説明

誘導弾発射システムとその信号処理方法

【課題】目標への距離計測にかかる時間を短縮でき、目標位置を正確に計測できるようにした誘導弾発射システムを提供すること。
【解決手段】1つの誘導弾においてパルス繰り返し周期と目標検出ゲートの位置とを切り替えるのではなく、パルス繰り返し周期と目標検出ゲートの位置とを互いに異ならせた複数の誘導弾を用い、各誘導弾により得られた目標情報を用いて目標までの距離を測るようにする。これにより、HPRF方式を用いる場合においてパルス繰り返し周期と目標検出ゲートの位置とを切り替える回数を減らすことができ、最短で1回で目標位置を求めることができる。このことから誘導弾と目標との距離を速く、正確に計測することができるようになり、目標への距離計測にかかる時間を短縮して目標位置を正確に計測できるようになる。従って射撃統制装置が機能しない場合においても、自律的な迎撃処理を迅速かつ確実に実行することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば近距離、中距離用の防空システムなどで使用される誘導弾発射システムとその信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防空システムなどに用いられる迎撃システムは、誘導弾の発射装置と、発射装置に対して迎撃目標の速度、位置、角度など(目標情報)を伝達する射撃統制装置とを備えて運用される(例えば特許文献1を参照)。射撃統制装置が動作不能となった場合、発射装置の要撃操作部を利用して射撃を行う。オペレータは要撃操作部に搭載される双眼鏡で目標を索敵し、捕捉する。目標が捕捉されると角度検出器により目標方向が計測され、発射装置に送られる。発射装置は誘導弾を目標方向に向け、誘導弾が目標を捕捉し追随モードに入ると発射となる。
【0003】
ところで、発射される誘導弾が光波弾であれば目標の発する赤外線を頼りに追随することができるが、レーダエコーを受信して目標を検出する電波弾の場合、目標を捕捉し追随するためには目標との距離が必要となる。目標との距離は、電波を送信する周期と送信してから受信するまでの時間から求められる。電波弾に搭載されるレーダの送信強度は小さいので、短い周期で何度も送信することで目標から反射波の受信強度を高めるようにしている。この方式をHPRF(High Pulse Repetition frequency)と称するが、この方式では送信されたパルスのエコーが戻ってくる前に次のパルスが送信されるので、目標との距離が複数存在する。そこでパルス繰り返し周期(PRF)を何段階かに切り替え、目標検出ゲートの設定位置を調整しつつ目標を検出する。パルス繰返し周期と目標検出ゲートの位置はテーブル化され、目標を検出するまで変更される。
【特許文献1】特開2003−130590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HPRF方式のレーダ装置を誘導弾に搭載する場合、1つの誘導弾においてパルス繰り返し周期を切り替えるとともに目標検出ゲートの設定位置を調整し、これらのデータをテーブル化して更新しつつ目標までの距離を測るという手順を要する。このため目標までの距離を計測するのに時間がかかり迎撃に間に合わなくなる虞があるばかりか、正確な目標位置を計測できなくなる虞がある。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、目標への距離計測にかかる時間を短縮でき、目標位置を正確に計測できるようにした誘導弾発射システムとその信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様によれば、複数の誘導弾と、これらの複数の誘導弾を目標に向け発射する発射装置と、この発射装置と前記複数の誘導弾とを接続するデータリンクとを具備し、前記複数の誘導弾の各々は、HPRF(High Pulse Repetition frequency)方式により前記目標までの距離を計測するレーダ部を備え、前記発射装置は、前記レーダ部により取得された目標情報を前記データリンクを介して取得する手段と、異なる誘導弾から取得した複数の目標情報に基づいて目標距離を算出する手段と、前記算出した目標距離を前記データリンクを介して前記複数の誘導弾に伝達する手段とを備え、前記レーダ装置における送信パルス繰り返し周期および目標検出ゲートの位置を前記複数の誘導弾ごとに異ならせて当該複数の誘導弾ごとに目標情報を取得し、それぞれの誘導弾ごとに得られた目標情報と、各誘導弾ごとの送信パルス繰り返し周期および目標検出ゲートの位置に基づいて前記HPRF方式により前記目標距離を算出するようにしたことを特徴とする誘導弾発射システムが提供される。
【0006】
このように、送信パルス繰り返し周期および目標検出ゲートの位置の異なる複数の誘導弾を用いることで、1つの誘導弾で送信パルス繰り返し周期および目標検出ゲートの位置を切り替えることと同等の目標情報を得ることができる。つまり、誘導弾を2つ以上使用することにより電波の送信周期と目標検出ゲートの位置を変化させる回数を減らすことができ、最短で1回の処理で目標位置を求めることができる。これにより、目標距離を迅速かつ正確に計測することができる。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、目標への距離計測にかかる時間を短縮でき、目標位置を正確に計測できるようにした誘導弾発射システムとその信号処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、この発明に係わる誘導弾発射システムの実施の形態を示す概観図である。このシステムは複数の誘導弾21を発射装置24に搭載してなるもので、発射装置24は、目標を索敵し目標の方向へ誘導弾21を動かす機構部22と、信号処理部23とを備える。発射装置24と各誘導弾21とは接続ケーブルを介して接続され、互いに情報を授受するデータリンクが形成される。信号処理部23は、複数の誘導弾21からの目標情報をデータリンクを介して収集し、目標距離を算出する。
【0009】
図2は、図1の誘導弾21を示すブロック図である。誘導弾21は、アンテナユニット11と、励振受信ユニット12と、信号処理回路13と、誘導制御回路14と、推進部15と、操舵部16とを備える。アンテナユニット11は電波レーダの送信パルスを放射し、反射エコーを受信する。励振受信ユニット12は、アンテナユニット11からの受信エコーを周波数変換して受信信号を生成するとともに、送信信号を電力増幅して送信パルスを生成する。
【0010】
信号処理回路13は、受信信号をHPRF方式のもとで処理し、目標信号を検出する。誘導制御回路14は、目標追随時における目標信号、および誘導弾自身の姿勢情報から誘導制御信号を生成する。推進部15は目標まで飛しょうするための推力を供給し、操舵部16は誘導制御回路14からの誘導制御信号に応答して目標に追随するための操舵をする。このような構成により誘導弾21は、目標を索敵し、捕捉、追随し、撃破する。
【0011】
図3は、図1の誘導弾発射システムの実施の形態を示すブロック図である。図3において、発射装置24側の信号処理部23は、複数の誘導弾21の各信号処理回路13に、それぞれ異なる送信パルス繰り返し周期(PRF)と目標検出ゲート位置とを送る。このパルス繰り返し周期と目標検出ゲート位置とはテーブル化され、各信号処理回路13ごとに異なる数値がメモリされる。
【0012】
信号処理回路13は、与えられたパルス繰り返し周期で励振受信ユニット12に電波を送信させる。励振受信ユニット12は信号処理回路13からの指令を受けて送信パルスを生成し、アンテナユニット11から放射する。アンテナユニット11は、励振受信ユニット13からの送信パルスを目標に向け送信する。その後、目標からの反射エコーはアンテナユニット11により受信され、励振受信ユニット12に入力される。
【0013】
励振受信ユニット12は受信したエコーをダウンコンバートし、信号処理回路13に送る。信号処理回路13は、励振受信ユニット12でダウンコンバートされたエコーを処理(アナログ/ディジタル変換、FFT処理など)し、与えられた目標検出ゲート位置を設定して目標検出処理を行う。目標検出の可否はデータリンクを介して信号処理部23に送信される。
【0014】
信号処理部23は、各誘導弾21の信号処理回路13から受信した目標検出の可否、パルス繰り返し周期、目標検出ゲート位置から目標位置を算出する。その結果に基づいて信号処理部23は、発射される誘導弾21の信号処理回路13に目標距離、目標距離に適するパルス繰り返し周期、および、目標検出ゲート位置を送信する。目標距離が算出できない場合、信号処理部23は前回とは異なる値のパルス繰り返し周期と目標検出ゲートとを各信号処理回路13送り、目標検出処理を再度実行させる。信号処理回路13は、信号処理部23から受信した目標距離、目標距離に適するパルス繰り返し周期、及び目標検出ゲート位置から目標検出処理を行い、目標検出の可否を信号処理部23と誘導制御回路14に送信する。
【0015】
信号処理部23は、発射される誘導弾21のロックオンの完了を確認すると、その誘導弾21に発射指令を送る。発射指令を受けた誘導制御回路14は推進部15に点火指令を送信し、操舵部16に操舵指令角を送り目標を追随する。
【0016】
図4は、HPRFによるレーダパルスの送信、受信状況を説明するための図である。HPRF方式では送信パルス繰り返し周期を短くし、複数の受信エコーを積分することで受信強度を高めている。パルス繰り返し周期が短いことから、一回送信してそのエコーが戻ってくる前に次のパルスが送信されるので、目標との距離が複数存在する。
【0017】
例えば図4(a)のように、6μsの周期で送信パルス1を送信し、送信から3μsの位置に目標検出ゲート3を設定してエコー2を受信するとする。ここで目標を検出した場合、この受信したパルスが何周期前に送信されたパルスか判断できないため、送信から受信に掛かった時間から予測される目標との距離が無数に計算される。この例では、受信エコー2が直前の送信パルス1に基づくものであれば、目標との距離は約450mとなる。以降、受信エコー2が1周期前の送信パルス1に基づくものであれば、目標との距離は約1350m、2周期前の時は約2250mとなる。
【0018】
このように一つの周期だけでは距離を特定できないため、通常のHPRFではパルス繰り返し周期を切り替える。例えば図4(b)のようにパルス繰り返し周期を5μsに変更し、2μsの位置に目標検出ゲートを設定する。この設定で目標を検出した場合、距離は約4050mとなる。目標を検出できなければ、図4(c)のようにパルスの送信周期をさらに4.5μsに変更し、目標検出ゲートの位置を3μsとする。ここで目標が検出されれば、その距離は約3150mとなる。このように複数回の切換えによっても目標を検出できなかった場合は、パルス繰り返し周期と目標検出ゲートの設定位置とをさらに調整し、目標を検出するまで繰り返す。
【0019】
このように既存の技術では、1つの誘導弾でパルス繰り返し周期と目標検出ゲートの設定位置を調整して目標を検出する。このパルス繰り返し周期と目標検出ゲートの位置はテーブル化しておき、目標を検出するまで変更する。このため、目標を検出し目標との距離を計測するまでに時間が掛かってしまうと、正確な目標位置を計測できなくなることがあり、問題である。
【0020】
そこで本実施形態では、1つの誘導弾においてパルス繰り返し周期と目標検出ゲートの位置とを切り替えるのではなく、パルス繰り返し周期と目標検出ゲートの位置とを互いに異ならせた複数の誘導弾を用い、各誘導弾により得られた目標情報を用いて目標までの距離を測るようにする。図5のフローチャートを参照してその手順につき説明する。
【0021】
まず、オペレータが双眼鏡等で目標方向を計測し、発射装置24の機構部22を駆動して誘導弾21を目標の方向に向ける(ステップS31)。次に、複数(例えば2つ)の誘導弾21の電源を入れる(ステップS32)。各誘導弾21は起動されると、互いに異なるパルス繰り返し周期、および目標検出ゲートの位置のもとで目標を検出する処理を開始する(ステップS33)。次に、発射装置24の信号処理部23は、起動後の誘導弾21の検出した目標位置情報をデータリンクを介して受け取り、各誘導弾21のパルス繰り返し周期、目標検出ゲートの位置から目標距離を算出する(ステップS34)。この目標距離は誘導弾21に送信され(ステップS35)、誘導弾21が目標を捕捉すると、この誘導弾21が発射される(ステップS36)。
【0022】
以上説明したようにこの実施形態では、1つの誘導弾においてパルス繰り返し周期と目標検出ゲートの位置とを切り替えるのではなく、パルス繰り返し周期と目標検出ゲートの位置とを互いに異ならせた複数の誘導弾を用い、各誘導弾により得られた目標情報を用いて目標までの距離を測るようにする。これにより、HPRF方式を用いる場合においてパルス繰り返し周期と目標検出ゲートの位置とを切り替える回数を減らすことができ、最短で1回で目標位置を求めることができる。このことから誘導弾と目標との距離を速く、正確に計測することができるようになり、目標への距離計測にかかる時間を短縮して目標位置を正確に計測できるようになる。従って射撃統制装置が機能しない場合においても、自律的な迎撃処理を迅速かつ確実に実行することが可能になる。
【0023】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明に係わる誘導弾発射システムの実施の形態を示す概観図。
【図2】図1の誘導弾21を示すブロック図。
【図3】図1の誘導弾発射システムの実施の形態を示すブロック図。
【図4】HPRFによるレーダパルスの送信、受信状況を説明するための図。
【図5】図1の誘導弾発射システムにおける目標距離計測手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0025】
1…送信パルス、2…受信エコー、3…目標検出ゲート、11…アンテナユニット、12…励振受信ユニット、13…信号処理回路、14…誘導制御回路、15…推進部、16…操舵部、21…誘導弾、22…機構部、23…信号処理部、24…発射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘導弾と、これらの複数の誘導弾を目標に向け発射する発射装置と、この発射装置と前記複数の誘導弾とを接続するデータリンクとを具備し、
前記複数の誘導弾の各々は、
HPRF(High Pulse Repetition frequency)方式により前記目標までの距離を計測するレーダ部を備え、
前記発射装置は、
前記レーダ部により取得された目標情報を前記データリンクを介して取得する手段と、
異なる誘導弾から取得した複数の目標情報に基づいて目標距離を算出する手段と、
前記算出した目標距離を前記データリンクを介して前記複数の誘導弾に伝達する手段とを備え、
前記レーダ装置における送信パルス繰り返し周期および目標検出ゲートの位置を前記複数の誘導弾ごとに異ならせて当該複数の誘導弾ごとに目標情報を取得し、それぞれの誘導弾ごとに得られた目標情報と、各誘導弾ごとの送信パルス繰り返し周期および目標検出ゲートの位置に基づいて前記HPRF方式により前記目標距離を算出するようにしたことを特徴とする誘導弾発射システム。
【請求項2】
HPRF(High Pulse Repetition frequency)方式により目標までの距離を計測するレーダ部を備える複数の誘導弾と、これらの複数の誘導弾を目標に向け発射する発射装置とを具備する誘導弾発射システムの信号処理方法において、
前記レーダ装置における送信パルス繰り返し周期および目標検出ゲートの位置を前記複数の誘導弾ごとに異ならせて当該複数の誘導弾ごとに目標情報を取得するステップと、
それぞれの誘導弾ごとに得られた目標情報と、各誘導弾ごとの送信パルス繰り返し周期および目標検出ゲートの位置に基づいて前記HPRF方式により前記目標距離を算出するステップとを具備することを特徴とする信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−155210(P2007−155210A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350882(P2005−350882)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】