説明

超電導体製造用種結晶および種結晶を用いた超電導体の製造方法

【課題】均一な超電導体を製造する超電導体製造用種結晶および種結晶を用いた超電導体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】RE1Ba2Cu3y系超電導体の製造に用いる種結晶(10)であって、MgOの結晶体(11)と、このMgOの結晶体(11)上に形成したRE2Ba2Cu3y系超電導体の薄膜(12)を有し、RE1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Y、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる群から選ばれた少なくとも1以上の元素をさし、RE2は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Y、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうち前記RE1として選ばれた元素と比較して超電導体の融点温度について同じ又はより高い元素の群から選ばれた少なくとも1以上の元素をさす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、RE(希土類元素)Ba2Cu3y系の超電導体製造用種結晶および種結晶を用いた超電導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
REBa2Cu3y系超電導体の製造方法の一つに、種結晶を用いた溶融方法がある(特許文献1、2参照)。REBa2Cu3y系超電導体の原料粉末を成形した成形体を加熱炉に入れ、この成形体を融点温度(包晶温度)以上までを加熱する。同成形体が半溶融状態になると、加熱炉の扉を開き、半溶融状態の成形体に種結晶を載せる。次に、加熱炉の扉を閉じて成形体を冷却し、種結晶と接する部位からREBa2Cu3y系超電導体の結晶を成長させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−193938号公報
【特許文献2】特開平9−51122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記方法では、加熱炉を開けて種結晶を成形体に載せるとき、加熱炉の炉内温度が低下し、均一な超電導体を生成することができなかった。また、複数の超電導体を作製する場合、成形体の数だけ加熱炉の扉を開いてそれぞれ成形体に種結晶を載せるので、超電導体を効率的に製造することができなかった。
【0005】
そこで、本発明の第1の目的は、均一な超電導体を製造する超電導体製造用種結晶および種結晶を用いた超電導体の製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明の第2の目的は、超電導体を効率的に製造する超電導体製造用種結晶および種結晶を用いた超電導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、符号を付して本発明の特徴を説明する。なお、符号は参照のためであり、本発明を実施形態に限定するものでない。
【0008】
本発明の第1の特徴に係わる超電導体製造用種結晶は、RE1Ba2Cu3y系超電導体の製造に用いる種結晶(10)であって、MgOの結晶体(11)と、このMgOの結晶体(11)上に形成したRE2Ba2Cu3y系超電導体の薄膜(12)を有し、RE1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Y、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる群から選ばれた少なくとも1以上の元素をさし、RE2は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Y、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうち前記RE1として選ばれた元素と比較して超電導体の融点温度について同じ又はより高い元素の群から選ばれた少なくとも1以上の元素をさす。
【0009】
本発明の第2の特徴に係わる種結晶を用いた超電導体の製造方法は、第1の特徴に記載の種結晶(10)を用いたRE1Ba2Cu3y系超電導体の製造方法であって、前記RE1Ba2Cu3y系超電導体の原料成形体(20)の上に種結晶(10)を配置し、前記RE1Ba2Cu3y系超電導体の融点より高い温度まで原料成形体(20)および種結晶(10)を加熱し、前記融点より低い温度まで原料成形体(20)および種結晶(10)を冷却し、RE1Ba2Cu3y系超電導体を生成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の特徴によれば、原料成形体の上に種結晶を予め配置できるので、加熱炉を開けることなく加熱炉の炉内温度の低下を防止し、均一な超電導体を製造することができる。
【0011】
一回の処理で複数の超電導体を作成できるで、超電導体を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】種結晶の概要立面図である。
【図2】種結晶を配置した成形体の概要立面図である。
【図3】成形体が配置された加熱炉を示す概要図である。
【図4】成形体を加熱する温度履歴を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
本実施形態では、溶融法によるRE1Ba2Cu3y系超電導体(以下、RE1−123と称する)結晶の製造に種結晶を用いる。ここで、RE1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Y、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれた少なくとも1以上の希土類元素である。RE1は2以上の元素から構成してもよい。
【0015】
種結晶10は、図1に示すように、MgO結晶体11と、同結晶体11に形成したRE2Ba2Cu3y系超電導体(以下、RE2−123と称する)の薄膜12を有する。
【0016】
表1、2は、RE(Rare earth element)Ba2Cu3y系超電導体のREのイオン半径及び融点を示す。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
表1、2において、REBa2Cu3y系超電導体は融点の高い順に記載されている。
【0020】
ここで、RE2は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Y、Ho、Er、Tm、Yb、Luの順序のうち、RE1として選択された元素と比較して超電導体の融点が同じ又はより高い元素からなる群より選択された1以上の希土類元素である。例えば、RE1としてNdを選択した場合、RE2としてNdを選択してもよい。また、RE2は、2つ以上の元素から構成してもよく、例えば、Nd、Eu、Gdを所定の比率で構成してもよい。
【0021】
ここで、種結晶10のRE2−123薄膜12は、RE1−123より高い融点を有する。RE2とRE1とが同じ元素であっても、1180℃の融点を有するMgO結晶体11は、MgO結晶体11に接するRE2−123薄膜12の融点をさらに上昇させる。例えば、RE1、RE2としてNdを選択した場合、Nd−123薄膜12は、MgO結晶体11の影響により、Nd−123よりも高い融点温度を有する。これにより、RE2−123薄膜12は、RE1−123の融点より高い温度に加熱されても、溶融せずに、固相状態を維持することができる。
【0022】
また、RE2−123とRE1−123とは近似の格子定数を有する。これにより、RE2−123の結晶面はRE1−123のエピタキシャル結晶成長を促す。
【0023】
次に、RE1−123の製造方法を説明する。
【0024】
RE1−123の製造には種結晶および溶融法を用いた。
【0025】
先ず、種結晶を作製する。すなわち、図1に示すように、MgO結晶体11の表面に、RE2−123系超電導体の薄膜12を形成し、種結晶10を得る。
【0026】
次に、RE1−123の原料粉末を円柱状の原料成形体20に成形する。図2に示すように、RE2−123薄膜12が原料成形体20に接するように、原料成形体20の上に、種結晶10を配置する。図3に示すように、加熱炉30内に、種結晶10が配置された複数の原料成形体20を配置する。
【0027】
加熱炉30を作動させて、原料成形体20をRE2−123の融点(包晶分解温度)より高い温度まで加熱し、所定の時間保持する。このとき、成形体20は、固相(La、NdではRE4Ba2Cu2y、他のRE元素ではRE−123)と液相に分解する。また、種結晶10のRE2−123薄膜12は溶融せずに固相状態で維持される。ここで、種結晶10は成形体20の上に予め配置されているので、種結晶10を加熱炉30内に入れるために加熱炉30を開ける必要がなく、加熱炉30の炉内温度の低下を防止することができる。
【0028】
次に、加熱温度を所定の速度でRE2−123の融点以下まで冷却する。このとき、図2に示すように、RE2−123薄膜12の結晶から方位を引き継いだRE1−123が核生成し、RE1−123の結晶21として成長する。ここで、複数の原料成形体20を一度に処理して複数の超電導体を得ることができる。
【0029】
以上の実施形態によれば、加熱炉の炉内温度の低下を防止するので、均一な超電導体を製造することができる。
【0030】
一回の処理で複数の超電導体を作成するので、超電導体を効率的に製造することができる。
【0031】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、また、各実施形態は発明の趣旨を変更しない範囲で変更、修正可能である。
【実施例】
【0032】
1.原料成形体の作製
NdBa2Cu3y超電導体(以下、Nd−123と称する)の原料としてNd23、BaO2、CuOの酸化物粉体を用意する。各酸化物粉末を所定の重量比になるよう秤量する。
【0033】
各酸化物粉末を混合し、混合した酸化物粉体を成型して50個の円柱状の原料成形体を作成する。原料成形体の直径は、例えば、24mm〜45mmである。
【0034】
2.種結晶の作製
PLD(Pulse Laser Deposition)法によって、MgO結晶の基板の表面に、Nd−123の薄膜を形成する。具体的には、Nd、Ba、Cuの金属を同時に熱蒸発させる。MgOの基板を680℃に加熱し、この基板の隣に酸素を供給する。酸化中の分圧は5×10-3mbarである。MgO結晶の基板の表面にNd−123結晶が成長し、Nd−123薄膜が形成される。
【0035】
3.超電導体の作製
原料成形体にNd−123薄膜が接触するように、原料成形体のそれぞれの上にそれぞれの種結晶を載せる。種結晶を載せた成形体を加熱炉内に配置した。加熱炉の寸法は、横250mm、縦500mm、高さ200mmである。この加熱炉の中心部と周辺部との温度差は2℃以内である。
【0036】
加熱炉を作動させて、図4に示すような温度履歴で原料成形体を加熱する。加熱炉内の雰囲気は空気とする。先ず、室温から200℃/hの加熱速度でNd―123の融点温度(包晶温度;1090℃)Tpより90℃高い温度(Tp+90℃)まで加熱温度を昇温する(時間T1)。Tp+90℃の加熱温度を50分間保持する(時間T2)。ここで、原料成形体は半溶融状態になり、Nd4Ba2Cu2yの固相と液相とに分離する。種結晶のNd−123薄膜は溶融せずに固相状態で維持される。
【0037】
次に、Tp+2℃まで加熱温度を下げる(時間T3)。続いて、0.26℃/hの冷却速度でTp−6℃まで加熱温度を徐々に下げる(時間T4)。続いて、0.20℃/hの冷却速度でTp−20℃まで加熱炉の温度を下げる(時間T5)。この間、種結晶のNd−123薄膜から結晶方位を引き継いだNd−123が核生成し、結晶に成長する。
【符号の説明】
【0038】
10 種結晶
11 MgO結晶体
12 薄膜
20 成形体
30 加熱炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RE1Ba2Cu3y系超電導体の製造に用いる種結晶であって、
MgOの結晶体と、
このMgOの結晶体上に形成したRE2Ba2Cu3y系超電導体の薄膜を有し、
RE1は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Y、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる群から選ばれた少なくとも1以上の元素をさし、
RE2は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Y、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうち前記RE1として選ばれた元素と比較して超電導体の融点温度について同じ又はより高い元素の群から選ばれた少なくとも1以上の元素をさす
超電導体製造用種結晶。
【請求項2】
請求項1に記載の種結晶を用いたRE1Ba2Cu3y系超電導体の製造方法であって、
RE1Ba2Cu3y系超電導体の原料成形体の上に前記種結晶を配置し、
RE1Ba2Cu3y系超電導体の融点より高い温度まで前記原料成形体および種結晶を加熱し、
前記融点より低い温度まで前記原料成形体および種結晶を冷却して、RE1Ba2Cu3y系超電導体を生成する
種結晶を用いた超電導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−96938(P2012−96938A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244160(P2010−244160)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】