説明

車両の制動力保持装置、及び車両の制動力保持方法

【課題】ヒルホールド制御の誤作動を抑制すると共に、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる車両の制動力保持装置及び車両の制動力保持方法を提供する。
【解決手段】CPUは、車両が停止した車両停止期間T1中における各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧BPを検出し、車両停止期間T1の終了直後に、その車両停止期間T1における最大操作ブレーキ液圧BP1を設定する。そして、CPUは、その設定した最大操作ブレーキ液圧BP1に応じた閾値KBPを設定する。その後、ブレーキペダルの踏込み操作に基づき、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧BPが閾値KBP以上となった場合に、ヒルホールド制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダルの操作により停止した車両の各車輪に付与されている制動力を前記ブレーキペダルの操作解消後においても保持させる車両の制動力保持装置、及び車両の制動力保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、坂路などの斜面上に車両が停止した場合に、搭乗者がブレーキペダルの踏込み操作を解消すると、各車輪に対する制動力が急激に低下するため、斜面の傾斜方向下側への車両の予期せぬ移動(すなわち、車両のずり下がり)が発生する。こうした車両の予期せぬ移動が発生した場合には、坂道発進操作等の車両操作に対する搭乗者の余裕を低下させてしまうおそれがあった。そこで、従来から、ブレーキペダルの踏込み操作の解消後においても停止車両の車輪に付与されている制動力を保持させて車両の予期せぬ移動の発生を抑制する所謂ヒルホールド制御を実行する車両の制動力保持装置、及び車両の制動力保持方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この特許文献1に記載の車両の制動力保持装置では、ヒルホールド制御を実行させるための閾値がROMに予め設定されている。そして、車両停止後におけるブレーキペダルの踏込み操作によって各ホイールシリンダ(制動手段)内のブレーキ液圧が閾値以上になった場合に、ヒルホールド制御を実行するようになっている。
【特許文献1】特開平11−321596号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ROMに予め設定される閾値によっては、搭乗者の意思とは無関係にヒルホールド制御が実行されたり、ブレーキペダルをいくら強く踏込んでもヒルホールド制御が実行されなかったりすることがあった。すなわち、比較的低い閾値が設定されている場合において、車両停止時に脚力の強い搭乗者がブレーキペダルの踏込み操作を行ったときには、搭乗者にヒルホールド制御を実行させる意思がないにも関わらず、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が閾値以上になってしまい、その結果、ヒルホールド制御が誤作動してしまうおそれがあった。また、比較的高い閾値が設定されている場合において、車両停止時に脚力の弱い搭乗者(女性やお年寄りなど)がブレーキペダルの踏込み操作を行ったときには、搭乗者にヒルホールド制御を実行させる意思があるにも関わらず、各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が閾値以上となるように搭乗者がブレーキペダルを踏込むことができないことがある。こうした場合には、ヒルホールド制御が作動しないおそれがあった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヒルホールド制御の誤作動を抑制すると共に、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる車両の制動力保持装置及び車両の制動力保持方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、車両の制動力保持装置にかかる請求項1に記載の発明は、車両が停止した車両停止期間(T1)中であるか否かを判定する車両停止判定手段(60)と、該車両停止判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、ブレーキペダル(37)の操作に基づき前記車両の各車輪(FR,FL,RR,RL)に対して付与されている制動力(BP)を検出する制動力検出手段(60,PS1,PS2)と、該制動力検出手段(60,PS1,PS2)により検出された前記制動力(BP)を記録する制動力記録手段(62)と、前記車両停止判定手段(60)による判定結果が肯定判定から否定判定に切り換わった場合に、一回の車両停止期間(T1)中に前記制動力記録手段(62)に記録された前記制動力(BP)のうち最も大きな制動力(BP)に応じた値を閾値(KBP)として設定する閾値設定手段(60)と、前記車両停止時における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対して付与されている制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上であるか否かを判定する制動力判定手段(60)と、該制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記ブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動を回避するために前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を保持させるように前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)を付与する制動手段(36a,36b,36c,36d)を制御する制御手段(60)とを備えたことを要旨とする。
【0007】
上記構成では、車両停止期間中における搭乗者のブレーキペダルの操作量(操作力)に基づき発生した制動力のうち最も大きな制動力に応じてヒルホールド制御の開始条件となる閾値が設定される。すなわち、ブレーキペダルの操作量(操作力)が比較的小さい搭乗者に対しては比較的低い閾値が設定される一方、ブレーキペダルの操作量(操作力)が比較的大きい搭乗者に対しては比較的高い閾値が設定される。そして、その閾値設定後の車両停止時における各車輪に対する制動手段からの制動力が閾値以上となった場合には、ブレーキペダルの操作解消後においても各車輪の回動を回避するために各車輪に対する制動力を保持させるヒルホールド制御が実行される。したがって、ブレーキペダルの操作量(操作力)が搭乗者毎に相違していても、ヒルホールド制御の誤作動が抑制されると共に、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合において該ヒルホールド制御が作動しないことが抑制される。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両の制動力保持装置において、一回の車両停止期間(T1)中に前記制動力記録手段(62)に記録された前記制動力(BP)のうち最も大きな制動力(BP)を最大操作制動力(BP1)として設定する最大操作制動力設定手段(60)と、前記最大操作制動力(BP1)を複数記録する最大操作制動力記録手段(62)と、該最大操作制動力記録手段(60)に記録された前記各最大操作制動力(BP1)を平均した値を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)とをさらに備え、前記閾値設定手段(60)は、前記基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定することを要旨とする。
【0009】
上記構成では、閾値は、最大操作制動力記録手段に記録される複数の最大操作制動力を平均した値である基準制動力に予め設定された基準値を加算することにより設定される。そのため、たとえ途中でブレーキペダルの操作量(操作力)の比較的小さい搭乗者から操作量(操作力)の比較的大きい搭乗者に変更したとしても、その変更した搭乗者におけるブレーキペダルの操作量(操作力)に対応した閾値を設定できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の車両の制動力保持装置において、一回の車両停止期間(T1)中に前記制動力記録手段(62)に記録された前記制動力(BP)のうち最も大きな制動力(BP)を最大操作制動力(BP1)として設定する最大操作制動力設定手段(60)と、前記最大操作制動力(BP1)を記録する最大操作制動力記録手段(62)と、前記最大操作制動力設定手段(60)により最新の最大操作制動力(BP1)が設定された場合に、該最新の最大操作制動力(BP1)が前記最大操作制動力記録手段(62)に記録されている非最新の最大操作制動力(BP1)よりも大きいか否かを判定する最大操作制動力判定手段(60)と、該最大操作制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合には前記最新の最大操作制動力(BP1)を基準制動力(BBP)として設定する一方、前記最大操作制動力判定手段(60)による判定結果が否定判定である場合には前記非最新の最大操作制動力(BP1)を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)とをさらに備え、前記閾値設定手段(60)は、前記基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定することを要旨とする。
【0011】
上記構成では、最新の最大操作制動力が最大操作制動力記録手段に既に記録されている非最新の最大操作制動力よりも大きい場合には、その最新の最大操作制動力が基準制動力となる。そして、その基準制動力に基準値を加算することにより閾値が設定される。そのため、比較的低い値の閾値が設定されることに基づきヒルホールド制御が誤作動することをより好適に抑制することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の車両の制動力保持装置において、前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出する路面斜度検出手段(60,SE9)と、該路面斜度検出手段(60,SE9)により検出された斜度(gr)の路面上に前記車両が停止する際に最低限必要な前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を最小制動力(BPmin)として設定する最小制動力設定手段(60)とをさらに備え、前記基準制動力設定手段(60)は、前記基準制動力(BBP)が前記最小制動力(BPmin)未満である場合には、該最小制動力(BPmin)を前記基準制動力(BBP)として設定することを要旨とする。
【0013】
上記構成では、最大操作制動力に基づき設定された基準制動力が最小制動力未満である場合には、基準制動力が最小制動力となるように設定されると共に、閾値が最小制動力に基準値を加算した値となるように設定される。そのため、閾値が低く設定されることによるヒルホールド制御の誤作動を抑制することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両の制動力保持装置において、前記最大操作制動力(BP1)に応じて設定された前記閾値(KBP)が前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)以上であるか否かを判定する最大制動力判定手段(60)をさらに備え、前記閾値設定手段(60)は、前記最大制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記最大制動力(BPmin)以下となる予め設定された最大作動値(BPmax1)となるように前記閾値(KBP)を設定することを要旨とする。
【0015】
上記構成では、閾値は、最大制動力未満となるように設定される。そのため、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダルが操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載の車両の制動力保持装置において、自動変速機(22)又は無段変速機(22)を搭載した車両の制動力保持装置(11)であって、前記制動力検出手段(60,PS1,PS2)は、前記自動変速機(22)又は無段変速機(22)のシフトレンジがパーキングレンジである場合に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対して付与されている制動力(BP)を検出することを要旨とする。
【0017】
ここで、自動変速機又は無段変速機のシフトレンジがパーキングレンジである場合には、搭乗者によるブレーキペダルの操作量(操作力)が比較的大きく、ヒルホールド制御の誤作動が発生する可能性が比較的高い。ところが、上記構成では、自動変速機又は無段変速機のシフトレンジがパーキングレンジである場合における最大操作制動力に応じた閾値が設定される。そのため、ヒルホールド制御が誤差動することをより好適に抑制することができる。
【0018】
一方、車両の制動力保持方法にかかる請求項7に記載の発明は、車両が停止した車両停止期間(T1)中であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、ブレーキペダル(37)の操作に基づき各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与されている制動力(BP)を検出すると共に該制動力(BP)を記録し、その判定結果が肯定判定から否定判定に切り換わった場合には、一回の車両停止期間(T1)中に記録した前記制動力(BP)のうち最も大きな制動力(BP)に応じた値を閾値(KBP)として設定し、その後、前記車両停止時における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対して付与されている制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上であるか否かを判定し、該判定結果が肯定判定である場合には、ブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動を回避するために前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を保持させるようにしたことを要旨とする。
【0019】
上記構成では、請求項1に記載の発明の場合と同様の作用効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図5に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。また、特に説明がない限り、以下の記載における左右方向は、車両進行方向における左右方向と一致するものとする。
【0021】
図1に示すように、本実施形態における車両の制動力保持装置11は、複数(本実施形態では4つ)ある車輪(右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RL)のうち、前輪FR,FLが駆動輪として機能する車両(いわゆる前輪駆動車)に搭載されている。この制動力保持装置11は、駆動源となるエンジン12で発生した駆動力を前輪FR,FLに伝達する駆動力伝達機構13と、前輪FR,FLを転舵輪(「操舵輪」ともいう。)として転舵させるための前輪転舵機構14と、各車輪FR,FL,RR,RLに制動力を付与するための制動力付与機構15とを備えている。また、この制動力保持装置11は、上記各機構13,14,15を車両の走行状態に応じて適宜に制御するための電子制御装置(「ECU」ともいう。)16を備えている。なお、エンジン12は、車両の搭乗者によるアクセルぺダル17の踏込み操作に対応した駆動力を発生させる。
【0022】
駆動力伝達機構13には、吸気管18内の吸気通路18aの開口断面積を可変させるスロットル弁19の開度を制御するためのスロットル弁アクチュエータ(例えばDCモータ)20と、エンジン12の吸気ポート(図示略)近傍に燃料を噴射するインジェクタを有する燃料噴射装置21とが設けられている。また、駆動力伝達機構13には、エンジン12の出力軸に接続された自動変速機としてのトランスミッション22と、このトランスミッション22から伝達された駆動力を適宜配分して前輪FL,FRに伝達するディファレンシャルギヤ23とが設けられている。さらに、駆動力伝達機構13には、アクセルぺダル17の踏込み量(開度)を検出するためのアクセル開度センサSE1が設けられている。
【0023】
前輪転舵機構14には、ステアリングホイール24と、ステアリングホイール24が固定されたステアリングシャフト25と、ステアリングシャフト25に連結された転舵アクチュエータ26とが設けられている。また、前輪転舵機構14には、転舵アクチュエータ26により車両の左右方向に移動自在なタイロッドと、このタイロッドの移動により前輪FL,FRを転舵させるリンクとを含んだリンク機構部27とが設けられている。さらに、前輪転舵機構14には、ステアリングホイール24の操舵角を検出するための操舵角センサSE2が設けられている。
【0024】
次に、制動力付与機構15について図2に基づき以下説明する。
図2に示すように、本実施形態の制動力付与機構15は、マスタシリンダ30及びブースタ31を有する液圧発生装置32と、2つの液圧回路33,34を有する液圧制御装置(図2では二点鎖線で示す。)35とを備えている。各液圧回路33,34は、液圧発生装置32に接続されると共に、各車輪FR,FL,RR,RLに対応して設けられたホイールシリンダ(制動手段)36a,36b,36c,36dに接続されている。すなわち、右前輪FRにはホイールシリンダ36aが対応すると共に、左前輪FLにはホイールシリンダ36bが対応している。また、右後輪RRにはホイールシリンダ36cが対応すると共に、左後輪RLにはホイールシリンダ36dが対応している。
【0025】
液圧発生装置32には、ブレーキペダル37が設けられており、このブレーキペダル37が車両の搭乗者によって踏込み操作されたことに基づき、液圧発生装置32のマスタシリンダ30及びブースタ31が駆動するようになっている。また、マスタシリンダ30には、2つの出力ポート30a,30bが設けられており、各出力ポート30a,30bのうち一方の出力ポート30aには第1液圧回路33が接続されると共に、他方の出力ポート30bには第2液圧回路34が接続されている。さらに、液圧発生装置32には、ブレーキペダル37が操作された際に電子制御装置16に向けて信号を送信するブレーキスイッチSW1が設けられている。
【0026】
液圧制御装置35には、第1液圧回路33内のブレーキ液圧を昇圧するためのポンプ38と、第2液圧回路34内のブレーキ液圧を昇圧するためのポンプ39と、各ポンプ38,39を同時に駆動させるモータMとが設けられている。また、各液圧回路33,34上にはブレーキオイルが貯留されるリザーバ40,41が設けられており、各リザーバ40,41内のブレーキオイルは、ポンプ38,39の駆動に基づき液圧回路33,34内に供給されるようになっている。さらに、各液圧回路33,34には、マスタシリンダ30内のブレーキ液圧を検出するための液圧センサPS1,PS2が設けられている。
【0027】
第1液圧回路33には、右前輪FRに対応するホイールシリンダ36aに接続されるホイールシリンダ36a用(右前輪FR用)の右前輪用経路33aと、左後輪RLに対応するホイールシリンダ36dに接続されるホイールシリンダ36d用(左後輪RL用)の左後輪用経路33bとが形成されている。そして、これら各経路33a,33b上には、常開型の電磁弁42,43と常閉型の電磁弁44,45とがそれぞれ設けられている。
【0028】
同様に、第2液圧回路34には、左前輪FLに対応するホイールシリンダ36bに接続されるホイールシリンダ36b用(左前輪FL用)の左前輪用経路34aと、右後輪RRに対応するホイールシリンダ36cに接続されるホイールシリンダ36c用(右後輪RR用)の右後輪用経路34bとが形成されている。そして、これら各経路34a,34b上には、常開型の電磁弁46,47と常閉型の電磁弁48,49とがそれぞれ設けられている。
【0029】
また、第1液圧回路33において各経路33a,33bに分岐された部位よりもマスタシリンダ30側には、常開型の比例電磁弁50が接続されると共に、この比例電磁弁50と並列関係をなすリリーフ弁51が接続されている。そして、比例電磁弁50とリリーフ弁51とにより比例差圧弁52が構成されている。比例差圧弁52は、電子制御装置16による制御に基づき、比例差圧弁52よりもマスタシリンダ30側とホイールシリンダ36a,36d側とで液圧差(ブレーキ液圧の差)を発生させることができる。なお、この液圧差の最大値は、リリーフ弁51を構成するばね51aの付勢力に基づく値となる。また、第1液圧回路33には、リザーバ40とポンプ38との間からマスタシリンダ30側に向けて分岐された分岐液圧路33cが形成されており、この分岐液圧路33c上には常閉型の電磁弁53が接続されている。
【0030】
同様に、第2液圧回路34において各経路34a,34bに分岐された部位よりもマスタシリンダ30側には、常開型の比例電磁弁54が接続されると共に、この比例電磁弁54と並列関係をなすリリーフ弁55が接続されている。そして、比例電磁弁54とリリーフ弁55とにより比例差圧弁56が構成されている。比例差圧弁56は、電子制御装置16による制御に基づき、比例差圧弁56よりもマスタシリンダ30側とホイールシリンダ36b,36c側とで液圧差(ブレーキ液圧の差)を発生させることができる。なお、この液圧差の最大値は、リリーフ弁55を構成するばね55aの付勢力に基づく値となる。また、第2液圧回路34には、リザーバ41とポンプ39との間からマスタシリンダ30側に向けて分岐された分岐液圧路34cが形成されており、この分岐液圧路34c上には常閉型の電磁弁57が接続されている。
【0031】
ここで、上記各電磁弁42〜49のソレノイドコイルが通電状態にある場合及び非通電状態にある場合における各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧の変化について説明する。なお、以下の説明においては、各比例電磁弁50,54が閉じ状態であると共に、分岐液圧路33c,34c上の電磁弁53,57が閉じ状態であるものとする。
【0032】
まず、各電磁弁42〜49のソレノイドコイルが全て非通電状態にある場合には、常開型の電磁弁42,43,46,47は開き状態のままであると共に、常閉型の電磁弁44,45,48,49は閉じ状態のままである。そのため、上記ポンプ38,39が駆動している場合には、リザーバ40,41内のブレーキオイルが各経路33a,33b,34a,34bを介して各ホイールシリンダ36a〜36d内に流入し、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧は上昇することになる。
【0033】
一方、各電磁弁42〜49のソレノイドコイルが全て通電状態にある場合には、常開型の電磁弁42,43,46,47が閉じ状態となると共に、常閉型の電磁弁44,45,48,49が開き状態となる。そのため、各ホイールシリンダ36a〜36d内からブレーキオイルが各経路33a,33b,34a,34bを介してリザーバ40,41へと流出し、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧は降下することになる。
【0034】
そして、各電磁弁42〜49のうち常開型の電磁弁42,43,46,47のソレノイドコイルのみが通電状態にある場合には、全ての電磁弁42〜49が閉じ状態となる。そのため、各経路33a,33b,34a,34bを介したブレーキオイルの流動が規制される結果、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧はその液圧レベルが保持されることになる。
【0035】
図1に示すように、電子制御装置16は、制御手段としてのCPU60、ROM61、及びRAM62などを備えたデジタルコンピュータと、各装置を駆動させるための駆動回路(図示略)とを主体として構成されている。ROM61には、液圧制御装置35(モータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54の駆動)を制御するための制御プログラム、及び後述するホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧を設定するためのマップ(図3参照)などが記憶されている。また、RAM62には、車両の制動力保持装置11の駆動中に適宜書き換えられる各種の情報(閾値など)が記録されるようになっている。
【0036】
また、電子制御装置16の入力側インターフェース(図示略)には、上記ブレーキスイッチSW1、液圧センサPS1,PS2、アクセル開度センサSE1、及び操舵角センサSE2がそれぞれ接続されている。また、入力側インターフェースには、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度を検出するための車輪速度センサSE3,SE4,SE5,SE6、及び実際に車両に働く横方向加速度(いわゆる「横G」)を検出するための横GセンサSE7がそれぞれ接続されている。さらに、入力側インターフェースには、実際に車両に働くヨーレイト(Yaw Rate)を検出するためのヨーレイトセンサSE8、及び車両の車体加速度を検出するための車体加速度センサ(「前後Gセンサ」ともいう。)SE9が接続されている。すなわち、CPU60は、ブレーキスイッチSW1、液圧センサPS1,PS2、及び上記各種センサSE1〜SE9からの各信号を受信するようになっている。
【0037】
一方、電子制御装置16の出力側インターフェース(図示略)には、各ポンプ38,39を駆動させるためのモータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54が接続されている。そして、CPU60は、上記スイッチSW1及び各センサPS1,PS2,SE1〜SE9からの入力信号に基づき、モータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54の動作を個別に制御するようになっている。
【0038】
次に、ROM61に記憶されるマップについて図3に基づき説明する。
図3に示すマップは、車両が停止する路面の斜度grと、この斜度grに車両が停止する際に最低限度必要なホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧(各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動手段からの制動力)である最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPminとの関係を示すものである。この最低ブレーキ液圧BPminは、路面の斜度grが大きくなる程、高くなるように設定されている。すなわち、最低ブレーキ液圧BPminは、路面の斜度grの大きさに比例して変化している。
【0039】
次に、本実施形態のCPU60が実行する制御処理ルーチンについて、図4に示すフローチャート及び図5に示すタイミングチャートに基づき以下説明する。図4には後述するヒルホールド制御の実行の有無を設定するためのヒルホールド制御処理ルーチンが示されている。
【0040】
さて、CPU60は、ブレーキスイッチSW1からの信号を受信している場合には、所定周期毎にヒルホールド制御処理ルーチンを実行する。そして、このヒルホールド制御処理ルーチンにおいて、CPU60は、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度センサSE3〜SE6から受信した信号に基づき、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWをそれぞれ検出する(ステップS10)。続いて、CPU60は、車両が停止したか否かを判定する(ステップS11)。すなわち、CPU60は、ステップS10にて検出した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWが「0(零)」になったことに基づき車両の車体速度が「0(零)」になったか否かを判定する。そして、ステップS11の判定結果が否定判定である場合、CPU60は、車両の車体速度が「0(零)」ではないものと判断し、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。
【0041】
一方、ステップS11の判定結果が肯定判定である場合、CPU60は、車両の車体速度が「0(零)」になったものと判断し、車両が停止した路面の斜度grを検出する(ステップS12)。すなわち、CPU60は、車体加速度センサSE9から受信した信号に基づき路面の斜度grを検出する。この点で、本実施形態では、CPU60及び車体加速度センサSE9が、路面斜度検出手段として機能する。続いて、CPU60は、ステップS12にて検出した路面の斜度grに対応する各ホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧BPminを、図3に示すマップに基づき設定する(ステップS13)。この点で、本実施形態は、CPU60が、ステップS12にて検出された斜度grの路面上に車両が停止する際に最低限度必要な各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧(車輪FR,FL,RR,RLに対する制動手段からの制動力)を最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPminとして設定する最小制動力設定手段としても機能する。
【0042】
そして、CPU60は、液圧回路33,34上の液圧センサPS1,PS2からの信号に基づき液圧回路33,34内のブレーキ液圧(各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧)BPを検出し、その検出したブレーキ液圧BPをRAM62に記録する(ステップS14)。この点で、本実施形態では、CPU60及び液圧センサPS1,PS2が、車両停止時に、各車輪FR,FL,RR,RLに対して各ホイールシリンダ(制動手段)36a〜36dが付与するブレーキ液圧BPを検出する制動力検出手段として機能する。また、本実施形態では、RAM62が、制動力記録手段として機能する。
【0043】
続いて、CPU60は、車両停止期間T1中であるか否かを判定する(ステップS15)。すなわち、CPU60は、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度センサSE3〜SE6から受信した信号に基づき、各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWをそれぞれ検出し、検出した各車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWが「0(零)」であるか否かを判定する。この点で、本実施形態では、CPU60が、車両停止判定手段としても機能する。
【0044】
そして、ステップS15の判定結果が肯定判定(VW=「0(零)」)である場合、CPU60は、ステップS14にて検出した各車輪FR,FL,RR,RLに対する各ホイールシリンダ36a〜36dからのブレーキ液圧BPが閾値KBP以上であるか否かを判定する(ステップS16)。この点で、本実施形態では、CPU60が、制動力判定手段としても機能する。なお、閾値KBPは、後述するヒルホールド制御を実行するために必要な値であり、エンジン12の駆動が開始した後に、搭乗者がブレーキペダル37を踏込み操作すると共に、トランスミッション22のシフトレンジをパーキングレンジから走行レンジ(例えばドライブレンジ)に切り換え操作した際に設定される値である。また、閾値KBPは、後述するステップS17〜ステップS24にて設定変更(更新)される値である。
【0045】
そして、ステップS16の判定結果が否定判定(BP<KBP)である場合、CPU60は、ステップS16の判定結果が肯定判定となるまで、ステップS14〜ステップS16の処理を繰り返し実行する。一方、上述したステップS15の判定結果が否定判定(VW≠「0(零)」)である場合、CPU60は、その処理を後述するステップS17に移行する。すなわち、CPU60は、ステップS17の判定結果が肯定判定から否定判定に切り換わったことに基づき、車両停止期間T1が終了したと判断する。
【0046】
ちなみに、車両停止期間T1中において、CPU60は、図5に示すように、各車輪FR,FL,RR,RLに対する各ホイールシリンダ36a〜36dからのブレーキ液圧BPをRAM62に記録している。しかし、車両停止期間T1が終了した場合、CPU60は、各車輪FR,FL,RR,RLに対する各ホイールシリンダ36a〜36dからのブレーキ液圧BPをRAM62に記録することを終了する。
【0047】
そして、ステップS17において、CPU60は、一回の車両停止期間T1中にRAM62に記録されたブレーキ液圧BPのうち最も大きな値のブレーキ液圧BPを最大操作ブレーキ液圧(最大操作制動力)BP1として設定する(ステップS17)。この点で、本実施形態では、CPU60が、最大操作制動力設定手段としても機能する。続いて、CPU60は、ステップS17にて設定された最大操作ブレーキ液圧BP1を、RAM62の所定領域に記録する(ステップS18)。なお、このRAM62の所定領域には、複数(例えば12個)の最大操作ブレーキ液圧BP1が記録されるようになっている。すなわち、最新の最大操作ブレーキ液圧BP1がRAM62の所定領域に記録される場合には、RAM62の所定領域に既に記録されている非最新の各最大操作ブレーキ液圧BP1のうち最も古い最大操作ブレーキ液圧BP1が最新の最大操作ブレーキ液圧BP1に書き換えられる。したがって、この点で、本実施形態では、RAM62が、最大操作制動力記録手段としても機能する。
【0048】
そして、CPU60は、RAM62の所定領域に記録された複数(例えば12個)の最大操作ブレーキ液圧BP1を平均した値を算出し、その算出結果を基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBPとして設定する(ステップS19)。なお、RAM62の所定領域に最大操作ブレーキ液圧BP1が最大記録許容数(例えば12個)記録されていない場合、CPU60は、記録されている各最大操作ブレーキ液圧BP1の平均値を算出することにより基準ブレーキ液圧BBPを設定する。この点で、本実施形態では、CPU60が、基準制動力設定手段としても機能する。
【0049】
続いて、CPU60は、ステップS19にて設定された基準ブレーキ液圧BBPがステップS13にて設定された最低ブレーキ液圧BPmin未満であるか否かを判定する(ステップS20)。この判定結果が肯定判定(BBP<BPmin)である場合、CPU60は、基準ブレーキ液圧BBPが最低ブレーキ液圧BPminとなるように基準ブレーキ液圧BBPを再設定し(ステップS21)、その後、その処理を後述するステップS22に移行する。一方、ステップS20の判定結果が否定判定(BBP≧BPmin)である場合、CPU60は、ステップS21の処理を実行することなく、その処理を後述するステップS22に移行する。
【0050】
ステップS22において、CPU60は、ステップS19又はステップS21にて設定した基準ブレーキ液圧BBPと予め設定された基準値BVとを加算することにより閾値KBPを設定する(ステップS22)。この点で、本実施形態では、CPU60が、閾値設定手段としても機能する。なお、基準値BVは、閾値KBPを設定するための値であり、予め実験やシミュレーションなどによって設定される。
【0051】
続いて、CPU60は、ステップS22にて設定した閾値KBPが最高ブレーキ液圧(最大制動力)BPmax以上であるか否かを判定する(ステップS23)。この点で、本実施形態では、CPU60が、最大制動力判定手段としても機能する。ここで、最高ブレーキ液圧BPmaxは、制動力付与機構15により各車輪FR,FL,RR,RLに対して最も大きな制動力(例えば、約3923m・kg/s2 )を付与可能な場合の液圧回路33,34(各ホイールシリンダ36a〜36d)内のブレーキ液圧(例えば、約8M・Pa)BPのことである。そのため、最高ブレーキ液圧BPmaxは、予め実験やシミュレーションなどによって設定される。そして、ステップS23の判定結果が否定判定(KBP<BPmax)である場合、CPU60は、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。
【0052】
一方、ステップS23の判定結果が肯定判定(KBP≧BPmax)である場合、CPU60は、閾値KBPを、最高ブレーキ液圧BPmaxであって且つ最低ブレーキ液圧BPminと基準値BVとを加算した値よりも大きな値である作動最高ブレーキ液圧(最大作動値)BPmax1に設定する(ステップS24)。この作動最高ブレーキ液圧BPmax1は、搭乗者が女性やお年寄りなどであってもブレーキペダル37を確実に踏込むことが可能な範囲で最も高い各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧(例えば、約6.5M・Pa)BPのことであり、予め実験やシミュレーションなどによって設定される。この場合、各車輪FR,FL,RR,RLには、約「2942(m・kg/s2 )」の制動力が各ホイールシリンダ36a〜36dから付与される。その後、CPU60は、閾値設定処理ルーチンを終了する。
【0053】
一方、上述したステップS16の判定結果が肯定判定(BP≧KBP)である場合、CPU60は、ヒルホールド制御を実行する。
ここで、ヒルホールド制御とは、ブレーキペダル37の踏込み操作に基づいて車両が停止した場合に、そのブレーキペダル37の踏込み操作が解消されたとしても、各車輪FR,FL,RR,RLに対する各ホイールシリンダ36a〜36dからの制動力を、各車輪FR,FL,RR,RLが回動しないように保持する制御である。すなわち、ヒルホールド制御が実行された場合、CPU60は、各液圧回路33,34上の常開型の電磁弁42,43,46,47を通電状態とすることにより、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPを保持するようになっている。
【0054】
また、ヒルホールド制御は、ブレーキペダル37の踏込み操作が解除されてから(すなわち、搭乗者がブレーキペダル37の操作を止めてから)予め設定された所定時間(例えば2秒程度)の間実行されるようになっている。すなわち、ブレーキペダル37の踏込み操作が解除されてから所定時間が経過した場合には、ヒルホールド制御が自動的に終了し、常開型の電磁弁42,43,46,47が非通電状態になると共に、常閉型の電磁弁44,45,48,49を通電状態になる結果、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが減圧されるようになっている。換言すると、CPU60は、各ホイールシリンダ36a〜36dにより各車輪FR,FL,RR,RLに付与される制動力を低下させることにより、各車輪FR,FL,RR,RLのロック状態を解除(すなわち、回動を許可)するようになっている。
【0055】
そして、CPU60は、ステップS25のヒルホールド制御を実行した後、ヒルホールド制御処理ルーチンを終了する。なお、CPU60は、ヒルホールド制御処理ルーチンの実行中であっても、アクセル開度センサSE1からの信号に基づきアクセルぺダル17が踏込み操作されたことを検知した場合には、ヒルホールド制御を終了させる。
【0056】
したがって、本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両停止期間T1中における最大操作ブレーキ液圧(最大操作制動力)BP1を設定し、その最大操作ブレーキ液圧BP1に応じて閾値KBPが設定される。すなわち、ブレーキペダル37の踏込み量(操作量、操作力)が比較的小さい搭乗者に対しては比較的低い閾値KBPが設定される一方、ブレーキペダル37の踏込み量(操作量、操作力)が比較的大きい搭乗者に対しては比較的高い閾値KBPが設定される。そして、その閾値KBPの設定後、車両停止時における各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BP(各車輪FR,FL,RR,RLに対する制動手段からの制動力)が閾値KBP以上となった場合には、ヒルホールド制御が実行される。したがって、ブレーキペダル37の踏込み量(操作量、操作力)が搭乗者毎に相違していても、ヒルホールド制御の誤作動を抑制できると共に、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダル37が操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる。
【0057】
(2)閾値KBPは、RAM(最大操作制動力記録手段)の所定領域に記録される複数の最大操作ブレーキ液圧(最大操作制動力)BP1を平均した値である基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBPに基準値BVを加算することにより設定される。そのため、たとえ途中でブレーキペダル37の踏込み量(操作量、操作力)の比較的小さい搭乗者から踏込み量(操作量、操作力)の比較的大きい搭乗者に変更したとしても、その変更した搭乗者におけるブレーキペダル37の踏込み量(操作量、操作力)に対応した閾値KBPを設定できる。
【0058】
(3)最大操作ブレーキ液圧(最大操作制動力)BP1に基づき設定された基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBPが最低ブレーキ液圧(最小制動力)BPmin未満である場合には、基準ブレーキ液圧BBPが最低ブレーキ液圧BPminとなるように設定される。また、閾値KBPが最低ブレーキ液圧BPminに基準値BVを加算した値となるように設定される。そのため、閾値KBPが低く設定されることによるヒルホールド制御の誤作動を抑制することができる。
【0059】
(4)閾値KBPは、最高ブレーキ液圧(最大制動力)BPmax未満となるように設定される。そのため、ヒルホールド制御を実行させるためにブレーキペダル37が操作された場合に該ヒルホールド制御が作動しないことを抑制することができる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。なお、第2の実施形態は、ヒルホールド制御処理ルーチンにおけるステップS18,S19の制御内容が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一又は相当する部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
【0060】
本実施形態における車両の制動力保持装置11は、電子制御装置16を備えている。この電子制御装置16は、CPU60、ROM61、及びRAM62などを備えたデジタルコンピュータと、各装置を駆動させるための駆動回路(図示略)とを主体として構成されている。ROM61には、液圧制御装置35(モータM、各電磁弁42〜49,53,57及び比例電磁弁50,54の駆動)を制御するための制御プログラムなどが記憶されている。また、RAM62には、車両の制動力保持装置11の駆動中に適宜書き換えられる各種の情報(閾値KBPなど)が記憶されるようになっている。
【0061】
次に、本実施形態のヒルホールド制御処理ルーチンのうち、最大操作ブレーキ液圧BP1をRAM62の所定領域に設定する処理、及び基準ブレーキ液圧BBPを設定する処理について以下説明する。
【0062】
さて、ヒルホールド制御処理ルーチンにおいて、CPU60は、車両停止期間T1が終了したと判断すると、一回の車両停止期間T1中において検出した各車輪FR,FL,RR,RLに対する各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPのうち最も大きな値のブレーキ液圧BPを最大操作ブレーキ液圧BP1として設定する。続いて、CPU60は、設定した最新の最大操作ブレーキ液圧BP1がRAM62の所定領域に既に記録されている非最新の最大操作ブレーキ液圧BP1よりも大きいか否かを判定する。この点で、本実施形態では、CPU60が、最大操作制動力判定手段としても機能する。
【0063】
そして、CPU60は、判定結果が肯定判定である場合にはRAM62の所定領域内の記録内容を最新の最大操作ブレーキ液圧BP1に更新する一方、判定結果が否定判定である場合にはRAM62の所定領域内の記録内容を更新しない。続いて、CPU60は、RAM62の所定領域に記録された最大操作ブレーキ液圧BP1を基準ブレーキ液圧BBPとして設定する。
【0064】
本実施形態では、上記第1の実施形態の効果(1)(3)(4)に加え、さらに以下に示す効果をも得ることができる。
(5)最新の最大操作ブレーキ液圧(最大操作制動力)BP1がRAM(最大操作制動力記録手段)62に記録されている非最新の最大操作ブレーキ液圧BP1よりも大きい場合には、RAM62の所定領域の記録内容が最新の最大操作ブレーキ液圧BP1に更新される。そして、その更新された最大操作ブレーキ液圧BP1が基準ブレーキ液圧(基準制動力)BBPとなる。そして、その基準ブレーキ液圧BBP(=BP1)に基準値BVを加算することにより閾値KBPが設定される。そのため、比較的低い値の閾値KBPが設定されることに基づきヒルホールド制御が誤作動することをより抑制することができる。
【0065】
(6)最新の最大操作ブレーキ液圧BP1がRAM62に記録されている非最新の最大操作ブレーキ液圧BP1よりも大きい場合には、RAM62の所定領域の記録内容が最新の最大操作ブレーキ液圧BP1に更新される。そのため、最新の最大操作ブレーキ液圧BP1をRAM62に随時記録させる場合に比して、RAM62の記録容量の増大を回避できる。
【0066】
なお、各実施形態は以下のような別の実施形態(別例)に変更してもよい。
・各実施形態において、トランスミッション22のシフトレンジがパーキングレンジである場合において、車両が停止しているときに、各ホイールシリンダ36a〜36d内のブレーキ液圧BPが検出されるようにしてもよい。ここで、トランスミッション22のシフトレンジがパーキングレンジである場合には、搭乗者によるブレーキペダル37の踏込み量(操作量、操作力)が比較的大きく、ヒルホールド制御の誤作動が発生する可能性が比較的高い。ところが、このように構成した場合、トランスミッション22のシフトレンジがパーキングレンジである場合における最大操作ブレーキ液圧BP1に応じた閾値KBPが設定される。そのため、ヒルホールド制御が誤差動することを、より好適に抑制することができる。
【0067】
・各実施形態において、トランスミッション22は、自動変速機ではなく、無段変速機であってもよい。また、トランスミッション22は、手動変速機(マニュアルトランスミッション)であってもよい。ただし、手動変速機の場合には、ROM61に閾値KBPの初期値を予め記憶させておくことが望ましい。
【0068】
・各実施形態において、ヒルホールド制御処理ルーチンでは、ステップS20,S21の処理を実行しなくてもよい。
・また、ヒルホールド制御処理ルーチンでは、ステップS23,S24の処理を実行しなくてもよい。
【0069】
・第2の実施形態において、RAM62の所定領域に記録される最大操作ブレーキ液圧BP1を更新させなくてもよい。すなわち、最新の最大操作ブレーキ液圧BP1が検出された場合に、その最新の最大操作ブレーキ液圧BP1をRAM62の所定領域に随時記録させておき、RAM62に記録された各最大操作ブレーキ液圧BP1のうち最も大きい最大操作ブレーキ液圧BP1を基準ブレーキ液圧BBPとして設定するようにしてもよい。
【0070】
・各実施形態において、最大操作ブレーキ液圧BP1に応じた基準値BVを設定し、その基準値BVと予め設定された基準ブレーキ液圧BBPとを加算することにより閾値KBPを設定するようにしてもよい。
【0071】
・また、最大操作ブレーキ液圧BP1に応じた乗数を設定し、その乗数と予め設定された基準ブレーキ液圧BBPとを乗算することにより閾値KBPを設定するようにしてもよい。
【0072】
・各実施形態において、ROM61には、図3に示すマップを記憶させるのではなく、路面の斜度grと各ホイールシリンダ36a〜36d内の最低ブレーキ液圧BPminとの関係式を記憶させ、この関係式に基づき最低ブレーキ液圧BPminを設定するようにしてもよい。
【0073】
・各実施形態において、ブレーキペダルは、搭乗者の足で操作するいわゆるフットペダル式のブレーキペダルではなく、手動で操作可能なブレーキペダルであってもよい。
・各実施形態において、前輪駆動車に搭載された車両の制動力保持装置11ではなく、後輪駆動車に搭載される車両の制動力保持装置に具体化してもよい。また、四輪駆動車に搭載される車両の制動力保持装置に具体化してもよい。
【0074】
・各実施形態において、第1液圧回路33には右前輪FR用のホイールシリンダ36aと左前輪FL用のホイールシリンダ36bとが接続されると共に、第2液圧回路34には右後輪RR用のホイールシリンダ36cと左後輪RL用のホイールシリンダ36dとが接続されるような回路構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1の実施形態における車両の制動力保持装置のブロック図。
【図2】第1の実施形態における制動力付与機構のブロック図。
【図3】路面の斜度と最低ブレーキ液圧との関係を示すマップ。
【図4】第1の実施形態におけるヒルホールド制御処理ルーチンを示すフローチャート。
【図5】各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧の変化を示すタイミングチャート。
【符号の説明】
【0076】
11…車両の制動力保持装置、22…トランスミッション(自動変速機、無段変速機)、36a〜36d…ホイールシリンダ(制動手段)、37…ブレーキペダル、60…CPU(車両停止判定手段、制動力検出手段、閾値設定手段、制動力判定手段、制御手段、最大操作制動力設定手段、基準制動力設定手段、最大操作制動力判定手段、路面斜度検出手段、最小制動力設定手段、最大制動力判定手段)、62…RAM(制動力記録手段、最大操作制動力記録手段)、BBP…基準ブレーキ液圧(基準制動力)、BP…ブレーキ液圧(制動力)、BPmax…最高ブレーキ液圧(最大制動力)、BPmax1…作動最高ブレーキ液圧(最大作動値)、BPmin…最低ブレーキ液圧(最小制動力)、BP1…最大操作ブレーキ液圧(最大操作制動力)、BV…基準値、FR,FL,RR,RL…車輪、gr…路面の斜度、KBP…閾値、PS1,PS2…液圧センサ(制動力検出手段)、SE9…車体加速度センサ(路面斜度検出手段)、T1…車両停止期間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が停止した車両停止期間(T1)中であるか否かを判定する車両停止判定手段(60)と、
該車両停止判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、ブレーキペダル(37)の操作に基づき前記車両の各車輪(FR,FL,RR,RL)に対して付与されている制動力(BP)を検出する制動力検出手段(60,PS1,PS2)と、
該制動力検出手段(60,PS1,PS2)により検出された前記制動力(BP)を記録する制動力記録手段(62)と、
前記車両停止判定手段(60)による判定結果が肯定判定から否定判定に切り換わった場合に、一回の車両停止期間(T1)中に前記制動力記録手段(62)に記録された前記制動力(BP)のうち最も大きな制動力(BP)に応じた値を閾値(KBP)として設定する閾値設定手段(60)と、
前記車両停止時における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対して付与されている制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上であるか否かを判定する制動力判定手段(60)と、
該制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記ブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動を回避するために前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を保持させるように前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に制動力(BP)を付与する制動手段(36a,36b,36c,36d)を制御する制御手段(60)とを備えた車両の制動力保持装置。
【請求項2】
一回の車両停止期間(T1)中に前記制動力記録手段(62)に記録された前記制動力(BP)のうち最も大きな制動力(BP)を最大操作制動力(BP1)として設定する最大操作制動力設定手段(60)と、前記最大操作制動力(BP1)を複数記録する最大操作制動力記録手段(62)と、該最大操作制動力記録手段(60)に記録された前記各最大操作制動力(BP1)を平均した値を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)とをさらに備え、前記閾値設定手段(60)は、前記基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定する請求項1に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項3】
一回の車両停止期間(T1)中に前記制動力記録手段(62)に記録された前記制動力(BP)のうち最も大きな制動力(BP)を最大操作制動力(BP1)として設定する最大操作制動力設定手段(60)と、前記最大操作制動力(BP1)を記録する最大操作制動力記録手段(62)と、前記最大操作制動力設定手段(60)により最新の最大操作制動力(BP1)が設定された場合に、該最新の最大操作制動力(BP1)が前記最大操作制動力記録手段(62)に記録されている非最新の最大操作制動力(BP1)よりも大きいか否かを判定する最大操作制動力判定手段(60)と、該最大操作制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合には前記最新の最大操作制動力(BP1)を基準制動力(BBP)として設定する一方、前記最大操作制動力判定手段(60)による判定結果が否定判定である場合には前記非最新の最大操作制動力(BP1)を基準制動力(BBP)として設定する基準制動力設定手段(60)とをさらに備え、前記閾値設定手段(60)は、前記基準制動力(BBP)と予め設定された基準値(BV)とを加算することにより前記閾値(KBP)を設定する請求項1に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項4】
前記車両が停止した路面の斜度(gr)を検出する路面斜度検出手段(60,SE9)と、該路面斜度検出手段(60,SE9)により検出された斜度(gr)の路面上に前記車両が停止する際に最低限必要な前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を最小制動力(BPmin)として設定する最小制動力設定手段(60)とをさらに備え、前記基準制動力設定手段(60)は、前記基準制動力(BBP)が前記最小制動力(BPmin)未満である場合には、該最小制動力(BPmin)を前記基準制動力(BBP)として設定する請求項2又は請求項3に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項5】
前記最大操作制動力(BP1)に応じて設定された前記閾値(KBP)が前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与可能な最大制動力(BPmax)以上であるか否かを判定する最大制動力判定手段(60)をさらに備え、前記閾値設定手段(60)は、前記最大制動力判定手段(60)による判定結果が肯定判定である場合に、前記最大制動力(BPmin)以下となる予め設定された最大作動値(BPmax1)となるように前記閾値(KBP)を設定する請求項2〜請求項4のうち何れか一項に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項6】
自動変速機(22)又は無段変速機(22)を搭載した車両の制動力保持装置(11)であって、前記制動力検出手段(60,PS1,PS2)は、前記自動変速機(22)又は無段変速機(22)のシフトレンジがパーキングレンジである場合に、前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対して付与されている制動力(BP)を検出する請求項1〜請求項5のうち何れか一項に記載の車両の制動力保持装置。
【請求項7】
車両が停止した車両停止期間(T1)中であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合には、ブレーキペダル(37)の操作に基づき各車輪(FR,FL,RR,RL)に付与されている制動力(BP)を検出すると共に該制動力(BP)を記録し、その判定結果が肯定判定から否定判定に切り換わった場合には、一回の車両停止期間(T1)中に記録した前記制動力(BP)のうち最も大きな制動力(BP)に応じた値を閾値(KBP)として設定し、その後、前記車両停止時における前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対して付与されている制動力(BP)が前記閾値(KBP)以上であるか否かを判定し、該判定結果が肯定判定である場合には、ブレーキペダル(37)の操作解消後においても前記各車輪(FR,FL,RR,RL)の回動を回避するために前記各車輪(FR,FL,RR,RL)に対する制動力(BP)を保持させるようにした車両の制動力保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−112209(P2007−112209A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303420(P2005−303420)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】