説明

複屈折フィルムの製造方法、およびそれを用いた光学フィルム、液晶パネル、液晶表示装置、画像表示装置

【課題】
ポリマーフィルムを幅方向に延伸して複屈折フィルムを製造する際のボーイング現象を解消して、複屈折や位相差、配向角のバラツキが抑制された光学特性に優れ、且つ偏光フィルムと貼り合せる場合に、連続的な貼り合せを実現できる生産効率の高い複屈折フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】
ポリマーフィルムを延伸する工程を含む複屈折フィルムの製造方法であって、ポリマーフィルムを幅方向に延伸処理を行うと同時に、その長手方向に収縮処理を行い、延伸前のポリマーフィルムの幅方向の長さ及び長手方向の長さをそれぞれ1とした場合における、延伸による幅方向の長さの変化倍率(STD)と、収縮による長手方向の長さの変化倍率(SMD)とが(1/STD)1/2≦SMD<1を満たし、且つ延伸後の該ポリマーフィルムのNz係数が0.9〜1.1である複屈折フィルムの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複屈折フィルムの製造方法、およびそれを用いた光学フィルムおよび各種画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等の各種画像表示装置においては、表示特性を向上するために、例えば、着色の解消や視野角拡大等を目的として、通常、複屈折性のフィルムが使用されている。
このような複屈折フィルムは、一般に、ポリマーフィルムに一軸延伸や二軸延伸を施すことによってその複屈折や位相差を調整して製造される。
【0003】
このような複屈折フィルムを偏光フィルムと共に液晶表示装置に使用する際には、前記複屈折フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸とが略垂直になるように前記両フィルムを配置する必要がある。なお、一般に、複屈折フィルムの遅相軸は、その延伸方向に一致し、偏光フィルムの吸収軸は、その延伸方向に一致する。
【0004】
ところで、工業的にポリマーフィルムを延伸する場合、フィルムに延伸処理を施しながら、同時にそのフィルムを長手方向に移動させてロールに巻き取ることが一般的である。
そして、このようにロールにそれぞれ巻き取った複屈折フィルムと偏光フィルムとを貼り合せる場合には、各ロールからフィルムを送り出しつつ、各フィルムの長辺(長手方向)を揃えた状態で、例えば、両者を貼り合せながら再度ロールで巻き取る等により、連続的な貼り合せ(所謂、Roll to Roll)を実現できる。
そのためには、前記偏光フィルムは長手方向に延伸するのに対して、前記複屈折フィルムは幅方向に延伸する必要がある。
【0005】
しかしながら、複屈折フィルムと偏光フィルムとを上記のように配置するには、製造上以下のような問題がある。
すなわち、前記複屈折フィルムの製造において、ポリマーフィルムを幅方向に連続的に延伸すると、例えば、面内の配向角が扇状になる、いわゆるボーイング現象が生じるため、幅方向の延伸によって均一な配向角や複屈折、位相差を発生させることは困難であるという問題である。
【0006】
そこで、ポリマーフィルムを幅方向に延伸する方法として、一旦幅方向に延伸した後、元の幅位置に戻す緩和処理を施すことによって、幅方向(延伸方向)の遅相軸の均一性を向上させるという方法が採用されている。しかし、このような方法においては、一般に、基材上にポリマーフィルムを積層した後、基材と共に拡張することにより、該フィルムを延伸し、基材を元の幅に戻すことにより、該フィルムを収縮させて緩和処理を施すが、ポリマーフィルムによっては、緩和効果が小さいもの等があり、工業的に安定して均一な複屈折フィルムを効率よく生産することは困難である。また、延伸後に冷却を行うことによってボーイング現象を減少させる試みもあるが、完全に前記現象を回避することはできない(例えば、非特許文献1)。
【0007】
別法として、テンター延伸機のチャック間において、ポリマーフィルムが積層された基材を緩ませ、前記基材を熱収縮する方法も開示されているが(例えば、特許文献1)、前記基材が熱収縮性を有する基材に限定され、また、特に、基材の厚みが厚すぎる場合など、弛めた際に、シワが発生してポリマーフィルムに複屈折等のバラツキが生じるという問題もある。また、これらの他にも延伸条件を設定する方法、例えば、延伸フィルムの幅を延伸倍率の平方根とする方法(例えば、特許文献2)、縦延伸に伴う収縮の幅を規定する方法(例えば、特許文献3)、延伸後に熱緩和させる方法(例えば、特許文献4)等が開示されているが、これらは、何れも生産効率よく生産することは困難であるという問題を有している。
【0008】
【非特許文献1】T.Yamada et al. Intn. Polym. Process., Vo.X, Issue 4, 334-340 (1995)
【特許文献1】特開平6−51116号公報
【特許文献2】特開平3−23405号公報
【特許文献3】特開平2−191904号公報
【特許文献4】特開平5−249316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題に鑑み、ポリマーフィルムを幅方向に延伸して複屈折フィルムを製造する際のボーイング現象を解消して、複屈折や位相差、配向角のバラツキが抑制された光学特性に優れ、且つ偏光フィルムと貼り合せる場合に、連続的な貼り合せ(所謂、Roll to Roll)を実現できる生産効率の高い複屈折フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリマーフィルムを幅方向に延伸すると同時に長手方向に収縮させ、前記幅方向の延伸程度と長手方向の収縮程度とが所定の関係式を満たし、且つ延伸後のポリマーフィルムが所定のNz係数を満たす場合に上記課題が解決されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、ポリマーフィルムを延伸する工程を含む複屈折フィルムの製造方法であって、ポリマーフィルムを幅方向に延伸処理を行うと同時に、その長手方向に収縮処理を行い、延伸前のポリマーフィルムの幅方向の長さ及び長手方向の長さをそれぞれ1とした場合における、延伸による幅方向の長さの変化倍率(STD)と、収縮による長手方向の長さの変化倍率(SMD)とが(1/STD)1/2≦SMD<1:式(1)の関係を満たし、且つ延伸後の該ポリマーフィルムのNz係数が0.9〜1.1であることを特徴とする複屈折フィルムの製造方法を提供する。
ここで、Nz係数は、Nz=(nx−nz)/(nx−ny)で表され、nx:フィルム面内最大屈折率、ny:フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率、nz:nx及びnyの屈折率方向と直交する方向であって、フィルム厚み方向の屈折率である。
【0012】
ポリマーフィルムを幅方向に延伸すると同時に、その長手方向に収縮させ、延伸前のポリマーフィルムの幅方向の長さ及び長手方向の長さをそれぞれ1とした場合における、延伸による幅方向の長さの変化倍率(STD)と、収縮による長手方向の長さの変化倍率(SMD)とが(1/STD)1/2≦SMD<1の関係を満たし、且つ延伸後の該ポリマーフィルムのNz係数が0.9〜1.1である複屈折フィルムは、複屈折、位相差及び配向角等のバラツキが抑制され光学特性に優れており、該フィルムの幅方向(延伸方向)に遅相軸が揃っているため、偏光フィルムとの連続的な貼り合せ(所謂、Roll to Roll)を実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る複屈折フィルムの製造方法によれば、複屈折や位相差、配向角のバラツキが抑制された光学特性に優れ、且つ偏光フィルムと貼り合せる場合に、連続的な貼り合せ(所謂、Roll to Roll)を実現できる複屈折フィルムを生産効率良く得ることができる。
また、本発明に係る製造方法により得られた複屈折フィルムは、その特性から、液晶表示装置等の各種画像表示装置等に使用すれば表示特性の向上を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の複屈折フィルムの製造方法は、ポリマーフィルムを延伸する工程を含む複屈折フィルムの製造方法であって、ポリマーフィルムを幅方向に延伸処理を行うと同時に、その長手方向に収縮処理を行い、延伸前のポリマーフィルムの幅方向の長さ及び長手方向の長さをそれぞれ1とした場合における、延伸による幅方向の長さの変化倍率(STD)と、収縮による長手方向の長さの変化倍率(SMD)とが(1/STD)1/2≦SMD<1の関係を満たし、且つ延伸後の該ポリマーフィルムのNz係数が0.9〜1.1であることを特徴とするものである。
【0015】
本実施形態において、長手方向(MD)の延伸倍率は、幅方向(TD)の延伸倍率によって適宜変わるが、延伸による幅方向の長さの変化倍率をSTD、収縮による長手方向の長さの変化倍率をSMDとした場合、(1/STD)1/2≦SMD<1であり、SMDが(1/STD)1/2〜(1/STD)1/2×1.05の範囲が好ましい。
「SMD=1」、すなわち長手方向の寸法が変化しない場合、ボーイング現象が発生する問題が解決できず、(1/STD)1/2 > SMDとなると、幅方向にシワが発生するという外観上の問題がある。
【0016】
本実施形態において、延伸後の該ポリマーフィルムのNz係数は0.9〜1.1であり、好ましくは0.95〜1.05である。
延伸後のポリマーフィルムのNz係数が0.9未満の場合には、ポリマーフィルムに皺が入るため、光学フィルムとして用いることができない。
また、延伸後のポリマーフィルムのNz係数が1.1を超える場合には、液晶パネルに実装した場合に視野角が低下する。
ここで、Nz係数は、Nz=(nx−nz)/(nx−ny)で表され、nx:フィルム面内最大屈折率、ny:フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率、nz:nx及びnyの屈折率方向と直交する方向であって、フィルム厚み方向の屈折率である。
即ち、Nz係数は、面内位相差(Δnd=(nx−ny)×d)および厚み方向位相差(Rth=(nx−nz)×d)より、Rth/Δndで求めることができる。
なお、nx、nyおよびnzは、それぞれ前記複屈折フィルムのX軸(遅相軸)、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸方向とは、前記複屈折フィルムの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸方向は、前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向であり、Z軸は、前記X軸およびY軸に垂直な厚み方向を示し、dは、複屈折フィルムの厚みを示す。
【0017】
前述のように同時に行う延伸処理および収縮処理は、前記ポリマーフィルム単体に直接施すことができる。また、前記ポリマーフィルムを基材上に積層して積層体とし、該積層体の基材の両端部を把持して、該基材に延伸処理および収縮処理を同時に施すことによって、前記ポリマーフィルムに間接的に延伸処理および収縮処理を施すこともできる。更に、前記ポリマーフィルムを基材上に積層して積層体とし、該積層体の両端部を把持して、該積層体に延伸処理および収縮処理を同時に施すこともできる。
【0018】
前記ポリマーフィルムとしては、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、ノルボルネン系樹脂を挙げることができる。
【0019】
前記ポリマーフィルムは、例えば、光透過性であることが好ましく、例えば、その光透過率が85%以上であることが好ましく、より好ましくは90%であることが好ましい。 また、配向ムラが少ないことが好ましい。
【0020】
前記ノルボルネン系樹脂としては、例えば、(1)ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を、必要に応じてマレイン酸付加、シクロペンタジエン付加等のポリマー変性を行なった後に、水素添加した樹脂、(2)ノルボルネン系モノマーを付加型重合させた樹脂、(3)ノルボルネン系モノマーとエチレンやα−オレフィンなどのオレフィン系モノマーと付加型共重合させた樹脂などを挙げることができる。重合方法および水素添加方法は、常法により行なうことができる。
【0021】
前記ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、およびそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、例えば、5−メチル−2−ノルボルネン、5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等、これらのハロゲン等の極性基置換体;ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン等;ジメタノオクタヒドロナフタレン、そのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、およびハロゲン等の極性基置換体、例えば、6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−クロロ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−シアノ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−ピリジル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−メトキシカルボニル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン等;シクロペンタジエンの3〜4量体、例えば、4,9:5,8−ジメタノ−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9−トリメタノ−3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a−ドデカヒドロ−1H−シクロペンタアントラセン等を挙げることができる。
【0022】
前記ノルボルネン系樹脂は、トルエン溶媒によるゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)法で測定した数平均分子量(Mn)が25,000〜200,000、好ましくは30,000〜100,000、より好ましくは40,000〜80,000の範囲のものである。数平均分子量が上記の範囲であれば、機械的強度に優れ、溶解性、成形性、流延の操作性が良いものができる。
【0023】
前記ノルボルネン系樹脂がノルボルネン系モノマーの開環重合体を水素添加して得られるものである場合、水素添加率は、耐熱劣化性、耐光劣化性などの観点から、通常90%以上のものが用いられる。好ましくは95%以上である。より好ましくは、99%以上である。
【0024】
前記ポリカーボネート系樹脂としては、芳香族2価フェノール成分とカーボネート成分とからなる芳香族ポリカーボネートが好ましい。芳香族ポリカーボネートは、通常芳香族2価フェノール化合物とカーボネート前駆物質との反応によって得ることができる。
すなわち、芳香族2価フェノール化合物を苛性アルカリおよび溶剤の存在下でホスゲンを吹き込むホスゲン法、あるいは芳香族2価フェノール化合物とビスアリールカーボネートとを触媒の存在下でエステル交換させるエステル交換法により得ることができる。
ここで、カーボネート前駆物質の具体例としては、ホスゲン、前記2価フェノール類のビスクロロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジ−p−トリルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート、ジ−p−クロロフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート等が挙げられ、なかでもホスゲン、ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0025】
前記カーボネート前駆物質と反応させる芳香族2価フェノール化合物の具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジプロピルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンその他が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上のものを併用してもよい。好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンである。
より好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンである。特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンと併用して用いることが好ましい。
【0026】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとを併用する場合は、両者の使用割合を変えることによって、ポリマーフィルムのTgや光弾性係数を調整することができる。
ポリカーボネート系樹脂中の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンの含有率を高くすれば、Tg(ガラス転移温度)を高め、光弾性係数を低くすることができる。該ポリマーフィルムは、光弾性係数を十分に低下させ、且つ、耐久性や自己支持性、延伸性などに適したTgや耐久性を確保するために、ポリカーボネート系樹脂中の1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンと2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンの含有比率は、8:2〜2:8であることが好ましい。より好ましくは、8:2〜4:6である。特に好ましくは、7:3〜5:5である。最も好ましくは、6:4である。
【0027】
前記ポリカーボネート系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、GPC法で測定されるポリスチレン換算で25,000〜200,000であることが好ましい。より好ましくは、30,000〜150,000である。更に好ましくは、40,000〜100,000である。特に好ましくは、50,000〜80,000である。前記ポリカーボネート系樹脂の重量平均分子量を上記の範囲とすることによって、強度や信頼性に優れた複屈折フィルムを得ることができる。
【0028】
前記セルロース系樹脂としては、セルロースと酸のエステルであれば特に限定はしないが、好ましくは、セルロースと脂肪酸のエステルで、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネート等が使用される。光学用途に用いる場合、これらの中でも低複屈折の面と高透過率の面よりセルローストリアセテート(三酢酸セルロース)が好適であり、該三酢酸セルロースの市販品としては、具体的に富士写真フィルム製「UV−50」、「SH−50」、「UV−80」、「SH−80」、「TD−80U」、「TD−TAC」、「UZ−TAC」や、コニカ製の「三酢酸セルロース80μmシリーズ」、ロンザジャパン製「三酢酸セルロース80μmシリーズ」等を挙げることができる。
【0029】
一方、前記ポリマーフィルムを積層させる前記基材としては、延伸および収縮が可能な光透過性のポリマーフィルムが好ましく、特に、実用の面から、延伸によっても位相差を発生しないものが好ましい。特に光透過性に優れるポリマーフィルムであれば、例えば、前記基材と前記基材上に形成された複屈折フィルムとを、積層体のまま光学フィルムとして使用することもできるため好ましい。
また、前記基材は、前述のような長手方向の収縮を円滑に行うために、予め延伸されているものや、熱収縮性のフィルム等が好ましく、このような基材の形成材料としては、例えば、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0030】
前記基材の形成材料としては、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4‐メチルペンチン‐1)などのポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル樹脂や、これらの混合物等があげられ、また、液晶ポリマー等も使用できる。これらの中でも、例えば、耐溶剤性や耐熱性の点からポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が好ましい。さらに、例えば、特開2001−343529号公報(WO 01/37007号)に記載されているような、側鎖に置換イミド基または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換フェニル基または非置換フェニル基とニトリル基とを有する熱可塑性樹脂との混合物等も使用できる。具体例としては、例えば、イソブテンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物等である。これらの形成材料の中でも、例えば、前述の側鎖に置換イミド基または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換フェニル基または非置換フェニル基とニトリル基とを有する熱可塑性樹脂との混合物が好ましい。
【0031】
つぎに、本発明の複屈折フィルムの製造方法の一例を説明する。
まず、延伸・収縮処理を施すポリマーフィルムを準備する。前記ポリマーフィルムの厚みは、特に制限されず、製造する複屈折フィルムの所望の位相差や、前記ポリマーフィルムの材料等に応じて適宜決定できる。一般的には、例えば、5〜500μmの範囲であり、好ましくは10〜350μmの範囲、より好ましくは20〜200μmの範囲である。前記範囲であれば、延伸・収縮処理において、例えば、切断されることなく十分な強度を示す。また、その長手方向および幅方向の長さは、特に制限されず、例えば、使用する延伸機等の大きさに応じて適宜決定できる。
【0032】
前記ポリマーフィルムに前記式(1)の条件を満たすように、幅方向に延伸処理、長手方向の収縮処理を同時に施す。このように幅方向の延伸と長手方向の収縮は、例えば、二軸延伸機を用いて行うことができ、具体的には、前記延伸と収縮とを自動的に行うことができる市金工業社製の高機能薄膜装置(商品名:「FITZ」)等が使用できる。この装置は、縦方向(フィルムの長手方向=フィルムの進行方向)の延伸倍率と横方向(幅方向=フィルムの進行方向と垂直方向)の延伸倍率を任意に設定でき、さらに縦方向(長手方向)の収縮倍率も任意に設定可能であるため、延伸および収縮を同時に所定の条件で行うことができる。また、例えば、一般的に知られているレール幅制御方式、パンダグラフ方式、リニアモーターによる走行速度を制御する方式等を適宜組み合わせることによって、幅方向の延伸倍率を制御するとともに、フィルム端部を挟持したクリップの間隔を変化させて長手方向の長さを制御するようにした二軸延伸機等も使用できる。
【0033】
前記延伸・収縮処理における温度は、特に限定されず、前記ポリマーフィルムの種類に応じて適宜決定できるが、前記ポリマーフィルムのガラス転移温度に応じて設定することが好ましい。具体的には、ガラス転移温度±30℃の範囲であることが好ましく、より好ましくはガラス転移温度±20℃の範囲、特に好ましくは前記ガラス転移温度±10℃の範囲である。
【0034】
このような製造方法によって、前記ポリマーフィルムから本発明の複屈折フィルムを得ることができ、この複屈折フィルムは、Nz係数が0.9〜1.1であり、複屈折、位相差、配向角等の特性、特に幅方向におけるこれらの特性が均一性に優れたものとし得る。
なお、複屈折フィルムの複屈折や位相差の値は、例えば、使用するポリマーフィルムの材料や延伸倍率等によって異なるが、前記式(1)に表される条件に基づいて製造すれば、複屈折や位相差の大きさに関わらず、その均一性に優れたものとなる。
【0035】
前記複屈折フィルムは、面内の位相差値「(nx−ny)×d」のバラツキは、4%以下の範囲が好ましく、より好ましくは3.5%以下であり、さらに好ましくは3%以下である。また、厚み方向の位相差値「(nx−nz)×d」のバラツキは、5%以下の範囲が好ましく、より好ましくは4.8%以下であり、さらに好ましくは4.7%以下である。
なお、各位相差値のバラツキは、以下のようにして測定できる。例えば、複屈折フィルムの幅方向において、等間隔で等分した複数の点を選び、各点の面内の位相差値および厚み方向の位相差値を測定する。そしてこれらの平均値を100%とした際の、各点における測定値と平均値との差の絶対値を面内の位相差値および厚み方向の位相差値のバラツキ(%)として算出する。
【0036】
本発明の複屈折フィルムは、X軸方向(遅相軸方向)における配向角のバラツキが、2°以下であることが好ましく、より好ましくは1.9°以下であり、更に好ましくは1.8°以下である。前述の方法によれば、軸角度のバラツキをこのような範囲に制御できるため、屈折率の均一化が向上できる。前記配向角とは、遅相軸のバラツキを意味し、例えば、自動複屈折計(商品名KOBRA−21ADH;王子計測機器社製;測定波長[590nm])を用いて自動計算することができ、前記バラツキは、例えば、前述の位相差と同様にして複数の点において配向角を測定した際に、最大値と最小値との差で表すことができる。なお、本発明においては、変化倍率の大きい幅方向が遅相軸方向となる。
【0037】
得られる複屈折フィルムの厚みは、使用するポリマーフィルムの厚みや延伸倍率等に応じて異なるが、一般に、5〜500μmの範囲であり、好ましくは10〜350μmの範囲であり、より好ましくは20〜200μmの範囲である。
【0038】
また、本発明の複屈折フィルムの他の製造方法は、前記基材上に前記ノルボルネン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂から選ばれる樹脂から形成されるポリマーフィルムを形成して積層体とし、この積層体に延伸・収縮処理を同時に施してもよい。
この場合、基材とポリマーフィルムとの積層体の両端部を把持して延伸・収縮処理を同時に施してもよい。前記積層体の前記基材の両端部を把持して延伸・収縮することによって、該基材を介して間接的に前記ポリマーフィルムに延伸・収縮処理を施してもよい。
また、基材からポリマーフィルムを剥離した後、前記ポリマーフィルムのみに延伸・収縮処理を施すこともできる。
【0039】
このように基材上に前記ポリマーフィルムを直接形成した場合の一例を以下に示す。まず、ノルボルネン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂から選ばれる樹脂を溶剤に分散または溶解して塗工液を調製する。前記塗工液の濃度は、特に制限されないが、例えば、塗工が容易な粘度となることから、例えば、前記樹脂0.5〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜40重量%、特に好ましくは2〜30重量%である。
具体的に、前記樹脂の添加量は、溶剤100重量部に対して、5〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは10〜40重量部である。
【0040】
前記溶剤は、特に制限されず、前記樹脂に応じて適宜選択できるが、例えば、前記樹脂を溶解でき、基材を侵食し難いものが好ましい。具体的には、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノールなどのフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2‐ジメトキシベンゼンなどの芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2‐ピロリドン、N‐メチル‐2‐ピロリドンのようなケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、t‐ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2‐メチル‐2,4‐ペンタンジオール等のアルコール系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶剤、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル系溶剤、二硫化炭素、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、硫酸等が使用できる。また、これらの溶剤は単独でもよいし、二種類以上を混合して使用することもできる。
【0041】
前記塗工液は、例えば、必要に応じて、さらに界面活性剤、安定剤、可塑剤、金属類等の種々の添加剤を配合してもよい。
【0042】
また、前記塗工液には、例えば、前記ポリマーフィルムの配向性等が著しく低下しない範囲で、異なる他の樹脂を含有してもよい。前記他の樹脂としては、例えば、各種汎用樹脂、エンジニアリングプラスチック、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を挙げることができる。
【0043】
前記汎用樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ABS樹脂、およびAS樹脂等を挙げることができる。前記エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリアセテート(POM)、ポリアミド(PA:ナイロン)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、およびポリブチレンテレフタレート(PBT)等を挙げることができる。前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリケトン(PK)、ポリイミド(PI)、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート(PCT)、ポリアリレート(PAR)、および液晶ポリマー(LCP)等を挙げることができる。前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂等を挙げることができる。このように、これらの他の樹脂等を前記塗工液に配合する場合、その配合量は、例えば、前記樹脂に対して、例えば、0〜50重量%であり、好ましくは、0〜30重量%である。
【0044】
つぎに、調製した前記塗工液を基材表面に塗工して、ポリマーフィルムの塗工膜を形成する。前記塗工液の塗工方法としては、例えば、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、浸漬引き上げ法、カーテンコート法、ワイヤーバーコート法、ドクターブレード法、ナイフコート法、タイコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、オフセットグラビアコート法、リップコート法、スプレーコート法等を挙げることができる。また、塗工に際しては、必要に応じて、ポリマー層の重畳方式も採用できる。
【0045】
前記基材の厚みは、特に制限されないが、通常、10μm以上であり、10〜200μmの範囲が好ましく、より好ましくは20〜150μmの範囲であり、特に好ましくは30〜100μmの範囲である。10μm以上であれば、後述する延伸・収縮処理において、十分な強度を示すため、延伸・収縮処理におけるムラの発生等を十分に抑制できる。また、200μm以下であれば、適度な張力で延伸処理が可能となる。
【0046】
そして、前記基材上に形成された塗工膜を乾燥する。この乾燥によって、前記ポリマーフィルムが前記基材上で固定化され、基材上にポリマーフィルムを直接形成できる。
【0047】
前記乾燥の方法としては、特に制限されず、例えば、自然乾燥や加熱乾燥を挙げることができる。その条件も、例えば、前記ポリマーフィルムの種類や、前記溶剤の種類等に応じて適宜決定できるが、例えば、加熱乾燥させる温度は、通常、40℃〜250℃であり、好ましくは50℃〜200℃である。なお、塗工膜の加熱乾燥は、一定温度で行っても良いし、段階的に温度を上昇または下降させながら行っても良い。乾燥時間も特に制限されないが、通常、10秒〜60分、好ましくは30秒〜30分である。
【0048】
前記乾燥後において、前記ポリマーフィルム中に残存する溶剤は、その量に比例して光学特性を経時的に変化させるおそれがあるため、その残存量は、例えば、5%以下が好ましく、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは0.2%以下である。
【0049】
前記基材上に形成されるポリマーフィルムの厚みは、特に制限されないが、通常、0.5〜10μmに設定することが好ましく、より好ましくは1〜8μm、特に好ましくは1〜7μmである。
【0050】
続いて、前記基材上に形成されたポリマーフィルムについて、前述のような条件により、延伸・収縮処理を同時に施す。この場合、例えば、前記ポリマーフィルムのみを直接延伸・収縮させてよいし、前記基材と前記ポリマーフィルムとの積層体を共に延伸・収縮させてもよいが、以下の理由から、前記基材のみを処理することが好ましい。前記基材のみを延伸・収縮した場合、この基材の延伸・収縮にともなって、間接的に、前記基材上のポリマーフィルムが延伸・収縮される。そして、積層体を処理するよりも、単層体を処理する方が、通常、均一な処理が行えるため、前述のように基材のみを処理すれば、これに伴って、前記基材上の前記ポリマーフィルムも均一に延伸・収縮できるためである。なお、前記基材からポリマーフィルムを剥離した後に、前述のように前記ポリマーフィルムのみを処理することもできる。
【0051】
本発明の複屈折フィルムは、前述のように基材上に形成した場合、例えば、前記基材との積層体として使用してもよいし、前記基材から剥離した単層体として使用することもできる。また、前記基材(以下、「第1の基材」という)から剥離した後、その光学特性を妨害しない基材(以下、「第2の基材」という)に、接着層を介して再度積層(転写)して使用することもできる。
【0052】
前記第2の基材としては、適度な平面性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ガラス,透明で光学的等方性を有するポリマーフィルム等が好ましい。前記ポリマーフィルムとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、アモルファスポリオレフイン、トリアセチルセルロース(TAC)、エポキシ樹脂、前述のようなイソブテン/N−メチルマレイミド共重合体とアクリロニトリル/スチレン共重合体との樹脂組成物等から形成されたフィルムを挙げることができる。これらの中でも、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルスルホン、イソブテン/N−メチルマレイミド共重合体とアクリロニトリル/スチレン共重合体との樹脂組成物等が好ましい。
また、光学的に異方性を示す基材であっても、目的に応じて使用することができる。このような光学的異方性の基材としては、例えば、ポリカーボネート、ポリスチレン、ノルボルネン系樹脂等のポリマーフィルムを延伸した位相差フィルムや、偏光フィルム等を挙げることができる。
【0053】
前述のような転写における接着層を形成する接着剤としては、光学的用途に使用できればよく、例えば、アクリル系,エポキシ系,ウレタン系等の接着剤や粘着剤が使用できる。
【0054】
次に、本発明の光学フィルムは、前述のような本発明の複屈折フィルムを含んでいればよく、例えば、前述のような基材を備える等、その構成は制限されない。
【0055】
本発明の光学フィルムは、最外層に、さらに粘着剤層を有することが好ましい。これによって、本発明の光学フィルムを他の光学層や液晶セル等の他部材と接着することが容易になり、本発明の光学フィルムの剥離を防止することができるからである。また、前記粘着剤層は、本発明の光学フィルムの一方の面でもよいし、両面に配置されてもよい。
【0056】
前記粘着層の材料としては、特に制限されないが、例えば、アクリル系、シリコーン系、ポリエステル系、ゴム系等の粘着剤が使用できる。また、これらの材料に、微粒子を含有させて光拡散性を示す層としてもよい。これらの中でも、例えば、吸湿性や耐熱性に優れる材料が好ましい。このような性質であれば、例えば、液晶表示装置に使用した場合に、吸湿による発泡や剥離、熱膨張差等による光学特性の低下や、液晶セルの反り等を防止でき、高品質で耐久性にも優れる表示装置となる。
【0057】
本発明の光学フィルムは、前述のように本発明の複屈折フィルム単独でもよいし、または、必要に応じて他の光学部材と組み合わせた積層体であってもよい。前記他の光学部材としては、特に制限されず、例えば、他の複屈折フィルム、他の位相差フィルム、液晶フィルム、光散乱フィルム、レンズシート、回折フィルム、偏光板、偏光フィルム等を挙げることができる。
【0058】
本発明の光学フィルムが、前記偏光板を含む場合、前記偏光板は、偏光フィルムのみでもよいし、前記偏光フィルムの片面または両面に透明保護層(透明保護フィルム)が積層されてもよい。また、本発明の光学フィルムが、前記偏光板を含む場合、液晶表示装置に配置された時に正面及び斜め方向のコントラストを向上させる効果を有する。
【0059】
本発明の複屈折フィルムを偏光フィルムと共に液晶表示装置に使用する際には、前記複屈折フィルムの遅相軸と偏光フィルムの吸収軸とが略垂直になるように前記両フィルムを配置する必要がある。一般に、複屈折フィルムの遅相軸は、その延伸方向に一致し、偏光フィルムの吸収軸は、その延伸方向に一致する。
本発明の複屈折フィルムは、ポリマーフィルムを幅方向に延伸処理を施しながら同時に該フィルムを長手方向に移動させてロールに巻き取り製造され、延伸方向に一致した遅相軸を有している。
また、偏光フィルムも長手方向に延伸処理を施しながらロールに巻き取り製造される。
そして、ロールにそれぞれ巻き取った前記複屈折フィルムと前記偏光フィルムとを各フィルムの長辺どうしを揃えた状態で両者を連続的に貼り合わせることで(所謂、Roll to Roll)光学フィルムを製造できる。
【0060】
前記複屈折フィルムと前記偏光フィルムとを長辺どうしを合わせて貼り合わせ光学フィルムを製造する場合には、前記複屈折フィルムの遅相軸と前記偏光フィルムの吸収軸とがなす角度が、85°〜95°になるように積層するものである。
前記角度が85°〜95°の範囲内にあれば、得られた光学フィルムを用いた液晶表示装置の表示品位を高めることができる。
【0061】
前記偏光フィルムとしては、特に制限されず、従来の公知の方法により各種フィルムにヨウ素や二色染料等の二色性物質を吸着させて染色し、延伸、架橋、乾燥することにより作製したものを使用できる。その中でも自然光を入射させると直線偏光を透過する偏光フィルムが好ましく、光透過率や偏光度に優れるものが好ましい。前記二色性物質を吸着させるフィルムとしては、例えばポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVAフィルム、エチレン・酢酸ビニル供重合体系ケン化フィルム、セルロース系フィルム等の親水性高分子フィルム等を挙げることができる。これらの他にも、例えば、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理等のポリエン配向フィルム等も使用できる。これらの中でも、好ましいのはPVA系フィルムである。前記偏光子の厚みは、通常、1〜80μmの範囲であるがこれには限定されない。
【0062】
本発明の複屈折フィルムと偏光フィルムとを積層させて光学フィルムを作製する場合、積層には、例えば接着剤等を使用することができる。
前記接着剤等としては、アクリル系・ビニルアルコール系・シリコーン系・ポリエステル系・ポリウレタン系・ポリエーテル系等のポリマー性感圧接着剤やゴム系感圧接着剤を挙げることができる。また、グルタルアルデヒド・メラミン・シュウ酸等のビニルアルコール系ポリマーの水溶性架橋剤等から構成される接着剤も使用できる。これらの接着剤等としては、温度や熱の影響によっても離れにくく、光透過率や偏光度にも優れるものが好ましい。具体的には、前記偏光フィルムがPVA系フィルムの場合、例えば接着処理の安定性等の点から、PVA系接着剤が好ましい。これらの接着剤等は、例えば偏光フィルムや透明保護フィルムとして用いる光学フィルムの表面に塗布してもよいし、接着剤等から構成されたテープやシートのような層を前記表面に配置してもよい。
【0063】
本発明の複屈折フィルムを含む光学フィルムは、液晶表示装置等の各種装置の形成に使用することが好ましく、例えば、液晶セルの片側または両側に配置して液晶パネルとし、液晶表示装置に用いることができる。なお、光学フィルムの配置方法は特に制限されず、従来の複屈折フィルムを含む光学フィルムと同様である。
【0064】
液晶表示装置を形成する前記液晶セルの種類は、任意で選択でき、例えば、薄膜トランジスタやMIM等のアクティブマトリクス駆動型、IPS駆動型、プラズマアドレッシング駆動型、ツイストネマチック型やスーパーツイストネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型等、種々のタイプの液晶セルが使用できる。具体的には、例えば、STN(Super Twisted Nematic)セル、TN(TwistedNematic)セル、IPS(In−Plan Switching)セル、VA(Vertical Nematic)セル、OCB(Optically Controlled Birefringence)セル、HAN(Hybrid Aligned Nematic)セル、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)セル、強誘電・反強誘電セル、およびこれらに規則正しい配向分割を行ったもの、ランダムな配向分割を行ったもの等を挙げることができる。
【0065】
このような本発明の光学フィルムを備える液晶表示装置としては、例えば、バックライムシステムを備えた透過型、反射板を備えた反射型、投射型等の形態であってもよい。
【0066】
なお、本発明の光学フィルムは、前述のような液晶表示装置には限定されず、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、PDP、FED等の自発光型表示装置にも使用できる。この場合、従来の光学フィルムに代えて本発明の光学フィルムを使用する以外、その構成は制限されない。
【実施例】
【0067】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、各種特性については以下の方法によって測定を行った。
【0068】
(複屈折率・位相差・配向角分布の測定)
自動複屈折計(商品名KOBRA−21ADH;王子計測機器社製)を用いて、波長590nmにおける値を測定した。
【0069】
(膜厚測定)
瞬間マルチ測光システム(商品名MCPD−2000;大塚電子社製製)を用いて、複屈折フィルムの膜厚を測定した。
【0070】
(実施例1)
高機能薄膜装置(商品名「FITZ」:市金工業社製)を用いて、厚み100μm、幅600mmの未延伸ノルボルネン系フィルム(JSR社製、商品名「ゼオノア」)を、連続的に、幅方向に延伸し、同時に長手方向に収縮させ、複屈折フィルム(厚み97μm)を作製した。なお、延伸温度は135℃、幅方向のSTDを1.25倍、前記長手方向のSMDを0.90倍とした。得られた複屈折フィルムについて、幅方向9点、50mm間隔で面内位相差(Δnd=(nx−ny)×d)および厚み方向位相差(Rth=(nx−nz)×d)を自動複屈折計(商品名KOBRA−21ADH;王子計測機器社製)を用いて測定し、平均値を求めNz係数を算出した。
その結果を表1に示した。
なお、nx、nyおよびnzは、それぞれ前記複屈折フィルムのX軸(遅相軸)、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸方向とは、前記複屈折フィルムの面内において最大の屈折率を示す軸方向であり、Y軸方向は、前記面内において前記X軸に対して垂直な軸方向であり、Z軸は、前記X軸およびY軸に垂直な厚み方向を示し、dは、複屈折フィルムの厚みを示す。
【0071】
(実施例2)
長手方向のSMDを0.93倍とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて複屈折フィルム(厚み94μm)を作製した。その結果を表1に示した。
【0072】
(実施例3)
厚み96μm、幅600mmの未延伸セルロース系フィルム((株)カネカ製「KAフィルム」)を用いて、実施例1と同様の方法で複屈折フィルム(厚み82μm)を作製した。なお、延伸温度は160℃、幅方向のSTDを1.5倍、長手方向のSMDを0.82倍とした。その結果を表1に示した。
【0073】
(比較例1)
長手方向のSMDを0.95倍とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて複屈折フィルム(厚み90μm)を作製した。その結果を表1に示した。
【0074】
(比較例2)
長手方向のSMDを1.00倍とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて複屈折フィルム(厚み84μm)を作製した。その結果を表1に示した。
【0075】
(比較例3)
実施例3と同様のセルロース系フィルムを用いて、SMDを1.00倍とした以外、実施例3と同様の方法で複屈折フィルム(厚み72μm)を作製した。その結果を表1に示した。
【0076】
(比較例4)
実施例3と同様のセルロース系フィルムを用いて、SMDを0.95倍とした以外、実施例3と同様の方法で複屈折フィルム(厚み78μm)を作製した。その結果を表1に示した。
【0077】
【表1】

*1):分布はmax-minを意味する。
【0078】
(実装評価)
前記実施例及び比較例で得られた複屈折フィルムを液晶セルに装着し液晶パネルを作製し、該液晶パネルの白表示及び黒表示での輝度の差、即ち正面コントラスト及び斜め方向コントラストを測定した。
正面コントラストはトプコン社製輝度計(BM−5)を用いて、斜め方向コントラスト(極角60°固定、方位角45及び135°の平均値)はELDIM社製(Ez Contrast 160D)を用いて測定した。
【0079】
(実装試験1)
実施例2で得られた複屈折フィルムを、該複屈折フィルムの遅相軸と偏光板(日東電工(株)製、「SEG1425DU」)の吸収軸とが略垂直(90°)になるように粘着剤を介して積層し、積層体とした。
次いで、液晶セル(SHARP社製、26インチ液晶モニターから取り出した液晶セル)の一面側(視認側)に粘着剤を介して前記積層体の偏光板と積層していない複屈折フィルムの面を積層した。
前記液晶セルの他面側(バックライトが設置してあった側)には、位相差フィルム(日東電工(株)製、「NAB−EF−SEG」、△nd=0nm、Rth=120nm)と偏光板(日東電工(株)製、「SEG1425DU」)とを粘着剤を介して積層した積層体の偏光板と積層していない位相差フィルムの面を粘着剤を介して積層し、液晶パネルを得た。
尚、位相差フィルム(日東電工(株)製、「NAB−EF−SEG」)と偏光板(日東電工(株)製、「SEG1425DU」)とを積層させる際の遅相軸と吸収軸との角度は、VAモードでは90°となるようにした。
図1に液晶パネルの断面図を示した。
尚、各部材の積層には、アクリル系粘着剤(20μm厚)を用いた。
該液晶パネルの正面コントラストは580、斜め方向コントラストは28であった。
【0080】
(実装試験2)
比較例1で得られた複屈折フィルムを用いて前記実装試験1と同様に液晶パネルを得た。
該液晶パネルの正面コントラストは450、斜め方向コントラストは15であった。
【0081】
表2は、実装試験1〜実装試験2の結果をまとめたものである。
【0082】
【表2】

【0083】
本発明の複屈折フィルムの製造方法により得られた複屈折フィルムを液晶パネルに用いることで高品位(正面コントラスト及び斜め方向コントラストに優れる)の液晶パネルが得られることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、実装試験に用いた液晶パネルの断面図である。
【符号の説明】
【0085】
10 偏光板(日東電工製、「SEG1425DU」)
20 複屈折フィルム
30 液晶セル
40 位相差フィルム(日東電工製、「NAB-EF-SEG」)
50 偏光板(日東電工製、「SEG1425DU」)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーフィルムを延伸する工程を含む複屈折フィルムの製造方法であって、
ポリマーフィルムを幅方向に延伸処理を行うと同時に、その長手方向に収縮処理を行い、延伸前のポリマーフィルムの幅方向の長さ及び長手方向の長さをそれぞれ1とした場合における、延伸による幅方向の長さの変化倍率(STD)と、収縮による長手方向の長さの変化倍率(SMD)とが下記式(1)を満たし、且つ延伸後の該ポリマーフィルムのNz係数が0.9〜1.1であることを特徴とする複屈折フィルムの製造方法。
(1/STD)1/2≦SMD<1 (1)
【請求項2】
前記ポリマーフィルムを単体で又は基材上に積層された積層体の状態で、前記延伸及び収縮処理を行う請求項1記載の複屈折フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ポリマーフィルムがノルボルネン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂を含む請求項1又は2記載の複屈折フィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の複屈折フィルムの製造方法により得られた複屈折フィルム。
【請求項5】
請求項4記載の複屈折フィルムを含む光学フィルム。
【請求項6】
更に、偏光フィルムを含む請求項5記載の光学フィルム。
【請求項7】
更に、透明保護フィルム含み、前記偏光フィルムの少なくとも一方の表面に該透明保護フィルムが積層されている請求項6記載の光学フィルム。
【請求項8】
前記複屈折フィルムの遅相軸と前記偏光フィルムの吸収軸とのなす角度が85°〜95°になるように長辺どうしを合わせて積層されている請求項6又は7記載の光学フィルム。
【請求項9】
液晶セルの少なくとも一方の表面に請求項5〜8の何れか1項に記載の光学フィルムが積層された液晶パネル。
【請求項10】
請求項9記載の液晶パネルを含む液晶表示装置。
【請求項11】
請求項5〜8の何れか1項に記載の光学フィルムを含む画像表示装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−133720(P2006−133720A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34645(P2005−34645)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】