説明

起振機の位相差制御装置

【課題】 起振機の位相差制御装置を改良して、材料コスト及び加工コストを低減するとともに、ベーン9a,9bとハウジングとの間のクリアランスを詰めて作動油リークを防止しても双方の部材が焼き付く虞れの無いようにする。
【解決手段】 伝動軸8とベーン9a,9bとは、従来技術においては一体に構成され、大きい鋼材から削り出していた。本発明においては伝動軸とベーンとを別体に構成する。これにより材料コストと切削加工コストとが低減される。のみならず、ベーンの材質を任意に選定できるので焼き付き防止に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏心重錘式起振機の位相差制御装置に係り、製造の材料コスト及び加工コストを低減せしめ得るように改良したものである。
【背景技術】
【0002】
偏心重錘式の起振機で杭を打ち、又は杭を抜く場合、偏心重錘が大きい質量と大きい偏心量とを有しているため、その回転速度を瞬時に変化させることは実用上不可能である。
しかし、可動偏心重錘と固定偏心重錘との回転位相差を変化させることによって、回転速度をほとんど変えずに起振力を変化させる技術が公知である(例えば特開2002−129563公報)。
上記の公知技術において、可動偏心重錘軸と固定偏心重錘軸との回転位相差を調節するアクチュエータとして、油圧式の可逆回動機構が用いられている。
【0003】
図4は、公知の油圧式可逆回動機構の1例を描いた模式的な断面図である。
円筒形のハウジング1の中に伝動軸2が同心に配置され、回動可能に支承されている。
伝動軸2からは、ハウジング1の内周面に達するベーン4a,4bが突出している。ハウジング1の中には、伝動軸2に摺触するブロック3a,3bが固着されている。
ハウジング1には作動油の流出入孔1a,1bが穿たれている。
上記流出入孔1aから圧力油を注入(矢印a)するとともに、流出入孔1bを大気圧に解放すると、図示5a,5bの区域が加圧室となる。(注)上記双方の加圧室5a,5bは連通孔2aによって連通されている。
符号6a,6bを付して示した区域は、相互に連通孔2bで連通されており、流出入孔1bを介して大気圧に解放された解放室となる。
2枚のベーン4a,4bは、それぞれ加圧室側から押圧されて図の左回り(反時計)方向に回動せしめられ、該ベーン4a,4bを一体に連設された伝動軸2は左回り方向に回動する。
前記流出入孔1a,1bの加圧・解放を反対に切り換えると、伝動軸2の回動方向が逆転する。
【0004】
図5は、前掲の図4に示した公知の油圧式可逆回動機構を用いて起振機の位相差を制御し、位相差を調節することによって起振力を変化させる公知発明(特開2002−66458号公報)であって、同公報の図2に対応している(ただし、符号は修正してあり、図形は修正していない)。
この図5に描かれている固定偏心重錘26と可動偏心重錘27とが起振機能を発揮する要部であって、回転軸駆動機器28によって同期回転せしめられる。
固定偏心重錘26に対して可動偏心重錘の回動角の位相差が180度であると、両者の偏心モーメントが相殺されて、起振力が最小になる。このとき、固定偏心重錘の偏心モーメントと可動偏心重錘の偏心モーメントとが等しければ、回転速度の如何に拘らず起振力はゼロになる。
【0005】
固定偏心重錘と可動偏心重錘との位相差がゼロであると、その時の回転速度に応じて起振力が最大になる。
上述のように、固定偏心重錘と可動偏心重錘との位相差を変化させることにより、回転速度を変えることなく、起振力を増減制御することができる。
上述の構成,作用から容易に諒解し得るように、固定偏心重錘と可動偏心重錘との区別は相対的なものである。すなわち、何れか一方を基準として、これを固定偏心重錘と呼べば、他方は可動偏心重錘となる。このように、固定・可動の区分は便宜上の呼び名であって、相互に置換して読み換えることもできる。
ただし、任意の1個や2個を読み換えて良いというものではなく、読み換えるなら全文に記載されている固定偏心重錘と、全文に記載されている可動偏心重錘とを入れ換えるとともに、全図面に記入されている部材名称を入れ換えなければならない。
【0006】
図5(公知発明)に描かれている可逆回動機構25は油圧アクチュエータの一種であって、ボデー25aに対して伝動軸25bが往復回動するようになっている。
上記の往復回動も相対的なものであって、ボデー25aを基凖として考えれば伝動軸25bが往復回動せしめられ、伝動軸25bを基準として考えればボデー25aが往復回動せしめられる。
前記の固定偏心重錘26を固着されている内軸21が回転すると、キーKを介して直結されている伝動軸25bが固定偏心重錘26と同期して同位相で回転せしめられる。
【0007】
前記可動偏心重錘27は、内軸21に固定されることなく、ベアリングを介して相対的回動自在に支承されている。
上記内軸21は外管22に挿通されて2重管23を形成している。
そして、この可動偏心重錘27と前記可逆回動機構25のボデー25aとが、外管22を介して相互に固着されている。従って、これらの部材は同期・同相で回転する。
スイベルジョイント24から圧力油を送給して、ボデー25aと伝動軸25bとを相対的に回動させることによって、固定偏心重錘26と可動偏心重錘とが想定的に回動せしめられる。すなわち、両者の位相差が変化せしめられる。
【特許文献1】 特開2002−177887公報
【特許文献2】 特開2002−66458公報
【非特許文献1】 日刊工業新聞社発刊「新油圧技術読本」河野俊助著
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図4に示した従来例の可逆回動機構において、2個のブロック3a,3bはハウジング1と別体に構成して取り付けられているが、1対のベーン4a,4bは伝動軸2と同一の素材から一体に削り出されている。
このため、大形の鋼材の大半を削り屑にしてしまって歩留りが悪く、資源を大切にしなければならぬ我国産業に相応しくない。その上、切削加工に多大の時間と労力とを費す。
上述のように、従来例の可逆回動機構を備えた位相差制御装置は材料コストも加工コストも割高になっている。
【0009】
本発明は上述の事情に鑑みて為されたものであって、その目的とするところは、油圧式可逆回動機構を備えた位相差制御装置を改良して、材料コスト及び加工コストを低減するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために創作した請求項1の発明に係る位相差制御装置の構成は、
起振機の可動偏心重錘と直結されて同期回転する、円筒状のハウジングの中に、
起振機の固定偏心重錘に直結されて同期回転する伝動軸が同心に配置されるとともに、
前記円筒状ハウジングの内周面に固着されたブロックが上記伝動軸に接し、前記伝動軸から半径方向に突出するベーンがハウジングの内周面に接して可逆回動機構が構成され、
かつ、前記伝動軸とベーンとが別体に形成されていて、伝動軸の外周面に設けられた溝の中に、ベーンの一部を嵌め込んで固着されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明装置の構成は、前記請求項1に係る発明装置の構成要件に加えて、
前記のベーンとブロックとが相互に当接する箇所に位置せしめて、
該ブロック及びベーンの少なくとも何れか一方に緩衝機構が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明装置の構成は、前記請求項2に係る発明装置の構成要件に加えて、
前記の緩衝機構が、ベーン若しくはブロックに穿たれた透孔と、
上記透孔の中へ摺動可能に嵌合された1対のバネ座と、
上記1対のバネ座の間に挟まれて圧し縮められているバネ手段と、
上記1対のバネ座のそれぞれに装着されたダンパピースと、を具備していることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明装置の構成は、前記請求項1ないし請求項3の何れかに係る発明装置の構成要件に加えて、
前記のハウジングが鋼製であり、
前記のベーンが、アルミニウムを含む合金もしくは銅を含む合金、又は高分子材料によって構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係る位相差制御装置を適用すると、
イ.伝動軸とベーンとが別体であるから、それぞれを別途に機械加工して製作することができ、材料の歩留まりが良い。その上、加工精度が高い。
ロ.伝動軸の溝にベーンが嵌め込まれているので、双方の部材が強固に結合される。
ハ.伝動軸とベーンとが別体であるから、それぞれの部材を最適の材料で構成することができ、かつ、設計的自由度が大きい。
【0015】
請求項2の発明に係る位相差制御装置を適用すると、
伝動軸の回動によってベーンがブロックに当接する際、双方の部材の間に緩衝機構が設けられているので、激しい衝突が防止される。このため、別体に構成されている伝動軸とベーンとの嵌合固着箇所が離脱する虞れ無く、信頼性,耐久性に優れている。
【0016】
請求項3の発明に係る位相差制御装置を適用すると、
ベーン又はブロックの厚さ寸法(回動円弧の接線方向)の中に好適な緩衝機構を組み込むことができ、
しかも、ベーン又はブロックの両側の面に緩衝機能とを発揮せしめることができ、可逆回動機構の往復回動に対応することができる。
【0017】
請求項4の発明に係る位相差制御装置を適用すると、ハウジングの材質とベーンの材質とが異なっているので、局部的圧力を受けたり局部的摩擦を受けたりしても互いに焼き付く虞れが無い。
しかも、可逆回動機構の外筺をなすハウジングが鋼製であるから、材料力学的に充分な抗張力と靭性とを有しており、遠心力や油圧力に対して所要の強度を有するように構成することが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明に係る可逆回動機構の1実施形態を模式的に描いた断面図である。模式化してあるから、真実的な断面投影図ではない。
本実施形態は、前掲の図4に示した従来例の可逆回動機構に本発明を適用したものである。
以下に、本図1が図4に比して異なる点、すなわち本発明を適用して改良した箇所について説明する。
最も重要なポイントは、伝動軸8とベーン9a,9bとが別体に構成されていることである。
別体に構成されたことに因る利点(材料コスト及び加工コストの低減)も有るし、別体に構成されたことに起因する短所(機械的に弱い)を補う手段が施されてもいる。
【0019】
本実施形態のハウジング7,及び伝動軸8は機械構造用炭素鋼で作られている。一方、ベーン9a,9bはアルミニウム合金、又は銅合金で作られている。本発明を実施する際、ベーンを高分子材料で構成することもできる。
可逆回動機構における作動流体のリークを減少させるためには、ベーンとハウジングとの間のクリアランスを微小にしなければならないが、クリアランスを微小にすると双方の部材が相互に焼き付く危険性を生じる。
この場合、双方の部材が同種の材料であると焼き付き易く、異種の材料同士は焼き付きにくい。このため、本実施形態においては前記のクリアランスを詰めてリークの防止を図っても、焼き付く虞れが無い。
【0020】
伝動軸8の側面に、軸心と平行な溝8a,8bが削成されている。
ベーン9aの根本が溝8aに嵌め込まれ、ベーン9bの根本が溝8bに嵌め込まれて固着されている。
本発明を実施する場合、前記の嵌め込み部に適宜の締代を与えて圧入固着すると良いが本図のような平行2面の圧入に限らず、アリ溝嵌合(ダブテール)なども適用し得る。
本例においては、図3を参照して後に詳述するように取付ボルトを併用した(本図1においては該取付ボルトの図示を省略してある)。
そして、これらのベーン9a,9bがブロック10と当接する箇所に緩衝機構11が設けられている。この緩衝機構11の詳細な構成については、図2を参照して後に詳しく説明する。
【0021】
ハウジング7の内周面に1対のブロック10が対称に配置され、取付ボルト10bによって固着されている。符号10aを付して示したのはシールである。
以上のように構成された本実施形態の油圧式可逆回動機構において、流出入孔7aから圧力油を注入すると、圧力油がベーン9aの図示右上側の面を左下方に向けて押圧するとともに、該圧力油は連通孔8dを経て流動し、ベーン9bの左下側の面を右上方に向けて押圧する。
これにより、ベーン9a,9bを固着された伝動軸8は、図の左回り(反時計)方向に回動する。
回動のストロークエンドにおいて、上記ベーン9a,9bはブロック10に衝突しそうになるが、その直前に緩衝機構11の作用で衝撃を緩和される。
【0022】
図2は、前記緩衝機構の詳細を説明するための模式的な断面図である。
符号9を付して示したベーンは、その先端部付近が描かれている。往復円弧矢印はベーンの往復回動方向を示している。
上記円弧矢印の接線と平行な方向、すなわちベーンの厚さ方向に、段付き透孔12が穿たれている。
上記段付き透孔は、両端部(図において左右両端付近)が小径であり、両端部を除く中央部が大径になっている。
【0023】
上記段付き透孔12の大径部に対して摺動自在に嵌合する外径を有する1対のバネ座13が、該段付き透孔の両端部に配置されるとともに、該1対のバネ座13の間にコイルバネ15が圧縮介装されている。
上記1対のバネ座13のそれぞれに対して、コイルバネ15からの押圧力を受ける側の反対側に、合成ゴム製のダンパピース14が取り付けられている。
これにより、2個の合成ゴム製ダンパピース14が、それぞれベーン9の厚さ方向に張り出すように付勢されて緩衝機能を果たす。
本発明を実施する際、コイルバネ15のバネ定数を適宜に設定することにより、ダンパピースを省略し、又はダンパピースを硬質の材料で構成することができる。
図示を省略するが、図2に示したのと同様の緩衝機構をブロックに設けても良く、前記と同様の作用,効果が得られる。
【0024】
図3は、前掲の図1に示した実施形態におけるベーン9を伝動軸8に固着する作業を説明するための模式的な工程図であって、符号(A),(B),(C)は工程順序を表している。
図3(A)において符号9cを付して示したのは、未だ組み付けられていないベーンである。このベーン素材9cには、組み付けられて回転する場合の法線方向に段付き透孔12が穿たれている。
符号19を付して示したのは取付ボルトであるが、以下に説明する作業の途中で切削加工を受けるので、図3(A)の段階では取付ボルトの素材である。
【0025】
前記のボルト素材の中央部付近に円柱部19aが形成され、先端部にオネジ部19bが形成されており、かつ、後端には角頭部19cが形成されている。この角頭部は六角でも四角でも良く、またDカットであっても良い。要するにレンチを係合し得る形状であれば良い。
一方、伝動軸8には、前記ベーン素材9cと密に嵌合する溝8aが削成され、その溝底にメネジ穴17が形成されている。
【0026】
ベーン素材9cの根本部が溝8aに嵌め込むとともに、取付ボルト素材19を段付き透孔12に挿通し、オネジ部19bをメネジ穴17に螺入すると図3(B)の状態になる。
この状態では、ベーン素材9cの先端から取付ボルト素材19の頭部付近が突出している。
そこで、図3(C)に示した仕上げ加工円柱面20に沿わしめて、取付ボルト素材の頭部を削除するとベーン完成品9になる。
本発明を実施する際、(C)の工程で取付ボルト素材19だけを切削するように工程設計することもでき、また、取付ボルト素材19と一緒にベーン素材9cも切削仕上げ(又は研削仕上げ)するように工程設計することもできる。
【0027】
以上に説明した実施形態を総括して(図1参照)、
伝動軸8とベーン9a,9bとが別体に形成されているので、大きい鋼材からベーン付き伝動軸を削り出していた従来技術に比して高精度の加工が可能であり、かつ材料コストや加工コストが低減される。
別体に形成された伝動軸とベーンとを、図3に示した工程によって結合すると充分な強度が得られ、かつ緩衝機構11で保護されているので破損する虞れが無い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】 本発明に係る位相差制御装置の1実施形態を模式的に描いた断面図である。
【図2】 上記実施形態における緩衝機構付近を詳細に描いた断面図である。
【図3】 前記実施形態のベーンを伝動軸に取り付ける作業を描いた模式的な工程図である。
【図4】 従来例の可逆回動機構を描いた断面図である。
【図5】 公知の起振機の要部を描いた模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1…ハウジング
2…伝動軸
3a,3b…ブロック
4a,4b…ベーン
7…ハウジング
8…伝動軸
8a,8b…溝
9a,9b…ベーン
9c…ベーンの素材
10…ブロック
11…緩衝機構
12…段付き透孔
13…バネ座
14…ダンパピース
15…コイルバネ
16…環状スクリュープラグ
17…メネジ穴
18…段付き透孔
30…仕上加工円柱面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振機の可動偏心重錘と直結されて同期回転する、円筒状のハウジングの中に、
起振機の固定偏心重錘に直結されて同期回転する伝動軸が同心に配置されるとともに、
前記円筒状ハウジングの内周面に固着されたブロックが上記伝動軸に接し、前記伝動軸から半径方向に突出するベーンがハウジングの内周面に接して可逆回動機構が構成され、
かつ、前記伝動軸とベーンとが別体に形成されていて、伝動軸の外周面に設けられた溝の中に、ベーンの一部を嵌め込んで固着されていることを特徴とする、起振機の位相差制御装置。
【請求項2】
前記のベーンとブロックとが相互に当接する箇所に位置せしめて、
該ブロック及びベーンの少なくとも何れか一方に緩衝機構が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載した起振機の位相差制御装置。
【請求項3】
前記の緩衝機構が、ベーン若しくはブロックに穿たれた透孔と、
上記透孔の中へ摺動可能に嵌合された1対のバネ座と、
上記1対のバネ座の間に挟まれて圧し縮められているバネ手段と、
上記1対のバネ座のそれぞれに装着されたダンパピースと、を具備していることを特徴とする、請求項2に記載した起振機の位相差制御装置。
【請求項4】
前記のハウジングが鋼製であり、
前記のベーンが、アルミニウムを含む合金もしくは銅を含む合金、又は高分子材料によって構成されていることを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れかに記載した起振機の位相差制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−262117(P2009−262117A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137252(P2008−137252)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(391002122)調和工業株式会社 (43)
【Fターム(参考)】