説明

超硬被膜を有する金型

【課題】 本発明は、耐酸化性および耐拡散性、高機械強度を有し、且つ、離型がし易い金型を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、ガラス成形品を製造するための金型であって、成形面を有するベースと、該成形面に被覆される超硬被膜を有する金型を提供する。該超硬被膜は、非晶質窒化炭素基材、及び該非晶窒化炭素基材中に分散される立方格子窒化炭素粒子を有する。金型は、非晶質窒化炭素の良好な潤滑性によって光学ガラス成形品と接着せずに離型し易くなり、立方格子窒化炭素粒子の極めて高い硬度によって成形面の機械強度を増加し、また、該超硬被膜は金型ベースの金属元素の拡散を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型に関し、特に、離型がし易い高硬度の金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金型は、例えば非球面レンズ、球面レンズ、プリズムなどの光学ガラス成形品の製造過程に広く使用されていて、押出成形法(Direct Press-molding)による光学ガラス成形品は、砂まき、研磨などの精製加工をする必要がなく、生産効率及び生産量が大幅に向上し、且つ生産品の品質が良好である。しかし、押出成形法は金型の化学安定性、耐熱衝撃性、機械強度、及び表面平滑度などにおいて、かなりの要求がされている。従って、該押出成形技術の発展は、主に金型の材料及びその製造技術の進歩により決まる。一般に、押出成形法に使用される金型においては、以下のようなことが要求されている。
(a)高温時に良好な剛性、耐機械衝撃強度、及び十分な硬度を有し、
(b)急激な加熱や冷却を行うような熱衝撃過程において、金型はうねりや変形を起こさず、
(c)高温成形時に金型の成形面は光学ガラスと化学反応をせず、また光学ガラスと接着することなく、
(d)高温時に酸化反応をせず、
(e)高精度、高表面平滑度の成形面を得ることが容易であり、
(f)コストが低い。
【0003】
一般に、従来技術ではステンレスまたは耐熱合金を金型の材料としており、これらの金型は高温で酸化し易く、急激な加熱または冷却を行うような熱衝撃によって晶粒が大きくなる。従って、金型の表面は粗雑化し、光学ガラスを接着してしまう。
【0004】
前記問題を解決するために、非金属及び超硬合金が金型の材料として使用されてきた。例えば、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)、チタンカーバイド(TiC)、タングステンカーバイド(WC)などが金型の製造に用いられている。しかし、前記炭化セラミックの硬度はかなり高く、例えば高精度な非球面等の所要の形状に加工し難い。また、超硬合金は、高温における一定時間の使用により酸化し易いものである。
【0005】
従って、炭化物または超硬合金からなる金型ベースと、該金型ベースの表面に形成されるメッキ膜または被膜とを含む複合金型が開発されている。例えば、特許文献1には、押出成形に用いられる光学ガラス成形品の複合金型が開示されており、そこでは、高強度の超硬合金及び炭化セラミック、金属セラミックを金型ベースとして、金型の成形面に(1)イリジウム(Ir)膜と、(2)白金(Pt)とレニウム(Re)とオスミウム(Os)とロジウム(Rh)とルテニウム(Ru)のうち少なくとも一つのものとイリジウムとからなる合金膜と、(3)ルテニウム膜と、(4)白金(Pt)とレニウム(Re)とオスミウム(Os)とロジウム(Rh)のうち少なくとも一つのものとルテニウムとからなる合金膜、のうち一つの膜が形成されている。
【0006】
しかし、上記の金型ベースにおいては、前記貴金属またはその合金の被覆膜を使用したので、金型のコストが増加し、さらに、炭化セラミックまたは金属セラミック材料からなる金型ベースの焼結過程において、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)などの金属元素を添加する必要があり、これらの金型は、一定時間の使用の後、その添加された金属元素が前記貴金属膜から金型の外表面に拡散されて原料ガラスと反応し、金型の精度及び成形品の品質に影響を与えることがある。
【0007】
また、プラズマCVD法(Plasma CVD)または熱CVD法(Thermal CVD)により炭化ケイ素または窒化ケイ素膜を形成することもできるが、これらの膜は400度の高温で光学ガラスの成形品が接着し易く、該成形品を離型するのが困難になる。
【特許文献1】米国特許第4685948号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐酸化性および耐拡散性、高機械強度を有し、且つ、離型がし易い金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題を解決するため、本発明は、所望の成形品に対応する成形面を有する金型ベースと、該成形面に被覆される超硬被膜を有する金型を提供する。
【0010】
前記金型ベースは、例えばSiC、Si、Si、ZrO、Al、TiN、TiO、TiC、BC、WC、W、WC−Coなどのセラミック、金属セラミックまたは超硬合金材料からなるものである。
【0011】
前記超硬合金は、窒化炭素を堆積してなるものであり、非晶質窒化炭素基材、及び該非晶質窒化炭素基材中に分布される立方格子窒化炭素粒子からなるものである。
非晶質窒化炭素は、立方格子窒化炭素粒子の分布用基材となる連続膜であり、該立方格子窒化炭素粒子は該非晶質炭窒化炭素基材中に離散するか部分的に連続して分布しており、且つ立方格子窒化炭素粒子の粒径はナノメートルオーダーである。
【0012】
前記超硬合金膜はプラズマCVD法により製造されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金型は、従来技術と比べて、金型ベースの高硬度表面に窒化炭素超硬被膜を形成することによって、成形する際に、該形成された非晶質窒化炭素の良好な潤滑性により光学ガラス成形品と接着せずに離型し易くなり、立方格子窒化炭素粒子の極めて高い硬度により成形面の機械強度を向上することができ、また、該超硬被膜は金型ベースの金属元素の拡散を防止し、ガラス成形品における不良要因が生じることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、図面を用いて本発明を詳しく説明する。
【0015】
図1を参照すると、本発明の第一実施例において、非球面光学レンズを成形するための金型10は金型ベース12、及び金型ベース12の成形面に形成される膜14を含む。金型ベース12は、例えばSiC、Si、Si、ZrO、Al、TiN、TiO、TiC、BC、WC、W、WC−Coなどのセラミック、金属セラミックまたは超硬合金材料を焼結して形成されている。金型ベース12の成形面は、所要の非球面光学成形品の形状に対応する非球面形状である。膜14は、金型ベース12の成形面に被覆され、非晶質窒化炭素16(Amorphous Carbon Nitride,a-CN)及び立方格子窒化炭素粒子17(Cubic Crystal Carbon Nitride,c-C34)を含む炭素材料を堆積して形成されている。非晶質窒化炭素16は、立方格子窒化炭素粒子17の分布用基材となる連続膜であり、立方格子窒化炭素粒子17は、膜14全体の10〜60%(モル百分率)で非晶質窒化炭素基材16全体に離散されるか、または部分的に連続して分布されるものである。立方格子窒化炭素17の粒径はナノメートルオーダーであり、5〜100nmが好ましい。膜14の厚さは1〜100μmである。
【0016】
勿論、本発明は、異なった形状及び用途を有する他の成形品を製造するための金型にも使用される。
【0017】
図2を参照すると、本発明の第二実施例において、平面光学ガラスを成形するための金型20は平滑な表面を有する金型ベース22、及び金型ベース22の成形面に形成される膜24を含む。金型ベース22は、例えばSiC、Si、Si、ZrO、Al、TiN、TiO、TiC、BC、WC、W、WC−Coなどのセラミック、金属セラミックまたは超硬合金材料を焼結して形成されている。膜24は非晶質窒化炭素26及び立方格子窒化炭素粒子27を含む炭素材料を堆積して形成されている。非晶質窒化炭素26は、立方格子窒化炭素粒子27の分布用基材とする連続膜であり、立方格子窒化炭素粒子27は、膜24全体の10〜60%(モル百分率)で非晶質窒化炭素基材26全体に離散されるか、または部分的に連続して分布されるものである。立方格子窒化炭素粒子27の粒径はナノメートルオーダーであり、5〜100nmが好ましい。膜14の厚さは1〜100μmである。
【0018】
前記両実施例において、金型ベース12及び22は焼結、または他の方法により加工して形成され、膜14及び24は例えばマイクロウエーブプラズマCVD法等のプラズマCVD法またはスパッタ法により堆積して形成されている。
【0019】
本発明の金型10(20)は、高硬度および高機械強度の金型ベース12(22)によって構成することで、高温成形過程による圧力及び応力に耐えることができる。金型ベース12(22)の成形面に被覆される膜14(24)は、より柔らかい非晶質窒化炭素16(26)、及び高硬度の立方格子窒化炭素粒子17(27)を含む酸化し難い炭素材料からなるものであり、その非晶質窒化炭素16(26)の炭素原子がsp混成軌道の構造であるので、よい潤滑性を有して離型し易くなる。高硬度および小粒径の立方格子窒化炭素粒子17(27)は、金型表面の機械強度及び精度を向上することができる。また、膜14(24)は金型ベース12(22)内の金属元素の拡散を防止し、ガラス成形品における不良要因が生じることを防止することができる。これによって、本発明の金型は、耐酸化性および耐拡散性、高機械強度を有し、且つ、離型がし易いという長所を有することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施例の非球面光学ガラス成形品を製造するための金型の概略構成図である。
【図2】本発明の第二実施例の平面光学ガラス成形品を製造するための金型の概略構成図である。
【符号の説明】
【0021】
10、20 金型
12、22 金型ベース
14、24 膜
16、26 非晶質窒化炭素
17、27 立方格子窒化炭素粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形面を有する金型ベースと、該成形面に被覆される超硬被膜とを備え、該超硬被膜は非晶質窒化炭素基材、及び該非晶質窒化炭素基材中に分布される立方格子窒化炭素粒子を有することを特徴とする超硬被膜を有する金型。
【請求項2】
前記超硬被膜の厚さは1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の超硬被膜を有する金型。
【請求項3】
前記立方格子窒化炭素粒子のモル百分率は10〜60%であることを特徴とする請求項1に記載の超硬被膜を有する金型。
【請求項4】
前記立方格子窒化炭素粒子の粒径はナノメートルオーダーであることを特徴とする請求項1に記載の超硬被膜を有する金型。
【請求項5】
前記立方格子窒化炭素粒子の粒径は5nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の超硬被膜を有する金型。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−44270(P2006−44270A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224611(P2005−224611)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(503023069)鴻富錦精密工業(深▲セン▼)有限公司 (399)
【出願人】(500080546)鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司 (1,018)
【Fターム(参考)】