説明

超親水性または超疎水性の生産物、その製造方法およびその生産物の使用

超親水性または超疎水性の物理的表面特性を有するこの生産物は、その表面上に、直接前記表面上にある構成層と、前記層上に被着した膜を被覆した基材を含む。この膜は連続性であり、前記表面の物理特性はその膜の性質によって付与され、被着される膜を受ける層の表面はナノメートルサイズのラフネスを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水または空気などの流体に関して自浄性のある、よごれ防止性(dirt-repellent)、非凝縮性または摺動性の特性を付与するための表面処理の分野に関する。
【0002】
本発明は、より具体的には、その外側表面が、超親水性または超疎水性の特性を増進させる被覆を有する生産物に関する。そうした被覆物を作製する方法にも関し、またその使用にも関する。
【0003】
本発明の文脈では、超疎水性とは、その上で水滴が表面に対して高い接触角、一般に150°を超える接触角を形成する表面の特性を意味する。定義によれば、接触角は、見かけの交点において2つの隣接界面によって形成される二面角である。この場合、その表面は、水に関して「非湿潤性」の特性を備えているといえる。この特性は通常「ロータス効果」と称される。
【0004】
逆に、超親水性表面は水に対して0°に近いかまたは測定不可能な接触角を有する。この場合、その表面は水に関して「湿潤性」の特性を備えている。
【0005】
本発明の技術分野は、さらに、ナノ構造材料と称される材料の分野と考えることができる。
【背景技術】
【0006】
一般に、親水性または疎水性の表面は、ナノメートルサイズのラフネスを有する基材上に、選択的に親水性または疎水性の膜を被着させる(depositing)ことによって得られる。実際に、表面のラフネスはその疎水性または親水性の特性を付与する。その結果、これらは、その撥水性(液体を流動させる傾向)およびその自浄特性または非凝縮特性を決定づける。Wilhelm Barthlottによって示されているように、ハスの葉は、その撥水性が、その表面にわたって分布した無数のミクロスフェアに起因する表面の例である。
【0007】
ミクロラフネスを有する表面の疎水特性は、低い表面湿潤性、したがって大きな接触角によって特徴付けられ、これは液体が、もっぱらこの表面のラフネスの頂点だけに留まるという事実によって説明される。逆に、表面の親水特性は、その高い湿潤性、したがってゼロに近い接触角によって特徴付けられ、これは液体が、この表面のラフネスに「なじむ(match)」という事実によって説明される。
【0008】
したがって、親水または疎水特性は、表面を構成化する(structuring)かまたは「テクスチャー加工する(texturing)」、すなわち、小さなサイズのラフネスをその中に生み出し、次いでこの表面上に親水性または疎水性の材料膜を被着させることによって得られる。材料にその親水または疎水特性を付与するのは膜である。テクスチャード加工表面はそれ自体が基材上に被着した一般に比較的薄い層であり、所望の用途の関連での使用に適した特性、特に機械的特性を有するのは、この基材である。
【0009】
したがって、フランス特許第A-2829406号は自浄性のある、よごれ防止性および/または非凝縮性の表面を作製するための方法を記載している。表面上にラフネスをもたらす構成化またはテクスチャー加工は、通常、フォトリソグラフィーか、またはマスクを介した金属の蒸発のいずれかによって実施される。次いで、親水性または疎水性の材料の膜を、予めテクスチャード加工したこの表面上に電子グラフト化によって被着させる。
【0010】
上記文献で述べられている方法は、ハスの葉の疎水性特性を再現する表面を作製する助けとなるが、それでもいくつかの欠点を有している。
【0011】
第1に、フォトリソグラフィー、またはマスクを介した金属の蒸発などの従来のテクスチャー加工法は、数ミクロンの範囲、せいぜい数百ナノメートルの大きさを有するラフネスの生成をもたらす。そうしたラフネスでは、過度に大きなラフネスが光の十分な透過(目に見える)を妨げるので、材料は、多くの用途で求められる光に対する透明性をもたない。
【0012】
さらに、そうした方法の実施には、多くのステップと複数の装置を必要とする。さらに、これらの多くのステップを、単一のチャンバー内で実施することはまったくできない。これが、この方法で実施するのに時間がかかり、かつコスト高となる理由である。
【0013】
フランス特許A-2864110号は、その上に疎水性ポリマー膜を被着させるか、または、テクスチャード加工表面を機能化させるための追加のステップを含む、ラフネスを構成するように設計されたカーボンナノチューブを作製する方法を教示している。しかし、この方法もまた、その用途が限られるという欠点を有している。
【0014】
実際、ナノチューブの作製には高い温度、一般に約600℃を必要とする。そのため、この方法は、ポリマーなどの熱感受性の基材を処理するのには適していない。したがって、これは、そうした方法によって作製される疎水性生産物の「耐熱性」基材のそれに適した用途への適用の可能性を限られたものにしている。
【0015】
本発明は、その外側表面は超疎水性または超親水性の特性を有するが、従来技術の方法の制約や欠点をもたない生産物を作製するための方法を提示するものである。本発明は、この方法で作製される生産物にも関する。
【特許文献1】フランス特許第A-2829406号
【特許文献2】フランス特許第A-2864110号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、熱感受性であってもなくても、任意のタイプの基材を被覆する用途を有している。実施するのが簡単であり、かつ比較的コストが安い本発明によって包含される方法は、具体的には、特に可視光に対して、処理された表面の十分な透明性を保持する働きをする。これらの表面は、撥水性、よごれ防止性および/または非凝縮性の特性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明は第1に表面物理特性、本発明の場合、超親水性または超疎水性を有する生産物に関する。この生産物は、その表面上を、この表面上に加えられた構成層とこの層の上に被着させた膜で被覆した基材を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明によれば、
・ 膜は連続性であり、
・ 前記表面の物理特性は膜の性質により付与されており、
・ 被着される膜を受ける層の表面はナノメートルサイズのラフネスを有する。
【0019】
したがって、得られる生産物は、特に光に対して透明である。
【0020】
すなわち、本発明による生産物は連続して基材、中間層および機能化膜を有する。層と膜がナノメートルサイズのラフネスを有するので、層と膜の組合せは透明である。さらに、ラフネスで表面を構成化させたのと相まった膜の性質により、選択的に超親水特性または超疎水特性である物理特性が表面に付与される。
【0021】
本発明の有利な実施形態によれば、被覆に関与する層は、様々な割合でケイ素および/または炭素と一緒に水素を含むことができる。これらの材料は、不均一に反応してエッチングをもたらす特徴を有している。
【0022】
実際、層の厚さは50nm〜300nmであってよく、前記ラフネスは50nmより小さい大きさを有することができる。すなわち、ラフネスは「峰」と「谷」を有し、その峰と谷との間隔は約50nmである。そうした大きさは、実際、処理前の基材の透明さに近い透明性を有する生産物を得る助けとなる。
【0023】
本発明の特定の実施形態によれば、その膜は、フルオロカーボンポリマーおよびポリシロキサンを含む群から選択される化合物からなることができる。そうした膜は、生産物を超疎水性にするのに適した特性を有している。
【0024】
本発明の他の特定の実施形態によれば、その膜は、前記生産物を超親水性にするために、シリカ、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、ポリオール、ポリイミン、変性ポリシロキサン(例えば、酸素雰囲気下でのUVまたはプラズマ処理によって)、ヒドロキシルまたはカルボキシルラジカルを有する分子を含む群から選択される化合物からなることができる。
【0025】
本発明の特定の実施形態によれば、生産物を構成する材料のうちの少なくとも1つは熱感受性であってよい。すなわち、基材、層および/または膜は熱可塑性かまたは熱硬化性である。すなわち、これらは、高い温度上昇の際に特性のゆがみまたは変化を受ける。したがって、生産物はプラスチックからなることができる。
【0026】
本発明の特定の実施形態によれば、基材はガラスまたはポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる。そうした材料はそうした透明性を有しているため、生産物自体も比較的高い透明性を有することができる。
【0027】
さらに、本発明は、基材を含む、超親水性または超疎水性の表面物理特性を有する、生産物を作製するための方法にも関する。本発明によれば、その方法は一連の、
- 層をその基材の外側表面に加えるステップと、
- その基材に加えられた層の外側表面にラフネスを生じさせるステップと、
- 構成化されたその層の表面に連続膜を被着させるステップであって、その性質が、作製された被覆上に所望の超親水性または超疎水性の特性を付与するステップと
を含み、
そのラフネスがナノメートルサイズの大きさを有し、それによってその被覆が透明性特性を有する方法である。
【0028】
すなわち、本発明によって包含されるこの方法は、中間ナノメートルサイズの層を基材上に被着させ、続いて、この層を機能化させるためにナノメートルサイズの膜を被着させることを含む。層と膜がナノメートルサイズのラフネスを有するので被覆の透明性が保持される。さらに、基材も透明である場合、完全に透明な生産物が得られる。さらに、ラフネスによる表面の構成化と相まった膜の性質により、特定の表面物理特性、すなわち選択的に超親水または超疎水である特性が付与される。
【0029】
本発明の有利な実施形態によれば、この方法のステップのすべてを、プラズマ化学気相成長(PECVD)チャンバーの中で実施することができる。これによって、手順が簡単になり、必要な装置が最小化され、したがって製造コストと製造期間が最小化される。
【0030】
実際、その層は真空蒸着技術により作製される。これは、生産物の表面テクスチャーの欠陥をもたらし多くの点で性能の低下をもたらす粉塵などの不純物の存在を回避する働きをする。
【0031】
本発明の有利な実施形態によれば、ラフネスはプラズマエッチングによって作られる。すなわち、中間層の表面を構成化するかまたはテクスチャー加工するために、その表面を、好ましくはその原子のいくらかとその構造物のいくらかを攻撃するプラズマで「爆撃し」、それによってナノラフネスを発生させる。
【0032】
実際には、膜を、プラズマ化学気相成長法、電子的グラフト化法(電子グラフト化法)、およびポリマー溶液の被着に続いて溶液から溶媒を蒸発させる方法を含む群から選択される方法によって被着させることができる。したがって、これらの様々な方法は、中間層の表面上に連続した膜を被着させる助けとなる。
【0033】
本発明は、透明なよごれ防止性または非凝縮性の表面を必要とする用途のための上記生産物の使用にも関する。一般に、これらの生産物は、よごれ防止型家庭用窓類、よごれ防止性メガネレンズ、非凝縮性潜水用マスク、ヘッドライトなどの照明装置のよごれ防止性光学部品、撥水性の内側と自浄式の外側を有する自動車用または飛行機用窓類、よごれ防止型太陽電池パネル、ピトー管または温度プローブなどのよごれ防止型センサーおよび測定装置、洗面器、シャワー、自浄式トイレのものなどのよごれ防止性衛生用表面物、レーダー用または衛星放送テレビ用などのよごれ防止型表面アンテナ、よごれ防止性の装飾用金属構造物、食肉処理場、肉屋、豚肉屋、病院、調理場のものなどのよごれ防止性を有する種々の工業用表面物、よごれ防止性で非凝縮性の飛行機翼、ならびに内容物を100%受け入れるための非凝縮性瓶のものなどの流体容器の内壁を含む。
【0034】
さらに、本発明は、透明であり、かつ流体に関して摺動性のある表面を必要とする用途のための上記したような生産物の使用に関する。そうした表面は、例えばスキー用基材、空気力学または流体力学的部品を含む。
【0035】
透明な基材(この場合、ガラスまたはポリメチルメタクリレート(PMMA)のプラックである)を、プラズマ化学気相成長(PECVD)チャンバーの板の上に平に置く。
【0036】
この基材は、例えば家庭でのつや出し加工のような所定の用途に属する生産物の使用に適した機械的特性を有する。本発明の文脈では、透明であるとは、一般に認識されているように、可視光に対して透明であることを意味する。基材は、同時に赤外光などの他の光線に対して透明である可能性があることは明らかである。
【0037】
本発明の実施形態の1つによれば、この方法のステップのすべてが、同じチャンバー内で実施される。これは、手順を簡単にし、必要な装置を最小化し、したがって製造コストと製造期間を最小化する助けとなる。逆に、従来技術の方法は、単一のチャンバー内ですべてを実施することはできず、したがって、より多くの装置と取扱作業を必要とし、かつ、それに応じたコストと破損または損傷のリスクの増大を伴うことになる。
【0038】
チャンバーの板から所定の距離、約5cmに低周波分極電極を取り付ける。それ自体は既知である方法において、この電極は、必要に応じて、チャンバー中に存在するガスを分極させることによってプラズマを発生させる働きをする。
【0039】
本発明に包含される方法の最初に、本発明の生産物を作製するために、低真空ポンプで、チャンバー中の圧力を5mbrにする。これは、最終生産物の表面の物理特性を低下させる恐れのある粉塵や不純物をチャンバーから除去する働きをする。
【0040】
次いで、35ml/分の速度のモノシランガス(SiH4)と一緒に、ヘリウムガス(He)を1l/分の速度でチャンバー中に導入する。同時に、基材を、100W発電機を用いて得られたプラズマに5分間曝露させる。本発明の1つの特徴によれば、この仕方で、ガラスまたはポリメチルメタクリレート(PMMA)のプラックを、ケイ素200nmの厚さ、したがって50nm〜300nmの厚さの層で被覆する。
【0041】
そうした層は、当業者に知られている任意の他の手段により、この透明な基材上に加えることもできる。別の種類のガスを用いるのであれば、それと異なるように構成することもできる。
【0042】
この方法の第2のステップは、基材に加えられた層の外側表面上にラフネスを発生させることができる。このために、この層上でエッチングステップを実施する。本発明の1つの特徴によれば、このエッチングステップは、電磁場によりガスイオン化したプラズマを用いて実施する。本明細書で選択した実施例では、用いるガスはアルゴン(Ar)および四フッ化炭素(CF4)である。これらのガスを、1mbrの圧力下、0.6l/分の速度でチャンバー内に導入する。電磁場を発生させる電力は約100Wで5分間である。あるいは、プラズマは、酸素、ヘリウム等をもとにすることができ、このプラズマの役割は、それを構成化またはテクスチャー加工してナノラフネスを発生させるようにするために、中間層の表面の原子を「攻撃する」、「離脱させる」または「侵食する」ことである。
【0043】
中間層の外側表面上にナノメートルサイズの大きさを有するラフネスが形成されるのは、このナノテクスチャー加工またはナノ構成化のステップの際である。このステップの最後で、中間ケイ素層は50nmの厚さを有し、ナノラフネスは約20nmの大きさである。したがって、本発明の1つの特徴によれば、ナノラフネスは「峰」と「谷」を有し、これらの峰と谷の間隔は50nm未満のサイズである。
【0044】
プラズマは、基材全体にわたって等方向に分布しているので、ナノラフネスは、中間層の外側表面全体に均一に分布している。エッチングステップの間にその厚みの一部を失うので、この中間層は「犠牲的である」と見なすこともできる。実際、その厚さは200nmから50nmに減少する。
【0045】
本発明が包含する方法の1つの特徴によれば、第3のステップは、層の表面に被着し、それによって、被覆上に所望の超親水特性または超疎水特性を付与するのに適したタイプの連続した膜を構成化することである。本発明の実施形態を説明するために選択した実施例では、所望の特性は超疎水特性である。しかし、本発明の範囲を逸脱することなく、逆に生産物に超親水特性を付与することができる。
【0046】
そうするために、疎水性であるシロキサンの膜が作製される。このためにチャンバー中に、前駆体のジメチルテトラシロキサンをガスの形態で、1mbrの圧力下、50ml/分の速度で導入し、同時にヘリウムガスを500ml/分の速度で導入する。この操作は、200Wの発電装置で25秒間、プラズマをかけて実施する。
【0047】
したがって、生産物を疎水性にするのに適した連続膜を、予め構成化した中間層上に被着させる。選択した実施例では、疎水性膜はポリシロキサンからなる。あるいは、この膜は、フルオロカーボンポリマーから選択される化合物からなっていてよい。
【0048】
逆に、超親水性生産物を作製するためには、親水性化合物を選択して膜を作製しなければならない。親水性膜は多く存在し、必ずしも水溶性であることなく(これらは水を吸収しない)、親水性機能を保持するという特徴を有する。
【0049】
ナノラフネスを有する中間層上に均一に膜が被着するので、膜自体がナノラフネスを有することになる。これらのナノラフネスとこの疎水性膜が累積的に存在することにより、最終生産物上に超疎水特性が付与される。したがって、本発明の方法により得られる生産物の外側表面上に水滴が被着した場合、この表面は、この水滴に対して約160°の接触角を有し、約8°のヒステリシスを有する。
【0050】
本来知られている方法では、接触角は局部的に測定される。これは、固液(膜-液滴)界面内に引かれた線上での液滴の包絡面の接線によって、固体(膜)の表面を横断する平面内に形成される角度を表す。この線は明らかに、固液界面で形成される表面の平均的は方向を表す。さらに、ヒステリシスは、液滴を動かした場合の液滴の前後での接触角間の偏差を表す。
【0051】
ここでは例として水の場合を挙げたが、本発明に包含される生産物は、油などの他の流体でも同様の反応を示すことになろう。したがって、本発明の方法により得られる生産物の表面は疎油性の特性も有する。原理的に、親水性表面は、水が基材を完全に湿潤させるため、水滴の接触角がゼロになり測定不可能となることを特徴としている。
【0052】
超疎水特性は、本発明の関連における特定の表面物理特性の1つである。しかし、本発明の生産物の1つの特徴によれば、生産物上に逆に超親水特性を付与することが望ましいことがある。本発明によれば、本発明の第3のステップの際に被着される膜は、シリカ、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、ポリオール、ポリイミン、変性ポリシロキサン、ヒドロキシルまたはカルボキシルラジカルを有する分子を含む群から選択される化合物からなることができる。そうした化合物は、それらがナノラフネスの中間層上に被着した場合、生産物を超親水性にするのに適している。
【0053】
本明細書では、プラズマ化学気相成長法により、連続膜を被着させる。しかし、本発明の1つの特徴によれば、電子的グラフト化法またはポリマー溶液被覆(被着)法によって連続膜を被着させることもできる。しかし、電子的グラフト化法すなわち電子グラフト化法の場合、導電層に被着させることが必要である。
【0054】
本発明のどのステップもそれほど高温に加熱する必要がないので、本発明は、熱感受性であってもなくても、どのようなタイプの基材からも生産物を作製するための用途を有する。したがって、上記した例では、基材は、約110℃での変形前限界温度を有するポリメチルメタクリレート(PMMA)から作製することができる。本発明による方法のこの特徴は、上記の従来技術を凌ぐ利点を構築するものである。
【0055】
さらに、本発明に包含される方法は、実施するのに比較的簡単であり、かつ比較的安価である。実際に、必要な手順および装置は簡易なものであり(単一のチャンバー)、したがって、従来技術の方法より製造コストは安価であり、製造時間は短いものとなる。
【0056】
本発明は、その方法によって作製された生産物、すなわち透明であり、かつ超親水性または超疎水性の特定の表面物理特性を有する生産物にも関する。この生産物は、ここで、ガラスまたはポリメチルメタクリレート(PMMA)から作製された透明な基材を含む。この基材は、その表面の一部、例えばプラックの場合、その側部の1つがモノシランからなる中間構成層で被覆され、次いでこの層上に被着した親水性または疎水性の連続膜で被覆されている。生産物のこの特定の物理特性は、膜の性質と、膜を受ける層の表面のナノラフネスによって付与される。したがって、生産物の透明性は維持され、その表面は超親水性または超疎水性となる。
【0057】
その結果、所望される特定の表面物理特性が超疎水性である場合、そうした生産物の外側表面は、撥水性のよごれ防止能力を有する。したがって、そうした生産物は、自浄性および/または非凝縮性の性能を有している。自浄性またはよごれ防止性表面の自浄性の特徴は、この表面と、水、粉塵または他の汚染物質との間の接触面積を小さくすることによって得られ、また、生産物の表面上に被着した連続膜の親水特性によっても得られる。
【0058】
原理的に、汚染物質または液滴は、膜のナノラフネスの「峰」すなわち頂点上のみに留まることができ、したがってこれは、より低い表面上への汚染物質または水の拡がりの大きな障害となる。次いで、水滴が高い表面エネルギーを有するので、汚染物質は比較的球形を保った水滴に同伴される。したがってこれらの液滴は、重力または風力の影響下で、ナノラフネスの「峰」にある粉塵を引き離す回転運動を伴って、非常に素早く動く。これが、よごれ防止性または自浄性の効果である。
【0059】
本発明の方法により得られる生産物の用途は非常に多岐にわたる。これらは、よごれ防止性または非凝縮性の透明性表面を必要とするすべての用途を包含する。これらの様々な用途は上記したものである。
【0060】
さらに、本発明の生産物は、スキー基部またはある種の空気力学もしくは流体力学的部品のような、流体に関して摺動性のある表面を有する用途も有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表面上を、前記表面上加えられた構成層と前記層上に被着した膜で被覆された基材を含む、超親水性または超疎水性の表面物理特性を有する生産物であって、前記膜が連続性であり、前記表面の物理特性が前記膜の性質によって付与されており、かつ前記被着した膜を受ける層の表面がナノメートルサイズのラフネスを有することを特徴とする生産物。
【請求項2】
前記構成層と前記膜を組み合わせたものが透明であることを特徴とする請求項1に記載の表面物理特性を有する生産物。
【請求項3】
前記層が、ケイ素および/または炭素と一緒に水素を含むことを特徴とする請求項1から2の一項に記載の表面物理特性を有する生産物。
【請求項4】
前記層の厚さが50nm〜300nmであり、前記ラフネス間の間隔が50nmより小さいことを特徴とする請求項1から3の一項に記載の表面物理特性を有する生産物。
【請求項5】
前記生産物を超疎水性にするために、前記膜が、フルオロカーボンポリマー、ポリシロキサンを含む群から選択される化合物からなることを特徴とする請求項1から4の一項に記載の表面物理特性を有する生産物。
【請求項6】
前記生産物を超親水性にするために、前記膜が、シリカ、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、ポリオール、ポリイミン、変性ポリシロキサン、ヒドロキシルまたはカルボキシルラジカルを有する分子を含む群から選択される化合物からなることを特徴とする請求項1から4の一項に記載の表面物理特性を有する生産物。
【請求項7】
その構成材料の少なくとも1つ、特に前記基材が熱感受性であることを特徴とする請求項1から6の一項に記載の表面物理特性を有する生産物。
【請求項8】
前記基材が、ガラスまたはポリメチルメタクリレート(PMMA)からなることを特徴とする請求項1から7の一項に記載の表面物理特性を有する生産物。
【請求項9】
基材を含む、超親水性または超疎水性の表面物理特性を有する生産物の作製方法であって、前記方法が一連の、
層を前記基材の外側表面に加えるステップと、
前記基材に加えられた前記層の外側表面にラフネスを生じさせるステップと、
構成化された前記層の表面に連続膜を被着させるステップであって、その性質が、作製された被覆上に所望の超親水性または超疎水性の特性を付与するステップと
を含むことを特徴とし、
前記ラフネスがナノメートルサイズの大きさを有する方法。
【請求項10】
プラズマ化学気相成長(PECVD)チャンバー中で実施することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記被覆層を真空蒸着技術によって作製することを特徴とする請求項9および10に記載の方法。
【請求項12】
前記ラフネスをプラズマエッチングによって生成させることを特徴とする請求項9から11の一項に記載の方法。
【請求項13】
前記膜を、プラズマ化学気相成長法、電子的グラフト化法(電子グラフト化法)、およびポリマー溶液の被着に続いて溶液から溶媒を蒸発させることを含む群から選択される方法によって被着させることを特徴とする請求項9から12の一項に記載の方法。
【請求項14】
前記層を50nm〜300nmの厚さで形成させ、前記ラフネスを50nmより小さい大きさで生成させることを特徴とする請求項9から13の一項に記載の方法。
【請求項15】
前記生産物を超疎水性にするために、前記膜が、フルオロカーボンポリマー、ポリシロキサンを含む群から選択される化合物からなることを特徴とする請求項9から14の一項に記載の方法。
【請求項16】
前記生産物を超親水性にするために、前記膜が、シリカ、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、ポリオール、ポリイミン、変性ポリシロキサン、ヒドロキシルまたはカルボキシルラジカルを有する分子を含む群から選択される化合物からなることを特徴とする請求項9から14の一項に記載の方法。
【請求項17】
よごれ防止型家庭用窓類、よごれ防止性メガネレンズ、非凝縮性潜水用マスク、ヘッドライトなどの照明装置のよごれ防止性光学部品、撥水性の内側と自浄式の外側を有する自動車用または飛行機用窓類、よごれ防止型太陽電池パネル、ピトー管または温度プローブなどのよごれ防止型センサーおよび測定装置、洗面器、シャワー、自浄式トイレのものなどのよごれ防止性衛生用表面物、レーダー用または衛星放送テレビ用などのよごれ防止型表面アンテナ、よごれ防止性の装飾用金属構造物、食肉処理場、肉屋、豚肉屋、病院、調理場のものなどのよごれ防止性を有する種々の工業用表面物、よごれ防止性で非凝縮性の飛行機翼、100%の内容物を受け入れるための非凝縮性瓶のものなどの流体容器の内壁、ならびに内容物を100%受け入れるための非凝縮性瓶のものなどの流体容器の内壁を含む群から選択される透明なよごれ防止性または非凝縮性の表面を必要とする用途のための請求項1から8の一項に記載の生産物の使用。
【請求項18】
スキー基部、空気力学または流体力学的部品を含む群から選択される、透明であり、かつ流体に関して摺動性の表面を必要とする用途のための請求項1から8の一項に記載の生産物の使用。

【公表番号】特表2009−515728(P2009−515728A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539474(P2008−539474)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際出願番号】PCT/FR2006/051063
【国際公開番号】WO2007/054649
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】