説明

誘電体セラミックスラリーおよび積層セラミック電子部品

【課題】セラミックスラリー中における、各種セラミック成分の分散性を向上させることができる誘電体セラミックスラリーを提供する。
【解決手段】ステップS1で、主成分であるBaTiO3粉末、第1副成分としてのSiO2ゾル、第2副成分としてのBaCO3粉末とMgCO3粉末などが準備される。ステップS2で、第2副成分のBaCO3粉末とMgCO3粉末などが混合され、解砕される。ステップS3で、混合して解砕した第2副成分粉末が、主成分のBaTiO3粉末と第1副成分のSiO2ゾルとに混合される。ステップS4で、主成分のBaTiO3粉末と第1副成分のSiO2ゾルと第2副成分とに、第1高分子からなるバインダおよび有機溶媒が添加されて湿式混合され、中間スラリーとされる。ステップS5で、中間スラリーに、第2高分子からなるバインダおよび有機溶媒が添加されて湿式混合される。第1高分子の分子量は、第2高分子の分子量より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミックスラリーおよび積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や携帯音楽プレイヤーなどの電子機器において、小型化及び薄型化が進んできている。それに伴って、例えば、電子機器に内蔵される積層セラミックコンデンサの小型化が求められている。ここで、小型であるにもかかわらず、大きな静電容量を確保するためには、誘電体セラミック層(誘電体セラミックグリーンシート)の厚みを薄くしなければならならない。その場合、積層セラミックコンデンサ内部で、ショートや絶縁不良が発生する確率が大きくなる。
【0003】
このため、誘電体セラミックグリーンシートを製造するとき、セラミックスラリー中において、各種セラミック成分の分散性を向上させる必要がある。これにより、セラミックスラリー中の粗大な凝集物を除去することが可能となり、表面が平滑で、膜厚が均一な誘電体セラミックグリーンシートが得られる。
【0004】
ここで、セラミックスラリー中における、各種セラミック成分の分散性を向上させることができるセラミックスラリーとして、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1に記載のセラミックスラリーは、副成分粉末を少なくとも含む混合物を、粉砕処理して副成分スラリーを準備し、この副成分スラリーを高圧分散処理し、高圧分散処理後の副成分スラリーに主成分粉末を添加して、セラミックスラリーを製造するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−137693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のセラミックスラリーは、副成分として全て粉末が用いられているため、副成分粉末の微粒化が進むと、セラミックスラリー中でのセラミック成分の分散性が悪くなり、凝集物がセラミックグリーンシートの品質を悪化させるという不具合があった。そのため、積層セラミック電子部品内部のショート発生率が高くなり、信頼性が悪化する心配があった。
【0007】
それゆえに、本発明の第1の目的は、セラミックスラリー中における、各種セラミック成分の分散性を向上させることができる誘電体セラミックスラリーを提供することである。また、本発明の第2の目的は、積層セラミック電子部品内部のショートや絶縁不良を防止できる積層セラミック電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、主成分と副成分とを有する誘電体セラミック成分を、バインダおよび溶媒中に混合分散させて成る誘電体セラミックスラリーであって、
粉末状態の主成分と、ゾル状態の第1副成分と、粉末状態の第2副成分とを、バインダおよび溶媒に添加して湿式混合して成ること、
を特徴とする、誘電体セラミックスラリーである。ここで、「ゾル」とは、液体を分散媒とするコロイドをいう。
【0009】
本発明では、第1副成分を粉末ではなく、ゾルとすることで、セラミックスラリー中の第1副成分の凝集が緩和され、セラミックスラリー製造時の分散性が向上する。すなわち、セラミックスラリー中の、特に副成分の分散性が向上し、粗大な凝集物ができにくくなる。ここで、従来のように、副成分が全て粉末の場合には、副成分粉末の微粒化が進むに従い、分散性が悪くなる。逆に、副成分が全てゾルの場合には、ゾル状態の第1副成分と第2副成分との相互作用により、むしろ分散性が悪くなる。
【0010】
また、本発明は、主成分がチタン酸バリウム(BaTiO3)系であること、を特徴とする、誘電体セラミックスラリーである。ここで、BaTiO3のうち、Tiの一部は、Zr等で置換されていてもよい。さらに、Baの一部も、SrやCa等で置換されていてもよい。
【0011】
また、本発明は、第1副成分がSi成分であり、Si成分としてSiO2を含むゾルを用いること、を特徴とする、誘電体セラミックスラリーである。
【0012】
また、本発明は、第2副成分がMg成分とR成分とを含むこと、を特徴とする、誘電体セラミックスラリーである。ここで、R成分は、例えば、Y、Dy、Ho、Gdなどの少なくともいずれか一種を含むものである。Mg成分とR成分は、酸化物や炭酸化物などのような化合物として準備される。これらの化合物は、焼成により酸化物になる。
【0013】
また、本発明は、第2副成分がさらにMn成分を含むこと、を特徴とする、誘電体セラミックスラリーである。
【0014】
また、本発明は、予め混合して解砕した第2副成分を、主成分と第1副成分と共に、バインダおよび溶媒に添加して湿式混合して成ること、を特徴とする、誘電体セラミックスラリーである。
【0015】
本発明では、予め第2副成分であるMg成分やR成分やMn成分が混合して解砕されているため、Mg成分やR成分やMn成分がそれぞれ単独で(混合することなく)解砕されて個別に、主成分および第1副成分に混合されて、バインダおよび溶媒に添加される場合よりも、分散性が向上する。
【0016】
また、本発明は、主成分と第1副成分と第2副成分とを、相対的に小さい分子量を有する第1高分子からなるバインダおよび溶媒に添加して湿式混合して成る中間スラリーに、相対的に大きい分子量を有する第2高分子からなるバインダおよび溶媒を添加して湿式混合して成ること、を特徴とする、誘電体セラミックスラリーである。
【0017】
本発明では、第1高分子からなるバインダは、第1高分子の分子量が相対的に小さいため、分散過程での凝集を緩和する。従って、セラミックスラリー中の凝集物が低減し、各種セラミック成分の分散が促進される。一方、相対的に大きい分子量を有する第2高分子からなるバインダは、誘電体セラミックスラリーを用いて成形された誘電体セラミックグリーンシートの強度を担保する。
【0018】
また、本発明は、前述の誘電体セラミックスラリーを用いて成形された誘電体セラミックグリーンシートと、
誘電体セラミックグリーンシートの表面に設けられた内部電極と、
内部電極を設けた誘電体セラミックグリーンシートを積層して構成した矩形体状の積層体と、
積層体の表面に設けられ、かつ、積層体の側面に導出した前記内部電極の引出し部に電気的に接続している外部電極と、
を備えたことを特徴とする、積層セラミック電子部品である。
【0019】
本発明では、セラミックスラリー中の、特に副成分の分散性が向上し、粗大な凝集物ができにくくなる。従って、表面が平滑で、膜厚が均一な誘電体セラミックグリーンシートが得られ、積層セラミック電子部品内部のショート不良や絶縁抵抗劣化などの不具合が低減する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、セラミックスラリー中における、各種セラミック成分の分散性を向上させることができる。また、積層セラミック電子部品内部のショートや絶縁不良を防止できる積層セラミック電子部品が得られる。
【0021】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る誘電体セラミックスラリーの製造の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る積層セラミック電子部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る誘電体セラミックスラリーおよび積層セラミック電子部品の一実施形態を、その製造方法と共に説明する。
(誘電体セラミックスラリーの製造)
図1は、本発明に係る誘電体セラミックスラリーの製造の一実施形態を示すフローチャートである。図1におけるステップS1は、誘電体セラミックスラリーの主成分、第1副成分および第2副成分が準備される工程である。
【0024】
なお、誘電体セラミックスラリーの主成分は、チタン酸バリウム(BaTiO3)系である。ここで、BaTiO3のうち、Tiの一部は、Zr等で置換されてもよい。また、Baの一部も、SrやCa等で置換されていてもよい。
【0025】
また、第1副成分は、Si成分を含む。ここで、Si成分としてSiO2を含むゾルが用いられるのが好ましい。また、第2副成分は、Mg成分とR成分とを含む。ここで、R成分は、例えば、Y、Dy、Ho、Gdの少なくともいずれか一種を含む。また、第2副成分には、Mn成分をさらに含んでもよい。
【0026】
ここでは、例えば、主成分は、チタン酸バリウム(BaTiO3)粉末が準備され、第1副成分は、SiO2ゾルとSiO2粉末が準備され、第2副成分は、BaCO3粉末とMgCO3粉末とDy23粉末とMnCO3粉末が準備される。これらの材料は、BaTiO3粉末の100molに対し、Dy=1.0mol、Mg=1.0mol、Si=1.0mol、Mn=0.5mol、Ba/Ti=1.010になるように秤量される。ここで、SiO2ゾルは、有機溶媒中にSiO2を分散させたものである。第1副成分としてのSiO2ゾルは、試料3と試料4に用いられる。また、第1副成分としてのSiO2粉末は、試料1と試料2に用いられる。
【0027】
次に、図1におけるステップ2´およびステップ2は、第2副成分を解砕し、混合する工程である。
試料1の場合は、ステップS2´で、第2副成分が、それぞれの粉末が単独で解砕される。すなわち、第2副成分のBaCO3粉末とMgCO3粉末とDy23粉末とMnCO3粉末が、それぞれ単独で(言い換えると、予め混合することなく)解砕される。その後、ステップS3で、解砕された各第2副成分粉末が、個別に、準備された主成分および第1副成分と混合される。すなわち、解砕された各第2副成分粉末が、個別に、主成分のBaTiO3粉末および第1副成分のSiO2粉末と混合される。
【0028】
一方、試料2、試料3および試料4の場合は、ステップS2で、予め、第2副成分が、混合され、解砕される。すなわち、第2副成分のBaCO3粉末とMgCO3粉末とDy23粉末とMnCO3粉末が混合され、解砕される。その後、ステップS3で、混合され解砕された第2副成分粉末が、準備された主成分および第1副成分と混合される。すなわち、解砕された第2副成分が、主成分のBaTiO3粉末および第1副成分のSiO2ゾル(もしくは、SiO2粉末)と混合される。すなわち、上述したように、試料2の第1副成分は、SiO2粉末が用いられ、試料3および試料4の第1副成分は、SiO2ゾルが用いられている。
【0029】
次に、上述したステップにより作製された試料1〜試料4に対して、第1高分子からなるバインダと第2高分子からなるバインダが2回に分けて溶剤とともに適用される。
図1におけるステップ4は、上述したステップにより作製された試料1〜試料4に第1高分子からなるバインダおよび溶剤を添加して湿式混合する工程である。ステップS4で、試料1〜試料4は、主成分のBaTiO3粉末と第1副成分のSiO2ゾル(もしくは、SiO2粉末)と第2副成分とに、第1高分子からなるバインダ(ポリビニルブチラール系バインダ)およびエタノール等の有機溶媒が添加されて、ボールミルにより24時間湿式混合され、中間スラリーとされる。
【0030】
次に、図1におけるステップ5は、ステップ4で作製された中間スラリーに第2高分子からなるバインダおよび溶剤を添加して湿式混合する工程である。試料1〜試料4は、ステップS5で、中間スラリーに、第2高分子からなるバインダ(ポリビニルブチラール系バインダ)およびエタノール等の有機溶媒が添加されて、ボールミルにより20時間湿式混合され、最終の誘電体セラミックスラリーとされる。ここで、試料1〜試料3は、第1高分子の分子量が、第2高分子の分子量と等しい。一方、試料4は、第1高分子の分子量が、第2高分子の分子量より小さい。
【0031】
こうして、誘電体セラミックスラリーが得られる。表1は、試料1〜試料4の誘電体セラミックスラリーの詳細を示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(誘電体セラミックグリーンシートの製造および評価)
このようにして得られた試料1〜試料4の誘電体セラミックスラリーは、それぞれドクターブレード法などの方法により、焼成後の誘電体セラミック層厚が1.0μmになるように、シート成形され、矩形の誘電体セラミックグリーンシートが得られる。
【0034】
得られた試料1〜試料4の誘電体セラミックグリーンシートの品質評価のため、シート光沢度と、シート表面粗さの平均値Raとが、走査型プローブ顕微鏡で測定された。また、誘電体セラミックスラリーの分散性評価のため、D99(μm)が測定された。D99とは、粒子径分布において粒子径の小さい方から累積して99質量%になる点における粒子径をいう。また、誘電体セラミックグリーンシートの添加物成分の分散性評価のため、波長分散型X線分析装置を用いて、シート表面のWDX分析が行われた。WDX分析の分散性の指標として、偏差比が用いられる。偏差比は、以下の関係式で表される。
偏差比=理論標準偏差/測定標準偏差
【0035】
ここで、均一に分布している添加物は、理論標準偏差(平均強度の平方根)を持つ度数分布を示し、測定データが理論標準偏差に近いほど分散性が良いといえる。従って、上記の式で定義される偏差比は1.0に近いほど分散性が良いといえる。評価結果を、表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から判るように、試料1および試料2のセラミックグリーンシートは、セラミックスラリーの第1副成分のSiO2が粉末状態であったため、試料3および試料4のセラミックグリーンシートと比較して、セラミックスラリー中でのセラミック成分の分散性が悪くなり、凝集物がセラミックグリーンシートの品質を悪化させている。一方、試料3および試料4のセラミックグリーンシートは、セラミックスラリーの第1副成分のSiO2が粉末状態ではなく、ゾル状態であるため、セラミックスラリー中の第1副成分の凝集が緩和され、セラミックスラリー製造時の分散性が向上する。すなわち、セラミックスラリー中の、特に副成分の分散性が向上し、粗大な凝集物ができにくくなり、セラミックグリーンシートの品質が向上する。
【0038】
(積層セラミック電子部品の製造および評価)
次に、本発明に係る積層セラミック電子部品の一実施形態について説明する。図2は積層セラミック電子部品10の断面図である。
【0039】
前述のようにして得られた試料1〜試料4の誘電体セラミックグリーンシートのそれぞれの上に、例えばスクリーン印刷法などにより導電性ペーストが印刷され、内部電極22,24のパターンが形成される。
【0040】
次に、内部電極22,24をそれぞれ形成したセラミックグリーンシートが、内部電極22,24が引き出されている側が互い違いとなるように所定枚数積層され、その上下に内部電極が印刷されていない外層用セラミックグリーンシートが所定枚数積層され、マザーセラミックグリーンシート積層体が作製される。マザーセラミックグリーンシート積層体は、必要に応じて、静水圧プレスなどの手段により積層方向に圧着される。このマザーセラミックグリーンシート積層体が所定のサイズにカットされ、チップ状のセラミックグリーン積層体が得られる。
【0041】
次に、これらのチップ状のセラミックグリーン積層体が焼成され、チップ状の焼結積層体14が得られる。焼成温度は、セラミックや内部電極の材料にもよるが、900〜1300℃であることが好ましい。
【0042】
次に、内部電極22,24の引出し部22a,24aが露出している、焼結積層体14の両端面に、外部電極30,32の下地層用導電性ペーストが塗布される。下地層用導電性ペーストが乾燥された後、焼き付けが行われ、外部電極30,32の下地層が得られる。焼成温度は、700〜900℃であることが好ましい。次に、下地層の表面に、電解めっき法などによって、Niめっき層、Snめっき層が順に形成され、めっき層が得られる。こうして、外部電極30,32が形成される。
【0043】
得られた積層セラミック電子部品10は、概略、直方体形状の積層体14と、積層体14の両端部にそれぞれ形成された外部電極30,32と、を備えている。積層体14は、複数のセラミック層20と、セラミック層20の間に設けられた内部電極22,24とで構成されている。内部電極22は、積層体14の一方の端面に引き出されて外部電極30に電気的に接続されている。内部電極24は、積層体14の他方の端面に引き出されて外部電極32に電気的に接続されている。
【0044】
なお、この実施形態にかかる積層体14については、誘電体セラミックを用いるので、コンデンサとして機能する。
【0045】
内部電極22,24は、セラミック層20を挟んで対向しており、対向部分により電気特性(例えば、静電容量)が発生する。内部電極22,24の材料としては、例えば、Ni、Cu、Ag、Pd、Ag−Pd合金、Auなどが用いられる。内部電極22,24の焼成後の厚み(最も厚い部分)は、0.5〜2.0μmであることが好ましい。
【0046】
こうして得られた試料1〜試料4に基づいて作製された積層セラミック電子部品として、例えば、積層セラミックコンデンサの電気特性評価が実行された(表3を参照)。比誘電率およびショート率の測定は、温度が25℃、試験交流電圧が120Hz、0.5Vrmsの条件下で、試料1〜試料4の各積層セラミックコンデンサ500個に対して行われた。また,高温負荷寿命試験は,温度が85℃、負荷電圧が6kV/mmおよび8kV/mmの条件下で、試料1〜試料4の各積層セラミックコンデンサ100個に対して行われた。そして、1000時間経過および2000時間経過するまでに、絶縁抵抗値が200kΩ以下になった積層セラミックコンデンサが不良と判定された。
【0047】
【表3】

【0048】
表3から判るように、試料1および試料2の積層セラミックコンデンサは、セラミックスラリーの第1副成分のSiO2が粉末状態であるため、セラミックスラリー中でのセラミック成分の分散性が悪く、凝集物がセラミックグリーンシートの品質を悪化させ、その結果、ショート率の増加および高温負荷寿命試験で見積もられる信頼性の低下が認められる。一方、試料3および試料4の積層セラミックコンデンサは、セラミックスラリーの第1副成分のSiO2が粉末状態ではなく、ゾル状態であるため、セラミックスラリー中でのセラミック成分の分散性が向上し、セラミックグリーンシートの品質が向上する。その結果、ショート率の低減および高温負荷寿命試験で見積もられる信頼性の向上が認められる。
【0049】
また、試料1の積層セラミックコンデンサは、セラミックスラリーを製造する際に、第2副成分であるBaCO3粉末とMgCO3粉末とDy23粉末とMnCO3粉末が、それぞれ単独で(混合することなく)解砕され、その後、解砕した第2副成分粉末が個別に、主成分のBaTiO3粉末および第1副成分のSiO2粉末に混合される。従って、その後、バインダおよび溶媒が添加された場合、第2副成分の分散性が悪い。これに対して、試料2(または試料3、試料4)の積層セラミックコンデンサは、第2副成分であるBaCO3粉末とMgCO3粉末とDy23粉末とMnCO3粉末が混合された後に解砕され、混合され解砕された第2副成分が、主成分のBaTiO3粉末および第1副成分のSiO2粉末(またはSiO2ゾル)に混合される。従って、その後、バインダおよび溶媒が添加された場合、第2副成分の分散性が向上し、セラミックグリーンシートの品質が向上する。その結果、ショート率の低減および高温負荷寿命試験で見積もられる信頼性の向上が認められる。
【0050】
また、試料4の積層セラミックコンデンサは、試料3の積層セラミックコンデンサに対して、セラミックスラリーを製造する際に、図1のステップS4の工程で添加する第1高分子のバインダの分子量が、ステップS5の工程で添加する第2高分子のバインダの分子量より相対的に低い。従って、ステップS4の第1高分子からなるバインダは、第1高分子の分子量が相対的に小さいため、分散過程での凝集を、より一層緩和する。従って、セラミックスラリー中の凝集物が低減し、各種セラミック成分の分散が促進される。一方、ステップS5の相対的に大きい分子量を有する第2高分子からなるバインダは、誘電体セラミックスラリーを用いて成形された誘電体セラミックグリーンシートの強度を担保する。これにより、セラミックグリーンシートの品質が向上し、その結果、ショート率の低減が認められる。
【0051】
なお、この発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形される。特に、誘電体セラミックスラリーの分散や誘電体セラミックグリーンシートの成形は、前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記誘電体セラミックスラリーの製造においては、図1のステップS3の主成分、第1副成分および第2副成分を混合する工程と、ステップS4の第1高分子のバインダおよび溶剤を添加して湿式混合する工程と、が一括して1つの工程とされてもよい。すなわち、主成分、第1副成分および第2副成分が混合された後、第1高分子のバインダおよび溶剤が添加されるのではなく、第1高分子のバインダおよび溶剤の中に、主成分、第1副成分および第2副成分が個別に添加されてもよい。
【0052】
また、本発明にかかる実施形態における積層体は、誘電体セラミックを用いるので、コンデンサとして機能しているが、これに限られるものではなく、圧電体セラミックを用いた場合は圧電部品として機能し、半導体セラミックを用いた場合はサーミスタとして機能し、磁性体セラミックを用いた場合は、インダクタとして機能する。また、インダクタとして機能する場合は、内部電極は、コイル状の導体となる。
【符号の説明】
【0053】
10 積層セラミック電子部品
14 積層体
20 セラミック層
22,24 内部電極
30,32 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分と副成分とを有する誘電体セラミック成分を、バインダおよび溶媒中に混合分散させて成る誘電体セラミックスラリーであって、
粉末状態の前記主成分と、ゾル状態の第1副成分と、粉末状態の第2副成分とを、前記バインダおよび前記溶媒に添加して湿式混合して成ること、
を特徴とする、誘電体セラミックスラリー。
【請求項2】
前記主成分はチタン酸バリウム系であること、を特徴とする、請求項1に記載の誘電体セラミックスラリー。
【請求項3】
前記第1副成分はSi成分であり、前記Si成分としてSiO2を含むゾルを用いること、を特徴とする、請求項1または請求項2に記載の誘電体セラミックスラリー。
【請求項4】
前記第2副成分はMg成分とR成分とを含むこと、を特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の誘電体セラミックスラリー。
【請求項5】
前記第2副成分はさらにMn成分を含むこと、を特徴とする、請求項4に記載の誘電体セラミックスラリー。
【請求項6】
予め混合して解砕した前記第2副成分を、前記主成分と前記第1副成分と共に、前記バインダおよび前記溶媒に添加して湿式混合して成ること、を特徴とする、請求項4または請求項5に記載の誘電体セラミックスラリー。
【請求項7】
前記主成分と前記第1副成分と前記第2副成分とを、相対的に小さい分子量を有する第1高分子からなるバインダおよび前記溶媒に添加して湿式混合して成る中間スラリーに、相対的に大きい分子量を有する第2高分子からなるバインダおよび前記溶媒を添加して湿式混合して成ること、を特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の誘電体セラミックスラリー。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の誘電体セラミックスラリーを用いて成形された誘電体セラミックグリーンシートと、
前記誘電体セラミックグリーンシートの表面に設けられた内部電極と、
前記内部電極を設けた前記誘電体セラミックグリーンシートを積層して構成した矩形体状の積層体と、
前記積層体の表面に設けられ、かつ、前記積層体の側面に導出した前記内部電極の引出し部に電気的に接続している外部電極と、
を備えたことを特徴とする、積層セラミック電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−209307(P2012−209307A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71794(P2011−71794)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】