説明

車両に搭載された少なくとも一つのスタビライザーバーのアクチュエータをコントロールする方法

本発明は、車両に搭載された少なくとも一つのスタビライザーバーのアクチュエータをコントロールする方法に関する。特に、車両のコントロール方法では、少なくとも一つのスタビライザーのアクチュエータは、車両の横方向加速度の測定値の関数としてコントロールされる。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、自動車のコントロールに関し、特に、車両の静的ヨー応答をコントロールする能動性アンチロールシステムのコントロールに関する。
【0002】
現今では、車両のヨー動作を、例えば、1回転又は連続する数回転にわたりコントロールすることによって、車両の動作と乗員の快適性を改善する試みが行われている。
【0003】
車両が、運転手が入力する指示又は車道の条件とは無関係に、最も安定した動作が可能であるように通常設計されていることは、周知の事実である。しかし、例えば、単一又は二重の障害回避操作のような特定の状況においては、車両のコントロールを失う可能性がある。このような状況におけるコントロールのロスは、それが急激すぎたり、不完全な減衰であったり、あるいは殆ど予測不能なための車両の不適切な応答に起因することが多い。
【0004】
更に、快適で楽しめる運転だけでなく、安全性の感覚を改善する試みも行われている。
【0005】
これらのために、アクチュエータを備える能動性アンチロールバーを装着した自動車が知られている。このようなシステムは、運転手によるハンドルの乱暴な旋回に伴う車両のヨー応答を、車両の速度ごとに改善するように動作する。このような車両は、例えば、欧州特許第1304270号に開示されている。
【0006】
本発明の目的は、この分野におけるコントロール方式を更に改善することにある。
【0007】
これらのために、本発明は、少なくとも一つのアンチロールアクチュエータを車両の横方向加速度の測定値の関数としてコントロールする、車両をコントロールする方法を提供する。
【0008】
本発明による方法は、次に示す特徴の少なくとも一つを更に有していてもよい。
− コントロールが、車両の縦方向速度の関数として行われる。
− 車両の縦方向速度が、アンチロックブレーキシステムが呈するデータに基づいて決まる。
− コントロールが、車両のステアリングコントロールの角度及び車両のヨーレートに関する伝達関数の静的ゲインの値の関数として行われる。
− ゲインが、車両の縦方向速度の関数として決まる。
− 静的ゲインが、基準静的ゲインである。
− 前記又は各々のアクチュエータに入力されるコントロール値が、マップを用いて決まる。
− コントロール値が、二つの所定の限度内におさまるように決まる。
− アンチロール作用が前部と後部のアンチロールアクチュエータ間で分割可能なように、アンチロール配分要素が決められる。
【0009】
本発明は更に、
− 少なくとも一つのアンチロールアクチュエータと
− コントロール部材とを備え、
これらが、前記又は各々のアクチュエータを、車両の横方向加速度の測定値の関数としてコントロールするように設計された車両を提供する。
【0010】
本発明の他の特徴と利点は、添付する図面を参照しながら、非限定的な事例を用いて与えられる好ましい実施例に関する後述の説明により、更に明らかになる。
【実施例】
【0011】
本発明の方法の好ましい実施例を次に記す。
【0012】
この方法は、剛性を変化させてコントロールできるように、アクチュエータに付随した能動性アンチロールバーを前部と後部に有する四輪自動車で行われる。アクチュエータ内のバーは本質的に周知のタイプである。車両は、アンチロールバーに付随したアクチュエータを含む車両の種々の部品を制御できる、中央処理部を備えている。
【0013】
実施する方法が準じている理論が、まず最初に提示される。下記の記号が用いられる。
● M(kg): 車両の総重量
● IZZ(kg.m2): その重心を通る垂直軸周囲の車両本体の慣性
● L(m): 車両のホイールベース
● L(m): 重心と前車軸との間の距離
● L(m): 重心と後車軸との間の距離
● E(m): 前車軸のトラック、即ち、二つの前輪間の距離
● E(m): 後車軸のトラック
● h(m): 地面に対する重心の高さ
● α(rad): 前輪ステアリング角度、即ち、車両の縦軸に対して前輪が成す角度
● V(m/s): 車両の速度
● γ(m/s): 重心において車両に生じる横方向加速度
● Ψ(rad/s): 車両のヨーレート
● D、D: 前車軸及び後車軸アセンブリのコーナリング剛性
● D11、D12: 左前と右前のタイヤのコーナリング剛性
● Ffront、Frear: 横方向加速度の無い時に前後のタイヤに加わる垂直荷重
● △Ffront、△Frear: 前後の車軸に加わる荷重伝達
● Kθ1、Kθ2(N.m/rad): 前後の車軸アセンブリの回転剛性
● k(−): アンチロールアクションスプリット
【0014】
ホイールのステアリング角度αと車両のヨーレートΨに関する伝達関数を検討することから始める。

【0015】
この伝達関数の特性は、車両のパラメータに依存する。


【0016】
特に、この伝達関数の静的ゲインを最も考慮する。

【0017】
この静的利得Gは、車軸アセンブリDとDのコーナリング剛性に直接依存することが理解できる。アンチロールスプリットがコーナリング剛性の変更を可能にするので、車両の静的ヨー応答も変更できることが指摘される。
【0018】
アンチロール剛性スプリットを定義する。

【0019】
前部又は後部への荷重の伝達は、k及び横方向加速度γの関数として表現できる。


【0020】
更に、各々タイヤのコーナリング剛性は、タイヤに加わる垂直荷重に依存する。カーブは非直線性であり、図1にその一例を示す。このカーブは、例えば、多項式を用いて近似化できる。
【0021】
車軸アセンブリの剛性は、車軸アセンブリの二つのタイヤの剛性を合計して得る。従って、車軸アセンブリが荷重伝達をうけると、その剛性が結果として変わる。図2で、左側は荷重伝達が無い状態を示し、右側は荷重伝達がある状態を示す。
【0022】
更に、次のように表される。


【0023】
式(3)と(4)を(5)と(6)に代入すると、


【0024】
最後に、(7)と(8)を(2)に代入すると、

【0025】
これは、横方向加速度及び速度、とりわけアンチロールスプリットが、車両の静的応答に及ぼす影響を表す関係を呈する。この関係は、横方向加速度γと車両速度Vが既知の場合に、所望の静的ゲインG0、d(伝達関数(1)に対して)を得るために適用されるアンチロールスプリットを得るために、逆にすることができる。

【0026】
これは、状態の関数として、即ち、横方向加速度γと車両の速度Vの関数として、車両の静的応答をコントロールするために使用可能なコントロールを付与する。
【0027】
その後、値を加えることができるように、このコントロールを飽和する必要がある。これは、配分が能動性アンチロールバーを用いて行われるので、サスペンションスプリングも車両の回転剛性とこの剛性のスプリットに関与するからである。従って、スプリットk=0(後部に回転剛性がない)又はk=1(前部に回転剛性がない)に近い極限値を得ることは不可能である。従って、例えば、0.1〜0.9の間でコントロールされたスプリットを飽和させるステップが行われる。言い換えれば、計算値kが0.9を超えると、それは0.9に低減される。逆に、それが0.1を下回ると、それは0.1に上げられる。
【0028】
コントロールの原理は式(9)にある。この式を得るための全ての計算は、分析的に開発することができる。G0、d、γ、Vの大部分の値を数値的に計算することもできる。そしてこれは、三つの入力単位(速度、横方向加速度及び静的ゲイン)を持つマップとなり、適用されるコントロールkを、垂直軸zに沿って得ることができる。ある速度25m/sのマップの一例を図3に示す。図示するマップは、前述の説明に従って0.1〜0.9の間で飽和している。
【0029】
更に、このタイプのマップを用いるコントロールの構成例を図4に示す。
【0030】
車両の静的ヨー応答の類別を可能にするコントロール方式は、図4に示すように、車両の中央処理部に一体化されている。
【0031】
図4のブロック図は、四つの部分に分割されている。
− 入力信号(ブロック2)
− 車両の応答の静的ゲインのパラメータ化(ブロック3)
− コントロールを計算するゲインのマッピング(ブロック4)
− コントロールの飽和(ブロック5)
【0032】
入力信号に対応するブロック2では、コントロールは次の測定値又は信号を要求する。
● 車両の縦方向速度: この信号は、例えば、一つの車軸のホイールに関してアンチロックブレーキシステム(ABS)が呈する平均速度を計算して得る。
● 車両に生じる横方向加速度: この信号は、例えば、加速度計タイプのセンサを用いて得る。
【0033】
車両の応答の静的ゲインは、ブロック3でパラメータ化される。図5は、ブロック3の詳細を示す。このブロックは、ブロック6に示すように、車両の縦方向速度Vの関数として、所望の静的ゲインを計算する。このため、ハンドル角度とヨーレートに関する伝達関数の静的ゲインを用いる。この静的ゲインが、次のように記せることに注目すべきである。

【0034】
この式は、車両の基準静的応答を表しており、車両の速度の関数として計算できる。
【0035】
次に、ブロック10に示すように、この開始時の静的ゲインを、類別信号Tgsと直接乗算する。従って、所望の静的ゲインG0、dは、Tgs×Gと直接的に等しくなり、下記のような所定の規則に準じることになる。
− Tgsが1に等しい場合、車両の動作は変化しない。
− Tgsが1より大きい場合、車両の静的応答が増加する。
− Tgsが1より小さい場合、車両の静的応答が減少する。
【0036】
このパラメータTgsは、ここで、車両の速度の関数として変化することが可能である。車両の所望の類別は従って、ブロック11に示すように、車両速度Vの関数としてパラメータTgsを表すカーブを用いて、前述のように特徴付けることができる。最後にこれは、次のように表される。

【0037】
得た所望の静的ゲインは、次に、過度に大きくて実現が難しいコントロール量を避けるために、ブロック12で飽和される。
【0038】
図4では、ゲインマップがブロック4で行われている。このブロックでは、車両の縦方向速度、横方向加速度及び所望の静的ゲインとの関数として適用される、アンチロールスプリットを計算できる。このマップは、上記の式(9)を表している。実際には、結局のところ次のタイプのコントロールを遂行することになる。

【0039】
最後に、コントロールがブロック5で飽和する。前述のようにこのブロックでは、被制御アンチロールスプリットが飽和するので、アンチロールシステムは適用可能限度内に留まることができる。出力は、下限と上限の間に留まるように単純に行われる。
【0040】
本発明では、能動性アンチロールデバイスを備える車両の静的ヨー応答を、この車両の速度の関数としてタイプ付けすることができる。本発明は、能動性アンチロールシステムを操作する制御法則を提供し、なおかつ、横方向加速度の測定値に基づく方式により、例えば、ハンドルの乱暴な旋回の結果における車両の静的ヨー応答を、規制することができる。前述のように、これは全体的なシステムに含まれ、そのハードウェアアーキテクチャは、少なくとも一つの被制御アンチロールデバイスと、横方向加速度を確認する一つ又は複数のセンサと、車両の縦方向速度を決める手段と、一つ又は複数の電子処理手段とを具備する。
【0041】
本発明は、車両の静的ヨー応答をコントロールするために能動性アンチロールバーの動きを配分する、前部−後部スプリットをコントロールする方式を提供する。
【0042】
最後に、本発明は次の長所を提供する。
− コントロール方式が、車両の横方向加速度の測定値に基づく構造を有する。
− コントロール方式が、ハンドルの乱暴な旋回に対する車両の横方向応答の静的部分が規制されることを可能にする。最終的な調整により、例えば、低速の操作性を最適化することができる。
− コントロール方式では、車両の速度を考慮しているので、この速度に準じて別個に反応する。
− コントロール方式ではアンチロール配分基準を作成するので、それを例えば、車両の各々車軸上で制御可能なアンチロールバー等のアンチロールアクチュエータにより適用させることができる。
− コントロールを飽和すると、このコントロールを限度内に保つことができるので、それをアクチュエータによって実際に適用させることができる。
− コントロール方式では、ヨーセンサのいかなるレートも使用しないので、システムのコストと複雑さとを制限できる。
− コントロール方式では、例えば、ESP(電子安定化プログラムの頭文字)のように、ヨーレートセンサを用いる他の横方向制御システムに対する緊急バックアップシステムとして、作動可能である。
− この方式は、簡単に直観的に開発できる。なぜならば、制御パラメータが、車両の標準的な性能と関連しているからである。“1”に等しい制御パラメータは車両の動作を変化させないが、“1”より大きい(又は小さい)パラメータは動作を更に直接的(非直接的)にする。
【0043】
言うまでもなく、本発明の趣旨から逸脱せずに、本発明に数々の変更を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】タイヤに加わる垂直荷重の関数としてのタイヤのコーナリング剛性の変化を図示するグラフである。
【図2】車両の一つの車軸アセンブリのコーナリング剛性に及ぼす荷重伝達の作用を二つのグラフで示す。
【図3】本発明の方法で用いる、ある速度における飽和マップの一例である。
【図4】本発明の本実施例における方法の全体的なシーケンスを示すフローチャートである。
【図5】図4の方法における静的リンクをパラメータ化するステップを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両をコントロールする方法であって、少なくとも一つのアンチロールアクチュエータが車両の横方向加速度の測定値の関数としてコントロールされ、なおかつコントロールが、車両のステアリングコントロールの角度と車両のヨーレートとに関する伝達関数の静的ゲインの値の関数として行われることを特徴とする、前記の車両をコントロールする方法。
【請求項2】
コントロールが、車両の縦方向速度の関数として行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
車両の縦方向速度が、アンチロックブレーキシステムが呈するデータに基づいて決まることを特徴とする、請求項1〜2の何れかに記載の方法。
【請求項4】
ゲインが、車両の縦方向速度の関数として決まることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
静的ゲインが、基準静的ゲインであることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記又は各々のアクチュエータに入力されるコントロール値が、マップを用いて決まることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
コントロール値が、二つの所定の限度内におさまるように決められることを特徴とする、請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
アンチロール作用が前部と後部のアンチロールアクチュエータ間で分割可能なように、アンチロール配分要素が決められることを特徴にする、請求項1〜7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
車両であって、この車両が、
少なくとも一つのアンチロールアクチュエータと
コントロール部材とを備え、
コントロール部材が、車両の横方向加速度の測定値の関数、及び車両のステアリングコントロールの角度と車両のヨーレートとに関する伝達関数の静的ゲインの値の関数として、前記又は各々のアクチュエータをコントロールするように設計されていることを特徴とする、前記の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−540230(P2008−540230A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510621(P2008−510621)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050423
【国際公開番号】WO2007/003800
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】