と本体105との間に配置されている。織物インサート302は、加熱時に膨らむことのできる端部を第1の端板101に隣接して有する。かかる膨張は、織物インサート端部での各繊維のほぐれを伴うものでもよい。フランジシュー107と第1の端板101と本体105とで画成されるキャビティ203は、マトリックス材料分配チャネル303を介してリザーバ109と流体連通している。リザーバ109は1以上の真空ライン115及び1以上のサイフォン管113と流体連通している。
【0022】
図4は、図2の矢視3−3断面図を示す。断面図は、図3の本体105、フランジシュー107、繊維織物プリフォーム301、織物インサート302及び第1の端板101と同じ構成の複合材ダクト成形ツール100の一部を示す。ただし、図4に示す実施形態では、サイフォン管113がフランジシュー107のサイフォン管凹部401内に挿入されている。サイフォン管113はマトリックス材料分配チャネル403と流体連通している。マトリックス材料分配チャネル403はサイフォン管113からフランジシュー107と第1の端板101と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203まで延在する。フランジシュー107と第1の端板101と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203は、リザーバチャネル405を介してリザーバ109と流体連通している。リザーバ109は、真空ライン115を介して真空源117と流体連通している。
【0023】
図5は、図2の矢視5−5断面図を示す。図5に示す断面図は図面上で第2の端板103が水平に配向した部分の拡大図であり、繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302の被加工物が装填されている。図5は、応力緩和締結具111を用いて第2の端板103に締結されたフランジシュー107を示す。第2の端板103は、第2の端板締結具505で本体105に締結される。第2の端板締結具505は、応力緩和締結具111のように圧力下で降伏することのない締結具である。第2の端板締結具505は、ツール100に発生する圧力下で降伏しない締結具であればどのようなものでもよい。別の実施形態では、第2の端板103と本体105は永久的に装着されていても、或いは機械加工によって単一部材としたものでもよい。この実施形態では、第2の端板103は本体105と一体化しており、本体105を第2の端板103から延在する単一部材として機械加工又は鋳造すればよい。或いは、本体105と第2の端板103を溶接してもよい。
【0024】
図5に示す実施形態では、サイフォン管113がフランジシュー107のサイフォン管凹部501内に挿入されている。サイフォン管113はマトリックス材料分配チャネル503と流体連通している。マトリックス材料分配チャネル503はサイフォン管からフランジシュー107と第2の端板103と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203まで延在する。
【0025】
図6は、本発明に係る複合材格納ダクトを成形するための複合材ダクト成形ツール100を示し、オートクレーブその他の雰囲気制御装置内に装填される前の、複合材へと成形される織物プリフォーム301、織物インサート302及びマトリックス材料601が装填されている。ツール100を図6に示す構成へと装填するため、まず第1の端板101及び第2の端板103の少なくとも一方を取り外す。織物インサート302を本体105上に配置する。織物インサート302の前後に追加の皮膜又は保護層を設けてもよいが、必須ではない。一実施形態では、織物インサート302は、本体105の直径まで膨張して本体105表面に密着させることができる管状織物セグメントであってもよい。取り付ける際に織物インサート302の各端部が第1の端板101及び第2の端板103の双方に当接するような長さに織物インサート302を切断する。織物インサート302を切断するため、織物インサート302を繊維の固定化又は粘着性付与に十分な量のマトリックス材料その他の樹脂と接触させる。必要とされる粘着性は、織物インサート302を実質的に膨らませずに所望の長さに切断できるのに十分な程度であればよい。樹脂の使用量が不十分であると、織物インサート302内の繊維が早期にほどけて、ツール100上の織物インサート302の位置決めが難しくなる体積に膨張しかねない。
【0026】
織物インサート302上に重ねられた繊維織物プリフォーム301の表面には、マトリックス材料601層が設けられる。マトリックス材料601は、好ましくは別々の部分へと量り分けることができるばら樹脂である。ばら樹脂は、最終形態(例えばシート又はプライ)には加工されておらず、別々の部分に分けることができる未硬化の樹脂である。室温で、ばら樹脂は好ましくは積層可能な固体である。ばら樹脂は実質的に矩形の部分に分けられ、繊維織物プリフォーム301の表面に配置される。なお、繊維織物プリフォーム301の表面に樹脂を加えるときの部分形状はどんなものでも、本発明での使用に適している。この部分を繊維織物プリフォーム301の表面に配置した後、矩形部分を表面形状に合わせる。矩形部分は好ましくは室温で積層可能である。適宜、樹脂の積層性を高めて、矩形部分の形状を表面形状に合わせるのを容易にすべく、ばら樹脂の矩形セクションを予熱してもよい。好適な樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ又はポリアミド樹脂が挙げられる。繊維織物プリフォーム301の中央部607(第1の端板101と第2の端板103との中間点)でのマトリックス材料601の被覆量が多く(つまり単位表面積当たりのマトリックス材料の量が多く)、繊維織物プリフォーム301の縁部609(第1の端板101及び第2の端板103近傍の領域)での被覆量が少なく(つまり単位表面積当たりのマトリックス材料の量が少なく)なるように、繊維織物プリフォーム301の表面をマトリックス材料で被覆する。この実施形態では、ばら樹脂を例にとったが、本発明では強化マトリックス複合材を形成し得るあらゆるマトリックス材料を使用できる。マトリックス材料601は、織物インサート302の繊維の固定化に用いた材料と同一でも異なるものでもよい。
【0027】
ツール100にマトリックス材料601を装填した後、マトリックス材料601で被覆した繊維織物プリフォーム301にエラストマーカウル603を配置する。カウル603は、マトリックス材料601の通過障壁となる材料から形成される。カウル603に適した材料としては、特に限定されないが、シリコーンが挙げられる。マトリックス材料と結合せず、熱及び圧力に耐え、柔軟性を備える材料であれば、どんなものでもカウル603の材料として使用できる。カウル603は、図1〜図5に示するようにマトリックス材料601がマトリックス材料分配チャネル503又はマトリックス材料分配真空チャネル303、403及び405、サイフォン管113又はリザーバ109に侵入しかねない場合に、第1の端板101及び第2の端板103近傍の領域でのマトリックス材料601の移動が繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302の内部及びそれらに沿ってしか起こらないように配置される。織物インサート302、繊維織物プリフォーム301、マトリックス材料601及びカウル603を配置したら、端板101、103及びフランジシュー107を図6に示す位置で締結する。ツール100が装填されたら、装填ツール100を真空バッグ605の内部に入れる。
【0028】
図7は、図6の領域600の拡大図を示す。図7に示すように、繊維織物プリフォーム301は、第2の端板103の表面部分及び本体105の表面部分の形状に順応して角度を形成する。織物インサート302は本体105の表面に沿って配置され、第2の端板103に隣接して終端する。織物インサート302は複数のプライ701で構成され、織物インサート302を形成する層の厚さを増すように積層される。図7では4層のプライを示したが、厚さを増減したり或いは繊維数を増減するため、どのような数のプライを使用し或いは選択してもよい。繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302をツール100に装填する際に、第2の端板103の表面と本体105の表面との角度のため間隙703が生じることがある。間隙703には、樹脂が流れ込んで樹脂密度の高いポケットを形成し得る領域が包含される。織物インサート302は、装置を加熱したときに膨らんで間隙703を埋める繊維を含むように選択される。織物インサート302の材料としては、特に限定されないが、炭素、グラファイト、ガラス及びポリアミド繊維が挙げられる。織物インサート302内の繊維は、樹脂なしで又は加熱樹脂のような低粘度樹脂に曝露されたときに膨らむように構成される。膨張に適した繊維の構成としては二軸グラファイト繊維が挙げられる。繊維は、好ましくは中心軸方向から+45°方向の2つの3k(3000ストランド)繊維束と、軸方向トウから−45°方向の2つの3k繊維束とを含む。織物インサート30の膨張は、繊維記憶、トウ内部の圧縮力の解放、その他織物インサート302内で繊維トウをほぐすことができる力を始めとする適当な機序で起こる。膨張は、装置が加熱され、織物インサート302の端部に粘着性を付与するのに用いた樹脂の粘度が低下したときに、間隙703を繊維が実質的に均一に充填するように起こる。
【0029】
図8は、硬化サイクルの加熱及び保持段階で加熱したときのツール100及び(図6に例示した)マトリックス材料601の運動を示す。マトリックス材料601は加熱すると液体又は流体となり、繊維織物プリフォーム301を含浸し始め、部分含浸繊維織物プリフォーム801を生じる。マトリックス材料601が液体又は流体となると、繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302の中央部607(第1の端板101と第2の端板103との中間点)から矢印803の方向に流れる。この時点で液体樹脂となったマトリックス材料601が繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302の中央部から外縁部609まで移動すると、マトリックス材料601から放出された空気、揮発性ガス、その他繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302内に捕捉されていてボイドの原因となりかねない不純物又はガスのような物質が、第1の端板101及び第2の端板103近傍の織物の外縁部609へと向かうバルクマトリックス材料601の流れによって押し出される。マトリックス材料601は、第1の端板101及び第2の端板103と本体105の接合部とで画成される角部にも流れ込む。マトリックス材料601の粘度が低下するので、織物インサート302の繊維はその切断端で膨らんで間隙703を満たすようになる。過剰のマトリックス材料601並びにマトリックス材料601からの空気、揮発性ガスその他サイフォン管113への空所流を生じかねない物質は、リザーバ109内又は図1〜図5に示すマトリックス材料分配チャネル403を通してフランジシュー107と第2の端板103と本体105の内面205とで画成されるキャビティ203内へと吸い込まれる。
【0030】
図9は、図8の領域800の分解図を示す。図9に示す構成は図7に示す構成と同じである。ただし、ツール100が加熱されると、織物インサート302の端部で繊維の固定化に用いた材料の粘度が温度の上昇に伴って低下し、間隙703近傍のプライが解体などの機序によって膨らみ、部分的にほどけた繊維900が間隙703を満たす。膨張によって、硬化複合材の角部でマトリックス材料中の繊維が実質的に均一に分布させることができる。ほぐれた繊維900は好ましくは制御された膨張を呈するが、これは温度と得られるマトリックス材料の粘度、使用する織布又は織物セグメントの種類及び繊維材料によって左右される。
【0031】
図10は、硬化サイクルの加熱及び保持段階で加熱したときのツール100及び部分含浸繊維織物プリフォーム701を示す。第1の端板101、第2の端板103、本体105及びフランジシュー107は、部分含浸繊維織物プリフォーム801よりも熱膨張係数の大きい材料から製造される。その結果、図8に示すように加熱時に第1の端板101、第2の端板103、本体105及びフランジシュー107はいずれも矢印1001で示すようにあらゆる方向に膨張する。部分含浸繊維織物プリフォーム801は、本体105に比べて膨張度が少ない。部分含浸繊維織物プリフォーム801とツール100との熱膨張量の差は矢印1003で示す張力を生じ、部分含浸繊維織物プリフォーム801を張りつめるように作用する。マトリックス材料の硬化前に張りつめられた繊維織物プリフォーム801は、波もしわも実質的にない強度の高い均一な材料を与える。織物インサート302は図9に示すように膨らんで強化用繊維に隣接する空間を満たす。
【0032】
図11は、硬化サイクルの加熱及び保持段階で加圧したときのツール100を示す。フランジシュー107は、第1の端板101及び第2の端板103に平行な平面で大きな表面積1007をもつように製造される。硬化サイクルにおいてオートクレーブ内の圧力が高まると、真空バッグ605及びフランジシュー107表面でフランジシュー107の表面積1007に対して作用する矢印1005で示すオートクレーブ雰囲気の力が増す。フランジシュー107について選択される表面積1007が大きいほど、真空作用による力は大きくなる。フランジシュー107表面は、フランジ状形状をなす繊維織物プリフォーム301よりも表面積1007が大きく、オートクレーブ圧力からの実質的な位置保持力が加わる。圧力で繊維織物プリフォーム301が所定の位置に保持され、本体105が膨張して繊維織物プリフォーム301を張りつめる。硬化サイクルは、樹脂が十分に分布し、マトリックス材料が硬化するまで続けられる。
【0033】
図6〜図11は、マトリックス材料の含浸及び硬化プロセスの様々な段階を示す。図6は、オートクレーブ(図示せず)に装填する前のツール100を示す。図7〜図10は、加熱時のツール100を示す。図11は、オートクレーブ圧力下のツール100を示す。図6〜図11は、図1及び図2に示すツール100の本体105の円筒形部分の中心軸から径方向の断面を示す。図6〜図11は、図1及び図2に示す配置の本体105、第1の端板101、第2の端板103及びフランジシュー107を有するツール100を示す。便宜上、図6〜図11には、応力緩和締結具111及び505、サイフォン管113、リザーバ109、真空ライン115、マトリックス材料分配チャネル503又はマトリックス材料分布、真空チャネル303、403及び405は示していない。なお、これらの各構成要素は、オートクレーブに装填されるツール100に存在するとともに、ツール100を囲繞する真空膜又はバッグ605内に存在する。
【0034】
図12は、本発明に係る複合材格納ダクト1100を示す。複合材格納ダクト1100はツール100を用いて製造された製品である(図1〜図2参照)。複合材格納ダクト1100は、ダクト本体1103と一体化した高強度フランジ1101を有する単一部材である。フランジ1101の強度は複合材格納ダクト1100の機能に重要である。例えば格納ダクト1100は、ガスタービンエンジンのファンのファンブレードの格納に適したものでもよい。フランジの角部は繊維が実質的に均一に分布し、樹脂密度の高いポケットはほとんど又は全く存在しない。織物インサート302の使用によって角部1102は繊維密度が実質的に均一となるが、織物インサート302を使用しなければ間隙が樹脂で充填されていたはずである。角部1102は繊維密度が実質的に均一であるので、フランジは引張応力と圧縮応力のいずれにも優れた耐性を呈し、応力は繊維強化材に伝達され、樹脂ポケットが実質的に存在しないので亀裂を生じることなく応力が伝達される。
【0035】
複合材格納ダクト1100を締結具で他の部品に取り付けることができるように、フランジ1101に孔1105が機械加工される。フランジ1101は、複合材格納ダクト1100を他の部品に取り付けることができる表面を与える。他の部品としては、第2の複合材格納ダクト1100が挙げられる。2つの格納ダクトの取り付けると、長さを伸ばして収束及び発散ダクト部を有するダクトを得ることができるという利点がある。この実施形態では、複合材格納ダクト1100は、テーパー付きダクト本体1103を有し、ダクトの一方のフランジの直径はダクトの他方のフランジの直径よりも大きい。本発明の方法で成形した強固なフランジ1101は、複数の複合材を集成して大型部品を形成することができる。格納ダクト用途によっては、収束部と発散部とを有する格納ダクトが望ましい。一方で収束し、他方で発散する格納ダクト1100を形成するため、テーパー付き格納ダクト1100をダクト直径の小さい格納ダクト端部のフランジで第2の実質的に同一のテーパー付き格納ダクト1100に取り付ける。ダクト直径の小さい方のフランジ同士を取り付けることによって、集成格納ダクトの一端から中央部にかけて集束し、集成格納ダクトの中央部から他端にかけて発散するダクトを得ることができる。フランジは、ガスタービンエンジン(図示せず)の一部に締結することもできる。本発明の方法で成形した強固なフランジ1101は、複数の部品を互いに集成して大型部品を形成することができる。一実施形態では、フランジをガスタービンエンジンに締結して、実質的にファンブレード先端のなす経路の外周に沿ってガスタービンエンジンのファンブレード(図示せず)がダクト本体1103の内部1107に位置し、ファンブレードを格納できるようにする。
【0036】
本発明の格納ダクト1100のフランジ1101は高い強度を有する。高い強度に寄与する一つの因子は、フランジ1101が格納ダクト1100の一体部品として形成されることである。さらに、フランジ1101内部の繊維が張りつめられ、実質的に整列して強度を増す。繊維をいったん硬化すれば繊維は整列した状態にとどまり、優れた格納特性を与える。加えて、格納ダクト内部のマトリックス分布は、ダクト本体1103全体及びフランジ1101全体で実質的に均一である。フランジ1101内部の実質的に均一な分布はフランジ1101の高い強度に寄与する。フランジ1101は、壁部と同様に、プレストレスト強化繊維を有しており、均一なマトリックス分布を有する。
【0037】
図13は、本発明で使用される織物インサート302の一部を示す。織物インサート302は、好ましくは織物セグメント又は織物の形態の二軸製織布材料である。図13に示すように、織物インサート302は織物構造を有する。好ましくは織物インサート302は2つの独立したトウ1301からなり、繊維束を互いに実質的に45°の角度に配向するように製織したものからなる。繊維織物インサート302の形成に適した繊維としては、特に限定されないが、炭素、グラファイト、ガラス及びポリアミド繊維が挙げられる。織物インサート302を構成する繊維は、好ましくはグラファイト繊維を二軸織物に製織したものである。具体的な製織法は、織物インサート302の一部が膨らんで繊維の存在しない領域又は繊維密度の低い領域に繊維をもたらすことができるような製織法又は構成であればよい。織物インサート302は、中心軸方向から+45°方向の2つの3k(3000ストランド)繊維束と、軸方向トウから−45°方向の2つの3k繊維束とを含んでいてもよい。図13に示す織物インサート302の部分は、その繊維の固定化又は粘着性付与に十分なマトリックス材料その他の樹脂材料の添加によって形成された切断端1302を含む。材料を加熱するとマトリックス材料の粘度が低下するので固定化が解け、トウ1301が解体その他の膨張機構で膨らんで、織物インサート302近傍の領域を充填する。膨張は好ましくは切断端1302又はその近傍で最大となり、織物インサート302の大部分では小さい。この膨張によって、切断端1302近傍の領域での繊維分布が制御される。
【0038】
ツール100は、繊維織物プリフォーム301よりも熱膨張係数の大きい材料から製造される。ツール材料の一つの選択基準は、繊維織物プリフォーム301に望まれる張力の量である。所要の張力が大きいほど、ツール材料の熱膨張係数を大きくすべきである。所要の張力が小さいほど、ツール材料の熱膨張係数は小さくてすむ。好ましくは、ツール100は金属材料から製造される。繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302を構成する繊維は、金属材料に比して熱膨張係数が小さい。そのため、ツール100が加熱されると、ツール材料は繊維織物プリフォーム301の膨張速度よりも格段に速い速度で膨張する。繊維織物プリフォーム301の膨張とツール100の膨張との関係で生じる張力は、繊維織物プリフォーム301を張りつめるように作用し、繊維を実質的に整列させて、波及びしわが実質的に存在しない強度の高い均一な複合材を生じる。繊維に比してツール100の熱膨張が大きいほど、生ずる張力は大きくなる。ツール100の製造に適した材料としては、特に限定されないが、アルミニウム及び鋼鉄が挙げられる。
【0039】
複合マトリックス用の繊維織物プリフォーム301は、好ましくは製織繊維織物である。繊維織物は、強化マトリックス材料を形成できるプリフォームである。様々な繊維が複合マトリックス材料601での使用に適している。繊維を製織又は諸撚して複合プリフォームを形成してもよい。本発明の一実施形態では、繊維織物プリフォーム301は複数のストランド束の三軸織布である。三軸織布は、軸線方向に延びるストランド束と、軸方向束から約+60°に配向したストランド束と、軸方向束から約−60°に配向した第3のストランド束とを有する。繊維織物プリフォーム301の形成に適した繊維としては、特に限定されないが、炭素、グラファイト、ガラス及びポリアミド繊維が挙げられる。繊維は好ましくはグラファイト繊維である。繊維としては、特に限定されないが、三軸グラファイト繊維が挙げられる。好ましい繊維織物プリフォーム301は、軸方向の24k(24000ストランド)束トウと、軸方向トウから+60°方向の2つの12k(12000ストランド)束と、軸方向トウから−60°方向の2つの12k束とを有する三軸グラファイト繊維を含む。繊維の配向は好ましくは硬化前の繊維を張りつめることができる繊物を与えるものである。繊維織物プリフォーム301は好ましくはドライである。ドライとは、ツール100に繊維織物プリフォーム301を装填する前の繊維織物にマトリックス材料が含浸されていないことを意味する。繊維織物プリフォーム301は織物インサート302と同一でも異なるものでもよい。
【0040】
本発明の強化マトリックス複合材に用いるマトリックス材料601は、強化繊維で強化すると高強度マトリックス複合材を形成する硬化性材料である。本発明の強化複合材料に用いる好適なマトリックス材料601としては、特に限定されないが、エポキシ及びポリアミドが挙げられる。
【0041】
本発明の一実施形態では、ツール100は、好ましくは所定のスプール形状を有する。スプール形状は、略円筒形の本体105に2枚の端板101及び103を取り付けたものである。2枚の端板101及び103の少なくとも一方は本体に締結され、着脱可能である。本発明のこの実施形態では、ツール100は、ツール100に強化繊維材料を装填するため端板101及び103の平面が垂直に配向するような配置に配向される。グラファイト繊維織物プリフォーム301はスプールの本体105の周囲に配置される。プリフォームのフランジ部305は、端板101及び103の各々の長さに沿って配置される。第1の端板101及び第2の端板103に沿って延在する織物のフランジ部305はフランジ様形状を形成する。
【0042】
本発明の別の実施形態は、所望の複合材の形状をした表面を有するツール100を設ける段階を含む。本発明の一実施形態では、本体105は実質的に円筒形格納ダクトの形状である。この実施形態では、円筒形ダクトは好ましくは本体105の中心軸に向かって内側にテーパーが付けられる。完成強化マトリックス複合材の形状は、略円筒形に限定されない。フランジ外縁部を有するあらゆる形状を、本発明の方法を用いて製造することができる。略円筒形のダクト以外の好適な形状としては、特に限定されないが、複雑な断面形状を有するダクト(例えば、矩形ダクト、三角形ダクト又は長円形ダクト)、平面パネルその他壁構造を有する複雑な形状が挙げられる。さらに、外形的特徴部を有する壁構造も本発明のツール100及び方法を用いて成形することができる。本発明のツール100は、同様に、完成複合材と実質的に同じ形状の本体105を有する。
【0043】
図14は、本発明の方法を用いて成形することができる別の形状の例を示す。図示した幾何形状は、本体1401の角部に複数のフランジ1403を有する正方形ダクト1400である。正方形ダクト1400の成形に用いられるツールは図1〜図2に示すものと同様のツールを含むが、その表面は正方形ダクトを与えるように構成されており、強化繊維を整列させるため本体105が熱膨張で伸びるようにしてもよい。図14では正方形ダクトを示したが、矩形、長円形その他あらゆる形状のものを用いることができる。同様に、フランジ1403の構成はダクトを支持できるものであればよく、特に限定されないが、コーナーフランジ、タブフランジ又は中央面フランジが挙げられる。同様に、どのような数のフランジ1403を形成してもよい。
【0044】
図15は、図14の矢視15−15断面図を示す。フランジ1403は本体1401からダクト表面1405と実質的に直角に延在する。フランジの配置は、様々な構成のガスタービンエンジンその他の物品に取り付けることができるものである。
【0045】
図16は、図15の加熱前の領域1500の分解図を示す。図16では、繊維織物プリフォーム301及び織物インサート302は、フランジ1403を形成するように配置されたプライ701を含む。フランジの角度は約90°に等しいが、どのような角度であってもよい。プリフォームを配置した角度で間隙703が形成される。
【0046】
図17は、図15の加熱時及び加熱後の領域1500の分解図を示す。図17では、織物インサート302が膨らんでほどけた繊維900が間隙703を満たす。ほどけた繊維は間隙703を十分に満たして、マトリックス材料中の繊維が実質的に均一に分布できるようにする。
【0047】
本発明の方法及びツール100は、大型部品を支持するとともに、過酷な応力下でも大型部品がその格納特性を維持できる十分強固なフランジを有する大型部品を製造することができる。本発明のツール100及び方法は、直径約10フィート以上の円筒形部品を始め、直径約5フィート以上の円筒形部品を含む大きな壁構造を有する部品の製造に特に適している。一実施形態では、本発明のツールは、実質的に均一なマトリックス分布と、圧縮及び引張応力に対する強いフランジ耐性と低いボイド含有率とを保持した直径約10フィート以上の円筒形部品を製造することができる。
【0048】
本発明のプロセスで製造できる製品としては、上述のファンケーシングが挙げられるが、ガスタービンエンジンに有用な他の部品も挙げられる。他の部品としては、例えば構造及び非構造ケーシング、ダクト及び/又はベーンが挙げられる。好ましくは、本発明に係る部品は環状幾何形状を含む。
【0049】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲から逸脱せずに様々な変更を加えることができ、本発明の構成要素を均等物で置き換えることができることは当業者には自明であろう。また、本発明の要旨から逸脱せずに、特定の状況又は材料を本発明の教示内容に適合させるための様々な変更をなすこともできる。したがって、本発明は、本発明を実施するための最良の形態として開示してきた実施形態に限定されるものではなく、本発明は特許請求の範囲に記載の技術的範囲に属するあらゆる実施形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの成形用ツールの斜視図。
【図2】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの成形用ツールの側面図。
【図3】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの成形用ツールの第1の部分の別の実施形態の断面図。
【図4】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの成形用ツールの第1の部分の別の実施形態の断面図。
【図5】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの成形用ツールの第2の部分の断面図。
【図6】本発明の一実施形態に係る加熱前の複合材格納ダクトの成形用ツール。
【図7】図6の領域600の分解図。
【図8】本発明の一実施形態に係る加熱時及び加熱後の複合材格納ダクトの成形用ツール。
【図9】図6の領域800の分解図。
【図10】本発明の一実施形態に係る加熱時の複合材格納ダクトの成形用ツール。
【図11】本発明の一実施形態に係る加熱時の複合材格納ダクトの成形用ツール。
【図12】本発明の一実施形態に係る複合材格納ダクトの斜視図。
【図13】二軸織布の一部22を示す図。
【図14】本発明の一実施形態に係る別の複合材物品の斜視図。
【図15】図14の矢視15−15断面図。
【図16】加熱前の図15の領域1500の分解図。
【図17】加熱時及び加熱後の図15の領域1500の分解図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンエンジンの複合材部品の製造方法であって、
互いにある角度で配置された第1及び第2の表面を有するツール(100)を準備する段階と、
第1の表面と第2の表面との角部近傍で終端する端部を有する繊維セグメント(302)を第1の表面に取り付ける段階と、
繊維セグメント(302)及び第2の表面に繊維プリフォーム(301)を配置する段階と、
繊維プリフォーム(301)又は繊維セグメント(302)の1以上にマトリックス材料(601)加える段階と、
繊維セグメント(302)の端部を膨らませることができる十分な温度に繊維セグメント(302)及び繊維プリフォーム(301)を加熱する段階と、
マトリックス材料を硬化して角部の繊維分布が実質的に均一な複合材物品を形成する段階と、
を含む方法。
【請求項2】
第1の表面に取り付ける前に、繊維セグメント(302)に繊維を固定化して繊維セグメント(302)を切断する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
繊維セグメント(302)が二軸織物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
繊維セグメント(302)が二軸織物セグメントである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
複数の繊維セグメント(302)を取り付ける段階が複数の繊維セグメント(302)を取り付ける段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
角部がフランジを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
第1の表面が円筒形の幾何形状に構成される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
第1の表面が矩形幾何形状に構成される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
複合材物品がガスタービンエンジンファンケーシングである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
複合材物品がケーシング、ベーン及びダクトからなる群から選択される構造部品又は非構造部品である、請求項1記載の方法。
【請求項1】
ガスタービンエンジンの複合材部品の製造方法であって、
互いにある角度で配置された第1及び第2の表面を有するツール(100)を準備する段階と、
第1の表面と第2の表面との角部近傍で終端する端部を有する繊維セグメント(302)を第1の表面に取り付ける段階と、
繊維セグメント(302)及び第2の表面に繊維プリフォーム(301)を配置する段階と、
繊維プリフォーム(301)又は繊維セグメント(302)の1以上にマトリックス材料(601)加える段階と、
繊維セグメント(302)の端部を膨らませることができる十分な温度に繊維セグメント(302)及び繊維プリフォーム(301)を加熱する段階と、
マトリックス材料を硬化して角部の繊維分布が実質的に均一な複合材物品を形成する段階と、
を含む方法。
【請求項2】
第1の表面に取り付ける前に、繊維セグメント(302)に繊維を固定化して繊維セグメント(302)を切断する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
繊維セグメント(302)が二軸織物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
繊維セグメント(302)が二軸織物セグメントである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
複数の繊維セグメント(302)を取り付ける段階が複数の繊維セグメント(302)を取り付ける段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
角部がフランジを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
第1の表面が円筒形の幾何形状に構成される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
第1の表面が矩形幾何形状に構成される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
複合材物品がガスタービンエンジンファンケーシングである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
複合材物品がケーシング、ベーン及びダクトからなる群から選択される構造部品又は非構造部品である、請求項1記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−68626(P2008−68626A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236388(P2007−236388)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】
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