説明

誘電体セラミック、及び積層セラミックコンデンサ

【課題】誘電体層をより一層薄層化・多層化した場合であっても、誘電特性、絶縁性、温度特性、高温負荷特性等の諸特性を損なうこともなく、耐熱衝撃性が良好な誘電体セラミック、及びこれを用いた積層セラミックコンデンサを実現する。
【解決手段】誘電体セラミックが、一般式ABOで表されるチタン酸バリウム系化合物を主成分とし、Al、Mg、及びSiを含有した結晶性酸化物が、二次相粒子として存在している。そして、誘電体層6a〜6gは上記誘電体セラミックで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウム系化合物を主成分とする誘電体セラミック、及びこの誘電体セラミックを使用した積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサに使用されるセラミック材料としては、従来より、高誘電率を有するチタン酸バリウム系化合物が広く知られている。また、内部電極材料としては安価で良好な導電性を有するNi等の卑金属材料が広く使用されている。
【0003】
そして、近年におけるエレクトロニクス技術の発展に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化が急速に進行している。
【0004】
この種の積層セラミックコンデンサは、誘電体セラミックからなる誘電体層と内部電極とが交互に積層され、焼成処理して得られたセラミック焼結体の両端部に外部電極が形成されている。上記誘電体層を薄層化して多数積層することにより積層セラミックコンデンサの小型化・大容量化を図ることができる。
【0005】
そして、特許文献1には、チタン酸バリウムを含む主成分と、Alの酸化物とを有する誘電体磁器組成物であって、前記誘電体磁器組成物は、複数の誘電体粒子を有しており、前記誘電体粒子は、粒子表面から粒子内部に向かって、Alの濃度が低くなっている積層セラミックコンデンサ用の誘電体磁器組成物が提案されている。
【0006】
この特許文献1では、誘電体粒子を、粒子表面から粒子内部に向かって、Alの濃度が低くなるように構成することにより、1000以上の高誘電率と良好な静電容量の温度特性を確保しつつ、TCバイアス特性(DC電圧印加時の容量温度特性)や絶縁抵抗IRの温度依存性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−282481号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、積層セラミックコンデンサの小型化・大容量化を図るためには、上述したように、誘電体層の薄層化・多層化が必要となるが、誘電体層が薄層化・多層化してくると、はんだ実装時にクラック等が生じないように、積層セラミックコンデンサには良好な耐熱衝撃性を有することが求められる。
【0009】
特に、近年では、静電容量の形成に寄与しない最下層及び最上層の誘電体層、すなわち保護層についても極力薄層化し、その分、多層化して大容量の積層セラミックコンデンサを得ることが求められており、耐熱衝撃性は益々重要になってきている。したがって、コンデンサの素子構造のみならず、耐熱衝撃性を有するセラミック材料の開発が要請されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1では、Alを添加することにより、機械的強度を向上させることができるものの、十分な耐熱衝撃性を得ることはできず、このため、薄層化・多層化された積層セラミックコンデンサでは、はんだ実装時にクラックが生じるおそれがあり、信頼性に劣るという問題点があった。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、誘電体層をより一層薄層化・多層化した場合であっても、誘電特性、絶縁性、温度特性、高温負荷特性等の諸特性を損なうこともなく、耐熱衝撃性が良好な誘電体セラミック、及びこれを用いた積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために、セラミック材料にチタン酸バリウム系化合物を使用して鋭意研究を行ったところ、Al、Mg、及びSiを含有した結晶性酸化物を二次相粒子として存在させることにより、誘電特性、絶縁性、静電容量の温度特性、高温負荷特性等の諸特性を確保しつつ耐熱衝撃性を向上させることができるという知見を得た。
【0013】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る誘電体セラミックは、一般式ABOで表されるチタン酸バリウム系化合物を主成分とし、Al、Mg、及びSiを含有した結晶性酸化物が、二次相粒子として存在していることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の誘電体セラミックは、前記チタン酸バリウム系化合物は、Aサイトが、Baを78〜100モル%、Srを0〜2モル%、Caを0〜20モル%の範囲で含有し、Bサイトが、Tiを96〜100モル%、Zrを0〜2モル%、Hfを0〜2モル%の範囲で含有するのが好ましい。
【0015】
また、本発明者らの更なる鋭意研究の結果、Ba又は/及びCa、La、Ce等の特定の希土類元素やMn、Ni等の特定元素を誘電体セラミック層中に所定量含有させることにより、更なる信頼性向上を図ることができることが分かった。
【0016】
すなわち、本発明の誘電体セラミックは、Ba及びCaのうちの少なくとも1種の元素M1、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYの中から選択された少なくとも1種の元素R、及びMn、Ni、Co、Fe、Cr、Cu、Mg、Li、Al、Si、Mo、W及びVの中から選択された少なくとも1種の元素M2のうちのいずれかを含有し、前記元素M1の含有量は、前記主成分100モル部に対し0.2〜3モル部であり、前記元素Rの含有量は、前記主成分100モル部に対し0.1〜3モル部であり、前記元素M2の含有量は、前記主成分100モル部に対し0.2〜5モル部であるのが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極とが交互に積層されてなる積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体層が、上記いずれかに記載の誘電体セラミックで形成されていることを特徴としている。
【0018】
また、本発明の積層セラミックコンデンサは、前記内部電極が、Niを主成分としているのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上記誘電体セラミックによれば、一般式ABOで表されるチタン酸バリウム系化合物を主成分とし、Al、Mg、及びSiを含有した結晶性酸化物が、二次相粒子として存在しているので、誘電特性、絶縁性、温度特性、高温負荷特性等の諸特性を確保しつつ耐熱衝撃性を向上させることができる。すなわち、上述した諸特性が良好で、かつ実装時に急激な温度変化が生じてもクラック等の欠陥が生じることのない誘電体セラミックを得ることができる。
【0020】
また、Ba及びCaのうちの少なくとも1種の元素M1、特定の希土類元素R、特定の元素M2のうちのいずれかを含有し、前記元素M1の含有量は、前記主成分100モル部に対し0.2〜3モル部であり、前記元素Rの含有量は、前記主成分100モル部に対し0.1〜3モル部であり、前記元素M2の含有量は、前記主成分100モル部に対し0.2〜5モル部とすることにより、誘電率の低下を招くことなく、より一層の良好な高温負荷特性を有する誘電体セラミックを得ることができる。
【0021】
また、本発明の積層セラミックコンデンサは、誘電体層とNi等を主成分とした内部電極とが交互に積層されてなる積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体層が、上記いずれかに記載の誘電体セラミックで形成されているので、誘電特性、絶縁性、温度特性、高温負荷特性等の諸特性を確保しつつ耐熱衝撃性を向上させることができ、実装時に急激な温度変化が生じてもクラック等の欠陥が生じることのない積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る積層セラミックコンデンサの一実施の形態を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例1の試料番号1のSEM像である。
【図3】上記試料番号1のAlの偏析状態を示すマッピング図である。
【図4】上記試料番号1のMgの偏析状態を示すマッピング図である。
【図5】上記試料番号1のSiの偏析状態を示すマッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0024】
本発明の一実施の形態としての誘電体セラミックは、チタン酸バリウム系化合物を主成分とし、Al、Mg、及びSiを含有した結晶性酸化物が、二次相粒子として存在している。
【0025】
チタン酸バリウム系化合物は、一般式ABOで表わされるペロブスカイト型構造を有しており、具体的な形態としては、AサイトがBa、BサイトがTiで形成されたBaTiO、Baの一部がCa及びSrのうちの少なくとも1種の元素で置換された(Ba,Ca)TiO、(Ba,Sr)TiO、又は(Ba,Ca,Sr)TiO、Tiの一部がZr、Hfのうちの少なくとも1種の元素で置換されたBa(Ti,Zr)O、Ba(Ti,Hf)O、又はBa(Ti,Zr,Hf)O、或いはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0026】
ただし、Baの一部をSr及びCaのうちの少なくともいずれか一方で置換する場合は、Srは2モル%以下、Caは20モル%以下が好ましい。すなわち、Aサイトは、Baが78〜100モル%、Srが0〜2モル%、Caが0〜20モル%の範囲で含有されるのが好ましい。
【0027】
また、Tiの一部をZr及びHfのうちの少なくともいずれか一方で置換する場合は、Zrは2モル%以下、Hfは2モル%以下が好ましい。すなわち、Bサイトは、Tiが96〜100モル%、Zrが0〜2モル%、Hfが0〜2モル%の範囲で含有されるのが好ましい。
【0028】
また、AサイトとBサイトとの配合モル比は、化学量論的には1.000であるが、各種特性や焼結性等に影響を与えない程度に、必要に応じてAサイト過剰、又はBサイト過剰となるように配合するのも好ましい。
【0029】
そして、本誘電体セラミックは、Al、Mg、及びSiを含有した結晶性酸化物(以下、「Al−Mg−Si酸化物」という。)が二次相粒子として存在している。
【0030】
このように主相粒子であるチタン酸バリウム系化合物以外に、Al−Mg−Si酸化物を二次相粒子として存在させることにより、誘電特性、絶縁性、温度特性、高温負荷特性等の諸特性を確保しつつ耐熱衝撃性を向上させることが可能となり、これにより実装時に急激な温度変化が生じてもクラック等の欠陥が生じることのない誘電体セラミックを得ることができる。
【0031】
これは、結晶性酸化物粒子であるAl−Mg−Si酸化物が、内部電極中の導電性材料、例えばNiと接して存在し、その結果、実装時の急激な温度変化に対する耐性が増し、誘電特性等の上述した諸特性を損なうことなく、耐熱衝撃性が向上するものと思われる。
【0032】
ここで、Al−Mg−Si酸化物が二次相粒子として存在するためには、以下の3要件を満たす必要がある。すなわち、
(i)Al、Mg、Siの各元素が略同一箇所に存在すること
(ii)(i)において、Al、Mg、Siの各元素の含有量総計が、酸素原子を除いて50モル%以上であること
(iii)(i)において、Al、Mg、Siの各元素が、酸素原子を除いて単独でそれぞれ5モル%以上であること
の3要件を満たすことにより、Al−Mg−Si酸化物が二次相粒子として存在すると認められ、これにより上述した作用効果を奏することができる。
【0033】
尚、上記3要件を満たすか否かは、例えば、FE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)で観察し、WDX(波長分散型X線分析装置)で組成をマッピング分析することにより、容易に確認することができる。
【0034】
また、本誘電体セラミックは、副成分として、Ba及びCaのうちの少なくとも1種の元素M1、特定の希土類元素R、及び特定の元素M2を含有するのも好ましい。
【0035】
ここで、特定の希土類元素Rとしては、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYを挙げることができ、特定の元素M2としては、Mn、Ni、Co、Fe、Cr、Cu、Mg、Li、Al、Si、Mo、W及びVを挙げることができる。
【0036】
このような元素M1、希土類元素R及び元素M2を添加することにより、高温負荷特性をより一層向上させることができ、より優れた信頼性を得ることができる。
【0037】
ただし、元素M1を添加する場合は、主成分であるチタン酸バリウム系化合物100モル部に対し0.2〜3モル部が好ましい。これは前記主成分100モル部に対し0.2モル部未満の場合は、未添加の場合と比較して信頼性向上の効果が生じず、一方3モル部を超えて添加すると誘電特性が低下するおそれがあるからである。
【0038】
また、希土類元素Rを添加する場合は、主成分100モル部に対し0.1〜3モル部が好ましい。これは前記主成分100モル部に対し0.1モル部未満の場合は、未添加の場合と比較して信頼性向上の効果が生じず、一方3モル部を超えて添加すると誘電特性が低下するおそれがあるからである。
【0039】
また、元素M2を添加する場合は、前記主成分100モル部に対し0.1〜5モル部が好ましい。これは主成分100モル部に対し0.1モル部未満の場合は、未添加の場合と比較して信頼性向上の効果が生じず、一方5モル部を超えて添加すると誘電特性が低下するおそれがあるからである。
【0040】
尚、元素M1、希土類元素R、元素M2の添加形態は特に限定されるものではなく、酸化物形態、炭酸物形態等で主成分に添加させることができる。
【0041】
次に、上記誘電体セラミックを使用した積層セラミックコンデンサについて詳述する。
【0042】
図1は上記積層セラミックコンデンサの一実施の形態を模式的に示す断面図である。
【0043】
該積層セラミックコンデンサは、内部電極2a〜2fがセラミック焼結体1に埋設されると共に、該セラミック焼結体1の両端部には外部電極3a、3bが形成され、さらに該外部電極3a、3bの表面には第1のめっき皮膜4a、4b及び第2のめっき皮膜5a、5bが形成されている。
【0044】
すなわち、セラミック焼結体1は、誘電体層6a〜6gと内部電極層2a〜2fとが交互に積層されて焼成されてなり、内部電極層2a、2c、2eは外部電極3aと電気的に接続され、内部電極層2b、2d、2fは外部電極3bと電気的に接続されている。そして、内部電極層2a、2c、2eと内部電極層2b、2d、2fとの対向面間で静電容量を形成している。
【0045】
そして、前記誘電体層6a〜6gは、上述した誘電体セラミックで形成されている。
【0046】
また、内部電極層2a〜2fを構成する内部電極材料としては、特に限定されるものではないが、安価で良導電性を有するNiを主成分とした材料が好んで使用される。
【0047】
そして、これにより誘電体セラミック層を1μm以下に薄層化し、400層以上に多層化した場合であっても、誘電特性、絶縁性、温度特性、高温負荷特性等の諸特性を確保しつつ、耐熱衝撃性を向上させることができ、実装時に急激な温度変化が生じても積層セラミックコンデンサにクラック等の欠陥が生じるのを回避することができる。これは、上述したように、結晶性酸化物粒子であるAl−Mg−Si酸化物が、内部電極2a〜2h中の導電性材料、例えばNiと接して存在し、その結果、実装時の急激な温度変化に対する耐性が増し、誘電特性等の諸特性を損なうこともなく耐熱衝撃性が向上するものと思われる。
【0048】
具体的には、誘電率が2500以上の高誘電率であって、CR積が2150Ω・F以上の良好な絶縁性を有し、温度特性はEIA規格のX6S特性(静電容量の温度変化率が−55℃〜+105℃の温度範囲で±22%以内)を満足し、かつ105℃の高温で10kV/mmの電界を印加しても500時間以上連続駆動しても故障が生じず、高性能で信頼性の優れた薄層化・多層化された積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0049】
特に、元素M1、希土類元素R、元素M2を上述の範囲で主成分に含有させた場合は、誘電特性等の諸特性を低下させることもなく、2000時間以上の長時間連続駆動させても故障が生じず、高性能でより一層の信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0050】
次に、上記積層セラミックコンデンサの製造方法を概説する。
【0051】
まず、セラミック素原料として、Ba化合物、Ti化合物を用意し、必要に応じてCa化合物、Sr化合物、Zr化合物、Hf化合物等を用意する。そしてこれらセラミック素原料を所定量秤量し、その秤量物をPSZ(Partially Stabilized Zirconia:部分安定化ジルコニア)ボール等の粉砕媒体及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後、900〜1200℃の温度で所定時間、熱処理を行い、これにより平均粒径0.1〜0.2μmのチタン酸バリウム系化合物からなる主成分粉末を作製する。
【0052】
次いで、Al酸化物、Mg酸化物、Si酸化物を用意し、これらを所定量秤量した後、粉砕媒体と共にボールミルに投入して湿式混合する。そして、この混合物を乾燥させた後、900〜1000℃で所定時間熱処理を行い、Al−Mg−Si酸化物を作製する。
【0053】
そしてこの後、主成分粉末、Al−Mg−Si酸化物、更には必要に応じて副成分粉末としてのM1化合物、R化合物、及びM2化合物を、主成分粉末(必要に応じて副成分粉末):Al−Mg−Si酸化物が、重量比率で99.2〜99.6:0.4〜0.8程度となるように秤量し、これらを十分に混合してセラミック原料粉末を作製する。
【0054】
次いで、このセラミック原料粉末を有機バインダや有機溶剤、粉砕媒体と共にボールミルに投入して湿式混合し、セラミックスラリーを作製し、ドクターブレード法等によりセラミックスラリーに成形加工を行い、焼成後の厚みが1μm以下となるようにセラミックグリーンシートを作製する。
【0055】
次いで、Ni粉末等の導電性材料を有機ビヒクル及び有機溶剤と共に混合し、三本ロールミル等で混練し、これにより内部電極用導電性ペーストを作製する。
【0056】
そして、この内部電極用導電性ペーストを使用してセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施し、前記セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電膜を形成する。
【0057】
次いで、導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定方向に複数枚積層した後、これを導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着し、所定寸法に切断してセラミック積層体を作製する。そしてこの後、温度300〜500℃で脱バインダ処理を行ない、さらに、酸素分圧が10-9〜10-12MPaに制御されたH−N−HOガスからなる還元性雰囲気下、温度1100〜1300℃で約2時間焼成処理を行なう。これにより導電膜とセラミックグリーンシートとが共焼結され、誘電体層6a〜6gと内部電極2a〜2fとが交互に積層されたセラミック焼結体1が得られる。
【0058】
次に、セラミック焼結体1の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布し、600〜800℃の温度で焼付処理を行い、外部電極3a、3bを形成する。
【0059】
尚、外部電極用導電性ペーストに含有される導電性材料についても、特に限定されるものではないが、低コスト化の観点から、AgやCu、或いはこれらの合金を主成分とした材料を使用するのが好ましい。
【0060】
また、外部電極3a、3bの形成方法としては、セラミック積層体の両端面に外部電極用導電性ペーストを塗布した後、セラミック積層体と同時に焼成処理を施すようにしてもよい。
【0061】
そして、最後に、電解めっきを施して外部電極3a、3bの表面にNi、Cu、Ni−Cu合金等からなる第1のめっき皮膜4a、4bを形成し、さらに該第1のめっき皮膜4a、4bの表面にはんだやスズ等からなる第2のめっき皮膜5a、5bを形成し、これにより積層セラミックコンデンサを製造することができる。
【0062】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲において種々に変形可能であるのはいうまでもない。
【0063】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0064】
〔試料の作製〕
(試料番号1)
セラミック素原料として、BaCO、TiOを所定量秤量し、これら秤量物をPSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後、1150℃の温度で約2時間、熱処理を行い、これにより平均粒径0.15μmのBa1.003TiOからなる主成分粉末を作製した。
【0065】
次に、Al、MgCO、及びSiOを用意した。そして、これらをモル比でAl:MgCO:SiO=1:2:2となるように秤量し、これら秤量物をPSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕した後、900℃で熱処理し、Al−Mg−Si酸化物を作製した。尚、このAl−Mg−Si酸化物の平均粒径は0.08μmであった。
【0066】
次いで、上記主成分粉末とAl−Mg−Si酸化物とが、重量比で99.2:0.8となるように秤量し、その後PSZボール及び純水と共にボールミルに投入して湿式で混合し、乾燥させてセラミック原料粉末を得た。
【0067】
次に、上記セラミック原料粉末をエタノールやポリビニルブチラール系バインダ、及びPSZボールと共にボールミルに投入して湿式混合し、これによりセラミックスラリーを作製し、さらにドクターブレード法によりセラミックスラリーを成形し、焼成後の厚みが0.8μmとなるようにセラミックグリーンシートを作製した。
【0068】
次いで、Ni粉末、有機ビヒクル及び有機溶剤を含有した内部電極用導電性ペーストを用意した。
【0069】
次に、前記内部電極用導電性ペーストを使用してセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷を施し、前記セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電膜を形成した。
【0070】
次いで、導電膜が形成されたセラミックグリーンシートを所定枚数積層し、導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着し、所定寸法に切断してセラミック積層体を作製した。そしてこの後、窒素雰囲気下、300℃の温度で脱バインダ処理を行ない、さらに、酸素分圧が10-10MPaに制御されたH−N−HOガスからなる還元性雰囲気下、温度1120℃で約2時間焼成処理を行ない、これにより導電膜とセラミックグリーンシートとを共焼結し、内部電極が埋設されたセラミック焼結体を作製した。
【0071】
次に、Cu粉末及びB−LiO−SiO−BaO系のガラスフリットを含有した外部電極用導電性ペーストを用意した。そして、外部電極用導電性ペーストをセラミック焼結体の両端面に塗布し、窒素雰囲気下、800℃の温度で焼付処理を行い、外部電極を形成し、試料番号1の試料を作製した。
【0072】
得られた試料の誘電体層の厚みは0.8μmであり、外形寸法は、長さ:1.6mm、幅:0.8mm、厚み:0.8mm、誘電体層の一層あたりの対向電極面積は0.9mm、有効積層数は400層であった。
【0073】
次に、試料番号1について、破断面を研磨した後、FE−SEMで観察し、WDXで組成をマッピング分析した。
【0074】
図2は、試料番号1の任意断面におけるSEM像であり、図3〜図5は、Al、Mg、Siの分析結果をそれぞれ示している。
【0075】
この図3〜図5から明らかなように、Al、Mg、及びSiは略同一箇所に存在していることが確認された。また、これらの各箇所においてAl、Mg、Siの各元素の含有量総計が50モル%以上であり、かつAl、Mg、Siの各元素が、単独でそれぞれ5モル%以上であることが確認された。そして、これらの分析結果よりAl−Mg−Si酸化物が二次相粒子として偏析していると判断した。
【0076】
尚、図4及び図5から明らかなように、二次相粒子以外に、Mg酸化物及びSi酸化物が若干偏析していることも確認された。
【0077】
(試料番号2)
試料番号1と同様の方法・手順で、Ba1.003TiOを作製した。
【0078】
次いで、Al、MgCO、及びSiOを、モル比でAl:MgCO:SiO=1:2:2となるように秤量し、Al、MgCO、及びSiOの混合物を得た。そして、主成分粉末であるBa1.003TiOと上記混合物とが、重量比で99.2:0.8となるように秤量し、この秤量物をPSZボール及び純水と共に、ボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させてセラミック原料粉末を得た。
【0079】
そしてその後は試料番号1と同様の方法・手順で試料番号2の試料を作製した。
【0080】
また、この試料番号2について、破断面を研磨した後、FE−SEMで観察し、WDXで組成をマッピング分析したところ、試料番号1とは異なり、Al−Mg−Si酸化物の二次相粒子は存在せず、Al酸化物、Mg酸化物、及びSi酸化物が異相粒子としてそれぞれ独立して偏析していることが確認された。
【0081】
〔試料の評価〕
試料番号1、2について、以下の方法で誘電率、絶縁抵抗、静電容量の温度特性、耐熱衝撃性及び高温負荷特性を評価した。
【0082】
誘電率は、自動ブリッジ式測定器を使用し、周波数1kHz、実効電圧0.5Vrms、温度25℃の条件下で静電容量Cを測定し、この測定値と試料寸法から求めた。
【0083】
絶縁抵抗は、温度25℃下、4Vの直流電圧を180秒間印加してlogIRを測定し、静電容量Cと絶縁抵抗Rの積であるCR積で評価した。
【0084】
静電容量の温度特性は、+25℃の静電容量を基準とし、−55℃、+85℃、及び+105℃における静電容量の温度変化率ΔC-55/C25、ΔC+85/C25、ΔC+105/C25を測定し、評価した。尚、静電容量の温度変化率が、−55℃〜+105℃の温度範囲で±22%以内であればEIA規格のX6S特性を満足することとなる。
【0085】
耐熱衝撃性は、各試料50個について耐衝撃性試験を行い評価した。すなわち、各試料50個について、325℃に温度設定したはんだ槽にそれぞれ3分間浸漬し、各試料をはんだ槽から引き上げて樹脂で固めた後、研磨し、顕微鏡観察してクラックが1個でも認められた試料を不良品と判定し、評価した。
【0086】
高温負荷特性は、各試料100個について高温負荷試験を行い評価した。すなわち、温度105℃で電界強度が10kV/mmとなるように8Vの電圧を印加し、絶縁抵抗の経時変化を測定し、500時間経過した時点で、CR積が50Ω・F以下になった試料を不良品と判定して評価した。
【0087】
表1は、試料番号1、2の誘電率、CR積、静電容量の温度特性、耐熱衝撃性、高温負荷特性を示している。
【0088】
【表1】

【0089】
試料番号1は、Al−Mg−Si酸化物を二次相粒子として含有しているので、誘電率、絶縁抵抗、静電容量の温度特性、及び高温負荷特性については、いずれも良好な結果を得た。
【0090】
一方、試料番号2は、Al−Mg−Si酸化物を二次相粒子として含有せず、それぞれ単独の酸化物として偏析しているため、耐熱衝撃試験で、50個中8個の不良品が発生し、不良発生率が増加した。
【実施例2】
【0091】
セラミック素原料として、BaCO、CaCO、SrCO、TiO、ZrO、HfOを用意した。そしてこれらセラミック素原料を表2に示すような主成分組成となるように秤量し、PSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後、1100〜1200℃の温度で約2時間、熱処理し、これにより平均粒径0.11〜0.17μmの主成分粉末を作製した。
【0092】
次に、Al、MgCO、及びSiOを用意した。そして、これら酸化物をモル比でAl:MgCO:SiO=1:4:4となるように秤量し、これら秤量物をPSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕した後、900℃で熱処理し、Al−Mg−Si酸化物を得た。尚、このAl−Mg−Si酸化物の平均粒径は0.06μmであった。
【0093】
次いで、上記主成分粉末とAl−Mg−Si酸化物とが、重量比で99.5:0.5となるように秤量し、その後PSZボール及び純水と共にボールミルに投入して湿式で混合し、乾燥させてセラミック原料粉末を得た。
【0094】
そしてその後は、試料番号1と同様の方法・手順で試料番号11〜16の各試料を作製した。
【0095】
尚、試料番号11〜16の各試料について、実施例1と同様、破断面を研磨した後、FE−SEMで観察し、WDXで組成をマッピング分析したところ、試料番号1と同様、Al−Mg−Si酸化物が二次相粒子として存在していることが確認された。また、二次相粒子以外にMg酸化物及びSi酸化物が若干偏析していることも確認された。
【0096】
次に、試料番号11〜16の各試料について、〔実施例1〕と同様の方法・手順で誘電率、絶縁抵抗、静電容量の温度特性、耐熱衝撃性及び高温負荷特性を評価した。
【0097】
表2は、試料番号11〜16の誘電率、CR積、静電容量の温度特性、耐熱衝撃性、高温負荷特性を示している。
【0098】
【表2】

【0099】
試料番号11〜16は、いずれもAl−Mg−Si酸化物が二次相粒子として存在しているので、誘電率、絶縁抵抗、静電容量の温度特性、耐熱衝撃性及び高温負荷特性の諸特性については、いずれも良好な結果を得られることが確認された。
【実施例3】
【0100】
セラミック素原料として、BaCO、CaCO、TiO、及びZrOを用意した。そしてこれらセラミック素原料を所定量秤量し、PSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させた後、1150℃の温度で約2時間、熱処理し、これにより平均粒径0.17μmの(Ba0.93Ca0.070.998(Ti0.996Zr0.004)Oからなる主成分粉末を作製した。
【0101】
次に、Al、MgCO、及びSiOを用意した。そして、これらをモル比でAl:MgCO:SiO=1:2:4となるように秤量し、これら秤量物をPSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕した後、1000℃で熱処理し、Al−Mg−Si酸化物を得た。尚、このAl−Mg−Si酸化物の平均粒径は0.07μmであった。
【0102】
次に、副成分として、M1CO(M1はBa、Ca)、RO3/2(RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びY)、M2O(M2はMn、Ni、Co、Fe、Cr、Cu、Mg、Li、Al、Si、Mo、W及びV、Xは元素M2の価数によって一義的に決まる正の数)を用意した。
【0103】
そして、表3に示すように、主成分100モル部に対し、M1COが0〜3.0モル部、RO3/2が0〜3.5モル部、M2Oが0〜6.2モル部となるように、主成分粉末、M1CO、RO3/2、及びM2Oを秤量し、さらにAl−Mg−Si酸化物以外(主成分粉末、M1CO、RO3/2、及びM2O)とAl−Mg−Si酸化物とが、重量比で99.6:0.4となるようにPSZボール及び純水と共にボールミルに投入し、十分に湿式で混合粉砕し、乾燥させてセラミック原料粉末を得た。
【0104】
そしてその後は、試料番号1と同様の方法・手順で試料番号21〜39の各試料を作製した。
【0105】
尚、試料番号21〜39の各試料について、実施例1と同様、破断面を研磨した後、FE−SEMで観察し、WDXで組成をマッピング分析したところ、試料番号1と同様、Al−Mg−Si酸化物が二次相粒子として存在していることが確認された。また、二次相粒子以外にMg酸化物及びSi酸化物が若干偏析していることも確認された。
【0106】
次に、試料番号21〜39の各試料について、〔実施例1〕と同様の方法・手順で誘電率、絶縁抵抗、静電容量の温度特性、耐熱衝撃性及び高温負荷特性を評価した。尚、この実施例3では高温負荷試験を500時間以外に2000時間でも行い、高温負荷特性を評価した。
【0107】
表3は、試料番号21〜39の主成分及び副成分の組成成分(Al−Mg−Si酸化物は除く。)を示し、表4は、試料番号21〜39の誘電率、CR積、静電容量の温度特性、耐熱衝撃性、高温負荷特性を示している。
【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
試料番号21〜39は、いずれもAl−Mg−Si酸化物が二次相粒子として存在しているので、絶縁抵抗、静電容量の温度特性、及び500時間での高温負荷特性については良好な結果を得た。
【0111】
しかしながら、試料番号21は、元素Rが添加されていないため、高温負荷特性が500時間経過後では不良品は生じなかったものの、2000時間経過後には100個中、2個の不良品が発生した。
【0112】
また、試料番号26は、元素M2が添加されていないため、高温負荷特性が500時間経過後では不良品は生じなかったものの、2000時間経過後には100個中、4個の不良品が発生した。
【0113】
また、試料番号33は、元素M1が添加されていないため、高温負荷特性が500時間経過後では不良品は生じなかったものの、2000時間経過後には100個中、1個の不良品が発生した。
【0114】
一方、試料番号25は、元素Rが主成分100モル部に対し3.5モル部と過剰であるため、誘電率が2250に低下した。
【0115】
また、試料番号32は、元素M2が主成分100モル部に対し6.2モル部と過剰であるため、誘電率が2300に低下した。
【0116】
これに対し試料番号22〜24、27〜31、及び34〜39は、元素M1を主成分100モル部に対し0.2〜3.0モル部、元素Rを主成分100モル部に対し0.1〜3.0モル部、元素M2を主成分100モル部に対し0.2〜5.0モル部含有されているので、誘電率が良好であり、かつ高温負荷試験も2000時間経過しても不良品が発生せず、良好な高温負荷特性を得ることができた。
【0117】
以上より元素M1を主成分100モル部に対し0.2〜3.0モル部、元素Rを主成分100モル部に対し0.1〜3.0モル部、元素M2を主成分100モル部に対し0.2〜5.0モル部含有させることにより、誘電特性や耐熱衝撃性等の諸特性を損なうことなく高温負荷特性を向上させることができ、信頼性のより一層の向上を図ることができることが分った。
【産業上の利用可能性】
【0118】
誘電体層が1μm以下に薄層化され、積層数が400層以上に多層化された場合であっても、誘電性、絶縁性、温度特性、高温負荷特性等の諸特性を確保しつつ耐熱衝撃性を向上させる。
【符号の説明】
【0119】
2a〜2f 内部電極
6a〜6g 誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABOで表されるチタン酸バリウム系化合物を主成分とし、
Al、Mg、及びSiを含有した結晶性酸化物が、二次相粒子として存在していることを特徴とする誘電体セラミック。
【請求項2】
前記チタン酸バリウム系化合物は、Aサイトが、Baを78〜100モル%、Srを0〜2モル%、Caを0〜20モル%の範囲で含有し、Bサイトが、Tiを96〜100モル%、Zrを0〜2モル%、Hfを0〜2モル%の範囲で含有することを特徴とする請求項1記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
Ba及びCaのうちの少なくとも1種の元素M1、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYの中から選択された少なくとも1種の元素R、及びMn、Ni、Co、Fe、Cr、Cu、Mg、Li、Al、Si、Mo、W及びVの中から選択された少なくとも1種の元素M2のうちのいずれかを含有し、
前記元素M1の含有量は、前記主成分100モル部に対し0.2〜3モル部であり、前記元素Rの含有量は、前記主成分100モル部に対し0.1〜3モル部であり、前記元素M2の含有量は、前記主成分100モル部に対し0.2〜5モル部であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の誘電体セラミック。
【請求項4】
誘電体層と内部電極とが交互に積層されてなる積層セラミックコンデンサにおいて、
前記誘電体層が、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の誘電体セラミックで形成されていることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記内部電極が、Niを主成分としていることを特徴とする請求項4記載の積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−36021(P2012−36021A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175376(P2010−175376)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】