説明

触媒コンバータを有する内燃機関の排気ガスの浄化方法

本発明は、酸素貯蔵成分を含む触媒コンバータを有する内燃機関の排気ガスの浄化方法に関する。本発明は特に、比較的短時間または比較的長時間の間、機関がリーン条件下で稼働された後の、制御されたストイキオメトリ稼働のための、酸素貯蔵成分の最適な充填度の回復に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、酸素貯蔵成分を含む触媒コンバータを有する内燃機関の排気ガスの浄化方法に関する。本発明は特に、リーン条件下で稼働された後の、機関の制御された(ラムダ調節された)ストイキオメトリ稼働のための、酸素貯蔵成分の最適な充填度の回復に関する。
【0002】
かかる機関の排気ガスを浄化するために、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および窒素酸化物(NOx)を排気ガスから同時に除去する、いわゆる三元触媒コンバータが使用される。
【0003】
空気比ラムダ(λ)は、機関に供給される空気/燃料混合物の組成を記述するためによく使用される。前記の空気比は、ストイキオメトリの条件に関して正規化された空気/燃料比である。空気/燃料比は、燃料1キログラムあたり何キログラムの空気が内燃機関に供給されるかを述べている。ストイキオメトリでの燃焼のための空気/燃料比は、通常の機関の燃料について14.7である。この点で、空気比ラムダは1である。14.7未満の空気/燃料比、または1未満の空気比は、リッチとして称され、且つ、14.7を上回る空気/燃料比または1を上回る空気比はリーンとして称される。
【0004】
内燃機関内で排気ガスの特定の成分についての貯蔵効果が生じない場合、排気ガスの空気比は、機関に供給される空気/燃料混合物の比に相応する。3つの汚染物質の高度な変換を得るためには、空気比ラムダを、λ=1(ストイキオメトリ条件)付近の非常に狭い範囲に設定しなければならない。3つの汚染物質全てが少なくとも80%変換されるλ=1付近の区間は、しばしばラムダウインドウとして称される。
【0005】
排気ガス中の酸素含有率の揺らぎを補償するために、三元触媒コンバータは、リーン排気ガス条件下(λ>1)で酸素を貯蔵し、且つリッチ排気ガス条件下(λ<1)で酸素を放出し、それにより排気ガスのストイキオメトリをλ=1に設定する、酸素貯蔵成分(OSC)を含む。酸化状態における変化を可能にする化合物が、触媒コンバータ内の酸素貯蔵成分として適している。好ましくは、セリウム酸化物が使用され、それはCe23として、およびCeO2としての両方で存在できる。セリウム酸化物を安定化させるために、それは例えばジルコニウム酸化物との混合酸化物として使用される。
【0006】
以下で、酸素貯蔵成分の貯蔵能は、1グラムあたりの酸素貯蔵成分によって吸収され得る酸素の質量を意味すると理解されるべきである。従って、充填度は、実際に貯蔵された酸素の質量の、貯蔵能に対する比に関する。貯蔵能は、当業者に公知の様々な方法を使用して実験的に測定できる。
【0007】
空気比の制御の狙いは、酸素貯蔵物を完全に充填することまたは実質的な空化(emptying)を防ぐことである。酸素貯有物の完全な充填の場合、リーン排気ガスの漏出が起き、従って、窒素酸化物が放出される。実質的な空化の場合、リッチ漏出が起き、即ち、一酸化炭素および炭化水素が放出される。
【0008】
排気ガスの流れ方向において触媒コンバータ(触媒前プローブ(pre−cat probe))の上流に配置される酸素プローブ(ラムダプローブ)の信号は、空気比を制御するために使用される。前記プローブによって、機関に供給される空気/燃料混合物は、排気ガスが触媒コンバータに入る前にストイキオメトリ組成であるように制御される。この発明の文脈内で、前記制御はラムダ制御として示される。酸素プローブは通常、触媒前プローブに加えて、触媒コンバータの駆動系下流に組み込まれる。ラムダ制御の目標のストイキオメトリは、前記の触媒後プローブによって再調整できる。これを触媒後制御(post−cat regulation)として示す。触媒後制御は、特に、触媒コンバータの酸素貯蔵物の充填度を監視し、且つ調整するためにはたらく。
【0009】
該プローブは、排気ガスの酸素含有率に応じて電圧を発生させる。このために、通常、2点ラムダプローブが使用され、それは段階変化ラムダプローブとしても示される。リーン排気ガス条件下で、前記ラムダプローブは約0.2Vの電圧を有し、それは、リッチ排気ガスへの移行の際に非常に狭いラムダ区間内で0.2Vから0.7Vより上へと跳ね上がる。ここで、触媒後制御は、約0.65Vのプローブ電圧を生じるように構成される。この点は、プローブの特徴的な曲線の最も急峻な枝路(branch)上にあり、且つ約50%の酸素貯蔵物の最適な充填度に相応する。この方法において、排気ガスのストイキオメトリからの高い方へのずれまたは低い方へのずれを容易に検出でき、且つ修正できる。
【0010】
火花点火機関は、主に、ストイキオメトリ組成の空気/燃料混合物を用いて稼働される。しかしながら、機関がもはや動力を出力しなければ、燃料供給は通常、遮断される。この、いわゆる惰性走行燃料遮断(overrun fuel cutoff)の場合、空気だけが機関に供給され、従って排気ガス組成は周囲空気に相応する。
【0011】
惰性走行燃料遮断の間、触媒コンバータの酸素貯蔵成分は酸素で完全に飽和されるか、または充填される。惰性走行燃料遮断の間、触媒後制御は不可能である。惰性走行燃料遮断とは別に、酸素貯蔵物の完全な充填は、他の駆動状況においても生じることがあり、例えばラムダ制御の制御エラーのために生じることがある。
【0012】
惰性走行燃料遮断の終了後、制御されたストイキオメトリ稼働が可能な限り迅速に再開されるべきである。しかしながらこのために、まず、酸素貯蔵物の充填度が約50%の最適値に戻されることが必要である。この理由のために、機関は通常、惰性走行燃料遮断後、リッチ空気/燃料混合物を用いて、暫時、稼働される。リッチ空気/燃料混合物を用いた前記の短い稼働は、リッチパルスとしても示される。酸素貯蔵物の充填度が約50%に戻された場合のみ、正規の触媒後制御が再開される。選択的に、惰性走行燃料遮断の終了後、触媒後制御が直接的に再作動されることも知られている。両方の方法は、ラムダ制御のための最適条件を設定するために比較的長い時間がかかるという欠点を有している。前記の時間の間、不所望の放出が起きることがある。
【0013】
DE102004038482号B3は、機関の過渡的な稼働状態、例えば惰性走行燃料遮断などの後の酸素貯蔵物の充填度の設定に関する。惰性走行燃料遮断の場合、酸素貯蔵物は、迅速にその充填度の約50%の最適値へと空化されるべきである。このために、リッチ空気/燃料比λ<1が設定され、その後、最適な速度で1へと戻るように調整される。
【0014】
DE102004019831号A1は、惰性走行燃料遮断相の間の排気ガス触媒コンバータの不所望の酸素装填を、定義された、予め決定されたラムダ値を有する触媒コンバータの質量流量を触媒コンバータに供給することによって防止する。
【0015】
DE102006044458号A1は、同様に、惰性走行燃料遮断後の燃料噴射に関する。ここで、惰性走行燃料遮断の終了後の第一の燃料噴射の間、燃料のパルス幅は、燃料供給量が、吸気口の空気量に関して著しく増加するように設定され、且つ点火時間は、第一の遅延点火時間に設定される。第二および次の燃料噴射の間、燃料のより小さい増加幅を有する燃料パルス幅が設定され、且つ、点火時間は第二の遅延点火時間に設定され、その第二の遅延点火時間は第一の遅延点火時間よりも少ない程度に遅延されている。
【0016】
本発明者らは、公知の方法においては、惰性走行燃料遮断後のリッチパルスが、一酸化炭素および水素の一時的な放出をみちびくことを観察した。前記の放出は、約100秒の間続き、最大で10〜500ppmの一酸化炭素濃度を有し、その結果、惰性走行燃料遮断後の、触媒後制御が妨害され、且つ遅延される。
【0017】
従って、本発明の課題は、惰性走行燃料遮断から制御されたストイキオメトリ稼働への移行を促進できる方法を規定することである。
【0018】
該課題は、主請求項に定義された方法によって解決される。好ましい実施態様は、従属請求項において特許請求される。
【0019】
本方法は、酸素貯蔵成分から構成される酸素貯蔵物を含む触媒コンバータを有する内燃機関であって、電子機関制御機構を装備し、且つその稼働期間の大半にわたって制御されたストイキオメトリの空気/燃料混合物を用いて稼働され、運転状況に応じて一時的なリーン稼働相も生じる、前記内燃機関の排気ガスの浄化に関する。
【0020】
該方法は、酸素貯有物の実質的な充填と関連する、リーン空気/燃料混合物を用いた機関の一時的なリーン稼働相の後、且つ制御された機関稼働の再開前に、機関がリッチパルス、次にリーンパルスを用いて供給されるおかげで、酸素貯蔵物の充填度がストイキオメトリ稼働のために最適な水準に戻され、リーンパルスによって触媒コンバータに供給される酸化性成分の量は、リッチパルスによって供給されるリッチ排気ガス成分の量を完全に補償するために必要とされ得るよりも低いことを特徴とする。
【0021】
本発明は、惰性走行燃料遮断後、短いリッチパルスに短いリーンパルスが続いた場合、空気/燃料比のストイキオメトリ制御のための酸素貯蔵物の最適な充填度が、惰性走行燃料遮断後、非常に迅速に回復され得るという観察に基づいている。ここで、リッチパルスおよびリーンパルスは、機関に供給される空気/燃料比の相応する調整によって生成される。これは好ましくは、相応する時系列のラムダプロファイルを予め定義する触媒前ラムダプローブのおかげで生じる。ラムダプロファイルが終了し、且つ酸素貯蔵物の最適な充填度に達した後(それは約0.6〜0.7ボルト、好ましくは0.65ボルトの触媒後信号電圧によって同定できる)、触媒前制御および触媒後制御を用いた正規のラムダ制御が再開される。
【0022】
本発明者らは、排気ガスにおける酸素貯蔵物の酸化(充填)または還元(空化)が、平衡過程を構成することを見出した。本発明者らによる、表題「Is Oxygen Storage in Three Way Catalysts an Equilibrium Controlled Process?」の論文が、論文誌「Applied Catalysis B: Environmental」にアクセプトされ、掲載が決定している。
【0023】
定常状態での稼働において、酸素貯蔵物の平衡状態は常に、排気ガスの還元および酸化性成分を用いて設定されている、即ち、平衡状態において、一酸化炭素、水素または炭化水素による酸素貯蔵物の還元は、二酸化炭素と水と共に、相応する酸化によって正確に補償されている。
【0024】
前記平衡挙動の重要な結果は、貯有物の最大の到達可能な空化度が、排気ガスのストイキオメトリに依存することである。例えば、ラムダ=0.95で、貯有物は、ラムダ=0.99よりも完全に還元され(空化され)る。
【0025】
平衡挙動のさらなる結果は、完全に空化された酸素貯蔵物も、適度にリッチな排気ガスを用いて新たな平衡状態が設定されるまで、適度にリッチな排気ガスによって部分的に再度酸化されることである。ここで、酸素貯有物は、水または二酸化炭素との反応によって、一酸化炭素および水素の成分を形成する。前記状況は、先行技術によれば、惰性走行燃料遮断後、酸素貯蔵物がリッチパルスのみで再度空化される場合に生じる。前記単独のリッチパルスによって、酸素貯蔵物は著しく減少される(徹底的に空化される)。前記の徹底的に空化された酸素貯蔵物は、リッチパルス後にストイキオメトリまたはわずかにリッチな排気ガスと反応し、それが一酸化炭素および水素を10〜数100秒の時間の間、生成する。前記一酸化炭素および水素放出物の典型的な濃度は、約10ppmから500ppmである。前記汚染物質放出物は、リッチパルスが突然終了せずに、むしろゆっくりとストイキオメトリの値に戻される場合、わずかに減少されることがある。しかしながら、これは、惰性走行燃料遮断の終了と、制御された稼働の再開の間の時間を引き延ばし、さらなる汚染物質放出のリスクを伴う。
【0026】
前記方法のより正確な分析において、触媒コンバータに沿った酸素貯蔵物の酸化および還元の分布を考慮に入れることも必要である。リッチパルスは初めに、触媒コンバータの入口端の表面に当たる。リッチパルスが、触媒コンバータの酸素貯蔵物全体を部分的にのみ空化することができるような大きさにされているとしても、やはり酸素貯蔵物の徹底的な空化が、触媒コンバータの前部で生じ、従って該パルスの結果として、一酸化炭素と水素との遅延された放出が起きる。前記方法において、触媒コンバータの後部は、部分的にしか空化されない。最も好ましい場合、触媒コンバータの前部から放出された一酸化炭素、および水素は、触媒コンバータの後部を所望の程度に空化できる。しかしながら、この場合、一酸化炭素および水素放出の遅さのために、酸素貯蔵物が触媒コンバータの長さ全体にわたって完全に空化され、且つ、触媒コンバータの排気ガス下流のストイキオメトリが定常状態の値に相応するまで、10〜100秒かかる。
【0027】
先行技術によって稼働される車両における、上述の一酸化炭素および水素の放出は、触媒後制御の再開の安定性に悪影響を及ぼす。触媒後制御のために、触媒コンバータの下流に配置されたプローブが使用される。触媒コンバータ内で生じる一酸化炭素および水素放出の結果として、触媒後制御は全体的にリッチな排気ガスによって誤った方向に導かれる。触媒後制御は、リッチオフセットを、機関に供給される空気/燃料混合物を設定することによって補償してよりリーンにしようとする。前記リーン化の結果、酸素貯蔵物は、制御の実際の目的に反して、再度、酸素で充填される。充填状態において、排気ガスの最もわずかなリーン偏位の場合に、窒素酸化物の漏出が起きる。上述の現象の結果は、惰性走行燃料遮断後に、しばしば触媒後制御の正しい稼働への切り替えが困難であることを証明する。前記問題に対する1つの解決策は、触媒後制御を、惰性走行燃料遮断後の特定の時間の間、停止することである。しかしながら、前記の解決策は最適ではなく、なぜなら、その際、触媒コンバータが、比較的長い時間にわたって、制御されずに稼働されるからである。
【0028】
酸素貯蔵物の実質的な還元に続く、上述の一酸化炭素および水素の排出は、惰性走行燃料遮断後だけでなく、悪影響を有する。正常稼働においても、短い制御エラーが、特に動的な稼働相において起きることがあり、その制御エラーが酸素貯有物の完全な充填をみちびく。該貯有物が実質的に充填され、且つ、同時に排気ガスのストイキオメトリがリーン領域に、暫時、偏位する場合、リーン漏出が起き、それが触媒後プローブによって記録される。序文で記載した通り、触媒後プローブの信号は、ラムダ制御の目標ストイキオメトリを再調整するために使用される。この場合、触媒後制御は、機関に供給される空気/燃料混合物をもたらし、再度リッチにする。前記のリッチ化は、惰性走行燃料遮断後のリッチパルスと同様の効果を有している: 酸素貯蔵物がまず非常に徹底的に空化される。前記の徹底的な空化は、上述の一酸化炭素および水素の排出をもたらす。触媒後制御は、機関に供給される空気/燃料混合物のリーン化で、これに反応し、それが触媒後プローブ電圧の低下と共に新たなリーン漏出をみちびくことがある。触媒後プローブ電圧の低下は、一酸化炭素および水素の排出、リーン化、およびリーン漏出の上述の過程を初めから開始する。従って、排気ガスのストイキオメトリの周期的な振動が、周期的なリーン漏出および相応する窒素酸化物の排出と共に起きる。前記振動挙動は、制御技師によく知られている。振動を防ぐために、制御の応答時間は、制御パラメータの調整によって増加されなければならない。前記の解決策は、当然、最適ではなく、なぜなら、制御速度の低下の結果、運転作業において必然的に起きるラムダ変位が、不必要に長くされた応答時間でのみ補償され得るからである。
【0029】
本発明によれば、リーン稼働相の終了後、少なくとも1つのリッチパルスおよび1つのリーンパルスを用いて、酸素貯蔵物の充填度を、次の触媒後制御のために最適な水準に戻すので、従来の方法の前記の問題が低減されるか、または完全に消去すらされる。
【0030】
ここで、リッチ排気ガス成分の量が、ストイキオメトリ稼働のために最適な充填度を設定するために必要とされるよりも多いが、しかし、酸素貯有物の貯蔵能の完全な空化のために必要とされ得るリッチ排気ガス成分の量よりも少ないことが好ましい。
【0031】
従って、本発明によれば、まず、触媒コンバータをその長さ全体にわたって空化できるリッチパルスを使用する。ここで、貯有物の前部が徹底的に空化される。前部における前記の徹底的な空化は、比較的小さなリーンパルスによって終了される。予め徹底的に空化されたゾーンの後部も充填するために、リーンパルスが、触媒コンバータの入口での小さなゾーンを、最適な充填度を超えて再度、必然的に充填する。これは、さらなるリッチパルスによって補償されることができ、前記さらなるリッチパルスは、それにより供給されるリッチ成分の量が、先行するリーンパルスを完全に補償するために必要とされるよりも少ないように選択される。
【0032】
第一のリッチパルス中の還元剤の量は、完全な酸化状態からストイキオメトリ稼働状態への移行の際に、触媒コンバータから引き出されるべき酸素の等量よりも大きくなければならない。従って、まず、触媒コンバータは徹底的に空化される。しかしながら、第一のリッチパルス中の還元剤の量は、好ましくは、定常状態のリッチ稼働モードによって触媒コンバータから引き出され得る酸素等量よりも少ないように選択される。
【0033】
パルスシーケンスは好ましくは、機関の稼働状態、および触媒コンバータのエージング状態に応じて、パルスシーケンスの終了後に貯有物装填分布が前記の稼働点で触媒コンバータの制御された稼働の間にも設定され得る分布に相応するように構成される。最適なパルスシーケンスは、パルスシーケンスの終了後に、触媒後プローブの電圧が、安定に、触媒後制御の設定値を呈する点で識別できる。リッチパルスおよびリーンパルスの振幅および/または持続時間は、前記最適化のための有力な変数として利用可能である。振幅および/または持続時間を、排気ガスの温度および空間速度、および/または触媒コンバータのエージング状態に応じて最適化できる。
【0034】
リッチパルスおよびリーンパルスのシーケンスが、充填度を最適値に完全に戻すには不充分であれば、機関は、第一のリッチパルスおよびリーンパルスの後、さらなるリッチパルスおよびリーンパルスで供給されることができ、それぞれのリッチパルスで供給されるリッチ成分の量は、次のリーンパルスの酸化性成分で補償され得る量よりも多い。引き続くリーン/リッチパルスの最適数を、予備試験において惰性走行燃料遮断後の稼働条件に応じて決定できる。
【0035】
該方法は、好ましくは、機関の動力がもはや必要とされない場合に惰性走行燃料遮断が生じる、ストイキオメトリ稼働された内燃機関の排気ガス浄化のために使用される。この場合、惰性走行燃料遮断は、一時的なリーン稼働相を形成する。しかしながら、一時的なリーン稼働相は、ストイキオメトリ稼働の不所望の制御揺らぎによっても引き起こされることがある。
【0036】
本発明のさらなる使用分野は、部分的にストイキオメトリで稼働され、且つ部分的にリーン稼働される、リーン稼働の内燃機関の排気ガスの浄化である。都市交通においては動力需要が低いので、機関はリーン稼働され、燃料を節約する。より高い水準の動力が必要とされる場合、機関はストイキオメトリ稼働に切り替えられなければならない。従って、この場合、触媒コンバータ中の酸素貯蔵物がリーン稼働モードにおいて、惰性走行燃料遮断の場合と全く同じように、完全に充填される。ストイキオメトリ稼働への切り替えは、惰性走行燃料遮断後にそれらが遭遇するものと同一の問題をみちびく。
【0037】
制御エラーの結果としての不所望の一時的なリーン稼働相は、好ましくは、触媒後プローブがリーン排気ガスを示すので検出される。このために、段階変化プローブを使用できる。それらの信号電圧が、予め定義された閾値未満に低下した場合、本発明による一時的なリーン稼働相が存在する。閾値を、排気ガスの温度および空間速度に応じて、排気ガスのストイキオメトリに応じて、および触媒コンバータのエージング状態に応じて選択できる。前記閾値は好ましくは機関制御装置の表に記録される。
【0038】
排気ガス浄化触媒コンバータの酸素貯蔵成分は、熱エージングの結果として、連続的に貯蔵能を失う。該方法は、まだ残っている貯蔵能を測定することを可能にする。排気区域内で触媒コンバータの下流に配置された酸素プローブの出力信号を、このために使用できる。信号電圧が、一時的なリーン稼働相から制御されたストイキオメトリ稼働への段階後に予想電圧を下回っている場合、触媒コンバータの残留酸素貯蔵能は想定されるよりも低い。従って、このように、惰性走行燃料遮断後のストイキオメトリ稼働モードにおいて、信号電圧から残留酸素貯蔵能を測定することが可能である。残留酸素貯蔵能が予め定義された値未満に低下する場合、相応する警告信号が作動され得る。
【0039】
残留酸素貯蔵能の測定により、リッチパルスおよびリーンパルスによって触媒コンバータに供給されるリッチ成分およびリーン成分の量を、残留酸素貯蔵能に適合させ、且つそれにより惰性走行燃料遮断から制御されたストイキオメトリ稼働への移行を最適化することが可能になる。これはリッチパルスおよびリーンパルスの振幅が、残留酸素貯蔵能に相応する係数によって低減されているおかげで好ましく行われる。この係数は、残留酸素貯蔵能に応じて、機関制御装置の表に記録され得る。
【0040】
機関制御装置における酸素貯蔵能についての平均値を記録することが有利であり、その平均値から、機関の種々の稼働点のための酸素貯蔵能を、補正係数を用いて計算できる。
【0041】
本発明を以下の図に基づき、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、リッチパルスに次ぐ、ストイキオメトリ稼働モードにおける一酸化炭素/水素の放出を示す。
【図2】図2は、惰性走行燃料遮断後の従来のラムダプロファイル、および、惰性走行燃料遮断後の2つの異なるリッチパルスについての、触媒コンバータのラムダプローブ下流の電圧の、得られるプロファイルを示す。
【図3】図3は、惰性走行燃料遮断後の本発明によるラムダプロファイル、および触媒コンバータのラムダプローブ下流の電圧の、得られるプロファイルを示す。
【0043】
図1は、惰性走行燃料遮断、および単独のリッチパルスを用いてストイキオメトリ稼働モードへ戻った後の一酸化炭素および水素の放出を示す。前記測定について、従来の三元触媒コンバータをモデルガス系において試験した。
【0044】
上の図は、空気比ラムダのプロファイルを時間の関数として示す(ラムダプロファイル)。初めの10秒間、ラムダ値1.1を有する惰性走行燃料遮断がシミュレートされた。惰性走行燃料遮断の終了後、試験された三元触媒コンバータの酸素貯蔵物を、単独のリッチパルスを用いて、ラムダ=1を有するストイキオメトリ稼働のための充填度へと空化した。2つの下の図は、それぞれ、触媒コンバータの下流の水素および一酸化炭素濃度の測定されたプロファイルを示す。リッチパルス後の遅延時間後、水素および一酸化炭素が触媒コンバータによって放出される。前記2つの汚染物質の排出は、40秒より長い時間の間、続く。
【0045】
図2は、酸素貯有物が完全に充填された、惰性走行燃料遮断後の従来のラムダプロファイルの場合についてのシミュレーション計算の結果を示す。該計算は、ラムダ値0.9を有する、異なる長さの2つのリッチパルスについて行われた。触媒コンバータ上流のラムダプロファイルを上の図に示す。下の図は、触媒後プローブの計算された信号電圧を示す。
【0046】
触媒後プローブの信号電圧は、約0.1Vで開始し、且つ、高い酸素成分を有する非常にリーンな排気ガス(リーン稼働相)を示す。酸素貯蔵は事実上、100%の充填度を有する。酸素貯有物を空化するために、排気ガスを、触媒コンバータ上流で、暫時、濃縮する。
【0047】
1.0秒だけのリッチパルスの持続時間(破線曲線)については、触媒後プローブの信号電圧を0.65Vに上昇させるために約17秒かかる。1.4秒のリッチパルスの持続時間については、0.65Vの信号電圧が、たった約3.5秒後に既に達成されている。しかしながら両方の場合において、触媒後プローブは、排気ガスのストイキオメトリの、リッチ値へのさらなるシフトを記録する。40秒後、プローブ電圧は約0.75Vに留まっている。この著しいリッチシフトは、一酸化炭素および水素の上述の排出によって引き起こされる。
【0048】
図3は、本発明によるラムダプロファイルの場合についての、シミュレーション計算の結果を示す。この例において、酸素貯有物を空化するために、約20秒の持続時間全体にわたり、触媒コンバータの排気ガス上流は、2対のリッチパルスおよびリーンパルスを有する。触媒後プローブの信号電圧を有する図は、所望の0.65Vに達し、且つ、約4秒後に既に、この電圧水準に留まっている。従って、酸素貯蔵物は、1つだけのリッチ/リーンパルス対を用いた前記の短い時間の後に既に、その長さ全体にわたって平均化された、最適な充填水準に達している。それにもかかわらず、充填水準の上述の軸方向の分布のために、さらなるリッチ/リーンパルス対が、触媒コンバータの長さ全体にわたって充填度を最適に設定するために必要とされる。触媒後制御は、時間ゼロでの、先行するリーン稼働相の終了後、約20秒での最終のリッチ/リーンパルス対の終了まで、停止したままである。その後にのみ、触媒後制御が再開される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素貯蔵成分から構成される酸素貯蔵物を含む、触媒コンバータを有する内燃機関であって、電子機関制御装置を装備し、且つ、 その稼働期間の大半にわたって制御されたストイキオメトリの空気/燃料混合物を用いて稼働され 、運転状況に応じて一時的なリーン稼働相も生じる前記内燃機関の排気ガスの浄化方法において、
酸素貯有物の実質的な充填と関連する、該機関の一時的なリーン稼働相の後、且つ制御された機関稼働の再開前に、酸素貯蔵物の充填度が、機関がリッチパルス、次にリーンパルスを用いて供給されるおかげで、ストイキオメトリ稼働のために最適な水準に戻され、リーンパルスによって触媒コンバータに供給される酸化性成分の量は、リッチパルスによって供給されるリッチ排気ガス成分の量を完全に補償するために必要とされ得る量よりも少ないことを特徴とする方法。
【請求項2】
リッチパルスによって供給されるリッチ排気ガス成分の量が、ストイキオメトリ稼働のために最適な充填度を設定するために必要とされるよりも多いが、しかし、酸素貯有物の貯蔵能の完全な空化のために必要とされ得るリッチ排気ガス成分の量よりも少ないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一のリッチパルスおよびリーンパルスの後、機関をさらなるリッチパルスおよびリーンパルスを用いて供給し、それぞれのリッチパルスによって供給されるリッチ成分の量は、次のリーンパルスの酸化性成分によって補償され得るよりも多いことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
リッチパルスおよびリーンパルスが、振幅および持続時間を有し、且つ、該振幅および/または持続時間は、排気ガスの温度および空間速度、および/または触媒コンバータのエージング状態に応じて適合されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
リッチパルスおよびリーンパルスの振幅が、触媒コンバータのエージング状態に相応する係数によって低減されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
一時的なリーン稼働相が、惰性走行燃料遮断であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
一時的なリーン稼働相が、運転状況に応じて、ストイキオメトリとリーンとの両方で稼働される内燃機関のリーン稼働相であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
一時的なリーン稼働相が、ストイキオメトリ稼働の制御揺らぎによって引き起こされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
一時的なリーン稼働相が、触媒コンバータの下流に配置された酸素プローブが、前記酸素プローブの信号電圧が閾値未満に低下した際に、リーン排気ガスを示すことで検出されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
閾値が、排気ガスの温度および空間速度に応じて、排気ガスのストイキオメトリに応じて、および触媒コンバータのエージング状態に応じて選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
酸素プローブが、触媒コンバータの排気区域下流に配置され、且つ、一時的なリーン稼働相から制御されたストイキオメトリ稼働への工程後に前記酸素プローブが実際に到達する信号電圧が、それらから酸素貯蔵物の残留酸素貯蔵能を測定するために使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
残留酸素貯蔵能が予め定義された値未満に低下した場合、信号が作動することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
リッチパルスおよびリーンパルスによって触媒コンバータに供給されるリッチ成分およびリーン成分の量が、残留酸素貯蔵能に適合されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−527560(P2012−527560A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511196(P2012−511196)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003111
【国際公開番号】WO2010/133370
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】