説明

記録装置

【課題】PDL処理のための拡張ボードを付加した構成で、PDLデータを受信により省電力モードから復帰すると、拡張ボードの初期化に時間を要し、受信PDLデータの印刷が数十秒〜数分待たされる。
【解決手段】拡張ボードの使用準備ができていない場合にPDLデータを受信した場合には、メインボードのPDL処理モジュールでデータを処理する。その後、拡張ボードの初期化完了後からは、拡張ボードのPDL処理モジュールを合わせて使用する。このように処理を行うことで、ユーザを長時間待たせることなく、PDLデータの印刷を開始することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置に関し、特に、ホストから送信されるPDLデータを処理して記録を行なう記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PDLを処理する装置、例えば、PDL印刷機能を備えた記録装置のような装置では、拡張ボードを搭載することで、PDL処理、即ち、印刷処理時間を短縮したり、処理可能なPDLの種類を増やすという構成がとられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、メインボードで受信したPDLの種別を判断し、処理を行うボードを切り換える複合機が開示されている。また、メインボードでも拡張ボードでも、同じPDLを処理可能な構成もある。例えば、特許文献2には、オプションボードに搭載のCPUの性能によって、処理の分担を自動的に切り換えるマルチファンクションシステムが開示されている。
【0004】
さて、近年、特に機器の省電力化の要望は強くなり、機器の利用が一定時間の間なされない場合などは、機器を自動的に省電力モードに移行するという構成も多く採用されるようになってきた。例えば、記録装置の場合、印刷ジョブの受信が一定時間なかった事をトリガにして省電力モードへ移行し、印刷ジョブの受信によって省電力モードから通常モードに復帰するという構成がある。
【0005】
省電力モードからの復帰には、ある程度のシステムの初期化などを行う必要などから、その復帰には時間がかかる場合が多い。省電力化をより徹底していくと、例えば、センサへの電力供給を停止する、メモリへの電力供給を遮断するというように、通電によって保持できていた情報や状態が保持できなくなり、結果として初期化すべき要素が増えていく傾向がある。これは、ユーザの処理要求に迅速に対応できず、ユーザを待たせる時間が長くなっていくことを意味する。
【0006】
このような背景の中、省電力化を進めつつも、ユーザの要求に速やかに応えるシステムの構築がより求められるようになってきた。
【0007】
また電源がONである時にも、省電力モードからの復帰と同様の初期化待ち時間が必要で、電源ON時の待ち時間短縮も同様に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−210275号公報
【特許文献2】特開2006−236039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の技術によれば、記録装置を起動した後の所謂、“定常状態”での、コントローラのメインボード上のPDL処理ブロックと拡張ボード上のPDL処理ブロックの処理能力に応じた効率的な処理分担は可能である。
【0010】
しかしながら、背景技術の項で説明したような、省電力モードからの復帰時間、起動時の起動時間、上記従来の技術では、初期化完了までの待ち時間については考慮されていない。このため、装置の起動時や省電力モードからの復帰時における処理開始までの時間を短縮したり、最適化することはできなかった。
【0011】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、装置の起動時や省電力モードからの復帰時における処理開始までの時間の短縮や最適化が可能な記録装置を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は次のような構成からなる。
【0013】
即ち、ホストからPDLデータを受信し、前記PDLデータを処理して、記録媒体に画像を記録する記録装置であって、前記ホストから前記PDLデータを受信する受信部と、前記記録装置の全体の動作を制御するとともに前記PDLデータの処理を行う、メインCPUを含むメインボードと、前記PDLデータの処理を行う、サブCPUを含む、少なくとも1つの拡張ボードと、前記PDLデータの処理を実行する各ボードの処理能力と処理状況とを示す情報を格納する記憶部とを有し、前記メインボードは、前記受信部により前記PDLデータを受信したとき、前記記憶部に格納された情報に基づいて、PDL処理の開始までが最短となるボードを選択する選択手段と、前記選択手段により選択されたボードに前記受信部により受信した前記PDLデータを転送する転送手段とを含むことを特徴とする。
【0014】
また本発明を別の側面から見れば、記録装置であって、印刷データをページ単位で受信する受信部と、前記受信部に印刷データの受信に基づいて、前記記録装置を起動する起動部と、印刷データの処理を行う第1の印刷データ処理部と、処理能力が前記第1の印刷データ処理部より高く、前記記録装置が起動してからの準備時間が前記第1の印刷データ処理部より長い第2の印刷データ処理部と、前記第2の印刷データ処理部が印刷データの処理ができる状態になるまで第1の印刷データ処理部を選択し、前記第2の印刷データ処理部が印刷データの処理ができる状態になると第2の印刷データ処理部を選択する選択部とを有することを特徴とするとも言える。
【発明の効果】
【0015】
従って本発明によれば、ユーザからのPDL処理要求によって省電力モードから復帰する場合や、電源投入後すぐにPDL処理を行いたい場合でも、各ボードの処理能力や処理能力と処理状況に従って最適なPDL処理を行なうことができるという効果がある。
【0016】
つまり、メインボード、拡張ボードそれぞれが処理を開始可能となるまでの時間や各ボードの処理能力を把握し、総合的に待ち時間が最小になるよう、処理を行なうボードを選択し、その選択されたボードにPDLデータを転送して処理を行わせる。これにより、どのような状況でも処理待ち時間が最短とすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の代表的な実施例であるA0やB0サイズの記録媒体を用いる記録装置の外観斜視図である。
【図2】図1に示す記録装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す記録装置のソフトウェア構成を示すブロック図である。
【図4】PDLモジュール管理情報の詳細を示す図である。
【図5】PDL処理管理情報の詳細を示す図である。
【図6】ページ毎にPDL処理モジュールを選択する処理を示すフローチャートである。
【図7】ページ毎にPDL処理モジュールからの描画データを受信する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成要素の相対配置等は、特定の記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。さらに人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0020】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0021】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0022】
またさらに、「記録要素」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0023】
<記録装置の全体概要(図1)>
図1は本発明の代表的な実施例であるA0やB0サイズの記録媒体を用いる記録装置の外観斜視図であり、図1(b)は図1(a)に示した記録装置のアッパカバーを取り外した状態を示す斜視図である。
【0024】
図1(a)に示されるように、記録装置2の前面に手差し挿入口88が設けられ、その下部に前面へ開閉可能なロール紙カセット89が設けられており、記録紙等の記録媒体は手差し挿入口88又はロール紙カセット89から記録装置内部へと供給される。記録装置2は、2個の脚部93に支持された装置本体94、排紙された記録媒体を積載するスタッカ90、内部が透視可能な透明で開閉可能なアッパカバー91を備えている。また、装置本体94の右側には、操作部12、インク供給ユニット及びインクタンクが配設されている。
【0025】
図1(b)に示されているように、記録装置2はさらに、記録媒体を矢印B方向(副走査方向)に搬送するための搬送ローラ70と、記録媒体の幅方向(矢印A方向、主走査方向)に往復移動可能に案内支持されたキャリッジ4とを備えている。記録装置2はさらに、キャリッジ4を矢印A方向に往復移動させるためのキャリッジモータ(不図示)とキャリッジベルト(以下、ベルト)270と、キャリッジ4に装着された記録ヘッド11とを備えている。またさらに、インクを供給するとともに記録ヘッド11の吐出口の目詰まりなどによるインク吐出不良を解消させるための吸引式インク回復ユニット9も備えられている。
【0026】
この記録装置の場合、キャリッジ4には、記録媒体にカラー記録を行うために、4つのカラーインクに対応して4つのヘッドからなるインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)11が装着されている。即ち、記録ヘッド11は、例えば、K(ブラック)インクを吐出するKヘッド、C(シアン)インクを吐出するCヘッド、M(マゼンタ)インクを吐出するMヘッド、Y(イエロ)インクを吐出するYヘッドで構成されている。
【0027】
以上の構成で記録媒体に記録を行う場合、搬送ローラ70によって記録媒体を所定の記録開始位置まで搬送する。その後、キャリッジ4により記録ヘッド11を主走査方向に走査させる動作と、搬送ローラ70により記録媒体を副走査方向に搬送させる動作とを繰り返すことにより、記録媒体全体に対する記録が行われる。
【0028】
即ち、ベルト270およびキャリッジモータ(不図示)によってキャリッジ4が図1(b)に示された矢印A方向に移動することにより、記録媒体に記録が行われる。キャリッジ4が走査される前の位置(ホームポジション)に戻されると、搬送ローラによって記録媒体が副走査方向(図1(b)に示された矢印B方向)に搬送され、その後、再び図1中の矢印A方向にキャリッジを走査する。このようにして、記録媒体に対する画像や文字等の記録が行なわれる。さらに上記の動作を繰り返し、記録媒体の1枚分の記録が終了すると、その記録媒体はスタッカ90内に排紙され、1枚分の記録が完了する。
【0029】
<制御構成の説明(図2〜図3)>
次に、図1を用いて説明した記録装置の記録制御を実行するための制御構成について説明する。この実施例に従う記録装置はPDL印刷が可能な構成となっている。また、記録装置には、その装置に電力供給がなされているもの、印刷ジョブが送られず一定時間以上アイドリング状態にあるときに消費電力を節約するための省電力モードと、通常の記録動作を行なう状態の通常モードとを備える。
【0030】
・ハードウェア構成
図2は記録装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0031】
図2に示すように、記録装置2は、制御構成の中核的な要素として、USBインタフェース(I/F)111とネットワークインタフェース(I/F)110を夫々介して、ホスト装置(以下、ホスト)101と102に接続されている。記録装置2は、メインボード104(第1の印刷データ処理部)、拡張ボード105(第2の印刷データ処理部)、表示ユニットと操作キーを備えた操作部12とを備える。
【0032】
メインボード104は、CPU107、RAM108、ROM109、ネットワークI/F110、USBI/F111、HDD112、画像処理回路113、操作部I/F114、モータドライバ115、センサドライバ116、ヘッドドライバ117を含む。一方、拡張ボード105は、RAM118、ROM119、サブCPU120、メインボード104との接続に用いられる外部バス(BUS)I/F121を含む。
【0033】
また、ハードウェア構成には、モータドライバ115に接続されるモータ122、センサドライバ116に接続されるセンサ123、ヘッドドライバ117に接続される記録ヘッド11が含まれる。なお、CPU107はメインCPUとも呼ばれる。
【0034】
以下、それぞれの構成要素について説明する。
【0035】
記録装置2は、メインボード104でもPDL印刷が可能に構成されている。
【0036】
PDLデータは、ネットワークI/F110或はUSBI/F111を介して、ホスト101、102から受信される。CPU107はPDL処理を含む各種制御を、ROM109に格納されたプログラムなどをRAM108を用いて実行することにより行う。PDLデータの印刷制御の実行に当っては、以下に説明する各種回路、デバイスを制御する。
【0037】
即ち、CPU107は、HDD112に格納された受信ジョブに基いて、PDLデータを描画した後、画像処理回路113を動作させて、画像処理を実行し、描画データを印刷データに変換する。なお、記録装置の起動、終了や、ジョブの制御、印刷設定の変更などは、操作部12より操作部I/F114を介して入力されたユーザからの指示に基いてCPU107が実行する(起動部)。
【0038】
また、CPU107は、モータドライバ115を介して接続されるモータ122、センサドライバ116を介して接続されるセンサ123、ヘッドドライバ117を介して接続される記録ヘッド11を制御して、印刷データを記録媒体に画像として印刷する。
【0039】
これらの印刷機構は、ROM109に格納されている印刷制御プログラムによって制御され、目的の画像を記録する事ができる。
【0040】
上述のように、記録装置2はメインボード104単体でPDLの印刷が可能な構成となっているが、拡張ボード105を接続することで、負荷の高いPDL処理を、処理速度が高速な拡張ボード側で担当することができる。こうすることで、印刷データを高速処理する印刷モードでも、印刷機構の能力を最大限に活用した高速な記録が可能になる。
【0041】
拡張ボード105には、PDL処理を行うための能力を備える。即ち、拡張ボード105は、PDL処理やメインボード104との通信処理などを行うサブCPU120、PDL処理プログラムなどを格納するROM119、プログラムの処理やPDLデータ処理の作業領域として利用されるRAM118を備える。また、拡張ボード105には、メインボード104と接続するための外部バスI/F121が備えられ、ROM119に格納されている通信プログラムによってサブCPU120がとメインボード104と通信することができる。
【0042】
・ソフトウェア構成
図3は記録装置に実装されるソフトウェア構成を示すブロック図である。なお、図3において、図1〜図2で説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0043】
図3に示すように、記録装置2は、ホスト101、102から送信されるPDLデータを受信するデータ受信部204、受信PDLデータを管理するPDL管理モジュール205を備える。PDL管理モジュール205には、受信PDLデータを複数あるPDL処理モジュールのいずれに処理させるのかを選択するPDLデータ転送先セレクタ206(選択部)を含む。さらに、記録装置2は内蔵PDL処理モジュール209にPDLデータを転送するPDLデータ転送部207、拡張ボード105に備えられる拡張PDL処理モジュール214にPDLデータを転送するPDLデータ転送部208を含む。
【0044】
メインボード104に含まれる内蔵PDL処理モジュール209は、PDLデータ受信部210、PDL解析部211、レンダリング部212、描画データ送信部213を含む。一方、拡張PDL処理モジュール214は、PDLデータ受信部215、PDL解析部216、レンダリング部217、描画データ送信部218を含む。
【0045】
また、メインボード104には、内蔵PDL処理モジュール209からPDL描画データを受信する描画データ受信部219、拡張PDL処理モジュール214からPDL描画データを受信する描画データ受信部220である。また、PDL管理モジュール205にはさらに、内蔵PDL処理モジュール209或は拡張PDL処理モジュール214のいずれによって生成された描画データを選択するかを決定する描画データ入力セレクタ221を含む。描画データ入力セレクタ221によって選択された描画データは描画バッファ222に格納される。
【0046】
さらに、記録装置2は、PDL管理モジュール205によって利用されるPDLモジュール管理情報やPDL処理管理情報を保持するPDL管理情報の記憶部223を備える。またさらに、記録装置2は描画バッファ222に格納されたデータを2値化する2値化処理モジュール224、2値化されたデータを印刷データに変換する変換モジュール225、印刷データを印刷物227として印刷する印刷モジュール226を備える。
【0047】
以下、それぞれの構成要素について説明する。
【0048】
記録装置2は、拡張ボード105が搭載されていない状態でも、内蔵PDL処理モジュール209によってPDL印刷が可能な構成になっている。
【0049】
ホスト101、102が送信したPDLデータは、データ受信部204によって受信され、PDL管理モジュール205によって管理されているPDL処理モジュール情報に従い、適切なPDL処理モジュールに渡される。
【0050】
即ち、PDL管理モジュール205は、実行可能なPDL処理モジュールの数と、初期化に必要な待ち時間などを把握する。PDL管理モジュール205は更に、PDL処理モジュールの状態を取得する(取得部)。把握した情報は、PDL管理情報の記憶部223に保持させる。そして、把握した情報に基いて、最短で処理が可能なPDL処理モジュールを選択し、これをPDLデータ転送先セレクタ206に設定する。PDLデータ転送セレクタ206は、処理対象ページのデータを、設定されたPDL処理モジュールに転送する。
【0051】
例えば、記録装置2では、その起動直後、拡張PDL処理モジュール214がOSの起動を含め初期化に1分ほど要し、内蔵PDL処理モジュール209は5秒で初期化が完了するとする。つまり、起動後、初期化完了までに要する準備時間について、拡張PDL処理モジュール214の準備時間は内蔵PDL処理モジュール209の準備時間より長い。
【0052】
PDL管理モジュール205は、上記情報を取得し把握した後、結果として最初のページを内蔵PDL処理モジュール209で処理することを決定する。この場合、PDLデータ転送セレクタ206は、内蔵PDL処理モジュール209にデータが転送されるように設定され、内蔵PDL処理モジュール209に受信したPDLデータを転送するための、PDLデータ転送部207にPDLデータが渡される。
【0053】
PDLデータ転送部207は、PDLデータ受信部210との間で、PDLデータの受け渡しをする。この受け渡しは、同一ボード(メインボード)内で実行されるため、ソフトウェア的なデータ送受信となる。
【0054】
さて、記録装置2が起動している状態で、PDLデータを受信した場合には、既に内蔵PDL処理モジュール209も拡張PDL処理モジュール214も初期化が終了し、いつでもPDL処理を開始できる状態にある。
【0055】
この場合は、それぞれの処理能力を比較し、より短時間で処理が完了するモジュールを選択する。例えば、拡張PDL処理モジュール214の処理能力が2000ベクトル/秒 で、内蔵PDL処理モジュール209の処理能力が1500ベクトル/秒だとする。PDL管理モジュール205は上記情報を把握した後、結果として対象ページを拡張PDL処理モジュールで処理することを決定する。
【0056】
この場合、PDLデータ転送セレクタ206は、拡張PDL処理モジュール214にデータが転送されるように設定され、拡張PDL処理モジュール214に受信PDLデータを転送するための、PDLデータ転送部208にそのデータが渡される。
【0057】
PDLデータ転送部207は、PDLデータ受信部215との間で、データの受け渡しをする。この受け渡しは、拡張ボード105との間でのデータ受け渡しとなるため、接続I/Fに関わるプロトコル制御が必要となり、この2つのモジュール間で処理される。
【0058】
以上のようにして、いずれかのPDL処理モジュールに渡されたPDLデータは、各モジュールのPDL解析部とレンダリング部とによる処理が実行され、描画データが生成される。
【0059】
ここで、生成された描画データは、これを格納するための、描画バッファ222が必要となる。そのため、各PDL処理モジュールは、PDL管理モジュール205に対して描画バッファ222の獲得要求を発行する。ところで、PDL管理モジュール205は、複数のPDL処理モジュールに、それぞれ別のページに関するPDL処理を依頼している場合があり、PDL処理管理情報としてこれを管理している。一方、各PDL処理モジュールはその処理速度に差があるため、結果を順序管理して受け取らなければならない。
【0060】
例えば、1ページ目の途中を内蔵PDL処理モジュール209が処理中に、2ページ目を拡張PDL処理モジュール214が処理を開始し、最初の描画データが送信可能な状態になったとする。拡張PDL処理モジュール214の処理速度が速い場合、このような状況は生じる可能性がある。
【0061】
この時、拡張PDL処理モジュール214からの描画バッファ獲得要求に対して描画バッファ222を割り当ててしまうと、内蔵PDL処理モジュール209が生成している1ページ分の描画データの途中に2ページ目のデータが混ざってしまうことになる。このような状態が発生するのを防ぐため、PDL管理モジュール205は、どのPDL処理モジュールにどのページの処理を依頼し、それぞれどのような状況なのか、即ち、処理完了、或は、処理途中なのかを把握し、描画バッファの割り当てを行う。
【0062】
一方、各PDL処理モジュールは、描画バッファ222の獲得に先立ち、描画データ転送要求をPDL管理モジュール205に発行する。
【0063】
PDL管理モジュール205は、描画データ転送要求に対して、要求元のPDL処理モジュールからのデータ転送を受け付け可能な状態だと判断したなら、描画データ入力セレクタ221に対して要求元のPDL処理モジュールと接続するよう設定する。描画データ入力セレクタ221への設定後、PDL管理モジュール205は描画データ転送要求に対して許可の返答を発行する。PDL処理モジュールは、発行した描画データ転送要求に対する許可を受信したなら、描画バッファ222の獲得要求を発行する。
【0064】
PDL管理モジュール205は、描画データ転送を許可したPDL処理モジュールからの描画バッファ獲得要求を受信すると、描画バッファ222に割当可能な空きバッファがあるかどうかを調べる。ここで、割当可能な空きバッファが存在する場合には、描画バッファの獲得要求を発行したPDL処理モジュールに対して、描画バッファ222からバッファを割り当てる。
【0065】
その後、PDL処理モジュールは、割り当てられた描画バッファにデータを書き込むためPDL管理モジュール205にそのデータを転送する。処理を受け持ったページに関してすべての描画データを転送し終えるまで、獲得と描画、転送を繰り返す。このようにして生成された描画データは描画バッファ222に格納され、2値化処理モジュール224や変換モジュール225を経て、最終的には印刷モジュール226によって印刷され、印刷物227となる。
【0066】
以上、記録装置のソフトウェア構成と、受信からPDL処理モジュールの切替、処理結果の受け取り、印刷までの処理フローについて説明した。
【0067】
以上のような構成の記録装置では、その装置に電力が投入されると、装置が起動され、その状態を初期化するための初期化処理が実行される。初期化処理が完了した時点で起動完了となる。また、省電力モードにおいて、印刷ジョブがホストから送信されると、装置は通常モードに復帰する。この復帰動作が完了した時点(復帰時点)で復帰完了となる。
【0068】
図4は記録装置のPDL管理モジュールが管理するPDL処理モジュール管理情報の詳細を示す図である。図4では、PDL処理モジュール管理情報テーブル301の例を示している。このテーブルは縦方向に対象となるPDL処理モジュールのレコードを、横方向にそれぞれのPDL処理モジュールの情報を示している。
【0069】
PDL処理モジュールの情報には、対象PDL処理モジュール302、PDL処理モジュールの状態303、PDL処理モジュールが使用可能になるまでに必要な準備時間304、はPDL処理モジュールの処理能力305を含む。PDL処理モジュールのレコードには、内蔵PDL処理モジュールに関するレコード306、拡張PDL処理モジュールに関するレコード307を含む。図4に示す例では、内蔵PDL処理モジュールが1つ、拡張PDL処理モジュールが1つ、計2つのPDL処理モジュールが存在する構成となっている。準備時間304は装置の起動時点で実行される初期化処理に必要な初期化時間や省電力モードから通常モードに復帰するまでに必要な時間に相当する。
【0070】
PDL管理モジュール205は、処理可能なPDL処理モジュールの数などを把握し、各PDL処理モジュールから、この表に挙げられている各種情報を取得し、PDL処理モジュール管理情報301を作成する。作成されたPDL処理モジュール管理情報301は、受信PDLデータを処理させるPDL処理モジュールを選択する際に利用される。
【0071】
図5は記録装置のPDL管理モジュールが管理するPDL処理管理情報の詳細を示す図である。図5では、PDL処理管理情報テーブル401の例を示している。このテーブルは、縦方向に処理中のページに関する情報レコード、横方向に各ページに関する処理情報を示している。各ページに関する処理情報には、管理対象ページ402、対象ページを処理するPDL処理モジュール403、対象ページの処理状況404を含む。処理中のページに関する情報レコードには、ページ1に関するレコード405、ページ2に関するレコード406、ページ5(=最終ページ)に関するレコード407を含む。図5の例は、全5ページのPDLデータを受信し、内蔵PDL処理モジュール1つ、拡張PDL処理モジュール1つに、それぞれページ単位で処理を依頼し、すべての処理が完了するまでのある時点の状況を示している。
【0072】
PDL管理モジュール205は、ページ単位で、PDL処理モジュール管理情報301の情報に基いて、PDL処理の依頼先を決めるが、その依頼と共に、PDL処理管理情報401を作成、更新し、描画バッファの222の割り当て時にこの情報を利用する。
【0073】
<PDL処理の説明(図6〜図7)>
まず、PDL管理モジュール205がPDL処理モジュールを選択する処理について説明する。
【0074】
図6はページ毎のPDL処理モジュール選択処理を示すフローチャートである。
【0075】
まず、ステップS501においてPDLデータを受信すると、ステップS502でPDL管理モジュール205は、PDL処理モジュールの接続状況を把握する。その後、ステップS503では実装されている全てのPDL処理モジュールから、その仕様、ステータスを取得し、ステップS504では、その取得した内容に基いて、PDL管理情報を更新する。
【0076】
次に、取得した情報を元に、PDL処理モジュールの選択処理に移る。
【0077】
ステップS505では、PDL管理モジュール205は、ステップS504で更新した情報を元に、PDL処理を完了するまでに最も待ち時間が短い(最短の)処理モジュールを選択する。次に、ステップS506では、PDL転送セレクタ206に選択したモジュールを設定する。現在のページに関する処理依頼先を確定させたので、ステップS507では、PDL管理情報を更新する。このような制御を言い換えると、PDL管理モジュール205は、拡張PDLモジュール214が印刷データを処理可能な状態になるまで内蔵PDL209を選択する。そして、PDL管理モジュール205は、拡張PDLモジュール214が印刷データを処理可能な状態になると、拡張PDLモジュール214を選択する。
【0078】
ステップS508〜S509のループでは、受信PDLデータを選択したPDL処理モジュールに1ページ分転送する。即ち、1ページ分の転送が終了したら、ステップS510では、全ページ分の転送が完了したかどうかを確認し、残りのページがある場合には、ステップS502からの処理を全ページ分繰り返す。全ページ分の転送が完了すれば、転送処理は完了である。
【0079】
次に、ページ毎にPDL管理モジュール205がPDL処理モジュールからの描画要求に対して描画データを受信する処理について説明する。
【0080】
図7はページ毎のPDL処理モジュールからの描画要求に対して行う処理を示したフローチャートである。
【0081】
図7に示されているように、この処理は最初は描画データ転送確立フェーズである。初期的に、PDL管理モジュール205は描画データ転送要求待ちとなっている。その状態で、PDL処理モジュールは、PDL管理モジュール205から依頼されたPDLデータの処理が進み、描画バッファ222が必要になると描画データ転送要求をPDL管理モジュール205に発行する。
【0082】
即ち、ステップS601において、PDL管理モジュール205は、PDL処理モジュールに対してPDL処理を依頼すると、描画データ受信処理を開始し、PDL処理モジュールからの描画データ転送要求を待ち合わせる。そして、描画データ転送要求を受信すると、ステップS602においてPDL処理管理情報401の最新情報を取得し、さらにステップS603では、ページ順序などの不整合がないかどうかを確認する。
【0083】
ステップS604では、先行して受け付けているページがまだ転送中であったり、ページ順を追い越してしまうような場合など、要求受付不可能の場合は、処理はステップS602に戻り、最新のPDL処理情報を監視しつつ、その受付を保留する。これに対して、その監視結果が描画データ転送要求を受付可能な状態に示せば、ステップS605において、描画データ入力セレクタ221に対して要求元からのデータを受信できるように設定し、ステップS606では、PDL管理情報も更新する。そして、ステップS607では、描画データ転送要求元のPDL処理モジュールに転送許可を送信する。
【0084】
次に、処理は描画バッファの割り当てフェーズへと移行する。
【0085】
描画データ転送要求が許可されたPDL処理モジュールは、描画バッファの獲得要求をPDL管理モジュール205に対して送信する。
【0086】
それで、処理はステップS608〜S609において、PDL管理モジュール205は、描画バッファ獲得要求を受信すると、ステップS610〜S611において、割当可能な描画バッファがあるかどうかを確認する。ここで、割当可能な描画バッファがあれば、処理はステップS612において、これを要求元に割り当てる。これに対して、割当可能な描画バッファがない場合は、割当て可能な描画バッファができるまで処理を待ち合わせる。
【0087】
最後に、処理は描画データの受信フェーズとなる。
【0088】
描画バッファをPDL処理モジュールに割り当てると、PDL管理モジュール205はステップS613で、PDL処理モジュールからの描画バッファへのデータ転送を待ち合わせる。一方、PDL処理モジュールは割り当てられたバッファにPDLを解析した結果を画像データとして格納するため、これをPDL管理モジュール205に送信する。PDL管理モジュール205は、ステップS614において描画データを受信して、これを描画バッファ222に格納する。ステップS615では1ページ分の描画データを受信終了かどうかを確認する。ここで、受信未終了であれば、処理はステップS608に戻り、受信終了まで、描画バッファの割り当てと受信を繰り返す。一方、1ページ分転送が完了したら、処理はステップS601に戻り、再び描画データの転送要求を待ち合わせる。
【0089】
従って以上説明した実施例によれば、拡張ボードが付加された構成においても、ユーザからのPDLデータ処理要求に応じて、記録装置の状態に応じて最適なPDL処理を行うことができる。
【0090】
なお、図2〜図5に示した例では、記録装置には1つの拡張ボードを備える構成についてのみ説明したが、装着可能は拡張ボードの数は1つに限定されるものではない。記録装置の技術仕様に従って、2つ以上の拡張ボードの装着スロットを備えた構成を有していてもよい。その場合には、2つ以上の拡張ボードの装着が可能であり、夫々の拡張ボードが同じ処理性能や同じ準備時間である必要はなく、異なる処理性能、異なる準備時間の拡張ボードを装着しても良い。このような場合には、ソフトウェア構成として、メインボード側には拡張ボード側で起動される拡張PDL処理モジュールの数に対応した数のPDLデータ転送部と描画データ受信部とが設けられる。
【0091】
また、以上説明した実施例ではA0やB0サイズの記録媒体に記録を行なう所謂大判の記録装置を用いたが、A4、A3、B4、B5などの比較的小さなサイズの記録媒体に記録を行なう記録装置にも本発明は適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホストからPDLデータを受信し、前記PDLデータを処理して、記録媒体に画像を記録する記録装置であって、
前記ホストから前記PDLデータを受信する受信部と、
前記記録装置の全体の動作を制御するとともに前記PDLデータの処理を行う、メインCPUを含むメインボードと、
前記PDLデータの処理を行う、サブCPUを含む、少なくとも1つの拡張ボードと、
前記PDLデータの処理を実行する各ボードの処理能力と処理状況とを示す情報を格納する記憶部とを有し、
前記メインボードは、
前記受信部により前記PDLデータを受信したとき、前記記憶部に格納された情報に基づいて、PDL処理の開始までが最短となるボードを選択する選択手段と、
前記選択手段により選択されたボードに前記受信部により受信した前記PDLデータを転送する転送手段とを含むことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記メインボードの前記PDLデータの処理能力より前記拡張ボードの処理能力が優れているが、前記メインボードの初期化時間は前記拡張ボードの初期化時間より短いことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記記録装置の起動時点、或は、省電力モードから通常モードへの復帰時点において、前記ホストから前記受信部により前記PDLデータを受信したとき、
前記メインボードのメインCPUは、前記拡張ボードの起動完了を待たずに、前記メインボードで前記PDLデータの処理を開始し、前記拡張ボードの起動完了の後に、前記拡張ボードで前記PDLデータの処理を開始するよう制御することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記メインボードはさらに、
前記各ボードの処理状況を監視する監視手段と、
前記監視手段により監視結果に基いて、前記記憶部に格納された情報を最新の状態を示す情報を更新する更新手段とを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記選択手段による選択はPDLデータの各ページ毎に行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
インクを記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドをさらに有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
記録装置であって、
印刷データをページ単位で受信する受信部と、
前記受信部に印刷データの受信に基づいて、前記記録装置を起動する起動部と、
印刷データの処理を行う第1の印刷データ処理部と、
処理能力が前記第1の印刷データ処理部より高く、前記記録装置が起動してからの準備時間が前記第1の印刷データ処理部より長い第2の印刷データ処理部と、
前記第2の印刷データ処理部が印刷データの処理ができる状態になるまで第1の印刷データ処理部を選択し、前記第2の印刷データ処理部が印刷データの処理ができる状態になると第2の印刷データ処理部を選択する選択部とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項8】
前記第2の印刷データ処理部の状態を取得する取得部をさらに有し、
前記選択部は、前記状態に基づいて前記第2の印刷データ処理部の選択を行うことを特徴とする請求項7に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−196962(P2012−196962A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45790(P2012−45790)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】