説明

車両の前部車体構造

【課題】前面衝突時、フロントサイドフレームの変形によって乗員に対する衝撃荷重の低減を図りつつ、ダッシュパネルの車室内方向への後退を抑制可能な車両の前部車体構造を提供する。
【解決手段】上下方向に延びる断面半円状の第2アウタビード13fは、フロントサイドフレーム3をダッシュパネル2に接合する結合部Lの前方近傍で且つ下側結合フランジ11bの後端部に対応する位置に、アウタパネル13に車幅方向内側へ凹入状に形成されると共に、アウタパネル本体部13cの上端部から下端部に亙って形成される。第2アウタビード13fに対応する位置においては、その前後の部分に比べて、フロントサイドフレームの断面面積が小さく、インナパネル側に比べ低剛性であるため、前面衝突時、第2アウタビード13fを起点として車体外側方向へ折れ変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部車体構造に関し、特に前部車体の左右1対のフロントサイドフレームを衝突荷重により車幅方向外側に変形させる変形促進部を設けた車両の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の前部車体に設けた左右1対の1対のフロントサイドフレームが、ダッシュパネルの前面側に接続され、その後端部分がダッシュパネルの傾斜部に沿って後方へフロアパネルの前端付近まで延び、ダッシュパネルとフロアパネルに車室外側から接合される前部車体構造は公知である。尚、本明細書では、車体の前後方向を前後方向として説明する。
【0003】
特許文献1に記載された車体構造においては、左右1対のサイドフレームが、ダッシュパネルの前面に前方から接合されるフレーム前部と、フレーム前部の後端部からダッシュパネルの傾斜部とフロアパネルの下面側に沿って後方へ延びるフレーム後部とで構成されている。サイドフレームに対応する位置において、車室内でフロアパネル上面に第1補強部材が接合されてフロアパネルと閉断面を形成し、第1補強部材の前端部とダッシュパネルの傾斜部とを挟むように重合接合される第2補強部材が設けられている。
【0004】
特許文献1の車体構造では、サイドフレームとダッシュパネルとの接合部が第2補強部材で補強されるため、サイドフレームのダッシュパネルへの結合剛性を向上できるうえ、第1補強部材によりサイドフレームの曲げ剛性を補強することができる。サイドフレームのフレーム前部とフレーム後部とダッシュパネルとの接合部位を第2補強部材で補強して剛性を高めると共に、フレーム後部の上方に対向する第1補強部材とフロアパネルとで閉断面を構成して、フレーム後部とフロアパネルで構成する閉断面を補強して剛性を高めている。この車体構造は、ダッシュパネルと左右のサイドフレームとの結合部とその後方周辺部を補強することで剛性・強度を高めるものである。
【0005】
一方、車両の前面衝突時の乗員に対する衝撃荷重を低減する為に、フロントサイドフレームに入力される衝突荷重によりフロントサイドフレームを所定の変形モードで変形させることで衝突エネルギーを吸収する変形モード制御も実用化されている。
この変形モード制御においては、衝突初期にフロントサイドフレームの先端部分( クラッシュ缶) を潰れ変形させ、衝突中期以降では、フロントサイドフレームを、ダッシュパネルとの結合部を中心として平面視で車幅方向外側へ向かうように屈曲変形させることで、衝突初期に車体減速度を大きくし、その後も大きな車体減速度を維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−55529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記変形モード制御において、車両の衝突時に、フロントサイドフレームのダッシュパネルとの結合部を中心とした屈曲変形や折れ変形が起こると、前記結合部自体の変形や、変形後に後退移動するフロントサイドフレームとの接触によるダッシュパネルの変形等によって、比較的剛性の低いダッシュパネルが後退して車室内へ突入する虞がある。
そこで、フロントサイドフレーム前端部分の潰れ変形のみ発生可能にし、フロントサイドフレームの折れ変形を伴わない変形モード制御とすることも考えられるが、フロントサイドフレーム前端部分の潰れ変形のみでは充分な衝撃吸収性能を達成することが難しい。
【0008】
特許文献1の車体構造では、ダッシュパネルと左右のサイドフレームとの結合部とその後方周辺部を補強することで剛性・強度を高めて、車両衝突時にダッシュパネルが車室側へ後退することを防止可能であるとしても、車両の衝突時にサイドフレームの折れ変形や屈曲変形を促進して衝突エネルギーの吸収を促進する構造ではないため、乗員への衝撃を緩和する面では十分とは言い難い。
【0009】
本発明の目的は、前面衝突時にフロントサイドフレームをダッシュパネルへの結合部の前方部位において車幅方向外側へ折れ変形させることで衝撃を吸収可能にし、ダッシュパネルの車室内向への後退を抑制可能にした車両の前部車体構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の車両の前部車体構造は、車室の前端に配設されたダッシュパネルと、このダッシュパネルの前側に配設され且つダッシュパネルに結合された後端側部分がダッシュパネルの下端まで後方下がり傾斜状に延びる左右1 対のフロントサイドフレームとを有する車両の前部車体構造において、前記フロントサイドフレームのダッシュパネルへの結合部の前方近傍位置において、衝突時の荷重によって前記フロントサイドフレームを車幅方向外側に折れ変形させる変形促進部を前記フロントサイドフレームに設けたことを特徴としている。
【0011】
この前部車体構造においては、前方から衝突荷重が作用したとき、変形促進部が、フロントサイドフレームを車幅方向外側に折れ変形させるため、衝突時の衝撃を効果的に吸収でき、乗員に対する衝撃の低減を図ることができる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記フロントサイドフレームは、車幅方向外側のアウタパネルと、このアウタパネルと協働して閉断面を形成するインナパネルを備え、前記変形促進部は、衝突荷重が前方からフロントサイドフレームに作用したとき、前記アウタパネルを車幅方向外側へ折れ変形させるように構成されたことを特徴としている。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記変形促進部は、前記アウタパネルに上下方向に延びるように形成されたビードによって構成されたことを特徴としている。
【0014】
請求項4の発明は、請求項2〜3の何れか1つの発明において、前記フロントサイドフレームの下面に、前記アウタパネルと前記インナパネルの結合フランジが設けられ、この結合フランジの後端部が、前記変形促進部に対応する車体前後方向位置に設定されたことを特徴としている。
【0015】
請求項5の発明は、請求項2〜4の何れか1つの発明において、前記アウタパネルの前記インナパネルと結合する結合フランジの後部に、この結合フランジ成形用のノッチを備え、このノッチが前記変形促進部に対応する車体前後方向位置に設定されたことを特徴としている。
【0016】
請求項6の発明は、請求項2〜5の何れか1つの発明において、前記アウタパネルのうちの前記変形促進部と前記結合部の間の部位に、前記アウタパネルを補強すると共に、衝突荷重がフロントサイドフレームに作用したとき、前記変形促進部の車幅方向外側への折れ変形を助長する変形助長部を設けたことを特徴としている。
【0017】
請求項7の発明は、請求項2〜6の何れか1つの発明において、前記フロントサイドフレームは前側フレームと後側フレームからなり、前記前側フレームの後端に接合される後側フレームの前端は、前記変形促進部に対応する前後方向位置に設定されたことを特徴としている。
【0018】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、前記変形促進部に対応する位置において、前記インナパネルに、前記フロントサイドフレームの車幅方向内側への変形を抑制する変形抑制部を設けたことを特徴としている。
【0019】
請求項9の発明は、請求項8の発明において、前記変形抑制部の後部が、前記フロントサイドフレームの後側部材の前部と接続されたことを特徴としている。
【0020】
請求項10の発明は、請求項8または9の発明において、前記変形抑制部は、サスペンションサブフレーム取付部の補強部材で構成されたことを特徴としている。
【0021】
請求項11の発明は、請求項2〜10の何れか1つの発明において、前記インナパネルに、前記変形促進部よりも前方位置で、衝突荷重によって前記インナパネルを車幅方向内側に折れ変形させるインナパネル変形促進部を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、フロントサイドフレームのダッシュパネルへの結合部の前方近傍位置において、衝突時の荷重によって前記フロントサイドフレームを車幅方向外側に折れ変形させる変形促進部をフロントサイドフレームに設けたので、前方からフロントサイドフレームに衝突荷重が作用したとき、変形促進部がフロントサイドフレームを車幅方向外側に折れ変形させるため、乗員に対する衝撃の緩和を確実に図ることができる。
【0023】
しかも、変形促進部は、フロントサイドフレームのダッシュパネルへの結合部の前方近傍位置においてフロントサイドフレームを車幅方向外側に折れ変形させるため、ダッシュパネルと変形促進部との間にフロントサイドフレームの折れ変形を許容する空間を確保でき、ダッシュパネルの車室内方向への後退量を小さく抑えることができる。
【0024】
請求項2の発明によれば、変形促進部は、フロントサイドフレームに作用する衝突荷重をアウタパネルが車幅方向外側へ折れ変形するように構成するため、フロントサイドフレームのインナパネルの構造を変更することなく、変形促進部を構成することができる。
【0025】
請求項3の発明によれば、変形促進部はアウタパネルに形成した上下方向に延びるビードで構成したため、フロントサイドフレームが折れ変形する際に前記ビードが座屈変形の起点となって変形するため、簡単な構成の変形促進部とすることができる。
【0026】
請求項4の発明によれば、フロントサイドフレームのアウタパネルとインナパネルの結合フランジの後端部を前記変形促進部に対応する車体前後方向位置に設定し、結合フランジの後端部に対応する、フロントサイドフレームの剛性が不連続となる部位に、前記変形促進部を設けることで、変形促進部の機能を高めることができる。
【0027】
請求項5の発明によれば、アウタパネルとインナパネルの結合フランジ成形用のノッチを、前記変形促進部に対応する車体前後方向位置に設定したため、前記結合フランジ成形用のノッチによってフロントサイドフレームの剛性が不連続となる部位に、前記変形促進部を設けることで、変形促進部の機能を高めることができる。
【0028】
請求項6の発明によれば、前記変形促進部とフロントサイドフレームのダッシュパネルへの結合部の間の部位に、アウタパネルを補強する変形助長部を設けたため、変形促進部と結合部の間におけるアウタパネルの変形を防止し、衝突時における前記変形促進部の車幅方向外側への折れ変形を助長することができる。
【0029】
請求項7の発明によれば、フロントサイドフレームが前側フレームと後側フレームとからなり、前側フレームの後端に接合される後側フレームの前端が、変形促進部に対応する前後方向位置に設定されるため、前側フレームの後端と後側フレームの前端とが接合される接合部位であって、フロントサイドフレームの剛性が不連続となる部位に対応する位置に変形促進部を設定することにより、変形促進部の機能を高めることができる。
【0030】
請求項8の発明によれば、変形促進部に対応する位置に、インナパネルにフロントサイドフレームの車幅方向内側への変形を抑制する変形抑制部を設けたため、車両の衝突時に前記変形促進部においてフロントサイドフレームが車幅方向外側へ折れ変形するのを促進することができる。
【0031】
請求項9の発明によれば、変形抑制部の後部をフロントサイドフレームの後側部材の前部に接続することにより、フロントサイドフレームの車幅方向内側への変形をさらに抑制することができる。
【0032】
請求項10の発明によれば、前記変形抑制部はサスペンションサブフレーム取付部を補強する補強部材で構成したため、別途部材を設けずに、インナパネルを補強できる。
【0033】
請求項11の発明によれば、変形促進部よりも前方位置に衝突荷重によってインナパネルを車幅方向内側へ折れ変形させるインナパネル変形促進部を設けたため、前記変形促進部よりも前方位置のフロントサイドフレームを、インナパネル変形促進部においてく字状に外側へ膨らむ状態に折れ変形させることができ、フロントサイドフレームをく字状に変形させることで衝突エネルギーを吸収して効果的に衝撃荷重の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例1に係る前部車体の斜視図である。
【図2】前部車体の平面図である。
【図3】前部車体の底面図である。
【図4】前部車体の側面図である。
【図5】前部車体の右半部の内側を視た斜視図である。
【図6】前部車体の左半部を斜め下方から視た斜視図である。
【図7】図6の要部を拡大した要部拡大斜視図である。
【図8】フロントサイドフレームの分解斜視図である。
【図9】図4のIX−IX線断面図である。
【図10】図4のX −X 線断面図である。
【図11】図4のXI−XI線断面図である。
【図12】前面衝突時における左側フロントサイドフレームの挙動の説明図であり、(a)は衝突前の挙動、(b)は衝突初期の挙動、(c)は衝突後期の挙動を示す図である。
【図13】実施例2に係る図4相当図である。
【図14】実施例3に係る図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
尚、以下の実施例において、車両の前後方向を前後方向とし、車両の左右方向を左右方向として説明する。
【実施例1】
【0036】
以下、本発明の実施例について図1〜図12に基づいて説明する。
図1〜図5に示すように、車両Vの前部車体1には、車室SとエンジンルームEとを前後に仕切るダッシュパネル2、このダッシュパネル2の前側に配設される左右1対のフロントサイドフレーム3、1対のフロントサイドフレーム3の車幅方向外側上方に配置された1対のエプロンレインフォースメント4、フロントサイドフレーム3とエプロンレインフォースメント4との間でダッシュパネル2に近接配置される1対の筒状のサスタワー5等が設けられている。尚、符号4aはタイヤハウス(図示略)の外側に配置され、タイヤハウスと協働して閉断面部を形成して、前面衝突荷重をダッシュパネル2とフロントヒンジピラー(図示略)に分散する補助フレームを示している。
【0037】
前部車体1には、エンジンルームEの下側に配設されたサスペンションクロスメンバ6、サスペンションクロスメンバ6の左右両側に配置された1対のサスペンションアーム7、前後方向に配設された左右1対のエンジンサポートメンバ8、1対のエンジンサポートメンバ8の前端部に架着されたフロントクロスメンバ9等が設けられている。
【0038】
ダッシュパネル2は、フロントサイドフレーム3等に比べて板厚が薄く比較的剛性の低い鋼板からなる。ダッシュパネル2は、車室Sの前端部において上下方向に延びる縦壁部2aと、縦壁部2aの下端縁から後方に向かって後方下がり傾斜状に延びる傾斜部2bとを備えている。縦壁部2aの下端部と傾斜部2bの上端部はスポット溶接により接合されている。傾斜部2bの後端部分は、フロアパネル(図示略)の前端部分に接合されている。縦壁部2aの上端部は、車幅方向に延びるカウル部(図示略)に接合され、ダッシュパネル2の車幅方向両端部はフロントヒンジピラーに接合されている。
【0039】
ダッシュパネル2の縦壁部2aと傾斜部2bの接合部分において、エンジンルームE側の前面には、車幅方向に延びる断面ハット状のダッシュクロスメンバ10が設けられている。ダッシュクロスメンバ10は、ダッシュパネル2と閉断面部を形成し、ダッシュパネル2の剛性を高めている。ダッシュクロスメンバ10の左右両側端部は、後述するフロントサイドフレーム3とダッシュパネル2の結合部Lに接合され、フロントサイドフレーム3の支持剛性を高めている。
【0040】
図4に示すように、左右1対のフロントサイドフレーム3は、車室Sの前端を仕切るダッシュパネル2の前側においてエンジンルームEの左部と右部に前後方向向きに配設されている。即ち、左右1対のフロントサイドフレーム3は、車両Vの前端位置から後方へ向かって略水平状に延び且つ後端側途中部がダッシュパネル2の縦壁部2aに接合され、後端側部分が傾斜部2bとフロアパネルの下面に沿って後方下がり傾斜状に延びて接合されている。フロントサイドフレーム3の後端側部分はダッシュパネル2と結合部Lにより接合されている。
【0041】
このフロントサイドフレーム3は、フレーム自体で閉断面部を形成する前側の前側フレーム3A(前側部材)と、傾斜部2b及びフロアパネルと協働して閉断面部を形成する後側フレーム3B(後側部材)とから構成されている。前側フレーム3Aの後端とダッシュパネル2の縦壁部2a及び傾斜部2bはスポット溶接により接合され、後側フレーム3Bは傾斜部2bとフロアパネルに接合され、前側フレーム3Aの後端部と後側フレーム3Bの前端部は接合されている。
【0042】
図9に示すように、前側フレーム3Aは、車幅方向外側のアウタパネル13と、車幅方向内側のインナパネル14とから構成されている。アウタパネル13は、平板状の鋼板をプレス成形される部材であり、アウタパネル13は、上側に位置するアウタ上フランジ部13aと、下側に位置するアウタ下フランジ部13bと、両者の中間に位置するアウタパネル本体部13cとを備えている。同様に、インナパネル14は、上側に位置するインナ上フランジ部14a、下側に位置するインナ下フランジ部14b、両者の中間に位置するインナパネル本体部14cを備えている。
【0043】
アウタ上フランジ部13aとインナ上フランジ部14aがスポット溶接され、アウタ下フランジ部13bとインナ下フランジ部14bがスポット溶接され、前側フレーム3Aの上側結合フランジ11aと、下側結合フランジ11bが構成されている。下側結合フランジ11bは前側フレーム3Aの前端から結合部Lの前方近傍位置に亙って形成され、アウタパネル本体部13cとインナパネル本体部14cは、下側結合フランジ11bの後端部から傾斜部2bの中段部に亙って更に後方に延設されている(図8参照)。
【0044】
図4に示すように、プレス成形時に、アウタパネル13には、前後方向に略直線状に延びるアウタ凸部13d、上下方向に延びる第1アウタビード13e、フロントサイドフレーム3のダッシュパネル2への結合部Lの前方近傍位置に設けられた上下方向に延びる第2アウタビード13f(これが、変形促進部に相当する)、第2アウタビード13fの後方に配置される後述する変形助長部13g等が形成されている。
【0045】
アウタ凸部13dは、アウタパネル本体部13cの上下方向中段位置に、前端から前後方向中間部分に亙って形成されている。アウタ凸部13dは、車幅方向外側に凸状に形成され、凸部の突出高さが後方に向かう程小さくなっている。
【0046】
第1アウタビード13eは、上下方向に延びる断面半円状に形成されている。第1アウタビード13eは、アウタ凸部13dの後端の後方位置に、車幅方向内側に向かって凹入状に形成され、且つアウタ凸部13dの上下長よりも長く且つアウタパネル本体部13cの上下長よりも短く構成されている。第1アウタビード13eのビード深さとビード幅と上下長は、前面衝突時、アウタパネル13の第1アウタビード13eより前側部分に対して後側部分が車幅方向外側に折れ変形するように設定されている(図12参照)。
【0047】
図7に示すように、第2アウタビード13fは上下方向に延びる断面半円状に形成されている。この第2アウタビード13fは、結合部Lの前方近傍で且つ下側結合フランジ11bの車体前後方向後端部に対応する位置に、車幅方向内側へ凹入するように形成され、アウタパネル本体部13cの上端部から下端部に亙って構成されている。第2アウタビード13fのビード深さとビード幅は、前面衝突時、アウタパネル13の第2アウタビード13fより車体前後方向後側部分に対して前側部分が車幅方向外側に折れ変形可能となるよう設定されている。尚、図7では、サスペンションクロスメンバ6が図示省略されている。
【0048】
図1、図7に示すように、側面視で略三角形状に形成される変形助長部13gは、第2アウタビード13fと結合部Lとの間の位置に、車幅方向外側に凸状に形成され、第2アウタビード13fと変形助長部13gの三角形状の一辺が略平行となるよう構成されている。
【0049】
第2アウタビード13fの前側における前側フレーム3Aの閉断面面積は第2アウタビード13fの形成位置における閉断面面積より大きく設定され、変形助長部13gの形成位置における閉断面面積は第2アウタビード13fの前側における閉断面面積よりも更に大きく設定されている。それ故、前方からの衝突荷重に対して、変形助長部13gの形成位置における剛性を、第2アウタビード13fの形成位置における剛性よりも高くすることができる。
【0050】
図5に示すように、プレス成形時に、インナパネル14には、前後方向に略直線状に延びるインナ凸部14d、上下方向に延びる第1インナビード14e(インナパネル変形促進部)、前後方向に略直線状に延びる第2インナビード14fが形成されている。
【0051】
インナ凸部14dは、インナパネル本体部14cの上下方向中段位置に、前端から前後方向中間部分に亙って形成されている。インナ凸部14dは、車幅方向内側に向かって凸状に形成され、凸部の突出高さが後方に向かう程小さくなっている。この構成により、インナ凸部14dが第1アウタビード13eより後方まで延設され、第1アウタビード13eの位置に対応するインナパネル14の剛性を、第1アウタビード13eの位置に対応するアウタパネル13の剛性よりも一層高く設定している。
【0052】
フロントサイドフレーム3は、アウタ凸部13dとインナ凸部14dにより、前側フレーム3Aの前端に十字状の開口部が形成されている。このフロントサイドフレーム3の先端に固定されるクラッシュ缶(図示略)の取付け部形状が断面十字状に形成され、このクラッシュ缶の取付け部がフロントサイドフレーム3の先端に固定される。
【0053】
車体上下方向に延びる断面V字状の第1インナビード14eは、インナ凸部14dの後端後方位置に、車幅方向外側に凹入するように形成されると共に、インナパネル本体部13cの上端部から第2インナビード14fの後部に連続するよう構成されている。
【0054】
第1インナビード14eは、第1アウタビード13eと第2アウタビード13fとの中間の前後方向位置に位置している。尚、第1インナビード14eのビード深さとビード幅は、前面衝突時、インナパネル14の第1インナビード14eより後側部分に対して前側部分が車幅方向内側にく字状に折れ変形するよう設定されている。
断面溝状の第2インナビード14fは、インナパネル本体部14cの上下方向中段位置に、アウタ凸部13dより後方位置に形成されている。第2インナビード14fは、車幅方向外側へ凹入するように形成されている。
【0055】
図7に示すように、後側フレーム3Bは、ダッシュパネル2の傾斜部2b及びフロアパネルと、断面溝形の後側フレームパネル15によって構成されている。後側フレームパネル15は、車室Sの前方外側に設けられ、傾斜部2bとフロアパネルの下面に接合することにより閉断面部を構成している。
【0056】
図7,図8に示すように、後側フレームパネル15は、傾斜部2bの中段部に位置するアウタパネル本体部13cとインナパネル本体部14cの夫々の後端部に外側から重合接合すると共に、後側フレームパネル15の前端はアウタ下フランジ部13bとインナ下フランジ部14bとからなる下側結合フランジ11bの後端部に対応する位置、第2アウタビード13fに対応する位置まで延設されている。
【0057】
図8に示すように、アウタ下フランジ部13bを成形する際に必要とされる切欠状ノッチが13hで示されている。このノッチ13hは、下側結合フランジ11bの後端部、後側フレームパネル15の先端及び変形助長部13gの前端側一辺と同様に、第2アウタビード13fの直ぐ後方に対応する位置に設けられている。
【0058】
車幅方向に延びるサスペンションクロスメンバ6は、左右の後端部に形成された1対のクロスメンバ取付面部6aと、左右の途中部から夫々車幅方向外側へ延びる1対のクロスメンバ取付部6bと、左右の前端部に設けられた1対のエンジンサポート取付部6cとを備えている。
【0059】
クロスメンバ取付面部6aは、傾斜部2bの中段部の下側に位置すると共に後側フレームパネル15の前端部の外側に設けられた1対のガセット16に第1ラバーブッシュ17を介してボルト締結される。側面視でクサビ状のガセット16は、アウタパネル本体部13cとインナパネル本体部14cの夫々の後端部に重合接合される後側フレームパネル15の前端部の下方外側から3重接合されている。
【0060】
クロスメンバ取付部6bは、前側フレーム3Aの下端面のうちの、サスタワー5に対応する前後方向位置に第2ラバーブッシュ18(サスペンションサブフレーム取付部)を介してボルト18aによって締結固定される。図8,図9に示すように、第2ラバーブッシュ18は、インナパネル14を、インナパネル14の内部に接合された断面Z字状の補強部材19(変形抑制部)で補強した部位に連結されている。
【0061】
図8〜図11に示すように、前後方向に延びる長尺部材とされた補強部材19は、インナ下フランジ部14bに面接触する第1垂直板部19a、インナパネル本体部14cの下端面に面接触する水平板部19b、インナパネル本体部14cの垂直部に面接触する第2垂直板部19cとを備えている。
【0062】
図8に示すように、第1垂直板部19aと水平板部19bと第2垂直板部19cの前端部は、第1インナビード14eに対応する位置に形成されている。第1垂直板部19aの後端部は、第2アウタビード13fの直後方の下側結合フランジ11bの後端部にほぼ対応する位置に形成されている。
【0063】
水平板部19bの後端部は、後側フレームパネル15の前端部まで延びている。つまり、水平板部19bの後端部は、後側フレームパネル15の前端部と協働してインナパネル本体部14cの後端部を挟み込むように3重接合される。
【0064】
図8,図11に示すように、第2垂直板部19cの後端部は、変形助長部13gに対応する前後方向位置まで延びる。この構成により、補強部材19は、第2ラバーブッシュ18の支持剛性を確保しつつ、第2アウタビード13fに対応する前後方向位置におけるインナパネル14の剛性を高めている。つまり、第2アウタビード13fに対応する位置において、アウタパネル13側の剛性よりもインナパネル14側の剛性を高めることで、フロントサイドフレーム3の車幅方向内側への変形を抑制しつつ、車幅方向外側への変形を促進できる。
【0065】
図3に示すように、サスペンションアーム7の後部は支持ブラケット7aを介してサスペンションクロスメンバ6に連結され、前部はサスペンションクロスメンバ6の前部にラバーマウント(図示略)を介して連結されている。
【0066】
図1〜図5に示すように、左右1対のエンジンサポートメンバ8は、エンジン(図示略)を支持するために、エンジンルームの側部において前後方向に延びており、後端部8aがサスペンションクロスメンバ6の前端のエンジンサポートメンバ取付部6cに結合されている。エンジンサポートメンバ8の前端部8bは、フロントサイドフレーム3の前端にラバーマウント20を介して連結される。フロントクロスメンバ9は、エンジンサポートメンバ8の前端部8bに架着されており、その左右の端部はエンジンサポートメンバ8を挟んでラバーマウント20に固定されている。
【0067】
次に、前記前部車体構造の作用、効果について説明する。
最初に、前面衝突(正面衝突)時のフロントサイドフレーム3における変形モード制御について図12に基づいて説明する。図12は衝突時のフロントサイドフレーム3の変形の挙動を示すもので、(a)は衝突前の挙動、(b)は衝突初期の挙動、(c)は衝突後期の挙動を夫々示している。尚、説明の便宜上、左側のフロントサイドフレーム3を示している。
【0068】
図12(a)に示すように、フロントサイドフレーム3には、前方から第1アウタビード13eと、第1インナビード14eと、第2アウタビード13fとがフロントサイドフレーム3の前後方向軸心に対して平面視で左右千鳥状に形成されている。尚、フロントサイドフレーム3の前端部から第1アウタビード13eまでを領域A、第1アウタビード13eから第1インナビード14eまでを領域B、第1インナビード14eから第2アウタビード13fまでを領域C、第2アウタビード13fからダッシュパネル2までを領域Dとして説明する。
【0069】
前面衝突が発生した場合、最初に、フロントサイドフレーム3前端部に設けられたクラッシュ缶(図示略)が衝突荷重によって潰れる。このクラッシュ缶の潰れ変形によっても吸収されない衝突荷重は、フロントサイドフレーム3の前端部から入力され、後方に向かって伝搬する。
【0070】
図12(b)に示すように、フロントサイドフレーム3の前端部に入力された衝突荷重は、領域Aを潰れ変形させ、この潰れ変形とほぼ同時に、第1アウタビード13eの部位の折れ変形と、第1インナビード14eの部位の折れ変形と、第2アウタビード13fの部位の折れ変形が開始する。
【0071】
このとき、第1アウタビード13eがアウタパネル13に凹入状に形成されたビードで、この部位におけるフロントサイドフレーム3の断面係数もその前後の部位の断面係数よりも小さく、しかも、アウタパネル13側の剛性よりもインナパネル14側の剛性が大きいため、第1アウタビード13eの部位が車幅方向外側に面する谷折れ部になる。
【0072】
第1インナビード14eはインナパネル14に凹入状に形成されたビードで、この部位におけるフロントサイドフレーム3の断面係数もその前後の部位の断面係数よりも小さく、しかも、インナパネル14の剛性よりもアウタパネル13の剛性が大きいため、第1インナビード14eの部位が車幅方向内側に面する谷折れ部になる。しかも、補強部材19は、第1インナビード14eと第2アウタビード13fの間において主にインナパネル14を補強している。
【0073】
第2アウタビード13fは、アウタパネル13に凹入状に形成されたビードで、この部位におけるフロントサイドフレーム3の断面係数も小さく、しかも、第2アウタビード13fの後方付近においてアウタパネル13が変形助長部13gにより補強されているため、第2アウタビード13fの部位が車幅方向外側に面する谷折れ部になる。
【0074】
衝突がさらに進行すると、12(c)に示すように、第1アウタビード13eと、第1インナビード14eと、第2アウタビード13fとを夫々折れ変形の節として、フロントサイドフレーム3は、第1インナビード14eに対応する部位が車幅方向外側へ大きく移動して、平面視で車体前後方向にジグザグ状に座屈状態に変形する。このようなフロントサイドフレーム3のジグザグ状の座屈変形を介して、大きな衝突エネルギーを吸収できるため、ダッシュパネル2の後退を確実に抑制し、車室空間を衝突前と同様に維持することができる。
【0075】
ここで、変形助長部13gは、第2アウタビード13fの後方近傍位置において領域Dのアウタパネル13を補強し、第2アウタビード13fにおける折れ変形を促進している。補強部材19は、第1インナビード14eと第2アウタビード13fの間において主にインナパネル14を補強し、領域Cの途中における曲げ変形を抑制している。下側結合フランジ11bの後端部とノッチ13hを、第2アウタビード13fに対応する位置に配置することで、第2アウタビード13fの位置でのフロントサイドフレーム3の剛性を不連続化して第2アウタビード13fの位置での折れ変形を促進している。
【0076】
衝突荷重が大きく、領域Cが第2アウタビード13fを節として大きく車幅方向外側へ折れ変形した場合、ダッシュパネル2と第2アウタビード13fとの間には領域Dが形成されており、領域Cの折れ変形を許容する空間が確保されている。つまり、領域Cが第2アウタビード13fを節として大きく折れ変形したとしても、フロントサイドフレーム3の領域Cとダッシュパネル2との接触が回避でき、この接触に起因するダッシュパネル2の後退を抑制することができる。
【0077】
上記のように、衝突時の荷重によってフロントサイドフレーム3を車幅方向外側に折れ変形させる変形促進部13fをフロントサイドフレーム3に設けたので、前方からフロントサイドフレーム3に衝突荷重が作用したとき、変形促進部13fがフロントサイドフレーム3を車幅方向外側に折れ変形させるため、乗員に対する衝撃の緩和を確実に図ることができる。
【0078】
しかも、変形促進部13fは、フロントサイドフレーム3のダッシュパネル2への結合部の前方近傍位置においてフロントサイドフレーム3を車幅方向外側に折れ変形させるため、ダッシュパネル2と変形促進部13fとの間にフロントサイドフレーム3の折れ変形を許容する空間を確保でき、ダッシュパネル2の車室S内方向への後退量を小さく抑えることができる。
【0079】
前記変形促進部13fは、フロントサイドフレーム3に作用する衝突荷重をアウタパネル13が車幅方向外側へ折れ変形するように構成するため、フロントサイドフレーム3のインナパネル14の構造を変更することなく、変形促進部13fを構成することができる。前記変形促進部13fはアウタパネル13に形成した上下方向に延びるビードで構成したため、フロントサイドフレーム3が折れ変形する際に前記ビードが座屈変形の起点となって変形するため、簡単な構成の変形促進部13fとすることができる。
【0080】
フロントサイドフレーム3のアウタパネル13とインナパネル14の結合フランジ11a,11bの後端部を前記変形促進部13fに対応する車体前後方向位置に設定し、結合フランジ11a,11bの後端部に対応する、フロントサイドフレーム3の剛性が不連続となる部位に、前記変形促進部13fを設けることで、変形促進部13fの機能を高めることができる。
【0081】
アウタパネル13とインナパネル14の結合フランジ成形用のノッチ13hを、前記変形促進部に対応する車体前後方向位置に設定したため、前記結合フランジ成形用のノッチ13hによってフロントサイドフレーム3の剛性が不連続となる部位に、前記変形促進部13fを設けることで、変形促進部13fの機能を高めることができる。
【0082】
前記変形促進部13fとフロントサイドフレーム3のダッシュパネル2への結合部の間の部位に、アウタパネル13を補強する変形助長部13gを設けたため、変形促進部13fと結合部の間におけるアウタパネル13の変形を防止し、衝突時における前記変形促進部13fの車幅方向外側への折れ変形を助長することができる。
【0083】
フロントサイドフレーム3が前側フレーム3Aと後側フレーム3Bとからなり、前側フレーム3Aの後端に接合される後側フレーム3Bの前端が、変形促進部13fに対応する前後方向位置に設定されるため、前側フレーム3Aの後端と後側フレーム3Bの前端とが接合される接合部位であって、フロントサイドフレーム3の剛性が不連続となる部位に対応する位置に変形促進部13fを設定することにより、変形促進部13fの機能を高めることができる。
【0084】
変形促進部13fに対応する位置に、インナパネル14にフロントサイドフレーム3の車幅方向内側への変形を抑制する変形抑制部19を設けたため、車両の衝突時に前記変形促進部13fにおいてフロントサイドフレームが車幅方向外側へ折れ変形するのを促進することができる。
【0085】
変形抑制部19の後部をフロントサイドフレーム3の後側フレームの前部に接続することにより、フロントサイドフレームの車幅方向内側への変形をさらに抑制することができる。前記変形抑制部19はサスペンションサブフレーム取付部を補強する補強部材で構成したため、別途部材を設けずに、インナパネル14を補強できる。
【0086】
変形促進部13fよりも前方位置に衝突荷重によってインナパネル14を車幅方向内側へ折れ変形させるインナパネル変形促進部14eを設けたため、前記変形促進部13fよりも前方位置のフロントサイドフレーム3を、インナパネル変形促進部14eにおいてく字状に外側へ膨らむ状態に折れ変形させることができ、フロントサイドフレーム3をく字状に変形させることで衝突エネルギーを吸収して効果的に衝撃荷重の低減を図ることができる。
【実施例2】
【0087】
次に、実施例2に係る車両の前部車体構造について図13に基づいて説明する。尚、前記実施例1の前部車体構造と異なる構成についてのみ説明し、前記実施例と同一の部材に、同一符号を付して説明を省略する。
【0088】
図13に示すように、フロントサイドフレーム3は、フレーム自体で閉断面部を形成する前側の前側フレーム3Aと、傾斜部2bとフロアパネルと協働して閉断面部を形成する後側の後側フレーム3Bとから構成されている。
前側フレーム3Aは、車幅方向外側のアウタパネル13と、車幅方向内側のインナパネル14とで構成されている。アウタパネル13は、上側に位置するアウタ上フランジ部13a、下側に位置するアウタ下フランジ部13b、両者の中間に位置するアウタパネル本体部13cとを備えている。
【0089】
アウタパネル13には、前後方向に略直線状に延びるアウタ凸部13d、アウタパネル前部に形成されて上下方向に延びる第1アウタビード13e、フロントサイドフレーム3のダッシュパネル2への結合部Lの前方近傍位置に上下方向に細長く形成された矩形状の開口部13i(変形促進部)、該開口部13iの後方に配置される変形助長部13jとが設けられている。
【0090】
前記開口部13iは、結合部Lの前方近傍で且つ下側結合フランジ11bの後端部に対応する位置で、アウタパネル13を貫通しており、アウタパネル本体部13cの上端部から下端部に亙って矩形状に開口している。前記変形助長部13jは、開口部13iと結合部Lとの間の位置に、車幅方向外側に凸状に形成されると共に開口部13iの上下方向縁と変形助長部13jの三角形状の一辺が略平行となるよう構成されている。
【0091】
前記開口部13iが形成される部位は、その前後領域よりも低剛性に構成され、且つ車体前後方向同位置におけるインナパネル14よりも低剛性に構成されるため、前面衝突時、前記実施例1と同様に、前側フレーム3Aは開口部13iを起点として平面視で車幅方向外側に折れ変形する。しかも、開口部13iの後方付近のアウタパネル13の部分には変形助長部13jが形成されるため、ダッシュパネル2と開口部13iとの間には前側フレーム3Aの折れ変形を許容する空間を確実に確保することができる。
【0092】
尚、開口部13iは樹脂製のカバー(図示略)等でカバーされるようになっている。また、変形促進部は、矩形状の開口部13iに限らず、アウタパネル13をダッシュパネル2から離間した位置で折れ変形可能であれば良く、例えば、楕円形状の開口や、複数の孔、或いはアウタパネル13における薄肉部等の脆弱部で構成してもよい。
【実施例3】
【0093】
次に、実施例3に係る車両の前部車体構造について図14に基づいて説明する。尚、前記実施例1の前部車体構造と異なる構成についてのみ説明し、前記実施例と同一の部材に、同一符号を付して説明を省略する。
図14に示すように、アウタパネル13には、前後方向に略直線状に延びるアウタ凸部13d、アウタパネル前部において上下方向に延びる第1アウタビード13e、結合部Lの前方近傍位置に配置される変形促進部13k及び変形助長部13jなどが設けられている。
【0094】
前記アウタパネル13のうちの、変形助長部13jを含むその付近の領域に高剛性部Hが形成され、この高剛性部Hはアウタパネル13を構成する鋼板を焼き入れ処理することで剛性を高めたものであるが、高剛性部Hの剛性は変形助長部13jによっても高められている。この高剛性部Hの前端には、アウタパネル13の全高に亙り且つ鉛直方向に延びる直線状の剛性不連続部13k(これが、変形促進部に相当する)であって、衝突時の荷重によってフロントサイドフレーム3を車幅方向外側に折れ変形させる剛性不連続部13kが形成されている。
【0095】
剛性不連続部13kの部位においてフロントサイドフレーム3の剛性が不連続となり、剛性不連続部13kの部位の剛性が剛性不連続部13kより後側の高剛性部Hの剛性よりも低いため、衝突時の荷重によって剛性不連続部13kの部位において折れ変形が発生する。しかも、ダッシュパネル2と剛性不連続部13kとの間には前側フレーム3Aの折れ変形を許容する空間を確実に確保することができる。
尚、焼き入れ処理で高剛性部Hを形成する代わりに、鋼板の板厚を増すことにより高剛性部Hを形成してもよく、別途補強板を接合することで高剛性部Hを形成してもよい。
【0096】
その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、車体前部に、車体の左右両側で前後方向に延びる一対のフロントサイドフレームとダッシュパネルとを有する車両の前部車体構造において、衝突荷重により変形するフロントサイドフレームの変形モードを適切に設定することができる。
【符号の説明】
【0098】
V 車両
1 前部車体構造
2 ダッシュパネル
3 フロントサイドフレーム
3A 前側フレーム
11a 上側結合フランジ
11b 下側結合フランジ
3B 後側フレーム
13 アウタパネル
13b アウタ下フランジ部
13e 第1アウタビード
13f 第2アウタビード(変形促進部)
13g 変形助長部
13h ノッチ
13i 開口部(変形促進部)
13j 変形助長部
13k 剛性不連続部(変形促進部)
14 インナパネル
14b インナ下フランジ部
14e 第1インナビード
14f 第2インナビード
19 補強部材
S 車室
L 結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前端に配設されたダッシュパネルと、このダッシュパネルの前側に配設され且つダッシュパネルに結合された後端側部分がダッシュパネルの下端まで後方下がり傾斜状に延びる左右1 対のフロントサイドフレームとを有する車両の前部車体構造において、
前記フロントサイドフレームのダッシュパネルへの結合部の前方近傍位置において、衝突時の荷重によって前記フロントサイドフレームを車幅方向外側に折れ変形させる変形促進部を前記フロントサイドフレームに設けたことを特徴とする車両の前部車体構造。
【請求項2】
前記フロントサイドフレームは、車幅方向外側のアウタパネルと、このアウタパネルと協働して閉断面を形成するインナパネルを備え、
前記変形促進部は、衝突荷重が前方からフロントサイドフレームに作用したとき、前記アウタパネルを車幅方向外側へ折れ変形させるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の前部車体構造。
【請求項3】
前記変形促進部は、前記アウタパネルに上下方向に延びるように形成されたビードによって構成されたことを特徴とする請求項2に記載の車両の前部車体構造。
【請求項4】
前記フロントサイドフレームの下面に、前記アウタパネルと前記インナパネルの結合フランジが設けられ、この結合フランジの後端部が、前記変形促進部に対応する車体前後方向位置に設定されたことを特徴とする請求項2〜3の何れか1つに記載の車両の前部車体構造。
【請求項5】
前記アウタパネルの前記インナパネルと結合する結合フランジの後部に、この結合フランジ成形用のノッチを備え、
このノッチが前記変形促進部に対応する車体前後方向位置に設定されたことを特徴とする請求項2〜4の何れか1つに記載の車両の前部車体構造。
【請求項6】
前記アウタパネルのうちの前記変形促進部と前記結合部の間の部位に、前記アウタパネルを補強すると共に、衝突荷重がフロントサイドフレームに作用したとき、前記変形促進部の車幅方向外側への折れ変形を助長する変形助長部を設けたことを特徴とする請求項2〜5の何れか1つに記載の車両の前部車体構造。
【請求項7】
前記フロントサイドフレームは前側フレームと後側フレームとからなり、前記前側フレームの後端に接合される後側フレームの前端は、前記変形促進部に対応する前後方向位置に設定されたことを特徴とする請求項2〜6の何れか1つに記載の車両の前部車体構造。
【請求項8】
前記変形促進部に対応する位置において、前記インナパネルに、前記フロントサイドフレームの車幅方向内側への変形を抑制する変形抑制部を設けたことを特徴とする請求項7に記載の車両の前部車体構造。
【請求項9】
前記変形抑制部の後部が、前記フロントサイドフレームの後側部材の前部と接続されたことを特徴とする請求項8に記載の車両の前部車体構造。
【請求項10】
前記変形抑制部は、サスペンションサブフレーム取付部の補強部材で構成されたことを特徴とする請求項8又は9に記載の車両の前部車体構造。
【請求項11】
前記インナパネルに、前記変形促進部よりも前方位置で、衝突荷重によって前記インナパネルを車幅方向内側に折れ変形させるインナパネル変形促進部を備えたことを特徴とする請求項2〜10の何れか1つに車両の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−228722(P2010−228722A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81526(P2009−81526)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】