説明

車両の姿勢制御装置

【課題】 車両の姿勢制御の要否判定をする際に、その判定感度を推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較結果に応じて低下させて不必要な姿勢制御の実施を確実に防止することにより、スタビリティファクタが変動しても適切な姿勢制御を実施する車両の姿勢制御装置を提供する。
【解決手段】車両の姿勢制御装置の制御装置は、旋回中の車両のスタビリティファクタを同車両の挙動に基づいて導出してその導出結果を推定スタビリティファクタとし、その推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較を行い(ステップ114,116)、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して(ステップ118,130,134)車両の姿勢制御を行う(ステップ126)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、この種の車両の姿勢制御装置としては、車輪速センサやハンドル角センサ、ヨーレートセンサ等を備えている車両の旋回制御装置が知られている(特許文献1参照)。この旋回制御装置において、これら各種センサ50の検出値に基づきECU28内の演算回路58では、ヨーモーメント制御のための目標ヨーレートγtが算出される。制御回路64は、検出された実ヨーレートγを目標ヨーレートγtに一致させるべく制御対象70(自動ブレーキシステム)を制御する。演算回路58では、演算部58bにてスタビリティファクタを演算する。具体的には、演算部58bでは下記数1によりスタビリティファクタAが求められる。
(数1)
A={(V−δ)/(γ−L)−1}/V2
なお、上記数1からも明らかなように、この場合演算されるスタビリティファクタAは、車体速V、前輪操舵角δ及び実ヨーレートγに基づき得られるものである。従って、ここで求められるスタビリティファクタは、車両1に固有の値として予め与えられるものではなく、あくまで車両1の実際の安定旋回運動を基準として演算を行った結果、推定されるスタビリティファクタ、いわば計算スタビリティファクタである。
【0003】
そして、演算回路58では、求めたスタビリティファクタから定常ゲイン58a中のスタビリティファクタを学習するようになっている。定常ゲイン58aにこの学習済みスタビリティファクタを反映させて目標ヨーレートγtが算出される。従って、車両1のスタビリティファクタが変化した場合でも、常に適切な目標ヨーレートを算出するようになっている。
【0004】
したがって、この車両の旋回制御装置においては、車両の実際の旋回状況に基づきスタビリティファクタが推定されるので、所定値に固定されたスタビリティファクタを使用して車両の運動状態を演算する場合に比べてより正確な運動状態を求めることができる。すなわち、目標ヨーレートγtと実ヨーレートγとの差であるヨーレート偏差を車両の運動状態として求めることができる。
【特許文献1】特開平10−258720号公報(第5,6頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した旋回制御装置においては、推定スタビリティファクタは安定旋回運動を基準として演算されているが、車両の実際のスタビリティファクタと異なるおそれがあった。この場合、推定スタビリティファクタと車両の実際のスタビリティファクタ(以下、実スタビリティファクタという。)との関係において、適正な制御が実施される領域と適正な制御が実施されにくいまたは実施されない領域が存在する。
【0006】
具体的には、図14に示すように、領域A1〜A3においては、推定スタビリティファクタが実スタビリティファクタとほぼ一致するので、適正な制御(オーバステア(OS)およびアンダステア(US)制御)が行われる。一方、領域A4〜A6においては、実スタビリティファクタが小さいため車両がオーバステア傾向(状態)にあり、実ヨーレートは大きめとなる一方で、実スタビリティファクタに対して推定スタビリティファクタが大きいため目標ヨーレートが不必要に小さい値となるので、ヨーレート偏差の絶対値が大きくなっていた。すなわち、車両本来のヨーレート偏差の絶対値より大きいため、固定された制御介入閾値(OS制御を実施する制御介入閾値)を超過しやすくなっており、本来ならオーバステア制御(OS制御)が実施されない車両状態であるにも係わらず、誤ってオーバステア制御が実施されるおそれがあった。領域A6においては、領域A4,A5と比べて推定スタビリティファクタが実スタビリティファクタよりより大きいので、さらにその傾向が顕著となる。
【0007】
さらに、領域A7〜A9においては、実スタビリティファクタが大きいため車両がアンダステア傾向(状態)にあり、実ヨーレートは小さめとなる一方で、実スタビリティファクタに対して推定スタビリティファクタが小さいため目標ヨーレートが不必要に大きい値となるので、ヨーレート偏差の絶対値が大きくなっていた。すなわち、車両本来のヨーレート偏差の絶対値より大きいため、固定された制御介入閾値(US制御を実施する制御介入閾値)を超過しやすくなっており、本来ならアンダステア制御(US制御)が実施されない車両状態であるにも係わらず、誤ってアンダステア制御が実施されるおそれがあった。領域A9においては、領域A7,A8と比べて推定スタビリティファクタが実スタビリティファクタよりより小さいので、さらにその傾向が顕著となる。いずれにしても領域A4〜A9においては、過剰な(不必要な)姿勢制御が実施されるおそれがあった。
【0008】
なお、上述のように目標ヨーレートが小さくなるのは、目標ヨーレートTωが下記数2によって算出されるので、スタビリティファクタが大きくなれば目標ヨーレートが小さくなるからであり、逆に、目標ヨーレートが大きくなるのは、スタビリティファクタが小さくなれば目標ヨーレートが大きくなるからである。なお、V,ξ,Lはそれぞれ車体速度,車両の操舵角,ホイールベースである。
【数2】

【0009】
本発明の目的は、車両の姿勢制御の要否判定をする際に、その判定感度を推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較結果に応じて低下させて不必要な姿勢制御の実施を確実に防止することにより、スタビリティファクタが変動しても適切な姿勢制御を実施する車両の姿勢制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、車両のステア特性を示すスタビリティファクタに基づいて車両の姿勢制御を行う車両の姿勢制御装置であって、旋回中の車両のスタビリティファクタを同車両の挙動に基づいて導出してその導出結果を推定スタビリティファクタとし、その推定スタビリティファクタと別途定めた基準スタビリティファクタとの比較を行い、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行う姿勢制御手段を備えたことである。
【0011】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、姿勢制御手段は、基準スタビリティファクタより推定スタビリティファクタが小さい場合には、アンダ制御の姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行うことである。
【0012】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、姿勢制御手段は、基準スタビリティファクタより推定スタビリティファクタが大きい場合には、オーバ制御の姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行うことである。
【0013】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、姿勢制御手段は、推定スタビリティファクタに基づいて導出されたヨーレート偏差と制御介入閾値との比較を行いその比較結果に応じて車両の姿勢制御を行うものであり、推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較結果に基づいて制御介入閾値を変更することにより、姿勢制御要否判定感度を変更することである。
【0014】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項3の何れか一項において、姿勢制御手段は、推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタの比較結果に基づいて推定スタビリティファクタを補正することにより、姿勢制御要否判定感度を変更することである。
【0015】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項5の何れか一項において、基準スタビリティファクタは、車両の固有のスタビリティファクタ領域内に任意に設定される値であることである。
【0016】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項5の何れか一項において、姿勢制御手段は、推定スタビリティファクタの導出を開始する前において、姿勢制御要否判定感度を低下させて車両の姿勢制御を行うことである。
【0017】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、車両の速度を検出する車体速度検出手段と、車両の操舵角を検出する操舵角検出手段と、車両に発生する実ヨーレートを検出する実ヨーレート検出手段と、車両のステア特性を示すスタビリティファクタに基づいて車両の目標ヨーレートを算出する目標ヨーレート算出手段と、実ヨーレート検出手段によって検出された実ヨーレートと目標ヨーレート算出手段によって算出された目標ヨーレートとを減算してヨーレート偏差を算出するヨーレート偏差算出手段とを備え、このヨーレート偏差算出手段によって算出されたヨーレート偏差と制御介入閾値との比較を行いその比較結果に応じて車両の姿勢制御を行う車両制御装置において、旋回中の車両のスタビリティファクタを同車両の挙動に基づいて推定スタビリティファクタとして導出する推定スタビリティファクタ導出手段と、この推定スタビリティファクタ導出手段によって導出された推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較を行い、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行う姿勢制御手段とを備えたことである。
【0018】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項8の何れか一項において、姿勢制御手段は、車輪の制動力または/およびエンジンの出力を制御することにより、車両の姿勢を制御することである。
【発明の効果】
【0019】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、姿勢制御手段が、旋回中の車両のスタビリティファクタを同車両の挙動に基づいて導出してその導出結果を推定スタビリティファクタとし、その推定スタビリティファクタと別途定めた基準スタビリティファクタとの比較を行い、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行う。これにより、従来のように適正な制御が実施されにくいまたは実施されない領域、すなわち実スタビリティファクタに対して推定スタビリティファクタが乖離している場合であっても、車両の姿勢制御の要否判定をする際に、姿勢制御要否判定感度を推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較結果に応じて低下させることにより、不必要な姿勢制御の実施を確実に防止することができる。したがって、スタビリティファクタが変動しても、適切な姿勢制御を実施することができる。
【0020】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、姿勢制御手段は、基準スタビリティファクタより推定スタビリティファクタが小さい場合には、アンダ制御の姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行うことにより、車両のアンダステア傾向が強い場合にアンダ制御を適切に実施することができる。
【0021】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1に係る発明において、姿勢制御手段は、基準スタビリティファクタより推定スタビリティファクタが大きい場合には、オーバ制御の姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行うことにより、車両のオーバステア傾向が強い場合にオーバ制御を適切に実施することができる。
【0022】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3の何れか一項に係る発明において、姿勢制御手段は、推定スタビリティファクタに基づいて導出されたヨーレート偏差と制御介入閾値との比較を行いその比較結果に応じて車両の姿勢制御を行うものであり、推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較結果に基づいて制御介入閾値を変更することにより、姿勢制御要否判定感度を変更する。これにより、確実かつ容易に姿勢制御要否判定感度を変更することができる。
【0023】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項1乃至請求項3の何れか一項に係る発明において、姿勢制御手段は、推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタの比較結果に基づいて推定スタビリティファクタを補正することにより、姿勢制御要否判定感度を変更する。これによっても、確実かつ容易に姿勢制御要否判定感度を変更することができる。
【0024】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項1乃至請求項5の何れか一項に係る発明において、基準スタビリティファクタは、車両の固有のスタビリティファクタ領域内に任意に設定される値である。これにより、基準スタビリティファクタを所定の範囲内で変更することができるので、車両のステア特性に応じてより適切に姿勢制御要否判定感度を設定することができる。
【0025】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、請求項1乃至請求項5の何れか一項に係る発明において、姿勢制御手段は、推定スタビリティファクタの導出を開始する前において、姿勢制御要否判定感度を低下させて車両の姿勢制御を行うことにより、より完全に姿勢制御の誤作動を防止することができる。
【0026】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、推定スタビリティファクタ導出手段が、旋回中の車両のスタビリティファクタを同車両の挙動に基づいて推定スタビリティファクタとして導出し、姿勢制御手段が、推定スタビリティファクタ導出手段によって導出された推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較を行い、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行う。これにより、従来のように適正な制御が実施されにくいまたは実施されない領域、すなわち実スタビリティファクタに対して推定スタビリティファクタが乖離している場合であっても、車両の姿勢制御の要否判定をする際に、姿勢制御要否判定感度を推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較結果に応じて低下させることにより、不必要な姿勢制御の実施を確実に防止することができる。したがって、スタビリティファクタが変動しても、適切な姿勢制御を実施することができる。
【0027】
上記のように構成した請求項9に係る発明においては、請求項1乃至請求項8の何れか一項において、姿勢制御手段は、車輪の制動力または/およびエンジンの出力を制御することにより、車両の姿勢を制御するので、車両の姿勢の制御を正確かつ確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
1)第1の実施の形態
以下、本発明による車両の姿勢制御装置の第1の実施の形態について図面を参照して説明する。この車両の姿勢制御装置は、図1に示すように、車両の左右前後輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに対しそれぞれ独立に制動力を付与可能な車両用制動装置20を備えた後輪駆動の車両Mに適用されている。
【0029】
この車両Mは、車体前部に縦置きに配置されたエンジン10を備えている。エンジン10には、プロペラシャフト11、ディファレンシャル装置12、左右のリヤアクスルシャフト13,14を介して左右後輪Wrl,Wrrが接続されており、エンジン10の出力トルクによって左右後輪Wrl,Wrrが駆動されるようになっている。また、車両Mには運転者によって操作されるステアリングホイール(ハンドル)15が設けられている。ハンドル15はステアリングシャフト16に一体的に連結され、ステアリングシャフト16は舵取機構17を介してタイロッド18に連結され、タイロッド18には操舵輪である左右前輪Wfl,Wfrが取り付けられており、ハンドル15の操作により左右前輪Wfl,Wfrが操舵されるようになっている。
【0030】
車両用制動装置20は、ブレーキペダル21の踏み込み操作に応じた油圧のブレーキ油を圧送するマスタシリンダ22と、複数の電磁バルブ(図示しない)を備えて左右前後輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの各ホイールシリンダ25,26,27,28へ供給される油圧を調整するブレーキ調圧ユニット23と、後述する制御装置30からの指令を受けてブレーキ調圧ユニット23の各電磁バルブの状態を切り換え制御しホイールシリンダ25,26,27,28に付与する油圧すなわち各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を制御するブレーキ制御装置24を備えている。
【0031】
車両Mは制御装置30を備えており、この制御装置30には、ステアリングシャフト16に設けられて車両Mのハンドル15のハンドル角度θを検出する操舵角センサ31、左右前後輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの近傍にそれぞれ設けられて左右前後輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの回転速度をそれぞれ検出する車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srr、車体の重心近傍位置に組み付けられて車両Mの実際のヨーレート(実ヨーレートRω)を検出するヨーレートセンサ32が接続されている。
【0032】
操舵角センサ31は、ステアリングシャフト16が所定角度だけ回転する毎にレベルが変化するパルス列信号であって、位相が互いに4分の1周期だけ異なるとともにステアリングシャフト16の回動方向により位相の進む側が互いに逆になる2相のパルス列信号を出力する。車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srrは、左右前後輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの各回転速度をそれぞれ検出するものであり、左右前後輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの各回転をそれぞれピックアップすることにより、各回転速度に反比例する周期のパルス列信号をそれぞれ出力する。ヨーレートセンサ32は、振動子を備えてなりコリオリ力を用いて車体重心位置の垂直軸回りの角速度を検出する角速度センサで構成されており、車体に作用するヨーレートの向きを表すとともに同ヨーレートの大きさに比例した大きさを表す信号を出力する。
【0033】
また、車両Mには、制御装置30からの指令を受けてエンジン10のスロットル(図示省略)の開度を制御し出力トルクを制御するエンジン制御装置40が備えられている。
【0034】
また、制御装置30は、マイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続された入出力インターフェース、CPU、RAMおよびROM(いずれも図示省略)を備えている。CPUは、図2のフローチャートに対応したプログラムを実行して、車両Mの姿勢を制御するものであり、ROMは前記プログラムおよび後述する基準スタビリティファクタA_REFを記憶するものであり、RAMは制御に関する演算値を一時的に記憶するものである。
【0035】
次に、上記のように構成した車両の姿勢制御装置の動作を図2〜図6のフローチャートに沿って説明する。制御装置30は、図示しない車両Mのイグニションスイッチがオン状態にあるとき、所定の短時間毎に、上記フローチャートに対応したプログラムを繰り返し実行する。制御装置30は、図2のステップ100にてプログラムの実行を開始する毎に、車体速度Vおよびハンドル角度θを算出し、実ヨーレートRωを検出する(ステップ102〜106)。
【0036】
制御装置30は、ステップ102において、まず車両Mの車体速度Vを算出する(車体速度検出手段)。具体的には、車輪速センサSfl,Sfr,Srl,Srrからそれぞれ入力された各パルス列信号に基づいて同各パルス列信号の周期に反比例した値をそれぞれ左右前後輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrの各車輪速として計算する。そして、これら各車輪速を平均した値を車体速度Vとして算出する。なお、左右前輪Wfl,Wfrまたは左右後輪Wrl,Wrrの各車輪速を平均した値を車体速度Vとして算出するようにしてもよい。また、変速機(図示しない)の出力軸の回転をピックアップして同回転速度に反比例する周期を有するパルス列信号を出力する車速センサを制御装置30に接続して、制御装置30は車速センサから入力されたパルス列信号に基づいて同パルス列信号の周期に反比例した値を車体速度Vとして算出するようにしてもよい。
【0037】
制御装置30は、ステップ104において、車両Mのハンドル角度θを算出する。すなわち、ハンドル角度θは、下記数3に示すように操舵角センサ30から入力された2相パルス列信号に基づいて、両パルス列信号のレベルが変化する毎に操舵軸31の回動方向(2相のパルス列信号のレベルの変化の仕方によって検出される)に応じて前回のハンドル角度θを所定角度Δθずつ増減することにより算出される。
【0038】
(数3)
ハンドル角度θ=前回のハンドル角度θ+加算値×Δθ
上記数1の加算値は、ハンドル15の回転方向を示すものであり、操舵角センサ31から入力された2相パルス列信号の前回値および今回値の変化の仕方に基づいて決定される。例えば、前回値と今回値が(0,0)と同じであれば加算値は0であり、(0,0)の前回値が(0,1)となれば加算値は+1であり、(0,0)の前回値が(1,0)となれば加算値は−1である。
【0039】
イグニッションスイッチ(図示しない)を投入した直後に、このハンドル角度θの初期値は0にリセットされ、これに基づきその後のハンドル角度θの計算が実行される。また、ハンドル角度θは初期値からの相対的な角度を表すのみで、絶対的な角度を表していないので、ハンドル角度θの中立点を算出してこの算出した中立点に基づいて補正されてはじめて中立点からの絶対角度であるハンドル角度θが算出される。
【0040】
制御装置30は、ステップ106において、ヨーレートセンサ32からのヨーレートの方向及び大きさを表す信号を車両に発生する実際のヨーレートである実ヨーレートRωとして検出する(実ヨーレート検出手段)。なお、実ヨーレートRωを左右前輪Wfl,Wfr(または左右後輪Wrl,Wrr)の車輪速度に基づいて算出するようにしてもよい。
【0041】
制御装置30は、ステップ108において、上述したステップ104にて算出されたハンドル角度θから操舵輪の切れ角ξ(車両の操舵角)を下記数4により導出する(操舵角導出手段)。
【0042】
(数4)
操舵輪の切れ角ξ=C×ハンドル角度θ
なお、Cはハンドル角度θに対する操舵輪の切れ角ξの比例定数である。また、ハンドルの遊びなどに起因するハンドルのずれを補正した補正ハンドル角度をハンドル角度θに基づいてそれぞれ導出してその補正ハンドル角度を用いて操舵輪の切れ角ξを算出するようにしてもよい。なお、操舵輪の切れ角ξとは、車両Mが直進する方向に対する操舵輪の操舵方向の角度のことをいう。
【0043】
制御装置30は、ステップ110において、基準スタビリティファクタA_REFを記憶部から読み出す。この基準スタビリティファクタA_REFは予め設定されて制御装置30に記憶されている(別途定めた)ものである。ところで、車両のステア特性は、車両に搭載される荷物の積載量、積載位置の変化によって変化することはよく知られている。特にトラック、バスなどの荷物、人を乗せる大型車両において顕著である。スタビリティファクタは車両のステア特性を示すパラメータの一つであるから、車両に搭載される荷物の積載量、積載位置の変化によって変化する。すなわち、車両のスタビリティファクタは車両に固有の所定値でなく、車両の固有のスタビリティファクタ領域内で取り得る値である。スタビリティファクタ領域は、車両に搭載される荷物を未積載状態から最大積載状態まで変化させ、または/および積載位置を変化させて実測した(またはシミュレートした)車両のスタビリティファクタの取り得る範囲である。基準スタビリティファクタA_REFは、このようなスタビリティファクタ領域内に任意に設定される値であり、本実施の形態において、スタビリティファクタ領域の中間値に設定されている。
【0044】
なお、ステップ110においては、基準スタビリティファクタA_REFを学習して自動的に設定できるようにしてもよい。例えば、学習の方法として、推定スタビリティファクタA_ESTの長期間にわたるデータの平均値を用いてもよい。
【0045】
制御装置30は、ステップ112において、旋回中の車両の推定スタビリティファクタA_ESTを同車両の挙動に基づいて導出する。すなわち、下記数5によって車体速度V、車両の操舵角ξおよび実ヨーレートRω(ステップ106にて検出したもの)に基づいてスタビリティファクタを導出し、その導出結果を推定スタビリティファクタA_ESTとする(推定スタビリティファクタ導出手段)。
【数5】

【0046】
なお、上記数5にて、Lは車両Mのホイールベースである。
【0047】
次に、制御装置30は、ステップ114以降において、ステップ112にて導出された推定スタビリティファクタA_ESTとステップ110にて読み出した基準スタビリティファクタA_REFとの比較を行い、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行う。以下、基準スタビリティファクタA_REFと推定スタビリティファクタA_ESTが同一の場合、基準スタビリティファクタA_REFより推定スタビリティファクタA_ESTが小さい場合、および基準スタビリティファクタA_REFより推定スタビリティファクタA_ESTが大きい場合に分けて詳述する。
【0048】
(A_EST=A_REFの場合)
基準スタビリティファクタA_REFと推定スタビリティファクタA_ESTが同一の場合、図7に示す領域A2においては、推定スタビリティファクタが実スタビリティファクタとほぼ一致するので、適正な制御(オーバステア(OS)およびアンダステア(US)制御)が行われる。また、領域A4においては、OS制御が過剰(過敏)になりやすくUS制御が不足気味(鈍感)になりやすいが、その程度は領域A6に比べて軽いものである。また、領域A8においては、US制御が過剰(過敏)になりやすくOS制御が不足気味(鈍感)になりやすいが、その程度は領域A9に比べて軽いものである。したがって、領域A2,A6,A8において姿勢制御要否判定感度を変更する必要性はないか、あるいは必要性があってもその程度は軽いものである。なお、図7に示す各領域A1〜A9は、図14に示す各領域A1〜A9と同一のものである。
【0049】
そこで、US制御およびOS制御の要否を判定する感度を通常感度に設定する。具体的には、制御装置30は、ステップ114,116にてそれぞれ「NO」と判定し、プログラムをステップ118に進める。ステップ118において、図8に示すように、ヨーレート偏差Δω(後述する)がその値以上となればUS制御を実施するUS制御介入閾値Tusを通常制御介入閾値Tus0に設定するとともに、ヨーレート偏差Δωがその値以下となればOS制御を実施するOS制御介入閾値Tosを通常制御介入閾値Tos0に設定する。そして、制御装置30は、ステップ120にてフラグFを0とする。なお、フラグFは、車両の姿勢制御の要否の判定をいかなる感度で実施するかを示すものであり、フラグFが0のときにはOSおよびUS制御の両感度は通常であり、フラグFが1のときには少なくともUS制御の感度は低感度であり、フラグFが2のときには少なくともOS制御の感度は低感度である。また、ステップ114においては、推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFを比較して推定スタビリティファクタA_ESTが基準スタビリティファクタA_REFより小さければ「YES」と判定し、そうでなければ「NO」と判定する。ステップ116においては、推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFを比較して推定スタビリティファクタA_ESTが基準スタビリティファクタA_REFより大きければ「YES」と判定し、そうでなければ「NO」と判定する。
【0050】
制御装置30は、ステップ122において、車両のステア特性を示すスタビリティファクタに基づいて車両の目標ヨーレートTωを算出する。具体的には、上記数2と同一の下記数6によって車体速度V、車両の操舵角ξおよび推定スタビリティファクタA_ESTに基づいて目標ヨーレートTωを算出する(目標ヨーレート算出手段)。
【数6】

【0051】
なお、上記数2および数6にて、Lは車両Mのホイールベースである。
【0052】
そして、制御装置30は、ステップ124において、スタビリティファクタに基づいてヨーレート偏差Δωを導出する。具体的には、先に検出された実ヨーレートRωとステップ122にて算出された目標ヨーレートTωとを減算してヨーレート偏差Δω(Δω=Tω−Rω)を算出する(ヨーレート偏差算出手段)。さらに、制御装置30は、ステップ126において、先に設定された通常制御介入閾値Tus0,Tos0とステップ124にて算出されたヨーレート偏差Δωを比較して、その比較結果に基づいて必要に応じて車両の姿勢制御を実施する。
【0053】
上述したように基準スタビリティファクタA_REFと推定スタビリティファクタA_ESTが同一の場合には、US制御介入閾値TusおよびOS制御介入閾値Tosをそれぞれ通常制御介入閾値Tus0および通常制御介入閾値Tos0に設定するとともにフラグFを0に設定する。制御装置30は、フラグFが0であるため、図3に示すステップ202にて「YES」と判定し、車両の姿勢制御の要否判定が通常感度で実施される姿勢制御を実施する(ステップ204)。ステップ204においては、図4に示すフローチャートに沿ってUS/OS制御介入通常感度ルーチンを実施する。
【0054】
すなわち、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、通常制御介入閾値Tos0以上であり通常制御介入閾値Tus0以下である場合には、車両Mは安定した状態にあるので、ステップ302,304にてそれぞれ「NO」と判定してプログラムをステップ306に進めて、車両Mの姿勢制御を実施しない。その後、プログラムをステップ308および206を介してステップ128に進めて一旦終了する。
【0055】
また、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、通常制御介入閾値Tus0より大きい場合には、車両Mはアンダステア傾向(状態)にあり車両Mは安定した状態にないので、ステップ302にて「YES」と判定してプログラムをステップ310に進めて、車両Mの姿勢制御すなわちUS制御を実施する。制御装置30は、ステップ310において、ブレーキ制御装置24に指令を送り、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、内側の車輪に制動力を付与して車両Mに内向きモーメントを発生させる。また、制御装置30は、エンジン制御装置40に指令を送り、エンジン10のスロットルの開度を制御し出力トルクを制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、スロットルを閉じ出力トルクを抑える。その後、プログラムをステップ308および206を介してステップ128に進めて一旦終了する。
【0056】
また、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、通常制御介入閾値Tos0より小さい場合には、車両Mはオーバステア傾向(状態)にあり車両Mは安定した状態にないので、ステップ302,304にて「NO」、「YES」と判定してプログラムをステップ312に進めて、車両Mの姿勢制御すなわちOS制御を実施する。制御装置30は、ステップ312において、ブレーキ制御装置24に指令を送り、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、外側の車輪に制動力を付与して車両Mに外向きモーメントを発生させる。また、制御装置30は、エンジン制御装置40に指令を送り、エンジン10のスロットルの開度を制御し出力トルクを制御して、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。すなわち、スロットルを開いて出力トルクを増大させる。その後、プログラムをステップ308および206を介してステップ128に進めて一旦終了する。
【0057】
(A_EST<A_REFの場合)
基準スタビリティファクタA_REFより推定スタビリティファクタA_ESTが小さい場合、図7に示す領域A7、領域A9、および領域A8の下半分においては、US制御が過剰(過敏)になりやすくOS制御が不足(鈍感)になりやすい。特に領域A9においては、顕著である。一方、これらの領域はUS傾向が強いので(US状態であるので)、この傾向を打ち消すためにUS制御が行われる。また、領域A1および領域A2の下半分においては、適正な制御が行われ、領域A4の下半分においては、OS制御が過剰(過敏)になりやすくUS制御が不足気味(鈍感)になりやすい。一方、これらの領域はOS傾向が強いので(OS状態であるので)、この傾向を打ち消すためにOS制御が行われるため、実質的にUS制御の必要性が少ない。したがって、領域A7〜A9において姿勢制御要否判定感度、特にUS制御要否判定感度を低下する必要性がある。
【0058】
そこで、US制御の要否を判定する感度を低感度に設定する。具体的には、制御装置30は、ステップ114にて「YES」と判定し、プログラムをステップ130に進める。ステップ130において、図9に示すように、US制御介入閾値Tusを低感度制御介入閾値Tus1に設定するとともに、OS制御介入閾値Tosを通常制御介入閾値Tos0に設定する。ここで、低感度制御介入閾値Tus1は、US制御の要否判定の感度を低下させるため通常制御介入閾値Tus0より大きい値に設定されている。すなわち|Tus1|>|Tus0|と設定されている。そして、制御装置30は、ステップ132にてフラグFを1とする。
【0059】
そして、制御装置30は、上述と同様に、ステップ122において車両の目標ヨーレートTωを算出し、ステップ124においてヨーレート偏差Δωを導出し、ステップ126において、先に設定された低感度制御介入閾値Tus1および通常制御介入閾値Tos0とステップ124にて算出されたヨーレート偏差Δωを比較して、その比較結果に基づいて必要に応じて車両の姿勢制御を実施する。
【0060】
上述したように基準スタビリティファクタA_REFより推定スタビリティファクタA_ESTが小さい場合には、US制御介入閾値TusおよびOS制御介入閾値Tosをそれぞれ低感度制御介入閾値Tus1および通常制御介入閾値Tos0に設定するとともにフラグFを1に設定する。制御装置30は、フラグFが1であるため、図3に示すステップ202,208にて「NO」、「YES」とそれぞれ判定し、車両の姿勢制御のうち少なくともUS制御の要否判定が低感度で実施される姿勢制御を実施する(ステップ212)。ステップ212においては、図5に示すフローチャートに沿ってUS制御介入低感度ルーチンを実施する。
【0061】
すなわち、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、通常制御介入閾値Tos0以上であり低感度制御介入閾値Tus1以下である場合には、車両Mは安定した状態にあるので、ステップ402,404にてそれぞれ「NO」と判定してプログラムをステップ406に進めて、車両Mの姿勢制御を実施しない。その後、プログラムをステップ408および206を介してステップ128に進めて一旦終了する。
【0062】
また、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、低感度制御介入閾値Tus1より大きい場合には、車両Mはアンダステア傾向(状態)にあり車両Mは安定した状態にないので、ステップ402にて「YES」と判定してプログラムをステップ410に進めて、上述と同様に車両Mの姿勢制御すなわちUS制御を実施する。制御装置30は、ステップ410において、上述したステップ310と同様に、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を制御したり、エンジン10のスロットルの開度を制御し出力トルクを制御したりして、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。その後、プログラムをステップ408および206を介してステップ128に進めて一旦終了する。これにより、ヨーレート偏差Δωが通常制御介入閾値Tus0より大きい値である低感度制御介入閾値Tus1以上となった場合に、US制御が開始されるので、制御の感度としては低下させることとなる。
【0063】
また、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、通常制御介入閾値Tos0より小さい場合には、車両Mはオーバステア傾向(状態)にあり車両Mは安定した状態にないので、ステップ402,404にて「NO」、「YES」と判定してプログラムをステップ412に進めて、上述と同様に車両Mの姿勢制御すなわちOS制御を実施する。制御装置30は、ステップ412において、上述したステップ312と同様に、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を制御したり、エンジン10のスロットルの開度を制御し出力トルクを制御したりして、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。その後、プログラムをステップ408および206を介してステップ128に進めて一旦終了する。
【0064】
(A_EST>A_REFの場合)
基準スタビリティファクタA_REFより推定スタビリティファクタA_ESTが大きい場合、図7に示す領域A5、領域A6、および領域A4の上半分においては、OS制御が過剰(過敏)になりやすくUS制御が不足(鈍感)になりやすい。特に領域A6においては、顕著である。一方、これらの領域はOS傾向が強いので、この傾向を打ち消すためにOS制御が行われる。また、領域A3および領域A2の上半分においては、適正な制御が行われ、領域A8の上半分においては、US制御が過剰(過敏)になりやすくOS制御が不足気味(鈍感)になりやすい。一方、これらの領域はUS傾向が強いので(US状態であるので)、この傾向を打ち消すためにUS制御が行われるため、実質的にOS制御の必要性が少ない。したがって、領域A4〜A6において姿勢制御要否判定感度、特にOS制御要否判定感度を低下する必要性がある。
【0065】
そこで、OS制御の要否を判定する感度を低感度に設定する。具体的には、制御装置30は、ステップ114,116にてそれぞれ「NO」、「YES」と判定し、プログラムをステップ134に進める。ステップ134において、図10に示すように、US制御介入閾値Tusを通常制御介入閾値Tus0に設定するとともに、OS制御介入閾値Tosを低感度制御介入閾値Tos1に設定する。ここで、低感度制御介入閾値Tos1は、OS制御の要否判定の感度を低下させるため通常制御介入閾値Tos0より小さい値に設定されている。すなわち|Tos1|>|Tos0|と設定されている。そして、制御装置30は、ステップ136にてフラグFを2とする。
【0066】
そして、制御装置30は、上述と同様に、ステップ122において車両の目標ヨーレートTωを算出し、ステップ124においてヨーレート偏差Δωを導出し、ステップ126において、先に設定された通常制御介入閾値Tus0および低感度制御介入閾値Tos1とステップ124にて算出されたヨーレート偏差Δωを比較して、その比較結果に基づいて必要に応じて車両の姿勢制御を実施する。
【0067】
上述したように基準スタビリティファクタA_REFより推定スタビリティファクタA_ESTが大きい場合には、US制御介入閾値TusおよびOS制御介入閾値Tosをそれぞれ通常制御介入閾値Tus0および低感度制御介入閾値Tos1に設定するとともにフラグFを2に設定する。制御装置30は、フラグFが2であるため、図3に示すステップ202,208にて「NO」とそれぞれ判定し、車両の姿勢制御のうち少なくともOS制御の要否判定が低感度で実施される姿勢制御を実施する(ステップ210)。ステップ210においては、図6に示すフローチャートに沿ってOS制御介入低感度ルーチンを実施する。
【0068】
すなわち、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、低感度制御介入閾値Tos1以上であり通常制御介入閾値Tus0以下である場合には、車両Mは安定した状態にあるので、ステップ502,504にてそれぞれ「NO」と判定してプログラムをステップ506に進めて、車両Mの姿勢制御を実施しない。その後、プログラムをステップ508および206を介してステップ128に進めて一旦終了する。
【0069】
また、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、通常制御介入閾値Tus0より大きい場合には、車両Mはアンダステア傾向(状態)にあり車両Mは安定した状態にないので、ステップ502にて「YES」と判定してプログラムをステップ510に進めて、上述と同様に車両Mの姿勢制御すなわちUS制御を実施する。制御装置30は、ステップ510において、上述したステップ310と同様に、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を制御したり、エンジン10のスロットルの開度を制御し出力トルクを制御したりして、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。その後、プログラムをステップ508および206を介してステップ128に進めて一旦終了する。
【0070】
また、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、低感度制御介入閾値Tos1より小さい場合には、車両Mはオーバステア傾向(状態)にあり車両Mは安定した状態にないので、ステップ502,504にて「NO」、「YES」と判定してプログラムをステップ512に進めて、上述と同様に車両Mの姿勢制御すなわちOS制御を実施する。制御装置30は、ステップ512において、上述したステップ312と同様に、各車輪Wfl,Wfr,Wrl,Wrrに付与する制動力を制御したり、エンジン10のスロットルの開度を制御し出力トルクを制御したりして、車両Mの姿勢を安定な状態となるように制御する。その後、プログラムをステップ508および206を介してステップ128に進めて一旦終了する。これにより、ヨーレート偏差Δωが通常制御介入閾値Tos0より小さい値である低感度制御介入閾値Tos1以下となった場合に、OS制御が開始されるので、制御の感度としては低下させることとなる。
【0071】
上述した説明から明らかなように、本実施の形態においては、制御装置30(姿勢制御手段)が、旋回中の車両のスタビリティファクタを同車両の挙動に基づいて導出してその導出結果を推定スタビリティファクタA_ESTとし、その推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFとの比較を行い(ステップ114,116)、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行う(ステップ122〜136)。これにより、従来のように適正な制御が実施されにくいまたは実施されない領域、すなわち実スタビリティファクタに対して推定スタビリティファクタが乖離している場合であっても、車両の姿勢制御の要否判定をする際に、姿勢制御要否判定感度を推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFとの比較結果に応じて低下させることにより、不必要な姿勢制御の実施を確実に防止することができる。したがって、スタビリティファクタが変動しても、適切な姿勢制御を実施することができる。
【0072】
また、制御装置30(姿勢制御手段)は、基準スタビリティファクタA_REFより推定スタビリティファクタA_ESTが小さい場合には、アンダ制御の姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行うことにより、車両のアンダステア傾向が強い場合にアンダ制御を適切に実施することができる。
【0073】
また、制御装置30(姿勢制御手段)は、基準スタビリティファクタA_REFより推定スタビリティファクタA_ESTが大きい場合には、オーバ制御の姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行うことにより、車両のオーバステア傾向が強い場合にオーバ制御を適切に実施することができる。
【0074】
また、制御装置30(姿勢制御手段)は、スタビリティファクタに基づいて導出されたヨーレート偏差Δωと制御介入閾値であるUS制御介入閾値TusおよびOS制御介入閾値Tosとの比較を行いその比較結果に応じて車両の姿勢制御を行うものであり、推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFとの比較結果に基づいて制御介入閾値を変更することにより、姿勢制御要否判定感度を変更する。これにより、確実かつ容易に姿勢制御要否判定感度を変更することができる。
【0075】
また、上述した第1の実施の形態においては、推定スタビリティファクタ導出手段(ステップ112)が、旋回中の車両のスタビリティファクタを同車両の挙動に基づいて推定スタビリティファクタA_ESTとして導出し、姿勢制御手段(ステップ114〜136)が、推定スタビリティファクタ導出手段によって導出された推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFとの比較を行い(ステップ114,116)、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して(ステップ118,130,134)車両の姿勢制御を行う(ステップ126)。これにより、従来のように適正な制御が実施されにくいまたは実施されない領域、すなわち実スタビリティファクタTωに対して推定スタビリティファクタA_ESTが乖離している場合であっても、車両の姿勢制御の要否判定をする際に、姿勢制御要否判定感度を推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFとの比較結果に応じて低下させることにより、不必要な姿勢制御の実施を確実に防止することができる。したがって、スタビリティファクタが変動しても、適切な姿勢制御を実施することができる。
【0076】
また、上述した第1の実施の形態においては、姿勢制御手段(制御装置30)は、車輪の制動力または/およびエンジンの出力を制御することにより、車両の姿勢を制御するので、車両の姿勢の制御を正確かつ確実に行うことができる。
【0077】
なお、上述した第1の実施の形態において、基準スタビリティファクタA_REFを一つの所定値として設定するようにしたが、基準スタビリティファクタA_REFをUS制御用およびOS制御用にそれぞれ1つずつ設けるとともにそれらを基準スタビリティファクタA_REFが不感帯を有するように設定するようにしてもよい。すなわち、図11に示すように、US制御用およびOS制御用の各基準スタビリティファクタA_REFを距離をおいて配置する。これにより、制御装置30は、ステップ114においては、US制御用基準スタビリティファクタA_REFと推定スタビリティファクタA_ESTを比較し、その比較結果に基づいて以降の処理を実施する。また、ステップ116においては、OS制御用基準スタビリティファクタA_REFと推定スタビリティファクタA_ESTを比較し、その比較結果に基づいて以降の処理を実施する。なお、OS制御用基準スタビリティファクタA_REFはUS制御用基準スタビリティファクタA_REFより大きく設定されている。
【0078】
したがって、推定スタビリティファクタA_ESTがUS制御用およびOS制御用の両基準スタビリティファクタA_REFの間である場合には、US制御介入感度およびOS制御介入感度を通常感度に設定し(ステップ118)、この通常感度にて車両の姿勢制御を実行する(ステップ126)。これにより、通常感度で車両の姿勢制御を実行できるスタビリティファクタの範囲を広く確保することができるので、通常感度で姿勢制御を実行すべきスタビリティファクタのときに通常感度にて姿勢制御を実行することができる。また、推定スタビリティファクタA_ESTがUS制御用の基準スタビリティファクタA_REFより小さい(推定スタビリティファクタA_ESTがUS制御が実施されるスタビリティファクタ領域にある)場合には、US制御介入感度を低感度に設定し(ステップ130)、この低感度にて車両の姿勢制御を実行する(ステップ126)。これにより、US制御の過剰傾向にある車両状態(US状態)をより絞り込んで検出し、その状態に的確に対応することができる。さらに、推定スタビリティファクタA_ESTがOS制御用の基準スタビリティファクタA_REFより大きい(推定スタビリティファクタA_ESTがOS制御が実施されるスタビリティファクタ領域にある)場合には、OS制御介入感度を低感度に設定し(ステップ134)、この低感度にて車両の姿勢制御を実行する(ステップ126)。これにより、OS制御の過剰傾向にある車両状態をより絞り込んで検出し、その状態に的確に対応することができる。したがって、車両の状態に応じた感度にて的確に車両の姿勢制御を実行することができる。
【0079】
また、上述した第1の実施の形態においては、前述のように、US制御用およびOS制御用の両基準スタビリティファクタA_REFを不感帯を有するように距離をおいて配置するようにしてもよいが、図12に示すように、逆にUS制御およびOS制御が実施されるスタビリティファクタ領域が重なるようにUS制御用およびOS制御用の両基準スタビリティファクタA_REFを設定するようにしてもよい。これにより、制御装置30は、ステップ114においては、OS制御用基準スタビリティファクタA_REFと推定スタビリティファクタA_ESTを比較し、その比較結果に基づいて以降の処理を実施する。また、ステップ116においては、US制御用基準スタビリティファクタA_REFと推定スタビリティファクタA_ESTを比較し、その比較結果に基づいて以降の処理を実施する。なお、OS制御用基準スタビリティファクタA_REFはUS制御用基準スタビリティファクタA_REFより小さく設定されている。
【0080】
したがって、推定スタビリティファクタA_ESTがOS制御用の基準スタビリティファクタA_REFより小さい場合には、US制御介入感度を低感度に設定し(ステップ130)、この低感度にて車両の姿勢制御を実行する(ステップ126)。これにより、US制御の過剰傾向にある車両状態(US状態)を確実に検出し、その状態に的確に対応することができる。また、推定スタビリティファクタA_ESTがUS制御用の基準スタビリティファクタA_REFより大きい場合には、OS制御介入感度を低感度に設定し(ステップ134)、この低感度にて車両の姿勢制御を実行する(ステップ126)。これにより、OS制御の過剰傾向にある車両状態を確実に検出し、その状態に的確に対応することができる。さらに、推定スタビリティファクタA_ESTがUS制御用およびOS制御用の両基準スタビリティファクタA_REFの間である場合には、ステップ118の処理に代えて、US制御介入感度およびOS制御介入感度をそれぞれ低感度に設定し、この低感度にて車両の姿勢制御を実行する(ステップ126)。これにより、OS制御または/およびUS制御の過剰傾向にある車両状態を確実に検出し、その状態に的確に対応することができる。したがって、上述した第1の実施の形態と比べてUS制御用基準スタビリティファクタA_REFをより大きくするとともに、OS制御用基準スタビリティファクタA_REFをより小さくするので、アンダステア傾向およびオーバステア傾向が両方とも強い車両に対して、US制御およびOS制御の適否判定の感度をより低感度とすることができる。
【0081】
なお、この場合、図3に示すステップ204の代わりにUS制御およびOS制御をそれぞれ低感度で実施するUS/OS制御介入低感度ルーチンを実行し、図4に示すサブルーチンの代わりに、ステップ302の代わりにヨーレート偏差Δωが低感度制御介入閾値Tus1より大きいか否かを判定し、ステップ304の代わりにヨーレート偏差Δωが低感度制御介入閾値Tos1より小さいか否かを判定する処理を実行するサブルーチンを実行するようにすればよい。
【0082】
2)第2の実施の形態
次に、上述した本発明による車両の姿勢制御装置の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。上述した第1の実施の形態においては、制御装置30が、スタビリティファクタに基づいて導出されたヨーレート偏差Δωと制御介入閾値であるUS制御介入閾値TusおよびOS制御介入閾値Tosとの比較を行いその比較結果に応じて車両の姿勢制御を行うものであり、推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFとの比較結果に基づいて制御介入閾値を変更することにより、姿勢制御要否判定感度を変更するようにしていたが、これに代えて、本第2の実施形態においては、制御装置30が、推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFの比較結果に基づいてスタビリティファクタを補正することにより、姿勢制御要否判定感度を変更するようにしている。
【0083】
すなわち、制御装置30は、図2〜図6のフローチャートに対応したプログラムを実行するのに代えて、図13のフローチャートに対応したプログラムを実行して、車両Mの姿勢を制御する。なお、第1の実施の形態と同一の処理部分については同一符号を付してその説明を省略し、異なる部分について説明する。
【0084】
(A_EST=A_REFの場合)
基準スタビリティファクタA_REFと推定スタビリティファクタA_ESTが同一の場合、特に基準スタビリティファクタA_REFをスタビリティファクタ領域の中間に設定した場合、車両はUS制御およびOS制御が過剰になりにくいので、US制御およびOS制御要否判定を鈍感にする必要は少ない。すなわち、US制御介入閾値またはOS制御介入閾値に対してヨーレート偏差Δωを乖離させるなどの補正の必要は少ない。したがって、上述した数6によって車体速度V、車両の操舵角ξおよび推定スタビリティファクタA_ESTに基づいて、US制御時およびOS制御時に対応する目標ヨーレートTωをそれぞれ算出し、ヨーレート偏差Δωを算出し、ヨーレート偏差Δωと通常制御介入閾値Tus0または通常制御介入閾値Tos0を比較し、その結果に基づいて車両の姿勢制御を必要に応じて実行する。
【0085】
具体的には、制御装置30は、ステップ114,116にてそれぞれ「NO」と判定し、プログラムをステップ150に進める。ステップ150において、スタビリティファクタを補正しないでUS制御時およびOS制御時において所定のスタビリティファクタを使用することとし、そのスタビリティファクタを以降の処理において使用する。ここでは、基準スタビリティファクタA_REFと推定スタビリティファクタA_ESTが同一であるので、推定スタビリティファクタA_ESTとしては基準スタビリティファクタA_REFを採用する。
【0086】
そして、制御装置30は、ステップ152において、上述したステップ122の処理と同様に、車両のステア特性を示すスタビリティファクタに基づいて車両の目標ヨーレートTωを算出する。ステップ122においてはスタビリティファクタとして推定スタビリティファクタA_ESTを使用していたが、本ステップ152においては基準スタビリティファクタA_REFを使用する。具体的には、下記数7によって車体速度V、車両の操舵角ξおよび基準スタビリティファクタA_REFに基づいて目標ヨーレートTωを算出する(目標ヨーレート算出手段)。
【数7】

【0087】
なお、上記数7にてLは車両Mのホイールベースである。また、US制御時およびOS制御時の両制御に対する目標ヨーレートTωをそれぞれ算出するようになっている。何れの場合も、基準スタビリティファクタA_REFと推定スタビリティファクタA_ESTが同一であるので、推定スタビリティファクタA_ESTとしては基準スタビリティファクタA_REFを使用している。
【0088】
制御装置30は、ステップ124において、スタビリティファクタに基づいてヨーレート偏差Δωを導出する。具体的には、先に検出された実ヨーレートRωとステップ152にて算出された目標ヨーレートTωとを減算してヨーレート偏差Δω(Δω=Tω−Rω)を算出する(ヨーレート偏差算出手段)。
【0089】
そして、制御装置30は、ステップ154〜158,164,170の処理によって、先に設定された通常制御介入閾値Tus0,Tos0とステップ124にて算出されたヨーレート偏差Δωを比較して、その比較結果に基づいて必要に応じて車両の姿勢制御を実施する。具体的には、ヨーレート偏差Δωが通常制御介入閾値Tus0,Tos0の間である場合には、ステップ154,156にてそれぞれ「NO」と判定しプログラムをステップ158に進め、ステップ158において、車両Mの姿勢制御を実施しない。その後、プログラムをステップ128に進めて一旦終了する。また、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、通常制御介入閾値Tus0より大きい場合には、車両Mはアンダステア傾向(状態)にあり車両Mは安定した状態にないので、ステップ154にて「YES」と判定してプログラムをステップ164に進めて、上記ステップ310と同様に車両Mの姿勢制御すなわちUS制御を実施する。その後、プログラムをステップ128に進めて一旦終了する。さらに、制御装置30は、ヨーレート偏差Δωが、通常制御介入閾値Tos0より小さい場合には、車両Mはオーバステア傾向(状態)にあり車両Mは安定した状態にないので、ステップ154,156にて「NO」、「YES」と判定してプログラムをステップ170に進めて、上記ステップ312と同様に車両Mの姿勢制御すなわちOS制御を実施する。その後、プログラムをステップ128に進めて一旦終了する。
【0090】
(A_EST<A_REFの場合)
基準スタビリティファクタA_REFより推定スタビリティファクタA_ESTが小さい場合、特に基準スタビリティファクタA_REFをスタビリティファクタ領域の中間に設定した場合、車両はUS制御が過剰になりやすいので、US制御要否判定感度を鈍感にする(低下する)必要がある。すなわち、US制御が過剰になりやすいのは実ヨーレートRωに対して目標ヨーレートTωが大きい値となっているためであり、これを解消するには、目標ヨーレートTωが小さくなるように(アンダステア傾向になるように)補正する必要がある。このためには、上記数6から明らかなように、推定スタビリティファクタA_ESTをより大きな値に補正する必要がある。そこで、US制御時においては推定スタビリティファクタA_ESTより大きい値である基準スタビリティファクタA_REFを使用する。なお、基準スタビリティファクタA_REFに限らず推定スタビリティファクタA_ESTより大きい値(例えば推定スタビリティファクタA_ESTに所定値を加算した値)であれば使用してもよい。したがって、US制御時においては、上記数7と同様に、車体速度V、車両の操舵角ξおよび基準スタビリティファクタA_REFに基づいて、US制御時に対応する目標ヨーレートTωを算出し、OS制御時においては、上記数6と同様に、車体速度V、車両の操舵角ξおよび推定スタビリティファクタA_ESTに基づいて、OS制御時に対応する目標ヨーレートTωを算出し、その後ヨーレート偏差Δωを算出し、そのヨーレート偏差Δωと通常制御介入閾値Tus0を比較し、その結果に基づいて車両の姿勢制御を必要に応じて実行する。
【0091】
具体的には、制御装置30は、ステップ114にて「YES」と判定し、プログラムをステップ160に進める。ステップ160において、US制御時に推定スタビリティファクタを補正して基準スタビリティファクタA_REFを使用するようにし、またOS制御時にスタビリティファクタを補正しないで推定スタビリティファクタA_ESTを使用するようにする。そして、それらスタビリティファクタを以降の処理において使用する。
【0092】
そして、制御装置30は、ステップ162において、上述したステップ122の処理と同様に、車両のステア特性を示すスタビリティファクタに基づいて車両の目標ヨーレートTωを算出する。上記ステップ122においてはスタビリティファクタとして推定スタビリティファクタA_ESTを使用していたが、本ステップ162においてはUS制御時に基準スタビリティファクタA_REFを使用し、OS制御時に推定スタビリティファクタA_ESTを使用する。具体的には、US制御時には上記数7によって車体速度V、車両の操舵角ξおよび基準スタビリティファクタA_REFに基づいて目標ヨーレートTωを算出し、OS制御時には上記数6によって車体速度V、車両の操舵角ξおよび推定スタビリティファクタA_ESTに基づいて目標ヨーレートTωを算出する。
【0093】
さらに、制御装置30は、上述したステップ124以降の処理を実行して、先に検出された実ヨーレートRωとステップ162にて算出された目標ヨーレートTωとを減算してヨーレート偏差Δω(Δω=Tω−Rω)を算出し、そのヨーレート偏差Δωと先に設定された通常制御介入閾値Tus0,Tos0を比較して、その比較結果に基づいて必要に応じて車両の姿勢制御を実施する。
【0094】
(A_EST>A_REFの場合)
基準スタビリティファクタA_REFより推定スタビリティファクタA_ESTが大きい場合、特に基準スタビリティファクタA_REFをスタビリティファクタ領域の中間に設定した場合、車両はOS制御が過剰になりやすいので、OS制御要否判定感度を鈍感にする(低下する)必要がある。すなわち、OS制御が過剰になりやすいのは実ヨーレートRωに対して目標ヨーレートTωが小さい値となっているためであり、これを解消するには、目標ヨーレートTωが大きくなるように(オーバステア傾向になるように)補正する必要がある。このためには、上記数6から明らかなように、推定スタビリティファクタA_ESTをより小さい値に補正する必要がある。そこで、OS制御時においては推定スタビリティファクタA_ESTより小さい値である基準スタビリティファクタA_REFを使用する。なお、基準スタビリティファクタA_REFに限らず推定スタビリティファクタA_ESTより小さい値(例えば推定スタビリティファクタA_ESTに所定値を減算した値)であれば使用してもよい。したがって、OS制御時においては、上記数7と同様に、車体速度V、車両の操舵角ξおよび基準スタビリティファクタA_REFに基づいて、OS制御時に対応する目標ヨーレートTωを算出し、US制御時においては、上記数6と同様に、車体速度V、車両の操舵角ξおよび推定スタビリティファクタA_ESTに基づいて、US制御時に対応する目標ヨーレートTωを算出し、その後ヨーレート偏差Δωを算出し、そのヨーレート偏差Δωと通常制御介入閾値Tus0を比較し、その結果に基づいて車両の姿勢制御を必要に応じて実行する。
【0095】
具体的には、制御装置30は、ステップ114,116にて「NO」、「YES」とそれぞれ判定し、プログラムをステップ166に進める。ステップ166において、OS制御時にスタビリティファクタを補正して基準スタビリティファクタA_REFを使用するようにし、またUS制御時にスタビリティファクタを補正しないで推定スタビリティファクタA_ESTを使用するようにする。そして、それらスタビリティファクタを以降の処理において使用する。
【0096】
そして、制御装置30は、ステップ168において、上述したステップ122の処理と同様に、車両のステア特性を示すスタビリティファクタに基づいて車両の目標ヨーレートTωを算出する。上記ステップ122においてはスタビリティファクタとして推定スタビリティファクタA_ESTを使用していたが、本ステップ162においてはOS制御時に基準スタビリティファクタA_REFを使用し、US制御時に推定スタビリティファクタA_ESTを使用する。具体的には、OS制御時には上記数7によって車体速度V、車両の操舵角ξおよび基準スタビリティファクタA_REFに基づいて目標ヨーレートTωを算出し、US制御時には上記数6によって車体速度V、車両の操舵角ξおよび推定スタビリティファクタA_ESTに基づいて目標ヨーレートTωを算出する。
【0097】
さらに、制御装置30は、上述したステップ124以降の処理を実行して、先に検出された実ヨーレートRωとステップ168にて算出された目標ヨーレートTωとを減算してヨーレート偏差Δω(Δω=Tω−Rω)を算出し、そのヨーレート偏差Δωと先に設定された通常制御介入閾値Tus0,Tos0を比較して、その比較結果に基づいて必要に応じて車両の姿勢制御を実施する。
【0098】
上述した説明から明らかなように、本実施の形態においても、制御装置30(姿勢制御手段)が、旋回中の車両のスタビリティファクタを同車両の挙動に基づいて導出してその導出結果を推定スタビリティファクタA_ESTとし、その推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFとの比較を行い(ステップ114,116)、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行う(ステップ150,152,158,160〜164,166〜170)。これにより、従来のように適正な制御が実施されにくいまたは実施されない領域、すなわち実スタビリティファクタに対して推定スタビリティファクタが乖離している場合であっても、車両の姿勢制御の要否判定をする際に、姿勢制御要否判定感度を推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFとの比較結果に応じて低下させることにより、不必要な姿勢制御の実施を確実に防止することができる。したがって、スタビリティファクタが変動しても、適切な姿勢制御を実施することができる。
【0099】
また、制御装置30(姿勢制御手段)は、推定スタビリティファクタA_ESTと基準スタビリティファクタA_REFの比較結果に基づいてスタビリティファクタを補正することにより(ステップ160,166)、姿勢制御要否判定感度を変更する。これによっても、確実かつ容易に姿勢制御要否判定感度を変更することができる。また、制御装置30はより簡単な処理によって姿勢制御要否判定感度を変更することができる。
【0100】
また、上記第2の実施の形態においては、上記第1の実施の形態と同様に、US制御用およびOS制御用の両基準スタビリティファクタA_REFを不感帯を有するように距離をおいて配置するようにしてもよく、また、逆にUS制御およびOS制御が実施されるスタビリティファクタ領域が重なるようにUS制御用およびOS制御用の両基準スタビリティファクタA_REFを設定するようにしてもよい。
【0101】
なお、上述した各実施の形態においては、基準スタビリティファクタA_REF(US制御用・OS制御用基準スタビリティファクタA_REFも含む)は、車両の固有のスタビリティファクタ領域内に任意に設定される値であることが好ましい。これにより、基準スタビリティファクタを所定の範囲内で変更することができるので、車両のステア特性に応じてより適切に姿勢制御要否判定感度を設定することができる。
【0102】
また、上述した各実施の形態においては、姿勢制御手段(制御装置30)は、推定スタビリティファクタA_ESTの導出を開始する前において、姿勢制御要否判定感度を低下させて車両の姿勢制御を行うようにしてもよい。この場合、車両のイグニッションスイッチを投入した時点以降であって上記ステップ112の処理を実施するまでに、上述した姿勢制御要否判定感度の低下処理を実行するようにすればよい。これによれば、より完全に姿勢制御の誤作動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の第1および第2の実施の形態に係る車両の姿勢制御装置の概略図である。
【図2】図1の制御装置にて実行される第1の実施の形態に係るプログラムを表すフローチャートである。
【図3】図2のフローチャートの車両安定性制御ルーチンを表すフローチャートである。
【図4】図3のフローチャートのUS/OS制御介入通常感度ルーチンを表すフローチャートである。
【図5】図3のフローチャートのUS制御介入低感度ルーチンを表すフローチャートである。
【図6】図3のフローチャートのOS制御介入低感度ルーチンを表すフローチャートである。
【図7】実スタビリティファクタと推定スタビリティファクタとの関係におけるUS制御およびOS制御の過剰、不足状態、および、推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの関係を示す図である。
【図8】ヨーレート偏差と通常制御介入閾値Tus0および通常制御介入閾値Tos0との関係を示す図である。
【図9】ヨーレート偏差と低感度制御介入閾値Tus1および通常制御介入閾値Tos0との関係を示す図である。
【図10】ヨーレート偏差と通常制御介入閾値Tus0および低感度制御介入閾値Tos1との関係を示す図である。
【図11】実スタビリティファクタと推定スタビリティファクタとの関係におけるUS制御およびOS制御の過剰、不足状態、および、推定スタビリティファクタと不感帯を有する基準スタビリティファクタとの関係を示す図である。
【図12】実スタビリティファクタと推定スタビリティファクタとの関係におけるUS制御およびOS制御の過剰、不足状態、および、推定スタビリティファクタとUS制御およびOS制御が実施されるスタビリティファクタ領域が重なる基準スタビリティファクタとの関係を示す図である。
【図13】図1の制御装置にて実行される第2の実施の形態に係るプログラムを表すフローチャートである。
【図14】従来技術に係る実スタビリティファクタと推定スタビリティファクタとの関係におけるUS制御およびOS制御の過剰、不足状態を示す図である。
【符号の説明】
【0104】
10…エンジン、11…プロペラシャフト、12…ディファレンシャル装置、13,14…左右のリヤアクスルシャフト、15…ステアリングホイール(ハンドル)、16…ステアリングシャフト、17…舵取機構、18…タイロッド、20…車両用制動装置、21…ブレーキペダル、22…マスタシリンダ、23…ブレーキ調圧ユニット、24…ブレーキ制御装置、25,26,27,28…各ホイールシリンダ、30…制御装置30、31…操舵角センサ、Sfl,Sfr,Srl,Srr…車輪速センサ、32…ヨーレートセンサ、M…車両、Wfl,Wfr,Wrl,Wrr…左右前後輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステア特性を示すスタビリティファクタに基づいて車両の姿勢制御を行う車両の姿勢制御装置であって、
旋回中の前記車両のスタビリティファクタを同車両の挙動に基づいて導出してその導出結果を推定スタビリティファクタとし、その推定スタビリティファクタと別途定めた基準スタビリティファクタとの比較を行い、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行う姿勢制御手段を備えたことを特徴とする車両の姿勢制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記姿勢制御手段は、前記基準スタビリティファクタより推定スタビリティファクタが小さい場合には、アンダ制御の姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行うことを特徴とする車両の姿勢制御装置。
【請求項3】
請求項1において、前記姿勢制御手段は、前記基準スタビリティファクタより推定スタビリティファクタが大きい場合には、オーバ制御の姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行うことを特徴とする車両の姿勢制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、前記姿勢制御手段は、前記推定スタビリティファクタに基づいて導出されたヨーレート偏差と制御介入閾値との比較を行いその比較結果に応じて車両の姿勢制御を行うものであり、前記推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較結果に基づいて前記制御介入閾値を変更することにより、前記姿勢制御要否判定感度を変更することを特徴とする車両の姿勢制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、前記姿勢制御手段は、前記推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタの比較結果に基づいて前記推定スタビリティファクタを補正することにより、前記姿勢制御要否判定感度を変更することを特徴とする車両の姿勢制御装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項において、前記基準スタビリティファクタは、車両の固有のスタビリティファクタ領域内に任意に設定される値であることを特徴とする車両の姿勢制御装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか一項において、前記姿勢制御手段は、前記推定スタビリティファクタの導出を開始する前において、前記姿勢制御要否判定感度を低下させて車両の姿勢制御を行うことを特徴とする車両の姿勢制御装置。
【請求項8】
車両の速度を検出する車体速度検出手段と、
車両の操舵角を検出する操舵角検出手段と、
車両に発生する実ヨーレートを検出する実ヨーレート検出手段と、
車両のステア特性を示すスタビリティファクタに基づいて車両の目標ヨーレートを算出する目標ヨーレート算出手段と、
前記実ヨーレート検出手段によって検出された実ヨーレートと前記目標ヨーレート算出手段によって算出された目標ヨーレートとを減算してヨーレート偏差を算出するヨーレート偏差算出手段とを備え、
該ヨーレート偏差算出手段によって算出されたヨーレート偏差と制御介入閾値との比較を行いその比較結果に応じて車両の姿勢制御を行う車両制御装置において、
旋回中の前記車両のスタビリティファクタを同車両の挙動に基づいて推定スタビリティファクタとして導出する推定スタビリティファクタ導出手段と、
該推定スタビリティファクタ導出手段によって導出された推定スタビリティファクタと基準スタビリティファクタとの比較を行い、その比較結果に基づいて姿勢制御要否判定感度を変更して車両の姿勢制御を行う姿勢制御手段とを備えたことを特徴とする車両の姿勢制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか一項において、前記姿勢制御手段は、車輪の制動力または/およびエンジンの出力を制御することにより、前記車両の姿勢を制御することを特徴とする車両の姿勢制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−27388(P2006−27388A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207153(P2004−207153)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】