説明

複合樹脂層付銅箔、複合樹脂層付銅箔の製造方法、フレキシブル両面銅張積層板及び立体成型プリント配線板の製造方法

【課題】実装過程を経ても、多層フレキシブルプリント配線板の形状安定性に優れ、且つ、フレキシビリティに優れた多層フレキシブルプリント配線板の製造技術を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するため、銅箔の片面に樹脂層を備える樹脂層付銅箔において、当該樹脂層は、銅箔層と接する硬化した可撓性を有する高分子ポリマー層と、熱硬化性樹脂組成物で構成した半硬化状態の熱硬化樹脂層とを順に積層したことを特徴とする立体成型プリント配線板製造用の複合樹脂層付銅箔を発明した。更に、この複合樹脂層付銅箔を用いたフレキシブル両面銅張積層板ならびに立体成型プリント配線板の製造方法を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、複合樹脂層付銅箔とその複合樹脂層付銅箔の製造方法、この複合樹脂層付銅箔を用いたフレキシブル両面銅張積層板、ならびに複合樹脂層付銅箔を用いた立体成型プリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子及び電気機器の高機能化、コンパクト化に応じて、電子信号の供給に用いるプリント配線板等のデバイススペースも狭小化する傾向にあり、プリント配線板にも小型高密度設計への対応が求められている。一般に、プリント配線板は、板状の硬質のリジッド配線板と、可撓性のあるフレキシブルプリント配線板とに大別される。リジッド配線板に関しては、多層化が容易であるため、早くから多層化が進み、基板サイズの小型化が図られてきた。一方、フレキシブルプリント配線板は、可撓性を備えるので、電子部品間を撓んだ状態で接続できる点で、可動電子部品の接続や、電子機器等の小型化に適している。
【0003】
従来、フレキシブルプリント配線板は、平面形状であり、その可撓性を利用して、電子機器に接続している。例えば、狭小スペースにおいて電子部品に接続するためには、フレキシブルプリント配線板を、ある程度撓ませた状態で配置して電子部品と接続する場合がある。このとき、小型高密度設計である程に、フレキシブルプリント配線板を配置するスペースも狭小空間となるので、フレキシブルプリント配線板が撓むだけでは、狭小なデバイススペースに簡単に収容させるのが難しいという問題があった。そこで、従来のフレキシブルプリント配線板のような可撓性に優れながら、ある程度の立体形状を備えるフレキシブルプリント配線板が検討されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、銅箔及びポリイミドフィルム層のみからなるフレキシブルプリント回路板を用い、このフレキシブルプリント回路板に、基板に用いられているポリイミド樹脂のガラス転移温度以上の温度で熱プレスにて成形加工を施すことにより、高密度立体配置が必要な形状に成形加工するフレキシブルプリント回路板の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、電気特性に優れた耐熱性低誘電性樹脂に、熱安定性と加工性を付与した難燃低誘電性樹脂と、これを用いたフィルム等の成形品が開示されている。この難燃低誘電性樹脂は、多相構造を有する耐熱性低誘電性グラフト共重合体と、リン系難燃剤を含む難燃低誘電樹脂を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−245460号公報
【特許文献2】特開2003−268189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、フレキシブルプリント配線板は、樹脂フィルム層の上に銅等の導電層を備えるフレキシブル銅張積層板を、エッチング加工等により配線を形成して得られるものである。そして、フレキシブルプリント配線板には各種電子部品を実装するが、この実装過程において、はんだリフロー等の加熱処理が施されるので、フレキシブルプリント配線板自体も実装過程における熱処理の影響を受ける。例えば、特許文献1に開示のフレキシブルプリント回路板の製造方法では、熱可塑性樹脂を用いて立体的な形状を形成するため、基板素材のガラス転移温度以上の温度を付加すると、成形後の形状を維持することが困難となる。また、生産時に300℃付近の高温加工を必要とするので生産性に欠けるという欠点がある。同様に、特許文献2で難燃低誘電樹脂として用いる多相構造を有するグラフト共重合体は熱可塑性樹脂であるため、フィルム等を成形品とした後、はんだリフロー等の実装過程におけるはんだ温度程度の熱環境では立体形状を維持できず、成形後の形状を維持することは難しい。
【0008】
以上のことから分かるように、実装過程を経ても、立体形状に成型したフレキシブルプリント配線板の形状安定性に優れ、且つ、フレキシビリティに優れたフレキシブルプリント配線板の製造技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下に述べる立体成型プリント配線板製造用の複合樹脂層付銅箔を発明し、この複合樹脂層付銅箔を用いたフレキシブル両面銅張積層板ならびに立体成型プリント配線板の製造方法を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0010】
本件発明に係る立体成型プリント配線板製造用の複合樹脂層付銅箔は、銅箔の片面に樹脂層を備える樹脂層付銅箔において、当該樹脂層は、銅箔層と接する硬化した可撓性を有する高分子ポリマー層と、熱硬化性樹脂組成物で構成した半硬化状態の熱硬化樹脂層とを積層したことを特徴とする。
【0011】
本件発明に係る複合樹脂層付銅箔の製造方法は、上述の複合樹脂層付銅箔の製造方法であって、以下の工程A及び工程Bを備えることを特徴とする。
【0012】
工程A: 銅箔表面に高分子ポリマー成分を用いて、可撓性を備える硬化した高分子ポリマー層を形成する。
工程B: 当該高分子ポリマー層上に、エポキシ樹脂組成物を用いて、半硬化状態の熱硬化樹脂層を形成し複合樹脂層付銅箔とする。
【0013】
本件発明に係るフレキシブル両面銅張積層板は、上述の2枚の複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の複合樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で張り合わせて得られることを特徴とする。
【0014】
本件発明に係る立体成型プリント配線板の製造方法は、上述の複合樹脂層付銅箔を用いて立体成型プリント配線板を製造するための方法であって、以下の工程I〜工程IIIを備えることを特徴とする。
【0015】
工程I: 2枚の前記複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層が半硬化状態を維持したまま、平面状態で仮張り合わせして、平面状のフレキシブル両面銅張積層板とする。
工程II: 当該平面状のフレキシブル両面銅張積層板に銅回路形状を形成し銅回路付平面フレキシブルプリント配線板とする。
工程III: 前記銅回路付平面フレキシブルプリント配線板の内層にある熱硬化樹脂層を加熱し立体形状を維持して硬化させることで、立体成型プリント配線板とする。
【0016】
本件発明に係る立体成型プリント配線板の製造方法は、上述の複合樹脂層付銅箔を用いて立体成型プリント配線板を製造するための方法であって、以下の工程i〜工程iiiを備えることを特徴とする。
【0017】
工程i: 2枚の前記複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層が半硬化状態を維持したまま、平面状態で仮張り合わせして、平面状のフレキシブル両面銅張積層板とする。
工程ii: 前記平面状のフレキシブル両面銅張積層板の内層にある熱硬化樹脂層を加熱し立体形状を維持して硬化させることで、立体成型両面銅張積層板とする。
工程iii: 当該立体成型両面銅張積層板に銅回路形状を形成し銅回路付立体成型プリント配線板とする。
【0018】
本件発明に係る立体成型プリント配線板の製造方法は上述の複合樹脂層付銅箔を用いて立体成型プリント配線板を製造するための方法であって、以下の工程1及び工程2を備えることを特徴とする。
【0019】
工程1: 2枚の前記複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層を加熱し立体形状を維持して硬化させることで、立体成型両面銅張積層板とする。
工程2: 当該立体成型両面銅張積層板に銅回路形状を形成し銅回路付立体成型プリント配線板とする。
【発明の効果】
【0020】
本件発明に係る複合樹脂層付銅箔は、銅箔層側から順に、可撓性を有する硬化した高分子ポリマー層と、熱硬化性樹脂組成物で構成した半硬化状態の熱硬化樹脂層とを積層したものである。このような層構成を備える複合樹脂層付銅箔とすることで、高分子ポリマー層で十分な可撓性を確保し、且つ、熱硬化樹脂層によって、立体成型された状態で加熱することにより立体形状を維持したまま硬化する。この複合樹脂層付銅箔を、立体成型プリント配線板の材料として用いると、はんだリフロー等の加熱後も立体形状を維持でき、且つ、可撓性を備えることができる。そして、この複合樹脂層付銅箔を用いたフレキシブル両面銅張積層板は、立体形状の安定性とフレキシビリティとを兼ね備えるので、立体成型フレキシブルプリント配線板材料として好適である。
【0021】
更に、本件発明に係る立体成型プリント配線板の製造方法は、上述の複合樹脂層付銅箔を用いるので、プリント配線板の立体成型加工が可能となり、従来にない立体成型プリント配線板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1における立体成型プリント配線板の曲げ加工後の側面の電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本件発明に係る複合樹脂層付銅箔、複合樹脂層付銅箔の製造方法、フレキシブル両面銅張積層板及び立体成型プリント配線板の製造方法の実施の形態に関して説明する。
【0024】
複合樹脂層付銅箔: 本件発明に係る複合樹脂層付銅箔は、銅箔の片面に樹脂層を備える樹脂層付銅箔であり、立体成型プリント配線板製造に用いられるものである。この複合樹脂層付銅箔に備える樹脂層は、銅箔層と接する硬化した可撓性を有する高分子ポリマー層と、熱硬化性樹脂組成物で構成した半硬化状態の熱硬化樹脂層とを順に積層したことを特徴とする。以下、本件発明に係る複合樹脂層付銅箔を構成する各層について説明する。
【0025】
高分子ポリマー層は、ポリアミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、アラミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアミドイミド樹脂のいずれか1種又は2種以上の混合樹脂からなるものが好ましい。この高分子ポリマー層は、はんだ実装工程に耐えられるように、150℃以上のガラス転移温度をもつ樹脂からなるものが好適である。この高分子ポリマー層は、熱硬化樹脂層を形成する前に銅箔側に形成するものである。銅箔と熱硬化樹脂層との間に高分子ポリマー層を形成することにより、樹脂付銅箔としての柔軟性を向上させ、フレキシブルプリント配線板に好適な可撓性を付与することができる。
【0026】
また、高分子ポリマー層は、一般的にキャスティング法と称される方法で形成することが可能である。より具体的には、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、又はこれら2種以上の混合樹脂のいずれかを形成するための樹脂ワニスを銅箔面に塗布し、乾燥工程により溶剤分を一部除去し、更に高温の乾燥工程で溶剤の除去、及び脱水縮合反応により形成できる。
【0027】
なお、高分子ポリマー層を構成する樹脂には、密着性を向上させるために、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂を混合しても良い。この場合、高分子ポリマー層を構成する樹脂全体におけるこれらの成分の添加割合は、本件発明において高分子ポリマー層に求められる可撓性と、密着性能とのバランスを考慮すると、30%を限度とすることが好ましい。
【0028】
そして、高分子ポリマー層は、その厚さが3μm〜15μmであることが好ましい。高分子ポリマー層の厚さが3μm未満であると、可撓性に欠けるので、後述する熱硬化樹脂層の硬化後における複合樹脂付銅箔のフレキシビリティが得られ難い。一方、高分子ポリマー層が15μmを上まわる厚さになると、後述する熱硬化樹脂層と組み合わせた場合に、全体の厚さが増加することになるため、フレキシブルプリント配線板に加工したときの全体の厚さを薄くすることが困難であると同時に、半硬化樹脂層を形成する際の加熱で、樹脂付銅箔にカールと呼ばれる反り現象が生じやすくなるため好ましくない。
【0029】
次に、熱硬化樹脂層について説明する。本件発明に係る複合樹脂層付銅箔に備える熱硬化樹脂層は、厚さが10μm〜50μmのエポキシ樹脂組成物で構成した半硬化樹脂層であることが好ましい。従来、フレキシブルプリント配線板用の樹脂付銅箔としては、フレキシビリティを備えるために、熱可塑性樹脂層を形成していた。しかし、本件発明に係る複合樹脂層付銅箔では、高分子ポリマー層と熱硬化樹脂層とを組み合わせることによって、十分なフレキシビリティと、立体成型後の形状安定性とを兼ね備えることができるのである。すなわち、上記厚さの範囲を採用することにより、高分子ポリマー層による可撓性とのバランスが好適となり、熱硬化樹脂層が硬化した後も、高分子ポリマー層の存在によって、可撓性を備えるのである。なお、この半硬化樹脂層は、多層フレキシブルプリント配線板を形成する際、内層コア材となる内層フレキシブルプリント配線板の表面に外層用プリント配線板を張り合わせるための接着層となる場合もある。
【0030】
そこで、近年望まれる薄肉化への対応を想定する場合、高分子ポリマー層による可撓性と、熱硬化樹脂層による形状安定性とのバランスを図り、且つ、成型加工後の熱硬化樹脂層の割れ等を防ぐには、熱硬化樹脂層は、厚さが10μm〜50μmのエポキシ樹脂組成物で構成した半硬化樹脂層を採用することが好ましいのである。
【0031】
この半硬化樹脂層を構成するエポキシ樹脂組成物は、以下のA成分〜E成分の各成分を含むものである。以下、各成分毎に説明する。
【0032】
A成分は、エポキシ当量が200以下で、室温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上からなるエポキシ樹脂である。ここで、ビスフェノール系エポキシ樹脂を選択使用しているのは、後述するD成分(ゴム変成ポリアミドイミド樹脂)との相性が良く、半硬化状態での樹脂膜に適度なフレキシビリティの付与が容易だからである。そして、エポキシ当量が200を超えると、樹脂が室温で半固形となり、半硬化状態でのフレキシビリティが減少するので好ましくない。更に、上述のビスフェノール系エポキシ樹脂であれば、1種を単独で用いても、2種以上を混合で用いても構わない。しかも、2種以上を混合して用いる場合には、その混合比に関しても特段の限定はない。
【0033】
このエポキシ樹脂は、半硬化樹脂層を構成するエポキシ樹脂組成物を100重量部としたとき、3重量部〜30重量部の配合割合で用いることが好ましい。当該エポキシ樹脂が3重量部未満の場合には、熱硬化性を十分に発揮せず内層フレキシブルプリント配線板とのバインダーとしての機能も、樹脂付銅箔としての銅箔との密着性も十分に果たせなくなる。一方、30重量部を越えると、他の樹脂成分とのバランスから樹脂ワニスとしたときの粘度が高くなり、樹脂付銅箔を製造するとき、銅箔表面へ均一な厚さでの樹脂膜の形成が困難となる。しかも、後述するD成分(ゴム変成ポリアミドイミド樹脂)の添加量を考慮すると、硬化後の樹脂層として十分な靭性が得られなくなる。
【0034】
B成分は、所謂ガラス転移点Tgの高い「高耐熱性エポキシ樹脂」である。ここで言う「高耐熱性エポキシ樹脂」は、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂であることが好ましい。そして、このB成分は、半硬化樹脂層を構成するエポキシ樹脂組成物を100重量部としたとき、3重量部〜30重量部の範囲で用いることが好ましい。B成分が3重量部未満の場合には、樹脂組成物の高Tg化が不十分となる傾向があるので好ましくない。一方、B成分が30重量部を超える場合には、硬化後の樹脂が脆くなり、フレキシビリティが損なわれるためフレキシブルプリント配線板用途として好ましくない。より好ましくは、B成分は、10重量部〜20重量部の範囲で用いることで、樹脂組成物の高Tg化と硬化後の樹脂の良好なフレキシビリティとを安定して両立できる。
【0035】
C成分は、所謂ハロゲンフリー系の難燃性樹脂であり、リン含有エポキシ系樹脂、フォスファゼン系樹脂のいずれか1種又はこれらを混合した樹脂であるリン含有難燃性樹脂を用いる。まず、リン含有エポキシ系樹脂とは、エポキシ骨格の中にリンを含んだエポキシ樹脂の総称である。そして、半硬化樹脂層を構成するエポキシ樹脂組成物のリン原子含有量を、当該エポキシ樹脂組成物重量を100重量%としたとき、C成分由来のリン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲とできるリン含有エポキシ系樹脂であれば、いずれの使用も可能である。しかしながら、上述のリン含有エポキシ系樹脂の中でも、分子内に2以上のエポキシ基を備える9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド誘導体であるリン含有エポキシ系樹脂を用いると、半硬化状態での樹脂品質の安定性に優れ、同時に難燃性効果が高いため好ましい。参考のために、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドの構造式を化1に示す。
【0036】
【化1】

【0037】
更に、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド誘導体であるリン含有エポキシ系樹脂の具体例として、化2に示す構造式を備える化合物を示す。この化2に示す構造式を備える化合物を使用すると、半硬化状態での樹脂品質の安定性により一層優れ、同時に難燃性効果が高くなるので、好ましい。
【0038】
【化2】

【0039】
また、C成分のリン含有エポキシ系樹脂として、以下に示す化3に示す構造式を備える化合物も好ましい。化2に示すリン含有エポキシ系樹脂と同様に、半硬化状態での樹脂品質の安定性に優れ、同時に高い難燃性の付与が可能であるため好ましい。
【0040】
【化3】

【0041】
更に、C成分のリン含有エポキシ系樹脂として、以下に示す化4に示す構造式を備える化合物も好ましい。化2及び化3に示すリン含有エポキシ系樹脂と同様に、半硬化状態での樹脂品質の安定性に優れ、同時に高い難燃性の付与が可能であるため好ましい。
【0042】
【化4】

【0043】
この9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドからの誘導体として得られるエポキシ樹脂は、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドにナフトキノンやハイドロキノンを反応させて、以下の化5(HCA−NQ)又は化6(HCA−HQ)に示す化合物とした後に、そのOH基の部分にエポキシ樹脂を反応させてリン含有難燃性樹脂としたものが挙げられる。
【0044】
【化5】

【0045】
【化6】

【0046】
ここで、リン含有難燃性樹脂として、リン含有エポキシ系樹脂を用いる場合の樹脂組成物は、リン含有エポキシ系樹脂の1種類を単独で用いても、2種類以上のリン含有エポキシ系樹脂を混合して用いても構わない。但し、C成分としてのリン含有難燃性樹脂の総量を考慮して、半硬化樹脂層を構成するエポキシ樹脂組成物重量を100重量%としたとき、C成分由来のリン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲となるように添加量を定めることが好ましい。リン含有エポキシ系樹脂は、その種類によりエポキシ骨格内に含有するリン原子量が異なる。そこで、上述のようにリン原子の含有量を、C成分の添加量に優先させて設計することが可能である。
【0047】
次に、リン含有難燃性樹脂として、フォスファゼン系樹脂を用いる場合を説明する。フォスファゼン系樹脂は、リン及び窒素を構成元素とする二重結合を持つフォスファゼンを含む樹脂である。フォスファゼン系樹脂は、分子中の窒素とリンの相乗効果により、難燃性能を飛躍的に向上させることができる。また、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド誘導体と異なり、樹脂中で安定して存在し、マイグレーションの発生を防ぐ効果が得られる。
【0048】
また、リン含有難燃性樹脂として、フォスファゼン系樹脂を用いる場合の樹脂組成物は、フォスファゼン系樹脂の1種類を単独で用いても、2種類以上のフォスファゼン系樹脂を混合して用いても構わない。但し、C成分としてのリン含有難燃性樹脂の総量を考慮して、半硬化樹脂層を構成するフォスファゼン系樹脂組成物重量を100重量%としたとき、C成分由来のリン原子を0.5重量%〜3.0重量%の範囲となるように添加量を定めることが好ましい。このことは、C成分として、リン含有エポキシ系樹脂とフォスファゼン系樹脂を混合して用いる場合も同様である。
【0049】
そして、C成分としてのリン含有難燃性樹脂は、リン含有エポキシ系樹脂、フォスファゼン系樹脂のいずれか一種またはこれらを混合したものを用いれば良い。リン含有難燃性樹脂としてリン含有エポキシ系樹脂を単独で用いる場合は、リン含有エポキシ系樹脂は、半硬化樹脂層を構成するエポキシ樹脂組成物を100重量部としたとき、5重量部〜50重量部の範囲で用いられることが好ましい。リン含有エポキシ系樹脂からなるC成分が5重量部未満の場合には、他の樹脂成分の配合割合を考慮すると、C成分由来のリン原子が不足し、難燃性を得ることが困難になる。一方、リン含有エポキシ系樹脂からなるC成分が50重量部を超えるようにしても、難燃性向上効果も飽和すると同時に、硬化後の樹脂層が脆くなるため好ましくない。
【0050】
また、リン含有難燃性樹脂として、フォスファゼン系樹脂を単独で用いる場合は、フォスファゼン系樹脂は、半硬化樹脂層を構成するエポキシ樹脂組成物を100重量部としたとき、2重量部〜18重量部の範囲で用いられることが好ましい。フォスファゼン系樹脂からなるC成分が2重量部未満の場合には、他の樹脂成分の配合割合を考慮すると、C成分由来のリン原子が不足し、難燃性を得ることが困難になる。一方、フォスファゼン系樹脂からなるC成分が18重量部を超えると、樹脂組成物のガラス転移点Tg、半田耐熱性、ピール強度が不十分となる傾向があるので好ましくない。
【0051】
上述の硬化樹脂の「高Tg化」と「フレキシビリティ」とは、一般的に反比例する特性である。このときリン含有難燃性樹脂は、硬化後の樹脂のフレキシビリティの向上に寄与するもの、高Tg化に寄与するものが存在する。従って、1種類のリン含有難燃性エポキシ樹脂を用いるよりは、「高Tg化に寄与するリン含有難燃性エポキシ樹脂」と「フレキシビリティの向上に寄与するリン含有難燃性エポキシ樹脂」とをバランス良く配合して用いることで、フレキシブルプリント配線板用途で好適な樹脂組成とすることが可能である。
【0052】
D成分は、沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤に可溶で、液状ゴム成分で変成されたゴム変成ポリアミドイミド樹脂である。このゴム変成ポリアミドイミド樹脂は、ポリアミドイミド樹脂とゴム性樹脂とを反応させて得られるものである。ここで言う、ゴム変成ポリアミドイミド樹脂とゴム性樹脂とを反応させて用いるのは、ポリアミドイミド樹脂そのものの柔軟性を向上させる目的で行う。すなわち、ポリアミドイミド樹脂とゴム性樹脂とを反応させ、ポリアミドイミド樹脂の酸成分(シクロヘキサンジカルボン酸等)の一部をゴム成分に置換するのである。ゴム成分としては、天然ゴム及び合成ゴムを含み、後者の合成ゴムにはスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム等がある。更に、耐熱性を確保する観点からは、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム等の耐熱性を備えた合成ゴムを選択使用することも有用である。これらのゴム性樹脂に関しては、ポリアミドイミド樹脂と反応して共重合体を製造するようになるため、両末端に種々の官能基を備えるものであることが望ましい。特に、カルボキシル基を有するCTBN(カルボキシ基末端ブタジエンニトリル)を用いることが有用である。なお、上記ゴム成分は、1種のみを共重合させても、2種以上を共重合させても構わない。更に、ゴム成分を用いる場合には、そのゴム成分の数平均分子量が1000以上のものを用いることが、当該フレキシビリティの安定化の観点から好ましい。
【0053】
ゴム変成ポリアミドイミド樹脂を重合させる際に、ポリアミドイミド樹脂とゴム性樹脂との溶解に使用する溶剤には、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、ニトロエタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン等を、1種又は2種以上を混合して用いることが好ましい。そして、重合反応を起こさせるには、80℃〜200℃の範囲の重合温度を採用することが好ましい。これらの重合に沸点が200℃を超える溶剤を用いた場合には、その後、用途に応じて沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤に溶媒置換することが好ましい。
【0054】
ここで、前記沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤とは、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の群から選ばれる1種の単独溶剤又は2種以上の混合溶剤が挙げられる。沸点が50℃未満の場合には、加熱による溶剤の気散が著しくなり、樹脂ワニスの状態から半硬化樹脂とする場合に、良好な半硬化状態が得られにくくなる。一方、沸点が200℃を超える場合には、樹脂ワニスの状態から半硬化樹脂とする場合に、バブリングが起こりやすくなるため、良好な半硬化樹脂膜を得にくくなる。
【0055】
エポキシ樹脂組成物で用いるゴム変成ポリアミドイミド樹脂の中で、ゴム変成ポリアミドイミド樹脂の重量を100重量%としたとき、ゴム成分の共重合量は0.8重量%以上であることが好ましい。当該共重合量が0.8重量%未満の場合には、ゴム変成ポリアミドイミド樹脂としても、本件発明に言うエポキシ樹脂組成物を用いて形成した樹脂層を硬化させたときのフレキシビリティが欠如し、銅箔との密着性も低下するため好ましくない。なお、より好ましくは、当該ゴム成分の共重合量は3重量%以上、更に好ましくは5重量%以上がより好ましい。経験的に40重量%を超えてゴム成分の添加量を向上させても、特段の問題はない。しかし、当該硬化後の樹脂層のフレキシビリティの向上効果は飽和するために資源の無駄となり好ましくない。
【0056】
以上に述べてきたゴム変成ポリアミドイミド樹脂には、溶剤に可溶であるという性質が求められる。溶剤に可溶でなければ、樹脂ワニスとしての調製が困難だからである。このゴム変成ポリアミドイミド樹脂は、樹脂組成物の重量を100重量部としたとき、10重量部〜40重量部の配合割合で用いることが好ましい。ゴム変成ポリアミドイミド樹脂が10重量部未満の場合には、硬化後の樹脂層のフレキシビリティは向上させ得ず脆くなり、樹脂層へのマイクロクラックを生じやすくなる。一方、40重量部を越えてゴム変成ポリアミドイミド樹脂を添加しても特に支障はないが、それ以上に硬化後の樹脂層のフレキシビリティは向上せず、硬化後の樹脂の高Tg化が図れない。従って、経済性を考慮すれば、40重量部が上限値であると言える。
【0057】
E成分の樹脂硬化剤に関して述べる。ここで言う樹脂硬化剤は、ビフェニル型フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂の1種又は2種以上を用いることが好ましい。この樹脂硬化剤の添加量は、硬化させる樹脂に対する反応当量から自ずと導き出されるものであり、特段の量的な限定を要するものではない。しかしながら、本件発明に用いるエポキシ樹脂組成物の場合には、当該エポキシ樹脂組成物を100重量部としたとき、E成分を20重量部〜35重量部の範囲で用いることが好ましい。このE成分が20重量部未満の場合には、上記樹脂組成を考慮すると、十分な硬化状態を得ることが出来なくなり、硬化後の樹脂としてフレキシビリティを得ることが出来なくなる。一方、E成分が35重量部を超える場合には、硬化した後の樹脂層の耐吸湿特性が劣化する傾向にあり、好ましくない。
【0058】
以上に示した樹脂組成物に溶剤を加えて樹脂ワニスとして用い、プリント配線板の接着層として熱硬化性樹脂層を形成する。当該樹脂ワニスは、上述の樹脂組成物に溶剤を加えて、樹脂固形分量が30wt%〜70wt%の範囲に調製し、MIL規格におけるMIL−P−13949Gに準拠して測定したときのレジンフローが5%〜35%の範囲にある半硬化樹脂膜の形成が可能なことを特徴とする。ここで言う溶剤には、沸点が50℃〜200℃の範囲であり、メチルエチルケトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の群から選ばれる1種の単独溶剤又は2種以上の混合溶剤を用いることが好ましい。上述のように良好な半硬化樹脂膜を得るためである。そして、ここに示した樹脂固形分量の範囲が、銅箔の表面に塗布したときに、最も膜厚を精度の良いものに制御できる範囲である。樹脂固形分が30wt%未満の場合には、粘度が低すぎて、銅箔表面への塗布直後に流れて膜厚均一性を確保しにくい。これに対して、樹脂固形分が70wt%を越えると、粘度が高くなり、銅箔表面への薄膜形成が困難となる。なお、レジンフローが、5%未満の場合には、内層コア材の表面にある内層回路の凹凸部等にエアーの噛み込み等を起こすため好ましくない。一方、当該レジンフローが、35%を超える場合には、レジンフローが大きくなりすぎて、樹脂付銅箔の樹脂層を用いて形成する絶縁層の厚さが不均一になる。
【0059】
本件発明の複合樹脂層付銅箔に使用する銅箔は、電解法又は圧延法等の、その製造方法には拘泥せず、あらゆる製造方法の使用が可能である。そして、その厚さは特段の限定はないが、実用上9μm〜18μmの範囲が好ましい。また、この銅箔の樹脂層を形成する面には、粗化処理を施しても、施さなくとも良い。粗化処理があれば、銅箔と樹脂層との密着性は向上する。そして、粗化処理を施さなければ平坦な表面となるため、ファインピッチ回路の形成能が向上する。更に、当該銅箔の表面には防錆処理を施しても構わない。防錆処理に関しては、公知の亜鉛、亜鉛系合金等を用いた無機防錆、又は、ベンゾイミダゾール、トリアゾール等の有機単分子被膜による有機防錆等を採用することが可能である。更に、当該銅箔の樹脂層を形成する面にはシランカップリング剤処理層を備えることが好ましい。
【0060】
シランカップリング剤層は、特に粗化処理していない銅箔表面と樹脂層との濡れ性を改善し、基材樹脂にプレス加工したときの密着性を向上させるための助剤としての役割を果たす。例えば、銅箔の粗化を行わずに、防錆処理を施し、シランカップリング剤処理に、エポキシ官能性シランカップリング剤、オレフィン官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シランカップリング剤又はメルカプト官能性シランカップリング剤等種々のものを用いることが可能であり、用途に応じて好適なシランカップリング剤を選択使用することで、引き剥がし強度が0.8kgf/cmを超えるものになる。
【0061】
ここで用いることのできるシランカップリング剤を、より具体的に明示しておく。プリント配線板用にプリプレグのガラスクロスに用いられると同様のカップリング剤を中心にビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることが可能である。
【0062】
このシランカップリング剤層の形成は、一般的に用いられる浸漬法、シャワーリング法、噴霧法等、特に方法は限定されない。工程設計に合わせて、最も均一に銅箔とシランカップリング剤を含んだ溶液とを接触させ吸着させることのできる方法を任意に採用すれば良いのである。これらのシランカップリング剤は、溶媒としての水に0.5g/l〜10g/l溶解させて、室温レベルの温度で用いる。シランカップリング剤は、銅箔の表面に突きだしたOH基と縮合結合することにより、被膜を形成するのであり、いたずらに濃い濃度の溶液を用いても、その効果が著しく増大することはない。従って、本来は、工程の処理速度等に応じて決められるべきものである。但し、0.5g/lを下回る場合は、シランカップリング剤の吸着速度が遅く、一般的な商業ベースの採算に合わず、吸着も不均一なものとなる。また、10g/lを超える濃度であっても、特に吸着速度が速くなることもなく不経済となる。
【0063】
複合樹脂層付銅箔の製造方法: 次に、上述の複合樹脂層付銅箔の製造方法について説明する。本件発明に係る複合樹脂層付銅箔の製造方法は以下の工程A及び工程Bを備える。工程毎に説明する。
【0064】
工程A: 高分子ポリマー成分を用いて、銅箔表面に、可撓性を備える硬化した高分子ポリマー層を形成する。高分子ポリマー層は、いわゆるキャスティング法を用いて形成することができる。すなわち、高分子ポリマー層を構成するための樹脂ワニスを銅箔面に塗布した後、大気雰囲気での加熱乾燥工程で溶剤の除去、及び脱水縮合反応により高分子ポリマー層を形成できる。
【0065】
工程B: 当該高分子ポリマー層上に、エポキシ樹脂組成物を用いて、高分子ポリマー層の上に、半硬化状態の熱硬化樹脂層を形成し複合樹脂層付銅箔とする。なお、この熱硬化樹脂層は、半硬化状態に維持されていなければならない。他の複合樹脂層付銅箔等のプリント配線板材料と組み合わせて積層し、プレス成形することにより、プリント配線板の構成材料として使用するためである。
【0066】
ここで、前記工程Aと工程Bとの間に、付加的な工程として、工程Aで形成した銅箔表面にある高分子ポリマー層の表面をコロナ処理又はプラズマ処理する工程を設けても良い。高分子ポリマー層の表面をコロナ処理又はプラズマ処理することにより、高分子ポリマー層の表面が改質され、工程Bで形成される半硬化状態の熱硬化樹脂層と、高分子ポリマー層との密着性が向上する。すなわち、高分子ポリマー層と熱硬化樹脂層とは、異なる樹脂組成物で形成されるので、双方の樹脂層間での密着性が低下する場合があり、このような場合でも、高分子ポリマー層の表面にプラズマ処理又はコロナ処理を施すことにより、高分子ポリマー層と半硬化状態の熱硬化樹脂層との密着性が向上するのである。
【0067】
ここで言うプラズマ処理とは、一般的に用いられる高電圧を印加することによって発生させたプラズマ気流と高分子ポリマー層の表面とを接触させて行う処理のことである。また、コロナ処理は、高分子ポリマー層を備えた銅箔を電極間に配置して、高周波、高電圧を印加してコロナ放電を行うことにより、高分子ポリマー層の表面改質を行うものである。なお、プラズマ処理又はコロナ処理には、あらゆる公知の方法の適用が可能である。
【0068】
本件発明に係る複合樹脂層付銅箔は、上記半硬化状態の熱硬化樹脂層を備えることにより、立体成型加工が行い易く、且つ、熱硬化樹脂層が硬化すれば、実装工程における熱によって、立体成型性が失われることが無い。その一方で、高分子ポリマー層を備えるので、この高分子ポリマー層で、高温環境を経た後も可撓性を保つことができる。すなわち、従来のフレキシブルプリント配線板は、可撓性を維持するために、熱可塑性樹脂を用いていたが、本件発明では、熱硬化性樹脂を採用すると共に、高分子ポリマー層と積層させることにより、フレキシビリティを備えた樹脂付銅箔を提供することができるのである。
【0069】
フレキシブル両面銅張積層板: 本件発明に係るフレキシブル両面銅張積層板は、上述の複合樹脂層付銅箔を2枚用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で張り合わせて得られるものである。複合樹脂層付銅箔同士の張り合わせは、例えば、熱ロールラミネート又は熱プレスが考えられる。すなわち、2枚の複合樹脂層付銅箔を用いて、一方の複合樹脂層付銅箔の半硬化状態の熱硬化樹脂層と、他方の複合樹脂層付銅箔の半硬化状態の熱硬化樹脂層とが接触するよう重ね合わせてプレス成形することでフレキシブル両面銅張積層板が得られる。
【0070】
従来のフレキシブルプリント配線板は、多層化すると厚さが厚くなる分、可撓性と、曲げ加工性能に問題が生じていた。また、フレキシブルプリント配線板は、アセンブリの過程で負荷される熱により、接着層となる樹脂成分も影響を受けるので、多層化と曲げ加工性との両立が課題となっていたが、本件発明のフレキシブル両面銅張積層板を用いると、十分な可撓性を備えながらも、曲げ加工性に優れるので、曲げ加工部分に対して好適なフレキシブルプリント配線板を提供可能となる。
【0071】
立体成型プリント配線板の製造方法: 次に、立体成型プリント配線板の製造方法について説明する。本件発明に係る立体成型プリント配線板の製造方法は、以下に示す3つの製造方法である。
【0072】
[立体成型プリント配線板の第1の製造方法]
第1の製造方法は、以下の工程I〜工程IIIを含む。すなわち、2枚の複合樹脂層付銅箔を仮張り合わせした後、銅回路形状を形成し、その後、立体形状にて硬化させるのである。
【0073】
工程I: 2枚の前記複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層が半硬化状態を維持したまま、平面状態で仮張り合わせして、平面状のフレキシブル両面銅張積層板とする。
【0074】
ここでの仮張り合わせは、複合樹脂層付銅箔を2枚用いて、一方の複合樹脂層付銅箔の半硬化状態の熱硬化樹脂層と他方の複合樹脂層付銅箔の半硬化状態の熱硬化樹脂層とが接触するよう重ね合わせて、150℃〜180℃程度の温度でプレス成形することで当該複合樹脂層付銅箔同士を完全に硬化させることなく緩やかに張り合わせる。すなわち、複合樹脂層付銅箔の熱硬化樹脂層同士が、半硬化状態のままで圧着した状態となり、擬似的に張り合わせられた状態である。なお、フレキシブル両面銅張積層板の、重ね合わせた2枚の半硬化状態の熱硬化樹脂層を加熱により再流動化させて2層の熱硬化樹脂層を強固に張り合わせる場合は、単に「張り合わせ」と称する。以上のようにして、本件発明で用いる平面状のフレキシブル両面銅張積層板が得られるのである。
【0075】
工程II: 当該平面状のフレキシブル両面銅張積層板に銅回路形状を形成し銅回路付平面フレキシブルプリント配線板とする。両面銅張積層板への銅回路形状の形成方法は、特に限定されるものではなく、エッチング、レーザー加工等の公知の技術を用いることができる。
【0076】
工程III: 前記銅回路付平面フレキシブルプリント配線板の内層にある熱硬化樹脂層を加熱し立体形状を維持して硬化させることで、立体成型プリント配線板とする。
【0077】
このときの加熱処理は、180℃〜200℃で1〜2時間行うと良い。この加熱処理時に、加圧して張り合わせても良い。また、立体成型加工は、プレス成型、ロール成型等により行える。例えば、角形、円形、任意形状の金型を用いて熱間プレス成型する方法や、柱状の棒に巻き付けるようにしてロール成型する方法が考えられる。
【0078】
この結果、平面上の銅回路付平面フレキシブルプリント配線板が、所望の形状に立体成型され、その状態で熱硬化樹脂層が硬化して、所望の立体形状が安定的に維持されながらも望まれる可撓性を備えたフレキシブルプリント配線板を得ることができる。すなわち、本件発明に係る複合樹脂層付銅箔を用いたフレキシブル両面銅張積層板は、熱硬化樹脂層を備えているので、立体成型加工を施した後、プリント配線板の加工工程におけるはんだリフロー等により加熱されても立体形状を維持することができ、且つ、高分子ポリマー層の存在により、フレキシビリティをも保つことができる。
【0079】
[立体成型プリント配線板の第2の製造方法]
第2の製造方法は、以下の工程i〜工程iiiを含む。すなわち、2枚の複合樹脂層付銅箔を仮張り合わせした後、立体形状にして硬化させ、その後、銅回路形状を形成するのである。
【0080】
工程i: 2枚の複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させる。この当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層が半硬化状態を維持したまま、平面状態で仮張り合わせして、平面状のフレキシブル両面銅張積層板とする。
【0081】
工程ii: 前記平面状のフレキシブル両面銅張積層板の内層にある熱硬化樹脂層を加熱し立体形状を維持して硬化させることで、立体成型両面銅張積層板とする。このときの加熱処理は、第1の製造方法と同じく、180℃〜200℃で1〜2時間の条件で行う。この加熱処理時に、加圧して張り合わせても良い。また、立体成型加工は、プレス成型、ロール成型により行える。例えば、角形、円形、任意形状の金型を用いて熱間プレス成型する方法や、柱状の棒に巻き付けるようにしてロール成型する方法が考えられる。
【0082】
工程iii: 当該立体成型両面銅張積層板に銅回路形状を形成し銅回路付立体成型プリント配線板とする。立体成型両面銅張積層板への銅回路形状の形成方法は、特に限定されるものではなく、エッチング、レーザー加工等、公知の技術を用いることができる。
【0083】
[立体成型プリント配線板の第3の製造方法]
第3の製造方法は、以下の工程1及び工程2を備える。すなわち、第1の製造方法及び第2の製造方法で行ったような複合樹脂層付銅箔同士の仮張り合わせの工程を行わず、2枚の複合樹脂層付銅箔をその熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で、立体形状を維持して硬化させ、複合樹脂層付銅箔同士の張り合わせと、立体成形とを同時に行い、その後、銅回路を形成する方法である。
【0084】
工程1: 2枚の前記複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層を加熱し立体形状を維持して硬化させることで、立体成型両面銅張積層板とする。
【0085】
工程2: 当該立体成型両面銅張積層板に銅回路形状を形成し銅回路付立体成型プリント配線板とする。第3の製造方法では、先に、両面銅張積層板を立体成形し、その後、回路を形成する。回路形成方法は、特に限定されるものではなく、エッチング、レーザー加工等、公知の技術を用いることができる。
【0086】
以下、実施例を示して本件発明を具体的に説明する。なお、本件発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0087】
複合樹脂層付銅箔: 実施例1では、市販の電解銅箔(18μm厚さ)、高分子ポリマー層形成用の樹脂ワニス、熱硬化樹脂層形成用の樹脂ワニスを用いて作製した。
【0088】
高分子ポリマー層: 高分子ポリマー層は、ポリアミドイミドを80重量部と、添加剤として、エポキシ樹脂を15重量部及びビスマレイミド樹脂を5重量部を混合して樹脂組成物を合成し、この樹脂組成物を有機溶剤としてのジメチルアセトアミドで溶解し、高分子ポリマー層用の樹脂ワニスを作製した。
【0089】
熱硬化樹脂層: 熱硬化性樹脂層を構成する樹脂組成物として以下のA成分〜E成分を合成し、樹脂ワニスを調製した。
A成分:液状エポキシ樹脂(BisF型) 5.0重量部
B成分:高耐熱性エポキシ樹脂 15.0重量部
C成分:リン含有エポキシ樹脂 31.0重量部
D成分:ゴム変性ポリアミドイミド樹脂 20.0重量部
E成分:ビフェニル型のフェノール(硬化剤) 29.0重量部
【0090】
なお、C成分のリン含有エポキシ樹脂は、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(HCA−HQ 三光株式会社製)324重量部とエチルセロソルブ300重量部を仕込み、加熱して溶解した。YDF−170(東都化成社製ビスフェノールF型エポキシ樹脂)680重量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら攪拌を行い、120℃まで加熱を行って混合した。トリフェニルホスフィン試薬を0.3重量部添加して160℃で4時間反応させた。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は501g/eq、リン含有率は3.1重量%であった。
【0091】
また、ゴム変性ポリアミドイミド樹脂は、特開2004−152675号公報に記載の方法を採用し、温度計、冷却管、窒素ガス導入管のついた4ツ口フラスコにトリメリット酸無水物(TMA)0.9モル、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)ゴム(宇部興産社製ハイカーCTBN1300×13:分子量3500)を0.1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)1モル、フッ化カリウム0.01モルを固形分濃度が20%となるようにN−メチル−2−ピロリドンと共に仕込み、120℃で1.5時間攪拌した後180℃に昇温して更に約3時間攪拌を行いゴム変成量9%のポリアミドイミド樹脂を合成した。得られたポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.65dl/g、ガラス転移温度は203℃であった。
【0092】
以上に述べた合成方法で得られたリン含有エポキシ樹脂、ゴム変成ポリアミドイミド樹脂等を用いて、上記配合割合の樹脂組成物とし、更に溶剤としてジメチルアセトアミド:メチルエチルケトン=3:2の割合で混合した混合溶媒を用いて、以下の樹脂ワニスを調製した。
【0093】
市販の電解銅箔(18μm厚さ)の張り合わせ面に、上述の高分子ポリマー層形成用の樹脂ワニスを、エッジコーターを用いて、乾燥後の平均厚さが5μmとなるように塗布し、200℃×5分間の加熱条件で乾燥させ、溶剤を気散させて、高分子ポリマー層を形成した。
【0094】
次に、熱硬化樹脂層形成用の樹脂ワニスを、エッジコーターを用いて、乾燥後の平均厚さが20μmとなるように塗布し、150℃×5分間の加熱条件で乾燥させて溶剤を気散させ、半硬化状態の熱硬化樹脂層を形成した。
【0095】
こうして得られた複合樹脂層付銅箔は、高分子ポリマー層の平均厚さが5μm、熱硬化樹脂層の平均厚さが20μmとした。
【0096】
ガラス転移点(Tg)の評価: 上述のようにして作製した複合樹脂層付銅箔を、圧力40kgf/cm、温度190℃にて90分間プレスし、更に銅箔をエッチングによって除去することにより、厚さ46μmの熱硬化樹脂層を作成した。そして、この単一樹脂層を30mm×5mmに切り出し、ガラス転移温度(Tg)を測定した。ガラス転移温度(Tg)の測定は、動的粘弾性測定装置(DMA)として、セイコー電子工業株式会社製の動的粘弾性測定装置(品番:SDM5600)を用い測定した。この結果、ガラス転移温度(Tg)は150℃であった。
【0097】
樹脂層の硬化後のフレキシビリティ評価: ここでは、複合樹脂層付銅箔をフッ素系の耐熱フィルムで挟み込み、加熱温度190℃、プレス圧40kgf/cmにて真空プレスを用って、熱硬化樹脂層を硬化させた。次に、硬化処理の終了した複合樹脂層付銅箔の銅箔層のみをエッチングにより除去して、硬化した厚さ46μmの樹脂層を、15mm×150mmに切り出して耐屈曲性試験フィルムとした。そして、この耐屈曲性試験フィルムを用いて、MIT法による耐屈曲性試験を行った。MIT法による耐屈曲性試験は、MIT耐折装置として東洋精機製作所製の槽付フィルム耐折疲労試験機(品番:549)を用い、屈曲半径0.8mm、荷重0.5kgfとし、上記作成の耐屈曲性試験フィルムの繰り返し、曲げ試験を実施した。その結果、実施例1の耐屈曲性試験フィルムは、2000回以上の繰り返し曲げ回数の測定が出来た。なお、繰り返し曲げ回数は、MIT耐折装置の駆動ヘッドの一往復を1回(1サイクル)として測定している。
【0098】
上述の複合樹脂層付銅箔を用い、第1の製造方法により立体成型プリント配線板を製造した。
【0099】
工程I: 上述の複合樹脂層付銅箔を2枚用い、当該樹脂層付銅箔を構成する相互の複合樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層が半硬化状態を維持したまま、平面状態で180℃でプレス成形することで仮張り合わせして、平面状のフレキシブル両面銅張積層板とした。
【0100】
工程II: 当該平面状のフレキシブル両面銅張積層板に、エッチングにより銅回路形状を形成し銅回路付平面フレキシブルプリント配線板とした。
【0101】
工程III: 銅回路付平面フレキシブルプリント配線板を、半径100μmのR形状に曲折させた状態で180℃で1時間加熱し、銅回路付平面フレキシブルプリント配線板の内層にある熱硬化樹脂層を硬化させて立体成型プリント配線板とした。図1に、実施例1で得られた立体成型プリント配線板の両面に回路があり、且つ湾曲した部位の断面を示す光学顕微鏡観察像を示す。図1を見ると、樹脂層の割れ等の発生は無いことがわかる。
【0102】
得られた立体成型プリント配線板を、はんだリフローと同様の温度である260℃×20秒間の条件で加熱した。この結果、加熱前後の立体成型プリント配線板の立体形状を目視により確認すると、形状変化は無かった。また、加熱後の立体成型プリント配線板の断面を写真で確認した結果、樹脂層部分に割れ等の不具合は発生していなかった。
【0103】
立体成型プリント配線板のフレキシビリティ評価: ここでは、硬化処理の終了した立体成型プリント配線板の平面状部分について、MIT法による耐屈曲性試験を行った。MIT法による耐屈曲性試験の条件は前述と同様とした。その結果、実施例1の立体成型プリント配線板は、2000回以上の繰り返し曲げ回数の測定が出来た。なお、繰り返し曲げ回数は、MIT耐折装置の駆動ヘッドの一往復を1回(1サイクル)として測定している。
【実施例2】
【0104】
実施例2では、実施例1で得られた複合樹脂層付銅箔を用い、第2の製造方法により立体成型プリント配線板を製造した例を示す。
【0105】
工程i: 実施例1で得られた複合樹脂層付銅箔を2枚用意し、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた。そして、当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層が半硬化状態を維持したまま、平面状態で仮張り合わせして、平面状のフレキシブル両面銅張積層板とした。
【0106】
工程ii: 平面上のフレキシブル両面銅張積層板を角形の型枠に沿わせて配置し、略コ字形の立体形状を維持して180℃で1時間加熱プレスし、当該平面状のフレキシブル両面銅張積層板の内層にある熱硬化樹脂層を硬化させることで、立体成型両面銅張積層板とした。
【0107】
工程iii: 当該立体成型両面銅張積層板に、公知の技術を用いて銅回路形状を形成し銅回路付立体成型プリント配線板とした。
【0108】
得られた立体成型プリント配線板を、実施例1と同様に260℃×20秒間加熱した。この結果、加熱前後の立体成型プリント配線板の立体形状を目視により確認すると、形状変化は無かった。また、加熱後の立体成型プリント配線板の断面写真を確認した結果、樹脂層部分に割れ等の不具合は発生していなかった。
【実施例3】
【0109】
実施例3は、実施例1で得られた複合樹脂層付銅箔を用い、第3の製造方法により、立体成型プリント配線板を製造した例を示す。
【0110】
工程1: 実施例1で得られた複合樹脂層付銅箔を2枚用意し、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させて重ね合わせた。この複合樹脂層付銅箔を重ね合わせた状態では、熱硬化樹脂層は未だ半硬化状態であるので、熱硬化樹脂層同士で密着している。この状態で2枚の複合樹脂層付銅箔を半径100μmのR形状の型に沿わせて、180℃で1時間加熱しながらプレス成型し、熱硬化樹脂層を硬化させることで、立体成型両面銅張積層板とした。
【0111】
工程2: 当該立体成型両面銅張積層板に公知の技術を用いて、銅回路形状を形成し銅回路付立体成型プリント配線板とした。
【0112】
得られた立体成型プリント配線板を、実施例1と同様に260℃×20秒間加熱した。この結果、加熱前後の立体成型プリント配線板の立体形状を目視により確認すると、形状変化は無かった。また、加熱後の立体成型プリント配線板の断面写真を確認した結果、樹脂層部分に割れ等の不具合は発生していなかった。
【実施例4】
【0113】
複合樹脂層付銅箔: 実施例4では、市販の電解銅箔(18μm厚さ)に、実施例1と同じ高分子ポリマー層形成用の樹脂ワニスを用い、以下の熱硬化樹脂層形成用の樹脂ワニスを用いて作製した。
【0114】
熱硬化樹脂層: 熱硬化性樹脂層を構成する樹脂組成物として以下のA成分〜E成分を合成し、樹脂ワニスを調製した。
A成分:液状エポキシ樹脂(BisF型) :20.0重量部
B成分:高耐熱性エポキシ樹脂 :15.0重量部
C成分:フォスファゼン(大塚化学社製 SPB−100) :8.0重量部
D成分:ゴム変性ポリアミドイミド樹脂 :20.0重量部
E成分:ビフェニル型のフェノール(硬化剤) :37.0重量部
【0115】
また、ゴム変性ポリアミドイミド樹脂は、実施例1と同じものを用いた。以上のフォスファゼン系樹脂、ゴム変成ポリアミドイミド樹脂等を用いて、上記配合割合の樹脂組成物とし、更に溶剤としてジメチルアセトアミド:メチルエチルケトン=3:2の割合で混合した混合溶媒を用いて、以下の樹脂ワニスを調製した。
【0116】
市販の電解銅箔(18μm厚さ)の張り合わせ面に、上述の高分子ポリマー層形成用の樹脂ワニスを、エッジコーターを用いて、乾燥後の平均厚さが5μmとなるように塗布し、200℃×5分間の加熱条件で乾燥させ、溶剤を気散させて、高分子ポリマー層を形成した。
【0117】
次に、熱硬化樹脂層形成用の樹脂ワニスを、エッジコーターを用いて、乾燥後の平均厚さが20μmとなるように塗布し、150℃×5分間の加熱条件で乾燥させて溶剤を気散させ、半硬化状態の熱硬化樹脂層を形成した。
【0118】
こうして得られた複合樹脂層付銅箔は、高分子ポリマー層の平均厚さが5μm、熱硬化樹脂層の平均厚さが20μmとした。
【0119】
ガラス転移点(Tg)の評価: 作製した複合樹脂層付銅箔のガラス転移点(Tg)を、実施例1と同じ方法で測定した。この結果、ガラス転移温度(Tg)は150℃であった。
【0120】
樹脂層の硬化後のフレキシビリティ評価: 実施例1と同じ方法で、耐屈曲性試験フィルムを作製して、MIT法による耐屈曲性試験を行った。その結果、実施例4の耐屈曲性試験フィルムは、2000回以上の繰り返し曲げ回数の測定が出来た。
【0121】
上述の複合樹脂層付銅箔を用い、実施例1と同じ条件で、第1の製造方法により立体成型プリント配線板を製造した。
【0122】
得られた立体成型プリント配線板を、はんだリフローと同様の温度である260℃×20秒間の条件で加熱した。この結果、加熱前後の立体成型プリント配線板の立体形状を目視により確認すると、形状変化は無かった。また、加熱後の立体成型プリント配線板の断面を写真で確認した結果、樹脂層部分に割れ等の不具合は発生していなかった。
【0123】
立体成型プリント配線板のフレキシビリティ評価: 実施例1と同様に、MIT法による耐屈曲性試験を行った。その結果、実施例4の立体成型プリント配線板は、2000回以上の繰り返し曲げ回数の測定が出来た。
【実施例5】
【0124】
実施例5では、実施例4で得られた複合樹脂層付銅箔を用い、実施例2と同じ条件で第2の製造方法により立体成型プリント配線板を製造した例を示す。
【0125】
得られた立体成型プリント配線板を、実施例1と同様に260℃×20秒間加熱した。この結果、加熱前後の立体成型プリント配線板の立体形状を目視により確認すると、形状変化は無かった。また、加熱後の立体成型プリント配線板の断面写真を確認した結果、樹脂層部分に割れ等の不具合は発生していなかった。
【実施例6】
【0126】
実施例6は、実施例4で得られた複合樹脂層付銅箔を用い、実施例3と同じ条件で第3の製造方法により、立体成型プリント配線板を製造した例を示す。
【0127】
得られた立体成型プリント配線板を、実施例1と同様に260℃×20秒間加熱した。この結果、加熱前後の立体成型プリント配線板の立体形状を目視により確認すると、形状変化は無かった。また、加熱後の立体成型プリント配線板の断面写真を確認した結果、樹脂層部分に割れ等の不具合は発生していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本件発明に係る複合樹脂層付銅箔は、フレキシブルプリント配線板の狭小配置に対応できる。このような複合樹脂層付銅箔を用いたプリント配線板は、可動性のある電子機器等に使用する場合に、プリント配線板を、デバイススペースに合わせて、ある程度曲げ加工を施した状態で、所定位置に配置することができ、デバイススペースの狭小化に対応できる。この複合樹脂層付銅箔は、フレキシブルプリント配線板に限らず、リジットフレキシブルプリント配線板の基材にも使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔の片面に樹脂層を備える樹脂層付銅箔において、
当該樹脂層は、銅箔層と接する硬化した可撓性を有する高分子ポリマー層と、熱硬化性樹脂組成物で構成した半硬化状態の熱硬化樹脂層とを積層したことを特徴とする立体成型プリント配線板製造用の複合樹脂層付銅箔。
【請求項2】
前記高分子ポリマー層は、ポリアミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、アラミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアミドイミド樹脂のいずれか1種又は2種以上の混合樹脂からなり、厚さが3μm〜10μmである請求項1に記載の複合樹脂層付銅箔。
【請求項3】
前記高分子ポリマー層を構成する樹脂は、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂のいずれか1種又は2種以上を更に含む請求項2に記載の複合樹脂層付銅箔。
【請求項4】
前記熱硬化樹脂層は、厚さが10μm〜50μmのエポキシ樹脂組成物で構成した半硬化樹脂層である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の複合樹脂層付銅箔。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂組成物は、以下のA成分〜E成分の各成分を含むものである請求項4に記載の複合樹脂層付銅箔。
A成分: エポキシ当量が200以下で、室温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上からなるエポキシ樹脂。
B成分: 高耐熱性エポキシ樹脂。
C成分: リン含有エポキシ系樹脂、フォスファゼン系樹脂のいずれか1種又はこれらを混合した樹脂であるリン含有難燃性樹脂。
D成分: 沸点が50℃〜200℃の範囲にある溶剤に可溶な性質を備える液状ゴム成分で変成したゴム変成ポリアミドイミド樹脂。
E成分: 樹脂硬化剤。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の複合樹脂層付銅箔の製造方法であって、以下の工程A及び工程Bを備えることを特徴とした複合樹脂層付銅箔の製造方法。
工程A: 銅箔表面に高分子ポリマー成分を用いて、可撓性を備える硬化した高分子ポリマー層を形成する。
工程B: 当該高分子ポリマー層上に、エポキシ樹脂組成物を用いて、半硬化状態の熱硬化樹脂層を形成し複合樹脂層付銅箔とする。
【請求項7】
前記工程Aと工程Bとの間に、工程Aで形成した銅箔表面にある高分子ポリマー層の表面をコロナ処理又はプラズマ処理する工程を設けた請求項6に記載の複合樹脂層付銅箔の製造方法。
【請求項8】
2枚の請求項1〜請求項5のいずれかに記載の複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で張り合わせて得られることを特徴とするフレキシブル両面銅張積層板。
【請求項9】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の複合樹脂層付銅箔を用いて立体成型プリント配線板を製造するための方法であって、以下の工程I〜工程IIIを備えることを特徴とする立体成型プリント配線板の製造方法。
工程I: 2枚の請求項1〜請求項5のいずれかに記載の複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層が半硬化状態を維持したまま、平面状態で仮張り合わせして、平面状のフレキシブル両面銅張積層板とする。
工程II: 当該平面状のフレキシブル両面銅張積層板に銅回路形状を形成し銅回路付平面フレキシブルプリント配線板とする。
工程III: 前記銅回路付平面フレキシブルプリント配線板の内層にある熱硬化樹脂層を加熱し立体形状を維持して硬化させることで、立体成型プリント配線板とする。
【請求項10】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の複合樹脂層付銅箔を用いて立体成型プリント配線板を製造するための方法であって、以下の工程i〜工程iiiを備えることを特徴とする立体成型プリント配線板の製造方法。
工程i: 2枚の請求項1〜請求項5のいずれかに記載の複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層が半硬化状態を維持したまま、平面状態で仮張り合わせして、平面状のフレキシブル両面銅張積層板とする。
工程ii: 前記平面状のフレキシブル両面銅張積層板の内層にある熱硬化樹脂層を加熱し立体形状を維持して硬化させることで、立体成型両面銅張積層板とする。
工程iii: 当該立体成型両面銅張積層板に銅回路形状を形成し銅回路付立体成型プリント配線板とする。
【請求項11】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の複合樹脂層付銅箔を用いて立体成型プリント配線板を製造するための方法であって、以下の工程1及び工程2を備えることを特徴とする立体成型プリント配線板の製造方法。
工程1: 2枚の請求項1〜請求項5のいずれかに記載の複合樹脂層付銅箔を用い、当該複合樹脂層付銅箔を構成する相互の樹脂層の熱硬化樹脂層同士を当接させた状態で、当該熱硬化樹脂層を加熱し立体形状を維持して硬化させることで、立体成型両面銅張積層板とする。
工程2: 当該立体成型両面銅張積層板に銅回路形状を形成し銅回路付立体成型プリント配線板とする。

【図1】
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【公開番号】特開2011−14727(P2011−14727A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157787(P2009−157787)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】