説明

車両の走行制御装置

【課題】 停車時にレーダー装置の出力を低減した場合でも、先行車をロストすることなく確実な追従走行制御を行えるようにする。
【解決手段】 車速センサSbが自車の停車状態を検出すると、送信出力制御手段M1がレーダー装置Saの送信出力を走行時送信出力よりも低い停車時送信出力とする。自車停車中にレーダー装置Saにより自車と先行車との距離の増加が検出された場合、あるいは自車停車時にレーダー装置Saにより検知された先行車との距離が所定値よりも大きい場合に、報知手段M3が乗員に対して追従走行制御が可能なことを報知し、送信出力制御手段M1がレーダー装置Saの送信出力を停車時送信出力よりも増加させる。これにより、先行車との距離が追従走行制御手段M2による先行車に対する追従走行制御が可能な状態になったときにレーダー装置Saの送信出力を増加させ、先行車をロストすることなく確実に追従走行制御に移行することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車に搭載されて自車進行方向前方に存在する先行車との距離を検知可能なレーダー装置と、自車の車速を検出する車速センサと、検出された車速がほぼ停車状態を示す所定の閾値以下の場合に、前記レーダー装置の送信出力を走行時送信出力よりも低い停車時送信出力とする送信出力制御手段と、前記レーダー装置の出力に基づいて先行車に対する追従走行制御を行う追従走行制御手段とを備えた車両の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザービームを検知媒体とするレーダー装置では、歩行者等の目にレーザービームが一定時間以上照射されると視力に悪影響を及ぼす可能性があることから、車両の停車時にレーザービームの送信出力を通常時に比べて低減するものが、下記特許文献1により公知である。
【0003】
諸外国では、車両の停車時にレーザービームの送信出力を低減することが法規で義務づけられている場合があり、また法的な規制がない場合でも、車両の停車時には走行風によるレーダー装置の冷却が期待できないため、レーザービームの送信出力を通常時に比べて低減しないと、レーダー装置が過熱して耐久性が低下するという問題があった。
【特許文献1】特許第3261345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、渋滞時に先行車の発進・停車に応じて自車を発進・停車させる渋滞追従システムを搭載した車両では、停車時にレーダー装置の送信出力を低減してしまうと、停車していた先行車が発進して車間距離が増加したとき、送信出力の低減したレーダー装置が先行車をロストし易くなり、先行車に対するスムーズな追従走行制御が困難になるという問題が発生する。
【0005】
これを図10に基づいて具体的に説明すると、図10(A)で停車している先行車に対して自車が接近して停車するまで、自車のレーダー装置の出力はパワーアップモードになっているが、図10(B)で自車が停車するとレーダー装置の出力はパワーダウンモードになる。この状態から、図10(C)に示すように先行車が発進すると、図10(D)に示すように先行車はパワーダウンモードの短い検知可能範囲から出てしまうため、自車の運転者が追従走行制御のスタートスイッチを操作するタイミングが少しでも遅れると、図10(E)に示すように自車は先行車をロストして追従走行制御に移行できなくなる問題がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、停車時にレーダー装置の出力を低減した場合でも、先行車をロストすることなく確実な追従走行制御を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、自車に搭載されて自車進行方向前方に存在する先行車との距離を検知可能なレーダー装置と、自車の車速を検出する車速センサと、検出された車速がほぼ停車状態を示す所定の閾値以下の場合に、前記レーダー装置の送信出力を走行時送信出力よりも低い停車時送信出力とする送信出力制御手段と、前記レーダー装置による検知結果に基づいて先行車に対する追従走行制御を行う追従走行制御手段とを備えた車両の走行制御装置において、自車停車中に前記レーダー装置により自車と先行車との距離の増加が検出された場合、あるいは自車停車時に前記レーダー装置により検知された先行車との距離が所定値よりも大きい場合に、乗員に対して追従走行制御が可能なことを報知する報知手段を備え、前記送信出力制御手段は、前記報知手段による報知後に、前記レーダー装置の送信出力を前記停車時送信出力よりも増加させることを特徴とする車両の走行制御装置が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記追従走行制御手段は、前記報知手段により報知が行われた場合に自車を微小距離前進移動させる微小距離移動制御を行い、前記送信出力制御手段は、前記微小距離移動制御中において前記レーダー装置の送信出力を前記停車時送信出力よりも増加させることを特徴とする車両の走行制御装置が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、乗員による追従走行制御開始の指令操作を検出する検出手段を備え、前記追従走行制御手段は、前記報知手段による報知から所定時間以内に乗員による追従走行制御開始の指令操作が検出された場合には、先行車に対する追従走行制御を開始することを特徴とする車両の走行制御装置が提案される。
【0010】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、前記送信出力制御手段は、前記報知手段による報知から所定時間以内に乗員による追従走行制御開始の指令操作が検出されない場合には、前記レーダー装置の送信出力を前記停車時送信出力とすることを特徴とする車両の走行制御装置が提案される。
【0011】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項2の構成に加えて、前記送信出力制御手段は、前記追従走行制御手段による前記微小距離移動制御中に乗員による追従走行制御開始の指令操作が検出されない場合には、前記微小距離移動制御終了時に前記レーダー装置の送信出力を前記停車時送信出力とすることを特徴とする車両の走行制御装置が提案される。
【0012】
尚、実施の形態のスタートスイッチSdは本発明の検出手段に対応する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、車速センサで検出した自車の車速がほぼ停車状態を示す所定の閾値以下の場合に、送信出力制御手段がレーダー装置の送信出力を走行時送信出力よりも低い停車時送信出力とする。自車停車中にレーダー装置により自車と先行車との距離の増加が検出された場合、あるいは自車停車時にレーダー装置により検知された先行車との距離が所定値よりも大きい場合に、報知手段が乗員に対して追従走行制御が可能なことを報知し、送信出力制御手段がレーダー装置の送信出力を停車時送信出力よりも増加させるので、先行車との距離が追従走行制御手段による先行車に対する追従走行制御が可能な状態になったときにレーダー装置の送信出力を増加させ、先行車をロストすることなく確実に追従走行制御に移行することができる。
【0014】
また請求項2の構成によれば、報知手段が追従走行制御が可能となったことを報知すると、追従走行制御手段は自車を微小距離前進移動させる微小距離移動制御を行い、送信出力制御手段は微小距離移動制御中においてレーダー装置の送信出力を停車時送信出力よりも増加させるので、法規により停車中にレーダー装置の送信出力を走行時送信出力にできない場合であっても、自車を微小距離移動させることで送信出力を走行時送信出力にすることが可能となり、先行車をロストすることなく追従走行制御手段に移行することができる。
【0015】
また請求項3の構成によれば、報知手段による追従走行制御が可能となったことの報知から所定時間以内に、検出手段が乗員による追従走行制御開始の指令操作を検出した場合には、追従走行制御手段は先行車に対する追従走行制御を開始するので、先行車との車間距離が増加して追従走行制御が不能になる前に追従走行制御を開始することができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、報知手段による追従走行制御が可能となったことの報知から所定時間以内に、検出手段が乗員による追従走行制御開始の指令操作を検出しない場合には、送信出力制御手段はレーダー装置の送信出力を停車時送信出力とするので、乗員が追従走行制御を行う意思がないときに、レーダー装置の送信出力が必要以上に高い走行時送信出力となるのを防止することができる。
【0017】
また請求項5の構成によれば、追従走行制御手段による微小距離移動制御中に乗員による追従走行制御開始の指令操作が検出されない場合には、送信出力制御手段は微小距離移動制御終了時にレーダー装置の送信出力を停車時送信出力とするので、乗員が追従走行制御を行う意思がないときに、レーダー装置の送信出力が必要以上に高い走行時送信出力となるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1〜図5は本発明の第1の実施の形態を示すものであり、図1は車両の走行制御装置の電子制御ユニットのブロック図、図2はメインルーチンのフローチャート、図3はメインルーチンのステップS6のサブフロー、図4はメインルーチンのステップS12のサブフロー、図5は追従走行制御開始時の作用説明図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態の走行制御装置は、自車の前端に先行車を検知可能なレーダー装置Saを備え、先行車を検知した場合には先行車に対して一定の車間距離を保って追従走行する追従走行制御を行うとともに、先行車を検知しない場合には予めセットされたセット車速で定速走行制御を行う、いわゆるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)制御を行うものであり、更に渋滞時には、先行車の発進に続いて自車の運転者がスタートスイッチSdを押すと、先行車の発進・停車に応じて自車を自動的に発進・停車させる、いわゆる渋滞追従制御を行うものである。
【0021】
走行制御装置の電子制御ユニットUは、送信出力制御手段M1と、追従走行制御手段M2と、報知手段M3とを備えており、送信出力制御手段M1には自車の車速を検出する車速センサSbと、自車のヨーレートを検出するヨーレートセンサScと、渋滞追従走行制御を開始を指令するスタートスイッチSdと、追従走行制御手段M2と、報知手段M3とが接続される。また追従走行制御手段M2には、レーダー装置Saと、スタートスイッチSdと、報知手段M3とが接続される。また報知手段M3には車速センサSbと、ヨーレートセンサScと、レーダー装置Saと、運転者に報知を行うためのスピーカIおよびディスプレイDとが接続される。
【0022】
送信出力制御手段M1は、車速センサSbで検出した車速が所定の閾値以下であり、かつヨーレートセンサScで検出したヨーレートが所定の閾値以下である場合に、自車が実質的に停車していると判断し、レーダー装置Saの送信出力を走行中のパワーアップモード(高出力モード)から停車中のパワーダウンモード(低出力モード)に切り換える。その一つの理由は、走行風によるレーダー装置Saの冷却が期待できない停車中にパワーアップモードにすると、レーダー装置Saが過熱して耐久性が低下する可能性があるからであり、また他の理由は、近距離で歩行者に強いレーザービームが照射されるのを防止するために、停車中のパワーダウンモードに切り換えることが法的に義務つけられている場合である。
【0023】
また送信出力制御手段M1は、渋滞追従システムの制御開始時に停車中の先行車が移動を開始した場合、あるいは停車中の先行車から自車が所定車間距離よりも大きく離れて停車した場合に、先行車をロストしないようにパワーダウンモードからパワーアップモードに切り換えることで、先行車をロストしないようにして渋滞追従制御にスムーズに移行できるようにする機能を備える。
【0024】
また報知手段M3はレーダー装置Saで検知した先行車の停止・走行状態と、車速センサSbおよびヨーレートセンサScで検出した自車の停車状態とから、先行車に対する追従走行制御が可能になったことを運転者に報知する。この報知は、スピーカIが発する音声と、ディスプレイDの表示とにより行われる。
【0025】
また追従走行制御手段M2は、レーダー装置Saで検知した先行車の停止・走行状態と、運転者が渋滞追従制御を開始すべく操作するスタートスイッチSdと、報知手段M3からの追従走行制御が可能になったことの報知とに基づいて、先行車に対する追従走行制御を開始させる。
【0026】
前記送信出力制御手段M1、追従走行制御手段M2および報知手段M3の機能を、以下にフローチャートに基づいて更に詳細に説明する。
【0027】
先ず、図2のフローチャートのステップS1で車速センサSbおよびヨーレートセンサScによって自車の車速およびヨーレートを検出し、ステップS2で車速およびヨーレートの少なくとも一方が閾値以下でなく自車が停車していると判断されない場合、あるいは自車が停車していると判断された場合でも、ステップS3で停車後1秒が経過しない場合、つまり自車の走行中と、自車の停車後1秒以内は、ステップS10で後述するパワーアップカウンタを0カウントに設定し、ステップS11で走行時出力(高出力のパワーアップモード)でレーダー装置Saを作動させ、ステップS12で後から詳述する走行中制御サブフローに移行する。つまり、自車の走行中と、走行を停止してから1秒が経過するまでは、レーダー装置Saの出力はパワーアップモードとされる。
【0028】
前記ステップS2で自車が停車しており、前記ステップS3でその状態が1秒継続すると、ステップS4でパワーアップフラグの状態を確認する。パワーアップフラグとはレーダー装置Saの送信出力の状態を示すもので初期値は「0」に設定されており、パワーアップフラグ=「1」はパワーアップモードに対応し、パワーアップフラグ=「0」はパワーダウンモードに対応する。前記ステップS4でパワーアップフラグ=「0」(パワーダウンモード)であれば、ステップS5でレーダー装置Saをパワーダウンモードで作動させ、ステップS6で停車中制御サブフローに移行する。
【0029】
また前記ステップS4でパワーアップフラグ=「1」(パワーアップモード)であれば、ステップS7でパワーアップカウンタを1インクリメントし、ステップS8でパワーアップカウンタが30カウント以下であれば、ステップS9でレーダー装置Saをパワーアップモードで作動させ、パワアップカウンタが31カウントに達していれば、前記ステップS5でレーダー装置Saをパワーダウンモードで作動させ、前記ステップS6に移行して停車中制御サブフローに移行する。
【0030】
つまり、パワーアップフラグが初期値の「0」である場合には、自車が停車して1秒が経過すると即座にパワーダウンモードになるが、パワーアップフラグが「1」になった後は、自車が停車して1秒が経過しても即座にパワーダウンモードにならず、パワーアップカウンタが31カウントしたときに初めてパワーダウンモードになる。
【0031】
前記ステップS6(停車中制御サブフロー)の詳細を示す図3のフローチャートのステップS21でレーダー装置Saによりターゲットからの反射波を検知し、反射レベル、距離、左右位置および相対速度を算出する。続くステップS22で先行車となるターゲットが存在しなければ、ステップS32でパワーアップカウンタを0カウントにし、ステップS33でパワーアップフラグを「0」にし、ステップS34でシステム制御をキャンセルする。
【0032】
前記ステップS22で先行車となるターゲットが存在し、かつステップS23で先行車が移動していれば、あるいは前記ステップS23で先行車が移動していなくても、ステップS28で先行車までの車間距離が設定車間距離を超えていれば、ステップS24で先行車に対する追従走行制御が可能なことをスピーカIおよびディスプレイDで運転者に報知し、ステップS25でパワーアップフラグを「1」にセットする。そしてステップS26で追従走行制御のスタートスイッチSdが押されれば、ステップS27で先行車に対する追従走行制御が開始される。
【0033】
前記ステップS28で先行車の車間距離が設定車間距離以下であれば、ステップS29でパワーアップカウンタを0カウントにし、ステップS30でパワーアップフラグを「0」にし、ステップS31で自車を停車状態に保持する。また前記ステップS26で追従走行制御のスタートスイッチSdが押されなければ、前記ステップS31で自車を停車状態に保持する。
【0034】
前記ステップS12(走行中制御サブフロー)の詳細を示す図4のフローチャートのステップS41でレーダー装置Saによりターゲットからの反射波を検知し、反射レベル、距離、左右位置および相対速度を算出する。続くステップS42で先行車となるターゲットが存在すれば、ステップS43で前記先行車に対する追従走行制御を実行する。前記ステップS42で先行車となるターゲットが存在しない場合、ステップS44で自車の車速が40km/h以上であり、かつステップS45でセット車速(定速走行制御の目標車速)がセットされていてば、ステップS46で前記セット車速での定速走行制御が実行される。
【0035】
また前記ステップS42で先行車が存在せず、前記ステップS44で自車の車速が40km/h未満である場合、あるいは前記ステップS44で自車の車速が40km/h以上であっても、前記ステップS45でセット車速がセットされていない場合には、ステップS47でシステム制御がキャンセルされる。
【0036】
以上のように、図3のステップS22で先行車となるターゲットが存在し、かつステップS23で先行車が移動していれば、あるいはステップS23で先行車が移動していなくても、ステップS28で先行車の車間距離が設定車間距離を超えていれば、ステップS24で先行車に対する追従走行制御が可能なことを運転者に報知し、ステップS25でパワーアップフラグを「1」にセットするので、図2のステップS4でパワーアップフラグが「1」になり、ステップS8でパワーアップカウンタが31カウントするまでの所定時間(たとえば、3秒)、ステップS8でパワーアップモードでレーダー装置Saを作動させることができる。
【0037】
これにより、先行車に対する追従走行制御が可能なことを運転者に報知した後に、運転者が追従走行制御のスタートスイッチSdを押すのが多少遅れても、パワーアップモードが所定時間継続するため、レーダー装置Saが先行車をロストして追従走行制御にスムーズに移行できなくなる事態を回避することができる。
【0038】
また先行車に対する追従走行制御が可能なことを運転者に報知した後に、前記所定時間が経過しても運転者が追従走行制御のスタートスイッチSdを押さない場合は、運転者が追従走行制御を行う意思がない場合であるが、このような場合には自車が発進しない限り前記所定時間が経過するとパワーダウンモードに戻るので、レーダー装置Saが不要なパワーアップモードを継続するのを防止することができる。
【0039】
上記作用を図5の作用説明図に基づいて更に説明する。
【0040】
図5(A)で停車している先行車に対して自車が接近して停車するまで、自車のレーダー装置Saの出力はパワーアップモードになっているが、図5(B)で自車が停車するとレーダー装置Saの出力はパワーダウンモードになる。ここまでは,図10で説明した従来例と同じである。この状態から、図5(C)に示すように先行車が発進すると、直ちにパワーダウンモードからパワーアップモードに移行するため、図5(D)に示すように先行車をロストすることがない。よって、先行車が発進してから運転者が追従走行制御のスタートスイッチSdを押すまでに若干の遅れがあっても、図5(E)に示すように先行車に対する追従走行制御に確実に移行することができる。
【0041】
図6〜図9は本発明の第2の実施の形態を示すもので,図6はメインルーチンのフローチャート、図7はメインルーチンのステップS55のサブフロー、図8はメインルーチンのステップS58のサブフロー、図9は追従走行制御開始時の作用説明図である。
【0042】
第1の実施の形態は,自車の停車中にレーダー装置Saの送信出力をパワーアップモードにすることが法規上可能な場合に適用することができるが、自車の停車中にレーダー装置Saの送信出力をパワーダウンモードにすることが法規上義務つけられている場合には適用することができない。第2の実施の形態は、自車の停車中にレーダー装置Saの送信出力をパワーダウンモードにすることが法規上義務つけられている場合の対策である。
【0043】
先ず、図6のフローチャートのステップS51で車速センサSbおよびヨーレートセンサScによって自車の車速をおよびヨーレートを検出し、ステップS52で車速およびヨーレートが共に閾値以下であって自車が停車していると判断され、かつステップS53で停車後1秒が経過した場合、ステップS54でパワーダウンモードでレーダー装置Saを作動させ、ステップS55で停車中制御サブフローに移行する。
【0044】
前記ステップS52で車速およびヨーレートの少なくとも一方が閾値以下でなく自車が停車していないと判断された場合、あるいは自車が停車していると判断された場合であっても、ステップS53で停車後1秒が経過しない場合には、ステップS56でパワーアップモードでレーダー装置Saを作動させる。そしてステップS57でパワーアップフラグが「1」であれば、ステップS58で微小移動制御サブフローに移行し、パワーアップフラグが「1」なければ、ステップS59で走行中制御サブフローに移行する。
【0045】
前記ステップS55(停車中制御サブフロー)の詳細を示す図7のフローチャートのステップS61でレーダー装置Saによりターゲットからの反射波を検知し、反射レベル、距離、左右位置および相対速度を算出し、ステップS62でパワーアップカウンタを0カウントに設定する。続くステップS63で先行車となるターゲットが存在しなければ、ステップS74でパワーアップフラグを「0」にセットし、ステップS75でシステム制御をキャンセルする。
【0046】
前記ステップS63で先行車となるターゲットが存在し、かつステップS64で先行車が移動していれば、あるいは前記ステップS64で先行車が移動していなくても、ステップS69で先行車までの車間距離が設定車間距離を超えていれば、ステップS65で先行車に対する追従走行制御が可能なことを運転者に報知する。続くステップS66で追従走行制御のスタートスイッチSdが押されれば、ステップS67でパワーアップフラグを「0」にセットし、ステップS68で先行車に対する追従走行制御が開始される。
【0047】
前記ステップS69で先行車の車間距離が設定車間距離以上であれば、ステップS70でパワーアップフラグを「0」にセットし、ステップS71で自車を停車状態に保持する。また前記ステップS66でスタートスイッチSdが押されない場合、ステップS72で先行車との車間距離が2m以上であれば、ステップS73でパワーアップフラグを「1」にセットして前記ステップS68で追従走行制御を開始する。前記ステップS72で先行車との車間距離が2m以上でなければ、前記ステップS71で自車を停車状態に保持する。
【0048】
前記ステップS58(微小移動制御サブフロー)の詳細を示す図8のフローチャートのステップS81でレーダー装置Saによりターゲットからの反射波を検知し、反射レベル、距離、左右位置および相対速度を算出する。続くステップS82で先行車となるターゲットが存在する場合、ステップS83でスタートスイッチSdが押されれば、ステップS84でパワーアップカウンタを0カウントに設定し、ステップS85でパワーアップフラグを「0」にセットし、ステップS86で微小移動制御を実行する。
【0049】
前記ステップS83でスタートスイッチSdが押されなければ、ステップS87で1サイクル(例えば100ms)の移動距離を車速から算出し、ステップS88でパワーアップカウンタに移動距離を加算し、パワーアップカウンタのカウント値が0.2m未満であれば,前記ステップS86で微小移動制御を実行し、0.2m以上であれば,ステップS90で停車制御を実行する。
【0050】
また前記ステップS82で先行車となるターゲットが存在しなければ、ステップS91でパワーアップカウンタを0カウントに設定し、ステップS92でパワーアップフラグを「0」にセットし、ステップS93で停車制御を実行し、ステップS94でシステム制御をキャンセルする。
【0051】
尚、図6のメインルーチンのステップS59のサブフロー(走行中制御サブフロー)は、第1の実施の形態の図2のメインルーチンのステップS12のサブフロー(図4参照)と同一内容のため、その重複する説明は省略する。
【0052】
以上のように、第2の実施の形態によれば、停車中に先行車に対する追従走行制御が可能になると、運転者に追従走行制御が可能になったことを報知して、自車を微小距離(例えば0.2m)ゆっくりと前進させ、自車の移動に伴ってパワーダウンモードからパワーアップモードに切り換える。自車が0.2m移動する間に運転者がスタートスイッチSdを押せば追従走行制御に移行し、スタートスイッチSdを押さなければ、0.2mの移動後に停車状態になってパワーダウンモードに復帰する。このように、運転者に追従走行制御が可能になったことを報知した後、自車が微小距離ゆっくりと前進することで、運転者にスタートスイッチSdの操作を促すことができ、追従走行制御への移行を一層確実に行うことができる。
【0053】
図9(A)で停車している先行車に対して自車が接近して停車するまで、自車のレーダー装置Saの出力はパワーアップモードになっているが、図9(B)で自車が停車するとレーダー装置Saの出力はパワーダウンモードになる。ここまでは、図10で説明した従来例と同じである。この状態から、図9(C)に示すように先行車が発進して追従走行制御が可能になると、自車も直ちに微小距離前進し、それと同時にパワーアップモードに移行する。パワーダウンモードからパワーアップモードに移行するとき、自車はすでに移動中であるために法規上の問題は発生しない。これにより、図9(D)に示すように先行車をロストすることがなくなり、先行車が発進してから運転者が追従走行制御のスタートスイッチSdを押すまでに若干の遅れがあっても、自車が0.2m移動するまでの期間にスタートスイッチSdを押せば、図9(E)に示すように先行車に対する追従走行制御に確実に移行することができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0055】
例えば、実施の形態では車速センサSbおよびヨーレートセンサScの出力に基づいて自車が停車状態にあることを検出しているが、ヨーレートセンサScは必ずしも必要でない。
【0056】
また実施の形態では運転者が追従走行制御に移行しようとする意思をスタートスイッチSdで検出しているが、それをアクセルペダルの踏み込みで検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1の実施の形態に係る車両の走行制御装置の電子制御ユニットのブロック図
【図2】メインルーチンのフローチャート
【図3】メインルーチンのステップS6のサブフロー
【図4】メインルーチンのステップS12のサブフロー
【図5】追従走行制御開始時の作用説明図
【図6】第2の実施の形態に係るメインルーチンのフローチャート
【図7】メインルーチンのステップS55のサブフロー
【図8】メインルーチンのステップS58のサブフロー
【図9】追従走行制御開始時の作用説明図
【図10】従来例の追従走行制御開始時の作用説明図
【符号の説明】
【0058】
Sa レーダー装置
Sb 車速センサ
Sd スタートスイッチ(検出手段)
M1 送信出力制御手段
M2 追従走行制御手段
M3 報知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車に搭載されて自車進行方向前方に存在する先行車との距離を検知可能なレーダー装置(Sa)と、
自車の車速を検出する車速センサ(Sb)と、
検出された車速がほぼ停車状態を示す所定の閾値以下の場合に、前記レーダー装置(Sa)の送信出力を走行時送信出力よりも低い停車時送信出力とする送信出力制御手段(M1)と、
前記レーダー装置(Sa)による検知結果に基づいて先行車に対する追従走行制御を行う追従走行制御手段(M2)と、
を備えた車両の走行制御装置において、
自車停車中に前記レーダー装置(Sa)により自車と先行車との距離の増加が検出された場合、あるいは自車停車時に前記レーダー装置(Sa)により検知された先行車との距離が所定値よりも大きい場合に、乗員に対して追従走行制御が可能なことを報知する報知手段(M3)を備え、
前記送信出力制御手段(M1)は、前記報知手段(M3)による報知後に、前記レーダー装置(Sa)の送信出力を前記停車時送信出力よりも増加させることを特徴とする車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記追従走行制御手段(M2)は、前記報知手段(M3)により報知が行われた場合に自車を微小距離前進移動させる微小距離移動制御を行い、
前記送信出力制御手段(M1)は、前記微小距離移動制御中において前記レーダー装置(Sa)の送信出力を前記停車時送信出力よりも増加させることを特徴とする、請求項1に記載の車両の走行制御装置。
【請求項3】
乗員による追従走行制御開始の指令操作を検出する検出手段(Sd)を備え、
前記追従走行制御手段(M2)は、前記報知手段(M3)による報知から所定時間以内に乗員による追従走行制御開始の指令操作が検出された場合には、先行車に対する追従走行制御を開始することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記送信出力制御手段(M1)は、前記報知手段(M3)による報知から所定時間以内に乗員による追従走行制御開始の指令操作が検出されない場合には、前記レーダー装置(Sa)の送信出力を前記停車時送信出力とすることを特徴とする、請求項3に記載の車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記送信出力制御手段(M1)は、前記追従走行制御手段(M2)による前記微小距離移動制御中に乗員による追従走行制御開始の指令操作が検出されない場合には、前記微小距離移動制御終了時に前記レーダー装置(Sa)の送信出力を前記停車時送信出力とすることを特徴とする、請求項2に記載の車両の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−128275(P2009−128275A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305475(P2007−305475)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】