説明

誘電体磁器組成物

【課題】比誘電率が高く、かつ、信頼性が高い誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】主成分と、少なくとも1種以上の副成分元素と、を含む誘電体磁器組成物であって、前記誘電体磁器組成物が、誘電体粒子と、粒界と、を有し、前記誘電体粒子中の任意の位置における前記副成分元素から選ばれる1種以上の元素の濃度をCsとし、前記誘電体粒子が、実質的に前記主成分で構成される主成分相と、前記主成分相の周囲に、前記副成分元素から選ばれる少なくとも1種が拡散した拡散相と、を有し、前記誘電体粒子について、前記主成分相を含む任意の切断面で切断したとき、前記断面線分上の所定区間にCsの極大値が存在し、前記Csの極大値の位置よりも縁端側にCsの極小値が存在し、前記Csの極小値の位置から前記縁端に向かってCsが上昇する誘電体粒子を含む誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物に関し、誘電体磁器組成物に含まれる成分の組成に関わらず、比誘電率が高く、かつ、信頼性が高い誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化および高性能化に対する要求は高く、これに伴い、たとえば積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が進んでいるが、さらなる特性の向上が求められている。
【0003】
このような要求に対し、誘電体層を構成する誘電体磁器組成物が、実質的に主成分で構成される主成分相と、主成分に副成分元素が拡散している拡散相と、からなる誘電体粒子を含むことで、特性の向上を図る技術が研究されている。
【0004】
たとえば、特許文献1には、誘電体粒子が主成分相(コア部)と、拡散相(シェル部)とからなり、拡散相に含まれているアクセプタ型元素(Mn、V、Cr、Co、Mo)の濃度が主成分相・拡散相の境界から粒界側に向かって高くなっていることを特徴とする積層セラミックコンデンサが記載されている。
【0005】
しかしながら、従来、誘電体粒子における副成分元素の濃度分布に関し、誘電体粒子の表面付近だけでなく、主成分相と拡散相の境界付近において副成分元素の濃度を高くすることについては研究されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−230149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、比誘電率が高く、かつ、信頼性が高い誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するために、鋭意検討を行った結果、誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子内において、副成分元素が所定の濃度分布を示すことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、上記課題を解決する本発明に係る誘電体磁器組成物は、
一般式ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する主成分と、少なくとも1種以上の副成分元素と、を含む誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物が、誘電体粒子と、粒界と、を有し、
前記誘電体粒子中の任意の位置における前記副成分元素から選ばれる1種類以上の元素の濃度をCsとし、
前記誘電体粒子が、実質的に前記主成分で構成される主成分相と、前記主成分相の周囲に、前記副成分元素から選ばれる少なくとも1種類が拡散した拡散相と、を有し、
前記誘電体粒子について、前記主成分相を含む任意の切断面で切断し、
前記切断面における誘電体粒子の任意の縁端から前記切断面における主成分相の重心を通過して対向する任意の縁端に至る断面線分の長さをDとしたとき、
前記縁端から前記断面線分の長さDの10%の長さの位置と、前記縁端から前記断面線分の長さDの30%の長さの位置と、の間の中間区間に、前記縁端から前記重心までのCsの分布におけるCsの極大値が存在し、
前記誘電体粒子において、前記Csの極大値の位置よりも縁端側にCsの極小値が存在し、前記Csの極小値の位置から前記縁端に向かってCsが上昇する。
【0010】
本発明によれば、比誘電率が高く、かつ、信頼性が高い誘電体磁器組成物を得ることができる。
【0011】
前記誘電体磁器組成物は、好ましくは、前記誘電体粒子の縁端にCsの極大値を有する。
【0012】
前記誘電体磁器組成物は、好ましくは、前記中間区間におけるCsの前記極大値をCsiとし、
前記縁端におけるCsをCsoとしたとき、CsiとCsoは、下記の関係式(1)を満たす。
0原子%<Csi−Cso≦1原子% (1)
【0013】
前記誘電体磁器組成物は、好ましくは、前記副成分元素はY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Pr、Scから選ばれる少なくとも1種類の希土類元素を含み、
前記Csは、誘電体粒子中の任意の位置における希土類元素の合計の濃度である。
【0014】
前記誘電体磁器組成物は、好ましくは、前記副成分元素は少なくともMgを含み、
前記Csは、誘電体粒子中の任意の位置におけるMgの濃度である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は、図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図である。
【図3A】図3Aは、図2に示す誘電体粒子20の断面図と、前記誘電体粒子中の副成分元素の濃度分布の模式図である。
【図3B】図3Bは、図2に示す誘電体粒子20の断面図と、前記誘電体粒子中の副成分元素の濃度分布の模式図である。
【図3C】図3Cは、図2に示す誘電体粒子20の断面図である。
【図3D】図3Dは、図1に示す誘電体層2の要部拡大断面図と、前記誘電体層2を構成する誘電体粒子20d,20e,20fおよび粒界21中の副成分元素の濃度分布の模式図である。
【図4】図4は、図1に示す誘電体層2の構造を説明するための概念図である。
【図5】図5(A)は、図4のV部の拡大断面図であり、図5(B)は、図4のV部の拡大断面図であり、図5(C)は、図4のV部の拡大断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施例における誘電体粒子のSTEM写真である。
【図7】図7は、本発明の実施例における誘電体粒子中の希土類元素濃度と測定点との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0017】
<積層セラミックコンデンサ1>
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0018】
<誘電体層2>
誘電体層2は、本発明の実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成されている。前記誘電体磁器組成物は、主成分として、一般式ABOで表され、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物と、少なくとも1種類以上の副成分元素と、を含む誘電体粒子から構成される。
【0019】
前記一般式ABOにおいて、Aサイト原子は、好ましくはBa、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも1種類であり、Bサイト原子は、好ましくは、Ti、ZrおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種類である。
【0020】
また、Aサイト原子と、Bサイト原子と、のモル比は、A/B比として表され、本実施形態では、A/B比は、0.98〜1.02であることが好ましい。
【0021】
前記副成分元素としては、特に限定されないが、好ましくは希土類元素およびMgから選ばれる少なくとも1種類を含む。
【0022】
前記副成分元素としての希土類元素の含有量は、所望の特性に応じて決定すればよいが、Rを希土類元素で表した場合、ABO100モルに対して、R換算で、好ましくは0.2〜2.5モルである。該酸化物を含有させることで、高温加速寿命を向上させるという利点を有する。
【0023】
希土類元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1種類であり、Y、Dy、GdおよびHoからなる群から選ばれる少なくとも1種類であることが好ましい。
【0024】
Mg元素の含有量は、所望の特性に応じて決定すればよいが、ABO100モルに対して、MgO換算で、好ましくは0.2〜2.5モルである。該酸化物を含有させることで、所望の容量温度特性および高温加速寿命が得られるという利点を有する。
【0025】
Si元素の含有量は、所望の特性に応じて決定すればよいが、ABO100モルに対して、SiO換算で、好ましくは0.2〜3.0モルである。該酸化物を含有させることで、主に誘電体磁器組成物の焼結性を向上させる。なお、Siを含む酸化物としては、Siと他の金属元素(たとえば、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属)との複合酸化物等であってもよいが、本実施形態では、SiとBaおよびCaとの複合酸化物である(Ba,Ca)SiOが好ましい。
【0026】
本実施形態では、上記の誘電体磁器組成物は、さらに、所望の特性に応じて、その他の副成分を含有してもよい。
【0027】
たとえば、本実施形態に係る誘電体磁器組成物には、Mnおよび/またはCrが含有されていてもよい。前記元素の含有量は、ABO100モルに対して、各酸化物換算で、0.02〜0.30モルであることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態に係る誘電体磁器組成物には、V、Ta、Nb、MoおよびWから選ばれる少なくとも1種類の元素が含有されていてもよい。前記元素の含有量は、ABO100モルに対して、各酸化物換算で、0.02〜0.30モルであることが好ましい。
【0029】
誘電体層2の厚みは、特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて適宜決定すればよい。また、誘電体層2の積層数は、特に限定されないが、20以上であることが好ましく、より好ましくは50以上、特に好ましくは、100以上である。
【0030】
<誘電体磁器組成物の構造>
図2に示すように、誘電体層2を構成する誘電体磁器組成物は、誘電体粒子20と、隣接する複数の誘電体粒子20間に形成された粒界21と、を有する。
【0031】
また、本実施形態の誘電体粒子20は、図3A、図3Bおよび図3Cに示すように、実質的に主成分で構成される主成分相22と、前記主成分相の周囲に、前記副成分元素から選ばれる少なくとも1種類以上が拡散した拡散相23と、を有する。なお、図3A、図3Bおよび図3Cは、図2に示す誘電体粒子20の粒子内構造を説明するための誘電体粒子20の断面図と、前記誘電体粒子中の副成分元素の濃度分布の模式図である。
【0032】
前記主成分相は、実質的に前記主成分で構成されている。ここで、「実質的に」とは、前記主成分の他に副成分元素を酸素をのぞく元素換算で0.5原子%〜1.0原子%含んでいてもよいことをいう。なお、ここでの「原子%」とは、酸素を除く元素の合計量に対する副成分元素の合計量の割合を意味する。
【0033】
前記拡散相23は、一般式ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する主成分に、前記副成分元素から選ばれる少なくとも1種類以上が拡散することにより形成されていればよいが、本実施形態の拡散相は、副成分元素として、少なくとも希土類元素およびMgから選ばれる少なくとも1種類以上が拡散することにより形成されていることが好ましい。
【0034】
本実施形態では、誘電体粒子中の任意の位置における前記副成分元素から選ばれる1種類以上の元素の濃度をCsとする。
【0035】
本実施形態は、図3Aに示すように、誘電体粒子20について、誘電体粒子20の主成分相22を含む任意の切断面で切断した場合に、前記副成分元素から選ばれる少なくとも1種類以上の元素の濃度Csが以下に示すような分布を示す。
【0036】
なお、前記副成分元素として2種類以上の希土類元素が含まれている場合には、副成分元素として含まれている希土類元素の1種類の元素の濃度のみが以下に示すような分布を示してもよいし、副成分元素として含まれている2種類以上の希土類元素の合計の濃度が以下に示すような分布を示してもよい。
【0037】
本実施形態では、図3Aに示すように、前記切断面における誘電体粒子20の任意の縁端241aから前記切断面における主成分相22の重心Jを通過して対向する任意の縁端242aに至る線分を断面線分とし、前記断面線分の長さをDとする。
【0038】
続いて、前記断面線分上において、前記縁端から前記断面線分の長さDの10%の長さの位置と、前記縁端から前記断面線分の長さDの30%の長さの位置と、の間の区間を中間区間Xとする。
【0039】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、前記中間区間Xに前記縁端から前記重心JまでのCsの分布におけるCsの極大値が存在する誘電体粒子を含むことを特徴とする。
【0040】
前記拡散相23に含まれる副成分元素は、誘電体磁器組成物の抵抗の上昇に寄与する。特許文献1などの従来技術では、誘電体粒子の中心から粒子の縁端に向かうにつれて、副成分元素の濃度が上昇する傾向にある。しかし、このような従来技術における誘電体粒子内の濃度分布では、粒界近傍に電圧負荷が集中する傾向となる。その結果、信頼性の向上に寄与する粒界が短時間で劣化することとなり、信頼性が低下する傾向となると考えられる。
【0041】
これに対し、本実施形態では、主成分相近傍の中間区間Xに副成分元素の濃度の極大値が存在する。これにより、電圧負荷が、誘電体粒子の粒界近傍と中間区間Xとに分散される。その結果、粒界の劣化を抑制することがき、信頼性を向上させることができると考えられる。
【0042】
前記中間区間Xは、前記断面線分上において、前記縁端24aから前記断面線分の長さDの10%の長さの位置と、前記縁端から前記断面線分の長さDの30%の長さの位置と、の間の区間をいう。中間区間をこの区間にすることにより、誘電体磁器組成物の比誘電率が良好になり、かつ、信頼性が高くなる傾向となる。
【0043】
本実施形態では、Csの分布を測定する線分が、前記縁端から前記切断面における主成分相の重心Jまでの線分であることが好ましい。
【0044】
Csの分布を測定する前記縁端から前記切断面における主成分相の重心Jまでの線分の長さは、好ましくは、前記断面線分の長さDの40%〜70%の長さである。
【0045】
前記縁端から前記切断面における主成分相の重心Jまでの長さが前記条件を満たす場合は、前記中間区間においてCsの極大値が存在することが好ましい。一方、前記縁端から前記切断面における主成分相の重心Jまでの長さと、前記断面線分の長さDと、が前記条件を満たさない場合には、前記中間区間においてCsの極大値が存在することを要しない。
【0046】
前記縁端から前記切断面における主成分相の重心Jまでの長さと、前記断面線部の長さDと、が前記条件を満たす場合には、前記中間区間においてCsの極大値が存在することにより、比誘電率が高く、かつ、信頼性が高い誘電体磁器組成物が得られる傾向にある。
【0047】
たとえば、図3AのL1aとL2aは、それぞれ、前記縁端241aから前記切断面における主成分相の重心Jまでの長さと、前記縁端242aから前記切断面における主成分相の重心Jまでの長さと、を表わしている。そして、L1aは、前記断面線分の長さDの40%〜70%の長さの範囲に含まれるが、L2aは、この条件を満たさない。したがって、図3AのL1aは、前記中間区間においてCsの極大値が存在することが好ましいが、L2aは、前記中間区間においてCsの極大値が存在することを要しない。
【0048】
また、図3BのL1bとL2bは、それぞれ、前記縁端241bから前記切断面における主成分相の重心Jまでの長さと、前記縁端242bから前記切断面における主成分相の重心Jまでの長さと、を表わしており、図3BのL1bとL2bはいずれも、前記断面線分の長さDの40%〜70%の長さの範囲に含まれる。したがって、図3BのL1bとL2bのいずれも、前記中間区間においてCsの極大値が存在することが好ましい。
【0049】
ここで、図3Aに示すように、本実施形態では、前記縁端241aと、前記縁端241aから前記重心Jまでの線分上の主成分相と拡散相の境界251aと、の間の長さは、好ましくは、前記断面線分の長さDの10%〜40%の長さであり、より好ましくは、前記断面線分の長さDの20〜30%の長さである。
【0050】
前記縁端241aと、前記縁端241aから前記境界251aまでの長さが前記条件を満たす場合は、前記中間区間にCsの極大値が存在することが好ましいが、前記縁端241aから前記境界部251aまでの長さが前記条件を満たさない場合には、前記中間区間にCsの極大値が存在することを要しない。
【0051】
たとえば、図3Cでは、縁端241cから境界251cまでの長さは、40%を超えるため、L1cにおける中間区間にCsが存在することを要しない。
【0052】
図3Cのように、誘電体粒子の切断面に占める主成分相の割合が極めて小さくなるのは、たとえば、誘電体粒子の切断面が主成分相の中心から大きく外れている場合などが挙げられる。
【0053】
なお、本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、誘電体磁器組成物を構成する全ての誘電体粒子が副成分元素の前記濃度分布を示す必要はなく、前記濃度分布を示す誘電体粒子が、前記誘電体磁器組成物中に所定量存在していればよい。
【0054】
たとえば、本実施形態に係る誘電体磁器組成物の断面図の特定の視野面積において観察される誘電体粒子の断面積の合計に対して、前記の濃度分布を有する誘電体粒子の断面積の合計が50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。
【0055】
なお、本実施形態では、特定の視野面積としては、たとえば、50000倍〜100000倍の倍率による視野面積が挙げられる。また、本実施形態では5視野分測定した場合の平均値であることが好ましい。
【0056】
さらに、本実施形態では、図3Aに示すように、前記誘電体粒子が、前記Csの極大値の位置よりも縁端241a側にCsの極小値が存在し、前記極小値の位置から縁端241aに向かってCsが上昇する濃度分布を有する。これにより、電圧負荷が、誘電体粒子の粒界近傍と中間区間Xとに分散される。その結果、粒界の劣化を抑制することがき、信頼性を向上させることができると考えられる。
【0057】
本実施形態では、前記誘電体粒子の縁端にCsの極大値を有することが好ましい。これにより、電圧負荷が、誘電体粒子の粒界近傍と中間区間Xとに分散される。その結果、粒界の劣化を抑制することがき、信頼性を向上させることができると考えられる。なお、“誘電体粒子の縁端にCsの極大値を有する”とは、以下の状態を言う。
【0058】
図3Dの誘電体粒子20d、20eのように、誘電体粒子の間に粒界21が存在する場合には、縁端242d,241eのCsが、各誘電体粒子20d,20eの内側のCsよりも高く、前記縁端のCsが、隣接する粒界のCsと同等またはこれより高い状態を、“誘電体粒子の縁端にCsの極大値を有する”と言う。図3Dの濃度分布の模式図によれば、縁端のCsが粒界のCsよりも高くなっているが、本実施形態における“誘電体粒子の縁端にCsの極大値を有する”とは、必ずしもこのような分布である必要はなく、例えば、縁端のCsと、隣接する粒界のCsが同等であってもよい。
【0059】
図3Dの誘電体粒子20e,20fのように、誘電体粒子同士が接しており、粒界がほとんど存在しない場合においては、誘電体粒子の接触点が各誘電体粒子の縁端242e,241fとなるため、誘電体粒子の接触点におけるCsが、各誘電体粒子20e,20fの内側のCsよりも高い場合には、“誘電体粒子の縁端にCsの極大値を有する”と言える。
【0060】
また、前記中間区間におけるCsの極大値をCsiとし、前記縁端におけるCsをCsoとしたとき、CsiとCsoは、下記の関係式(1)を満たすことが好ましい。なお、ここでのCsの単位である「原子%」は、誘電体粒子の任意の位置における酸素を除く元素の合計量に対する前記副成分元素から選ばれる1種類以上の元素の濃度を意味する。
0原子%<Csi−Cso≦1原子% (1)
【0061】
CsiとCsoが関係式(1)を満たすことにより、高温加速寿命が良好になる傾向となる。これは、CsiとCsoが関係式(1)を満たすことにより、誘電体粒子の粒界近傍と中間区間Xとに電圧負荷がバランスよく分散されるためであると考えられる。
【0062】
さらに、前記Csの極大値の位置よりも縁端241a側に存在するCsの極小値をCsmとしたとき、Csi−Csmは0.6〜2.6原子%であることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.0原子%である。また、Cso−Csmは0.7〜0.9原子%であることが好ましい。
【0063】
Cso−CsmまたはCsi−Csmがこの範囲に含まれることにより、高温負荷寿命特性が良好になる傾向となる。
【0064】
本実施形態では、前記Csは、誘電体粒子中の任意の位置における前記希土類元素の合計の濃度またはMg濃度であることが好ましい。誘電体粒子中の希土類元素の合計が、前記濃度分布を示すことにより、比誘電率と高温加速寿命が向上する傾向となる。また、誘電体粒子中のMgが、前記濃度分布を示すことにより、比誘電率、高温加速寿命および容量温度特性が向上する傾向となる。
【0065】
また、本実施形態では、前記誘電体粒子中に1種類以上の希土類元素とMgを有し、前記1種類以上の希土類元素の合計のCsと、MgのCsが、いずれも中間区間に極大値を有することが好ましい。さらに、前記1種類以上の希土類元素の合計のCsの極大値の位置と、MgのCsの極大値の位置と、の距離が、前記断面線分Dに対して5%以下の長さであることが好ましい。前記1種類以上の希土類元素の合計のCsの極大値の位置とMgのCsの極大値の位置がこの範囲内に含まれると、信頼性が向上する傾向となる。
【0066】
本実施形態の誘電体粒子20の結晶粒子径は、特に限定されないが、好ましくは、0.10〜0.50μmであり、より好ましくは0.15〜0.30μmである。
【0067】
誘電体粒子20の結晶粒子径は、たとえば、以下のようにして測定される。すなわち、素子本体10を誘電体層2および内部電極層3の積層方向に切断し、その断面において誘電体粒子の平均面積を測定し、円相当径として直径を算出し1.27倍した値である。そして、結晶粒子径を200個以上の誘電体粒子について測定し、得られた結晶粒子径の累積度数分布から累積が50%となる値を平均結晶粒子径(単位:μm)とすればよい。なお、結晶粒子径は、誘電体層2の厚さなどに応じて決定すればよい。
【0068】
誘電体磁器組成物における誘電体粒子と粒界とを判別する方法、または主成分相と拡散相と、を判別する方法は特に限定されないが、たとえば透過型電子顕微鏡(TEM)または走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて誘電体層2を観察することにより、誘電体粒子20と粒界21とを判別し、または主成分相22と拡散相23と、を判別する。
【0069】
具体的には、誘電体層2の断面をSTEMにより撮影し、明視野(BF)像を得る。この明視野像において誘電体粒子20と、誘電体粒子20と誘電体粒子20との間に存在し、該誘電体粒子とは異なるコントラストを有する領域を粒界21として確認する。また、前記明視野像において誘電体粒子20の内部に主成分相22と、前記主成分相とは異なるコントラストを有する領域を拡散相22として確認する。
【0070】
異なるコントラストを有するか否かの判断は、目視により行ってもよいし、画像処理を行うソフトウェア等により判断してもよい。
【0071】
また、Csを測定する方法は特に限定されないが、STEMに付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて、誘電体粒子20における点分析を行い、誘電体粒子20における各元素の含有割合を算出する。
【0072】
具体的には、EDSを用いて、誘電体粒子20であると判断した領域において点分析を行う。このとき、誘電体粒子以外の領域、たとえば粒界などに含まれる元素の情報が検出されないように、ビーム径、加速電圧、CL絞り等の測定条件を調整する。なお、測定点の数は特に制限されないが、主成分相の重心Jから縁端までの1つの線分につき、10点以上であることが好ましい。
【0073】
TEMまたはSTEMにより撮影して得られた、明視野(BF)像において、コントラストの違いから確認される主成分相と拡散相の境界は、前記中間区間におけるCsの極大値に対応している傾向にあるが、場合によっては、前記境界と前記中間区間におけるCsの極大値がずれていることもある。
【0074】
<内部電極層3>
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、本実施形態では、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種類以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0075】
<外部電極4>
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0076】
<積層セラミックコンデンサ1の製造方法>
本実施形態の誘電体磁器組成物を誘電体層として有する積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明するが、本実施形態の積層セラミックコンデンサの製造方法は以下の方法に限定されない。
【0077】
まず、誘電体層を形成するための誘電体原料を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0078】
誘電体原料として、まずABOの原料と、Mgの酸化物の原料と、希土類元素の酸化物の原料と、Siを含む酸化物の原料と、を準備する。これらの原料としては、上記した成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0079】
なお、ABOの原料は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0080】
さらに、誘電体層に、上記の主成分および副成分以外の成分が含有される場合には、該成分の原料として、上記と同様に、それらの成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができる。また、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物を用いることができる。
【0081】
誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上述した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。塗料化する前の状態で、誘電体原料の粒径は、通常、平均粒径0.1〜1μm程度である。
【0082】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0083】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。バインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法などに応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0084】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0085】
内部電極層用ペーストは、上記したNiやNi合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記したNiやNi合金となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製すればよい。また、内部電極層用ペーストには、共材が含まれていてもよい。共材としては特に制限されないが、主成分と同様の組成を有していることが好ましい。
【0086】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0087】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0088】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0089】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層し、所定形状に切断してグリーンチップとする。
【0090】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。また、脱バインダ処理における雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とする。
【0091】
脱バインダ後、グリーンチップの焼成を行う。本実施形態では、焼成工程は、第1焼成工程と第2焼成工程とから構成される。第1焼成では、昇温速度を好ましくは200℃/時間以上とする。第1焼成時の保持温度は、好ましくは1100〜1300℃であり、その保持時間は、好ましくは0.1〜4時間である。
【0092】
第1焼成時の雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0093】
また、第1焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、雰囲気中の酸素分圧は、1.0×10−8〜1.0×10−2Paとすることが好ましい。降温速度は、好ましくは50℃/時間以上である。
【0094】
本実施形態では、第1焼成後の素子本体に対し、第1焼成時の保持温度よりも低い温度かつ低い酸素分圧において第2焼成工程を行うことが好ましい。
【0095】
具体的には、第2焼成における保持温度は、好ましくは1000〜1200℃であり、保持時間は、好ましくは5〜400時間であり、昇温速度は、好ましくは200℃/時間以上であり、降温速度は、50℃/時間以上である。
【0096】
また、第2焼成時の雰囲気は、還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。第2焼成時の酸素分圧は、10−10〜10−7Paとすることが好ましい。
本実施形態では、第2焼成後の素子本体に対し、酸化処理を行うことが好ましい。具体的には、酸化処理における保持温度は、好ましくは650〜1100℃であり、保持時間は、好ましくは0.5〜9時間である。また、酸化処理時の雰囲気は、加湿したNガス(酸素分圧:1.0×10−3〜1.0Pa)とすることが好ましい。
【0097】
上記した脱バインダ処理、焼成(第1焼成および第2焼成)および酸化処理において、Nガスや混合ガス等を加湿する場合には、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0098】
脱バインダ処理、焼成(第1焼成および第2焼成)および酸化処理は、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0099】
焼成条件および酸化処理条件を上記のように制御することで、粒界における各元素の含有割合や粒界の厚み、偏析領域の存在状態を所望のものとすることができる。その結果、誘電体磁器組成物におけるMg、Si、Rの酸化物などの含有量にかかわらず、良好な誘電特性を示す積層型セラミック電子部品を得ることができる。
【0100】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成し、積層セラミックコンデンサを得る。得られた積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0101】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサの誘電体層は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物により構成され、具体的には、誘電体粒子内の副成分元素が所定の濃度分布を有する。
【0102】
なお、誘電体粒子内における副成分元素の濃度分布を所定の分布とする方法としては、前記の方法に限られず、例えば、副成分の添加量を調整することによっても得ることができる。しかしながら、副成分の添加量の調整の場合、添加量調整によって諸特性にも影響をおよぼす場合が生じうるため、本実施形態で示した焼成条件による調整が好ましい。
【0103】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0104】
上述した実施形態では、本発明に係る積層型セラミック電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る積層型セラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成を有する電子部品であれば何でも良い。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0106】
<試料1〜7、8〜26>
まず、主成分であるABOの原料としてBaTiO粉末を準備した。また、副成分の原料としては、Mgの酸化物の原料としてMgCO粉末、希土類元素の酸化物の原料としてDy粉末、Y粉末、Siを含む酸化物の原料として(Ba0.6Ca0.4)SiO(以下、BCGともいう)粉末、Mnの酸化物の原料としてMnO粉末、Vの酸化物の原料としてV粉末を、それぞれ準備した。なお、MgCOは、焼成後には、MgOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0107】
次に、上記で準備したBaTiO粉末(平均粒子径:0.15μm)と副成分の原料とをボールミルで15時間湿式粉砕し、乾燥して誘電体原料を得た。なお、各副成分の添加量は、焼成後の誘電体磁器組成物において主成分であるBaTiO100モルに対して、各酸化物換算で、MgOが2.0モル、Dyが0.5モルが0.5モル、BCGが0.9モル、MnOが0.1モル、Vが0.1モルとなるようにした。
【0108】
次いで、得られた誘電体原料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0109】
また、上記とは別に、Ni粉末:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0110】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0111】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成(第1焼成および第2焼成)および酸化処理を下記条件にて行って、焼結体としての素子本体を得た。
【0112】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:15℃/時間、保持温度:280℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0113】
第1焼成条件は、昇温速度:200〜2000℃/時間、保持時間を0.5〜2時間とし、降温速度:200〜2000℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガスとし、雰囲気ガスの酸素分圧と保持温度は表1〜4に示すとおりとした。
【0114】
第2焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持時間:200時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN+Hガスとし、雰囲気ガスの酸素分圧と保持温度は表1〜4に示すとおりとした。
【0115】
酸化処理条件は、昇温速度:200℃/時間、保持時間:2時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したNガスとし、雰囲気ガスの酸素分圧と保持温度は表1〜4に示すとおりとした。
【0116】
なお、焼成および酸化処理の際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0117】
次いで、得られた素子本体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてCuを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、1.0mm×0.5mm×0.5mmであり、誘電体層の厚みが1.0μm、内部電極層の厚みが1.0μmであった。また、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は200とした。
【0118】
試料7aに関しては、第2焼成を行わず、脱バインダ処理条件と、第1焼成と、酸化処理条件を以下のとおりとした以外は、試料1〜7、8〜26と同様にしてコンデンサ試料を得た。なお、第1焼成と再酸化処理の保持温度と雰囲気ガスの酸素分圧は表1に示す。
【0119】
脱バインダ処理条件:
昇温速度:25℃/時間
保持温度:260℃
温度保持時間:8時間
雰囲気:空気中
第1焼成条件
昇温速度:
200℃/時間(〜800℃)
300℃/時間(800〜1000℃)
400℃/時間(1000℃〜保持温度)
降温速度:昇温速度と同様
雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス
再酸化処理条件
昇温速度:200℃/時間
温度保持時間:2時間
降温速度:200℃/時間
雰囲気ガス:加湿したNガス
【0120】
試料7bに関しては、第2焼成を行わず、脱バインダ処理条件と、第1焼成と、酸化処理条件を以下のとおりとした以外は、試料1〜7、8〜14と同様にしてコンデンサ試料を得た。なお、第1焼成と再酸化処理の保持温度と雰囲気ガスの酸素分圧は表1に示す。
【0121】
脱バインダ処理条件:
昇温速度:20℃/時間
保持温度:300℃
温度保持時間:8時間
雰囲気:空気中
第1焼成条件
昇温速度:500℃/時間
保持時間:0.5時間
雰囲気ガス:加湿したN+H混合ガス
再酸化処理条件
昇温速度:300℃/時間
温度保持時間:2時間
降温速度:300℃/時間
雰囲気ガス:加湿したNガス
【0122】
得られたコンデンサ試料のうち、試料1〜7、7a、7b、15〜20は、誘電体粒子中における希土類元素の濃度分布、高温加速寿命および比誘電率の測定を、それぞれ下記に示す方法により行った。また、試料8〜14、21〜26は、誘電体粒子中におけるMgの濃度分布、容量温度変化率および比誘電率の測定を、それぞれ下記に示す方法により行った。
【0123】
<誘電体粒子における希土類元素またはMgの濃度分布>
コンデンサ試料を誘電体層に対して垂直な面で切断した。この切断面について、STEM観察を行い、誘電体粒子と粒界との判別、および、主成分相と拡散相と、の判別を行い、任意の断面線分の長さDを求め、中間区間(縁端から断面線分の長さDの10%の位置と、縁端から断面線分の長さDの30%の位置と、の間の区間)を決定した。なお、図6は試料6のSTEM写真である。
【0124】
次いで、各試料の切断面における任意の誘電体粒子の任意の縁端から前記切断面における主成分相の重心までの線分を点分析した。具体的には、STEMに付属のEDS装置を用いて、1つの線分につき13点の点分析を行った。13点の内訳は、下記式(2)で表わされる0%、4%、8%、12%、16%、20%、24%、28%、32%、36%、40%、44%、50%の位置である。
(縁端から測定点までの長さ/断面線分の長さD)×100[%]・・・(2)
【0125】
測定により得られた特性X線を定量分析し、各測定点におけるCs(希土類元素またはMgの濃度[原子%])を算出した。本実施例における希土類元素の濃度とは、DyとYの合計の濃度である。
【0126】
各試料について上記のとおり、Csの分布を測定したが、いずれの試料においても、前記縁端から前記切断面における主成分相の重心までの線分の長さは前記断面線分の長さDの40%〜70%の長さであり、前記縁端から前記切断面における主成分相の重心までの線分上の前記縁端から主成分相と拡散相の境界部までの長さは、前記断面線分の長さDの10〜40%であった。
【0127】
次いで、縦軸を希土類元素の濃度、横軸を下記式(2)で表わされる測定点の位置として、プロットし、希土類元素の濃度の分布を確認した。
(縁端から測定点までの長さ/断面線分の長さD)×100[%]・・・(2)
【0128】
表5は試料1s、5s、7bsの誘電体粒子中の希土類元素濃度と測定点との関係を示した表であり、図7は、表5をグラフ化したものである。
【0129】
試料1〜7、7a、7b、8〜14に関しては、以下の点について確認した。まず、縁端から断面線分の長さDの5%未満の区間におけるCsの最大値が縁端に存在するか否かを確認した。また、縁端から断面線分の長さDの5%以上50%以下の位置に表れるCsの極大値の存在の有無を確認し、存在する場合にはその位置を確認した。結果を表1および2に示す。
【0130】
試料15〜26に関しては、縁端におけるCs(Cso)と、中間区間におけるCsの極大値よりも縁端側に存在する極小値(Csm)と、中間区間におけるCsの極大値(Csi)と、を測定し、(Csi−Cso)、(Csi−Csm)および(Cso−Csm)を算出した。結果を表3および表4に示す。なお、試料15〜26では、いずれも縁端から断面線分の長さDの5%未満の区間におけるCsの最大値が縁端に存在していた。
【0131】
<高温加速寿命(HALT)>
コンデンサ試料に対し、180℃にて、6V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、絶縁抵抗(IR)の経時変化を測定することにより、高温加速寿命を評価した。本実施例においては、20個のコンデンサ試料について印加開始から絶縁抵抗が1桁下がるまでの時間を測定し平均値を求めた。本実施例では、20時間以上を良好とし、40時間以上をより良好とした。結果を表1、表3および表4に示す。
【0132】
<比誘電率ε>
比誘電率εは、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。比誘電率は高いほうが好ましく、本実施例では3000以上を良好とした。結果を表1および表2に示す。
【0133】
<静電容量の温度特性>
コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で静電容量を測定し、続いて85℃における静電容量を測定し、25℃における静電容量に対し、静電容量の変化率ΔCを算出した。本実施例では変化率ΔCは、±15%以内を良好とした。すなわち、X5R特性を満足するものを良好とした。結果を表2に示す。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
【表3】

【0137】
【表4】

【0138】
【表5】

【0139】
表1より、中間区間にCsの極大値が存在する場合には(試料4〜6)、中間区間にCsの極大値が存在しない場合(試料1、2)、またはCsの極大値が中間区間よりも縁端側に存在する場合(試料3、7a)に比べて、高温加速寿命が低いことが確認できた。
【0140】
図4は、図1に示す誘電体層2の構造を説明するための概念図である。また、図5(A)、図5(B)および図5(C)は、図4のV部の拡大断面図である。
【0141】
試料4〜6では中間区間にCsの極大値が存在することにより、図5(A)に示すように、中間区間と、縁端と、に電圧負荷が分散され、その結果、高温負荷寿命の低下が抑制されたと考えられる。一方、試料1〜3では中間区間にCsの極大値が存在しないため、図5(B)に示すように、縁端に電圧負荷が集中し、その結果、高温負荷寿命が低下したと考えられる。また、試料7aでは縁端にも中間区間にもCsが高い領域がないことから、縁端と中間区間の間に電圧負荷が集中し、その結果、高温負荷寿命が低下したと考えられる。
【0142】
表1より、中間区間にCsの極大値が存在する場合には(試料4〜6)、Csの極大値が中間区間よりも中心側に存在する場合(試料7)に比べて、比誘電率が高いことが確認できた。
【0143】
試料7は、中間区間よりも中心側にCsの極大値が存在するため、主成分相の面積が小さくなり、その結果、比誘電率が低くなったと考えられる。
【0144】
表1より、中間区間にCsの極大値が存在していても、縁端から断面線分の長さDの5%未満の区間におけるCsの最大値が縁端に存在しない場合には(試料7b)には、高温負荷寿命が低くなることが確認できた。これは、縁端におけるCsが低いため、図5(C)に示すように中間区間に電圧負荷が集中し、その結果、粒界が劣化しやすくなったためであると考えられる。
【0145】
表2より、中間区間にCsの極大値が存在する場合には(試料11〜13)、Csの極大値が存在しない場合(試料8、9)、またはCsの極大値が中間区間よりも縁端側に存在する場合(試料10)に比べて、容量温度変化率が良好になることが確認できた。
【0146】
試料11〜13では中間区間にCsの極大値が存在することにより、図5(A)に示すように、中間区間と、縁端と、に電圧負荷が分散され、その結果、容量温度変化率が良好になったと考えられる。
【0147】
表2より、中間区間にCsの極大値が存在する場合には(試料11〜13)、Csの極大値が中間区間よりも中心側に存在する場合(試料14)に比べて、比誘電率が高いことが確認できた。
【0148】
試料14は、中間区間よりも中心側にCsの極大値が存在するため、主成分相の面積が小さくなり、その結果、比誘電率が低くなったと考えられる。
【0149】
表3より、中間区間におけるCsの極大値(Csi)と、縁端におけるCs(Cso)と、が、0原子%<Csi−Cso≦1原子%の関係式を満たす場合(試料16〜19)、前記関係式を満たさない場合(試料15、20)に比べて、高温負荷寿命がより高くなることが確認できた。
【0150】
これは、CsiとCsoとが、前記関係式を満たすことにより、縁端と中間区間とに電圧負荷が分散され、電圧負荷の集中を防ぐことができたためであると考えられる。
【0151】
表4より、中間区間におけるCsの極大値(Csi)と、縁端におけるCsの極大値(Cso)と、が、0原子%<Csi−Cso≦1原子%の関係式を満たす場合(試料22〜25)、前記関係式を満たさない場合(試料21、26)に比べて、高温負荷寿命がより高くなることが確認できた。
【0152】
これは、CsiとCsoとが、前記関係式を満たすことにより、縁端と中間区間とに電圧負荷が分散され、電圧負荷の集中を防ぐことができるためであると考えられる。
【符号の説明】
【0153】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… 素子本体
2… 誘電体層
20、20d、20e、20f… 誘電体粒子
21… 粒界
22、22d、22e、22f… 主成分相
23、23d、23e、23f… 拡散相
241a、242a、241b、242b、241c、242c、242d、241e、242e、241f… 縁端
25a、251b、252b、251c、252c… 境界
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する主成分と、少なくとも1種以上の副成分元素と、を含む誘電体磁器組成物であって、
前記誘電体磁器組成物が、誘電体粒子と、粒界と、を有し、
前記誘電体粒子中の任意の位置における前記副成分元素から選ばれる1種類以上の元素の濃度をCsとし、
前記誘電体粒子が、実質的に前記主成分で構成される主成分相と、前記主成分相の周囲に、前記副成分元素から選ばれる少なくとも1種類が拡散した拡散相と、を有し、
前記誘電体粒子について、前記主成分相を含む任意の切断面で切断し、
前記切断面における誘電体粒子の任意の縁端から前記切断面における主成分相の重心を通過して対向する任意の縁端に至る断面線分の長さをDとしたとき、
前記縁端から前記断面線分の長さDの10%の長さの位置と、前記縁端から前記断面線分の長さDの30%の長さの位置と、の間の中間区間に、前記縁端から前記重心までのCsの分布におけるCsの極大値が存在し、
前記Csの極大値の位置よりも縁端側にCsの極小値が存在し、前記Csの極小値の位置から前記縁端に向かってCsが上昇する誘電体粒子を含むことを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記誘電体粒子の縁端にCsの極大値を有することを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記中間区間におけるCsの前記極大値をCsiとし、
前記縁端におけるCsをCsoとしたとき、CsiとCsoは、下記の関係式(1)を満たす請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
0原子%<Csi−Cso≦1原子% (1)
【請求項4】
前記副成分元素はY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Pr、Scから選ばれる少なくとも1種類の希土類元素を含み、
前記Csは、誘電体粒子中の任意の位置における希土類元素の合計の濃度である請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記副成分元素は少なくともMgを含み、
前記Csは、誘電体粒子中の任意の位置におけるMgの濃度である請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。



【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−193072(P2012−193072A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58427(P2011−58427)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】