説明

調整された横方向および縦方向制御のためのモデル予測制御装置

1枚の材料シートを製造するためのシート製作機における縦方向MDおよび横方向CDアクチュエータの調整された制御のためのプロセスが開示される。本プロセスは、シート測定データを収集するために規則的な間隔で複数のシート特性を測定することを含む。シート測定データは、複数のシート特性測定値配列を確立するために処理され、その配列は、次いで、共通解像度にマップされる。共通解像度シート特性測定値配列は、1つのより大きい1次元共通解像度測定値配列へと結合される。共通解像度測定値配列およびアクチュエータ設定値の過去の変更配列は、抄紙機プロセス・モデル状態オブザーバへの入力として使用されて、シート製造プロセスの推定される現在の内部状態が生成される。複数の未来のシート特性目標配列は結合されて、1つの目標配列となる。ウェブ製造プロセスの推定される現在の内部状態配列、および抄紙機プロセス・モデルは、シート特性の未来の予測配列を生成するために用いられる。シート特性の未来の予測配列と、目標配列と、オブジェクト関数の重みと、最後のアクチュエータ設定値と、ハード制約とが、オブジェクト関数に入力され、その関数を解くことによりシート製作プロセスの調整されたMDおよびCD制御のためのアクチュエータ設定値の最適な変更を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート製作プロセスの制御に関連し、より詳細には、シート製作機における縦方向および横方向アクチュエータのオペレーションを調整するのための方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
シート製作機におけるシート特性の制御は、シートの特性を可能な限り目標値に近い値に保つことに関する。シート特性の制御には、2組の異なるアクチュエータが使用される。第1に、シート特性の横方向(CD:cross direction)平均値にだけ影響する縦方向(MD:machine direction)アクチュエータがある。各MDアクチュエータは、シート特性において異なる動的応答を有することができる。第2に、CD方向にシートを横断して配列されたCDアクチュエータがある。CDアクチュエータの各アレイは、シート特性の平均値及びCD形状の双方に影響することができる。CDアクチュエータは、シート特性における異なる動的応答および異なる空間応答を有することができる。シート特性の全体的な制御問題は、非常に多変量になる。即ち、CDアレイ中の1つのCDアクチュエータは、幾つかのシート特性において隣接するCDゾーンに影響し、また特定のシート特性を制御するよう意図したCDアクチュエータの平均的な効果は、幾つかのMDアクチュエータによっても影響される幾つかのシート特性の平均値に影響する可能性がある。その問題はまた、非常に大規模なものである。典型的な制御プロセスは、数千の出力(シート特性の測定値)、および数百の入力(アクチュエータの設定値)を有する可能性がある。プロセスはまた、特定の空間方向およびアクチュエータ内設定方向に制御することは困難または不可能である。
【0003】
現在、従来の大部分のシート製作装置では、シート特性の制御を2つの制御問題に分離する。第1に、CD平均値は、シート特性のCD平均値に対するCDアクチュエータの効果を利用せずに、MDアクチュエータを利用するだけで制御される。第2に、シートを横断して配列されたCDアクチュエータは、シート特性の平均値まわりのCD変動を制御するためだけに利用される。現在、MDアクチュエータを調整するための明示的なハード制約処理とともに、モデル予測制御を用いるMD制御方式が利用できる。
【0004】
モデル予測制御を用いて1つまたは複数のシート特性を制御する、CDアクチュエータ・アレイの最適に調整された制御は、例えば、Backstrom J、Henderson B、およびStewart C、「Identification and multivariable control of supercalenders」、Control Systems 2002、2002年6月、ストックホルム、スウェーデン、および、Backstrom J. U、Gheorghe C、Stewart G. E、Vyse R.N、「Constrained model predictive control for cross directional multi−array processes」、Pulp & Paper Canada、T128 102:5 (2001) などの記事で論じられている。
【0005】
MDアクチュエータおよびCDアクチュエータを調整する必要性は、本願の権利者が所有する2000年7月25日に発行された米国特許第6,094,604号で明らかにされている。この問題に対して提案される解決策はまた、互いに通信するアクチュエータにおける分散型局所化インテリジェント制御装置のシステムを含む‘604特許中に開示されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の概要)
上記で概要を説明した問題に対処するために、本発明は、調整されたMDおよびCD制御のための柔軟な大規模多変量モデル予測制御装置を提供し、その制御装置は、入力としてシート特性測定値の複数の配列を取り込み、複数の出力配列(アクチュエータ設定値)を生成する。その配列は、任意の次元のものとすることができる。1つのMD配列は、1×1の配列と見なすことができる。任意の数の入力および出力配列とすることができる。本発明は、新しく最適に調整される設定値を均等な制御間隔で計算する。各シート特性に対して、CDコンポーネントだけ、MDコンポーネントだけ、またはMD及びCDコンポーネントの双方に、制御することができる。本発明は、予測区間(prediction horizon)Hpから未来の制御区間Hcにおけるアクチュエータ設定値に対する、動的及び2次元応答を予測する。次いで、本発明は、未来の予測シート特性を可能な限り目標に近付ける未来の最適な設定値を計算する。制御装置はまた、アクチュエータに対する物理的制限を明示的に考慮に入れる。制御装置は、アクチュエータ設定値を困難な空間方向およびアクチュエータ内設定プロセス方向で発行することを回避することにより、2つのタイプの方向問題を処理する。これにより、閉ループの2次元ロバストな安定性を得ることができる。
【0007】
従って、本発明は、1枚の材料シートを製作するためのシート製作機における縦方向MDおよび横方向CDアクチュエータの調整された制御のためのプロセスを提供し、そのプロセスは、
シート測定データを収集するために規則的な間隔で複数のシート特性を測定するステップと、
そのシート測定データを、複数のシート特性測定値配列を確立するために処理するステップと、
1次元共通解像度測定値配列を確立するためにシートの特性測定値配列を処理するステップと、
シート製造プロセスの推定される現在の内部状態配列を生成するステップと、
未来のシート特性の目標配列を確立するステップと、
シート製造プロセスの推定される現在の内部状態配列およびシート機プロセス・モデルを用いて、シート特性の未来の予測配列を生成するステップと、
シート特性の未来の予測配列、未来のシート特性目標配列、および前のアクチュエータ設定値配列を、可解なオブジェクト関数に入力して、シート製作プロセスの調整されたMDおよびCD制御のために、現在のアクチュエータ設定値の最適な変更配列を得るステップと、
を含む。
【0008】
本発明はまた、1枚の材料シートを製造するためのシート製作機における縦方向MDおよび横方向CDアクチュエータの調整された制御のためのプロセスを提供し、そのプロセスは、
シート測定データを収集するために規則的な間隔で複数のシート特性を測定するステップと、
複数のシート特性測定値配列を確立するために、シート測定データを処理するステップと、
シート特性測定値配列を共通解像度にマップするステップと、
共通解像度シート特性測定値配列を、1つのより大きい1次元共通解像度測定値配列に結合するステップと、
共通解像度測定値配列およびアクチュエータ設定値の過去の変更配列を、シート機プロセス・モデル状態オブザーバに入力することにより、シート製造プロセスの推定される現在の内部状態配列を生成するステップと、
複数の未来のシート特性目標配列を1つの目標配列に結合するステップと、
シート製造プロセスの推定される現在の内部状態配列およびシート機プロセス・モデルを用いて、シート特性の未来の予測配列を生成するステップと、
シート特性の未来の予測配列、目標配列、オブジェクト関数の重み、最後のアクチュエータ設定値配列、およびハード制約を、オブジェクト関数に入力するステップと、
オブジェクト関数を解いて、シート製作プロセスの調整されたMDおよびCD制御のために現在のアクチュエータ設定値の最適な変更配列を得るステップと、
を含む。
【0009】
本発明は、CDアクチュエータ・アレイおよびMDアクチュエータを最適に操作しかつ調整するように動作し、シート特性におけるMDおよびCD変動を最小化することができる。
【0010】
本発明は、MDアクチュエータとCDアクチュエータ・アレイの間の対話を最適に調整する。本発明は更に、空間利得の低い方向に移動するコストを表現するためにオブジェクティト関数中に一般(general)重み付け関数を有する。本発明は更に、小さなアクチュエータ内設定方向に移動するコストを表現するための明示的な重み付け関数を有する。本発明は更に、CDアクチュエータ・アレイ設定値平均の許容可能範囲を指定するハード制約を含む。本発明は、シート特性のCDコンポーネントだけ、MDコンポーネントだけ、あるいはCD及びMDコンポーネントの双方に制御するようにセットアップすることができる。
【0011】
本発明のプロセスは、複数の分散された制御装置ではなく、1つの集中化された制御装置を使用することが好ましい。
【0012】
本発明は、ハード・アクチュエータ制約を明示的に考慮に入れる。
【0013】
なお、本発明の諸態様を、単なる例に過ぎないが、添付の図面中に示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明のプロセスに従って制御可能なシート製作機の一実施例として典型的な抄紙機12を示す。縦方向MDは、シートが製造されているとき、シート製作機を介して搬送される方向20として定義される。横方向CDは、MDに直角な方向22である。図示の抄紙機による紙シートの製造プロセス全体は、まず、木材パルプをマシンのウェット・エンド14にあるヘッド・ボックス1に供給することを含む。ヘッド・ボックス1は、移動ワイヤ16上に、そのパルプを抄紙機の幅にわたって薄く配するように動作する。抄紙機12の残りでは、製造中の紙シートがそれを加熱し加圧するローラ列を介して搬送されるとき水分が除去されることにより、紙が形成される。仕上がった紙シートは、最終的に、マシンのドライ・エンド18にある格納リール11に巻き取られる。
【0015】
抄紙プロセスを制御するために、シート特性をコンスタントに測定する必要があり、シートの品質を保証するために抄紙機を調整しなければならない。その制御は、一般に、製造プロセスの様々な段階でシート特性を測定することによって、またその測定された情報を用いて抄紙機内のアクチュエータを調整し、所望の目標からのシート特性の任意の変動を補償することによって達成される。図1の抄紙機12では、シート特性のCDプロファイルを表す測定値配列を提供するために、2つの走査測定装置6および10が使用される。新しいCDプロファイルは、通常10秒から30秒の範囲の均等な走査またはサンプリング間隔で取得される。典型的な測定プロファイルの実施例は、(乾燥繊維の)重量、水分、紙厚(キャリパ)、光沢、および平滑性である。測定値配列(CDプロファイル)は、様々なサイズを有しており、通常600から2000エレメントに及ぶ。
【0016】
本発明のプロセスは、品質管理システム(QCS)コンピュータ25中のソフトウェア・アプリケーションによって実施されることが好ましい。QCSは、本発明のプロセスが利用するある範囲のシステム・サービスを提供する。例えば、QCSによって提供される主要なシステム・サービスは、測定装置とアクチュエータへの通信インターフェースである。図1で、通信インターフェースは、アクチュエータとセンサを相互接続するためのLANに類似したネットワーク26を含む。他の主要なシステム・サービスは、本発明に対するヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)である。走査装置またはセンサの固定アレイなどの測定装置は、マシン幅にわたりシート特性の測定を行う。測定装置は、通常、搭載コンピュータを有し、そのコンピュータは、信号処理を行い、QCSコンピュータへの通信インターフェースを提供する。2つのタイプのアクチュエータがある。第1に、シートの幅全体に影響するだけの、即ち、シート特性の平均値を変える縦方向(MD)アクチュエータである。第2に、マシンの幅全体にわたるアクチュエータ・アレイである横方向CDアクチュエータ・ビームがある。CDアクチュエータ・ビームは、シート特性の平均値とシート特性のCD形状との双方に影響する。アクチュエータは、通常、規制的な制御に加えて隣接するアクチュエータおよびQCSゲートウェイと通信する搭載コンピュータを有しており、インテリジェントである。このような構成は、Spinner他による、「Distributed Intelligence actuator controller with peer−to−peer actuator communication(ピアツーピアのアクチュエータ通信を用いる分散型知的アクチュエータ制御装置」と題する米国特許第5,771,175号に全体的に開示されており、その開示を参照により本明細書に組み込む。
【0017】
図1の抄紙機におけるMDアクチュエータの一実施例は、ヘッド・ボックス1のシック(thick)・ストック・バルブ2であり、それは、到着するパルプの粘度(consistency)を制御し、後に、製造中の紙シートのMD重量およびMD水分に影響する。図示されている他のMDアクチュエータは、ドライヤ・セクションのスチーム流量バルブ8であり、それは、ドライヤ・セクションのロールにより与えられる熱を調整し、後に、シートのMD水分およびMD紙厚に影響する。
【0018】
図1で、抄紙機12の横方向に延長されるCDアクチュエータ・アレイの一実施例は、ヘッド・ボックス1上にマウントされたスライス・アクチュエータ3のアレイであり、それは、ヘッド・ボックス開口部領域を調整するように動作し、後に、シートのCD重量、水分、および紙厚に影響する。スライス・アクチュエータ3はまた、パルプ・フローの速度が一定に維持される場合、MD重量および水分に影響する。CDスチーム・アクチュエータ4は、シートに蒸気を与え、MD/CD水分、およびCD紙厚に影響する。そのCDスチーム・アクチュエータ・ビームがカレンダ・スタック中に位置する場合、それはまた、MDおよびCD光沢および平滑性に影響することになる。CDリウェット(rewet)・アクチュエータ5および7は、シートに細かい水のスプレーを加え、MD/CD水分およびCD紙厚に影響する。CDリウェット・アクチュエータが、カレンダ・スタックのすぐ前に位置する場合、リウェット・アクチュエータはまた、MD/CD光沢および平滑性に影響することも可能である。図1に示す最後のCDアクチュエータ・アレイは、カレンダ・スタック中の誘導加熱ビーム9である。誘導加熱ビームは、CD紙厚、MC/CD光沢および平滑性に影響する。
【0019】
様々なアレイ中のCDアクチュエータは、不均一な間隔で配置することができ、通常、30から200エレメントの範囲である。
【0020】
本発明のプロセスは、シート特性のすべての測定値配列を取り込み、各アクチュエータが各シート特性に対して有する影響を考慮に入れて、すべてのMDアクチュエータおよびCDアクチュエータのためにアクチュエータ設定値を最適に計算することを含む。
【0021】
図2は、抄紙機プロセスに組み込まれた、本発明のプロセスの閉ループのブロック図を示す。本発明のプロセスは、波線30でマーク付けされた境界で定義される。抄紙機制御プロセスは、31で概略を示す。
【0022】
最初に、少なくとも1つの特性測定値配列が、本発明のプロセスへの入力配列として提供される。図2のブロック図で、入力配列として、例えば、重量と、水分と、紙厚とを表す3つのシート特性配列y(k)と、y(k)と、y(k)とが、ステップ35で提供される。kは、現在のサンプリング・インスタントを示す。当業者であれば、本発明のプロセスに入力されるシート特性配列の数は、測定され制御されるシート特性にのみ依存することが明らかであろう。
【0023】
各シート特性測定値配列は、異なる次元を有することができる。ステップ36で、シート特性測定値配列は、通常、まず時間フィルタFを用いてフィルタされ、周知のフィルタリング技法を用いて、シート特性中のノイズおよび制御できないMD変動が除去される。その時間フィルタリングは、本発明の部分ではないので、それを、他のQCSシステム・サービスと見なすことができる。フィルタされたシート特性測定値配列は、以下で述べる本発明の共通解像度マッピング・コンポーネント39への入力となる。
【0024】
ステップ38で、入力配列は、まず、共通解像度Nycにマップされる。共通解像度は、好ましくは、正確な2次元プロセス・モデルを取得するために、最も高いアクチュエータ解像度の3倍を超えるものとすべきである。共通解像度マッピング・コンポーネント39により、得られた共通解像度配列yf1(k)、yf2(k)、およびyf3(k)中に偽測定情報が現れないようにすることができる。
【0025】
次いで、ステップ40で、共通解像度測定値配列は結合されて、次元が1×3Nycの1次元配列y(k)となる。結合された共通解像度測定値配列y(k)およびアクチュエータ設定値の過去の変更配列Δu(k)は、次いで、状態オブザーバ・コンポーネント42に送られる。状態オブザーバ・コンポーネント42は、結合された測定値配列y(k)およびアクチュエータ設定値の過去の変更配列Δu(k)に基づき、抄紙機プロセスの推定される現在の内部状態を表す配列x(k)を生成する。
【0026】
各シート特性測定値配列は、未来のシート特性目標配列y1ref(k+j)と、y2ref(k+j)と、y3ref(k+j)とにそれぞれ関連づけられる。未来の目標配列は、抄紙機のオペレータによって提供される情報に基づくQCSシステム・サービスとして提供される。j>0は、未来のサンプリング・インスタンスを示す。ステップ44で、シート特性の共通解像度測定値配列と同様に、未来のシート特性目標配列は結合されて、1つのより大きな目標配列yref(k+j)となる。
【0027】
シート特性コンポーネント・セレクタ・モジュール46により、ユーザは、本発明の制御装置がシート特性のCD/MDコンポーネントを共に制御すべき場合、CDコンポーネントだけ、またはMDコンポーネントだけを指定することができる。シート特性コンポーネント・セレクタ・モジュール46によると、目標配列yref(k+j)および共通解像度測定値配列y(k)を、所望モードを達成するように変更することができる。
【0028】
推定される現在の状態配列x(k)と、結合された未来のシート特性目標配列yref(k)と、アクチュエータ設定値の過去の変更配列Δu(k)とは、CDMD−MPCコア・モジュール48への入力として使用される。抄紙機プロセスのモデル50、ならびにオブジェクト関数の重みおよびハード制約52はまた、CDMD−MPCコア・モジュール48への入力として働く。その情報に基づき、CDMD−MPCコア・モジュール48は、アクチュエータの物理的制限(ハード制約)の下に、可能な限りその目標にすべてのシート特性を近付けるように最適に調整された設定値を生成する。
【0029】
最適に調整された設定値の計算は、以下のサブ関数で行われる。
【0030】
推定される現在の状態の現在の内部状態x(k)およびプロセス・モデルに基づき、CDMDMPC予測モジュールは、シート特性の未来の予測y(k+j)を生成する。ただし、j>0は未来のサンプリング・インスタンスを表す。抄紙機プロセス・モデルは、以下の状態空間形式(A、B、C、N)で表されることが好ましい。
【0031】
x(k+1)=Ax(k)+BΔu(k−N) (1)
y(k)=Cx(k)
ただし、kはサンプリング・インスタンスであり、Aは、プロセスの動的な時間情報を含む状態遷移行列であり、Bは、プロセスの静的な空間情報を含む状態入力行列であり、Cは、状態出力行列であり、Nは、サンプル中のプロセス・トランスポート遅延である。代替的に、抄紙機モデルは、インパルス応答モデル、ステップ応答モデル、または伝達(transfer)関数モデルなど、他の形式で表すこともできる。抄紙機プロセス・モデルは、2次元プロセス・モデルを識別するための自動化ツールを用いて取得することが好ましい。このような自動化ツールは、Gorinevsky D.、Heaven E.M.、Gheorghe C、「High performance identification of cross−directional processes」、Control systems 1998、Povoro、フィンランド、1998年9月、による参照中で論じられており、その開示を参照により本明細書に組み込む。
【0032】
シート特性の未来の予測y(k+j)は、次に、未来の目標配列yref(k+j)、オブジェクト関数の重みQ、最後のアクチュエータ設定値u(k−1)、ハード制約、およびオブジェクト関数J(t)と共にQP定式化モジュールに渡される。オブジェクト関数J(t)は、次の形式であることが好ましい。
【0033】
【数1】

【0034】
e(k+j)=yref(k+j)−y(k+j)は、シート特性における未来の予測されるエラーである。Qは、異なるシート特性間およびシートの異なるCD位置間の相対的な重要性を指定する重み付け行列である。Qを用いると、例えば、水分を重量よりも重要なものとして指定でき、またシートの中央が、シートの端部よりも重要であると指定可能である。Qは、2つの連続するサンプル・インスタンス間のアクチュエータ設定値の大きな変更によるコストを指定する重み付け行列である。Mは、重み付け行列Qと併せて、ユーザに、アクチュエータ設定値プロファイルにおける異なる空間方向に対するコストを指定可能にする行列である。Aおよびbは、ハード制約を指定する制約行列である。空間的に低利得の方向には、閉ループ・システムの空間的にロバストな安定性を可能とするために、高いコストに割り当てる必要がある。低利得方向は、Stewart GE、Backstrom J.U、Baker P、Gheorghe C、およびVyse R.N.、「Controllability in cross−directional processes:Practical rules for analysis and design」、87th Annual Meeting、PAPTAC、モントリオール、ケベック州、2001年2月、による参照中で論じられている短い空間波長に相当し、その開示を参照により本明細書に組み込む。Qは、参照または目標設定値からずらしたアクチュエータ設定値のコストを指定する重み付け行列である。CDアクチュエータ・アレイに対して、アクチュエータのエネルギ消費の観点から、またはシート製作機の動作可能性の観点から、関連するアクチュエータの目標値設定するのが普通である。Sは、重み付け行列Qと併せて、ユーザに、特定のアクチュエータ内設定方向にCDアクチュエータ・アレイおよびMDアクチュエータを移動するコストを指定可能にする行列である。ロバストな安定性を保証するために、低いアクチュエータ内設定利得方向へ移動するためには高いコストを割り当てる必要がある。特定のシート製作プロセスに対するアクチュエータ内設定方向性の影響は、Backstrom J、Henderson B、およびStewart C、「Identification and multivariable control of supercalenders」、Control Systems 2002、2002年6月、ストックホルム、 スウェーデン、による参照中で論じられており、その開示を参照により本明細書に組み込む。
【0035】
本発明のプロセスで考慮されているハード制約は、次のものである。
【0036】
1.例えば、オペレータ制御下のまたは故障している、本発明の制御下にないアクチュエータを制御装置の方へ移動してはならない。
【0037】
2.アクチュエータの設定値は、その物理的な上限および下限内でなければならない。
【0038】
3.1次および2次の曲げ限界(CDアクチュエータ・ビームにのみ適用可能)。
【0039】
4.アクチュエータ設定値平均を特定の制限で、または指定された範囲内で維持すること(CDアクチュエータ・アレイにのみ適用可能)。
【0040】
5.アクチュエータ設定値変更の最大値。
【0041】
QP定式化モジュールはこれらの入力を取り込み、標準形式で2次計画法を作成する。
【0042】
【数2】

【0043】
ここで、Φはヘッセ行列であり、φはヤコビ行列であり、Aおよびbは、制約行列である。
【0044】
式(3)の2次計画法は、Bartlett R. A、Biegler L. T.、Backstrom J、Gopal V、「Quadratic programming algorithms for large−scale model predictive control」、Journal of Process Control、12(2002) 775−795、による参照中で論じられている高度にカスタム化されたQPソルバ(solver)を用いて解かれる。2次計画法を解くことにより、シート製作プロセスの調整されたMDおよびCD制御のためのアクチュエータ設定値Δu(t)の最適な変更配列を得ることができる。
【0045】
ステップ54で、アクチュエータ設定値Δu(t)の最適な変更配列は、次いで、u(t)を形成するためにアクチュエータ設定値の最後の配列u(t―1)に加えられ、ステップ56で、それは、抄紙機プロセス中の異なるMDアクチュエータおよびCDアクチュエータ・アレイに送達するために、次いで、設定値u(t)に分割される。
【0046】
本発明を、明確化し理解しやすくするために、例として詳細に説明してきたが、添付の請求項の範囲に含まれる幾つかの変更および修正を実施できることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明のプロセスに従って動作可能な典型的なシート製作機の概略図である。
【図2】本発明の諸プロセス・ステップを示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の材料シートを製造するためのシート製作機における縦方向MDおよび横方向CDアクチュエータの調整された制御のためのプロセスであって、
規則的な間隔で複数のシート特性を測定し、シートの測定データを収集するステップと、
前記シート測定データを処理し、複数のシート特性測定値配列を確立するステップと、
前記シート特性測定値配列を処理し、1次元共通解像度測定値配列を確立するステップと、
前記シート製造プロセスの推定される現在の内部状態配列を生成するステップと、
未来のシート特性目標配列を確立するステップと、
前記シート製造プロセスの前記推定される現在の内部状態配列およびシート機プロセス・モデルを用いて、シート特性の未来の予測配列を生成するステップと、
前記シート特性の未来の予測配列、前記未来のシート特性目標配列、および前のアクチュエータ設定値配列を、可解なオブジェクト関数に入力し、前記シート製作プロセスの調整されたMDおよびCD制御のために、現在のアクチュエータ設定値の最適な変更配列を得るステップと、
を含むプロセス。
【請求項2】
請求項1に記載のプロセスであって、前記シート特性測定値配列を処理し、1次元共通解像度測定値配列を確立する前記ステップは、
前記シート特性測定値配列を共通解像度にマップするステップと、
前記共通解像度シート特性測定値配列を、より大きい1次元共通解像度測定値配列に結合するステップと、
を含む、プロセス。
【請求項3】
請求項2に記載のプロセスであって、前記シート特性測定値配列を共通解像度にマップする前記ステップは、最も高いアクチュエータ解像度の3倍を超える前記共通解像度を選択するステップを含む、プロセス。
【請求項4】
請求項1に記載のプロセスであって、前記シート製造プロセスの前記推定される現在の内部状態配列を生成する前記ステップは、前記共通解像度測定値配列およびアクチュエータ設定値の過去の変更配列を、シート機プロセス・モデル状態オブザーバに入力するステップを含む、プロセス。
【請求項5】
請求項1に記載のプロセスであって、未来のシート特性目標配列を確立する前記ステップは、複数の未来のシート特性目標配列を1つの目標配列に結合するステップを含む、プロセス。
【請求項6】
請求項1に記載のプロセスであって、前記シート特性の未来の予測配列、前記未来のシート特性目標配列、および前記前のアクチュエータ設定値配列を、シート特性のオブジェクト関数に入力する前記ステップは、オブジェクト関数の重みおよびハード制約を入力するステップを含む、プロセス。
【請求項7】
請求項1に記載のプロセスであって、前記シート機プロセス・モデルは、以下の状態空間形式(A、B、C、N);
x(k+1)=Ax(k)+BΔu(k−N
y(k)=Cx(k)
で表され、
式中、
kは、サンプリング・インスタンスであり、
xは、前記プロセスの前記推定される現在の内部状態配列であり、
Δuは、アクチュエータ設定値の過去の変更配列であり、
Aは、前記プロセスの動的な時間情報を含む状態遷移行列であり、
Bは、前記プロセスの静的な空間情報を含む状態入力行列であり、
Cは、状態出力行列であり、
は、サンプル中のプロセス・トランスポート遅延である、プロセス。
【請求項8】
請求項1に記載のプロセスであって、前記シート機プロセス・モデルは、インパルス応答モデルの形式で表される、プロセス。
【請求項9】
請求項1に記載のプロセスであって、前記シート機プロセス・モデルは、ステップ応答モデルの形式で表される、プロセス。
【請求項10】
請求項1に記載のプロセスであって、前記シート機プロセス・モデルは、伝達関数モデルの形式で表される、プロセス。
【請求項11】
請求項1に記載のプロセスであって、前記シート機プロセス・モデルは、2次元プロセス・モデルを識別するための自動化ツールを用いて生成される、プロセス。
【請求項12】
請求項1に記載のプロセスであって、前記オブジェクト関数は、
【数1】

で表され、
式中、
e(k+j)=yref(k+j)−y(k+j)は、シート特性における未来の予測エラーであり、
は、前記シートの異なるシート特性間および異なるCD位置間の相対的な重要性を指定する重み付け行列であり、
は、2つの連続するサンプル・インスタンス間における大きな前記アクチュエータ設定値変更によるコストを指定する重み付け行列であり、
Mは、重み付け行列Qと併せて、ユーザに、前記アクチュエータ設定値プロファイルにおける異なる空間方向に対するコストを指定可能にする行列であり、
は、基準または目標設定値からずれたアクチュエータ設定値のコストを指定する重み付け行列であり、
Sは、重み付け行列Qと併せて、ユーザに、特定のアクチュエータ内設定方向にCDアクチュエータ・アレイおよびMDアクチュエータを移動するコストを指定可能にする行列であり、
Aおよびbは、ハード制約を指定する制約行列である、プロセス。
【請求項13】
請求項1に記載のプロセスであって、各MDアクチュエータは、1×1配列と見なされる、プロセス。
【請求項14】
請求項1に記載のプロセスであって、前記シート測定データを処理し、複数のシート特性測定値配列を確立する前記ステップは、
シート特性におけるノイズおよび制御できないMD変動を除去するために、時間フィルタを用いて前記シート特性測定データのフィルタリングを実施するステップを含む、プロセス。
【請求項15】
請求項1に記載のプロセスであって、
シート特性のMDコンポーネントとCDコンポーネントの何れを制御すべきか指定するステップを、
追加して含むプロセス。
【請求項16】
1枚の材料シートを製造するためのシート製作機における縦方向MDおよび横方向CDアクチュエータの調整された制御のためのプロセスであって、
規則的な間隔で複数のシート特性を測定し、シートの測定データを収集するステップと、
前記シート測定データを処理し、複数のシート特性測定値配列を確立するステップと、
前記シート特性測定値配列を共通解像度にマップするステップと、
前記共通解像度シート特性測定値配列を、1つのより大きい1次元共通解像度測定値配列に結合するステップと、
前記共通解像度測定値配列およびアクチュエータ設定値の過去の変更配列を、シート機プロセス・モデル状態オブザーバに入力することにより、シート製造プロセスの推定される現在の内部状態配列を生成するステップと、
複数の未来のシート特性目標配列を1つの目標配列に結合するステップと、
前記シート製造プロセスの前記推定される現在の内部状態配列および前記シート機プロセス・モデルを用いて、シート特性の未来の予測配列を生成するステップと、
前記シート特性の未来の予測配列、前記目標配列、オブジェクト関数の重み、最後のアクチュエータ設定値配列、およびハード制約を、オブジェクト関数に入力するステップと、
前記オブジェクト関数を解いて、前記シート製作プロセスの調整されたMDおよびCD制御のために、現在のアクチュエータ設定値の最適な変更配列を得るステップと、
を含むプロセス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2006−525447(P2006−525447A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514276(P2006−514276)
【出願日】平成16年5月5日(2004.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/013842
【国際公開番号】WO2004/099886
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】