説明

貴金属被膜およびそれを用いた宝飾品や装飾品、アパレル製品、電子機器製品とそれらの製造方法

【課題】 従来の貴金属被膜形成方法は、基材表面に直接貴金属をメッキしたり、蒸着する方法が用いられているため、膜の密着性は、主として基材表面のアンカー効果に依存して耐剥離性が悪いという大きな課題があった。
【解決手段】 基材表面に、少なくともアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜を介して形成されていることを特徴とする貴金属被膜を製造提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密着性の貴金属被膜に関するものである。さらに詳しくは、耐剥離性の貴金属被膜とそれを用いた宝飾品や装飾品、アパレル製品、電子機器製品とそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に装飾性の向上や、導電性の向上、耐候性の向上のため、蒸着法やメッキ法を用いて基材表面に貴金属被膜を形成する方法はよく知られている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような貴金属被膜の製造原理は、基材表面と他の電極の間に電圧を印可して、メッキ浴中の金属イオンを還元して基材表面に貴金属被膜を形成することにある。
【特許文献1】特開2004−360006号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の貴金属被膜形成方法は、基材表面に直接貴金属をメッキしたり、蒸着する方法が用いられているため、膜の密着性は、主として基材表面のアンカー効果に依存して、下地表面が平坦な基材では、耐剥離性が悪いという大きな課題があった。
【0005】
本発明は、指輪や時計等の貴金属を用いた宝飾品や、家具や建物、乗り物等に用いられる貴金属を用いた装飾品、金糸や銀糸を織り込んだ帯等の貴金属を用いたアパレル製品、耐候性の高い貴金属出被われた電極や配線を用いた各種電子機器に於いて、耐剥離性の高い貴金属被膜を形成することを目的とする。
なお、本発明でいう貴金属には、金や白金の他に、銀、銅、ニッケル、クロムも含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために提供される第1の発明は、基材表面に、少なくともアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜を介して形成されていることを特徴とする貴金属被膜である。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記アルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜が単分子膜であることを特徴とする貴金属被膜である。
【0008】
第3の発明は、第1および2の発明において、シリル基が基材とチオ基が貴金属と結合していることを特徴とするの貴金属被膜である。
【0009】
第4の発明は、第1〜3の発明において、貴金属が、金、銀、銅、または白金であることを特徴とする貴金属被膜である。
【0010】
第5の発明は、少なくともアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜を介して形成されている貴金属被膜を用いた宝飾品や装飾品、電子機器製品である。
【0011】
第6の発明は、少なくとも基材表面に、アルコシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を用いて下地被膜を形成する工程と、蒸着または無電解メッキにより貴金属被膜を形成する工程とを含むことを特徴とする基材密着性に優れた貴金属被膜の製造方法である。
【0012】
第7の発明は、少なくとも基材表面に、アルコシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を有機溶媒で混合希釈して作成した下地被膜形成溶液を接触させ、反応させて下地被膜を形成する工程と、前記下地表面の余分な溶液を有機溶媒を用いて洗浄除去またはふき取り除去する工程と、蒸着または無電解メッキにより貴金属被膜を形成する工程とを含むことを特徴とする基材密着性に優れた貴金属被膜の製造方法である。
【0013】
第8の発明は、第6および7の発明において、アルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物として下記化学式(化1)に示す薬剤を用いることを特徴とする貴金属被膜の製造方法である。
【化1】

第9の発明は、第7の発明において、アルコシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を有機溶媒で混合希釈して作成した下地被膜形成溶液に、アルコキシシリル基を主成分とする物質を添加したことを特徴とする貴金属被膜の製造方法である。
【0014】
さらに詳しくは、少なくとも基材表面に、アルコシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を用いて下地被膜を形成する工程と、蒸着または無電解メッキにより貴金属被膜を形成する工程、
【0015】
あるいは、 少なくとも基材表面に、アルコシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を有機溶媒で混合希釈して作成した下地被膜形成溶液を接触させ、反応させて下地被膜を形成する工程と、前記下地表面の余分な溶液を有機溶媒を用いて洗浄除去またはふき取り除去する工程と、蒸着または無電解メッキにより貴金属被膜を形成する工程を用いて、
【0016】
基材表面に、少なくともアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜を介して形成されていることを特徴とする貴金属被膜を提供するものである。さらに、少なくともアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜を介して形成されている貴金属被膜を用いた宝飾品や装飾品、電子機器製品を提供するものである。
【0017】
ここで、前記アルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜が単分子膜であると耐剥離性を向上する上で都合がよい。
また、シリル基が基材とチオ基が貴金属と結合していると、さらに耐剥離性を向上する上で都合がよい。なお、貴金属としては、金、銀、銅、または白金に適用可能である。
【0018】
さらに、このとき、アルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物として下記化学式(化1)に示す薬剤を用いると耐剥離性の高い被膜を提供できて都合がよい。
【化1】

なお、nが25を超えると、炭素鎖のゆがみが生じ、被膜形成時貴金属表面での分子配向性が悪くなるなり、被膜の分子密度が低下する。)
【0019】
さらにまた、アルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物にさらに、アルコキシシリル基を主成分とする物質を添加しておけば、被膜強度を強化できて都合がよい。
【0020】
なお、このときのアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物とアルコキシシリル基を主成分とする物質の良好な分子混合比は、1:10〜1:0である。
また、アルコキシシリル基を主成分とする物質として、Si(OCHやSi(OC、(CHO)3Si(OSi(OCH2OCH(但し、mは整数)、SiH(OC3、SiH2(OC2、または(CO)3Si(OSi(OC2OC(但し、mは整数)が利用できる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明には、貴金属を用いた指輪等の宝飾品や、貴金属を用いた家具や建物や乗り物等の装飾品、貴金属を用いたアパレル製品、貴金属を電極や配線に用いた各種電子機器に用いる耐剥離性の高い貴金属被膜を形成して提供できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、耐剥離性が極めて高い貴金属膜を提供するものである。
【0023】
少なくとも基材表面に、アルコシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を用いて下地被膜を形成する工程と、蒸着または無電解メッキにより貴金属被膜を形成する工程、
あるいは、 少なくとも基材表面に、アルコシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を有機溶媒で混合希釈して作成した下地被膜形成溶液を接触させ、反応させて下地被膜を形成する工程と、前記下地表面の余分な溶液を有機溶媒を用いて洗浄除去またはふき取り除去する工程と、蒸着または無電解メッキにより貴金属被膜を形成する工程を用いて、
基材表面に、少なくともアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜を介して形成されている貴金属被膜を提供するものである。
【0024】
さらに、少なくともアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜を介して形成されている貴金属被膜を用いた宝飾品や装飾品、金糸、銀糸等を用いたアパレル製品、電子機器製品を提供するものである。
【0025】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例においては、とくに記載していない限り分子組成比はモル比を意味する。
【実施例1】
【0026】
あらかじめ、空気中で、エタノールを溶媒とし、下記化学式(化2)に示すチオール化合物(末端チオール基は、トリアジンチオール基でも同様に扱えた。)を用いて、0.01M/Lの濃度になるように混合して、下層膜形成溶液を作成した。
【化2】

【0027】
つぎに、前記下層膜形成溶液に、良く洗浄した下地基材、例えば表面に自然酸化膜が形成されたSi基板1を浸漬し、室温で約2時間反応させた。このとき、前記薬剤のメトキシシリル基は、Si基板表面で自然酸化膜(水酸基を多数含むSiO2)と反応して、下記化学式(化3)に示したような結合を形成し、単分子膜が形成される。
【化3】

【0028】
そこで、下層膜形成溶液から取りだし、さらにエタノールで洗浄すると、表面にチオール基を含む下層単分子膜2を形成できた。(図1(a))
【0029】
次に、表面に市販の無電解金メッキ液を用いて、金メッキすると、製膜された金は、前記下地膜2の−SH基と反応して、下記化学式(化4)に示したような−S−を介して下地膜と結合した膜厚が数ミクロンの金被膜3を形成できた。(図1(b))
【化4】

【0030】
この金被膜3は、下地膜2’を介してSi基板に結合しているため、摩耗はするが、決して剥離することはなかった。
【0031】
このとき、後工程の金被膜の形成に、真空蒸着法を用いてみたが、ほぼ同様に耐剥離強度の高い金被膜を形成できた。
また、下層膜形成時、下層膜形成溶液から取りだし、さらにエタノールで洗浄する工程を省くと、下層膜は、単分子膜にならなかったが、金被膜結合力が多少低下する程度で、前記単分子膜とほぼ同様で実用に耐える耐剥離性に優れた金被膜が得られた。
さらに、貴金属膜として、金以外に、銀、銅、白金、ニッケルまたはクロムが使用できた。
また、下地基材としては、表面に水酸基やイミノ基等の活性水素を含む金属、セラミクス、プラスチック、繊維、皮革、毛皮、石材、竹、紙、木材等が使用できた。
【0032】
なお、一部のプラスチックでは、表面に表面に水酸基等の活性水素を含まないポリエチレン等のものもあるが、酸素を含む雰囲気中でのコロナ処理、酸素を含む大気圧プラズマ処理、酸素を含む真空プラズマ処理、シリコンやアルミニウム、チタン等を含む反応性ガスを用いた火炎処理を行えば、表面に極薄い水酸基を含む被膜を形成できて、同様の処理が行えた。
【0033】
また、アルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物として、下記化学式(化1)に示す薬剤が使用できた。
【化1】

【0034】
さらに具体的には、下記化学式(化5)に示すチオール化合物(末端チオール基は、トリアジンチオール基でも同様に扱えた。)が利用できた。
【化5】

【0035】
さらにまた、アルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物にさらに、アルコキシシリル基を主成分とする物質を添加しておけば、被膜強度を強化できた。
【0036】
このときのアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物とアルコキシシリル基を主成分とする物質の良好な分子混合比は、1:10〜1:0であった。
また、アルコキシシリル基を主成分とする物質として、Si(OCHやSi(OC、(CHO)3Si(OSi(OCH2OCH(但し、mは整数)、SiH(OC3、SiH2(OC2、または(CO)3Si(OSi(OC2OC(但し、mは整数)が利用できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、貴金属被膜を利用する分野ならどのような分野でも利用可能である、具体的には、金属、セラミクス、プラスチック、繊維、皮革、毛皮、石材、竹、紙、木材等よりなる宝飾品や装飾品、アパレル製品、電子機器製品がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例1に於ける、表面に自然酸化膜が形成されたSi基板の表面を分子レベルまで拡大した断面概念図(a)。アルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を介して金薄膜が形成されている様子を説明するための断面概念図(b)。
【符号の説明】
【0039】
1 自然酸化膜が形成されたSi基板
2 アルコキシシリル基含有チオール化合物を用いて形成された単分子膜
2’ アルコキシシリル基含有チオール化合物のチオール基と金薄膜が反応した被膜
3 金薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、少なくともアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜を介して形成されていることを特徴とする貴金属被膜。
【請求項2】
前記アルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜が単分子膜であることを特徴とする請求項1に記載の貴金属被膜。
【請求項3】
シリル基が基材とチオ基が貴金属と結合していることを特徴とする請求項1および2のいずれか1項に記載の貴金属被膜。
【請求項4】
貴金属が、金、銀、銅、または白金であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の貴金属被膜。
【請求項5】
少なくともアルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物で作成された下層被膜を介して形成されている貴金属被膜を用いた宝飾品や装飾品、アパレル製品、電子機器製品。
【請求項6】
少なくとも基材表面に、アルコシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を用いて下地被膜を形成する工程と、蒸着または無電解メッキにより貴金属被膜を形成する工程とを含むことを特徴とする基材密着性に優れた貴金属被膜の製造方法。
【請求項7】
少なくとも基材表面に、アルコシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を有機溶媒で混合希釈して作成した下地被膜形成溶液を接触させ、反応させて下地被膜を形成する工程と、前記下地表面の余分な溶液を有機溶媒を用いて洗浄除去またはふき取り除去する工程と、蒸着または無電解メッキにより貴金属被膜を形成する工程とを含むことを特徴とする基材密着性に優れた貴金属被膜の製造方法。
【請求項8】
アルコキシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物として下記化学式(化1)に示す薬剤を用いることを特徴とする請求項6および7のいずれか1項に記載の貴金属被膜の製造方法。
【化1】

【請求項9】
アルコシシリル基含有のトリアジンチオール化合物またはチオール化合物を有機溶媒で混合希釈して作成した下地被膜形成溶液に、さらにアルコキシシリル基を主成分とする物質を添加したことを特徴とする請求項7に記載の貴金属被膜の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−137153(P2009−137153A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315769(P2007−315769)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(307011015)有限会社かがわ学生ベンチャー (7)
【Fターム(参考)】