説明

車両の制御装置

【課題】車両の現在位置における道路状況と、伝動装置の動力伝達状態との適合性を向上させることの可能な、車両の制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車両の乗員により操作されるポジション選択装置と、車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に配置された伝動装置とを有する車両の制御装置において、車両が停止および走行した場所を記憶し、かつ、ポジション選択装置の操作内容を記憶する学習手段(ステップS1)と、過去に記憶した場所に車両の現在位置があり、かつ、ポジション選択装置が現在操作されたとき、ポジション選択装置の操作内容が過去と現在とで異なるか否かを判断する比較手段(ステップS3)と、ポジション選択装置の操作内容が過去と現在とで異なると判断された場合は、ポジション選択装置の現在の操作内容に合わせて伝動装置の動力伝達状態を設定することを禁止する禁止手段(ステップS4)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポジション選択装置の操作に基づいて、伝動装置の動力伝達状態を変更する、車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路には伝動装置が設けられており、車両を前進または停止または後退させるために、車両の乗員がポジション選択装置を操作すると、伝動装置の動力伝達状態が変更されるように構成されている。このような車両の制御装置の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された制御装置は、エンジンの出力側に設けられた自動変速機を有する車両を制御する構成である。この自動変速機の動力伝達状態を制御するシフトレバーが設けられており、このシフトレバーは、中立位置から複数のレンジ位置、例えば、Rレンジ位置またはDレンジ位置またはNレンジ位置へと、選択的に移動可能である。また、シフトレバーが中立位置から操作された後に、運転者がシフトレバーを離したときに、シフトレバーを中立位置に復帰させる復帰機構が設けられている。
【0003】
前記自動変速機は摩擦係合装置を有しており、その摩擦係合装置の係合および解放を、シフトレバーにより選択されるレンジ位置に応じて制御するレンジ切替弁が設けられている。そして、前記シフトレバーの操作に基づいてレンジ切替弁を制御するアクチュエータが設けられている。さらに、運転席にはメータが設けられており、選択されるシフトレンジをメータに点灯して表示する。このため、運転者はメータに表示されたレンジにより、シフトレバーの操作により選択されているレンジを確認することができる。また、メータが故障であると判断された場合に、シフトレバーが操作されていないときは、シフトレバーを中立位置に復帰させない制御がおこなわれる。したがって、シフトレバーの位置により、現在のシフトレンジを確認することができるものとされている。なお、ナビゲーション装置が搭載された車両において、自動変速機のシフトポジションを記憶して、その記憶したデータを、ナビゲーション装置で走行軌跡を構築する制御に用いる技術の一例が、特許文献2に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−224949号公報
【特許文献2】特開2006−321291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された自動変速機の制御装置では、メータが故障したときにも選択されているシフトポジションを確認できるが、車両の現在位置における道路状況と、自動変速機のシフトポジションの操作内容との適合性については何ら記載がなく、この点で改善の余地が残されていた。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、車両の現在位置における道路状況と、伝動装置の動力伝達状態との適合性を向上させることの可能な、車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、車両の乗員により操作され、かつ、その車両を前進または後退させるために複数のポジションを選択的に変更できるポジション選択装置と、前記車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に配置され、かつ、選択されたポジションにより異なる動力伝達状態を設定可能な伝動装置とを有する車両の制御装置において、前記車両が停止および走行した場所を記憶し、かつ、記憶した場所における前記ポジション選択装置の操作内容を記憶する学習手段と、この学習手段が過去に記憶していた場所に前記車両の現在位置があり、かつ、前記ポジション選択装置が現在操作されたとき、前記ポジション選択装置の過去の操作内容と、前記ポジション選択装置の現在の操作内容とが異なるか否かを判断する比較手段と、この比較手段により、前記ポジション選択装置の過去の操作内容と、前記ポジション選択装置の現在の操作内容とが異なると判断された場合は、前記ポジション選択装置の現在の操作内容に合う前記伝動装置の動力伝達状態を設定することを禁止する禁止手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記ポジション選択装置の過去の操作内容と、前記ポジション選択装置の現在の操作内容とが異なること、または、前記ポジション選択装置の現在の操作内容に基づいて前記伝動装置における動力伝達状態を制御することが禁止されていることのうち、少なくとも一方を、前記車両の乗員に告知する告知手段を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、過去に記憶していた場所に車両の現在位置があり、かつ、ポジション選択装置が現在操作されたとき、ポジション選択装置の過去の操作内容と、ポジション選択装置の現在の操作内容とが異なるか否かが判断される。そして、ポジション選択装置の過去の操作内容と、ポジション選択装置の現在の操作内容とが異なると判断された場合は、乗員がポジション選択装置を誤操作している可能性があるため、ポジション選択装置の現在の操作内容に合わせて伝動装置の動力伝達状態を設定することを禁止する。このため、車両の現在位置の道路状況と、伝動装置の動力伝達状態との適合性が低下することを回避できる。
【0010】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、ポジション選択装置の過去の操作内容と、ポジション選択装置の現在の操作内容とが異なること、または、ポジション選択装置の現在の操作内容に基づいて伝動装置における動力伝達状態を制御することが禁止されていることのうち、少なくとも一方が、車両の乗員に告知される。したがって、乗員はこれらの状況を認識することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明におけるポジション選択装置は、車両の乗員により操作されるものであり、所定方向に動作するレバー、回転操作されるノブ、スイッチ、タッチパネルなど、手または足により操作されるものである。また、ポジション選択装置は、レバーまたはノブのように、乗員の操作により動作が生じるものの他に、スイッチまたはタッチパネルなどのように、動作が生じないものでもよい。この発明において、全てのポジション毎に、伝動装置の動力伝達状態が全て異なるわけではない。この発明のポジションは、少なくとも2つあればよく、伝動装置の動作状態としては、少なくとも2種類あればよい。この発明における伝動装置は、駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に配置されるものであり、車両が前進する場合と後退する場合と停止する場合とでは、入力部材と出力部材との間における動力伝達状態が異なる構成である。この伝動装置には、変速機および前後進切換装置が含まれる。この変速機は、入力部材と出力部材との間の変速比を変更可能であり、車両が前進する場合と後退する場合とでは、出力部材の回転方向が異なるとともに、車両が停止する場合は、変速機の入力部材と出力部材との間の動力伝達が遮断される。また、前後進切換装置は、車両が前進する場合と後退する場合とでは、出力部材の回転方向が異なるとともに、車両が停止する場合は、前後進切換装置の入力部材と出力部材との間の動力伝達が遮断される。
【0012】
つぎに、この発明を適用可能な車両1の構成を、図2に基づいて説明する。図2に示された車両1には、走行用の駆動力源2が搭載されている。この駆動力源2は、車輪、つまり、前輪または後輪の少なくとも一方に伝達する動力を発生する動力装置である。この駆動力源2としては、エンジンまたは電動モータまたは油圧モータまたはフライホイールのうち、少なくとも1種類の駆動力源を用いることができる。ここで、「種類」とは、動力の発生原理の種類である。エンジンは、燃料を燃焼させてその熱エネエルギを運動エネルギに変換する。電動モータは、電気エネルギを運動エネルギに変換する装置である。油圧モータは、流体の運動エネルギを、回転部材の運動エネルギに変換する装置である。フライホイールは、慣性質量体の慣性エネルギを回転部材の運動エネルギに変換する装置である。この具体例では、駆動力源2としてエンジンを用いているものとし、以下、駆動力源2をエンジン2と記す。
【0013】
また、エンジン2の出力部材には、変速機4が動力伝達可能に接続されている。この変速機4は、入力回転数と出力回転数との間の比、つまり変速比を変更可能な伝動装置である。この変速機4は、変速比を段階的(不連続)に変更可能な有段変速機である。この変速機4としては、遊星歯車式変速機、常時噛み合い式変速機、選択歯車式変速機などを用いることができる。ここでは、遊星歯車式変速機を用いた場合について説明する。遊星歯車式変速機では、複数組の遊星歯車機構が設けられており、この遊星歯車機構の回転要素同士の連結および解放を制御するクラッチ、および遊星歯車機構の回転要素を停止させるブレーキが設けられている。このクラッチおよびブレーキは摩擦係合装置であり、その摩擦係合装置が複数設けられている。さらに、出力部材にはパーキングギヤが形成されているとともに、このパーキングギヤに係合および離脱可能なパーキングポールが設けられている。さらに、シフトポジション選択装置5の操作により、中立ポジション、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジションを選択的に切り替え可能である。この具体例の変速機4は、Dポジションが選択された場合に、変速機4で第1速ないし第5速の変速比を選択可能に構成されている。
【0014】
このシフトポジション選択装置5は、手で操作されるレバーを有しており、操作力が与えられていないときはレバーが中立ポジションで停止しており、操作により中立ポジション以外のシフトポジションを選択した後、操作力が無くなるとレバーが中立ポジションに復帰する構成である。このPポジションおよびNポジションは、車両1が停止するときに選択されるシフトポジションであり、Dポジションは車両1を前進させるときに選択されるシフトポジションであり、Rポジションは車両1を後退させるときに選択されるシフトポジションである。さらに、シフトポジション選択装置5の操作により制御されるシフトバイワイヤ用アクチュエータ(以下、「アクチュエータ」と記す)6が設けられている、このアクチュエータ6としては、油圧式アクチュエータまたは電磁式アクチュエータを用いることが可能である。この具体例では、アクチュエータ6として油圧式アクチュエータを用いており、そのアクチュエータ6は、油圧回路、切替弁、変速比制御弁、圧力制御弁、ソレノイド、電動モータなどを有する公知の構造である。このアクチュエータ6は、変速機用電子制御装置7の信号により制御される構成である。例えば、切替弁および変速比制御弁により、複数の摩擦係合装置の係合および解放を制御する油圧室への圧油の供給、および油圧室からの圧油の排出が制御されるとともに、油圧室の油圧が制御される。このようにして、複数の摩擦係合装置が個別に係合または解放される。さらに、電動モータまたはソレノイドが動作されて、パーキングポールが予め定められた角度範囲で回転する。
【0015】
そして、シフトポジションが変更されると、変速機4における動力伝達状態が切り替わる。まず、DポジションまたはRポジションが選択された場合は、入力部材と出力部材との間における動力伝達が可能な状態となる。また、RポジションとDポジションとでは、係合される摩擦係合装置、および解放される摩擦係合装置の少なくとも1個が異なり、かつ、入力部材の回転方向に対する出力部材の回転方向が正逆に切り替わる。また、Dポジションが選択された場合は、変速機4の変速比を、第1速ないし第5速の範囲で選択的に切り替える制御、つまり、変速比を変更する制御を実行可能である。このように、変速機4で変速比の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置7には、車速およびアクセル開度に基づいてアップシフトおよびダウンシフトをおこなう変速マップが記憶されている。つまり、変速機4は、車速およびアクセル開度に基づいて変速比を変更することのできる自動変速機である。
【0016】
これに対して、NポジションまたはPポジションが選択された場合は、全ての摩擦係合装置が解放されて、入力部材と出力部材との間における動力伝達が遮断される。さらに、Pポジションが選択された場合は、パーキングギヤにパーキングポールが噛み合わされて、出力部材の回転が防止される。このように、シフトポジション選択装置5が操作された場合、その操作が変速機用電子制御装置7で検知され、かつ、変速機用電子制御装置7から制御信号(電気信号)が出力され、その制御信号によりアクチュエータ6が動作して、変速機4の動力伝達状態が切り替えられる構成、いわゆるシフトバイワイヤ式の自動変速機である。なお、シフトバイワイヤ式の自動変速機は、シフトポジション選択装置5の操作力が、アクチュエータ6に機械的または流体的に伝達されない構成であればよく、上記の電気信号に代えて光信号を用いてアクチュエータ6が動作する構成でもよい。さらに、前記変速機4の出力部材にはプロペラシャフト8を介在させてデファレンシャル9が動力伝達可能に接続され、そのデファレンシャル9には後輪3が動力伝達可能に接続されている。なお、遊星歯車機構および摩擦係合装置を用いた自動変速機およびアクチュエータについては、例えば、特開平5−157167号公報、特開平6−323380号公報、特開平7−33850号公報に記載されているように周知であるため、詳細な説明を省略する。
【0017】
つぎに、車両1の制御系統を説明する。前記エンジン2の回転数およびトルクを制御するエンジン用電子制御装置10が設けられており、このエンジン用電子制御装置10および変速機用電子制御装置7に接続されたパワートレーン用電子制御装置11が設けられている。パワートレーン用電子制御装置11には、ナビゲーションシステム12が接続されている。このナビゲーションシステム12は、各種のセンサ、外部記憶装置、受信機、コントローラなどを有している。このナビゲーションシステムは、車両1の現在位置を検知する機能、車両1の目的地を入力する機能、車両1の現在位置から目的地までの走行経路を検索または入力する機能、走行経路の状況および天候などを検知する機能、車両1の走行軌跡を記憶する機能などを有している。車両1の現在位置は、自律航法または電波航法により求めることが可能である。自律航法とは、車両1に搭載されている記憶装置(CD−ROM、DVDなど)に記録された地図データを基にして、地磁気センサ、操舵角センサ、車輪の回転速度センサなどの信号を用いて、車両1の現在位置を求めるものである。
【0018】
一方、電波航法とは、車両1の外部(地上、道路、宇宙空間など)に存在する外部設備と、車両1に搭載された受信機との間で信号の授受をおこない、地図上に置ける車両1の現在位置を検知するものである。電波航法では、GPS(グローバル・ポジショニング・システム:人工衛星)の電波(信号)、地上に設置されたビーコンまたはサインポストから発信される電波(信号)を受信して、車両1の現在位置を検知する。このようにして、地図上における車両1の現在位置を検知することにより、道路状況、具体的には、自宅の駐車場、民間の駐車場、道路勾配、カーブ、砂利道、山道、市街地、渋滞、交通規則、天候、路面の摩擦係数などを検知することができる。
【0019】
このナビゲーションシステム12は、車両1の走行した道路の履歴を判定する走行履歴判定部15、車両1の走行した道路の履歴を保存し、かつ、その場所におけるシフトポジション選択装置5の操作内容を記憶する走行履歴保存部14、車両1の現在位置を判定する現在位置判定部13、ナビゲーションシステム12の操作方法や目的地までの走行経路を音声で案内する音声案内制御部16などを有している。また、音声案内制御部16ではこの他に、車両1の走行中および停止中において、シフトポジション選択装置5の操作により選択されたシフトポジション、または乗員に告知するべき情報が出力される。さらに、この音声案内制御部16は、音声による出力の他、ランプの点灯、ランプの点滅、ディスプレイの表示による出力などをおこなう機能をも有する。さらに、各電子制御装置には、車速、ブレーキペダルの操作状態、アクセルペダルの操作状態、キャンセルスイッチ17の操作状態、シフトポジション選択装置5の操作状態などの信号が入力される。キャンセルスイッチ17は車両1の乗員が操作するスイッチであり、その技術的意味は後述する。
【0020】
つぎに、図2に示す車両1の制御例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。まず、車両1の現在位置、車速、過去の走行履歴、シフトポジション選択装置5の過去の操作内容が取り込まれる(ステップS1)。このステップS1についで、通常操作を判断可能な車両1の現在位置であるか否かが判断される(ステップS2)。このステップS2の処理は、具体的には、車両1の現在位置が、過去に走行または停止した場所におけるシフトポジション選択装置5の操作内容と、現在位置でのシフトポジション選択装置5の操作内容とを比較することに適した場所であるか否かを判断しているのである。例えば、車両1の現在位置が、車両1が過去に複数回停止または走行した場所であり、かつ、その場所でのシフトポジション操作装置5の操作履歴が残っていれば、このステップS2で肯定的に判断される。このステップS2で肯定的に判断される場所としては、自宅の駐車場、民間の駐車場、自宅付近の道路などが挙げられる。このステップS2で否定的に判断された場合は、リターンされる。
【0021】
これに対して、ステップS2で肯定的に判断された場合は、過去に停止または走行していた場所に車両1の現在位置があり、かつ、シフトポジション選択装置5が現在操作されたとき、シフトポジション選択装置5の過去の操作内容(通常)と、シフトポジション選択装置5の現在の操作内容とが同じであるか否かを判断する(ステップS3)。このステップS3で、肯定的に判断された場合はリターンされる。例えば、過去に車両1が停止したことのある自宅の駐車場において、車両1の発進時にPポジションからDポジションに変更した履歴があり、車両1の現在位置が自宅の駐車場にあり、かつ、現在、PポジションからDポジションに変更された場合は、ステップS3で肯定的に判断される。一方、過去に車両1が停止したことのある自宅の駐車場において、車両1の発進時にPポジションからRポジションに変更した履歴があり、車両1の現在位置が自宅の駐車場にあり、かつ、PポジションからRポジションに変更された場合も、ステップS3で肯定的に判断される。
【0022】
これに対して、過去に車両1が停止したことのある自宅の駐車場において、車両1の発進時にPポジションからDポジションを選択した履歴があり、車両1の現在位置が自宅の駐車場にあり、かつ、PポジションからRポジションに変更された場合は、ステップS3で否定的に判断される。また、過去に車両1が停止したことのある自宅の駐車場において、車両1の発進時にPポジションからRポジションを選択した履歴があり、車両1の現在位置が自宅の駐車場にあり、かつ、PポジションからDポジションに変更された場合も、ステップS3で否定的に判断される。
【0023】
このように、ステップS3で否定的に判断された場合は、ステップS4の処理をおこないリターンする。このステップS4では、「シフトポジション選択装置5の操作に基づいてアクチュエータ(SBW)6を動作させる制御」を禁止するとともに、「シフトポジション選択装置5の操作に基づいてアクチュエータ6を動作させる制御を禁止していること」を注意喚起する案内を、音声案内制御部16でおこなうとともに、シフトポジション選択装置5の再操作を促す案内を、音声案内制御部16でおこなう。例えば、現在、PポジションからRポジションに変更してステップS3で否定判断され、ステップS4に進んだのであれば、「本当にバックしますか。バックする場合は、シフトポジション選択装置を再操作願います。」などの出力をおこなう。なお、ステップS4では、「シフトポジション選択装置5の操作に基づいてアクチュエータ6を動作させる制御を禁止していること」を注意喚起する案内、または、シフトポジション選択装置5の再操作を促す案内のうち、いずれか一方を音声案内制御部16でおこなうことも可能である。
【0024】
このように、図1の制御例では、過去に車両1が停止または走行した場所と、車両1の現在位置が同じである場合は、シフトポジション選択装置5の過去の操作内容と現在の操作内容とが比較され、その操作内容が異なる場合は、シフトポジション選択装置5の現在の操作内容に基づいて、変速機4の動力伝達状態を切り替えることが禁止される。例えば、PポジションからRポジションに変更したときにステップS4に進んだ場合、またはPポジションからDポジションに変更したときにステップS4に進んだ場合は、いずれも、アクチュエータ6がPポジションに相当する状態に制御される。
【0025】
上記のステップS3,S4の処理をおこなう理由は、車両1の乗員がシフトポジション選択装置5を誤操作している可能性があり、これを乗員に告知することで、乗員に誤操作の注意を喚起するためである。なお、ステップS4では、シフトポジション操作装置5が再度操作された場合は、禁止されていた制御をおこなうこともできる。またステップS4では、前記キャンセルスイッチ17が操作された場合に、禁止されていた制御がおこなわれる構成としてもよい。つまり、前述のキャンセルスイッチ17は、「制御の実行禁止」を解除して制御を実行させるためのスイッチである。
【0026】
ここで、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1が、この発明の学習手段に相当し、ステップS3が、この発明の比較手段に相当し、ステップS4が、この発明の禁止手段および告知手段に相当する。ここで、具体例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、シフトポジション選択装置5が、この発明のポジション選択装置に相当し、エンジン2が、この発明の駆動力源に相当し、後輪3が、この発明の車輪に相当し、変速機4が、この発明の伝動装置に相当する。
【0027】
なお、図1の制御例は、駆動力源から車輪に至る経路に、無段変速機および前後進切換装置が設けられている車両においても実行可能である。無段変速機とは、変速比を無段階(連続的)に変更可能な変速機である。無段変速機としては、ベルト式無段変速機またはトロイダル型無段変速機を用いることが可能である。ベルト式無段変速機は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリにベルトを巻き掛けた巻き掛け伝動装置である。また、プライマリプーリにおけるベルトの巻き掛け半径を制御するプライマリ油圧室が設けられているとともに、セカンダリプーリからベルトに加えられる挟圧力を制御するセカンダリ油圧室が設けられている。さらに、プライマリ油圧室に供給されるオイル量、およびセカンダリ油圧室の油圧を制御するアクチュエータが設けられている。このアクチュエータは、例えば、油圧回路、ソレノイドバルブ、切替弁、圧力制御弁などを有する油圧制御装置により構成されている。
【0028】
そして、プライマリ油圧室に供給されるオイル量を制御することにより、ベルト式無段変速機の変速比が制御される。これに対して、セカンダリ油圧室の油圧を制御することにより、セカンダリプーリからベルトに加えられる挟圧力が変化して、ベルト式無段変速機の伝達トルク(トルク容量)が調整される。ここで、NポジションまたはPポジションが選択された場合と、DポジションまたはRポジションが選択された場合とを比較すると、ベルト式無段変速機の動力伝達状態、つまり、伝達トルクが異なる。具体的には、NポジションまたはPポジションが選択された場合の伝達トルクよりも、DポジションまたはRポジションが選択された場合の伝達トルクの方が高く制御される。なお、ベルト式無段変速機およびこれを制御するアクチュエータについては、例えば、特開平5−990302号公報、特開平5−164240号公報、特開平11−182662号公報などに記載されているように周知であるため、その詳細な説明を省略する。
【0029】
一方、トロイダル型無段変速機は、入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラを介在させたトラクション伝動装置であり、パワーローラを回転自在に支持したトラニオンが設けられている。このトラニオンを直線状に動作させる第1アクチュエータが設けられている。そして、トラニオンを直線状に動作させると、パワーローラの傾転角度が変化して、入力ディスクおよび出力ディスクに対するパワーローラの接触半径が変化する。このようにして、トロイダル型無段変速機の変速比が制御される。また、入力ディスクおよび出力ディスクの回転中心となる軸線に沿った方向に、入力ディスクおよび出力ディスクに挟圧力を加える第2アクチュエータが設けられている。
【0030】
そして、NポジションまたはPポジションが選択された場合と、DポジションまたはRポジションが選択された場合とでは、トロイダル型無段変速機の動力伝達状態が異なる。具体的には、NポジションまたはPポジションが選択された場合に、第2アクチュエータで発生する挟圧力よりも、DポジションまたはRポジションが選択された場合に、第2アクチュエータで発生する挟圧力の方が高い。上記の第1アクチュエータおよび第2アクチュエータとしては、例えば、油圧を動作力に変換する油圧式アクチュエータを用いることができる。なお、トロイダル型無段変速機の構成およびこれを制御するアクチュエータについては、例えば、特開平5−180292号公報、特開平5−196116号公報、特開平10−148245号公報などに記載されているように周知であるため、詳細な説明を省略する。
【0031】
また、前後進切換装置は、入力部材に対する出力部材の回転方向を正逆に変更可能な伝動装置である。前記の無段変速機は、Dポジションが選択された場合と、Rポジションが選択された場合とで、回転要素の回転方向を正逆に切り替える機構を有していないため、この前後進切換装置が設けられる。この前後進切換装置としては、遊星歯車機構、または平行軸歯車機構を有する装置とすることができる。この遊星歯車機構を用いる前後進切換装置では、遊星歯車機構の他に、遊星歯車機構の回転要素同士を接続または遮断するクラッチ、遊星歯車機構の回転要素を固定するブレーキなどが設けられる。このクラッチまたはブレーキなどの摩擦係合装置を係合および解放させるアクチュエータが設けられている。このアクチュエータとしては、油圧式アクチュエータまたは電磁式アクチュエータを用いることができる。
【0032】
そして、摩擦係合装置の係合および解放状態を制御することにより、出力部材の回転方向が切り替わる。また、遊星歯車機構を有する前後進切換装置では、DポジションまたはRポジションが選択された場合と、PポジションまたはNポジションが選択された場合とでは、摩擦係合装置の状態が異なる。具体的には、DポジションまたはRポジションが選択された場合は、入力部材と出力部材との間で動力伝達が可能な状態となる。これに対して、PポジションまたはNポジションが選択された場合は、入力部材と出力部材との間で動力伝達が不可能な状態となる。なお、遊星歯車機構を用いた前後進切換装置およびアクチュエータについては、例えば、特開平5−10425号公報、特開平5−99302号公報、特開平5−133466号公報に記載されているように周知であるため、その説明を省略する。
【0033】
一方、平行軸歯車式の前後進切換装置では、噛み合いクラッチの噛み合いおよび解放を制御するアクチュエータが設けられている。そして、噛み合いクラッチの係合および解放を制御することにより、出力部材の回転方向が正逆に切り替わる。この平行軸歯車式の前後進切換装置では、DポジションまたはRポジションが選択された場合は、噛み合いクラッチが係合されて、動力伝達が可能な状態となる。これに対して、平行軸歯車式の前後進切換装置で、PポジションまたはNポジションが選択された場合は、噛み合いクラッチが解放されて、動力伝達が不可能な状態となる。なお、平行軸歯車式の前後進切換装置は、例えば、「無段変速機・CVT入門(株式会社グランプリ出版・2004年10月25日発行)」に記載されているように周知であるため、詳細な説明を省略する。
【0034】
そして、無段変速機および前後進切換装置が設けられている車両において、図1の制御を実行すると、ステップS4に進んだ場合に、シフトポジション選択装置5の現在の操作内容に基づいて、無段変速機の動力伝達状態を制御することが禁止されるとともに、シフトポジション選択装置5の現在の操作内容に基づいて、前後進切換装置の動力伝達状態を制御することが禁止される。さらに、ステップS4では、これらの制御が禁止されていることが、音声案内制御部16により出力される。さらにこの発明は、駆動力源のトルクが前輪に伝達される構成の二輪駆動車、または駆動力源のトルクが前輪および後輪に伝達される構成の四輪駆動車にも適用可能である。つまり、この発明の車輪には、後輪の他に前輪も含まれる。さらにまた、上記の変速機として、変速比を乗員の手動操作により切り替える手動変速機を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明における車両の制御例を示すフローチャートである。
【図2】この発明における車両のパワートレーンおよび制御系統を示す概念図である。
【符号の説明】
【0036】
1…車両、 2…エンジン、 3…後輪、 4…変速機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員により操作され、かつ、その車両を前進または後退させるために複数のポジションを選択的に変更できるポジション選択装置と、前記車両の駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に配置され、かつ、選択されたポジションにより異なる動力伝達状態を設定可能な伝動装置とを有する車両の制御装置において、
前記車両が停止および走行した場所を記憶し、かつ、記憶した場所における前記ポジション選択装置の操作内容を記憶する学習手段と、
この学習手段が過去に記憶していた場所に前記車両の現在位置があり、かつ、前記ポジション選択装置が現在操作されたとき、前記ポジション選択装置の過去の操作内容と、前記ポジション選択装置の現在の操作内容とが異なるか否かを判断する比較手段と、
この比較手段により、前記ポジション選択装置の過去の操作内容と、前記ポジション選択装置の現在の操作内容とが異なると判断された場合は、前記ポジション選択装置の現在の操作内容に合う前記伝動装置の動力伝達状態を設定することを禁止する禁止手段と
を備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記ポジション選択装置の過去の操作内容と、前記ポジション選択装置の現在の操作内容とが異なること、または、前記ポジション選択装置の現在の操作内容に基づいて前記伝動装置における動力伝達状態を制御することが禁止されていることのうち、少なくとも一方を、前記車両の乗員に告知する告知手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−270674(P2009−270674A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123551(P2008−123551)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】