説明

複数アンテナ測位装置

【課題】受信信号の合成によって発生するアンテナゲインパターンのNullの発生を防止し、可視性の高い測位装置を得る。
【解決手段】飛しょう体に搭載された複数の受信アンテナからの受信信号を、各受信信号の信号強度により重み付けして平均した位相になるように、それぞれの相関値ベクトルの位相を回転させて一致させ、位相が揃えられたそれぞれの相関値ベクトルの合成を行い、合成された信号に基づき受信信号の追尾を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はGPS測位装置に関し、より詳しくは、複数のアンテナを配置した飛しょう体のGPS測位において、それぞれのアンテナの受信信号強度に応じて位相角を回転させて位相を揃えた後に信号の合成を行い、その合成信号に基づいて測位を行う測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロケットなど円柱形状の物体におけるGPS測位では、一般に測位を行う物体の側面にGPSアンテナが配置されるため、一つのアンテナではGPS衛星の可視性が低く、GPS衛星の方向によっては測位信号を受信できず、測位が行えない可能性がある。この問題を解決するため、測位を行う物体の円周上に複数のアンテナを配置し、各アンテナで受信された無線信号を合成して測位計算を行うマルチアンテナGPS受信機が開発されている(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0003】
【非特許文献1】Markgraf, M., et al., “A low cost GPS system for real-time tracking of sounding rockets”, 15th ESA Symposium of European Rocket and Balloon Programmes and Related Research, ESA SP-471, ISBN 92-9092-725-9, 2001, pp. 495-502.
【非特許文献2】Endrle, W., et al., “A Simple and Low Cost Two-Antennas Concept for the Tracking of a Sounding Rocket Trajectory using GPS”, Proceedings of ION GPS 2000, pp. 376-383.
【0004】
このような複数のアンテナで受信した測位信号の合成は、アンテナを設置する円柱の径が受信信号の波長に対して充分に小さければ、受信した複数の測位信号の位相差が問題となることなく、それらを合成することができる。しかし、大型ロケットなどのように測位する物体の径が大きくなると、受信した複数の測位信号の位相差が問題となり、合成後の信号強度が極端に低下するNullと呼ばれる領域が生じてしまう。Nullとは、2つのアンテナで受信される測位信号の光路差が半波長であるとき、それらの測位信号が逆位相で加算されるために打ち消し合い、合成後の信号強度が低下する現象である。そのため、Nullの生じた方向に存在するGPS衛星からの測位信号を受信できず、測位が行えなくなるという問題が発生する。
【0005】
複数のアンテナで受信した同一の無線信号から、品質のよい信号を優先的に用いる技術、あるいは受信した信号を合成して受信信号の品質を高める技術を、一般にダイバーシティと呼ぶ。ダイバーシティには様々な種類の技術があるが、その中でも複数のアンテナを用意し、信号強度の強いアンテナからの無線信号のみを利用するアンテナ選択方式を利用したGPS受信機がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000-275316
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、そのようなアンテナ選択方式では単に複数の受信電波から適切なものを選択するだけであるので、信号強度を改善することはできない。また、飛しょう体が高速に回転しながら飛行する際には、アンテナの指向性によって信号強度が周期的に変動するため、受信が不安定になるという問題が生じる。
ここで、大型ロケットは、一般に姿勢が3軸安定化されているため、アンテナ選択方式のダイバーシティを用いることが可能である。しかし、観測ロケットなどのように、それほど大型ではないため、安定化のために軸周りに数Hzで回転させられているような飛しょう体では、アンテナ選択方式のダイバーシティを用いることは困難である。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、各アンテナの受信信号強度により重み付けした平均の位相になるように、それぞれの受信信号に位相角の回転を与えた後に信号合成を行うことにより、Nullの領域がなく可視性の高いGPS測位を実現するものである。このような合成方式は最大比合成方式と呼ばれるダイバーシティ技術であり、複数のアンテナで受信された電波の信号強度を改善する手段として、携帯電話局などで利用されている。本発明は、信号強度を改善するための最大比合成方式を、複数アンテナを利用したGPS測位システムにおけるNullの抑制に利用することを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による測位装置は、飛しょう体に搭載され、前記飛しょう体の外周に設置されて複数のGPS衛星から測位信号を受信する複数の受信アンテナと、前記受信アンテナと一対に接続され、共通の基準クロックに基づく観測時刻における受信信号をデジタル化して出力するフロントエンドと、複数の前記フロントエンドからデジタル化された受信信号を入力し、前記観測時刻における各受信信号の信号強度により重み付けして平均した位相になるように、それぞれの相関値ベクトルの位相を回転させて一致させ、位相が揃えられたそれぞれの相関値ベクトルの合成を行う信号合成演算部と、前記信号合成演算部から合成された信号に基づき受信信号の追尾を行い擬似距離の生成を行う信号追尾部と、前記擬似距離から測位演算を行う測位演算部とを備えることを特徴とする。信号合成演算部では、信号強度のより小さい信号の位相をより多く回転させて、信号強度の大きな信号に揃うように合成を行うことを特徴とする。これにより、大きいアンテナのゲインを得ることができ、また、最も電波の強い方向にアンテナ系全体の指向性を向けることが可能となり、強度の強い測位信号に重みをおいた連続的な捕捉を安定して行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、複数の受信アンテナからの受信信号を、それぞれの受信信号の大きさにより重み付けした平均になるように位相を回転させた後に合成することによって、受信信号の合成によって発生するアンテナゲインパターンのNullの発生を防止し、測位装置の可視性を高くすることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[第1の実施形態]
これから、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、図1は、第1の実施形態に係る複数アンテナ測位装置100の構成を示すブロック図である。第1の実施形態は、2つのアンテナを使用する形態である。まず、複数アンテナ測位装置100の構成について説明する。複数アンテナ測位装置100は、大きく、アンテナ(第1アンテナ101A、第2アンテナ101B)、フロントエンド(第1フロントエンド102A、第2フロントエンド102B)、基準クロック発生回路103、受信処理部(チャンネル1受信処理部CH1〜チャンネル4受信処理部CH4)、及び測位演算部119から構成される。受信処理部は、同時に捕捉可能な測位衛星の数に対応した数のチャンネル、ここではチャンネル1からチャンネル4の同様の構成を有する回路を含む。図1には、代表して、チャンネル1受信処理部CH1の構成を示している。チャンネル1受信処理部CH1は、第1ミキサー105A、第2ミキサー105B、第1相関演算部106A、第2相関演算部106B、合成相関値演算部108、搬送波追尾ループ110、コード追尾ループ111、ミキサー114、及び擬似距離演算部117から構成され、これらは所定の演算を行うASICなどのロジック回路や、CPUで実行されるソフトウェアによって実現される。CPUによって実行させるソフトウェアは、ROMに格納していてもよいし、ハードディスク装置などのような外部記憶装置に記憶しており、実行時に読み出してRAM上にローディングするようにしてもよい。図示していないが、チャンネル2受信処理部CH2、チャンネル3受信処理部CH3、チャンネル4受信処理部CH4も同様の構成を有している。なお、それぞれのチャンネルは、ロジック回路による並列処理や、時分割処理により同一のコンピュータ上で実現することができる。なお、チャンネルは、最低で4チャンネルが必要であるが、実際には、それより多くのチャンネル、例えば12チャンネル程度が実装されることが通常である。
【0011】
第1アンテナ101A、第2アンテナ101Bは、測位される飛しょう体などの機体に設置され、測位信号の電磁波を受信して高周波信号を発生する。飛しょう体は、数Hz程度で回転するような姿勢制御がなされており、第1アンテナ101A、第2アンテナ101Bは、その回転軸に対して対称な位置にお互いに離隔して配設される。図5は、第1の実施形態における飛しょう体に設置したアンテナの配置例を示す構成図である。第1アンテナ101A、第2アンテナ101Bは、飛しょう体が円柱状である場合に、その円周上においてお互いに180°の角度を空けて配置される。測位信号は、搬送波を擬似ランダム雑音コードの拡散符号によってスペクトラム拡散を行ったものである。擬似ランダム雑音コードとしては、C/Aコードと、C/Aコードより周波数が高いPコードが用いられているが、Pコードは一般には開放されていないため、通常、受信機ではC/Aコードを用いた復元が行われる。本実施形態では、コードとしてはC/Aコードを想定しているが、Pコードを用いることができるのであれば、それをさらに使用してもよい。さらに測位信号には、より長周期の測位演算に必要な航法データが含まれている。第1アンテナ101A、第2アンテナ101Bには、それぞれ、第1フロントエンド102A、第2フロントエンド102Bが一対に接続される。第1フロントエンド102A、第2フロントエンド102Bには、基準クロック発生回路103で発生させられた共通の基準クロックが入力され、それぞれ、第1アンテナ101A、第2アンテナ101Bで受信された測位信号を表わす高周波信号をデジタル信号に変換する。デジタル信号に変換することによって、これ以降の処理を、ロジック回路やコンピュータのCPUによるデジタル信号処理で実行させることが可能となる。第1フロントエンド102A、第2フロントエンド102Bは、典型的には、高周波信号を増幅する増幅器、増幅された高周波信号の周波数をダウンコンバートするダウンコンバータ、ダウンコンバートされた高周波信号を、基準クロック発生回路103から入力された共通の基準クロックを基準としてサンプリングして量子化することによって、それぞれ、デジタル化測位信号104A及び104Bを生成するA/Dコンバータから構成される前処理部である。それらのデジタル信号104A及び104Bは、共通の基準クロックによってサンプリングされ、観測時刻は同期している。チャンネル1受信処理部CH1は、デジタル化測位信号から擬似距離を算出する回路である。第1ミキサー105A及び第2ミキサー105Bは、それぞれ、デジタル化測位信号104A及び104Bを共通のレプリカ信号115と混合することによって逆拡散を行い、測位信号の復元を行う構成であり、典型的には、ロジック回路や、ソフトウェアによってコンピュータ上に実現された、乗算などの所定の演算を行うロジックである。レプリカ信号115は、測位信号の搬送波と一致させるべき搬送波レプリカ信号112と、測位信号に含まれるコードと一致させるべきコードレプリカ信号113を合成したものである。第1相関演算部106A、第2相関演算部106Bは、それぞれ、逆拡散を行ったデジタル化測位信号104A及び104Bに対して一定時間の累積処理を行うことによって、相関値を表わす第1相関値ベクトル107A及び第2相関値ベクトル107Bを出力する構成である。相関値は、レプリカ信号115との位相差を情報に含むベクトル量である。合成相関値演算部108は、第1相関値ベクトル107A及び第2相関値ベクトル107Bを所定の演算により合成して、1つのチャンネルに対して1つの合成相関値ベクトル109を生成する構成である。搬送波追尾ループ110は、そこに入力される合成相関値ベクトル109に基づいて、測位信号の搬送波と一致させるべき搬送波レプリカ信号112を生成し、合成相関値ベクトル109の大きさが極大になるように搬送波レプリカ信号112の位相を変化させる構成である。コード追尾ループ111は、そこに入力される合成相関値ベクトル109に基づいて、測位信号に含まれるコードと一致させるべきコードレプリカ信号113を生成し、合成相関値ベクトル109の大きさが極大になるようにコードレプリカ信号113の位相を変化させるとともに、受信した測位信号に含まれるコードのコード遅延時間116を出力する構成である。擬似距離演算部117は、コード遅延時間116に基づいて擬似距離118を計算する構成である。擬似距離118は、それぞれのチャンネルの受信処理部から出力される。測位演算部119は、受信機時刻における複数のチャンネルの擬似距離118に基づき、測位演算を行う構成である。
【0012】
これから、第1の実施形態に係る複数アンテナ測位装置100の動作について説明する。複数の測位衛星のそれぞれは、それに対応するチャンネルのコードで搬送波を変調した測位信号を生成して送信している。飛しょう体の側面に設置された第1アンテナ101A及び第2アンテナ101Bは、測位信号を受信する。飛しょう体は回転しているため、それぞれのアンテナが受信する測位信号の強度と位相は変動する。第1アンテナ101Aで受信された測位信号は、第1フロントエンド102Aに送られ、そこで、増幅された後にデジタル処理に適した周波数までダウンコンバートされ、基準クロック発生回路103で発生させられたすべてのアンテナ系に共通の基準クロックに基づいてA/D変換されてデジタル化測位信号104Aとなる。第2アンテナ101Bで受信された測位信号も、同様に第2フロントエンド102Bに送られ、デジタル化測位信号104Bとなる。デジタル化測位信号104A及び104Bは、共通の基準クロックに基づいてA/D変換されてデジタル化測位信号104Bとなる。デジタル化測位信号104A及び104Bは、チャンネル1受信処理部CH1、チャンネル2受信処理部CH2、チャンネル3受信処理部CH3、及びチャンネル4受信処理部CH4に送られる。それぞれのチャンネルの受信処理部では、それぞれが受信する測位衛星の測位信号に含まれるコードに基づいて、同様の処理が実施される。以下では、チャンネル1受信処理部CH1で行われる処理について説明する。
【0013】
第1ミキサー105Aは、入力されたデジタル化測位信号104Aに共通のレプリカ信号115をデジタル処理による乗算などによって混合する。。第2ミキサー105Bは、入力されたデジタル化測位信号104Bに共通のレプリカ信号115を混合する。混合された信号は、それぞれ第1相関値演算部106A及び第2相関値演算部106Bによって一定時間の累積処理が行われる。第1相関値演算部106A及び第2相関値演算部106Bから、それぞれ、第1相関値ベクトル107A及び第2相関値ベクトル107Bが出力される。それらの相関値ベクトルの数式モデルを式1に示す。式1において、Pは信号強度、Δτは受信した測位信号とレプリカ信号115の間のコード位相差、Δfとφはそれぞれ受信した測位信号とレプリカ信号115の間の搬送波の周波数差と位相差である。


・・・(式1)
【0014】
式1において、Rは受信機信号とレプリカ信号に含まれるコードの自己相関を表し、ΔτとΔfが共にゼロであるとき最大値となる。GPSの測位信号の追尾では、Rが常に最大値となるような搬送波レプリカ信号112とコードレプリカ信号115が生成される。このために、搬送波追尾ループ110は、搬送波の波形の信号の位相をΔfがゼロになるように変化させることによって搬送波レプリカ信号112を生成する。そして、コード追尾ループ111は、追尾している測位衛星に対応するコードの波形の信号の位相をΔτがゼロになるように変化させることによってコードレプリカ信号113を生成する。次に、ミキサー114が、搬送波レプリカ信号112とコードレプリカ信号112を混合してレプリカ信号115を生成する。このレプリカ信号115は、Rが最大になるように制御されているものである。
【0015】
式1において、Rはその最大値で正規化されているとする。このとき、GPSの測位信号が追尾されている状態、つまりΔτとΔfが共にゼロであるとき、第1相関値ベクトル107Aと第2相関値ベクトル107Bは、それぞれ式2と式3で表される。式2と式3において、PAとφAはそれぞれ第1相関値ベクトル107Aの信号強度と位相差、PBとφBはそれぞれ第2相関値ベクトル107Bの信号強度と位相差である。


・・・式2


・・・式3
【0016】
第1相関値ベクトル107Aと第2相関値ベクトル107Bは、合成相関値演算部108において所定の演算により合成され、合成相関値ベクトル109として出力される。ここで、φAとφBの位相差が半波長、つまりπラジアンであるとき、式2と式3で表される相関値を単純に加算すると、ベクトルの向きが正反対であることからお互いに打ち消しあい、合成相関値ベクトル109の信号強度が減少してしまう。このような領域を一般にNullと呼ぶ。
【0017】
このNullの発生を防止するために、好適には、合成相関値演算部108は、第1相関値ベクトル107Aと第2相関値ベクトル107Bのそれぞれに対して、それぞれの相関値ベクトルの大きさにより重み付けして平均した位相になるように、それぞれの相関値ベクトルの位相を回転させて一致させ、位相が揃えられたそれぞれの相関値ベクトルの合成を行う。それぞれの相関値ベクトルの位相の回転量は、信号強度のより大きい相関値ベクトルの位相により近くなるように決定される。このように、測位信号の位相を合成する前に一致させることにより、それらのベクトルの大きさを加算した大きさの信号を得ることができ、アンテナ系全体のゲインを大きくすることができ、最良の状態で測位信号の受信を行うことが可能となる。また、このように、相関値ベクトルの大きさに応じた平均の位相となるようにそれぞれの相関値ベクトルの位相を回転させることによって、受信状態が安定している強度の強い測位信号に重みをおいた捕捉を行い、それぞれの測位信号の強度の変化に伴って、重みをおいて捕捉する測位信号をより強度の強いものに連続的に変化させることができる。すなわち、それぞれの測位信号の強度の変化に即応して重みをおいて捕捉する測位信号を変化させるため、それぞれの測位信号の変化に対して非常に高い追従性をもって測位信号を捕捉することが可能となり、安定的な捕捉が可能となる。式4に信号合成演算部での信号合成の数式モデルを示す。


・・・式4

ここで、式4において

は合成相関値ベクトル109であり、

は回転後の位相である。
【0018】
式4における


は、式5によって求められる。


・・・式5
従って、第1相関値ベクトル107A及び第2相関値ベクトル107Bは、合成相関値演算部108において、それぞれ回転後の位相が、相関値ベクトルの大きさにより重み付けして平均した位相である

となるように回転させられた後に、合成される。より具体的には、入力されるそれぞれの相関値ベクトルの大きさとそれぞれの相関値ベクトルの位相とを乗じたもののすべての相関値ベクトルについての和を、入力されるすべての相関値ベクトルの大きさの和で除したものが新しい位相となるように、入力されるそれぞれの相関値ベクトルの位相を回転させた後に、それらの相関値ベクトルを合成する。
【0019】
式4に示される方法に従って合成された合成相関値ベクトル108は、搬送波追尾ループ110およびコード追尾ループ111に入力される。コード追尾ループ111は、受信された測位信号に含まれるコードを追尾しているとき、任意の受信機時刻tに対する受信コードのコード遅延時間116を算出し、それを擬似距離演算部117に出力する。擬似距離演算部117は、コード遅延時間116から受信機時刻tにおける擬似距離118を算出して出力する。
【0020】
デジタル化測位信号104Aとデジタル化測位信号104Bを入力として擬似距離118を出力するまでの処理は、チャンネルと呼ばれる。各チャンネルの受信処理部では、それぞれ異なるGPS衛星からの信号を追尾し、その衛星に対応した擬似距離118の生成を行う。受信機時刻tに同期して生成された複数の擬似距離118は、測位演算部119に入力される。測位演算部119では、これら擬似距離より測位演算が行われ、測位結果が出力される。
測位演算の具体的演算方法に関しては、公知の技術を用いることができる。例えば次の文献に記載がある。(「精説GPS 基本概念・測位原理・信号と受信機」,Pratap Misra and Per Enge原著,日本航海学会GPS研究会訳,pp. 159-163,正陽文庫)
【0021】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、2つのアンテナで受信される測位信号の合成を行っているが、3つ以上のアンテナが利用できる場合、これらの3つ以上の受信信号の合成を行うことができる。図6は、アンテナを3つとした場合の第2の実施形態における飛しょう体に設置したアンテナの配置例を示す構成図である。第1アンテナ101A、第2アンテナ101B、第3アンテナ101Cは、飛しょう体が円柱状である場合に、その円周上においてお互いに120°の角度を空けて配置される。図2は、第2の実施形態に係る複数アンテナ測位装置100のアンテナから合成相関値演算部までの構成を示すブロック図である。ここでは、アンテナが一般的にN個設置されている場合が例示されている。第1アンテナ101A、第2アンテナ101B、・・・、第Nアンテナ101Nには、それぞれ、第1フロントエンド102A、第2フロントエンド102B、・・・、第Nフロントエンド102Nが一対に接続される。それの後段に、第1ミキサー105A、第2ミキサー105B、・・・、第Nミキサー105Nが接続され、それのさらに後段に、第1相関値演算部106A、第2相関値演算部106B、・・・、第N相関値演算部106Nが接続される。図示されていない部分は、図1に示すブロックと同様である。式6に3つ以上の受信信号を合成したときの数式モデルを示す。


・・・式6
式6においてNはアンテナの数であり、Piはi番目のアンテナiから得られる相関値の信号強度である。
【0022】
式6において、

は式7によって求められる。式7において、φiはアンテナiから得られる相関値の位相差である。


・・・式7
第1相関値ベクトル107A、第2相関値ベクトル107B、・・・、第N相関値ベクトル107Nは、合成相関値演算部108において、それぞれ回転後の位相が、相関値ベクトルの大きさにより重み付けして平均した位相である

となるように回転させられた後に、合成される。より具体的には、入力されるそれぞれの相関値ベクトルの大きさとそれぞれの相関値ベクトルの位相とを乗じたもののすべての相関値ベクトルについての和を、入力されるすべての相関値ベクトルの大きさの和で除したものが新しい位相となるように、入力されるそれぞれの相関値ベクトルの位相を回転させた後に、それらの相関値ベクトルを合成する。
このようにして、アンテナが3つ以上の場合においても、それぞれの相関値ベクトルの位相をどのような回転量で回転させると最適な合成が可能になるのかを求めることができる。
【0023】
[位相回転の詳細な説明]
上記では、全体的な複数アンテナ測位装置100の構成や動作について説明してきた。以下では、第1の実施形態における合成相関値演算部108の信号処理に焦点を当て、図3を参照して詳細に説明する。図3は、第1の実施形態における合成相関値演算部108の構成を示すブロック図である。合成相関値演算部108は、第1電力検出部201A、第2電力検出部201B、第1位相検出部202A、第2位相検出部202B、位相回転角演算部203、第1位相回転部204A、第2位相回転部204B、加算器205から構成される。
【0024】
まず、合成相関値演算部108に入力される第1相関値ベクトル107Aと第2相関値ベクトル107Bについて、それぞれの信号電力と位相の検出が行われる。第1電力検出部201A及び第1位相検出部202Aには、第1相関値ベクトル107Aが入力され、それぞれ、式2で定義される第1相関値ベクトル107Aの信号電力PA及び位相φAが出力される。第2電力検出部201Bと第2位相検出部202Bには、第2相関値ベクトル107Bが入力され、それぞれ、式3で定義される第2相関値ベクトル107Bの信号電力PB及び位相φBが出力される。
つづいて、これらの信号電力と位相は、位相回転角演算部203に入力される。位相回転角演算部203において、まず第1相関値ベクトル107Aと第2相関値ベクトル107Bの位相差Δφが式8に基づいて求められる。

・・・式8
【0025】
次に、この位相差Δφを第1相関値ベクトル107Aと第2相関値ベクトル107Bの信号強度に応じて式9および式10によって分割する。


・・・式9

・・・式10

式9および式10は、式11の関係を満足している。


・・・式11
【0026】
式9と式10で求められたδφAおよびδφBは、それぞれ第1位相回転部204Aおよび第2位相回転部204Bによって、第1相関値ベクトル107Aおよび第2相関値ベクトル107Bの位相回転角として与えられる。このとき、位相回転後の両者の位相

は、等しく式12で表される。(式12は式5と等価である。)


・・・式12

したがって、第1位相回転部204Aおよび第2位相回転部204Bからの出力は、それぞれ式13および式14で表される。


・・・式13

・・・式14
【0027】
加算器205は、これらの位相回転後の相関値を足し合わせ、式15で表される合成相関値ベクトル109を出力する。(式15は式4と等価である。)


・・・式15
第2の実施形態においても、それぞれのアンテナに対応した電力検出部、位相検出部、位相回転部を使用することによって、第1の実施形態と同様に合成相関値ベクトル109を求めることができる。図4は、第2の実施形態における合成相関値演算部108の構成を示すブロック図である。それぞれのアンテナに対応した電力検出部及び位相検出部からの出力に基づいて、位相回転角演算部でそれぞれのアンテナで受信した測位信号の位相の回転量を決定し、位相回転部でそれぞれのアンテナで受信した測位信号をその回転量だけ位相を回転させた後、加算器205で加算することによって、合成相関値ベクトル109が求められる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施形態に係る複数アンテナ測位装置100の構成を示すブロック図である。
【図2】第2の実施形態に係る複数アンテナ測位装置100のアンテナから合成相関値演算部までの構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態における合成相関値演算部108の構成を示すブロック図である。
【図4】第2の実施形態における合成相関値演算部108の構成を示すブロック図である。
【図5】第1の実施形態における飛しょう体に設置したアンテナの配置例を示す構成図である。
【図6】第2の実施形態における飛しょう体に設置したアンテナの配置例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0029】
CH1 チャンネル1受信処理部
CH2 チャンネル2受信処理部
CH3 チャンネル3受信処理部
CH4 チャンネル4受信処理部
100 複数アンテナ測位装置
101A 第1アンテナ
101B 第2アンテナ
102A 第1フロントエンド
102B 第2フロントエンド
103 基準クロック発生回路
104A デジタル化測位信号
104B デジタル化測位信号
105A 第1ミキサー
105B 第2ミキサー
106A 第1相関演算部
106B 第2相関演算部
107A 第1相関値ベクトル
107B 第2相関値ベクトル
108 合成相関値演算部
109 合成相関値ベクトル
110 搬送波追尾ループ
111 コード追尾ループ
112 搬送波レプリカ信号
113 コードレプリカ信号
114 ミキサー
115 レプリカ信号
116 コード遅延時間
117 擬似距離演算部
118 擬似距離
119 測位演算部
120 測位結果
201A 第1電力検出部
201B 第2電力検出部
202A 第1位相検出部
202B 第2位相検出部
203 位相回転角演算部
204A 第1位相回転部
204B 第2位相回転部
205 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測位衛星から送信される、それぞれの測位衛星に対応するチャンネルのコードで搬送波を変調した測位信号を受信する、お互いに離隔して配置された複数の受信アンテナと、
それぞれの前記受信アンテナと一対に接続され、前記測位信号に対して共通の基準クロックを基準としたサンプリングをすることによって、デジタル化した測位信号をそれぞれ出力する複数のフロンドエンドと、
それぞれの前記フロントエンドと接続され、それぞれの前記フロントエンドから出力される前記デジタル化した測位信号に、搬送波レプリカ信号およびコードレプリカ信号を含む共通のレプリカ信号を合成することによって、前記測位信号と前記レプリカ信号の相関を表わす相関値ベクトルをそれぞれ出力する、1つのチャンネルに対して複数の相関値演算部と、
前記相関値演算部から出力される1つのチャンネルに対して複数の前記相関値ベクトルを所定の演算により合成して、1つのチャンネルに対して1つの合成相関値ベクトルを出力する合成相関値演算部と、
前記合成相関値演算部から出力される前記合成相関値ベクトルが入力され、それに基づいて前記測位信号の搬送波と一致させるべき前記搬送波レプリカ信号を生成し、前記合成相関値ベクトルの大きさが極大になるように前記搬送波レプリカ信号の位相を変化させる、それぞれのチャンネルに対して設けられた搬送波追尾ループと、
前記信号演算部から出力される前記合成信号ベクトルが入力され、それに基づいて前記測位信号に含まれるコードと一致させるべき前記コードレプリカ信号を生成し、前記合成相関値ベクトルの大きさが極大になるように前記コードレプリカ信号の位相を変化させるとともに、受信した前記測位信号に含まれるコードのコード遅延時間を出力する、それぞれのチャンネルに対して設けられたコード追尾ループと、
前記コード追尾ループから出力されるコード遅延時間に基づき、擬似距離を演算する擬似距離演算部と、
前記受信機時刻における複数チャンネルの擬似距離に基づき、測位演算を行う測位演算部と、を備えることを特徴とする複数アンテナ測位装置。
【請求項2】
前記合成相関値演算部は、入力されるそれぞれの相関値ベクトルの大きさにより重み付けして平均した位相になるように、それぞれの相関値ベクトルの位相を回転させて一致させ、位相が揃えられたそれぞれの相関値ベクトルの合成を行うことを特徴とする請求項1に記載の複数アンテナ測位装置。
【請求項3】
前記合成相関値演算部は、入力されるそれぞれの相関値ベクトルの大きさと当該それぞれの相関値ベクトルの位相とを乗じたもののすべての相関値ベクトルについての和を、入力されるすべての相関値ベクトルの大きさの和で除したものが新しい位相となるように、入力されるそれぞれの相関値ベクトルの位相を回転させることによって、それぞれの相関値ベクトルの位相を揃えることを特徴とする請求項2に記載の複数アンテナ測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−139439(P2010−139439A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317424(P2008−317424)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(505044015)スペースリンク株式会社 (3)
【出願人】(508367496)
【Fターム(参考)】