車両の障害物検知装置
【課題】車両前方の物体が障害物であるか否かを早期に且つ的確に判定する。
【解決手段】物体検出センサ4が車両1に対する物体の位置情報を検出する度に、その位置情報をECU5が逐次記憶する。物体検出センサ4が物体を検知すると、ECU5は、車速センサ2が検出した車速及び回転角速度センサ3が検出したヨーレイトから車両1の予想進路を推定するとともに、その物体の過去の位置情報が記憶されているか否かを判定し、物体の過去の位置情報が記憶されていると判定した場合、過去の位置情報が示す物体の過去の位置と推定した予想進路とに基づいて、物体が車両1と衝突する可能性がある障害物であるか否かを判定する。
【解決手段】物体検出センサ4が車両1に対する物体の位置情報を検出する度に、その位置情報をECU5が逐次記憶する。物体検出センサ4が物体を検知すると、ECU5は、車速センサ2が検出した車速及び回転角速度センサ3が検出したヨーレイトから車両1の予想進路を推定するとともに、その物体の過去の位置情報が記憶されているか否かを判定し、物体の過去の位置情報が記憶されていると判定した場合、過去の位置情報が示す物体の過去の位置と推定した予想進路とに基づいて、物体が車両1と衝突する可能性がある障害物であるか否かを判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される障害物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平11−23705号公報には、自車の車速を検出する車両検出手段の検出値と、レーダの探知結果に基づいて車両の進行方向に存在する物体との相対距離を演算する相対距離演算手段の演算値と、レーダの探知結果に基づいて自車の車幅方向の自車及び物体のオーバーラップ量を演算するオーバーラップ量演算手段の演算値とに基づいて、レーダで探知された物体が障害物であるか否かを障害物判定手段が判定する車両の障害物検知装置が開示されている。
【0003】
障害物判定手段は、オーバーラップ量演算手段が演算したオーバーラップ量と、相対距離演算手段が演算した相対距離と、車速検出手段が検出した車速とに基づいて、レーダが探知した物体を回避するために自車と物体との間に必要とされる限界の距離を演算し、この演算した距離に基づいて定められる第1の設定距離と相対距離演算手段が演算した相対距離とを比較する。比較の結果、相対距離が第1の設定距離以下の場合に報知手段によって警報が発せられる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−23705号公報
【特許文献2】特開平9−175295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特開平11−23705号公報に開示された装置では、例えば、前方がカーブする直線道路の前方延長線上に道路から外れて静止した物体(例えば看板や標識など)が存在する場合、走行中の車両のレーダが物体を探知し、障害物判定手段が物体を誤って障害物と判定してしまう可能性がある。すなわち、車両が直線道路からカーブに進入すると、オーバーラップ量演算手段が演算するオーバーラップ量が徐々に減少するが、車速やカーブの曲率や物体の位置によっては、車両がカーブに進入した後の旋回初期段階においてオーバーラップ量が充分に減少せず、障害物ではない物体を誤って障害物と判定してしまい、警報が発せられてしまう。
【0006】
この警報は、カーブ内への車両の進入が進み、オーバーラップ量が充分に減少することによって停止され得るが、明らかに障害物ではないことが目視によって認識可能な物体によって警報が発せられると、車両の運転者に違和感や煩わしさを感じさせてしまう。
【0007】
また、レーダの検出精度には限界があり、オーバーラップ量演算手段がオーバーラップ量を厳密に演算することはできない。このため、障害物判定手段は、レーダの検出誤差を考慮して物体が障害物であるか否かを判定する必要があり、上記旋回初期段階において物体が障害物ではないと判定することは極めて困難である。
【0008】
そこで、本発明は、車両前方の物体が障害物であるか否かを早期に且つ的確に判定することが可能な障害物検知装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明の障害物検知装置は、物体検出手段と車両情報検出手段と記憶手段と記憶制御手段と物体判定手段と進路推定手段と衝突判定手段とを備える。
【0010】
物体検出手段は、車両の進行方向前方に存在する物体を所定時間毎に検知するとともに当該検知した物体の当該車両に対する位置情報を検出する。車両情報検出手段は、車両の走行状態情報を検出する。記憶制御手段は、物体検出手段が物体を検知したとき、物体検出手段が検出した位置情報を前記記憶手段に逐次記憶する。
【0011】
物体判定手段は、物体検出手段が物体を検知したとき、当該物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されているか否かを判定する。進路推定手段は、物体検出手段が物体を検知したとき、車両情報検出手段が検出した走行状態情報に基づいて、車両の予想進路を推定する。
【0012】
衝突判定手段は、物体検出手段が物体を検知し、且つ当該物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されていると物体判定手段が判定したとき、当該過去の位置情報が示す物体の過去の位置と進路推定手段が推定した予想進路とに基づいて、物体が車両と衝突する可能性がある障害物であるか否かを判定する。
【0013】
上記構成では、物体検出手段が車両に対する物体の位置情報を検出する度に、その位置情報を記憶制御手段が記憶手段に逐次記憶する。
【0014】
また、物体検出手段が物体を検知すると、物体判定手段は、その物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されているか否かを判定し、進路推定手段は、車両情報検出手段が検出した走行状態情報に基づいて、車両の予想進路を推定し、衝突判定手段は、物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されていると物体判定手段が判定した場合、過去の位置情報が示す物体の過去の位置と進路推定手段が推定した予想進路とに基づいて、物体が車両と衝突する可能性がある障害物であるか否かを判定する。
【0015】
従って、例えば、前方がカーブする直線道路の前方延長線上に道路から外れて静止した物体(例えば看板や標識など)が存在する場合、車両が直線道路を走行している間は、車両の進行方向の延長線上又はその近傍に常に物体が存在し、物体の過去の位置情報が示す物体の過去の位置は、車両の予想進路と一致又は近接する。このため、車両が直線道路を走行している間は、物体が検知される度に、物体は障害物と判定される。
【0016】
続いて、車両が直線道路からカーブへ進入した旋回初期段階では、車両は旋回走行を開始し、車両の予想進路は物体から離間していくが、物体は車両の進行方向の延長線上又はその近傍に未だ存在しており、物体は予想進路から充分に離間しない。このため、物体が障害物か否かの判定を物体の現在の位置と予想進路とに基づいて行うと、物体が障害物であると継続して判定されてしまう可能性が高い。
【0017】
これに対し、本発明では、物体が障害物か否かを、物体の過去の位置と予想進路とに基づいて判定しており、この物体の過去の位置は、現在の位置よりも予想進路から離れる傾向を示すので、物体が障害物か否かの判定を早期に且つ的確に行うことができる。
【0018】
また、衝突判定手段は、物体の過去位置と予想進路との相対距離を演算し、演算した相対距離に基づいて物体が前記障害物であるか否かを判定してもよい。
【0019】
上記構成では、物体の過去位置と予想進路との相対距離を演算するという簡単な処理によって、物体が障害物か否かの判定を早期に且つ的確に行うことができる。
【0020】
また、衝突判定手段は、物体検出手段が検出した最新の位置情報が示す物体の現在位置と予想進路との相対距離を演算し、演算した相対距離が第1の所定距離未満であり、且つ物体の過去位置と予想進路との相対距離が第2の所定距離未満である場合、物体が障害物であると判定し、物体の現在位置と予想進路との相対距離が第1の所定距離以上である場合、若しくは物体の過去位置と予想進路との相対距離が第2の所定距離以上の場合、物体が障害物ではないと判定してもよい。
【0021】
上記構成では、物体が障害物か否かを、物体の現在の位置と予想進路との相対距離と、物体の過去の位置と予想進路との相対距離とによって判定しているので、物体が障害物か否かの判定をさらに的確に行うことができる。
【0022】
なお、記憶制御手段は、衝突判定手段が障害物であると判定した物体の位置情報を記憶手段に記憶する場合、物体の位置情報に障害物であることを示す障害物情報を関連付けて記憶してもよい。また、衝突判定手段は、物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されていないと物体判定手段が判定したとき、または物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されていると物体判定手段が判定し且つ過去の位置情報に障害物情報が関連付けられていないときであって、物体の現在位置と予想進路との相対距離が第1の所定距離よりも小さい第3の所定距離以下である場合、物体が障害物であると判定してもよい。また、衝突判定手段は、物体の現在位置と予想進路との相対距離が第3の所定距離を超えている場合、物体が前記障害物ではないと判定してもよい。また、衝突判定手段は、物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されていると物体判定手段が判定し且つ過去の位置情報に障害物情報が関連付けられているときであって、物体の現在位置と予想進路との相対距離が第1の所定距離未満であり、且つ物体の過去位置と予想進路との相対距離が第2の所定距離未満である場合、物体が障害物であると判定してもよい。さらに、衝突判定手段は、物体の現在位置と予想進路との相対距離が第1の所定距離以上である場合、若しくは物体の過去位置と予想進路との相対距離が第2の所定距離以上の場合、物体が障害物ではないと判定してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、探知した物体が障害物となるか否かを早期に且つ的確に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係る障害物検知装置を備えた車両の要部を示すブロック図、図2は図1の物体検出センサによる検出を説明するための模式図、図3は障害物検知処理を示すフローチャート、図4はトラッキング処理を説明するための模式図、図5はオフセット量を説明するための模式図、図6は図3のターゲット危険度判定処理を示すフローチャート、図7は図3のターゲット危険度継続判定処理を示すフローチャートである。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る車両1は、車速センサ2と回転角速度センサ(ジャイロセンサ)3と物体検出センサ4とECU(Electric Control Unit)5とブレーキアクチュエータ6と警報装置7とシートベルト巻き取り装置8とを備える。車速センサ2及び回転角速度センサ3は、車両情報検出手段を構成し、物体検出センサ4は物体検出手段を構成する。
【0026】
車速センサ2は、車両1の走行状態情報としての車速V(m/s)を検出し、検出した車速VをECU5へ出力する。回転角速度センサ3は、旋回走行時に車両1に発生する走行状態情報としてのヨーレイトYaw(回転角速度:rad/s)を、左回転を正方向として検出し、検出したヨーレイトYawをECU5へ出力する。
【0027】
物体検出センサ4は、図2に示すように、車両1の前端部から進行前方の所定角度αの範囲内に向けてレーザやミリ波レーダ等の電磁波を所定時間毎に発信し、その反射波を受信することによって、上記範囲内の物体(ターゲット)TGを検知し、車両1とターゲットTGとの相対速度RVを検出するとともに、車両1に対するターゲットTGの位置情報(位置データTGD)を車両座標系におけるX座標及びY座標の座標値として検出し、検出した相対速度RV及び座標値をECU5へ出力する。相対速度RVは、車両1とターゲットTGとが互いに離間する方向を正方向として検出される。また、車両座標系とは、車両1の左方向をX軸正方向とし、車両1の進行方向をY軸正方向として設定される2次元座標系である。図2には、5つのターゲットTGa〜TGeの存在を検知した場合を例示しており、例えばターゲットTGaの位置情報は、座標値(Xa,Ya)として検出される。なお、以下の説明において、ターゲットTGの横位置とは車両座標系におけるターゲットTGのX座標値を意味し、ターゲットTGの縦位置とは車両座標系におけるターゲットTGのY座標値を意味する。
【0028】
ECU5は、CPU(Central Processing Unit)とROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを備える。CPUは、記憶制御手段、物体判定手段、進路推定手段及び衝突判定手段を構成し、ROMに格納されたプログラムを読み出して後述する各処理を実行する。RAMは、記憶手段を構成し、車速センサ2が検出した車速Vや、回転角速度センサ3が検出したヨーレイトYawや、物体検出センサ4が検出した位置データTGD及び相対速度RVを読み書き自在に記憶する記憶領域を有する。なお、検知したターゲットTGの位置データTGD及び相対速度RVには、固有の識別番号IDと後述する衝突危険フラグがそれぞれ対応付けられて記憶される。この衝突危険フラグは、車両1がターゲットTGに衝突する可能性があると判定された場合にオンに設定され、車両1がターゲットTGに衝突する可能性がないと判定された場合にオフに設定される。また、CPUが後述するトラッキング処理を実行して同一のターゲットTGであると判定した場合、同一のターゲットTGに対しては全て同じ識別番号IDが付与される。さらに、RAMには、後述する継続カウンタのカウント値を積算して記憶する記憶領域が複数設けられ、各記憶領域に識別番号IDがそれぞれ対応付けられる。また、車速V及びヨーレイトYawは、最新のデータが逐次更新して記憶される。また、物体検出センサ4が検出した座標値及び相対速度RVのデータは、所定個数(例えば30個)まで時系列的に順次記憶可能であり、所定個数を超えた場合には古いデータから順次消去されて最新のデータが記憶される。また、CPUが既に車両1の前方に存在しないと判定したターゲットTGについては、そのターゲットTGの識別番号IDが付与された全ての位置データTGDが消去される。
【0029】
ブレーキアクチュエータ6は、ECU5から制動指示信号を受信したとき、図示しない前輪及び後輪のディスクブレーキを強制的に作動させて、各車輪に所定の制動力を発生させる。
【0030】
警報装置7は、車室内の例えばインストルメントパネル(図示外)に設けられ、ECU5から報知指示信号を受信したとき、ブザー音などを発生させて運転者に注意を喚起する。
【0031】
シートベルト巻き取り装置8は、ECU5からシートベルトロック指示信号を受信したとき、シートベルト(図示外)の引き出しを禁止してシートベルトによる乗員の拘束状態を維持する。
【0032】
次に、ECU5が実行する処理について、図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0033】
本処理は、所定時間毎に実行され、先ずECU5は各データを読み込む(ステップS1)。すなわち、車速センサ2が検出した車速Vと回転角速度センサ3が検出したヨーレイトYawとを更新して記憶し、また、物体検出センサ4が検出した全てのターゲットTGの位置データTGD及び相対速度RVを記憶する。
【0034】
次に、ECU5は自車データの作成処理を実行する(ステップS2)。自車データの作成処理とは、ステップS1で読み込んだ車速VとヨーレイトYawとを用いて車両1の予想進路(推定軌跡)Trを推定する処理である。予想進路Trは、車両1が現在の位置から旋回走行する際の曲率半径Rとして、次式(1)に従って演算する。
【0035】
R=V/Yaw・・・(1)
【0036】
次に、ECU5はトラッキング処理を実行する(ステップS3)。トラッキング処理とは、ステップS1で読み込んだ位置データTGDに対応するターゲット(今回検出したターゲットTGnew)と、過去に検出して記憶したターゲットTGpastとを関連付けて時系列的に記憶する処理である。すなわち、今回検出したターゲットTGnewと既に記憶しているターゲットTGpastとが同一であるか否かを判定し、同一であると判定した場合には、今回検出したターゲットTGnewの位置データTGDnewに、既に記憶したターゲットTGpastの識別番号IDと同一の識別番号IDを付与して記憶する。このように同一の識別番号IDを付与することにより、同じターゲットTGの現在及び過去の位置データTGDや相対速度RVを必要に応じて適宜読み出すことができる。反対に、新規のターゲットTGnewであると判定した場合には、今回検出したターゲットTGnewの位置データTGDnewに、新規の識別番号IDを付与して記憶する。なお、新規の識別番号IDを付与した場合、継続カウンタのカウント値を記憶する複数の記憶領域のうち現在使用していない記憶領域(対応付けられた識別番号IDの全ての位置データTGDが既に消去されて存在していない記憶領域)に上記新規の識別番号IDを対応付けるとともに、当該記憶領域のカウント値をクリアする。
【0037】
今回検出したターゲットTGnewと既に記憶したターゲットTGpastとが同一であるか否かの判定は、例えば、前回のデータの読み込み時に記憶したターゲットTGpastの横位置Xkと縦位置Ykと相対速度RVkとを次式(2)に代入することにより、今回のデータの読み込み時にターゲットTGpastが存在すると推定される予定位置(Xk+1,Yk+1)を演算し、演算した予定位置(Xk+1,Yk+1)から所定範囲内に今回読み込んだターゲットTGnewの座標値(Xnew,Ynew)が存在するか否かを判定する。予定位置(Xk+1,Yk+1)から所定範囲内に今回読み込んだターゲットTGnew(Xnew,Ynew)が存在する場合には、ターゲットTGpastとターゲットTGnewが同一であると判定し、存在しない場合には、ターゲットTGpastとターゲットTGnewとが別のターゲットであると判定する。
【0038】
Xk+1=Xk+RVk×Δt×sinθ、Yk+1=Yk+RVk×Δt×cosθ・・・(2)
【0039】
上記(2)式において、Δtは、前回のデータの読み込み時から今回のデータの読み込み時までの時間(ターゲットTGの検出時間間隔)であり、θは、ターゲットTGpastの進行方向と車両1の進行方向(Y軸方向)とがなす角度である。ターゲットTGpastの進行方向は、ターゲットTGpastの前回の座標値(Xk,Yk)とその前回(前々回)の座標値(Xk-1,Yk-1)とが記憶されている場合、図4に示すように、前々回の座標値(Xk-1,Yk-1)から前回の座標値(Xk,Yk)へ向かうベクトルの方向として求める。なお、前々回の座標値(Xk-1,Yk-1)が記憶されていない場合(前回新規に検出したターゲットである場合)、ターゲットTGpastの進行方向は、前回の座標値(Xk,Yk)から車両1へ向かうベクトルの方向として求める。
【0040】
次に、ECU5は、今回読み込んだ全てのターゲットTGnewについて後述するステップS5〜ステップS8の処理を完了したか否かを判定し(ステップS4)、未だ処理が完了していないターゲットTGnewが存在する場合、未処理のターゲットTGnewを処理対象のターゲットTGnewとして順次特定し、ステップS5へ進む。すなわち、各ターゲットTGnewについて、ステップS5、ステップS6及びステップS7の処理、又はステップS5、ステップS6及びステップS8の処理をそれぞれ実行し、全てのターゲットTGnewについて処理が完了している場合にのみ、後述するステップS9へ進む。
【0041】
ステップS5では、ECU5は、上記特定した処理対象のターゲットTGnewの障害物データを作成する。障害物データとは、処理対象のターゲットTGnew(座標値(Xnew,Ynew))と車両1の予想進路Trとの間の距離(現在位置のオフセット量Dnew)を算出する処理である。具体的には、図5に示すように、車両座標系において、ステップS1で読み込んだ処理対象のターゲットTGnewの座標値(Xnew,Ynew)とステップS2で求めた車両1の予想進路Trとの距離(現在位置のオフセット量Dnew)を、座標値(Xnew,Ynew)と予想進路Trの曲率半径Rとを用いて、次式(3)によって演算する。
【0042】
Dnew=R/|R|×((Xnew−R)2+Ynew2)1/2−|R|)・・・(3)
【0043】
次に、上記処理対象のターゲットTGnewに対して前回の検出時に関連付けられた衝突危険フラグ(処理対象のターゲットTGnewを前回検出したときの位置データTGDpastに関連付けられた衝突危険フラグ)がオンであるか否かを判定する(ステップS6)。衝突危険フラグがオフであるときには、ステップS7へ進んでターゲット危険度判定処理を実行し、衝突危険フラグがオンであるときには、ステップS8へ進んでターゲット危険度継続判定処理を実行する。なお、処理対象のターゲットTGnewが新規に検出したターゲットTGである場合も、衝突危険フラグがオフであるものとして処理する。
【0044】
ターゲット危険度判定処理(ステップS7)では、図6に示すように、上記処理対象のターゲットTGnewに対してステップS5で求めた現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値k以下であるか否かを判定し(ステップS11)、現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値k以下のときは、ステップS12へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewに関連付けられた継続カウンタのカウント値を1増加し、ステップS14へ進む。反対に、現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値kを超えているときは、ステップS13へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewに関連付けられた継続カウンタのカウント値をクリアし、ステップS14へ進む。
【0045】
ステップS14では、継続カウンタのカウント値が所定の閾値N(例えばN=4)を超えているか否かを判定する。判定の結果、カウント値が閾値Nを超えている場合には、上記処理対象のターゲットTGnewが車両1と衝突する可能性がある障害物であると判定し、ステップS15へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewの位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグをオンに設定する。反対に、カウント値が閾値N以下の場合には、上記処理対象のターゲットTGnewが上記障害物ではないと判定し、ステップS16へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewの位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグをオフに設定する。これらステップS15又はステップS16の処理を実行することにより、ターゲット危険度判定処理を終了し、図3のステップS4へ戻る。
【0046】
このように、上記ターゲット危険度判定処理は、処理対象のターゲットTGnewを前回検出したときの位置データTGDpastに関連付けられた衝突危険フラグがオフであるときに実行され、このターゲット危険度判定処理によって、処理対象のターゲットTGnewの今回の位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグは、処理対象のターゲットTGnewの上記現在位置のオフセット量Dnewが今回から過去に遡ってN回を超えて連続して所定値k以下であった場合に限りオンに設定され、それ以外の場合にはオフに設定される。
【0047】
一方、ターゲット危険度継続判定処理(ステップS8)では、図7に示すように、上記処理対象のターゲットTGnewに対してステップS5で求めた現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値h(h>k)以上であるか否かを判定し(ステップS21)、現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値h未満のときは、ステップS22へ進む。
【0048】
ステップS22では、記憶されている上記処理対象のターゲットTGnewの過去の位置データTGDpastのうち衝突危険フラグがオンに設定されているものを選出し、選出した過去の位置データTGDpast(座標値(Xpast,Ypast))とステップS2で求めた現在の車両1の予想進路Trとの間の距離(過去位置のオフセット量)Dpastを、選出した全ての過去の位置についてそれぞれ演算する。具体的には、RAMから読み出した処理対象のターゲットTGnewの過去の座標値(Xpast,Ypast)とステップS2で求めた曲率半径Rとを、次式(4)に代入することによって演算する。
【0049】
Dpast=R/|R|×((Xpast−R)2+Ypast2)1/2−|R|)・・・(4)
【0050】
上記式(4)は、上記式(3)のXnew及びYnewに代えてXpast及びYpastをそれぞれ用いたものである。
【0051】
なお、ターゲット危険度判定処理において現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値k以下であると判定された過去の位置データTGDpastについても、衝突危険フラグがオンに設定されている過去の位置データTGDpastと同等に取り扱ってもよい。これにより、過去位置のオフセット量Dpastの演算対象となる過去の位置データTGDpastが増え、判定の信頼性が向上する。
【0052】
選出した過去の全ての位置データTGDpastについて過去位置のオフセット量Dpastを演算すると、演算した過去位置のオフセット量Dpastの平均値をオフセット量の平均値IniDとして演算する(ステップS23)。なお、オフセット量の平均値IniDを、過去位置のオフセット量Dpastと現在位置のオフセット量Dnewとの平均値として演算してもよい。
【0053】
オフセット量の平均値IniDを演算すると、この平均値IniDが所定値L以上であるか否かを判定する(ステップS24)。判定の結果、平均値IniDが所定値L以上である場合には、上記処理対象のターゲットTGnewが上記障害物ではなくなったと判定し、ステップS25へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewの位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグをオフに設定する。反対に、平均値IniDが所定値L未満である場合には、上記処理対象のターゲットTGnewが上記障害物として継続して存在していると判定し、ステップS26へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewの位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグをオンに設定する。
【0054】
また、ステップS21において、現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値h以上であると判定した場合、上記処理対象のターゲットTGnewが上記障害物ではなくなったと判定し、ステップS25へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewの位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグをオフに設定する。
【0055】
そして、これらステップS25又はステップS26の処理を実行することにより、ターゲット危険度継続判定処理を終了し、図3のステップS4へ戻る。
【0056】
このように、上記ターゲット危険度継続判定処理は、処理対象のターゲットTGnewを前回検出したときの位置データTGDpastに関連付けられた衝突危険フラグがオンであるときに実行され、このターゲット危険度継続判定処理によって、処理対象のターゲットTGnewの今回の位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグは、処理対象のターゲットTGnewの現在位置のオフセット量Dnewが上記所定値kよりも大きい所定値h以上となった場合、又はオフセット量の平均値IniDが所定値L以上である場合にはオフに設定され、それ以外の場合にはオンに設定される。
【0057】
ステップS4において、今回読み込んだ全てのターゲットTGnewについて前記ステップS5〜ステップS8の処理を完了したと判定した場合、ステップS9へ進んで危険度優先判定処理を実行する。
【0058】
危険度優先判定処理では、先ず衝突危険フラグがオンに設定された全てのターゲットTGnewについて、車両1がターゲットTGnewに衝突するまでに要する予想時間(衝突予想時間TTC)を、ターゲットTGnewと車両1との相対距離と相対速度RVとから演算し、得られた全て衝突予想時間TTCのうち最小の時間(最短衝突予想時間)が所定時間t1秒以下の場合、警報装置7へ報知指示信号を送信し、警報装置7によってブザー音を発生させる。さらに、最短衝突予想時間が所定時間t2(t2<t1)秒以下の場合には、ブレーキアクチュエータ6へ制動指示信号を送信し、各車輪に所定の制動力を発生させるとともに、シートベルト巻き取り装置8へシートベルトロック指示信号を送信し、シートベルトの引き出しを禁止する。なお、ターゲットTGnewと車両1との相対距離は、ターゲットTGnewの位置データTGDnewから演算してもよく、物体検出センサ4が直接検出してもよい。
【0059】
次に、図8〜図11を参照して、前方がカーブする直線道路の前方延長線上に道路10から外れて静止状態のターゲット(例えば看板や標識など)TGが存在する道路を車両1が走行する場合について説明する。
【0060】
図8に示すように、車両1が直線道路を直進走行している間は、車両1の進行方向の延長線上又はその近傍に常にターゲットTGが存在し、図10に示すように、車両1の予想進路Trの曲率半径Rが無限大となり、予想進路TrがY軸とほぼ一致し、ターゲットTGの現在の位置データTGDnew及び過去の位置データTGDpastは、ともにY軸上(予想進路Tr上)にほぼ直線状に並ぶ。従って、車両1が直線道路を走行している間は、ECU5はターゲットTGを検出する度に、ターゲットTGを障害物と判定し、その衝突危険フラグをオンに設定して記憶する。但し、この場合、車両1とターゲットTGとが充分に離間しているため、衝突予想時間TTCがt1秒を超える可能性が高く、ブザー音が発せられる可能性は低い。なお、現在の位置データTGDnew及び過去の位置データTGDpastを結ぶ線が完全な直線とならないのは、主に物体検出センサ4の検出値が誤差を含んでいることに起因する。
【0061】
次に、車両1が直線道路からカーブへ進入した初期段階では、図9に示すように、車両1は旋回走行を開始し、図11に示すように、車両1の予想進路Trは曲率半径RでY軸から離間していくが、ターゲットTGは、車両1の進行方向の延長線上又はその近傍に未だ存在しており、ターゲットTGの現在の位置データTGDnewは予想進路Trから充分に離間せず、現在の位置データTGDnewと予想進路Trとの距離(現在のオフセット量Dnew)が所定値hを超える可能性は低い。従って、ターゲットTGが障害物か否かの判定を、ターゲットTGの現在の位置データTGDnewと予想進路Trとの位置関係のみによって行うと、ターゲットTGが障害物であると継続して判定され、ブザー音が発せられてしまう可能性が高くなる。
【0062】
この点に関し、本実施形態では、ターゲットTGが障害物か否かを、過去の位置データTGDpastと予想進路Trとの位置関係によっても判定している。ここで、この例の場合、図11に示すように、ターゲットTGの過去の位置データTGDpastは現在の位置データTGDnewよりも予想進路Trから離れる傾向を示すため、ターゲットTGが障害物か否かの判定を、ターゲットTGの現在の位置データTGDnewと予想進路Trとの位置関係に基づいて行うよりも、早期に且つ的確に行うことができる。従って、衝突予想時間TTCがt1秒となる前(ブザー音が発せられる前)に、ターゲットTGが障害物ではないと判定される可能性が高くなり、車両1の運転者に違和感や煩わしさを感じさせてしまうことを抑えることができる。
【0063】
このように、本実施形態によれば、過去位置のオフセット量Dpastを演算し、その平均値IniDが所定値L以上か否かを判定するという比較的簡単な演算処理によって、ターゲットTGが障害物か否かのて判定を行うことができる。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0065】
例えば、上記実施形態では、車速センサ2が検出する車速Vと回転角速度センサ3が検出するヨーレイトYawとを用いて車両1の予想進路Trを推定しているが、操舵角センサが検出するステアリングの操舵角や加速度センサが検出する車両1の加速度などの他の走行状態情報を用いて予想進路Trを推定してもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、ターゲットTGの過去の位置データTGDpastと予想進路Trとの位置関係に基づいてターゲットTGが障害物か否かの判定を行う態様として、過去位置のオフセット量Dpastを演算し、その平均値IniDが所定値L以上か否かを判定しているが、過去位置のオフセット量Dpastの所定の1つ又は複数が所定値以上か否かを判定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の障害物検知装置は、様々な車両に搭載して使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施形態に係る障害物検知装置を備えた車両の要部を示すブロック図である。
【図2】図1の物体検出センサによる検出を説明するための模式図である。
【図3】障害物検知処理を示すフローチャートである。
【図4】トラッキング処理を説明するための模式図である。
【図5】オフセット量を説明するための模式図である。
【図6】図3のターゲット危険度判定処理を示すフローチャートである。
【図7】図3のターゲット危険度継続判定処理を示すフローチャートである。
【図8】前方がカーブする直線道路を車両が走行し、その前方延長線上に道路から外れてターゲットが存在する状態を示す模式図である。
【図9】図8の車両が直線道路からカーブに進入した状態を示す模式図である。
【図10】図8の状態におけるターゲットの現在位置及び過去位置と予測進路とを示す模式図である。
【図11】図9の状態におけるターゲットの現在位置及び過去位置と予測進路とを示す模式図である。
【符号の説明】
【0069】
1:車両
2:車速センサ(車両情報検出手段)
3:回転角速度センサ(車両情報検出手段)
4:物体検出センサ(物体検出手段)
5:ECU(記憶手段、記憶制御手段、物体判定手段、進路推定手段、衝突判定手段)
6:ブレーキアクチュエータ
7:警報装置
8:シートベルト巻き取り装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される障害物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平11−23705号公報には、自車の車速を検出する車両検出手段の検出値と、レーダの探知結果に基づいて車両の進行方向に存在する物体との相対距離を演算する相対距離演算手段の演算値と、レーダの探知結果に基づいて自車の車幅方向の自車及び物体のオーバーラップ量を演算するオーバーラップ量演算手段の演算値とに基づいて、レーダで探知された物体が障害物であるか否かを障害物判定手段が判定する車両の障害物検知装置が開示されている。
【0003】
障害物判定手段は、オーバーラップ量演算手段が演算したオーバーラップ量と、相対距離演算手段が演算した相対距離と、車速検出手段が検出した車速とに基づいて、レーダが探知した物体を回避するために自車と物体との間に必要とされる限界の距離を演算し、この演算した距離に基づいて定められる第1の設定距離と相対距離演算手段が演算した相対距離とを比較する。比較の結果、相対距離が第1の設定距離以下の場合に報知手段によって警報が発せられる。
【0004】
【特許文献1】特開平11−23705号公報
【特許文献2】特開平9−175295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特開平11−23705号公報に開示された装置では、例えば、前方がカーブする直線道路の前方延長線上に道路から外れて静止した物体(例えば看板や標識など)が存在する場合、走行中の車両のレーダが物体を探知し、障害物判定手段が物体を誤って障害物と判定してしまう可能性がある。すなわち、車両が直線道路からカーブに進入すると、オーバーラップ量演算手段が演算するオーバーラップ量が徐々に減少するが、車速やカーブの曲率や物体の位置によっては、車両がカーブに進入した後の旋回初期段階においてオーバーラップ量が充分に減少せず、障害物ではない物体を誤って障害物と判定してしまい、警報が発せられてしまう。
【0006】
この警報は、カーブ内への車両の進入が進み、オーバーラップ量が充分に減少することによって停止され得るが、明らかに障害物ではないことが目視によって認識可能な物体によって警報が発せられると、車両の運転者に違和感や煩わしさを感じさせてしまう。
【0007】
また、レーダの検出精度には限界があり、オーバーラップ量演算手段がオーバーラップ量を厳密に演算することはできない。このため、障害物判定手段は、レーダの検出誤差を考慮して物体が障害物であるか否かを判定する必要があり、上記旋回初期段階において物体が障害物ではないと判定することは極めて困難である。
【0008】
そこで、本発明は、車両前方の物体が障害物であるか否かを早期に且つ的確に判定することが可能な障害物検知装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明の障害物検知装置は、物体検出手段と車両情報検出手段と記憶手段と記憶制御手段と物体判定手段と進路推定手段と衝突判定手段とを備える。
【0010】
物体検出手段は、車両の進行方向前方に存在する物体を所定時間毎に検知するとともに当該検知した物体の当該車両に対する位置情報を検出する。車両情報検出手段は、車両の走行状態情報を検出する。記憶制御手段は、物体検出手段が物体を検知したとき、物体検出手段が検出した位置情報を前記記憶手段に逐次記憶する。
【0011】
物体判定手段は、物体検出手段が物体を検知したとき、当該物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されているか否かを判定する。進路推定手段は、物体検出手段が物体を検知したとき、車両情報検出手段が検出した走行状態情報に基づいて、車両の予想進路を推定する。
【0012】
衝突判定手段は、物体検出手段が物体を検知し、且つ当該物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されていると物体判定手段が判定したとき、当該過去の位置情報が示す物体の過去の位置と進路推定手段が推定した予想進路とに基づいて、物体が車両と衝突する可能性がある障害物であるか否かを判定する。
【0013】
上記構成では、物体検出手段が車両に対する物体の位置情報を検出する度に、その位置情報を記憶制御手段が記憶手段に逐次記憶する。
【0014】
また、物体検出手段が物体を検知すると、物体判定手段は、その物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されているか否かを判定し、進路推定手段は、車両情報検出手段が検出した走行状態情報に基づいて、車両の予想進路を推定し、衝突判定手段は、物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されていると物体判定手段が判定した場合、過去の位置情報が示す物体の過去の位置と進路推定手段が推定した予想進路とに基づいて、物体が車両と衝突する可能性がある障害物であるか否かを判定する。
【0015】
従って、例えば、前方がカーブする直線道路の前方延長線上に道路から外れて静止した物体(例えば看板や標識など)が存在する場合、車両が直線道路を走行している間は、車両の進行方向の延長線上又はその近傍に常に物体が存在し、物体の過去の位置情報が示す物体の過去の位置は、車両の予想進路と一致又は近接する。このため、車両が直線道路を走行している間は、物体が検知される度に、物体は障害物と判定される。
【0016】
続いて、車両が直線道路からカーブへ進入した旋回初期段階では、車両は旋回走行を開始し、車両の予想進路は物体から離間していくが、物体は車両の進行方向の延長線上又はその近傍に未だ存在しており、物体は予想進路から充分に離間しない。このため、物体が障害物か否かの判定を物体の現在の位置と予想進路とに基づいて行うと、物体が障害物であると継続して判定されてしまう可能性が高い。
【0017】
これに対し、本発明では、物体が障害物か否かを、物体の過去の位置と予想進路とに基づいて判定しており、この物体の過去の位置は、現在の位置よりも予想進路から離れる傾向を示すので、物体が障害物か否かの判定を早期に且つ的確に行うことができる。
【0018】
また、衝突判定手段は、物体の過去位置と予想進路との相対距離を演算し、演算した相対距離に基づいて物体が前記障害物であるか否かを判定してもよい。
【0019】
上記構成では、物体の過去位置と予想進路との相対距離を演算するという簡単な処理によって、物体が障害物か否かの判定を早期に且つ的確に行うことができる。
【0020】
また、衝突判定手段は、物体検出手段が検出した最新の位置情報が示す物体の現在位置と予想進路との相対距離を演算し、演算した相対距離が第1の所定距離未満であり、且つ物体の過去位置と予想進路との相対距離が第2の所定距離未満である場合、物体が障害物であると判定し、物体の現在位置と予想進路との相対距離が第1の所定距離以上である場合、若しくは物体の過去位置と予想進路との相対距離が第2の所定距離以上の場合、物体が障害物ではないと判定してもよい。
【0021】
上記構成では、物体が障害物か否かを、物体の現在の位置と予想進路との相対距離と、物体の過去の位置と予想進路との相対距離とによって判定しているので、物体が障害物か否かの判定をさらに的確に行うことができる。
【0022】
なお、記憶制御手段は、衝突判定手段が障害物であると判定した物体の位置情報を記憶手段に記憶する場合、物体の位置情報に障害物であることを示す障害物情報を関連付けて記憶してもよい。また、衝突判定手段は、物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されていないと物体判定手段が判定したとき、または物体の過去の位置情報が記憶手段に記憶されていると物体判定手段が判定し且つ過去の位置情報に障害物情報が関連付けられていないときであって、物体の現在位置と予想進路との相対距離が第1の所定距離よりも小さい第3の所定距離以下である場合、物体が障害物であると判定してもよい。また、衝突判定手段は、物体の現在位置と予想進路との相対距離が第3の所定距離を超えている場合、物体が前記障害物ではないと判定してもよい。また、衝突判定手段は、物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されていると物体判定手段が判定し且つ過去の位置情報に障害物情報が関連付けられているときであって、物体の現在位置と予想進路との相対距離が第1の所定距離未満であり、且つ物体の過去位置と予想進路との相対距離が第2の所定距離未満である場合、物体が障害物であると判定してもよい。さらに、衝突判定手段は、物体の現在位置と予想進路との相対距離が第1の所定距離以上である場合、若しくは物体の過去位置と予想進路との相対距離が第2の所定距離以上の場合、物体が障害物ではないと判定してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、探知した物体が障害物となるか否かを早期に且つ的確に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係る障害物検知装置を備えた車両の要部を示すブロック図、図2は図1の物体検出センサによる検出を説明するための模式図、図3は障害物検知処理を示すフローチャート、図4はトラッキング処理を説明するための模式図、図5はオフセット量を説明するための模式図、図6は図3のターゲット危険度判定処理を示すフローチャート、図7は図3のターゲット危険度継続判定処理を示すフローチャートである。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る車両1は、車速センサ2と回転角速度センサ(ジャイロセンサ)3と物体検出センサ4とECU(Electric Control Unit)5とブレーキアクチュエータ6と警報装置7とシートベルト巻き取り装置8とを備える。車速センサ2及び回転角速度センサ3は、車両情報検出手段を構成し、物体検出センサ4は物体検出手段を構成する。
【0026】
車速センサ2は、車両1の走行状態情報としての車速V(m/s)を検出し、検出した車速VをECU5へ出力する。回転角速度センサ3は、旋回走行時に車両1に発生する走行状態情報としてのヨーレイトYaw(回転角速度:rad/s)を、左回転を正方向として検出し、検出したヨーレイトYawをECU5へ出力する。
【0027】
物体検出センサ4は、図2に示すように、車両1の前端部から進行前方の所定角度αの範囲内に向けてレーザやミリ波レーダ等の電磁波を所定時間毎に発信し、その反射波を受信することによって、上記範囲内の物体(ターゲット)TGを検知し、車両1とターゲットTGとの相対速度RVを検出するとともに、車両1に対するターゲットTGの位置情報(位置データTGD)を車両座標系におけるX座標及びY座標の座標値として検出し、検出した相対速度RV及び座標値をECU5へ出力する。相対速度RVは、車両1とターゲットTGとが互いに離間する方向を正方向として検出される。また、車両座標系とは、車両1の左方向をX軸正方向とし、車両1の進行方向をY軸正方向として設定される2次元座標系である。図2には、5つのターゲットTGa〜TGeの存在を検知した場合を例示しており、例えばターゲットTGaの位置情報は、座標値(Xa,Ya)として検出される。なお、以下の説明において、ターゲットTGの横位置とは車両座標系におけるターゲットTGのX座標値を意味し、ターゲットTGの縦位置とは車両座標系におけるターゲットTGのY座標値を意味する。
【0028】
ECU5は、CPU(Central Processing Unit)とROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを備える。CPUは、記憶制御手段、物体判定手段、進路推定手段及び衝突判定手段を構成し、ROMに格納されたプログラムを読み出して後述する各処理を実行する。RAMは、記憶手段を構成し、車速センサ2が検出した車速Vや、回転角速度センサ3が検出したヨーレイトYawや、物体検出センサ4が検出した位置データTGD及び相対速度RVを読み書き自在に記憶する記憶領域を有する。なお、検知したターゲットTGの位置データTGD及び相対速度RVには、固有の識別番号IDと後述する衝突危険フラグがそれぞれ対応付けられて記憶される。この衝突危険フラグは、車両1がターゲットTGに衝突する可能性があると判定された場合にオンに設定され、車両1がターゲットTGに衝突する可能性がないと判定された場合にオフに設定される。また、CPUが後述するトラッキング処理を実行して同一のターゲットTGであると判定した場合、同一のターゲットTGに対しては全て同じ識別番号IDが付与される。さらに、RAMには、後述する継続カウンタのカウント値を積算して記憶する記憶領域が複数設けられ、各記憶領域に識別番号IDがそれぞれ対応付けられる。また、車速V及びヨーレイトYawは、最新のデータが逐次更新して記憶される。また、物体検出センサ4が検出した座標値及び相対速度RVのデータは、所定個数(例えば30個)まで時系列的に順次記憶可能であり、所定個数を超えた場合には古いデータから順次消去されて最新のデータが記憶される。また、CPUが既に車両1の前方に存在しないと判定したターゲットTGについては、そのターゲットTGの識別番号IDが付与された全ての位置データTGDが消去される。
【0029】
ブレーキアクチュエータ6は、ECU5から制動指示信号を受信したとき、図示しない前輪及び後輪のディスクブレーキを強制的に作動させて、各車輪に所定の制動力を発生させる。
【0030】
警報装置7は、車室内の例えばインストルメントパネル(図示外)に設けられ、ECU5から報知指示信号を受信したとき、ブザー音などを発生させて運転者に注意を喚起する。
【0031】
シートベルト巻き取り装置8は、ECU5からシートベルトロック指示信号を受信したとき、シートベルト(図示外)の引き出しを禁止してシートベルトによる乗員の拘束状態を維持する。
【0032】
次に、ECU5が実行する処理について、図3のフローチャートに基づいて説明する。
【0033】
本処理は、所定時間毎に実行され、先ずECU5は各データを読み込む(ステップS1)。すなわち、車速センサ2が検出した車速Vと回転角速度センサ3が検出したヨーレイトYawとを更新して記憶し、また、物体検出センサ4が検出した全てのターゲットTGの位置データTGD及び相対速度RVを記憶する。
【0034】
次に、ECU5は自車データの作成処理を実行する(ステップS2)。自車データの作成処理とは、ステップS1で読み込んだ車速VとヨーレイトYawとを用いて車両1の予想進路(推定軌跡)Trを推定する処理である。予想進路Trは、車両1が現在の位置から旋回走行する際の曲率半径Rとして、次式(1)に従って演算する。
【0035】
R=V/Yaw・・・(1)
【0036】
次に、ECU5はトラッキング処理を実行する(ステップS3)。トラッキング処理とは、ステップS1で読み込んだ位置データTGDに対応するターゲット(今回検出したターゲットTGnew)と、過去に検出して記憶したターゲットTGpastとを関連付けて時系列的に記憶する処理である。すなわち、今回検出したターゲットTGnewと既に記憶しているターゲットTGpastとが同一であるか否かを判定し、同一であると判定した場合には、今回検出したターゲットTGnewの位置データTGDnewに、既に記憶したターゲットTGpastの識別番号IDと同一の識別番号IDを付与して記憶する。このように同一の識別番号IDを付与することにより、同じターゲットTGの現在及び過去の位置データTGDや相対速度RVを必要に応じて適宜読み出すことができる。反対に、新規のターゲットTGnewであると判定した場合には、今回検出したターゲットTGnewの位置データTGDnewに、新規の識別番号IDを付与して記憶する。なお、新規の識別番号IDを付与した場合、継続カウンタのカウント値を記憶する複数の記憶領域のうち現在使用していない記憶領域(対応付けられた識別番号IDの全ての位置データTGDが既に消去されて存在していない記憶領域)に上記新規の識別番号IDを対応付けるとともに、当該記憶領域のカウント値をクリアする。
【0037】
今回検出したターゲットTGnewと既に記憶したターゲットTGpastとが同一であるか否かの判定は、例えば、前回のデータの読み込み時に記憶したターゲットTGpastの横位置Xkと縦位置Ykと相対速度RVkとを次式(2)に代入することにより、今回のデータの読み込み時にターゲットTGpastが存在すると推定される予定位置(Xk+1,Yk+1)を演算し、演算した予定位置(Xk+1,Yk+1)から所定範囲内に今回読み込んだターゲットTGnewの座標値(Xnew,Ynew)が存在するか否かを判定する。予定位置(Xk+1,Yk+1)から所定範囲内に今回読み込んだターゲットTGnew(Xnew,Ynew)が存在する場合には、ターゲットTGpastとターゲットTGnewが同一であると判定し、存在しない場合には、ターゲットTGpastとターゲットTGnewとが別のターゲットであると判定する。
【0038】
Xk+1=Xk+RVk×Δt×sinθ、Yk+1=Yk+RVk×Δt×cosθ・・・(2)
【0039】
上記(2)式において、Δtは、前回のデータの読み込み時から今回のデータの読み込み時までの時間(ターゲットTGの検出時間間隔)であり、θは、ターゲットTGpastの進行方向と車両1の進行方向(Y軸方向)とがなす角度である。ターゲットTGpastの進行方向は、ターゲットTGpastの前回の座標値(Xk,Yk)とその前回(前々回)の座標値(Xk-1,Yk-1)とが記憶されている場合、図4に示すように、前々回の座標値(Xk-1,Yk-1)から前回の座標値(Xk,Yk)へ向かうベクトルの方向として求める。なお、前々回の座標値(Xk-1,Yk-1)が記憶されていない場合(前回新規に検出したターゲットである場合)、ターゲットTGpastの進行方向は、前回の座標値(Xk,Yk)から車両1へ向かうベクトルの方向として求める。
【0040】
次に、ECU5は、今回読み込んだ全てのターゲットTGnewについて後述するステップS5〜ステップS8の処理を完了したか否かを判定し(ステップS4)、未だ処理が完了していないターゲットTGnewが存在する場合、未処理のターゲットTGnewを処理対象のターゲットTGnewとして順次特定し、ステップS5へ進む。すなわち、各ターゲットTGnewについて、ステップS5、ステップS6及びステップS7の処理、又はステップS5、ステップS6及びステップS8の処理をそれぞれ実行し、全てのターゲットTGnewについて処理が完了している場合にのみ、後述するステップS9へ進む。
【0041】
ステップS5では、ECU5は、上記特定した処理対象のターゲットTGnewの障害物データを作成する。障害物データとは、処理対象のターゲットTGnew(座標値(Xnew,Ynew))と車両1の予想進路Trとの間の距離(現在位置のオフセット量Dnew)を算出する処理である。具体的には、図5に示すように、車両座標系において、ステップS1で読み込んだ処理対象のターゲットTGnewの座標値(Xnew,Ynew)とステップS2で求めた車両1の予想進路Trとの距離(現在位置のオフセット量Dnew)を、座標値(Xnew,Ynew)と予想進路Trの曲率半径Rとを用いて、次式(3)によって演算する。
【0042】
Dnew=R/|R|×((Xnew−R)2+Ynew2)1/2−|R|)・・・(3)
【0043】
次に、上記処理対象のターゲットTGnewに対して前回の検出時に関連付けられた衝突危険フラグ(処理対象のターゲットTGnewを前回検出したときの位置データTGDpastに関連付けられた衝突危険フラグ)がオンであるか否かを判定する(ステップS6)。衝突危険フラグがオフであるときには、ステップS7へ進んでターゲット危険度判定処理を実行し、衝突危険フラグがオンであるときには、ステップS8へ進んでターゲット危険度継続判定処理を実行する。なお、処理対象のターゲットTGnewが新規に検出したターゲットTGである場合も、衝突危険フラグがオフであるものとして処理する。
【0044】
ターゲット危険度判定処理(ステップS7)では、図6に示すように、上記処理対象のターゲットTGnewに対してステップS5で求めた現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値k以下であるか否かを判定し(ステップS11)、現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値k以下のときは、ステップS12へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewに関連付けられた継続カウンタのカウント値を1増加し、ステップS14へ進む。反対に、現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値kを超えているときは、ステップS13へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewに関連付けられた継続カウンタのカウント値をクリアし、ステップS14へ進む。
【0045】
ステップS14では、継続カウンタのカウント値が所定の閾値N(例えばN=4)を超えているか否かを判定する。判定の結果、カウント値が閾値Nを超えている場合には、上記処理対象のターゲットTGnewが車両1と衝突する可能性がある障害物であると判定し、ステップS15へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewの位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグをオンに設定する。反対に、カウント値が閾値N以下の場合には、上記処理対象のターゲットTGnewが上記障害物ではないと判定し、ステップS16へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewの位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグをオフに設定する。これらステップS15又はステップS16の処理を実行することにより、ターゲット危険度判定処理を終了し、図3のステップS4へ戻る。
【0046】
このように、上記ターゲット危険度判定処理は、処理対象のターゲットTGnewを前回検出したときの位置データTGDpastに関連付けられた衝突危険フラグがオフであるときに実行され、このターゲット危険度判定処理によって、処理対象のターゲットTGnewの今回の位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグは、処理対象のターゲットTGnewの上記現在位置のオフセット量Dnewが今回から過去に遡ってN回を超えて連続して所定値k以下であった場合に限りオンに設定され、それ以外の場合にはオフに設定される。
【0047】
一方、ターゲット危険度継続判定処理(ステップS8)では、図7に示すように、上記処理対象のターゲットTGnewに対してステップS5で求めた現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値h(h>k)以上であるか否かを判定し(ステップS21)、現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値h未満のときは、ステップS22へ進む。
【0048】
ステップS22では、記憶されている上記処理対象のターゲットTGnewの過去の位置データTGDpastのうち衝突危険フラグがオンに設定されているものを選出し、選出した過去の位置データTGDpast(座標値(Xpast,Ypast))とステップS2で求めた現在の車両1の予想進路Trとの間の距離(過去位置のオフセット量)Dpastを、選出した全ての過去の位置についてそれぞれ演算する。具体的には、RAMから読み出した処理対象のターゲットTGnewの過去の座標値(Xpast,Ypast)とステップS2で求めた曲率半径Rとを、次式(4)に代入することによって演算する。
【0049】
Dpast=R/|R|×((Xpast−R)2+Ypast2)1/2−|R|)・・・(4)
【0050】
上記式(4)は、上記式(3)のXnew及びYnewに代えてXpast及びYpastをそれぞれ用いたものである。
【0051】
なお、ターゲット危険度判定処理において現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値k以下であると判定された過去の位置データTGDpastについても、衝突危険フラグがオンに設定されている過去の位置データTGDpastと同等に取り扱ってもよい。これにより、過去位置のオフセット量Dpastの演算対象となる過去の位置データTGDpastが増え、判定の信頼性が向上する。
【0052】
選出した過去の全ての位置データTGDpastについて過去位置のオフセット量Dpastを演算すると、演算した過去位置のオフセット量Dpastの平均値をオフセット量の平均値IniDとして演算する(ステップS23)。なお、オフセット量の平均値IniDを、過去位置のオフセット量Dpastと現在位置のオフセット量Dnewとの平均値として演算してもよい。
【0053】
オフセット量の平均値IniDを演算すると、この平均値IniDが所定値L以上であるか否かを判定する(ステップS24)。判定の結果、平均値IniDが所定値L以上である場合には、上記処理対象のターゲットTGnewが上記障害物ではなくなったと判定し、ステップS25へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewの位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグをオフに設定する。反対に、平均値IniDが所定値L未満である場合には、上記処理対象のターゲットTGnewが上記障害物として継続して存在していると判定し、ステップS26へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewの位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグをオンに設定する。
【0054】
また、ステップS21において、現在位置のオフセット量Dnewの絶対値が所定値h以上であると判定した場合、上記処理対象のターゲットTGnewが上記障害物ではなくなったと判定し、ステップS25へ進んで上記処理対象のターゲットTGnewの位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグをオフに設定する。
【0055】
そして、これらステップS25又はステップS26の処理を実行することにより、ターゲット危険度継続判定処理を終了し、図3のステップS4へ戻る。
【0056】
このように、上記ターゲット危険度継続判定処理は、処理対象のターゲットTGnewを前回検出したときの位置データTGDpastに関連付けられた衝突危険フラグがオンであるときに実行され、このターゲット危険度継続判定処理によって、処理対象のターゲットTGnewの今回の位置データTGDnewに関連付けられた衝突危険フラグは、処理対象のターゲットTGnewの現在位置のオフセット量Dnewが上記所定値kよりも大きい所定値h以上となった場合、又はオフセット量の平均値IniDが所定値L以上である場合にはオフに設定され、それ以外の場合にはオンに設定される。
【0057】
ステップS4において、今回読み込んだ全てのターゲットTGnewについて前記ステップS5〜ステップS8の処理を完了したと判定した場合、ステップS9へ進んで危険度優先判定処理を実行する。
【0058】
危険度優先判定処理では、先ず衝突危険フラグがオンに設定された全てのターゲットTGnewについて、車両1がターゲットTGnewに衝突するまでに要する予想時間(衝突予想時間TTC)を、ターゲットTGnewと車両1との相対距離と相対速度RVとから演算し、得られた全て衝突予想時間TTCのうち最小の時間(最短衝突予想時間)が所定時間t1秒以下の場合、警報装置7へ報知指示信号を送信し、警報装置7によってブザー音を発生させる。さらに、最短衝突予想時間が所定時間t2(t2<t1)秒以下の場合には、ブレーキアクチュエータ6へ制動指示信号を送信し、各車輪に所定の制動力を発生させるとともに、シートベルト巻き取り装置8へシートベルトロック指示信号を送信し、シートベルトの引き出しを禁止する。なお、ターゲットTGnewと車両1との相対距離は、ターゲットTGnewの位置データTGDnewから演算してもよく、物体検出センサ4が直接検出してもよい。
【0059】
次に、図8〜図11を参照して、前方がカーブする直線道路の前方延長線上に道路10から外れて静止状態のターゲット(例えば看板や標識など)TGが存在する道路を車両1が走行する場合について説明する。
【0060】
図8に示すように、車両1が直線道路を直進走行している間は、車両1の進行方向の延長線上又はその近傍に常にターゲットTGが存在し、図10に示すように、車両1の予想進路Trの曲率半径Rが無限大となり、予想進路TrがY軸とほぼ一致し、ターゲットTGの現在の位置データTGDnew及び過去の位置データTGDpastは、ともにY軸上(予想進路Tr上)にほぼ直線状に並ぶ。従って、車両1が直線道路を走行している間は、ECU5はターゲットTGを検出する度に、ターゲットTGを障害物と判定し、その衝突危険フラグをオンに設定して記憶する。但し、この場合、車両1とターゲットTGとが充分に離間しているため、衝突予想時間TTCがt1秒を超える可能性が高く、ブザー音が発せられる可能性は低い。なお、現在の位置データTGDnew及び過去の位置データTGDpastを結ぶ線が完全な直線とならないのは、主に物体検出センサ4の検出値が誤差を含んでいることに起因する。
【0061】
次に、車両1が直線道路からカーブへ進入した初期段階では、図9に示すように、車両1は旋回走行を開始し、図11に示すように、車両1の予想進路Trは曲率半径RでY軸から離間していくが、ターゲットTGは、車両1の進行方向の延長線上又はその近傍に未だ存在しており、ターゲットTGの現在の位置データTGDnewは予想進路Trから充分に離間せず、現在の位置データTGDnewと予想進路Trとの距離(現在のオフセット量Dnew)が所定値hを超える可能性は低い。従って、ターゲットTGが障害物か否かの判定を、ターゲットTGの現在の位置データTGDnewと予想進路Trとの位置関係のみによって行うと、ターゲットTGが障害物であると継続して判定され、ブザー音が発せられてしまう可能性が高くなる。
【0062】
この点に関し、本実施形態では、ターゲットTGが障害物か否かを、過去の位置データTGDpastと予想進路Trとの位置関係によっても判定している。ここで、この例の場合、図11に示すように、ターゲットTGの過去の位置データTGDpastは現在の位置データTGDnewよりも予想進路Trから離れる傾向を示すため、ターゲットTGが障害物か否かの判定を、ターゲットTGの現在の位置データTGDnewと予想進路Trとの位置関係に基づいて行うよりも、早期に且つ的確に行うことができる。従って、衝突予想時間TTCがt1秒となる前(ブザー音が発せられる前)に、ターゲットTGが障害物ではないと判定される可能性が高くなり、車両1の運転者に違和感や煩わしさを感じさせてしまうことを抑えることができる。
【0063】
このように、本実施形態によれば、過去位置のオフセット量Dpastを演算し、その平均値IniDが所定値L以上か否かを判定するという比較的簡単な演算処理によって、ターゲットTGが障害物か否かのて判定を行うことができる。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0065】
例えば、上記実施形態では、車速センサ2が検出する車速Vと回転角速度センサ3が検出するヨーレイトYawとを用いて車両1の予想進路Trを推定しているが、操舵角センサが検出するステアリングの操舵角や加速度センサが検出する車両1の加速度などの他の走行状態情報を用いて予想進路Trを推定してもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、ターゲットTGの過去の位置データTGDpastと予想進路Trとの位置関係に基づいてターゲットTGが障害物か否かの判定を行う態様として、過去位置のオフセット量Dpastを演算し、その平均値IniDが所定値L以上か否かを判定しているが、過去位置のオフセット量Dpastの所定の1つ又は複数が所定値以上か否かを判定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の障害物検知装置は、様々な車両に搭載して使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施形態に係る障害物検知装置を備えた車両の要部を示すブロック図である。
【図2】図1の物体検出センサによる検出を説明するための模式図である。
【図3】障害物検知処理を示すフローチャートである。
【図4】トラッキング処理を説明するための模式図である。
【図5】オフセット量を説明するための模式図である。
【図6】図3のターゲット危険度判定処理を示すフローチャートである。
【図7】図3のターゲット危険度継続判定処理を示すフローチャートである。
【図8】前方がカーブする直線道路を車両が走行し、その前方延長線上に道路から外れてターゲットが存在する状態を示す模式図である。
【図9】図8の車両が直線道路からカーブに進入した状態を示す模式図である。
【図10】図8の状態におけるターゲットの現在位置及び過去位置と予測進路とを示す模式図である。
【図11】図9の状態におけるターゲットの現在位置及び過去位置と予測進路とを示す模式図である。
【符号の説明】
【0069】
1:車両
2:車速センサ(車両情報検出手段)
3:回転角速度センサ(車両情報検出手段)
4:物体検出センサ(物体検出手段)
5:ECU(記憶手段、記憶制御手段、物体判定手段、進路推定手段、衝突判定手段)
6:ブレーキアクチュエータ
7:警報装置
8:シートベルト巻き取り装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向前方に存在する物体を所定時間毎に検知するとともに当該検知した物体の当該車両に対する位置情報を検出する物体検出手段と、
前記車両の走行状態情報を検出する車両情報検出手段と、
記憶手段と、
前記物体検出手段が前記物体を検知したとき、当該物体検出手段が検出した位置情報を前記記憶手段に逐次記憶する記憶制御手段と、
前記物体検出手段が前記物体を検知したとき、当該物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されているか否かを判定する物体判定手段と、
前記車両情報検出手段が検出した走行状態情報に基づいて、前記車両の予想進路を推定する進路推定手段と、
前記物体検出手段が前記物体を検知し、且つ当該物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されていると前記物体判定手段が判定したとき、当該過去の位置情報が示す前記物体の過去位置と前記進路推定手段が推定した予想進路とに基づいて、前記物体が前記車両と衝突する可能性がある障害物であるか否かを判定する衝突判定手段と、を備えた
ことを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の障害物検知装置であって、
前記衝突判定手段は、前記物体の過去位置と前記予想進路との相対距離を演算し、演算した相対距離に基づいて当該物体が前記障害物ではないと判定する
ことを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の障害物検知装置であって、
前記衝突判定手段は、前記物体検出手段が検出した最新の位置情報が示す前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離を演算し、演算した相対距離が第1の所定距離未満であり、且つ前記物体の過去位置と前記予想進路との相対距離が第2の所定距離未満である場合、当該物体が前記障害物であると判定し、前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離が前記第1の所定距離以上である場合、若しくは前記物体の過去位置と前記予想進路との相対距離が前記第2の所定距離以上の場合、当該物体が前記障害物ではないと判定する
ことを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項4】
請求項3に記載の障害物検知装置であって、
前記記憶制御手段は、前記衝突判定手段が前記障害物であると判定した物体の位置情報を前記記憶手段に記憶する場合、当該物体の位置情報に前記障害物であることを示す障害物情報を関連付けて記憶し、
前記衝突判定手段は、
前記物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されていないと前記物体判定手段が判定したとき、または前記物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されていると前記物体判定手段が判定し且つ当該過去の位置情報に前記障害物情報が関連付けられていないときであって、前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離が前記第1の所定距離よりも小さい第3の所定距離以下である場合、当該物体が前記障害物であると判定し、前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離が前記第3の所定距離を超えている場合、当該物体が前記障害物ではないと判定し、
前記物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されていると前記物体判定手段が判定し且つ当該過去の位置情報に前記障害物情報が関連付けられているときであって、前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離が前記第1の所定距離未満であり、且つ前記物体の過去位置と前記予想進路との相対距離が前記第2の所定距離未満である場合、当該物体が前記障害物であると判定し、前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離が前記第1の所定距離以上である場合、若しくは前記物体の過去位置と前記予想進路との相対距離が前記第2の所定距離以上の場合、当該物体が前記障害物ではないと判定する
ことを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項1】
車両の進行方向前方に存在する物体を所定時間毎に検知するとともに当該検知した物体の当該車両に対する位置情報を検出する物体検出手段と、
前記車両の走行状態情報を検出する車両情報検出手段と、
記憶手段と、
前記物体検出手段が前記物体を検知したとき、当該物体検出手段が検出した位置情報を前記記憶手段に逐次記憶する記憶制御手段と、
前記物体検出手段が前記物体を検知したとき、当該物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されているか否かを判定する物体判定手段と、
前記車両情報検出手段が検出した走行状態情報に基づいて、前記車両の予想進路を推定する進路推定手段と、
前記物体検出手段が前記物体を検知し、且つ当該物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されていると前記物体判定手段が判定したとき、当該過去の位置情報が示す前記物体の過去位置と前記進路推定手段が推定した予想進路とに基づいて、前記物体が前記車両と衝突する可能性がある障害物であるか否かを判定する衝突判定手段と、を備えた
ことを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の障害物検知装置であって、
前記衝突判定手段は、前記物体の過去位置と前記予想進路との相対距離を演算し、演算した相対距離に基づいて当該物体が前記障害物ではないと判定する
ことを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項3】
請求項2に記載の障害物検知装置であって、
前記衝突判定手段は、前記物体検出手段が検出した最新の位置情報が示す前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離を演算し、演算した相対距離が第1の所定距離未満であり、且つ前記物体の過去位置と前記予想進路との相対距離が第2の所定距離未満である場合、当該物体が前記障害物であると判定し、前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離が前記第1の所定距離以上である場合、若しくは前記物体の過去位置と前記予想進路との相対距離が前記第2の所定距離以上の場合、当該物体が前記障害物ではないと判定する
ことを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項4】
請求項3に記載の障害物検知装置であって、
前記記憶制御手段は、前記衝突判定手段が前記障害物であると判定した物体の位置情報を前記記憶手段に記憶する場合、当該物体の位置情報に前記障害物であることを示す障害物情報を関連付けて記憶し、
前記衝突判定手段は、
前記物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されていないと前記物体判定手段が判定したとき、または前記物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されていると前記物体判定手段が判定し且つ当該過去の位置情報に前記障害物情報が関連付けられていないときであって、前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離が前記第1の所定距離よりも小さい第3の所定距離以下である場合、当該物体が前記障害物であると判定し、前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離が前記第3の所定距離を超えている場合、当該物体が前記障害物ではないと判定し、
前記物体の過去の位置情報が前記記憶手段に記憶されていると前記物体判定手段が判定し且つ当該過去の位置情報に前記障害物情報が関連付けられているときであって、前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離が前記第1の所定距離未満であり、且つ前記物体の過去位置と前記予想進路との相対距離が前記第2の所定距離未満である場合、当該物体が前記障害物であると判定し、前記物体の現在位置と前記予想進路との相対距離が前記第1の所定距離以上である場合、若しくは前記物体の過去位置と前記予想進路との相対距離が前記第2の所定距離以上の場合、当該物体が前記障害物ではないと判定する
ことを特徴とする車両の障害物検知装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−139320(P2009−139320A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318416(P2007−318416)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
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