説明

誘導加熱装置

【課題】 ゼロクロスタイミングに対するスイッチ手段のオンタイミングを同期させるようにした上で、加熱電力の幅広い制御を可能にする。
【解決手段】 インダクタンスL1,L2のコイル151,152にそれぞれキャパシタンスC1,C2の共振用のコンデンサ211,212が並列接続されてLC共振回路221,222が構成される。切替スイッチ23は、LC共振回路221,222のいずれか一方と半導体スイッチ素子24とを接続する。制御部25は、加熱ローラの表面温度を動作温度に維持すべく、切替スイッチ23による接続状態を制御する。加熱電力を増大する場合には、切替スイッチ23をLC共振回路221に切り替え、加熱電力が小さくてよい場合には、切替スイッチ23をLC共振回路222側に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、導電性部材に渦電流を発生させて加熱する誘導加熱装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、導電性部材の近傍にコイルが巻回されたコアを配設し、このコイルに高周波電力を供給し、この高周波電力によって生じた高周波磁界が鎖交することにより導電性部材に誘導渦電流を発生させ、この渦電流と導電性部材の抵抗によって生じるジュール熱により、導電性部材を加熱するようにした誘導加熱装置が知られている。
【0003】この誘導加熱装置は、導電性部材自体を加熱するので、ヒータにより間接的に加熱する方式に比べて効率がよく、加熱対象である導電性部材以外の部分における温度上昇を低減できるので、所定温度まで上昇するのに要する時間の短縮や装置の省エネルギー化などを実現することが期待されている。
【0004】図7は従来の誘導加熱装置の回路例を示しており、直流電源101、コイル102および半導体スイッチ素子103を直列に接続し、タイミング制御回路104から送出される高周波のタイミング制御信号に従って、駆動回路105から駆動電圧を半導体スイッチ素子103の制御端子に印加することにより、コイル102に高周波電力を供給するようにしている。
【0005】スイッチ手段として用いられる半導体スイッチ素子103のオンタイミングは、一般に、素子に対するストレスを低減して疲労を防ぐために、素子の両端電圧VSWがゼロ電位近傍になるゼロクロスに同期するように設計されており、図7に示すように、磁界を発生させるためのコイル102と並列にコンデンサ106を接続してLC共振回路を構成するとともに、ゼロクロス検出回路107によりゼロクロスを検出するようにしている。
【0006】図8において、半導体スイッチ素子103がオフになると、その両端電圧VSWが一旦上昇した後にゼロ電位に戻り、これに同期してゼロクロス検出回路107から所定のゼロクロス検出信号がタイミング制御回路104に送出される。
【0007】タイミング制御回路104では、ゼロクロス検出信号がローレベルのとき立ち下がり、ハイレベルのとき立ち上がる鋸波信号が形成されており、半導体スイッチ素子103は、鋸波信号が閾値信号のレベルより大きいときにオフにされ、小さいときにオンにされる。
【0008】そして、加熱電力を増大するときは、図8(a)に示すように閾値信号のレベルを上昇することにより半導体スイッチ素子103のオン時間を長くし、加熱電力を低減するときは、図8(b)に示すように閾値信号のレベルを低下することにより半導体スイッチ素子103のオン時間を短くする。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記従来の誘導加熱装置では、両端電圧VSWのゼロクロスに同期して半導体スイッチ素子103をオンにする場合、半導体スイッチ素子103のオフ時間τoffがほぼ一定値になってしまう。すなわち、コイル102のインダクタンスをLとし、コンデンサ106のキャパシタンスをCとすると、LC共振回路の共振周波数fは、f=1/{2π√(LC)}と、ほぼ一義的に決定されてしまうので、半導体スイッチ素子103のオフ時間τoffは、LC共振回路の周期をT(=1/f)とすると、τoff=T/2になり、τoff=π√(LC)とほぼ一定値となってしまうからである。
【0010】一方、閾値信号のレベルを変化させて半導体スイッチ素子103のオン時間τonを変化させることにより、ある程度の範囲内で加熱電力を変化させることは可能であるが、上述のようにオフ時間τoffはほぼ一定であるので、オン時間τonを極端に変化させると、オンオフのバランスが崩れて正常な制御領域から外れてしまう虞がある。例えばオン時間τonを極端に長くすると、コイル102に過大な電力が蓄積されることになり、これによってコイル102やコンデンサ106または半導体スイッチ素子103の耐圧を超えてしまったり、電流の瞬時値も非常に大きなものとなって定格を超えてしまうこととなる。
【0011】従って、半導体スイッチ素子103のオンオフデューティ比は、基本的にほぼ50%にすべきであり、このため、従来は、加熱電力を幅広く制御することが困難であった。
【0012】なお、両端電圧VSWのゼロクロスにほぼ一致して半導体スイッチ素子103がオンにされると、両端電圧VSWの電圧波形は図9(a)に示すように正常な波形になるが、ゼロクロスに対して半導体スイッチ素子103のオンが遅れると、図9(b)に示すように、ゼロクロス後も電圧の振動が続いて、電圧波形が非常に乱れたものになる。また、ゼロクロスになる前に半導体スイッチ素子103がオンになると、図9(c)に示すように、やはり両端電圧VSWの電圧波形が乱れたものになる。
【0013】このように、半導体スイッチ素子103の両端電圧VSWの電圧波形が乱れたものになると、素子に対するストレスが増大して素子の疲労が早く進むため、寿命が短くなる虞がある。また、配電線を介して電源ノイズが洩れて当該配電線に接続された電気機器が誤動作する虞がある。
【0014】本発明は、上記問題を解決するもので、ゼロクロスタイミングに対するスイッチ手段のオンタイミングを同期させるようにした上で、加熱電力の幅広い制御を可能にする誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、コアにコイルを巻回し、このコイルに高周波電力を供給して導電性部材に渦電流を生じさせることにより当該導電性部材を加熱するようにした誘導加熱装置において、それぞれ上記コアに巻回され、互いに異なるインダクタンスを有する複数のコイルと、共振用の複数のコンデンサと、スイッチ手段と、上記複数のコイルのうちの少なくとも1つのコイルを電源および上記スイッチ手段に直列に接続するとともに、上記複数のコンデンサのうちの少なくとも1つのコンデンサを当該コイルに接続する接続手段と、上記スイッチ手段を所定以上の周波数でオンオフするものであって、上記スイッチ手段の両端電圧のゼロクロスに応じて当該スイッチ手段をオンにするスイッチ制御手段と、上記接続手段において上記コイルおよびコンデンサのうちの少なくとも一方の接続を変更することにより加熱電力を制御する接続切替制御手段とを備えたものである。
【0016】この構成によれば、電源およびコイルに直列に接続されたスイッチ手段が所定以上の周波数でオンオフされると、コイルに高周波電力が供給され、コイルに発生する高周波磁界が導電性部材に鎖交して導電性部材に渦電流が生じ、導電性部材の抵抗成分によりジュール熱が発生して当該導電性部材が加熱される。
【0017】スイッチ手段がオンの間にコイルにエネルギーが蓄積され、スイッチ手段がオフになると蓄積されたエネルギーが共振用コンデンサを介して放出され、このエネルギー放出によりスイッチ手段の両端電圧が一旦上昇した後に下降してゼロクロスになり、このゼロクロスに応じてスイッチ手段がオンにされる。
【0018】ここで、コイルおよびコンデンサのうちの少なくとも一方の接続が変更されると、コイルおよびコンデンサからなる共振回路の共振周波数が変化することから、スイッチ手段のオフ時点からゼロクロス時点までの時間、すなわちスイッチ手段のオフ時間が変化するので、複数のコイルとして採用するインダクタンスに応じて、より安定して加熱電力を幅広く制御することが可能になる。
【0019】また、請求項2の発明は、請求項1記載の誘導加熱装置において、上記接続切替制御手段は、上記コイルへの通電開始の際には加熱電力が緩やかに増大するように上記接続手段における接続を変更するものである。
【0020】この構成によれば、コイルへの通電開始の際には加熱電力が緩やかに増大するように接続手段における接続が変更されることにより、電源を介して共通に照明器具が接続されている場合でも、コイルへの通電開始の際に照明器具におけるフリッカの発生が抑制される。
【0021】また、請求項3の発明は、請求項1または2記載の誘導加熱装置において、上記接続切替制御手段は、上記コイルへの通電停止の際には加熱電力が緩やかに減少するように上記接続手段における接続を変更するものである。
【0022】この構成によれば、コイルへの通電停止の際には加熱電力が緩やかに減少するように接続手段における接続が変更されることにより、電源を介して共通に照明器具が接続されている場合でも、コイルへの通電停止の際に照明器具におけるフリッカの発生が抑制される。
【0023】また、請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の誘導加熱装置において、上記複数のコイルとして、第1インダクタンスの第1コイルおよび第2インダクタンスの第2コイルを備え、上記複数のコンデンサとして、第1キャパシタンスの第1コンデンサおよび第2キャパシタンスの第2コンデンサを備え、上記第1インダクタンスおよび第1キャパシタンスの乗算値と上記第2インダクタンスおよび第2キャパシタンスの乗算値とは互いに同一値に設定され、上記接続切替制御手段は、上記第1コイルおよび第1コンデンサからなる並列回路を上記電源およびスイッチ手段に直列に接続した状態と上記第2コイルおよび第2コンデンサからなる並列回路を上記電源およびスイッチ手段に直列に接続した状態との間で変更するものである。
【0024】この構成によれば、第1インダクタンスおよび第1キャパシタンスの乗算値と第2インダクタンスおよび第2キャパシタンスの乗算値とが互いに同一値に設定されており、第1コイルおよび第1コンデンサからなる並列回路を電源およびスイッチ手段に直列に接続した状態と、第2コイルおよび第2コンデンサからなる並列回路を電源およびスイッチ手段に直列に接続した状態との間で変更されるので、共振回路の共振周波数は変化しないことから、スイッチ手段のオン時間およびオフ時間はほぼ同一になる。従って、スイッチ制御手段の回路構成および制御内容が簡素化されるとともに、加熱電力の変更が安定して行われることとなる。
【0025】また、請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の誘導加熱装置において、上記導電性部材は、中心軸周りに回転可能に保持された円筒形状で、転写紙上に形成されたトナー像を当該転写紙に定着する中空ローラで、上記複数のコイルは、上記中空ローラに近接して配設されたもので、上記接続切替制御手段は、上記定着動作を実行しないときは加熱電力が予め設定された値となるように上記接続手段における接続を変更するものである。
【0026】この構成によれば、中空ローラに渦電流が発生することで加熱が直接的に行われることから、定着に好適な動作温度に達するまでに要する時間が短縮されることとなる。また、定着動作を実行しないときは加熱電力が予め設定された値、例えば加熱電力が最小となる接続状態に変更されることにより、消費電力の低減が可能となる。
【0027】
【発明の実施の形態】図1は本発明に係る誘導加熱装置が適用される定着部を備えた複写機の一実施形態における要部を示す構成図である。
【0028】この複写機1では、帯電部2により感光体3が一様に帯電され、読み取られた原稿画像に基づく露光部4からの光により感光体3上に静電潜像が形成され、現像部5により静電潜像にトナーが付着してトナー像が形成される。一方、転写紙が用紙搬送部53(図3参照)により感光体3に向けて搬送され、転写部6により感光体3表面のトナー像が転写紙に転写される。
【0029】そして、感光体3から分離された転写紙7は定着部8に搬送され、この定着部8においてトナー像が転写紙7に定着した後、転写紙7は排出ローラ対9により図外の排出部に排出される。
【0030】定着部8は、加熱ローラ11および加圧ローラ12を備え、複写機本体に固定された定着ユニット13内に配設されている。
【0031】加熱ローラ11は、ステンレス鋼などの導電性部材で形成された円筒形状の中空ローラで、表面に例えばフッ素樹脂で形成された離型層が設けられている。また、加熱ローラ11の内部には、フェライトなどからなるコア14が配設され、このコア14には例えば銅線からなるコイル15が巻回されている。
【0032】この加熱ローラ11は、中心軸周りに回転自在に定着ユニット13に保持され、その一端に駆動ギア(図示省略)が取り付けられており、この駆動ギアに接続されたモータ(図示省略)によって回転駆動されるようになっている。
【0033】一方、加圧ローラ12は、表面が加熱ローラ11の表面より若干軟らかい、例えばシリコーンゴムで形成され、加熱ローラ11に所定の圧力で押し付けられて定着ユニット13に回転自在に保持されており、加熱ローラ11の回転によって従動するように構成されている。
【0034】温度センサ16は、サーミスタ等からなり、加熱ローラ11の端部(転写紙が通過しない部分)に当接して配設され、加熱ローラ11の表面温度を検出するものである。
【0035】図2は加熱ローラの内部構成を示す透過斜視図である。なお、図1と同一物には同一符号を付している。
【0036】コイル15が巻回されたコア14は、加熱ローラ11との間に所定寸法の隙間を保持した状態で、例えばアルミニウムなどの金属材料で形成されたステー21により、定着ユニット13(図1)に固定されている。
【0037】コア14は、加熱ローラ11の中心軸17に沿って配設されている。コイル15は、コア14にそれぞれ巻回されるコイル151,152からなる。
【0038】本実施形態では、例えばコア14の中心軸17方向の寸法D=297mm(A4サイズの長辺寸法)に設定されており、本実施形態の複写機1は、A4サイズの転写紙を短辺方向に搬送して複写することが可能になっている。
【0039】コイル151,152はそれぞれ銅線により構成され、その巻数は互いに異なる値に設定されている。
【0040】このような構成により、コイル151,152に高周波電力(高周波電流)が供給されると高周波磁界が発生し、この高周波磁界が加熱ローラ11のコイルに対向する部分に鎖交して加熱ローラ11に渦電流が発生し、この渦電流によって発生するジュール熱により加熱ローラ11が加熱され、これによってトナー像の転写紙への定着が好適に行われることとなる。
【0041】図3は複写機1の電気的構成の要部を示す回路ブロック図で、図1、図2と同一物には同一符号を付している。
【0042】図3において、コイル151,152にそれぞれ共振用のコンデンサ211,212が並列接続されてLC共振回路221,222が構成され、このLC共振回路221,222が並列接続された並列回路の一端とアースとの間に、切替スイッチ23および半導体スイッチ素子24が直列に接続されている。
【0043】コイル151,152は、それぞれインダクタンスL1,L2を有し、L1<L2に設定されており、コンデンサ211,212は、それぞれキャパシタンスC1,C2を有し、C1<C2に設定されている。
【0044】切替スイッチ23は、LC共振回路221,222のいずれか一方と半導体スイッチ素子24とを接続するもので、例えば機械的な電磁リレーや、半導体スイッチング素子を用いることができる。切替スイッチ23の接続状態の切替は、制御部25(後述)によって制御される。
【0045】半導体スイッチ素子24は、高耐圧・大電流の電力用半導体素子で、制御端子に所定レベルの駆動電圧が印加されると、LC共振回路の一端とアースとを導通するものであり、本実施形態では、IGBTが用いられている。なお、この半導体スイッチ素子24として、MOS−FETなどを採用してもよい。
【0046】LC共振回路221,222の他端は、ブリッジダイオード30の一方の直流出力端子31に接続されている。ブリッジダイオード30の他方の直流出力端子32は接地され、交流入力端子33,34は接続部35を介してAC100Vの交流電源36に接続可能になっている。
【0047】ブリッジダイオード30の交流入力端子34と接続部35との間にはカレントトランス37の1次コイルが介設され、このカレントトランス37の2次コイルには所定の抵抗値の抵抗38が並列接続されており、この抵抗38の両端電圧により交流電源36から供給される電力、すなわちコイル151,152および半導体スイッチ素子24における消費電力が検出可能になっている。
【0048】ブリッジダイオード30および交流電源36により、直流電源が構成されている。
【0049】半導体スイッチ素子24の制御端子には駆動回路41が接続され、切替スイッチ23および半導体スイッチ素子24を結ぶライン42にはゼロクロス検出回路43が接続されている。
【0050】駆動回路41は、タイミング制御回路44(後述)からのタイミング制御信号V44に同期して、所定レベル(例えばDC20V)の駆動電圧を半導体スイッチ素子24の制御端子に印加することにより半導体スイッチ素子24をオンにさせるものである。
【0051】ゼロクロス検出回路43は、半導体スイッチ素子24がオフになってコイル151に蓄積されたエネルギーがコンデンサ211を介して放出されることにより上昇した両端電圧V24がゼロに戻るゼロクロスを検出し、所定の検出信号V43をタイミング制御回路44に送出するもので、ゼロクロスの検出ごとに所定時間だけ検出信号V43をローレベルにする。
【0052】操作部51は、複写動作の開始を指示するプリントキー、各原稿に対する複写部数をセットする部数セットキー、給紙部にセットされている各サイズの転写紙のうちから複写に用いる転写紙を選択する転写紙選択キー、複写倍率を設定する倍率設定キーなどを備えている。
【0053】画像形成部52は、帯電部2、感光体3、露光部4(図1)などからなり、転写紙に原稿画像を形成する複写を行うものである。用紙搬送部53は、種々のサイズの転写紙を収容する給紙部から各転写紙を感光体3(図1)に向けて搬送するローラ対を駆動するモータなどからなる。
【0054】制御部25は、CPUなどからなり、操作部51に対する操作に応じて給紙部から転写紙を搬送させて複写動作を開始させるなど複写機1全体の動作を制御するものである。また、制御部25は、以下の■〜■に示す機能を有する。
【0055】■複写動作中は、加熱ローラ11の表面温度を予め設定された動作温度に維持すべく、切替スイッチ23による接続状態を制御する接続切替制御手段としての機能。なお、例えば複写動作が所定時間継続して開始されないときは、消費電力を低減すべく切替スイッチ23をLC共振回路222側に切り替えておく。
【0056】■複写動作中は、加熱ローラ11の表面温度を上記動作温度に維持すべく、一定レベルの閾値信号V25をタイミング制御回路44に送出する機能。
【0057】■カレントトランス37の2次コイルに並列接続された抵抗38の両端電圧を検出して交流電源36からの供給電力を算出し、この供給電力が所定レベルを超えると閾値信号V25のレベルをゼロにして半導体スイッチ素子24をオフにする機能。これによって、交流電源36からの供給電力が異常に上昇して加熱ローラ11の温度が過剰に上昇するのを防止している。
【0058】次に、図4を用いて動作について説明する。図4は各部の波形を示すタイミングチャートで、(a)は切替スイッチ23がLC共振回路221側に切替接続されている場合を示し、(b)は切替スイッチ23がLC共振回路222側に切替接続されている場合を示している。
【0059】タイミング制御回路44は、図4(a)(b)に示す鋸波信号を出力する鋸波信号生成回路を備えている。この鋸波信号生成回路は、例えばコンデンサ(図示省略)の充放電回路により構成される。
【0060】図4(a)において、半導体スイッチ素子24がオフになると、コイル151に蓄積されたエネルギーがコンデンサ211を介して放出され、これによって半導体スイッチ素子24の両端電圧V24が一旦上昇し、エネルギーの放出が進むとゼロ電位に戻る。
【0061】両端電圧V24がほぼゼロ電位に戻ってゼロクロスになると、ゼロクロス検出回路43から出力される検出信号V43が所定時間だけローレベルになり、鋸波信号生成回路のコンデンサが放電して充電電圧が低下する。なお、検出信号V43がローレベルになる所定時間は、当該コンデンサが十分に放電して充電電圧がほぼゼロになるのに必要な短い時間に設定されている。
【0062】充電電圧が急激に低下して閾値信号V25未満になると、タイミング制御信号V44がハイレベルになり、半導体スイッチ素子24がオンになる。一方、検出信号V43がハイレベルに復帰すると充電電圧が緩やかに上昇し、閾値信号V25以上になるとタイミング制御信号V44がローレベルになり、これによって半導体スイッチ素子24がオフにされる。以降、両端電圧V24が上昇して上述の動作が繰り返される。
【0063】図4(b)の場合も、閾値信号V25は図4(a)と同一レベルに設定されており、上述したのと同様の動作が行われる。
【0064】しかし、L1<L2,C1<C2に設定されているので、半導体スイッチ素子24のオン時間中にコイル152に蓄積されるエネルギーは、コイル152に流れる電流が小さいので、コイル151に蓄積されるエネルギーより小さく、更に放電も緩やかに行われて時間を要するので、両端電圧V24がゼロ以上の時間(半導体スイッチ素子24のオフ時間)は、図4(a)の場合に比べて長くなる。
【0065】このように、本実施形態によれば、コイルおよびコンデンサをそれぞれ2個備え、切替スイッチ23により接続を切り替えるようにしているので、加熱電力を容易に幅広く変化することができる。
【0066】また、接続されるコイルのインダクタンスおよびコンデンサのキャパシタンスに応じて、閾値信号V25のレベルを最適な値に予め設定しておくことにより、最適なスイッチング周波数およびタイミングで半導体スイッチ素子24をオンオフすることができる。従って、加熱電力の制御をより安定して行うことができ、コイル151,152、コンデンサ211,212および半導体スイッチ素子24への負担が軽減でき、スイッチングノイズも減少する。
【0067】なお、本発明は、上記実施形態に限られず、以下の変形形態を採用することができる。
【0068】(1)図5は第1の変形形態の電気的構成を示す回路ブロック図で、図3と同一物には同一符号を付している。
【0069】この形態では、上記実施形態の切替スイッチ23に代えて、2つの切替スイッチ231,232を備えている。
【0070】切替スイッチ231は、コイル151およびコイル152のいずれか一方をブリッジダイオード30と半導体スイッチ素子24との間に接続するもので、切替スイッチ232は、コンデンサ211およびコンデンサ212のいずれか一方をコイルに並列に接続するものである。
【0071】切替スイッチ231,232の切替は、制御部25によって行われる。この切替スイッチ231,232をそれぞれ個別に切り替えることによって、コイル151,152およびコンデンサ211,212の4通りの組み合わせを実現することができる。
【0072】
【表1】


【0073】表1にコイル151,152のインダクタンスL1,L2およびコンデンサ211,212のキャパシタンスC1,C2の一例を示す。
【0074】表1に示すように、オフ時間Toff=π√(LC)が最上欄から順に大きくなる一方、閾値信号V25のレベルが一定であることからオン時間Tonが同一であるので、加熱電力は、最上欄から順に小さくなっている。
【0075】このように、第1の変形形態によれば、上記実施形態と同様に、加熱電力を容易に幅広く変化させることができる。
【0076】(2)図6は第2の変形形態の電気的構成を示す回路ブロック図で、図3と同一物には同一符号を付している。
【0077】この形態では、上記実施形態の切替スイッチ23に代えて、2つの切替スイッチ233,234を備えている。
【0078】コイル152は、ブリッジダイオード30と半導体スイッチ素子24との間に固定的に接続されており、切替スイッチ233は、コイル151をコイル152に並列接続するか否かを切り替えるものである。コイル151がコイル152に並列接続されると、等価的に合成インダクタンスL1・L2/(L1+L2)のコイルがブリッジダイオード30と半導体スイッチ素子24との間に接続されることになる。
【0079】また、コンデンサ212は、コイル152に固定的に並列接続されており、切替スイッチ234は、コンデンサ211をコンデンサ212に並列接続するか否かを切り替えるものである。コンデンサ211がコンデンサ212に並列接続されると、等価的に合成キャパシタンス(C1+C2)のコンデンサがコイルに並列接続されることになる。
【0080】切替スイッチ233,234の切替は、制御部25によって行われる。この切替スイッチ233,234をそれぞれ個別に切り替えることによって、インダクタンスおよびキャパシタンスの4通りの組み合わせを実現することができる。
【0081】このように、第2の変形形態によれば、上記実施形態と同様に、加熱電力を容易に幅広く変化させることができる。
【0082】(3)上記実施形態において、例えばL1=60μH,C1=0.22μFと、L2=40μH,C1=0.33μFというように、LC共振回路221,222を構成するコイルおよびコンデンサのインダクタンスおよびキャパシタンスの乗算値が同一になるように、各値を設定するようにしてもよい。
【0083】この場合には、半導体スイッチ素子24のオンオフ時間が同一になるので、簡素な回路構成で上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0084】(4)上記実施形態において、制御部25は、コイルへの通電開始の際に、加熱電力が徐々に上昇するように、切替スイッチ23を制御するようにしてもよい。
【0085】また、制御部25は、コイルへの通電停止時に、加熱電力が徐々に下降するように、切替スイッチ23を制御し、加熱電力を最小にした後に、電源が遮断されるように構成してもよい。
【0086】この形態によれば、コイルへの通電の開始時や停止時に、交流電源36から電力供給を受ける照明器具にフリッカが生じて使用者に不快感を与えるのを軽減することができる。
【0087】(5)上記実施形態では、C1>C2としているが、これに限られず、C1=C2でもよい。
【0088】(6)上記実施形態および第1、第2の変形形態では、コイルおよびコンデンサをそれぞれ2個ずつ備えているが、これに限られず、3個以上備えるようにしてもよい。この形態によれば、種々の転写紙サイズにそれぞれ適正な加熱電力で加熱ローラ11を加熱することができる。
【0089】また、コイルおよびコンデンサの1つの組み合わせを定着動作のための動作温度より低い待機温度用とし、制御部25は、複写動作が所定時間継続して開始されないときは、加熱ローラ11の表面温度を待機温度に維持する機能を備えるようにすることにより、省エネルギーを図ることができる。
【0090】(7)上記実施形態および第1、第2の変形形態では、各切替スイッチを制御部25により切り替えるようにしているが、これに限られず、外部から操作可能な手動の切替スイッチとしてもよい。この形態によれば、例えば省エネルギーモードなどを備えておくことにより、使用者が自由にモード選択を行うことができる。
【0091】(8)上記実施形態では、制御部25からタイミング制御回路44に送出する閾値信号V25のレベルを一定としているが、これに限られず、当該レベルを変更するようにしてもよい。この形態によれば、加熱電力を更にきめ細かく制御することができる。
【0092】また、電源投入の際や待機温度に維持されている際のコイルへの通電開始時あるいは停止時には、閾値信号V25のレベルを1秒程度かけて緩やかに上昇あるいは下降させるようにすると、フリッカの発生を更に低減させ、安定して加熱電力を変更することができる。
【0093】(9)上記実施形態では、図3、図4に示すように、ゼロクロス検出回路43を備え、半導体スイッチ素子24の両端電圧V24のゼロクロスを検出し、ゼロクロス検出により立ち下がる鋸波信号の立ち下がりが閾値信号V25と交差すると半導体スッチ素子24をオンにするようにしているが、これに限られない。
【0094】上記実施形態では、切替スイッチ23の接続状態が決まると、コイルのインダクタンスおよびコンデンサのキャパシタンスが決まることになるので、ゼロクロス検出回路を備えずに、各インダクタンスおよびキャパシタンスに応じたオン時間およびオフ時間に従って、半導体スイッチ素子24をオンオフするようにしてもよい。
【0095】この形態によれば、半導体スイッチ素子24のオンタイミングをゼロクロスタイミングにほぼ同期させることができるとともに、回路構成および制御内容を上記実施形態に比べて簡素化することができる。
【0096】(10)上記実施形態および第1、第2の変形形態では、LC共振回路としてコイルおよびコンデンサが並列接続された並列共振回路を採用しているが、これに限られず、直列共振回路を用いるようにしてもよい。
【0097】この場合、例えば図3では、コイル151およびコンデンサ211を直列接続してLC共振回路221を構成するとともに、コイル152およびコンデンサ212を直列接続してLC共振回路222を構成すればよい。
【0098】また、図5では、コイル151,152および切替スイッチ231からなる回路と、コンデンサ211,212および切替スイッチ232からなる回路とを直列に接続すればよい。
【0099】また、図6では、コイル151および切替スイッチ233とコイル152との並列回路と、コンデンサ211および切替スイッチ234とコンデンサ212との並列回路とを直列に接続すればよい。
【0100】(11)上記実施形態では複写機を用いて説明しているが、これに限られず、本発明は、ファクシミリ、プリンタなどの電子写真方式の画像形成装置が備える定着部や、その他の一般の誘導加熱装置に適用することができる。
【0101】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1の発明によれば、互いに異なるインダクタンスを有する複数のコイルと、共振用の複数のコンデンサと、複数のコイルのうちの少なくとも1つのコイルを電源およびスイッチ手段に直列に接続するとともに、複数のコンデンサのうちの少なくとも1つのコンデンサを当該コイルに接続する接続手段とを備え、コイルおよびコンデンサのうちの少なくとも一方の接続を変更するようにしているので、コイルおよびコンデンサからなる共振回路の共振周波数が変化することから、スイッチ手段のオフ時間を変化させることができるので、複数のコイルとして採用するインダクタンスに応じて、加熱電力を幅広く制御することができる。
【0102】また、請求項2の発明によれば、コイルへの通電開始の際には加熱電力が緩やかに増大するように接続手段における接続を変更しているので、直流電源を介して共通に照明器具が接続されている場合でも、コイルへの通電開始の際に照明器具におけるフリッカの発生を抑制することができる。
【0103】また、請求項3の発明によれば、コイルへの通電停止の際には加熱電力が緩やかに減少するように接続手段における接続を変更しているので、直流電源を介して共通に照明器具が接続されている場合でも、コイルへの通電停止の際に照明器具におけるフリッカの発生を抑制することができる。
【0104】また、請求項4の発明によれば、第1インダクタンスおよび第1キャパシタンスの乗算値と第2インダクタンスおよび第2キャパシタンスの乗算値とが互いに同一値に設定されており、第1コイルおよび第1コンデンサからなる並列回路を電源およびスイッチ手段に直列に接続した状態と、第2コイルおよび第2コンデンサからなる並列回路を電源およびスイッチ手段に直列に接続した状態との間で変更するようにしているので、共振回路の共振周波数は変化しないことから、スイッチ手段のオン時間およびオフ時間はほぼ同一になるため、スイッチ制御手段の回路構成および制御内容を簡素化することができるとともに、加熱電力の変更を安定して行うことができる。
【0105】また、請求項5の発明によれば、導電性部材は、中心軸周りに回転可能に保持された円筒形状で、転写紙上に形成されたトナー像を当該転写紙に定着する中空ローラで、定着動作を実行しないときは加熱電力が予め設定された値となるように接続を変更しているので、定着に好適な動作温度に達するまでに要する時間を短縮することができるとともに、消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る誘導加熱装置が適用される定着部を備えた複写機の一実施形態における要部を示す構成図である。
【図2】加熱ローラの内部構成を示す透過斜視図である。
【図3】複写機の電気的構成の要部を示す回路ブロック図である。
【図4】各部の波形を示すタイミングチャートで、(a)は切替スイッチ23がLC共振回路221側に切替接続されている場合を示し、(b)は切替スイッチ23がLC共振回路222側に切替接続されている場合を示している。
【図5】第1の変形形態の電気的構成を示す回路ブロック図である。
【図6】第2の変形形態の電気的構成を示す回路ブロック図である。
【図7】従来の誘導加熱装置の回路例を示す図である。
【図8】(a)(b)は図7の回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図9】(a)(b)(c)は半導体スイッチ素子の両端電圧の電圧波形を示す図である。
【符号の説明】
8 定着部
11 加熱ローラ(中空ローラ)
14 コア
151,152 コイル
211,212 コンデンサ
221,222 LC共振回路
23,231〜234 切替スイッチ(接続手段)
24 半導体スイッチ素子(スイッチ手段)
25 制御部(スイッチ制御手段)
30 ブリッジダイオード
36 交流電源
44 タイミング制御回路(スイッチ制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コアにコイルを巻回し、このコイルに高周波電力を供給して導電性部材に渦電流を生じさせることにより当該導電性部材を加熱するようにした誘導加熱装置において、それぞれ上記コアに巻回され、互いに異なるインダクタンスを有する複数のコイルと、共振用の複数のコンデンサと、スイッチ手段と、上記複数のコイルのうちの少なくとも1つのコイルを電源および上記スイッチ手段に直列に接続するとともに、上記複数のコンデンサのうちの少なくとも1つのコンデンサを当該コイルに接続する接続手段と、上記スイッチ手段を所定以上の周波数でオンオフするものであって、上記スイッチ手段の両端電圧のゼロクロスに応じて当該スイッチ手段をオンにするスイッチ制御手段と、上記接続手段において上記コイルおよびコンデンサのうちの少なくとも一方の接続を変更することにより加熱電力を制御する接続切替制御手段とを備えたことを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】 請求項1記載の誘導加熱装置において、上記接続切替制御手段は、上記コイルへの通電開始の際には加熱電力が緩やかに増大するように上記接続手段における接続を変更するものであることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項3】 請求項1または2記載の誘導加熱装置において、上記接続切替制御手段は、上記コイルへの通電停止の際には加熱電力が緩やかに減少するように上記接続手段における接続を変更するものであることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載の誘導加熱装置において、上記複数のコイルとして、第1インダクタンスの第1コイルおよび第2インダクタンスの第2コイルを備え、上記複数のコンデンサとして、第1キャパシタンスの第1コンデンサおよび第2キャパシタンスの第2コンデンサを備え、上記第1インダクタンスおよび第1キャパシタンスの乗算値と上記第2インダクタンスおよび第2キャパシタンスの乗算値とは互いに同一値に設定され、上記接続切替制御手段は、上記第1コイルおよび第1コンデンサからなる並列回路を上記電源およびスイッチ手段に直列に接続した状態と上記第2コイルおよび第2コンデンサからなる並列回路を上記電源およびスイッチ手段に直列に接続した状態との間で変更するものであることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項5】 請求項1〜4のいずれかに記載の誘導加熱装置において、上記導電性部材は、中心軸周りに回転可能に保持された円筒形状で、転写紙上に形成されたトナー像を当該転写紙に定着する中空ローラで、上記複数のコイルは、上記中空ローラに近接して配設されたもので、上記接続切替制御手段は、上記定着動作を実行しないときは加熱電力が予め設定された値となるように上記接続手段における接続を変更するものであることを特徴とする誘導加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2002−43040(P2002−43040A)
【公開日】平成14年2月8日(2002.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−218481(P2000−218481)
【出願日】平成12年7月19日(2000.7.19)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】