説明

赤外線センサ

【課題】受光部と基板の熱エネルギーの授受を低減することが可能であり、さらに、IRPSD等の画素を構成するためにアレイ配置した際に画素間の配線を最短距離とすることが可能な赤外線センサを提供する。
【解決手段】基板11と、基板11の上面との間に空間を隔てて位置する受光部12と、受光部12と基板11との間に架け渡され受光部12を支持する複数の支持脚13a、13bと、熱伝導率の異なる2つの熱電対導体14a、14bを電気的に接合してなる熱電対14と、を備える赤外線センサ10であって、長い支持脚13aに熱伝導率の高い熱電対導体14aを配置し、短い支持脚13bに熱伝導率の低い熱電対導体14bを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電方式の温度センサを搭載した赤外線センサに関するものであり、特に、真空封止した赤外線アレイセンサを構成するに適した赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線センサのうち冷却を必要としない熱型(非冷却)赤外線センサは、従来は人体検知などに用いられる単画素のものしかなかった。しかし、MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)技術の進歩によりアレイ化が可能になり、赤外線センサの応用分野の拡大が期待されている。
【0003】
赤外線アレイセンサは、高解像度画像を得るための高感度デバイスの開発が進んでいる。一方、こうした高性能デバイスと単画素赤外線センサの間の市場を狙った小規模赤外線アレイセンサの開発も始まっており、小規模赤外線アレイセンサは、赤外線センサ市場の飛躍的な拡大をもたらすものと期待されている。
【0004】
小規模赤外線アレイセンサの例として、非特許文献1には、熱電方式の温度センサを用いたIRPSD(Infrared Position Sensitive Detector)が報告されている。このIRPSDは、1つの画素内に2つの温度センサを持ち、水平方向および垂直方向に並んだ画素の温度センサを直列に接続することで、行と列の和信号を得て、発熱体の位置の検出と発熱体の数(面積)の計測をデジタル信号処理することなしに可能にするという機能を有している。
【0005】
熱型赤外線センサは、基板上に高い熱抵抗を持った支持構造で支えられた受光部に温度センサと赤外線吸収層を形成した構造を有しており、赤外線吸収層で入射赤外線を吸収して、光エネルギーを熱エネルギーに変換し、受光部の温度を変化させることで赤外線を検出するセンサである。熱型赤外線センサには、いろいろなメカニズムで動作する温度センサが用いられているが、感度は、一定の量の赤外線が入射したときに、それをどれだけ大きな温度変化に変えられるかということと、一定の温度変化を検出器部に与えたとき、それをどれだけ大きな電気信号に変えられるかで決定される。後者は、温度センサの性能で決まるが、前者は受光部と基板を含めた周囲との熱エネルギーの授受に依存して決まるもので、受光部と周囲の熱コンダクタンスを小さくすることで得られる温度差を大きくすることができ、高感度化できる。
【0006】
熱型赤外線センサの内、熱電方式の赤外線センサは、強誘電体温度センサ、抵抗ボロメータ温度センサ、ダイオード温度センサを用いたものに比べ感度は低いものの、絶対温度ではなく差温度を出力する素子であるので、素子の温度制御が不要なこと、温度差で起電力を発生するので、温度センサとしては電源が不要なこと、などの特長があり、低コストが強く求められる小規模赤外線アレイセンサには適した方式である。
【非特許文献1】木股、浅地、太田、高畑、島田、吉岡、吉田、電気学会総合研究会資料、pp. 69-74、 2007.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱電方式の赤外線イメージセンサは、通常大気中で動作させるように設計されている。この場合、受光部と周囲の熱エネルギーの授受のうち、大気を通して流れる熱エネルギーの量が大きく、温接点と冷接点の間を往復して配線される多数の直列熱電対を温度センサとしたサーモパイルを温度センサとしたものが一般的である。しかし、多数の配線が必要なサーモパイルでは、直列に接続する配線のレイアウトに制約がある。そのため、高熱伝導率で低電気抵抗率の材料と低熱伝導率で高電気抵抗率の材料の組み合わせ、例えば、熱電方式の赤外線イメージセンサでよく使用され、シリコンLSI(Large Scale Integration)プロセス材料であるアルミニウムとポリシリコンの組み合わせなどでは、受光部を支持する支持脚を受光部と基板の熱エネルギーの授受の観点から最適化することが困難であるという問題があった。
【0008】
さらに、IRPSDにおいては、サーモパイルを用いたもの赤外線センサを画素とすると、画素間を配線で交差させて接続する必要があるため、画素間の配線抵抗が大きくなり、熱雑音が増大し、外来雑音の影響を受けやすいという問題点があった。
【0009】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであり、受光部と基板の熱エネルギーの授受を低減することが可能であり、さらに、IRPSD等の画素を構成するためにアレイ配置した際に画素間の配線を最短距離とすることが可能な赤外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
当該目的を達成するために、請求項1に記載の赤外線センサは、基板と、前記基板の上面との間に空間を隔てて位置する受光部と、前記受光部と前記基板との間に架け渡され、前記受光部を支持する複数の支持脚と、熱伝導率の異なる2つの熱電対導体を電気的に接合してなる熱電対と、を備え、前記支持脚のうち長い支持脚に前記熱電対導体のうち熱伝導率の高い熱電対導体を配置し、前記支持脚のうち短い支持脚に前記熱電対導体のうち熱伝導率の低い熱電対導体を配置することを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の赤外線センサは、基板と、前記基板の上面との間に空間を隔てて位置する受光部と、前記受光部と前記基板との間に架け渡され、前記受光部を支持する少なくとも4本の支持脚と、熱伝導率の異なる2つの熱電対導体を電気的に接合してなる2つの熱電対と、を備え、前記支持脚のうち長い2本の支持脚に前記熱電対導体のうち熱伝導率の高い熱電対導体をそれぞれ配置し、前記支持脚のうち短い2本の支持脚に前記熱電対導体のうち熱伝導率の低い熱電対導体をそれぞれ配置し、前記2つの熱電対が前記受光部で上面視にて交差することを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載の赤外線センサは、請求項1又は2に記載の赤外線センサにおいて、前記基板の上面に窪み部が形成され、前記受光部が前記窪み部の上方に支持されることを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載の赤外線センサは、請求項1又は2に記載の赤外線センサにおいて、前記受光部が、前記基板の上面より上方に持ち上げるように支持されることを特徴としている。
【0014】
請求項5に記載の赤外線センサは、請求項1から4の何れか1項に記載の赤外線センサにおいて、前記熱電対導体のうち熱伝導率の低い熱電対導体が必要最小長さにて構成されることを特徴としている。
【0015】
請求項6に記載の赤外線センサは、請求項1から5の何れか1項に記載の赤外線センサにおいて、前記2つの熱電対導体が、少なくとも当該2つの熱電対導体よりも電気抵抗の低い部材によって、前記受光部で電気的に接合されることを特徴としている。
【0016】
請求項7に記載の赤外線センサは、請求項6に記載の赤外線センサにおいて、前記部材が、面状に形成され、前記受光部での赤外線吸収率を増加させる赤外線反射層として機能することを特徴としている。
【0017】
請求項8に記載の赤外線センサは、請求項6に記載の赤外線センサにおいて、前記部材が、面状に形成され、前記受光部での赤外線吸収率を増加させる赤外線吸収層として機能することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の赤外線センサによれば、長い支持脚に熱伝導率の高い熱電対導体を配置し、短い支持脚に熱伝導率の低い熱電対導体を配置する。そのため、熱電対導体の熱伝導率に応じて当該熱電対導体を配置する支持脚の長さを最適な長さにすることができるので、受光部と基板の熱エネルギーの授受を低減することが可能となる。
【0019】
請求項2に記載の赤外線センサによれば、長い支持脚に熱伝導率の高い熱電対導体を配置し、短い支持脚に熱伝導率の低い熱電対導体を配置する。そのため、熱電対導体の熱伝導率に応じて当該熱電対導体を配置する支持脚の長さを最適な長さにすることができるので、受光部と基板の熱エネルギーの授受を低減することが可能となる。さらに、2つの熱電対が受光部で上面視にて交差する。そのため、当該赤外線センサをアレイ配置する際に、隣接する赤外線センサ間にて配線を交差させる必要がないので、画素としての赤外線センサ間の配線を最短距離とすることが可能となる。
【0020】
請求項3に記載の赤外線センサによれば、受光部が基板の上面に形成された窪み部の上方に支持されるので、受光部と基板との間に容易に空隙を設けることができる。
【0021】
請求項4に記載の赤外線センサによれば、受光部が基板の上面より上方に持ち上げるように支持されるので、受光部と基板との間に容易に空隙を設けることができる。
【0022】
請求項5に記載の赤外線センサによれば、熱伝導率の低い熱電対導体が必要最小長さにて構成されるので、受光部と基板の熱エネルギーの授受の量を維持したまま、さらに電気抵抗の減少を図ることができる。
【0023】
請求項6に記載の赤外線センサによれば、2つの熱電対導体が、少なくとも当該2つ熱電対導体よりも電気抵抗の低い部材によって、受光部で電気的に接合されるので、電気抵抗の減少を図ることができる。
【0024】
請求項7に記載の赤外線センサによれば、電気抵抗の低い面状に形成された部材が受光部での赤外線吸収率を増加させる赤外線反射層として機能するので、受光部における赤外線吸収率を増大することができる。
【0025】
請求項8に記載の赤外線センサによれば、電気抵抗の低い面状に形成された部材が受光部での赤外線吸収率を増加させる赤外線吸収層として機能するので、受光部における赤外線吸収率を増大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の第1の実施形態に係る赤外線センサ10について、図面に基づき説明する。赤外線センサ10は、図1および図2に示すように、半導体基板11と、半導体基板11の上面との間に空間を隔てて位置する受光部12と、受光部12と半導体基板11との間に架け渡され受光部12を支持する複数の支持脚(支持構造体)13a、13bと、熱伝導率の異なる2つの熱電対導体14a、14bを電気的に接合してなる熱電対14とを備えている。熱電対14を構成する第1の熱電対導体14aは、アルミニウムからなっている。熱電対14を構成する第2の熱電対導体14bは、ポリシリコンからなっている。これら2種類の熱電対導体14a、14bは、半導体基板11の上に成膜された絶縁膜15の上に形成されており、第1の熱電対導体14aと第2の熱電対導体14bが接続されて熱電対14が構成されている。アルミニウム、ポリシリコンの熱伝達率は、それぞれ235W/mK、20W/mKであり、アルミニウムの熱伝達率はポリシリコンの熱伝達率よりも高い。
【0027】
受光部12には、絶縁膜15および2つの熱電対導体14を上方から覆うように赤外線吸収層16が形成されている。この赤外線吸収層16にてその領域が覆われている受光部12は、支持脚13a、13bにより、半導体基板11の上面との間に空洞(空隙)Sを介して半導体基板11の上方に支持されている。支持脚13a、13bは、熱電対導体14a、14bの一部を内部に含んでいる。より具体的には、長い支持脚13aには、熱伝達率の高い第1の熱電対導体14aの一部が内部に配置され、短い支持脚13bには、熱伝達率の低い高い第2の熱電対導体14bの一部が内部に配置されている。なお、支持脚13a、13bの長さとは、当該支持脚13a、13b内に配置された熱電対導体14a、14bの経路に沿って一定の幅を有する形状の長さであり、支持脚13a、13bの両端部を支持脚13a、13bにより形成される上面視2次元形状内において最短で結ぶ経路に沿った長さを意味する。
【0028】
半導体基板11の中央部付近には窪み部17が形成されており、この窪み部17の上方に空洞Sを介して受光部12が支持脚13a、13bにて支持されている。受光部12(赤外線吸収層16、およびその下方に位置し熱電対の一部を内部に含む部分)は、上面視にて矩形、より具体的には正方形に形成されており、この正方形の4つの各辺から支持脚13a、13bが対向する半導体基板11の窪み部17の周囲の上面に渡るようにして形成されている。2つの長い支持脚13a、2つの短い支持脚13bは、それぞれ隣接する辺に設けられている。すなわち、長い支持脚13aと短い支持脚13bとは互いに対向する辺に設けられている。そして、長い支持脚13aに一部が配置される熱伝達率の高い第1の熱電対導体14aと、短い支持脚13bに一部が配置される熱伝達率の低い第2の熱電対導体14bとが電気的に接合してなる2つの熱電対14が受光部12で上面視にて交差する。なお、第1の熱電対導体14aと第2の熱電対導体14bとの上下方向の間には層間絶縁膜が形成されており、互いに電気的に絶縁されている。また、第2の熱電対導体14bと、当該赤外線センサ10に隣接する赤外線センサ10の第1の熱電対導体14aとを接続するための配線(第2の熱電対導体14bと当該赤外線センサ10の端部までの配線)は、電気抵抗率の低いアルミニウムからなる導体18にて構成されている。
【0029】
次に、赤外線センサ10の動作を説明する。赤外線センサ10に入射した赤外線は、赤外線吸収層16で吸収され受光部12の温度を変化させ、受光部12に形成された熱電対導体14a、14bの温接点と半導体基板11上に形成された熱電対導体14a、14bの冷接点の間に温度差ができ、起電力が発生する。
【0030】
赤外線センサ10は、熱電方式であるので、熱型の光センサである。そのため、その感度は、温度センサの性能と受光部12およびその周りの半導体基板11を含むヒートシンクへの熱エネルギーの授受の大きさによって決まり、熱エネルギーの授受が小さいほど高感度になる。
【0031】
熱電方式の赤外線センサの画素としては、通常、温接点と冷接点を交互に設けた熱電対を多数直列してサーモパイルという形式の温度センサとすることで出力電圧を大きくして高感度化している。直列に接続される熱電対の数を増加させると、同じ温度変化に対しては熱電対の数に比例した出力の増大が達成される。しかし、熱電対の数を増やすと、同時に受光部を支持する支持脚を通した熱エネルギーの授受もほぼ熱電対の数に比例して大きくなる。そのため、直列に接続された熱電対が配置された支持脚を通した熱エネルギーの授受が大気を通した熱エネルギーの授受と同程度となると、熱電対の数を増加させても感度は増大しなくなる。すなわち、支持脚に配置される熱電対を直列に接続される数を増していくと、感度は、最初は増大するが、やがて飽和して増大しなくなる。従って、熱電対を直列接続したサーモパイルで温度センサを構成することで感度が増大できるのは、大気を通した熱エネルギーの授受が、1つの熱電対からなる支持脚を通した熱エネルギーの授受が十分大きい場合のみである。
【0032】
本発明で対象としている熱電方式の赤外線センサは、大気を通した熱エネルギーの授受が他のメカニズムによる熱エネルギーの授受に比べて無視できるレベルの真空中で動作させることを前提としたものである。真空中動作を前提にすると、上述のように、熱電方式の赤外線センサの感度は、熱電対の数にほとんど依存しないので、熱電対を多数直列接続するサーモパイルではなく、1つの熱電対を温度センサに用いてもサーモパイルと同等の感度が得られ、一方、温度センサを1つの熱電対とすることでいくつかの利点が生じる。
【0033】
1つの熱電対を温度センサとすることにより、受光部12と半導体基板11を含むヒートシンクとの間の配線数が減らせるため、図1に示すように、4つの熱電対導体14a、14bをそれぞれ別々の4本の支持脚13a、13b内に形成することにより、熱電対導体14a、14bをそれぞれ大きく長さの異なった形状とすることが可能となる。
【0034】
シリコンLSI製造技術を利用して製造される熱電方式の赤外線センサでは、熱電対導体としてアルミニウムとポリシリコンを用いることが多い。アルミニウムの熱伝導率は、上述したように、ポリシリコンより2桁以上大きいためアルミニウムとポリシリコンからなる熱電対導体を同じ支持脚内に配置した場合、受光部から半導体基板への熱エネルギーの流れを支配するのはアルミニウムであり、アルミニウムによる熱エネルギーの流れを減らすために支持脚の長さを長くすると、電気抵抗率の高いポリシリコンの電気抵抗が高くなり、熱雑音の増加など性能劣化の原因となる。
【0035】
そこで、本発明の第1の実施形態に係る赤外線センサ10は、アルミニウムとポリシリコンとからなる2種の熱電対導体14a、14bはそれぞれ別々の支持脚13a、13b内に形成されている。そのため、アルミニウムからなる熱電対導体14aは長い支持脚13a内に、ポリシリコンからなる熱電対導体14bは短い支持脚13b内に配置することにより、熱エネルギーの流れと電気抵抗の最適化を図ることが可能となる。
【0036】
赤外線センサ10は、その1つを1画素として、図3に示すように、複数縦横に隣接して配列することにより、赤外線センサアレイの一例であるIRPSD100を構成する。IRPSD100は、1つの画素(赤外線センサ)10に2つの温度センサとしての熱電対14を配置し、水平に配列された全ての画素10および垂直に配列された全ての画素10をそれぞれ直列に接続する必要があるので、水平側の配線と垂直側の配線が交差することになる。配線の交差構造は、図1および図2に示すように、受光部12に設けられている。図3は、画素10が縦横4画素ずつ配列されたアレイの構成を示しており、熱電対導体14aは隣接する画素の熱電対導体14bと、熱電対導体14bは隣接する画素の熱電対導体14aと画素10の境界で導体18を介して接続されている。画素10間で直列接続された熱電対14列の出力から和信号が得られ、IRPSD100の位置検出動作と発熱体数(面積)計測動作が可能となる。
【0037】
また、IRPSD100を構成する画素10は、受光部12で熱電対14が交差しているので、熱電対14やその配線を交差するために特別に構造を必要としない。さらに、画素10間の配線は、図3に示すように、最短距離で配線できるため(すなわち、画素10間に配線を必要にせず直接接続することができるため)、配線抵抗を小さくすることができ、配線抵抗に起因した熱雑音や、高インピーダンス信号線で問題になる誘導雑音などを低減することが可能となる。
【0038】
以下、本発明の第2の実施形態に係る赤外線センサ20について、赤外線センサ10との相違点についてのみ説明する。赤外線センサ20は、図4に示すように、ポリシリコンからなる熱伝達率の低い第2の熱電対導体24bは、熱電対24に必要な最小の長さで構成されている。受光部22での熱電対24の配線(第1の熱電対導体24aと第2の熱電対導体24bとを接続するための配線)は、電気抵抗率の低いアルミニウムからなる導体28にて構成されている。これにより、赤外線センサ10における熱エネルギーの授受の量を維持したまま、さらに電気抵抗の減少を図ることができる。熱電対24に必要な最小の長さは、熱コンダクタンスに依存する感度によって決めることができる。
【0039】
以下、本発明の第3の実施形態に係る赤外線センサ30について、赤外線センサ20との相違点についてのみ説明する。赤外線センサ30は、図5および図6に示すように、熱電対34を形成する第1の熱電対導体34aをアルミニウムではなく、第2の熱電対導体24bとは異なった導電型のポリシリコンから構成したものである。この場合、第1の熱電対導体34aの一部を配置する支持脚33aは、第2の熱電対導体24bの一部を配置する支持脚13bと同じような形状とすることができる。そして、ポリシリコンからなる熱電対導体34a、24bの長さを、熱電対34を構成するのに必要な最低限の長さとし、受光部32での熱電対34の配線(第1の熱電対導体34aと第2の熱電対導体24bとを接続するための配線)はアルミニウムなどの低抵抗率の材料からなる金属配線38で構成している。そのため、赤外線センサ30の電気抵抗の低抵抗化と、アレイにした場合の配線長を短縮することが可能となる。また、第1の熱電対導体34aと当該赤外線センサ30の端部までの配線も、電気抵抗率の低いアルミニウムからなる導体18にて構成されている。
【0040】
以下、本発明の第4の実施形態に係る赤外線センサ40について、赤外線センサ30との相違点についてのみ説明する。赤外線センサ40は、図7に示すように、赤外線吸収率を増加させるために、低抵抗金属配線38(図5参照。)を受光面全体に広げ、受光部42にアルミニウムなどからなる反射膜49を形成している。赤外線吸収層16を透過した赤外線は反射膜49で反射するので、赤外線吸収層16における赤外線吸収率が増大する。さらに、低抵抗金属配線はシート抵抗を調整することで赤外線吸収層として用いることもできるため、図7に示した反射膜49と同様な形状を維持して、低抵抗金属配線を赤外線吸収層16の一部として使用することもできる。
【0041】
以下、本発明の第5の実施形態に係る赤外線センサ50について、赤外線センサ20との相違点についてのみ説明する。赤外線センサ50は、図8に示すように、IRPSDに用いられるものではなく、温度センサとしての熱電対14を1つのみ備えている。すなわち、赤外線センサ50は、赤外線センサ10の構成から1つの熱電対14を削除したものである。しかし、効果としては赤外線センサ10と同様である。すなわち、熱電対導体14a、14bはそれぞれ別々の支持脚13a、13b内に形成されているので、アルミニウムからなる熱伝達率の高い第1の熱電対導体14aは長い支持脚13a内に、ポリシリコンからなる熱伝達率の低い第2の熱電対導体14bは短い支持脚13b内に配置することにより、熱エネルギーの流れと電気抵抗の最適化を図ることが可能となる。
【0042】
以下、本発明の第6の実施形態に係る赤外線センサ60について、赤外線センサ10との相違点についてのみ説明する。赤外線センサ60は、図9および図10に示すように、受光部62を半導体基板61の上面より上方に持ち上げるように、支持脚63a、63bにて支持されている。受光部62と半導体基板61との上面には空洞(空隙)Sが形成されており、半導体基板61には窪み部は形成されていない。上面視で正方形の受光部62の4つの各辺から支持脚63a、63bが、上面視で正方形の半導体基板61の4つの各辺に近い部分の上面に渡るようにして形成されている。また、上記した本発明の第1から第5の実施形態に係る赤外線センサ10、20、30、40、50を同様な構造として実現することが可能であり、これらと同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本発明に係る赤外線センサは、熱電対を構成する材料の熱伝導率の差が大きくても、熱的および電気的に最適な画素設計ができるので、従来の熱電方式の赤外線センサでは不可能であった受光部と周囲の熱エネルギーの授受の低減と熱電対抵抗の低減を両立させることができ、高性能化を図ることができる。特に、本発明による赤外線センサをIRPSDに適用した場合、画素間での最短配線が可能となるという利点も生まれる。赤外線センサは、人体検知から自動車搭載やセキュリティー応用などへの応用分野の拡大が予想されており、本発明による赤外線センサの性能改善が応用分野の拡大促進に寄与することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る赤外線センサ10を模式的に示す平面図である。
【図2】赤外線センサ10を示し、図1におけるA−A断面図である。
【図3】赤外線センサ10を画素としてアレイ配置したIRPSDを模式的に示す平面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る赤外線センサ20を模式的に示す平面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る赤外線センサ30を模式的に示す平面図である。
【図6】赤外線センサ30を示し、図5におけるB−B断面図である。
【図7】本発明の第4の実施形態に係る赤外線センサ40を模式的に示す平面図である。
【図8】本発明の第5の実施形態に係る赤外線センサ50を模式的に示す平面図である。
【図9】本発明の第6の実施形態に係る赤外線センサ60を模式的に示す平面図である。
【図10】赤外線センサ60を示し、図9におけるC−C断面図である。
【符号の説明】
【0045】
10、20、30、40、50、60 赤外線センサ(画素)
11、31、51、61 半導体基板(基板)
12、22、32、42、52、62 受光部12
13a、13b、33a、63a、63b 支持脚
14、24、34、54、64 熱電対
14a、34a、64a 第1の熱電対導体
14b、24b、64b 第2の熱電対導体
15 絶縁膜
16 赤外線吸収層
17 窪み部
18、28、68 導体
38、48 金属配線
49 反射膜
100 IRPSD

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上面との間に空間を隔てて位置する受光部と、
前記受光部と前記基板との間に架け渡され、前記受光部を支持する複数の支持脚と、
熱伝導率の異なる2つの熱電対導体を電気的に接合してなる熱電対と、を備え、
前記支持脚のうち長い支持脚に前記熱対導体のうち熱伝導率の高い熱電対導体を配置し、前記支持脚のうち短い支持脚に前記熱対導体のうち熱伝導率の低い熱電対導体を配置することを特徴とする赤外線センサ。
【請求項2】
基板と、
前記基板の上面との間に空間を隔てて位置する受光部と、
前記受光部と前記基板との間に架け渡され、前記受光部を支持する少なくとも4本の支持脚と、
熱伝導率の異なる2つの熱電対導体を電気的に接合してなる2つの熱電対と、を備え、
前記支持脚のうち長い2本の支持脚に前記熱対導体のうち熱伝導率の高い熱電対導体をそれぞれ配置し、前記支持脚のうち短い2本の支持脚に前記熱電対導体のうち熱伝導率の低い熱電対導体をそれぞれ配置し、前記2つの熱電対が前記受光部で上面視にて交差することを特徴とする赤外線センサ。
【請求項3】
前記基板の上面に窪み部が形成され、前記受光部が前記窪み部の上方に支持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外線センサ。
【請求項4】
前記受光部が、前記基板の上面より上方に持ち上げるように支持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外線センサ。
【請求項5】
前記熱電対導体のうち熱伝導率の低い熱電対導体が必要最小長さにて構成されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の赤外線センサ。
【請求項6】
前記2つの熱電対導体が、少なくとも当該2つ熱電対導体よりも電気抵抗の低い部材によって、前記受光部で電気的に接合されることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の赤外線センサ。
【請求項7】
前記部材が、面状に形成され、前記受光部での赤外線吸収率を増加させる赤外線反射層として機能することを特徴とする請求項6に記載の赤外線センサ。
【請求項8】
前記部材が、面状に形成され、前記受光部での赤外線吸収率を増加させる赤外線吸収層として機能することを特徴とする請求項6に記載の赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−180682(P2009−180682A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21828(P2008−21828)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000143031)コーデンシ株式会社 (18)
【Fターム(参考)】