走行制御支援方法及び走行制御支援装置
【課題】安全性を低下させることなく、コストをかけずに、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援する。
【解決手段】列車2が踏切3に接近すると、車上装置21は、自らの列車2の位置・速度情報を所定の間隔で踏切制御装置31に送信する。踏切制御装置31は、車上装置21から受信する列車の位置及び速度に基づいて踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間を算出する。また、踏切制御装置31は、予め記憶する設計警報時間と、算出される踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と、算出される踏切遮断完了時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する。踏切制御装置31が、警報開始後に列車2を加速させる走行制御パターンを算出し、車上装置21に送信する。そして、車上装置21は、算出される走行制御パターンを乗務員に提示し、乗務員による走行制御を支援する。
【解決手段】列車2が踏切3に接近すると、車上装置21は、自らの列車2の位置・速度情報を所定の間隔で踏切制御装置31に送信する。踏切制御装置31は、車上装置21から受信する列車の位置及び速度に基づいて踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間を算出する。また、踏切制御装置31は、予め記憶する設計警報時間と、算出される踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と、算出される踏切遮断完了時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する。踏切制御装置31が、警報開始後に列車2を加速させる走行制御パターンを算出し、車上装置21に送信する。そして、車上装置21は、算出される走行制御パターンを乗務員に提示し、乗務員による走行制御を支援する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線を利用して踏切制御を行う無線踏切制御システムにおいて、警報時間を短縮するために、乗務員による走行制御を支援する走行制御支援方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信を利用して列車制御を行う無線式列車制御システムの研究開発が盛んに行われており、これを活用した無線式踏切制御方法が提案されている(特許文献1、非特許文献1乃至3参照)。
特許文献1、非特許文献1、2に記載の無線式踏切制御方法では、列車位置と速度から踏切到達予測時間とブレーキパターン到達予測時間を求め、所定の警報時間(警報開始から列車が踏切に到達するまでの時間)の最小値と踏切制御予測時間、及び、遮断完了時間(警報開始から遮断完了までの時間)とブレーキパターン到達予測時間を比較して、踏切制御を行う。
また、非特許文献3では、GPSを利用した踏切定時間制御システムが記載されている。
【0003】
ところで、踏切制御において、開かずの踏切問題は、依然大きな社会問題となっている。現在広く普及している踏切制御子等を利用した踏切制御では、地上固定位置に設定する警報開始点と終了点の列車検知により警報制御を行っている。警報開始点は、そこでの最高速度によって固定的に決定されている。
特許文献2、非特許文献4、5では、踏切制御子等を利用した踏切制御において、踏切上で上下線の列車がなるべくすれ違うように、列車の走行制御を行うことが記載されている。これによって、全体の警報時間を短縮することができる。
また、非特許文献6では、イライラ度と実待ち時間の関係を示す評価関数を導入し、評価値を最適化するように、複数の踏切を群として制御することが記載されている。
【0004】
前述の無線式列車制御システムを実用化するに当たり、警報時間を短縮する効果をより大きくする仕組みが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−10667号公報
【特許文献2】特許第4587833号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】熊谷敏雄、平尾裕司、長谷川豊著、「次世代踏切制御方式」、鉄道総研報告、Vol.4、No.11、pp42〜49、1990年
【非特許文献2】平尾裕司、西堀典幸、南博幸、長谷川豊著、「次世代運転制御システム(CARAT)における踏切制御」、鉄道総研報告、Vol.7、No.5、pp25〜31、1993年
【非特許文献3】池田昌俊、齋藤元子著、「GPSを利用した踏切定時間制御システム」、鉄道技術連合シンポジウム、J−RAIL2001講演論文集、pp325〜328、2001年
【非特許文献4】斉藤敦、曽根悟、高野奏著、「複線区間における開かずの踏切の開扉時間を確保する列車群制御法」、電気学会研究会、TER−03−14/ITS−03−07、pp37−42、2003年
【非特許文献5】上田圭太、望月寛、高橋聖、中村英夫、坂井正善、佐藤亮著、「踏切遮断時間短縮を目的とした列車ダイヤの最適化」、鉄道技術連合シンポジウム、J−RAIL2007講演論文集、pp373−374、2007年
【非特許文献6】真田賢一郎、曽根悟、高野奏著、「複線区間における複数の開かずの踏切を群として制御する方法の検討」、電気学会全国大会講演論文集 第5分冊、pp279−280、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の特許文献1、非特許文献1、2に記載の無線式踏切制御方法では、安全側の制御を行う為に、「踏切到達予測時間」に、警報開始後に車両の最大性能によって加速し続けることを想定した場合に、警報開始から列車が踏切に到達するまでの時間、を用い、これが「所定の警報時間の最小値」を満足するようにする。しかしながら、通常の乗務員による運転では、警報開始後に車両の最大性能で加速し続けることは考え難く、現実の警報時間は、所定の警報時間の最小値とはならない。
【0008】
これに対して、警報開始から列車が踏切に到達するまで加速の想定をせずに(等速走行を行うものとして)、警報開始時点の速度によって制御することも考えられる。しかしながら、駅出発後や速度制限区間を通過した後は、通常加速する必要がある為、一律に制御を行うことができない。
【0009】
また、運転曲線や先行列車との位置関係から加減速を加味した適切な走行パターンを予測、算出し、算出される走行パターンに基づいて車上装置が速度照査を行い、この走行パターンに従って走行したときに、警報時間が所定の警報時間の最小値となるように警報制御を行うことも考えられる。しかしながら、走行パターンを算出し、乗務員に表示し、更に速度照査を行う為には、装置が複雑化するとともに、乗務員の運転操作の難易度も高くなってしまい、多大なコスト(費用及び人的負荷)がかかる。
【0010】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、安全性を低下させることなく、コストをかけずに、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援することができる走行制御支援方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために第1の発明は、車上装置と踏切制御装置とが無線通信を行い、前記車上装置が、列車の位置及び速度を前記踏切制御装置に送信し、前記踏切制御装置が、前記車上装置から受信する列車の位置及び速度に基づいて、踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間として、それぞれ、警報開始後に最大加速パターンによる走行を想定した場合に警報開始から列車が踏切及びブレーキパターンに到達するまでの時間を算出する、あるいは、前記車上装置が、列車の位置及び速度に基づいて前記踏切到達予測時間及び前記ブレーキパターン到達予測時間を算出する予測時間算出手段と、前記踏切制御装置あるいは前記車上装置が、予め記憶する設計警報時間と前記踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と前記ブレーキパターン到達予測時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する警報制御手段と、を具備する無線踏切制御システムにおける走行制御支援方法であって、前記踏切制御装置が、警報開始後に列車を加速させる走行制御パターンを算出し、前記車上装置に送信する、あるいは、前記車上装置が、前記走行制御パターンを算出する走行制御パターン算出ステップと、前記車上装置が、前記走行制御パターンを乗務員に提示する走行制御パターン提示ステップと、を含むことを特徴とする走行制御支援方法である。
第1の発明によって、安全性を低下させることなく、コストをかけずに、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援することができる。
【0012】
第1の発明における前記走行制御パターン算出ステップは、前記踏切制御装置が位置及び速度を受信済の列車の中で前記踏切到達予測時間が最も早い列車を第1列車とし、前記第1列車に対する前記走行制御パターンである第1走行制御パターンを、警報開始後に列車の加速特性を反映した加速を行うように算出し、更に、前記第1列車と警報時間が近接あるいは重複する列車である第2列車が存在するか否かを判定する第1判定を行い、前記第1判定が肯定の場合には、前記第1走行制御パターンを変更しない。
これによって、線区が複線や複々線などの場合であっても、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援することができる。
【0013】
また、第1の発明における前記走行制御パターン算出ステップは、前記第1判定が否定の場合には、前記第2列車に対する前記走行制御パターンである第2走行制御パターンを、警報開始後に列車の加速特性を反映した加速を行うように算出し、更に、前記第1走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻と、前記第2走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻とが一致するか否かを判定する第2判定を行い、前記第2判定が肯定の場合には、前記第2走行制御パターンを変更しない。
これによって、2台の列車が踏切を通過するための警報時間が実質的に1台分の長さとなる走行制御パターンを提示することになる。従って、各乗務員が提示される走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0014】
また、第1の発明における前記走行制御パターン算出ステップは、前記第2判定が否定の場合には、前記第1走行制御パターンによる警報時間の長さと、前記第2走行制御パターンによる警報時間の長さとが等しいか否かを判定する第3判定を行い、前記第3判定が否定の場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち警報時間が長い方を基準として、警報開始時刻及び警報停止時刻が一致するように、前記第1走行制御パターン又は前記第2走行制御パターンを変更する第1変更を行う。
これによって、2台の列車の警報開始時刻及び警報停止時刻が一致することから、2台の列車が踏切を同時に通過する走行制御パターンを提示することになる。従って、各乗務員が提示される走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0015】
また、第1の発明における前記走行制御パターン算出ステップは、前記第3判定が肯定の場合、又は、前記第1変更が出来ない場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち一方の警報時間が他方の警報時間に包含されるように、前記第1走行制御パターン又は前記第2走行制御パターンを変更する第2変更を行う。
これによって、一方の警報時間が他方の警報時間に包含される走行制御パターンを提示することになる。従って、各乗務員が提示される走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、列車ダイヤへの影響を抑えながら、警報時間を短縮することができる。
【0016】
また、第1の発明における前記走行制御パターン算出ステップは、前記第2変更が出来ない場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち警報開始時刻が遅い方を、許容可能な範囲内において最大限遅らせるように変更する第3変更を行い、更に、前記第3変更の結果、警報を一旦停止出来る場合には、所定の評価関数を用いて道路交通への影響度合いを評価し、警報を一旦停止するように前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンを算出するか否かを判定する。
これによって、道路交通にとっては、全体の警報時間を短縮する方が良いか、それとも、警報を一旦停止する方が良いかを判定することができる。警報を一旦停止する場合、既に踏切の前に待機している歩行者や自動車などは踏切を渡ることができ、長時間待つ歩行者や自動車などを減少させることができる。
【0017】
第2の発明は、車上装置と踏切制御装置とが無線通信を行い、前記車上装置が、列車の位置及び速度を前記踏切制御装置に送信し、前記踏切制御装置が、前記車上装置から受信する列車の位置及び速度に基づいて、踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間として、それぞれ、警報開始後に最大加速パターンによる走行を想定した場合に警報開始から列車が踏切及びブレーキパターンに到達するまでの時間を算出する、あるいは、前記車上装置が、列車の位置及び速度に基づいて前記踏切到達予測時間及び前記ブレーキパターン到達予測時間を算出する予測時間算出手段と、前記踏切制御装置あるいは前記車上装置が、予め記憶する設計警報時間と前記踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と前記ブレーキパターン到達予測時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する警報制御手段と、を具備する無線踏切制御システムと連携する走行制御支援装置であって、前記踏切制御装置が、警報開始後に列車を加速させる走行制御パターンを算出し、前記車上装置に送信する、あるいは、前記車上装置が、前記走行制御パターンを算出する走行制御パターン算出手段と、前記車上装置が、前記走行制御パターンを乗務員に提示する走行制御パターン提示手段と、を具備することを特徴とする走行制御支援装置である。
第2の発明によって、安全性を低下させることなく、コストをかけずに、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、安全性を低下させることなく、コストをかけずに、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援することができる走行制御支援方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】無線踏切制御システムの概要図
【図2】最高速度以外の速度制限がない区間の警報開始パターンを示す図
【図3】走行パターンそのものを提示する図
【図4】ATS−Ps動作表示器を示す図
【図5】ATS−Ps動作表示器の表示方法を使用した走行目標速度の提示例
【図6】一段ブレーキ式ATCの車内信号機を示す図
【図7】一段ブレーキ式ATCの表示方法を使用した走行目標速度の提示例
【図8】走行制御支援処理の詳細を示すフローチャート
【図9】警報開始時刻、警報停止時刻が一致するケースを示す図
【図10】警報時間の長さが等しい場合であって、先に踏切に到着する列車を遅らせるケースを示す図
【図11】警報時間の長さが等しくない場合であって、警報時間が短い列車の警報時間を長くするケースを示す図
【図12】警報開始時刻、警報停止時刻を一致させることが出来ない場合であって、列車ダイヤ等への影響を抑える為に警報時間を長くするケースを示す図
【図13】警報開始時刻、警報停止時刻を一致させることが出来ない場合であって、後から踏切に到達する列車を遅延させて警報を一旦停止するケースを示す図
【図14】等速走行と同一の走行時間とする走行制御パターンを示す図
【図15】速度制限区間における走行制御パターンを示す図
【図16】実施例1による警報時間短縮効果を示すグラフ
【図17】比較例による踏切到達時間差0秒の場合の警報時間を示すグラフ
【図18】実施例2による踏切到達時間差0秒の場合の警報時間を示すグラフ
【図19】比較例による踏切到達時間差15秒の場合の警報時間を示すグラフ
【図20】実施例2による踏切到達時間差15秒の場合の警報時間を示すグラフ
【図21】比較例による踏切到達時間差30秒の場合の警報時間を示すグラフ
【図22】実施例2による踏切到達時間差30秒の場合の警報時間を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明の走行制御支援方法は、図1に示す無線踏切制御システムにおいて実行される。また、本発明の走行制御支援装置(走行制御支援システム)は、図1に示す無線踏切制御システムと連携して処理を実行する。
【0021】
図1は、無線踏切制御システムの概要図である。
無線踏切制御システム1では、列車2a、2b内に車上装置21a、21bが設置され、踏切3の周辺に踏切制御装置31が設置される。車上装置21a、21bは、それぞれ、無線装置22a、22b等と接続されている。踏切制御装置31は、無線装置32、警報機33、遮断機34等と接続されている。
無線踏切制御システム1では、車上装置21a、21bと踏切制御装置31とが、走行制御範囲内及びその周辺において無線通信して踏切制御を行う。車上装置21a、21bと踏切制御装置31の無線通信は、無線装置22a、22b、32を介して行う。
以下では、列車2a、2bを総称するときは、「列車2」と表記する。また、車上装置21a、21bを総称するときは、「車上装置21」と表記する。
【0022】
列車2が踏切3に接近すると、車上装置21は、自らの列車2の位置・速度情報を所定の間隔で踏切制御装置31に送信する。車上装置21は、少なくとも踏切を通過し終わるまでは位置・速度情報の送信を継続する。
【0023】
踏切制御装置31は、車上装置21から受信する列車の位置及び速度に基づいて踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間を算出する。
「踏切到達予測時間」とは、列車2が現在位置から、踏切3の位置に到達するまでの予測時間である。本発明の実施の形態のように、無線通信によって列車2から位置・速度情報をリアルタイムに受信できる場合、安全側の制御を行う為には、踏切制御装置31は、「踏切到達予測時間」を、接近中の列車2が現在位置と現在速度から、「最大加速度(列車2の性能ごとに定められた値に勾配を加味した値)で加速し、最高速度(線区または列車2の性能ごとに定められた値)の制約の範囲内」(以下、「最大加速パターン」という。)によって踏切3に接近すると仮定した場合の到達可能な最速時間、として算出する。
【0024】
「ブレーキパターン到達予測時間」とは、列車2が現在位置から、踏切3の手前に停止するブレーキパターンとの交差点に到達するまでの予測時間である。踏切制御装置31は、ブレーキパターンを発生させ、ブレーキパターン到達予測時間を算出する。踏切制御装置31は、踏切到達予測時間と同様、「ブレーキパターン到達予測時間」を、最大加速パターンによってブレーキパターンに接近すると仮定した場合の到達可能な最速時間、として算出する。
【0025】
尚、踏切制御装置31に代えて、車上装置21が、自らの列車2の位置及び速度に基づいて踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間を算出しても良い。
【0026】
また、踏切制御装置31は、予め記憶する設計警報時間と、前述のように算出される踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と、前述のように算出される踏切遮断完了時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する。
「設計警報時間」とは、警報機33による警報の開始から遮断機34による遮断動作の終了までの時間、及び、遮断機34による遮断動作の終了から列車2が踏切3に到達するまでの時間(鉄道に関する技術上の基準を定める省令第62条第1項に関する解釈基準によれば、15秒、及び20秒を標準とする。)を確保するために、無線踏切制御システム1の設計時に予め定義される時間である。設計警報時間は、遮断機34の数、及び単線、複線または複々線の別などによって最適値が異なる為、踏切3ごとに定義されることが望ましい。設計警報時間は、踏切制御装置31に記憶される。
【0027】
「遮断完了時間」とは、警報機33による警報の開始から遮断機34による踏切動作の終了までの時間(鉄道に関する技術上の基準を定める省令第62条第1項に関する解釈基準によれば、15秒を標準とする。)を確保するために、無線踏切制御システム1の設計時に予め定義される時間である。遮断完了時間は、設計警報時間と同様、踏切3ごとに定義されることが望ましい。遮断完了時間は、踏切制御装置31に記憶される。
踏切3の手前で停止するブレーキパターン適用の要否を判断するためには、「遮断棹の降下不良や支障物の残留の有無の判定結果」が必要である。また、遮断棹の降下不良や支障物の残留の有無の判定をするためには、「遮断完了」が必要である。従って、ブレーキパターン適用の要否を判断するための前提条件は、列車2がブレーキパターンに到達する前に踏切3の遮断が完了することである。
【0028】
「所定の条件」とは、例えば、(1)「踏切到達予測時間>設計警報時間が成立しない」、あるいは、(2)「踏切到達予測時間>設計警報時間が成立し、かつ、ブレーキパターン到達予測時間>遮断完了時間が成立しない」のどちらかの条件である。
但し、例えば、対向する列車が踏切3を通過予定の為、既に警報を開始している場合、踏切制御装置31は、所定の条件を満たしても警報の開始を指示しない。
【0029】
尚、踏切制御装置31に代えて、車上装置21が、設計警報時間及び遮断完了時間を記憶し、設計警報時間と算出される踏切到達予測時間を比較するとともに、踏切遮断完了時間と算出される踏切遮断完了時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示しても良い。この場合、車上装置21は、踏切制御装置31に対して命令を送信し、踏切制御装置31が既に警報を開始しているか否かを判断し、警報機33及び遮断機34を制御する。
【0030】
図2は、最高速度以外の速度制限がない区間の警報開始パターンを示す図である。図2に示す加速曲線43は、列車2の加速特性を反映したものとなっている。通常、列車2は、低速時は加速度が大きく、速度が増すごとに加速度が小さくなる(加速がにぶくなる)。
警報開始パターン41は、列車2が、加速曲線43に基づいて最大加速による走行をする場合に、設計警報時間の経過直後に踏切3に到達する曲線である。
踏切手前停止パターン42は、非常制動を開始することによって踏切手前(踏切3から余裕距離を考慮した位置)に停止する曲線である。
【0031】
図2に示す警報開始パターン41によって警報を開始し、加速曲線43に基づいて加速を行うと、従来の踏切制御子による警報制御と比較して、警報時間を大幅に短縮することが可能となる。以下では、このような走行制御パターンを「警報時間短縮走行制御パターン」と記載する。
【0032】
本発明の実施の形態では、踏切制御装置31が、警報開始後に列車2を加速させる走行制御パターンを算出し、車上装置21に送信する。あるいは、車上装置21が、警報開始後に列車2を加速させる走行制御パターンを算出する。
そして、車上装置21は、算出される走行制御パターンを乗務員に提示し、乗務員による走行制御を支援する。
【0033】
図3は、走行パターンそのものを提示する図である。図4は、ATS−Ps動作表示器を示す図である。図5は、ATS−Ps動作表示器の表示方法を使用した走行目標速度の提示例である。図6は、一段ブレーキ式ATCの車内信号機を示す図である。図7は、一段ブレーキ式ATCの表示方法を使用した走行目標速度の提示例である。
尚、図4に示すATS−Ps動作表示器、及び、図6に示す一段ブレーキ式ATCの車内信号機については、非特許文献7(社団法人 日本鉄道電気技術協会編、「電気概論 信号シリーズ7 鉄道電気技術者のための信号概論 ATS・ATC〔改訂版〕」、p48(ATS−Ps動作表示器)、pp165−167(一段ブレーキ制御方式ATC))に詳細の内容が記載されている。
【0034】
図3に示すように、例えば、車上装置21は、液晶ディスプレイを利用して、走行制御パターンを乗務員に提示しても良い。横軸に位置、縦軸に速度をとり、横軸上の一点を現在位置として一定範囲前方までの走行制御パターン(実線)と、一定範囲後方までの走行制御パターン(実線)及び走行速度の実績値(破線)を図示し、列車2の進行に合わせてスクロールしていく方法をとっても良い。
【0035】
また、図5に示すように、例えばATS(Automatic Train Stop:自動列車停止装置)−Psの動作表示器のバーグラフによる表示方法を利用して、走行制御パターンを乗務員に提示しても良い。ここで、ATS−Psは、図4に示すように、車上にて速度照査パターンを発生させ、現在の列車速度が速度照査パターンを超過した際には、非常ブレーキを動作させるものである。この速度照査パターンが通常の運転を支障する恐れがあるので、速度のバーグラフで0km/hから現在の列車速度までを緑色(図4、図5では斜線模様として図示)のLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)で、現在の照査速度からバーグラフの最大値(140km/h)までを橙色(図4、図5では網掛模様として図示)のLEDで表示して、速度照査パターンへの接近を乗務員に表示する仕組みになっている。現在の照査速度に代えて、図5に示すように、現在の走行制御パターンの速度を表示すれば、本発明の走行制御パターンの表示装置として利用可能となる。
【0036】
また更に、図7に示すように、例えば一段ブレーキ制御式ATC(Automatic Train Control:自動列車制御装置)の車内信号機における速度制御情報の表示方法を利用して、走行制御パターンを乗務員に提示しても良い。ここで、一段ブレーキ制御式ATCは、図6に示すように、進行を指示する車内信号(緑色の○灯であり、図6では斜線模様として図示し、図6(b)、(c)、(d)において点灯している。)と、停止制御を指示する車内信号(赤色の○灯であり、図6では網掛模様として図示し、図6(a)において点灯している。)、停止を指示する車内信号(赤色の×灯であり、図6の例ではいずれも点灯していない。)があり、アナログ又はデジタルの速度計において、速度目盛りに速度制御情報の表示灯(図6では斜線模様として図示)を付加して、ATCブレーキ動作速度やATCブレーキ緩解速度を乗務員に表示している。
図6(a)は、停止現示、図6(b)は、進行現示+停止パターン、図6(c)は、進行現示+速度制限、図6(d)は、進行現示+速度制限パターンを図示している。
ATCブレーキ動作速度やATCブレーキ緩解速度に代えて、図7に示すように、現在の走行制御パターンの減速目標速度や加速目標速度を表示すれば、本発明の走行制御パターンの表示装置として利用可能となる。
図7(a)は、減速指示、図7(b)は、加速指示を図示している。
【0037】
以下では、図8から図13を参照しながら、走行制御支援処理について説明する。説明を分かり易くする為に、踏切制御装置31が、全ての列車2に対する走行制御パターンを算出するものとする。また、処理対象の線区は複線とし、上下線がそれぞれ同じ踏切3を通過するものとする。但し、単線や複々線であっても、本発明の全部又は一部を適用することが可能である。
【0038】
図8は、走行制御支援処理の詳細を示すフローチャートである。図8に示す処理は、所定の時間間隔ごとに実行される。
ステップ1において、踏切制御装置31は、走行制御範囲内に存在し、位置及び速度情報を受信している列車2の中から、踏切到達予測時間が最も早い列車2の警報時間短縮走行制御パターンを算出する。踏切到達予測時間については、走行制御支援処理の前提となる無線踏切制御システム1の機能によって算出されている。
図1に示す例では、踏切到達予測時間が最も早い列車2は、列車2aである。
【0039】
ステップ2において、踏切制御装置31は、踏切到達予測時間が最も早い列車2と、警報時間(警報開始時刻から警報停止時刻までの範囲)が近接または重複する列車2が存在するかどうかを判定する。
警報時間の確定値は、警報が開始され、実際に列車2が踏切3を通過し、警報が停止することによって確定するものであるから、ステップ2における警報時間は、走行制御パターンに従ったときの計算値を意味する。同様に、図3に示すフローチャートでは、警報時間とは、走行制御パターンに従ったときの計算値を意味する。
ステップ2の判定基準は、例えば、踏切到達予測時間の差が閾値以内の列車2が存在する場合、警報時間が近接または重複する列車2が存在するものとする(ステップ2の判定は肯定とする)。また、ステップ2の判定基準は、例えば、踏切到達予測時間に加えて、各列車2の列車長などを考慮しても良い。
【0040】
ステップ2の判定が否定の場合(ステップ2の「なし」)、踏切制御装置31は、踏切到達予測時間が最も早い列車2に対して、単独の警報時間短縮制御のみの走行制御パターン、すなわち、ステップ1において算出された警報時間短縮走行制御パターンを変更せずにそのまま送信し(ステップ3)、処理を終了する。
この場合、列車2aの乗務員が、警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0041】
ステップ2の判定が肯定の場合(ステップ2の「あり」)、踏切制御装置31は、踏切到達予測時間が2番目の列車2の警報時間短縮走行制御パターンを算出する(ステップ4)。
図1に示す例では、踏切到達予測時間が2番目の列車2は、列車2bである。
以下では、図1に示すように、踏切到達予測時間が最も早い列車2と、2番目の列車2は、互いに対向するものとする。また、踏切到達予測時間が最も早い列車2を「列車2a」、2番目の列車2を「列車2b」と記載する。
【0042】
ステップ5において、踏切制御装置31は、列車2aに対する警報時間短縮走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻と、列車2bに対する警報時間短縮走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻とが一致するか否かを判定する。
【0043】
ステップ5の判定が肯定の場合(ステップ5の「YES」)、踏切制御装置31は、列車2a及び列車2bに対して、単なる警報時間短縮制御のみの走行制御パターン、すなわち、ステップ1及びステップ4において算出された警報時間短縮走行制御パターンを変更せずにそのまま送信し(ステップ3)、処理を終了する。
【0044】
図9は、警報開始時刻、警報停止時刻が一致するケースを示す図である。図9は、ステップ5の判定が肯定となる場合の一例である。
図9に示す例では、列車2a及び2bに対して加減速等を最小限にした場合の最短の警報時間の長さが等しく、警報開始時刻及び警報停止時刻も一致している。
図9に示すように、警報時間短縮走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻が一致する場合、列車2a及び列車2bが踏切3を同時に通過することになるから、警報時間短縮走行制御パターンによる警報時間の短縮効果が最大となる。従って、列車2aの乗務員及び列車2bの乗務員が、警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、2台の列車2が踏切3を通過するための警報時間が実質的に1台分の長さとなり、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0045】
図8の説明に戻る。
ステップ5の判定が否定の場合(ステップ5の「NO」)、踏切制御装置31は、列車2aに対する警報時間短縮走行制御パターンによる警報時間の長さと、列車2bに対する警報時間短縮走行制御パターンによる警報時間の長さとが等しいか否かを判定する(ステップ6)。
【0046】
ステップ6の判定が肯定の場合(ステップ6の「YES」)、踏切制御装置31は、警報開始が早い列車について、遅い列車に合わせて走行制御パターンを算出する(ステップ10)。すなわち、ステップ10では、踏切制御装置31は、ステップ1又はステップ4において算出された警報時間短縮走行制御パターンを変更することになる。
【0047】
図10は、警報時間の長さが等しい場合であって、先に踏切に到着する列車を遅らせるケースを示す図である。図10は、ステップ10の判定が肯定となる場合の一例である。
図10に示す例では、列車2a及び2bに対して加減速等を最小限にした場合の最短の警報時間の長さは等しいが、警報開始時刻及び警報停止時刻が一致していない。従って、列車2aの警報開始時刻が、列車2bよりも、早くなってしまう。そこで、踏切制御装置31は、警報開始時刻を一致させる為に、列車2aについて、走行制御パターンを変更し、列車2bに合わせて遅らせた最短の警報時間を算出する。具体的には、踏切制御装置31は、列車2aの警報開始時刻が列車2bの警報開始時刻と一致するように、走行制御パターンを変更する。
図10に示すように、変更後は、警報開始時刻及び警報停止時刻が一致することから、列車2a及び列車2bが踏切3を同時に通過することになる。従って、列車2aの乗務員が変更後の走行制御パターンに従って走行制御を行い、列車2bの乗務員が警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、2台の列車2が踏切3を通過するための警報時間が実質的に1台分の長さとなり、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0048】
図8の説明に戻る。
ステップ6の判定が否定の場合(ステップ6の「NO」)、踏切制御装置31は、警報時間が短い列車2について、長い列車2に合わせて走行制御パターンを算出する(ステップ7)。すなわち、ステップ7では、踏切制御装置31は、ステップ1又はステップ4において算出された警報時間短縮走行制御パターンを変更することになる。
【0049】
図11は、警報時間の長さが等しくない場合であって、警報時間が短い列車の警報時間を長くするケースを示す図である。図11は、ステップ6の判定が否定となる場合の一例である。
図11に示す例では、列車2aと列車2bの最短の警報時間の長さが等しくない。そこで踏切制御装置31は、走行制御に伴う列車2aの加減速をより少なくさせる為に、警報時間が等しくなるよう、走行制御パターンを変更し、列車2bに合わせて延長した最適な警報時間を算出する。具体的には、踏切制御装置31は、列車2aの警報開始時刻及び警報停止時刻が列車2bの警報開始時刻及び警報停止時刻と一致するように、走行制御パターンを変更する。
走行制御パターンの変更は、標準の運転曲線に対して追加の加減速や遅延が許容範囲内となるようにする。許容範囲内とするために、例えば、速度制限の下限値、速度低下の最大値、瞬間的な列車遅延の最大値等を予め定めておく。
【0050】
図11に示すように、変更後の運転支援装置(車上装置21)で表示する走行制御パターンの警報時間は、警報開始時刻及び警報停止時刻が一致することから、列車2a及び列車2bが踏切3を同時に通過することになる。従って、列車2aの乗務員が変更後の走行制御パターンに従って走行制御を行い、列車2bの乗務員が警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0051】
尚、図11に示す例では、警報時間が等しくなるように、走行制御パターンを変更している。これは、列車2bに対する警報時間よりも長くしない範囲内において、可能な限り余裕のある走行制御パターンを列車2aに提示することが望ましいからである。但し、警報時間を短縮することだけを目的とするならば、列車2aに対する警報時間が、列車2bに対する警報時間に包含されるように、走行制御パターンを変更するだけでも良い。
【0052】
図8の説明に戻る。
ステップ8において、踏切制御装置31は、列車2aに対する走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻と、列車2bに対する走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻とが一致するか否かを判定する。ここで、判定対象の走行制御パターンは、変更処理を行っていない場合には警報時間短縮走行制御パターンであり、変更処理を行った場合には変更後の走行制御パターンである。
【0053】
ステップ8の判定が肯定の場合(ステップ8の「YES」)、踏切制御装置31は、列車2a及び列車2bに対して、2列車の警報開始時刻及び警報停止時刻を極力一致させた走行制御パターンを送信し(ステップ9)、処理を終了する。
ステップ8の判定が否定の場合(ステップ8の「NO」)、踏切制御装置31は、ステップ10に進む。ステップ10の処理は前述の通りである。
【0054】
ステップ11において、踏切制御装置31は、列車2aに対する走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻と、列車2bに対する走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻とが一致するか否かを判定する。ここで、判定対象の走行制御パターンは、ステップ8と同様である。
【0055】
ステップ11の判定が肯定の場合(ステップ11の「YES」)、踏切制御装置31は、列車2a及び列車2bに対して、2つの列車の警報開始時刻及び警報停止時刻を極力一致させた走行制御パターンを送信し(ステップ9)、処理を終了する。
ステップ11の判定が否定の場合(ステップ11の「NO」)、踏切制御装置31は、ステップ12に進む。
【0056】
ステップ12において、踏切制御装置31は、警報開始が遅い列車について、許容範囲内で最大限遅らせる走行制御パターンを算出する。ここで、「許容範囲内で最大限遅らせる」とは、例えば、標準の運転曲線に対する追加の加減速や遅延を限度一杯にすることである。
ステップ12の処理は、2つの列車に対する警報を一旦停止することができるか否かを判定する為に行う。この判定をする意義は、後述するように、全体の警報時間をわずかに短縮するよりも、警報を一旦停止する方が、道路交通にとって望ましい場合があるからである。つまり、わずかな時間でも警報を一旦停止することができれば、既に踏切3の前に待機している歩行者や自動車などは踏切3を渡ることができ、長時間待つ歩行者や自動車などが減少するからである。
【0057】
ステップ13において、踏切制御装置31は、ステップ12による変更処理の結果、警報を一旦停止することが可能か否か判定する。
ステップ13の判定が否定の場合(ステップ13の「NO」)、踏切制御装置31は、列車2a及び列車2bそれぞれの警報開始時刻、警報停止時刻のうち、より早い警報開始時刻、より遅い警報停止時刻になるべく合わせた走行制御パターンを算出し(ステップ14)、2つの列車の警報開始時刻及びは警報停止時刻を一致させた走行制御パターンを送信し(ステップ9)、処理を終了する。
【0058】
図12は、警報開始時刻及び警報停止時刻を一致させることが出来ない場合であって、列車ダイヤ等への影響を抑える為に警報時間を長くするケースを示す図である。図12は、ステップ13の判定が否定となる場合の一例である。
【0059】
図12では、列車2aに対する変更前の警報時間は、加減速等を限度一杯にして警報時間が最小かつ最大限遅延させた場合の警報時間である。また、列車2bに対する変更前の警報時間は、加減速等を最小限にした場合の警報時間である。
図12に示す例では、警報開始時刻及び警報停止時刻を一致させることができないので、列車ダイヤ等への影響を抑える為に、列車2a及び2bの両方の警報時間が長くなるように変更している。
【0060】
図12に示すように、変更後は、警報開始時刻が一致し、列車2aに対する警報時間が、列車2bに対する警報時間に包含されている。従って、列車2aの乗務員が変更後の走行制御パターンに従って走行制御を行い、列車2bの乗務員が警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、全体の警報時間が延長されることなく、列車ダイヤ等への影響を抑えることができる。
【0061】
図8の説明に戻る。
ステップ13の判定が肯定の場合(ステップ13の「YES」)、踏切制御装置31は、道路交通への影響を比較し(ステップ15)、道路交通への影響は、連続警報の方が小さいと判定すると(ステップ15の「連続警報が影響小さい」)、ステップ14に進み、道路交通への影響は、警報を一旦停止する方が小さいと判定すると(ステップ15の「警報一旦停止が影響小さい」)、ステップ16に進む。ステップ15における判定処理の詳細は後述する。
ステップ14の処理は前述の通りである。
ステップ16では、踏切制御装置31は、警報開始が遅い列車を更に遅らせる走行制御パターンを送信し(ステップ16)、処理を終了する。
【0062】
ステップ15における判定処理について説明する。ステップ15では、踏切制御装置31は、(1)警報を一旦停止させる走行制御パターン、及び、(2)警報を連続させる走行制御パターン、の2つを比較する。
比較のための評価関数は、例えば、非特許文献6(真田賢一郎、曽根悟、高野奏著、「複線区間における複数の開かずの踏切を群として制御する方法の検討」、電気学会全国大会講演論文集 第5分冊、pp279−280、2005年)に記載の関数が考えられる。非特許文献6では、人間のイライラ度Dを利用者の観点からの評価関数とすることが記載されている。人間のイライラ度Dは、実待ち時間をtとしたとき、D=t^2(tの二乗)と表される。
【0063】
例えば、(1)警報を一旦停止させる走行制御パターンでは、列車2aに対する警報時間が「30秒」、列車2bに対する警報時間が「30秒」とする。また、(2)警報を連続させる走行制御パターンでは、列車2a及び列車2bに対する全体の警報時間が「50秒」とする。
この場合、(1)におけるイライラ度D1は、D1=30^2+30^2=1800となる。また、(2)におけるイライラ度D1は、D1=50^2=2500となる。従って、(2)よりも(1)の方が、イライラ度が小さく、道路交通への影響が小さいと判定される。
【0064】
尚、当然ながら、前述の評価関数は一例であり、その他の関数であっても良い。また、評価関数は、人間のイライラ度のように、心理的な現象ではなく、通過可能人数や通過可能台数などのように、物理的な現象を評価するものであっても良い。
【0065】
図13は、警報開始時刻、警報停止時刻を一致させることが出来ない場合であって、後から踏切に到達する列車を遅延させて警報を一旦停止するケースを示す図である。図13は、ステップ15の判定が「道路交通への影響は、警報を一旦停止する方が小さい」となる場合の一例である。
【0066】
図13では、列車2aに対する変更前の警報時間は、加減速等を最小限にした場合の警報時間である。また、列車2bに対する変更前の警報時間は、加減速等を最小限にした場合の警報時間である。
図13に示す例では、道路交通への影響は、警報を一旦停止する方が小さいことから、後から踏切に到達する列車を遅延させて警報を一旦停止するように変更している。すなわち、変更後の列車2bに対する警報時間は、加速減等を限度一杯にして最大限遅延させた場合の警報時間である。
【0067】
図13に示すように、変更後は、列車2aに対する警報時間と列車2bに対する警報時間とが重複しない。従って、列車2aの乗務員が変更後の走行制御パターンに従って走行制御を行い、列車2bの乗務員が警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、列車2aが踏切3を通過した後、警報を一旦停止することができ、ひいては、道路交通への影響を小さくすることができる。
【0068】
以上の通り、踏切制御装置31は、踏切到達予測時間が最も早い列車2と、2番目に早い列車2に対して、走行制御支援処理を実行する。
尚、前述の説明では、踏切制御装置31は、踏切到達予測時間が最も早い列車2と、2番目に早い列車2に対する処理を説明したが、2番目に早い列車2と3番目に早い列車2、3番目に早い列車2と4番目に早い列車2、というように、他の列車2の組に対して、走行制御支援処理を実行することも可能である。
【0069】
次に、図14、図15を参照しながら、走行制御パターンの具体例について説明する。説明を分かり易くする為に、図14、図15では、1台の列車2に対する警報時間短縮走行制御パターンを示している。
【0070】
図14は、等速走行と同一の走行時間とする走行制御パターンを示す図である。横軸が位置、縦軸が速度である。「道路交通に対して警報を行う領域」は、前述の設計警報時間及び遮断完了時間に加えて、列車長+余裕距離も考慮して算出されている。
【0071】
等速走行の走行制御パターン51は、走行制御範囲全体を通して、等速走行を行った場合の列車位置と列車速度の関係を示している。
警報時間短縮走行制御パターン52は、走行制御範囲全体の走行時間が、等速走行の走行制御パターン51と同一となるように算出されている。
警報時間短縮走行制御パターン52では、減速開始位置61(道路交通に対して警報を行う領域に到達する前)から、制限速度に到達するまで、常用最大制動62によって減速する。次に、制限解除位置63(道路交通に対して警報を行う領域に到達する直前)から、最高速度に到達するまで、最大加速64(列車2の加速特性を反映して図示されている)によって加速する。そして、減速開始位置65(道路交通に対して警報を行う領域を通過した直後)から、等速走行における通常の速度に到達するまで、常用最大制動66によって減速する。
【0072】
等速走行の走行制御パターン51による警報時間と、警報時間短縮走行制御パターン52による警報時間とを比較すると、警報開始地点は、警報時間短縮走行制御パターン52の方が遅く、警報中の平均速度は、警報時間短縮走行制御パターン52の方が速い。従って、警報時間短縮走行制御パターン52は、等速走行の走行制御パターン51よりも、警報時間が短縮されることが分かる。
【0073】
図15は、速度制限区間における走行制御パターンを示す図である。図14と同様、横軸が位置、縦軸が速度である。また、図14と同様、「道路交通に対して警報を行う領域」は、前述の設計警報時間及び遮断完了時間に加えて、列車長+余裕距離も考慮して算出されている。図14と相違する点は、踏切3の周辺が速度制限区間となっていることである。
【0074】
通常の走行制御パターン71では、道路交通に対して警報を行う領域に到達してから、速度照査パターンに基づいて、速度制限区間前に減速している。
警報時間短縮走行制御パターン72では、道路交通に対して警報を行う領域に到達する前に、制限速度になるまで減速し、速度制限区間を通過するまで等速走行を行う。
【0075】
通常走行の走行制御パターン71による警報時間と、警報時間短縮走行制御パターン72による警報時間とを比較すると、警報時間短縮走行制御パターン72は、警報開始地点が遅く、明らかに警報時間が短縮されている。
【実施例1】
【0076】
以下では、図16を参照しながら、実施例1について説明する。実施例1は、単独の列車2に対する警報時間短縮効果の検証結果である。
実施例1では、表1の制約条件を設けて、図14に示す警報時間短縮走行制御パターン52を単独の列車2に適用した。
【0077】
【表1】
【0078】
対向する列車2を考慮しない場合、図14に示すように、踏切3の手前において一旦減速し、踏切3に接近中は最大加速(又は線区最高速度)によって走行し、踏切3を通過中も線区最高速度によって走行できれば、最適な警報時間を実現できる。
表1の制約に基づき、表2に示す車両性能、線区条件での警報時間短縮効果を図16に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
図16は、実施例1による警報時間短縮効果を示すグラフである。図16に示すように、踏切3の前後での列車平均速度が40km/h以上の実用的な速度域では、最適な警報時間を実現することができた。また、40km/h未満でも、踏切制御子による場合に比べて、最大で60秒以上、無線式で走行制御無しの場合と比較しても最大で40秒以上短縮された。割合にすると、それぞれ約58%、約49%短縮されており、極めて顕著な警報時間短縮が得られていることが分かる。
【実施例2】
【0081】
次に、図17〜図22を参照しながら、実施例2について説明する。実施例2は、互いに対向する複数の列車2に対する警報時間短縮効果の検証結果である。
実施例2でも、表1の制約条件を設けて、表2に示す車両性能、線区条件で、警報時間短縮効果を検証した。
【0082】
実施例2では、実施例1における単独の列車2での結果を基に、双方の列車2の走行制御範囲への進入タイミングが同時の場合、15秒差となる場合、30秒差となる場合について、それぞれ警報時間を算出した。先行する列車2と対向する列車2の速度差によっては、連続警報とならない場合(一旦警報が停止する場合)もある。この場合は双方の列車2に対する警報時間を合算した。
【0083】
実施例2では、実施例1における単独の列車2に対する最短の警報時間を実現する走行制御を基本とし、図8に示すフローチャートに従って、なるべく踏切3の上ですれ違うような走行制御を行った。
また、実施例2に対する比較例では、双方の列車2が等速走行で走行制御区間を通過した場合の警報時間を算出した。
【0084】
図17、図18は、それぞれ、比較例、実施例2による踏切到達時間差0秒の場合の警報時間を示すグラフである。また、図19、図20は、それぞれ、比較例、実施例2による踏切到達時間差15秒の場合の警報時間を示すグラフである。また、図21、図22は、それぞれ、比較例、実施例2による踏切到達時間差30秒の場合の警報時間を示すグラフである。
【0085】
図17から図22に示すように、図8に示すフローチャートに従って走行制御を行った実施例2では、比較例と比較して、全体的に警報時間が短縮された。踏切3の前後の走行速度が40km/h以上では、警報時間が、実施例1における最適警報時間である43.4秒の2倍以内に収まった。特に、2つの列車2の速度差が20km/h程度までの場合には、警報時間を概ね最適化でき、踏切3の上ですれ違う為のタイミング合わせ調整範囲も広く取れていることが分かる。
【0086】
本発明の走行制御支援方法(走行制御支援装置)は、例えば、優等列車が先行列車の駅停車により低速走行を強いられるラッシュ時や、ボトルネック踏切などの警報時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0087】
前述の説明では、駅などの停車場について言及していないが、本発明は、駅の近傍の踏切に対しても同様に適用可能である。例えば、駅を出発した直後に踏切が存在する場合、列車はそもそも加速する為、本発明の技術的思想と何ら矛盾しない。また、例えば、駅に到達する直前に踏切が存在する場合、優等列車か普通列車かの列車選別を行う。そして、駅に停車する普通列車に対しては、停車を前提とした警報制御及び誤通過防止制御を準備しておき、走行制御パターンを算出し、優等列車に対してのみ本発明を適用すれば良い。
【0088】
また、踏切近傍での走行が、既に標準の運転曲線から乖離している場合に備えて、先行列車との間隔や列車種別に応じて、安全側で求める警報制御とは別に、運転上の踏切到達予測時間を求めたり、統計的なデータから運転上の踏切到達予測時間のテーブルを記憶しておいたりすると望ましい。
【0089】
また、カーブ等の速度制限区間の手前では、高速域での警報開始が、ブレーキパターン到達予測時間に依存して早くなっている。そこで、図15に示すように、速度制限よりやや手前で減速を開始することによって、警報開始が早まることを回避することができる。この場合、踏切近傍では遅延が発生するので、運行上の余裕時間を充てたり、回復余力を充てたりするなど、乗務員が適宜判断する。車上装置では、運行ダイヤのデータを記憶しておき、遅延と判断した時には警報短縮の為の走行制御パターンの表示を行わないようにすることも考えられる。
【0090】
前述した本発明の効果は、以下の通りである。
1.踏切に加速しながら接近することによって、単純な無線式踏切制御を行っても、大きな警報時間短縮効果が得られる。また、踏切上ですれ違うことによって、警報時間短縮効果をより一層大きくすることができる。
2.単純な無線式踏切制御のみを実装しても警報時間を大幅に短縮できる為、踏切制御装置の開発(または改良)に要するコストを抑えることができる。
3.走行制御パターンを提示する車上装置は、ATC等の列車制御装置ではないので、フェールセーフ性が要求されない為、安価に開発(又は改良)することができる。また、故障や誤動作に対しても、列車運行に対する安定性の低下を回避することができる。
4.乗務員は、車上装置のナビゲーション情報に従わなくても、踏切制御子による制御と比較すれば、警報時間短縮効果を多少減ずるだけであるので、乗務員に対する負担(走行制御の困難さに対する身体的、心理的負担など)が小さくて済む。すなわち、乗務員は、後続列車への影響や走行制御パターンの制御が外れた時の列車遅延の発生を抑える為に、ナビゲーション情報と異なる走行制御を行っても問題ない。
【0091】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る走行制御支援方法等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0092】
1………無線踏切制御システム
2、2a、2b………列車
3………踏切
21、21a、21b………車上装置
22a、22b………無線装置
31………踏切制御装置
32………無線装置
33………警報機
34………遮断機
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線を利用して踏切制御を行う無線踏切制御システムにおいて、警報時間を短縮するために、乗務員による走行制御を支援する走行制御支援方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信を利用して列車制御を行う無線式列車制御システムの研究開発が盛んに行われており、これを活用した無線式踏切制御方法が提案されている(特許文献1、非特許文献1乃至3参照)。
特許文献1、非特許文献1、2に記載の無線式踏切制御方法では、列車位置と速度から踏切到達予測時間とブレーキパターン到達予測時間を求め、所定の警報時間(警報開始から列車が踏切に到達するまでの時間)の最小値と踏切制御予測時間、及び、遮断完了時間(警報開始から遮断完了までの時間)とブレーキパターン到達予測時間を比較して、踏切制御を行う。
また、非特許文献3では、GPSを利用した踏切定時間制御システムが記載されている。
【0003】
ところで、踏切制御において、開かずの踏切問題は、依然大きな社会問題となっている。現在広く普及している踏切制御子等を利用した踏切制御では、地上固定位置に設定する警報開始点と終了点の列車検知により警報制御を行っている。警報開始点は、そこでの最高速度によって固定的に決定されている。
特許文献2、非特許文献4、5では、踏切制御子等を利用した踏切制御において、踏切上で上下線の列車がなるべくすれ違うように、列車の走行制御を行うことが記載されている。これによって、全体の警報時間を短縮することができる。
また、非特許文献6では、イライラ度と実待ち時間の関係を示す評価関数を導入し、評価値を最適化するように、複数の踏切を群として制御することが記載されている。
【0004】
前述の無線式列車制御システムを実用化するに当たり、警報時間を短縮する効果をより大きくする仕組みが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−10667号公報
【特許文献2】特許第4587833号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】熊谷敏雄、平尾裕司、長谷川豊著、「次世代踏切制御方式」、鉄道総研報告、Vol.4、No.11、pp42〜49、1990年
【非特許文献2】平尾裕司、西堀典幸、南博幸、長谷川豊著、「次世代運転制御システム(CARAT)における踏切制御」、鉄道総研報告、Vol.7、No.5、pp25〜31、1993年
【非特許文献3】池田昌俊、齋藤元子著、「GPSを利用した踏切定時間制御システム」、鉄道技術連合シンポジウム、J−RAIL2001講演論文集、pp325〜328、2001年
【非特許文献4】斉藤敦、曽根悟、高野奏著、「複線区間における開かずの踏切の開扉時間を確保する列車群制御法」、電気学会研究会、TER−03−14/ITS−03−07、pp37−42、2003年
【非特許文献5】上田圭太、望月寛、高橋聖、中村英夫、坂井正善、佐藤亮著、「踏切遮断時間短縮を目的とした列車ダイヤの最適化」、鉄道技術連合シンポジウム、J−RAIL2007講演論文集、pp373−374、2007年
【非特許文献6】真田賢一郎、曽根悟、高野奏著、「複線区間における複数の開かずの踏切を群として制御する方法の検討」、電気学会全国大会講演論文集 第5分冊、pp279−280、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の特許文献1、非特許文献1、2に記載の無線式踏切制御方法では、安全側の制御を行う為に、「踏切到達予測時間」に、警報開始後に車両の最大性能によって加速し続けることを想定した場合に、警報開始から列車が踏切に到達するまでの時間、を用い、これが「所定の警報時間の最小値」を満足するようにする。しかしながら、通常の乗務員による運転では、警報開始後に車両の最大性能で加速し続けることは考え難く、現実の警報時間は、所定の警報時間の最小値とはならない。
【0008】
これに対して、警報開始から列車が踏切に到達するまで加速の想定をせずに(等速走行を行うものとして)、警報開始時点の速度によって制御することも考えられる。しかしながら、駅出発後や速度制限区間を通過した後は、通常加速する必要がある為、一律に制御を行うことができない。
【0009】
また、運転曲線や先行列車との位置関係から加減速を加味した適切な走行パターンを予測、算出し、算出される走行パターンに基づいて車上装置が速度照査を行い、この走行パターンに従って走行したときに、警報時間が所定の警報時間の最小値となるように警報制御を行うことも考えられる。しかしながら、走行パターンを算出し、乗務員に表示し、更に速度照査を行う為には、装置が複雑化するとともに、乗務員の運転操作の難易度も高くなってしまい、多大なコスト(費用及び人的負荷)がかかる。
【0010】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とすることは、安全性を低下させることなく、コストをかけずに、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援することができる走行制御支援方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために第1の発明は、車上装置と踏切制御装置とが無線通信を行い、前記車上装置が、列車の位置及び速度を前記踏切制御装置に送信し、前記踏切制御装置が、前記車上装置から受信する列車の位置及び速度に基づいて、踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間として、それぞれ、警報開始後に最大加速パターンによる走行を想定した場合に警報開始から列車が踏切及びブレーキパターンに到達するまでの時間を算出する、あるいは、前記車上装置が、列車の位置及び速度に基づいて前記踏切到達予測時間及び前記ブレーキパターン到達予測時間を算出する予測時間算出手段と、前記踏切制御装置あるいは前記車上装置が、予め記憶する設計警報時間と前記踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と前記ブレーキパターン到達予測時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する警報制御手段と、を具備する無線踏切制御システムにおける走行制御支援方法であって、前記踏切制御装置が、警報開始後に列車を加速させる走行制御パターンを算出し、前記車上装置に送信する、あるいは、前記車上装置が、前記走行制御パターンを算出する走行制御パターン算出ステップと、前記車上装置が、前記走行制御パターンを乗務員に提示する走行制御パターン提示ステップと、を含むことを特徴とする走行制御支援方法である。
第1の発明によって、安全性を低下させることなく、コストをかけずに、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援することができる。
【0012】
第1の発明における前記走行制御パターン算出ステップは、前記踏切制御装置が位置及び速度を受信済の列車の中で前記踏切到達予測時間が最も早い列車を第1列車とし、前記第1列車に対する前記走行制御パターンである第1走行制御パターンを、警報開始後に列車の加速特性を反映した加速を行うように算出し、更に、前記第1列車と警報時間が近接あるいは重複する列車である第2列車が存在するか否かを判定する第1判定を行い、前記第1判定が肯定の場合には、前記第1走行制御パターンを変更しない。
これによって、線区が複線や複々線などの場合であっても、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援することができる。
【0013】
また、第1の発明における前記走行制御パターン算出ステップは、前記第1判定が否定の場合には、前記第2列車に対する前記走行制御パターンである第2走行制御パターンを、警報開始後に列車の加速特性を反映した加速を行うように算出し、更に、前記第1走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻と、前記第2走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻とが一致するか否かを判定する第2判定を行い、前記第2判定が肯定の場合には、前記第2走行制御パターンを変更しない。
これによって、2台の列車が踏切を通過するための警報時間が実質的に1台分の長さとなる走行制御パターンを提示することになる。従って、各乗務員が提示される走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0014】
また、第1の発明における前記走行制御パターン算出ステップは、前記第2判定が否定の場合には、前記第1走行制御パターンによる警報時間の長さと、前記第2走行制御パターンによる警報時間の長さとが等しいか否かを判定する第3判定を行い、前記第3判定が否定の場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち警報時間が長い方を基準として、警報開始時刻及び警報停止時刻が一致するように、前記第1走行制御パターン又は前記第2走行制御パターンを変更する第1変更を行う。
これによって、2台の列車の警報開始時刻及び警報停止時刻が一致することから、2台の列車が踏切を同時に通過する走行制御パターンを提示することになる。従って、各乗務員が提示される走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0015】
また、第1の発明における前記走行制御パターン算出ステップは、前記第3判定が肯定の場合、又は、前記第1変更が出来ない場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち一方の警報時間が他方の警報時間に包含されるように、前記第1走行制御パターン又は前記第2走行制御パターンを変更する第2変更を行う。
これによって、一方の警報時間が他方の警報時間に包含される走行制御パターンを提示することになる。従って、各乗務員が提示される走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、列車ダイヤへの影響を抑えながら、警報時間を短縮することができる。
【0016】
また、第1の発明における前記走行制御パターン算出ステップは、前記第2変更が出来ない場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち警報開始時刻が遅い方を、許容可能な範囲内において最大限遅らせるように変更する第3変更を行い、更に、前記第3変更の結果、警報を一旦停止出来る場合には、所定の評価関数を用いて道路交通への影響度合いを評価し、警報を一旦停止するように前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンを算出するか否かを判定する。
これによって、道路交通にとっては、全体の警報時間を短縮する方が良いか、それとも、警報を一旦停止する方が良いかを判定することができる。警報を一旦停止する場合、既に踏切の前に待機している歩行者や自動車などは踏切を渡ることができ、長時間待つ歩行者や自動車などを減少させることができる。
【0017】
第2の発明は、車上装置と踏切制御装置とが無線通信を行い、前記車上装置が、列車の位置及び速度を前記踏切制御装置に送信し、前記踏切制御装置が、前記車上装置から受信する列車の位置及び速度に基づいて、踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間として、それぞれ、警報開始後に最大加速パターンによる走行を想定した場合に警報開始から列車が踏切及びブレーキパターンに到達するまでの時間を算出する、あるいは、前記車上装置が、列車の位置及び速度に基づいて前記踏切到達予測時間及び前記ブレーキパターン到達予測時間を算出する予測時間算出手段と、前記踏切制御装置あるいは前記車上装置が、予め記憶する設計警報時間と前記踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と前記ブレーキパターン到達予測時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する警報制御手段と、を具備する無線踏切制御システムと連携する走行制御支援装置であって、前記踏切制御装置が、警報開始後に列車を加速させる走行制御パターンを算出し、前記車上装置に送信する、あるいは、前記車上装置が、前記走行制御パターンを算出する走行制御パターン算出手段と、前記車上装置が、前記走行制御パターンを乗務員に提示する走行制御パターン提示手段と、を具備することを特徴とする走行制御支援装置である。
第2の発明によって、安全性を低下させることなく、コストをかけずに、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、安全性を低下させることなく、コストをかけずに、警報時間の短縮効果が得られる走行制御を支援することができる走行制御支援方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】無線踏切制御システムの概要図
【図2】最高速度以外の速度制限がない区間の警報開始パターンを示す図
【図3】走行パターンそのものを提示する図
【図4】ATS−Ps動作表示器を示す図
【図5】ATS−Ps動作表示器の表示方法を使用した走行目標速度の提示例
【図6】一段ブレーキ式ATCの車内信号機を示す図
【図7】一段ブレーキ式ATCの表示方法を使用した走行目標速度の提示例
【図8】走行制御支援処理の詳細を示すフローチャート
【図9】警報開始時刻、警報停止時刻が一致するケースを示す図
【図10】警報時間の長さが等しい場合であって、先に踏切に到着する列車を遅らせるケースを示す図
【図11】警報時間の長さが等しくない場合であって、警報時間が短い列車の警報時間を長くするケースを示す図
【図12】警報開始時刻、警報停止時刻を一致させることが出来ない場合であって、列車ダイヤ等への影響を抑える為に警報時間を長くするケースを示す図
【図13】警報開始時刻、警報停止時刻を一致させることが出来ない場合であって、後から踏切に到達する列車を遅延させて警報を一旦停止するケースを示す図
【図14】等速走行と同一の走行時間とする走行制御パターンを示す図
【図15】速度制限区間における走行制御パターンを示す図
【図16】実施例1による警報時間短縮効果を示すグラフ
【図17】比較例による踏切到達時間差0秒の場合の警報時間を示すグラフ
【図18】実施例2による踏切到達時間差0秒の場合の警報時間を示すグラフ
【図19】比較例による踏切到達時間差15秒の場合の警報時間を示すグラフ
【図20】実施例2による踏切到達時間差15秒の場合の警報時間を示すグラフ
【図21】比較例による踏切到達時間差30秒の場合の警報時間を示すグラフ
【図22】実施例2による踏切到達時間差30秒の場合の警報時間を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明の走行制御支援方法は、図1に示す無線踏切制御システムにおいて実行される。また、本発明の走行制御支援装置(走行制御支援システム)は、図1に示す無線踏切制御システムと連携して処理を実行する。
【0021】
図1は、無線踏切制御システムの概要図である。
無線踏切制御システム1では、列車2a、2b内に車上装置21a、21bが設置され、踏切3の周辺に踏切制御装置31が設置される。車上装置21a、21bは、それぞれ、無線装置22a、22b等と接続されている。踏切制御装置31は、無線装置32、警報機33、遮断機34等と接続されている。
無線踏切制御システム1では、車上装置21a、21bと踏切制御装置31とが、走行制御範囲内及びその周辺において無線通信して踏切制御を行う。車上装置21a、21bと踏切制御装置31の無線通信は、無線装置22a、22b、32を介して行う。
以下では、列車2a、2bを総称するときは、「列車2」と表記する。また、車上装置21a、21bを総称するときは、「車上装置21」と表記する。
【0022】
列車2が踏切3に接近すると、車上装置21は、自らの列車2の位置・速度情報を所定の間隔で踏切制御装置31に送信する。車上装置21は、少なくとも踏切を通過し終わるまでは位置・速度情報の送信を継続する。
【0023】
踏切制御装置31は、車上装置21から受信する列車の位置及び速度に基づいて踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間を算出する。
「踏切到達予測時間」とは、列車2が現在位置から、踏切3の位置に到達するまでの予測時間である。本発明の実施の形態のように、無線通信によって列車2から位置・速度情報をリアルタイムに受信できる場合、安全側の制御を行う為には、踏切制御装置31は、「踏切到達予測時間」を、接近中の列車2が現在位置と現在速度から、「最大加速度(列車2の性能ごとに定められた値に勾配を加味した値)で加速し、最高速度(線区または列車2の性能ごとに定められた値)の制約の範囲内」(以下、「最大加速パターン」という。)によって踏切3に接近すると仮定した場合の到達可能な最速時間、として算出する。
【0024】
「ブレーキパターン到達予測時間」とは、列車2が現在位置から、踏切3の手前に停止するブレーキパターンとの交差点に到達するまでの予測時間である。踏切制御装置31は、ブレーキパターンを発生させ、ブレーキパターン到達予測時間を算出する。踏切制御装置31は、踏切到達予測時間と同様、「ブレーキパターン到達予測時間」を、最大加速パターンによってブレーキパターンに接近すると仮定した場合の到達可能な最速時間、として算出する。
【0025】
尚、踏切制御装置31に代えて、車上装置21が、自らの列車2の位置及び速度に基づいて踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間を算出しても良い。
【0026】
また、踏切制御装置31は、予め記憶する設計警報時間と、前述のように算出される踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と、前述のように算出される踏切遮断完了時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する。
「設計警報時間」とは、警報機33による警報の開始から遮断機34による遮断動作の終了までの時間、及び、遮断機34による遮断動作の終了から列車2が踏切3に到達するまでの時間(鉄道に関する技術上の基準を定める省令第62条第1項に関する解釈基準によれば、15秒、及び20秒を標準とする。)を確保するために、無線踏切制御システム1の設計時に予め定義される時間である。設計警報時間は、遮断機34の数、及び単線、複線または複々線の別などによって最適値が異なる為、踏切3ごとに定義されることが望ましい。設計警報時間は、踏切制御装置31に記憶される。
【0027】
「遮断完了時間」とは、警報機33による警報の開始から遮断機34による踏切動作の終了までの時間(鉄道に関する技術上の基準を定める省令第62条第1項に関する解釈基準によれば、15秒を標準とする。)を確保するために、無線踏切制御システム1の設計時に予め定義される時間である。遮断完了時間は、設計警報時間と同様、踏切3ごとに定義されることが望ましい。遮断完了時間は、踏切制御装置31に記憶される。
踏切3の手前で停止するブレーキパターン適用の要否を判断するためには、「遮断棹の降下不良や支障物の残留の有無の判定結果」が必要である。また、遮断棹の降下不良や支障物の残留の有無の判定をするためには、「遮断完了」が必要である。従って、ブレーキパターン適用の要否を判断するための前提条件は、列車2がブレーキパターンに到達する前に踏切3の遮断が完了することである。
【0028】
「所定の条件」とは、例えば、(1)「踏切到達予測時間>設計警報時間が成立しない」、あるいは、(2)「踏切到達予測時間>設計警報時間が成立し、かつ、ブレーキパターン到達予測時間>遮断完了時間が成立しない」のどちらかの条件である。
但し、例えば、対向する列車が踏切3を通過予定の為、既に警報を開始している場合、踏切制御装置31は、所定の条件を満たしても警報の開始を指示しない。
【0029】
尚、踏切制御装置31に代えて、車上装置21が、設計警報時間及び遮断完了時間を記憶し、設計警報時間と算出される踏切到達予測時間を比較するとともに、踏切遮断完了時間と算出される踏切遮断完了時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示しても良い。この場合、車上装置21は、踏切制御装置31に対して命令を送信し、踏切制御装置31が既に警報を開始しているか否かを判断し、警報機33及び遮断機34を制御する。
【0030】
図2は、最高速度以外の速度制限がない区間の警報開始パターンを示す図である。図2に示す加速曲線43は、列車2の加速特性を反映したものとなっている。通常、列車2は、低速時は加速度が大きく、速度が増すごとに加速度が小さくなる(加速がにぶくなる)。
警報開始パターン41は、列車2が、加速曲線43に基づいて最大加速による走行をする場合に、設計警報時間の経過直後に踏切3に到達する曲線である。
踏切手前停止パターン42は、非常制動を開始することによって踏切手前(踏切3から余裕距離を考慮した位置)に停止する曲線である。
【0031】
図2に示す警報開始パターン41によって警報を開始し、加速曲線43に基づいて加速を行うと、従来の踏切制御子による警報制御と比較して、警報時間を大幅に短縮することが可能となる。以下では、このような走行制御パターンを「警報時間短縮走行制御パターン」と記載する。
【0032】
本発明の実施の形態では、踏切制御装置31が、警報開始後に列車2を加速させる走行制御パターンを算出し、車上装置21に送信する。あるいは、車上装置21が、警報開始後に列車2を加速させる走行制御パターンを算出する。
そして、車上装置21は、算出される走行制御パターンを乗務員に提示し、乗務員による走行制御を支援する。
【0033】
図3は、走行パターンそのものを提示する図である。図4は、ATS−Ps動作表示器を示す図である。図5は、ATS−Ps動作表示器の表示方法を使用した走行目標速度の提示例である。図6は、一段ブレーキ式ATCの車内信号機を示す図である。図7は、一段ブレーキ式ATCの表示方法を使用した走行目標速度の提示例である。
尚、図4に示すATS−Ps動作表示器、及び、図6に示す一段ブレーキ式ATCの車内信号機については、非特許文献7(社団法人 日本鉄道電気技術協会編、「電気概論 信号シリーズ7 鉄道電気技術者のための信号概論 ATS・ATC〔改訂版〕」、p48(ATS−Ps動作表示器)、pp165−167(一段ブレーキ制御方式ATC))に詳細の内容が記載されている。
【0034】
図3に示すように、例えば、車上装置21は、液晶ディスプレイを利用して、走行制御パターンを乗務員に提示しても良い。横軸に位置、縦軸に速度をとり、横軸上の一点を現在位置として一定範囲前方までの走行制御パターン(実線)と、一定範囲後方までの走行制御パターン(実線)及び走行速度の実績値(破線)を図示し、列車2の進行に合わせてスクロールしていく方法をとっても良い。
【0035】
また、図5に示すように、例えばATS(Automatic Train Stop:自動列車停止装置)−Psの動作表示器のバーグラフによる表示方法を利用して、走行制御パターンを乗務員に提示しても良い。ここで、ATS−Psは、図4に示すように、車上にて速度照査パターンを発生させ、現在の列車速度が速度照査パターンを超過した際には、非常ブレーキを動作させるものである。この速度照査パターンが通常の運転を支障する恐れがあるので、速度のバーグラフで0km/hから現在の列車速度までを緑色(図4、図5では斜線模様として図示)のLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)で、現在の照査速度からバーグラフの最大値(140km/h)までを橙色(図4、図5では網掛模様として図示)のLEDで表示して、速度照査パターンへの接近を乗務員に表示する仕組みになっている。現在の照査速度に代えて、図5に示すように、現在の走行制御パターンの速度を表示すれば、本発明の走行制御パターンの表示装置として利用可能となる。
【0036】
また更に、図7に示すように、例えば一段ブレーキ制御式ATC(Automatic Train Control:自動列車制御装置)の車内信号機における速度制御情報の表示方法を利用して、走行制御パターンを乗務員に提示しても良い。ここで、一段ブレーキ制御式ATCは、図6に示すように、進行を指示する車内信号(緑色の○灯であり、図6では斜線模様として図示し、図6(b)、(c)、(d)において点灯している。)と、停止制御を指示する車内信号(赤色の○灯であり、図6では網掛模様として図示し、図6(a)において点灯している。)、停止を指示する車内信号(赤色の×灯であり、図6の例ではいずれも点灯していない。)があり、アナログ又はデジタルの速度計において、速度目盛りに速度制御情報の表示灯(図6では斜線模様として図示)を付加して、ATCブレーキ動作速度やATCブレーキ緩解速度を乗務員に表示している。
図6(a)は、停止現示、図6(b)は、進行現示+停止パターン、図6(c)は、進行現示+速度制限、図6(d)は、進行現示+速度制限パターンを図示している。
ATCブレーキ動作速度やATCブレーキ緩解速度に代えて、図7に示すように、現在の走行制御パターンの減速目標速度や加速目標速度を表示すれば、本発明の走行制御パターンの表示装置として利用可能となる。
図7(a)は、減速指示、図7(b)は、加速指示を図示している。
【0037】
以下では、図8から図13を参照しながら、走行制御支援処理について説明する。説明を分かり易くする為に、踏切制御装置31が、全ての列車2に対する走行制御パターンを算出するものとする。また、処理対象の線区は複線とし、上下線がそれぞれ同じ踏切3を通過するものとする。但し、単線や複々線であっても、本発明の全部又は一部を適用することが可能である。
【0038】
図8は、走行制御支援処理の詳細を示すフローチャートである。図8に示す処理は、所定の時間間隔ごとに実行される。
ステップ1において、踏切制御装置31は、走行制御範囲内に存在し、位置及び速度情報を受信している列車2の中から、踏切到達予測時間が最も早い列車2の警報時間短縮走行制御パターンを算出する。踏切到達予測時間については、走行制御支援処理の前提となる無線踏切制御システム1の機能によって算出されている。
図1に示す例では、踏切到達予測時間が最も早い列車2は、列車2aである。
【0039】
ステップ2において、踏切制御装置31は、踏切到達予測時間が最も早い列車2と、警報時間(警報開始時刻から警報停止時刻までの範囲)が近接または重複する列車2が存在するかどうかを判定する。
警報時間の確定値は、警報が開始され、実際に列車2が踏切3を通過し、警報が停止することによって確定するものであるから、ステップ2における警報時間は、走行制御パターンに従ったときの計算値を意味する。同様に、図3に示すフローチャートでは、警報時間とは、走行制御パターンに従ったときの計算値を意味する。
ステップ2の判定基準は、例えば、踏切到達予測時間の差が閾値以内の列車2が存在する場合、警報時間が近接または重複する列車2が存在するものとする(ステップ2の判定は肯定とする)。また、ステップ2の判定基準は、例えば、踏切到達予測時間に加えて、各列車2の列車長などを考慮しても良い。
【0040】
ステップ2の判定が否定の場合(ステップ2の「なし」)、踏切制御装置31は、踏切到達予測時間が最も早い列車2に対して、単独の警報時間短縮制御のみの走行制御パターン、すなわち、ステップ1において算出された警報時間短縮走行制御パターンを変更せずにそのまま送信し(ステップ3)、処理を終了する。
この場合、列車2aの乗務員が、警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0041】
ステップ2の判定が肯定の場合(ステップ2の「あり」)、踏切制御装置31は、踏切到達予測時間が2番目の列車2の警報時間短縮走行制御パターンを算出する(ステップ4)。
図1に示す例では、踏切到達予測時間が2番目の列車2は、列車2bである。
以下では、図1に示すように、踏切到達予測時間が最も早い列車2と、2番目の列車2は、互いに対向するものとする。また、踏切到達予測時間が最も早い列車2を「列車2a」、2番目の列車2を「列車2b」と記載する。
【0042】
ステップ5において、踏切制御装置31は、列車2aに対する警報時間短縮走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻と、列車2bに対する警報時間短縮走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻とが一致するか否かを判定する。
【0043】
ステップ5の判定が肯定の場合(ステップ5の「YES」)、踏切制御装置31は、列車2a及び列車2bに対して、単なる警報時間短縮制御のみの走行制御パターン、すなわち、ステップ1及びステップ4において算出された警報時間短縮走行制御パターンを変更せずにそのまま送信し(ステップ3)、処理を終了する。
【0044】
図9は、警報開始時刻、警報停止時刻が一致するケースを示す図である。図9は、ステップ5の判定が肯定となる場合の一例である。
図9に示す例では、列車2a及び2bに対して加減速等を最小限にした場合の最短の警報時間の長さが等しく、警報開始時刻及び警報停止時刻も一致している。
図9に示すように、警報時間短縮走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻が一致する場合、列車2a及び列車2bが踏切3を同時に通過することになるから、警報時間短縮走行制御パターンによる警報時間の短縮効果が最大となる。従って、列車2aの乗務員及び列車2bの乗務員が、警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、2台の列車2が踏切3を通過するための警報時間が実質的に1台分の長さとなり、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0045】
図8の説明に戻る。
ステップ5の判定が否定の場合(ステップ5の「NO」)、踏切制御装置31は、列車2aに対する警報時間短縮走行制御パターンによる警報時間の長さと、列車2bに対する警報時間短縮走行制御パターンによる警報時間の長さとが等しいか否かを判定する(ステップ6)。
【0046】
ステップ6の判定が肯定の場合(ステップ6の「YES」)、踏切制御装置31は、警報開始が早い列車について、遅い列車に合わせて走行制御パターンを算出する(ステップ10)。すなわち、ステップ10では、踏切制御装置31は、ステップ1又はステップ4において算出された警報時間短縮走行制御パターンを変更することになる。
【0047】
図10は、警報時間の長さが等しい場合であって、先に踏切に到着する列車を遅らせるケースを示す図である。図10は、ステップ10の判定が肯定となる場合の一例である。
図10に示す例では、列車2a及び2bに対して加減速等を最小限にした場合の最短の警報時間の長さは等しいが、警報開始時刻及び警報停止時刻が一致していない。従って、列車2aの警報開始時刻が、列車2bよりも、早くなってしまう。そこで、踏切制御装置31は、警報開始時刻を一致させる為に、列車2aについて、走行制御パターンを変更し、列車2bに合わせて遅らせた最短の警報時間を算出する。具体的には、踏切制御装置31は、列車2aの警報開始時刻が列車2bの警報開始時刻と一致するように、走行制御パターンを変更する。
図10に示すように、変更後は、警報開始時刻及び警報停止時刻が一致することから、列車2a及び列車2bが踏切3を同時に通過することになる。従って、列車2aの乗務員が変更後の走行制御パターンに従って走行制御を行い、列車2bの乗務員が警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、2台の列車2が踏切3を通過するための警報時間が実質的に1台分の長さとなり、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0048】
図8の説明に戻る。
ステップ6の判定が否定の場合(ステップ6の「NO」)、踏切制御装置31は、警報時間が短い列車2について、長い列車2に合わせて走行制御パターンを算出する(ステップ7)。すなわち、ステップ7では、踏切制御装置31は、ステップ1又はステップ4において算出された警報時間短縮走行制御パターンを変更することになる。
【0049】
図11は、警報時間の長さが等しくない場合であって、警報時間が短い列車の警報時間を長くするケースを示す図である。図11は、ステップ6の判定が否定となる場合の一例である。
図11に示す例では、列車2aと列車2bの最短の警報時間の長さが等しくない。そこで踏切制御装置31は、走行制御に伴う列車2aの加減速をより少なくさせる為に、警報時間が等しくなるよう、走行制御パターンを変更し、列車2bに合わせて延長した最適な警報時間を算出する。具体的には、踏切制御装置31は、列車2aの警報開始時刻及び警報停止時刻が列車2bの警報開始時刻及び警報停止時刻と一致するように、走行制御パターンを変更する。
走行制御パターンの変更は、標準の運転曲線に対して追加の加減速や遅延が許容範囲内となるようにする。許容範囲内とするために、例えば、速度制限の下限値、速度低下の最大値、瞬間的な列車遅延の最大値等を予め定めておく。
【0050】
図11に示すように、変更後の運転支援装置(車上装置21)で表示する走行制御パターンの警報時間は、警報開始時刻及び警報停止時刻が一致することから、列車2a及び列車2bが踏切3を同時に通過することになる。従って、列車2aの乗務員が変更後の走行制御パターンに従って走行制御を行い、列車2bの乗務員が警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、警報時間を大幅に短縮することができる。
【0051】
尚、図11に示す例では、警報時間が等しくなるように、走行制御パターンを変更している。これは、列車2bに対する警報時間よりも長くしない範囲内において、可能な限り余裕のある走行制御パターンを列車2aに提示することが望ましいからである。但し、警報時間を短縮することだけを目的とするならば、列車2aに対する警報時間が、列車2bに対する警報時間に包含されるように、走行制御パターンを変更するだけでも良い。
【0052】
図8の説明に戻る。
ステップ8において、踏切制御装置31は、列車2aに対する走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻と、列車2bに対する走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻とが一致するか否かを判定する。ここで、判定対象の走行制御パターンは、変更処理を行っていない場合には警報時間短縮走行制御パターンであり、変更処理を行った場合には変更後の走行制御パターンである。
【0053】
ステップ8の判定が肯定の場合(ステップ8の「YES」)、踏切制御装置31は、列車2a及び列車2bに対して、2列車の警報開始時刻及び警報停止時刻を極力一致させた走行制御パターンを送信し(ステップ9)、処理を終了する。
ステップ8の判定が否定の場合(ステップ8の「NO」)、踏切制御装置31は、ステップ10に進む。ステップ10の処理は前述の通りである。
【0054】
ステップ11において、踏切制御装置31は、列車2aに対する走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻と、列車2bに対する走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻とが一致するか否かを判定する。ここで、判定対象の走行制御パターンは、ステップ8と同様である。
【0055】
ステップ11の判定が肯定の場合(ステップ11の「YES」)、踏切制御装置31は、列車2a及び列車2bに対して、2つの列車の警報開始時刻及び警報停止時刻を極力一致させた走行制御パターンを送信し(ステップ9)、処理を終了する。
ステップ11の判定が否定の場合(ステップ11の「NO」)、踏切制御装置31は、ステップ12に進む。
【0056】
ステップ12において、踏切制御装置31は、警報開始が遅い列車について、許容範囲内で最大限遅らせる走行制御パターンを算出する。ここで、「許容範囲内で最大限遅らせる」とは、例えば、標準の運転曲線に対する追加の加減速や遅延を限度一杯にすることである。
ステップ12の処理は、2つの列車に対する警報を一旦停止することができるか否かを判定する為に行う。この判定をする意義は、後述するように、全体の警報時間をわずかに短縮するよりも、警報を一旦停止する方が、道路交通にとって望ましい場合があるからである。つまり、わずかな時間でも警報を一旦停止することができれば、既に踏切3の前に待機している歩行者や自動車などは踏切3を渡ることができ、長時間待つ歩行者や自動車などが減少するからである。
【0057】
ステップ13において、踏切制御装置31は、ステップ12による変更処理の結果、警報を一旦停止することが可能か否か判定する。
ステップ13の判定が否定の場合(ステップ13の「NO」)、踏切制御装置31は、列車2a及び列車2bそれぞれの警報開始時刻、警報停止時刻のうち、より早い警報開始時刻、より遅い警報停止時刻になるべく合わせた走行制御パターンを算出し(ステップ14)、2つの列車の警報開始時刻及びは警報停止時刻を一致させた走行制御パターンを送信し(ステップ9)、処理を終了する。
【0058】
図12は、警報開始時刻及び警報停止時刻を一致させることが出来ない場合であって、列車ダイヤ等への影響を抑える為に警報時間を長くするケースを示す図である。図12は、ステップ13の判定が否定となる場合の一例である。
【0059】
図12では、列車2aに対する変更前の警報時間は、加減速等を限度一杯にして警報時間が最小かつ最大限遅延させた場合の警報時間である。また、列車2bに対する変更前の警報時間は、加減速等を最小限にした場合の警報時間である。
図12に示す例では、警報開始時刻及び警報停止時刻を一致させることができないので、列車ダイヤ等への影響を抑える為に、列車2a及び2bの両方の警報時間が長くなるように変更している。
【0060】
図12に示すように、変更後は、警報開始時刻が一致し、列車2aに対する警報時間が、列車2bに対する警報時間に包含されている。従って、列車2aの乗務員が変更後の走行制御パターンに従って走行制御を行い、列車2bの乗務員が警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、全体の警報時間が延長されることなく、列車ダイヤ等への影響を抑えることができる。
【0061】
図8の説明に戻る。
ステップ13の判定が肯定の場合(ステップ13の「YES」)、踏切制御装置31は、道路交通への影響を比較し(ステップ15)、道路交通への影響は、連続警報の方が小さいと判定すると(ステップ15の「連続警報が影響小さい」)、ステップ14に進み、道路交通への影響は、警報を一旦停止する方が小さいと判定すると(ステップ15の「警報一旦停止が影響小さい」)、ステップ16に進む。ステップ15における判定処理の詳細は後述する。
ステップ14の処理は前述の通りである。
ステップ16では、踏切制御装置31は、警報開始が遅い列車を更に遅らせる走行制御パターンを送信し(ステップ16)、処理を終了する。
【0062】
ステップ15における判定処理について説明する。ステップ15では、踏切制御装置31は、(1)警報を一旦停止させる走行制御パターン、及び、(2)警報を連続させる走行制御パターン、の2つを比較する。
比較のための評価関数は、例えば、非特許文献6(真田賢一郎、曽根悟、高野奏著、「複線区間における複数の開かずの踏切を群として制御する方法の検討」、電気学会全国大会講演論文集 第5分冊、pp279−280、2005年)に記載の関数が考えられる。非特許文献6では、人間のイライラ度Dを利用者の観点からの評価関数とすることが記載されている。人間のイライラ度Dは、実待ち時間をtとしたとき、D=t^2(tの二乗)と表される。
【0063】
例えば、(1)警報を一旦停止させる走行制御パターンでは、列車2aに対する警報時間が「30秒」、列車2bに対する警報時間が「30秒」とする。また、(2)警報を連続させる走行制御パターンでは、列車2a及び列車2bに対する全体の警報時間が「50秒」とする。
この場合、(1)におけるイライラ度D1は、D1=30^2+30^2=1800となる。また、(2)におけるイライラ度D1は、D1=50^2=2500となる。従って、(2)よりも(1)の方が、イライラ度が小さく、道路交通への影響が小さいと判定される。
【0064】
尚、当然ながら、前述の評価関数は一例であり、その他の関数であっても良い。また、評価関数は、人間のイライラ度のように、心理的な現象ではなく、通過可能人数や通過可能台数などのように、物理的な現象を評価するものであっても良い。
【0065】
図13は、警報開始時刻、警報停止時刻を一致させることが出来ない場合であって、後から踏切に到達する列車を遅延させて警報を一旦停止するケースを示す図である。図13は、ステップ15の判定が「道路交通への影響は、警報を一旦停止する方が小さい」となる場合の一例である。
【0066】
図13では、列車2aに対する変更前の警報時間は、加減速等を最小限にした場合の警報時間である。また、列車2bに対する変更前の警報時間は、加減速等を最小限にした場合の警報時間である。
図13に示す例では、道路交通への影響は、警報を一旦停止する方が小さいことから、後から踏切に到達する列車を遅延させて警報を一旦停止するように変更している。すなわち、変更後の列車2bに対する警報時間は、加速減等を限度一杯にして最大限遅延させた場合の警報時間である。
【0067】
図13に示すように、変更後は、列車2aに対する警報時間と列車2bに対する警報時間とが重複しない。従って、列車2aの乗務員が変更後の走行制御パターンに従って走行制御を行い、列車2bの乗務員が警報時間短縮走行制御パターンに従って走行制御を行うことによって、列車2aが踏切3を通過した後、警報を一旦停止することができ、ひいては、道路交通への影響を小さくすることができる。
【0068】
以上の通り、踏切制御装置31は、踏切到達予測時間が最も早い列車2と、2番目に早い列車2に対して、走行制御支援処理を実行する。
尚、前述の説明では、踏切制御装置31は、踏切到達予測時間が最も早い列車2と、2番目に早い列車2に対する処理を説明したが、2番目に早い列車2と3番目に早い列車2、3番目に早い列車2と4番目に早い列車2、というように、他の列車2の組に対して、走行制御支援処理を実行することも可能である。
【0069】
次に、図14、図15を参照しながら、走行制御パターンの具体例について説明する。説明を分かり易くする為に、図14、図15では、1台の列車2に対する警報時間短縮走行制御パターンを示している。
【0070】
図14は、等速走行と同一の走行時間とする走行制御パターンを示す図である。横軸が位置、縦軸が速度である。「道路交通に対して警報を行う領域」は、前述の設計警報時間及び遮断完了時間に加えて、列車長+余裕距離も考慮して算出されている。
【0071】
等速走行の走行制御パターン51は、走行制御範囲全体を通して、等速走行を行った場合の列車位置と列車速度の関係を示している。
警報時間短縮走行制御パターン52は、走行制御範囲全体の走行時間が、等速走行の走行制御パターン51と同一となるように算出されている。
警報時間短縮走行制御パターン52では、減速開始位置61(道路交通に対して警報を行う領域に到達する前)から、制限速度に到達するまで、常用最大制動62によって減速する。次に、制限解除位置63(道路交通に対して警報を行う領域に到達する直前)から、最高速度に到達するまで、最大加速64(列車2の加速特性を反映して図示されている)によって加速する。そして、減速開始位置65(道路交通に対して警報を行う領域を通過した直後)から、等速走行における通常の速度に到達するまで、常用最大制動66によって減速する。
【0072】
等速走行の走行制御パターン51による警報時間と、警報時間短縮走行制御パターン52による警報時間とを比較すると、警報開始地点は、警報時間短縮走行制御パターン52の方が遅く、警報中の平均速度は、警報時間短縮走行制御パターン52の方が速い。従って、警報時間短縮走行制御パターン52は、等速走行の走行制御パターン51よりも、警報時間が短縮されることが分かる。
【0073】
図15は、速度制限区間における走行制御パターンを示す図である。図14と同様、横軸が位置、縦軸が速度である。また、図14と同様、「道路交通に対して警報を行う領域」は、前述の設計警報時間及び遮断完了時間に加えて、列車長+余裕距離も考慮して算出されている。図14と相違する点は、踏切3の周辺が速度制限区間となっていることである。
【0074】
通常の走行制御パターン71では、道路交通に対して警報を行う領域に到達してから、速度照査パターンに基づいて、速度制限区間前に減速している。
警報時間短縮走行制御パターン72では、道路交通に対して警報を行う領域に到達する前に、制限速度になるまで減速し、速度制限区間を通過するまで等速走行を行う。
【0075】
通常走行の走行制御パターン71による警報時間と、警報時間短縮走行制御パターン72による警報時間とを比較すると、警報時間短縮走行制御パターン72は、警報開始地点が遅く、明らかに警報時間が短縮されている。
【実施例1】
【0076】
以下では、図16を参照しながら、実施例1について説明する。実施例1は、単独の列車2に対する警報時間短縮効果の検証結果である。
実施例1では、表1の制約条件を設けて、図14に示す警報時間短縮走行制御パターン52を単独の列車2に適用した。
【0077】
【表1】
【0078】
対向する列車2を考慮しない場合、図14に示すように、踏切3の手前において一旦減速し、踏切3に接近中は最大加速(又は線区最高速度)によって走行し、踏切3を通過中も線区最高速度によって走行できれば、最適な警報時間を実現できる。
表1の制約に基づき、表2に示す車両性能、線区条件での警報時間短縮効果を図16に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
図16は、実施例1による警報時間短縮効果を示すグラフである。図16に示すように、踏切3の前後での列車平均速度が40km/h以上の実用的な速度域では、最適な警報時間を実現することができた。また、40km/h未満でも、踏切制御子による場合に比べて、最大で60秒以上、無線式で走行制御無しの場合と比較しても最大で40秒以上短縮された。割合にすると、それぞれ約58%、約49%短縮されており、極めて顕著な警報時間短縮が得られていることが分かる。
【実施例2】
【0081】
次に、図17〜図22を参照しながら、実施例2について説明する。実施例2は、互いに対向する複数の列車2に対する警報時間短縮効果の検証結果である。
実施例2でも、表1の制約条件を設けて、表2に示す車両性能、線区条件で、警報時間短縮効果を検証した。
【0082】
実施例2では、実施例1における単独の列車2での結果を基に、双方の列車2の走行制御範囲への進入タイミングが同時の場合、15秒差となる場合、30秒差となる場合について、それぞれ警報時間を算出した。先行する列車2と対向する列車2の速度差によっては、連続警報とならない場合(一旦警報が停止する場合)もある。この場合は双方の列車2に対する警報時間を合算した。
【0083】
実施例2では、実施例1における単独の列車2に対する最短の警報時間を実現する走行制御を基本とし、図8に示すフローチャートに従って、なるべく踏切3の上ですれ違うような走行制御を行った。
また、実施例2に対する比較例では、双方の列車2が等速走行で走行制御区間を通過した場合の警報時間を算出した。
【0084】
図17、図18は、それぞれ、比較例、実施例2による踏切到達時間差0秒の場合の警報時間を示すグラフである。また、図19、図20は、それぞれ、比較例、実施例2による踏切到達時間差15秒の場合の警報時間を示すグラフである。また、図21、図22は、それぞれ、比較例、実施例2による踏切到達時間差30秒の場合の警報時間を示すグラフである。
【0085】
図17から図22に示すように、図8に示すフローチャートに従って走行制御を行った実施例2では、比較例と比較して、全体的に警報時間が短縮された。踏切3の前後の走行速度が40km/h以上では、警報時間が、実施例1における最適警報時間である43.4秒の2倍以内に収まった。特に、2つの列車2の速度差が20km/h程度までの場合には、警報時間を概ね最適化でき、踏切3の上ですれ違う為のタイミング合わせ調整範囲も広く取れていることが分かる。
【0086】
本発明の走行制御支援方法(走行制御支援装置)は、例えば、優等列車が先行列車の駅停車により低速走行を強いられるラッシュ時や、ボトルネック踏切などの警報時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0087】
前述の説明では、駅などの停車場について言及していないが、本発明は、駅の近傍の踏切に対しても同様に適用可能である。例えば、駅を出発した直後に踏切が存在する場合、列車はそもそも加速する為、本発明の技術的思想と何ら矛盾しない。また、例えば、駅に到達する直前に踏切が存在する場合、優等列車か普通列車かの列車選別を行う。そして、駅に停車する普通列車に対しては、停車を前提とした警報制御及び誤通過防止制御を準備しておき、走行制御パターンを算出し、優等列車に対してのみ本発明を適用すれば良い。
【0088】
また、踏切近傍での走行が、既に標準の運転曲線から乖離している場合に備えて、先行列車との間隔や列車種別に応じて、安全側で求める警報制御とは別に、運転上の踏切到達予測時間を求めたり、統計的なデータから運転上の踏切到達予測時間のテーブルを記憶しておいたりすると望ましい。
【0089】
また、カーブ等の速度制限区間の手前では、高速域での警報開始が、ブレーキパターン到達予測時間に依存して早くなっている。そこで、図15に示すように、速度制限よりやや手前で減速を開始することによって、警報開始が早まることを回避することができる。この場合、踏切近傍では遅延が発生するので、運行上の余裕時間を充てたり、回復余力を充てたりするなど、乗務員が適宜判断する。車上装置では、運行ダイヤのデータを記憶しておき、遅延と判断した時には警報短縮の為の走行制御パターンの表示を行わないようにすることも考えられる。
【0090】
前述した本発明の効果は、以下の通りである。
1.踏切に加速しながら接近することによって、単純な無線式踏切制御を行っても、大きな警報時間短縮効果が得られる。また、踏切上ですれ違うことによって、警報時間短縮効果をより一層大きくすることができる。
2.単純な無線式踏切制御のみを実装しても警報時間を大幅に短縮できる為、踏切制御装置の開発(または改良)に要するコストを抑えることができる。
3.走行制御パターンを提示する車上装置は、ATC等の列車制御装置ではないので、フェールセーフ性が要求されない為、安価に開発(又は改良)することができる。また、故障や誤動作に対しても、列車運行に対する安定性の低下を回避することができる。
4.乗務員は、車上装置のナビゲーション情報に従わなくても、踏切制御子による制御と比較すれば、警報時間短縮効果を多少減ずるだけであるので、乗務員に対する負担(走行制御の困難さに対する身体的、心理的負担など)が小さくて済む。すなわち、乗務員は、後続列車への影響や走行制御パターンの制御が外れた時の列車遅延の発生を抑える為に、ナビゲーション情報と異なる走行制御を行っても問題ない。
【0091】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る走行制御支援方法等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0092】
1………無線踏切制御システム
2、2a、2b………列車
3………踏切
21、21a、21b………車上装置
22a、22b………無線装置
31………踏切制御装置
32………無線装置
33………警報機
34………遮断機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車上装置と踏切制御装置とが無線通信を行い、
前記車上装置が、列車の位置及び速度を前記踏切制御装置に送信し、前記踏切制御装置が、前記車上装置から受信する列車の位置及び速度に基づいて、踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間として、それぞれ、警報開始後に最大加速パターンによる走行を想定した場合に警報開始から列車が踏切及びブレーキパターンに到達するまでの時間を算出する、あるいは、前記車上装置が、列車の位置及び速度に基づいて前記踏切到達予測時間及び前記ブレーキパターン到達予測時間を算出する予測時間算出手段と、
前記踏切制御装置あるいは前記車上装置が、予め記憶する設計警報時間と前記踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と前記ブレーキパターン到達予測時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する警報制御手段と、
を具備する無線踏切制御システムにおける走行制御支援方法であって、
前記踏切制御装置が、警報開始後に列車を加速させる走行制御パターンを算出し、前記車上装置に送信する、あるいは、前記車上装置が、前記走行制御パターンを算出する走行制御パターン算出ステップと、
前記車上装置が、前記走行制御パターンを乗務員に提示する走行制御パターン提示ステップと、
を含むことを特徴とする走行制御支援方法。
【請求項2】
前記走行制御パターン算出ステップは、前記踏切制御装置が位置及び速度を受信済の列車の中で前記踏切到達予測時間が最も早い列車を第1列車とし、前記第1列車に対する前記走行制御パターンである第1走行制御パターンを、警報開始後に列車の加速特性を反映した加速を行うように算出し、更に、前記第1列車と警報時間が近接あるいは重複する列車である第2列車が存在するか否かを判定する第1判定を行い、前記第1判定が肯定の場合には、前記第1走行制御パターンを変更しないことを特徴とする請求項1に記載の走行制御支援方法。
【請求項3】
前記走行制御パターン算出ステップは、前記第1判定が否定の場合には、前記第2列車に対する前記走行制御パターンである第2走行制御パターンを、警報開始後に列車の加速特性を反映した加速を行うように算出し、更に、前記第1走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻と、前記第2走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻とが一致するか否かを判定する第2判定を行い、前記第2判定が肯定の場合には、前記第2走行制御パターンを変更しないことを特徴とする請求項2に記載の走行制御支援方法。
【請求項4】
前記走行制御パターン算出ステップは、前記第2判定が否定の場合には、前記第1走行制御パターンによる警報時間の長さと、前記第2走行制御パターンによる警報時間の長さとが等しいか否かを判定する第3判定を行い、前記第3判定が否定の場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち警報時間が長い方を基準として、警報開始時刻及び警報停止時刻が一致するように、前記第1走行制御パターン又は前記第2走行制御パターンを変更する第1変更を行うことを特徴とする請求項3に記載の走行制御支援方法。
【請求項5】
前記走行制御パターン算出ステップは、前記第3判定が肯定の場合、又は、前記第1変更が出来ない場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち一方の警報時間が他方の警報時間に包含されるように、前記第1走行制御パターン又は前記第2走行制御パターンを変更する第2変更を行うことを特徴とする請求項4に記載の走行制御支援方法。
【請求項6】
前記走行制御パターン算出ステップは、前記第2変更が出来ない場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち警報開始時刻が遅い方を、許容可能な範囲内において最大限遅らせるように変更する第3変更を行い、更に、前記第3変更の結果、警報を一旦停止出来る場合には、所定の評価関数を用いて道路交通への影響度合いを評価し、警報を一旦停止するように前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンを算出するか否かを判定することを特徴とする請求項5に記載の走行制御支援方法。
【請求項7】
車上装置と踏切制御装置とが無線通信を行い、
前記車上装置が、列車の位置及び速度を前記踏切制御装置に送信し、前記踏切制御装置が、前記車上装置から受信する列車の位置及び速度に基づいて、踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間として、それぞれ、警報開始後に最大加速パターンによる走行を想定した場合に警報開始から列車が踏切及びブレーキパターンに到達するまでの時間を算出する、あるいは、前記車上装置が、列車の位置及び速度に基づいて前記踏切到達予測時間及び前記ブレーキパターン到達予測時間を算出する予測時間算出手段と、
前記踏切制御装置あるいは前記車上装置が、予め記憶する設計警報時間と前記踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と前記ブレーキパターン到達予測時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する警報制御手段と、
を具備する無線踏切制御システムと連携する走行制御支援装置であって、
前記踏切制御装置が、警報開始後に列車を加速させる走行制御パターンを算出し、前記車上装置に送信する、あるいは、前記車上装置が、前記走行制御パターンを算出する走行制御パターン算出手段と、
前記車上装置が、前記走行制御パターンを乗務員に提示する走行制御パターン提示手段と、
を具備することを特徴とする走行制御支援装置。
【請求項1】
車上装置と踏切制御装置とが無線通信を行い、
前記車上装置が、列車の位置及び速度を前記踏切制御装置に送信し、前記踏切制御装置が、前記車上装置から受信する列車の位置及び速度に基づいて、踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間として、それぞれ、警報開始後に最大加速パターンによる走行を想定した場合に警報開始から列車が踏切及びブレーキパターンに到達するまでの時間を算出する、あるいは、前記車上装置が、列車の位置及び速度に基づいて前記踏切到達予測時間及び前記ブレーキパターン到達予測時間を算出する予測時間算出手段と、
前記踏切制御装置あるいは前記車上装置が、予め記憶する設計警報時間と前記踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と前記ブレーキパターン到達予測時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する警報制御手段と、
を具備する無線踏切制御システムにおける走行制御支援方法であって、
前記踏切制御装置が、警報開始後に列車を加速させる走行制御パターンを算出し、前記車上装置に送信する、あるいは、前記車上装置が、前記走行制御パターンを算出する走行制御パターン算出ステップと、
前記車上装置が、前記走行制御パターンを乗務員に提示する走行制御パターン提示ステップと、
を含むことを特徴とする走行制御支援方法。
【請求項2】
前記走行制御パターン算出ステップは、前記踏切制御装置が位置及び速度を受信済の列車の中で前記踏切到達予測時間が最も早い列車を第1列車とし、前記第1列車に対する前記走行制御パターンである第1走行制御パターンを、警報開始後に列車の加速特性を反映した加速を行うように算出し、更に、前記第1列車と警報時間が近接あるいは重複する列車である第2列車が存在するか否かを判定する第1判定を行い、前記第1判定が肯定の場合には、前記第1走行制御パターンを変更しないことを特徴とする請求項1に記載の走行制御支援方法。
【請求項3】
前記走行制御パターン算出ステップは、前記第1判定が否定の場合には、前記第2列車に対する前記走行制御パターンである第2走行制御パターンを、警報開始後に列車の加速特性を反映した加速を行うように算出し、更に、前記第1走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻と、前記第2走行制御パターンによる警報開始時刻及び警報停止時刻とが一致するか否かを判定する第2判定を行い、前記第2判定が肯定の場合には、前記第2走行制御パターンを変更しないことを特徴とする請求項2に記載の走行制御支援方法。
【請求項4】
前記走行制御パターン算出ステップは、前記第2判定が否定の場合には、前記第1走行制御パターンによる警報時間の長さと、前記第2走行制御パターンによる警報時間の長さとが等しいか否かを判定する第3判定を行い、前記第3判定が否定の場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち警報時間が長い方を基準として、警報開始時刻及び警報停止時刻が一致するように、前記第1走行制御パターン又は前記第2走行制御パターンを変更する第1変更を行うことを特徴とする請求項3に記載の走行制御支援方法。
【請求項5】
前記走行制御パターン算出ステップは、前記第3判定が肯定の場合、又は、前記第1変更が出来ない場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち一方の警報時間が他方の警報時間に包含されるように、前記第1走行制御パターン又は前記第2走行制御パターンを変更する第2変更を行うことを特徴とする請求項4に記載の走行制御支援方法。
【請求項6】
前記走行制御パターン算出ステップは、前記第2変更が出来ない場合には、前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンのうち警報開始時刻が遅い方を、許容可能な範囲内において最大限遅らせるように変更する第3変更を行い、更に、前記第3変更の結果、警報を一旦停止出来る場合には、所定の評価関数を用いて道路交通への影響度合いを評価し、警報を一旦停止するように前記第1走行制御パターン及び前記第2走行制御パターンを算出するか否かを判定することを特徴とする請求項5に記載の走行制御支援方法。
【請求項7】
車上装置と踏切制御装置とが無線通信を行い、
前記車上装置が、列車の位置及び速度を前記踏切制御装置に送信し、前記踏切制御装置が、前記車上装置から受信する列車の位置及び速度に基づいて、踏切到達予測時間及びブレーキパターン到達予測時間として、それぞれ、警報開始後に最大加速パターンによる走行を想定した場合に警報開始から列車が踏切及びブレーキパターンに到達するまでの時間を算出する、あるいは、前記車上装置が、列車の位置及び速度に基づいて前記踏切到達予測時間及び前記ブレーキパターン到達予測時間を算出する予測時間算出手段と、
前記踏切制御装置あるいは前記車上装置が、予め記憶する設計警報時間と前記踏切到達予測時間を比較するとともに、予め記憶する踏切遮断完了時間と前記ブレーキパターン到達予測時間を比較し、所定の条件を満たす場合には警報を開始するように指示する警報制御手段と、
を具備する無線踏切制御システムと連携する走行制御支援装置であって、
前記踏切制御装置が、警報開始後に列車を加速させる走行制御パターンを算出し、前記車上装置に送信する、あるいは、前記車上装置が、前記走行制御パターンを算出する走行制御パターン算出手段と、
前記車上装置が、前記走行制御パターンを乗務員に提示する走行制御パターン提示手段と、
を具備することを特徴とする走行制御支援装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−126156(P2012−126156A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276793(P2010−276793)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]