説明

車両の駆動力制御装置

【課題】車両の駆動力を制御するにあたり、車速と駆動力との相対関係をも考慮することの可能な、車両の駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】車速制御装置の操作状態および車速の判断結果およびデータを用いて車両の目標駆動力を求め、求められた目標駆動力に基づいて、駆動力源の出力または動力伝達装置の動力伝達状態のうちの少なくとも一方を制御する、車両の駆動力制御装置において、目標駆動力に基づいて、駆動力源または動力伝達装置の少なくとも一方を制御しているときに、車速制御装置の操作状態が変化して目標駆動力と車両の実際の駆動力とに偏差が生じるか否かを判断する判断手段と、目標駆動力と実際の駆動力とに偏差が生じると判断された場合は、車速制御装置の操作状態が変更された場合に用いる目標駆動力と車速との対応関係を、車速制御装置の操作状態が変更される前のデータで定められていた目標駆動力と車速との対応関係と相似させる決定手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車速制御装置の操作状態および車速に基づいて、車両の目標駆動力を求めることの可能な、車両の駆動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両にはエンジンおよび変速機が搭載されており、そのエンジントルクが変速機を経由して車輪に伝達されるように構成されている。このようなパワートレインを有する車両の制御装置の一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された車両においては、エンジンの出力側に自動変速機が設けられている。このエンジンは吸気管に過給器が設けられており、その過給器をバイパスしてバイパス制御弁が取り付けられている。また、アクセル開度および車速に基づいて自動変速機の変速段を制御する変速線図が、電子制御装置に記憶されている。この変速線図には、自動変速機でアップシフトをおこなうアップシフト線、および自動変速機でダウンシフトをおこなうダウンシフト線が示されている。そして、アクセルペダルの操作状態および車速を検知し、かつ、その検知結果および変速線図を用いて自動変速機の変速比を制御するときに、過給器の過給状態を考慮して、変速線の位置を決定する制御がおこなわれる。なお、駆動力源が搭載された車両の制御装置の一例は、特許文献2にも記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−138391号公報
【特許文献2】特開昭61−171846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたパワートレインの制御装置によれば、車速およびアクセル開度に基づいて自動変速機の変速比を制御できることに止まり、アクセル開度に基づいて車両の駆動力の制御するにあたり、車速と駆動力との相対関係については考慮がなされておらず、この点で改良の余地があった。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、車両の駆動力を制御するにあたり、車速と駆動力との相対関係をも考慮することの可能な、車両の駆動力制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、車両の車輪に伝達する動力を発生する駆動力源と、この駆動力源から前記車輪に至る動力伝達経路に設けられ、かつ、動力伝達状態を変更可能な動力伝達装置と、前記駆動力源または前記動力伝達装置のうち少なくとも一方を制御するために前記車両の乗員により操作される車速制御装置とを備え、この車速制御装置の操作状態および車速を用いて前記車両の目標駆動力を決定するためのデータを用意し、前記車速制御装置の操作状態および車速を判断し、その判断結果および前記データを用いて前記車両の目標駆動力を求め、求められた目標駆動力に基づいて、前記駆動力源の出力または前記動力伝達装置の動力伝達状態のうちの少なくとも一方を制御する、車両の駆動力制御装置において、前記目標駆動力に基づいて、前記駆動力源または動力伝達装置の少なくとも一方を制御して前記車両の実際の駆動力が発生しているときに、前記車速制御装置の操作状態が変化して前記目標駆動力と前記車両の実際の駆動力とに偏差が生じたか否かを判断する判断手段と、この判断手段により前記目標駆動力と実際の駆動力とに偏差が生じたと判断された場合は、前記車速制御装置の操作状態が変更された場合に用いる目標駆動力と前記車速との相対関係を、車速制御装置の操作状態が変更される前のデータで定められていた目標駆動力と前記車速との相対関係と相似させる決定手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記データでは、前記目標駆動力と車速との相対関係が特性線で示されており、前記決定手段は、前記車速制御装置の操作状態が変更された場合に用いる前記目標駆動力と車速との相対関係を表す特性線の傾きを、前記車速制御装置の操作状態の変更前のデータで定められていた前記目標駆動力と車速との相対関係を表す特性線の傾きと同じにする第1の手段を含むことを特徴とするものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1の構成に加えて、前記データでは、前記目標駆動力と車速との相対関係が特性線で示されており、前記決定手段は、前記車速制御装置の操作状態が変更された場合に用いる前記目標駆動力と車速との相対関係を表す特性線の傾きを、前記車速制御装置の操作状態の変更前のデータで定められていた目標駆動力であり、かつ、現在の実際の駆動力を通り、かつ、現在の車速を通る特性線の傾きと同じにする第2の手段を含むことを特徴とするものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの構成に加えて、前記判断手段により前記目標駆動力と実際の駆動力とに偏差が生じたと判断された場合に、前記車速制御装置の操作量が、予め定められた所定量未満であるか否かを判断する操作量判断手段と、この操作量判断手段により前記車速制御装置の操作量が所定量未満であると判断された場合は、前記車速制御装置の操作量が変化する全領域で前記目標駆動力が変化し、かつ、前記車速制御装置の操作量が最低値であるときの目標駆動力が最低値となるように、前記車速制御装置の操作量と目標駆動力とで表わされる特性線を設定する特性設定手段を備えていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの構成に加えて、前記判断手段は、前記目標駆動力と前記実際の駆動力とに偏差が生じたか否かを、前記駆動力源の出力制御の応答性、または前記動力伝達装置の動力伝達状態の制御の応答性、または前記車両が走行する道路の状況のうち、いずれか1つの条件に基づいて判断する手段を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、車速制御装置の操作状態および車速を判断し、車両の目標駆動力を予め定めたデータを用いて、車両の目標駆動力を求める。また、求められた目標駆動力に基づいて、駆動力源の出力または動力伝達装置の動力伝達状態のうちの少なくとも一方を制御する。そして、車速制御装置の操作状態が変化して、車両の目標駆動力と実際の駆動力とに偏差がある場合、車速制御装置の操作状態を変更する前のデータにおける車速と目標駆動力との相対関係と相似させて、車速制御装置の操作状態の変化後における、車速と目標駆動力との相対関係を決定することができる。したがって、車両における目標駆動力を一層適切に制御できる。
【0012】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、車速制御装置の操作状態の変更後における目標駆動力と車速との相対関係を表す特性線の傾きを、車速制御装置の操作状態が変更された場合における実際の駆動力と一致する目標駆動力を通り、かつ、車速制御装置の操作状態が変更された場合における車速を通る特性線の傾きと相似させることができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、車速制御装置の操作状態を変更する前に用いていたデータの、車速制御装置の操作状態が変更された場合における目標駆動力と車速との相対関係を表す特性線の傾きと相似させて、車速制御装置の操作状態が変更された場合に用いるデータの、車速と実用駆動力との相対関係を表す特性線の傾きを決定することができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、請求項1ないし3のいずれかの発明と同様の効果を得られる他に、目標駆動力と実際の駆動力とに偏差があると判断された場合に、車速制御装置の操作量が所定量未満であると判断された場合は、車速制御装置の操作量が変化する全領域で目標駆動力が変化し、かつ、車速制御装置の操作量が最低値であるときの目標駆動力が最低値となるように、車速制御装置の操作量と目標駆動力とで表わされる特性線を設定することができる。したがって、設定される目標駆動力毎に、最低駆動力に段差が生じること、および車速制御装置の操作状態が変化したときに目標駆動力が変化しない不感帯が形成されることを回避できる。
【0015】
請求項5の発明によれば、請求項1ないし4いずれかの発明と同様の効果を得られる他に、目標駆動力に対する実用駆動力の偏差を、駆動力源の出力制御の応答性、または動力伝達装置の動力伝達状態の制御の応答性、または車両が走行する道路の状況のうち、いずれか1つの条件に基づいて予め定めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明対象とする車両は駆動力源の動力が動力伝達装置を経由して車輪に伝達される構成であり、目標駆動力に基づいて、駆動力源の出力、動力伝達装置の動力伝達状態が制御される。この発明における駆動力源は、車輪に伝達する動力を発生する動力装置であり、例えば、エンジン、電動モータ、油圧モータ、フライホイールなどのうち、少なくとも1つを用いることができる。また、駆動力源の出力には、回転数およびトルクが含まれる。また、この発明における動力伝達装置には、変速機、クラッチおよびブレーキなどが含まれる。ここで、変速機には、入力回転数と出力回転数との比を段階的(不連続)に変更可能な有段変速機と、入力回転数と出力回転数との比を無段階(連続的)に変更可能な無段変速機とが含まれる。この変速機における動力伝達状態には、変速比または変速段、トルク容量(伝達トルク)、入力回転数および出力回転数が含まれる。
【0017】
また、クラッチには、油圧制御式クラッチおよび電磁制御式クラッチが含まれ、ブレーキには油圧制御式ブレーキおよび電磁制御式ブレーキが含まれる。このクラッチおよびブレーキの動力伝達状態には、トルク容量、クラッチおよびブレーキに作用する油圧、クラッチおよびブレーキに作用する電磁力が含まれる。この発明において、目標駆動力を予め定めたデータは、目標駆動力を求めるために用いられる情報であり、電子制御装置にデータが記憶されている。このデータには、マップ、テーブル、表、数式などが含まれる。この発明における車速制御装置は、車速を制御するために乗員の手または足により操作される装置であり、車速制御装置には、足により操作されるペダル、手により操作されるレバー、ノブなどが含まれる。この発明における実用駆動力は、目標駆動力に対して予め定められた偏差があり、かつ、車速制御装置の操作状態および車速をパラメータとして求められる。事実上は、車両の実際の駆動力を目標駆動力に近づけるように、駆動力源の出力および動力伝達装置の動力伝達状態が制御される。
【0018】
この発明における車速制御装置の操作状態には、操作量および操作速度および操作割合が含まれる。ここで、操作量には、直線的な長さで表されるもの、または角度で表されるものが含まれる。また、操作割合とは、最大操作量に対する実操作量の割合または比率を意味する。この発明において、「車速制御装置の操作状態が変更された場合」には、車速制御装置の操作状態が「変更された時点」および「変更後」の両方が含まれる。この発明において、目標駆動力と前記車速との相対関係には、車速の変化量と目標駆動力の変化量との関係、車速の変化率と目標駆動力の変化率との関係、車速の変化を示す勾配と、目標駆動力の変化を示す勾配との関係が含まれる。相対関係を相似させる場合、相対関係を示すマップにおいて、特性線の傾き(勾配)を同じにすること、相対関係を求める数式の係数または関数を同じにすることなどが含まれる。
【0019】
つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。図2は、この発明の対象とする車両1の一例を示す概念図である。図2に示された車両1には、駆動力源としてエンジン2が搭載されている。このエンジン2は、燃料を燃焼させてその熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置であり、エンジン2としては内燃機関を用いることができる。具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。ここでは、エンジン2としてガソリンエンジンを用いているものとして説明する。このエンジン2は、燃焼室に接続された吸気装置および排気装置を有し、その吸入空気量を制御する電子スロットルバルブが設けられている。
【0020】
また、吸入空気量を強制的に増加させる過給器が設けられている。この過給器は、排気ガスの運動エネルギによりコンプレッサが駆動されて、吸入空気量を増加させるターボチャージャ、および、エンジンのクランクシャフトの動力でエアコンプレッサを駆動して、吸入空気量を増加させる構成のスーパーチャージャのいずれでもよい。さらに、燃焼室に供給する燃料の量を制御する燃料噴射量制御装置が設けられている。さらに、燃料と空気との混合気への点火時期を制御する点火時期制御装置が設けられている。これらの、電子スロットルバルブまたは過給器または燃料噴射量制御装置または点火時期制御装置などの機構がエンジン出力制御装置3に含まれており、エンジン出力制御装置3に含まれる少なくとも1つの機構を制御することにより、エンジン2のトルクおよび回転数を制御することが可能である。
【0021】
また、エンジン2から車輪4に至る動力伝達経路には変速機5が設けられている。この変速機5は、入力回転数と出力回転数との比を段階的(不連続)に変更可能な有段変速機、または、入力回転数と出力回転数との比を無段階(連続的)に変更可能な無段変速機のいずれでもよい。そして、エンジン2の出力軸と変速機5の入力軸とが動力伝達可能に接続される。ここでは、変速機5として有段変速機が用いられているものとして説明する。有段変速機としては、遊星歯車式変速機、選択歯車式変速機などがある。ここでは、遊星歯車式変速機を用いているものとする。
【0022】
この遊星歯車式変速機は、複数の遊星歯車機構と、遊星歯車機構の回転要素同士を接続または遮断するクラッチと、遊星歯車機構の回転要素を選択的に固定するブレーキとを有する。上記のクラッチおよびブレーキ、つまり、摩擦係合装置の係合および解放が、上記の油圧アクチュエータにより制御される構成である。より具体的には、摩擦係合装置に作用する油圧が油圧アクチュエータである油圧制御装置6により制御される。この油圧制御装置6は、作動油が通る油圧回路、油圧回路の油圧を制御する圧力制御弁、作動油の供給および排出方向を制御する方向制御弁(切替弁)、ソレノイドバルブなどを有する公知のものである。
【0023】
この実施例では、変速機5の動力伝達状態を制御するシフトポジションとして、例えば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジションを選択可能である。このDポジションが選択された場合、変速機5の入力軸と出力軸との間における動力伝達が可能となるように、前記の摩擦係合装置の係合および解放が制御される。そして、変速機5を制御するためにDポジションが選択された場合に、変速機5で例えば第1速ないし第5速の変速段を選択的に切り替えることが可能に構成されている。各変速段では、各摩擦係合装置の係合および解放の制御態様の少なくとも一部が異なる。なお、変速段を示す数字が大きくなるほど、変速機5の変速比が小さくなるように、変速機5が構成されている点は、周知の変速機と同じである。さらに、変速機5の出力軸にプロペラシャフト7が動力伝達可能に接続され、そのプロペラシャフト7が終減速機8に動力伝達可能に接続され、その終減速機8にアクスルシャフト9を介在させて車輪4が動力伝達可能に接続されている。この車輪4は、前輪または後輪のいずれでもよいし、前輪および後輪の両方でもよい。
【0024】
上記のエンジン2および変速機5および油圧制御装置6を制御する電子制御装置10が設けられている。この電子制御装置10には、乗員により操作されるアクセルペダル11の操作状態(アクセル開度)、ブレーキペダルの操作状態、乗員が選択するシフトポジション、車速、電子スロットルバルブの開度、エンジン回転数およびエンジントルク、変速機5の入力回転数および出力回転数などを検知するセンサやスイッチの信号が入力される。アクセルペダル11は、乗員による車両の加速意図により足で操作される装置であり、アクセルペダル11の踏み込み量が多いほど、加速意図が高いと判断される。また、電子制御装置10にはナビゲーションシステム12が接続されている。このナビゲーションシステム12は、各種のセンサ、外部記憶装置、受信機、コントローラなどを有している。このナビゲーションシステム12は、車両1の現在位置を検知する機能、車両1の目的地を入力する機能、車両1の現在位置から目的地までの走行経路を検索または入力する機能、走行経路の状況、道路の勾配、天候などを検知する機能、車両1の走行軌跡を記憶する機能などを有している。また、前記電子制御装置10には、エンジン出力を制御するデータ、変速機5の変速比およびトルク容量を制御するデータ、油圧制御装置6を制御するデータなどが記憶されており、電子制御装置10に入力される信号、および予め記憶されているデータに基づいて、エンジン出力制御装置3が制御され、かつ、油圧制御装置6が制御される。
【0025】
ところで、図2に示す車両1において、車速およびアクセル開度に基づいて車両1の目標駆動力を求め、その結果に基づいてエンジン出力を制御する場合に、アクセル開度が変化して目標駆動力が変更されると、実際の駆動力と目標駆動力とに偏差が生じる。このとき、アクセル開度に基づいて目標駆動力を変更することに止まり、車速を考慮しなければ、ドライバビリティが低下する可能性がある。このような不都合を回避するための制御例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS1では、各種のセンサやスイッチにより、現在のアクセル開度の他、各種の信号が検知されるとともに、各種の信号および電子制御装置10に記憶されているデータに基づいて、車両1の目標駆動力が求められる(ステップS1)。
【0026】
さらに、このステップS1では、目標駆動力に基づいてエンジン出力が制御される。このステップS1の処理をおこなうにあたり、電子制御装置10には目標駆動力を求めるためのデータ、具体的には図3に示すマップが記憶されている。このマップ(定常マップ)では、横軸に車速、縦軸に目標駆動力が示され、車速に対する目標駆動力を表す特性線が設定されている。この特性線は、車速が相対的に高くなるほど、目標駆動力が相対的に低下する傾向になっている。また、この特性線は、アクセル開度毎に異なる傾向の特性線が設定されている。具体的には、車速が同じであるとしても、アクセル開度が相対的に多くなるほど、目標駆動力が高くなるように、傾向の異なる特性線が設定されている。そして、ステップS1では、実際の駆動力を目標駆動力に近づけるように、エンジン出力、具体的にはトルクおよび回転数が制御される。例えば、同じ車速であれば、目標駆動力が高くなるほど、トルクを高める制御がおこなわれる。
【0027】
また、前記ステップS1では、車速およびアクセル開度に基づいて変速機5の変速段を制御できる。このために、電子制御装置10には変速段を制御するデータ、具体的には変速マップ(図示せず)が記憶されている。この変速マップは、横軸に車速、縦軸にアクセル開度が示されており、第1速ないし第5速までの変速段が設定される領域を、それぞれ変速線により区切ってある。そして、車速およびアクセル開度が変速線を横切ったとき、変速段が変更される。なお、この変速マップには、アップシフト用の変速線、およびダウンシフト用の変速線が設定されている。この変速マップは、前記エンジン出力を制御するときに、車両1の実際の駆動力が目標駆動力に近づけられるように、変速機5の変速段が決定されている。たとえば、車速が同じであれば、目標駆動力が高くなるほど、変速機5の変速比を大きくするダウンシフトが実行される。このように、ステップS1では、目標駆動力に実際の駆動力を近づけるように、エンジン出力または変速機5の変速段のうち、少なくとも一方が制御される。
【0028】
上記のステップS1についで、アクセル開度が変化して目標駆動力と実際の駆動力とに偏差が生じるか否かが判断される(ステップS2)。ここで、目標駆動力と実際の駆動力とに偏差が生じる例を説明する。上記のように目標駆動力に基づいてエンジン出力が制御されているときに、アクセル開度が変化して目標駆動力が変化すると、アクセル開度が変化した時点から所定時間が経過するまでの間、目標駆動力と実際の駆動力とには偏差、つまり、ズレが生じる。また、エンジン出力制御装置3の機構上または特性上、アクセル開度が増加した時点から、一定の応答遅れをもってエンジン出力が増加するが、アクセル開度が増加した時点から、所定時間を越える時間が経過した後にエンジン出力が増加したのでは、乗員が違和感を持つ可能性がある。このため、アクセル開度が変化した時点から、所定時間が経過した時点で実際の駆動力の増加を抑制する制御がおこなわれることもある。
【0029】
さらに、アクセル開度が増加して変速機5の変速比を変更するとき、変速機5で変速比を変更する制御が開始されてから、変速比を変更する制御が完了するまでの間、不可避的に目標駆動力と実際の駆動力とに偏差が生じる。具体的には、目標駆動力よりも実際の駆動力の方が低くなる。さらにまた、ナビゲーションシステム12により検知される道路情報に基づいて実際の駆動力を制御するとき、この実際の駆動力を目標駆動力よりも高くまたは低く制御することも可能である。例えば、目標駆動力が平坦路を基準として設定されている場合に、車両1が坂道を降坂する向きで走行するのであれば、同じアクセル開度について、坂道を車両1が降坂する場合の実際の駆動力を、目標駆動力よりも低く設定することもできる。
【0030】
これとは逆に、目標駆動力が平坦路を基準として設定されている場合に、車両1が坂道を登坂する向きで走行するのであれば、同じアクセル開度について、坂道を車両1が登坂する場合の実際の駆動力を、目標駆動力よりも高く設定することもできる。このように、ステップS2の判断は、エンジン出力制御装置3による出力制御の応答性、変速機5の変速制御の応答性、ナビゲーションシステム12により判断される道路状況のうち、いずれかに基づいておこなうことができる。なお、実際の駆動力と目標駆動力とに偏差が生じるか否かは、予め実験またはシミュレーションをおこなったデータを電子制御装置10に記憶しておき、そのデータをステップS2で読み込めばよい。
【0031】
ここで、目標駆動力と実際の駆動力との関係の一例を、図4のタイムチャートに基づいて説明する。ここでは、便宜上、アクセル開度が変更されてエンジン出力を制御する例を説明する。時刻t1でアクセル開度が増加すると、目標駆動力がステップ的に増加している。この時刻t1以降、アクセル開度は略一定であり目標駆動力は緩やかに低下している。一方、時刻t1以前においては、目標駆動力と実際の駆動力とが一致している。これに対して、時刻t1以降、実際の駆動力は目標駆動力よりも低い値であり、時刻t4以降、実際の駆動力と目標駆動力とが一致している。しかしながら、上記のようにエンジン出力制御装置3によりエンジン出力を高めるとき、時刻t4まで実際の駆動力が高まると乗員が違和感を持つ可能性がある。そこで、時刻t4よりも前の時刻t3から実際の駆動力を一定とする補正をおこない、時刻t5以降、目標駆動力と実際の駆動力とが一致している。このように、アクセル開度が時刻t1以降、略一定であるときは、時刻t1から時刻t3までの時間が、予め定めた所定時間T1である。
【0032】
また、時刻t1と時刻t3の間である時刻t2でアクセル開度が一旦増加し、かつ、時刻t3以降に略一定となった場合は、時刻t3以降も実際の駆動力が増加し、時刻t4から目標駆動力と実際の駆動力とが一致している。このように、アクセル開度が時刻t1で増加後、再度時刻t2で増加し、その後にアクセル開度が略一定であるときは、時刻t1から時刻t4までの時間が、予め定めた所定時間T2である。ここで、所定時間T2は、所定時間T1よりも長く設定されている。この図4のタイムチャートのように、目標駆動力と実際の駆動力とに偏差(ズレ)が生じるか否かが、ステップS2で判断される。
【0033】
つぎに、アクセル開度が増加した後、減少する場合の一例を図5のタイムチャートに基づいて説明する。図5においても、時刻t1でアクセル開度が増加して、時刻t1で目標駆動力がステップ的に増加している。また、実際の駆動力と目標駆動力との間には偏差(ズレ)があり、時刻t4以降もアクセル開度が略一定であれば、時刻t4から、実際の駆動力と目標駆動力とが略一致している。これに対して、時刻t2でアクセル開度が破線で示すように減少すると、時刻t2から目標駆動力が低下するとともに、時刻t3で実際の駆動力の増加が終了して一旦低下し、その後、実際の駆動力が略一定になっている。このように、時刻t3以降は、実際の駆動力と目標駆動力とが一致している。つまり、時刻t1から時刻t3までの間が、予め定められた所定時間T2に相当する。これに対して、アクセル開度が減少したことに伴い、時刻t1から時刻t2までの間に所定時間T1を短く設定し、時刻t2以降は、実線で示すように実際の駆動力の増加を抑制することもできる。このときの実際の駆動力は、時刻t6で、アクセル開度が一定の時の目標駆動力と一致している。
【0034】
このステップS2で否定的に判断された場合はリターンし、ステップS2で肯定的に判断された場合は、ステップS3−1またはステップS3−2の処理をおこなう。このステップS3−1では、目標駆動力を求めるマップを変更する処理がおこなわれる。この処理は、例えば、図3のアクセル開度θ1から、アクセル開度θ2に変化した時、変更前のアクセル開度θ1の特性線の傾きと同じ傾きで、変更後のアクセル開度θ2の特性線を決定するものである。つまり、アクセル開度が変わっても、特性線の傾きを同じにしている。なお、特性線の傾きとは、車速を示す横軸と特性線との間に形成された鋭角側の角度である。一方、ステップS3−2でも、目標駆動力を変更する処理がおこなわれる。これは、アクセル開度が変化した時に、図3のマップ上で、現在の駆動力(実際の駆動力)および車速を通る特性線を、アクセル開度の変化後における目標駆動力の特性線とする処理である。このステップS3−2の処理では、アクセル開度の変更後に用いる目標駆動力を示す特性線と、元のマップに示された特性線のアクセル開度とに相関関係はなくなる。このように、アクセル開度が変化して目標駆動力と実際の駆動力とに差が生じると、ステップS3−1またはステップS3−2の処理において、車速をも考慮して目標駆動力の特性線の傾きが決定される。このため、車両1のドライバビリティが一層向上する。また、アクセル開度が変化する前に使っていたマップを用いて、目標駆動力と実際の駆動力とが乖離したときの目標駆動力を求めるから、新たなマップを追加せずに済む。さらに、ステップS3−1の処理をおこなうと、特性線の傾きが同じであるため、アクセル開度の変化量と、車速の変化量との関係を表す特性が同じであり、乗員が違和感を持ちにくい。
【0035】
上記のように、ステップS3−1の処理またはステップS3−2の処理をおこなった後は、アクセル開度が予め定められた所定値a未満であるか否かが判断される(ステップS4)。つまり、アクセルペダル11の踏み込み量が相対的に少ないか否かが判断される。このステップS4の判断で用いられる所定値a未満のアクセル開度では、アクセル開度と駆動力との対応関係を、車両の乗員が体感しにくいと考えられる。このステップS4で否定的に判断された場合はリターンし、ステップS4で肯定的に判断された場合は、ステップS5の処理をおこないリターンする。
【0036】
このステップS5の処理を、図6を参照して説明する。この図6では、横軸にアクセル開度が示され、縦軸に目標駆動力が示されている。ステップS2で肯定判断される前の時点における目標駆動力が実線で示されている。図6において、駆動力正(+)は駆動力が発生し、駆動力負(−)はエンジンブレーキ力が発生することを意味する。ここで、アクセル開度が増加したときの第1目標駆動力(一点鎖線)を、実線の目標駆動力と平行に、かつ、実線の目標駆動力の上側に設定すると、アクセル開度が最低値である時、実線の目標駆動力と、第1目標駆動力とに段差が生じる。一方、アクセル開度が減少したときの第2目標駆動力(一点鎖線)を、実線の目標駆動力と平行に、かつ、実線の目標駆動力の下側に設定すると、アクセル開度が最低値になる前に、実線の目標駆動力と第2目標駆動力とが同じとなる。つまり、アクセル開度が変化しても、第1目標駆動力が変化しないという、不感帯が形成される。
【0037】
このような不都合を回避するために、ステップS5の処理がおこなわれる。このステップS5で設定される新たな目標駆動力は、実線の目標駆動力とは非平行に設定される。具体的には、実線の目標駆動力の上側に新たな目標駆動力を設定するとき、その新たな目標駆動力はアクセル開度が最低値であるときに、実線の目標駆動力と一致する特性となる。このため、アクセル開度が最低値であるとき、実線の目標駆動力の上側に設定される新たな目標駆動力と、実線の目標駆動力との間には段差は形成されずにスムーズに変化する。また、ステップS5で、実線の目標駆動力の下側に新たな目標駆動力を設定するときも、その新たな目標駆動力はアクセル開度が最低値であるときに、実線の目標駆動力と一致する特性となる。このため、新たな目標駆動力の特性は、アクセル開度が最低値以上であれば、必ず目標駆動力が変化する特性となり、不感帯は形成されない。このように、ステップS5の処理をおこなうことにより、上記の不都合を回避できる。また、ステップS4,S5の処理をおこなうと、アクセル開度が所定値a未満でのみ、新たな目標駆動力の最低値を、アクセル開度全閉の目標駆動力の最低値に一致させるため、乗員が違和感を持つことがない。
【0038】
ここで、図1に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、図1に示されたステップS1およびステップS2が、この発明の判断手段に相当し、ステップS3−1およびステップS3−2が、この発明の決定手段に相当し、ステップS3−1が第1の手段に相当し、ステップS3−2が、この発明の第2の手段に相当し、ステップS4が、この発明の操作量判断手段に相当し、ステップS5が、この発明の特性設定手段に相当する。
【0039】
なお、図1の制御例は、駆動力源から車輪に至る経路に、有段変速機に代えて、無段変速機および前後進切換装置が設けられている車両においても実行可能である。無段変速機とは、変速比を無段階(連続的)に変更可能な変速機である。無段変速機としては、ベルト式無段変速機またはトロイダル型無段変速機を用いることが可能である。ベルト式無段変速機は、プライマリプーリおよびセカンダリプーリにベルトを巻き掛けた巻き掛け伝動装置である。また、プライマリプーリにおけるベルトの巻き掛け半径を制御するプライマリ油圧室が設けられているとともに、セカンダリプーリからベルトに加えられる挟圧力を制御するセカンダリ油圧室が設けられている。さらに、プライマリ油圧室に供給されるオイル量、およびセカンダリ油圧室の油圧を制御するアクチュエータが設けられている。このアクチュエータは、例えば、油圧回路、ソレノイドバルブ、切替弁、圧力制御弁などを有する油圧制御装置により構成されている。
【0040】
そして、プライマリ油圧室に供給されるオイル量を制御することにより、ベルト式無段変速機の変速比が制御される。これに対して、セカンダリ油圧室の油圧を制御することにより、セカンダリプーリからベルトに加えられる挟圧力が変化して、ベルト式無段変速機の伝達トルク(トルク容量)が調整される。ここで、NポジションまたはPポジションが選択された場合と、DポジションまたはRポジションが選択された場合とを比較すると、ベルト式無段変速機の動力伝達状態、つまり、伝達トルクが異なる。具体的には、NポジションまたはPポジションが選択された場合の伝達トルクよりも、DポジションまたはRポジションが選択された場合の伝達トルクの方が高く制御される。このベルト式無段変速機を有する車両では、車速およびアクセル開度に基づいて、車両における目標駆動力が求められる。
【0041】
そして、目標駆動力に基づいてエンジン出力を制御するために、エンジン2の燃費が最適燃費線に沿ったものとなるように、目標エンジン回転数および目標エンジン出力が求められる。また、エンジン2の実際の回転数を目標エンジン回転数に近づけるために、ベルト式無段変速機の変速比が制御される。また、エンジン2の実際のトルクを目標エンジントルクに近づけるために、エンジン出力制御装置3が制御される。最適燃費線を示すデータおよびベルト式無段変速機の変速比を制御するデータは、電子制御装置10に記憶されている。図1の制御例をおこなうと、ステップS1でセカンダリ油圧室の油圧を低下させる制御が実行されて、ベルト式無段変速機でのトルク伝達が遮断される。なお、ベルト式無段変速機の変速比および伝達トルクを制御するアクチュエータについては、例えば、特開平5−990302号公報、特開平5−164240号公報、特開平11−182662号公報などに記載されているように周知であるため、その詳細な説明を省略する。
【0042】
一方、トロイダル型無段変速機は、入力ディスクと出力ディスクとの間にパワーローラを介在させたトラクション伝動装置であり、パワーローラを回転自在に支持したトラニオンが設けられている。このトラニオンを直線状に動作させる第1アクチュエータが設けられている。そして、トラニオンを直線状に動作させると、パワーローラの傾転角度が変化して、入力ディスクおよび出力ディスクに対するパワーローラの接触半径が変化する。このようにして、トロイダル型無段変速機の変速比が制御される。また、入力ディスクおよび出力ディスクの回転中心となる軸線に沿った方向に、入力ディスクおよび出力ディスクに挟圧力を加える第2アクチュエータが設けられている。
【0043】
そして、NポジションまたはPポジションが選択された場合と、DポジションまたはRポジションが選択された場合とでは、トロイダル型無段変速機の動力伝達状態が異なる。具体的には、NポジションまたはPポジションが選択された場合に、第2アクチュエータで発生する挟圧力よりも、DポジションまたはRポジションが選択された場合に、第2アクチュエータで発生する挟圧力の方が高い。上記の第1アクチュエータおよび第2アクチュエータとしては、例えば、油圧を動作力に変換する油圧式アクチュエータを用いることができる。このトロイダル型無段変速機を有する車両で図1の制御例をおこなうと、ステップS1で、入力ディスクおよび出力ディスクに加える軸線方向の挟圧力を低下させる制御がおこなわれて、トロイダル型無段変速機でのトルク伝達が遮断される。目標駆動力に基づいて、エンジン出力およびトロイダル型無段変速機の変速比を制御する理論は、ベルト式無段変速機の場合と同じである。なお、トロイダル型無段変速機の構成および伝達トルクを制御するアクチュエータについては、例えば、特開平5−180292号公報、特開平5−196116号公報、特開平10−148245号公報などに記載されているように周知であるため、詳細な説明を省略する。
【0044】
また、前後進切換装置は、入力部材に対する出力部材の回転方向を正逆に変更可能な伝動装置である。前記の無段変速機は、Dポジションが選択された場合と、Rポジションが選択された場合とで、回転要素の回転方向を正逆に切り替える機構を有していないため、この前後進切換装置が設けられる。この前後進切換装置としては、遊星歯車機構、または平行軸歯車機構を有する装置とすることができる。この遊星歯車機構を用いる前後進切換装置では、遊星歯車機構の他に、遊星歯車機構の回転要素同士を接続または遮断するクラッチ、遊星歯車機構の回転要素を固定するブレーキなどが設けられる。このクラッチまたはブレーキなどの摩擦係合装置を係合および解放させるアクチュエータが設けられている。このアクチュエータとしては、油圧式アクチュエータまたは電磁式アクチュエータを用いることができる。
【0045】
そして、摩擦係合装置の係合および解放状態を制御することにより、出力部材の回転方向が切り替わる。また、遊星歯車機構を有する前後進切換装置では、DポジションまたはRポジションが選択された場合と、PポジションまたはNポジションが選択された場合とでは、摩擦係合装置の状態が異なる。具体的には、DポジションまたはRポジションが選択された場合は、入力部材と出力部材との間で動力伝達が可能な状態となる。これに対して、PポジションまたはNポジションが選択された場合は、入力部材と出力部材との間で動力伝達が不可能な状態となる。この前後進切換装置を有する車両で図1の制御例をおこなう場合、ステップS1では、前後進切換装置の摩擦係合装置の係合および解放が制御されて、前後進切換装置でのトルク伝達が遮断される。なお、遊星歯車機構を用いた前後進切換装置およびアクチュエータについては、例えば、特開平5−10425号公報、特開平5−99302号公報、特開平5−133466号公報に記載されているように周知であるため、その説明を省略する。
【0046】
一方、平行軸歯車式の前後進切換装置では、噛み合いクラッチの噛み合いおよび解放を制御するアクチュエータが設けられている。そして、噛み合いクラッチの係合および解放を制御することにより、出力部材の回転方向が正逆に切り替わる。この平行軸歯車式の前後進切換装置では、DポジションまたはRポジションが選択された場合は、噛み合いクラッチが係合されて、動力伝達が可能な状態となる。これに対して、平行軸歯車式の前後進切換装置で、PポジションまたはNポジションが選択された場合は、噛み合いクラッチが解放されて、動力伝達が不可能な状態となる。なお、平行軸歯車式の前後進切換装置は、例えば、「無段変速機・CVT入門(株式会社グランプリ出版・2004年10月25日発行)」に記載されているように周知であるため、詳細な説明を省略する。
【0047】
そして、前後進切換装置および無段変速機を有する車両で図1の制御例をおこなう場合、ステップS1では、前後進切換装置または無段変速機のいずれか一方で、トルク伝達を遮断する制御をおこなえばよい。また、上記の前後進切換装置および無段変速機を駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に配置する場合、流体伝動装置の有無は問われない。さらに、駆動力源から車輪に至る動力の伝達方向で、前後進切換装置または無段変速機のいずれが上流に配置されていてもよい。さらにこの発明は、駆動力源のトルクが前輪に伝達される構成の二輪駆動車、または駆動力源のトルクが前輪および後輪に伝達される構成の四輪駆動車にも適用可能である。つまり、この発明の車輪には、後輪の他に前輪も含まれる。
【0048】
また、図2に示された構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、車両1が、この発明の車両に相当し、アクセルペダル11が、この発明の車速制御装置に相当し、図3に示すマップが、この発明のデータに相当し、エンジン2が、この発明の駆動力源に相当し、変速機5が、この発明の動力伝達装置に相当する。さらに、無段変速機および前後進切換装置も、この発明の動力伝達装置に相当する。なお、アクセルペダル11の踏み込み量に代えて、アクセルペダル11の踏み込み速度を用いて、目標駆動力を求める制御を実行してもよい。この場合、図1の各ステップで説明したアクセル開度を、アクセルペダル11の踏み込み速度と読み替えればよい。特に、ステップS5では、アクセルペダル11の踏み込み速度が所定値以下の駆動力に対応させて、目標駆動力の最低値を設定し、目標駆動力の傾きを決定すればよい。なお、アクセル開度に代えて、アクセルペダル11の踏み込み速度を用いる場合、専用のマップを用いることは勿論である。
【0049】
さらに、図1の制御例ではアクセル開度に代えて、アクセルペダル11の踏み込み割合を用いることもできる。この場合、図1の各ステップで説明したアクセル開度を、アクセルペダル11の踏み込み割合と読み替えればよい。さらに、アクセル開度に代えて、アクセルペダル11の踏み込み角度を用いることもできる。この場合、図1の各ステップで説明したアクセル開度を、アクセルペダル11の踏み込み角度と読み替えればよい。なお、この実施例において、目標駆動力に基づいてクラッチまたはブレーキのトルク容量を制御する場合、目標駆動力が増加することに伴い、そのトルク容量を増加する制御をおこなうことができる。また、この発明において、駆動力源として電動モータを用いる場合、電流値を制御すれば、その出力を制御可能である。また、駆動力源として油圧モータを用いる場合、作動油の油圧を制御すれば、油圧モータのトルクを制御可能である。
【0050】
さらに、変速機の変速比または変速段、変速機のトルク容量、前後進切換装置を構成する摩擦係合装置の係合および解放などが、この発明における動力伝達装置の動力伝達状態に相当する。なお、変速機の変速比を制御するアクチュエータとして、電磁式アクチュエータを有する車両においても、図1の制御例を実行可能である。さらに、アクセルペダル11に代えて、乗員が手により操作するレバーまたはノブなどが設けられており、そのレバーまたはノブを操作して、車両における加速意図を生じさせる車両においても、図1の制御例を実行可能である。この場合、レバーまたはノブが、この発明の車速制御装置に相当する。さらに、上記の具体例では目標駆動力を求めるためのデータとしてマップが挙げられているが、電子制御装置10に目標駆動力を算出する数式を記憶しておき、その数式を用いて目標駆動力をリアルタイムで求めてもよい。すなわち、この数式もこの発明のデータに含まれる。つまり、この発明におけるデータは、電子制御装置10が目標駆動力を求めるプログラムで使用される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の対象で実行可能な制御例を示すフローチャートである。
【図2】図1に示す制御例を実行可能な車両の概念図である。
【図3】図1の制御に用いるデータの一例である。
【図4】この発明の対象である車両において、目標駆動力とアクセル開度との関係を示すタイムチャートの例である。
【図5】この発明の対象である車両において、目標駆動力とアクセル開度との関係を示すタイムチャートの他の例である。
【図6】図1の制御に用いるデータの他の例である。
【符号の説明】
【0052】
1…車両、 2…エンジン、 4…車輪、 5…変速機、 11…アクセルペダル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に伝達する動力を発生する駆動力源と、この駆動力源から前記車輪に至る動力伝達経路に設けられ、かつ、動力伝達状態を変更可能な動力伝達装置と、前記駆動力源または前記動力伝達装置のうち少なくとも一方を制御するために前記車両の乗員により操作される車速制御装置とを備え、この車速制御装置の操作状態および車速を用いて前記車両の目標駆動力を決定するためのデータを用意し、前記車速制御装置の操作状態および車速を判断し、その判断結果および前記データを用いて前記車両の目標駆動力を求め、求められた目標駆動力に基づいて、前記駆動力源の出力または前記動力伝達装置の動力伝達状態のうちの少なくとも一方を制御する、車両の駆動力制御装置において、
前記目標駆動力に基づいて、前記駆動力源または動力伝達装置の少なくとも一方を制御して前記車両の実際の駆動力が発生しているときに、前記車速制御装置の操作状態が変化して前記目標駆動力と前記車両の実際の駆動力とに偏差が生じたか否かを判断する判断手段と、
この判断手段により前記目標駆動力と実際の駆動力とに偏差が生じたと判断された場合は、前記車速制御装置の操作状態が変更された場合に用いる目標駆動力と前記車速との相対関係を、車速制御装置の操作状態が変更される前のデータで定められていた目標駆動力と前記車速との相対関係と相似させる決定手段と
を備えていることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記データでは、前記目標駆動力と車速との相対関係が特性線で示されており、
前記決定手段は、前記車速制御装置の操作状態が変更された場合に用いる前記目標駆動力と車速との相対関係を表す特性線の傾きを、前記車速制御装置の操作状態の変更前のデータで定められていた前記目標駆動力と車速との相対関係を表す特性線の傾きと同じにする第1の手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記データでは、前記目標駆動力と車速との相対関係が特性線で示されており、
前記決定手段は、前記車速制御装置の操作状態が変更された場合に用いる前記目標駆動力と車速との相対関係を表す特性線の傾きを、前記車速制御装置の操作状態の変更前のデータで定められていた目標駆動力であり、かつ、現在の実際の駆動力を通り、かつ、現在の車速を通る特性線の傾きと同じにする第2の手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記判断手段により前記目標駆動力と実際の駆動力とに偏差が生じたと判断された場合に、前記車速制御装置の操作量が、予め定められた所定量未満であるか否かを判断する操作量判断手段と、
この操作量判断手段により前記車速制御装置の操作量が所定量未満であると判断された場合は、前記車速制御装置の操作量が変化する全領域で前記目標駆動力が変化し、かつ、前記車速制御装置の操作量が最低値であるときの目標駆動力が最低値となるように、前記車速制御装置の操作量と目標駆動力とで表わされる特性線を設定する特性設定手段を備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記判断手段は、前記目標駆動力と前記実際の駆動力とに偏差が生じたか否かを、前記駆動力源の出力制御の応答性、または前記動力伝達装置の動力伝達状態の制御の応答性、または前記車両が走行する道路の状況のうち、いずれか1つの条件に基づいて判断する手段を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−275883(P2009−275883A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129861(P2008−129861)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】