説明

車両の横転防止装置

【課題】トラクタヘッド側でトレーラのロール角検出が正確に行える連結車両の横転防止装置を提供する。
【解決手段】トラクタのロール角を推定するトラクタロール角推定部(1)と、トラクタとトレーラの連結総重量を推定する連結総重量推定部(2)と、トラクタ及びトレーラを結合するカプラーが受ける荷重を推定する荷重推定部(3)と、該荷重と該連結総重量とトラクタロール角から、トレーラのロール角を推定演算するトレーラロール角推定部(4)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の横転防止装置に関し、特にロール方向への自由度を持たない連結器(カプラー)で連結されたトラクタ・トレーラ連結車両で横転防止を図る装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車(車両)は、旋回時、遠心力によって、外側へ傾く挙動が生じることは良く知られている。このため、自動車は、急旋回操作が行われ、外側へ傾かせようとする力が接地力を越えると、旋回内側の車輪が路面から浮き上がり横転を起こす。
【0003】
そこで、車両のロール角を検出して横転防止に備えることが行われている。ここで、車両のロール角の検出方法としては、(1)左右のサスペンションストロークの差から車両のロール角を算出する方法(例えば、特許文献1参照。)、(2)路面に対する車体の傾きを直接検出する対地変位計を採用してこの対地変位計の検出出力から車体のロール角を算出する方法(例えば、特許文献2参照。)、(3)車体の傾きを検出するロール角センサ(傾斜計)を用いて、このロール角センサの検出出力から車両の実際のロール角を検出する方法(例えば、特許文献3参照。)、或いは、(4)車速とヨーレートから演算される推定加速度と車体に取り付けられたセンサから得られた実際の横加速度とを用いてロール角を推定する方法(例えば、特許文献4参照。)など、様々な方法が提案されている。
【特許文献1】特開昭60-252011号公報
【特許文献2】特開平6-297985号公報
【特許文献3】実開平3-110903号公報
【特許文献4】特開平11-258260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述したロール角を検出する手段は、いずれもロール角を検出する対象の車体にセンサを取り付けることを前提としているが、トラクタとトレーラが連結された車両では、その時々に応じてトラクタはトレーラと切り離され、別のトレーラと連結されるため、トラクタ側でトレーラのロール角を検出する場合、ロール角の検出に必要なセンサがトレーラに装着されていることを必ずしも前提として考えることができない。
【0005】
そこで、トラクタヘッドとトレーラとの連結部にロール方向に自由度の無い連結器(カプラー)を用いている場合は、トラクタのロール角でトレーラのロール角の代用とすることが考えられるが、トレーラの積荷の前後位置の違いによっては代用できない場合がある。
【0006】
図15(1)及び(2)に、それぞれ、積荷の位置を前後に変えたときのトラクタの後部ロール角特性A、及びトレーラの後部ロール角特性Bを示す。同図(1)に示すように積荷の位置が前積の場合は、トラクタのロール角とトレーラのロール角がほぼ同じ値であるが、同図(2)に示すように積荷の位置が後積の場合は、トラクタのロール角がトレーラのロール角より小さな値にしかならず、トレーラのロール角の代用としてトラクタのロール角を利用することができない。
【0007】
例えば積荷が後積のとき、ロール角を利用して判定を行う横転防止装置にトレーラロール角の代用としてトラクタのロール角を用いた場合、実際トレーラの横転危険度が高くてもトラクタロール角がトレーラより小さいため、横転危険度が低いと誤判定してしまう恐れがある。
【0008】
本発明は、上記の従来技術の課題に着目してなされたもので、その目的は、トラクタヘッド側でトレーラのロール角検出が正確に行える連結車両の横転防止装置を提供することに在る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る連結車両の横転防止装置は、トラクタとトレーラから成る車両の横転防止装置であって、該トラクタのロール角を推定するトラクタロール角推定手段と、該トラクタ及び該トレーラの連結総重量を推定する連結総重量推定手段と、該トラクタ及び該トレーラを連結するカプラーが受ける荷重を推定する荷重推定手段と、該トラクタロール角と該連結総重量と該荷重から、該トレーラのロール角を推定するトレーラロール角推定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
上記のトレーラロール角推定手段は、該連結総重量と既知のトラクタ重量からトレーラ重量を求め、該トレーラ重量と該荷重からトレーラホイールベースに対する該カプラー−トレーラ前後重心間距離の比率を算出し、該比率から、予め記憶したマップに基づきロール補正係数を求め、該トラクタロール角と該ロール補正係数から該トレーラロール角を演算することができる。
【0011】
或いは、上記のトレーラロール角推定手段は、該連結総重量と既知のトラクタ重量からトレーラ重量を求め、該トレーラ重量と該荷重と既知のトレーラホイールベースから、該カプラー−トレーラ前後重心間距離を算出し、該距離から、予め記憶したマップに基づきロール補正係数を求め、該トラクタロール角と該ロール補正係数から該トレーラロール角を演算することができる。
【0012】
すなわち、本発明では、連結総重量の推定値と既知であるトラクタ重量から積荷を含んだトレーラの重量を演算する。また、トレーラから連結器(カプラー)を通してトラクタにかかる荷重を推定し、演算で求めたトレーラ重量と該トラクタへの荷重から、連結部−トレーラ前後重心位置間距離のトレーラホイールベースに対する比率を求める。また、この比率とロール補正係数のマップを予め求めておき、このマップに基づき該比率からロール補正係数を求め、トラクタに装着されたロール角検出手段で求めたトラクタのロール角に該ロール補正係数を掛けることでトレーラのロール角を推定する。
【0013】
或いは、上記のトレーラ前後重心位置の比率の代わりに、連結部−トレーラ前後重心位置間距離そのものを該トレーラ重量と該荷重と既知のトレーラホイールベースから求め、この距離から、距離−ロール補正係数のマップよりロール補正係数を求め、トラクタのロール角に該ロール補正係数を掛けることでトレーラのロール角を演算する。
【0014】
なお、上記のトレーラホイールベースは、例えば、該荷重の位置から単数トレーラ軸の位置又は複数トレーラ軸の中間位置までの距離である。
【0015】
さらに、本発明は、該トレーラロール角に基づいて横転危険判定する手段と、この判定結果に基づいて警報を発する手段又はこの判定結果に基づいて横転抑制制御を行う手段と、を備えることも可能である。
【0016】
また本発明では、上記ロール角を、ロール角速度或いはロール角加速度に置き換えることができ、その場合はそれぞれ、トレーラのロール角速度推定装置、トレーラのロール角加速度推定装置として動作せることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、トレーラにロール角検出のためのセンサなどを付加することなく、従来より精度良くトレーラのロール角を推定することが可能になり、例えば車体ロール角を利用する横転危険度判定装置に適用すると、より正確にトレーラの横転危険度を判定することができ、安全運転に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
各実施例に共通の連結車両の一般的な構成例:図1〜図4
セミトレーラ型の連結車両は図1に示すような構成を有し、トラクタ100に取り付けられたカプラー200によりトレーラ300の前部の垂直荷重(第5輪荷重)Wfifthを受ける形となっている。積荷とトレーラ300を合わせた重心CGの位置は、たとえ積荷の重量が同一でも、積荷を積む位置により異なり、そのため、第5輪荷重Wfifthとトレーラ軸荷重Wrrもその時々で異なるものとなる。この荷重配分の違いが、トラクタ100とトレーラ300とで旋回時のロール状態が異なる要因と考えられる。
【0019】
ここで、トレーラ軸が複数軸ある場合が図2〜図4に示されており、図2の例はトラクタ後軸1軸でトレーラ軸2軸の場合、図3の例はトラクタ後軸2軸でトレーラ軸2軸の場合、そして図4の例はトラクタ後軸2軸でトレーラ軸3軸の場合を示している。これらの場合は、それぞれのトレーラ軸荷重の合計をトレーラ軸荷重Wrr とし、トレーラホイールベースLtrailerのトレーラ軸側の基点はそれぞれ、複数軸の中間位置とする。なお、Lfはカプラー200とトレーラ重心CGとの距離を示し、Lrはトレーラ重心CGとトレーラ軸の中間位置との距離を示す。
【0020】
実施例[1]:図5
実施例[1]の構成は図5に示すように、トラクタロール角推定部1、連結総重量推定部2、第5輪荷重推定部3、トレーラロール角推定部4、横転危険判定部5、及び横転危険警報部6から成る。これらはトラクタ100側に装備される。以下、各部について説明する。
【0021】
1)トラクタロール角推定部:図6
トラクタロール角推定部1においては、図6(1)に示すようにトラクタ100のリアサスペンション11,12の左右にばね上とばね下の相対変位を計測するストロークセンサ13,14をそれぞれ取付け、その計測値を入力したロール角演算部15が、次式によりばね上ロール角Rtractorを求める。
【0022】
【数1】

ここで、hLH:左側相対変位、hRH:右側相対変位、Treadsensor:ストロークセンサ取付けスパン、である。
【0023】
また、タイヤが浮上るまでのロール角が大きくないことからロール角Rtractorを次式で近似して求めても良い。
【0024】
【数2】

なおロール角検出部1はこれに限らず、他の方法を用いても良い。例えば、図6(2)に示すように、リアサスペンション11,12上に取り付けられたロールレートセンサ16で計測されるロール角速度の値をロール角演算部15に与え、ここで積分してロール角Rtractorを求めても良い。
【0025】
2)連結総重量推定部:図7
連結総重量推定部2は、図7(1)に示すように、アクセル開度センサ21、エンジン回転数センサ22、車両前後加速度センサ23、及び演算部24から成る。
【0026】
演算部24は、アクセル開度センサ21及びエンジン回転数センサ22からのアクセル開度及びエンジン回転数と、予め演算部24に記憶してあるマップとを参照してエンジントルクを求め、車両前後加速度センサ23からの車両の前後加速度を積分することで車両速度を求める。これらのエンジントルク、前後加速度、及び車両速度から、以下のとおり、トラクタ100、トレーラ300、及び積荷から成る連結総重量Wtotalを求める。
【0027】
まず、車両の走行抵抗をTfとすると、走行抵抗の演算式は次式で表される。
【0028】
Tf=μWtotal+ρAV2+(α/g)(Wtotal+ΔWtotal)+Wtotalsinθ ・・・式(3)
ここで、μ:ころがり抵抗、Wtotal:連結総重量、ρ:空気抵抗係数、A:車両前面投影面積、ΔWtotal:回転部等価慣性重量、α:加減速度、sinθ:路面勾配、V:車両速度、g:重力加速度である。この内、ころがり抵抗μ、路面勾配sinθ、及び車両速度Vは、状況に応じて変化する値であるが、その他は車両の固有値(車両の諸元)である。
【0029】
そこで、走行抵抗Tfを微少時間ΔT毎に計測する。ここで、現在の走行抵抗をTf0とし、ΔT後の走行抵抗をTf1とし、微少時間ΔTにおいて路面状況の変化はないとすれば、両時刻においてころがり抵抗μWtotal及び勾配抵抗Wtotalsinθは等しく、次式が得られる。
【0030】
Tf0=μWtotal+ρAV02+(α0/g)(Wtotal+ΔWtotal)+Wtotalsinθ
・・・式(4)
Tf1=μWtotal+ρAV12+(α1/g)(Wtotal+ΔWtotal)+Wtotalsinθ
・・・式(5)
次に式(4)と式(5)の差分を演算すると、次式が得られる。
【0031】
Tf0−Tf1=ρA(V02−V12)+(α0−α1)(Wtotal+ΔWtotal)/g ・・・式(6)
この式(6)から、次式が得られる。
【0032】
Wtotal+ΔWtotal=g〔Tf0−Tf1−ρA(V02−V12)〕/(α0−α1) ・・・式(7)
更に、ΔWtotalを、一例として0.1Wtotalとすると、上記の式(7)の左辺はWtotal+0.1Wtotal=1.1Wtotalとなるので次式が得られる。
【0033】
Wtotal=g〔Tf0−Tf1−ρA(V02−V12)〕/1.1(α0−α1) ・・・式(8)
一方、式(4)及び式(5)の各時点で演算部24で得られたエンジントルクをそれぞれTe0及びTe1とし、車輪の駆動力をそれぞれT0及びT1とすると、T0及びT1はそれぞれ次式で与えられる。
【0034】
T0 =(Te0・GT・GF・η)/R ・・・式(9)
T1 =(Te1・GT・GF・η)/R ・・・式(10)
ここで、GT:トランスミッションギヤ比、GF:終減速比、η:伝達効率、R:タイヤ半径である。これらは車両の固有値(車両の諸元)である。
【0035】
そして、走行抵抗Tfと駆動力T0,T1が釣り合った状態で車両が走行することから、式(8)のTf0及びTf1に、式(9)及び式(10)のT0及びT1をそれぞれに代入することで、走行中に微少時間ΔT毎に連結総重量Wtotalを検出し推定することができる。
【0036】
なお、連結総重量推定方法については、これに限らず他の方法を用いても良い。例えば図7(2)に示すように、トラクタ各輪のブレーキ圧力センサ25、トレーラブレーキの圧力センサ26及び車両前後加速度センサ23を備え、以下のとおり演算部27で連結総重量Wtotalを求めることができる。
【0037】
車両に作用する減速度(前後方向の加速度)αと、そのときのブレーキ力Fとの間には次式の関係がある。
【0038】
F=Wtotal(α/g) ・・・式(11)
この式(11)式から、次式が得られる。
【0039】
Wtotal=F(g/α) ・・・式(12)
またブレーキ力Fがブレーキ係数Bとブレーキエア圧Pとの関数として示される。具体的には前輪、後輪およびトレーラの各ブレーキ係数Bf, Br, Btと、ブレーキエア圧Pf,Pr, Ptとからブレーキ力Fは次式により求められる。
【0040】
F=Bf・Pf+Br・Pr+Bt・Pt(=B・P) ・・・式(13)
この式(13)のブレーキ力Fを式(12)に代入することで、連結総重量Wtotalを演算し推定することができる。
【0041】
3)第5輪荷重推定部:図8
第5輪荷重推定部3では、トラクタ100がエアサスペンションで構成されている連結車両において、図8(1)に示すように、トラクタ100における各輪のエアスプリング内圧を計測する圧力センサ31を備え、計測した内圧の計測値を演算部32に送り、以て第5輪荷重Wfifthを推定演算する構成となっている。
【0042】
まず、トラクタ100の各車輪のエアスプリング荷重Fi(i:トラクタ各車輪)は、次式のようにエアスプリング内圧Piと予め演算部32に記憶されているエアスプリングの有効断面積Aiとの積で求めることができる。
【0043】
Fi=Ai・Pi ・・・式(14)
よって、トラクタ100の第5輪荷重Wfifthも含めたばね上荷重WTractor_allは次式で求められる。
【0044】
WTractor_all=ΣFi
=ΣAi・Pi ・・・式(15)
第5輪荷重Wfifthは式(15)で求めたトラクタばね上荷重WTractor_allから、予め演算部32に記憶されているトラクタ単車時のばね上荷重WTractor_0を引くことで、次式に示すように求めることができる。
【0045】
Wfifth=WTractor_all−WTractor_0 ・・・式(16)
或いは、別の第5輪荷重推定方法として、カプラー200の取付位置が概略トラクタ100の後軸の上になっていることから、エアスプリング内圧の圧力センサ31を後軸のエアスプリングのみに取付け、iをトラクタ後軸各車輪、WTractor_allを後軸に掛かるばね上荷重、WTractor_0をトラクタ単車時の後軸のばね上荷重とそれぞれ読み替えて、式(14)から式(16)を計算することで第5輪荷重Wfifthを求めても良い。
【0046】
さらに別の第5輪荷重推定方法として、例えばサスペンションに金属ばねを用いたトラクタ車両において、図8(2)に示すようにトラクタ各輪にサスストロークセンサ33を備え、計測したサスストロークの計測値を演算部34に送って第5輪荷重Wfifthを演算する構成を採ることもできる。トラクタ各輪のばねに掛かる荷重Fi(i:トラクタ各車輪)はサスストロークセンサ33によって計測したばねのたわみ量Hiの関数fiとなっている。
【0047】
Fi=fi(Hi) ・・・式(17)
例えば、ばね定数kiが一定である線形ばねの場合は次式となる。
【0048】
Fi=ki・Hi ・・・式(18)
よって、トラクタの第5輪荷重Wfifthも含めたばね上荷重WTractor_allは次式で求められる。
【0049】
WTractor_all=ΣFi
=Σfi(Hi) ・・・式(19)
第5輪荷重Wfifthは、式(19)で求めたトラクタばね上荷重WTractor_allから、予め演算部34に記憶されているトラクタ単車時のばね上荷重WTractor_0を引くことで求めることができる。
【0050】
Wfifth=WTractor_all−WTractor_0 ・・・式(20)
この方法も上記のエアサス内圧を用いた方法と同様に、サスストロークセンサ33をトラクタ後軸のサスペンションのみに取り付け、iをトラクタ後軸各車輪、WTractor_allを後軸に掛かるばね上荷重、WTractor_0をトラクタ単車時の後軸のばね上荷重とそれぞれ読み替えて式(17)から式(20)を計算することで第5輪荷重Wfifthを求めても良い。
【0051】
4)トレーラロール角推定部:図9及び図10
トレーラロール角推定部4においては、図9に示すフローチャートに従いトレーラロール角の推定を行う。フローチャートの各ステップの処理内容は以下のとおりである。
【0052】
・ステップS1:キーSWがONであるとき、まずトラクタロール角推定部1からトラクタロール角値Rtractorを取得する。
【0053】
・ステップS2:連結総重量推定部2から連結総重量の推定値Wtotalを取得する。
【0054】
・ステップS3:第5輪荷重推定部3から第5輪荷重の推定値Wfifthを取得する。
【0055】
・ステップS4:予め演算部4に記憶されているトラクタ単体の既知の重量Wtractorと取得した連結総重量Wtotalから、積荷を含めたトレーラ重量Wtrailerを次式により演算する。
【0056】
Wtrailer=Wtotal−Wtractor ・・・式(21)
・ステップS5:式(21)により演算したトレーラ重量Wtrailerが非常に小さく下記の式(22)が成り立つ場合、トレーラ300を連結していないと判定し、トレーラロール角推定演算を行わずにステップS10へ進む。
【0057】
Wtrailer<α(αはトレーラ空車重量より小さな正の定数) ・・・式(22)
なお、式(22)における判定にはトレーラ重量Wtrailerの代わりに、次式に示すように、第5輪荷重の推定値Wfifthを用いて次式で判定しても良い。
【0058】
Wfifth<β(βはトレーラ連結空車時の第5輪荷重より小さな正の定数)
・・・式(23)
・ステップS6:トレーラ重量Wtrailerは、次式に示すとおり第5輪荷重Wfifthとトレーラ軸荷重Wrrの和と考えることができる。
【0059】
Wtrailer =Wfifth+Wrr ・・・式(24)
ここで、前述の如く、連結部−トレーラ重心間距離をLf、トレーラホイールベースをLtrailerとすると、力の釣り合いから次式が成り立つ。
【0060】
Lf・Wtrailer =Ltrailer・Wrr ・・・式(25)
連結部−トレーラ重心間距離LfのトレーラホイールベースLtrailerに対する比率をLCGratioとすると、この比率LCGratioは、式(24)及び式(25)から、次式により得られる。
【0061】
【数3】

・ステップS7:実験などで予め求めて、演算部4に記録してある図10に示すようなマップを用いて、ステップS6で式(26)により求めた比率LCGratioからロール補正係数Rcoefを求める。
【0062】
・ステップS8:求めたロール補正係数Rcoefとトラクタのロール角Rtractorとの積を、次式に示すようにトレーラのロール角Rtrailerの推定値とする。
【0063】
Rtrailer= Rcoef・Rtractor ・・・式(27)
・ステップS9:ステップS8で求めたトレーラロール角推定値Rtrailerをロール角出力値ROUTとする。
【0064】
・ステップS10:トラクタロール角値Rtractorをロール角出力値ROUTとする。
【0065】
5)横転危険判定部
横転危険判定部5では、トレーラロール角推定部4からのロール角出力値Routと横転危険判定しきい値Rthresholdとの関係が次式を満たす場合、横転危険性が高いと判定し、横転危険警報部6に横転危険信号を送る。
【0066】
ROUT> Rthreshold ・・・式(28)
6)横転危険警報部
横転危険警報部6では、横転危険信号を受け取った場合、運転者に警報ランプ、警報音などで警告する。
【0067】
なお、図11に示すように、横転危険警報部6の代わりに横転抑制制御部7を設け、横転危険信号を受け取った場合、車両のブレーキやエンジンをコントロールし、車両を減速させ横転を抑制させる構成としても良い。
【0068】
実施例[2]:図12
図12は、実施例[2]の構成を示し、この実施例[2]は、実施例[1]に対してトレーラホイールベース設定部8が追加されていると共に、トレーラロール角推定部4とは処理内容が異なるトレーラロール角推定部9を使用しており、トラクタロール角推定部1、連結総重量推定部2、第5輪荷重推定部3、横転危険判定部5、及び横転危険警報部6についてはそれぞれ実施例[1]の構成と同一である。
【0069】
1)トレーラホイールベース設定部
トレーラホイールベース設定部8では、テンキー、ダイヤル、数種類の中からの選択スイッチなどにより手動でトレーラのホイールベースLtrailerを入力してトレーラロール角推定部9に記憶しておく。
【0070】
なおトレーラホイールベース設定部8はこれに限らず、他の方法を用いても良い。例えば、特開平6-144303号に示されているようにトレーラ300に設置されトレーラ300の諸元が予め記憶されたメモリから読み取る方法、など各種の方法でトレーラホイールベースLtrailerを取得してもよい。
【0071】
2)トレーラロール角推定部:図13及び図14
トレーラロール角推定部9においては、図13に示すフローチャートに従いトレーラロール角の推定演算を実施する。この場合、実施例[1]との違いは、連結部−トレーラ重心間距離LfのトレーラホイールベースLtrailerに対する比率LCGratioの代わりに、連結部−トレーラ重心間距離Lfを用いて、ロール補正係数Rcoefを求めるところにある。
【0072】
フローチャートの各ステップの処理内容については以下のとおりである。なお、ステップS1〜S5、S8、S9及びステップS10については実施例[1]と同一であるので省略する。
【0073】
・ステップS21:トレーラホイールベース設定部8からトレーラ300のホイールベース値Ltrailerを取得する。
【0074】
・ステップS22:実施例[1]における式(26)を変形した次式を用い、連結部−トレーラ重心間距離Lfを検出する。
【0075】
【数4】

・ステップS23:実験などで予め求め、演算部9に記録してある図14に示すようなマップを用いて、ステップS22で求めた連結部−トレーラ重心間距離Lfからロール補正係数Rcoefを求める。
【0076】
変形例:
上記のロール角をロール角速度或いはロール角加速度に置き換えることができ、その場合はそれぞれ、トレーラのロール角速度推定装置、トレーラのロール角加速度推定装置として動作せることができる。
【0077】
例えば実施例[1]又は[2]の構成において、トレーラのロール角速度推定装置とした場合、図6(1)の構成においてロール角演算部をロール角速度演算部に置き換え、ロール角速度演算部において、式(1)或いは式(2)で求めたロール角を微分することで、ロール角速度を求める。或いは、同図(2)の構成においてロールレートセンサの計測値をそのままトレーラロール角速度推定演算部に出力するようにし、他の構成部分でのロール角をロール角速度に置き換える。
【0078】
このようにすることでトレーラのロール角速度推定装置とすることができ、推定したトレーラのロール角速度を用いて、横転危険判定を行い、横転の危険性がある場合、警報を出す、或いは車両を減速制御し横転を抑制することができる。
【0079】
なお、本発明は、上記実施例によって限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づき、当業者によって種々の変更が可能なことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】一般的なトラクタ及びトレーラから成る連結車両の概略側面図(トラクタ後軸1軸でトレーラ軸1軸の場合)である。
【図2】一般的なトラクタ及びトレーラから成る連結車両の概略側面図(トラクタ後軸1軸でトレーラ軸2軸の場合)である。
【図3】一般的なトラクタ及びトレーラから成る連結車両の概略側面図(トラクタ後軸2軸でトレーラ軸2軸の場合)である。
【図4】一般的なトラクタ及びトレーラから成る連結車両の概略側面図(トラクタ後軸2軸でトレーラ軸3軸の場合)である。
【図5】本発明に係る車両の横転防止装置の実施例[1]の構成を示したブロック図である。
【図6】図5に示すトラクタロール角推定部の構造を概略的に示した図である。
【図7】本発明で用いる連結総重量推定部の構成を示したブロック図である。
【図8】本発明で用いる第5輪荷重推定部の構成を示したブロック図である。
【図9】本発明の実施例[1]で用いるトレーラロール角推定部の演算フローチャート図である。
【図10】図9のフローチャートで用いられるトレーラホイールベースに対するトレーラ重心位置の比率LCGratioに対するロール補正係数Rcoefのマップ図である。
【図11】本発明の変形例を示したブロック図である。
【図12】本発明に係る車両の横転防止装置の実施例[2]の構成を示したブロック図である。
【図13】本発明の実施例[2]で用いるトレーラロール角推定部の演算フローチャート図である。
【図14】図13のフローチャートで用いられる連結部−トレーラ重心位置間距離Lfに対するロール補正係数Rcoefのマップ図である。
【図15】実車走行試験(ステップ操舵)時のトラクタ及びトレーラのロール角特性を示したグラフ図である。
【符号の説明】
【0081】
1 トラクタロール角推定部
2 連結総重量推定部
3 第5輪荷重推定部
4,9 トレーラロール角推定部
5 横転危険判定部
6 横転危険警報部
7 横転危険制御部
8 トレーラホイールベース設定部
11,12 リアサスペンション
13,14 サスペンションストロークセンサ
15 ロール角演算部
16 ロールレートセンサ
21 アクセル開度センサ
22 エンジン回転数センサ
23 車両前後加速度センサ
24,27 演算部
25 トラクタ各輪ブレーキ圧力センサ
26 トレーラブレーキ圧力センサ
31 トラクタ各輪エアサス圧力センサ
32,34 演算部
33 トラクタ各輪エアサスストロークセンサ
100 トラクタ
200 カプラー
300 トレーラ
CG トレーラ重心
図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクタとトレーラから成る車両の横転防止装置であって、
該トラクタのロール角を推定するトラクタロール角推定手段と、
該トラクタ及び該トレーラの連結総重量を推定する連結総重量推定手段と、
該トラクタ及び該トレーラを連結するカプラーが受ける荷重を推定する荷重推定手段と、
該トラクタロール角と該連結総重量と該荷重から、該トレーラのロール角を推定するトレーラロール角推定手段と、
を備えたことを特徴とする車両の横転防止装置。
【請求項2】
請求項1において、
該トレーラロール角推定手段が、該連結総重量と既知のトラクタ重量からトレーラ重量を求め、該トレーラ重量と該荷重からトレーラホイールベースに対する該カプラー−トレーラ前後重心間距離の比率を算出し、該比率から、予め記憶したマップに基づきロール補正係数を求め、該トラクタロール角と該ロール補正係数から該トレーラロール角を演算することを特徴とした車両の横転防止装置。
【請求項3】
請求項1において、
該トレーラロール角推定手段が、該連結総重量と既知のトラクタ重量からトレーラ重量を求め、該トレーラ重量と該荷重と既知のトレーラホイールベースから、該カプラー−トレーラ前後重心間距離を算出し、該距離から、予め記憶したマップに基づきロール補正係数を求め、該トラクタロール角と該ロール補正係数から該トレーラロール角を演算することを特徴とした車両の横転防止装置。
【請求項4】
請求項2又は3において、
該トレーラホイールベースが、該荷重の位置から単数トレーラ軸の位置又は複数トレーラ軸の中間位置までの距離であることを特徴とした車両の横転防止装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つにおいて、
該トレーラロール角に基づいて横転危険判定する手段と、この判定結果に基づいて警報を発する手段と、をさらに備えたことを特徴とする車両の横転防止装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1つにおいて、
該トレーラロール角に基づいて横転危険判定する手段と、この判定結果に基づいて横転抑制制御を行う手段と、をさらに備えたことを特徴とする車両の横転防止装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つにおいて、
該ロール角の代わりに、ロール角速度又はロール角加速度を用いることを特徴とした車両の横転防止装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2008−184142(P2008−184142A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21727(P2007−21727)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】