説明

車両の運転支援装置

【課題】車両旋回走行時における内輪差を運転者に意識させる表示を行うことにより、内輪差に起因する車体の接触を防止することができる運転支援装置を提供する。
【解決手段】車両の旋回中心点から水平方向で最も離れた車両の所定部位P1と旋回中心OTCとの水平方向の距離r1と、車両の旋回方向内側後輪と旋回中心OTCとの水平方向の距離r3の平均距離rAVを操舵角θSTに応じて算出し、旋回中心OTCから水平方向に平均距離rAVだけ離れた仮想車両中心の軌跡LAVを予測する。車両の客室内の、運転者の前方の内装部材に、予測した仮想車両中心軌跡LAVを示すガイド線LGを表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の車両の運転支援装置に関し、特に車両の旋回走行時における運転支援のための表示を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の運転者を支援するための光学式コーナポール装置が示されている。この装置によれば、運転者と逆側のフロントバンパ端部を示すコーナポールの像がヘッドアップディスプレイを用いて表示される。
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2518179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の旋回走行時には、いわゆる内輪差があるために、狭い道路での旋回時に車体を旋回方向内側に位置する障害物に擦ってしまうおそれがある。この内輪差に起因する車体と障害物との接触は、上記光学式コーナポールでは防ぐことは困難である。
【0005】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、車両旋回走行時における内輪差を運転者に意識させる表示を行うことにより、内輪差に起因する車体の接触を防止することができる運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、車両に搭載され、運転者の運転を支援する運転支援装置において、前記車両の操舵輪の操舵角(θST)を検出する操舵角検出手段と、前記車両の旋回中心点から水平方向で最も離れた前記車両の所定部位(P1)と前記旋回中心点(OTC)との水平方向の距離(r1)と、前記車両の旋回方向内側後輪と前記旋回中心点との水平方向の距離(r3)の平均距離(rAV)を前記操舵角(θST)に応じて算出し、前記旋回中心点から水平方向に前記平均距離(rAV)だけ離れた仮想車両中心の軌跡(LAV)を予測する仮想中心軌跡演算手段と、前記車両の客室内に設けられ、前記仮想車両中心の軌跡(LAV)を示すガイド線(LG)を前記運転者の前方の内装部材に表示する表示手段とを有することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、車両に搭載され、運転者の運転を支援する運転支援装置において、前記車両の方向指示器の作動を検出する作動検出手段(14)と、前記車両の最大舵角時の旋回中心点(OTC)から水平方向で最も離れた前記車両の所定部位(P1)と前記旋回中心点との水平方向の距離(r1)と、前記車両の旋回方向内側後輪と前記旋回中心点との水平方向の距離(r3)の平均距離(rAVMIN)を算出し、前記旋回中心点から水平方向に前記平均距離(rAVMIN)だけ離れた仮想車両中心の軌跡(LAVMIN)を予測する仮想中心軌跡演算手段と、前記車両の客室内に設けられ、前記作動検出手段(14)により方向指示器の作動が検出されたときに、前記仮想車両中心軌跡(LAVMIN)の方向を示すガイド線(LG)を、前記運転者の前方の内装部材に表示する表示手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、旋回走行時における仮想車両中心の軌跡が予測され、予測された軌跡を示すガイド線が運転者の前方の内装部材に表示される。したがって、仮想車両中心の軌跡が旋回方向内側に移動することを運転者が視覚的に確認し、内輪差を意識した操舵を行うことにより、車体の接触を防止することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、方向指示器の作動が検出されると、最大舵角時の仮想車両中心の軌跡が予測され、予測された軌跡を示すガイド線が内装部材に直ちに表示される。したがって、運転者は内輪差が最も大きくなった状態を前もって意識しつつ操舵を行い、車体の接触を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は本発明の一実施形態にかかる車両(自動車)の運転支援装置の構成を示すブロック図である。また図2は本実施形態における運転支援装置の動作を説明するための平面図であり、図3及び図4は運転支援装置により表示されるガイド線の表示例を示す図である。
【0011】
本明細書では、当該車両が走行している道路面から所定高さH0(例えば80cm)の平面であって、道路面と平行な平面を「対象平面」と定義し、この対象平面を基準平面として用いる。所定高さH0は、ガイド線の表示を行うインストルメントパネル(内装部材)の高さと同程度の高さとする。
【0012】
本実施形態では、車両が旋回走行する際の旋回中心点OTCから水平方向で最も離れた所定部位(通常の自動車では、旋回方向と反対側のフロントバンパ端部に相当する)P1の走行軌跡L1の半径(=旋回中心点OTCから所定部位P1までの水平方向距離)r1と、旋回方向内側後輪の、旋回中心点に最も近い端部P2の走行軌跡L3の半径(=旋回中心点OTCから端部P2までの水平方向距離)r3の平均値を平均距離rAVとして算出する。この平均距離rAVは、図2に示す仮想的な車幅WA(=r1−r3)の中心、すなわち仮想車両中心の軌跡LAVを特定するパラメータとなる。そして、対象平面上の仮想中心軌跡LAVを示すガイド線LGを、図3及び図4に示すように、運転者の前方のインストルメントパネルの表面に表示する。このガイド線LGの表示は、車室の天井部に設けたプロジェクタ(図4,表示装置15)によってスリット光を照射することにより行われる。
【0013】
ガイド線LGは、当該車両のステアリングホイール(操舵輪)の操舵角θSTが大きくなるほど旋回方向内側に移動するので、ガイド線LGを表示することにより、運転者は内輪差による仮想車両中心の移動を容易に認識することができる。なお、図2において旋回方向内側前輪の走行軌跡L2の半径r2と、端部P2の走行軌跡L3の半径r3と差(r2−r3)が、内輪差に相当する。
【0014】
図1に示す運転支援装置は、制御装置11と、当該車両のステアリングホイール(操舵輪)の操舵角θSTを検出する操舵角センサ12と、当該車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ13、ウインカのオンオフ切換を行うウインカスイッチ14と、表示装置15とを備えている。操舵角θSTは、左方向への操舵角を正値とし、右方向への操舵角を負値として検出される。
【0015】
操舵角センサ12及び車速センサ13の検出信号、並びにウインカスイッチ14の切換信号は、制御装置11に供給される。制御装置11は、入力回路、CPU(中央演算処理装置)、メモリ、出力回路を備えた電子制御装置であり、入力される信号に応じて表示装置15の表示制御を行う。
【0016】
表示装置15は、図4に示すように、車室の天井部に取り付けられたプロジェクタであり、図3及び図4に示すように運転者の前方の、車室内の内装部材にガイドラインLGを表示する。
【0017】
図5は、制御装置11のCPUで実行される表示制御処理のフローチャートである。この処理は所定時間(例えば30ミリ秒)毎に実行される。
ステップS11では車速VPが所定車速VP0(例えば30km/h)以上であるか否かを判別する。この答が否定(NO)であるときは、ウインカスイッチ14がオフ状態であるか否かを判別する(ステップS12)。ステップS11またはS12の答が肯定(YES)であるとき、すなわちVP≧VP0またはウインカスイッチ14がオフ状態であるときは、直ちに本処理を終了する。
【0018】
ステップS12でウインカスイッチ14がオン状態であるときは、操舵角θSTを検出し(ステップS13)、操舵角θSTの絶対値が所定角度θST0(例えば10度)以下であるか否かを判別する(ステップS14)。
【0019】
ステップS14の答が肯定(YES)であるときは直ちに本処理を終了する。ステップS14で|θST|>θST0であるときは、図5に示す表示対象演算処理を実行し(ステップS15)、その演算結果に基づいて表示装置15に制御信号を出力する(ステップS16)。
【0020】
図6は、図5のステップS15で実行される表示対象演算処理のフローチャートである。
ステップS21では、操舵角θSTの絶対値を、当該車両前輪の旋回方向内側の舵角(以下「内側車輪舵角」という)θISに変換する。操舵角θSTの絶対値と、内側車輪舵角θISとが比例するときは、「1」より小さい係数を乗算することにより変換を行う。また、θSTとθISとの関係が線形でないときは、操舵角θSTの絶対値から内側車輪舵角θISを算出するためのテーブルを作成しておき、テーブル検索により算出する。
【0021】
ステップS22では、仮想車両中心軌跡LAVを推定する。具体的には、内側車輪舵角θISに応じて図7に実線で示すrAVテーブル及びr3テーブルを検索し、仮想車両中心軌跡LAVの半径rAV及び走行軌跡L3の半径r3を算出する。図7には、参考のために半径r1と、内側車輪舵角θISとの関係が破線で示されている。
【0022】
半径rAV及びr3が算出されると、旋回中心OTCの位置は、当該車両に固定した座標系(後輪車軸をx軸とし、後輪車軸の中点においてx軸と直交する直線をy軸とする座標系)を用いて表すことができる。すなわち、端部P2の座標は既知であるので(xP2,0)とすると、旋回中心OTCの座標は(xP2−r3,0)となる。よって、この旋回中心OTCの座標及び半径rAVによって、仮想車両中心軌跡LAVを特定することができる。
なお、xP2は固定値であるので、旋回中心OTCの座標を求めなくても、半径rAV及びr3によって仮想車両中心軌跡LAVを特定するようにしてもよい。内側車両舵角θIS(操舵角θST)と、半径rAV及びr3との関係は図7に示すように既知であるので、内側車両舵角θIS(操舵角θST)のみにより仮想車両中心軌跡LAVを特定するようにしてもよい。
【0023】
表示装置15は、制御装置11から供給される旋回中心OTCの座標及び半径rAVを示す情報に応じて、例えば図3または図4に示すようにガイド線LGの表示を行う。図3に示すガイド線LGは左旋回時に対応し、図4に示すガイド線LGは右旋回時に対応する。
【0024】
以上のように本実施形態では、旋回走行時における仮想車両中心の軌跡LAVが予測され、軌跡LAVを示すガイド線LGが運転者の前方の内装部材に表示される。したがって、仮想車両中心の軌跡LAVが旋回方向内側に移動することを運転者が視覚的に確認し、内輪差を意識した操舵を行うことにより、車体の接触を防止することができる。
【0025】
本実施形態では、操舵角センサ12が操舵角検出手段に相当し、表示装置15が表示手段に相当する。制御装置11が仮想中心軌跡演算手段を構成する。具体的には、図6のステップS21及び22が仮想中心軌跡演算手段に相当する。
【0026】
[第2の実施形態]
本実施形態は、ウインカスイッチ14がオンされたときは、操舵角θSTの大きさに拘わらず、内側車輪舵角θISが、最大操舵角θSTMAXに対応する最大内側車輪舵角(最大舵角時の内側車輪舵角)θMAX(図7参照)であるときの仮想車両中心の軌跡LAVMIN(半径rAVMIN)を算出し、その軌跡LAVMINを示すガイド線LGを、表示装置15により表示するようにしたものである。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0027】
本実施形態では、図5の処理に代えて図8に示す処理により、表示装置15の表示制御が行われる。
図8は、図5のステップS13及びS14を削除し、ステップS15をステップS15aに変更したものである。図8において、ステップS12の答が否定(NO)、すなわちウインカスイッチ14がオンされたときは、直ちにステップS15aに進む。ステップS15aでは、最大舵角時の仮想車両中心軌跡LAVMINの半径rAVMIN及び半径r3を算出する(実際には単にメモリから読み出す)。
【0028】
本実施形態では、ウインカスイッチ14が操作されると、最大舵角時の仮想車両中心軌跡LAVMINを示すガイド線LGが、内装部材に表示されるので、運転者は内輪差が最も大きくなった状態を前もって意識しつつ操舵を行い、車体の接触を防止することができる。
【0029】
本実施形態では、ウインカスイッチ14が作動検出手段に相当し、表示装置15が表示手段の一部に相当し、制御装置11が仮想中心軌跡演算手段及び表示手段の一部を構成する。具体的には、図8のステップS15aが仮想中心軌跡演算手段に相当し、ステップS12及びS16が表示手段の一部に相当する。
【0030】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、第1の実施形態(図5の処理)では、操舵角θSTの絶対値が所定角度θST0より大きいときのみ、ガイド線LGを表示するようにしたが、ステップS14を削除してステップS13から直接ステップS15に進むように構成し、操舵角θSTの大きさに拘わらずガイド線LGを表示するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態にかかる運転支援装置の構成を示す図である。
【図2】運転支援装置の動作を説明するための平面図である。
【図3】運転支援装置により表示されるガイド線の表示例を示す図である。
【図4】図1に示す表示装置の設置位置を示す図である。
【図5】図1に示す制御装置で実行される表示制御処理のフローチャートである(第1の実施形態)。
【図6】図5の処理で実行されるサブルーチンのフローチャートである。
【図7】図6の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図8】図1に示す制御装置で実行される表示制御処理のフローチャートである(第2の実施形態)。
【符号の説明】
【0032】
11 制御装置(仮想中心軌跡演算手段、表示手段)
12 操舵角センサ(操舵角検出手段)
14 ウインカスイッチ(作動検出手段)
15 表示装置(表示手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、運転者の運転を支援する運転支援装置において、
前記車両の操舵輪の操舵角を検出する操舵角検出手段と、
前記車両の旋回中心点から水平方向で最も離れた前記車両の所定部位と前記旋回中心点との水平方向の距離と、前記車両の旋回方向内側後輪と前記旋回中心点との水平方向の距離の平均距離を前記操舵角に応じて算出し、前記旋回中心点から水平方向に前記平均距離だけ離れた仮想車両中心の軌跡を予測する仮想中心軌跡演算手段と、
前記車両の客室内に設けられ、前記運転者の前方の内装部材に、前記仮想車両中心の軌跡を示すガイド線を表示する表示手段とを有することを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
車両に搭載され、運転者の運転を支援する運転支援装置において、
前記車両の方向指示器の作動を検出する作動検出手段と、
前記車両の最大舵角時の旋回中心点から水平方向で最も離れた前記車両の所定部位と前記旋回中心点との水平方向の距離と、前記車両の旋回方向内側後輪と前記旋回中心点との水平方向の距離の平均距離を算出し、前記旋回中心点から水平方向に前記平均距離だけ離れた仮想車両中心の軌跡を予測する仮想中心軌跡演算手段と、
前記車両の客室内に設けられ、前記作動検出手段により方向指示器の作動が検出されたときに、前記仮想車両中心の軌跡を示すガイド線を、前記運転者の前方の内装部材に表示する表示手段とを有することを特徴とする運転支援装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−154727(P2009−154727A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335451(P2007−335451)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】