説明

褐変抑制剤及び飲食品

【課題】 飲食品の褐変を効果的に抑えることができる褐変抑制剤及び褐変しにくい飲食品を提供する。
【解決手段】 褐変抑制剤は、茶葉に過熱水蒸気を接触させた後、その接触後の蒸気を回収することにより得られる茶葉の過熱蒸気抽出物よりなる。褐変抑制剤は、飲食品の褐変を抑制するために飲食品に添加されると、ビタミンCの分解、メイラード反応及び酸化劣化から選ばれる少なくとも一種に起因する飲食品の褐変を抑制する作用を有する。茶葉は、緑茶、ウーロン茶又は紅茶の茶葉であることが好ましい。飲食品は、前記褐変抑制剤(茶葉の過熱蒸気抽出物)を含有するものであり、緑茶、ウーロン茶、紅茶、麦茶、ハト麦茶、ジャスミン茶、プアール茶、ルイボス茶、ハーブ茶又はそれらのブレンド茶であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品を保存する際の褐変を抑制するために該飲食品に添加される褐変抑制剤、及び該褐変抑制剤を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品を保存する際の品質低下を抑える技術としては、例えば特許文献1に開示されているような、色と風味に優れた容器入り緑茶飲料の製造方法が知られている。この製造方法は、過熱水蒸気を用いて緑茶の茶葉を無菌化した後、無菌雰囲気下で無菌水により抽出し、抽出液を無菌雰囲気下で容器に充填密封することを特徴とする。また、特許文献2には、製茶後の茶葉を過熱水蒸気にて蒸気抽出することにより得られる揮発性成分について開示されている。
【特許文献1】特開2004−57074号公報
【特許文献2】特開2005−137269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、茶葉の過熱蒸気抽出物の特徴、性質、作用、用途などについて、様々な面から鋭意研究を行った。その結果、驚くべきことに、茶葉の過熱蒸気抽出物には、それ自体の褐変を抑える作用があるとともに、該過熱蒸気抽出物を添加した飲料品の褐変をも抑える作用があることを見出した。そして、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0004】
本発明の目的とするところは、飲食品の褐変を効果的に抑えることができる褐変抑制剤を提供することにある。本発明の別の目的とするところは、褐変しにくい飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、飲食品の褐変を抑制するために該飲食品に添加される褐変抑制剤であって、該褐変抑制剤は、茶葉の過熱蒸気抽出物よりなることを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の褐変抑制剤は、請求項1に記載の発明において、前記茶葉は、緑茶、ウーロン茶又は紅茶の茶葉であることを要旨とする。
請求項3に記載の褐変抑制剤は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、ビタミンCの分解、メイラード反応及び酸化劣化から選ばれる少なくとも一種に起因する前記飲食品の褐変を抑制する作用を有することを要旨とする。
【0007】
請求項4に記載の飲食品は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の褐変抑制剤を含有することを要旨とする。
請求項5に記載の飲食品は、請求項4に記載の発明において、当該飲食品は、茶類飲料であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、飲食品の褐変を効果的に抑えることができる褐変抑制剤、及び褐変しにくい飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を褐変抑制剤及び飲食品に具体化した一実施形態について説明する。
本実施形態の褐変抑制剤は、茶葉の過熱蒸気抽出物よりなる。この褐変抑制剤は、飲食品に添加するための添加物として主に利用され、ビタミンCの分解、メイラード反応、酸化劣化などに起因する飲食品の褐変の進行を抑える効果を発揮する。よって、本実施形態の褐変抑制剤は、ビタミンC、蛋白質、糖質などの褐変の進行を促進しやすい成分を高い割合で含有する飲食品に添加される場合に特に有効である。
【0010】
茶葉の過熱蒸気抽出物は、過熱水蒸気を用いて茶葉を蒸気抽出することによって得られるものである。前記茶葉としては、通常、摘み取った生茶葉を、蒸し、揉み、乾燥のような公知の製茶工程を経て製造された製茶後の茶葉が使用される。また、製茶工程を経ていない生茶葉や、生茶葉を醗酵させた茶葉を使用することも可能である。このような茶葉は、通常、ドライな状態で蒸気抽出に供される。ドライな状態の茶葉とは、水に浸漬する処理や水で蒸らす処理を行っていないものを指す。茶葉の種類としては、緑茶、ウーロン茶、紅茶、麦茶、ハト麦茶、ジャスミン茶、プアール茶、ルイボス茶、ハーブのような飲料品に使用可能なものが挙げられる。これらの茶葉は、単独で用いてもよく、複数種類の茶葉をブレンドして用いてもよい。
【0011】
蒸気抽出は、過熱水蒸気を茶葉に直接接触させた後、その接触後の蒸気を回収する処理である。過熱水蒸気は、飽和水蒸気に対して圧力を上げることなくさらに熱を加えることによって生成される蒸気である。ちなみに、飽和水蒸気は、水の沸点(常圧では100℃)で沸騰中の液体の水が蒸発することによって生成される蒸気である。よって、過熱水蒸気は、液体の水をボイラー又は電磁誘導加熱により沸騰させることによって生成した飽和水蒸気を、バーナー、電気ヒーター又は電磁誘導加熱装置で加熱することにより得られる。飽和水蒸気を加熱する際には、飽和水蒸気を加圧しながら加熱することが可能であるが、加圧後の減圧によって(加圧された状態から常圧の状態に戻すときに)過熱水蒸気の温度を制御しにくいことから、加圧せずに加熱することが好ましい。電磁誘導加熱装置は、通常、周波数100Hz〜100kHzの電磁誘導加熱によりセラミック又は金属製の発熱体を加熱し、その発熱体の表面に飽和水蒸気を接触させることによって過熱水蒸気を生成させる。
【0012】
蒸気抽出する際の過熱水蒸気の温度は、常圧で100℃より高く、好ましくは常圧で105℃以上200℃未満、より好ましくは常圧で107℃を超え200℃未満である。過熱水蒸気の温度が200℃以上の場合には、過熱蒸気抽出物にほうじ茶様の加熱臭(焙じ臭)が付与されるために好ましくない。ちなみに、過熱水蒸気は、常圧(1.01325×10Pa、即ち1気圧)で107℃に転移点を有しており、その転移点より高い温度にあるときに熱力学的に極めて安定な状態となる。
【0013】
蒸気抽出に用いられる過熱水蒸気の蒸気量は、茶葉1Kgあたり好ましくは1〜100Kg/h、より好ましくは3〜30Kg/hである。蒸気量が1Kg/h未満の場合には、過熱蒸気抽出物の回収に多くの時間を要する。逆に100Kg/hを超える場合には、過熱水蒸気を発生させる装置内の内圧が高くなることから、圧力制御を実施するための装置コストが高くなったり、大きな装置スペースが必要となったりする。
【0014】
この好ましい蒸気量で蒸気抽出を行う場合の抽出時間は、好ましくは10秒〜30分間、より好ましくは30秒〜10分間である。前記抽出時間が10秒未満の場合には、茶葉から褐変抑制作用を有する過熱蒸気抽出物を効率的に抽出することができない。逆に30分を超えると、過熱蒸気抽出物を飲食品に添加したときに該飲食品の風香味を変化させやすくなる。特に、過熱水蒸気を用いて30分を越えて蒸気抽出する場合には、茶葉が焙焼されやすくなって、ほうじ茶様の加熱臭(焙じ臭)が増加するおそれがある。
【0015】
蒸気抽出は、過熱蒸気抽出物の飛散及び拡散による回収ロスを低減させるために、密閉容器内で実施することが最も好ましい。また、蒸気抽出は、通常は常圧で行われるが、加圧状態で行われても構わない。さらに、蒸気抽出は、窒素ガスや希ガスのような不活性ガス雰囲気下(いわゆる脱酸素状態)で行われることが最も好ましい。この場合、過熱蒸気抽出物自体の酸化劣化が抑えられるため、酸化劣化に起因する褐変抑制作用に優れた過熱蒸気抽出物を得ることが容易になる。ちなみに、溶存酸素を除去した水(いわゆる脱酸素水)を用いて作製した水蒸気には、酸素がほとんど溶存していない。このため、茶葉を仕込んだ密閉容器内を不活性ガスで置換した後、前記脱酸素水より作製した過熱水蒸気を用いて蒸気抽出すると、その密閉容器内の不活性ガス雰囲気が容易かつ継続的に維持される。
【0016】
蒸気抽出による過熱蒸気抽出物の回収率は、茶葉の種類により大きく異なるが、全般に茶葉に対して固形分として0.01〜10重量%(Brix0.01〜10)であることが適当である。しかしながら、品質面を考慮すると固形分として0.05〜5重量%(Brix0.05〜5)であることが好ましい。前記回収率が0.01重量%未満の場合には、十分な量の過熱蒸気抽出物が回収されないため、褐変抑制作用を十分に発揮させることができない。逆に10重量%を超える場合には、茶葉由来の風香味の強い過熱蒸気抽出物が得られやすくなるため、飲食品に添加した場合に該飲食品本来の風香味を妨げてしまうおそれが高まる。
【0017】
この過熱蒸気抽出物は、液状、粒状、粉状、固形状、半固形状のような形態で回収された後、密閉容器のような容器内で保存されるか、或いは飲食品中に添加される。液状の過熱蒸気抽出物は、前記蒸気抽出において茶葉に接触した後の蒸気を集めて冷却することにより得られる。粒状又は粉状の過熱蒸気抽出物は、前記液状の過熱蒸気抽出物又は前記茶葉に接触した後の蒸気を、フリーズドライ法又はスプレードライ法で乾燥させることにより得られる。固形状又は半固形状の過熱蒸気抽出物は、前記液状の過熱蒸気抽出物を常法により加熱乾燥又は濃縮することにより得られる。なおこのとき、過熱蒸気抽出物の化学的特性を利用して、蒸留、減圧蒸留又は分留により褐変抑制作用の高い画分を分画したり、樹脂カラムを使用して褐変抑制作用の高い成分を精製したりすることも可能である。
【0018】
本実施形態の飲食品は、上記褐変抑制剤を含有する飲料品又は食品である。飲料品としては、緑茶、ウーロン茶、紅茶、麦茶、ハト麦茶、ジャスミン茶、プアール茶、ルイボス茶、ハーブ茶、ブレンド茶のような茶類飲料が挙げられる。また、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、ゆずのような柑橘類の果汁、ピーチ、グレープ、パインアップル、アップル、イチゴのような果実の果汁、キャロット、ほうれん草、トマトのような野菜の汁、コーンスープのような穀物汁、生乳、殺菌乳、加工乳、粉乳(脱脂粉乳、全脂粉乳)、乳脂肪、クリームのような乳成分などを含む飲食品も挙げられる。
【0019】
このような飲食品は、メイラード反応を引き起こし得る蛋白質及び糖質を始めとして、ビタミンCなどを含有しているが、本実施形態の褐変抑制剤の褐変抑制作用により褐変しにくくなっている。その結果、これらの飲食品では、長期保存時における色の変化が抑えられるため、品質の安定性が高まっている。特に、酸化防止剤としてのビタミンCが人為的に添加されてなる茶類飲料、栄養ドリンク、スポーツドリンクのような飲食品では、保存時の褐変が効果的に抑制されるとともに、ビタミンCや他の褐変抑制作用を有する添加物の含有量を低減させることも可能となる。なお、本実施形態の褐変抑制剤には、茶葉に由来する揮発性の高い芳香成分も含まれているため、そのような芳香成分によって飲食品の風香味が大幅に損なわれないように、飲食品の素材選択、褐変抑制剤の蒸気抽出条件、褐変抑制剤の添加量などが適宜調整されていることが好ましい。
【0020】
飲食品としての茶類飲料を製造する際には、褐変抑制剤を蒸気抽出した後の茶葉を水抽出した後、前記褐変抑制剤を添加することにより製造することが、特にコスト面で有利である。この場合、茶葉(第1の茶葉)に過熱水蒸気を接触させて褐変抑制剤を蒸気抽出した後、該褐変抑制剤を抽出した後の残渣(第1の茶葉)に60℃程度の水を浸漬させて水抽出し、得られた第1の茶葉の水抽出物に前記褐変抑制剤が添加される。
【0021】
また、褐変抑制剤を抽出した茶葉とは別の茶葉を水抽出した後、褐変抑制剤を添加することにより製造することも可能である。この場合、茶葉(第1の茶葉)に過熱水蒸気を接触させて褐変抑制剤を蒸気抽出した後、該褐変抑制剤を抽出した茶葉(第1の茶葉)とは別の茶葉(第2の茶葉)に60℃程度の水を浸漬させて水抽出し、得られた第2の茶葉の水抽出物に前記褐変抑制剤が添加される。このような茶類飲料の製造方法においては、第1の茶葉と第2の茶葉とを同じ種類の茶葉により構成すること、及び第1の茶葉と第2の茶葉とを別の種類の茶葉により構成すること、のいずれの方法を選択してもよい。
【0022】
なお、茶葉を水抽出する場合には、ニーダー式、ドリップ式、ボックス式、多塔式などの一般的に茶類の水抽出に使用される全ての抽出機が利用可能である。また、水抽出する際の温度も特に限定されない。茶類飲料には、必要に応じて、重曹のようなpH調整剤、ビタミンCのような酸化防止剤、ショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルのような乳化剤、カラギーナンのような安定剤、砂糖、果糖、ブドウ糖、糖アルコールのような甘味料、各種酸味料、香料のような添加物が添加されていてもよい。これらの添加物は、単独で添加されてもよく、複数種類を組合わせて添加されてもよい。また、牛乳、粉乳、脱脂粉乳、クリーム、植物油脂などが配合されていてもよい。
【0023】
このようにして製造された茶類飲料は、缶、ビン、PETボトル、紙容器、プラスチック容器のような保存性を高めるための容器内に封入されることが好ましい。さらに、これらの容器内に封入される茶類飲料には、保存性を高めるための殺菌処理(UHT殺菌後にホットパック充填、無菌充填による容器詰め、容器詰め後のレトルト殺菌など)が施されていることが好ましい。
【0024】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の褐変抑制剤は、茶葉の過熱蒸気抽出物よりなる。過熱蒸気抽出物には、それ自体の褐変を抑える作用があるとともに、該過熱蒸気抽出物を添加した飲食品の褐変をも抑える作用がある。このため、過熱蒸気抽出物よりなる褐変抑制剤は、飲食品に添加するための添加物として利用することができる。この場合、褐変抑制剤は、飲食品の長期保存時における色の変化を効果的に抑えることができるため、飲食品の品質低下を抑えつつ、長期間の保存を容易にする。また、この褐変抑制剤は、ビタミンCの分解、メイラード反応、酸化劣化などに起因する飲食品の褐変を抑制することから、ビタミンCや他の褐変抑制作用を有する添加物の含有量を低減させた飲食品を提供する際にも有用である。
【0025】
・ 本実施形態の飲食品は、前記褐変抑制剤を含有しているため、長期保存に際して褐変しにくく、長期間保存しても品質の低下を少なくすることが可能である。特に、褐変抑制剤の製造に用いた茶葉(第1の茶葉)の水抽出物、又は第1の茶葉と同じ種類の茶葉(第2の茶葉)の水抽出物を含有する茶類飲料は、良好な風香味と素材本来の色とを保持しつつ、長期保存時における褐変を抑制することができるため、極めて好ましい飲食品となり得る点で優れている。
【実施例1】
【0026】
<緑茶飲料の製造1>
(試験例1)
緑茶葉3Kgを密閉可能な抽出容器内に仕込んだ。続いて、抽出容器内の茶葉の下方から120℃の過熱水蒸気を1時間あたりに30Kgの蒸気量で3分間注入することにより、過熱水蒸気を茶葉に直接接触させた。そして、抽出容器の上端部から流出する蒸気を直ちに冷却することにより、液状の過熱蒸気抽出物1.2Kgを得た。次に、過熱蒸気抽出物を抽出した後の茶葉を、60℃の温水を用いてニーダーにて12分間水抽出した。得られた茶葉の水抽出物をタンニン量61mg/100mLとなるように調整した後、pH調整剤としての重曹を0.3g/L、酸化防止剤としてのビタミンCを0.4g/Lとなるように添加し、さらに前記過熱蒸気抽出物を全量添加することにより、緑茶飲料を製造した。この緑茶飲料を138℃で30秒間のUHT殺菌を行った後、500mLのPETボトルにホットパック充填した。
【0027】
(試験例2)
緑茶葉3Kgを密閉可能な抽出容器内に仕込んだ。続いて、抽出容器内の茶葉の下方から120℃の過熱水蒸気を1時間あたりに30Kgの蒸気量で9分間注入することにより、過熱水蒸気を茶葉に直接接触させた。そして、抽出容器の上端部から流出する蒸気を直ちに冷却することにより、液状の過熱蒸気抽出物3.8Kgを得た。次に、過熱蒸気抽出物を抽出した後の茶葉を、60℃の温水を用いてニーダーにて12分間水抽出した。得られた茶葉の水抽出物をタンニン量61mg/100mLとなるように調整した後、重曹を0.3g/L、ビタミンCを0.4g/Lとなるように添加し、さらに前記過熱蒸気抽出物を全量添加することにより、緑茶飲料を製造した。この緑茶飲料を138℃で30秒間のUHT殺菌を行った後、500mLのPETボトルにホットパック充填した。
【0028】
(比較例1)
緑茶葉3Kgを60℃の温水を用いてニーダーにて12分間水抽出した。得られた茶葉の水抽出物をタンニン量61mg/100mLとなるように調整した後、重曹を0.3g/L、ビタミンCを0.4g/Lとなるように添加することにより、緑茶飲料を製造した。この緑茶飲料を138℃で30秒間のUHT殺菌を行った後、500mLのPETボトルにホットパック充填した。
【0029】
<褐変抑制効果の確認1>
試験例1,2及び比較例1の各緑茶飲料を60℃で保存した。4日間、7日間及び14日間保存した後の緑茶飲料の色調を測定した。色調の測定は、日本電色工業社製の測色色差計ZE2000を用いて、黄色度YI値を測定した。結果を表1に示す。なお、表1に示す数値は、未経時品のYI値を基準(100%)として、所定期間保存後の緑茶飲料の褐変の度合い(YI値増加率)を算出した結果を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より、比較例1の緑茶飲料では、時間経過とともに褐変の度合い(黄色度YI値)が増加した。これに対し、試験例1,2の緑茶飲料では、いずれも、比較例1よりも明らかに褐変の度合いの変化が低く抑えられていた。
【実施例2】
【0032】
<緑茶飲料の製造2>
(試験例3)
緑茶葉3Kgを密閉可能な抽出容器内に仕込んだ。続いて、抽出容器内の茶葉の下方から170℃の過熱水蒸気を1時間あたりに25Kgの蒸気量で6分間注入することにより、過熱水蒸気を茶葉に直接接触させた。そして、抽出容器の上端部から流出する蒸気を直ちに冷却することにより、液状の過熱蒸気抽出物1.75Kgを得た。次に、過熱蒸気抽出物を抽出した後の茶葉を、60℃の温水120Lを用いてニーダーにて12分間水抽出した。得られた茶葉の水抽出物をタンニン量61mg/100mLとなるように調整した後、重曹を0.3g/L、ビタミンCを0.4g/Lとなるように添加し、さらに前記過熱蒸気抽出物を全量添加することにより、緑茶飲料を製造した。この緑茶飲料を138℃で30秒間のUHT殺菌を行った後、500mLのPETボトルにホットパック充填した。
【0033】
(試験例4)
緑茶葉3Kgを密閉可能な抽出容器内に仕込んだ。続いて、抽出容器内の茶葉の下方から170℃の過熱水蒸気を1時間あたりに25Kgの蒸気量で6分間注入することにより、過熱水蒸気を茶葉に直接接触させた。そして、抽出容器の上端部から流出する蒸気を直ちに冷却することにより、液状の過熱蒸気抽出物1.75Kgを得た。次に、過熱水蒸気処理していない別の茶葉3Kgを、60℃の温水120Lを用いてニーダーにて12分間水抽出した。得られた茶葉の水抽出物をタンニン量61mg/100mLとなるように調整した後、重曹を0.3g/L、ビタミンCを0.4g/Lとなるように添加し、さらに前記過熱蒸気抽出物を全量添加することにより、緑茶飲料を製造した。この緑茶飲料を138℃で30秒間のUHT殺菌を行った後、500mLのPETボトルにホットパック充填した。
【0034】
(試験例5)
緑茶葉3Kgを密閉可能な抽出容器内に仕込んだ。続いて、抽出容器内の茶葉の下方から170℃の過熱水蒸気を1時間あたりに25Kgの蒸気量で6分間注入することにより、過熱水蒸気を茶葉に直接接触させた。そして、抽出容器の上端部から流出する蒸気を直ちに冷却することにより、液状の過熱蒸気抽出物1.75Kgを得た。次に、過熱蒸気抽出物を抽出した後の茶葉を、60℃の温水120Lを用いてニーダーにて12分間水抽出した。得られた茶葉の水抽出物をタンニン量61mg/100mLとなるように調整した後、重曹を0.3g/L、ビタミンCを0.2g/Lとなるように添加し、さらに前記過熱蒸気抽出物を全量添加することにより、緑茶飲料を製造した。この緑茶飲料を138℃で30秒間のUHT殺菌を行った後、500mLのPETボトルにホットパック充填した。
【0035】
(比較例2)
緑茶葉3Kgを、60℃の温水120Lを用いてニーダーにて12分間水抽出した。得られた茶葉の水抽出物をタンニン量61mg/100mLとなるように調整した後、重曹を0.3g/L、ビタミンCを0.4g/Lとなるように添加することにより、緑茶飲料を製造した。この緑茶飲料を138℃で30秒間のUHT殺菌を行った後、500mLのPETボトルにホットパック充填した。
【0036】
(比較例3)
緑茶葉3Kgを、60℃の温水120Lを用いてニーダーにて12分間水抽出した。得られた茶葉の水抽出物をタンニン量61mg/100mLとなるように調整した後、重曹を0.3g/L、ビタミンCを0.2g/Lとなるように添加することにより、緑茶飲料を製造した。この緑茶飲料を138℃で30秒間のUHT殺菌を行った後、500mLのPETボトルにホットパック充填した。
【0037】
<褐変抑制効果の確認2>
試験例3〜5及び比較例2,3の各緑茶飲料を60℃で保存した。3日間、10日間、15日間及び21日間保存した後の緑茶飲料の色調(黄色度YI値)を実施例1と同様に求めた。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2より、試験例3,4と比較例2とを比較すると、茶葉の過熱蒸気抽出物を茶葉の水抽出物に添加することによって、密閉容器(PETボトル)に充填した後の緑茶飲料の褐変が効果的に抑制されることが示された。さらに、試験例3と試験例4とを比較すると、蒸気抽出した後の茶葉を用いて水抽出した茶葉の水抽出物に、茶葉の過熱蒸気抽出物を添加することによって、緑茶飲料の褐変がより一層効果的に防止されることも明らかになった。
【0040】
また、試験例5と比較例2,3とを比較すると、茶葉の過熱蒸気抽出物を緑茶飲料に添加することにより、酸化防止剤であるビタミンCの添加量を2分の1に低減しても、褐変を抑制する効果を十分に高めることができた。また、試験例1及び試験例3の結果より、過熱水蒸気の温度は、120〜170℃の範囲で効果があり、また、蒸気抽出における抽出時間も3〜6分間で効果があることが分かった。
【0041】
さらに、各試験例の茶葉の過熱蒸気抽出物について、ヨウ素法にて還元型ビタミンCを分析するとともに、酒石酸鉄法にてタンニン(カテキン類)を分析したところ、これらの成分がいずれも検出されなかった。また、各試験例の茶葉の過熱蒸気抽出物はいずれも、中性のpHを示していた。従って、茶葉の過熱蒸気抽出物による褐変防止効果は、通常酸化防止剤として利用されるアスコルビン酸やカテキン類による褐変防止効果ではないことが明らかとなった。
【実施例3】
【0042】
<褐変抑制剤を含むレモンジュースの製造>
(試験例6)
緑茶葉3Kgを密閉可能な抽出容器内に仕込んだ。続いて、抽出容器内の茶葉の下方から120℃の過熱水蒸気を1時間あたりに36Kgの蒸気量で14分間注入することにより、過熱水蒸気を茶葉に直接接触させた。そして、抽出容器の上端部から流出する蒸気を直ちに冷却することにより、液状の過熱蒸気抽出物8.4Kgを得た。この過熱蒸気抽出物を濃縮レモン果汁(Brix37)の還元水として用いて、該濃縮レモン果汁を4倍(W/W)希釈することにより、Brix9.3のレモンジュースを製造した。このレモンジュースを93℃で3秒間の瞬間殺菌を行った後、PETボトルにホットパック充填した。
【0043】
(比較例4)
イオン交換水にて濃縮レモン果汁(Brix37)を4倍(W/W)希釈することにより、Brix9.3のレモンジュースを製造した。このレモンジュースを93℃で3秒間の瞬間殺菌を行った後、PETボトルにホットパック充填した。
【0044】
<褐変抑制効果の確認>
試験例6及び比較例4の各レモンジュースを45℃で保存した。1週間及び2週間保存した後の各レモンジュースの色調を測定した。色調の測定は、測色色差計ZE2000を用いて、黄色味b値を測定した。結果を表3に示す。なお、表3に示す数値は、未経時品のb値を基準(100%)として、所定期間保存後のレモンジュースの褐変の度合い(b値増加率)を算出した結果を示す。また、ヨウ素法を用いて、未経時品に含まれるビタミンCの量を基準(100%)として、所定期間保存後の各レモンジュースのビタミンCの残存率を算出した。結果を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3より、茶葉の過熱蒸気抽出物を濃縮レモン果汁の還元水として用いること、即ち、茶葉の過熱蒸気抽出物を飲食品に添加することにより、経時的に進行する褐変を効果的に抑制できるとともに、経時的に進行する還元型ビタミンCの分解を抑制できることが示された。なお、試験例6で経時的な褐変が抑制されたことは、酸化劣化が抑えられたことにも起因していると考えられる。
【実施例4】
【0047】
<褐変抑制剤を含むオレンジジュースの製造>
(試験例7)
試験例6で得られた茶葉の過熱蒸気抽出物を混濁濃縮オレンジ果汁(Brix66)の還元水として用いて、該濃縮オレンジ果汁を6倍(W/W)希釈することにより、Brix7.6のオレンジジュースを製造した。このオレンジジュースを93℃で3秒間の瞬間殺菌を行った後、PETボトルにホットパック充填した。
【0048】
(比較例5)
イオン交換水にて混濁濃縮オレンジ果汁(Brix66)を6倍(W/W)希釈することにより、Brix7.6のオレンジジュースを製造した。このオレンジジュースを93℃で3秒間の瞬間殺菌を行った後、PETボトルにホットパック充填した。
【0049】
<褐変抑制効果の確認>
試験例7及び比較例5の各オレンジジュースを45℃で2週間保存した。保存前及び保存後の各オレンジジュースに100%エタノールを等量加えた後、遠心分離により不溶性パルプを除去後、得られた各上清についてそれぞれ420nmにおける吸光度を測定することにより、褐変の度合いを調べた。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
表4より、茶葉の過熱蒸気抽出物を飲食品に添加することにより、製造直後の飲食品の色調(水色)を良好にすることができるうえ、経時的な褐変を抑制できることが示された。なお、試験例7では、オレンジジュースに高い濃度で含まれる糖類のメイラード反応が抑えられたこと、及び、酸化劣化が抑えられたことにより、経時的な褐変が抑制されたものと考えられる。
【0052】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記過熱蒸気抽出物は、前記茶葉に過熱水蒸気を接触させた後、その接触後の蒸気を回収することにより得られたものである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の褐変抑制剤。
【0053】
・ 前記茶類飲料は、緑茶、ウーロン茶、紅茶、麦茶、ハト麦茶、ジャスミン茶、プアール茶、ルイボス茶、ハーブ茶又はそれらのブレンド茶である請求項5に記載の飲食品。
・ 前記過熱蒸気抽出物は、前記茶葉に過熱水蒸気を接触させた後、その接触後の蒸気を回収する蒸気抽出により得られたものであり、当該飲食品はさらに、前記蒸気抽出後の茶葉を水抽出することにより得られた茶葉の水抽出物を含有する請求項5に記載の飲食品。
【0054】
・ 前記過熱蒸気抽出物は、前記茶葉に過熱水蒸気を接触させた後、その接触後の蒸気を回収する蒸気抽出により得られたものであり、当該飲食品はさらに、前記蒸気抽出の対象とされていない茶葉を水抽出することにより得られた茶葉の水抽出物を含有する請求項5に記載の飲食品。
【0055】
・ 前記過熱蒸気抽出物は、前記茶葉に過熱水蒸気を接触させた後、その接触後の蒸気を回収する蒸気抽出により得られたものであり、当該飲食品はさらに、前記蒸気抽出の対象とされた茶葉と同じ種類の別の茶葉を水抽出することにより得られた茶葉の水抽出物を含有する請求項5に記載の飲食品。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品の褐変を抑制するために該飲食品に添加される褐変抑制剤であって、
該褐変抑制剤は、茶葉の過熱蒸気抽出物よりなることを特徴とする褐変抑制剤。
【請求項2】
前記茶葉は、緑茶、ウーロン茶又は紅茶の茶葉である請求項1に記載の褐変抑制剤。
【請求項3】
ビタミンCの分解、メイラード反応及び酸化劣化から選ばれる少なくとも一種に起因する前記飲食品の褐変を抑制する作用を有する請求項1又は請求項2に記載の褐変抑制剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の褐変抑制剤を含有する飲食品。
【請求項5】
当該飲食品は、茶類飲料である請求項4に記載の飲食品。

【公開番号】特開2007−75061(P2007−75061A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270466(P2005−270466)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(591134199)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】