車両のブレーキ制御装置
【課題】一例として自動二輪車1のような車両の制動時に車輪2,3のロックを防止するように、当該車輪2,3に付与するブレーキ力を調整するABS制御において、それらの車輪2,3のロック傾向を直接的に検出し、より適切なABS制御の介入判定を行えるようにする。
【解決手段】車輪2,3の回転速度である車輪速度Vf,Vrの低下率ΔVf,ΔVrが所定の閾値以上であることを含む、ABS制御の介入条件が成立したか否かを判定する(第1および第2の判定部54,55)。介入条件が成立したと判定すればABS制御を開始する(ABS制御部56)。
【解決手段】車輪2,3の回転速度である車輪速度Vf,Vrの低下率ΔVf,ΔVrが所定の閾値以上であることを含む、ABS制御の介入条件が成立したか否かを判定する(第1および第2の判定部54,55)。介入条件が成立したと判定すればABS制御を開始する(ABS制御部56)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動時に車輪のロックを防止するように、当該車輪に付与するブレーキ力を調整するブレーキ制御装置に関し、特にその制御を適切なタイミングで介入させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の制動時には車輪に付与されるブレーキ力によってタイヤと路面とのグリップが失われ、車輪の回転がほぼ停止することがある(ブレーキロック或いは単にロックという)。車輪はロックすると方向性を失うので、ステアリング操作が効かなくなったり、車体の姿勢が崩れるなどといった不具合を生じる。
【0003】
このような車輪のロックを防止するために、当該車輪に付与するブレーキ力を調整するアンチロックブレーキ制御(以下、この明細書においてABS制御と略称する)は知られている。すなわち、制動時に車輪のスリップ率ないしその変化が大きくなってロック傾向が強いと判定すれば、ABS制御が介入する。例えば自動二輪車の場合は、ABS制御の介入は前輪と後輪との車輪速度の差から求められるスリップ率に基づいて判定されるが、こうしてスリップ率を計算する精度の問題でABS制御の介入が適切なタイミングで行われないことがあった。
【0004】
すなわち、自動二輪車において減速時には、前輪および後輪の車輪速度のうちの高い方を基準とし、車輪速度の低い方の車輪のスリップ率を求めることになるが、急減速時に後輪が浮き上がり気味になると、これに起因してスリップ率の計算に誤りを生じることがある。
【0005】
これに対し特許文献1に記載のABS制御では、前記のような後輪の浮き上がりによって誤りの起きることを防ぐために、減速時における所定の状態では後輪の車輪速度以外のパラメータに基づいてスリップ率を計算するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−296908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら前記従来例の技術は、自動二輪車の急減速時に後輪が浮き上がり気味になった特異な状況においてのみ有効なものであり、制動時のスリップ率の計算の精度を全般的に向上し得るものではない。
【0008】
また、スリップ率の計算精度の不足を補うために、例えばブレーキ液圧等、車輪に付与されるブレーキ力の大きさを加味してABS制御の介入判定を行うことも考えられるが、ブレーキ力の大きさは車輪のロック傾向を間接的に表すのみで、スリップ率のように直接的に表すものではない。よって、ブレーキ力を加味しただけでは、ABS制御の介入に適切なタイミングを判定できるとは言い難い。
【0009】
かかる点から本発明の目的は、制動時の車輪のロック傾向を直接的に検出し、より適切なABS制御の介入判定を行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成すべく本発明に係るブレーキ制御装置は、まず、車両の制動時に車輪のロックを防止するように、当該車輪に付与するブレーキ力を調整する、いわゆるABS制御を行うものである。そして、前記車輪の回転速度である車輪速度の低下率が所定の閾値以上であることを含む、ABS制御の介入条件が成立したか否かを判定する介入判定部と、この介入判定部によって前記介入条件の成立が判定されると、ABS制御による前記車輪へのブレーキ力の調整を開始するブレーキ力制御部と、を備えている。
【0011】
前記の構成により、車両の制動時にブレーキ力によって車輪速度が低下するときに、その低下率、即ち所定時間内に低下した車輪速度の大きさ(絶対値)が閾値以上であると、車輪のロック傾向が強いと判断して、ABS制御の介入するタイミングであると判定することができる。この判定に必要なのはロック検出対象の車輪の車輪速度の低下率だけで、ロック検出対象でない車輪に関する情報は必要ないから、この非ロック検出対象の車輪情報に誤りが生じても、ロック検出対象の車輪のロック判定に影響を及ぼすことを防止できる。このことから例えば自動二輪車の場合に前後輪の両方の車輪速度が必要なスリップ率に比べて、ABS制御の介入するタイミングをより精度よく判定できる場合がある。
【0012】
また、液圧式ブレーキ装置におけるブレーキ液圧のような間接的なパラメータではなく、ロック傾向を直接的に表す車輪速度の変化それ自体によってABS制御の介入を判定するので、例えばブレーキ装置の効きの変化や駆動系(エンジンや変速機)の慣性などの影響を受け難く、この点でもABS制御の介入判定を適切に行う上で優位性がある。
【0013】
なお、「車輪速度の低下率」というのは前記したように、制動時に時間の経過とともに値が小さくなる車輪速度の、所定時間における低下量の絶対値を意味し、例えば車輪速度の低下率が異なる二つの場合について説明すると、同じ時間内に車輪速度がより低くなった方の「低下率が大きい」ことになる。
【0014】
前記のようなABS制御の介入判定をさらに好適なものとするために、車両の減速時にアクセル操作部材が運転者により減速方向に急操作された場合は所定期間、前記介入条件が成立したか否かの判定を行わないようにしてもよい。すなわち、アクセル操作部材が急操作されてから暫くの間、車輪速度の低下率には、例えばエンジンブレーキなどのような駆動源(エンジン以外の例えば電動モータも含む)の減速による影響が強く現れるので、その間は介入判定を行わないことによってABS制御の誤った介入を防止することができる。
【0015】
但し、車両において駆動輪と駆動源との間に例えばクラッチのような動力断接要素(動力を伝達する接続状態と遮断する遮断状態とに切換え可能なもの)が設けられている場合は、前記アクセル操作部材の急操作から所定期間内であっても前記クラッチが遮断状態になればABS制御の介入判定を行うようにしてもよい。クラッチが遮断状態になれば、前記のエンジンブレーキのような駆動源の減速の影響を受けなくなって、遅滞なくABS制御の介入判定を行うことができる。
【0016】
また、制動時の車両の走行状態を検出する走行状態検出部を備え、これにより検出される車両の走行状態に基づいてABS制御の介入判定の閾値を変更するようにしてもよく、こうすれば、車両の走行状態の変化に対応して、より適切な判定が行える。走行状態としてはブレーキ力やその変化率、車輪のスリップ率、車速等が考えられるが、一例として車両の制動時に前記車輪に付与されるブレーキ力を検出し、このブレーキ力が小さいほどABS制御の介入判定の閾値を小さな値に変更するようにしてもよい。
【0017】
すなわち、例えば舗装路のような良路と砂利道、ぬかるみのような悪路とを比較すると、悪路では比較的小さなブレーキ力であっても車輪がロックする懸念があるから、一例として舗装路に合わせて最適に設定したABS制御の介入判定の閾値(車輪速度の低下率)を、ブレーキ力が小さいときには小さな値に変更することによって、悪路でのABS制御の介入を早めることが可能になる。
【0018】
より具体的には、例えば、タイヤのグリップ力に余裕のある範囲で、車輪に付与されるブレーキ力の増大に応じて車輪速度の低下率が増大する際の両者の相関関係を、当該車輪の制動特性として記憶する制動特性記憶部をさらに備える。そして、前記介入判定部においては、前記走行状態検出部によって検出されるブレーキ力が小さいほど、前記介入判定の閾値が小さな値になるように、前記制動特性に基づいて当該閾値を変更してもよい。
【0019】
前記制動特性は、予め実車を用いた実験等により車輪毎に調べることができ、こうして調べた制動特性に基づいてABS制御の介入判定の閾値を変更することで、より適切なタイミングでABS制御を介入させることができる。すなわち、一例として舗装路のような良路においてブレーキ力により車輪に生じる車輪速度の低下率を調べて、これを車輪速度の標準低下率としてブレーキ力に対応づけて記憶させてもよい。
【0020】
そうした場合に前記介入判定部は、走行状態検出部によって検出されたブレーキ力から前記制動特性を参照して、そのブレーキ力に対応する標準低下率を特定した上で、この標準低下率よりも車輪速度の低下率が大きい場合には、両者の差が大きいほど前記介入判定の閾値を小さな値に変更するようにしてもよい。
【0021】
こうすれば、制動時にブレーキ力による車輪速度の低下率が標準低下率を超えたときに、その低下率の値が標準低下率から離れているほど、即ち、低下率の標準低下率からのずれが大きく、車輪のロックする可能性が高いときほど、介入判定の閾値が小さな値に変更されて、より早めの即ちより適切なタイミングの介入判定が行える。
【0022】
さらに、前記介入判定部は、前記走行状態検出部によって検出されるブレーキ力の変化率が大きいほど、ABS制御の介入判定の閾値を小さな値に変更するものとしてもよい。こうすると、車輪がロックしやすい例えば急ブレーキの際にABS制御の介入が早くなるので、より適切なタイミングの介入判定が行える。
【0023】
ここで、ABS制御の介入条件には、前記した車輪速度の低下率に基づくもの(第1の条件)の他に少なくとも一つ、車輪速度の低下率以外のパラメータに基づく第2の条件を含むことが好ましい。この第2の条件は例えば従来一般的なスリップ率に基づくものとしてもよい。こうして第1および第2の条件を互いに独立に設定することで、両者が相互に影響し合うことを防ぐことができ、ABS制御を安定して行う上で有利になる。
【0024】
そして、それら第1および第2の条件の双方が成立したときに、ABS制御の介入条件が成立したと判定するようにしてもよく、こうすれば、ABS制御の過剰な介入を抑制できる。また、第1および第2の条件のいずれか一方が成立したときに、ABS制御の介入条件が成立したと判定するようにしてもよく、こうすれば、より早めに且つより確実にABS制御を介入させることができる。
【0025】
また、第1及び第2の二つの条件は別々に設計されてもよく、この場合、二つの条件の判定結果を受けてABS制御の介入を判定する統合的な制御部を設ける方が好ましい。
【0026】
また、前記の介入判定部とブレーキ力制御部とは単一のECU(コントロールユニット)によって構成することもできるが、別々のECUによって構成してもよい。こうすると、ABS制御の介入に関する制御を車種毎に最適化しながら、介入後のABS制御については共通化することで、開発コストを抑えながら車種毎に適切なABS制御を実現できる。ABS制御についてはECUを、より汎用性の高いシステムを利用して実現することが可能になる。
【0027】
さらにまた、車両には、アンチロックブレーキ制御の介入条件を設定するために運転者が操作する設定操作部材を設け、この設定操作部材の操作に応じて前記介入判定部により、ABS制御の介入判定の閾値を変更するようにしてもよい。こうすれば例えば燃費重視かまたは出力重視か、市街地走行かまたはサーキット走行か、或いは、運転者単独かまたは別の乗員が居るか、というように運転者から与えられる種々の情報に基づいて、ABS制御の介入するタイミングを適切に変えることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上、説明したように本発明によれば、車両の減速時にABS制御の介入するタイミングを車輪速度の低下率に基づいて判定することができ、高い精度で計算することの難しいスリップ率に頼ることなく、適切なタイミングでABS制御を介入させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動二輪車の右側面図である。
【図2】自動二輪車における制御系全体のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】自動二輪車に搭載されたブレーキ制御装置の液圧系統図である。
【図4】第1の実施形態に係るブレーキ制御装置の要部を説明するブロック図である。
【図5】自動二輪車の制動特性ラインおよびABS制御の閾値ラインを設定したテーブルの一例を示す説明図である。
【図6】自動二輪車の制動特性を調べたデータのグラフ図である。
【図7】制動時における車輪速度の低下率の変化と、これによるABS制御の介入判定とを模式的に説明した図5相当図であり、(a)は良路の場合を、また(b)は悪路の場合をそれぞれ表す。
【図8】ABS制御の具体的な手順を表したフローチャート図である。
【図9】制動時における前後輪の車輪速度、ギヤポジション、スロットルバルブやクラッチの状態に対応づけて、後輪3の車輪速度の低下率の変化とAS制御の介入とを表したタイムチャート図である。
【図10】第3の実施形態に係る図7相当図である。
【図11】第1、第2の介入判定部とABS制御部とを別々のECUによって構成した他の実施形態に係る図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の説明で用いる方向の概念は車両に乗車した運転者を基準とする。
【0031】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る自動二輪車1の右側面図である。図1に表れているように自動二輪車1は、従動輪である前輪2と、駆動輪である後輪3とを備えている。前輪2は略上下方向に延びるフロントフォーク4の下端部にて回転自在に支持されており、フロントフォーク4は上下一対のブラケット(図示せず)を介してステアリングシャフト(図示せず)に支持されている。このステアリングシャフトは車体側のヘッドパイプ5によって回転自在に支持されている。
【0032】
前記フロントフォーク4の上端を繋ぐアッパーブラケットには、左右へ延びるバー型のハンドル6が取り付けられており、このハンドル6によって運転者はフロントフォーク4および前輪2を操舵(ステア)することができる。一方、フロントフォーク4の下端部には、前輪2と一体に回転する前輪ブレーキディスク36Aを挟むようにして前輪ブレーキキャリパ36Bが支持されており、これらが前輪ブレーキ36(図2参照)を構成する。前輪ブレーキキャリパ36Bは、液圧力によって前輪ブレーキディスク36Aに押し付けられるピストン(図示せず)を備えている。
【0033】
ハンドル6の右端には、運転者の右手により把持されるスロットルグリップ7(アクセル操作部材)が設けられており、手首のひねりによってスロットルグリップ7を回転させることで、後述するスロットル装置17(図2参照)を操作することができる。スロットルグリップ7の前方には主に前輪ブレーキ36を操作するためのブレーキレバー8が設けられている。一方、ハンドル6の左端には運転者の左手により把持されるグリップの前方に、後述するクラッチ27(図2参照)を操作するためのクラッチレバー9(図2参照)が設けられている。
【0034】
前記のヘッドパイプ5からは左右一対のメインフレーム10が若干下方に傾斜しながら後方へ延びており、その各メインフレーム10の後部にそれぞれピボットフレーム11が接続されている。このピボットフレーム11には、略前後方向に延びるスイングアーム12の前端部が揺動可能に支持されており、このスイングアーム12の後端部に後輪3が回転自在に支持されている。また、スイングアーム12の後端部には、後輪ブレーキディスク38Aを挟むように後輪ブレーキキャリパ38Bが支持されて、後輪ブレーキ38(図2参照)を構成している。
【0035】
前記メインフレーム10の上部には、ハンドル6の付近から後方に向かって燃料タンク13が設けられており、その後方に運転者が騎乗するためのシート14が設けられている。このシート14の下方には左右両側に運転者が足を載せるためのステップ15が設けられており、右側のステップ15の下方から前方へ延びるようにブレーキペダル16が設けられている。ブレーキペダル16の後端部はステップステーなどに軸支されており、このブレーキペダル16を運転者が足で踏み込むことで、主に後輪ブレーキ38を作動させることができる。
【0036】
また、前記メインフレーム10の下部には、このメインフレーム10およびピボットフレーム11に支持された状態でエンジンEが搭載されている。一例としてエンジンEは並列4気筒エンジンであり、その後側にスロットル装置17(図2参照)が接続されている。エンジンEの出力は、クランクケースに一体的に設けられた変速装置18(図2参照)からチェーンなどの伝動部材を介して後輪3に伝達される。
【0037】
−制御系全体のシステム構成−
図2は、図1の自動二輪車1に搭載された制御系全体のシステム構成を示すブロック図である。図2に示すようにスロットル装置17は、エンジンEの吸気通路20においてエアクリーナ19の吸気下流側に設けられている。このスロットル装置17は、メインスロットルバルブ21と、その吸気上流側に配置されたサブスロットルバルブ22とを有している。メインスロットルバルブ21は、スロットルワイヤー23を介してスロットルグリップ7に接続されており、運転者によるスロットルグリップ7の操作に連動して開閉する。
【0038】
また、スロットル装置17には、メインスロットルバルブ21の開度を検出するスロットルポジションセンサ25が設けられており、こうしてメインスロットルバルブ21の開度を検出することは、それと機械的に連動するスロットルグリップ7の操作量(運転者により操作されるアクセル操作部材の操作量)を検出することにもなる。
【0039】
サブスロットルバルブ22は、一例として電動モータからなるバルブアクチュエータ24に接続されており、このバルブアクチュエータ24がECU40からの信号を受けて動作することで、吸気通路20の断面積(スロットル開度)を連続的に変更する。また、スロットル装置17には、エンジンEの複数の気筒毎に対応して設けられた複数の分岐通路にそれぞれ燃料を噴射するように複数のインジェクタ31が設けられている。これらのインジェクタ31から噴射された燃料はエンジンEの各気筒内において空気と混合される。こうして形成される混合気に点火するために、各気筒毎に点火プラグおよび点火回路からなる点火装置26が設けられている。
【0040】
また、前記の如くエンジンEと一体的に設けられた変速装置18には、クランク軸からの駆動力を伝達するか、または遮断するかのいずれかの状態に切換えられるクラッチ27が設けられている。このクラッチ27にワイヤー等によって接続されているクラッチレバー9が運転者により把持されると、クラッチ27は動力を遮断する状態になり、クラッチレバー9が離されると動力を伝達する状態になる。クラッチレバー9には、その操作(把持されたか否か)を検出可能なクラッチスイッチ28が設けられている。
【0041】
詳細は図示しないが変速装置18は、互いに平行な入力軸および出力軸を備え、それぞれのギヤ列を噛み合わせるようにした二軸式のものであって、前記クラッチ27の動力遮断状態において入力軸および出力軸のギヤの組み合わせを変更することにより、変速段(ギヤポジション)を変更可能に構成されている。このギヤポジションを検出するためのギヤポジションセンサ29が変速装置18に設けられている一方、エンジンEには、クランク軸の回転速度(エンジン回転数)を検出するためのエンジン回転数センサ30が設けられている。
【0042】
前記したスロットルポジションセンサ25、クラッチスイッチ28、ギヤポジションセンサ29、およびエンジン回転数センサ30等は、それぞれエンジンECU40に接続されている。エンジンECU40は、マイコン等の演算装置や各種のメモリ等より構成されていて、前記各センサ25,29,30およびスイッチ28から入力される信号に基づいて、エンジンEの運転制御のための吸気量、燃料噴射量、点火時期等の演算を行うエンジン制御演算部41を備えている。また、エンジンECU40は、エンジン制御演算部41における演算結果に基づいて点火装置26、インジェクタ31、およびサブスロットルバルブ22のバルブアクチュエータ24をそれぞれ制御する点火制御部42、燃料制御部43、およびスロットル制御部44を備えている。
【0043】
−ブレーキ制御装置−
本実施形態の自動二輪車1は、公知のアンチロックブレーキシステム(ABS)として機能するブレーキ制御装置を備えている。マイコン等の演算装置やメモリ等より構成されたブレーキECU50には、ブレーキレバー8の操作によって発生する前輪ブレーキ液圧を検出する前輪ブレーキ液圧センサ51と、同じくブレーキペダル16の操作による後輪ブレーキ液圧を検出する後輪ブレーキ液圧センサ52と、前輪2の回転速度からその車輪速度(前輪車速)を検出する前輪車速センサ34と、後輪3の回転速度からその車輪速度(後輪車速)を検出するための後輪車速センサ35と、がそれぞれ接続されている。なお、車輪速度は、回転角速度に車輪の周長を掛け合わせて求められる。
【0044】
また、ブレーキECU50には、前記エンジンECU40が信号の授受可能に接続されているとともに、以下に詳しく説明するようにブレーキ液圧系統60のコントロールバルブ61,62,67,68や液圧ポンプ63,69の電動モータ66がそれぞれ接続されており、前記各センサ34,35、51,52およびエンジンECU40から入力される信号などに基づいて、車輪のロック傾向が強くなりABS制御の介入条件が成立したと判定すれば、ブレーキ液圧系統60を制御して、前輪2および後輪3のそれぞれのブレーキ36,38の液圧を増減させて、当該前輪2および後輪3に付与するブレーキ力を調整する(ABS制御)。
【0045】
図3は、本実施形態におけるブレーキ液圧系統60を表しており、左側には、ブレーキレバー8の操作に応じて前輪ブレーキ36のキャリパ36Bにブレーキ液圧を供給し、これにより前輪2にブレーキ力を付与する前輪側のブレーキ液圧系統を表している。同様に右側には、ブレーキペダル16の操作に応じて後輪ブレーキ38のキャリパ38Bにブレーキ液圧を供給し、これにより前輪3にブレーキ力を付与する後輪側のブレーキ液圧系統を表している。前輪側および後輪側のブレーキ液圧系統の基本的な構成は同じなので、以下、後輪側について説明する。
【0046】
後輪側のブレーキ液圧系統においてブレーキペダル16は、後輪ブレーキマスタシリンダ39に連結されており、そのブレーキペダル16の踏力圧に応じたブレーキ液圧(マスタ圧)を発生する。このブレーキ液圧が後輪側の主液路81によって後輪ブレーキキャリパ38Bのピストンに供給される。後輪側主液路81の途中には後輪側第1コントロールバルブ61が介設されており、ブレーキECU50からの信号を受けて開閉されて、後輪側主液路81を連通状態又は遮断状態に切換える。
【0047】
また、その後輪側第1コントロールバルブ61と後輪ブレーキキャリパ38Bとの間で後輪側主液路81から後輪側減圧液路82が分岐している。後輪側減圧液路82の下流端は後輪側液圧ポンプ63の吸込み側に接続されており、その途中には後輪側第2コントロールバルブ62と後輪側リザーバ65とが介設されている。後輪側第2コントロールバルブ62はブレーキECU50からの信号を受けて開閉され、後輪側減圧液路82を連通状態又は遮断状態に切換える。
【0048】
一例として前記後輪側第1コントロールバルブ61は、2ポート2位置の常開型の電磁弁であり、また、後輪側第2コントロールバルブ62は2ポート2位置の常閉型の電磁弁である。よって、通常は運転者によるブレーキペダル16の踏み操作に応じて、後輪ブレーキマスタシリンダ39で発生したブレーキ液圧(マスタ圧)が開状態の後輪側第1コントロールバルブ61を介して後輪ブレーキキャリパ38Bに供給される。これにより、ブレーキペダル16の踏み操作に対応する制動力が後輪3に加えられる。
【0049】
一方、ブレーキECU50からの信号を受けて後輪側第1コントロールバルブ61および後輪側第2コントロールバルブ62がそれぞれデューティ制御されることで、後輪ブレーキキャリパ38Bのブレーキ圧(キャリパ圧)が保持或いは減圧され、後輪3のブレーキ力が調整される。例えば後輪側第2コントロールバルブ62を閉じたまま、後輪側第1コントロールバルブ61も閉じれば、後輪ブレーキ38のキャリパ圧を保持することができ、後輪側第2コントロールバルブ62を開いて後輪ブレーキキャリパ38Bを後輪側リザーバ65に連通させれば、キャリパ圧を減少させることができる。
【0050】
さらに、前記後輪側液圧ポンプ63の吐出口には後輪側加圧液路83が接続されており、この後輪側加圧液路83の下流端は、後輪ブレーキマスタシリンダ39と後輪側第1コントロールバルブ61との間で後輪側主液路81に接続されている。また、後輪側加圧液路83の途中には後輪側ワンウェイバルブ64が介設されている。ブレーキECU50からの信号を受けて電動モータ66が動作すると、後輪側液圧ポンプ63が駆動されて後輪側加圧液路83のブレーキ液圧が増圧され、これにより後輪ブレーキ38のキャリパ圧も増圧させることができる。
【0051】
前記した後輪側ブレーキ液圧系統と同様に、図2の左側に表れている前輪側ブレーキ液圧系統にも、ブレーキレバー8の操作に応じてブレーキ液圧(マスタ圧)を発生する前輪ブレーキマスタシリンダ37と、このブレーキ液圧を前輪ブレーキキャリパ36Bに供給する前輪側の主液路84と、その途中から分岐して前輪側液圧ポンプ69の吸込み側に至る前輪側減圧液路85と、前輪側液圧ポンプ69の吐出口から前輪側主液路83までを繋ぐ前輪側加圧液路86と、が設けられている。
【0052】
そして、前記前輪側主液路84、前輪側減圧液路85および前輪側加圧液路86には、それぞれ前輪側第1コントロールバルブ67、前輪側第2コントロールバルブ68および前輪側ワンウェイバルブ70が介設されており、ECU50からの信号を受けて前記前輪側液圧ポンプ69が駆動され、前輪側第1コントロールバルブ67および前輪側第2コントロールバルブ68がそれぞれデューティ制御されることで、前輪ブレーキキャリパ36Bのブレーキ圧(キャリパ圧)が保持、減圧或いは増圧され、前輪2のブレーキ力が調整されるようになっている。なお、前輪側第2コントロールバルブ68と前輪側液圧ポンプ69との間の前輪側減圧液路85には前輪側リザーバ71が接続されている。
【0053】
−ABS制御−
図4は、本実施形態のブレーキ制御装置の要部を説明するブロック図である。一例としてブレーキECU50は、前輪2および後輪3のブレーキ液圧センサ51,52からの信号を入力し、制動時における自動二輪車1の走行状態を表す状態量としてブレーキ液圧を検出する走行状態検出部53と、前輪2および後輪3の車輪速度センサ34,35からの信号を入力し、前輪2および後輪3のそれぞれについて車輪速度の低下率が所定の閾値以上に大きくなったとき、ABS制御の第1の介入条件が成立したと判定する第1判定部54と、を備えている。
【0054】
なお、車輪速度の低下率というのは、減速時に関して所定時間内における車輪速度の低下分(絶対値)であり、本実施形態では車輪速度の差分、即ち前輪車速Vfの差分ΔVf、および後輪車速Vrの差分ΔVrを用いている。これは、車輪速度センサ34,35により所定のサンプリング周期で取得された各値のうち時間的に隣接した2つの値の差(時間的に前の値から後の値を引いたもの)を用いてもよいし、例えば時間的に隣接していない2つの値の差を用いてもよい。また、移動平均処理をしてもよい。
【0055】
また、ブレーキECU50は、減速時に関して前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差|Vf−Vr|が所定の閾値以上に大きくなったとき、車速の小さな方の車輪についてABS制御の第2の介入条件が成立したと判定する第2判定部55と、この第2判定部55または前記第1判定部54のいずれかによってABS制御の介入条件が成立したと判定されると、前記のようにブレーキ液圧系統60のコントロールバルブ61,62,67,68や液圧ポンプ63,69を動作させて、ABS制御を行うABS制御部56と、を備えている。このように第2判定部による判定条件は、第1判定部のように1つの車輪速度による判定状態と異なるものであればよく、既存の判定条件を用いることができる。
【0056】
なお、前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差|Vf−Vr|というのは絶対値であり、仮に前輪2または後輪3のいずれか一方の車輪が全く滑っていない(スリップ率が零)とすれば、他方の車輪のスリップ率に対応する値になる。一例として制動時に前輪車速Vfよりも後輪車速Vrの方が低ければ、高い方の前輪車速Vfを基準として、これに対する後輪車速Vrの偏差の絶対値|Vf−Vr|を後輪車速Vrで除算したもの(|Vf−Vr|/Vr)を後輪3のスリップ率とみなすことができる。
【0057】
さらに、本実施形態では前記第1判定部54は、以下に詳しく述べるようにエンジンECU40を経由してスロットルポジションセンサ25やクラッチスイッチ28からの信号を入力し、スロットルグリップ7やクラッチレバー9の操作状態に応じて介入判定を行うとともに、前記走行状態検出部53により検出されるブレーキ液圧の大きさによって介入判定の閾値を変更するようになっている。
【0058】
−介入判定の手法−
以下にまず、図5〜7を参照して第1判定部54によるABS制御の介入判定の手法を具体的に説明する。図6は、自動二輪車の制動特性を調べたデータの一例を表しており、これに基づいて制動特性ラインや閾値ラインを設定したテーブルの一例が図5に表されている。また、図7は、制動時における車輪速度の低下率の変化と、これに基づいて行われるABS制御の介入判定とを模式的に表した説明図である。
【0059】
ブレーキECU50のメモリ領域の一部(制動特性記憶部54a)には、自動二輪車1の前輪2および後輪3のそれぞれについて、図5に表すような制動特性の設定されたテーブルが電子的に記憶されている。このテーブルの横軸は、前輪ブレーキ36または後輪ブレーキ38のキャリパ圧であり、ABS制御が始まるまではマスタ圧と同じなので、単にブレーキ液圧Pと表している。一方、縦軸は前輪2または後輪3の車輪速度Vの低下率ΔVであり、説明の便宜上、下向きに低下率が大きくなるように表している。
【0060】
図5に二点鎖線で表した曲線Bが制動特性ラインであり、タイヤのグリップ力に余裕のある範囲で、車輪に付与されるブレーキ力の増大に応じて車輪速度Vが低下する際に、その車輪に付与されるブレーキ液圧Pの大きさと、車輪速度Vの低下率ΔVとの相関関係を表している。この制動特性ラインBは、自動二輪車1および車輪2,3に固有の制動特性を表すもので、一例として標準的な舗装路における自動二輪車1の制動時に、ブレーキ液圧Pによって車輪2,3に生じる車輪速度の低下率ΔVの標準値(標準低下率)を設定したものといえる。
【0061】
より具体的には、予め実車を用いた試験によって自動二輪車1の前輪2のブレーキ液圧Pと前輪車速の低下率ΔVfとの関係を調べている。すなわち、標準的な舗装路において自動二輪車1の運転者が前後輪2,3のブレーキを作動させたときに、前輪2側のブレーキ液圧Pと前輪2における車輪速度Vfの低下率ΔVfとをそれぞれ調べてプロットした結果、一例を図6に表すようなグラフが得られる。このグラフには、ブレーキ液圧Pが大きいほど車輪速度Vfの低下率ΔVfも大きくなる、という右下がりの特性が表れている。なお、ブレーキ液圧Pが同じであっても低下率ΔVfがばらついているのは、運転者による前後ブレーキ操作の緩急の相違や路面状況、前後輪2,3の接地荷重等の相違による。
【0062】
図6のデータにおいてブレーキ液圧Pが所定値よりも小さいときは、ブレーキディスク38Aとブレーキキャリパ38Bとのクリアランスまたは滑りが大きくて、後輪3に付与するブレーキ力との相関が悪くなるので、このようなデータを除いた上で適切な多項式近似をすることで、二点鎖線で表されるようにブレーキ液圧Pが大きいほど車輪速度Vfの低下率ΔVfも大きくなる制動特性ラインBが得られる。この制動特性ラインBの近傍からその上側の領域(相対的に車輪速度の低下率ΔVfが小さな領域)にかけては、前輪2のタイヤのグリップ力に余裕があり、ロックする心配はないといえる。一方、制動特性ラインBから下側に離れるほど、車輪速度の低下率ΔVfは大きくなっており、前輪2のロック傾向が強くなる。
【0063】
一般的なゴムタイヤの特性として、路面との間に若干の滑りがあるときにグリップ力が最大になるものの、この状態を超えると滑りが加速度的に大きくなってロックしてしまうことは知られている。そこで、図5に実線Tで表すように前記制動特性ラインBの下方に適当な間隔を空けて、ABS制御の介入判定のための閾値ラインを設定している。この閾値ラインTは、制動特性ラインBと同様に右下がりの曲線とされており、この閾値ラインよりも下側の領域では車輪がロックしていると考えられる。
【0064】
ここで、制動特性ラインBと閾値ラインTとの間隔が狭すぎると、摩擦係数の高い路面において運転者が非常に急なブレーキ操作を行った場合には、車輪速度の低下率ΔVfが大きくなって閾値を超えてしまうおそれがあり、こうなると誤ったABS制御の介入が行われる。そこで、そのような急ブレーキとは区別できる範囲において、できるだけ閾値を小さく(図において上側の制動特性ラインBに近づくように)設定している。
【0065】
また、閾値ラインTが制動特性ラインBと同じく右下がりとされているので、ブレーキ液圧Pが小さいほど、介入判定の閾値である車輪速度の低下率ΔVfも小さな値(図5において上側の値)になる。このため、例えば砂利道やぬかるみのようなタイヤと路面との摩擦係数の低い悪路、低μ路において、比較的小さなブレーキ液圧Pにもかかわらず車輪がロックしそうになると、車輪速度の低下率ΔVfが比較的小さなうちに、つまり早めにABS制御が介入するようになる。
【0066】
模式的に図7(a)に表すように、タイヤと路面との摩擦係数の高い良路では、ブレーキ液圧Pがかなり高くなるまで車輪はグリップ限界内に留まっており(制動特性ラインBに沿う矢印Gで表す)、それでもグリップ限界を超えるような高いブレーキ液圧P1を受けると、図7に下向きの矢印L1で表すように、ブレーキ液圧Pは実質、変わらないまま車輪速度の低下率ΔVfが急増する。このままでは車輪速度がほぼ零になってロックしてしまうが、図7に表す点A1においてABS制御が介入し、ブレーキ液圧Pを低下させることによって車輪のロックを防止することができる。
【0067】
一方、低μ路においては図7(b)に模式的に表すように、良路に比べて低いブレーキ液圧P2で車輪のロック傾向が強くなり、矢印L2で示すように車輪速度の低下率ΔVfが急増する。このときには低下率ΔVfが良路の場合よりも小さな閾値A2に達したときに、即ち早めにABS制御が介入することになる。よって、低μ路において早めにABS制御を介入させることができる。
【0068】
つまり、第1判定部54によれば、車輪速度の低下率ΔVによってABS制御の介入するタイミングを判定するとともに、実験等により調べた自動二輪車1および車輪の制動特性に基づき、制動時のブレーキ液圧Pによって介入判定の閾値を変更することにより、路面状況の変化や車体姿勢の変化に対応しつつ、自動二輪車1の制動特性に合致した適切なタイミングでABS制御を介入させることができる。
【0069】
さらに、本実施形態では、前記のような車輪速度の低下率ΔVによる介入判定に加えて第2判定部55により、前輪車速Vfおよび後輪車速Vrの速度差|Vf−Vr|が大きくなったときにもABS制御の介入タイミングと判定する。制動時には前輪2および後輪3のうち車輪速度の低い方のロック傾向が強いと考えられるので、高い方の車輪速度を車速とみなせばこれとの車輪速度の差は、車輪速度の低い方の車輪のスリップ率に対応するといえる。
【0070】
つまり、第2判定部55は、従来までと同様に車輪のスリップ率に基づいてABS制御の介入判定をするものであり、その判定の閾値は一例として、一般的なゴムタイヤのグリップ力が最大になるスリップ率(ABS制御における車輪スリップ率の目標スリップ率)との偏差が所定値になるように、自動二輪車1の走行状態などに対応づけて設定されている。
【0071】
−具体的な制御手順−
以下にABS制御の具体的な手順を、後輪3について図8のフローチャート図を参照しながら説明すると、まず、スタート後のステップS1において、ABS制御の実行中であることを表すABSフラグFの値を読み込み、F=1でABS制御中であれば(NO)後述のステップS11に進む一方、F=0でABS制御中でなければ(YES)ステップS2に進む。そして、後輪ブレーキ液圧センサ52からの信号に基づいて、ブレーキペダル16が踏み操作されているか否か判定し(ブレーキ動作中?)、この判定がNOであればステップS3にてABSフラグFをリセットして(F←0)、リターンする。
【0072】
一方、前記ステップS2の判定がYES(ブレーキ動作中)と判定すればステップS4に進み、今度は変速装置18のクラッチが遮断状態か否か判定する(クラッチ遮断?)。そして、クラッチ遮断でYESであれば、後述のステップS6〜S9に進む一方、クラッチ27がエンジンEからの駆動力を伝達する状態であれば(NO)、ステップS5に進んで、エンジンブレーキの影響が強い所定時間内かどうか判定する(エンブレ影響大?)。
【0073】
すなわち、一例として自動二輪車1の運転者によってスロットルグリップ7が減速方向に急操作(時間あたりの操作量が設定値以上の場合)されたときに、それから予め設定した時間が経過したかどうか判定し、この時間内であれば(判定がYES)リターンする一方、その時間が経過していれば(判定はNO)ステップS6〜S9に進んでABS制御の介入を判定する。なお、スロットルグリップ7の操作量やクラッチ27の動作状態に関する情報は、エンジンECU40を経由して受け取ることができる。
【0074】
言い換えると、後輪3にエンジンEから動力の伝達される状態においては、スロットルグリップ7が急に閉じられて暫くの間、ABS制御の介入条件は行わない。スロットルグリップ7が急に閉じられたときには暫くの間、エンジンブレーキの影響が車輪速度の変化においても強く現れるので、その間は介入判定を行わないことでABS制御の誤介入を防止するのである。但し、クラッチ27が切られていればエンジンブレーキの影響はないので、この場合は直ちに介入判定を行うことにより、遅滞なくABS制御を介入させることが可能になる。
【0075】
そして、クラッチ遮断状態である(前記ステップS4でYES)若しくはエンジンブレーキの影響の強い期間ではない(ステップS5でNO)と判定して進んだステップS6では、後輪3の車輪速度センサ35からの信号に基づいて車輪速度Vrを計算し、これを用いて後輪3の車輪速度の低下率ΔVrを計算するとともに、前輪2の車輪速度Vfを基準として後輪3の車輪速偏差ΔVrf(=Vf−Vr)を計算する。
【0076】
続いてステップS7において、第1および第2判定部54,55のそれぞれによるABS制御の介入判定の閾値ΔVr*,ΔVrf*を読み込む。第1判定部54による介入判定の閾値ΔVr*は、図5の制動特性のテーブルにおける閾値ラインTを参照して、後輪ブレーキ液圧Pに対応する車輪速度の低下率ΔVrを読み込む。一方、第2判定部55による介入判定の閾値ΔVrf*も一例としてブレーキ液圧に対応づけて設定したテーブル(図示せず)から読み込む。
【0077】
そして、ステップS8では、後輪3の車輪速度の低下率ΔVrが閾値ΔVr*以上か否か判定する。この判定がYESであればステップS10に進む一方、判定がNOであればステップS9に進んで、後輪3の前輪2に対する車輪速偏差ΔVrfが、閾値ΔVrf*以上か否か判定する。なお、閾値ΔVrf*は正値なので、仮に後輪車速Vrが前輪車速Vfよりも高く、車輪速偏差ΔVrfが負値になる場合には、その大きさ(絶対値)に依らず判定はNOとなる。
【0078】
そして、前記ステップS9における判定もNOであればABS制御の必要はないのでリターンする一方、判定がYESであればステップS10に進む。このステップS10ではABSフラグFの値を1として(F←1)、続くステップS11でABS制御を開始する。ABS制御の具体的な手順については種々知られているので、詳しい説明は省略するが、概略を前記したように後輪側第1コントロールバルブ61および後輪側第2コントロールバルブ62の開度をデューティ制御することによって、後輪3がロックしそうになれば後輪ブレーキ38のキャリパ圧を減圧または保持する一方、これによりブレーキ力が弱くなりすぎればキャリパ圧を増圧または保持することによって、後輪3のスリップ率を目標スリップ率付近に維持し、最大限の制動力を発生させるものである。
【0079】
なお、詳しい説明は省略するが、前記のようにして開始されたABS制御は、例えば自動二輪車1の運転者がブレーキペダル16の踏み操作を止める等、予め設定されているABS制御の終了条件が成立したときに終了する。このとき、ABSフラグFはリセットされる(F←0)。また、説明は省略するが、ABS制御は前記した後輪3と同様に前輪2についても行われる。この際、前輪2の車輪速度Vfからその低下率ΔVfを計算し、後輪3の車輪速度Vrを基準として前輪2の車輪速偏差ΔVfr(=Vr−Vf)を計算する。
【0080】
上述した第1の実施形態によれば、自動二輪車1の走行中に運転者がブレーキレバー8およびブレーキペダル16を操作して、前輪2および後輪3のブレーキ36,38を動作させ、これにより前輪2および後輪3の車輪速度Vf,Vrが低下するときに、この車輪速度の低下率ΔVf,ΔVrに基づいてブレーキECU50の第1判定部54により、ABS制御の介入するタイミングを適切に判定することができる。この判定において自動二輪車1の車速は推定しないので、その推定精度の問題は生じない。
【0081】
また、車輪のロック傾向が直接的に表れる車輪速度Vf,Vrの変化それ自体によって、ABS制御の介入を判定するので、例えばブレーキ液圧のような間接的なパラメータによる場合に比べて適切なABS制御の介入判定を行い得る。ブレーキ液圧によって車輪のロック傾向を判定しようとすれば、例えばブレーキディスク36A,38Aに汚れによる影響やエンジンブレーキの影響を比較的強く受けるからである。
【0082】
図9は、本実施形態に係る自動二輪車1によって制動試験を行い、制動時における前輪車速Vfおよび後輪車速Vrのそれぞれの変化をギヤポジション、スロットル開度、クラッチ動作等に対応づけて表すとともに、後輪車速Vrの低下率ΔVrに基づいてABS制御の介入判定が行われる様子を表したタイムチャート図である。また、比較のために車輪のスリップ率が所定値以上になるか、またはブレーキ液圧が所定値以上になたときに介入判定する、従来型のABS制御の介入についても表している。
【0083】
まず、図9(c)に表れているように時刻t1でスロットルグリップ7が急に閉じられて、自動二輪車1が制動状態になると、図示しない後輪ブレーキ38の動作およびエンジンブレーキによって後輪車速Vrが低下するので(図9(a))、図9(f)に表れているように後輪車速の低下率ΔVrが急増する。このとき、図9(d)に表れているように、スロットル急閉後の所定時間はエンブレ影響大の期間なので、第1判定部54によるABS制御の介入判定は行われず、時刻t2では後輪車速の低下率ΔVrが瞬間的に閾値ΔVr*を超える(図で閾値のラインTよりも下になる)が、ABS制御は介入しない。
【0084】
この後輪車速の低下はエンジンブレーキの影響による瞬間的なもので、ABS制御が行われなくても後輪3はロックしないが、その後、時刻t3において運転者がシフトダウンを行うと(図9(b))、図9(a)に表れているように後輪3の車輪速度Vrが前輪2に比べてかなり低くなる。そして、図9(f)に表れているように、時刻t4において後輪車速の低下率ΔVrは再び閾値ΔVr*を超える。このときには、スロットル急閉から所定時間が経過しているので、第1判定部54による介入判定が行われ、ABS制御が介入する(図9(g))。
【0085】
こうして時刻t4においてABS制御が介入し、後輪3のブレーキ液圧を減圧させることにより、図9(f)に表れているように後輪車速Vrの低下率ΔVrが急減し、時刻t5では、図9(a)に表れているように後輪車速Vrの低下がほぼ止まって、ロック傾向が解消される。このため、引き続いて低下する前輪車速Vfは後輪車速Vr近づいてゆき、後輪3のスリップ率も小さくなってABS制御が終了する(時刻t6)。
【0086】
比較のために図9(h)には、同じ制動時に従来型のABS制御が介入する様子を表している。この従来型のABS制御も本実施形態と同じようなタイミングで介入しているが、図9(a)(g)(h)を併せて見ると、従来型のABS制御は前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差が殆どない時点で介入しており、介入判定においてはブレーキ液圧が一定の閾値を超えるかどうかの判断の重み付けが大きいものと考えられる。また、シフトダウンを契機に介入判定しているとも考えられる。
【0087】
そして、前記従来型のABS制御によると、時刻t7において不要なABS制御の介入が見られる。図9(a)に表れているように、時刻t7では後輪3の車輪速度Vrは前輪2とあまり変わらず、スリップ率は高くない。また、その後も前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差は大きくはならず、ABS制御は不要と考えられるが、このときに後輪3のブレーキ液圧は或る程度以上、高くなっており、従来型のABS制御によればシフトダウンをきっかけに誤った介入判定がなされてしまう。
【0088】
この点、図9(f)に表れているように時刻t7では後輪3の車輪速度の低下率ΔVrは閾値ΔVr*に達しておらず(図で閾値のラインTよりも上にある)、本実施形態のブレーキ制御装置において第1判定部54がABS制御の介入判定をすることはない。つまり、車輪のスリップ率やブレーキ液圧に基づく判定では誤まりを生じ、過剰なABS制御が行われてしまうような状況においても、本実施形態によれば、車輪速度の低下率ΔVに基づいてABS制御の介入判定を適切に行えることが判る。
【0089】
なお、前記のように本実施形態では、スロットルグリップ7が急に閉じられてから暫くの間、ABS制御の介入判定を行わないようにしているが、この時間は実験等に基づいて適切に設定すればよく、例えば短めの時間に設定すればABS制御の介入を早めることができるし、反対に長めに設定することで介入を遅らせることもできる。
【0090】
それに加えて本実施形態では、前記した第1判定部54によるABS制御の介入判定と併せて、従来同様に車輪のスリップ率に基づいて第2判定部55によりABS制御の介入判定を行うようにしている。こうして2つの判定部54,55によってABS制御の介入判定を行うことで、より早めに且つより確実にABS制御を介入させることができる。また、第1および第2判定部54,55がそれぞれ誤判定を起こしやすい状況を考慮して、相互補完的に閾値を設定すれば、過剰なABS制御の介入を防止しながら、必要に応じて遅れなく、ABS制御を介入させることができる。
【0091】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態では、第1判定部54における介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を自動二輪車1の走行状態に応じて変更するようにしており、それ以外は第1実施形態と共通なので、共通する構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0092】
本実施形態においてブレーキECU50の走行状態検出部53では、ブレーキ液圧Pの大きさやその変化に応じて、第1判定部54における介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を変更する。例えばブレーキ液圧Pの変化から運転者によって急なブレーキ操作が行われたことを検出し、これに応じて、ABS制御が介入しやすくなるように第1判定部54における介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を変更する。
【0093】
そのために、前記図8のフローチャートにおけるステップS7およびステップS8の間に新しいステップを設け、ブレーキ液圧Pの変化率に応じて、その増加率が大きいほど閾値ΔVr*を小さな値に変更するようにしている。こうすることで、車輪2,3がロックしやすい例えば急ブレーキの際に、ABS制御の介入を早めることができる。なお、この閾値ΔVr*の変更は予め設定したテーブルを参照して行えばよいが、それ以外に例えば計算によって閾値ΔVr*を変更するようにしてもよい。
【0094】
すなわち、一例として、閾値ΔVr*は、ブレーキ力に相当する値が大きくなるに連れて大きくなるように変化させてもよい。ブレーキ力に相当する値として後輪3のブレーキ液圧Prを用い、 ΔVr*∝Pr、ΔVr*=f1(Pr)、または、ΔVr*=k1×Pr として表される数式によって閾値ΔVr*を計算することができる。なお、f1(Pr)というのは変数としてPrを含む関数を意味する。k1は係数である。
【0095】
また、一例として閾値ΔVr*は、 ΔVr*=k2・(f2(Pr)−ΔVr)+k4 という数式によって計算してもよいし、 ΔVr*=k2・(k3・Pr−ΔVr)+k4 としてもよい。f2(Pr)は変数としてPrを含む関数を意味し、k2〜k4は係数である。
【0096】
また、一例として閾値ΔVr*を、ブレーキ力に相当する値の変化が大きくなるに連れて、大きくなるように変化させてもよく、後輪3のブレーキ液圧Prの変化率をΔPrとして、 ΔVr*=f3(ΔPr) としてもよいし、また、 ΔVr*=k5×ΔPr としてもよい。f3(ΔPr)は変数としてΔPrを含む関数を意味し、k5は係数である。
【0097】
さらに、前記の数式を組み合わせてもよく、この場合には一例として閾値ΔVr*を、 ΔVr*=f3(ΔPr)+k2・(f2(Pr)−ΔVr)+k4 としてもよい。
【0098】
なお、前記の数式は一例にすぎず、他の項が追加されてもよいし、いずれか一つが含まれていてもよい。また、後輪3のABS制御について説明したが、前輪2についても同様にABS制御の閾値ΔVf*を計算するようにしてもよい。
【0099】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。この第3の実施形態は、制動時に第1判定部54において計算する車輪速度の低下率ΔVf,ΔVrそのものによって、ABS制御の介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を変更する。この点を除いて第3の実施形態も前記第1実施形態と共通なので、共通する構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0100】
本実施形態では、後輪3について模式的に図10(a)に下向きの矢印L3で表すように、ブレーキ操作によって後輪車速の低下率ΔVrが増大し、制動特性ラインB上の標準低下率を超えたとき、即ち制動特性ラインBよりも下側になったときに、そのときのブレーキ液圧Pに対応する標準低下率と実際の低下率ΔVrとの差(ずれ)αに応じて、このαの値が大きいときほど、閾値ΔVr*を小さな値に変更する。この閾値ΔVr*の変更も予め設定したテーブルや数式によって行えばよい。
【0101】
こうすると、図10(b)に表すように閾値ラインTが上側に移動するので、その分、早めにABS制御の介入判定を行える(点A3として表す)。すなわち、前記のように第1判定部54において後輪車速の低下率ΔVrを計算した時点で、その低下率ΔVrの値が標準低下率から離れているほど、言い換えると、その後、後輪3がロックする可能性が高いときほど、介入判定の閾値ΔVr*が小さな値になって、より早めにABS制御の介入を判定することができる。
【0102】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。この第4の実施形態はブレーキECU50の走行状態検出部53において、以下に列挙するような種々の走行状態量に基づいて第1判定部54における介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を変更する。この点を除いて第4の実施形態も前記第1実施形態と共通なので、共通する構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0103】
具体的には、前記第2の実施形態でフローに追加した新しいステップ(図8ののフローチャートにおけるステップS7およびステップS8の間に追加するステップ)において、一例として前輪2および後輪3のブレーキ液圧Pやその変化率ΔP以外に、以下の1)、2)のような変更を行う。
【0104】
1)前輪2および後輪3の一方におけるABS制御の介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を、他方の車輪速度との速度差が大きいほど、小さな値に変更する。上述したように車輪速度の差|Vf−Vr|は、車輪速度の低い方の車輪のスリップ率に対応するといえるから、これが大きいほど即ちスリップ率が大きくてロックしやすいときほど、早めにABS制御の介入を判定することができる。
【0105】
2)また、前記車輪速度の速度差|Vf−Vr|の変化が大きいほど、ABS制御の介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を小さな値に変更するようにしてもよく、こうすれば、自動二輪車1の車輪2,3のスリップ状態の変化も考慮して、ABSの介入判定の精度をさらに向上することができる。
【0106】
さらに、以下の3)、4のような前後輪2,3の特徴を加味して、ABS制御の介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を変更するようにしてもよい。
【0107】
3)自動二輪車1においては制動時に後輪3が浮き上がり気味になって、その車輪速度Vrが車速から乖離するおそれがあるので、後輪3の車輪速度Vrの低下率ΔVrが大きいほど、前輪2の介入判定の閾値ΔVf*は小さな値に変更するようにしてもよい。
【0108】
4)また、駆動輪である後輪3についてはエンジンEや変速装置18と繋がっていればロックには至らないことが多いので、クラッチ27の動作状態に応じて閾値ΔVr*を変更するようにしてもよい。すなわち、クラッチ27が遮断状態のときには後輪3についての介入判定の閾値ΔVr*を小さな値に変更することによって、ABS制御の介入を早めることができる。
【0109】
より具体的に、例えば前輪2におけるABS制御の介入の閾値ΔVf*は、以下のような数式によって計算するようにしてもよい。すなわち、一例として、 ΔVf* = f1(ΔPf)+k2・(f2(Pf)−ΔVf)+k4 +k5×Slip+k6×Rr_DEC+k7×ΔSlip としてもよい。この数式において、Slip は前輪2のスリップ率を表し、例えば|Vr−Vf|/Vf としてもよい。また、Rr_DECは後輪車速Vrの低下率ΔVrであり、ここでは後輪3の浮き上がりを反映させるための項である。また、k6、k7は係数である。
【0110】
同様に後輪3におけるABS制御の介入の閾値ΔVr*は、以下のような数式によって計算するようにしてもよい。すなわち、一例として、 ΔVr* = f1(ΔPr)+k2・(f2(Pr)−ΔVr)+k4 +k5×Slip+k6×Δ(Vr/Ne)+k7×ΔSlip としてもよい。この数式におけるΔ(Vr/Ne)は、後輪車速Vrとエンジン回転数Neとの比率の変化を表し、クラッチ27の動作状態を反映させるための項である。
【0111】
なお、前記の数式も一例にすぎないことは勿論であり、他の項が追加されてもよいし、いずれか一つが含まれていてもよい。これらの数式を用いれば、自動二輪車1の走行状態に応じて閾値ΔVf*,ΔVr*が変化するようになり、ABS制御の介入判定の精度が向上する。
【0112】
つまり、第4の実施形態によれば、自動二輪車1の走行状態をより緻密に反映させて、ABS制御の介入するタイミングをきめ細かく変更することによって、最適なタイミングでABS制御を介入させることが可能になる。よって、自動二輪車1の制動性能を高めつつその走行安定性を向上させ、しかも運転者に違和感を与えない自然なフィーリングとすることができる。
【0113】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態について種々、説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。例えば、前記の各実施形態では、ブレーキECU50の第1または第2判定部54,55のいずれかが介入判定したときにABS制御を開始するようにしているが、これに限らず、第1および第2判定部54,55の双方が介入判定したときに、ABS制御を開始するようにしてよい。こうすればABS制御の過剰な介入を抑制しやすい。
【0114】
また、ブレーキECU50には少なくとも第1判定部54を有していればよく、第2判定部55は設けなくてもよい。また、第2の判定部55として、前記各実施形態のように前後輪2,3の車輪速度差|Vf−Vr|に関連した値によって介入判定するのではなく、それ以外に例えばブレーキ液圧などによって判定するものを設けてもよい。つまり、ABS制御の介入条件には、第1判定部による車輪速度の低下率ΔVに基づく第1の条件が含まれていればよい。
【0115】
なお、前記の「ブレーキ液圧など」というのは、具体的に、例えば前輪2については前輪2のブレーキ液圧センサ51からの信号を、また、後輪3については後輪3のブレーキ液圧センサ52からの信号を用いればよい。ブレーキ液圧は、キャリパ圧、マスタ圧のいずれであってもよい。ブレーキ液圧以外にブレーキレバー8やブレーキペダル16の操作量を用いてもよく、ブレーキパッドの移動量を用いてもよい。即ち、運転者によるブレーキ量指令情報を含むものであればよい。
【0116】
また、車輪に付与するブレーキ力は、例えばエンジンブレーキであってもよく、現在速度、エンジン状態に基づいて、発生するであろうエンジンブレーキ力をブレーキ力として設定してもよい。すなわち、前記各実施形態では前後輪2、3のロックを防止するためにブレーキ液圧を調整するようにしているが、他の手段で前後輪2、3のロックを防止するようにしてもよい。例えば駆動輪である後輪3のロックを防止する場合、可能であれば、エンジンブレーキの大きさを調整してもよい。また、電気自動車であれば走行用モータの回生制動量を調整してもよい。
【0117】
また、前記の各実施形態では、ブレーキECU50の第1判定部54において制動特性テーブルを参照し、ブレーキ液圧Pに対応して閾値ΔVf*,ΔVr*を変更するようにしているが、これに限らず閾値ΔVf*,ΔVr*はブレーキ液圧Pに依らず一定としてもよい。こうすれば、ブレーキ液圧を検出するためのセンサ51,52が故障しても問題が生じないし、液圧式ブレーキ以外にも本発明を適用可能になる。なお、前記の各実施形態においてブレーキ液圧センサ51,52が故障したときに、閾値ΔVf*,ΔVr*を一定値にするようにしてもよい。
【0118】
また、前記の各実施形態では、変速装置18のクラッチ27の動作状態を検出するためのクラッチスイッチ28を備えているが、これにも限定されず、一例を挙げればクラッチ27の作動状態は、油圧式クラッチであれば油圧センサの信号から検出することも可能である。また、クラッチ27の作動状態は、エンジン回転数の変化によって検出することも可能である。すなわち、駆動輪速度と動力回転速度との比が、想定されるギヤ比に比べて大きく変化することによってクラッチの作動を検出することができる。
【0119】
また、前記の各実施形態では、スロットルグリップ7が減速方向に急操作されたとき、予め設定した時間が経過するまではABS制御の介入判定を行わないようにしているが、この時間は自動二輪車1の運転状態に応じて変更するようにしてもよいし、時間の経過だけでなく例えばエンジン回転数、走行速度などの所定の情報に基づいて介入判定を行わない期間を終了させるようにしてもよい。さらに、所定時間を零としてもよい。
【0120】
また、前記の各実施形態では、自動二輪車1の前後輪2,3の双方でABS制御を行うようにしているが、前後輪2,3のいずれか一方でのみABS制御を行うようにした場合でも、本発明を適用することは可能である。
【0121】
また、図示は省略するが、前記各実施形態において自動二輪車1には、ABS制御の介入条件を設定するために運転者が操作するスイッチなど(設定操作部材)を設け、このスイッチなどの操作に応じてABS制御の介入判定の閾値を変更するようにしてもよい。
【0122】
また、前記の各実施形態では、単一のブレーキECU50によって走行状態検出部53、第1および第2の判定部54,55、並びにABS制御部56の全てを構成しているが、これは別々のECUによって構成してもよい。すなわち、図11に一例を表すように走行状態検出部53と第1および第2の判定部54,55とを有する第1ECU57と、ABS制御部56を有する第2ECU58とを備えて、両者を協働させるようにしてもよい。
【0123】
こうすると、ABS制御の介入判定の制御は車種毎に最適化しながら、介入後のABS制御については共通化することで、開発コストを抑えることが可能になる。ABS制御部56を構成する第2ECU58については、より汎用性の高いシステムを利用して実現することができる。
【0124】
なお、図示は省略するが、第2判定部55は、第1ECU57が有していてもよい。この場合、第1ECU57は、エンジンEの点火制御や燃料噴射制御を実行するエンジン制御ECUであってもよい。一例として第2ECU58は、ABS制御の実施状況・ABS制御の実施条件満足(スリップ率)を第1ECU57に伝えるとともに、第1ECU57からABS制御の実施・解除指令が与えられると、ABS制御を実施・解除するようにしてもよい。また、第1ECU57でも独自にABS制御の実施条件を判断し、第2ECU58に伝えるようにしてもよい。ABS制御の実行中の動作(制動・制動解除)は第2ECU58が実施するようにしてもよい。
【0125】
また、図示は省略するが、自動二輪車1に、前後サスペンションのばね力および減衰力の少なくとも一方を制御可能なサスペンション制御装置を備えるか、若しくはエンジンECU40に、後輪3の空転(ホイールスピン)を防止するようにエンジン出力を制御するトラクション制御部を備えている場合には、それらのサスペンション制御装置およびエンジンECU40のトラクション制御部の少なくとも一方に、ブレーキECU50からABS制御の介入判定に関する情報を提供するようにしてもよい。例えばABS制御の介入するときに、サスペンション制御によって車両の姿勢を変化させ、ロック傾向の強い車輪の接地荷重を大きくするといった協調制御が実現可能になる。
【0126】
また、一例として前記第1ECU57を、インターフェースから、トラコンモード、乗員情報、走行情報、ABS動作状態などの運転者から与えられる情報を入手し、入手した情報に応じてABS実施条件を調整してもよい。トラコンモードは、前記トラクション制御の実行モードであり、例えばトラコンモード大の場合、ABS制御の閾値は小さくしてもよい。乗員情報(重さ)小の場合にABS制御の閾値を小さくしてもよい。燃費重視ではなく出力重視の場合、ABS制御の閾値を小さくしてもよい。市街地モードではなくサーキット走行モード(高μ路モード)の場合、ABS制御の閾値は大きくしてもよい。同様にエンジン回転数、ギヤ比、スロットル開度などの走行状態を示す情報を入手し、入手した情報に応じてABS制御の介入条件を調整してもよい。
【0127】
また、一例として前記第1ECU57は、自動二輪車1の走行中に路面とタイヤとの間の摩擦係数の高低を推定し、この推定結果に応じてABS制御の介入条件を調整してもよい。路面とタイヤとの間の摩擦係数は、自動二輪車1の走行中に駆動輪である後輪3のスリップ率が変化する様子から、スリップ率の変化が大きいときほど摩擦係数が低く、スリップ率の変化が小さいときほど摩擦係数が高いというように推定できる。なお、後輪3のスリップ率は例えば|Vf−Vr|/Vrとすればよい。
【0128】
さらに、図示は省略するが、前記第1ECU57の機能を有するECUを、エンジンECU40とは別に設けてもよく、それぞれ個別に設けたエンジンECU40、ABSECU、サスペンション制御装置のECUに動作指令を与えて、それらを統合的に制御するように構成してもよい。
【0129】
さらにまた、注目する第1時点の車速を第1車速v1とし、第1時点から予め定める時間経過した第2時点の車速をv2として、減速走行状態(v1>v2)において以下の式を満足する場合にABS制御が介入するようにしてもよい。 (v1−v2)≧Δv* ここで、Δv*は予め定められる閾値であって、ブレーキ力に拘わらずに一定値であってもよい。上述した実施形態と同じようにABS制御の介入判定には、スロットル急閉時のように例外の期間を設けてもよく、この例外の例外としてエンジンブレーキが発生しないときにはABS制御の介入判定を行うようにしてもよい。
【0130】
また、前記の各実施形態では本発明を自動二輪車1に適用した場合について説明したが、本発明は例えば四輪の自動車や、運転者がシートに跨がった状態で運転する鞍乗型車輌のいずれにも適用可能である。特に、重心が高くピッチングモーションを起こして前後輪のいずれかが浮きやすい車両、重量に比べて出力が過剰な場合があり前輪が浮き上がりやすい車両、また、軽量で車輪が路面から浮き上がりやすい車両(具体的には軽量車両、鞍乗型車両)は、前後輪の車速差を用いることなくABS介入判断できる本発明がより好適に適用できる。鞍乗型車輌には自動二輪車は勿論、ATV(All Terrain Vehicle)などが含まれる。また、車両の駆動源はエンジンEに限らず、例えば電動モータであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のブレーキ制御装置は、車両の減速時にABS制御の介入する適切なタイミングを車輪速度の低下率に基づいて判定することができ、車速の推定が難しい自動二輪車において特に有用である。
【符号の説明】
【0132】
1 自動二輪車(車両)
2 前輪(車輪)
3 後輪(車輪:駆動輪)
7 スロットルグリップ(アクセル操作部材)
50 ブレーキECU
53 走行状態検出部
54 第1判定部(介入判定部)
54a 制動特性記憶部
55 第2判定部(介入判定部)
56 ABS制御部(ブレーキ力制御部)
E エンジン(駆動源)
B 制動特性ライン(ブレーキ力によって車輪に生じる車輪速度の標準低下率)
T 閾値ライン(ABS制御の介入判定の閾値)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動時に車輪のロックを防止するように、当該車輪に付与するブレーキ力を調整するブレーキ制御装置に関し、特にその制御を適切なタイミングで介入させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の制動時には車輪に付与されるブレーキ力によってタイヤと路面とのグリップが失われ、車輪の回転がほぼ停止することがある(ブレーキロック或いは単にロックという)。車輪はロックすると方向性を失うので、ステアリング操作が効かなくなったり、車体の姿勢が崩れるなどといった不具合を生じる。
【0003】
このような車輪のロックを防止するために、当該車輪に付与するブレーキ力を調整するアンチロックブレーキ制御(以下、この明細書においてABS制御と略称する)は知られている。すなわち、制動時に車輪のスリップ率ないしその変化が大きくなってロック傾向が強いと判定すれば、ABS制御が介入する。例えば自動二輪車の場合は、ABS制御の介入は前輪と後輪との車輪速度の差から求められるスリップ率に基づいて判定されるが、こうしてスリップ率を計算する精度の問題でABS制御の介入が適切なタイミングで行われないことがあった。
【0004】
すなわち、自動二輪車において減速時には、前輪および後輪の車輪速度のうちの高い方を基準とし、車輪速度の低い方の車輪のスリップ率を求めることになるが、急減速時に後輪が浮き上がり気味になると、これに起因してスリップ率の計算に誤りを生じることがある。
【0005】
これに対し特許文献1に記載のABS制御では、前記のような後輪の浮き上がりによって誤りの起きることを防ぐために、減速時における所定の状態では後輪の車輪速度以外のパラメータに基づいてスリップ率を計算するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−296908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら前記従来例の技術は、自動二輪車の急減速時に後輪が浮き上がり気味になった特異な状況においてのみ有効なものであり、制動時のスリップ率の計算の精度を全般的に向上し得るものではない。
【0008】
また、スリップ率の計算精度の不足を補うために、例えばブレーキ液圧等、車輪に付与されるブレーキ力の大きさを加味してABS制御の介入判定を行うことも考えられるが、ブレーキ力の大きさは車輪のロック傾向を間接的に表すのみで、スリップ率のように直接的に表すものではない。よって、ブレーキ力を加味しただけでは、ABS制御の介入に適切なタイミングを判定できるとは言い難い。
【0009】
かかる点から本発明の目的は、制動時の車輪のロック傾向を直接的に検出し、より適切なABS制御の介入判定を行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成すべく本発明に係るブレーキ制御装置は、まず、車両の制動時に車輪のロックを防止するように、当該車輪に付与するブレーキ力を調整する、いわゆるABS制御を行うものである。そして、前記車輪の回転速度である車輪速度の低下率が所定の閾値以上であることを含む、ABS制御の介入条件が成立したか否かを判定する介入判定部と、この介入判定部によって前記介入条件の成立が判定されると、ABS制御による前記車輪へのブレーキ力の調整を開始するブレーキ力制御部と、を備えている。
【0011】
前記の構成により、車両の制動時にブレーキ力によって車輪速度が低下するときに、その低下率、即ち所定時間内に低下した車輪速度の大きさ(絶対値)が閾値以上であると、車輪のロック傾向が強いと判断して、ABS制御の介入するタイミングであると判定することができる。この判定に必要なのはロック検出対象の車輪の車輪速度の低下率だけで、ロック検出対象でない車輪に関する情報は必要ないから、この非ロック検出対象の車輪情報に誤りが生じても、ロック検出対象の車輪のロック判定に影響を及ぼすことを防止できる。このことから例えば自動二輪車の場合に前後輪の両方の車輪速度が必要なスリップ率に比べて、ABS制御の介入するタイミングをより精度よく判定できる場合がある。
【0012】
また、液圧式ブレーキ装置におけるブレーキ液圧のような間接的なパラメータではなく、ロック傾向を直接的に表す車輪速度の変化それ自体によってABS制御の介入を判定するので、例えばブレーキ装置の効きの変化や駆動系(エンジンや変速機)の慣性などの影響を受け難く、この点でもABS制御の介入判定を適切に行う上で優位性がある。
【0013】
なお、「車輪速度の低下率」というのは前記したように、制動時に時間の経過とともに値が小さくなる車輪速度の、所定時間における低下量の絶対値を意味し、例えば車輪速度の低下率が異なる二つの場合について説明すると、同じ時間内に車輪速度がより低くなった方の「低下率が大きい」ことになる。
【0014】
前記のようなABS制御の介入判定をさらに好適なものとするために、車両の減速時にアクセル操作部材が運転者により減速方向に急操作された場合は所定期間、前記介入条件が成立したか否かの判定を行わないようにしてもよい。すなわち、アクセル操作部材が急操作されてから暫くの間、車輪速度の低下率には、例えばエンジンブレーキなどのような駆動源(エンジン以外の例えば電動モータも含む)の減速による影響が強く現れるので、その間は介入判定を行わないことによってABS制御の誤った介入を防止することができる。
【0015】
但し、車両において駆動輪と駆動源との間に例えばクラッチのような動力断接要素(動力を伝達する接続状態と遮断する遮断状態とに切換え可能なもの)が設けられている場合は、前記アクセル操作部材の急操作から所定期間内であっても前記クラッチが遮断状態になればABS制御の介入判定を行うようにしてもよい。クラッチが遮断状態になれば、前記のエンジンブレーキのような駆動源の減速の影響を受けなくなって、遅滞なくABS制御の介入判定を行うことができる。
【0016】
また、制動時の車両の走行状態を検出する走行状態検出部を備え、これにより検出される車両の走行状態に基づいてABS制御の介入判定の閾値を変更するようにしてもよく、こうすれば、車両の走行状態の変化に対応して、より適切な判定が行える。走行状態としてはブレーキ力やその変化率、車輪のスリップ率、車速等が考えられるが、一例として車両の制動時に前記車輪に付与されるブレーキ力を検出し、このブレーキ力が小さいほどABS制御の介入判定の閾値を小さな値に変更するようにしてもよい。
【0017】
すなわち、例えば舗装路のような良路と砂利道、ぬかるみのような悪路とを比較すると、悪路では比較的小さなブレーキ力であっても車輪がロックする懸念があるから、一例として舗装路に合わせて最適に設定したABS制御の介入判定の閾値(車輪速度の低下率)を、ブレーキ力が小さいときには小さな値に変更することによって、悪路でのABS制御の介入を早めることが可能になる。
【0018】
より具体的には、例えば、タイヤのグリップ力に余裕のある範囲で、車輪に付与されるブレーキ力の増大に応じて車輪速度の低下率が増大する際の両者の相関関係を、当該車輪の制動特性として記憶する制動特性記憶部をさらに備える。そして、前記介入判定部においては、前記走行状態検出部によって検出されるブレーキ力が小さいほど、前記介入判定の閾値が小さな値になるように、前記制動特性に基づいて当該閾値を変更してもよい。
【0019】
前記制動特性は、予め実車を用いた実験等により車輪毎に調べることができ、こうして調べた制動特性に基づいてABS制御の介入判定の閾値を変更することで、より適切なタイミングでABS制御を介入させることができる。すなわち、一例として舗装路のような良路においてブレーキ力により車輪に生じる車輪速度の低下率を調べて、これを車輪速度の標準低下率としてブレーキ力に対応づけて記憶させてもよい。
【0020】
そうした場合に前記介入判定部は、走行状態検出部によって検出されたブレーキ力から前記制動特性を参照して、そのブレーキ力に対応する標準低下率を特定した上で、この標準低下率よりも車輪速度の低下率が大きい場合には、両者の差が大きいほど前記介入判定の閾値を小さな値に変更するようにしてもよい。
【0021】
こうすれば、制動時にブレーキ力による車輪速度の低下率が標準低下率を超えたときに、その低下率の値が標準低下率から離れているほど、即ち、低下率の標準低下率からのずれが大きく、車輪のロックする可能性が高いときほど、介入判定の閾値が小さな値に変更されて、より早めの即ちより適切なタイミングの介入判定が行える。
【0022】
さらに、前記介入判定部は、前記走行状態検出部によって検出されるブレーキ力の変化率が大きいほど、ABS制御の介入判定の閾値を小さな値に変更するものとしてもよい。こうすると、車輪がロックしやすい例えば急ブレーキの際にABS制御の介入が早くなるので、より適切なタイミングの介入判定が行える。
【0023】
ここで、ABS制御の介入条件には、前記した車輪速度の低下率に基づくもの(第1の条件)の他に少なくとも一つ、車輪速度の低下率以外のパラメータに基づく第2の条件を含むことが好ましい。この第2の条件は例えば従来一般的なスリップ率に基づくものとしてもよい。こうして第1および第2の条件を互いに独立に設定することで、両者が相互に影響し合うことを防ぐことができ、ABS制御を安定して行う上で有利になる。
【0024】
そして、それら第1および第2の条件の双方が成立したときに、ABS制御の介入条件が成立したと判定するようにしてもよく、こうすれば、ABS制御の過剰な介入を抑制できる。また、第1および第2の条件のいずれか一方が成立したときに、ABS制御の介入条件が成立したと判定するようにしてもよく、こうすれば、より早めに且つより確実にABS制御を介入させることができる。
【0025】
また、第1及び第2の二つの条件は別々に設計されてもよく、この場合、二つの条件の判定結果を受けてABS制御の介入を判定する統合的な制御部を設ける方が好ましい。
【0026】
また、前記の介入判定部とブレーキ力制御部とは単一のECU(コントロールユニット)によって構成することもできるが、別々のECUによって構成してもよい。こうすると、ABS制御の介入に関する制御を車種毎に最適化しながら、介入後のABS制御については共通化することで、開発コストを抑えながら車種毎に適切なABS制御を実現できる。ABS制御についてはECUを、より汎用性の高いシステムを利用して実現することが可能になる。
【0027】
さらにまた、車両には、アンチロックブレーキ制御の介入条件を設定するために運転者が操作する設定操作部材を設け、この設定操作部材の操作に応じて前記介入判定部により、ABS制御の介入判定の閾値を変更するようにしてもよい。こうすれば例えば燃費重視かまたは出力重視か、市街地走行かまたはサーキット走行か、或いは、運転者単独かまたは別の乗員が居るか、というように運転者から与えられる種々の情報に基づいて、ABS制御の介入するタイミングを適切に変えることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上、説明したように本発明によれば、車両の減速時にABS制御の介入するタイミングを車輪速度の低下率に基づいて判定することができ、高い精度で計算することの難しいスリップ率に頼ることなく、適切なタイミングでABS制御を介入させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る自動二輪車の右側面図である。
【図2】自動二輪車における制御系全体のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】自動二輪車に搭載されたブレーキ制御装置の液圧系統図である。
【図4】第1の実施形態に係るブレーキ制御装置の要部を説明するブロック図である。
【図5】自動二輪車の制動特性ラインおよびABS制御の閾値ラインを設定したテーブルの一例を示す説明図である。
【図6】自動二輪車の制動特性を調べたデータのグラフ図である。
【図7】制動時における車輪速度の低下率の変化と、これによるABS制御の介入判定とを模式的に説明した図5相当図であり、(a)は良路の場合を、また(b)は悪路の場合をそれぞれ表す。
【図8】ABS制御の具体的な手順を表したフローチャート図である。
【図9】制動時における前後輪の車輪速度、ギヤポジション、スロットルバルブやクラッチの状態に対応づけて、後輪3の車輪速度の低下率の変化とAS制御の介入とを表したタイムチャート図である。
【図10】第3の実施形態に係る図7相当図である。
【図11】第1、第2の介入判定部とABS制御部とを別々のECUによって構成した他の実施形態に係る図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の説明で用いる方向の概念は車両に乗車した運転者を基準とする。
【0031】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る自動二輪車1の右側面図である。図1に表れているように自動二輪車1は、従動輪である前輪2と、駆動輪である後輪3とを備えている。前輪2は略上下方向に延びるフロントフォーク4の下端部にて回転自在に支持されており、フロントフォーク4は上下一対のブラケット(図示せず)を介してステアリングシャフト(図示せず)に支持されている。このステアリングシャフトは車体側のヘッドパイプ5によって回転自在に支持されている。
【0032】
前記フロントフォーク4の上端を繋ぐアッパーブラケットには、左右へ延びるバー型のハンドル6が取り付けられており、このハンドル6によって運転者はフロントフォーク4および前輪2を操舵(ステア)することができる。一方、フロントフォーク4の下端部には、前輪2と一体に回転する前輪ブレーキディスク36Aを挟むようにして前輪ブレーキキャリパ36Bが支持されており、これらが前輪ブレーキ36(図2参照)を構成する。前輪ブレーキキャリパ36Bは、液圧力によって前輪ブレーキディスク36Aに押し付けられるピストン(図示せず)を備えている。
【0033】
ハンドル6の右端には、運転者の右手により把持されるスロットルグリップ7(アクセル操作部材)が設けられており、手首のひねりによってスロットルグリップ7を回転させることで、後述するスロットル装置17(図2参照)を操作することができる。スロットルグリップ7の前方には主に前輪ブレーキ36を操作するためのブレーキレバー8が設けられている。一方、ハンドル6の左端には運転者の左手により把持されるグリップの前方に、後述するクラッチ27(図2参照)を操作するためのクラッチレバー9(図2参照)が設けられている。
【0034】
前記のヘッドパイプ5からは左右一対のメインフレーム10が若干下方に傾斜しながら後方へ延びており、その各メインフレーム10の後部にそれぞれピボットフレーム11が接続されている。このピボットフレーム11には、略前後方向に延びるスイングアーム12の前端部が揺動可能に支持されており、このスイングアーム12の後端部に後輪3が回転自在に支持されている。また、スイングアーム12の後端部には、後輪ブレーキディスク38Aを挟むように後輪ブレーキキャリパ38Bが支持されて、後輪ブレーキ38(図2参照)を構成している。
【0035】
前記メインフレーム10の上部には、ハンドル6の付近から後方に向かって燃料タンク13が設けられており、その後方に運転者が騎乗するためのシート14が設けられている。このシート14の下方には左右両側に運転者が足を載せるためのステップ15が設けられており、右側のステップ15の下方から前方へ延びるようにブレーキペダル16が設けられている。ブレーキペダル16の後端部はステップステーなどに軸支されており、このブレーキペダル16を運転者が足で踏み込むことで、主に後輪ブレーキ38を作動させることができる。
【0036】
また、前記メインフレーム10の下部には、このメインフレーム10およびピボットフレーム11に支持された状態でエンジンEが搭載されている。一例としてエンジンEは並列4気筒エンジンであり、その後側にスロットル装置17(図2参照)が接続されている。エンジンEの出力は、クランクケースに一体的に設けられた変速装置18(図2参照)からチェーンなどの伝動部材を介して後輪3に伝達される。
【0037】
−制御系全体のシステム構成−
図2は、図1の自動二輪車1に搭載された制御系全体のシステム構成を示すブロック図である。図2に示すようにスロットル装置17は、エンジンEの吸気通路20においてエアクリーナ19の吸気下流側に設けられている。このスロットル装置17は、メインスロットルバルブ21と、その吸気上流側に配置されたサブスロットルバルブ22とを有している。メインスロットルバルブ21は、スロットルワイヤー23を介してスロットルグリップ7に接続されており、運転者によるスロットルグリップ7の操作に連動して開閉する。
【0038】
また、スロットル装置17には、メインスロットルバルブ21の開度を検出するスロットルポジションセンサ25が設けられており、こうしてメインスロットルバルブ21の開度を検出することは、それと機械的に連動するスロットルグリップ7の操作量(運転者により操作されるアクセル操作部材の操作量)を検出することにもなる。
【0039】
サブスロットルバルブ22は、一例として電動モータからなるバルブアクチュエータ24に接続されており、このバルブアクチュエータ24がECU40からの信号を受けて動作することで、吸気通路20の断面積(スロットル開度)を連続的に変更する。また、スロットル装置17には、エンジンEの複数の気筒毎に対応して設けられた複数の分岐通路にそれぞれ燃料を噴射するように複数のインジェクタ31が設けられている。これらのインジェクタ31から噴射された燃料はエンジンEの各気筒内において空気と混合される。こうして形成される混合気に点火するために、各気筒毎に点火プラグおよび点火回路からなる点火装置26が設けられている。
【0040】
また、前記の如くエンジンEと一体的に設けられた変速装置18には、クランク軸からの駆動力を伝達するか、または遮断するかのいずれかの状態に切換えられるクラッチ27が設けられている。このクラッチ27にワイヤー等によって接続されているクラッチレバー9が運転者により把持されると、クラッチ27は動力を遮断する状態になり、クラッチレバー9が離されると動力を伝達する状態になる。クラッチレバー9には、その操作(把持されたか否か)を検出可能なクラッチスイッチ28が設けられている。
【0041】
詳細は図示しないが変速装置18は、互いに平行な入力軸および出力軸を備え、それぞれのギヤ列を噛み合わせるようにした二軸式のものであって、前記クラッチ27の動力遮断状態において入力軸および出力軸のギヤの組み合わせを変更することにより、変速段(ギヤポジション)を変更可能に構成されている。このギヤポジションを検出するためのギヤポジションセンサ29が変速装置18に設けられている一方、エンジンEには、クランク軸の回転速度(エンジン回転数)を検出するためのエンジン回転数センサ30が設けられている。
【0042】
前記したスロットルポジションセンサ25、クラッチスイッチ28、ギヤポジションセンサ29、およびエンジン回転数センサ30等は、それぞれエンジンECU40に接続されている。エンジンECU40は、マイコン等の演算装置や各種のメモリ等より構成されていて、前記各センサ25,29,30およびスイッチ28から入力される信号に基づいて、エンジンEの運転制御のための吸気量、燃料噴射量、点火時期等の演算を行うエンジン制御演算部41を備えている。また、エンジンECU40は、エンジン制御演算部41における演算結果に基づいて点火装置26、インジェクタ31、およびサブスロットルバルブ22のバルブアクチュエータ24をそれぞれ制御する点火制御部42、燃料制御部43、およびスロットル制御部44を備えている。
【0043】
−ブレーキ制御装置−
本実施形態の自動二輪車1は、公知のアンチロックブレーキシステム(ABS)として機能するブレーキ制御装置を備えている。マイコン等の演算装置やメモリ等より構成されたブレーキECU50には、ブレーキレバー8の操作によって発生する前輪ブレーキ液圧を検出する前輪ブレーキ液圧センサ51と、同じくブレーキペダル16の操作による後輪ブレーキ液圧を検出する後輪ブレーキ液圧センサ52と、前輪2の回転速度からその車輪速度(前輪車速)を検出する前輪車速センサ34と、後輪3の回転速度からその車輪速度(後輪車速)を検出するための後輪車速センサ35と、がそれぞれ接続されている。なお、車輪速度は、回転角速度に車輪の周長を掛け合わせて求められる。
【0044】
また、ブレーキECU50には、前記エンジンECU40が信号の授受可能に接続されているとともに、以下に詳しく説明するようにブレーキ液圧系統60のコントロールバルブ61,62,67,68や液圧ポンプ63,69の電動モータ66がそれぞれ接続されており、前記各センサ34,35、51,52およびエンジンECU40から入力される信号などに基づいて、車輪のロック傾向が強くなりABS制御の介入条件が成立したと判定すれば、ブレーキ液圧系統60を制御して、前輪2および後輪3のそれぞれのブレーキ36,38の液圧を増減させて、当該前輪2および後輪3に付与するブレーキ力を調整する(ABS制御)。
【0045】
図3は、本実施形態におけるブレーキ液圧系統60を表しており、左側には、ブレーキレバー8の操作に応じて前輪ブレーキ36のキャリパ36Bにブレーキ液圧を供給し、これにより前輪2にブレーキ力を付与する前輪側のブレーキ液圧系統を表している。同様に右側には、ブレーキペダル16の操作に応じて後輪ブレーキ38のキャリパ38Bにブレーキ液圧を供給し、これにより前輪3にブレーキ力を付与する後輪側のブレーキ液圧系統を表している。前輪側および後輪側のブレーキ液圧系統の基本的な構成は同じなので、以下、後輪側について説明する。
【0046】
後輪側のブレーキ液圧系統においてブレーキペダル16は、後輪ブレーキマスタシリンダ39に連結されており、そのブレーキペダル16の踏力圧に応じたブレーキ液圧(マスタ圧)を発生する。このブレーキ液圧が後輪側の主液路81によって後輪ブレーキキャリパ38Bのピストンに供給される。後輪側主液路81の途中には後輪側第1コントロールバルブ61が介設されており、ブレーキECU50からの信号を受けて開閉されて、後輪側主液路81を連通状態又は遮断状態に切換える。
【0047】
また、その後輪側第1コントロールバルブ61と後輪ブレーキキャリパ38Bとの間で後輪側主液路81から後輪側減圧液路82が分岐している。後輪側減圧液路82の下流端は後輪側液圧ポンプ63の吸込み側に接続されており、その途中には後輪側第2コントロールバルブ62と後輪側リザーバ65とが介設されている。後輪側第2コントロールバルブ62はブレーキECU50からの信号を受けて開閉され、後輪側減圧液路82を連通状態又は遮断状態に切換える。
【0048】
一例として前記後輪側第1コントロールバルブ61は、2ポート2位置の常開型の電磁弁であり、また、後輪側第2コントロールバルブ62は2ポート2位置の常閉型の電磁弁である。よって、通常は運転者によるブレーキペダル16の踏み操作に応じて、後輪ブレーキマスタシリンダ39で発生したブレーキ液圧(マスタ圧)が開状態の後輪側第1コントロールバルブ61を介して後輪ブレーキキャリパ38Bに供給される。これにより、ブレーキペダル16の踏み操作に対応する制動力が後輪3に加えられる。
【0049】
一方、ブレーキECU50からの信号を受けて後輪側第1コントロールバルブ61および後輪側第2コントロールバルブ62がそれぞれデューティ制御されることで、後輪ブレーキキャリパ38Bのブレーキ圧(キャリパ圧)が保持或いは減圧され、後輪3のブレーキ力が調整される。例えば後輪側第2コントロールバルブ62を閉じたまま、後輪側第1コントロールバルブ61も閉じれば、後輪ブレーキ38のキャリパ圧を保持することができ、後輪側第2コントロールバルブ62を開いて後輪ブレーキキャリパ38Bを後輪側リザーバ65に連通させれば、キャリパ圧を減少させることができる。
【0050】
さらに、前記後輪側液圧ポンプ63の吐出口には後輪側加圧液路83が接続されており、この後輪側加圧液路83の下流端は、後輪ブレーキマスタシリンダ39と後輪側第1コントロールバルブ61との間で後輪側主液路81に接続されている。また、後輪側加圧液路83の途中には後輪側ワンウェイバルブ64が介設されている。ブレーキECU50からの信号を受けて電動モータ66が動作すると、後輪側液圧ポンプ63が駆動されて後輪側加圧液路83のブレーキ液圧が増圧され、これにより後輪ブレーキ38のキャリパ圧も増圧させることができる。
【0051】
前記した後輪側ブレーキ液圧系統と同様に、図2の左側に表れている前輪側ブレーキ液圧系統にも、ブレーキレバー8の操作に応じてブレーキ液圧(マスタ圧)を発生する前輪ブレーキマスタシリンダ37と、このブレーキ液圧を前輪ブレーキキャリパ36Bに供給する前輪側の主液路84と、その途中から分岐して前輪側液圧ポンプ69の吸込み側に至る前輪側減圧液路85と、前輪側液圧ポンプ69の吐出口から前輪側主液路83までを繋ぐ前輪側加圧液路86と、が設けられている。
【0052】
そして、前記前輪側主液路84、前輪側減圧液路85および前輪側加圧液路86には、それぞれ前輪側第1コントロールバルブ67、前輪側第2コントロールバルブ68および前輪側ワンウェイバルブ70が介設されており、ECU50からの信号を受けて前記前輪側液圧ポンプ69が駆動され、前輪側第1コントロールバルブ67および前輪側第2コントロールバルブ68がそれぞれデューティ制御されることで、前輪ブレーキキャリパ36Bのブレーキ圧(キャリパ圧)が保持、減圧或いは増圧され、前輪2のブレーキ力が調整されるようになっている。なお、前輪側第2コントロールバルブ68と前輪側液圧ポンプ69との間の前輪側減圧液路85には前輪側リザーバ71が接続されている。
【0053】
−ABS制御−
図4は、本実施形態のブレーキ制御装置の要部を説明するブロック図である。一例としてブレーキECU50は、前輪2および後輪3のブレーキ液圧センサ51,52からの信号を入力し、制動時における自動二輪車1の走行状態を表す状態量としてブレーキ液圧を検出する走行状態検出部53と、前輪2および後輪3の車輪速度センサ34,35からの信号を入力し、前輪2および後輪3のそれぞれについて車輪速度の低下率が所定の閾値以上に大きくなったとき、ABS制御の第1の介入条件が成立したと判定する第1判定部54と、を備えている。
【0054】
なお、車輪速度の低下率というのは、減速時に関して所定時間内における車輪速度の低下分(絶対値)であり、本実施形態では車輪速度の差分、即ち前輪車速Vfの差分ΔVf、および後輪車速Vrの差分ΔVrを用いている。これは、車輪速度センサ34,35により所定のサンプリング周期で取得された各値のうち時間的に隣接した2つの値の差(時間的に前の値から後の値を引いたもの)を用いてもよいし、例えば時間的に隣接していない2つの値の差を用いてもよい。また、移動平均処理をしてもよい。
【0055】
また、ブレーキECU50は、減速時に関して前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差|Vf−Vr|が所定の閾値以上に大きくなったとき、車速の小さな方の車輪についてABS制御の第2の介入条件が成立したと判定する第2判定部55と、この第2判定部55または前記第1判定部54のいずれかによってABS制御の介入条件が成立したと判定されると、前記のようにブレーキ液圧系統60のコントロールバルブ61,62,67,68や液圧ポンプ63,69を動作させて、ABS制御を行うABS制御部56と、を備えている。このように第2判定部による判定条件は、第1判定部のように1つの車輪速度による判定状態と異なるものであればよく、既存の判定条件を用いることができる。
【0056】
なお、前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差|Vf−Vr|というのは絶対値であり、仮に前輪2または後輪3のいずれか一方の車輪が全く滑っていない(スリップ率が零)とすれば、他方の車輪のスリップ率に対応する値になる。一例として制動時に前輪車速Vfよりも後輪車速Vrの方が低ければ、高い方の前輪車速Vfを基準として、これに対する後輪車速Vrの偏差の絶対値|Vf−Vr|を後輪車速Vrで除算したもの(|Vf−Vr|/Vr)を後輪3のスリップ率とみなすことができる。
【0057】
さらに、本実施形態では前記第1判定部54は、以下に詳しく述べるようにエンジンECU40を経由してスロットルポジションセンサ25やクラッチスイッチ28からの信号を入力し、スロットルグリップ7やクラッチレバー9の操作状態に応じて介入判定を行うとともに、前記走行状態検出部53により検出されるブレーキ液圧の大きさによって介入判定の閾値を変更するようになっている。
【0058】
−介入判定の手法−
以下にまず、図5〜7を参照して第1判定部54によるABS制御の介入判定の手法を具体的に説明する。図6は、自動二輪車の制動特性を調べたデータの一例を表しており、これに基づいて制動特性ラインや閾値ラインを設定したテーブルの一例が図5に表されている。また、図7は、制動時における車輪速度の低下率の変化と、これに基づいて行われるABS制御の介入判定とを模式的に表した説明図である。
【0059】
ブレーキECU50のメモリ領域の一部(制動特性記憶部54a)には、自動二輪車1の前輪2および後輪3のそれぞれについて、図5に表すような制動特性の設定されたテーブルが電子的に記憶されている。このテーブルの横軸は、前輪ブレーキ36または後輪ブレーキ38のキャリパ圧であり、ABS制御が始まるまではマスタ圧と同じなので、単にブレーキ液圧Pと表している。一方、縦軸は前輪2または後輪3の車輪速度Vの低下率ΔVであり、説明の便宜上、下向きに低下率が大きくなるように表している。
【0060】
図5に二点鎖線で表した曲線Bが制動特性ラインであり、タイヤのグリップ力に余裕のある範囲で、車輪に付与されるブレーキ力の増大に応じて車輪速度Vが低下する際に、その車輪に付与されるブレーキ液圧Pの大きさと、車輪速度Vの低下率ΔVとの相関関係を表している。この制動特性ラインBは、自動二輪車1および車輪2,3に固有の制動特性を表すもので、一例として標準的な舗装路における自動二輪車1の制動時に、ブレーキ液圧Pによって車輪2,3に生じる車輪速度の低下率ΔVの標準値(標準低下率)を設定したものといえる。
【0061】
より具体的には、予め実車を用いた試験によって自動二輪車1の前輪2のブレーキ液圧Pと前輪車速の低下率ΔVfとの関係を調べている。すなわち、標準的な舗装路において自動二輪車1の運転者が前後輪2,3のブレーキを作動させたときに、前輪2側のブレーキ液圧Pと前輪2における車輪速度Vfの低下率ΔVfとをそれぞれ調べてプロットした結果、一例を図6に表すようなグラフが得られる。このグラフには、ブレーキ液圧Pが大きいほど車輪速度Vfの低下率ΔVfも大きくなる、という右下がりの特性が表れている。なお、ブレーキ液圧Pが同じであっても低下率ΔVfがばらついているのは、運転者による前後ブレーキ操作の緩急の相違や路面状況、前後輪2,3の接地荷重等の相違による。
【0062】
図6のデータにおいてブレーキ液圧Pが所定値よりも小さいときは、ブレーキディスク38Aとブレーキキャリパ38Bとのクリアランスまたは滑りが大きくて、後輪3に付与するブレーキ力との相関が悪くなるので、このようなデータを除いた上で適切な多項式近似をすることで、二点鎖線で表されるようにブレーキ液圧Pが大きいほど車輪速度Vfの低下率ΔVfも大きくなる制動特性ラインBが得られる。この制動特性ラインBの近傍からその上側の領域(相対的に車輪速度の低下率ΔVfが小さな領域)にかけては、前輪2のタイヤのグリップ力に余裕があり、ロックする心配はないといえる。一方、制動特性ラインBから下側に離れるほど、車輪速度の低下率ΔVfは大きくなっており、前輪2のロック傾向が強くなる。
【0063】
一般的なゴムタイヤの特性として、路面との間に若干の滑りがあるときにグリップ力が最大になるものの、この状態を超えると滑りが加速度的に大きくなってロックしてしまうことは知られている。そこで、図5に実線Tで表すように前記制動特性ラインBの下方に適当な間隔を空けて、ABS制御の介入判定のための閾値ラインを設定している。この閾値ラインTは、制動特性ラインBと同様に右下がりの曲線とされており、この閾値ラインよりも下側の領域では車輪がロックしていると考えられる。
【0064】
ここで、制動特性ラインBと閾値ラインTとの間隔が狭すぎると、摩擦係数の高い路面において運転者が非常に急なブレーキ操作を行った場合には、車輪速度の低下率ΔVfが大きくなって閾値を超えてしまうおそれがあり、こうなると誤ったABS制御の介入が行われる。そこで、そのような急ブレーキとは区別できる範囲において、できるだけ閾値を小さく(図において上側の制動特性ラインBに近づくように)設定している。
【0065】
また、閾値ラインTが制動特性ラインBと同じく右下がりとされているので、ブレーキ液圧Pが小さいほど、介入判定の閾値である車輪速度の低下率ΔVfも小さな値(図5において上側の値)になる。このため、例えば砂利道やぬかるみのようなタイヤと路面との摩擦係数の低い悪路、低μ路において、比較的小さなブレーキ液圧Pにもかかわらず車輪がロックしそうになると、車輪速度の低下率ΔVfが比較的小さなうちに、つまり早めにABS制御が介入するようになる。
【0066】
模式的に図7(a)に表すように、タイヤと路面との摩擦係数の高い良路では、ブレーキ液圧Pがかなり高くなるまで車輪はグリップ限界内に留まっており(制動特性ラインBに沿う矢印Gで表す)、それでもグリップ限界を超えるような高いブレーキ液圧P1を受けると、図7に下向きの矢印L1で表すように、ブレーキ液圧Pは実質、変わらないまま車輪速度の低下率ΔVfが急増する。このままでは車輪速度がほぼ零になってロックしてしまうが、図7に表す点A1においてABS制御が介入し、ブレーキ液圧Pを低下させることによって車輪のロックを防止することができる。
【0067】
一方、低μ路においては図7(b)に模式的に表すように、良路に比べて低いブレーキ液圧P2で車輪のロック傾向が強くなり、矢印L2で示すように車輪速度の低下率ΔVfが急増する。このときには低下率ΔVfが良路の場合よりも小さな閾値A2に達したときに、即ち早めにABS制御が介入することになる。よって、低μ路において早めにABS制御を介入させることができる。
【0068】
つまり、第1判定部54によれば、車輪速度の低下率ΔVによってABS制御の介入するタイミングを判定するとともに、実験等により調べた自動二輪車1および車輪の制動特性に基づき、制動時のブレーキ液圧Pによって介入判定の閾値を変更することにより、路面状況の変化や車体姿勢の変化に対応しつつ、自動二輪車1の制動特性に合致した適切なタイミングでABS制御を介入させることができる。
【0069】
さらに、本実施形態では、前記のような車輪速度の低下率ΔVによる介入判定に加えて第2判定部55により、前輪車速Vfおよび後輪車速Vrの速度差|Vf−Vr|が大きくなったときにもABS制御の介入タイミングと判定する。制動時には前輪2および後輪3のうち車輪速度の低い方のロック傾向が強いと考えられるので、高い方の車輪速度を車速とみなせばこれとの車輪速度の差は、車輪速度の低い方の車輪のスリップ率に対応するといえる。
【0070】
つまり、第2判定部55は、従来までと同様に車輪のスリップ率に基づいてABS制御の介入判定をするものであり、その判定の閾値は一例として、一般的なゴムタイヤのグリップ力が最大になるスリップ率(ABS制御における車輪スリップ率の目標スリップ率)との偏差が所定値になるように、自動二輪車1の走行状態などに対応づけて設定されている。
【0071】
−具体的な制御手順−
以下にABS制御の具体的な手順を、後輪3について図8のフローチャート図を参照しながら説明すると、まず、スタート後のステップS1において、ABS制御の実行中であることを表すABSフラグFの値を読み込み、F=1でABS制御中であれば(NO)後述のステップS11に進む一方、F=0でABS制御中でなければ(YES)ステップS2に進む。そして、後輪ブレーキ液圧センサ52からの信号に基づいて、ブレーキペダル16が踏み操作されているか否か判定し(ブレーキ動作中?)、この判定がNOであればステップS3にてABSフラグFをリセットして(F←0)、リターンする。
【0072】
一方、前記ステップS2の判定がYES(ブレーキ動作中)と判定すればステップS4に進み、今度は変速装置18のクラッチが遮断状態か否か判定する(クラッチ遮断?)。そして、クラッチ遮断でYESであれば、後述のステップS6〜S9に進む一方、クラッチ27がエンジンEからの駆動力を伝達する状態であれば(NO)、ステップS5に進んで、エンジンブレーキの影響が強い所定時間内かどうか判定する(エンブレ影響大?)。
【0073】
すなわち、一例として自動二輪車1の運転者によってスロットルグリップ7が減速方向に急操作(時間あたりの操作量が設定値以上の場合)されたときに、それから予め設定した時間が経過したかどうか判定し、この時間内であれば(判定がYES)リターンする一方、その時間が経過していれば(判定はNO)ステップS6〜S9に進んでABS制御の介入を判定する。なお、スロットルグリップ7の操作量やクラッチ27の動作状態に関する情報は、エンジンECU40を経由して受け取ることができる。
【0074】
言い換えると、後輪3にエンジンEから動力の伝達される状態においては、スロットルグリップ7が急に閉じられて暫くの間、ABS制御の介入条件は行わない。スロットルグリップ7が急に閉じられたときには暫くの間、エンジンブレーキの影響が車輪速度の変化においても強く現れるので、その間は介入判定を行わないことでABS制御の誤介入を防止するのである。但し、クラッチ27が切られていればエンジンブレーキの影響はないので、この場合は直ちに介入判定を行うことにより、遅滞なくABS制御を介入させることが可能になる。
【0075】
そして、クラッチ遮断状態である(前記ステップS4でYES)若しくはエンジンブレーキの影響の強い期間ではない(ステップS5でNO)と判定して進んだステップS6では、後輪3の車輪速度センサ35からの信号に基づいて車輪速度Vrを計算し、これを用いて後輪3の車輪速度の低下率ΔVrを計算するとともに、前輪2の車輪速度Vfを基準として後輪3の車輪速偏差ΔVrf(=Vf−Vr)を計算する。
【0076】
続いてステップS7において、第1および第2判定部54,55のそれぞれによるABS制御の介入判定の閾値ΔVr*,ΔVrf*を読み込む。第1判定部54による介入判定の閾値ΔVr*は、図5の制動特性のテーブルにおける閾値ラインTを参照して、後輪ブレーキ液圧Pに対応する車輪速度の低下率ΔVrを読み込む。一方、第2判定部55による介入判定の閾値ΔVrf*も一例としてブレーキ液圧に対応づけて設定したテーブル(図示せず)から読み込む。
【0077】
そして、ステップS8では、後輪3の車輪速度の低下率ΔVrが閾値ΔVr*以上か否か判定する。この判定がYESであればステップS10に進む一方、判定がNOであればステップS9に進んで、後輪3の前輪2に対する車輪速偏差ΔVrfが、閾値ΔVrf*以上か否か判定する。なお、閾値ΔVrf*は正値なので、仮に後輪車速Vrが前輪車速Vfよりも高く、車輪速偏差ΔVrfが負値になる場合には、その大きさ(絶対値)に依らず判定はNOとなる。
【0078】
そして、前記ステップS9における判定もNOであればABS制御の必要はないのでリターンする一方、判定がYESであればステップS10に進む。このステップS10ではABSフラグFの値を1として(F←1)、続くステップS11でABS制御を開始する。ABS制御の具体的な手順については種々知られているので、詳しい説明は省略するが、概略を前記したように後輪側第1コントロールバルブ61および後輪側第2コントロールバルブ62の開度をデューティ制御することによって、後輪3がロックしそうになれば後輪ブレーキ38のキャリパ圧を減圧または保持する一方、これによりブレーキ力が弱くなりすぎればキャリパ圧を増圧または保持することによって、後輪3のスリップ率を目標スリップ率付近に維持し、最大限の制動力を発生させるものである。
【0079】
なお、詳しい説明は省略するが、前記のようにして開始されたABS制御は、例えば自動二輪車1の運転者がブレーキペダル16の踏み操作を止める等、予め設定されているABS制御の終了条件が成立したときに終了する。このとき、ABSフラグFはリセットされる(F←0)。また、説明は省略するが、ABS制御は前記した後輪3と同様に前輪2についても行われる。この際、前輪2の車輪速度Vfからその低下率ΔVfを計算し、後輪3の車輪速度Vrを基準として前輪2の車輪速偏差ΔVfr(=Vr−Vf)を計算する。
【0080】
上述した第1の実施形態によれば、自動二輪車1の走行中に運転者がブレーキレバー8およびブレーキペダル16を操作して、前輪2および後輪3のブレーキ36,38を動作させ、これにより前輪2および後輪3の車輪速度Vf,Vrが低下するときに、この車輪速度の低下率ΔVf,ΔVrに基づいてブレーキECU50の第1判定部54により、ABS制御の介入するタイミングを適切に判定することができる。この判定において自動二輪車1の車速は推定しないので、その推定精度の問題は生じない。
【0081】
また、車輪のロック傾向が直接的に表れる車輪速度Vf,Vrの変化それ自体によって、ABS制御の介入を判定するので、例えばブレーキ液圧のような間接的なパラメータによる場合に比べて適切なABS制御の介入判定を行い得る。ブレーキ液圧によって車輪のロック傾向を判定しようとすれば、例えばブレーキディスク36A,38Aに汚れによる影響やエンジンブレーキの影響を比較的強く受けるからである。
【0082】
図9は、本実施形態に係る自動二輪車1によって制動試験を行い、制動時における前輪車速Vfおよび後輪車速Vrのそれぞれの変化をギヤポジション、スロットル開度、クラッチ動作等に対応づけて表すとともに、後輪車速Vrの低下率ΔVrに基づいてABS制御の介入判定が行われる様子を表したタイムチャート図である。また、比較のために車輪のスリップ率が所定値以上になるか、またはブレーキ液圧が所定値以上になたときに介入判定する、従来型のABS制御の介入についても表している。
【0083】
まず、図9(c)に表れているように時刻t1でスロットルグリップ7が急に閉じられて、自動二輪車1が制動状態になると、図示しない後輪ブレーキ38の動作およびエンジンブレーキによって後輪車速Vrが低下するので(図9(a))、図9(f)に表れているように後輪車速の低下率ΔVrが急増する。このとき、図9(d)に表れているように、スロットル急閉後の所定時間はエンブレ影響大の期間なので、第1判定部54によるABS制御の介入判定は行われず、時刻t2では後輪車速の低下率ΔVrが瞬間的に閾値ΔVr*を超える(図で閾値のラインTよりも下になる)が、ABS制御は介入しない。
【0084】
この後輪車速の低下はエンジンブレーキの影響による瞬間的なもので、ABS制御が行われなくても後輪3はロックしないが、その後、時刻t3において運転者がシフトダウンを行うと(図9(b))、図9(a)に表れているように後輪3の車輪速度Vrが前輪2に比べてかなり低くなる。そして、図9(f)に表れているように、時刻t4において後輪車速の低下率ΔVrは再び閾値ΔVr*を超える。このときには、スロットル急閉から所定時間が経過しているので、第1判定部54による介入判定が行われ、ABS制御が介入する(図9(g))。
【0085】
こうして時刻t4においてABS制御が介入し、後輪3のブレーキ液圧を減圧させることにより、図9(f)に表れているように後輪車速Vrの低下率ΔVrが急減し、時刻t5では、図9(a)に表れているように後輪車速Vrの低下がほぼ止まって、ロック傾向が解消される。このため、引き続いて低下する前輪車速Vfは後輪車速Vr近づいてゆき、後輪3のスリップ率も小さくなってABS制御が終了する(時刻t6)。
【0086】
比較のために図9(h)には、同じ制動時に従来型のABS制御が介入する様子を表している。この従来型のABS制御も本実施形態と同じようなタイミングで介入しているが、図9(a)(g)(h)を併せて見ると、従来型のABS制御は前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差が殆どない時点で介入しており、介入判定においてはブレーキ液圧が一定の閾値を超えるかどうかの判断の重み付けが大きいものと考えられる。また、シフトダウンを契機に介入判定しているとも考えられる。
【0087】
そして、前記従来型のABS制御によると、時刻t7において不要なABS制御の介入が見られる。図9(a)に表れているように、時刻t7では後輪3の車輪速度Vrは前輪2とあまり変わらず、スリップ率は高くない。また、その後も前輪車速Vfと後輪車速Vrとの差は大きくはならず、ABS制御は不要と考えられるが、このときに後輪3のブレーキ液圧は或る程度以上、高くなっており、従来型のABS制御によればシフトダウンをきっかけに誤った介入判定がなされてしまう。
【0088】
この点、図9(f)に表れているように時刻t7では後輪3の車輪速度の低下率ΔVrは閾値ΔVr*に達しておらず(図で閾値のラインTよりも上にある)、本実施形態のブレーキ制御装置において第1判定部54がABS制御の介入判定をすることはない。つまり、車輪のスリップ率やブレーキ液圧に基づく判定では誤まりを生じ、過剰なABS制御が行われてしまうような状況においても、本実施形態によれば、車輪速度の低下率ΔVに基づいてABS制御の介入判定を適切に行えることが判る。
【0089】
なお、前記のように本実施形態では、スロットルグリップ7が急に閉じられてから暫くの間、ABS制御の介入判定を行わないようにしているが、この時間は実験等に基づいて適切に設定すればよく、例えば短めの時間に設定すればABS制御の介入を早めることができるし、反対に長めに設定することで介入を遅らせることもできる。
【0090】
それに加えて本実施形態では、前記した第1判定部54によるABS制御の介入判定と併せて、従来同様に車輪のスリップ率に基づいて第2判定部55によりABS制御の介入判定を行うようにしている。こうして2つの判定部54,55によってABS制御の介入判定を行うことで、より早めに且つより確実にABS制御を介入させることができる。また、第1および第2判定部54,55がそれぞれ誤判定を起こしやすい状況を考慮して、相互補完的に閾値を設定すれば、過剰なABS制御の介入を防止しながら、必要に応じて遅れなく、ABS制御を介入させることができる。
【0091】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態では、第1判定部54における介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を自動二輪車1の走行状態に応じて変更するようにしており、それ以外は第1実施形態と共通なので、共通する構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0092】
本実施形態においてブレーキECU50の走行状態検出部53では、ブレーキ液圧Pの大きさやその変化に応じて、第1判定部54における介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を変更する。例えばブレーキ液圧Pの変化から運転者によって急なブレーキ操作が行われたことを検出し、これに応じて、ABS制御が介入しやすくなるように第1判定部54における介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を変更する。
【0093】
そのために、前記図8のフローチャートにおけるステップS7およびステップS8の間に新しいステップを設け、ブレーキ液圧Pの変化率に応じて、その増加率が大きいほど閾値ΔVr*を小さな値に変更するようにしている。こうすることで、車輪2,3がロックしやすい例えば急ブレーキの際に、ABS制御の介入を早めることができる。なお、この閾値ΔVr*の変更は予め設定したテーブルを参照して行えばよいが、それ以外に例えば計算によって閾値ΔVr*を変更するようにしてもよい。
【0094】
すなわち、一例として、閾値ΔVr*は、ブレーキ力に相当する値が大きくなるに連れて大きくなるように変化させてもよい。ブレーキ力に相当する値として後輪3のブレーキ液圧Prを用い、 ΔVr*∝Pr、ΔVr*=f1(Pr)、または、ΔVr*=k1×Pr として表される数式によって閾値ΔVr*を計算することができる。なお、f1(Pr)というのは変数としてPrを含む関数を意味する。k1は係数である。
【0095】
また、一例として閾値ΔVr*は、 ΔVr*=k2・(f2(Pr)−ΔVr)+k4 という数式によって計算してもよいし、 ΔVr*=k2・(k3・Pr−ΔVr)+k4 としてもよい。f2(Pr)は変数としてPrを含む関数を意味し、k2〜k4は係数である。
【0096】
また、一例として閾値ΔVr*を、ブレーキ力に相当する値の変化が大きくなるに連れて、大きくなるように変化させてもよく、後輪3のブレーキ液圧Prの変化率をΔPrとして、 ΔVr*=f3(ΔPr) としてもよいし、また、 ΔVr*=k5×ΔPr としてもよい。f3(ΔPr)は変数としてΔPrを含む関数を意味し、k5は係数である。
【0097】
さらに、前記の数式を組み合わせてもよく、この場合には一例として閾値ΔVr*を、 ΔVr*=f3(ΔPr)+k2・(f2(Pr)−ΔVr)+k4 としてもよい。
【0098】
なお、前記の数式は一例にすぎず、他の項が追加されてもよいし、いずれか一つが含まれていてもよい。また、後輪3のABS制御について説明したが、前輪2についても同様にABS制御の閾値ΔVf*を計算するようにしてもよい。
【0099】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。この第3の実施形態は、制動時に第1判定部54において計算する車輪速度の低下率ΔVf,ΔVrそのものによって、ABS制御の介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を変更する。この点を除いて第3の実施形態も前記第1実施形態と共通なので、共通する構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0100】
本実施形態では、後輪3について模式的に図10(a)に下向きの矢印L3で表すように、ブレーキ操作によって後輪車速の低下率ΔVrが増大し、制動特性ラインB上の標準低下率を超えたとき、即ち制動特性ラインBよりも下側になったときに、そのときのブレーキ液圧Pに対応する標準低下率と実際の低下率ΔVrとの差(ずれ)αに応じて、このαの値が大きいときほど、閾値ΔVr*を小さな値に変更する。この閾値ΔVr*の変更も予め設定したテーブルや数式によって行えばよい。
【0101】
こうすると、図10(b)に表すように閾値ラインTが上側に移動するので、その分、早めにABS制御の介入判定を行える(点A3として表す)。すなわち、前記のように第1判定部54において後輪車速の低下率ΔVrを計算した時点で、その低下率ΔVrの値が標準低下率から離れているほど、言い換えると、その後、後輪3がロックする可能性が高いときほど、介入判定の閾値ΔVr*が小さな値になって、より早めにABS制御の介入を判定することができる。
【0102】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。この第4の実施形態はブレーキECU50の走行状態検出部53において、以下に列挙するような種々の走行状態量に基づいて第1判定部54における介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を変更する。この点を除いて第4の実施形態も前記第1実施形態と共通なので、共通する構成については同一符号を付してその説明は省略する。
【0103】
具体的には、前記第2の実施形態でフローに追加した新しいステップ(図8ののフローチャートにおけるステップS7およびステップS8の間に追加するステップ)において、一例として前輪2および後輪3のブレーキ液圧Pやその変化率ΔP以外に、以下の1)、2)のような変更を行う。
【0104】
1)前輪2および後輪3の一方におけるABS制御の介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を、他方の車輪速度との速度差が大きいほど、小さな値に変更する。上述したように車輪速度の差|Vf−Vr|は、車輪速度の低い方の車輪のスリップ率に対応するといえるから、これが大きいほど即ちスリップ率が大きくてロックしやすいときほど、早めにABS制御の介入を判定することができる。
【0105】
2)また、前記車輪速度の速度差|Vf−Vr|の変化が大きいほど、ABS制御の介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を小さな値に変更するようにしてもよく、こうすれば、自動二輪車1の車輪2,3のスリップ状態の変化も考慮して、ABSの介入判定の精度をさらに向上することができる。
【0106】
さらに、以下の3)、4のような前後輪2,3の特徴を加味して、ABS制御の介入判定の閾値ΔVf*,ΔVr*を変更するようにしてもよい。
【0107】
3)自動二輪車1においては制動時に後輪3が浮き上がり気味になって、その車輪速度Vrが車速から乖離するおそれがあるので、後輪3の車輪速度Vrの低下率ΔVrが大きいほど、前輪2の介入判定の閾値ΔVf*は小さな値に変更するようにしてもよい。
【0108】
4)また、駆動輪である後輪3についてはエンジンEや変速装置18と繋がっていればロックには至らないことが多いので、クラッチ27の動作状態に応じて閾値ΔVr*を変更するようにしてもよい。すなわち、クラッチ27が遮断状態のときには後輪3についての介入判定の閾値ΔVr*を小さな値に変更することによって、ABS制御の介入を早めることができる。
【0109】
より具体的に、例えば前輪2におけるABS制御の介入の閾値ΔVf*は、以下のような数式によって計算するようにしてもよい。すなわち、一例として、 ΔVf* = f1(ΔPf)+k2・(f2(Pf)−ΔVf)+k4 +k5×Slip+k6×Rr_DEC+k7×ΔSlip としてもよい。この数式において、Slip は前輪2のスリップ率を表し、例えば|Vr−Vf|/Vf としてもよい。また、Rr_DECは後輪車速Vrの低下率ΔVrであり、ここでは後輪3の浮き上がりを反映させるための項である。また、k6、k7は係数である。
【0110】
同様に後輪3におけるABS制御の介入の閾値ΔVr*は、以下のような数式によって計算するようにしてもよい。すなわち、一例として、 ΔVr* = f1(ΔPr)+k2・(f2(Pr)−ΔVr)+k4 +k5×Slip+k6×Δ(Vr/Ne)+k7×ΔSlip としてもよい。この数式におけるΔ(Vr/Ne)は、後輪車速Vrとエンジン回転数Neとの比率の変化を表し、クラッチ27の動作状態を反映させるための項である。
【0111】
なお、前記の数式も一例にすぎないことは勿論であり、他の項が追加されてもよいし、いずれか一つが含まれていてもよい。これらの数式を用いれば、自動二輪車1の走行状態に応じて閾値ΔVf*,ΔVr*が変化するようになり、ABS制御の介入判定の精度が向上する。
【0112】
つまり、第4の実施形態によれば、自動二輪車1の走行状態をより緻密に反映させて、ABS制御の介入するタイミングをきめ細かく変更することによって、最適なタイミングでABS制御を介入させることが可能になる。よって、自動二輪車1の制動性能を高めつつその走行安定性を向上させ、しかも運転者に違和感を与えない自然なフィーリングとすることができる。
【0113】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態について種々、説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。例えば、前記の各実施形態では、ブレーキECU50の第1または第2判定部54,55のいずれかが介入判定したときにABS制御を開始するようにしているが、これに限らず、第1および第2判定部54,55の双方が介入判定したときに、ABS制御を開始するようにしてよい。こうすればABS制御の過剰な介入を抑制しやすい。
【0114】
また、ブレーキECU50には少なくとも第1判定部54を有していればよく、第2判定部55は設けなくてもよい。また、第2の判定部55として、前記各実施形態のように前後輪2,3の車輪速度差|Vf−Vr|に関連した値によって介入判定するのではなく、それ以外に例えばブレーキ液圧などによって判定するものを設けてもよい。つまり、ABS制御の介入条件には、第1判定部による車輪速度の低下率ΔVに基づく第1の条件が含まれていればよい。
【0115】
なお、前記の「ブレーキ液圧など」というのは、具体的に、例えば前輪2については前輪2のブレーキ液圧センサ51からの信号を、また、後輪3については後輪3のブレーキ液圧センサ52からの信号を用いればよい。ブレーキ液圧は、キャリパ圧、マスタ圧のいずれであってもよい。ブレーキ液圧以外にブレーキレバー8やブレーキペダル16の操作量を用いてもよく、ブレーキパッドの移動量を用いてもよい。即ち、運転者によるブレーキ量指令情報を含むものであればよい。
【0116】
また、車輪に付与するブレーキ力は、例えばエンジンブレーキであってもよく、現在速度、エンジン状態に基づいて、発生するであろうエンジンブレーキ力をブレーキ力として設定してもよい。すなわち、前記各実施形態では前後輪2、3のロックを防止するためにブレーキ液圧を調整するようにしているが、他の手段で前後輪2、3のロックを防止するようにしてもよい。例えば駆動輪である後輪3のロックを防止する場合、可能であれば、エンジンブレーキの大きさを調整してもよい。また、電気自動車であれば走行用モータの回生制動量を調整してもよい。
【0117】
また、前記の各実施形態では、ブレーキECU50の第1判定部54において制動特性テーブルを参照し、ブレーキ液圧Pに対応して閾値ΔVf*,ΔVr*を変更するようにしているが、これに限らず閾値ΔVf*,ΔVr*はブレーキ液圧Pに依らず一定としてもよい。こうすれば、ブレーキ液圧を検出するためのセンサ51,52が故障しても問題が生じないし、液圧式ブレーキ以外にも本発明を適用可能になる。なお、前記の各実施形態においてブレーキ液圧センサ51,52が故障したときに、閾値ΔVf*,ΔVr*を一定値にするようにしてもよい。
【0118】
また、前記の各実施形態では、変速装置18のクラッチ27の動作状態を検出するためのクラッチスイッチ28を備えているが、これにも限定されず、一例を挙げればクラッチ27の作動状態は、油圧式クラッチであれば油圧センサの信号から検出することも可能である。また、クラッチ27の作動状態は、エンジン回転数の変化によって検出することも可能である。すなわち、駆動輪速度と動力回転速度との比が、想定されるギヤ比に比べて大きく変化することによってクラッチの作動を検出することができる。
【0119】
また、前記の各実施形態では、スロットルグリップ7が減速方向に急操作されたとき、予め設定した時間が経過するまではABS制御の介入判定を行わないようにしているが、この時間は自動二輪車1の運転状態に応じて変更するようにしてもよいし、時間の経過だけでなく例えばエンジン回転数、走行速度などの所定の情報に基づいて介入判定を行わない期間を終了させるようにしてもよい。さらに、所定時間を零としてもよい。
【0120】
また、前記の各実施形態では、自動二輪車1の前後輪2,3の双方でABS制御を行うようにしているが、前後輪2,3のいずれか一方でのみABS制御を行うようにした場合でも、本発明を適用することは可能である。
【0121】
また、図示は省略するが、前記各実施形態において自動二輪車1には、ABS制御の介入条件を設定するために運転者が操作するスイッチなど(設定操作部材)を設け、このスイッチなどの操作に応じてABS制御の介入判定の閾値を変更するようにしてもよい。
【0122】
また、前記の各実施形態では、単一のブレーキECU50によって走行状態検出部53、第1および第2の判定部54,55、並びにABS制御部56の全てを構成しているが、これは別々のECUによって構成してもよい。すなわち、図11に一例を表すように走行状態検出部53と第1および第2の判定部54,55とを有する第1ECU57と、ABS制御部56を有する第2ECU58とを備えて、両者を協働させるようにしてもよい。
【0123】
こうすると、ABS制御の介入判定の制御は車種毎に最適化しながら、介入後のABS制御については共通化することで、開発コストを抑えることが可能になる。ABS制御部56を構成する第2ECU58については、より汎用性の高いシステムを利用して実現することができる。
【0124】
なお、図示は省略するが、第2判定部55は、第1ECU57が有していてもよい。この場合、第1ECU57は、エンジンEの点火制御や燃料噴射制御を実行するエンジン制御ECUであってもよい。一例として第2ECU58は、ABS制御の実施状況・ABS制御の実施条件満足(スリップ率)を第1ECU57に伝えるとともに、第1ECU57からABS制御の実施・解除指令が与えられると、ABS制御を実施・解除するようにしてもよい。また、第1ECU57でも独自にABS制御の実施条件を判断し、第2ECU58に伝えるようにしてもよい。ABS制御の実行中の動作(制動・制動解除)は第2ECU58が実施するようにしてもよい。
【0125】
また、図示は省略するが、自動二輪車1に、前後サスペンションのばね力および減衰力の少なくとも一方を制御可能なサスペンション制御装置を備えるか、若しくはエンジンECU40に、後輪3の空転(ホイールスピン)を防止するようにエンジン出力を制御するトラクション制御部を備えている場合には、それらのサスペンション制御装置およびエンジンECU40のトラクション制御部の少なくとも一方に、ブレーキECU50からABS制御の介入判定に関する情報を提供するようにしてもよい。例えばABS制御の介入するときに、サスペンション制御によって車両の姿勢を変化させ、ロック傾向の強い車輪の接地荷重を大きくするといった協調制御が実現可能になる。
【0126】
また、一例として前記第1ECU57を、インターフェースから、トラコンモード、乗員情報、走行情報、ABS動作状態などの運転者から与えられる情報を入手し、入手した情報に応じてABS実施条件を調整してもよい。トラコンモードは、前記トラクション制御の実行モードであり、例えばトラコンモード大の場合、ABS制御の閾値は小さくしてもよい。乗員情報(重さ)小の場合にABS制御の閾値を小さくしてもよい。燃費重視ではなく出力重視の場合、ABS制御の閾値を小さくしてもよい。市街地モードではなくサーキット走行モード(高μ路モード)の場合、ABS制御の閾値は大きくしてもよい。同様にエンジン回転数、ギヤ比、スロットル開度などの走行状態を示す情報を入手し、入手した情報に応じてABS制御の介入条件を調整してもよい。
【0127】
また、一例として前記第1ECU57は、自動二輪車1の走行中に路面とタイヤとの間の摩擦係数の高低を推定し、この推定結果に応じてABS制御の介入条件を調整してもよい。路面とタイヤとの間の摩擦係数は、自動二輪車1の走行中に駆動輪である後輪3のスリップ率が変化する様子から、スリップ率の変化が大きいときほど摩擦係数が低く、スリップ率の変化が小さいときほど摩擦係数が高いというように推定できる。なお、後輪3のスリップ率は例えば|Vf−Vr|/Vrとすればよい。
【0128】
さらに、図示は省略するが、前記第1ECU57の機能を有するECUを、エンジンECU40とは別に設けてもよく、それぞれ個別に設けたエンジンECU40、ABSECU、サスペンション制御装置のECUに動作指令を与えて、それらを統合的に制御するように構成してもよい。
【0129】
さらにまた、注目する第1時点の車速を第1車速v1とし、第1時点から予め定める時間経過した第2時点の車速をv2として、減速走行状態(v1>v2)において以下の式を満足する場合にABS制御が介入するようにしてもよい。 (v1−v2)≧Δv* ここで、Δv*は予め定められる閾値であって、ブレーキ力に拘わらずに一定値であってもよい。上述した実施形態と同じようにABS制御の介入判定には、スロットル急閉時のように例外の期間を設けてもよく、この例外の例外としてエンジンブレーキが発生しないときにはABS制御の介入判定を行うようにしてもよい。
【0130】
また、前記の各実施形態では本発明を自動二輪車1に適用した場合について説明したが、本発明は例えば四輪の自動車や、運転者がシートに跨がった状態で運転する鞍乗型車輌のいずれにも適用可能である。特に、重心が高くピッチングモーションを起こして前後輪のいずれかが浮きやすい車両、重量に比べて出力が過剰な場合があり前輪が浮き上がりやすい車両、また、軽量で車輪が路面から浮き上がりやすい車両(具体的には軽量車両、鞍乗型車両)は、前後輪の車速差を用いることなくABS介入判断できる本発明がより好適に適用できる。鞍乗型車輌には自動二輪車は勿論、ATV(All Terrain Vehicle)などが含まれる。また、車両の駆動源はエンジンEに限らず、例えば電動モータであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のブレーキ制御装置は、車両の減速時にABS制御の介入する適切なタイミングを車輪速度の低下率に基づいて判定することができ、車速の推定が難しい自動二輪車において特に有用である。
【符号の説明】
【0132】
1 自動二輪車(車両)
2 前輪(車輪)
3 後輪(車輪:駆動輪)
7 スロットルグリップ(アクセル操作部材)
50 ブレーキECU
53 走行状態検出部
54 第1判定部(介入判定部)
54a 制動特性記憶部
55 第2判定部(介入判定部)
56 ABS制御部(ブレーキ力制御部)
E エンジン(駆動源)
B 制動特性ライン(ブレーキ力によって車輪に生じる車輪速度の標準低下率)
T 閾値ライン(ABS制御の介入判定の閾値)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動時に車輪のロックを防止するように、当該車輪に付与するブレーキ力を調整するアンチロックブレーキ制御を行うブレーキ制御装置であって、
前記車輪の回転速度である車輪速度の低下率が所定の閾値以上であることを含む、前記アンチロックブレーキ制御の介入条件が成立したか否かを判定する介入判定部と、
前記介入判定部によって前記介入条件の成立が判定されると、前記アンチロックブレーキ制御による前記車輪へのブレーキ力の調整を開始するブレーキ力制御部と、
を備えることを特徴とする車両のブレーキ制御装置。
【請求項2】
車両には運転者により操作されるアクセル操作部材が設けられており、
前記介入判定部は、前記アクセル操作部材が減速方向に急操作されてから所定期間は、前記介入条件が成立したか否かの判定を行わない、請求項1に記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項3】
車両には駆動輪と駆動源との間にクラッチが設けられており、
前記アクセル操作部材の急操作から所定期間内であっても前記クラッチが遮断状態になれば、前記介入判定部は前記介入条件が成立したか否かの判定を行う、請求項2に記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項4】
制動時の車両の走行状態を検出する走行状態検出部を備え、
前記介入判定部は、前記検出される車両の走行状態に基づいて前記介入判定の閾値を変更する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記走行状態検出部は、車両の制動時に前記車輪に付与されるブレーキ力を検出するものであり、
前記介入判定部は、前記検出されるブレーキ力が小さいほど前記介入判定の閾値を小さな値に変更する、請求項4に記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記車輪がロックしない範囲において、該車輪に付与されるブレーキ力の増大に応じて車輪速度の低下率が増大する際の両者の相関関係を、当該車輪の制動特性として記憶する制動特性記憶部をさらに備え、
前記介入判定部は、前記走行状態検出部によって検出されるブレーキ力が小さいほど、前記介入判定の閾値が小さな値になるように前記制動特性に基づいて当該閾値を変更する、請求項5に記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記制動特性記憶部は制動特性として、ブレーキ力によって前記車輪に生じる車輪速度の低下率の標準値が記憶されており、
前記介入判定部は、前記走行状態検出部によって検出されたブレーキ力から前記制動特性を参照して、前記車輪速度の低下率の標準値を特定し、この標準値よりも車輪速度の低下率が大きい場合には両者の差が大きいほど、前記介入判定の閾値を小さな値に変更する、請求項6に記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項8】
前記介入判定部は前記閾値を、前記走行状態検出部によって検出されるブレーキ力の変化率が大きいほど小さな値に変更する、請求項4〜7のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項9】
前記介入条件には、前記車輪速度の低下率に基づく第1の条件と、車輪速度の低下率以外のパラメータに基づく第2の条件とが含まれており、それら第1および第2の条件の双方が成立したとき、前記介入判定部がアンチロックブレーキ制御の介入条件が成立したと判定する、請求項1〜8のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項10】
前記介入条件には、前記車輪速度の低下率に基づく第1の条件と、車輪速度の低下率以外のパラメータに基づく第2の条件とが含まれており、それら第1および第2の条件のいずれか一方が成立したとき、前記介入判定部がアンチロックブレーキ制御の介入条件が成立したと判定する、請求項1〜8のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項11】
前記介入判定部と前記ブレーキ力制御部とが別々のECUによって構成される、請求項1〜10のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項12】
車両には、アンチロックブレーキ制御の介入条件を設定するために運転者により操作される設定操作部材が設けられており、
前記介入判定部は、前記設定操作部材の操作に応じて前記介入判定の閾値を変更する、請求項1〜11のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項1】
車両の制動時に車輪のロックを防止するように、当該車輪に付与するブレーキ力を調整するアンチロックブレーキ制御を行うブレーキ制御装置であって、
前記車輪の回転速度である車輪速度の低下率が所定の閾値以上であることを含む、前記アンチロックブレーキ制御の介入条件が成立したか否かを判定する介入判定部と、
前記介入判定部によって前記介入条件の成立が判定されると、前記アンチロックブレーキ制御による前記車輪へのブレーキ力の調整を開始するブレーキ力制御部と、
を備えることを特徴とする車両のブレーキ制御装置。
【請求項2】
車両には運転者により操作されるアクセル操作部材が設けられており、
前記介入判定部は、前記アクセル操作部材が減速方向に急操作されてから所定期間は、前記介入条件が成立したか否かの判定を行わない、請求項1に記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項3】
車両には駆動輪と駆動源との間にクラッチが設けられており、
前記アクセル操作部材の急操作から所定期間内であっても前記クラッチが遮断状態になれば、前記介入判定部は前記介入条件が成立したか否かの判定を行う、請求項2に記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項4】
制動時の車両の走行状態を検出する走行状態検出部を備え、
前記介入判定部は、前記検出される車両の走行状態に基づいて前記介入判定の閾値を変更する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記走行状態検出部は、車両の制動時に前記車輪に付与されるブレーキ力を検出するものであり、
前記介入判定部は、前記検出されるブレーキ力が小さいほど前記介入判定の閾値を小さな値に変更する、請求項4に記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記車輪がロックしない範囲において、該車輪に付与されるブレーキ力の増大に応じて車輪速度の低下率が増大する際の両者の相関関係を、当該車輪の制動特性として記憶する制動特性記憶部をさらに備え、
前記介入判定部は、前記走行状態検出部によって検出されるブレーキ力が小さいほど、前記介入判定の閾値が小さな値になるように前記制動特性に基づいて当該閾値を変更する、請求項5に記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記制動特性記憶部は制動特性として、ブレーキ力によって前記車輪に生じる車輪速度の低下率の標準値が記憶されており、
前記介入判定部は、前記走行状態検出部によって検出されたブレーキ力から前記制動特性を参照して、前記車輪速度の低下率の標準値を特定し、この標準値よりも車輪速度の低下率が大きい場合には両者の差が大きいほど、前記介入判定の閾値を小さな値に変更する、請求項6に記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項8】
前記介入判定部は前記閾値を、前記走行状態検出部によって検出されるブレーキ力の変化率が大きいほど小さな値に変更する、請求項4〜7のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項9】
前記介入条件には、前記車輪速度の低下率に基づく第1の条件と、車輪速度の低下率以外のパラメータに基づく第2の条件とが含まれており、それら第1および第2の条件の双方が成立したとき、前記介入判定部がアンチロックブレーキ制御の介入条件が成立したと判定する、請求項1〜8のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項10】
前記介入条件には、前記車輪速度の低下率に基づく第1の条件と、車輪速度の低下率以外のパラメータに基づく第2の条件とが含まれており、それら第1および第2の条件のいずれか一方が成立したとき、前記介入判定部がアンチロックブレーキ制御の介入条件が成立したと判定する、請求項1〜8のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項11】
前記介入判定部と前記ブレーキ力制御部とが別々のECUによって構成される、請求項1〜10のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【請求項12】
車両には、アンチロックブレーキ制御の介入条件を設定するために運転者により操作される設定操作部材が設けられており、
前記介入判定部は、前記設定操作部材の操作に応じて前記介入判定の閾値を変更する、請求項1〜11のいずれか1つに記載の車両のブレーキ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−245843(P2012−245843A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117855(P2011−117855)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
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