説明

触媒及びパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒

【課題】PM低減性能を向上させ得る触媒、これを用いたパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒、及びこれに用いる触媒担体用繊維構造体を提供すること。
【解決手段】無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成る触媒。長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられる繊維構造体と、触媒成分とを含む触媒。
セルを有する構造体と、無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成る触媒又は長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられる繊維構造体並びに触媒成分を含む触媒とを備え、触媒が構造体のセル内に配設されているパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒及びパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒に係り、更に詳細には、パティキュレートマター(PM)低減性能を向上させ得る触媒、これを用いたパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒、及びこれに用いる触媒担体用繊維構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンから排出されるPMの低減には、一般的にディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)が用いられる。従来のDPFにおいては、PMの捕集がセル壁で行われるため、PMがセル壁表面に堆積し、排ガスの圧力損失が急激に上昇する。
そのために、DPFを自己再生する際に、燃料噴射によって600℃以上の過熱燃焼処理を定期的に行うシステムが提案されている(特許文献1及び2参照。)。
【0003】
また、無機繊維(主に耐熱性に優れる炭化ケイ素)を不織布に加工し、これを用いてPMを捕集し、更に熱源を用いて処理するシステムが提案されている(特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開平6−294315号公報
【特許文献2】特開平8−189339号公報
【特許文献3】特開2003−236391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のシステムにおいては、例えばPM捕集量を感知する必要があり、システムが複雑なものになるという問題がある。また、自己再生する際に燃費が悪化するという問題がある。
一方、特許文献3に記載のシステムにおいては、大掛かりな熱源とシステムが必要となり、小型化が困難であるという問題がある。また、無機繊維は単独では形状を維持することが困難であるという問題もある。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、PM低減性能を向上させ得る触媒及びこれを用いたパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、従来のDPFにおいてPM除去効率が向上しない原因が、PM除去効率を向上させるためにDPFに担持した白金などの触媒成分がセル壁中に埋没しているのに対して、PMがセル壁表面に堆積しているため、触媒成分の性能が十分に発揮されておらず、PM除去効率を向上させるにはPMと触媒成分の接触率を向上させ得る構造とすることが必要であることを見出し、更に、無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成る触媒を用いることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の触媒は、無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成ることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の触媒の好適形態は、当該触媒の密度が0.0005〜0.5g/cmであるか又は空隙率が60vol%以上であることを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の他の触媒は、長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられる繊維構造体と、触媒成分とを含むことを特徴とする。
【0010】
更にまた、本発明の他の触媒の好適形態は、上記触媒成分が上記繊維構造体を構成する長繊維及び/又は分岐を有する短繊維に含まれていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、セルを有する構造体と、無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成る触媒と、を備え、該触媒が、該構造体のセル内に配設されていることを特徴とする。
【0012】
更に、本発明のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒の好適形態は、ガス流通可能な壁で形成され、一端が閉塞した複数個のセルを有し、これらセルの閉塞端と開放端とが交互に配置された端面を有する構造体と、無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成る触媒と、を備え、該触媒が、該構造体のガス流れ方向に対して上流側に開放端を有するセル内に配設されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の他のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、セルを有する構造体と、長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられる繊維構造体及び触媒成分を含む触媒と、を備え、該触媒が、該構造体のセル内に配設されていることを特徴とする。
【0014】
更にまた、本発明の他のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒の好適形態は、ガス流通可能な壁で形成され、一端が閉塞した複数個のセルを有し、これらセルの閉塞端と開放端とが交互に配置された端面を有する構造体と、長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられる繊維構造体及び触媒成分を含む触媒と、を備え、該触媒が、該構造体のガス流れ方向に対して上流側に開放端を有するセル内に配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成る触媒を用い、PMと触媒成分の接触率を向上させ得る構造とすることなどとしたため、PM低減性能を向上させ得る触媒、これを用いたパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒、及びこれに用いる触媒担体用繊維構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の触媒について詳細に説明する。本明細書及び特許請求の範囲において、濃度及び含有量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
上述の如く、本発明の触媒は、無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成るものである。
このような構成とすることにより、これを用いて作製したパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、PM低減性能を向上させ得るものとなる。
【0017】
また、本発明においては、触媒の密度が0.0005〜0.5g/cmであることが好ましく、0.005〜0.05g/cmであることがより好ましく、0.01〜0.03g/cmであることが更に好ましく、0.01〜0.02g/cmであることが特に好ましい。また、触媒の空隙率が60vol%以上であることが好ましい。更に触媒の密度及び空隙率の双方が上記範囲であることがより好ましい。
触媒の密度が0.0005g/cm未満である場合には、PMを捕集できないことがある。また、触媒の密度が0.5g/cmを超える場合には、目詰まりが生じるおそれがある。更に、空隙率が90vol%以上とすると排ガスの圧力損失をより抑制し易い。
【0018】
また、本発明においては、長繊維と短繊維とが、質量比で2:8〜5:5の割合で含まれていることが好ましく、3:7〜4:6の割合で含まれていることがより好ましい。
長繊維と短繊維の割合が2:8より多くなる(例えば長繊維と短繊維の割合が1:9)と、繊維間の閉塞を招くおそれがある。
一方、長繊維と短繊維の割合が5:5より少なくなる(例えば長繊維と短繊維の割合が6:4)と、PMを捕集できないことがある。
【0019】
更に、本発明においては、長繊維及び短繊維の繊維径が60μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。長繊維及び短繊維の繊維径が60μmを超えるとPM捕集に必要な空隙率や密度が得られないことがある。
【0020】
また、本発明においては、長繊維の繊維長さが2〜10mmであることが好ましく、2〜4mmであることが更に好ましい。
更に、本発明においては、長繊維の繊維径が5〜35μmであることが好ましく、7〜15μmであることが更に好ましい。
【0021】
一方、本発明においては、短繊維の繊維長さが0.1〜50mmであることが好ましく、0.1〜2mmであることが更に好ましい。
更に、本発明においては、短繊維の繊維径が1〜10μmであることが好ましく、3〜5μmであることが更に好ましい。
上述したような長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体は、繊維が均一に分散され、触媒成分を担持した触媒において、PMと触媒成分との接触率をより向上させることができ、所望の空隙率が得られるようにもなる。但し、短繊維は長さが不均一であるためにこの限りではない。
【0022】
また、本発明においては、当該触媒は、無機質の長繊維及び短繊維と、触媒成分と、カーボン及び発泡剤のいずれか一方又は双方を用いて得られたものであると、上述したような長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体は、繊維が均一に分散され、触媒成分を担持した触媒において、PMと触媒成分との接触率を向上させることができ、所望の空隙率が得られるようにもなる。
【0023】
更に、本発明においては、当該触媒は、無機質の長繊維及び短繊維と、触媒成分と、三次元構造を形成するようなコンジュゲート繊維を用いて得られたものであると、上述したような長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体は、繊維が均一に分散され、触媒成分を担持した触媒において、PMと触媒成分との接触率を向上させることができ、所望の空隙率が得られるようにもなる。
【0024】
また、本発明において、備える無機繊維としては、パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒としての使用に耐え得るものであれば、特に限定されるものではないが、例えば炭化ケイ素、アルミナ、シリカ、又はアルミナシリカ繊維、及びこれらを任意に組合わせたものを挙げることができ、任意に組合わせたものとしては、これらの混合物や複合化合物などを挙げることができる。更に、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含むいわゆるガラス繊維を用いることもできる。
【0025】
更に、本発明においては、備える無機繊維は、アルミナとシリカを含有しているものが望ましく、アルミナの含有量が70%以上であることが好ましい。
アルミナとシリカを含有することにより、耐熱性と強度が優れたものとなり、かかる無機繊維はPMと触媒成分の接触率を向上させ得る構造を維持し易く、よりPM低減性能を向上させ得るものとなる。
また、アルミナの含有量が70%以上の場合には、触媒成分の担持性能が大幅に向上するため、PMと触媒成分の接触率をより向上させることができ、PM低減性能をより向上させ得るものとなる。
【0026】
更に、本発明においては、備える触媒成分は、PM低減性能を促進し得れば、特に限定されるものではないが、例えば、白金やパラジウム、ロジウムなどの貴金属を含んでいることが望ましい。また、助触媒として、セリアやチタニアなどを含んでいてもよい。
更にまた、本発明においては、備える触媒成分は、繊維自体に含有されていることが望ましい。
【0027】
次に、本発明の他の触媒について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の他の触媒は、長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられる繊維構造体と、触媒成分とを含むものである。
このような構成とすることによっても、これを用いて作製したパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、PM低減性能を向上させ得るものとなる。
【0028】
ここで、上記触媒成分としては、例えば希土類元素を含む酸化物を挙げることができる。
また、希土類元素を含む酸化物の含有量は、1〜70%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましく、30〜45%であることが更に好ましい。
含有量が1%未満の場合には、触媒反応不足であり、含有量が70%を超える場合には、繊維構造が維持できないことがある。
なお、希土類元素としては、セリウム、イットリウム、プラセオジム、ランタン、ネオジム、マンガン、ジルコニウム、ガリウムなどを単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
また、他の触媒成分として、白金やパラジウム、ロジウムなどの貴金属を含んでいてもよい。
【0029】
また、本発明においては、触媒成分が、繊維構造体を構成する長繊維及び分岐を有する短繊維のいずれか一方又は双方に含まれていることが望ましい。
このように触媒成分と一体化され、繊維中心部にまで触媒成分が含有された構成とすることによって、これを用いて作製したパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、PM低減性能を向上させ得るものとなる。また、衝撃を受けた際の触媒成分の脱落や、熱履歴による触媒性能の劣化を抑制できる。更に、触媒成型時の設計自由度も改善される。
なお、このような触媒成分と一体化された長繊維は、例えばアルミナとシリカと上述した触媒成分と分散剤の一例であるPVA溶液とを混合し、減圧濃縮し、ろ過・送液し、乾式紡糸し、焼成・結晶化して得られる。一方このような触媒成分と一体化された分岐を有する短繊維は、例えばアルミナとシリカと上述した触媒成分と分散剤の一例であるPVA溶液とを混合し、焼成し、射出成形して得られる。
触媒成分を後担持した場合には、無機質の短繊維や長繊維の一例であるアルミナシリカ系繊維において、アルミナはα−アルミナであり、触媒成分を一体化した場合には、無機質の短繊維や長繊維の一例であるアルミナシリカ系繊維において、アルミナはγ−アルミナである。
【0030】
次に、本発明の繊維構造体について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の繊維構造体は、長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられるものである。
このような構成とすることによって、これを適用した触媒は、衝撃を受けた際の触媒成分の脱落や、熱履歴による触媒性能の劣化を抑制できる。また、触媒成型時の設計自由度も改善される。更に、これを用いて作製したパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、PM低減性能を向上させ得るものとなる。
【0031】
また、本発明においては、当該繊維構造体の密度が0.0005〜0.5g/cmであることが好ましく、0.005〜0.05g/cmであることがより好ましく、0.01〜0.03g/cmであることが更に好ましく、0.01〜0.02g/cmであることが特に好ましい。
繊維構造体の密度が0.0005g/cm未満である場合には、PMを捕集できないことがある。また、繊維構造体の密度が0.5g/cmを超える場合には、目詰まりが生じるおそれがある。
そして、本発明においては、繊維構造体の空隙率が60vol%以上であることが好ましい。更に、空隙率が90vol%以上とすると排ガスの圧力損失をより抑制し易い。
【0032】
更に、本発明においては、長繊維及び短繊維の繊維径が60μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。長繊維及び短繊維の繊維径が60μmを超えるとPM捕集に必要な空隙率や密度が得られないことがある。
【0033】
更にまた、本発明においては、長繊維の繊維径が5〜30μmであることが好ましく、短繊維の繊維径が1〜10μmであることが好ましく、長繊維及び短繊維の繊維径の双方が上記範囲であることがより好ましい。
繊維径が5μm未満の長繊維や繊維径が30μm超の長繊維は、紡糸後に繊維を巻き取り成形するために作製することができず、繊維径が1μm未満の短繊維や繊維径が10μm超の短繊維は、紡糸後に射出成形するため作製することができない。
【0034】
また、本発明においては、長繊維の繊維長が100μm以上であることが好ましく、短繊維の繊維長が100μm〜40mmであることが好ましく、長繊維及び短繊維の繊維長の双方が上記範囲であることがより好ましい。
繊維長が100μm未満の長繊維や繊維長が100μm未満の短繊維、繊維長が40mm超の短繊維は、構造体を形成できなくなることがある。
【0035】
更に、本発明においては、長繊維がアルミニウムとケイ素を含有し、そのAl/Si比が重量基準で70/30〜85/15であることが好ましく、短繊維がアルミニウムとケイ素を含有し、そのAl/Si比が重量基準で80/20〜99.9/0.1であることが好ましく、長繊維及び短繊維のAl/Si比の双方が上記範囲であることがより好ましい。
長繊維は紡糸後に繊維を巻き取り成形するため、Al/Si比が85/15を超えると強度低下を招き作製できないことがある。一方、Al/Si比が70/30未満であると、耐熱性が低下する。
また、短繊維は紡糸後に射出成形するため、Al/Si比が99.9/0.1を超えるものは歩留まり良く作製できないことがある。一方、Al/Si比が80/20未満であると、耐熱性が低下する。
【0036】
更にまた、本発明においては、長繊維と短繊維とが、質量比で2:8〜5:5の割合で含まれていることが好ましく、質量比で3:7〜4:6の割合で含まれていることがより好ましい。
長繊維と短繊維の割合が2:8より多くなる(例えば長繊維と短繊維の割合が1:9)と、繊維間の閉塞を招くおそれがある。
一方、長繊維と短繊維の割合が5:5より少なくなる(例えば長繊維と短繊維の割合が6:4)と、PMを捕集できないことがある。
なお、長繊維を上記のより好ましい範囲にすると、触媒成分の分散性を向上させることができる。
【0037】
次に、本発明のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒について詳細に説明する。
上述の如く、本発明のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、セルを有する構造体と、無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成る触媒と、を備える。
そして、かかる触媒が、かかる構造体のセル内に配設されている。
なお、備える触媒は、上述したようにその形態や構成物について適宜調整することができる。
このような構成とすることにより、例えば排ガス中に含まれるPMと触媒成分との接触率が優れたものとなり、PM低減性能を向上させ得るパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒となる。
【0038】
その結果、従来より低い温度条件下でPMを低減させ得るので、連続的なPM低減を実現し得る。
また、連続的なPM低減を実現し得るため、従来のDPFにおいて、自己再生するために定期的に行っていた燃料噴射による600℃以上の過熱燃焼処理を必ずしも行う必要が無くなり、燃費を向上させることが可能となる。更に、システムを構築する場合に簡略化や小型化することができる。
更にまた、触媒成分の性能を十分に発揮し得るように適正配置することが可能となり、触媒成分の一例である貴金属の使用量を低減することができるという利点もある。
なお、触媒成分はセル内壁に担持されていてもよいことは言うまでもない。
【0039】
ここで、本発明においては、備える構造体の形状としては、排ガスを流通させ得る構造を有し、構造体のセル内に無機繊維を保持し得る構造を有するものであれば特に限定されるものではない。例えば、いわゆるハニカム担体のような複数個のセルを有する構造体やいわゆるウォールフロー型ハニカム担体のような構造体を用いることができる。
また、本発明においては、備える構造体の材質としては、特に限定されるものではないが、コーディエライトなどのセラミックスやフェライト系ステンレスなどを挙げることができ、特に多孔質セラミックス製のものを好適に用いることができる。
【0040】
また、本発明においては、備える構造体が上述したいわゆるハニカム担体のような複数個のセルを有する構造体である場合には、排ガスの圧力損失を著しく上昇させない程度に且つPMを除去するように、かかる構造体のセル内に、触媒成分を担持した無機繊維を配設すればよい。
このような構成とすることにより、PM低減性能を向上させ得るものとなる。
なお、このとき構造体は、ウォールフロー型、ストレートフロー型のいずれであってもよい。
【0041】
一方、本発明においては、備える構造体が上述したいわゆるウォールフロー型ハニカム担体のような構造体である場合、即ちガス流通可能な壁で形成され、一端が閉塞した複数個のセルを有し、これらセルの閉塞端と開放端とが交互に配置された端面を有する構造体である場合には、かかる構造体のガス流れ方向に対して上流側に開放端を有するセル内に、触媒成分を担持した無機繊維を配設すればよい。
このような構成とすることにより、PM低減性能を向上させ得ると共に、PMの除去性能がより優れたものとなる。
【0042】
ここで、本発明のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒の一実施形態を図面を用いて説明する。
図1(a)は、従来のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒の一実施形態の拡大断面図である。同図に示すように、ウォールフロー型ハニカム担体のような構造体であって、構造体10が有するセル12のセル壁12aに触媒成分30が担持されている。
このとき、セル壁12aに担持した触媒成分30とPMの接触率は、十分でなく、矢印Aで示す排ガス流れにおいて、排ガス中のPMはセル壁12aの表面に堆積する。
一方、同図(b)は、本発明のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒の一実施形態の拡大断面図である。同図に示すように、ウォールフロー型ハニカム担体のような構造体であって、構造体10が有するセル12の内部に無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体20が配設されており、三次元網目状構造体20には触媒成分30が担持されている。
このとき、セル12の内部の触媒成分30とPMの接触率は、十分なものとなり、矢印Aで示す排ガス流れにおいて、排ガス中のPMがセル壁12aの表面にあまり堆積しないうちにPMを低減することができる。
【0043】
なお、上述の如きパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒の製造方法の一例につき説明する。
従来公知のDPFを用い、そのセル内に無機質の長繊維及び短繊維を含み触媒成分を担持した三次元網目状構造体から成る触媒を含むスラリーを投入し、乾燥・焼成し、触媒をセル内に配設して、パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒が完成する。
【0044】
また、このパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、次のようにして作製してもよい。
例えば、従来公知のDPFを用い、そのセル内に無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体を含むスラリーを投入し、乾燥・焼成し、三次元網目状構造体をセル内に配設して、パティキュレートフィルター型構造体を形成する。
しかる後、得られたパティキュレートフィルター型構造体のセル内に触媒成分を含む溶液ないしスラリーを投入し、乾燥・焼成し、触媒成分をセル内の三次元網目状構造体に担持して、パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒が完成する。
【0045】
更に、このパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、次のようにして作製してもよい。
例えば、従来公知のDPFを用い、そのセル内に触媒成分を担持した無機質の長繊維及び短繊維と、カーボンを含むスラリーを投入し、乾燥・焼成し、カーボンを焼失させ、無機繊維をセル内に配設して、パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒が完成する。
【0046】
次に、本発明の他のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の他のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、セルを有する構造体と、長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられる繊維構造体及び触媒成分を含む触媒とを備える。
そして、かかる触媒が、かかる構造体のセル内に配設されている。
なお、備える触媒や構造体は、上述したようにその形態や構成物について適宜調整することができる。
例えば、本発明においても、ガス流通可能な壁で形成され、一端が閉塞した複数個のセルを有し、これらセルの閉塞端と開放端とが交互に配置された端面を有する構造体と、長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられる繊維構造体及び触媒成分を含む触媒とを備え、触媒が、構造体のガス流れ方向に対して上流側に開放端を有するセル内に配設されているものとすることが可能である。
このような構成とすることにより、例えば排ガス中に含まれるPMと触媒成分との接触率が優れたものとなり、PM低減性能を向上させ得るパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒となる。また、備える触媒は、衝撃を受けた際の触媒成分の脱落や、熱履歴による触媒性能の劣化を抑制でき、更に、触媒成型時の設計自由度も改善されるため、これを備えたパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒も触媒成分の脱落や触媒性能の劣化が抑制され、パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒成型時の設計自由度も改善される。
【0047】
なお、上述の如き他のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒の製造方法の一例につき説明する。
従来公知のDPFを用い、そのセル内に、触媒成分を含有する一体化された長繊維と、触媒成分を含有する一体化された分岐を有する短繊維とを含むスラリーを投入し、乾燥・焼成し、触媒をセル内に配設して、パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒が完成する。かかる方法によると、後担持工程が不要となり、工程数を削減でき、また、その際に繊維細孔の閉塞を回避できるという利点がある。
【0048】
また、このパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、次のようにして作製してもよい。
例えば、従来公知のDPFを用い、そのセル内に、触媒成分を含有する一体化された長繊維と、触媒成分を含有する一体化された分岐を有する短繊維と、カーボン若しくは発泡剤又はコンジュゲート繊維とを含むスラリーを投入し、乾燥・焼成しカーボン等を焼失させ、触媒をセル内に配設して、パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒が完成する。
なお、更に白金、ロジウム、パラジウムなどの貴金属を従来公知の方法により担持させてもよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
アルミナ−シリカ繊維(Al/Si=80/20)の長繊維(繊維長さ:2〜4mm、繊維径:3〜10μm)及び短繊維(繊維長さ:0.1〜2mm、繊維径:3〜10μm)を用意した。これらを長繊維と短繊維とが質量比で1:9の割合となるように混合し、振動ミルに投入して、長繊維と短繊維の混合物を得た。
3%のPt溶液500mLに上記得られた混合物50gを浸漬し、次いで、100℃で1時間乾燥し、しかる後、400℃で1時間焼成して、55gのPt担持アルミナ−シリカ繊維を得た(Pt担持量は3%であった。)。
得られたPt担持アルミナ−シリカ繊維1160gをハニカム担体(容量1.0L、セル数:400Cpsi)のセル内に三次元網目状構造体を成すように配設して、本例のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒を得た。
【0051】
(実施例2)
長繊維と短繊維とが質量比で2:8の割合となるように混合した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒を得た。
【0052】
(実施例3)
長繊維と短繊維とが質量比で5:5の割合となるように混合した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒を得た。
なお、図2は、本例において形成された触媒の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0053】
(実施例4)
触媒成分であるPtが含まれている繊維を用い、Pt後担持をしなかったこと以外は、実施例2と同様の操作を繰り返し、本例のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒を得た。
【0054】
(実施例5)
触媒成分であるPtが含まれている繊維を用い、Pt後担持をしなかったこと以外は、実施例3と同様の操作を繰り返し、本例のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒を得た。
【0055】
(比較例1)
長繊維のみを用いた以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒を得た。
【0056】
(比較例2)
短繊維のみを用いた以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒を得た。
【0057】
[性能評価]
上記各例のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒を評価装置に設置し、下記条件下でメタンの転化率を測定した。また、セル内に配設された触媒の密度を測定すると共に、状態を目視評価した。得られた結果を表1に示す。
【0058】
(試験条件)
・ガス組成 :メタン;4vol%、酸素;10vol%、残部;窒素
・ガス流速 :200cm/min
・触媒温度 :500℃
【0059】
【表1】

【0060】
表1より、本発明の範囲に含まれる実施例1〜5は、本発明外の比較例1及び2よりもメタン転化率が優れていることが分かる。
これは、触媒成分とメタンの接触率が向上しているためと推測され、このようなパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒は、PM低減性能を向上させ得る。
また、実施例1〜3のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒においては、繊維形成後に触媒成分を後担持しているので、触媒の脱落が5〜50%発生するが、実施例4及び5のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒においては、繊維形成時に触媒成分を混合しているので、触媒の脱落が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】従来及び本発明のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒の一実施形態を示す拡大断面図である。
【図2】実施例3において形成された触媒のSEM写真である。
【符号の説明】
【0062】
10 構造体
12 セル
12a セル壁
20 三次元網目状構造体
30 触媒成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成ることを特徴とする触媒。
【請求項2】
当該触媒の密度が0.0005〜0.5g/cmであるか又は空隙率が60vol%以上であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
上記長繊維と上記短繊維とが、質量比で2:8〜5:5の割合で含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
上記長繊維と上記短繊維とが、質量比で3:7〜4:6の割合で含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項5】
上記長繊維及び上記短繊維の繊維径が60μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項6】
上記長繊維の繊維長さが2〜10mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項7】
上記長繊維の繊維径が5〜35μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項8】
上記長繊維の繊維径が7〜10μmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項9】
上記短繊維の繊維長さが0.1〜50mmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項10】
上記短繊維の繊維長さが0.1〜2mmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項11】
上記短繊維の繊維径が1〜10μmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項12】
上記短繊維の繊維径が3〜5μmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項13】
当該触媒は、無機質の長繊維及び短繊維と、触媒成分と、カーボン及び/又は発泡剤を用いて得られるものであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項14】
当該触媒は、無機質の長繊維及び短繊維と、触媒成分と、コンジュゲート繊維を用いて得られるものであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項15】
上記触媒成分は、貴金属を含有することを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項16】
上記触媒成分は、繊維自体に含有されることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つの項に記載の触媒。
【請求項17】
パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒であって、セルを有する構造体と、無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成る触媒と、を備え、
上記触媒が、上記構造体のセル内に配設されていることを特徴とするパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒。
【請求項18】
パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒であって、ガス流通可能な壁で形成され、一端が閉塞した複数個のセルを有し、これらセルの閉塞端と開放端とが交互に配置された端面を有する構造体と、無機質の長繊維及び短繊維を含む三次元網目状構造体に触媒成分を担持して成る触媒と、を備え、
上記触媒が、上記構造体のガス流れ方向に対して上流側に開放端を有するセル内に配設されていることを特徴とする請求項17に記載のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒。
【請求項19】
長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられることを特徴とする繊維構造体。
【請求項20】
当該繊維構造体の密度が0.0005〜0.5g/cmであり、且つ空隙率が60vol%以上であることを特徴とする請求項19に記載の繊維構造体。
【請求項21】
上記長繊維及び上記短繊維の繊維径が60μm以下であることを特徴とする請求項19又は20に記載の繊維構造体。
【請求項22】
上記長繊維の繊維径が5〜30μmであり、且つ上記短繊維の繊維径が1〜10μmであることを特徴とする請求項19〜21のいずれか1つの項に記載の繊維構造体。
【請求項23】
上記長繊維の繊維長が100μm以上であり、且つ上記短繊維の繊維長が100μm〜40mmであることを特徴とする請求項19〜22のいずれか1つの項に記載の繊維構造体。
【請求項24】
上記長繊維がアルミニウムとケイ素を含有し、そのAl/Si比が重量基準で70/30〜85/15であり、且つ上記短繊維がアルミニウムとケイ素を含有し、そのAl/Si比が重量基準で80/20〜99.9/0.1であることを特徴とする請求項19〜23のいずれか1つの項に記載の繊維構造体。
【請求項25】
上記長繊維と上記短繊維とが、質量比で2:8〜5:5の割合で含まれていることを特徴とする請求項19〜24のいずれか1つの項に記載の繊維構造体。
【請求項26】
上記長繊維と上記短繊維とが、質量比で3:7〜4:6の割合で含まれていることを特徴とする請求項19〜24のいずれか1つの項に記載の繊維構造体。
【請求項27】
請求項19〜26のいずれか1つの項に記載の繊維構造体と、触媒成分とを含むことを特徴とする触媒。
【請求項28】
上記触媒成分が、上記繊維構造体を構成する長繊維及び/又は分岐を有する短繊維に含まれていることを特徴とする請求項27に記載の触媒。
【請求項29】
パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒であって、セルを有する構造体と、長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられる繊維構造体及び触媒成分を含む触媒と、を備え、
上記触媒が、上記構造体のセル内に配設されていることを特徴とするパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒。
【請求項30】
パティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒であって、ガス流通可能な壁で形成され、一端が閉塞した複数個のセルを有し、これらセルの閉塞端と開放端とが交互に配置された端面を有する構造体と、長繊維及び分岐を有する短繊維を含有して成る三次元網目状構造を有し、触媒担体として用いられる繊維構造体及び触媒成分を含む触媒と、を備え、
上記触媒が、上記構造体のガス流れ方向に対して上流側に開放端を有するセル内に配設されていることを特徴とする請求項29に記載のパティキュレートフィルター型排ガス浄化触媒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−275874(P2007−275874A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64655(P2007−64655)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】