説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】比誘電率が高く、絶縁抵抗の加速寿命に優れ、定格電圧の高い(たとえば100V以上)中高圧用途に好適に用いることができる誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】チタン酸バリウムを含む主成分と、BaZrOを含む第1副成分と、Mgの酸化物を含む第2副成分と、Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、等から選択される)を含む第3副成分と、Mn、Cr、等から選択される元素の酸化物を含む第4副成分と、Si、Li、等から選択される元素の酸化物を含む第5副成分と、V、NbおよびTaから選択される元素の酸化物を含む第6副成分と、を有し、前記主成分100モルに対する、比率が、第1副成分:9〜13モル、第2副成分:2.7〜5.7モル、第3副成分:4.5〜5.5モル、第4副成分:0.5〜1.5モル、第5副成分:3.0〜3.9モル、第6副成分:0.03〜0.3モルである誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐還元性を有する誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層に有する電子部品に係り、さらに詳しくは、定格電圧の高い(たとえば100V以上)中高圧用途に好適に用いられる誘電体磁器組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である積層セラミックコンデンサは、たとえば、所定の誘電体磁器組成物からなるセラミックグリーンシートと、所定パターンの内部電極層とを交互に重ね、その後一体化して得られるグリーンチップを、同時焼成して製造される。積層セラミックコンデンサの内部電極層は、焼成によりセラミック誘電体と一体化されるために、セラミック誘電体と反応しないような材料を選択する必要があった。このため、内部電極層を構成する材料として、従来では白金やパラジウムなどの高価な貴金属を用いることを余儀なくされていた。
【0003】
しかしながら、近年ではニッケルや銅などの安価な卑金属を用いることができる誘電体磁器組成物が開発され、大幅なコストダウンが実現した。
【0004】
一方、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が急速に進んでいる。それに伴い、積層セラミックコンデンサにおける1層あたりの誘電体層の薄層化が進み、薄層化してもコンデンサとしての信頼性を維持できる誘電体磁器組成物が求められている。特に、高い定格電圧(たとえば、100V以上)で使用される中高圧用コンデンサの小型・大容量化には、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物に対して非常に高い信頼性が要求される。
【0005】
これに対して、たとえば、特許文献1には、高周波交流用または直流中高圧用の分野に対応可能な耐還元性誘電体セラミックとして、一般式:ABO+aR+bM(Rは、La等の元素を含む化合物であり、Mは、Mn等の元素を含む化合物であり、1.000<A/B≦1.035、0.005≦a≦0.12、0.005≦b≦0.12である。)で表わされるチタン酸バリウムを主成分とする固溶体と焼結助剤とから構成される、耐還元性誘電体セラミックが開示されている。この特許文献1では、高周波かつ高電圧あるいは大電流下での使用時の損失および発熱が小さく、また、交流高温負荷または直流高温負荷において、安定した絶縁抵抗を示す耐還元性誘電体セラミックを提供することを目的としている。
【0006】
しかしながら、この特許文献1では、寿命特性(絶縁抵抗の加速寿命)が未だ十分でなく、そのため、信頼性に劣るという問題があった。特に、この問題は、積層セラミックコンデンサを小型・大容量化した場合に顕著となるため、小型・大容量化を達成するためには、寿命特性(絶縁抵抗の加速寿命)の向上が望まれていた。また、この特許文献1では、広範な組成を開示しているものの、この広範な組成を構成する各成分の添加効果について全く記載されておらず、そのため、所望の特性を得るためには、いかなる組成を採用すれば良いかについて必ずしも明らかではなかった。
【0007】
【特許文献1】特開2002−50536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、還元性雰囲気中での焼成が可能であり、電圧印加時における電歪量が低く、良好な容量温度特性を保ちながら、絶縁抵抗の加速寿命に優れ、しかも、比誘電率の向上が可能な誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層として有する電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明によれば、チタン酸バリウムを含む主成分と、
BaZrOを含む第1副成分と、
Mgの酸化物を含む第2副成分と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第3副成分と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第4副成分と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第5副成分と、
V、NbおよびTaから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第6副成分と、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記主成分100モルに対する、各副成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が、
第1副成分:9〜13モル、
第2副成分:2.7〜5.7モル、
第3副成分:4.5〜5.5モル、
第4副成分:0.5〜1.5モル、
第5副成分:3.0〜3.9モル、
第6副成分:0.03〜0.3モル、
である誘電体磁器組成物が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、誘電体層と内部電極層とを有する電子部品であって、前記誘電体層が、上記誘電体磁器組成物で構成された電子部品が提供される。
本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムを含む主成分に対し、上記した特定の第1〜第5副成分に加えて、V、NbおよびTaから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第6副成分を上記所定量含有する構成を有している。そのため、電圧印加時における電歪量および容量温度特性、さらには誘電損失を良好に保ちながら、絶縁抵抗の加速寿命を優れたものとすることができ、しかも、比誘電率を向上させることができる。
【0012】
そのため、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に、このような本発明の誘電体磁器組成物を適用することにより、たとえば、誘電体層を20μm程度と薄層化し、定格電圧の高い(たとえば100V以上、特に250V以上)中高圧用途に用いた場合においても、優れた信頼性を実現することができる。すなわち、本発明の誘電体磁器組成物は、絶縁抵抗の加速寿命に優れ、しかも、高い比誘電率を有するため、小型・大容量化対応で、しかも高い信頼性を有する中高圧用途の電子部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【0014】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0015】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。また、一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0016】
誘電体層2
誘電体層2は、本発明の誘電体磁器組成物を含有する。
本発明の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムを含む主成分と、
BaZrOを含む第1副成分と、
Mgの酸化物を含む第2副成分と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第3副成分と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第4副成分と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第5副成分と、
V、NbおよびTaから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第6副成分と、を有するものである。
【0017】
主成分として含有されるチタン酸バリウムとしては、たとえば、組成式BaTiO2+m で表され、前記組成式中のmが、0.990<m<1.010であり、BaとTiとの比が0.990<Ba/Ti<1.010であるものなどを用いることができる。
【0018】
第1副成分(BaZrO)の含有量は、主成分100モルに対して、BaZrO換算で、9〜13モルであり、好ましくは10〜13モルである。第1副成分は、主に、主成分であるチタン酸バリウムの強誘電性を抑制する効果を有する。第1副成分の含有量が少なすぎると、DCバイアス特性が悪化する傾向にあり、一方、多すぎると比誘電率が低下する傾向にある。
【0019】
第2副成分(Mgの酸化物)の含有量は、主成分100モルに対して、MgO換算で、2.7〜5.7モルであり、好ましくは4〜5.7モルである。第2副成分は、主に、主成分であるチタン酸バリウムの強誘電性を抑制する効果を有する。第2副成分の含有量が少なすぎると、DCバイアス特性および寿命特性が悪化する傾向にあり、一方、多すぎると比誘電率が低下する傾向にある。
【0020】
第3副成分(Rの酸化物)の含有量は、主成分100モルに対して、R換算で、4.5〜5.5モルであり、好ましくは4.75〜5.5モルである。第3副成分は、主に、主成分であるチタン酸バリウムの強誘電性を抑制する効果を有する。第3副成分の含有量が少なすぎると、温度特性が悪化する傾向にあり、一方、多すぎると比誘電率および寿命特性が低下する傾向にある。なお、上記Rの酸化物を構成するR元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種が好ましく、Gdが特に好ましい。
【0021】
第4副成分(Mn、Cr、CoおよびFeの酸化物)の含有量は、主成分100モルに対して、MnO、Cr、CoまたはFe換算で、0.5〜1.5モルであり、好ましくは0.7〜1.2モルである。第4副成分の含有量が少なすぎると、寿命特性や誘電損失が劣化する傾向にあり、一方、多すぎると、電圧印加時における温度特性が悪化する傾向にある。なお、第4副成分としては、上記各酸化物のなかでも特性の改善効果が大きいという点より、Mnの酸化物を用いることが好ましい。
【0022】
第5副成分(Si、Li、Al、GeおよびBの酸化物)の含有量は、主成分100モルに対して、SiO、Li、Al、GeまたはB換算で、3.0〜3.9モルである。第5副成分の含有量が少なすぎると、焼結性が悪化する傾向にある。一方、多すぎると、DCバイアス特性が悪化する傾向にある。なお、第5副成分としては、上記各酸化物のなかでも特性の改善効果が大きいという点より、Siの酸化物を用いることが好ましい。
【0023】
第6副成分(V、NbおよびTaの酸化物)の含有量は、主成分100モルに対して、V、NbまたはTa換算で、0.03〜0.3モルである。第6副成分は、電圧印加時における電歪量、容量温度特性、および絶縁抵抗の加速寿命を良好に保ちながら、比誘電率を向上させる効果を有する。第6副成分の含有量が少なすぎると、比誘電率の向上効果が得難くなる。一方、多すぎると、誘電体磁器組成物が半導体化してしまう傾向にある。なお、第6副成分としては、上記各酸化物のなかでも特性の改善効果が大きいという点より、Nbの酸化物を用いることが好ましい。
【0024】
本実施形態においては、上記第1〜第5副成分を上記所定量含有させることにより、誘電体磁器組成物を、還元性雰囲気中での焼成が可能であり、電圧印加時における電歪量が低く、誘電損失、容量温度特性(TC)、DCバイアス特性、および絶縁抵抗の加速寿命を良好なものとすることができる。特に、主成分であるチタン酸バリウムに起因する不具合、たとえば、印加電圧に対する容量依存性や、電圧印加時における電歪現象を有効に緩和することができる。
そして、本実施形態においては、上記第1〜第5副成分に加えて、上記第6副成分を上記所定量添加することにより、これら第1〜第5副成分を添加したことによる効果を良好に保ちながら、比誘電率を向上させることができる。そのため、本実施形態によれば、誘電体層2を薄層化し、これによりセラミックコンデンサ1を小型化した場合においても高い信頼性を保つことができ、さらには、大容量化を実現することができる。
【0025】
誘電体層2の厚みは、特に限定されず、積層セラミックコンデンサ1の用途に応じて適宜決定すれば良い。
【0026】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0027】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0028】
積層セラミックコンデンサ1の製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0029】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料(誘電体磁器組成物粉末)を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0030】
誘電体原料としては、上記した主成分および副成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。塗料化する前の状態で、誘電体原料の粒径は、通常、平均粒径0.1〜1μm程度である。
【0031】
また、上記主成分以外の原料(たとえば、副成分の原料)は、各酸化物または複合酸化物、焼成により各酸化物または複合酸化物となる化合物を、そのまま用いても良いし、あるいは、予め仮焼きし、焙焼粉として用いても良い。また、副成分のうち、一部を予め主成分とともに仮焼きしても良い。
【0032】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0033】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0034】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0035】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0036】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0037】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0038】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0039】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、焼成雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0040】
グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−14〜10−10MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0041】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1360℃である。保持温度が上記範囲未満であると緻密化が不十分となり、前記範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0042】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0043】
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0044】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−5MPaとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層の酸化が進行する傾向にある。
【0045】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に500〜1100℃とすることが好ましい。保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、高温負荷寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、高温負荷寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0046】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0047】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0048】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0050】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成の誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0052】
実施例1
まず、主成分の原料として、BaTiO粉末を、副成分の原料として、BaZrO、MgCO、Gd、MnO、SiOおよびVを、それぞれ準備した。次いで、上記にて準備した各原料を、ボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、誘電体材料を得た。なお、各副成分の添加量は、以下の通りとした。
すなわち、主成分であるBaTiO100モルに対して、
BaZrO(第1副成分):11モル、
MgCO(第2副成分):4.5モル、
Gd(第3副成分):5モル、
MnO(第4副成分):1モル、
SiO(第5副成分):3.3モル、
(第6副成分):表1に示す量、
とした。なお、上記比率は、複合酸化物(第1副成分)または各酸化物(第1〜第6副成分)換算の量である。また、第2副成分であるMgCOは、焼成後には、MgOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0053】
次いで、得られた誘電体材料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジブチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0054】
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0055】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが30μmとなるようにグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0056】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1260℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス(酸素分圧:10−12MPa)とした。
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガス(酸素分圧:10−7MPa)とした。
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0057】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、3.2mm×1.6mm×3.2mmであり、誘電体層の厚み20μm、内部電極層の厚み1.5μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4とした。なお、本実施例では、表1に示すように、V(第6副成分)の添加量を変化させた複数の試料を作製した。
【0058】
得られた各コンデンサ試料について、誘電損失(tanδ)、比誘電率(εs)、絶縁抵抗IR、容量温度特性(TC)、DC−bias特性、Bias−TC特性、平均加速寿命時間、および電圧印加による電歪量を下記に示す方法により測定した。
【0059】
誘電損失(tanδ)
コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件下で、誘電損失tanδを測定した。誘電損失は、小さいほど好ましい。結果を表1に示す。
【0060】
比誘電率εs
コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量Cを測定した。そして、比誘電率εs(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。比誘電率は高いほうが好ましい。結果を表1に示す。
【0061】
絶縁抵抗IR
コンデンサ試料に対し、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、200Vの直流電圧を1分間印加した後の絶縁抵抗を、室温にて測定した。絶縁抵抗IRは、大きいほど好ましい。結果を表1に示す。
【0062】
容量温度特性(TC)
コンデンサ試料に対し、−55〜125℃における静電容量を測定し、基準温度(25℃)における静電容量に対する変化率を算出した。結果を表1に示す。
【0063】
DC−bias特性
コンデンサ試料に対し、一定温度(25℃)において、直流電圧非印加状態における比誘電率に対する、20V/μmの直流電圧を印加した際における比誘電率の変化率(単位は%)を算出することにより、DC−bias特性を測定した。本実施例では、DC−bias特性は、10個のコンデンサ試料を用いて測定した値の平均値とした。DC−bias特性は0に近いほど好ましい。結果を表1に示す。
【0064】
Bias−TC特性
コンデンサ試料に対し、20V/μmの直流電圧を印加した状態で、−55〜125℃における静電容量を測定し、25℃の条件で測定した静電容量を基準として、静電容量の変化率を算出することで、Bias−TC特性を評価した。なお、静電容量の測定にはLCRメーター(YHP社製4284A)を用い、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの条件下で測定した。Bias−TC特性は0に近いほど好ましい。結果を表1に示す。
【0065】
平均加速寿命時間
コンデンサ試料に対し、210℃にて、40V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、高温加速寿命(HALT) を評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命時間と定義した。また、この高温加速寿命試験は、10個のコンデンサ試料について行った。評価基準は、3時間以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0066】
電圧印加による電歪量
まず、コンデンサ試料を、所定パターンの電極がプリントしてあるガラスエポキシ基板にハンダ付けすることにより固定した。次いで、基板に固定したコンデンサ試料に対して、AC:10Vrms/μm、周波数3kHzの条件で電圧を印加し、電圧印加時におけるコンデンサ試料表面の振動幅を測定し、これを電歪量とした。なお、コンデンサ試料表面の振動幅の測定には、レーザードップラー振動計を使用した。また、本実施例では、10個のコンデンサ試料を用いて測定した値の平均値を電歪量とした。電歪量は低いほうが好ましい。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

表1中、試料番号に「*」を付した試料は、本発明の範囲外の試料である。また、試料番号1は、V(第6副成分)を添加しなかった試料である。
【0068】
表1より、本発明所定の第1〜第5副成分を所定量含有させるとともに、V(第6副成分)を0.03〜0.30モルの範囲で添加することにより、誘電損失(tanδ)、絶縁抵抗IR、容量温度特性(TC)、DC−bias、Bias−TC、平均加速寿命時間、および電歪量を良好に保ちながら、比誘電率(εs)の向上が可能となることが確認できる。すなわち、Vを0.03〜0.30モルの範囲で添加することにより、コンデンサとしての性能、特に高温加速寿命を良好に保ちながら、比誘電率の向上が可能となることが確認できる。
【0069】
これに対して、V(第6副成分)を添加しない場合には、Vを所定量添加した場合と比較して、比誘電率が低くなる結果となった。また、V(第6副成分)の添加量が0.50モルと多すぎる場合には、誘電体層が半導体化してしまい、特に高温加速寿命については、電圧印加時に試料が破壊してしまい、極めて劣る結果となった。
【0070】
なお、本実施例においては、上述したように、高温加速寿命の評価は、サイズ3.2mm×1.6mm×3.2mm、誘電体層数4層のコンデンサ試料に対して、210℃、40V/μm(=800V)の条件で行ったが、たとえば、150℃、500Vの条件で、高温加速寿命の評価を行った場合の寿命時間を算出すると、約30,000倍の時間となることが予想できる。また、同様に、サイズ3.2mm×4.5mm×3.2mmの試料に対して、たとえば、150℃、500Vの条件で、高温加速寿命の評価を行った場合の寿命時間は、約5,000倍となることが予想できる。
【0071】
実施例2
第6副成分として、Vの代わりに、Nbを使用した以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製し、実施例1と同様に評価を行った。なお、実施例2においても、表2に示すように、Nb(第6副成分)の添加量を変化させた複数の試料を作製した。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

表2中、試料番号に「*」を付した試料は、本発明の範囲外の試料である。また、試料番号11は、実施例1の試料番号1と同じ試料である。
【0073】
表2より、第6副成分として、Vの代わりに、Nbを使用した場合においても、同様の傾向となることが確認できる。なお、Nbの添加量を0.50モルとした場合には、誘電体層の半導体化により、実施例1と同様に高温加速寿命に極めて劣る結果となったことに加えて、Bias−TCについても、電圧印加時に試料が破壊してしまい、測定不能であった。
【0074】
実施例3
第6副成分として、Vの代わりに、Taを使用した以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製し、実施例1と同様に評価を行った。なお、実施例3においても、表3に示すようにTa(第6副成分)の添加量を変化させた複数の試料を作製した。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

表3中、試料番号に「*」を付した試料は、本発明の範囲外の試料である。また、試料番号21は、実施例1の試料番号1と同じ試料である。
【0076】
表3より、第6副成分として、Vの代わりに、Taを使用した場合においても、同様の傾向となることが確認できる。なお、Taの添加量を0.50モルとした場合には、誘電体層の半導体化により、実施例1と同様に高温加速寿命に極めて劣る結果となったことに加えて、Bias−TCについても、電圧印加時に試料が破壊してしまい、測定不能であった。
【0077】
実施例4
焼成温度を、1260℃から1280℃に変更した以外は、実施例2と同様にして、コンデンサ試料を作製し、同様に評価を行った。なお、実施例4においても、実施例2と同様に、表4に示すようにNb(第6副成分)の添加量を変化させた複数の試料を作製した。結果を表4に示す。
【0078】
【表4】

表4中、試料番号に「*」を付した試料は、本発明の範囲外の試料である。また、試料番号31は、Nb(第6副成分)を添加しなかった試料である。
【0079】
表4より、焼成温度を1260℃から1280℃に変更した場合においても、同様の傾向となることが確認できる。そのため、実施例2および実施例4の結果より、本発明の誘電体磁器組成物は、焼成温度が変化した場合においても、安定した特性が得られ、生産性に優れていることが確認できる。
【0080】
実施例5
Nb(第6副成分)の添加量を1モルとし、それぞれ第1〜第5副成分の添加量を表5に示すように変化させた以外は、実施例2と同様にして、コンデンサ試料を作製し、同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0081】
【表5】

表5中、試料番号に「*」を付した試料は、本発明の範囲外の試料である。
【0082】
表5より、第1〜第5副成分の添加量を本発明所定の範囲内で変化させた各試料は、いずれも良好な特性が得られることが確認できる。これに対して、第1〜第5副成分の添加量を本発明の範囲外とした場合には、それぞれ各特性(比誘電率、温度特性、DCバイアス、Bias−TC特性、寿命特性、電歪特性)に劣る結果となった。特に、MgO(第2副成分)の添加量を1モルと少なくした場合(試料番号45)には、DCバイアス特性、寿命特性および電歪特性に劣る結果となった。また、Gd(第3副成分)の添加量を1モルと少なくした場合(試料番号50)には、DCバイアス特性、温度特性および電歪特性に劣る結果となった。
【0083】
実施例6
本発明所定の第6副成分(V、NbおよびTa)の代わりに、WOまたはMoOを使用した以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製し、同様に評価を行った。結果を表6に示す。
【0084】
【表6】

表6中、試料番号に「*」を付した試料は、本発明の範囲外の試料である。
【0085】
表6より、本発明所定の第6副成分(V、NbおよびTa)の代わりに、WOまたはMoOを使用した場合には、いずれも比誘電率の向上効果は得られず、さらには、高温加速寿命が大きく劣化する結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【符号の説明】
【0087】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを含む主成分と、
BaZrOを含む第1副成分と、
Mgの酸化物を含む第2副成分と、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第3副成分と、
Mn、Cr、CoおよびFeから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第4副成分と、
Si、Li、Al、GeおよびBから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第5副成分と、
V、NbおよびTaから選択される少なくとも1種の元素の酸化物を含む第6副成分と、を有する誘電体磁器組成物であって、
前記主成分100モルに対する、各副成分の酸化物または複合酸化物換算での比率が、
第1副成分:9〜13モル、
第2副成分:2.7〜5.7モル、
第3副成分:4.5〜5.5モル、
第4副成分:0.5〜1.5モル、
第5副成分:3.0〜3.9モル、
第6副成分:0.03〜0.3モル、
である誘電体磁器組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の誘電体磁器組成物からなる誘電体層と、内部電極層と、を有する電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−174434(P2008−174434A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11631(P2007−11631)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】