説明

複層断熱パネルの製造方法

【課題】複層断熱パネルを構成する硬質ポリウレタンフォーム層内部におけるクラックの発生を抑制可能な複層断熱パネルの製造方法を提供する。
【解決手段】フェノールフォーム層1、金網2、硬質ポリウレタンフォーム層3、アルペットシート4の順に積層され、かつ硬質ポリウレタンフォーム3が水発泡により製造される、複層断熱パネルの製造方法であって、すでに形成されているフェノールフォーム層1と金網2の表面に、硬質ポリウレタンフォーム層3を形成するために発泡原液が注入される閉じた注入空間10を形成し、この注入空間10の側面から発泡原液吐出用の高圧発泡機11のノズル12を水平状態に挿入し、発泡原液の吐出圧力を9〜12MPaとし、かつ、吐出量を40kg/分以下になるように設定したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノールフォーム層、金網、硬質ポリウレタンフォーム層、保護シートの順に積層される複層断熱パネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる複層断熱パネルは、例えば、LNG船(liquefied natural gas carrier)に搭載されるLNGタンクに用いられている。LNGタンクは極低温のLNGガス(液化天然ガス)が充填されるため、上記の複層断熱パネルが用いられる。
【0003】
図1は、複層断熱パネルAの断面構造を示す図であり、フェノールフォーム(PRF)層1、金網2、硬質ポリウレタンフォーム(PUF)層3、保護シート4の順に積層されている。標準的には、パネル全体の平面的なサイズは、1200mm×800mmであり、厚みは、PRF層1が200mm、PUF層3が120mmである。
【0004】
発泡原液の成分については、下記特許文献1に開示されているように、ポリオール化合物を主成分とするウレタン原液とポリイソシアネートにより構成され、これらを加圧状態で高圧発泡機のミキシングヘッドに供給し、吐出口から吐出させる。発泡剤としてよく用いられているのは、代替フロンガス(HFC−245fa/365mfc比80/20)であるが、環境問題を考慮して、水発泡が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−24809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水発泡の場合は、発泡時の内部温度が高くなり、大きな応力がかかるため、図1のBに示すように、PRF層の近傍で、PUF層内部にクラックが発生しやすくなる。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、複層断熱パネルを構成する硬質ポリウレタンフォーム層内部におけるクラックの発生を抑制可能な複層断熱パネルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る複層断熱パネルの製造方法は、
フェノールフォーム層、金網、硬質ポリウレタンフォーム層、保護シートの順に積層され、かつ硬質ポリウレタンフォームが水発泡により製造される、複層断熱パネルの製造方法であって、
すでに形成されているフェノールフォーム層と金網の表面に、硬質ポリウレタンフォーム層を形成するために発泡原液が注入される閉じた注入空間を形成し、
この注入空間の側面から発泡原液吐出用の高圧発泡機のノズルを水平状態に挿入し、
発泡原液の吐出圧力を9〜12MPaとし、かつ、吐出量を40kg/分以下になるように設定したことを特徴とするものである。
【0009】
この構成による製造方法の作用・効果を説明する。すでに前工程で製造済みのフェノールフォーム層と金網が積層されている表面に、硬質ポリウレタンフォーム層が形成される。かかる層を形成するための注入空間は、閉じた空間として設定される。注入空間は、例えば、高さ120mm×縦800mm×横1200mmの平べったい直方体空間もしくは図2の上下面が曲面である空間として形成される。この注入空間の側面(この場合は、高さ120mm)から高圧発泡機のノズルを水平状態に挿入する。そして、吐出時の吐出圧力を9〜12MPaとし、かつ、吐出量を40kg/分以下になるように設定している。すなわち、吐出時の勢いを従来よりも抑制した状態で吐出させる。高圧発泡の場合、空気(泡)を巻き込みやすくなるため、これがクラック発生の原因になるが、前述の条件下で吐出時の勢いを抑制することで、水発泡においてクラックが発生しないことを本発明者らは見出したものである。
【0010】
吐出量は40kg/分以下とすることで、空気の巻き込みを抑制し、クラックの発生を防止しやすくなる。好ましくは、30〜40kg/分であり、より好ましくは、35〜40kg/分である。これにより、注入時間とのバランスも考慮して行うことができる。
【0011】
本発明に係るノズルは、円筒状で内径が17〜21mm、長さが200〜300mmに設定され、かつ、先端部において、吐出口が下向きに形成されることが好ましい。
【0012】
ノズルの大きさは上記に設定することで、前述の吐出条件を設定しやすくなる。また、ノズルは側面から水平状態に挿入されるが、吐出口はノズルの先端部において下向きになっている。ノズルの先端からそのまま水平方向に発泡原液を吐出させると、空気の巻き込みが生じやすくなる。そこで、上記のように吐出口を下向きに形成することで、原液の流れを水平方向から垂直方向に変換させ、勢いを抑制することができる。従って、空気の巻き込みを抑制することができる。
【0013】
本発明において、発泡原液のクリームタイムが、前記注入空間への発泡原液注入時間よりも速くならないように設定されていることが好ましい。これにより、できるだけ均一な発泡状態を実現することができる。
【0014】
上記課題を解決するため本発明に係る別の複層断熱パネルの製造方法は、
フェノールフォーム層、金網、硬質ポリウレタンフォーム層、保護シートの順に積層され、かつ硬質ポリウレタンフォームが水発泡により製造される、複層断熱パネルの製造方法であって、
前記硬質ポリウレタンフォーム層を形成するために発泡原液が注入される、上部が解放された注入空間を形成し、
この注入空間の上部側面から発泡原液吐出用の高圧発泡機のホースを水平状態に載置して吐出口が注入空間側を向くようにし、
発泡原液の吐出圧力を9〜12MPaとし、かつ、吐出量を40kg/分以下になるように設定したことを特徴とするものである。
【0015】
この構成による製造方法の作用・効果を説明する。硬質ポリウレタンフォーム層を形成するための注入空間は、上部が開放された空間として設定される。この注入空間の上部側面から高圧発泡機のホースを水平状態に載置して、吐出口が注入空間側を向くようにセットする。そして、吐出時の吐出圧力を9〜12MPaとし、かつ、吐出量を40kg/分以下になるように設定している。すなわち、吐出時の勢いを従来よりも抑制した状態で吐出させる。高圧発泡の場合、空気(泡)を巻き込みやすくなるため、これがクラック発生の原因になるが、前述の条件下で吐出時の勢いを抑制することで、水発泡においてクラックが発生しないことを本発明者らは見出したものである。
【0016】
本発明において、前記発泡原液にはエアーローディングされることが好ましい。エアーローディングを行うことで、複層断熱パネルの表面(保護シート側)にシワが形成されることを防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る複層断熱パネルの断面構造を示す図
【図2】発泡するときの構成を示す図(ノズルの例)
【図3】発泡するときの構成を示す図(ホースの例)
【図4】ローディング機構を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る複層断熱パネルの製造方法の好適な実施形態を図面を用いて説明する。図1は、複層断熱パネルの断面構造を示す図である。
【0019】
かかる複層断熱パネルは、例えば、LNG船(liquefied natural gas carrier)に搭載されるLNGタンクに用いられている。LNGタンクは極低温のLNGガス(液化天然ガス)が充填されるため、上記の複層断熱パネルが用いられる。
【0020】
図1は、複層断熱パネルAの断面構造を示す図であり、フェノールフォーム(PRF)層1、金網2、硬質ポリウレタンフォーム(PUF)層3、アルペットシート(アルミラミネートポリエチレンテレフタレート樹脂シート:保護シートに相当)4の順に積層されている。標準的には、パネル全体の平面的なサイズは、1200mm×800mmであり、厚みは、PRF層1が200mm、PUF層3が120mmである。
【0021】
発泡原液の成分については、ポリオール化合物を主成分とするウレタン原液とポリイソシアネートにより構成され、これらを加圧状態で高圧発泡機のミキシングヘッドに供給し、吐出口から吐出させる。環境問題を考慮して、代替フロンによる発泡ではなく、発泡は水発泡により行う。
【0022】
図2は、発泡するときの構成を示す図である。PRF層1は前工程ですでに製造されており、その表面上に金網2が積層され、その表面に、PUF層を製造するための注入空間10が形成される。注入空間10は、型5で閉鎖された空間となっており、上部型5aと側面を4方向から囲う側面型5bおよび下部型5cにより構成される。下部型5cの裏面には、予め、アルペットシート4が配置されている。側面型5bの1つには、孔5dが形成されており、ここから、高圧発泡機のミキシングヘッド11のノズル12が挿入される。
【0023】
ノズル12は、水平状態に挿入される中空の水平管部分を有しており、その先端部には、下向きの吐出口12aが形成されている。吐出口12aは、管壁の表面に形成されているので、吐出口12a自体が、管壁の下方向に突出していることはない。このように構成することで、側面型5bの孔5dを必要以上に大きくすることなく、ノズル12を孔5dから挿入させることができる。また、ノズル先端部を曲面とすることで、吐出される液の泡の巻き込みをより低減させることができる。
【0024】
<別実施形態に係る製造方法>
図3は、発泡するときの構成を示す別実施形態の図である。図3(a)に示すように、箱型の型5により、上部が解放された注入空間10が形成される。型5内には、図2と同様に予めアルペットシート4が配置されている。高圧発泡機11には、ホース接続管11aが設けられ、そこに、ホース13が装着される。
【0025】
注入空間10の上部側面から発泡原液吐出用のホース13を水平状態に載置しており、吐出口13aが注入空間10側を向くように、少し先端側が垂れ下がっている。
【0026】
型5の上部端面には位置決め用段差5fが設けられている。図3(b)に示すように、発泡原液を注入した後、予め形成しておいたPRF層1と金網2の積層物が、PUF層3の上に搭載される。そのときの位置決め用に上記段差5fが用いられる。
【0027】
<実施例>
次に発泡原液やノズルやホースからの吐出条件を変えて実験を行い、その効果の違いを確認した。発泡原液として、ポリオール化合物を主成分とするウレタン原液と、ポリイソシアネートを用いた。このウレタン原液とポリイソシアネートをミキシングヘッドで混合させ、ノズルから発泡原液を吐出させた。表1は、実験条件を示す表である。
【表1】

【0028】
ウレタン原液としては、表1に示すようにポリオール化合物、難燃剤、整泡剤、添加剤を混合したものを用いているが、すべての実験例で共通している。表中、クリームタイム(CT)とは、液の混合を始めてから、反応混合液がクリーム状に白濁して立ち上がってくるまでの時間(秒)をいう。ライズタイムとは、液の混合を始めてから、反応混合液が泡化して最高の高さに達するまでの時間(秒)をいう。ゲルタイムとは、液の混合を始めてから増粘が起こってゲル強度が出始める時間(秒)をいう。フリー密度とは、空間的な制約がなく、自由に発泡させたときの密度(kg/m3)をいう。
【0029】
なお、実験に使用したノズルは内径がφ20mmであり、吐出口は図2に示すような下向きとした。また、実験に使用したホースは内径がφ19mmであり、吐出口は図3に示すように下向きとした。これらにおいて、吐出圧力は11MPaとし、吐出量は40kg/分とした。実験で作成したパネルの大きさは、前述のとおり1200mm×800mm×320mm(PRF層が200mm、PUR層が120mm)であり、パネル全体の密度は49kg/m3であった。
【表2】

【0030】
実験結果が表2に示される。実験例1のゲルタイム135秒を実験例2の55秒に変更したところ、クラックの発生に関して改善が見られた。実験例1のフリー密度37kg/m3を32kg/m3に変更した実験例3では、クラックの改善は見られていない。実験例1からゲルタイムとフリー密度の両方を変えた実験例4では、クラックの状況が改善した。この実験例4からさらにフリー密度を29kg/m3にした実験例5では、クラックの発生は見られなかった。ただし、同じパネル密度で成型するためにパック密度が高くなり液漏れが発生した。
【0031】
実験例1〜5では、NCOインデックスが1.3であるが、これを1.55にした実験例6では、クラックの発生もなく、液漏れも発生しなかった。
【表3】

【0032】
表3は、上記の実験例4の発泡原液を用いて、吐出条件を変えた場合の実験結果を示す。この実験例では、フリー密度34kg/m3で、吐出圧11MPa,パネル密度49kg/m3である。なお、表においてローディングとは、エアーローディングのことである。ローディング機構を図4に示す。
【0033】
高圧発泡機11は、ウレタン原液とポリイソシアネートをミキシングヘッドで混合するため、図4に示すように、ウレタン原液の循環経路20とポリイソシアネートの循環経路30がある。エアーローディングは、ウレタン原液に対して行うので、循環経路20についてのみ説明する。
【0034】
原液タンク21に原液が供給されるが、ここからウレタン原液を送り出す循環経路20が設けられ、途中で分岐経路22に分岐する。これにより、一部のウレタン原液がローディング装置23に向かい、ここでエアーローディングされる。エアーローディングされたウレタン原液は、復帰経路24を介して戻り側の循環経路20に合流する。合流した後は、熱交換器25を介して、原液タンク21に戻る。
【0035】
ローディング率(常圧下)は、(原液の液比重−ローディング後の液比重)/原液の液比重×100(%)で示され、実施例では10〜15%になるように設定した。原液の比重は、メスシリンダに原液を入れて天秤で重量測定すれば、容易に求めることができる。
【0036】
現行ノズルで吐出量を73kg/分とした場合、吐出液が勢いよく出てしまうため泡を巻き込み、クラックが発生する。内径20mmのノズルまたは内径19mmのホースで吐出口を下向きとし、吐出量を40kg/分とした場合、吐出液の勢いが低下して泡の巻き込みが小さくなり、クラックの発生状況が改善された。ただし、ローディングがない場合は、液の混合状態が少し悪かったために、表面にシワが形成された。表中、○はシワが発生しなかったことを示し、×はシワが発生したことを示す。
【0037】
以上の実験結果に基づけば、次のような条件下でPUF層の製造を行うことがよいと考えられる。
【0038】
ノズルの内径Sはφ17〜21mmが好ましい。より好ましくは18〜20mmである。ノズルの長さLは200〜300mmが好ましい。なお、Lは、ノズルの根元部から最先端部分までの長さで定義される。これにより、吐出量を抑制して泡の巻き込みをなくし、クラックの発生をなくすことができる。かかるサイズのノズルを用いることで、好ましい範囲の吐出条件を設定しやすくなる。
【0039】
発泡原液の吐出圧力を9〜12MPaとし、かつ、吐出量を40kg/分以下とするのが好ましい。表3の結果からも分かるように、吐出量を高くすると、泡を巻き込みやすくなるので、クラック発生の原因となる。吐出量の好ましい範囲は40kg/分以下であるが、より好ましくは、30〜40kg/分であり、さらに好ましくは、35〜40kg/分である。あまり吐出量を小さくすると、製造工程に時間を要するので、かかる点も考慮して下限値を設定することが好ましい。
【0040】
表1,2の結果から、NCOインデックスは1.5〜1.6が好ましいと考えられる。実験例6のNCO1.55の場合が、クラックの発生、液漏れの発生の両方をなくすことができており、最も好ましい結果が得られている。
【0041】
<別実施形態>
本実施形態において、複層断熱パネルのサイズを具体的な数値をあげて説明したが、本発明は、かかる寸法サイズに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
1 フェノールフォーム層
2 金網
3 硬質ポリウレタンフォーム層
4 アルペットシート
5 型
5d 孔
10 注入空間
11 高圧発泡機
12 ノズル
12a 吐出口
13 ホース
13a 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノールフォーム層、金網、硬質ポリウレタンフォーム層、保護シートの順に積層され、かつ硬質ポリウレタンフォームが水発泡により製造される、複層断熱パネルの製造方法であって、
すでに形成されているフェノールフォーム層と金網の表面に、硬質ポリウレタンフォーム層を形成するために発泡原液が注入される閉じた注入空間を形成し、
この注入空間の側面から発泡原液吐出用の高圧発泡機のノズルを水平状態に挿入し、
発泡原液の吐出圧力を9〜12MPaとし、かつ、吐出量を40kg/分以下になるように設定したことを特徴とする複層断熱パネルの製造方法。
【請求項2】
前記ノズルは、円筒状で内径が17〜21mm、長さが200〜300mmに設定され、かつ、先端部において、吐出口が下向きに形成されることを特徴とする請求項1に記載の複層断熱パネルの製造方法。
【請求項3】
発泡原液のクリームタイムが、前記注入空間への発泡原液注入時間よりも速くならないように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の複層断熱パネルの製造方法。
【請求項4】
フェノールフォーム層、金網、硬質ポリウレタンフォーム層、保護シートの順に積層され、かつ硬質ポリウレタンフォームが水発泡により製造される、複層断熱パネルの製造方法であって、
前記硬質ポリウレタンフォーム層を形成するために発泡原液が注入される、上部が解放された注入空間を形成し、
この注入空間の上部側面から発泡原液吐出用の高圧発泡機のホースを水平状態に載置して吐出口が注入空間側を向くようにし、
発泡原液の吐出圧力を9〜12MPaとし、かつ、吐出量を40kg/分以下になるように設定したことを特徴とする複層断熱パネルの製造方法。
【請求項5】
前記発泡原液にはエアーローディングされることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複層断熱パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−189567(P2011−189567A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56232(P2010−56232)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】