説明

車両の制動力保持装置、及び車両の制動力保持方法

【課題】ヒルホールド制御の誤作動を抑制すると共に、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる車両の制動力保持装置及び車両の制動力保持方法を提供する。
【解決手段】CPUは、車両が停止してからの経過時間STが基準時間BT以上となった場合に、その直後の各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を基準ブレーキ液圧BBPと設定し、基準ブレーキ液圧BBPが最低ブレーキ液圧BPmin未満であるか否かを判定する。そして、判定結果が肯定判定であった場合、CPUは、基準ブレーキ液圧BBP(=BPmin)を設定変更する。その後、基準ブレーキ液圧BBPに基準値BVを加算することにより閾値KBPを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダルの操作により停止した車両の各車輪に付与されている制動力を前記ブレーキペダルの操作解消後においても保持させる車両の制動力保持装置、及び車両の制動力保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、坂路などの斜面上に車両が停止した場合に、搭乗者がブレーキペダルの踏込み操作を解消すると、各車輪に対する制動力が急激に低下するため、斜面の傾斜方向下側への車両の予期せぬ移動(すなわち、車両のずり下がり)が発生する。こうした車両の予期せぬ移動が発生した場合には、坂道発進操作等の車両操作に対する搭乗者の余裕を低下させてしまうおそれがあった。そこで、従来から、ブレーキペダルの踏込み操作の解消後においても停止車両の車輪に付与されている制動力を保持させて車両の予期せぬ移動の発生を抑制する所謂ヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持装置、及び車両の制動力保持方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この特許文献1に記載の車両の制動力保持装置では、図9に示すように、搭乗者によるブレーキペダルの踏込み操作により車両が停止した時点から基準時間(例えば、「0.8」秒)T10経過後の各ホイールシリンダ(制動手段)内のブレーキ液圧を基準ブレーキ液圧としてRAMに記憶させるようになっている。そして、この基準ブレーキ液圧の値に予め設定された基準値BV10を加算した値を閾値KBP10としてRAMに設定記憶させるようになっている。その後、ブレーキペダルがさらに強く踏込まれることによって、液圧回路内のブレーキ液圧が閾値KBP10以上になった場合には、各ホイールシリンダにより各車輪に付与される制動力を保持させるために、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧を保圧させるようになっている。
【特許文献1】特開平10−24817号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の車両の制動力保持装置では、車両停止時から基準時間経過後の各ホイールシリンダ内の基準ブレーキ液圧に基づき設定される閾値によっては、搭乗者の意思とは無関係にヒルホールド制御が実行されたり、ブレーキペダルをいくら強く踏込んでもヒルホールド制御が実行されなかったりすることがあった。すなわち、図9に示すように、基準時間(例えば、「0.1」秒)T11が短く設定されたことなどに起因して、車両停止時から基準時間T11経過後の各ホイールシリンダ内の基準ブレーキ液圧が比較的低くなった場合には、設定される閾値KBP11が比較的低い値になる。そのため、搭乗者にヒルホールド制御を実行させる意思がないにも関わらず、ブレーキペダルの踏込み量によって各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が閾値KBP11以上となってしまい、ヒルホールド制御が実行されてしまうおそれがあった。
【0005】
一方、基準時間T(例えば、「1」秒)12が長く設定されたことなどに起因して、車両停止時から基準時間T12経過後の各ホイールシリンダ内の基準ブレーキ液圧が比較的高くなった場合には、設定される閾値KBP12が比較的高い値になる。そのため、搭乗者がヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルを踏込んでも、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が閾値KBP12以上とはならず、ヒルホールド制御が実行されないおそれがあった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヒルホールド制御の誤作動を抑制すると共に、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる車両の制動力保持装置及び車両の制動力保持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、車両の制動力保持装置にかかる請求項1に記載の発明は、ブレーキペダル(37)の操作に基づいて制動手段(36a,36b,36c,36d)が各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)を付与することにより車両が停止した後に前記ブレーキペダル(37)が前記制動力(BP)を増加させるためにさらに操作された場合には、そのブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動が開始されないように保持させるヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持装置(11)において、前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出する路面斜度検出手段(60,SE9)と、該路面斜度検出手段(60,SE9)により検出された斜度の路面(gr)上に車両が停止する際に最低限必要な前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を最小制動力(BPmin)として設定する最小制動力設定手段(60)と、前記ヒルホールド制御の開始条件となる閾値(KBP)を、前記最小制動力(BPmin)と予め設定された基準値(BV)とを加算した値以上に設定する閾値設定手段(60)と、該閾値設定手段(60)による前記閾値(KBP)の設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上になったか否かを判定する制動力判定手段(60)と、該制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定になった場合に、前記ヒルホールド制御を実行させる制御手段(60)とを備えたことを要旨とする。
【0008】
上記構成では、ヒルホールド制御の開始条件となる閾値は、車両が停止した路面の斜度に基づき設定される最小制動力と予め設定された基準値とを加算した値以上となるように設定される。すなわち、搭乗者にヒルホールド制御を実行させる意思がない場合に、ブレーキペダルの操作によって各車輪に対する制動手段からの制動力が閾値以上になってしまうことが抑制される。したがって、ヒルホールド制御の誤作動を抑制することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の制動力保持装置において、車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)と、前記基準制動力(BBP)が前記最小制動力(BPmin)未満であるか否かを判定する最小制動力判定手段(60)と、該最小制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記基準制動力(BBP)を、その値が前記最小制動力(BPmin)となるように設定変更する基準制動力変更手段(60)とをさらに備え、前記閾値設定手段(60)は、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定することを要旨とする。
【0010】
上記構成では、基準制動力が最小制動力未満である場合には、基準制動力が最小制動力に設定変更され、その設定変更された基準制動力に基準値を加算することにより閾値が設定される。そのため、最小制動力に基準値を加算した値以上に閾値を確実に設定できる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の車両の制動力保持装置において、車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)と、前記基準制動力(BBP)が前記最小制動力(BPmin)未満であるか否かを判定する最小制動力判定手段(60)とをさらに備え、前記閾値設定手段(60)は、前記最小制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合には前記最小制動力(BPmin)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定する一方、前記最小制動力判定手段(60)による判定結果が否定判定である場合には前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定することを要旨とする。
【0012】
上記構成では、基準制動力が最小制動力未満である場合には、最小制動力に基準値を加算することにより閾値が設定される。そのため、最小制動力に基準値を加算した値以上に閾値を確実に設定できる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の車両の制動力保持装置において、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算した値が前記制動手段(36a,36b,36c,36d)により前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)以上であるか否かを判定する最大制動力判定手段(60)をさらに備え、前記閾値設定手段(60)は、前記最大制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記最大制動力(BPmax)未満であって且つ前記最小制動力(BPmin)と前記基準値(BV)とを加算した値よりも大きい最大作動値(BPmax1)となるように前記閾値(KBP)を設定することを要旨とする。
【0014】
上記構成では、基準制動力と基準値とを加算した値が最大制動力以上になった場合、閾値は、最大制動力未満であって且つ最小制動力と基準値とを加算した値よりも大きい最大作動値に設定される。そのため、搭乗者がヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルを操作した際に、ヒルホールド制御が実行されないことが抑制される。したがって、ヒルホールド制御の誤作動を抑制すると共に、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、ブレーキペダル(37)の操作に基づいて制動手段(36a,36b,36c,36d)が各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)を付与することにより車両が停止した後に前記ブレーキペダル(37)が前記制動力(BP)を増加させるためにさらに操作された場合には、そのブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動が開始されないように保持させるヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持装置(11)において、車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)と、前記基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)とを加算した値が前記制動手段(36a,36b,36c,36d)により前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)以上であるか否かを判定する最大制動力判定手段(60)と、該最大制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合には、予め設定された前記最大制動力(BPmax)未満の最大作動値(BPmax1)となるように閾値(KBP)を設定する一方、前記最大制動力判定手段(60)による判定結果が否定判定である場合には、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより閾値(KBP)を設定する閾値設定手段(60)と、該閾値設定手段(60)による前記閾値(KBP)の設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上になったか否かを判定する制動力判定手段(60)と、該制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定になった場合に、前記ヒルホールド制御を実行させる制御手段(60)とを備えたことを要旨とする。
【0016】
上記構成では、基準制動力と基準値とを加算した値が最大制動力以上になった場合、閾値は、最大制動力未満であって且つ最小制動力と基準値とを加算した値よりも大きい最大作動値に設定される。そのため、搭乗者がヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルを操作した際に、ヒルホールド制御が作動しないことが抑制される。すなわち、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる。
【0017】
一方、車両の制動力保持方法にかかる請求項6に記載の発明は、ブレーキペダル(37)の操作に基づいて各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)が付与されることにより車両が停止した後に前記ブレーキペダル(37)が前記制動力(BP)を増加させるためにさらに操作された場合には、そのブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与される制動力(BP)を、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動が開始されないように保持させるためのヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持方法において、前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出すると共に、その検出された斜度(gr)の路面上に車両が停止する際に最低限必要な前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を最小制動力(BPmin)として設定し、前記ヒルホールド制御の開始条件となる閾値(KBP)を、前記最小制動力(BPmin)と予め設定された基準値(BV)とを加算した値以上となるように設定した後、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上になったか否かを判定し、その判定結果が肯定判定になった場合には、前記ヒルホールド制御を実行するようにしたことを要旨とする。
【0018】
上記構成では、請求項1に記載の発明の場合と同様の作用効果を奏し得る。
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の車両の制動力保持方法において、車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を基準制動力(BBP)として検出し、該基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算した値が前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、予め設定された前記最大制動力(BPmax)未満の最大作動値(BPmax1)となるように前記閾値(KBP)を設定する一方、その判定結果が否定判定である場合には、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定するようにしたことを要旨とする。
【0019】
上記構成では、請求項4に記載の発明の場合と同様の作用効果を奏し得る。
請求項8に記載の発明は、ブレーキペダル(37)の操作に基づいて各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)が付与されることにより車両が停止した後に前記ブレーキペダル(37)が前記制動力(BP)を増加させるためにさらに操作された場合には、そのブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与される制動力(BP)を、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動が開始されないように保持させるためのヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持方法において、車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定し、該基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)との加算値が前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、予め設定された前記最大制動力(BPMax)未満の最大作動値(BPmax1)となるように閾値(KBP)を設定する一方、その判定結果が否定判定である場合には、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定し、その後、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、前記ヒルホールド制御を実行するようにしたことを要旨とする。
【0020】
上記構成では、請求項5に記載の発明の場合と同様の作用効果を奏し得る。
請求項9に記載の発明は、ブレーキペダル(37)の操作に基づいて各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)が付与されることにより車両が停止した後に前記ブレーキペダル(37)が前記制動力(BP)を増加させるためにさらに操作された場合には、そのブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与される制動力(BP)を、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動が開始されないように保持させるためのヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持方法において、車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定し、該基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)との加算値が前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)未満の予め設定された最大作動値(BPmax1)以下であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、前記最大作動値(BPmax1)となるように閾値(KBP)を設定する一方、その判定結果が否定判定である場合には、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定し、その後、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、前記ヒルホールド制御を実行するようにしたことを要旨とする。
【0021】
上記構成では、基準制動力と基準値との加算値、及び、最大作動値のうち大きい方が閾値として設定される。そのため、ブレーキペダルの操作量が比較的小さい搭乗者に対応するように最大作動値を比較的小さな値に設定した場合、閾値は、ブレーキペダルの操作量が比較的小さかったときには基準制動力と基準値との加算値よりも大きい最大作動値に設定される。その一方、閾値は、ブレーキペダルの操作量が比較的大きかったときには最大作動値よりも大きい基準制動力と基準値との加算値に設定される。したがって、閾値が小さな値に設定されることによるヒルホールド制御の誤作動が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図7に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。また、特に説明がない限り、以下の記載における左右方向は、車両進行方向における左右方向と一致するものとする。
【0023】
図1に示すように、本実施形態における車両の制動力保持装置11は、複数(本実施形態では4つ)ある車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち、前輪FR,FLが駆動輪として機能する車両(いわゆる前輪駆動車)に搭載されている。この制動力保持装置11は、駆動源となるエンジン12で発生した駆動力を前輪FR,FLに伝達する駆動力伝達機構13と、前輪FR,FLを転舵輪(「操舵輪」ともいう。)として転舵させるための前輪転舵機構14と、各車輪FR,FL,RR,RLに制動力を付与するための制動力付与機構15とを備えている。また、この制動力保持装置11は、上記各機構13,14,15を車両の走行状態に応じて適宜に制御するための電子制御装置(「ECU」ともいう。)16を備えている。なお、エンジン12は、車両の搭乗者によるアクセルぺダル17の踏込み操作に対応した駆動力を発生させる。
【0024】
駆動力伝達機構13には、吸気管18内の吸気通路18aの開口断面積を可変させるスロットル弁19の開度を制御するためのスロットル弁アクチュエータ(例えばDCモータ)20と、エンジン12の吸気ポート(図示略)近傍に燃料を噴射するインジェクタを有する燃料噴射装置21とが設けられている。また、駆動力伝達機構13には、エンジン12の出力軸に接続されたトランスミッション22と、このトランスミッション22から伝達された駆動力を適宜配分して前輪FL,FRに伝達するディファレンシャルギヤ23とが設けられている。さらに、駆動力伝達機構13には、アクセルぺダル17の踏込み量(開度)を検出するためのアクセル開度センサSE1が設けられている。
【0025】
前輪転舵機構14には、ステアリングホイール24と、ステアリングホイール24が固定されたステアリングシャフト25と、ステアリングシャフト25に連結された転舵アクチュエータ26とが設けられている。また、前輪転舵機構14には、転舵アクチュエータ26により車両の左右方向に移動自在なタイロッドと、このタイロッドの移動により前輪FL,FRを転舵させるリンクとを含んだリンク機構部27とが設けられている。さらに、前輪転舵機構14には、ステアリングホイール24の操舵角を検出するための操舵角センサSE2が設けられている。
【0026】
次に、制動力付与機構15について図2に基づき以下説明する。
図2に示すように、本実施形態の制動力付与機構15は、マスタシリンダ30及びブースタ31を有する液圧発生装置32と、2つの液圧回路33,34を有する液圧制御装置(図2では二点鎖線で示す。)35とを備えている。各液圧回路33,34は、液圧発生装置32に接続されると共に、各車輪FR,FL,RR,RLに対応して設けられたホイールシリンダ(制動手段)36a,36b,36c,36dに接続されている。すなわち、右前輪FRにはホイールシリンダ36aが対応すると共に、左前輪FLにはホイールシリンダ36bが対応している。また、右後輪RRにはホイールシリンダ36cが対応すると共に、左後輪RLにはホイールシリンダ36dが対応している。
【0027】
液圧発生装置32には、ブレーキペダル37が設けられており、このブレーキペダル37が車両の搭乗者によって踏込み操作されたことに基づき、液圧発生装置32のマスタシリンダ30及びブースタ31が駆動するようになっている。また、マスタシリンダ30には、2つの出力ポート30a,30bが設けられており、各出力ポート30a,30bのうち一方の出力ポート30aには第1液圧回路33が接続されると共に、他方の出力ポート30bには第2液圧回路34が接続されている。さらに、液圧発生装置32には、ブレーキペダル37が操作された際に電子制御装置16に向けて信号を送信するブレーキスイッチSW1が設けられている。
【0028】
液圧制御装置35には、第1液圧回路33内のブレーキ液圧を昇圧するためのポンプ38と、第2液圧回路34内のブレーキ液圧を昇圧するためのポンプ39と、各ポンプ38,39を同時に駆動させるモータMとが設けられている。また、各液圧回路33,34上にはブレーキオイルが貯留されるリザーバ40,41が設けられており、各リザーバ40,41内のブレーキオイルは、ポンプ38,39の駆動に基づき液圧回路33,34内に供給されるようになっている。さらに、各液圧回路33,34には、マスタシリンダ30内のブレーキ液圧を検出するための液圧センサPS1,PS2が設けられている。
【0029】
第1液圧回路33には、右前輪FRに対応するホイールシリンダ36aに接続されるホイールシリンダ36a用(右前輪FR用)の右前輪用経路33aと、左後輪RLに対応するホイールシリンダ36dに接続されるホイールシリンダ36d用(左後輪RL用)の左後輪用経路33bとが形成されている。そして、これら各経路33a,33b上には、常開型の電磁弁42,43と常閉型の電磁弁44,45とがそれぞれ設けられている。
【0030】
同様に、第2液圧回路34には、左前輪FLに対応するホイールシリンダ36bに接続されるホイールシリンダ36b用(左前輪FL用)の左前輪用経路34aと、右後輪RRに対応するホイールシリンダ36cに接続されるホイールシリンダ36c用(右後輪RR用)の右後輪用経路34bとが形成されている。そして、これら各経路34a,34b上には、常開型の電磁弁46,47と常閉型の電磁弁48,49とがそれぞれ設けられている。
【0031】
また、第1液圧回路33において各経路33a,33bに分岐された部位よりもマスタシリンダ30側には、常開型の比例電磁弁50が接続されると共に、この比例電磁弁50と並列関係をなすリリーフ弁51が接続されている。そして、比例電磁弁50とリリーフ弁51とにより比例差圧弁52が構成されている。比例差圧弁52は、電子制御装置16による制御に基づき、比例差圧弁52よりもマスタシリンダ30側とホイールシリンダ36a,36d側とで液圧差(ブレーキ液圧の差)を発生させることができる。なお、この液圧差の最大値は、リリーフ弁51を構成するばね51aの付勢力に基づく値となる。また、第1液圧回路33には、リザーバ40とポンプ38との間からマスタシリンダ30側に向けて分岐された分岐液圧路33cが形成されており、この分岐液圧路33c上には常閉型の電磁弁53が接続されている。
【0032】
同様に、第2液圧回路34において各経路34a,34bに分岐された部位よりもマスタシリンダ30側には、常開型の比例電磁弁54が接続されると共に、この比例電磁弁54と並列関係をなすリリーフ弁55が接続されている。そして、比例電磁弁54とリリーフ弁55とにより比例差圧弁56が構成されている。比例差圧弁56は、電子制御装置16による制御に基づき、比例差圧弁56よりもマスタシリンダ30側とホイールシリンダ36b,36c側とで液圧差(ブレーキ液圧の差)を発生させることができる。なお、この液圧差の最大値は、リリーフ弁55を構成するばね55aの付勢力に基づく値となる。また、第2液圧回路34には、リザーバ41とポンプ39との間からマスタシリンダ30側に向けて分岐された分岐液圧路34cが形成されており、この分岐液圧路34c上には常閉型の電磁弁57が接続されている。
【0033】
ここで、上記各電磁弁42〜49のソレノイドコイルが通電状態にある場合及び非通電状態にある場合における各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧の変化について説明する。なお、以下の説明においては、各比例電磁弁50,54が閉じ状態であると共に、分岐液圧路33c,34c上の電磁弁53,57が閉じ状態であるものとする。
【0034】
まず、各電磁弁42〜49のソレノイドコイルが全て非通電状態にある場合には、常開型の電磁弁42,43,46,47は開き状態のままであると共に、常閉型の電磁弁44,45,48,49は閉じ状態のままである。そのため、上記ポンプ38,39が駆動している場合には、リザーバ40,41内のブレーキオイルが各経路33a,33b,34a,34bを介して各ホイールシリンダ36a〜36d内に流入し、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧は上昇することになる。
【0035】
一方、各電磁弁42〜49のソレノイドコイルが全て通電状態にある場合には、常開型の電磁弁42,43,46,47が閉じ状態となると共に、常閉型の電磁弁44,45,48,49が開き状態となる。そのため、各ホイールシリンダ36a〜36d内からブレーキオイルが各経路33a,33b,34a,34bを介してリザーバ40,41へと流出し、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧は降下することになる。
【0036】
そして、各電磁弁42〜49のうち常開型の電磁弁42,43,46,47のソレノイドコイルのみが通電状態にある場合には、全ての電磁弁42〜49が閉じ状態となる。そのため、各経路33a,33b,34a,34bを介したブレーキオイルの流動が規制される結果、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧はその液圧レベルが保持されることになる。
【0037】
図1に示すように、電子制御装置16は、制御手段としてのCPU60、ROM61、及びRAM62などを備えたデジタルコンピュータと、各装置を駆動させるための駆動回路(図示略)とを主体として構成されている。ROM61には、液圧制御装置35(モータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54の駆動)を制御するための制御プログラム、及び後述するホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧を設定するためのマップ(図3参照)などが記憶されている。また、RAM62には、車両の制動力保持装置11の駆動中に適宜書き換えられる各種の情報(閾値など)が記録されるようになっている。
【0038】
また、電子制御装置16の入力側インターフェース(図示略)には、上記ブレーキスイッチSW1、液圧センサPS1,PS2、アクセル開度センサSE1、及び操舵角センサSE2がそれぞれ接続されている。また、入力側インターフェースには、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6、及び実際に車両に働く横方向加速度(いわゆる「横G」)を検出するための横GセンサSE7がそれぞれ接続されている。さらに、入力側インターフェースには、実際に車両に働くヨーレイト(Yaw Rate)を検出するためのヨーレイトセンサSE8、及び車両の車体加速度を検出するための車体加速度センサ(「前後Gセンサ」ともいう。)SE9が接続されている。すなわち、CPU60は、ブレーキスイッチSW1、液圧センサPS1,PS2、及び上記各種センサSE1〜SE9からの各信号を受信するようになっている。
【0039】
一方、電子制御装置16の出力側インターフェース(図示略)には、各ポンプ38,39を駆動させるためのモータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54が接続されている。そして、CPU60は、上記スイッチSW1及び各センサPS1,PS2,SE1〜SE9からの入力信号に基づき、モータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54の動作を個別に制御するようになっている。
【0040】
次に、ROM61に記憶されるマップについて図3に基づき説明する。
図3に示すマップは、車両が停止する路面の斜度grと、この斜度grに車両が停止する際に最低限度必要なホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧(各車輪FL,FR,RL,RRに対する制動手段からの制動力)である最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPminとの関係を示すものである。この最低ブレーキ液圧BPminは、路面の斜度grが大きくなる程、高くなるように設定されている。すなわち、最低ブレーキ液圧BPminは、路面の斜度grの大きさに比例して変化している。
【0041】
次に、本実施形態のCPU60が実行する制御処理ルーチンについて、図4及び図5に示すフローチャート及び図6及び図7に示すタイミングチャートに基づき以下説明する。図4には後述するヒルホールド制御の開始条件となる閾値を設定するための閾値設定処理ルーチンが示されると共に、図5には後述するヒルホールド制御の実行の有無を設定するためのヒルホールド制御処理ルーチンが示されている。
【0042】
最初に図4に示す閾値設定処理ルーチンについて説明する。
さて、CPU60は、後述する閾値KBPが未設定の状態であって且つブレーキスイッチSW1からの信号を受信している場合には、所定周期毎に閾値設定処理ルーチンを実行する。そして、この閾値設定処理ルーチンにおいて、CPU60は、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度センサSE3〜SE6から受信した信号に基づき、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWをそれぞれ検出する(ステップS10)。続いて、CPU60は、車両が停止したか否かを判定する(ステップS11)。すなわち、CPU60は、ステップS10にて検出した各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWが「0(零)」になったことに基づき車両の車体速度が「0(零)」になったか否かを判定する。この判定結果が否定判定である場合、CPU60は、車両の車体速度が「0(零)」ではないものと判断し、閾値設定処理ルーチンを終了する。
【0043】
一方、ステップS11の判定結果が肯定判定である場合、CPU60は、車両の車体速度が「0(零)」になったものと判断し、車両が停止した路面の斜度grを検出する(ステップS12)。すなわち、CPU60は、車体加速度センサSE9から受信した信号に基づき路面の斜度grを検出する。この点で、本実施形態では、CPU60及び車体加速度センサSE9が、路面斜度検出手段として機能する。そして、CPU60は、ステップS12にて検出した路面の斜度grに対応する各ホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧BPminを、図3に示すマップに基づき設定する(ステップS13)。この点で、本実施形態は、CPU60が、ステップS12にて検出された路面の斜度gr上に車両が停止する際に最低限度必要な各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧(車輪FL,FR,RL,RRに対する制動手段からの制動力)を最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPminとして設定する最小制動力設定手段としても機能する。
【0044】
続いて、CPU60は、車両が停止してからの経過時間STが予め設定された基準時間(例えば、「0.2」秒)BT以上になったか否かを判定する(ステップS14)。この基準時間BTは、後述するホイールシリンダ36a〜36d内の基準ブレーキ液圧BBPを設定するための時間であり、予め実験やシミュレーションなどによって設定される。そして、ステップS14の判定結果が否定判定(ST<BT)である場合、CPU60は、ステップS14の判定結果が肯定判定となるまで判定処理を繰り返し実行する。一方、ステップS14の判定結果が肯定判定(ST≧BT)になった場合、CPU60は、液圧回路33,34上の液圧センサPS1,PS2からの信号に基づき液圧回路33,34内のブレーキ液圧(各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧)を検出する。そして、CPU60は、図6及び図7のタイミングチャートに示すように、検出したブレーキ液圧BPを基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBPとして設定する(ステップS15)。この点で、本実施形態では、CPU60が、基準制動力設定手段としても機能する。
【0045】
続いて、CPU60は、ステップS15にて設定した基準ブレーキ液圧BBPがステップS13にて設定した最低ブレーキ液圧BPmin未満であるか否かを判定する(ステップS16)。この点で、本実施形態では、CPU60が、最小制動力判定手段としても機能する。そして、ステップS16の判定結果が肯定判定(BBP<BPmin)である場合、CPU60は、基準ブレーキ液圧BBP=最低ブレーキ液圧BPminとなるように、基準ブレーキ液圧BBPを設定変更する(ステップS17)。この点で、本実施形態では、CPU60が、基準制動力変更手段としても機能する。そして、CPU60は、その処理を後述するステップS19に移行する。
【0046】
一方、ステップS16の判定結果が否定判定(BBP≧BPmin)である場合、CPU60は、基準ブレーキ液圧BBPと予め設定された基準値BVとを加算した値が最高ブレーキ液圧BPmax以上であるか否かを判定する(ステップS18)。この点で、本実施形態では、CPU60が、最大制動力判定手段としても機能する。ここで、基準値BVは、後述する閾値KBPを設定するための値であり、予め実験やシミュレーションなどによって設定される。また、最高ブレーキ液圧BPmaxは、制動力付与機構15により各車輪FL,FR,RL,RRに対して最も大きな制動力(例えば、約3923m・kg/s2 )を付与可能な場合の液圧回路33,34(各ホイールシリンダ36a〜36d)内のブレーキ液圧(例えば、約8M・Pa)のことである。そのため、最高ブレーキ液圧BPmaxは、予め実験やシミュレーションなどによって設定される。そして、ステップS18の判定結果が否定判定((BBP+BV)<BPmax)である場合、CPU60は、その処理を後述するステップS19に移行する。
【0047】
ステップS19において、CPU60は、後述するヒルホールド制御を実行するための閾値KBPを、ステップS15又はステップS17にて設定した基準ブレーキ液圧BBPと基準値BVとを加算することにより設定する。すなわち、ステップS16及びステップS18の判定結果が共に否定判定である場合、CPU60は、ステップS15にて設定した基準ブレーキ液圧BBPと基準値BVとを加算することにより閾値KBPを設定する。また、ステップS16の判定結果が肯定判定である場合、図6に示すように、CPU60は、ステップS17にて設定変更した基準ブレーキ液圧BBP(=BPmin)と基準値BVとを加算することにより閾値KBPを設定する。この点で、本実施形態では、CPU60が、閾値KBPを、最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPminと基準値BVとを加算した値以上に設定する閾値設定手段としても機能する。その後、CPU60は、閾値設定処理ルーチンを終了する。
【0048】
一方、ステップS18の判定結果が肯定判定((BBP+BV)≧BPmax)である場合、図7に示すように、CPU60は、閾値KBPを、最高ブレーキ液圧BPmaxであって且つ最低ブレーキ液圧BPminと基準値BVとを加算した値よりも大きな値である作動最高ブレーキ液圧(最大作動値)BPmax1に設定する(ステップS20)。この作動最高ブレーキ液圧BPmax1は、搭乗者が女性やお年寄りなどであってもブレーキペダル37を確実に踏込むことが可能な範囲で最も高い各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧(例えば、約6.5M・Pa)BPのことであり、予め実験やシミュレーションなどによって設定される。この場合、各車輪FL,FR,RL,RRには、約「2942(m・kg/s2 )」の制動力が各ホイールシリンダ36a〜36dから付与される。その後、CPU60は、閾値設定処理ルーチンを終了する。
【0049】
次に、図5に示すヒルホールド制御処理ルーチンについて説明する。
さて、CPU60は、ブレーキスイッチSW1からの信号を受信している場合には所定周期毎にヒルホールド制御処理ルーチンを実行する。そして、このヒルホールド制御処理ルーチンにおいて、CPU60は、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度センサSE3〜SE6から受信した信号に基づき、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWをそれぞれ検出し、車両が停止しているか否かを判定する(ステップS30)。すなわち、CPU60は、車両の車体速度が「0(零)」であるか否かを判定する。そして、ステップS30の判定結果が否定判定である場合、CPU60は、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。
【0050】
一方、ステップS30の判定結果が肯定判定である場合、CPU60は、上記した閾値設定処理ルーチンにて閾値KBPが設定されたか否かを判定する(ステップS31)。この判定結果が否定判定である場合、CPU60は、閾値KBPが設定されていないものと判断し、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。一方、ステップS31の判定結果が肯定判定である場合、CPU60は、閾値KBPが既に設定されているものと判断し、液圧回路33,34上の液圧センサPS1,PS2からの信号に基づき液圧回路33,34内のブレーキ液圧(各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧)BPを検出する。そして、CPU60は、検出した各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが閾値KBP以上になったか否かを判定する(ステップS32)。この判定結果が否定判定(BP<KBP)である場合、CPU60は、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。
【0051】
一方、ステップS32の判定結果が肯定判定(BP≧KBP)である場合、CPU60は、車両の停止後にブレーキペダル37をさらに深く踏込み操作されたものと判断し、ヒルホールド制御を実行する(ステップS33)。すなわち、図6及び図7に示すように、車両が停止してから時間Ta,Tb経過後に搭乗者がブレーキペダル37を深く踏込んだことにより、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが閾値KBP以上となった場合に、ヒルホールド制御が実行される。この点で、本実施形態では、CPU60が、閾値KBPの設定後における各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BP(各車輪FL,FR,RL,RRに対する制動手段からの制動力)が閾値KBP以上になったか否かを判定する制動力判定手段としても機能する。
【0052】
ここで、ヒルホールド制御とは、ブレーキペダル37の踏込み操作に基づいて車両が停止した場合に、そのブレーキペダル37の踏込み操作が解消されたとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する各ホイールシリンダ36a〜36dからの制動力を、各車輪FR,FL,RR,RLが回動しないように保持する制御である。すなわち、ヒルホールド制御が実行された場合、CPU60は、各液圧回路33,34上の常開型の電磁弁42,43,46,47を通電状態とすることにより、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧を保持するようになっている。
【0053】
また、ヒルホールド制御は、ブレーキペダル37の踏込み操作が解除されてから(すなわち、搭乗者がブレーキペダル37の操作を止めてから)予め設定された所定時間(例えば2秒程度)の間実行されるようになっている。すなわち、ブレーキペダル37の踏込み操作が解除されてから所定時間が経過した場合には、ヒルホールド制御が自動的に終了し、常開型の電磁弁42,43,46,47が非通電状態になると共に、常閉型の電磁弁44,45,48,49を通電状態になる結果、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧が減圧されるようになっている。換言すると、CPU60は、各ホイールシリンダ36a〜36dにより各車輪FR,FL,RR,RLに付与される制動力を低下させることにより、各車輪FR,FL,RR,RLのロック状態を解除(すなわち、回動を許可)するようになっている。
【0054】
そして、CPU60は、ステップS33のヒルホールド制御を実行した後、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。なお、CPU60は、上記した閾値設定処理ルーチンやヒルホールド制御処理ルーチンの実行中であっても、アクセル開度センサSE1からの信号に基づきアクセルぺダル17が踏込み操作されたことを検知した場合には、ヒルホールド制御を終了させる。この際に、CPU60は、設定された閾値KBPをリセットすることにより、閾値KBPが設定されていない状態にする。
【0055】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ヒルホールド制御の開始条件となる閾値KBPは、車両が停止した路面の斜度grに基づき設定される各ホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPminと予め設定された基準値BVとを加算した値以上となるように設定される。すなわち、搭乗者にヒルホールド制御を実行させる意思がない場合に、ブレーキペダル37の操作によって各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BP(各車輪FL,FR,RL,RRに対する制動手段からの制動力)が閾値KBP以上になってしまうことが抑制される。したがって、ヒルホールド制御の誤作動を抑制することができる。
【0056】
(2)基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBPが最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPmin未満である場合には、基準ブレーキ液圧BBPが最低ブレーキ液圧BPminに設定変更され、その設定変更された基準ブレーキ液圧BBP(=BPmin)に基準値BVを加算することにより閾値KBPが設定される。そのため、最低ブレーキ液圧BPminに基準値BVを加算した値以上に閾値KBPを確実に設定できる。
【0057】
(3)基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBPと基準値BVとを加算した値が最高ブレーキ液圧(最大制動力)BPmax以上になった場合、閾値KBPは、最高ブレーキ液圧BPmax未満であって且つ最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPminと基準値BVとを加算した値よりも大きい作動最高ブレーキ液圧(最大作動値)BPmax1に設定される。そのため、搭乗者がヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダル37を踏込み操作した際に、ヒルホールド制御が実行されないことが抑制される。したがって、ヒルホールド制御の誤作動を抑制すると共に、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダル37が踏込み操作された場合にヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる。
(4)車両が停止した路面の斜度grに対応した最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPminをROM61から読み出すことにより、各ホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧BPminが設定される。すなわち、この最低ブレーキ液圧BPminを設定するために、関係式を用いて演算処理を行う必要もない。したがって、CPU(最小制動力設定手段)60の処理負担を良好に低減できる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図8に従って説明する。なお、第2の実施形態は、閾値設定処理ルーチンの処理内容が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0058】
本実施形態における車両の制動力保持装置11は、電子制御装置16を備えている。この電子制御装置16は、CPU60、ROM61、及びRAM62などを備えたデジタルコンピュータと、各装置を駆動させるための駆動回路(図示略)とを主体として構成されている。ROM61には、液圧制御装置35(モータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54の駆動)を制御するための制御プログラムやマップ(図3参照)などが記憶されている。また、RAM62には、車両の制動力保持装置11の駆動中に適宜書き換えられる各種の情報(閾値など)が記録されるようになっている。
【0059】
次に、本実施形態のCPU60が実行する制御処理ルーチンのうち、閾値設定処理ルーチンについて図8に基づき以下説明する。
さて、CPU60は、閾値KBPが未設定の状態であって且つブレーキスイッチSW1からの信号を受信している場合には、所定周期毎に閾値設定処理ルーチンを実行する。そして、この閾値設定処理ルーチンにおいて、CPU60は、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度センサSE3〜SE6から受信した信号に基づき、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWをそれぞれ検出する(ステップS40)。続いて、CPU60は、ステップS40にて検出した各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWに基づき車両が停止したか否かを判定する(ステップS41)。この判定結果が否定判定である場合、CPU60は、閾値設定処理ルーチンを終了する。一方、ステップS41の判定結果が肯定判定である場合、CPU60は、車両が停止した路面の斜度grを検出する(ステップS42)。そして、CPU60は、ステップS42にて検出した路面の斜度grに対応する各ホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧BPminを、図3に示すマップに基づき設定する(ステップS43)。
【0060】
続いて、CPU60は、車両が停止してからの経過時間STが予め設定された基準時間(例えば、「0.8」秒)BT以上になったか否かを判定する(ステップS44)。そして、ステップS44の判定結果が否定判定(ST<BT)である場合、CPU60は、ステップS44の判定結果が肯定判定となるまで判定処理を繰り返し実行する。一方、ステップS44の判定結果が肯定判定(ST≧BT)になった場合、CPU60は、液圧回路33,34上の液圧センサPS1,PS2からの信号に基づき液圧回路33,34内のブレーキ液圧(各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧)BPを検出する。そして、CPU60は、検出したブレーキ液圧BPを基準ブレーキ液圧BBPとして設定する(ステップS45)。
【0061】
続いて、CPU60は、ステップS45にて設定した基準ブレーキ液圧BBPがステップS43にて設定した最低ブレーキ液圧BPmin未満であるか否かを判定する(ステップS46)。この判定結果が肯定判定(BBP<BPmin)である場合、CPU60は、最低ブレーキ液圧BPminと基準値BVとを加算することにより閾値KBPを設定し(ステップS47)、その後、閾値設定処理ルーチンを終了する。
【0062】
一方、ステップS46の判定結果が否定判定(BBP≧BPmin)である場合、CPU60は、基準ブレーキ液圧BBPと基準値BVとの加算値が最高ブレーキ液圧BPmax以上であるか否かを判定する(ステップS48)。この判定結果が否定判定((BBP+BV)<BPmax)である場合、CPU60は、基準ブレーキ液圧BBPと基準値BVとを加算することにより閾値KBPを設定し(ステップS49)、その後、閾値設定処理ルーチンを終了する。
【0063】
一方、ステップS48の判定結果が肯定判定((BBP+BV)≧BPmax)である場合、CPU60は、閾値KBPを、最高ブレーキ液圧BPmax未満であって且つ最低ブレーキ液圧BPminと基準値BVとを加算した値よりも大きな値である作動最高ブレーキ液圧BPmax1に設定する(ステップS50)。その後、CPU60は、閾値設定処理ルーチンを終了する。
【0064】
本実施形態では、上記第1の実施形態の効果(1)(3)(4)に加え、さらに以下に示す効果をも得ることができる。
(5)基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBPが最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPmin未満である場合には、最低ブレーキ液圧BPminに基準値BVを加算することにより閾値KBPが設定される。そのため、最低ブレーキ液圧BPminに基準値BVを加算した値以上に閾値KBPを確実に設定できる。
【0065】
(6)また、基準ブレーキ液圧BBP<最低ブレーキ液圧BPminである場合に、第1の実施形態のように基準ブレーキ液圧BBPを書き換える必要がない。そのため、CPU60の制御負担を軽減させることができる。
【0066】
なお、各実施形態は以下のような別の実施形態(別例)に変更してもよい。
・第1の実施形態において、閾値設定処理ルーチンにおけるステップS16及びステップS17を実行しなくてもよい。すなわち、ステップS15にて基準ブレーキ液圧BBPを設定した後、ステップS18の判定処理を実行するようにしてもよい。この場合においても、閾値KBPが最高ブレーキ液圧BPmax以上になることが回避される。そのため、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダル37が踏込み操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる。
【0067】
・同様に、第2の実施形態において、閾値設定処理ルーチンにおけるステップS46及びステップS47を実行しなくてもよい。すなわち、ステップS45にて基準ブレーキ液圧BBPを設定した後、ステップS48の判定処理を実行するようにしてもよい。この場合においても、閾値KBPが最高ブレーキ液圧BPmax以上になることが回避される。そのため、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダル37が踏込み操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる。
【0068】
・第2の実施形態において、閾値設定処理ルーチンにおけるステップS48では、(基準ブレーキ液圧BBP+基準値BV)<作動最高ブレーキ液圧BPmax1であるか否かを判定するようにしてもよい。ただし、基準ブレーキ液圧BBPと基準値BVとの加算値が最高ブレーキ液圧BPmaxよりも大きい場合には、閾値KBPを最高ブレーキ液圧BPmaxに設定することが望ましい。このように構成した場合、基準ブレーキ液圧BBPと基準値BVとの加算値、及び、作動最高ブレーキ液圧BPmax1のうち大きい方が閾値KBPとして設定される。そのため、ブレーキペダル37の踏込み操作量が比較的小さい搭乗者(女性やお年寄りなど)に対応するように作動最高ブレーキ液圧BPmax1を比較的小さな値に設定したとする。この場合、ブレーキペダル37の踏込み操作量が比較的小さかったときには、閾値KBPは基準ブレーキ液圧BBPと基準値BVとの加算値よりも大きい作動最高ブレーキ液圧BPmax1に設定される。一方、ブレーキペダル37の踏込み操作量が比較的大きかったときには、閾値KBPは作動最高ブレーキ液圧BPmax1よりも大きい基準ブレーキ液圧BBPと基準値BVとの加算値に設定される。したがって、閾値KBPが小さな値に設定されることによるヒルホールド制御の誤作動を抑制できる。
【0069】
・第1の実施形態において、閾値設定処理ルーチンにおけるステップS18及びステップS20を実行しなくてもよい。すなわち、ステップS16の判定結果が否定判定である場合、ステップS19の処理を実行するようにしてもよい。このようにした際には、搭乗者にヒルホールド制御を実行させる意思がない場合に、閾値KBPが比較的低く設定されることに起因して、ブレーキペダル37の踏込み操作によって各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが閾値KBP以上になってしまうことが抑制される。したがって、ヒルホールド制御の誤作動を抑制することができる。
【0070】
・同様に、第2の実施形態において、閾値設定処理ルーチンにおけるステップS48及びステップS50を実行しなくてもよい。すなわち、ステップS46の判定結果が否定判定である場合、ステップS49の処理を実行するようにしてもよい。このようにした際には、搭乗者にヒルホールド制御を実行させる意思がない場合に、閾値KBPが比較的低く設定されることに起因して、ブレーキペダル37の踏込み操作によって各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが閾値KBP以上になってしまうことが抑制される。したがって、ヒルホールド制御の誤作動を抑制することができる。
【0071】
・各実施形態において、基準時間BTは、任意の時間(例えば、「0.5」秒)などに設定されてもよい。すなわち、基準時間BTが短い時間(例えば「0.1」秒)に設定された場合であっても、ヒルホールド制御の誤作動を抑制することができる。また、基準時間BTが長い時間(例えば「1」秒)に設定された場合であっても、ヒルホールド制御が実行されないことを抑制することができる。
【0072】
・各実施形態において、ROM61には、図3に示すマップを記憶させるのではなく、路面の斜度grと各ホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧BPminとの関係式を記憶させ、この関係式に基づき最低ブレーキ液圧BPminを設定するようにしてもよい。
【0073】
・各実施形態において、ブレーキペダルは、搭乗者の足で操作するいわゆるフットペダル式のブレーキペダルではなく、手動で操作可能なブレーキペダルであってもよい。
・各実施形態において、前輪駆動車に搭載された車両の制動力保持装置11ではなく、後輪駆動車に搭載される車両の制動力保持装置に具体化してもよい。また、四輪駆動車に搭載される車両の制動力保持装置に具体化してもよい。
【0074】
・各実施形態において、第1液圧回路33には右前輪FR用のホイールシリンダ36aと左前輪FL用のホイールシリンダ36bとが接続されると共に、第2液圧回路34には右後輪RR用のホイールシリンダ36cと左後輪RL用のホイールシリンダ36dとが接続されるような回路構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1の実施形態における車両の制動力保持装置のブロック図。
【図2】第1の実施形態における制動力付与機構のブロック図。
【図3】路面の斜度と最低ブレーキ液圧との関係を示すマップ。
【図4】第1の実施形態における閾値設定処理ルーチンを示すフローチャート。
【図5】第1の実施形態におけるヒルホールド制御処理ルーチンを示すフローチャート。
【図6】基準ブレーキ液圧が最低ブレーキ液圧未満だった場合におけるタイミングチャート。
【図7】基準ブレーキ液圧と基準値との加算値が最高ブレーキ液圧以上だった場合におけるタイミングチャート。
【図8】第2の実施形態における閾値設定処理ルーチンを示すフローチャート。
【図9】従来の車両の制動力保持装置の場合におけるタイミングチャート。
【符号の説明】
【0076】
11…車両の制動力保持装置、36a〜36d…ホイールシリンダ(制動手段)、37…ブレーキペダル、60…CPU(路面斜度検出手段、最小制動力設定手段、閾値設定手段、制動力判定手段、制御手段、基準制動力設定手段、最小制動力判定手段、基準制動力変更手段、最大制動力判定手段)、BBP…基準ブレーキ液圧(基準制動力)、BP…制動力、BPmax…最高ブレーキ液圧(最大制動力)、BPmax1…作動最高ブレーキ液圧(最大作動値)、BPmin…最低ブレーキ液圧(最小制動力)、BT…基準時間、BV…基準値、FR,FL,RR,RL…車輪、gr…路面の斜度、KBP…閾値、SE9…車体加速度センサ(路面斜度検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダル(37)の操作に基づいて制動手段(36a,36b,36c,36d)が各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)を付与することにより車両が停止した後に前記ブレーキペダル(37)が前記制動力(BP)を増加させるためにさらに操作された場合には、そのブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動が開始されないように保持させるヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持装置(11)において、
前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出する路面斜度検出手段(60,SE9)と、
該路面斜度検出手段(60,SE9)により検出された斜度の路面(gr)上に車両が停止する際に最低限必要な前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を最小制動力(BPmin)として設定する最小制動力設定手段(60)と、
前記ヒルホールド制御の開始条件となる閾値(KBP)を、前記最小制動力(BPmin)と予め設定された基準値(BV)とを加算した値以上に設定する閾値設定手段(60)と、
該閾値設定手段(60)による前記閾値(KBP)の設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上になったか否かを判定する制動力判定手段(60)と、
該制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定になった場合に、前記ヒルホールド制御を実行させる制御手段(60)とを備えた車両の制動力保持装置。
【請求項2】
車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)と、
前記基準制動力(BBP)が前記最小制動力(BPmin)未満であるか否かを判定する最小制動力判定手段(60)と、
該最小制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記基準制動力(BBP)を、その値が前記最小制動力(BPmin)となるように設定変更する基準制動力変更手段(60)とをさらに備え、
前記閾値設定手段(60)は、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定する請求項1に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項3】
車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)と、
前記基準制動力(BBP)が前記最小制動力(BPmin)未満であるか否かを判定する最小制動力判定手段(60)とをさらに備え、
前記閾値設定手段(60)は、前記最小制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合には前記最小制動力(BPmin)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定する一方、前記最小制動力判定手段(60)による判定結果が否定判定である場合には前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定する請求項1に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項4】
前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算した値が前記制動手段(36a,36b,36c,36d)により前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)以上であるか否かを判定する最大制動力判定手段(60)をさらに備え、
前記閾値設定手段(60)は、前記最大制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記最大制動力(BPmax)未満であって且つ前記最小制動力(BPmin)と前記基準値(BV)とを加算した値よりも大きい最大作動値(BPmax1)となるように前記閾値(KBP)を設定する請求項2又は請求項3に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項5】
ブレーキペダル(37)の操作に基づいて制動手段(36a,36b,36c,36d)が各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)を付与することにより車両が停止した後に前記ブレーキペダル(37)が前記制動力(BP)を増加させるためにさらに操作された場合には、そのブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動が開始されないように保持させるヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持装置(11)において、
車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)と、
前記基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)とを加算した値が前記制動手段(36a,36b,36c,36d)により前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)以上であるか否かを判定する最大制動力判定手段(60)と、
該最大制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合には、予め設定された前記最大制動力(BPmax)未満の最大作動値(BPmax1)となるように閾値(KBP)を設定する一方、前記最大制動力判定手段(60)による判定結果が否定判定である場合には、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより閾値(KBP)を設定する閾値設定手段(60)と、
該閾値設定手段(60)による前記閾値(KBP)の設定後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する前記制動手段(36a,36b,36c,36d)からの制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上になったか否かを判定する制動力判定手段(60)と、
該制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定になった場合に、前記ヒルホールド制御を実行させる制御手段(60)とを備えた車両の制動力保持装置。
【請求項6】
ブレーキペダル(37)の操作に基づいて各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)が付与されることにより車両が停止した後に前記ブレーキペダル(37)が前記制動力(BP)を増加させるためにさらに操作された場合には、そのブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与される制動力(BP)を、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動が開始されないように保持させるためのヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持方法において、
前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出すると共に、その検出された斜度(gr)の路面上に車両が停止する際に最低限必要な前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を最小制動力(BPmin)として設定し、前記ヒルホールド制御の開始条件となる閾値(KBP)を、前記最小制動力(BPmin)と予め設定された基準値(BV)とを加算した値以上となるように設定した後、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上になったか否かを判定し、その判定結果が肯定判定になった場合には、前記ヒルホールド制御を実行するようにした車両の制動力保持方法。
【請求項7】
車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を基準制動力(BBP)として検出し、該基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算した値が前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、予め設定された前記最大制動力(BPmax)未満の最大作動値(BPmax1)となるように前記閾値(KBP)を設定する一方、その判定結果が否定判定である場合には、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定するようにした請求項6に記載の車両の制動力保持方法。
【請求項8】
ブレーキペダル(37)の操作に基づいて各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)が付与されることにより車両が停止した後に前記ブレーキペダル(37)が前記制動力(BP)を増加させるためにさらに操作された場合には、そのブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与される制動力(BP)を、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動が開始されないように保持させるためのヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持方法において、
車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定し、該基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)との加算値が前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、予め設定された前記最大制動力(BPMax)未満の最大作動値(BPmax1)となるように閾値(KBP)を設定する一方、その判定結果が否定判定である場合には、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定し、その後、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、前記ヒルホールド制御を実行するようにした車両の制動力保持方法。
【請求項9】
ブレーキペダル(37)の操作に基づいて各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)が付与されることにより車両が停止した後に前記ブレーキペダル(37)が前記制動力(BP)を増加させるためにさらに操作された場合には、そのブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与される制動力(BP)を、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動が開始されないように保持させるためのヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持方法において、
車両停止時から予め設定された基準時間(BT)経過後における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を基準制動力(BBP)として設定し、該基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)との加算値が前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)未満の予め設定された最大作動値(BPmax1)以下であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、前記最大作動値(BPmax1)となるように閾値(KBP)を設定する一方、その判定結果が否定判定である場合には、前記基準制動力(BBP)と前記基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定し、その後、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、前記ヒルホールド制御を実行するようにした車両の制動力保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−112208(P2007−112208A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303419(P2005−303419)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】