説明

超微細金属線状体及びその製造方法

【課題】配線材料等に用いた場合の加工性に優れ、またフィラー等として用いた場合に嵩密度を低く抑えることができる細くて非常に長い超微細金属線状体を提供すること。
【解決手段】超微細金属線状体は、一方向に延び、太さが20〜1000nmである超微細金属線状体であって、該線状体は、自在に屈曲するのに足る十分な長さを有することを特徴とする。この線状体は、金属のイオンを、非水電解液中で安定な錯体の状態で、該非水電解液中に存在させた状態下に電解還元することで好適に製造することができる。この場合、カソードとして線材を用い、該線材の先端部をアノードに対向させた状態下に電解還元することが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超微細金属線状体及び該超微細金属線状体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるナノワイヤーは、その微小なサイズや高いアスペクト比等により、従来の材料に無い物理的、化学的性質(例えば、電気伝導性、熱伝導性、発光特性、触媒活性等)を発現することが期待される。このようなナノワイヤーに関する先行技術として特許文献1〜3が挙げられる。
【0003】
特許文献1は、金属銅ペプチド脂質からなる銅ペプチドファイバーを化学還元処理することで、直径10〜20nm、平均長さ1μm以上の銅ワイヤー粒子を製造する方法を開示している。しかし、実施例で得られているのは長さ数百μm程度の短いワイヤーである。
【0004】
特許文献2は、金属銅を蒸発させ、モリブデン基板上に析出させることで、銅ワイヤーを製造する方法を開示している。しかし、特許文献2に記載の方法は、銅を蒸発させるために真空中にて800℃程度の加熱が必要である。また得られているワイヤーは、長さ2
0μm以下の短いものである。
【0005】
特許文献3は、複数の中空チャンネル(直径1〜100nm、長さ100nm〜1mm)を有する金属酸化物等からなるテンプレート中に、銅粒子を析出させ、テンプレートをエッチングにより除去することでナノワイヤーを製造する方法が開示されている。しかし、事前にテンプレートの作製を必要とすることから工程が煩雑となる。
【0006】
以上のとおり、これらの特許文献に記載されているナノワイヤーは、何れも、ワイヤー長が短く、例えば、ナノワイヤーを用いて目的の配線を構築する場合、加工性の点で問題が残る。またワイヤー長が短いとナノワイヤーをフィラーとして用いる場合、嵩密度が高くなる。このようにナノワイヤーとしては、よりワイヤー長の長いものが求められている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−266007号公報
【特許文献2】特開2004−263318号公報
【特許文献3】特開2007−276105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、細くて非常に長い超微細金属線状体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一方向に延び、太さが20〜1000nmである超微細金属線状体であって、該線状体は、自在に屈曲するのに足る十分な長さを有することを特徴とする超微細金属線状体を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記超微細金属線状体の綿状集合体からなり、圧縮回復性を有することを特徴とする金属綿状体を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、超微細金属線状体の製造方法であって、前記金属のイオンを含む非水電解液中で、該金属イオンを電解還元することを特徴とする超微細金属線状体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細くて非常に長い超微細金属線状体を提供することができる。また細くて非常に長い超微細金属線状体を電解還元という簡便な方法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の金属線状体は、一方向に延びた線状体である。線状体が一方向に延びる状態は、該線状体の観察時の状態によって様々である。例えば、線状体は、直線状に、又は曲線状に蛇行しながら一方向に延びている。この線状体は、非常に細いにもかかわらず、その長さが非常に長いことによって特徴づけられる。具体的には、線状体は、その太さが20〜1000nm、好ましくは40〜400nm、更に好ましくは50〜100nmという非常に細いものである。該金属線状体は、太さがナノスケールのものであるにもかかわらず自在に屈曲するに足る十分な長さを有する。前記金属線状体が自在に屈曲するに足る十分な長さとしては、線状体の材質及び太さにもよるが、好ましくは5mm以上、更に好ましくは1cm以上である。また、アスペクト比(線状体の長さ[m]/線状体の太さ[m])が好ましくは50000以上、更に好ましくは200000以上である。前記金属線状体の太さは、電子顕微鏡による観察によって測定される。その長さは、電子顕微鏡写真をパノラマ的につなげることによって測定される。また1cm以上の長い線状体に関しては、ものさし等を用いて測定することもできる。
【0014】
本発明の金属線状体は、太さがその全長にわたりほぼ一様である形態や、略球状の多数の金属微粒子が数珠状に連結した形態をとり得る。どのような形態の線状体となすかは、該線状体の具体的な用途に応じ適宜選択できる。
【0015】
本発明の金属線状体は、前述の通り一方向に延びた線状体であるところ、この金属線状体は、一方向に延びる主鎖部と該主鎖部の途中から枝分かれした枝分かれ構造を有していてもよく、或いは有していなくてもよい。線状体の集合体が綿状の嵩高い構造を呈する観点からは、線状体は、一又は二以上の枝分かれ部を有していることが好ましい。金属線状体が枝分かれ部を有している場合、枝分かれの前後の部位における太さは実質的に同一であることが線状体の集合体が綿状の嵩高い構造を一層呈しやすくなる観点から好ましい。金属線状体が枝分かれ部を有する場合、該線状体の長さとは、金属線状体全体の間で、一筆書きの考え方で最も長いと確認されたものの長さをいう。
【0016】
金属線状体は、一本一本を単独で用いることもでき、また複数の線状体の集合体として用いることもできる。集合体として用いる場合、複数の線状体が一方向に引きそろえられた状態として用いることができる。また複数の線状体がランダムに絡み合った綿状集合体からなる金属綿状体として用いることもできる。後者の金属綿状体は、それを構成する線状体が非常に細いにもかかわらず、嵩高く、且つ圧縮回復性を有するという特異な性質を示すものであることが、本発明者らの検討の結果判明した。この理由は、太さに対して十分に大きな長さを有しているからであると本発明者らは考えている。金属綿状体の嵩密度の程度は、好ましくは0.01〜2g/cm3、より好ましくは0.05〜1g/cm3という低いものである。一方圧縮回復性の程度は、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上である。金属綿状体の嵩密度は、JIS Z2512のタップ密度の測定方法に準じて測定される。またその圧縮回復性の程度は、前記タップ密度を測定した直後の状態の金属綿状体をそのまま40%の厚みまで圧縮し、力を解放した後の厚みを測ることにより測定される。圧縮回復性の程度は、JIS L1096に基づき以下の式により求められる。
【0017】
【数1】

【0018】
このような特徴を有する超微細金属線状体によれば、従来のナノワイヤーでは不十分であった加工性の改善、嵩密度の低減等を実現できる。また、本発明の金属線状体を、フィラーとして樹脂中に含有させてなる樹脂成形体は、該金属線状体と同種の金属からなる粒子を同重量含有させてなる樹脂成形体に比べて熱伝導性及び導電性が向上したものとなる。この樹脂成形体の熱伝導性及び導電性は、該樹脂成形体に金属線状体及び該金属線状体と同種の金属からなる粒子の双方を含有させることで一層向上する。従って本発明の超微細金属線状体は、例えば、接点材料、熱伝導剤フィラー、バイオセンサー電極、キャパシタ電極、インク材料、光学材料、ガスセンサー、光触媒の集電体、太陽電池の集電体等の種々の用途に有用である。
【0019】
以上のような形態を有する前記金属線状体を構成する金属としては、各種の遷移金属、例えば、銅、コバルト、銀、鉄、ニッケル、亜鉛、鉛、スズ、白金、金、パラジウム等及びこれらの金属を一種又は二種以上含む合金(例えば、銅合金、ニッケル合金、鉄合金等)が挙げられる。
【0020】
次に、本発明の超微細金属線状体の製造方法を、その好ましい一実施態様について、図1を参照しながら説明する。本製造方法は、ナノワイヤーの製造方法として従来行われていた方法に比べて簡便な方法である電解還元法を採用したことによって特徴付けられる。また電解還元を非水電解液中で行うことによっても特徴付けられる。具体的には、金属のイオンを含む非水電解液中で、金属のイオンを電解還元する方法を採用することによって目的とする超微細金属線状体を得ることができる。
【0021】
図1には、電解還元を行うための装置の一例及び電解還元による金属線状体の形成メカニズムが模式的に示されている。この装置10は、カソード11、アノード12、非水電解液等の溶液を収容し得る容器13、攪拌子14並びにカソード11及びアノード12に通電するための電源(図示していない)を備えている。容器13中に収容されている溶液は、有機相20及び水相21からなる二相系である。有機相20は非水電解液を含む。同図においては、有機相20が上層に位置し、水相21が下層に位置している。有機相20の比重が水相21よりも重い場合、有機相20と水相21の上下の位置が逆転する。
【0022】
カソード11は、有機相20中に配置され、アノード12は、水相21中に配置されている。アノード12は、有機相20中での通電を防ぐため絶縁性のスリーブ15を通して水相21中に配置される。カソード11としては、電解還元する金属のイオンMm(但し、Mは金属種を示し、mは金属のイオンの電荷を示す。)と同種の金属又は金属合金をはじめ、白金等の導電性のある全ての金属又は金属合金を用いることが可能である。アノード12としては、電解還元する金属のイオンMmと同種の金属を用いることが、金属のイオンMmの供給の観点から好ましいが、その他の導電性を有する金属又は金属合金を用いることも可能である。カソード11は、以下に述べる金属線状体の形成メカニズムを考慮すると、線材であることが好ましい。特に該線材の先端部をアノード12に対向するように配置すると細くて非常に長い線状体を得る上で有利となる。
【0023】
以上の構成を有する装置10を用いた金属線状体の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、(A)水相21及び有機相20の準備工程と、(B)水相21から有機相20中に抽出された金属のイオンMmの電解還元工程を含む。
【0024】
(A)工程
先ず、水相21として、金属のイオンMmを含む酸性水溶液を用意する。金属のイオンMmの電解還元は、該金属のイオンMmを、有機相20(非水電解液)中で安定な錯体の状態で、該非水電解液中に存在させた状態下に電解還元することが好ましいことから、該金属のイオンMmを有機相20中で安定な錯体の状態とするために、該酸性水溶液中にさらに該金属のイオンMmの錯化剤及び水溶性塩を添加することが好ましい。該錯化剤及び水溶性塩が添加された酸性水溶液中では、金属のイオンMmと錯化剤とから錯体〔Mmx〕(但し、Lは配位子を示し、xは配位数を示す。)が形成される。該錯体は、水溶性塩から形成される対イオンにより電気的に中性な電荷中和体〔Mmxs〔Yntとなる。ここで、Yは錯体〔Mmx〕の対イオンを示し、nは対イオンの電荷を示し、sは対イオンと電気的に中性となる金属のイオンの個数を示し、tは錯体と電気的に中性となる対イオンの個数を示す。尚、錯化剤及び有機相20の種類によっては、錯化剤は有機相20に存在することもある。
【0025】
水相21とは別に、有機相20として、非水電解液を用意する。該非水電解液としては、水相21と混和しないものであれば特に制限なく用いることができる。有機相20には、電導性を調整するために支持塩を添加してもよい。
【0026】
用意した水相21及び有機相20を同一容器13中に入れて、攪拌子14を用いて攪拌する。その場合の水相21と有機相20との体積比率は、有機相20中の金属錯体の濃度を高く維持する観点、及び有機相20の水相21への溶解性の観点から、1:2〜10:1が好ましく,1:1〜4:1がより好ましい。この攪拌により、金属のイオンMmは電荷中和体〔Mmxs〔Yntとして水相21から有機相20へ連続的に抽出される。
【0027】
前記金属のイオンMmとしては、例えば、銅(I)イオン、銅(II)イオン、コバルト(II)イオン、コバルト(III)イオン、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン、ニッケル(II)イオン、亜鉛(II)イオン、鉛(II)イオン、スズ(II)イオン、スズ(IV)イオン、白金(II)イオン、白金(IV)イオン、銀(I)イオン、金(I)イオン、金(III)イオン、パラジウム(II)イオン等が用いられる。水相21中におけるこれらの金属のイオンMmの濃度は、有機相20中での金属錯体の溶解度を考慮すると、0.01〜1mol/lが好ましく、0.02〜0.5mol/lがより好ましい。
【0028】
水相21を酸性にするために、該水相21中に硫酸、硝酸、塩酸等の鉱酸を添加することが好ましい。水相21を酸性にする理由は、金属錯体イオンの溶解度を高め、金属のイオンMmが沈殿しないようにするためである。この水相21はpH3以下であることが好ましい。このpHは線状体の製造時の温度のものである。
【0029】
前記錯化剤としては、用意する金属のイオンMmと錯体を形成し、且つ該錯体が有機相20中に安定に存在し得るものであれば特に制限されない。例えば、アセトニトリル、アセチルアセトン、ヨウ化カリウム、8−キノリノール等が挙げられる。水相21中における錯化剤の濃度は、錯形成定数と錯化剤の溶解度を考慮すると、0.05〜5mol/lが好ましく、0.1〜3mol/lがより好ましい。
【0030】
前記水溶性塩としては、アルカリ金属塩や、アルカリ土類金属塩を用いることができる。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、フッ化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。水相21中における水溶性塩の濃度は、水相21中の金属錯体の濃度とのバランスの観点から、0.005〜2mol/lが好ましく、0.01〜1mol/lがより好ましい。
【0031】
有機相20として用いられる前記非水電解液としては、上述した電荷中和体〔Mmxs〔Yntの溶解が可能で、かつ低電導性である非水電解液が好ましい。例えば、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチル、クロロホルム、四塩化炭素、ベンゼン等が挙げられる。
【0032】
前記非水電解液に添加される支持塩としては、過塩素酸テトラブチルアンモニウム(TBAP)、テトラフルオロホウ酸テトラ−n−ブチルアンモニウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。非水電解液中における支持塩の濃度は、支持塩の種類にもよるが、一般には、0.1〜100mmol/lが好ましく、0.2〜50mmol/lがより好ましい.
【0033】
(B)工程
本工程では、水相21から有機相20へ抽出された電荷中和体〔Mmxs〔Yntを有機相20中で電解還元する。なお、本工程及び上述の(A)工程は、定常状態においては逐次的に進行するものではなく、時間的先後なく同時に進行する。電解還元は攪拌子14で水相21及び有機相20を攪拌させながら行う。攪拌は、水相21及び有機相20が上下に二相分離した状態を保ち、O/Wや、W/Oエマルジョンが形成されない程度の穏やかな条件下に行うことが好ましい。電解還元の方法に特に制限はなく、例えば、定電位電解、極間電圧制御及び定電流電解の何れの方法によっても金属線状体の製造は可能である。線状体の成長点の電気化学反応を安定化させる観点から、定電位電解で還元を実施することが好ましい。定電位電解する場合、非水溶媒系参照電極(Ag/Ag+)に対し、カソードの電位が−0.5〜−3.0Vとなるように調整することが好ましい。
【0034】
有機相20において、金属のイオンMmの還元による電荷中和体〔Mmxs〔Yntの分解で生じた錯化剤は、有機相20から水相21へ戻り、水相21中で再び錯体を形成するのに使用される。即ち、錯化剤は電解還元によっては消費されない。
【0035】
金属のイオンMmの電解還元を非水電解液中で行うことにより、細くて非常に長い金属線状体の製造が可能となるメカニズムを、本発明者らは以下のように考えている。
【0036】
電解還元を非水電解液中で行うと、該電解液の液抵抗が極めて高いため、カソード11のうちできるだけ液抵抗が小さくなる部位、特に対極であるアノード12に最も近い部位であるカソード11の先端部に電流が集中する。この先端部を起点として還元が進行し、還元された金属の微粒子が生成する。そして、生成した微粒子の先端が新たな活性点となり、その活性点を起点として次の微粒子が生成する。この繰り返しによって微粒子が数珠状に連なり線状体が成長していく。そのため金属のイオンMmの還元が一ヶ所のみで生じ、還元が進行しても活性点が一ヶ所のみに維持される。その結果、細くて非常に長い金属線状体の製造が可能となる。電解還元を行う相として有機相20を採用した理由は、水相21では低電導状態を維持できないからである。更に加えて、有機相20で電解還元を行うと、それによって生じた結晶においては、結晶面による結晶の成長の差が顕著となり、それに起因して特定の結晶面の成長が優先的に起こり、線状体を得ることが容易になるからである。
【0037】
上述の方法により製造された金属線状体は、以下に説明するような操作を行うことにより様々な形態のものとすることができる。
【0038】
例えば、一本一本の長尺体を単独で得る場合には、目的とする線状体1本の太さと同等の太さのカソード11を用いて電解還元しながら、生成した金属線状体をゆっくりと有機相20中から引き上げ乾燥するという操作を行えばよい。金属線状体の途中に枝分かれした枝分かれ部を設ける場合には、カソード11を上下又は左右に軽く振動させたり、振り子状に軽く揺動させて振動を与えたりすればよい。これらの操作によって、成長途中にある線状体が蛇行して屈曲し、その屈曲部が、線状体の先端部よりもアノード12に近接する状態が生じる。そのような状態の場合には、その屈曲部が還元の活性点となり、その活性点から新たな成長が起こる。その結果、枝分かれ部が形成される。枝分かれ部の形成においては、カソード11を振動させることに代えて、あるいはそれに加えて、有機相20及び水相21が混ざり合わないことを条件として、これらの液相に振動を与えても、同様の目的が達成される。
【0039】
複数の線状体が一方向に引きそろえられた状態の集合体を得る場合には、多数の針状部が基板部上に立設された剣山状のカソード11を使用し、該カソード11における針状部の先端がアノード12に対向するように該カソード11を配置して電解還元を行い、生成した複数の金属線状体をゆっくりと有機相20中から引き上げ乾燥するという操作を行えばよい。
【0040】
複数の線状体がランダムに絡み合った集合体である金属綿状体を得る場合には、電解還元中にカソード11を軸まわりに強く回転させ、線状体を生成させながら、これをカソード11に絡みつければよい。あるいは、電解還元中はカソード11を回転させず、還元後にカソード11を回転させて線状体を絡みつければよい。カソード11を回転させることに代えて、又はそれに加えて、電解還元中に若しくは還元後に少なくとも有機相20を攪拌することでも(例えば、容器13の回転や、攪拌翼による有機相20の攪拌等)、同様の目的が達成される。いずれの場合においても、絡め取った綿状体集合体を回収し、乾燥することで、目的とする綿状体が得られる。
【0041】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、前記の方法においては水相21及び有機相20の二相を用い水相21から有機相20へ金属のイオンMmを抽出させたが、これに代えて水溶液及びイオン性液体の2相からなる水相21と有機相20とからなる三相を用いて電解を行ってもよい。あるいは、クラウンエーテル等のような有機相20に直接金属のイオンMmを存在させられる溶媒を用いる場合には、水相21を用いず有機相20のみで電解を行ってもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
ビーカー中に、酸化銅(I)0.72g、64wt%硫酸7.5ml、アセトニトリル
8.6ml、塩化ナトリウム1g及び純水を投入し十分に攪拌して、銅(I)アセトニトリル錯体〔Mmx〕と塩化物イオン〔Yn〕とからなる電荷中和体〔Mmxs〔Yntを含む90mlの水相21を得た。尚、水相21の液温は、25℃であった。
【0044】
前記水相とは別に、ビーカー中に、非水電解液としてMIBK90ml及び支持塩としてTBAP0.05gを投入し十分に攪拌して低電導性の非水電解液からなる有機相20を得た。
【0045】
図1に示すように、ビーカー13に、カソード11として白金電極、アノード12として銅電極、及び攪拌子14をセットした。尚、アノード12は絶縁性のスリーブ15を通してセットした。このビーカー13中に、前記水相21及び前記有機相20を同体積で投入し、攪拌子14で穏やかに攪拌しながら定電位電解により電解還元を行った。電解還元は、非水溶媒系参照電極(Ag/Ag+)に対して、−1.5Vの電位で行った。電解還元により生成した複数本の線状体を、ゆっくりと有機相20中から引き上げ乾燥することにより、それらが一方向に引きそろえられた集合体を得た。得られた集合体から銅線状体の一部を取り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。図2(a)及び(b)は、その銅金属線状体のSEM像である。図2(a)から、得られた集合体においては、各線状体が一方向に延びていることが認められた。また図2(a)を拡大した図2(b)から、銅線状体は、一方向に延びる主鎖部の途中から枝分かれした枝分かれ部を有しており、枝分かれの前後の部位における太さが実質的に同一となっていることが認められた。得られた銅線状体の太さをSEMによって測定したところ50nm程度であった。またその長さをものさしを用いて測定したところ5cm程度であった。またそのアスペクト比は1000000であった。
【0046】
〔性能評価〕
得られた銅線状体の集合体について以下の方法で低温融着性を評価した。また該集合体を含む樹脂について、以下の方法で熱伝導率及び抵抗値を測定した。それらの結果を以下の表1及び表2に示す。
【0047】
〔低温融着性の評価〕
銅線状体の集合体4mgを400℃で、窒素雰囲気下、4時間焼成し、焼成前及び焼成後における該集合体中の銅線状体の様子をSEMにより観察した。図3(a)及び(b)は焼成前のSEM像であり、図3(c)及び(d)は焼成後のSEM像である。
【0048】
〔熱伝導率λの測定〕
(1)サンプルの調製
本発明品1として、酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(固形分55wt%)240mgに対し、銅線状体の集合体60mg及び銅粒子(直径10μm程度)300mgを配合し、この配合物を型枠に流し込み固化させ、幅10mm×長さ10mm×厚み(L1)0.63mmのサンプルを調製した。本発明品1中における銅線状体の集合体及び銅粒子の体積を嵩密度と重量から求めたところ、銅線状体の集合体が3vol%であり、銅粒子が13vol%であった。また、比較品1として、酢酸ビニル系樹脂600mgから、上記本発明品1と同様にしてサンプルを調製した。更に、比較品2として、酢酸ビニル系樹脂エマルジョン240mgに対し、銅粒子(直径10μm程度)360mgを配合し、上記本発明品1と同様にしてサンプルを調製した。本発明品1と同様にして、比較品2中における銅粒子の体積を求めたところ、16vol%であった。
(2)熱伝導率λの測定方法
調製した各サンプルの熱伝導率λを、温度傾斜法により求めた。図4(a)には、温度傾斜法によって熱伝導率λを求めるための装置31が示されている。装置31は、サンプル32の上下に配置される銅棒33、加熱用ヒーター35及び熱電対(図示せず)から構成されている。図4に基づき具体的に説明すると、サンプル32の上下に配置される銅棒として、長さ(W)150mm、直径(R)10mmの銅棒を一対用意する。この一対の銅棒には、図4(b)に示すように、軸方向と直交する方向に延びる直径(w1)1.2mmで、深さ(d)6mmの測温用孔34を、軸方向に沿って10mm間隔(w2)で設けておく。測温用孔34には、温度測定用の熱電対(図示せず)を差し込んでおく。下に配置した銅棒の下面には、ヒーター35を備えておく。このような一対の銅棒を、図4(a)に示すように、上下に配置し、その間にサンプル32を挟み、下に配置した銅棒33の下面をヒーター35で加熱した。加熱後、銅棒33内の温度を測温用孔34に差し込んだ熱電対により測定した。次に、図4(c)に示すように、縦軸を、測定した各銅棒33内の温度とし、横軸を、各温度の測定位置として、温度分布をプロットした。尚、横軸は、左に向かうほどヒーター35に近づき、右に向かうほどヒーター35から遠ざかることを意味する。上に配置した銅棒33内の温度傾斜と、下に配置した銅棒33内の温度傾斜を求めて得られる直線から、上に配置した銅棒33の下面とサンプル32の上面とが接触する位置における温度(θ1)と、下に配置した銅棒33の上面とサンプル32の下面とが接触する位置における温度(θ2)を求めて、これらの温度差(ΔT=θ2−θ1)を求めた。次にサンプル32の代わりに、標準試料として、既知の熱伝導率λr(=1.8W/mK)を持つシート((株)タイカ製:シート状熱伝導ゲル(COH−1002))を、一対の銅棒33の間に挟みこみ、サンプル32の場合と同様にして、標準試料の両端の温度差を測定した。この温度差を標準試料の厚みxで除して、標準試料の温度傾斜(dT/dx)rを求めた。以上のようにして求めた温度差(ΔT)、標準試料の熱伝導率(λr)、サンプルの厚さ(L1)及び標準試料の温度傾斜(dT/dx)rから、下記式によりサンプルの熱伝導率λを求めた。尚、熱伝導率λは、加熱開始から30分、60分及び90分経過後の温度をそれぞれ測定して得られる熱伝導率(λ30、λ60、λ90)の平均値(λ=(λ30+λ60+λ90)/3)とした。その結果を以下の表1に示す。
【0049】
【数2】

【0050】
〔抵抗値の測定〕
(1)サンプルの調製
本発明品2及び比較品3を、上述した熱伝導率λの測定方法と同様の手順によって調製した。得られたサンプルは、幅10mm×長さ10mm×厚み1mmであった。本発明品2中における銅線状体の集合体の体積は0.3vol%であり、銅粒子の体積は16vol%であった。また、比較品3中における銅粒子の体積は16vol%であった。
(2)抵抗値の測定方法
調製した各サンプルの抵抗値を、図5に示す装置41により測定した。装置41は、テスター44(CUSTOM製:CX−270N)、及び2枚のアルミ板43(幅10mm×長さ10mm×厚み1mm)から構成される。サンプル42を、2枚のアルミ板43の間に挟み込み、テスター44により抵抗値を測定した。その結果を以下の表2に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
焼成前の図3(a)及び(b)と焼成後の図3(c)及び(d)を対比から明らかなように、400℃という低温での焼成にも関わらず,集合体を構成する線状体同士の融着が生じていることが分かる。
【0054】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、フィラーとして本発明の金属線状体を、球状粒子と共に樹脂中に埋め込むことにより、フィラーとして球状粒子のみを樹脂中に埋め込んだ場合に比して、熱伝導性及び導電性の向上が確認された。
【0055】
〔実施例2〕
カソード11を軸周りに回転させながら、銅綿状集合体をカソード11に絡めとって回収した以外は実施例1と同様にして、複数本の線状体がランダムに絡み合った集合体からなる銅綿状体を得た。得られた銅綿状体について、嵩密度を上述の方法にて測定したところ0.11g/cm3であった。また圧縮回復性を上述の方法にて測定したところ67%であった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は超微細金属線状体の製造に用いられる装置及び製造過程を示す模式図である。
【図2】図2(a)は実施例1で得られた超微細金属線状体を示すSEM像である。また図2(b)は実施例1で得られた超微細金属線状体の拡大SEM像である。
【図3】図3(a)は実施例1で得られた超微細金属線状体の低温焼成前の外観を示すSEM像である。図3(b)は図3(a)に示すSEM像の拡大像である。図3(c)は実施例1で得られた超微細金属線状体の低温焼成後の外観を示すSEM像である。図3(d)は図3(c)に示すSEM像の拡大像である。
【図4】図4(a)は、熱伝導率の測定に用いた装置を示す模式図であり、図4(b)は、該装置のAに示す部分を拡大した模式図であり、図4(c)は、標準試料中における温度分布を模式的に示した図である。
【図5】図5は、抵抗値の測定に用いた装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0057】
10 製造装置
11 カソード
12 アノード
13 容器
14 攪拌子
15 スリーブ
20 有機相
21 水相
31 熱伝導率測定装置
32 サンプル
33 銅棒
34 測温用孔
35 ヒーター
41 抵抗測定装置
42 サンプル
43 アルミ板
44 テスター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延び、太さが20〜1000nmである超微細金属線状体であって、該線状体は、自在に屈曲するのに足る十分な長さを有することを特徴とする超微細金属線状体。
【請求項2】
一方向に延びる主鎖部と該主鎖部の途中から枝分かれした枝分かれ部を有し、枝分かれの前後の部位における太さが実質的に同一である請求項1記載の超微細金属線状体。
【請求項3】
長さが5mm以上である請求項1又は2記載の超微細金属線状体。
【請求項4】
前記金属が銅又は銅合金である請求項1乃至3の何れかに記載の超微細金属線状体。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の複数の超微細金属線状体がランダムに絡み合った綿状集合体からなり、圧縮回復性を有することを特徴とする金属綿状体。
【請求項6】
超微細金属線状体の製造方法であって、前記金属のイオンを含む非水電解液中で、該金属のイオンを電解還元することを特徴とする超微細金属線状体の製造方法。
【請求項7】
前記金属のイオンを、前記非水電解液中で安定な錯体の状態で、該非水電解液中に存在させた状態下に電解還元する請求項6記載の超微細金属線状体の製造方法。
【請求項8】
前記錯体と反対の電荷を有する対イオンで該錯体を水相中で電気的に中和して形成された電荷中和体を、水相から前記非水電解液中に連続的に抽出し、該非水電解液中に抽出された該電荷中和体中の前記金属のイオンを電解還元する請求項6又は7記載の超微細金属線状体の製造方法。
【請求項9】
カソードとして線材を用い、該線材の先端部をアノードに対向させた状態下に電解還元する請求項6乃至8の何れかに記載の超微細金属線状体の製造方法。
【請求項10】
一方向に延び、太さが20〜1000nmであって、自在に屈曲するのに足る十分な長さを有する前記金属線状体を製造するものである請求項6記載の超微細金属線状体の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−299103(P2009−299103A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152298(P2008−152298)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】