説明

誘電体層を含有する低放射ガラスおよびその製造方法

本発明は、電気伝導性金属を含有する低放射層と、前記低放射層の片面または両面に形成され、一般式1:TiCeOxで表される複合金属酸化物を含む誘電体層と、を備える低放射ガラスに関する。本発明によれば、低放射ガラスの低放射層を保護して放射率を下げる役割を果たす誘電体層が、上述したように、一般式1で表される複合金属酸化物を含有することから、優れた低放射率を維持した状態で、可視光透過率を一層効率よく上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体層を含有する低放射ガラスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低放射ガラス(Low emissivity glass;Low−eglass)は、電気伝導性を有する銀(Ag)などの金属をスパッタ蒸着して低い放射率を有するように形成されたガラスであり、ガラスの表面に特殊膜をコーティングして、夏場には太陽輻射熱を反射させ、冬場には室内暖房機で発生する赤外線を保存することにより、建築物のエネルギー節減効果をもたらす機能性ガラスのことをいう。
【0003】
従来から、上記の低放射ガラスを製造する方法としては、主としてチャンバー内に所定量の酸素を注入して酸素雰囲気を造成し、金属物質をターゲット原料として、低放射層の上に誘電体層を蒸着する方法が用いられている。
【0004】
前記誘電体層は、一般に、金属酸化物からなる誘電体薄膜を低放射層の片面または両面に蒸着して形成され、これにより、低放射層に含有されている銀の酸化を防ぎ、且つ、可視光透過率を増大させるために主として用いられている。
【0005】
従来、前記誘電体層を構成する金属酸化物として、主として酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化スズおよび酸化亜鉛の複合金属酸化物などが用いられていたが、上述の金属酸化物からなる誘電体層は、相対的に屈折率が低くて高い可視光透過率が求められる分野においてその活用が制限される、又はスパッタリング蒸着時における蒸着速度が低くて生産性が低下するという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来の技術における問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、特定の誘電体層を含有することで、低放射率を維持しつつも可視光透過率をなお一層向上させることができ、しかも、蒸着速度を大幅に増大させることで量産に適した低放射ガラス、およびその製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解消するための手段として、電気伝導性金属を含有する低放射層と、前記低放射層の片面または両面に形成され、一般式1:TiCeOx[式中、Tiはチタン成分であり、Ceはセリウム成分であり、Oxは酸化物である。]で表される複合金属酸化物を含む誘電体層と、を備える低放射ガラスを提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解消するための他の手段として、電気伝導性金属を含有する低放射層の片面または両面に、上記の一般式1で表される複合金属酸化物をターゲット原料として誘電体層を蒸着するステップを含む、本発明による低放射ガラスの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態による低放射ガラスの多層薄膜構造を概略的に示す概略図である。
【図2】本発明の実施例1による低放射ガラスおよび比較例1による低放射ガラスの蒸着時間による厚さの変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1による低放射ガラスの誘電体層および比較例1による低放射ガラスの誘電体層に対する波長領域別の屈折率変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1による低放射ガラスおよび比較例1による低放射ガラスの波長領域別の可視光透過率を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、電気伝導性金属を含有する低放射層と、前記低放射層の片面または両面に形成され、一般式1:TiCeOx[式中、Tiはチタン成分であり、Ceはセリウム成分であり、Oxは酸化物である。]で表される複合金属酸化物を含む誘電体層と、を備える低放射ガラスに関する。
【0011】
以下、本発明による低放射ガラスを詳述する。
【0012】
上述のように、本発明による低放射ガラスは、電気伝導性金属を含有する低放射層と、前記低放射層の片面または両面に形成され、前記一般式1で表される複合金属酸化物と、を備える。
【0013】
本発明において、『低放射ガラス』とは、省エネ型板ガラスの一種であり、低い放射率を有するLow−Eガラス(low emissivity glass)を意味する。すなわち、低放射ガラスは、一般の板ガラスの上に電気伝導性に優れた金属または金属酸化物薄膜を形成することにより、可視光領域では所定の透過特性を維持しつつも、コーティング面の放射率を下げて優れた断熱効果を提供することができる。
【0014】
また、本発明において、『放射率(Emissivity)』とは、物体が任意の特定の波長を有するエネルギーを吸収、透過および反射する割合を意味し、赤外線波長領域にある赤外線エネルギーの吸収の度合いを示す。より具体的に、本発明における放射率は、強い熱作用を示す約2、500〜40、000nmの波長領域に相当する遠赤外線が印加されたとき、印加される赤外線エネルギーに対して吸収される赤外線エネルギーの割合を意味する。
【0015】
キルヒホッフの法則によれば、物質に吸収された赤外線エネルギーは再放出されるエネルギーと同じであるため、吸収率は放射率と同じであり、未吸収の赤外線エネルギーは物質の表面から反射されるため、赤外線エネルギー反射が高いほど放射率は低い値を有することとなる。これを数式で表すと、(放射率=1−赤外線反射率)の関係を有する。
【0016】
このような放射率は、この分野において通常知られている種々の方法によって測定することができ、その測定方法が特に制限されることはないが、例えば、KSL2514規格によるMK−3などの設備により測定することができる。
【0017】
このような強い熱作用を示す遠赤外線に対する吸収率、すなわち、放射率によって、低放射ガラスの断熱性能を測定することができる。
【0018】
本発明による低放射ガラスの放射率および可視光透過率は、特に制限されないが、例えば、放射率は0.01〜0.3であってもよく、具体的には、0.01〜0.2であってもよく、より具体的には、0.01〜0.1であってもよく、さらに具体的には、0.01〜0.08であってもよい。
【0019】
本発明による低放射ガラスの放射率が0.01未満である場合、遠赤外線の反射によって断熱効果は向上され得るものの、可視光透過率が低下する虞があり、0.3を超える場合、遠赤外線反射率が低過ぎて断熱性能が低下する虞がある。
【0020】
また、本発明による低放射ガラスの可視光透過率も、特に制限されないが、例えば、可視光透過率が75%以上であってもよく、具体的には、80%以上であってもよく、より具体的には、85%以上であってもよい。
【0021】
前記低放射ガラスの可視光透過率が75%未満である場合、快適な視野を提供することが困難になることがある。
【0022】
上述のように、本発明の低放射ガラスは、低い放射率とともに高い可視光透過率を示すものであり、優れた断熱効果とともに快適な視野を提供する機能性ガラスとして使用可能である。
【0023】
一方、本発明による低放射ガラスにおいて、低放射層は電気伝導性金属を含んでいてもよく、このように電気伝導性を有する金属を含むことにより、赤外線領域の輻射線を遮断する役割を果たす。
【0024】
前記電気伝導性金属の種類は、特に制限されないが、例えば、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、アルミニウム(Al)および白金(Pt)よりなる群から選ばれた1種以上を含んでいてもよく、電気伝導度、値段、カラーおよび低放射特性などを総合的に考慮してみたとき、具体的には銀が使用可能である。
【0025】
前記低放射層は、上記の例示のような電気伝導性金属そのものをターゲット原料として基板上に蒸着したものであってもよく、具体的には、耐久性の向上などの観点より、上述の電気伝導性金属にニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)および金(Au)よりなる群から選ばれた1種以上の元素がドープされた電気伝導性金属をターゲット原料として蒸着したものであってもよく、様々な機能性を向上させるために、他の添加物質をさらに混合した電気伝導性金属をターゲット原料として蒸着したものであってもよい。
【0026】
また、前記低放射層の厚さも、特に制限されず、本発明の目的に応じて、低い放射率および優れた可視光透過率を両立できる範囲内において種々の厚さに形成可能であるが、例えば、8〜35nmであってもよく、具体的には、8〜15nmであってもよい。
【0027】
前記低放射層の厚さが8nm未満である場合、放射率が大幅に向上して断熱効果を発揮することが困難になり、35nmを超える場合、放射率は下げられるものの、相対的に可視光透過率が大幅に減少して快適な視野を確保することが困難になることがある。
【0028】
一方、本発明による低放射ガラスは、上述の低放射層の片面または両面に一般式1:TiCeOx[式中、Tiはチタン成分であり、Ceはセリウム成分であり、Oxは酸化物である。]で表される複合金属酸化物を含有する誘電体層を備えていてもよい。
【0029】
具体的に、前記一般式1で表される複合金属酸化物は、酸化チタンに所定量の酸化セリウムを添加して得られる複合物質を意味し、この種の複合金属酸化物は、本発明による低放射ガラスに含まれる誘電体層を形成するターゲット原料として用いられて、高い屈折率を有し、しかも、酸素およびナトリウムイオンの拡散を防ぐ効果を有するだけではなく、スパッタリング蒸着時に顕著に高い蒸着速度を有することができる。
【0030】
前記複合金属酸化物に含有される成分の含量は、特に制限されないが、例えば、前記複合金属酸化物は、酸化チタン80重量部〜90重量部と、酸化セリウム10重量部〜20重量部と、を含んでいてもよい。
【0031】
誘電体層は、低放射層の酸化を防止するとともに、可視光透過率を高めるために蒸着されるが、前記誘電体層の屈折率(Refractive Index)が高いほど反射防止効果が向上される。
【0032】
ここで、前記誘電体層の屈折率は、特に制限されないが、例えば、可視光に対する屈折率が2.4〜2.8であってもよく、具体的には、550nmの波長を有する可視光に対する屈折率が2.45〜2.5であってもよい。
【0033】
ここで、屈折率の増加は、同じ物理的な厚さにおける光学厚さの増加を意味し、光学設計の自由度を増加させて可視光透過率を増加させることができる。
【0034】
上述の誘電体層は、低放射ガラス内に含有されて、低放射層の酸化防止および可視光透過率の向上を両立させるだけではなく、耐化学薬品性、耐湿性、耐摩耗性を向上させるとともに、低放射ガラスの放射率を下げる役割を果たす。
【0035】
また、本発明による低放射ガラスにおける誘電体層は、具体的に、低放射層の上面に形成される第1の誘電体層および低放射層の下面に形成される第2の誘電体層を備えていてもよい。
【0036】
前記第1の誘電体層は、低放射層の上面に形成されて、低放射層の酸化を防ぐとともに、可視光透過率を向上させる機能をし、第2の誘電体層は、基板と低放射層との間に形成されて、基板の表面汚染だけではなく、Naイオンなどによる低放射層の汚染を防ぐ役割を果たし、基板と低放射層との間の接着力および放射率を向上させる。
【0037】
前記第1の誘電体層および第2の誘電体層の厚さも、特に制限されないが、例えば、第1の誘電体層および第2の誘電体層は、それぞれ10nm〜100nmであってもよく、具体的には、30nm〜40nmであってもよい。前記誘電体層の厚さが10nm未満である場合、ガラス面が変色される虞があり、100nmを超える場合、可視光透過率が低下する虞がある。
【0038】
一方、また、本発明による低放射ガラスは、低放射層と第1の誘電体層との間に形成されたバリア層をさらに備えていてもよい。
【0039】
前記バリア層は、スパッタリング蒸着工程中に工程ガスによって低放射層に含有される電気伝導性金属が損傷されることを防ぐ役割を果たすものであり、この分野における通常の公知の金属などを用いることができ、具体的には、例えば、ニッケルおよびクロムを含有することができる。
【0040】
また、本発明による低放射ガラスは、第2の誘電体層の上面に形成されるオーバーコート層をさらに備えていてもよい。
【0041】
前記オーバーコート層は、低放射ガラスの表面を保護するとともに、耐久性を与えるためのものであり、その種類が特に制限されるものではないが、例えば、窒化ケイ素(SiN)、アルミニウム含有窒化ケイ素(SiAlN)および酸化窒化ケイ素(SiNOx)などの窒化物が使用可能である。
【0042】
さらに、本発明による低放射ガラスは、第1の誘電体層の下面に形成されるアンダーコート層をさらに備えていてもよい。
【0043】
前記アンダーコート層は、低放射ガラスの基板を保護し、且つ、耐久性を与えるためのものであり、その種類が特に制限されるものではないが、例えば、窒化ケイ素(SiN)、アルミニウム含有窒化ケイ素(SiAlN)および酸化窒化ケイ素(SiNOx)などの窒化物が使用可能である。
【0044】
上述のように、本発明による低放射ガラスは、低い放射率によって優れた断熱性能と高い可視光透過率を有するので、断熱効果および快適な視野確保が求められる建築用または自動車用のガラスなどに幅広く活用することができる。
【0045】
但し、前記本発明の低放射ガラスが前記用途にのみ限定されることはなく、高い断熱性能と快適な視野確保が求められる種々の分野のガラスに適用可能である。
【0046】
さらに、誘電体層に含有される複合金属酸化物は、従来から用いられている金属または金属酸化物に比べて、スパッタリング蒸着時における蒸着速度が顕著に高くて工程効率を向上させることができるので、量産に一層有用である。
【0047】
図1は、本発明の一例による低放射ガラスの多層薄膜構造を示す概略図である。
【0048】
図1に示すように、本発明の一例による低放射ガラス100は、基板(ガラス(Glass))110の上に、アンダーコート層(SiNxOy)120、第1の誘電体層(TiCeOx)130、低放射層(Ag)140、バリア層(NiCrOx)150、第2の誘電体層(TiCeOx)160およびオーバーコート層(SiNxOy)170がこの順に積層されている薄膜構造を有してもよい。
【0049】
但し、これは本発明の一例に過ぎず、本発明による低放射ガラスの構造が図1に示す薄膜構造に制限されることはない。
【0050】
一方、本発明はまた、電気伝導性金属を含有する低放射層の片面または両面に一般式1:TiCeOx[式中、Tiはチタン成分であり、Ceはセリウム成分であり、Oxは酸化物である。]で表される複合金属酸化物をターゲット原料として誘導体層を蒸着するステップを含む本発明による低放射ガラスの製造方法に関する。
【0051】
本発明による低放射ガラスの製造方法は、上述のように、前記一般式1で表される複合金属酸化物をターゲット原料として低放射層の上に誘電体層を蒸着するので、蒸着速度が顕著に高く、これにより、量産に一層好適に使用可能である。
【0052】
本発明における蒸着は、具体的に、スパッタリング蒸着を意味してもよく、前記蒸着時に具体的な工程条件が特に制限されることはないが、例えば、本発明による低放射ガラスの製造方法において、蒸着は、工程圧力が5×10−2Torr〜5×10−8Torrの真空条件下で行うことができる。
【0053】
本発明における真空条件とは、真空状態の雰囲気を造成する工程圧力条件を意味し、例えば、前記蒸着は、工程圧力が5×10−2Torr〜5×10−8Torrの真空条件下で行うことができる。
【0054】
前記工程圧力が5×10−2Torr未満である場合、高エネルギーを有する蒸着物質が基材に衝撃を加えることにより膜質が低下する虞があり、前記工程圧力が5×10−8Torrを超える場合、粒子の平均自由行路が減って蒸着が困難になる虞がある。
【0055】
また、前記蒸着時に注入する工程ガスは、この分野において通常用いられる様々なガスを単独でまたは2種以上混合して供給することができ、前記工程ガスの種類は、特に制限されないが、例えば、窒素ガスまたはアルゴンガスなどの不活性ガスおよび酸素ガスを含んでいてもよい。
【0056】
より具体的には、例えば、本発明による低放射ガラスの製造方法において、誘電体層を蒸着するときに注入する工程ガスは、アルゴンガスおよび酸素ガスを含むことができ、その注入量に特に制限はないが、例えば、アルゴンガス20sccm(Standard Cubic Centimeter per minute)〜40sccmおよび酸素ガス10sccm〜20sccmを注入することができる。
【0057】
さらに、前記誘電体層を蒸着する方法も特に制限がなく、この分野における公知の蒸着方法として、真空条件下で上述の複合金属酸化物をターゲット原料として低放射層の上に誘電体層を蒸着できるあらゆる方法が挙げられるが、例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、レーザービーム蒸着法、プラズマスパッタリング法などが使用可能であり、具体的には、プラズマスパッタリング法が使用可能である。
【0058】
前記プラズマスパッタリング法を用いる場合、均一な成膜を行うことができ、薄膜の凝着力が高く、金属、合金、化合物、絶縁体などの種々の材料を成膜することができるだけではなく、ターゲットが冷却可能であり、大きなターゲットを用いることができて、大型化薄膜のガラスを製造するのに用いて好適である。
【0059】
前記プラズマスパッタリング法の具体例としては、DCスパッタリング、RFスパッタリング、マグネトロンスパッタリング、反応性スパッタリングなどが使用可能である。
【0060】
一方、前記プラズマを用いたスパッタリング方法を用いる際、前記誘電体層の蒸着は、1W/cm〜5W/cmの入力電力を印加して行うことができる。
【0061】
前記入力電力が1W/cm未満である場合、蒸着速度が低くて生産性が低下し、蒸着される誘電体材料膜と基板若しくは低放射層との間の接着力が低下する虞があり、5W/cmを超える場合、基板若しくは低放射層に損傷を与え、又はターゲット原料の破損や溶融が発生する虞があり、工程装置に大きな損傷を招くことがある。
【0062】
上述のプラズマスパッタリング法を用いた低放射ガラスの製造方法は、より具体的に、まず、真空チャンバー内にアルゴンガスおよび酸素ガスを適量注入し、ターゲット原料が設けられたカソード(cathode)に電圧を加えるような方法であってもよい。この場合、前記カソードから発せられた電子がアルゴンガスの気体原子と衝突してアルゴンをイオン化(Ar)させるが、このとき、前記アルゴンが励起子(excite)となって電子を放出することによってエネルギーが放出されることにより、グロー放電(glow discharge)が発生する。前記グロー放電により、イオンと電子とが共存するプラズマ(plasma)が形成される。
【0063】
前記プラズマ内のArイオンは、大きな電位差によって、カソード(ターゲット)、すなわち、複合金属酸化物に向かって加速化してターゲットの表面と衝突し、これにより、ターゲット原子が飛び出て低放射層の上に薄膜を形成するため、誘電体層が蒸着される。
【実施例】
【0064】
以下、本発明による実施例および本発明によらない比較例を挙げて、本発明を詳述するが、本発明の範囲は下記の実施例によって何ら制限されない。
【0065】
[実施例1]
厚さが0.7mmのソーダ石灰ガラス基板の上に、下記表1に示す条件下で、RFスパッタリング法を用いてアンダーコート層、第1の誘電体層、低放射層、バリア層、第2の誘電体層およびオーバーコート層をこの順に蒸着することにより、実施例1による低放射ガラスが製造された。
【0066】
ここで、スパッタチャンバー内の工程圧力は、初期の5×10−6Torrの真空条件まで排気後、工程ガスを注入して工程真空度を5×10−2Torrに維持したままで工程を行い、入力電力としては、RF(radio frequency、13.56MHz)パワーを印加した。
【0067】
また、第1の誘電体層および第2の誘電体層のターゲット原料としては、酸化チタン85重量部および酸化セリウム15重量部を含む複合金属酸化物(TiCeOx)を用いた。
【0068】
これに従い製造された低放射ガラスの薄膜の厚さは、光学式粗さ計を用いて測定した。
【0069】
【表1】

【0070】
[比較例1]
第1の誘電体層および第2の誘電体層のターゲット原料として、TiCeOxの代わりに二酸化チタン(TiOx)を用いた以外は、実施例1と同じ条件下で比較例1による低放射ガラスを製造した。
【0071】
[試験例]
1.光学性能および断熱性能の測定
実施例1による低放射ガラスの光学性能を、分光光度計(spectrophotometer;model Shimazu solid spec 3700)を用いて、300nm〜2100nm範囲の波長領域において区間幅を1nmにして測定した。可視光透過率および反射率、太陽光透過率および反射率はKSL2541に準拠して計算し、放射率は放射率測定装置(INGLAS TIR 100−2)により測定した。
【0072】
前記測定により得られた光特性から、Window 5.2 programを用いて断熱性能を計算し、その結果を下記表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
2.色差比較
実施例1および比較例1による低放射ガラスの色差を比較し、これを下記表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
3.蒸着速度の測定
誘電体層の薄膜蒸着速度を測定するために、3条件の工程時間で蒸着した後、厚さを測定して3点に対するリニアフィットを行った。実施例1および比較例1による低放射ガラスを製造する工程における誘電体層の蒸着速度を図2に示す。
【0077】
その結果、実施例1および比較例1による低放射ガラスを製造する工程における誘電体層の蒸着速度は、図2に示すように、それぞれ0.0135nm/secおよび0.0259nm/secであった。
【0078】
4.屈折率の測定
エリプソメトリ(Ellipsometry)を用いて実施例1による低放射ガラスの誘電体層および比較例1による低放射ガラスの誘電体層に対する屈折率を測定した。その結果を図3に示す。
【0079】
図3を参照すれば、可視光領域(380nm〜780nm)において、実施例1による低放射ガラスに含有されている誘電体層は、比較例1による低放射ガラスに含有されている誘電体層に比べて屈折率が高く、具体的に、550nm波長の可視光を基準として、実施例1による低放射ガラスに含有されている誘電体層の屈折率は2.473であり、比較例1による低放射ガラスに含有されている誘電体層の屈折率は2.455であった。
【0080】
5.可視光透過率の比較
実施例1による低放射ガラスおよび比較例1による低放射ガラスの可視光透過率を比較したグラフを図4に示す。図4を参照すれば、比較例1による低放射ガラスの可視光透過率に比べて、実施例1による低放射ガラスの可視光透過率が約5%高く現れた。
【符号の説明】
【0081】
100 低放射ガラス
110 基板
120 アンダーコート層
130 第1の誘電体層
140 低放射層
150 バリア層
160 第2の誘電体層
170 オーバーコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気伝導性金属を含有する低放射層と、前記低放射層の片面または両面に形成され、一般式1:TiCeOxで表され、式中、Tiはチタン成分であり、Ceはセリウム成分であり、Oxは酸化物である、複合金属酸化物を含む誘電体層と、を備える低放射ガラス。
【請求項2】
前記低放射ガラスの放射率が0.01〜0.3であり、前記低放射ガラスの可視光透過率が75%以上である、請求項1に記載の低放射ガラス。
【請求項3】
前記電気伝導性金属は、銀、銅、金、アルミニウムおよび白金よりなる群から選ばれた1種以上を含む、請求項1に記載の低放射ガラス。
【請求項4】
前記複合金属酸化物は、酸化チタン80重量部〜90重量部と、酸化セリウム10重量部〜20重量部とを含む、請求項1に記載の低放射ガラス。
【請求項5】
前記誘電体層は、可視光に対する屈折率が2.4〜2.8である、請求項1に記載の低放射ガラス。
【請求項6】
前記誘電体層は、前記低放射層の下面に形成される第1の誘電体層および前記低放射層の上面に形成される第2の誘電体層を備える、請求項1に記載の低放射ガラス。
【請求項7】
前記第1の誘電体層および前記第2の誘電体層は、それぞれ膜厚が10nm〜100nmである、請求項6に記載の低放射ガラス。
【請求項8】
前記低放射層と前記第2の誘電体層との間に形成されたバリア層をさらに備える、請求項6に記載の低放射ガラス。
【請求項9】
前記第2の誘電体層の上面に形成されたオーバーコート層をさらに備える、請求項6に記載の低放射ガラス。
【請求項10】
前記第1の誘電体層の下面に形成されたアンダーコート層をさらに備える、請求項6に記載の低放射ガラス。
【請求項11】
前記電気伝導性金属を含有する低放射層の片面または両面に、前記一般式1で表される複合金属酸化物をターゲット原料として用いて、前記誘電体層を蒸着するステップを含む、請求項1から10のいずれかに記載の低放射ガラスの製造方法。
【請求項12】
蒸着は、工程圧力が5×10−2Torr〜5×10−8Torrの真空条件下で行う、請求項11に記載の低放射ガラスの製造方法。
【請求項13】
蒸着は、アルゴンガス20sccm〜40sccmおよび酸素ガス10sccm〜20sccmを含有する工程ガスを注入した状態で行う、請求項11に記載の低放射ガラスの製造方法。
【請求項14】
蒸着は、プラズマスパッタリング法を用いて行う、請求項11に記載の低放射ガラスの製造方法。
【請求項15】
蒸着は、1W/cm〜5W/cmの入力電力を印加して行う、請求項14に記載の低放射ガラスの製造方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−505198(P2013−505198A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530773(P2012−530773)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際出願番号】PCT/KR2010/006354
【国際公開番号】WO2011/037365
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(510244710)エルジー・ハウシス・リミテッド (17)
【Fターム(参考)】