説明

誘電体セラミック組成物および積層セラミックコンデンサ

【課題】 積層セラミックコンデンサを更に小型化、大容量化しても、高周波交流高電圧下あるいは直流高電圧下での使用における発熱が小さく、また高温における絶縁抵抗率が高く、しかも誘電率も従来と比較して劣ることがない誘電体セラミック組成物、及びそれを用いた積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】 一般式:(Ba1-xCaxmTiO3−t(Ba1-xCaxmZrO3(ただし、0≦x≦0.20、0.99≦m≦1.05、0.2<t≦0.4)で表される化合物を主成分とし、前記主成分における(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対し、Mnを0.5〜3.5モル部、Re(ReはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素)を3〜12モル部、Mgを1〜7モル部含み、かつ、前記主成分における(Ba1-xCaxmTiO3100重量部に対し、SiO2を0.8〜5重量部含み、さらに、Srを実質的に含有しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミック組成物および積層セラミックコンデンサに関し、さらに詳しくは、直流高電圧下、あるいは高周波の交流高電圧下での使用に対して高い信頼性を有する誘電体セラミック組成物及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層セラミックコンデンサは、低周波の交流低電圧下あるいは直流低電圧下で使用されることが多かった。しかし、エレクトロニクスの発展に伴い、近年、電子部品の小型化が急速に進行し、積層セラミックコンデンサも小型化、大容量化が推し進められている。そのため、セラミックコンデンサの1組の対向電極間に印加される電界は相対的に高くなる傾向にあり、このような条件下で、大容量化、低損失化、絶縁性の向上および信頼性の向上が強く求められている。
【0003】
そこで、たとえば特許文献1において、高周波・高電圧の交流高電圧下、あるいは直流高電圧下での使用に耐えうる誘電体セラミック組成物及び積層セラミックコンデンサが提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の耐還元性誘電体セラミックは、一般式ABO3+aR+bMで表され(ABO3はチタン酸バリウム固溶体を表す一般式、RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1種の酸化物、MはMn、Ni、Mg、Fe、Al、CrおよびZnから選ばれる少なくとも1種の酸化物)、A/B(モル比)、aおよびbが、1.000<A/B≦1.035、0.005≦a≦0.12、0.005≦b≦0.12の範囲にある主成分100重量部に対して、0.2〜4.0重量部の焼結助剤を含有するものである。この誘電体セラミック組成物は、さらにX(Zr、Hf)O3(XはBa、SrおよびCaから選ばれる少なくとも1種)をチタン酸バリウム固溶体1モル部に対して0.20モル部以下および/またはD(DはV、Nb、Ta、Mo、W、Y、Sc、P、AlおよびFeから選ばれる少なくとも1種の酸化物)をチタン酸バリウム固溶体1モルに対して0.20モル部以下を含んでもよい。また、この誘電体セラミック組成物は−25℃以上の温度領域においてX線回折により求められる結晶軸比c/aが1.000≦c/a≦1.003であり、かつ周波数1kHzで2Vrms/mm以下の交流電界印加時における比誘電率の温度変化に対する極大値が−25℃未満にあるものであって、高周波および/または高電圧の交流高電圧下にて低損失、低発熱であり、交流または直流電圧負荷で安定した絶縁抵抗を示す。
【特許文献1】特開2002−50536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において提案されている誘電体セラミック組成物は、高周波の交流高電圧下、あるいは直流高電圧下における信頼性に優れている。
【0006】
しかしながら、積層セラミックコンデンサの更なる小型化、大容量化の要求は今後も強くなり、従来にも増して使用時印加電界の高周波化・高電界化が益々進むことが予想される。したがって、このような使用条件での特性および信頼性を向上させることが喫緊の課題となっている。
【0007】
また、特に積層セラミックコンデンサの保証上限温度が高くなる要求が従来にも増して強くなり、特許文献1に記載の誘電体セラミック組成物では、150℃における絶縁抵抗率ρが不十分であり、これを向上させることも重要な課題となっている。
【0008】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、今後小型化、大容量化が更に進行しても、高周波の交流高電圧下、あるいは直流高電圧下での使用における発熱が小さく、また高温における絶縁抵抗率ρが高く、しかも誘電率も従来と比較して劣ることのない誘電体セラミック組成物、およびそれを用いた積層セラミックコンデンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の誘電体セラミック組成物は、一般式:(Ba1-xCaxmTiO3−t(Ba1-xCaxmZrO3(ただし、0≦x≦0.20、0.99≦m≦1.05、0.2<t≦0.4)で表される化合物を主成分とし、前記主成分における(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対し、Mnを0.5〜3.5モル部、Re(ReはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素)を3〜12モル部、Mgを1〜7モル部含み、かつ、前記主成分における(Ba1-xCaxmTiO3100重量部に対し、SiO2を0.8〜5重量部含み、さらに、Srを実質的に含有しないことを特徴とする。
【0010】
この発明は、さらに、上述のような誘電体セラミック組成物を用いて構成される積層セラミックコンデンサにも向けられる。
【0011】
本発明の積層セラミックコンデンサは、積層された複数の誘電体セラミック層と、前記誘電体セラミック層間に配置された内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された外部電極とを備えるものであって、前記誘電体セラミック層が本発明の誘電体セラミック組成物によって形成されてなることを特徴とする。
【0012】
前記積層セラミックコンデンサは、その内部電極が、Ni若しくはその合金、またはCu若しくはその合金を主成分とする導電性材料によって形成されることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の誘電体セラミック組成物によれば、今後、小型化、大容量化が更に進行しても、直流高電圧下、あるいは高周波の交流高電圧下での使用における発熱が小さく、また高温における絶縁抵抗率が高く、しかも誘電率も従来と比較して劣ることのない積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
まず、本発明の誘電体セラミックの主要な用途である、積層セラミックコンデンサについて説明する。図1は一般的な積層セラミックコンデンサ1を示す断面図である。
【0015】
積層セラミックコンデンサ1は、直方体状のセラミック積層体2を備えている。セラミック積層体2は、複数の積層された誘電体セラミック層3と、複数の誘電体セラミック層3間の界面に沿って形成された複数の内部電極4および5とを備えている。内部電極4および5は、セラミック積層体2の外表面にまで到達するように形成されるが、セラミック積層体2の一方の端面6にまで引き出される内部電極4と他方の端面7にまで引き出される内部電極5とが、セラミック積層体2の内部において、誘電体セラミック層3を介して静電容量を取得できるように交互に配置されている。
【0016】
内部電極4および5の導電材料は、低コストである卑金属材料、すなわちニッケルもしくはニッケル合金、銅もしくは銅合金であることが好ましい。
【0017】
前述した静電容量を取り出すため、セラミック積層体2の外表面上であって、端面6および7上には、内部電極4および5のいずれか特定のものに電気的に接続されるように、外部電極8および9がそれぞれ形成されている。外部電極8および9に含まれる導電材料としては、内部電極4および5の場合と同じ導電材料を用いることができ、さらに、銀もしくは銀合金なども用いることができる。外部電極8および9は、このような金属粉末にガラスフリットを添加して得られた導電性ペーストを付与し、焼き付けることによって形成される。
【0018】
また、外部電極8および9上には、必要に応じて、ニッケル、銅などからなる第1のめっき層10および11がそれぞれ形成され、さらにその上には、半田、錫などからなる第2のめっき層12および13がそれぞれ形成される。
【0019】
次に、本発明の誘電体セラミック組成物の組成について説明する。
【0020】
本発明の誘電体セラミック組成物は、その主成分が、一般式:(Ba1-xCaxmTiO3−t(Ba1-xCaxmZrO3(ただし、0≦x≦0.20、0.99≦m≦1.05、0.2<t≦0.4)で表される。この一般式で表される化合物は、主としてペロブスカイト構造からなる固溶体となっている。すなわち、同一セラミック粒子内のTiサイトにおいて、TiとZrがTi1モル部に対しZrがtモル部になるよう、ほぼ均一に混在している状態である。ただし、本発明の目的を損なわない範囲において、(Ba1-xCaxmTiO3からなるセラミック粒子と(Ba1-xCaxmZrO3からなるセラミック粒子とが、一部混在している状態になっていてもよい。
【0021】
また、本発明の誘電体セラミック組成物は、副成分として、(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対し、Mnを0.5〜3.5モル部、Re(ReはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素)を3〜12モル部、Mgを1〜7モル部含有する。さらに、(Ba1-xCaxmTiO3100重量部に対し、SiO2を0.8〜5重量部含む。
【0022】
これらの副成分の存在位置は特に限定されない。すなわち、粒界に存在してもよいし、主成分の固溶体に固溶していてもよい。粒界に存在する場合は、主として酸化物の形態にて存在している。
【0023】
さらに、本発明の誘電体セラミック組成物は、Srを実質的に含有しない。実質的に含有しないとは、不可避的な不純物として混入する程度においては含有してもよいということを示す。具体的には、Srの含有量が主成分100モル部に対し、1モル部未満であることが好ましい。本発明の誘電体セラミックにおいて、Srの含有量が(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対して1モル部以上となると、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ωm未満となる。なお、このSrは、その存在位置に関わらずρを低下させる作用がある。
【0024】
以上より、本願発明の誘電体セラミックは、主成分におけるTiに対するZrの含有比が多いことが1つの特徴である。このZrとMgが共存することが、高温においても高い絶縁抵抗率を維持するよう作用するものと考えられる。
【0025】
なお、このMgの作用は、粒界においてCaOの成分があると阻害されるため、CaOは存在しないほうが望ましい。仮にCaOの含有量が(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対して1モル部以上となると、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ωm未満となる。ただし、主成分のBaサイトに置換されているCaは、上記の阻害作用に関与しない。
【0026】
次いで、本発明の誘電体セラミック組成物において、その組成範囲の限定理由について説明する。
【0027】
上記誘電体セラミック組成物の主成分における、BaサイトのTiサイトに対するモル比mは、0.99≦m≦1.05を満足する。mが0.99未満だと150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低い。また、mが1.05を超えると高温負荷試験(170℃、直流電界強度40kV/mm)における平均故障時間(MTTF)が100時間未満と短い。
【0028】
主成分のBaサイトにおけるCa含有比xは、モル比で0≦x≦0.2を満足する。xが0.20を超えると誘電率εが300未満と低くなる。
【0029】
(Ba,Ca)TiO31モル部に対する(Ba,Ca)ZrO3のモル比tは、0.2<t≦0.4を満足する。tが0.2以下の場合、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低い。またtが0.4を超える場合、誘電率εが300未満と低い。
【0030】
(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対するMnの含有量aは、モル比で0.5≦a≦3.5を満足する。aが0.5未満となると、高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満と短い。また、aが3.5を超えると150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低くなる。
【0031】
(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対するMgの含有量bは、モル比で1≦b≦7を満足する。bが1未満となると、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低い。また、bが7を超えると、誘電率が300未満と低くなり、かつ高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満と短くなる。
【0032】
(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対するReの含有量cは、モル比で3≦c≦12を満足する。cが3未満となると、高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満と短くなる。また、cが12を超えると、誘電率が300未満と低くなり、絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低く、高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満と短くなる。また、このReは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素からなる場合と、2種以上の元素を適宜選択し組み合わして構成された複合物からなる場合とがあり、いずれであってもよい。
【0033】
また、本発明の誘電体セラミック組成物は、上述の(Ba1-xCaxmTiO3100重量部に対して0.8≦d≦5.0を満たす重量部のSiO2を含有している。dが0.8未満になると安定した焼結が難しくなり、また、dが5.0を超えると150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低く、高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満と短くなる。なお、このSiO2は焼結助剤として作用するため、主として粒界にガラス成分として存在する。
【0034】
また、本発明の誘電体セラミック組成物は、さらにNiおよびZnから選ばれる少なくとも1種を含むのも好ましい。これらの元素の存在により、150℃における絶縁抵抗率ρがさらに向上する。(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対する含有量は、Ni、Zn、およびMgの合計量eが7モル部以下であることが望ましい。Ni、Zn、およびMgの合計で7モル部を超えると、誘電率εが300未満と低くなる。
【0035】
なお、本願の主成分におけるZr成分は、その一部をHfで置換されていてもよい。本発明の誘電体セラミック組成物におけるHfの作用はZrと殆ど同等であるためである。
【0036】
次に、本発明の誘電体セラミック組成物の製造方法について説明する。
【0037】
上記誘電体セラミック組成物の主成分粉末の製造方法は、前記組成式で表されるセラミック組成物を実現することができる方法であれば、特に制限されない。例えば、出発原料の混合物を仮焼し、固相反応させる乾式合成法を用いることができる。また、水熱合成法、加水分解法あるいはゾルゲル法等の湿式合成法を用いることができる。なお、(Ba1-xCaxmTiO3粉末と(Ba1-xCaxmZrO3粉末を別個に用意し、これを混合させたものを主成分原料粉末としてもよいし、Ba、Ca、Ti、Zrの出発原料を同時に混合し、これを合成したものを主成分原料粉末としてもよい。なお、これらの出発原料は酸化物、炭酸化物などが一般的であるが、本発明に係る誘電体セラミック組成物を構成することができるものであれば、これらに制限されるものではない。
【0038】
また、副成分であるRe、Mn、Mg、Ni、ZnおよびSiO2の出発原料には、主として酸化物粉末が用いられるが、本発明に係る誘電体セラミック組成物を構成することができるものであれば、特に酸化物粉末に制限されるものではない。例えば、出発原料として炭酸化物の粉末、さらにはアルコキシドや有機金属等の溶液を用いてもよい。
【0039】
上述のような主成分原料粉末に副成分を添加、混合し、これをセラミック原料粉末とすることができる。また、本発明の目的を損なわない限り、副成分の出発原料を主成分原料粉末の出発原料と同時に混合しても構わない。
【0040】
以上のようにして用意したセラミック原料粉末を用いて、通常行われるセラミック積層コンデンサの製造方法と同様の方法にて、前述の図1に示すような積層セラミックコンデンサ1を作製することができる。すなわち、セラミック原料粉末を溶媒中にバインダーと共に混合分散させてこれをスラリーとし、このスラリーをドクターブレード法等の方法によってシート成形し、セラミックグリーンシートを得る。このセラミックグリーンシートに内部電極の成分を含むペーストを塗布し、これを積み重ね、圧着することによって、生の積層体を得る。この生の積層体を焼成することにより、セラミック積層体2を得る。その後、前述したように、外部電極ペーストを塗布し、焼き付けし、その上に必要に応じてめっき膜を形成することにより、外部電極を形成する。以上のようにして、積層セラミックコンデンサ1を得る。
【0041】
以上より、本発明の誘電体セラミック組成物を用いた積層セラミックコンデンサは、誘電率が300以上であり、150℃における絶縁抵抗率は109Ωm以上であり、高周波の交流高電圧印加時(300kHzにて10kVp-p/mm)における誘電損失が0.5%以下であり、高温負荷試験(170℃、直流電界強度40kV/mm)における平均故障時間が100時間以上と信頼性が高い。
【実施例】
【0042】
[実施例1]この実施例において、前記図1に示すような積層セラミックコンデンサ1を作製した。
【0043】
まず、主成分である(Ba1-xCaxmTiO3および(Ba1-xCaxmZrO3の出発原料として、高純度のBaCO3、CaCO3、TiO2およびZrO2の各粉末を準備し、以下の表1に示すCa変性量x、および(Ba,Ca)のTiに対するモル比mが得られるように、それぞれ前記の各出発原料粉末を調合した。
【0044】
この調合粉末をボールミルを用いて湿式混合し、均一に分散させた後、乾燥処理を施して調整粉末を得た。
【0045】
得られた調整粉末を1000℃以上の温度で仮焼し、表1のx及びmを満足する(Ba1-xCaxmTiO3粉末、および(Ba1-xCaxmZrO3粉末を得た。
【0046】
また、この(Ba1-xCaxmTiO3粉末および(Ba1-xCaxmZrO3粉末を、表1のtを満たす比になるよう調合した。同時に、副成分の出発原料として、MnCO3、MgCO3、NiO、ZnO、SiO2、Y23、La23、CeO2、Pr511、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb23、Dy23、Ho23、Er23、Tm23、Yb23およびLu23の各粉末を準備し、表1に示すa、b、c、d及びeで表される組成が得られるように調合した。
【0047】
次に、この調合粉末をボールミルを用いて湿式混合し、均一に分散させた後、乾燥処理を施して、誘電体セラミック組成物のセラミック原料粉末を得た。
【0048】
次いで、前記セラミック原料粉末にポリビニルブチラール系バインダおよびエタノールを主成分とする有機溶剤を加えて、ボールミルにより湿式混合し、セラミックスラリーを調製した。
【0049】
前記セラミックスラリーをドクターブレード法によりシート成形し、厚み14μmのセラミックグリーンシートを得た後、このセラミックグリーンシート上にNiを主成分とする導電性ペーストをスクリーン印刷法によって印刷し、内部電極を構成するための導電性ペースト膜を形成した。
【0050】
次いで、セラミックグリーンシートを、図1に示すように導電性ペースト膜の引き出されている側が互い違いになるように複数枚積層し、焼成前の積層体を得た。この焼成前の積層体を、窒素ガス雰囲気で、350℃の温度に加熱してバインダを燃焼させた後、酸素分圧10-9〜10-12MPaのH2−N2−H2O混合ガスからなる還元雰囲気中において前記焼成前の積層体を表2に示す温度で2時間焼成し、セラミック積層体2を得た。
【0051】
一方、B23−SiO2−BaO系ガラスフリットを含有するAgペーストを準備し、前記積層体の前記内部電極8、9が露出している両端面に塗布した。次いで、N2雰囲気中において600℃の温度で前記Agペーストを焼き付け、第1、第2の内部電極8、9と電気的に接続された第1、第2の外部電極4、5を積層体3の両端面に形成した後、第1、第2の外部電極4、5の表面にめっき処理を2段階で施して第1めっき層6、7、第2めっき層10、11を形成して積層セラミックコンデンサ1を得た。
【0052】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサ1の外形寸法は、幅3.2mm、長さ4.5mm、厚さが0.5mmであり、隣り合う内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みが10μmであった。また、静電容量を得るうえで有効となる誘電体セラミック層の総数は5層であり、1層あたりの対向電極の面積は2.5×10-62であった。以上のようにして得られた試料No.1〜65の積層セラミックコンデンサについて次に示す電気的特性を評価し、その結果を表2に示した。
【0053】
尚、表1及び表2において、*印を付した試料は本発明外のものである。またRe元素の種類が2種以上の場合は、その元素名と含有モル比の内訳を記した。同様に、NiおよびZnを同時に含む場合は、その含有量の内訳を記した。
【0054】
次に、積層セラミックコンデンサの電気的特性の評価方法及び評価結果を示す。
A)誘電率(ε)及び誘電損失(tanδ)
表1の試料について、自動ブリッジ式測定器を用い、1kHzで50Vrms/mmの信号電圧を印加してそれぞれの静電容量(C)および誘電損失(tanδ)を測定し、得られた静電容量の測定値と各積層セラミックコンデンサの構造に基づいて誘電率(ε)をそれぞれ算出し、その結果を表2に示した。
B)150℃における絶縁抵抗率(ρ)
表1の試料について、絶縁抵抗計を用い、各試料それぞれに300Vの直流電圧を1分間印加して150℃で絶縁抵抗値を求め、絶縁抵抗率(ρ)を算出し、その結果を下記表2に示した。
C)平均故障時間(MTTF)
表1の試料の高温負荷試験として、温度170℃にて直流電圧400Vを各試料にそれぞれ印加して、それぞれの絶縁抵抗の経時変化を測定した。この際、高温負荷試験は、各試料の絶縁抵抗値が106Ω以下となったとき故障と判定し、それぞれの平均故障時間を求め、その結果を表2に示した。
D)高周波交流高電圧印加時の誘電損失(tanδ)
表1の試料について、高周波印加時の発熱を評価するため、300kHzで10kVp-p/mmの信号電圧を印加して誘電損失(tanδ)測定し、その結果を表2に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
試料番号1の試料は、BaサイトのTiサイトに対するモル比mが0.990未満であるため、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低く、かつ高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満であった。また、試料番号7の試料は、mが1.050を超えるため、高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満であり、かつ300kHzの交流電界下におけるtanδが0.5%より大きかった。
【0058】
試料番号13の試料は、BaサイトにおけるCaの含有モル比xが0.20を超えるため、誘電率εが300未満と低く、かつ高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満であり、かつ300kHzの交流電界下におけるtanδが0.5%より大きかった。
【0059】
試料番号14の試料は、Mnを含有していないため、150℃における絶縁抵抗率ρが非常に低く、静電容量等の特性を測定することができなかった。試料番号15の試料は、(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対するMnのモル部aが0.5未満であるため、高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満であった。また、試料番号19の試料は、aが3.5を超えるため、150℃における絶縁抵抗率ρが非常に低く、静電容量等の特性を測定することができなかった。
【0060】
試料番号20の試料は、(Ba,Ca)TiO3に対する(Ba,Ca)ZrO3のモル比tが0.20以下であるため、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低く、かつ高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満であった。また、試料番号25の試料は、tが0.40を超えるため、誘電率εが300未満と低く、かつ高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満であった。
【0061】
試料番号26の試料は、(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対するReのモル部cが3未満であるため、高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満であった。また、試料番号31の試料は、cが12を超えるため、誘電率εが300未満と低く、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低く、かつ高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満であった。
【0062】
試料番号32の試料は、(Ba1-xCaxmTiO3100重量部に対するSiの重量部dが0.8未満であるため、焼成温度を1300℃にしても十分に焼結しなかった。また、試料番号37の試料は、dが5を超えるため、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低く、かつ高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満であった。
【0063】
試料番号55の試料は、(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対するMgのモル部bが1未満であるため、150℃における絶縁抵抗率ρが非常に低く、静電容量等の特性を測定することができなかった。また、試料番号59の試料は、bが7を超えるため、誘電率εが300未満と低く、かつ高温負荷試験におけるMTTFが100時間未満であった。
【0064】
試料番号63の試料は、(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対するNi、Zn、およびMgの合計のモル部eが7モル部を超えるため、誘電率が300未満と低くなった。
【0065】
試料番号64の試料は、不純物としてSrが(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対し1モル部含有されているため、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低く、かつ300kHzの交流電界下におけるtanδが0.5%より大きかった。
【0066】
試料番号65の試料は、(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対しCaOが1モル部含有されているため、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m未満と低く、かつ300kHzの交流電界下におけるtanδが0.5%より大きかった。
【0067】
その他の本発明の範囲内である試料は、誘電率εが300以上であり、150℃における絶縁抵抗率ρが109Ω・m以上であり、高温負荷試験におけるMTTFが100時間以上であり、300kHzの交流電界下におけるtanδが0.5%以下であった。
【0068】
なお、本発明は上記実施例に何等制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の積層セラミックコンデンサの一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体セラミック層
3 積層体
4、5 第1,2の外部電極
6、7 第1めっき層
8、9 第1,2の内部電極
10、11 第2めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:(Ba1-xCaxmTiO3−t(Ba1-xCaxmZrO3(ただし、0≦x≦0.20、0.99≦m≦1.05、0.2<t≦0.4)で表される化合物を主成分とし、
前記主成分における(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対し、Mnを0.5〜3.5モル部、Re(ReはY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1種の元素)を3〜12モル部、Mgを1〜7モル部含み、
かつ、前記主成分における(Ba1-xCaxmTiO3100重量部に対し、SiO2を0.8〜5重量部含み、
さらに、Srを実質的に含有しない、誘電体セラミック組成物。
【請求項2】
NiおよびZnのうち少なくとも1種を含み、前記主成分における(Ba1-xCaxmTiO3100モル部に対するNi、Znおよび前記Mgの合計の含有量が7モル部以下である、請求項1に記載の誘電体セラミック組成物。
【請求項3】
複数の積層された誘電体セラミック層と、複数の前記誘電体セラミック層間の界面に沿って形成された内部電極とを含む、積層体を備える、積層セラミックコンデンサであって、
前記誘電体セラミック層が、請求項1または2に記載の誘電体セラミックからなることを特徴とする、積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記内部電極が、Ni若しくはNi合金、またはCu若しくはCu合金を主成分とする導電性材料によって形成されてなる、請求項3に記載の積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−321670(P2006−321670A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144565(P2005−144565)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】