説明

計算機ホログラム、露光装置及びデバイス製造方法

【課題】照度ムラ及び光量損失を抑えると共に、所望の形状及び偏光状態の光強度分布(再生像)を形成することができる計算機ホログラムを提供する。
【解決手段】入射光の波面に位相分布を与えて所定面に光強度分布を形成する計算機ホログラムであって、第1の方向の直線偏光に対する屈折率と前記第1の方向の直線偏光に直交する第2の方向の直線偏光に対する屈折率とが異なる異方性層と、前記第1の方向の直線偏光に対する屈折率と前記第2の方向の直線偏光に対する屈折率とが等しい等方性層とを有し、前記入射光の前記第1の方向の直線偏光成分の波面及び前記入射光の前記第2の方向の直線偏光成分の波面に互いに異なる位相分布を与えることによって、前記入射光の前記第1の方向の直線偏光成分が前記所定面に形成する第1の光強度分布と前記入射光の前記第2の方向の直線偏光成分が前記所定面に形成する第2の光強度分布とを異ならせていることを特徴とする計算機ホログラムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光の波面に位相分布を与えて所定面に光強度分布を形成する計算機ホログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィー(焼き付け)技術を用いて半導体メモリや論理回路などの微細な半導体デバイスを製造する際に、投影露光装置が従来から使用されている。投影露光装置は、レチクル(マスク)に描画された回路パターンを投影光学系によってウエハ等の基板に投影して回路パターンを転写する。
【0003】
投影露光装置の解像度Rは、露光光の波長λ、投影光学系の開口数(NA)及び現像プロセスなどによって定まるプロセス定数kを用いて、以下の数式1で与えられる。
【0004】
【数1】

【0005】
従って、露光光の波長を短くすればするほど、或いは、投影光学系のNAを上げれば上げるほど、解像度はよくなる。但し、露光光の波長が短くなると硝材の透過率が低下するため、現在の露光光を更に短波長化することは困難である。また、投影光学系のNAに反比例して焦点深度が小さくなること、及び、高NAの投影光学系を構成するためのレンズの設計及び製造は困難であることから、投影光学系の高NA化を進めることも難しい。
【0006】
そこで、プロセス定数kを小さくすることにより解像度の向上を図る超解像技術(RET:Resolution Enhanced Technology)が提案されている。かかるRETの1つとして、変形照明法(又は斜入射照明法)と呼ばれるものがある。
【0007】
変形照明法は、一般的に、光学系の光軸上に遮光板を有する開口絞りを、均一な面光源を形成するオプティカルインテグレータの射出面近傍に配置することによって、レチクルに対して露光光を斜めに入射させる。変形照明法は、開口絞りの開口形状(即ち、光強度分布の形状)に応じて、輪帯照明法や四重極照明法などを含む。また、変形照明法においては、露光光の利用効率(照明効率)を向上させるため、開口絞りの代わりに計算機ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)を用いた技術も提案されている。
【0008】
一方、投影光学系の高NA化に伴って、露光光の偏光状態の制御した偏光照明法も、投影露光装置の高解像度化には必要な技術となってきている。偏光照明法とは、基本的に、S偏光とP偏光のうち、光軸に対して同心円方向成分を有するS偏光のみを用いてレチクルを照明する照明法である。
【0009】
そこで、近年では、変形照明法(所望の形状(例えば、四重極形状)を有する光強度分布の形成)と偏光照明法(偏光状態の制御)とを同時に実現する技術が提案されている(特許文献1乃至3参照)。
【0010】
例えば、特許文献1は、変形照明法及び偏光照明法を1つの素子で実現する技術を開示している。特許文献1では、光強度分布の形状(再生像)をCGHで制御すると共に、構造複屈折を用いて偏光状態を制御している。具体的には、同一の偏光方向の光に対応した複数のCGH(以下、「サブCGH」と称する)を並列に配置して1つのCGHを構成し、偏光方向に応じた構造複屈折をサブCGH毎に適用している。
【0011】
特許文献2は、サブCGHに適用する偏光を制御する手段として偏光制御器を用いることで、所望の偏光を選択的に使用している。
【0012】
また、特許文献3は、変形照明法及び偏光照明法で代表的に形成される四重極形状の光強度分布において、4つの極のバランスを制御することが可能な技術を開示している。具体的には、特許文献3は、CGHを4分割してサブCGHを構成し、入射光の強度分布を変化させることで、CGHによる再生像の極のバランスを変化させることを可能としている。
【特許文献1】特開2006−196715号公報
【特許文献2】特開2006−49902号公報
【特許文献3】特開2006−5319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来技術では、1つのCGHを複数に分割してサブCGHを構成しているため、入射光の強度分布がオプティカルインテグレータで補正しきれていない場合(例えば、CGHの一部にしか光が入射しない場合)、再生像に照度ムラが生じてしまう。
【0014】
また、複数のサブCGHを組み合わせた場合、サブCGHの境界で生じる構造の不連続性から不要な回折光が発生してしまうため、CGHによる再生像を劣化させてしまう。そこで、サブCGHの境界で生じる構造の不連続性を設計で解消することも考えられるが、設計コストが非常に増大するという別の問題が生じてしまう。
【0015】
また、偏光制御器で偏光を選択的に使用した場合、露光光源からの光(露光光)の利用効率(照明効率)が著しく低下してしまう(即ち、光量損失が大きくなってしまう)。
【0016】
そこで、本発明は、照度ムラ及び光量損失を抑えると共に、所望の形状及び偏光状態の光強度分布(再生像)を形成することができる計算機ホログラムを提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての計算機ホログラムは、入射光の波面に位相分布を与えて所定面に光強度分布を形成する計算機ホログラムであって、第1の方向の直線偏光に対する屈折率と前記第1の方向の直線偏光に直交する第2の方向の直線偏光に対する屈折率とが異なる異方性層と、前記第1の方向の直線偏光に対する屈折率と前記第2の方向の直線偏光に対する屈折率とが等しい等方性層とを有し、前記入射光の前記第1の方向の直線偏光成分の波面及び前記入射光の前記第2の方向の直線偏光成分の波面に互いに異なる位相分布を与えることによって、前記入射光の前記第1の方向の直線偏光成分が前記所定面に形成する第1の光強度分布と前記入射光の前記第2の方向の直線偏光成分が前記所定面に形成する第2の光強度分布とを異ならせていることを特徴とする。
【0018】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施例によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、例えば、照度ムラ及び光量損失を抑えると共に、所望の形状及び偏光状態の光強度分布(再生像)を形成することができる計算機ホログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の一側面としての計算機ホログラム100を説明するための図である。計算機ホログラム100は、図1に示すように、入射光の波面に位相分布を与えて所定面PS(例えば、アパーチャの位置)に光強度分布(再生像)LIを形成する。また、計算機ホログラム100は、第1の方向の直線偏光(第1の方向を偏光方向とする直線偏光)としてのX偏光の波面及び第2の方向の直線偏光(第2の方向を偏光方向とする直線偏光)としてのY偏光の波面に互いに異なる位相分布を与える。これにより、X偏光(入射光の第1の方向の直線偏光成分)が形成する第1の光強度分布LIとY偏光(入射光の第2の方向の直線偏光成分)が形成する第2の光強度分布LIとを異ならせることができる。なお、第2の方向の直線偏光は第1の直線偏光に直交する偏光である。
【0022】
以下、X偏光の波面及びY偏光の波面に互いに異なる位相分布を与える計算機ホログラム100について具体的に説明する。図2(a)は、計算機ホログラム100の構成を示す概略斜視図である。図2(b)は、図2(a)に示す計算機ホログラム100の4つのセル110a乃至110dのXZ面における概略断面図である。計算機ホログラム100は、図2(a)に示すように、矩形形状の複数のセル110を正方格子状に配列して構成されている。複数のセル110の各々は、図2(b)に示すように、X偏光に対する屈折率とY偏光に対する屈折率とが等しい等方性層(等方性媒質)112と、X偏光に対する屈折率とY偏光に対する屈折率とが異なる異方性層(異方性層)114とを含む。換言すれば、複数のセル110の各々は、等方性層112と異方性層114とを積層して構成される。
【0023】
X偏光の波面及びY偏光の波面に互いに異なる位相分布を与えるためには、計算機ホログラム100は、各偏光方向に対して波面を独立に制御する必要がある。本実施形態では、計算機ホログラム100として2段の計算機ホログラムを考えると、2つの偏光方向の各々に対して2値の位相を波面に与える必要がある。従って、計算機ホログラム100のセル110においては、4種類のセル構造が必要となる。図2(b)に示すセル110a乃至110dの各々は、かかる4種類のセル構造のうちの1種類のセル構造を有する。ここで、セル構造とは、等方性層112及び異方性層114の配置(等方性層112及び異方性層114の各々の厚さ)を意味している。計算機ホログラム100は、これらの4種類のセル構造を有するセル110を正方格子状に配置して構成されているため、等方性層112及び異方性層114は、多段で構成される。換言すれば、等方性層112及び異方性層114の各々は、厚さが異なる複数の部分領域で構成される。
【0024】
セル110a乃至110dのZ方向の段差は、等方性層112の屈折率n、異方性層114のX偏光に対する屈折率n及び異方性層114のY偏光に対する屈折率nを用いて表すことができる。本実施形態では、説明を簡単にするために、n−n=n−n>0となる場合の例を示している。2段の計算機ホログラム100を構成する場合、位相をπずらす必要があり、これを実現するためには、空気と等方性層112との境界の1段の段差hは、以下の数式2を満足すればよい。
【0025】
【数2】

【0026】
また、等方性層112と異方性層114との境界の1段の段差hは、以下の数式3を満足すればよい。
【0027】
【数3】

【0028】
このような段差h及びhによって、等方性層112及び異方性層114は、図2(b)に示すように、多段(厚さの異なる複数の部分領域)で構成されることになる。
【0029】
セル110aを基準とすると、セル110bに入射したX偏光の位相は、空気と等方性層112との段差でπ/2進み、等方性層112と異方性層114の段差でπ/2進むため、全体としてπ進む。また、セル110aを基準として、セル110bに入射したY偏光の位相は、空気と等方性層112との段差でπ/2進み、等方性層112と異方性層114との段差でπ/2遅れるため、全体として基準と変わらない。
【0030】
セル110aを基準として、セル110cに入射したX偏光の位相は、空気と等方性層112との段差でπ/2進み、等方性層112と異方性層114との段差でπ/2遅れるため、全体として基準と変わらない。また、セル110aを基準として、セル110cに入射したY偏光の位相は、空気と等方性層112との段差でπ/2進み、等方性層112と異方性層114との段差でπ/2進むため、全体としてπ進む。
【0031】
セル110aを基準として、セル110dに入射したX偏光の位相は、空気と等方性層112との段差(2段分)でπ進み、等方性層112と異方性層114との段差では変わらないため、全体としてπ進む。また、セル110aを基準として、セル110dに入射したY偏光の位相は、空気と等方性層112の段差(2段分)でπ進み、等方性層112と異方性層114との段差では変わらないため、全体としてπ進む。
【0032】
異方性層114の基板の厚さhは、X偏光が形成する光強度分布LIとY偏光が形成する光強度分布LIが所定面PS(像面上)で干渉しない場合には、X偏光とY偏光との相対位相差を考慮する必要がなく、任意の厚さでよい。但し、光強度分布LIと光強度分布LIとの干渉を考慮して、X偏光及びY偏光の基準の波面を一致させる必要がある場合には、異方性層114の厚さを、位相を2πずらす厚さ、即ち、4×hの整数倍にすればよい。これにより、X偏光及びY偏光の基準の波面を一致させることが可能となる。なお、整数倍の整数としてゼロを選択して、異方性層114の基板の厚さhをゼロとしてもよい。
【0033】
本実施形態では、X偏光とY偏光との間において、位相をπずらすセル構造を有するセル110a乃至110dを説明したが、セル110a乃至110dは、位相を(2n+1)π(即ち、3π、5π、・・・)ずらすセル構造を有してもよい。この場合、段差h及びhも3倍、5倍、・・・とnに応じて(2n+1)倍となる。
【0034】
また、本実施形態では、n−n=n−nとして説明したが、右辺と左辺の値が必ずしも同じである必要はなく、再生像に要求される偏光度及び光強度分布の精度に応じて、左辺と右辺の値をずらしてもよい。
【0035】
X偏光が形成する光強度分布LI及びY偏光が形成する光強度分布LIに対する2段の計算機ホログラムを独立して設計し、かかる計算機ホログラムを重ね合わせて得られるセル構造(セル110a乃至110d)を適切に選択する。これにより、X偏光の波面及びY偏光の波面に互いに異なる位相分布を与える計算機ホログラム100を構成することができる。上述したように、セル110a乃至110dの各々が有する4つのセル構造とは、X偏光及びY偏光の波面の基準となる構造、X偏光の波面のみπ進ませる構造、Y偏光の波面のみπ進ませる構造、X偏光及びY偏光の波面をπ進ませる構造である。
【0036】
計算機ホログラム100は、各偏光方向に対して、従来技術のように計算機ホログラムの全面を複数の領域(サブCGH)に分割することなく、計算機ホログラムの全面においてX偏光の波面及びY偏光の波面に互いに異なる位相分布を与えることができる。従って、計算機ホログラム100においては、入射光の光強度分布がオプティカルインテグレータで補正しきれていない場合であっても、光強度分布(再生像)に照度ムラが生じることはない。
【0037】
また、計算機ホログラム100は、セル110a乃至110dで構成されるパターンの繰り返し構造を有しており、複数の異なるサブCGHを使用していない。従って、計算機ホログラム100では、サブCGHの境界で生じる構造の不連続性に起因する不要な回折光による光強度分布(再生像)の劣化は生じない。同様に、計算機ホログラム100は、サブCGHを使用していないため、サブCGHの境界で生じる構造の不連続性を解消する設計も不要となり、設計コストを抑えることが可能となる。
【0038】
更に、計算機ホログラム100は、入射光の偏光方向を選択することなく、X偏光の波面及びY偏光の波面に互いに異なる位相分布を与えることができる。従って、計算機ホログラム100は、光量損失を実質的に発生させることなく、光強度分布(再生像)を形成することができる。換言すれば、計算機ホログラム100は、光量損失を良好に抑えながら、所望の形状及び偏光状態の光強度分布を形成することができる。
【0039】
このように、計算機ホログラム100は、異方性層114を多段で構成し、複数のセル毎に、異方性層114の厚さを設定することで、入射光の第1方向の偏光成分の波面及び入射光の第2の方向の偏光成分の波面に互いに異なる位相分布を与えることができる。
【0040】
また、計算機ホログラム100においては、異方性層114を構成する多段の数が等方性層112を構成する多段の数よりも少なくてもよい。換言すれば、異方性層114の厚さの種類は、等方性層112の厚さの種類よりも少なくてもよい。この場合、計算機ホログラム100は、図3に示すように、等方性層112と異方性層114とを含む複数のセル110a1乃至110d1で構成される。等方性層112の屈折率、異方性層114の屈折率及びZ方向の1段の段差は、上述した通りである。ここで、図3は、図2(a)に示す計算機ホログラム100の4つのセル110a1乃至110d1のXZ面における概略断面図である。
【0041】
計算機ホログラム100における位相の制御は、上述したように、基準と一致させる、或いは、πずらす、のどちらかである。これまでは、位相をπずらす方法として、位相をπ進める方法のみを選択していたが、位相をπ遅らせる方法を選択しても、同様な効果を得ることができる。図3に示すセル110b1は、位相をπ遅らせる方法を選択した場合のセル構造を有する。
【0042】
セル110a1を基準として、セル110b1に入射するX偏光の位相は、空気と等方性層112との段差でπ/2遅れ、等方性層112と異方性層114との段差でπ/2遅れるため、全体としてπ遅れる。また、セル110a1を基準として、セル110b1に入射するY偏光の位相は、空気と等方性層112との段差でπ/2遅れ、等方性層112と異方性層114との段差でπ/2進むため、全体として基準と変わらない。
【0043】
上述したセル110bはX偏光の位相のみπ進ませる機能を有するのに対して、セル110b1はX偏光の位相のみπ遅らせる機能を有する。従って、X偏光の位相のみを基準からπずらすという意味では、セル110b及び110b1は同等の機能を有する。セル110a1、110c1及び110d1のセル構造に関しては、セル110a、110c及び110dのセル構造と同一にする。これにより、図3に示すセル110a1乃至110d1の各々が有する4つのセル構造は、図2(b)に示すセル110a乃至110dの各々が有する4つのセル構造と同等の機能を有する。
【0044】
位相をπ遅らせるセル構造を有するセル110b1を含む計算機ホログラム100においては、図2(b)に示した異方性層114の3段構造が、図3に示すように、2段構造となる。また、図2(b)に示した空気と等方性層112との境界における3段構造が、図3に示すように、4段構造となる。このように、位相の制御において、位相を進ませる方法だけでなく、位相を遅らせる方法も選択することで、異方性層114を構成する多段の数が、等方性層112を構成する多段の数よりも少ない構成をとることが可能となる。
【0045】
等方性層112と異方性層114との屈折率差は、空気と等方性層112との屈折率差と比較して、一般的に小さい。従って、等方性層112と異方性層114との境界における1段の高さは、空気と等方性層112との境界における1段の高さよりも大きくなる。そこで、空気と等方性層112との境界における段数よりも等方性層112と異方性層114との境界における段数を少なくすることによって、計算機ホログラム100を製造する際の掘り込み量を少なくすることができる。これにより、計算機ホログラム100を容易に製造することが可能となる。
【0046】
また、計算機ホログラムは、一般に、無限に薄い素子であると想定して設計されている。その結果、実際の計算機ホログラムは、掘り込み量の分だけ設計値から想定される機能と異なる機能を示す。図2(b)及び図3から明らかなように、図3に示すセル110a1乃至110d1を有する計算機ホログラム100は、図2(b)に示すセル110a乃至110dを有する計算機ホログラム100よりも薄く製造することができる。従って、掘り込み量を少なくすることにより、所望の光強度分布により近い強度分布を得ることができる。
【0047】
また、例えば、露光装置を用いて2のn乗段構造を有する計算機ホログラムを製造する場合、掘り込み量を変化させて、n回の露光を実施する必要がある。従って、計算機ホログラムの段数が2のn乗段である場合に、計算機ホログラムを最も効率的に製造することができる。
【0048】
異方性層114と等方性層112との境界における段数が3段、空気と等方性層112との境界における段数が3段である場合(図2(b))、異方性層114と等方性層112との境界で2回の露光、空気と等方性層112との境界で2回の露光が必要となる。従って、このような計算機ホログラムの製造に要する露光回数は、合計で4回となる。
【0049】
一方、異方性層114と等方性層112との境界における段数が2段、空気と等方性層112との境界における段数が4段である場合(図3)、異方性層114と等方性層112との境界で1回の露光、空気と等方性層112との境界で2回の露光が必要となる。従って、このような計算機ホログラムの製造に要する露光回数は、合計で3回となる。このように、計算機ホログラムの製造に要する露光回数を減らすことで、アライメント誤差を低減させることができ、より設計値に近い計算機ホログラムを製造することが可能となる。
【0050】
本実施形態では、異方性層114を構成する多段の数が等方性層112を構成する多段の数よりも少ない場合について説明したが、同様に、等方性層112を構成する多段の数を異方性層114を構成する多段の数よりも少なくすることもできる。現在では、異方性層114の2つの偏光方向に対する屈折率差Δnが空気と等方性層112との屈折率差よりも小さいが、屈折率差Δnが非常に大きい異方性層114が開発又は発見された際に、これが有効となる。
【0051】
また、計算機ホログラム100を構成する複数のセル110a2乃至110d2の各々においては、図4に示すように、等方性層112と異方性層114とが平面で接合されることが好ましい。図4を参照するに、等方性層112は、凹凸面112aと、平面112bとを有し、同様に、異方性層114は、凹凸面114aと、平面114bとを有する。図4に示す複数のセル110a2乃至110d2の各々のセル構造における等方性層112及び異方性層114のZ方向の配置位置は、図3に示す複数のセル110a1乃至110d1の各々のセル構造と相対的に異なる。但し、図4に示す複数のセル110a2乃至110d2の各々のセル構造における等方性層112及び異方性層114の厚さは、図3に示す複数のセル110a1乃至110d1の各々のセル構造における等方性層112及び異方性層114の厚さと同じである。従って、図4に示す複数のセル110a2乃至110d2で構成される計算機ホログラム100と図3に示す複数のセル110a1乃至110d1で構成される計算機ホログラム100は、計算機ホログラムとして同じ機能を有する。ここで、図4は、図2(a)に示す計算機ホログラム100の4つのセル110a2乃至110d2のXZ面における概略断面図である。
【0052】
一般的に、等方性層112の凹凸面と異方性層114の凹凸面とを接合させて、図3に示す複数のセル110a1乃至110d1で構成されるような計算機ホログラム100を製造することは非常に困難である。また、掘り込みを施した基板の凹凸面に媒質(等方性媒質又は異方性媒質)を隙間無く埋め込むことも困難である。そこで、図4に示すように、等方性層112の平面112bと異方性層114の平面114bとが対向するように接合する。換言すれば、等方性層112と異方性層114とを平面で接合する。これにより、図4に示す複数のセル110a2乃至110d2で構成されるような計算機ホログラム100を容易に製造することが可能となる。なお、計算機ホログラム100(複数のセル110a2乃至110d2)の製造においては、掘り込みを施した等方性層112と掘り込みを施した異方性層114とを接合してもよいし、等方性層112と異方性層114とを接合した後で掘り込みを施してもよい。
【0053】
ここで、異方性層114を構成する材料について説明する。異方性層114は、本実施形態では、結晶の性質上、偏光方向によって異なる屈折率を有する複屈折材料で構成される。異方性層114を構成する複屈折材料は、具体的には、水晶、フッ化マグネシウム、方解石などである。光の進む速度は媒質の屈折率に依存するため、異方性層114を複屈折材料で構成することによって、第1の方向を偏光方向とする直線偏光の波面と第2の方向を偏光方向とする直線偏光の波面とをずらすことが可能となる。
【0054】
例えば、異方性層114を方解石で構成した場合について考える。方解石の組成は炭酸カルシウム(CaCO)であり、屈折率は波長589nmに対して1.6584及び1.4864である。従って、等方性層112を構成する材料としては、n−n=n−nから、屈折率n=(n−n)/2=(1.6584−1.4864)/2=1.5724の材料を選択すればよい。このような材料は数多く存在しているが、例えば、株式会社オハラから提供されている1.5725の屈折を有するS−BAL11を、等方性層112を構成する材料として選択すればよい。なお、本実施形態では、等方性層112及び異方性層114の各々を構成する材料の一例を示しただけであり、屈折率が上述した条件を満たすのであれば、いかなる材料で等方性層112及び異方性層114を構成してもよい。
【0055】
また、異方性層114を構成する複屈折材料は、真性複屈折を有する材料を含む。蛍石(フッ化カルシウム)は、本来、結晶構造からすると立方晶系であり、複屈折材料ではないが、結晶軸によって屈折率が僅かに異なる。具体的には、フッ化カルシウムは、波面に対して、3.4nm/cm程度の真性複屈折を有するため、かかる真性複屈折を積極的に利用することで、フッ化カルカルシウムを材料として異方性層114を構成することが可能となる。
【0056】
また、計算機ホログラム100を構成する複数のセル110は、異方性層114として、構造複屈折を生じるように構成された凹凸構造を有してもよい。但し、かかる凹凸構造は、異方性層114を構成する多段構成とは異なり、各セル1つ1つの内部が凹凸構造で構成されていることを意味している。
【0057】
例えば、石英を用いた構造複屈折を生じさせる凹凸構造は、特許文献1に開示されている。特許文献1は、石英は波長193nmでは1.56の屈折率を有し、構造性複屈折領域の回折格子のデューティ比を1:1(=0.5)とすると、回折格子のピッチ方向の屈折率n⊥は1.19、ピッチ直交方向の屈折率nIIは1.31となることを記載している。
【0058】
特許文献1におけるピッチ方向の屈折率n⊥及びピッチ直交方向の屈折率nIIをn及びn、波長を193nmとして、数式3から段差hを求めると、約804nmとなる。かかる値は、波長の約4倍であり、計算機ホログラムとしては現実的な厚さである。
【0059】
なお、屈折率nII及び屈折率n⊥は、フィリングファクターをa/Pとして、以下の数式4を用いて算出することができる。
【0060】
【数4】

【0061】
数式4を参照するに、複数のフィリングファクターを用いることで、様々な屈折率差Δn=nII−nを実現することができることが分かる。これまでは、異方性層114の厚さをセル毎に設定して、X偏光の波面とY偏光の波面との位相差を制御していた。しかし、異方性層114の厚さが全てのセルで同じであってとしても、異方性層114のフィリングファクターをセル毎に設定することで、X偏光の波面とY偏光の波面との位相差を制御することが可能となる。なお、石英を用いた場合、屈折率差Δnは、193nmの波長では、Δn=0〜0.122と広い範囲から選択することができる。
【0062】
但し、屈折率差Δnを制御すると、屈折率nII及び屈折率n⊥の値が上下する。これは基準の波面がシフトすることを意味するが、かかるシフトは、等方性層112の厚さを制御することで、元の位置に戻すことが可能である。
【0063】
このように、計算機ホログラム100を構成する複数のセル毎に、異方性層114の屈折率を設定することで、入射光の第1方向の偏光成分の波面及び入射光の第2の方向の偏光成分の波面に互いに異なる位相分布を与えることができる。
【0064】
また、異方性層114の厚さを複数のセル毎に設定する手法と異方性層114の屈折率(ファイリングファクター)を複数のセル毎に設定する方法の両方を用いて複数のセル110(計算機ホログラム100)を構成することもできる。これにより、計算機ホログラム100をより柔軟に設計することや計算機ホログラム100をより容易に製造することが可能となる。
【0065】
また、図5を参照して、異方性層114の第1の方向の直線偏光に対する屈折率又は第2の方向の直線偏光に対する屈折率と等方性層112の屈折率とは等しくてもよいことについて説明する。図5は、図2(a)に示す計算機ホログラム100の4つのセル110a3乃至110d3のXZ面における概略断面図である。
【0066】
図5に示す複数のセル110a3乃至110d3の各々のセル構造は、等方性層112の屈折率をn、異方性層114のX偏光に対する屈折率をn、異方性層114のY偏光に対する屈折率をnとした時に、n=n>nとなる場合の例を示している。
の計算機ホログラム100を構成する場合、位相をπずらす必要があり、これを実現するためには、空気と等方性層112との境界の段差h’は、以下の数式5を満足すればよい。
【0067】
【数5】

【0068】
また、等方性層112と異方性層114との境界の段差h’は、以下の数式6を満足すればよい。
【0069】
【数6】

【0070】
セル110a3を基準として、セル110b3に入射するX偏光の位相は、基準と変わらない。また、セル110a3を基準として、セル110b3に入射するY偏光の位相は、π進む。
【0071】
セル110a3を基準として、セル110c3に入射するX偏光の位相は、π遅れる。また、セル110a3を基準として、セル110d3に入射するY偏光の位相は、π遅れる。
【0072】
セル110a3を基準として、セル110d3に入射するX偏光の位相は、等方性層112ではπ遅れ、異方性層114では基準と変わらないため、全体としてπ遅れる。また、セル110a3を基準として、セル110d3に入射するY偏光の位相は、等方性層112ではπ遅れ、異方性層114ではπ進むため、全体として基準と変わらない。
【0073】
なお、本実施形態では、X偏光とY偏光との間において、位相をπずらすセル構造を有するセル110a3乃至110d3を説明したが、セル110a3乃至110d3は、位相を(2n+1)π(即ち、3π、5π、・・・)ずらすセル構造を有してもよい。この場合、段差h’及びh’も3倍、5倍、・・・とnに応じて(2n+1)倍となる。
【0074】
このように、異方性層114の一方向の直線偏光に対する屈折率と等方性層112の屈折率とが等しい場合(n=n>n)には、図2(b)、図3及び図4に示したセル構造よりも多段の数が少ない簡易なセル構造でセル110a3乃至110d3を構成できる。具体的には、X偏光とY偏光の波面に対して2段の計算機ホログラムを構成するにあたり、異方性層114と等方性層112との境界における段数が2段、空気と等方性層112との境界における段数が2段で実現することが可能となる。本実施形態では、n=n>nとしたが、n>n=nとしても同様なセル構造でセル110a3乃至110d3を構成できることは言うまでもない。
【0075】
ここで、図6を参照して、X偏光及びY偏光の各々で異なる光強度分布LI及びLIを形成する計算機ホログラム100の簡単な設計例を説明する。図6は、X偏光及びY偏光の各々で異なる光強度分布LI及びLIを形成する計算機ホログラム100の設計の一例を説明するための図である。
【0076】
図6(a)は、例えば、X偏光が形成する光強度分布(ターゲット像)を示しており、矢印で偏光方向を示している。図6(b)は、図6(a)に示す光強度分布を形成するための計算機ホログラムの基本パターンを上下左右に2つ配置した計算機ホログラム100を示している。計算機ホログラム100は、実際には、周期構造を有するため、図6(b)に示す計算機ホログラムの基本パターンが無数に上下左右に配列された構造となる。また、AR1及びAR2は、計算機ホログラム100を構成するセルの厚さを示しており、AR2は、AR1を基準として、位相をπずらす厚さであることを示している。図6(b)に示す計算機ホログラム100にX偏光を入射させることで、図6(a)に示す偏光状態の光強度分布を形成することができる。
【0077】
図6(c)は、例えば、Y偏光が形成する光強度分布(ターゲット像)を示しており、矢印で偏光方向を示している。図6(d)は、図6(b)と同様に、図6(d)に示す光強度分布を形成するための計算機ホログラムの基本パターンを上下に2つ配置した計算機ホログラム100を示している。図6(d)に示す計算機ホログラム100にY偏光を入射させることで、図6(d)に示す偏光状態の光強度分布を形成することができる。
【0078】
図6(e)は、図6(a)に示す光強度分布と図6(c)に示す光強度分布とを重ね合わせた光強度分布を示す。図6(e)に示す光強度分布を形成する計算機ホログラム100は、図6(b)に示す計算機ホログラムと図6(d)に示す計算機ホログラムとを組み合わせて構成され、上述したように、4つのセル構造を有する複数のセルで構成される。図6(f)に示すA乃至Dは4つのセル構造を示し、具体的には、図5に示したセル110a3乃至110d3のセル構造に対応している。図6(f)に示す計算機ホログラム100にX偏光及びY偏光を入射させることで、図6(e)に示す偏光状態の光強度分布を形成することができる。
【0079】
本実施形態では、非常に簡単な計算機ホログラム100の設計例を説明したが、光強度分布が複雑になった場合でも、同様に、所望の形状及び偏光状態の光強度分布を形成する計算機ホログラム100を設計することができる。具体的には、X偏光が形成する光強度分布に対応する計算機ホログラム及びY偏光が形成する光強度分布に対応する計算機ホログラムを独立して設計し、かかる2つの計算機ホログラムを重ね合わせて各セルに対応したセル構造を選択すればよい。
【0080】
図7を参照して、2段よりも多い段数で構成される計算機ホログラム100について説明する。図7は、2段よりも多い段数で構成される計算機ホログラム100を説明するための図である。
【0081】
X偏光の波面及びY偏光の波面に互いに異なる位相分布を与えるためには、X偏光の波面及びY偏光の波面に位相差を任意に与えられること、位相差を与えたX偏光の波面とY偏光の波面、及び、基準の波面に位相差を任意に与えられることが必要となる。
【0082】
図7を参照するに、異方性層114のZ方向の厚さを変化させることで、X偏光の波面及びY偏光の波面に位相差を任意に与えることができる。同様に、等方性層112のZ方向の厚さを変化させることで、位相差を与えたX偏光とY偏光の波面、及び、基準の波面に位相差を任意に与えることができる。
【0083】
従って、X偏光の波面とY偏光の波面の位相差を多段に、位相差を与えたX偏光、位相差を与えたY偏光の波面と基準の波面との位相差を多段にすることで、X偏光の波面とY偏光の波面に2種類よりも多くの異なる位相分布を与えることが可能となる。このようにして、2段よりも多い段数で計算機ホログラム100を構成することができる。なお、等方性層112及び異方性層114の厚さを連続的に変化させることで、X偏光の波面とY偏光の波面との位相差、及び、位相差を与えたX偏光、位相差を与えたY偏光の波面と基準の波面との位相差を連続的に変化させることも可能となる。
【0084】
本実施形態では、説明を簡単にするために、n−n=n−n>0やn=n>nという制約を用いた。但し、等方性層112及び異方性層114に段差をつけることによって同様の効果が得られる場合には、n、n及びnを任意に選択することが可能である。
【0085】
ここで、計算機ホログラム100の製造方法の一例について説明する。かかる製造方法は、セル毎に等方性層112及び異方性層114の厚さが設定された計算機ホログラム100、及び、構造複屈折を生じるように構成された凹凸構造の製造方法である。
【0086】
まず、塗布装置を用いて、計算機ホログラム100を構成する等方性層112、或いは、異方性層114に感光性樹脂(フォトレジスト)を均一に塗布する。
【0087】
次に、露光装置を用いて、所定の計算機ホログラムのパターンをフォトレジストに転写した後、現像装置を用いてフォトレジストを現像し、フォトレジストによる周期的凹凸格子パターンを形成する。
【0088】
次に、反応性イオンエッチング装置を用いて、周期的凹凸格子パターンをエッチングマスクとしてドライエッチングを施し、所定の深さの溝を形成する。そして、溶剤又はガスによるアッシングで、フォトレジストを除去する。
【0089】
このような工程を経ることで、上述した計算機ホログラム100を製造することができる。なお、本実施形態で説明した計算機ホログラム100の製造方法は一例であり、所望の計算機ホログラム100を形成できるのであれば、ナノインプリントなどの他の微細加工技術を用いてもよい。
【0090】
以下、図8を参照して、本発明に係る計算機ホログラム100を適用した露光装置1について説明する。図8は、本発明の一側面としての露光装置1の構成を示す図である。
【0091】
露光装置1は、本実施形態では、ステップ・アンド・スキャン方式でレチクル20のパターンをウエハ40に露光する投影露光装置である。但し、露光装置1は、ステップ・アンド・リピート方式やその他の露光方式も適用することができる。
【0092】
露光装置1は、図8に示すように、照明装置10と、レチクル20を支持するレチクルステージ(不図示)と、投影光学系30と、ウエハ40を支持するウエハステージ(不図示)とを有する。
【0093】
照明装置10は、転写用の回路パターンが形成されたレチクル20を照明し、光源16と、照明光学系18とを有する。
【0094】
光源16は、例えば、波長約193nmのArFエキシマレーザー、波長約248nmのKrFエキシマレーザーなどのエキシマレーザーを使用する。但し、光源16は、エキシマレーザーに限定されず、波長約157nmのFレーザーなどを使用してもよい。
【0095】
照明光学系18は、光源16からの光を用いてレチクル20を照明する光学系であり、本実施形態では、所定の照度を確保しながら所定の偏光状態でレチクル20を変形照明する。照明光学系18は、本実施形態では、引き回し光学系181と、ビーム整形光学系182と、偏光制御部183と、位相制御部184と、射出角度保存光学素子185と、リレー光学系186と、多光束発生部187と、計算機ホログラム100とを含む。また、照明光学系18は、リレー光学系188と、アパーチャ189と、ズーム光学系190と、多光束発生部191と、開口絞り192と、照射部193とを含む。
【0096】
引き回し光学系181は、光源16からの光を偏向してビーム整形光学系182に導光する。ビーム整形光学系182は、光源16からの光の断面形状の寸法の縦横比率を所望の値に変換して(例えば、断面形状を長方形から正方形にして)、光源16からの光の断面形状を所望の形状に整形する。ビーム整形光学系182は、多光束発生部187を照明するために必要な大きさ及び発散角を有する光束を形成する。
【0097】
偏光制御部183は、直線偏光子などで構成され、不要な偏光成分を除去する機能を有する。偏光制御部183で除去(遮光)される偏光成分を最小限にすることで、光源16からの光を効率よく所望の直線偏光にすることができる。
【0098】
位相制御部184は、偏光制御部183によって直線偏光となった光にλ/4の位相差を与えて円偏光に変換する。
【0099】
射出角度保存光学素子185は、例えば、オプティカルインテグレータ(複数の微小レンズより構成されるハエの目レンズやファイバー束等)で構成され、一定の発散角度で光を射出する。
【0100】
リレー光学系186は、射出角度保存光学素子185から射出した光を多光束発生部187に集光する。射出角度保存光学素子185の射出面と多光束発生部187の入射面は、リレー光学系186によって、互いにフーリエ変換の関係(物体面と瞳面又は瞳面と像面の関係)になっている。
【0101】
多光束発生部187は、計算機ホログラム100を均一に照明するためのオプティカルインテグレータ(複数の微小レンズより構成されるハエの目レンズやファイバー束等)で構成される。多光束発生部187の射出面は、複数の点光源からなる光源面を形成する。多光束発生部187から射出された光は、円偏光として計算機ホログラム100に入射する。
【0102】
計算機ホログラム100は、リレー光学系188を介して、アパーチャ189の位置に、光強度分布IL(X偏光が形成する光強度分布LI及びY偏光が形成する光強度分布LI)を形成する。計算機ホログラム100は、上述した通りのいかなる形態をも適用可能であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0103】
なお、従来の計算機ホログラム1100を用いた露光装置1000においては、図9に示すように、X偏光とY偏光を独立に制御することができなかったため、ズーム光学系190と多光束発生部191との間に、λ/4位相板1200を配置する必要があった。なお、計算機ホログラム1100によって形成される光強度分布が偏光方向毎に分離されている場合、λ/4位相板1200は、計算機ホログラム1100の直前又は直後に配置することも可能である。ここで、図9は、従来の露光装置1000の構成を示す図である。
【0104】
しかしながら、本実施形態の露光装置1は、X偏光が形成する光強度分布とY偏光が形成する光強度分布を独立して制御することができる計算機ホログラム100を用いているため、λ/4位相板1200は不要となる。このように、計算機ホログラム100を露光装置に適用することで、露光装置1及び照明光学系18を従来よりも簡易に構成することが可能となる。
【0105】
アパーチャ189は、計算機ホログラム100によって形成される光強度分布のみを通過させる機能を有する。計算機ホログラム100とアパーチャ189とは、互いにフーリエ変換面の関係になるように配置されている。
【0106】
ズーム光学系190は、計算機ホログラム100によって形成される光強度分布を所定の倍率で拡大して多光束発生部191に投影する。
【0107】
多光束発生部191は、照明光学系18の瞳面に配置され、アパーチャ189の位置に形成された光強度分布に対応した光源像(有効光源分布)を射出面に形成する。多光束発生部191は、本実施形態では、ハエの目レンズやシリンドリカルレンズアレイなどのオプティカルインテグレータで構成される。なお、多光束発生部191の射出面近傍には、開口絞り192が配置される。
【0108】
照射部193は、コンデンサー光学系等を有し、多光束発生部191の射出面に形成される有効光源分布でレチクル20を照明する。
【0109】
レチクル20は、回路パターンを有し、図示しないレチクルステージに支持及び駆動される。レチクル20から発せされた回折光は、投影光学系30を介して、ウエハ40に投影される。露光装置1は、ステップ・アンド・スキャン方式の露光装置であるため、レチクル20とウエハ40とを走査することによって、レチクル20のパターンをウエハ40に転写する。
【0110】
投影光学系30は、レチクル20のパターンをウエハ40に投影する光学系である。投影光学系30は、屈折系、反射屈折系、或いは、反射系を使用することができる。
【0111】
ウエハ40は、レチクル20のパターンが投影(転写)される基板であり、図示しないウエハステージに支持及び駆動される。但し、ウエハ40の代わりにガラスプレートやその他の基板を用いることもできる。ウエハ40には、レジストが塗布されている。
【0112】
本実施形態の露光装置1では、計算機ホログラム100に入射する光は円偏光であるが、計算機ホログラム100に入射する光は無偏光であってもよい。具体的には、光源16からの光を無偏光の光に変換する偏光解消素子を配置し、かかる偏光解消素子から射出される無偏光を計算機ホログラム100に入射させる。偏光解消素子は、例えば、特開2004−198348号公報に開示されており、かかる偏光解消素子を位相制御部184の代わりに用いることで、計算機ホログラム100に無偏光を入射させることができる。
【0113】
なお、露光装置1は、図10に示すように、計算機ホログラム100に入射する光の偏光状態を調整する偏光状態調整部としてのλ/4位相板194を有していてもよい。ここで、図10は、本発明の一側面としての露光装置1の構成を示す図である。
【0114】
偏光状態調整部としてのλ/4位相板194は、計算機ホログラム100に入射する光の第1の方向の直線偏光成分と第2の方向の直線偏光成分との強度比を調整する。これにより、計算機ホログラム100によって形成される第1の光強度分布LIの光強度と第2の光強度分布LIの光強度との比を調整することができる。これまでは、計算機ホログラム100に円偏光又は無偏光を入射させる場合を説明してきたが、計算機ホログラム100には直線偏光を入射させることも可能である。計算機ホログラム100に入射する直線偏光の角度を調整することで、X偏光とY偏光の強度比を変更することができる。
【0115】
図11に示すように、偏光状態調整部としてのλ/4位相板194は、計算機ホログラム100の直前に配置する。λ/4位相板194を光軸(Z軸)に沿って回転させることで、計算機ホログラム100に対して、所望の直線偏光PLの方向を得ることができる。また、直線偏光方向を角度PAで表すこととする。ここで、図11は、計算機ホログラム100及びλ/4位相板194の近傍を示す概略斜視図である。
【0116】
角度PAを変化させることで、X偏光とY偏光の強度比を変化させることができる。例えば、角度PAが0度である場合には、計算機ホログラム100に入射する光がX偏光のみとなるため、光強度分布LIのみが形成される。角度PAが90度である場合には、計算機ホログラム100に入射する光がY偏光のみとなるため、光強度分布LIのみが形成される。また、角度PAが45度である場合には、円偏光又は無偏光と同じX偏光とY偏光の強度比、即ち、1:1の強度比の光強度分布LI及びLIが形成される。
【0117】
露光装置1では、ウエハ40に転写する回路パターンに応じて、X偏光とY偏光のバランスを変化させる必要がある。従って、計算機ホログラム100が図1に示すような四重極形状の光強度分布LIを形成する場合には、λ/4位相板194を配置して、光強度分布LIと光強度分布LIとのバランス(ポールバランス)を変化させることができるようにすることが好ましい。
【0118】
計算機ホログラム100は、上述したように、1つの偏光方向の波面だけではなく、全面にわたってX偏光の波面及びY偏光の波面に互いに異なる位相分布を与えるため、光量損失を実質的に発生させることなく、光強度分布LIを形成することができる。従って、計算機ホログラム100に入射する光の偏光方向を変化させても光強度分布LIの全体のエネルギーは変わらない。その結果、光強度分布LI(再生像)の所望のエネルギーが明らかである場合には、角度APを考慮せずに入射光のエネルギーを確定することができる。
【0119】
露光において、光源16から発せられた光は、照明光学系18によってレチクル20を照明する。レチクル20のパターンを反映する光は、投影光学系30によってウエハ40上に結像する。露光装置1が使用する照明光学系18は、計算機ホログラム100によって、照明ムラ及び光量損失を抑えると共に、所望の形状及び偏光状態の光強度分布を形成することができる。従って、露光装置1は、高いスループットで経済性よく高品位なデバイス(半導体素子、LCD素子、撮像素子(CCDなど)、薄膜磁気ヘッドなど)を提供することができる。
【0120】
次に、図12及び図13を参照して、露光装置1を利用したデバイス製造方法の実施例を説明する。図12は、デバイス(半導体デバイスや液晶デバイス)の製造を説明するためのフローチャートである。ここでは、半導体デバイスの製造を例に説明する。ステップ1(回路設計)では、デバイスの回路設計を行う。ステップ2(レチクル製作)では、設計した回路パターンを形成したレチクルを製作する。ステップ3(ウエハ製造)では、シリコンなどの材料を用いてウエハを製造する。ステップ4(ウエハプロセス)は、前工程と呼ばれ、レチクルとウエハを用いてリソグラフィー技術によってウエハ上に実際の回路を形成する。ステップ5(組み立て)は、後工程と呼ばれ、ステップ4によって作成されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の工程を含む。ステップ6(検査)では、ステップ5で作成された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テストなどの検査を行う。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、これが出荷(ステップ7)される。
【0121】
図13は、ステップ4のウエハプロセスの詳細なフローチャートである。ステップ11(酸化)では、ウエハの表面を酸化させる。ステップ12(CVD)では、ウエハの表面に絶縁膜を形成する。ステップ13(電極形成)では、ウエハ上に電極を蒸着などによって形成する。ステップ14(イオン打ち込み)では、ウエハにイオンを打ち込む。ステップ15(レジスト処理)では、ウエハに感光剤を塗布する。ステップ16(露光)では、露光装置1によってレチクルの回路パターンをウエハに露光する。ステップ17(現像)では、露光したウエハを現像する。ステップ18(エッチング)では、現像したレジスト像以外の部分を削り取る。ステップ19(レジスト剥離)では、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。これらのステップを繰り返し行うことによってウエハ上に多重の回路パターンが形成される。かかるデバイス製造方法によれば、従来よりも高品位のデバイスを製造することができる。このように、露光装置1を使用するデバイス製造方法、並びに結果物としてのデバイスも本発明の一側面を構成する。
【0122】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の一側面としての計算機ホログラムを説明するための図である。
【図2】図2(a)は、図1に示す計算機ホログラムの構成を示す概略斜視図であり、図2(b)は、図2(a)に示す計算機ホログラムの4つのセルのXZ面における概略断面図である。
【図3】図2(a)に示す計算機ホログラムの4つのセルのXZ面における概略断面図である。
【図4】図2(a)に示す計算機ホログラムの4つのセルのXZ面における概略断面図である。
【図5】図2(a)に示す計算機ホログラムの4つのセルのXZ面における概略断面図である。
【図6】本発明の一側面としての計算機ホログラムの設計の一例を説明するための図である。
【図7】2段よりも多い段数で構成される計算機ホログラムを説明するための図である。
【図8】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す図である。
【図9】従来の露光装置の構成を示す図である。
【図10】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す図である。
【図11】図10に示す露光装置において、計算機ホログラム及びλ/4位相板の近傍を示す概略斜視図である。
【図12】デバイスの製造を説明するためのフローチャートである。
【図13】図12に示すステップ4のウエハプロセスの詳細なフローチャートである。
【符号の説明】
【0124】
1 露光装置
10 照明装置
16 光源
18 照明光学系
181 引き回し光学系
182 ビーム整形光学系
183 偏光制御部
184 位相制御部
185 射出角度保存光学素子
186 リレー光学系
187 多光束発生部
188 リレー光学系
189 アパーチャ
190 ズーム光学系
191 多光束発生部
192 開口絞り
193 照射部
194 λ/4位相板
20 レチクル
30 投影光学系
40 ウエハ
100 計算機ホログラム
110 セル
112 等方性層
112a 凹凸面
112b 平面
114 異方性層
114a 凹凸面
114b 平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光の波面に位相分布を与えて所定面に光強度分布を形成する計算機ホログラムであって、
第1の方向の直線偏光に対する屈折率と前記第1の方向の直線偏光に直交する第2の方向の直線偏光に対する屈折率とが異なる異方性層と、前記第1の方向の直線偏光に対する屈折率と前記第2の方向の直線偏光に対する屈折率とが等しい等方性層とを有し、
前記入射光の前記第1の方向の直線偏光成分の波面及び前記入射光の前記第2の方向の直線偏光成分の波面に互いに異なる位相分布を与えることによって、前記入射光の前記第1の方向の直線偏光成分が前記所定面に形成する第1の光強度分布と前記入射光の前記第2の方向の直線偏光成分が前記所定面に形成する第2の光強度分布とを異ならせていることを特徴とする計算機ホログラム。
【請求項2】
複数のセル毎に前記異方性層の厚さが設定されることで、前記入射光の前記第1の方向の直線偏光成分の波面及び前記入射光の前記第2の方向の直線偏光成分の波面に互いに異なる位相分布を与えることを特徴とする請求項1記載の計算機ホログラム。
【請求項3】
複数のセル毎に前記異方性層の屈折率が設定されることで、前記入射光の前記第1の方向の直線偏光成分の波面及び前記入射光の前記第2の方向の直線偏光成分の波面に互いに異なる位相分布を与えることを特徴とする請求項1記載の計算機ホログラム。
【請求項4】
前記複数のセル毎に前記異方性層及び前記等方性層の厚さが設定されることを特徴とする請求項2記載の計算機ホログラム。
【請求項5】
前記異方性層と前記等方性層とは、平面で接合されていることを特徴とする請求項4記載の計算機ホログラム。
【請求項6】
前記異方性層の厚さの種類は、前記等方性層の厚さの種類よりも少ないことを特徴とする請求項4又は5記載の計算機ホログラム。
【請求項7】
前記異方性層の前記第1の方向又は前記第2の方向の直線偏光に対する屈折率と、前記等方性層の屈折率とは等しいことを特徴とする請求項4又は5記載の計算機ホログラム。
【請求項8】
前記異方性層は、複屈折材料で構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の計算機ホログラム。
【請求項9】
前記複屈折材料は、真性複屈折を有することを特徴とする請求項8記載の計算機ホログラム。
【請求項10】
前記異方性層は、構造複屈折を生じる凹凸構造を有することを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の計算機ホログラム。
【請求項11】
光源からの光でレチクルを照明する照明光学系と、
前記レチクルのパターンを基板に投影する投影光学系とを有し、
前記照明光学系は、請求項1乃至10のうちいずれか1項に記載の計算機ホログラムを含むことを特徴とする露光装置。
【請求項12】
前記照明光学系は、前記計算機ホログラムに入射する光を無偏光の光に変換する光学素子を含むことを特徴とする請求項11記載の露光装置。
【請求項13】
前記照明光学系は、前記計算機ホログラムに入射する光の偏光状態を調整する偏光状態調整部を含み、
当該偏光状態調整部で前記計算機ホログラムに入射する光の前記第1の方向の直線偏光成分と前記第2の方向の直線偏光成分との強度比を調整することにより、前記第1の光強度分布の光強度と前記第2の光強度分布の光強度との比を調整することを特徴とする請求項11記載の露光装置。
【請求項14】
請求項11乃至13のうちいずれか1項に記載の露光装置を用いて基板を露光するステップと、
露光された前記基板を現像するステップとを有することを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−36916(P2009−36916A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199904(P2007−199904)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】