説明

車両の走行制御装置

【課題】運転者のシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いにより車両の安全走行状態が損なわれないように車両を制御すると共に、運転操作の誤りを違和感なく確実に運転者に理解させる。
【解決手段】車両の走行制御装置10は、車両の速度を検出する速度検出部2と、車両の加速度を検出する加速度検出部3と、車両の速度に応じて設定された上限加速度以内に、車両の加速度を制限する加速度制限部1と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の安全走行状態が損なわれないように車両を制御する車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機を搭載した車両では、クラッチペダルを操作することなくアクセルペダル単独で、車両を加速させることが可能である。このため、車両を駐車させる運転時などにおいて、運転者がアクセルペダルとブレーキペダルとを踏み間違え、予期せぬ加速状態が生じる場合がある。運転者によるクラッチ操作を要する車両では、このような場合にはクラッチが適切に係合せず、いわゆるエンスト(engine stall)を生じて車両が停止する。しかし、自動変速機を搭載した車両では、このように車両が停止することがないため、別の対処方法が必要となる。
【0003】
下記に示す特許文献1には、このような場合に自動変速機の変速段を自動的に切り換える制御装置の技術が開示されている。この制御装置は、車両が後退走行状態にあるとき、安全走行状態を失したと判定すると、自動変速機への切り換え指令に拘らず、車両の走行可能な状態を解除する。安全走行状態を失したとの判定は、車両が所定の車速を超えたこと、アクセルペダルの踏み込み変化量が所定の変化量を超えたこと、エンジンの回転数が所定の回転数を越えたこと、などを判定条件として行われる。また、走行可能な状態の解除は、例えば、シフト位置をニュートラルやパーキングに変更することによって行われる。制御装置は、さらに、シフト位置の変更と共に燃料噴射装置を制御して、エンジンの燃焼室への燃料噴射を停止させる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−65430号公報(第43〜49段落等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の制御装置は、車両が後退走行状態にあるとき、安全走行状態を失したと判定すると、自動的に車両の走行可能な状態を解除する。運転者に運転操作の間違いを報知することなく、車両が停止されるので、続けて運転者が運転操作を誤る可能性が残る。また、自動的に車両が停止されることにより、運転者が行き過ぎた制御をされたと不快感を覚える可能性がある。さらに、特許文献1の制御装置は、車両が後退走行状態にあるときに上記制御を実施するので、運転者がシフト位置を誤って車両を走行させた場合には、対応することができない。つまり、変速機の変速段を変更するシフトレバーが前進位置にあるにも拘らず後退位置にあるものと運転者が思い込んで車両を動かす場合、特許文献1の制御装置では対応することができない。
【0006】
本願発明は、上記課題に鑑みて創案されたもので、運転者のシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いにより車両の安全走行状態が損なわれないように車両を制御すると共に、運転操作の誤りを違和感なく確実に運転者に理解させることが可能な車両の走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る車両の走行制御装置の特徴構成は、
車両の速度を検出する速度検出部と、
前記車両の加速度を検出する加速度検出部と、
前記車両の速度に応じて設定された上限加速度以内に、前記車両の加速度を制限する加速度制限部と、を備える点にある。
【0008】
この特徴構成によれば、加速度制限部により、車両の速度に応じて設定された上限加速度以内に車両の加速度が制限される。車両の加速度が制限されることにより、運転者のシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いにより車両の安全走行状態が損なわれないように車両が制御される。この際、加速度は制限されるが停止される訳ではないので、車両は進行を続けることができる。つまり、運転者が、行き過ぎた制御をされたと不快感を覚える可能性が低くなる。また、運転者による運転操作よりも鈍重に進行する車両の挙動から、運転者は運転操作の誤りを違和感なく理解することができる。
【0009】
また、本発明に係る車両の走行制御装置は、前記上限加速度が、前記車両の速度が高くなるほど高い値に設定されることを特徴とする。
【0010】
一般的に通常走行時には、運転者により意識的にアクセルペダル又はブレーキペダルの一方が使用されており、運転者がペダルを踏み間違える可能性は低い。また、走行中に変速段が前進と後退との間で切り替えられることはないので、変速機の変速段を変更するシフトレバーの操作間違いから、間違った方向へ車両が進行することもない。即ち、運転者によるシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いは、車両が停止状態において発生する場合がほとんどである。本特徴構成によれば、停止状態から車両が加速を開始した直後のように車両の速度が低い場合には上限加速度が低い値に、車両が巡航中のように車両の速度が高い場合には上限加速度が高い値に設定される。従って、通常走行中においては、加速度が制限される可能性が低くなり、快適な走行が妨げられることがない。一方、車両が低速の場合に起こり得るシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いにより車両の安全状態が損なわれることは良好に抑制される。
【0011】
また、本発明に係る車両の走行制御装置は、前記加速度制限部が、前記車両が停止状態から所定の制限速度に達するまで前記車両の加速度を制限することを特徴とする。ここで、停止状態とは、前記車両が完全に停止した状態に限定されず、例えば時速5km以下など、所定の速度未満の場合をいう。
【0012】
上述したように、運転者によるシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いは、車両が停止状態において発生する場合がほとんどである。従って、車両が巡航中のように車両の速度が高い場合には加速度を制限する必要性は非常に低くなる。本特徴構成によれば、加速度制限部は、車両の速度が停止状態から所定の制限速度に達するまで車両の加速度を制限する。換言すれば、加速度制限部は、車両の速度が所定の制限速度に達すると車両の加速度の制限を解除する。従って、通常走行中には加速度が制限されず快適な走行が妨げられにくくなり、駐車時などの低速走行中には加速度が制限されて安全状態から逸脱しにくくなる。
【0013】
また、本発明に係る車両の走行制御装置は、前記加速度制限部が、前記車両の停止状態から、加速を開始して所定の制限時間を経過するまで前記車両の加速度を制限することを特徴とする。
【0014】
上述したように、運転者によるシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いは、車両が停止状態において発生する場合がほとんどである。従って、車両が停止状態から加速期間を経て巡航に至り、車両の速度が高い場合には加速度を制限する必要性は非常に低くなる。本特徴構成によれば、加速度制限部は、車両の停止状態から、加速を開始して所定の制限時間を経過するまで車両の加速度を制限する。換言すれば、車両が加速を開始して所定の制限時間を経過すると、加速度制限部は車両が巡航状態に達したとみなすことができ、車両の加速度の制限を解除する。従って、通常走行中には快適な走行が妨げられず、駐車時などの低速走行中には安全状態から逸脱しにくくなる。
【0015】
また、本発明に係る車両の走行制御装置は、
前記車両の進行方向を検出する進行方向検出部を備え、
前記加速度制限部は、検出された前記車両の進行方向に応じて異なる値に設定された前記上限加速度以内に、前記車両の加速度を制限することを特徴とする。
【0016】
例えば、車両の進行方向が前進の場合には、通常走行へと移行する可能性が高いが、車両の進行方向が後退の場合には、通常走行への移行はほとんど有り得ない。従って、進行方向が前進の場合には通常走行、進行方向が後退の場合には駐車や切り反しなどの場合が多いと考えることができる。シフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いは、通常走行時よりも駐車や切り返しなどの際に生じることが多い。本特徴構成によれば、進行方向に応じて異なる値に設定された上限加速度以内に車両の加速度が制限される。従って、例えば、シフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いが発生する可能性が高いと考えられる後退時の上限加速度を低い値に設定することができる。通常走行時と駐車時等の低速走行時とのそれぞれにおいて適切な上限加速度が設定されるので、快適な走行が妨げられることがなく、安全性を保つことが可能となる。
【0017】
また、本発明に係る車両の走行制御装置は、
前記車両の進行方向を検出する進行方向検出部と、
前記車両の運転者の姿勢を検出する姿勢検出部と、を備え、
前記加速度制限部は、検出された前記車両の進行方向及び前記運転者の姿勢に応じて異なる値に設定された前記上限加速度以内に、前記車両の加速度を制限することを特徴とする。
【0018】
例えば、車両の進行方向が前進の場合には、通常走行へと移行する可能性が高いが、車両の進行方向が後退の場合には、通常走行への移行はほとんど有り得ない。従って、進行方向が前進の場合には通常走行、進行方向が後退の場合には駐車や切り反しなどと考えることができる。また、運転者の姿勢は、車両の進行方向が前進の場合には、運転者の顔が前方を向いた姿勢であり、後退の場合には後方を向いている姿勢である。運転者がシフトレバーの操作を間違った際には、運転者の姿勢は後方を向いているにも拘らず、車両の進行方向が前進の場合がある。本特徴構成によれば、車両の進行方向及び運転者の姿勢に応じて異なる値に設定された上限加速度以内に、車両の加速度が制限される。従って、上記のように、シフトレバーの操作を間違っている可能性が高いと考えられる場合には、上限加速度を低い値に設定するなどとして、安全性を向上させることができる。一方、車両の進行方向及び運転者の姿勢が共に前進を示しているような場合には、上限加速度を高い値に設定するなどとして、快適な走行が妨げられないようにすることができる。
【0019】
また、本発明に係る車両の走行制御装置は、前記進行方向検出部が、前記車両の変速機の変速段を変更するシフトレバーの位置に基づいて前記車両の進行方向を検出することを特徴とする。
【0020】
進行方向検出部は、例えば車輪の回転方向によって進行方向を検出することも可能である。しかし、本特徴構成のようにシフトレバーの位置に基づいて進行方向を検出すると、実際に車両が動き出す前に進行方向を検出することができる。そして、加速度制限部は、早期に進行方向に応じた上限加速度を設定することができて好適である。
【0021】
また、本発明に係る車両の走行制御装置は、
前記車両の制動装置を制御する制動制御部と、
前記車両のエンジンへの燃料の供給を制御する燃料供給制御部と、を備え、
前記加速度制限部が、前記制動制御部及び前記燃料供給制御部の一方又は双方を制御することにより、前記車両の加速度を制限することを特徴とする。
【0022】
制動制御部の制御により、制動装置を働かせて良好に加速度を制限することができる。また、燃料供給制御部の制御により、エンジンの出力を抑制して良好に加速度を制限することができる。本特徴構成によれば、加速度制限部により、制動制御部及び燃料供給制御部の一方又は双方が制御されるので、良好に車両の加速度が制限される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る車両の走行制御装置10の構成の一例を示すブロック図である。図2は、速度と上限加速度との関係の一例を示すグラフである。図1に示すように、走行制御装置10は、加速度制限部1と、速度検出部2と、加速度検出部3と、進行方向検出部5と、姿勢検出部6と、制動制御部8と、燃料供給制御部9との各機能部を備えている。走行制御装置10は、マイクロコンピュータやDSP(digital signal processor)などのプロセッサを中核として構成されている。各機能部は、プロセッサとプロセッサにより実行されるプログラムとの協働により実現される。つまり、各機能部は機能の分担を示すものであり、物理的に独立して設けられる必要はない。
【0024】
加速度制限部1は、図2に示す上限加速度L以内に車両の加速度aを制限する機能部である。詳細は後述するが、上限加速度Lは、図2の横軸に示す車両の速度に応じて設定される。加速度制限部1は、図2に示す加速度a2のように車両の加速度が上限加速度Lを超える場合には、加速度a1のように上限加速度L以内に制限する。
【0025】
速度検出部2は、車両の速度を検出する機能部である。速度は、車両の車輪近傍に設置された回転センサ21により測定される。速度検出部2は、回転センサ21の測定結果に基づいて演算を行うことにより、車両の速度を検出する。
【0026】
加速度検出部3は、車両の加速度を検出する機能部である。加速度は、車両の速度を微分することによって検出される。即ち、回転センサ21の測定結果に基づいて速度を演算し、演算された速度を微分することによって加速度が検出される。図1に示したブロック図では、このように回転センサ21の測定結果から加速度を検出しているが、速度検出部2から速度情報を受け取って加速度を演算してもよい。また、回転センサ21とは別にGセンサなど、加速度を測定するセンサを備えて加速度を検出してもよい。
【0027】
進行方向検出部5は、車両の進行方向を検出する機能部である。進行方向検出部5には、シフトレバースイッチ25の出力が入力される。シフトレバースイッチ25は、運転者によって操作され、変速機の変速段を変更するシフトレバーのシフト位置を検出するスイッチである。シフトレバースイッチ25は、例えば、シフト位置が前進位置(ドライブ:Dレンジ)、中立位置(ニュートラル:Nレンジ)、後退位置(リバース:Rレンジ)、駐車位置(パーキング:Pレンジ)などにあることを検出して、進行方向検出部5に出力する。進行方向検出部5は、シフトレバースイッチ25からDレンジであることを示す出力を受け取ると、車両の進行方向が前進方向であることを検出する。また、進行方向検出部5は、シフトレバースイッチ25からRレンジであることを示す出力を受け取ると、車両の進行方向が後退方向であることを検出する。
【0028】
姿勢検出部6は、運転者の姿勢を検出する機能部である。姿勢検出部6は、車載のカメラ26により撮影された画像データを受け取る。カメラ26は、例えばステアリングコラム、インスツルメントパネル、ルームミラーなどに設置され、通常の運転姿勢で運転席に着座した運転者の顔を撮影する。姿勢検出部6は、画像データ中の基準位置において顔の位置を推定し、エッジ検出などの公知の画像処理を用いて目、鼻、口などの場所を認識する。次に、姿勢検出部6は、認識された目、鼻、口などの座標より顔の中心位置を演算する。そして、姿勢検出部6は、演算された中心位置と基準位置とのなす角度が45度未満の場合には運転者が前方を向いていると判定し、45度以上の場合には後方を向いていると判定する。
【0029】
制動制御部8は、車両の制動装置28を制御する機能部である。制動制御部8は、加速度制限部1により制御されて制動装置28を駆動して、車両の加速度を制限する。
【0030】
燃料供給制御部9は、車両のエンジンへ燃料を供給する燃料噴射装置29を制御して、エンジンへの燃料の供給を制御する機能部である。燃料供給制御部9の制御により、エンジンの出力が抑制され、加速度が制限される。
【0031】
以下、車両の速度に応じて設定された上限加速度L以内に車両の加速度aが制限される場合の例を図2〜図6を利用して説明する。図2に符号Lで示す直線は、車両の速度に応じて設定された上限加速度Lの一例である。上限加速度Lは、車両の速度が高くなるほど高い値に設定されており、図2に示す例においては車両の速度に比例して高い値となる。
【0032】
運転者によるシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いは、車両が停止状態において発生する場合がほとんどである。一般的に通常走行時には、運転者がアクセルペダルとブレーキペダルとを踏み間違える可能性は低い。また、走行中に変速段が前進と後退との間で切り替えられることもない。逆に、通常走行時の登坂や追い越しなどの際に、急速に加速度を上昇させたい場合がある。図2に示すように、車両の速度が高くなるほど上限加速度Lが高く設定されることによって、車両が通常走行中の際に加速度aが制限されにくくなり、快適な走行が妨げられることがない。一方、車両が低速の場合に起こり得るシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いによる急加速は、低い値に設定された上限加速度Lにより抑制される。従って、このような急加速により、車両の安全状態が損なわれることは良好に抑制される。
【0033】
上限加速度Lは、車両の安全時の挙動に基づいて設定される、即ち車両が安全に走行する場合の加速度と速度とが実験やシミュレーションによって求められ、それらの結果に基づいて上限加速度Lが設定される。上述したように、走行制御装置10は、マイクロコンピュータなどのプロセッサを中核として構成されている。従って、上限加速度Lは不揮発性のメモリなどの記憶媒体に速度と加速度とのマップとして格納されると好適である。あるいは、上限加速度Lが一次式や二次式など簡単な式で表現可能であれば、記憶媒体に式を記憶し、プロセッサによって演算してもよい。
【0034】
また、図2では、上限加速度Lを1種類だけ例示しているが、条件に応じて複数の上限加速度Lが設定されてもよい。例えば、上述したように進行方向検出部5により車両の進行方向が検出される。後進時には大きな加速度は必要ではない。そこで、車両が後進する場合には、前進する場合に比べて低い値の上限加速度Lが選択されるようにすると好適である。
【0035】
また、図2のように上限加速度Lが速度に対して線形である場合、前進時と後退時とで、切片を同値として傾きを異ならせてもよい。即ち、低速時においては前進時と後退時との間で上限加速度Lに大きな差を設けず、速度が上がるほど上限加速度Lに差を生じさせてもよい。
【0036】
また、上限加速度Lは、姿勢検出部6の検出結果に基づいて設定されてもよい。上述したように、姿勢検出部6によって、運転者が前方を向いているか後方を向いているかが検出される。加速度制限部1は、運転者が前方を向いている場合には前進時の上限加速度Lに基づいて、後方を向いている場合には後退時の上限加速度Lに基づいて加速度を制限すると好適である。
【0037】
また、加速度制限部1が、進行方向検出部5と姿勢検出部6との双方の検出結果に基づいて設定された上限加速度Lに基づいて加速度aを制限するとさらに好適である。運転者がシフト間違いを生じている場合、進行方向検出部5において「前進」と検出され、姿勢検出部6において「後退」と検出される場合がある。このように、運転者がシフト間違いを起こしている可能性が高い場合には、例えば、通常よりも更に低い値の上限加速度Lに基づいて加速度aが制限されると好適である。この場合、運転者が予期していない方向へ車両が移動することになるので、より加速度aを制限することによって安全性を向上させることができる。
【0038】
図2に示すように、車両の速度が高くなるほど上限加速度Lが高く設定されることによって、車両が通常走行中の際に加速度aが制限されにくくすることができる。ここで、車両の速度が所定の速度(制限速度)以上となると、上限加速度Lを無限大としてもよい。つまり、図3に示すように、車両が制限速度V1に達するまでは、図2と同様に速度に応じて高い値となる上限加速度Lが設定される。車両が制限速度V1に達すると、この速度に応じて上限加速度Lが無限大に設定され、加速度制限部1は、実質的に加速度aを制限しなくなる。換言すれば、加速度制限部1は、車両が停止状態(速度が零)から所定の制限速度V1に達するまで車両の加速度aを制限する。
【0039】
また、加速度制限部1は、車両が停止状態から制限速度V1に達するまでではなく、加速を開始して所定の制限時間を経過するまで車両の加速度aを制限するようにしてもよい。上述したように、運転者によるシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いは、車両が停止状態において発生する場合がほとんどである。従って、車両が停止状態から加速期間を経て巡航に至り、車両の速度が高い場合には加速度aを制限する必要性は非常に低くなる。従って、車両が加速を開始して所定の制限時間を経過すると、加速度制限部1は、車両が巡航状態に達したとみなして加速度の制限を解除することができる。
【0040】
加速度制限部1が、車両が停止状態から制限速度V1に達するまでのみ車両の加速度aを制限する場合、上限加速度Lを一定値としてもよい。つまり、図4に示すように、車両の速度に応じて、有限の値と無限大との2種類の上限加速度Lを切り替えてもよい。
【0041】
また、上限加速度Lは、図2や図3に示したように、速度に対して連続的に上昇する必要はなく、図5に示すように段階的に上昇してもよい。図5には、制限速度V1まで段階的に上昇し、制限速度V1に達すると無限大となる上限加速度Lを例示した。但し、これに限定されることなく、図2と同様に上限加速度Lは段階的に上昇を継続してもよい。
【0042】
図6に示す上限加速度Lは、図2に示す上限加速度Lの変形例である。図2に示す上限加速度Lは、車両の速度に対して線形的に上昇したが、図6に示す上限加速度Lは非線形に上昇する。ここでは、車両の速度が低い場合には、緩やかに上昇し、車両の速度が高くなるに従って急激に上昇する上限加速度Lを例示している。上述したように、運転者によるシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いは、車両が停止状態において発生する場合がほとんどである。従って、車両の速度が低い場合には、上限加速度Lの値が低く設定され、加速度制限部1によって加速度aが制限され易いことが好ましい。図6に示す上限加速度Lは、車両が低速の場合には低い値に維持されるため好適である。
【0043】
一方、上述したように車両が通常走行中のように車両の速度が高い場合には加速度aを制限する必要性は非常に低くなる。特に、通常走行中には、登坂や追い越しなどの際に、急速に加速度を上昇させたい場合がある。図6に示すように、車両の速度が高くなるほど急速に上限加速度Lが高く設定されることによって、車両が通常走行中の際に加速度aが制限されにくくなる。また、実質的に加速度aの制限が解除されるような高い値に上限加速度Lを設定し易くなる。
【0044】
以上、説明したように、本発明に係る走行制御装置10は、運転者のシフトレバーの操作間違いやペダルの踏み間違いにより車両の安全走行状態が損なわれないように車両を制御することができる。また、走行制御装置10は、運転操作の誤りを違和感なく確実に運転者に理解させることが可能である。走行制御装置10は、加速度を制限するものの速度を制限したり、車両を停止させたりはしない。従って、運転者が行き過ぎた制御をされたと不快感を覚える可能性を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る車両の走行制御装置の構成の一例を示すブロック図
【図2】速度と上限加速度との関係の一例を示すグラフ
【図3】速度と上限加速度との関係の一例を示すグラフ
【図4】速度と上限加速度との関係の一例を示すグラフ
【図5】速度と上限加速度との関係の一例を示すグラフ
【図6】速度と上限加速度との関係の一例を示すグラフ
【符号の説明】
【0046】
1:加速度制限部
2:速度検出部
3:加速度検出部
5:進行方向検出部
6:姿勢検出部
8:制動制御部
9:燃料供給制御部
28:制動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の速度を検出する速度検出部と、
前記車両の加速度を検出する加速度検出部と、
前記車両の速度に応じて設定された上限加速度以内に、前記車両の加速度を制限する加速度制限部と、
を備える車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記上限加速度は、前記車両の速度が高くなるほど高い値に設定される、請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記加速度制限部は、前記車両が停止状態から所定の制限速度に達するまで前記車両の加速度を制限する、請求項1又は2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記加速度制限部は、前記車両が停止状態から、加速を開始して所定の制限時間を経過するまで前記車両の加速度を制限する、請求項1又は2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記車両の進行方向を検出する進行方向検出部を備え、
前記加速度制限部は、検出された前記車両の進行方向に応じて異なる値に設定された前記上限加速度以内に、前記車両の加速度を制限する、請求項1〜4の何れか一項に記載の車両の走行制御装置。
【請求項6】
前記車両の進行方向を検出する進行方向検出部と、
前記車両の運転者の姿勢を検出する姿勢検出部と、を備え、
前記加速度制限部は、検出された前記車両の進行方向及び前記運転者の姿勢に応じて異なる値に設定された前記上限加速度以内に、前記車両の加速度を制限する、請求項1〜4の何れか一項に記載の車両の走行制御装置。
【請求項7】
前記進行方向検出部は、前記車両の変速機の変速段を変更するシフトレバーの位置に基づいて前記車両の進行方向を検出する、請求項5又は6に記載の車両の走行制御装置。
【請求項8】
前記車両の制動装置を制御する制動制御部と、
前記車両のエンジンへの燃料の供給を制御する燃料供給制御部と、を備え、
前記加速度制限部は、前記制動制御部及び前記燃料供給制御部の一方又は双方を制御することにより、前記車両の加速度を制限する、請求項1〜7の何れか一項に記載の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−126352(P2009−126352A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303355(P2007−303355)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】