説明

親水性添加剤を含むステント用コーティング

埋め込み型医療用具用のコーティング及びその作製方法を開示する。当該コーティングは、疎水性ポリマーと高分子親水性添加剤との混合物を含み、その際、疎水性ポリマー及び高分子親水性添加剤は、物理的に絡み合った、又は相互貫入した系を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントのような埋め込み型医療用具に関する。さらに詳しくは、本発明はステントを被覆するのに使用することができる材料に関する。
【背景技術】
【0002】
医学技術の分野では、薬剤を局所に投与する必要性があることが多い。治療部位に有効な濃度を提供するには、薬物の全身投与は、患者に有害な副作用又は毒性のある副作用を生じることが多い。局所送達は、全身性投与に比べて、少ない総量の薬物が投与されるが、特定の部位で濃縮されるという点で好ましい治療法である。血管の損傷については、ステントを高分子コーティングで改変し、局所薬剤送達能を提供することができる。
【0003】
ステント又はそのほかの埋め込み型用具を被覆するのに使用することができるポリマーの例には、疎水性ポリマー、たとえば、ポリ(n−ブチルメタクリレート)(PBMA)のようなポリ(メタ)アクリレート及びn−ブチルメタクリレート(BMA)に由来する単位を有するコポリマー又はターポリマーが挙げられる。PBMA系及びBMA系のコーティングは、ステントからの薬剤の放出速度の効果的な制御を提供することができる。さらに、PBMA系及びBMA系のポリマーは、生体適合性であり、下にあるステント表面への良好な付着性を有し、容易に加工可能であり、カテーテルで曲げている間、病変部位に送達する間、及び引き伸ばしている間、ステントが受ける伸長、圧縮及び剪断力に耐える能力のような物性及び機械的特性を持つ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、PBMA系及びBMA系のステント用コーティングの特性を改善することができる。たとえば、そのようなコーティングの、特に高分子量を有する薬剤に対する透過性は極めて低く、病変部位への薬剤の供給が不十分になる可能性がある。コーティングを介した放出速度をさらに良好に調節する能力が望ましい。本発明はそのようなコーティングを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
コーティングを含む埋め込み型医療用具を提供するが、該コーティングは少なくとも1種のポリ(メタ)アクリレート及び少なくとも1種のポリアルキレングリコールの混合物を含み、その際、ポリ(メタ)アクリレート及びポリアルキレングリコールの高分子鎖が、物理的に絡み合った、又は相互貫入した系を形成する。ポリ(メタ)アクリレートの例には、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルメタクリレート)、ポリ(イソ−プロピルメタクリレート)、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(イソ−ブチルメタクリレート)、ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(n−プロピルアクリレート)、ポリ(イソ−プロピルアクリレート)、ポリ(n−ブチルアクリレート)、ポリ(イソ−ブチルアクリレート)、及びこれらの混合物が挙げられる。ポリアルキレングリコールの例には、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド)、ポリ(トリメチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)及びこれらの混合物が挙げられる。
【0006】
コーティングを含む埋め込み型医療用具を提供するが、該コーティングは少なくとも1種の疎水性ポリマー及び少なくとも1種の高分子親水性化合物の混合物を含み、その際、疎水性ポリマー及び親水性化合物の高分子鎖が、物理的に絡み合った、又は相互貫入した系を形成する。疎水性ポリマーには、ポリ(メタ)アクリレート、ビニルポリマー、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリマー、ウレタン基を有するポリマー、ポリブチラール、ナイロン、シリコーン、ポリカーボネート又はポリスルホンを挙げることができる。高分子親水性化合物には、ポリアルキレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、キトサン、グルコサミノグルカン、デキストラン、デキストリン、デキストラン硫酸、セルロースアセテート、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース誘導体、ポリペプチド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリアクリルイミド、ポリ(エチレンアミン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、ビニルアルキルエーテル、非イオン性四官能性ブロックコポリマー界面活性剤、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、キチン、ヘパリン、エラスチン、フィブリン及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0007】
埋め込み型基材及びコーティングを含む医療品を提供するが、該コーティングは、バルクポリマー、コーティング中バルクポリマーより量が少ない添加ポリマー及び薬剤を含み、添加ポリマーはバルクポリマーと絡み合う、又は相互貫入する。
【0008】
埋め込み型医療用具用のコーティングを作製する方法を提供するが、該方法は、用具上にコーティングを形成することを含み、該コーティングは少なくとも1種の疎水性ポリマー及び少なくとも1種の高分子親水性化合物の混合物を含み、その際、疎水性ポリマー及び親水性化合物の高分子鎖が、物理的に絡み合った、又は相互貫入した系を形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ステントのような埋め込み型医療用具のためのコーティングは、任意の下塗り層、薬剤/ポリマー層及び任意の上塗り層を包含することができる。薬剤/ポリマー層は、少なくともステント表面の一部に直接塗布し、薬剤/ポリマー層に組み込まれる活性剤又は薬剤の容器として役立つことができる。任意の下塗り層はステントと薬剤/ポリマー層との間に塗布され、薬剤/ポリマー層のステントへの付着性を改善することができる。任意の上塗り層は、少なくとも薬剤/ポリマー層上の一部に塗布され、容器からの薬剤の放出速度を低減することができる。
【0010】
上塗り層は、使用するならば、ステント用コーティングの最外層である。上塗り層が使用されなければ、薬剤/ポリマー層が、ステント用コーティングの最外層である。ステント用コーティングの薬剤/ポリマー層及び/又は上塗り層は、少なくとも1種の疎水性ポリマーを含むことができる。薬剤/ポリマー層からの薬剤の放出速度を調節するために、疎水性ポリマーを少なくとも1種の高分子親水性添加剤と混合又は混和し、疎水性ポリマー及び疎水性添加剤が物理的に絡み合った、混和した及び/又は相互貫入したポリマー系を形成する。このポリマー系は、実施態様の1つでは、コーティングの最外の領域又は層であることができる。
【0011】
以下、疎水性ポリマーを「ポリマー」と呼び、高分子親水性添加剤を「添加剤」と呼ぶ。用語「物理的に絡み合った」は、以下、ポリマーも添加剤も、約200ナノメータより大きい、たとえば、約300ナノメータより大きいような、約100ナノメータより大きなサイズを有する分離相領域を形成しないポリマー/添加剤組成物として定義する。領域のサイズは、領域粒子の最大の直線寸法、たとえば、領域粒子が球形の場合、粒子の直径によって決定される。「物理的に絡み合った」の定義はまた、いったんポリマーと添加剤が物理的に絡み合うと、それらをほどくことはできないが、コーティングを供給している間、又はコーティングから薬剤が放出されてしまうまで物理的に絡み合ったままである状態も包含する。
【0012】
疎水性ポリマーと疎水性添加剤は、以下、ポリマー/添加剤の混合物のサーモグラムが、本質的に純粋なポリマー又は本質的に純粋な添加剤のいずれかに起因する温度遷移を実質的に示さなければ、「混和性」であると定義される。サーモグラムは、当業者に既知の温度解析の常法、たとえば、示差走査熱量計の方法によって得ることができる。
【0013】
用語「相互貫入」は、ポリマーと添加剤が相互貫入したポリマーネットワーク(IPN)を形成するポリマー/添加剤の系として定義される。国際純正応用化学連合(IUPAC)により使用されるIPNの定義を本明細書では採用する。IUPACは、分子の尺度で少なくとも部分的に絡み合いネットワーク間で化学的且つ物理的な結合を形成する2以上のネットワークを含むポリマーとしてIPNを記載している。化学結合を破壊しない限り、IPNのネットワークを分離することはできない。言い換えると、IPN構造は、部分的に化学的に架橋し、且つ部分的に物理的に絡み合った2以上のポリマーのネットワークを表す。
【0014】
本発明の目的で、用語「疎水性」及び「親水性」を定義するのに2つの基準のうち1つを使用することができる。基準の1つのよれば、ポリマー/添加剤の系における成分(すなわち、ポリマー又は添加剤)は、成分の水の平衡吸着量の値によって分類することができる。ポリマー/添加剤の系におけるどちらの成分であれ、室温にてより大きい水の平衡吸着量を有する方が親水性であるとみなされ、もう一方の成分は疎水性であるとみなされる。ポリマー/添加剤の系において2より多くの成分が使用されれば、それぞれを水の平衡吸着量の順にランク分けすることができる。実施態様の1つでは、ポリマーが室温で10質量%未満の水の平衡吸着量を有すれば、ポリマーが疎水性であるとみなされ、添加剤が室温で10質量%以上の水の平衡吸着量を有すれば、添加剤が親水性であるとみなされる。
【0015】
もう一方の基準によれば、ヒルデブランドの溶解性パラメータδの値によって、ポリマー/添加剤の系における成分を分類することができる。用語「ヒルデブランドの溶解性パラメータ」は、物質の凝集性を測定するパラメータを言い、以下のように決定される:
δ=(ΔE/V)1/2
(式中、δは溶解性パラメータ(cal/cm1/2であり、ΔEは蒸発のエネルギー(cal/mole)であり、Vは、モル体積(cm/mole)である。
【0016】
ポリマー/添加剤の系におけるどちらの成分であれ、混合の中で他方のδ値に比べて低いδ値を有する方が疎水性成分であるとされ、さらに高いδ値を持つ他方の成分が親水性であるとされる。混合において2より多くの成分が使用されれば、それぞれをそのδ値の順にランク分けすることができる。例示となる実施態様の1つでは、ポリマー/添加剤の系の疎水性成分と親水性成分の間の境界を定義するδ値は、約10.7(cal/cm1/2でありうる。
【0017】
疎水性の物質は通常、低いδ値を有する。実施態様の1つでは、「疎水性」であるポリマー/添加剤の系の成分は、約10.7(cal/cm1/2より低いヒルデブランドの溶解性パラメータを有しうる。「親水性」であるポリマー/添加剤の系の成分は、約10.7(cal/cm1/2より高い溶解性パラメータを有しうる。
【0018】
ポリマー/添加剤の混合物を作製するには、ポリマーを添加剤と混合することができ、混合物を溶媒又は溶媒の混合物を含む系に溶解することができる。用語「溶解する」は、好適な溶媒又は溶媒の混合物と混ぜ合わせた場合、ポリマー/添加剤の混合物が、噴霧又は浸漬のような一般の技法でステントに塗布できる系を形成可能であることを意味する。とりわけ、ポリマー及び添加剤の性質によって、当業者は溶媒又は溶媒の混合物を選択することができる。
【0019】
次いで、当業者に既知の公知の技法、たとえば、噴霧又は浸漬によってポリマー/添加剤の溶液をステントに塗布し、次いで、たとえば焼成よって乾燥することができる。ポリマー/添加剤の溶液を使用して、ステント用コーティングの上塗り層及び/又は薬剤/ポリマー層を形成することができる。
【0020】
ポリマー/添加剤の溶液におけるポリマー及び添加剤を合わせた質量濃度は、約1%〜約10%の間、たとえば、約2%であることができる。ポリマー/添加剤の溶液における疎水性ポリマーと高分子親水性添加剤の比は、たとえば、約74:1〜約14:1のような約99:1〜約9:1、さらに狭くは約49:1〜約19:1である。たとえば、約2質量%の疎水性ポリマーを含有するポリマー/添加剤の溶液については、高分子親水性添加剤の濃度は、溶液の全質量の約0.04〜約0.1質量%であることができる。
【0021】
種々の代替方法によってポリマー/添加剤の溶液を調製することができる。たとえば、疎水性ポリマー及び高分子親水性添加剤を別々に溶解して疎水性ポリマー溶液及び高分子親水性添加剤溶液を得、次いで2つの溶液を混ぜ合わせてポリマー/添加剤の溶液を形成することができる。或いは、先ず疎水性ポリマーを溶解して疎水性ポリマー溶液を形成し、次いで高分子親水性添加剤を疎水性ポリマー溶液に加えてポリマー/添加剤の溶液を形成することができる。もう1つには、先ず添加剤を溶解して添加剤溶液を形成し、次いでポリマーを加えてポリマー/添加剤の溶液を形成することができる。
【0022】
疎水性ポリマーの例にはポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。用語「ポリ(メタ)アクリレート」はポリメタクリレートとポリアクリレートの双方を言う。使用することができるポリ(メタ)アクリレートの例には、ブチルメタクリレートのホモポリマー及びコポリマー、たとえば、PBMA、ポリ(ビニリデンフルオリド−co−ブチルメタクリレート)、又はポリ(メチルメタクリレート−co−ブチルメタクリレート)が挙げられる。本発明の実践に使用することができるそのほかの疎水性ポリマーの代表例には、以下のポリマー及びそれらの混合物が挙げられる。
【0023】
(a)PBMA又はBMA系のポリメタクリレート以外のポリ(メタ)アクリレート、たとえば、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルメタクリレート)、ポリ(イソプロピルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(n−プロピルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(n−ブチルアクリレート)及びポリ(イソブチルアクリレート)。
【0024】
(b)ポリ(エチレン−co−ビニルアルコール)のようなビニルポリマー、たとえば、少なくとも44%のエチレン由来単位のモル含量を有するポリ(エチレン−co−ビニルアルコール)、ポリ(エチレン−co−ビニルアセテート)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリスチレン、ポリ(スチレン−co−イソブチレン)、ポリ(スチレン−co−エチレン−co−ブチレン−co−スチレン)ターポリマー及びポリ(スチレン−co−ブタジエン−co−スチレン)ターポリマー。
【0025】
(c)ポリオレフィン、たとえば、アタクチックポリプロピレン。
【0026】
(d)ハロゲン化(たとえば、フッ素化又は塩素化)ポリマー、たとえば、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリ(ヘキサフルオロプロペン−co−フッ化ビニリデン)、ポリ(エチレン−co−ヘキサフルオロプロペン)、デュポン・ドゥ・ヌムール&カンパニーから入手可能な種々の等級の非晶性テフロン(ポリテトラフルオロエチレンを含む)、ポリ(塩化ビニル)及びポリ(塩化ビニリデン)。
【0027】
(e)ウレタン基を有するポリマー、たとえば、ポリエーテルウレタン、ポリエステルウレタン、ポリウレタンウレア、ポリカーボネートウレタン及びシリコーンウレタン。
【0028】
(f)ポリブチラール、ナイロン、シリコーン、ポリカーボネート及びポリスルホン。
【0029】
本発明の実践で使用することができる高分子親水性添加剤の代表例には、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、キトサン、グルコサミノグルカン、デキストラン、デキストリン、デキストラン硫酸、セルロースアセテート、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース誘導体、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレングリコール)、プルロニック、テトロニック、ポリ(トリメチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリペプチド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリアクリルイミド、ポリ(エチレンアミン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアルキルエステル、たとえば、ポリ(ビニルメチルエステル)又はポリ(ビニルエチルエステル)、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、キチン、ヘパリン、エラスチン、フィブリン及びこれらの混合物が挙げられる。プルロニックは、ポリ(エチレンオキシド−co−プロピレンオキシド)の商品名である。テトロニックは、一群の非イオン性四官能性ブロックコポリマー界面活性剤の商品名である。プルロニック及びテトロニックは、ニュージャージー州、パーシッパニーのBASF社から入手可能である。
【0030】
疎水性ポリマーと高分子親水性添加剤の物理的絡み合いを達成するために、少なくとも1種のポリマー及び少なくとも1種の添加剤を、少なくとも1種の揮発性の高い溶媒を含む一般の溶媒系で一緒に混合し、次いで、たとえば、噴霧によって溶液をステントに塗布することができる。本明細書で使用するとき、「揮発性の高い溶媒」は、常温にて30トールより大きい蒸気圧を有する溶媒を意味する。揮発性の高い溶媒の例には、アセトン及びメチルエチルケトンが挙げられる。或いは、疎水性ポリマー及び高分子親水性添加剤を物理的に絡み合わせるために、ポリマー及び添加剤を溶融物の中で混合し、次いでたとえば、カーテンコーティングによって溶融物からステントに塗布することができる。
【0031】
疎水性ポリマー及び高分子親水性添加剤の相互貫入系を形成する方法の1つは、双方の成分が可溶性である溶媒又は溶媒混合物にてポリマー及び添加剤を混合することによる。たとえば、噴霧によって溶液をステントに塗布し、次いで乾燥により溶媒を除く。相互貫入系を形成することが可能であるポリマー及び添加剤については、ポリマー及び添加剤は、溶液中で相互貫入し、溶液除去の際も相互貫入したままであることが予想される。
【0032】
或いは、疎水性ポリマー及び高分子親水性添加剤の相互貫入系を形成するために、2つの異なったメカニズムに従って重合することができるポリマー及び添加剤を選択することができる。たとえば、疎水性成分が、イソシアネートとヒドロキシル基との間の縮合反応により重合するカーボネートウレタンである一方で、親水性添加剤は、遊離ラジカルのメカニズムで重合するポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)である。モノマーを普通の溶媒系に溶解し、ステントに塗布し、次いでそのままステント上で重合してもよい。
【0033】
疎水性ポリマー及び高分子親水性添加剤の相互貫入系を形成するもう1つ別の方法として、高分子量のポリマー及び添加剤を選択することができ、各成分は、他方の成分の反応基又は結合基と相互作用することができる反応基又は結合基を有する。たとえば、ヒドロキシ末端を持つPEGのような親水性添加剤を主鎖に沿って活性イソシアネート基を持つ高分子量の疎水性ポリウレタンと混合することができる。添加剤及びポリマーを溶液に混合し、ステントに塗布し、次いで硬化させることができる。場合によっては2つの成分が混和性でなくてもよいが、それらの間の共有結合は、依然として相分離を妨げる。
【0034】
絡み合った及び/又は相互貫入した疎水性ポリマー−高分子親水性添加剤の系の形成を促進するために、重合度で決定されるようなポリマー及び添加剤の鎖長がポリマー及び添加剤の高分子の絡み合い及び/又は相互貫入を促進するような方法で、ポリマー及び添加剤を選択することができる。用語「重合度」は、単一の高分子における繰り返しモノマー単位の数を言う。絡み合い及び/又は相互貫入のネットワークの形成を促進する鎖長は、親水性添加剤の全長が、たとえば80%のような50%〜100%の間の疎水性ポリマーの全長の約10%〜約100%の間にあるようにすることができる。用語「全長」(contour length)は、高分子の主鎖(主鎖)に沿った結合すべてを合わせた長さを言う。全長は、繰り返し単位の結合数によって増やされる重合度として概算することができる。計算には、約1.4Åの平均結合長を使用することができる。以下の例を用いて、ポリマー及び添加剤の分子量をどのように選択してポリマーと添加剤の全長の間で適切な比を達成するかを説明することができる。
【0035】
約200,000の数平均分子量(Mn)を持つPBMAは、1,408の重合度を有し、繰り返し単位当たりのポリマー主鎖で2つの結合を有する。従って、PBMA高分子の全長は約3,940Åである。絡み合いを達成するのに好適な親水性添加剤は、約394Å〜約3,940Åの全長を有するPEGであることができる。PEGは繰り返し単位当たり3つの結合を有するので、約394Å〜約3,940Åの全長を有するPEGについては、相当する重合度は、131〜1,313も間であり、相当するMnは、5,780〜57,800の間である。
【0036】
一般に、疎水性ポリマーのMnは、たとえば、約100,000ダルトンのような約50,000〜約1000,000ダルトンの間であることができる。親水性添加剤の分子量は、たとえば、約40,000ダルトンのような約5,000〜約100,000ダルトンの間であることができる。疎水性ポリマーとしてPBMAを使用するのならば、PBMAの分子量は、たとえば、約200,000ダルトンのような約100,000〜約300,000ダルトンの間であることができる。親水性添加剤としてPEGを使用するならば、PEGの分子量は、たとえば、約20,000ダルトンのような約10,000〜約60,000ダルトンの間であることができる。
【0037】
本発明の実施態様は、ステント、たとえば、バルーンで拡張可能なステント又は自己拡張可能なステントとの関連において記載されるが、そのほかの埋め込み型医療用具を被覆することもできる。そのような埋め込み型用具の例には、ステント移植、移植(たとえば、大動脈移植)、人工心臓弁、脳脊髄液シャント、ペースメーカー電極、及び心内膜リード(たとえば、カリフォルニア州、サンタクララのガイダント社から入手可能なファインライン及びエンドタック)が挙げられる。用具の下にある構造は事実上いかなる設計であってもよい。用具は、たとえば、コバルトクロム合金(エルギロイ)、ステンレス鋼(316L)、「MP35N」、「MP20N」、エラスチナイト(ニチノール)、タンタル、ニッケルチタン合金、白金イリジウム合金、金、マグネシウム、又はそれらの組み合わせのような金属材料又は合金から作製されるが、これらに限定されない。「MP35N」及び「MP20N」は、ペンシルベニア州、ジェンキンタウンのスタンダードプレススチール社から入手可能なコバルト、ニッケル、クロム及びモリブデンの合金の商品名である。「MP35N」は、35%のコバルト、35%のニッケル、20%のクロム及び10%のモリブデンから成る。「MP20N」は、50%のコバルト、20%のニッケル、20%のクロム及び10%のモリブデンから成る。生体吸収性又は生体安定性のポリマーから作製される用具も本発明の実施態様とともに使用すればよい。開示されるポリマー混合物から、用具自体の全体又は一部を作製することができる。
【0038】
薬剤/ポリマー層については、コーティングは活性剤又は薬剤を含むことができる。薬剤は、患者に対して治療効果又は予防効果を発揮することが可能であるいかなる物質も包含することができる。薬剤はまた、低分子薬剤、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチドなどを包含してもよい。たとえば、血管平滑筋細胞の活性を阻害するように薬剤を設計すればよい。再狭窄を抑制するために、平滑筋細胞の異常な又は不適当な移動及び/又は増殖を阻害するように指向することができる。
【0039】
薬剤の例には、アクチノマイシンD又はその誘導体及び類縁体(ウィスコンシン州、ミルウォーキーのシグマ−アルドリッチにより製造される、又はメルクから入手可能なコスメゲン)のような増殖抑制物質が挙げられる。アクチノマイシンDの同義語には、ダクチノマイシン、アクチノマイシンIV、アクチノマイシンI、アクチノマイシンX、及びアクチノマイシンCが挙げられる。活性剤は、抗腫瘍物質、抗炎症性物質、抗血小板物質、抗凝固性物質、抗フィブリン性物質、抗血栓性物質、細胞分裂抑制性物質、抗生物質、抗アレルギー性物質、及び抗酸化物質の種類に分類される。そのような抗腫瘍物質及び/又は細胞分裂抑制性物質の例には、パクリタキセル(たとえば、コネチカット州、スタムフォードのブリストル・マイヤーズ・スクイブによるタキソール(登録商標))、ドセタキセル(たとえば、ドイツ、フランクフルトのアベンティスのタキソテレ(登録商標))、メソトレキセート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、ドキソルビシン塩酸塩(たとえば、ニュージャージー州、ピーパックのファルマシア&アップジョンのアドリアマイシン(登録商標))、及びマイトマイシン(たとえば、コネチカット州、スタムフォードのブリストル・マイヤーズ・スクイブのムタマイシン(登録商標))が挙げられる。そのような抗血小板物質、抗凝固性物質、抗フィブリン性物質、及び抗血栓性物質の例には、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリン様物質、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリン及びプロスタサイクリン類縁体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成抗血栓剤)、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体拮抗剤抗体、組換えヒルジン及びアンギオマックス(商標)(マサチューセッツ州、ケンブリッジ、バイオゲン社)のようなトロンビン阻害剤が挙げられる。そのような細胞増殖抑制剤又は抗増殖剤の例には、アンギオペプチン、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、たとえば、カプトプリル(たとえば、コネチカット州、スタムフォードのブリストル・マイヤーズ・スクイブのカポテン(登録商標)及びカポジド(登録商標))、シラザプリル又はリシノプリル(たとえば、ニュージャージー州、ホワイトハウスステーションのメルク社のプリニビル(登録商標)及びプリンジド(登録商標));カルシウムチャンネル遮断剤(たとえば、ニフェジピン)、コルヒチン、線維芽細胞増殖因子(FGF)拮抗剤、魚油(オメガ3−脂肪酸)、ヒスタミン拮抗剤、ロバスタチン(HMG−CoA還元酵素の阻害剤、コレステロール低下剤、ニュージャージー州、ホワイトハウスステーションのメルク社の商品名、メバコール(登録商標))、モノクローナル抗体(たとえば、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体に特異的なもの)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断剤、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGF拮抗剤)及び酸化窒素の供与体が挙げられる。抗アレルギー剤の例には、ペミロラストカリウムである。適当であってもよいそのほかの治療物質又は治療作用剤には、α−インターフェロン、遺伝子操作を施した上皮細胞、タクロリムス、デキサメタゾン、並びに、ラパマイシン、及び40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン(ノバルティス社から入手可能なエベロリムス(EVEROLIMUS)の商品名で知られる)や40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシンや40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシンや40−O−テトラゾール−ラパマイシンのようなその誘導体又機能的類縁体が挙げられる。
【0040】
高い分子量を有する薬剤の放出速度は低い分子量を有する薬剤の放出速度に比べて遅いことが予想されるので、薬剤の分子量は、ポリマー及び添加剤の分子量並びにポリマーと添加剤の間の比の選択に影響を及ぼしうる。たとえば、エベロリムス(分子量958ダルトンを有する)と併せて、PBMA/PEGの上塗り系を使用する場合、PBMAのMnは、約90,000〜約300,000ダルトンの間、たとえば約190,000ダルトンであることができ、PEGのMnは、約6,000〜約20,000ダルトンの間、たとえば約18,000ダルトンであることができ、PBMAとPEGの間の質量比は、約49:1〜約9:1の間、たとえば、約20:1であることができる。一方、エストラジオール(分子量272を有する)の場合、PBMAのMnは、約150,000〜約900,000ダルトンの間、たとえば約300,000ダルトンであることができ、PEGのMnは、約10,000〜約50,000ダルトンの間、たとえば約30,000ダルトンであることができ、PBMAとPEGの間の質量比は、約99:1〜約25:1の間、たとえば、約49:1であることができる。
【実施例】
【0041】
本発明の実施態様を以下の実施例によってさらに説明する。
〈実施例1〉
第1のポリマー溶液を調製した。溶液は、
(a)約154,000のMnを有する5質量%のポリ(n−ブチルメタクリレート)(PBMA)及び
(b)残部、約4:1のアセトンとシクロヘキサノンの質量比を有する混合物である、アセトンとシクロヘキサノンの溶媒混合物を含有する。
【0042】
第2のポリマー溶液を調製した。溶液は、
(a)約18,000のMnを有する約5質量%のポリ(エチレングリコール)(PEG)及び
(b)残部、約4:1のアセトンとシクロヘキサノンの質量比を有する混合物である、アセトンとシクロヘキサノンの溶媒混合物を含有する。
【0043】
第1のポリマー溶液を第2のポリマー溶液と混ぜ合わせてPBMA/PEG溶液を調製した。約49:1のPBMAとPEGの間の質量比を有するPBMA/PEG溶液を得るように第1のポリマー溶液及び第2のポリマー溶液の量を選択した。
【0044】
PBMA/PEG溶液をスライドグラスに注ぎ、室温にて次いで80℃で約1時間焼くことにより溶媒を除いた。その結果、スライドグラス上に付着したポリマー膜が形成された。図1に示すように、透過偏光にて乾燥したPBMA/PEG膜の光学顕微鏡写真を撮った。そのような光のもとでは非晶性のポリマーは暗く見え、結晶性のポリマーは明るく見える。図1で見られるように、PBMA/PEG系は、均一に暗く見え、PBMA及びPEGの良好な混和性を示している。図1は、PEGが分離相を形成することを示していない。
【0045】
〈実施例2〉
PBMA/PEGの溶液におけるPBMAとPEGの間の質量比を約19:1にした以外、実施例1に記載したように、PBMA/PEGの溶液を調製した。実施例1に記載したように、PBMA/PEGの溶液からスライドグラス上にポリマーの膜を形成した。実施例1に記載したように、乾燥したPBMA/PEG膜の光学顕微鏡写真を撮った。図2によって顕微鏡写真を示す。図2に見られるように、PBMA/PEG系はほとんど均一に見え、PEGにより形成された結晶性の若干の相が顕微鏡写真上の明るい点によって表された。
【0046】
〈実施例3〉
PBMA/PEGの溶液におけるPBMAとPEGの間の質量比を約10:1にした以外、実施例1に記載したように、PBMA/PEGの溶液を調製した。実施例1に記載したように、PBMA/PEGの溶液からスライドグラス上にポリマーの膜を形成した。実施例1に記載したように、乾燥したPBMA/PEG膜の光学顕微鏡写真を撮った。図3によって顕微鏡写真を示す。図3に見られるように、PBMA/PEG系は、目に見える結晶性領域を含む。実施例2で記載された膜に比べて、図3で示される膜は、PEGによって形成されたさらに実質的な量の結晶性の相を含んでいた。
【0047】
〈実施例4〉
以下の成分を混合することにより第1の組成物を調製した:
(a)約1.0質量%〜約15質量%の間、たとえば、2.0質量%のポリ(エチレン−co−ビニルアルコール)(EVAL)及び
(b)残部、DMAC溶媒。
【0048】
噴霧によって第1の組成物をベア18mmのビジョンステント(ガイダント社から入手可能)の表面に塗布し、乾燥して下塗り層を形成した。約0.2気圧(約3psi)の搬送圧及び約1.3気圧(約20psi)の噴霧化圧で約60℃に維持された0.014のファンノズルを有するスプレーコーターを用いた。約70μgの湿潤コーティングを塗布した。140℃にて2時間、湿潤コーティングを焼くことによって乾燥した下塗り層を得た。
【0049】
以下の成分を混合することにより、第2の組成物を調製した:
(a)約2.0質量%のEVAL、
(b)約1.6質量%のエベロリムス、及び
(c)残部、DMAC溶媒。
【0050】
下塗り層を塗布するのに用いたのと同じ噴霧技法及び器具を用いて、第2の組成物を乾燥した下塗り層の上に塗布し、薬剤/ポリマー層を形成した。約300μgの湿潤コーティングを塗布し、次いで上述のように焼くことにより乾燥した。薬剤/ポリマー層は、約130μgのエベロリムスを含有した。
【0051】
以下の成分を混合することにより、第3の組成物を調製した:
(a)約154,000のMnの約2質量%のPBMA、
(b)約18,000のMnの約0.1質量%のPEG、及び
(c)残部、溶媒、アセトンとシクロヘキサノンの質量比1:1の混合物。
【0052】
下塗り層及び薬剤/ポリマー層を塗布するのに用いたのと同じ噴霧技法及び器具を用いて、第3の組成物を薬剤/ポリマー層の上に塗布し、上塗り層を形成した。約200μgの湿潤コーティングを塗布し、次いで上述のように焼くことにより乾燥した。乾燥した上塗り層の最終的な量は50μgであった。
【0053】
クロマトグラフィ(HPLC)により生体内で放出されたエベロリムスの動態を検討した。動態を検討するために、本実施例において上述のように3つのステントを被覆した。本検討の結果を図4により示されるチャートによって説明する。PBMA/PEGの上塗りを有するステント用コーティングから放出されたエベロリムスの量を測定した(曲線1)。3つのステントから得られたデータの平均を使用して曲線1をプロットした。対照として、上塗りがPBMA/PEGの代わりに純粋なPBMAのみを含むこと以外、同一の2つの対照ステントを用いた。2つの対照ステントから得られたデータの平均を用いて対照の曲線2をプロットした。図4に見られるように、PBMA/PEGの上塗りを介したエベロリムスの放出速度は、PBMAの上塗りを介した放出速度の約2倍である。
【0054】
〈実施例5〉
実施例4に記載したように、下塗り層及び薬剤/ポリマー層をステント上に形成することができるが、エベロリムスの代わりにラパマイシンを使用することができる。次いで、以下の成分を混合することにより上塗り組成物を調製することができる:
(a)約154,000のMnの約2質量%のPBMA、
(b)約18,000のMnの約0.05質量%のPEG、及び
(c)約40,000のMnを有する約0.05質量%のポリ(プロピレングリコール)(PPG)、及び
(d)残部、溶媒、アセトンとシクロヘキサノンの質量比1:1の混合物。
【0055】
所望であれば、上塗り組成物においてPPGの代わりにポリ(テトラメチレングリコール)(PTMG)を使用することができる。PTMGのMnは約40,000であることができる。PPGの代わりにPPGとPTMGとのいかなる比も有するPPG/PTMGの混合物も適宜使用することができる。本実施例では、上塗り組成物中でPEGとPPGとの質量比は、1:1である。所望であれば、PPG又はPTMG又はそれらの混合物の量は、PEGの2倍量までにすることができる。適宜、上塗り組成物におけるPEGすべてをPPG又はPTMG又はそれらの混合物で置き換えることができる。
【0056】
下塗り層及び薬剤/ポリマー層を塗布するのに用いたのと同じ噴霧技法及び器具を用いて、上塗り組成物を薬剤/ポリマー層の上に塗布し、上塗り層を形成することができる。約200μgの湿潤コーティングを塗布し、次いで上述のように焼くことにより乾燥することができる。乾燥した上塗り層の最終的な量は50μgであることができる。
【0057】
〈実施例6〉
実施例4に記載したように、下塗り層及び薬剤/ポリマー層をステント上に形成することができる。次いで、以下の成分を混合することにより上塗り組成物を調製することができる:
(a)約1.0質量%〜約15質量%の間、たとえば、1.9質量%の、約125,000のMnを有するポリ(ヘキサフルオロプロペン−co−フッ化ビニリデン)(PHFP−VDF)、
(b)約0.04質量%〜約0.8質量%の間、たとえば、0.1質量%のF127プルロニックコポリマー、及び
(c)残部、溶媒混合物、約1:1の質量比でアセトンとシクロヘキサノンを含む溶媒混合物。
【0058】
F127プルロニックは、第1級ヒドロキシル基を末端に持つ二官能性のポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)−ポリ(エチレンオキシド)トリブロックコポリマーである。F127プルロニックは、約12,600のMnを有する。
【0059】
下塗り層及び薬剤/ポリマー層を塗布するのに用いたのと同じ噴霧技法及び器具を用いて、上塗り組成物を薬剤/ポリマー層の上に塗布し、上塗り層を形成することができる。約200μgの湿潤コーティングを塗布し、次いで上述のように焼くことにより乾燥することができる。乾燥した上塗り層の最終的な量は50μgであることができる。
【0060】
本発明の特定の実施態様を示し、説明してきたが、さらに広い側面において本発明から逸脱することなく、変更及び改変を行えることは当業者に明らかであろう。従って、添付のクレームは、本発明の真の精神及び範囲に入るものとして、そのような変更及び改変すべてをその範囲内に包含すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の種々の実施態様に従ったコーティングの光学顕微鏡写真である。
【図2】本発明の種々の実施態様に従ったコーティングの光学顕微鏡写真である。
【図3】本発明の種々の実施態様に従ったコーティングの光学顕微鏡写真である。
【図4】本発明のステント用コーティングの1つを介した薬剤の生体外放出の動態を説明するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングを含む埋め込み型医療用具であって、前記コーティングが少なくとも1種のポリ(メタ)アクリレート及び少なくとも1種のポリアルキレングリコールの混合物を含み、前記ポリ(メタ)アクリレート及び前記ポリアルキレングリコールの高分子鎖が物理的に絡み合った、又は相互貫入した系を形成する、用具。
【請求項2】
前記用具がステントである、請求項1の用具。
【請求項3】
前記ポリ(メタ)アクリレートと前記ポリアルキレングリコールとの間の比が約99:1〜約9:1の間である、請求項1の用具。
【請求項4】
前記ポリ(メタ)アクリレートが、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルメタクリレート)、ポリ(イソ−プロピルメタクリレート)、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(イソ−ブチルメタクリレート)、ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(n−プロピルアクリレート)、ポリ(イソ−プロピルアクリレート)、ポリ(n−ブチルアクリレート)、ポリ(イソ−ブチルアクリレート)、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項1の用具。
【請求項5】
前記ポリアルキレングリコールが、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド)、ポリ(トリメチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項1の用具。
【請求項6】
前記コーティングがさらに薬剤を含む、請求項1の用具。
【請求項7】
前記薬剤が、ラパマイシン、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、40−O−テトラゾール−ラパマイシン及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項6の用具。
【請求項8】
コーティングを含む埋め込み型医療用具であって、前記コーティングが少なくとも1種の疎水性ポリマー及び少なくとも1種の高分子親水性化合物の混合物を含み、前記疎水性ポリマー及び前記親水性化合物の高分子鎖が物理的に絡み合った、又は相互貫入した系を形成する用具。
【請求項9】
用具がステントである、請求項8の用具。
【請求項10】
前記疎水性ポリマーが約10.7(cal/cm1/2未満のヒルデブランドの溶解性パラメータを有する、請求項8の用具。
【請求項11】
前記疎水性ポリマーが室温にて約10質量%未満の水の平衡吸着量を有する、請求項8の用具。
【請求項12】
前記疎水性ポリマーが、ポリ(メタ)アクリレート、ビニルポリマー、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリマー、ウレタン基を有するポリマー、ポリブチラール、ナイロン、シリコーン、ポリカーボネート又はポリスルホンを含む、請求項8の用具。
【請求項13】
前記ポリ(メタ)アクリレートが、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルメタクリレート)、ポリ(イソ−プロピルメタクリレート)、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(イソ−ブチルメタクリレート)、ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(n−プロピルアクリレート)、ポリ(イソ−プロピルアクリレート)、ポリ(n−ブチルアクリレート)、ポリ(イソ−ブチルアクリレート)、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項12の用具。
【請求項14】
前記ビニルポリマーが、ポリ(エチレン−co−ビニルアルコール)、ポリ(エチレン−co−ビニルアセテート)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリスチレン、ポリ(スチレン−co−イソ−ブチレン)、ポリ(スチレン−co−エチレン−co−ブチレン−co−スチレン)ターポリマー及びポリ(スチレン−co−ブタジエン−co−スチレン)ターポリマー及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項12の用具。
【請求項15】
前記ポリオレフィンがアタクチックポリプロピレンである、請求項12の用具。
【請求項16】
ハロゲン化ポリマーが、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリ(ヘキサフルオロプロペン−co−フッ化ビニリデン)、ポリ(エチレン−co−ヘキサフルオロプロペン)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(塩化ビニル)及びポリ(塩化ビニリデン)及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項12の用具。
【請求項17】
前記ウレタン基を有するポリマーが、ポリエーテルウレタン、ポリエステルウレタン、ポリウレタンウレア、ポリカーボネートウレタン、シリコーンウレタン及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項12の用具。
【請求項18】
前記高分子親水性化合物が、ポリアルキレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、キトサン、グルコサミノグルカン、デキストラン、デキストリン、デキストラン硫酸、セルロースアセテート、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース誘導体、ポリペプチド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリアクリルイミド、ポリ(エチレンアミン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、ビニルアルキルエーテル、非イオン性四官能性ブロックコポリマー界面活性剤、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、キチン、ヘパリン、エラスチン、フィブリン及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項8の用具。
【請求項19】
前記ポリアルキレングリコールが、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド)、ポリ(トリメチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項18の用具。
【請求項20】
前記疎水性ポリマーと前記高分子親水性添加剤との間の比が約99:1〜約9:1の間である、請求項8の用具。
【請求項21】
前記コーティングがさらに薬剤を含む、請求項8の用具。
【請求項22】
前記薬剤が、ラパマイシン、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、40−O−テトラゾール−ラパマイシン及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項21の用具。
【請求項23】
埋め込み型基材及びコーティングを含む医療品であって、前記コーティングが、
(a)バルクポリマー、
(b)コーティングにおいて前記バルクポリマーより量が少なく、前記バルクポリマーと絡まり合う又は相互貫入する添加ポリマー、及び
(c)薬剤を含み、
前記添加ポリマーが前記コーティングからの薬剤の放出速度を変化させる医療品。
【請求項24】
バルクポリマーに対する添加ポリマーの比を高めることによって薬剤の放出速度を高める、請求項23の医療品。
【請求項25】
前記バルクポリマーが前記添加ポリマーよりも疎水性である、請求項23の医療品。
【請求項26】
前記バルクポリマーがポリ(メタ)アクリレートを含む、請求項23の医療品。
【請求項27】
前記ポリ(メタ)アクリレートが、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルメタクリレート)、ポリ(イソ−プロピルメタクリレート)、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(イソ−ブチルメタクリレート)、ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(n−プロピルアクリレート)、ポリ(イソ−プロピルアクリレート)、ポリ(n−ブチルアクリレート)、ポリ(イソ−ブチルアクリレート)、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項23の医療品。
【請求項28】
前記添加ポリマーがポリアルキレングリコールを含む、請求項23の医療品。
【請求項29】
前記ポリアルキレングリコールが、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド)、ポリ(トリメチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項28の医療品。
【請求項30】
前記添加ポリマーの全長が、前記バルクポリマーの全長の約10%〜約100%の間である、請求項23の医療品。
【請求項31】
埋め込み型医療用具用のコーティングを作製する方法であって、前記用具上にコーティングを形成することを含み、前記コーティングは、少なくとも1種の疎水性ポリマー及び少なくとも1種の高分子親水性化合物の混合物を含み、疎水性ポリマー及び親水性化合物の高分子鎖が、物理的に絡み合った又は相互貫入した系を形成する、方法。
【請求項32】
前記用具がステントである、請求項31の方法。
【請求項33】
前記疎水性ポリマーが約10.7(cal/cm1/2未満のヒルデブランドの溶解性パラメータを有する、請求項31の方法。
【請求項34】
前記疎水性ポリマーが室温にて約10質量%未満の水の平衡吸着量を有する、請求項31の方法。
【請求項35】
前記疎水性ポリマーが、ポリ(メタ)アクリレート、ビニルポリマー、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリマー、ウレタン基を有するポリマー、ポリブチラール、ナイロン、シリコーン、ポリカーボネート又はポリスルホンを含む、請求項31の方法。
【請求項36】
前記ポリ(メタ)アクリレートが、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルメタクリレート)、ポリ(イソ−プロピルメタクリレート)、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(イソ−ブチルメタクリレート)、ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(n−プロピルアクリレート)、ポリ(イソ−プロピルアクリレート)、ポリ(n−ブチルアクリレート)、ポリ(イソ−ブチルアクリレート)、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項35の方法。
【請求項37】
前記ビニルポリマーが、ポリ(エチレン−co−ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリスチレン、ポリ(スチレン−co−イソブチレン)、ポリ(スチレン−co−エチレン−co−ブチレン−co−スチレン)ターポリマー及びポリ(スチレン−co−ブタジエン−co−スチレン)ターポリマー及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項35の方法。
【請求項38】
前記ポリオレフィンがアタクチックポリプロピレンである、請求項35の方法。
【請求項39】
前記ハロゲン化ポリマーが、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリ(ヘキサフルオロプロペン−co−フッ化ビニリデン)、ポリ(エチレン−co−ヘキサフルオロプロペン)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(塩化ビニル)及びポリ(塩化ビニリデン)及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項35の方法。
【請求項40】
前記ウレタン基を有するポリマーが、ポリエーテルウレタン、ポリエステルウレタン、ポリウレタンウレア、ポリカーボネートウレタン、シリコーンウレタン及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項35の方法。
【請求項41】
前記高分子親水性化合物が、ポリアルキレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、キトサン、グルコサミノグルカン、デキストラン、デキストリン、デキストラン硫酸、セルロースアセテート、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース誘導体、ポリペプチド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリアクリルイミド、ポリ(エチレンアミン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、ビニルアルキルエーテル、非イオン性四官能性ブロックコポリマー界面活性剤、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、キチン、ヘパリン、エラスチン、フィブリン及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項31の方法。
【請求項42】
前記ポリアルキレングリコールが、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド−co−ポリプロピレンオキシド)、ポリ(トリメチレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項41の方法。
【請求項43】
前記疎水性ポリマーと前記高分子親水性添加剤との間の比が約99:1〜約9:1の間である、請求項31の方法。
【請求項44】
前記コーティングがさらに薬剤を含む、請求項31の方法。
【請求項45】
前記薬剤が、ラパマイシン、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン、40−O−(3−ヒドロキシ)プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン、40−O−テトラゾール−ラパマイシン及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項44の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−515199(P2007−515199A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532338(P2006−532338)
【出願日】平成16年3月23日(2004.3.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/009011
【国際公開番号】WO2004/101018
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504183388)アドヴァンスド カーディオヴァスキュラー システムズ, インコーポレイテッド (40)
【Fターム(参考)】