説明

走査光学装置

【課題】均一な露光が可能となる走査光学装置を提供する。
【解決手段】独立して変調される複数の光源(半導体レーザ1)と、複数の光源から出射した光を光束に変換する第1の光学素子(コリメートレンズ2)と、第1の光学素子を通過した光束を主走査方向に長手の線状に結像させる第2の光学素子(シリンドリカルレンズ4)と、第2の光学素子を通過した光束を主走査方向に偏向する偏向ミラー(ポリゴンミラー5)と、偏向ミラーで偏向された光束を被走査面9A上にスポット状に結像させる第3の光学素子(fθレンズ6)とを備え、第3の光学素子はレンズ面L1,L2を有する単レンズよりなり、被走査面に入射する像の、像高Yによる副走査方向のMTFの値が一定に近づくように、レンズ面L1,L2は、それぞれ、副走査方向の曲率が、光軸(第1光軸A1、第2光軸A2)の軸上から主走査方向の外側に向かって連続的に変化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成装置などに用いられる走査光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
独立して変調された複数の光源を有して、複数ラインを同時に走査することができるマルチビーム走査光学装置において、fθレンズのレンズ面形状を適切に設定することによって、コンパクトで高精細な印字を可能にしたものが知られている(特許文献1)。この走査光学装置においては、被走査面に入射する光束の副走査方向のFナンバーの最大値をFmax、最小値をFminとしたとき、Fmin/Fmax>0.9の条件を満足するようにfθレンズの形状を構成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−297256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記した特許文献に記載のレンズにおいては、副走査方向に関して収差の影響が考慮されていないため、収差がある光学系では像面湾曲などの歪みが大きくなり、画質が低下するという問題がある。また、Fナンバーのバラツキが少なくても、被走査面にできる像の解像度のバラツキが大きい場合には、形成された画像にムラが生じるという問題がある。
【0005】
以上の背景に鑑み、本発明は均一な露光が可能となる走査光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的を達成するため、本発明の走査光学装置は、独立して変調される複数の光源と、前記複数の光源から出射した光を光束に変換する第1の光学素子と、前記第1の光学素子を通過した光束を主走査方向に長手の線状に結像させる第2の光学素子と、前記第2の光学素子を通過した光束を主走査方向に偏向する偏向ミラーと、前記偏向ミラーで偏向された光束を被走査面上にスポット状に結像させる第3の光学素子とを備え、前記第3の光学素子は対向する一対のレンズ面を有する単レンズよりなり、前記被走査面に入射する像の、像高による副走査方向のMTFの値が一定に近づくように、前記一対のレンズ面は、それぞれ、副走査方向の曲率が、光軸の軸上から主走査方向の外側に向かって連続的に変化していることを特徴とする。
【0007】
このような走査光学装置によれば、像高による副走査方向のMTFの値が一定に近づくように、一対のレンズ面は、それぞれ、副走査方向の曲率が、光軸の軸上から主走査方向の外側に向かって連続的に変化しているため、複数光源の複数の像の解像度(MTF)が、主走査方向の全体に渡って均一になり、露光後の画像のムラが目立たなくなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の走査光学装置によれば、主走査方向に均一な露光をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態に係る走査光学装置の主走査断面図である。
【図2】レンズ面に対する主走査方向と副走査方向を説明する斜視図である。
【図3】ポリゴンミラーで反射した光の光路を示す副走査断面図である。
【図4】実施形態に係るfθレンズのレンズ面形状を表す各係数および諸特性の一覧を示す表である。
【図5】一実施例に係る光学系での像高YとMTFの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の一実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、一実施形態に係る走査光学装置10は、入射光学系14、偏向ミラーの一例としてのポリゴンミラー5、第3の光学素子の一例としてのfθレンズ6を有し、これらにより、入射光学系14から出射されたレーザ光を感光体ドラム9の被走査面9Aにスポット状に集光し、走査するように構成されている。
【0011】
入射光学系14は、半導体レーザ1、第1の光学素子の一例としてのコリメートレンズ2、開口絞り3、第2の光学素子の一例としてのシリンドリカルレンズ4を備えて構成されている。
【0012】
半導体レーザ1は、副走査方向(主走査方向に直交する方向。図1では紙面奥行き方向。図2も参照。)に複数の光源、本実施形態では、一例として2つの発光素子が並んで配置されている(図示せず)。これらの2つの発光素子は、2本分の走査線の画像に対応して、独立して変調される。
【0013】
コリメートレンズ2は、半導体レーザ1から出射したレーザ光を光束に変換するレンズである。この光束は、平行光、収束光および僅かに広がる光のいずれでもよい。
【0014】
開口絞り3は、コリメートレンズ2で作られた光束の径を規定する開口を有する部材である。
【0015】
シリンドリカルレンズ4は、コリメートレンズ2および開口絞り3を通過した光束をポリゴンミラー5のミラー面5A上において、主走査方向に長手の線状に結像させるレンズである。
【0016】
ポリゴンミラー5は、複数のミラー面5Aが、回転軸5Bから等距離に配置された部材であり、図1では、6つミラー面5Aを有するものを例示している。ポリゴンミラー5は、回転軸5Bを中心に一定速度で回転され、シリンドリカルレンズ4を通過した光束を主走査方向に偏向する。なお、この光束が偏向される方向が主走査方向である。
【0017】
fθレンズ6は、走査光学装置10に1つのみ設けられている。fθレンズ6は、ポリゴンミラー5で反射されることで偏向された光束を被走査面9A上にスポット状に結像させ、かつ、ポリゴンミラー5のミラー面5Aの面倒れを補正している。fθレンズ6は、ポリゴンミラー5で等角速度で偏向された光束を、被走査面9A上に等速で走査するようなfθ特性を有している。fθレンズ6は、対向する一対の入射側(ポリゴンミラー5側)のレンズ面L1と出射側(被走査面9A側)のレンズ面L2を有している。これらのレンズ面L1,L2は、主走査面内で非球面形状で、共にトーリック面である。そして、レンズ面L1,L2の副走査面(主走査方向に直交する断面)内の曲率は、有効部内において第1光軸A1、第2光軸A2の軸上から主走査方向の外側に向って連続的かつ対称に変化している。もっとも、本発明において、レンズ面L1,L2が、第1光軸A1、第2光軸A2に関して主走査方向に対称であることは必ずしも必要ではない。
【0018】
本実施形態において、レンズ面L1,L2の表現形式は特に問わない。例えば、fθレンズ6のレンズ面L1と第1光軸A1の交点O1およびレンズ面L2と第2光軸Aの交点O2を原点とし、光軸方向をz軸、主走査面内において光軸A1,A2と直交する軸をy軸としたとき、主走査方向と対応する母線方向が、
【数1】

(A、・・・、A12、c、ccは定数)
なる式で表わすことができる。
【0019】
また、副走査方向と対応する子線方向が、
【数2】

なる式で表すことができる。
【0020】
ここで、レンズ面座標yにおける副走査方向の曲率半径r’は光軸上の副走査方向の曲率半径をrとして、
【数3】

(B、・・・、B12は定数)
なる式で表わされる。
【0021】
レンズ面L1は、光軸(第1光軸A1)を含む副走査面PL1(図2参照)に関し、対称な形状をしている。また、レンズ面L2は、光軸(第2光軸A2)を含む副走査面PL2(図2参照)に関し、対称な形状をしている。これにより、レンズ面L1,L2を、容易に製造することができる。レンズ面L1,L2は、例えば、これらの表面形状を反転させた金型を用い、プラスチック射出成形やガラスモールドにより製造できるが、レンズ面L1,L2が第1光軸A1、第2光軸A2を含む副走査面PL1,PL2に関し対称であることで、この金型製作の際に行う補正や、金型および製品の形状検査が容易になる。
【0022】
図3に示すように、ポリゴンミラー5のミラー面5Aに主走査方向に長手の線状に入射した2つの光束B1,B2は、fθレンズ6により集光されて、被走査面9A上で、スポット状の像M1,M2を形成する。これにより、走査光学装置10は、主走査方向に2つのスポット状の像M1,M2を走査させることで、主走査方向への一度の走査で、2つの走査線を描くことができる。
【0023】
ところで、像M1,M2は、コリメートレンズ2、シリンドリカルレンズ4、fθレンズ6の収差や、Fナンバーの誤差により、完全な点に結像することはできず、ボケが生じ、ある大きさで強度分布を有したドットとして結像される。このときの像M1,M2は、一般的にシャープで高解像である方が良いのは確かであるが、画像形成装置において全体の画像が良好に見えるためには、単に高解像であることよりも、解像度が揃っていることが望ましい。
【0024】
解像度を表す指標としては、MTF(Modulated Transfer Function)が用いられる。本実施形態のfθレンズ6においては、被走査面9Aに入射する像M1,M2の、像高Yによる副走査方向のMTFの値が一定に近づくように、一対のレンズ面L1,L2は、それぞれ、副走査方向の曲率が、光軸の軸上から主走査方向の外側に向かって連続的に変化している。
【0025】
像高yの位置により副走査方向のMTFの値の変化が許容される程度は、被走査面9A上のドットピッチから定まる空間周波数をu、fθレンズ6の副走査方向開口数をNA、半導体レーザ1から出射される光の波長をλとして、
βmax=cos−1(0.5*λ*u/NA)
βmin=cos−1(0.55*λ*u/NA)
とすると、MTFの最大値MTFmaxおよび最小値MTFminが、
(MTFmax-MTFmin)/MTFmin≦(2βmax-2βmin-sinβmax+sinβmin)/(2βmin-sinβmin)
・・・(4)
を満たす範囲である。
【0026】
前記(4)式を満たすことを容易にするため、本実施形態の走査光学装置10は、入射光学系14、ポリゴンミラー5、被走査面9Aの配置と、これらに対するfθレンズ6の配置およびfθレンズ6の形状が調整されている。本実施形態では、図1に示すように、レンズ面L1の光軸である第1光軸A1は、被走査面9Aの走査中心から延びる法線P1に対して角度β1だけ傾いているともに、レンズ面L1の中心(第1光軸A1とレンズ面L1の交点O1)は、法線P1からシフト量D1だけシフトしている。また、レンズ面L2の光軸である第2光軸A2は、第1光軸A1に対して角度β2だけ傾いているともに、レンズ面L2の中心(第2光軸A2とレンズ面L2の交点O2)は、第1光軸A1からシフト量D2だけシフトしている。
【0027】
一実施形態において、前記した(1)〜(3)式に示す式でレンズ面L1,L2を表す場合、レンズ面L1,L2の形状を特定する各係数と、レンズ面のシフト量D1,D2と傾きβ1,β2などの諸特性は図4に示す通りである。この図4の特性の光学系による像高YとMTFの関係をグラフで示すと、図5のようになる。
【0028】
上記の特性のfθレンズ6およびその他の光学系を有する走査光学装置10によれば、
λ=788nm
NA=7.380E−03
u=11.8
βmax=cos−1(0.5*λ*u/NA)=8.893−01
βmin=cos−1(0.55*λ*u/NA)=8.052E−01
として、
(2βmax-2βmin-sinβmax+sinβmin)/(2βmin-sinβmin)=2.361E−01
となり、一方、
(MTFmax−MTFmin)/MTFmin=5.296E−02
となるので、前記(4)式を十分満たす。なお、MTFは、codeVやZEMAXなどの計算ソフトを用いて算出することができる。
【0029】
以上に説明したように、本実施形態の走査光学装置10によれば、前記(4)式を満たすように、一対のレンズ面L1,L2の副走査方向の曲率を、光軸の軸上から主走査方向の外側に向かって連続的に変化させたため、主走査方向の位置(像高Yの位置)による解像度MTFの変化が小さく、露光された画像の画面全体の均一性が向上する。すなわち、良好な画像を形成することができる。
【0030】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は、適宜変形して実施することが可能である。例えば、前記実施形態においては、(4)式を満足させるため、角度β1,β2、シフト量D1,D2のいずれをも0とせずにfθレンズ6を配置したが、これらの一部を0としても(4)式を満たすように構成することができる。また、副走査面PL1に関し非対称なレンズ面を用いることで、角度β1,β2、シフト量D1,D2の全てを0にした場合でも(4)式を満たすことは可能である。
【0031】
さらに、偏向ミラーの一例としてポリゴンミラー5を示したが、偏向ミラーとしてはガルバノミラーを用いることもできる。この場合には、第3の光学素子は、fθレンズではなく、アークサインレンズを用いることになる。
【0032】
前記実施形態においては、光源が副走査方向に2つ並んでいる場合について説明したが、光源は副走査方向に3つ以上並んでいてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 半導体レーザ
2 コリメートレンズ
4 シリンドリカルレンズ
5 ポリゴンミラー
5A ミラー面
6 fθレンズ
9 感光体ドラム
9A 被走査面
10 走査光学装置
14 入射光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立して変調される複数の光源と、前記複数の光源から出射した光を光束に変換する第1の光学素子と、前記第1の光学素子を通過した光束を主走査方向に長手の線状に結像させる第2の光学素子と、前記第2の光学素子を通過した光束を主走査方向に偏向する偏向ミラーと、前記偏向ミラーで偏向された光束を被走査面上にスポット状に結像させる第3の光学素子とを備える走査光学装置であって、
前記第3の光学素子は対向する一対のレンズ面を有する単レンズよりなり、
前記被走査面に入射する像の、像高による副走査方向のMTFの値が一定に近づくように、前記一対のレンズ面は、それぞれ、副走査方向の曲率が、光軸の軸上から主走査方向の外側に向かって連続的に変化していることを特徴とする走査光学装置。
【請求項2】
前記第3の光学素子の副走査方向の曲率は、
前記被走査面上のドットピッチから定まる空間周波数をu、前記第3の光学素子の副走査方向開口数をNA、前記光源から出射される光の波長をλとして、
βmax=cos−1(0.5*λ*u/NA)
βmin=cos−1(0.55*λ*u/NA)
とすると、MTFの最大値MTFmaxおよび最小値MTFminが、
(MTFmax-MTFmin)/MTFmin≦(2βmax-2βmin-sinβmax+sinβmin)/(2βmin-sinβmin)
を満足するように変化していることを特徴とする請求項1に記載の走査光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−13867(P2012−13867A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149124(P2010−149124)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】