説明

複合溶接装置およびその方法

【課題】被溶接材間の隙間量が変化する場合であっても、ポロシティの発生および未溶着の発生を低減および防止する。
【解決手段】
複合溶接装置100は、重ね合わされた被溶接材201,202上にレーザ光を集光して照射するレーザ光照射部110と、供給された溶接ワイヤ121と被溶接材201,202との間にアークを発生させるトーチ部120と、溶接の実行中に、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置124とを近接離間させる駆動部130と、を有する。検出部140がポロシティおよび未溶着の発生を検出し、制御装置150は、検出部140の検出結果によって、駆動部130を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光照射とアーク放電とを複合した複合溶接装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接装置は、自動車製造分野をはじめ種々の分野で用いられている。レーザ溶接装置は、重ね合わされた金属材などの被溶接材に対して、レーザ光を集光して照射する。集光されたレーザ光は高エネルギ密度を有するので、金属材表面に激しい蒸発が起こり、この蒸発時の蒸気反力によりキーホールと呼ばれる穴が形成される。キーホールでは、レーザ光の反射損失が小さくなるのでエネルギーの吸収が高まって溶融が進行する結果、キーホールは次第に深くなる。これにより、深い溶け込み溶接を実現できる。また、レーザ光の照射を止めると、金属材はすぐに融点以下になり、凝固するので、凝固速度が比較的速い。
【0003】
しかしながら、溶け込み深さが深く、凝固速度が速いため、溶接金属中にガスが取りこまれやすく、気孔状のポロシティと呼ばれる欠陥が発生しやすいといった問題がある。このようなポロシティは、亜鉛メッキ鋼板同士を溶接する場合に発生しやすい。その原因は、亜鉛の融点が約420度であり、約1535度の鉄の融点に比べて大幅に低いことにある。この融点の差により、溶融金属の凝固が始まってからも亜鉛蒸気が発生し、溶融金属内に残ってしまい、ポロシティが多く発生する。
【0004】
このようなポロシティの問題は、亜鉛メッキ鋼板同士を溶接するときのみならず、互いに異なる融点の材料を含む被溶接材を溶接する際に生じやすい。
【0005】
そこで、ポロシティの問題を解決するために、種々の技術が採用されている。第1の対応策として、重ね合わされた被溶接材にエンボスなどの加工を施すことによって、被溶接材間に物理的に0.2〜0.3mmの隙間を設けて、亜鉛蒸気を逃がす道を作る手法が使用されている。この場合、加圧ローラや加圧ピンにより、被溶接材を加圧し、溶接材間の隙間を矯正しながらレーザ溶接が実行される。すなわち、溶接材間の隙間量が大きくなりすぎると、レーザ光源に近い側の被溶接材(上板)のみが溶け落ちてしまい、未溶着となってしまうので、溶接材間の隙間量を所定の隙間許容量以下に制御する必要がある。
【0006】
一方、第2の対策として、レーザ溶接とアーク溶接とを併用する複合溶接装置(レーザ・アークハイブリッド溶接装置)が採用されている(特許文献1)。複合溶接装置によれば、供給される溶接ワイヤと被溶接材との間にアークを発生させて溶接材料をキーホール側に誘導することができる。この結果、複合溶接装置によれば、レーザ溶接単体を用いる場合に比べて、ポロシティの発生が低減され、隙間許容量を高めることができる。
【特許文献1】特表平2004−512965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、レーザ・アーク複合溶接装置を採用する場合においても、重ね合わされた被溶接材間の隙間量によっては、ポロシティおよび未溶着が発生する。被溶接材として用いられる鋼鈑などの部材の精度にも限界があり、すべての溶接箇所において隙間量を一定とすることが難しい。特に、車両のように曲面部分が多い溶接材にいては、隙間量を一定とすることが難しい。また、上述したように加圧ローラを用いて加圧しながら溶接をする場合においても、溶接箇所付近の被溶接材の剛性が高い場合には、隙間矯正ができず、隙間量を一定とすることが難しい場合がある。したがって、隙間量が変化する場合であっても、ポロシティの発生および未溶着の発生を低減または防止できる溶接装置および溶接方法が望まれている。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、被溶接材間の隙間量が変化する場合であっても、ポロシティの発生および未溶着の発生を低減および防止することができる複合溶接装置およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0010】
本発明の複合溶接装置は、重ね合わされた被溶接材上にレーザ光を集光して照射する照射部と、供給された溶接ワイヤと前記被溶接材との間にアークを発生させるトーチ部と、溶接の実行中に、前記レーザ光の照射位置と前記溶接ワイヤの端部位置とを近接離間させる駆動部と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の複合装置方法は、重ね合わされた被溶接材上にレーザ光を集光して照射しつつ、供給された溶接ワイヤと前記被溶接材との間にアークを発生させて溶接する段階と、前記溶接する段階中に、前記レーザ光の照射位置と前記溶接ワイヤの端部位置とを近接離間させる段階と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶接の実行中に、前記レーザ光の照射位置と前記溶接ワイヤの端部位置とを近接離間させるので、重ね合わされた被溶接材間の隙間量が変化した場合に対処でき、ポロシティの発生および未溶着の発生を低減および防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態における複合溶接装置の概略構成を示す図である。
【0015】
複合溶接装置100は、レーザ・アークハイブリッド溶接装置である。複合溶接装置100は、互いに重ね合わされた複数の被溶接材201,202を溶接する。なお、被溶接材201,202として、亜鉛メッキ鋼鈑のように異なる融点を持つ複数の材料を含有する金属材を使用する場合に、本実施の形態の複合溶接装置100が好適に適用される。以下では、被溶接材201,202として、亜鉛メッキ鋼鈑を用いる場合を例にとって説明する。
【0016】
複合溶接装置100は、レーザ光照射部(照射部)110と、アーク溶接のためのトーチ部120と、溶接の実行中に、レーザ光照射部110とトーチ部120とを離間移動させる駆動部130とを備える。また、複合溶接装置100は、溶接部分でのポロシティおよび未溶着のうち少なくとも1つの溶接状態の発生を検出する検出部140として、センサ141および計測装置142を有する。さらに、複合溶接装置100は、検出部140による検出結果をに応じて、駆動部130を制御する制御装置(制御部)150を有する。
【0017】
以下、本実施の形態の複合溶接装置100における各部の構成について説明する。
【0018】
まず、レーザ光照射部110について説明する。レーザ光照射部110は、YAGレーザ発振器115によって発生したレーザ光を被溶接材上に集光して照射するものである。たとえば、レーザ光照射部110は、レーザ光を集光するための複数のレンズ111,112を備えるレーザ加工ヘッドである。レーザ光の照射位置113は、被溶接材が溶融し加工される加工点となる。レーザ光照射部110自体の構成は、従来と同様であるので詳しい説明を省略する。
【0019】
次に、トーチ部120について説明する。トーチ部120は、供給された溶接ワイヤ121と被溶接材との間にアークを発生させるものである。トーチ部120は、シールドガスを噴出し、このシールドガスによりアークを大気から保護しつつ、溶接ワイヤ121を電極として消耗しながら溶接を進めるガスシールドアーク用トーチであることが望ましい。たとえば、トーチ部120は、アルゴンガスなど不活性ガスの雰囲気中で、溶接ワイヤ121(消耗電極)と被溶接材(母材)間にアークを発生させ、溶接が進行するミグ溶接(MIG溶接:metal inert gas welding)用トーチである。なお、トーチ部120は、タングステンなどの非消耗性の高い電極を用いたティグ溶接(TIG溶接:tungsten inert gas welding)用トーチであってもよい。
【0020】
トーチ部120は、図示していないワイヤ供給装置によって供給される溶接ワイヤ121を案内しつつ通電するための通電チップ122と、通電チップ122の外側を取り囲む管状のガスノゾル123とを有している。通電チップ122とガスノズル123との間の通路を通って不活性ガスが噴出される。
【0021】
本実施の形態では、トーチ部120は、たとえば、図1に示されるとおり、レーザ光照射部110に対して、溶接方向後方に配置されることが望ましい。ここで、溶接方向とは、溶接の走査方向を意味する。
【0022】
次に、駆動部130について説明する。駆動部130は、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置124とを近接離間させる駆動機構である。駆動部130としては、モータとボール螺子を用いたリニアアクチュエータ、およびシリンダなど各種の駆動機構を採用することができる。本実施の形態では、駆動部130は、トーチ部120が取り付けられている第1ベース部131を、レーザ光照射部110が取り付けられている第2ベース部132に対して移動する。この結果、トーチ部120は、溶接方向に沿って並進移動し、トーチ部120とレーザ光照射部とが近接離間する。しかしながら、本実施の形態に限られず、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置124とを近接離間させるものであれば、駆動部130として採用できる。たとえば、本実施の形態と異なり、トーチ部120の位置を固定し、レーザ光照射部110を移動する構成を採用することもできる。また、レーザ光の焦点距離を変更しつつ照射方向を変更することによっても、レーザ光の照射位置と前記溶接ワイヤの端部位置とを近接離間させることができる。
【0023】
次に、検出部140について説明する。検出部140は、センサ141と、計測装置142とを備える。センサ141は、たとえば、フォトダイオードおよび光学フィルタを有している。、センサ141は、主として、レーザ光の反射光を検出し、電気信号へ変換する。レーザ光の反射光は、キーホールの側壁の状態によって変化すると考えられる。亜鉛金属蒸気27の噴出によってキーホールの側壁の状態が変動すると、レーザ光の反射光も変化することとなる。この現象は、キーホール内部で起こるので、センサ141は、キーホール内部からの反射光をとらえられる迎角45度〜70度程度の範囲となるように設置されることが望ましい。
【0024】
計測装置142は、センサ141と信号線143を介して接続されており、センサ141によって得られた電気信号をFET(高速フーリエ変換)して周波数強度分布を算出し、この周波数強度分布に基づいて、溶接部分でのポロシティの発生および未溶着の発生の双方を検出する。
【0025】
図2に、良品、ポロシティ品、および未溶着品のそれぞれについてFETにより算出した周波数強度分布の一例を示す。図2に示されるとおり、ポロシティが発生すると、たとえば、良品および未溶着品に比べて、0〜1000Hzの範囲である第1周波数帯が高い値を示す。一方、未溶着が発生すると、たとえば、良品およびポロシティ品に比べて、3000Hz〜6000Hzの範囲である第2周波数帯が高い値を示す。なお、レーザ強度および溶接速度に応じて、第1周波数帯および第2周波数帯は変化しうるが、周波数強度分布において、良品、ポロシティ発生品、および未溶着品のそれぞれについて同様の傾向を示すことに変わりはない。したがって、これらの周波数帯での値により、ポロシティの発生および未溶着の発生を検出することができる。
【0026】
次に、制御装置(制御部)150の構成について説明する。制御装置150は、配線151により検出部140の計測装置142と接続される一方、配線152により駆動部130とも接続されている。また、配線153によりYAGレーザ発振器115に接続されて、YAGレーザ発振器115の制御部として機能してもよい。
【0027】
制御装置150は、検出部140の計測装置142からの検出結果を順次に受信する。具体的には、制御装置150は、ポロシティの発生、未溶着の発生、およびポロシティおよび未溶着の発生がないない良品のいずれの溶接状態であるかを順次に受信する。一方、制御装置150は、検出部による検出結果に応じて、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置124との間の距離(以下、「離間距離」と称する)Dを変化させるように駆動部130を制御する。
【0028】
次に、制御装置150による具体的な制御の内容について説明する。制御装置150による制御の前提として、上記した離間距離D、および被溶接材201,202間の隙間量Gを変化させたときの溶接状態を調べた特性図について説明する。
【0029】
図3は、隙間量Gと離間距離Dの値を変化させたときの溶接状態を調べた特性図の一例を示している。図3に示される特性図は、本発明者が誠意調査の結果、得られたものである。
【0030】
なお、図3は、溶接速度として、レーザ溶接のみを使用したときの貫通限界速度の80%の溶接速度とした場合の結果を示している。ここで、貫通限界速度とは、上下に重ね合わされた被溶接材(ここでは亜鉛メッキ鋼鈑)において、レーザ光照射部110から遠い側(下側)に置かれた被溶接材の下面まで貫通したビードを得ることができる限界の溶接速度である。一般に、溶接速度を高めると、溶接部分に与えられるエネルギー密度が小さくなる。貫通限界速度を超える溶接速度では、エネルギー密度が小さいため、下側に置かれた被溶接材の下面まで貫通したビードが得られない。
【0031】
図3において、横軸は、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置124との間の離間距離Dを示しており、縦軸は、重ね合わされた複数の亜鉛メッキ鋼鈑である被溶接材201,202間の隙間量Gを示している。
【0032】
図3に示されるように、離間距離Dおよび隙間量Gによって、特性図は、溶接可能領域、ポロシティ発生領域、溶け落ちによる未溶着領域、および溶接金属の誘導不足による未溶着領域の4つの領域に大別される。
【0033】
ここで、溶接可能領域は、未溶着およびポロシティが発生せずに良好な溶接が可能な領域である。ポロシティ発生領域は、ポロシティが発生する領域である。溶け落ちによる未溶着領域は、上側の被溶接材である亜鉛メッキ鋼鈑が溶け落ちるのみで下側の亜鉛メッキ鋼鈑が十分に溶融されないことに起因して未溶接となる状態が発生する領域である。溶け落ちによる未溶着は、隙間量Gが大きすぎるために下側の亜鉛メッキ鋼鈑まで十分に熱が到達しないために生じると考えられる。一方、溶接金属の誘導不足による未溶着領域は、溶接ワイヤ121からの溶接金属がキーホールまで十分に誘導されずに、未溶接となる状態が発生する領域である。
【0034】
図3の特性図によれば、ポロシティは、隙間量G(縦軸)がポロシティ上限隙間量G以下であるときに発生する。ここで、ポロシティ上限隙間量Gとは、検出部140によってポロシティの発生が検出される上限の隙間量Gであり、図3に示される場合には、0.2mm程度の値である。ただし、隙間量Gがポロシティ上限隙間量G以下であっても、離間距離D(横軸)がポロシティ下限距離D未満であれば、ポロシティの発生は検出されず、溶接可能領域となる。ここで、ポロシティ下限距離Dとは、検出部140によってポロシティの発生が検出される下限の離間距離Dであり、たとえば、2.3mm程度である。
【0035】
一方、溶け落ちによる未溶着は、隙間量G(縦軸)が、溶け落ち未溶着下限隙間量G以上であるときに発生する。ここで、溶け落ち未溶着下限隙間量Gとは、溶け落ちによる未溶着の発生が検出部140によって検出される下限の隙間量Gであり、図3に示される場合では、0.3mm程度である。したがって、ポロシティ上限隙間量Gよりも溶け落ち未溶着下限隙間量Gが値が大きい。
【0036】
図3の特性図中において、未溶着領域(溶け落ちによる未溶着領域、および溶接金属の誘導不足による未溶着領域)と溶接可能領域との境界線は、各離間距離Dにおける、溶接が可能な隙間量の限界(以下、隙間許容量と称する)を示している。換言すれば、境界線は、被溶接材間の隙間許容量と離間距離Dとの関係を示す特性曲線300である。
【0037】
この特性曲線300は、離間距離Dが短い領域では、上記の溶け落ち未溶着下限隙間量Gの値を示し平坦に推移する。一方、さらに離間距離Dが長くなると、特性曲線300は、離間距離Dの増加にともなって立ち上がり、隙間許容量が大きくなる。この特性曲線300が立ち上がる位置に対応する離間距離Dは、本明細書において立上り距離Dと称され、図3に示される場合では、約3mmである。さらに、特性曲線300は、ピーク位置をもち、最大の隙間許容量GMAXを示す。なお、隙間許容量が最大となる離間距離Dは、本明細書においてピーク距離DMAXと称され、図3に示される場合では、約4mmである。さらに、離間距離Dが増加すると、隙間許容量が下がり始め、溶接金属の誘導不足による未溶着領域の影響によって、特性曲線300が離間距離Dの増加にともなって立ち下がる。この特性曲線300が立ち上がる位置に対応する離間距離Dは、本明細書において立下り距離Dと称され、図3に示される場合では、約6mmである。換言すれば、立下り距離Dは、溶接金属の誘導不足による未溶着領域と溶接可能領域との境界を与える。
【0038】
ここで、図3に示されるような特性自体は、レーザ強度および溶接速度によらず生じるが、上記したポロシティ上限隙間量G、ポロシティ下限距離D、溶け落ち未溶着下限隙間量G、立上り距離D、ピーク距離DMAX、および立下り距離Dの各値は、レーザ強度および溶接速度によって変化しうる。特に、立上り距離Dおよびピーク距離DMAXは、レーザ強度および溶接速度にともなって比較的変化しやすい。具体的には、溶接速度が速くなると(あるいは、レーザ強度が弱くなると)、立上り距離Dおよびピーク距離DMAXは、長くなる傾向(図3において右側に移動する傾向)を示す。たとえば、ピーク距離DMAXは、図3において溶接速度が貫通溶接速度まで高くなると、5mmまで長くなる。
【0039】
なお、図3のような特性図を示す理由、特に、離間距離Dを短くするとポロシティの発生が検出されなくなり良好な溶接が得られる理由はいまだ明らかではない。離間距離Dをピーク距離DMAXに近づけると隙間許容量が高まる理由は、溶接ワイヤ121による溶接材料のキーホールへの誘導が最適化されるためであると推測される。
【0040】
本実施の形態の制御装置150は、以上のような特性図に示される特性を考慮して、制御を実行する。
【0041】
図4は、本実施の形態の複合溶接装置における処理内容を示すフローチャートである。また、図5および図6は、複合溶接装置における具体的な動作を示すための模式図である。
【0042】
まず、初期設定がされる(ステップS101)。通常の溶接装置と同様に、レーザ強度および溶接速度を含む設定値がオペレータによって入力されることによって設定される。
さらに、本実施の形態では、離間距離Dの制御目標として、第1距離D1および第2距離D2が設定される。図3に第1距離D1および第2距離D2の一例を示す。
【0043】
第1距離D1は、立上り距離Dよりも長く、かつ立下り距離Dよりも短い範囲に含まれる距離である。特に、最大の隙間許容量GMAXを実現する見地からは、第1距離D1は、ピーク距離DMAX、すなわち、隙間許容量が最大となる距離に設定されることが望ましい。一方、第2距離D2は、第1距離D1よりも短い。また、第2距離は、ポロシティ下限距離Dよりも短く設定される。
【0044】
なお、上述したとおり、立上り距離D、ピーク距離DMAX、立下り距離D、およびポロシティ下限距離Dなどの種々の値が、レーザ強度および溶接速度に応じて変動しうること起因して、第1距離D1および第2距離D2も、レーザ強度および溶接速度に応じて設定されることが望ましい。このとき、複数パターンのレーザ強度および溶接速度において図3に示される各値を予め実験によって取得して、第1距離D1および第2距離D2を決定しておき、複数パターンのレーザ強度および溶接速度における第1距離D1および第2距離D2の値を、たとえばルックアップテーブルとして制御装置100内の記憶部に記憶しておくことが望ましい。この場合、ユーザが、レーザ強度、および溶接速度などの設定をすると、自動的にルックアップテーブルが読み出され、設定されたレーザ強度や溶接速度に応じて第1距離D1および第2距離D2についても自動的に設定されるように構成することができる。
【0045】
初期設置が終了した後、溶接処理が開始される(ステップS102)。この結果、重ね合わされた被溶接材201,202(ここでは、亜鉛メッキ鋼鈑)上にレーザ光を集光して照射しつつ、供給された溶接ワイヤ121と被溶接材201,202との間にアークを発生させて溶接する処理が開始される。なお、溶接処理の開始時には、離間距離Dが第1距離となるように初期化をしてもよい。溶接処理を実行しつつ、検出部140は、常に溶接部分でのポロシティ発生および未溶着の発生を監視する。
【0046】
ポロシティの発生が検出部140によって検出されたか否かが判断され(ステップS140)、検出部140によってポロシティの発生が検出されない場合(ステップS103:NO)、ステップS105に進む。一方、検出部140によってポロシティの発生が検出された場合(ステップS103:YES)、制御装置150は、離間距離Dが第2距離D2となるように駆動部130を制御する(ステップS104)。すなわち、制御装置150は、離間距離Dが、検出部140によってポロシティの発生が検出される下限であるポロシティ下限距離Dよりも短くなるように駆動部130を制御する。図3に示される場合であれば、制御装置150は、たとえば、離間距離Dが1mm乃至2mmの範囲となるように駆動部130を制御する。
【0047】
制御装置150からの制御指令を受けて、駆動部130は、図5に示されるとおり、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置124との間の離間距離Dを第2距離D2となるように近接させる。この結果、ポロシティの発生が検出されない状態となる。なお、図3の特性図によれば、ポロシティの発生が検出される状態において、隙間量Gは、ポロシティ上限隙間量G以下であり、未溶着下限隙間量G以下であるので、この状態で離間距離Dを狭めても、溶け落ちによる未溶着は発生せず、溶接可能状態となる。
【0048】
一方、ステップS105では、未溶着の発生が検出部140によって検出されたか否かが判断される。検出部140によって未溶着の発生が検出された場合(ステップS105:YES)、制御装置150は、離間距離Dが第1距離D1となるように駆動部130を制御する(ステップS106)。すなわち、制御装置150は、離間距離Dが立上り距離Dよりも長く、かつ立下り距離Dよりも短い範囲(図3に示される場合では、たとえば、離間距離が3mm乃至6mmの範囲)となるように駆動部130を制御し、より好ましくは、隙間許容量が最大となる距離でるピーク距離DMAXとなるように駆動部130を制御する。
【0049】
この結果、駆動部130は、図6に示されるとおり、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置124との間の離間距離Dを第1距離D1となるように離間させる。この結果、隙間許容量が高まり、未溶着の発生が抑制される。なお、図3の特性図によれば、溶け落ちによる未溶着の発生が検出される状態において、隙間量Gは、溶け落ち未溶着下限隙間量G以上であり、ポロシティ上限隙間量Gよりも大きい。したがって、この状態で離間距離Dを広げても、ポロシティは発生せず、溶接可能状態となる。
【0050】
以上のステップS103〜ステップS106の処理は、溶接が完了するまで(ステップS107:YES)、繰り返される。すなわち、溶接段階中に、溶接部分でのポロシティおよび未溶着の発生を検出する段階(ステップS103およびステップS105)と、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置123とを近接離間させる段階(ステップS104およびステップS106)が順次に実施される。
【0051】
したがって、制御装置150は、離間距離Dが第1距離D1となっている状態で検出部140がポロシティの発生を検出したときに、離間距離Dが第1距離D1よりも短い第2距離D2となるように駆動部130を制御する一方、離間距離が第2距離となっている状態で前記検出部が前記未溶着の発生を検出したときに、前記離間距離が前記第1距離となるように前記駆動部を制御する。
【0052】
すなわち、検出部140がポロシティの発生を検出すると、離間距離Dが第2距離(たとえば、1〜2mm)に制御されて、ポロシティの発生が抑制される。離間距離Dが第2距離(たとえば、1〜2mm)のままであると、隙間量Gが0.3mm程度に拡大した時点で未溶着が発生するが、検出部140が未溶着の発生を検出すると、離間距離Dが第1距離、好適にはピーク距離DMAX(溶接速度が貫通限界速度の80%の場合には、たとえば、約4mm)となるように制御されて、隙間量Gの増加に対応する。そして、離間距離Dが、第1距離(たとえば、4mm)のままであると、隙間量Gが0.2mm以下に小さくなった時点で再びポロシティが発生するが、検出部140がポロシティの発生を検出すると、離間距離Dを再び第2距離となるように制御されて、ポロシティの発生が抑制される。以後、溶接処理が終了するまで、同様の処理を繰り返すことによって、車体のように場所によって隙間量が変化する場合であっても、ポロシティの発生および未溶着の発生が低減または防止され、高品位な溶接が得られる。特に、亜鉛メッキ鋼鈑を使用した場合であっても、ポロシティの発生が抑制される。
【0053】
(実施例)
最後に、本実施の形態の複合溶接装置を用いて実際に亜鉛メッキ鋼鈑を溶接した場合の実施例について示す。なお、比較例として、レーザ単体を用いた溶接装置の場合(第1比較例)と、離間距離Dを4mmに固定した複合溶接装置の場合(第2比較例)とについても示す。
【0054】
実施条件は、以下のとおりとした。被溶接材である鋼鈑として、合金化亜鉛メッキ鋼鈑(SP783)、板厚1.0mmとした。継手は、「重ね」とした。レーザはYAGレーザを用い、出力は3kWとした。ミグ溶接条件としては、直流パルス(電流値110A,電圧値18V)を印加し、シールドガスとして、CO10%とAr90%の混合ガスを用い、流量は、20リットル/分とした。溶接速度は、4m/分とし、隙間量Gは、0〜0.8mmとした。
【0055】
実験結果を表1に示す。表1に示されるとおり、レーザ単体を用いた溶接装置(第1比較例)の場合、隙間量Gが0mmのときにポロシティが発生し、隙間量が0.4mm以上となると未溶着が発生した。また、離間距離Dを4mmに固定した複合溶接装置(第2比較例)の場合、隙間量Gが0.2mm〜0.8mmの範囲では、良好な溶接が得られるものの、隙間量が0mm〜0.1mmの範囲では、ポロシティが発生した。一方、本実施例の場合には、隙間量が0mm〜0.8mmの全範囲において、良好な溶接が得られた。
【0056】
【表1】

【0057】
以上のように、本実施の形態の複合溶接装置および複合溶接方法によれば、以下のような効果が得られる。
【0058】
溶接の実行中に、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置124とを近接離間させる駆動部130を有するので、溶接状態に応じて、適宜に離間距離Dを変えることができ、ポロシティの発生および未溶着の発生を低減または防止し、高品位な溶接ビードを形成することができる。
【0059】
特に、溶接部分でのポロシティおよび未溶着の発生を検出する検出部130と、検出部による検出結果に応じて、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置124との間の離間距離Dを変化させるように駆動部130を制御する制御装置(制御部)150とを有する場合には、車体のように隙間量Gが変化する被溶接材を溶接する場合であっても、ポロシティおよび未溶着の発生を低減または防止し、高品位な溶接が可能となる。したがって、亜鉛メッキ鋼鈑のように融点が異なる複数の材料を含む被溶接材を使用した場合でも、ポロシティの発生を抑制または防止することができる。
【0060】
また、制御装置150は、離間距離Dが第1距離D1となっている状態で検出部140がポロシティの発生を検出したときに、離間距離Dが第1距離D1よりも短い第2距離D2となるように駆動部130を制御する一方、離間距離Dが第2距離D2となっている状態で検出部140が未溶着の発生を検出したときに、離間距離Dが第1距離D1となるように駆動部130を制御するので、離間距離Dを第1距離D1または第2距離D2のどちらかの状態に切り替える2極性の制御を実行すればよく、制御装置150および駆動部130の構成が簡略化され、実用性が高まる。
【0061】
また、第2距離D2は、ポロシティ下限距離よりも短ければよく、たとえば1mm乃至2mmの範囲に含まれていればよいので、離間距離Dをポロシティ下限距離よりも短くできる限り、制御装置150および駆動部130として、ある程度の制御誤差が生じた場合であっても、ポロシティの発生を抑制または防止することが可能となる。
【0062】
第1距離D1は、立上り距離Dより長く、かつ立下がり距離Dよりも短ければよく、たとえば、3mm乃至6mmの範囲に含まれていれば、隙間許容量を大きくすることができるので、制御装置150および駆動部130として、ある程度の制御誤差が生じた場合であっても、未溶着の発生を抑制することができる。また、ピーク距離DMAX、すなわち、隙間許容量が最大となる距離であるピーク距離DMAXとなるように第1距離D1を設定する場合には、未溶着の発生を最大限に抑制することができる。
【0063】
以上のように、本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明は、この場合に限られず、いわゆる当業者によって種々の省略、追加、および変更が可能である。
【0064】
たとえば、制御装置150による制御は、図4のフローチャートに示される場合に限られない。ポロシティおよび未溶着のうち少なくとも1つの溶接状態の発生の検出結果に応じて、レーザ光の照射位置113と溶接ワイヤ121の端部位置124との間の離間距離Dを変化させるように駆動部130を制御するものである限り、種々の制御方法を採用することができる。たとえば、未溶着の発生を検出せずに、ポロシティの発生の有無のみを検出し、ポロシティの発生が検出されている間は、離間距離Dが第2距離となるように制御し、ポロシティの発生が検出されていない間は、離間距離Dが第1距離となるように制御してもよい。また、逆に、ポロシティの発生を検出せずに、未溶着の発生の有無のみを検出する制御を採用することもできる。
【0065】
さらに、実用性と、制御の安定性および容易性によれば、図4のフローチャートに示されるように、第1距離D1と第2距離D2の2点で2極性の制御をすることが望ましいが、たとえば、図2に示される周波数強度分布において、第1周波数帯および第2周波数帯での強度が順次に変化するのにともなって、離間距離Dを連続的に変化させるように駆動部130を制御することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施の形態における複合溶接装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1の検出部において、良品、ポロシティ品、および未溶着品のそれぞれについて、レーザの反射光の信号をFETにより算出した周波数強度分布の一例である。
【図3】隙間量Gと離間距離Dの値を変化させたときの溶接状態を調べた特性図の一例を示している。
【図4】図1の複合溶接装置における処理内容を示すフローチャートである。
【図5】ポロシティの発生が検出された場合の複合溶接装置の動作を示す図である。
【図6】未溶着の発生が検出された場合の複合溶接装置の動作を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
100 複合溶接装置、
110 レーザ光照射部(照射部)、
111,112 レンズ、
113 レーザ光の照射位置、
120 トーチ部、
121 溶接ワイヤ、
122 通電チップ、
123 ガスノズル、
124 溶接ワイヤの端部位置
130 駆動部、
140 検出部、
141 センサ、
142 計測装置、
150 制御装置(制御装置)、
201,202 被溶接材、
300 特性曲線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わされた被溶接材上にレーザ光を集光して照射する照射部と、
供給された溶接ワイヤと前記被溶接材との間にアークを発生させるトーチ部と、
溶接の実行中に、前記レーザ光の照射位置と前記溶接ワイヤの端部位置とを近接離間させる駆動部と、を有することを特徴とする複合溶接装置。
【請求項2】
さらに、溶接部分でのポロシティおよび未溶着のうち少なくとも1つの溶接状態の発生を検出する検出部と、
前記検出部による検出結果に応じて、前記レーザ光の照射位置と前記溶接ワイヤの端部位置との間の離間距離を変化させるように前記駆動部を制御する制御部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の複合溶接装置。
【請求項3】
前記検出部は、溶接部分でのポロシティの発生と未溶着の発生の双方を検出可能であり、
前記制御部は、前記離間距離が第1距離となっている状態で前記検出部が前記ポロシティの発生を検出したときに、前記離間距離が前記第1距離よりも短い第2距離となるように前記駆動部を制御する一方、前記離間距離が前記第2距離となっている状態で前記検出部が前記未溶着の発生を検出したときに、前記離間距離が前記第1距離となるように前記駆動部を制御することを特徴とする請求項2に記載の複合溶接装置。
【請求項4】
前記第2距離は、前記検出部によってポロシティの発生が検出される下限であるポロシティ下限距離よりも短いことを特徴とする請求項3に記載の複合溶接装置。
【請求項5】
前記第2距離は、1mm乃至2mmの範囲に含まれることを特徴とする請求項3に記載の複合溶接装置。
【請求項6】
前記第1距離は、被溶接材間の隙間許容量と前記離間距離との関係を示す特性曲線が前記離間距離の増加にともなって立ち上がる位置に対応する距離よりも長く、前記特性曲線が前記離間距離の増加にともなって立ち下がる位置に対応する距離よりも短いことを特徴とする請求項3に記載の複合溶接装置。
【請求項7】
前記第1距離は、3mm乃至6mmの範囲に含まれることを特徴とする請求項3に記載の複合溶接装置。
【請求項8】
前記第1距離は、前記隙間許容量が最大となる距離であることを特徴とする請求項3に記載の複合溶接装置。
【請求項9】
前記トーチ部は、シールドガスを噴出し、当該シールドガスによりアークを大気から保護しつつ、前記溶接ワイヤを電極として消耗しながら溶接を進めるガスシールドアーク用トーチであることを特徴とする請求項1に記載の複合溶接装置。
【請求項10】
前記ガスシールドアーク用トーチは、ミグ溶接用トーチまたはティグ溶接用トーチであることを特徴とする請求項9に記載の複合溶接装置。
【請求項11】
前記被溶接材は、亜鉛メッキ鋼板であることをを特徴とする請求項1〜10のいずれか一つに記載の複合溶接装置。
【請求項12】
重ね合わされた被溶接材上にレーザ光を集光して照射しつつ、供給された溶接ワイヤと前記被溶接材との間にアークを発生させて溶接する段階と、
前記溶接する段階中に、前記レーザ光の照射位置と前記溶接ワイヤの端部位置とを近接離間させる段階と、を有することを特徴とする複合溶接方法。
【請求項13】
さらに、溶接部分でのポロシティおよび未溶着のうち少なくとも1つの溶接状態の発生を検出する段階を有し、
前記近接離間させる段階は、前記溶接状態の検出結果に応じて、前記レーザ光の照射位置と前記溶接ワイヤの端部位置との間の離間距離を変化させることを特徴とする請求項12に記載の複合溶接方法。
【請求項14】
前記金属板は、亜鉛メッキ鋼板である請求項12または13に記載の複合溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−181585(P2006−181585A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375620(P2004−375620)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】