説明

赤外線遮蔽材料微粒子分散体および赤外線遮蔽体

【課題】
可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持ち、紫外線による色調変化が抑制された、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【解決手段】
Cs0.33WOで表記されるタングステン酸化物微粒子と、0.01%以上20%以下のヒンダードアミン系光安定剤とを、媒体中に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体、さらに、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体より製造した赤外線遮蔽体に関する。詳しくは、該媒体中に前記酸化物微粒子とともにヒンダードアミン系光安定剤(以下、HALSとも記す)を含有させることで、該媒体の紫外線劣化によって促進される該酸化物微粒子の色調変化を抑制した赤外線遮蔽材料微粒子分散体、さらに、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体より製造した赤外線遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光や電球などの外部光源から熱成分を除去・減少する方法として、従来、ガラス表面に赤外線を反射する材料からなる膜を形成して熱線反射ガラスとして使用することが行われていた。その材料にはFe,FeOx,CoOx,CrOx,TiOxなどの金属酸化物やAg,Au,Cu,Ni,Alなどの自由電子を多量にもつ金属材料が選択されてきた。
【0003】
しかし、これらの材料では熱効果に大きく寄与する赤外線以外に、可視光も同時に反射もしくは吸収する性質があるため、可視光透過率が低下する問題があった。そして、建材、乗り物、電話ボックスなどに用いる透明基材では可視光領域の高い透過率が必要とされることから、上記材料を利用する場合は膜厚を非常に薄くしなければならなかった。このため、スプレー焼付けやCVD法、あるいはスパッタリング法や真空蒸着法などの物理成膜法を用いて10nmレベルの薄膜を成膜して用いられることが通常行われてきた。
【0004】
しかしながら、これらの成膜方法は大がかりな装置や真空設備を必要とし、生産性や大面積化に問題があり、膜の製造コストが高くなるといった欠点がある。また、これ等材料で日射遮蔽特性(波長域300〜2100nmの光を遮蔽する特性)を高くしようとすると、可視光領域の吸収率および反射率も同時に高くなってしまう傾向があり、鏡のようなギラギラした外観を与えて美観を損ねてしまう。さらに、これらの材料では膜の導電性が高いものが多く、膜の導電性が高いと携帯電話やTV、ラジオなどの電波を反射して受信不能になったり、周辺地域に電波障害を引き起こすなどの問題がある。
【0005】
このような従来の欠点を改善するには、膜の物理特性として、可視光領域の光の反射率が低くて赤外線領域の吸収率または反射率が高く、かつ膜の表面抵抗が概ね10Ω/□以上必要であると考えられる。
【0006】
例えば、特許文献1では、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族及びVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、前記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設け、該第2層上に第3層として周期律表のIIIa族、IVa族、Vb族、VIb族及びVIIb族から成る群から選ばれた少なくとも1種の金属イオンを含有する複合酸化タングステン膜を設け、かつ前記第2層の透明誘電体膜の屈折率が前記第1層及び前記第3層の複合酸化タングステン膜の屈折率よりも低くすることによる光干渉効果により、高い可視光線透過率及び良好な熱線遮断性能が要求される部位に好適に使用することができる熱線遮断ガラスが提案されている。
【0007】
特許文献2では、特許文献1と同様の方法で、透明なガラス基板上に、基板側より第1層として第1の誘電体膜を設け、該第1層上に第2層として酸化タングステン膜を設け、該第2層上に第3層として第2の誘電体膜を設けた積層構成の光干渉効果を用いる熱線遮断ガラスが提案されている。
【0008】
特許文献3では、特許文献2と同様な方法で、透明な基板上に、基板側より第1層として同様の金属元素を含有する複合酸化タングステン膜を設け、前記第1層上に第2層として透明誘電体膜を設けた光干渉効果を用いる熱線遮断ガラスが提案されている。
【0009】
特許文献4では、水素、リチウム、ナトリウム又はカリウム等の添加材料を含有する三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)、五酸化バナジウム(V)及び二酸化バナジウム(VO)の1種以上から選択された金属酸化物膜を、CVD法あるいはスプレー法で被覆され250℃程度で熱分解して形成された太陽光遮蔽特性を有する太陽光制御ガラスシートが提案されている。
【0010】
特許文献1:特開平8−59300号公報
特許文献2:特開平8−12378号公報
特許文献3:特開平8−283044号公報
特許文献4:特開2000−119045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体においては、長期間にわたって紫外線を受けると、色調の変化、透過率の低下が起き、窓材等に用いる場合には色調が暗くなる傾向が見られており、太陽光を受ける屋外用途等への用途拡大の上で問題となっていた。
【0012】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持ち、紫外線による色調変化が抑制された、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体を板状、フィルム状または薄膜状に形成した赤外線遮蔽体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者等は、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体の紫外線による色調変化の現象は、樹脂などの高分子材料に紫外線を照射すると、紫外線のエネルギーによって高分子鎖が切断されて活性な有害ラジカルが次々に発生し、高分子の劣化が連鎖的に進み、これらの有害ラジカルが、該タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を媒体中に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体、または赤外線遮蔽体の、タングステン酸化物微粒子、または複合タングステン酸化物微粒子に還元的に作用し、新たに5価のタングステンが増加するに伴って着色濃度が高くなることに想到した。そこで、当該高分子媒体の紫外線劣化を防止することで、新たな5価のタングステンの生成を防止し、色調の変化を抑制することが可能となることを見出し、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体中に、ヒンダードアミン系光安定剤(以下、HALSと記載することがある。)を同時に存在させることで、紫外線により発生した有害ラジカルを捕捉してタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子の還元を防止し、該赤外線遮蔽材料の紫外線による色調変化を抑制することに想到し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明は、
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子と、ヒンダードアミン系光安定剤とを、媒体中に含有分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、
ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が、0.01%以上20%以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0015】
本発明の第2の発明は、
前記タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子、の粒子直径が、1nm以上800nm以下であることを特徴とする第1の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体分散体を提供する。
【0016】
本発明の第3の発明は、
前記タングステン酸化物微粒子、または/及び、前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とする第1、2の発明のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0017】
本発明の第4の発明は、
一般式MxWyOzで表記される前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶もしくは、正方晶もしくは、立方晶の結晶構造の1つ以上を含むことを特徴とする第1の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0018】
本発明の第5の発明は、
M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上を含み、六方晶の結晶構造結晶構造を有することを特徴とする第4の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0019】
本発明の第6の発明は、
ヒンダードアミン系光安定剤が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン誘導体または1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジン誘導体であることを特徴とする第1の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0020】
本発明の第7の発明は、
前記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする第1の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0021】
本発明の第8の発明は、
前記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちのいずれか1種類以上であることを特徴とする第7の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0022】
本発明の第9の発明は、
第1〜8の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、可視光透過率を60%から70%とした時、紫外線を2時間照射した時の可視光透過率の低下量が、ヒンダードアミン系光安定剤未添加の赤外線遮蔽材料微粒子分散体に同様に紫外線を照射した時の可視光透過率の低下量の50%以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体を提供する。
【0023】
本発明の第10の発明は、
第9の発明記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を、板状またはフィルム状または薄膜状に形成して作製したことを特徴とする赤外線遮蔽体を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子と、ヒンダードアミン系光安定剤を、媒体中に含有分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体であり、ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が0.01%以上20%以下とすることによって、紫外線照射に伴う5価のタングステンの生成を抑制し、着色変化を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子と、ヒンダードアミン系光安定剤とを、媒体中に含有分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、ヒンダードアミン系光安定剤の含有量を、0.01%以上20%以下とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体である。該赤外線遮蔽材料微粒子の粒子直径は、1nm以上800nm以下が好ましい。
【0026】
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、上記の構成とすることにより、紫外線照射に伴う当該微粒子分散体の着色変化を抑制することが可能となった。これは、当該微粒子分散体が紫外線照射された際、ヒンダードアミン系光安定剤が、紫外線によって発生したラジカルを十分に捕捉し、5価のタングステンの生成を抑制した為であると考えられる。
【0027】
この結果、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、当初の可視光透過率を60%から70%に設定し、紫外線を2時間照射した後の可視光透過率の低下量は、従来の技術に係るヒンダードアミン系光安定剤を添加していない赤外線遮蔽材料微粒子分散体の当初の可視光透過率を同様に60%から70%に設定し、同様の紫外線を照射した後の可視光透過率の低下量の50%以下とすることができた。
【0028】
以下、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体について、1.タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子、2.タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子の製造方法、3.ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)、4.赤外線遮蔽材料微粒子分散体、5.赤外線遮蔽材料微粒子とHALSとを媒体中に分散し、基材表面に形成する方法、6.赤外線遮蔽材料微粒子とHALSとを基材中に分散する方法、の順で詳細に説明する。
【0029】
1.タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子
一般に、自由電子を含む材料は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmを有する太陽光線等の電磁波に反射吸収応答を示すことが知られている。このような材料の粉末を、光の波長より小さい微粒子とすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱が低減されて、可視光領域の透明性が得られることが知られている。尚、本明細書において、透明性とは、可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高いという意味で用いている。
【0030】
一般に、WO中には有効な自由電子が存在しないため、WOは近赤外線領域の吸収反射特性が少なく、赤外線遮蔽材料としては有効ではない。一方、酸素欠損を持つ3酸化タングステンや、3酸化タングステンにNa等の陽性元素を添加したいわゆるタングステンブロンズは、導電性材料であり、自由電子を持つ材料であることが知られている。そして、これらの材料の単結晶等の分析により、赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。
【0031】
本発明者等は、該タングステンと酸素との化合物における組成範囲の特定部分において、赤外線遮蔽材料として特に有効な範囲があることを見出し、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を見出し、当該タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を、媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体、さらに、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体より製造した赤外線遮蔽体を得ている。
【0032】
まず、本発明の赤外線遮蔽材料微粒子は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子である。
【0033】
上述した一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子において、該タングステンと酸素との好ましい組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、さらには、当該赤外線遮蔽材料をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999である。このz/yの値が、2.2以上であれば、当該赤外線遮蔽材料中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので有効な赤外線遮蔽材料として適用できる。一方、このz/yの値が、2.999以下であれば必要とされる量の自由電子が生成され効率よい赤外線遮蔽材料となる。
【0034】
また、当該WyOzへ、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類
金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素)を添加することで、z/y=3.0の場合も含めて、当該WyOz中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となるため好ましい。
【0035】
ここで、当該WyOzに対し、上述した酸素量の制御と、自由電子を生成する元素の添加とを併用することで、より効率の良い赤外線遮蔽材料を得ることが出来る。この酸素量の制御と、自由電子を生成する元素の添加とを併用した赤外線遮蔽材料の一般式を、MxWyOz(但し、Mは、前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素)と記載したとき、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0の関係を満たす赤外線遮蔽材料が望ましい。
【0036】
まず、元素Mの添加量を示すx/yの値について説明する。
x/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され目的とする赤外線遮蔽効果を得ることが出来る。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線遮蔽効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、当該赤外線遮蔽材料中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0037】
また、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上であることが好ましい。
【0038】
ここで、元素Mを添加された当該MxWyOzにおける、安定性の観点からは、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reのうちのうちから選択される1種類以上の元素であることがより好ましい。そして、赤外線遮蔽材料としての光学特性、耐候性を向上させる観点からは、前記元素Mにおいて、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものが、さらに好ましい。
【0039】
次に、酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。z/yの値については、MxWyOzで表記される赤外線遮蔽材料においても、上述したWyOzで表記される赤外線遮蔽材料と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0040】
さらに、上述の複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造の模式的な平面図である図1を参照しながら説明する。図1において、符号1で示すWO単位にて形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に、符号2で示す元素Mが配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0041】
本発明に係る、可視光領域の透過を向上させ、近赤外領域の吸収を向上させる効果を得るためには、複合タングステン酸化物微粒子中に、図1で説明した単位構造(WO単位で形成される8面体が6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に元素Mが配置した構造)が含まれていれば良く、当該複合タングステン酸化物微粒子が、結晶質であっても非晶質であっても構わない。
【0042】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Feを添加したとき六方晶が形成されやすい。勿論これら以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。
【0043】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0044】
また、六方晶以外では、正方晶、立方晶のタングステンブロンズも赤外線遮蔽材料として有効である。そして、これらの結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。よって、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によって変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0045】
本発明に係る、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料は、近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0046】
また、当該赤外線遮蔽材料の粒子の粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持した応用に使用する場合は、800nm以下の粒子径を有していることが好ましい。これは、800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。この粒子による散乱の低減を重視するとき、粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下が良い。
【0047】
この理由は、粒子の粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱に起因する波長400nm〜780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線遮蔽膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。即ち、粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、粒子径が小さい方が好ましい、粒子径が1nm以上あれば工業的な製造は容易である。
【0048】
上記粒子径を800nm以下と選択することにより、赤外線遮蔽材料微粒子を媒体中に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体のヘイズ値は、可視光透過率85%以下においてヘイズ30%以下とすることができる。ここで、ヘイズが30%よりも大きい値であると、曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られない。
【0049】
また、本発明の赤外線遮蔽材料を構成する微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、当該赤外線遮蔽材料の耐候性の向上の観点から好ましい。
【0050】
また、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子において、一般式WyOzと表記したとき、2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、所謂「マグネリ相」は化学的に安定であり、近赤外線領域の吸収特性も良いので、赤外線遮蔽材料として好ましい。
【0051】
2.タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子の製造方法
上記一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子は、タングステン化合物出発原料を不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0052】
タングステン化合物出発原料には、3酸化タングステン粉末、もしくは酸化タングステンの水和物、もしくは、6塩化タングステン粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0053】
ここで、タングステン酸化物微粒子を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、もしくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることがさらに好ましく、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液であると各元素を容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることがさらに好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気もしくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した粒径のタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子を得ることができる。
【0054】
また、上記元素Mを含む一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子は、上述した一般式WyOzで表されるタングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子のタングステン化合物出発原料と同様であり、さらに元素Mを、元素単体または化合物のかたちで含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料を製造するためには各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物出発原料が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0055】
ここで、不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は、十分な着色力を有し赤外線遮蔽微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上650℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。この時の還元性ガスは、特に限定されないがHが好ましい。また還元性ガスとしてHを用いる場合は、還元雰囲気の組成として、Hが体積比で0.1%以上が好ましく、さらに好ましくは2%以上が良い。0.1%以上であれば効率よく還元を進めることができる。
【0056】
水素で還元された原料粉末はマグネリ相を含み、良好な赤外線遮蔽特性を示し、この状態で赤外線遮蔽微粒子として使用可能である。しかし、酸化タングステン中に含まれる水素が不安定であるため、耐候性の面で応用が限定される可能性がある。そこで、この水素を含む酸化タングステン化合物を、不活性雰囲気中、650℃以上で熱処理することで、さらに安定な赤外線遮蔽微粒子を得ることができる。この650℃以上の熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、工業的観点から、N、Arが好ましい。当該650℃以上の熱処理により、赤外線遮蔽微粒子中にマグネリ相が得られ耐候性が向上する。
【0057】
上述したように、得られた赤外線遮蔽材料微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上の金属を含有する酸化物で被覆されていることは、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、当該赤外線遮蔽材料微粒子を分散した溶液中へ、上記金属のアルコキシドを添加することで、赤外線遮蔽材料微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0058】
3.ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)
本発明に係るHALSとしては、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−オクトキシピペリジニル)セバケート、4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−ブチル−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4.5]デカン−2,4−ジオン、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、トリデシル・トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、トリデシル・トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ジトリデシル・ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ジトリデシル・ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルオキシカルボニル)ブチルカルボニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルオキシカルボニル)ブチルカルボニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2,2,4,4−テトラメチル−20−(β−ラウリルオキシカルボニル)−エチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]ヘネイコサン−21−オン、2,4,6−トリス{N−シクロヘキシル−N−(2−オキソ−3,3,5,5−テトラメチルピペラジノ)エチル}−1,3,5−トリアジン等である。好ましくは、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−オクチルオキシ−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−ブチル−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4.5]デカン−2,4−ジオン、2,2,4,4−テトラメチル−20−(β−ラウリルオキシカルボニル)−エチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]ヘネイコサン−21−オン、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、トリデシル・トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンであり、より好ましくは、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−オクチルオキシ−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−ブチル−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4.5]デカン−2,4−ジオン、2,2,4,4−テトラメチル−20−(β−ラウリルオキシカルボニル)−エチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]ヘネイコサン−21−オン、トリデシル・トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンがある。これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0059】
好ましくは、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン誘導体、または1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジン誘導体であることが良い。特に、ビス(2,2,6,6−テトラメチルー4−ピペリジル)セバケート、または4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、またはビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートが好適である。
【0060】
赤外線遮蔽材料微粒子分散体中のHALS含有量としては、0.01%以上20%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1%以上15%以下である。赤外線遮蔽材料微粒子分散体中のHALS含有量が0.01%あれば、紫外線によって発生したラジカルを十分に捕捉でき、有害ラジカルが連鎖的に発生するのを抑制するため、5価のタングステンの生成を抑制することができ、紫外線による着色を抑制する効果が得られる。20%以下であれば、分散媒体としてUV硬化樹脂を用いた場合であっても、当該HALSが樹脂高分子のラジカル重合を阻害し、赤外線遮蔽材料微粒子分散体の透明性や強度を低下させてしまうことを回避できるからである。
【0061】
上述したように、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体の紫外線による色調変化の現象は、分散媒体である樹脂などの高分子材料に紫外線が照射されたとき、当該紫外線のエネルギーによって、高分子材料の高分子鎖が切断されて活性な有害ラジカルが次々に発生し、高分子の劣化が連鎖的に進み、これらの有害ラジカルが、該タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を媒体中に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体、または赤外線遮蔽体のタングステン酸化物微粒子、または複合タングステン酸化物微粒子に対して還元的に作用し、新たに5価のタングステンが増加するに伴って、着色濃度が高くなるためであると推定される。
【0062】
従って、該分散媒体である樹脂などの高分子材料の紫外線劣化を防止することで、新たな5価のタングステンの生成を防止し、色調の変化を抑制することが可能となる。そこで、当該高分子材料の紫外線劣化を防止するため、タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体中に、HALSを同時に存在させることで、紫外線により発生した有害ラジカルを捕捉してタングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子の還元を防止し、該赤外線遮蔽材料微粒子分散体の紫外線による色調変化を抑制できるものと考えられる。但し、HALSの有害ラジカル補足過程は、未解明な点も多く、上記以外の作用が働いている可能性もあり、上記作用に限定されるわけではない。
【0063】
4.赤外線遮蔽材料微粒子分散体
上記赤外線遮蔽材料微粒子を適用した本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体の好ましい使用方法としては、上記微粒子を適宜な媒体中に上記HALSとともに分散し、所望の基材表面に形成する方法がある。この方法は、あらかじめ高温で焼成した赤外線遮蔽材料微粒子を、基材中、もしくはバインダーによって基材表面に結着させることが可能なので、樹脂材料等の耐熱温度の低い基材材料への応用が可能であり、形成の際に大型の装置を必要とせず安価であるという利点がある。
【0064】
また、当該赤外線遮蔽材料にHALSを含有させる際は、赤外線遮蔽材料微粒子を分散させる媒体中に必要量添加するだけでよく、容易に紫外線による色調変化を抑制した赤外線遮蔽材料が製造可能である。これにより、太陽光を受ける屋外用途等への用途拡大を図ることができ、きわめて有用である。
【0065】
5.赤外線遮蔽材料微粒子とHALSとを媒体中に分散し、基材表面に形成する方法
例えば、上記赤外線遮蔽材料を微粒子化した赤外線遮蔽材料微粒子を適宜な溶媒中に分散させ、更にHALSを溶解させ、これに媒体樹脂を添加した後、所望の基材表面にコーティングして、溶媒を蒸発させ、所定の方法で媒体樹脂を硬化させれば、当該赤外線遮蔽材料微粒子とHALSが媒体中に分散した薄膜の形成が可能となる。
【0066】
当該コーティングの方法は、基材表面に赤外線遮蔽材料微粒子含有樹脂が均一にコートできればよく、特に限定されないが、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が挙げられる。また、赤外線遮蔽材料微粒子を直接バインダー樹脂中に分散したものは、基材表面に塗布後、溶媒を蒸発させる必要が無く、環境的、工業的に好ましい。
【0067】
上記媒体としては、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が目的に応じて選定可能である。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。また、金属アルコキシドを用いたバインダーの利用も可能である。上記金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが代表的である。これら金属アルコキシドを用いたバインダーは加水分解して、加熱することで酸化物膜を形成することが可能である。
【0068】
上記基材としては、所望によりフィルムでもボードでも良く、形状は限定されない。透明基材材料としては、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ふっ素樹脂等が、各種目的に応じて使用可能である。また、樹脂以外ではガラスを用いることができる。
【0069】
6.赤外線遮蔽材料微粒子とHALSとを基材中に分散する方法
上記赤外線遮蔽材料微粒子とHALSとの異なる形態に係る好ましい使用方法として、該赤外線遮蔽材料微粒子とHALSとを基材中に分散させても良い。これらを、基材中に分散させるには、基材表面から浸透させても良く、基材の溶融温度以上に温度を上げて溶融させた後、該赤外線遮蔽材料微粒子とHALSと樹脂とを混合しても良い。このようにして得られた赤外線遮蔽材料微粒子およびHALSの含有樹脂は、所定の方法でフィルムやボード状に成形し、赤外線遮蔽体として応用可能である。
【0070】
例えば、PET樹脂に赤外線遮蔽材料微粒子とHALSとを分散する方法として、まずPET樹脂とHALSとを溶解させた微粒子分散液を混合し、分散溶媒を蒸発させてから、PET樹脂の溶融温度である300℃程度に加熱してPET樹脂を溶融させ、赤外線遮蔽材料微粒子を添加し分散させて混合し、冷却することで、赤外線遮蔽材料微粒子とHALSとを分散したPET樹脂の作製が可能となる。
【0071】
上記赤外線遮蔽材料微粒子を分散させる方法は、特に限定されないが、例えば、超音波照射、ビーズミル、サンドミル等を使用することができる。また、均一な分散体を得るために、各種添加剤の添加、pH調整も好ましい構成である。
【0072】
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、上記の構成をとることにより、紫外線照射に伴う5価のタングステンの生成が抑制され、着色変化を回避することが可能となると考えられる。
【0073】
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、可視光透過率を60%から70%にした時、紫外線を2時間照射した時の可視光透過率の低下量が、ヒンダードアミン系光安定剤未添加の赤外線遮蔽材料微粒子分散体に同様に紫外線を照射した時の可視光透過率の低下量の50%以下となる赤外線遮蔽材料微粒子分散体を得ることができる。
尚、上記紫外線照射条件は、岩崎電気製アイスーパーUVテスター(SUV−W131)を使用し、紫外線強度は、100mW/cmで、2時間連続照射した。また、ブラックパネル温度は60℃とした。
【実施例】
【0074】
(実施例1)
Cs0.33WO粉末を8重量部、トルエン84重量部、分散剤8重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子径80nmの分散液(A液)とした。このA液100重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)50重量部、ビス(2,2,6,6−テトラメチルー4−ピペリジル)セバケート8重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0075】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は70%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。さらにヘイズは0.4%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
この赤外線遮蔽膜に紫外線を2時間照射し、同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は67%、ヘイズは0.4%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は3%と小さく、色調変化も少ないことがわかった。また、ヘイズは変化しておらず、紫外線照射後も透明性を保持していることがわかった。
尚、紫外線照射条件は、岩崎電気製アイスーパーUVテスター(SUV−W131)を使用し、紫外線強度は、100mW/cmとした。また、ブラックパネル温度は60℃とした。
【0076】
(実施例2)
Cs0.33WO粉末を8重量部、トルエン84重量部、分散剤8重量部を混合し、分散処理を行い、平均分散粒子径80nmの分散液(A液)とした。このA液100重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)50重量部、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン8重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0077】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は70%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。さらにヘイズは0.6%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
この赤外線遮蔽膜へ、実施例1と同様に、紫外線を2時間照射し、同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は68%、ヘイズは0.6%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は2%と小さく、色調変化も少ないことがわかった。また、ヘイズは変化しておらず、紫外線照射後も透明性を保持していることがわかった。
【0078】
(実施例3)
上記A液100重量部とハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)50重量部、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート8重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0079】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は70%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。さらにヘイズは0.4%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
この赤外線遮蔽膜へ、実施例1と同様に、紫外線を2時間照射し、同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は67%、ヘイズは0.4%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は3%と小さく、色調変化も少ないことがわかった。また、ヘイズは変化しておらず、紫外線照射後も透明性を保持していることがわかった。
【0080】
(比較例1)
上記A液100重量部にハードコート用紫外線硬化剤50重量部を混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
【0081】
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は68%、ヘイズは0.4%であった。
この赤外線遮蔽膜へ、実施例1と同様に、紫外線を2時間照射し同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は50%、ヘイズは0.4%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は18%と大きく、色調が変化していた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る六方晶を有する複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造の模式図である。
【符号の説明】
【0083】
1 WO単位
2 元素M

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物微粒子、または/及び、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子と、ヒンダードアミン系光安定剤とを、媒体中に含有分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、
ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が、0.01%以上20%以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項2】
前記タングステン酸化物微粒子、または/及び、複合タングステン酸化物微粒子、の粒子直径が、1nm以上800nm以下であることを特徴とする請求項1記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体分散体。
【請求項3】
前記タングステン酸化物微粒子、または/及び、前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とする請求項1から2のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項4】
一般式MxWyOzで表記される前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶もしくは、正方晶もしくは、立方晶の結晶構造の1つ以上を含むことを特徴とする請求項1記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項5】
M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちの1種類以上を含み、六方晶の結晶構造結晶構造を有することを特徴とする請求項4記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項6】
ヒンダードアミン系光安定剤が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン誘導体または1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジン誘導体であることを特徴とする請求項1記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項7】
前記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする請求項1記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項8】
前記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂のうちのいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項7記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項9】
請求項1〜8記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、可視光透過率を60%から70%とした時、紫外線を2時間照射した時の可視光透過率の低下量が、ヒンダードアミン系光安定剤未添加の赤外線遮蔽材料微粒子分散体に同様に紫外線を照射した時の可視光透過率の低下量の50%以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項10】
請求項9記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を、板状またはフィルム状または薄膜状に形成して作製したことを特徴とする赤外線遮蔽体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−282736(P2006−282736A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101616(P2005−101616)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】