説明

車両制御システム

【課題】車両間における制御を適切に実行させること。
【解決手段】他車の情報を車外から受信する通信装置20と、周辺の夫々の車両が共有する自車と他車の情報を用いて当該各車両間での走行制御を行う制御装置10と、を各車両に備える。そして、その制御装置には、実行中の前記走行制御に係る状況又は当該走行制御を実行中の車両の状況に応じて当該走行制御の制御形態を変更させること。例えば、その制御装置10には、走行制御の制御目標値と当該制御目標値での走行制御実行に伴う実測値とのずれに基づいて当該走行制御の制御形態を変更させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車の周辺を走行している他車との間で所定の制御を行う車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の車両制御システムに関して例えば下記の特許文献1に開示されている。その特許文献1には、少なくとも2台の車両間で車車間通信を行い、各車両間で車間制御を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−098706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、走行中の車両間で夫々の車両の情報を通信で授受し、その受信した他車の情報に基づき当該他車との間で所定の制御(例えば上記特許文献1の車間制御)を行う場合には、例えばその情報の正確性に難があると、その制御形態によって適切な制御が実行できない。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、車両間における制御を適切に実行可能な車両制御システムを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、本発明は、他車の情報を車外から受信する通信装置と、周辺の夫々の車両が共有する自車と他車の情報を用いて当該各車両間での走行制御を行う制御装置と、を各車両に備え、前記制御装置には、実行中の前記走行制御に係る状況又は当該走行制御を実行中の車両の状況に応じて当該走行制御の制御形態を変更させることを特徴としている。
【0007】
ここで、前記走行制御の制御対象となる車両の台数を維持したまま当該走行制御の制御形態を変更することが望ましい。
【0008】
また、前記走行制御の制御目標値と当該制御目標値での走行制御実行に伴う実測値とのずれに基づいて当該走行制御の制御形態を変更することが望ましい。
【0009】
また、前記走行制御の制御形態として、各車両間の車両モデルに基づくモデルベースの制御と、車両間の実測値を制御目標値に近づける比例制御及び車両間の実測値の制御目標値に対するずれを抑える微分制御を併用するPD制御と、を切り替えることが望ましい。
【0010】
また、前記走行制御は、複数台の車両による車間制御であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る車両制御システムは、実行中の前記走行制御に係る状況又は当該走行制御を実行中の車両の状況に応じて当該走行制御の制御形態を変更することができるので、その状況に応じた適切な走行制御の使い分けが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明に係る車両制御システムの構成を示す図である。
【図2】図2は、LQ制御について説明する図である。
【図3】図3は、PD制御について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る車両制御システムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
[実施例]
本発明に係る車両制御システムの実施例を図1から図3に基づいて説明する。
【0015】
本実施例の車両制御システムは、無線通信を利用して周辺の夫々の車両間で車両の情報を送受信し、その各車両が共有する自車と他車の情報を用いた当該各車両間での走行制御の実行を可能にするものである。ここでは走行制御として複数の車両間での車間制御を例に挙げるので、この車両制御システムは、下記の車間自動制御システムに適用されるものとして例示する。本システムは、図1に示す構成要素を車両に搭載することで実現させる。その図1に示す構成要素は、本システムにおける自車と周辺の他車(例えば先行車両と後続車両)の双方に共通して搭載されるものとして例示する。本システムの制御動作は、図1に示す制御装置(ECU)10に実行させる。
【0016】
車間自動制御システムは、設定した目標車間距離や目標車間時間となるように車間の制御を行う所謂ACC(Adaptive Cruise Control)と云われるものである。この車間自動制御システムは、その目標車間距離や目標車間時間となるように車間を詰めさせることで、後続車両の空気抵抗の低減が可能になるので、その後続車両の燃費を向上させることができる。また、この車間自動制御システムは、車間を詰めさせることで道路上の或る地点における単位時間内の通過車両の台数(所謂交通容量)を増加させることができるので、渋滞の緩和にも役立つ。
【0017】
ここで例示する車間自動制御システムの車間制御とは、先行する目の前の1台の車両に追従走行する際又は後続の1台の車両に追従走行される際の2台の車両間の車間制御のみならず、複数台の車両が一群の隊列(車群)を成して先行車両に追従しながら又は後続車両に追従されながら隊列走行する際の夫々の車両間の車間制御を含む。
【0018】
この車間自動制御システムにおいては、自動車向けの無線通信技術を利用して車両間で当該車両における各種情報の授受を行い、その情報又は当該情報における車間制御必要情報に基づいて車間制御の制御目標値を設定する。そして、この車間自動制御システムでは、その制御目標値に応じた車両制御を実行し、車間を制御目標値の1つである目標車間距離(目標車間時間)へと制御する。つまり、この車間自動制御システムにおいては、情報通信型の車間制御(ACC)が実行される。
【0019】
制御装置10には、その自動車向けの無線通信を行う通信装置20が接続される。この通信装置20は、制御装置10に制御され、車間自動制御システムにおいて車両間で受け渡しされる下記の各種情報(識別情報、走行情報、制御目標値情報、運転者による操作情報、車両の仕様情報、通信規格情報、走行環境情報等)をアンテナ21から送信する。
【0020】
その自動車向けの無線通信については、次の様な形態がある。例えば、この種の無線通信には、車両間で直接情報の授受を行うものや、車両間で車外に敷設された通信施設を介して間接的に情報の授受を行うものがある。前者の無線通信としては、車両同士が直接情報をやりとりする車車間通信がある。一方、後者の無線通信としては、車外に敷設された通信施設(路側機)を介して車両同士が情報のやりとりを行う車路車間通信、車外に敷設された通信施設(情報センタ等の基地局)を介するインターネット等の通信インフラを利用して車両同士が情報のやりとりを行うものがある。情報の授受が直接であると間接であるとに拘わらず、隊列走行時には、直前の先行車両だけでなく、それ以外の車群内における他の先行車両も、そして、直後の後続車両だけでなく、それ以外の車群内における他の後続車両も通信相手となり得る。
【0021】
上記の車路車間通信は、車両の通信装置20と車外に敷設された通信施設(路側機)とが情報をやりとりする路車間通信の応用例である。その路車間通信は、例えば前方の混雑状況や信号の状態等の情報を車両が受け取る際にも利用される。
【0022】
車両間で受け渡しされる各種情報としては、例えば、識別情報、走行情報、制御目標値情報、運転者による操作情報、車両の仕様情報、通信規格情報、走行環境情報等がある。そして、車両には、その各種情報を得る為の検出装置等が搭載されている。その検出装置等で得られた情報(検出信号等)は、制御装置10に送られる。
【0023】
識別情報とは、情報の送信元を特定及び識別する為の情報のことである。この車間自動制御システムにおいては、車両そのものを特定及び識別する為の車両識別情報が予め車両に設定されている。尚、その車両識別情報は、通信を行う際に付与してもよい。また、隊列走行時には、その車群を特定及び識別する為の車群識別情報も付与される。この車群識別情報は、例えば隊列走行開始時に、その車群に属する各車両の内の何れか(例えば先頭車)の制御装置10が設定し、夫々の車両に対して無線通信を介して付与する。ここで、隊列走行時には、車両の増加や離脱等によって車群の所属車両が変化することがある。これが為、この車間自動制御システムにおいては、その変化が生じた際に新たな車群識別情報を再付与させてもよい。また、これに替えて、車両の増加時には、新規加入車両に対して既存の車群識別情報を付与するようにしてもよい。一方、車両の離脱時には、離脱車両の保持している車群識別情報を当該車両の制御装置10が削除する。
【0024】
走行情報とは、自車の走行時における測定情報又は推定情報のことである。例えば、この走行情報には、自車の現在位置情報や進行方向情報がある。現在位置情報は、例えばGPS(Global Positioning System)31による測定情報を利用すればよい。また、進行方向情報は、例えばGPS31による測定情報の変移から推定してもよく、下記のウィンカ操作方向やステアリング操舵角の情報に基づいて推定してもよい。これら現在位置情報や進行方向情報については、GPS31による測定情報と共にカーナビゲーションシステム32の地図情報を併用してもよい。更に、走行情報には、自車の車速情報、自車の車両加速度情報(車両減速度情報)、自車の車両横加速度情報、自車のジャーク情報、自車のヨーレート情報、自車のピッチ角情報、自車のロール角情報がある。これらの走行情報は、自車に搭載されている車速センサ(車速検出装置33)や加速度センサ等の各種センサの検出値に基づいて得られる情報である。
【0025】
制御目標値情報とは、他車との間で車間制御を行う際に必要な自車の制御目標値の情報のことである。この制御目標値情報には、前述した目標車間距離や目標車間時間の情報と、この目標車間距離や目標車間時間を実現させる為に設定する自車の目標車速、目標車両加速度又は目標車両減速度(以下、「目標車両加減速度」という。)や目標ジャークの情報と、がある。制御装置10は、受信した他車の情報に基づいて、この車間制御に係る制御目標値の設定を行う。
【0026】
運転者による操作情報には、運転者による自車の入力機器に対する操作量の情報及び当該入力機器に対する操作の有無の情報がある。前者の操作量の情報とは、アクセルペダルに対するアクセル操作量(アクセル開度等)の情報、ブレーキペダルに対するブレーキ操作量(ブレーキ踏力等)の情報、ウィンカスイッチに対する左右何れかへの操作方向の情報、ステアリングホイールに対するステアリング操舵角の情報、ヘッドライトスイッチに対する操作状態の情報(ヘッドライトがハイビームなのか、ロービームなのか、スモールなのかの情報)などである。一方、後者の操作の有無の情報とは、ブレーキ操作の有無(ブレーキランプスイッチのON/OFF)の情報、ウィンカスイッチ操作の有無の情報、ヘッドライトスイッチ操作の有無の情報、ワイパースイッチ操作の有無の情報、その他、空気調和機や音響機器等に対するスイッチ操作の有無の情報などである。
【0027】
車両の仕様情報には、予め車両の設計値として決まっている情報だけでなく、頻繁に変わることのない情報も含む。例えば、この仕様情報とは、車両重量、最大車両制動力(最大車両減速度:路面摩擦係数に依存)、最大加速力(最大車両加速度)、最大ジャーク、車両応答特性情報、各種アクチュエータの応答性(制御指令に対する反応速度)、装備等の情報のことである。ここで、車両応答特性情報とは、制御目標値で制御した際の出力の応答性を示す情報のことであり、例えば下記の式1に示す時定数Tsの情報等が該当する。その式1は、目標車両加減速度uに対する実際の車両加減速度aの応答特性を示す。この式1の「s」は、ラプラス演算子である。また、アクチュエータとは、ブレーキアクチュエータ、スロットルアクチュエータ、変速機のアクチュエータ等である。また、装備の情報とは、例えば、タイヤのグリップ性能等のことである。
【0028】
【数1】

【0029】
通信規格情報とは、例えば、双方向無線通信の通信規格、無線LANの通信規格、ビーコンの通信規格等の情報のことである。自動車向けの無線通信における双方向無線通信には、DSRC(Dedicated Short Range Communication)等がある。また、この通信規格情報には、送信先への挨拶情報、上記の各種アクチュエータにおける応答遅れを示す時定数の情報、転送情報を示すフラグ等も含まれる。
【0030】
走行環境情報とは、自車の走行している路面の情報のことである。この走行環境情報には、路面摩擦係数の情報、路面勾配の情報、路面温度の情報、路面がアスファルトなのか未舗装なのかの情報、ウエット路面なのかドライ路面なのか凍結路面なのかの情報がある。
【0031】
この車間制御において設定される制御目標値は、第1に車間制御における主要目標たる目標車間距離や目標車間時間である。この目標車間距離(目標車間時間)は、車両間における現在の相対速度、相対車間距離、相対車両加速度等に基づいて、例えば先行車両が急制動等を行ったとしても車間距離が零にならない値を設定する。その相対速度等は、受信した先行車両の情報(車速や位置情報等)に基づいて算出される。この車間自動制御システムにおいては、その目標車間距離(目標車間時間)に基づいて、これを実現し得る車両に対する実際の制御目標値としての目標車速、目標車両加減速度、目標ジャークを設定する。
【0032】
例えば、この車間自動制御システムにおいては、各車両間の車両モデルに基づくモデルベースのモデル制御を行い、制御目標値(目標車間距離、目標車間時間)となるように各車両間の車間制御を実行する。具体例を挙げるとするならば、本実施例では、2つ以上の車両モデルを含む系で最適化が図られるように夫々の車両の制御目標値を設定する最適制御(LQ制御)を実行する。
【0033】
ここでは、図2に示す5台の車両C1〜C5を隊列走行させる際のLQ制御による車間制御(隊列走行制御)について例示する。この車間自動制御システムにおいては、先頭車両C1の走行状態に応じて、この先頭車両C1に追従するよう後続車両C2〜C5の走行状態を制御し、目標車間距離Ltgtで隊列走行させる。その際には、自車及び他車の上述した各種情報の全て又は当該各種情報の内の必要な情報が無線通信により各車両C1〜C5の間で共有されており、その共有情報に基づいて後続車両C2〜C5の目標車両加減速度u〜uを設定し、これら後続車両C2〜C5をその目標車両加減速度u〜uとなるよう各々制御する。このときの共有情報とは、夫々の車両C1〜C5についての車両加減速度(加速度センサ等の前後加速度検出装置34による実測値又は推定値)a〜a及び目標車両加減速度u〜uと、前後関係にある車両間の車間誤差L〜L及び相対速度L’〜L’(dL/dt〜dL/dt)と、を指す。
【0034】
この隊列走行制御においては、後続車両C2〜C5の目標車両加減速度u〜uを制御入力とし、車両加減速度a〜a、車間誤差L〜L及び相対速度L’〜L’を状態量として、車両C1〜C5の隊列走行を下記の状態ベクトルxの時間微分の式(式2:状態空間方程式)で表す。
【0035】
【数2】

【0036】
ここで、この式2における「u」は目標車両加減速度ベクトル、「u」は先頭車両C1の目標車両加減速度、「u」は道路勾配や風等の外乱である。また、「A」、「B」、「B」、「B」は、夫々の車両C1〜C5の仕様情報等によって決まる行列を示す。状態ベクトルxと目標車両加減速度ベクトルuは、下記の通りである。
【0037】
x=(a,L,L’,a,L,L’,a,L,L’,a,L,L’,a
=(u,u,u,u
【0038】
その目標車両加減速度ベクトルuについては、フィードバックゲイン行列Kを用いて、下記の式3の如く表すことができる。この例示のフィードバックゲイン行列Kは、13列×4行の行列である。
【0039】
【数3】

【0040】
上記の状態空間方程式(式2)で表されるシステムのLQ制御を行う為の評価関数Jは、下記の式4の如く定める。
【0041】
【数4】

【0042】
この式4の「ε」、「εdL」、「ε」は、各々車間誤差L〜Lに関する項、相対速度L’〜L’に関する項、目標車両加減速度u〜uに関する項に対して重み付けする為の重みである。従って、この隊列走行制御においては、その重みε、εdL、εを調整することで、車間距離の安定性、相対速度の低減、加減速の低減を調和させる。
【0043】
この評価関数Jを最小にするフィードバックゲイン行列Kは、隊列を成す車両C1〜C5の組が決まったときに、一意に求まる。
【0044】
この隊列走行制御においては、上記の式3に対して、そのフィードバックゲイン行列Kと各種検出装置の情報に基づき得た状態ベクトルxを代入し、且つ、先頭車両C1の目標車両加減速度uをフィードフォワードにセットして、評価関数Jを最小にする目標車両加減速度ベクトルuを求める。これにより、評価関数Jを最小にする目標車両加減速度u〜uの組み合わせが求められる。後続車両C2〜C5の夫々の制御装置10は、その目標車両加減速度u〜uとなるよう各々後続車両C2〜C5を制御して、車両C1〜C5を隊列走行させる。
【0045】
ここで、LQ制御による隊列走行制御を実行中の車両の状況、実行中のLQ制御による隊列走行制御に係る状況によっては、本制御を実行できない又は本制御の実行が好ましくない場合があり、LQ制御とは別の制御形態での隊列走行制御の実行の方が望ましいときがある。
【0046】
その車両の状況とは、次のものが該当する。例えば予め設定してある応答特性(時定数Ts等)を送受信する設定の場合に、受信した応答特性が実際より大きくずれている状況が該当する。乗員や積載量の変更によって車両の重量が変わり、応答特性が設定値に対してずれてしまう可能性があるからである。また、通信途絶等により隊列内の各車両が夫々の車両における応答特性を共有していない状況、例えば自車にて他車の応答特性が判らない状況や自車の応答特性が他車に知られていない状況についても該当する。また、隊列内の各車両の内の何れかにおいて車輪のスリップ抑制制御や車両の挙動安定化制御(所謂VSC:Vehicle Stability Control等)が作動している状況も該当する。
【0047】
その通信途絶とは、無線通信で相手先から情報を受信できないときのことであり、相手先の通信装置20が情報を送信し難くなっている又は自らの通信装置20が相手先からの情報を受信し難くなっている通信異常時だけでなく、相手先から情報が送られてくるのを待っている通信待機時も含む。制御装置10は、LQ制御による隊列走行制御の最中に受信した他車の情報に基づいて通信途絶判定を行う。この車間自動制御システムでは、例えば所定の通信周期内における他車の情報の受信失敗回数が所定回数(1分間に数回等)に達したときに通信異常と判定し、通信途絶との判断を行う。また、この車間自動制御システムでは、自車の通信装置20が正常であるにも拘わらず、例えば所定時間の間(数秒間等)他車の情報を受信できないときに通信待機時と判定し、通信途絶との判断を行う。尚、相手先の通信装置20が情報を送信し難くなっているときには、その状況を自車側で判断し難いので、一旦通信待機時と判定し、その後の通信状態如何で通信異常と判定させればよい。
【0048】
一方、隊列走行制御に係る状況とは、次のものが該当する。例えば、上述した車間誤差L〜Lの拡大によって隊列走行制御が発散してしまう状況又は隊列走行制御の発散が見受けられる状況、つまり制御目標値と当該制御目標値での隊列走行制御の実行に伴う実測値とにずれのある状況が該当する。また、隊列内に新たな車両が合流してきた際又は隊列内から一部の車両が離脱した際には、新たな隊列での通信による情報の共有化や後続車両の目標車両加減速度の設定等が実行され、これらの過渡的な状況が終わるまではLQ制御による隊列走行制御が実行できない。これが為、そのような新規隊列を成す際の過渡的な状況についても、別の制御形態の方が望ましい実行中のLQ制御による隊列走行制御に係る状況に該当する。
【0049】
そこで、これらのようなLQ制御が望ましくない状況下においては、LQ制御とは別の制御形態に切り替えて隊列走行制御を実行させる。
【0050】
制御装置10は、かかる状況下であることを認識した場合に、LQ制御による隊列走行制御を止めて、LQ制御とは別の制御形態による隊列走行制御を実行させる。例えば、その別の制御形態としては、先行車両との車間距離を目標車間距離に近づける比例制御と、その車間距離が目標車間距離よりも縮まらない又は目標車間距離よりも拡がらないよう先行車両との相対速度を零に近づける微分制御と、を実行するPD制御が考えられる。このPD制御による隊列走行制御においては、例えば先頭車両との間及び直前の車両との間の夫々のフィードバック制御によって後続車両の目標車両加減速度ufbを決める。具体的に、図3に示す3台の車両C1〜C3の隊列を例に挙げて説明する。
【0051】
後続車両C2及びC3においては、車速等に応じて目標車間距離Ltgt1,Ltgt2が設定される。また、これら後続車両C2及びC3においては、自車の前部に設けた周辺物検出装置40で直前の先行車両C1及びC2との間の現在の車間距離Lr1,Lr2と相対速度Vr1,Vr2を測定する。
【0052】
その周辺物検出装置40とは、自車の周辺の物体を検出する装置であり、自車の周辺に存在している車両の検出に用いる。制御装置10は、その周辺物検出装置40の検出結果を用いて自車の周辺の車両の検出を行う。この周辺物検出装置40は、自車に対する前方、後方又は側方の内の監視対象とする方向の他車を検出できる場所に設置する。つまり、この周辺物検出装置40は、自車の前方を監視対象とするならば車両の前部に設置し、自車の後方を監視対象とするならば車両の後部に設置し、自車の側方を監視対象とするならば車両の右側部及び左側部に設置する。この例示では、周辺物検出装置40を少なくとも前部に配設する。
【0053】
その周辺物検出装置40には、例えば、ミリ波レーダ、安価なレーザレーダ、UWB(Ultra Wide Band)レーダ等の近距離用レーダ、可聴域の音波又は超音波を用いたソナー、撮像装置などを利用できる。その撮像装置としては、具体的に、可視光線カメラ、赤外線カメラ(赤外線投光機の有るもの又は無いもの)、単一カメラ、ステレオカメラ等が挙げられる。ミリ波レーダ、レーザレーダ、近距離用レーダ、ソナーの場合、自車の制御装置10は、その検出信号に基づいて先行車両を検出し、その先行車両との間の車間距離、相対速度、相対加速度等を演算する。撮像装置の場合、自車の制御装置10は、その撮像画像に基づいて先行車両を検出し、その先行車両との間の車間距離や相対速度等を演算する。尚、GPS31から先行車両の位置情報についても取得できるのであれば、そのGPSによる先行車両の位置情報と自車の位置情報とに基づいて相対的な位置関係を求めさせてもよい。
【0054】
後続車両C2の制御装置10は、直前の先行車両C1(先頭車両)との間の目標車間距離Ltgt1、現在の車間距離Lr1、現在の相対速度Vr1に基づいて、下記の式5から目標車両加減速度ufb2を求める。その式5の「k」と「c」は、上述した重みε、εdL、εと同様に調整可能なものである。下記の式6の「k1」、「k2」、「c1」及び「c2」についても同様である。
【0055】
【数5】

【0056】
また、後続車両C3の制御装置10は、無線通信により先行車両C1,C2の間における目標車間距離Ltgt1、現在の車間距離Lr1、現在の相対速度Vr1を受信し、これらと直前の先行車両C2との間の目標車間距離Ltgt2、現在の車間距離Lr2、現在の相対速度Vr2に基づいて、下記の式6から目標車両加減速度ufb3を求める。その式6において、前半の2項は先頭車両C1との間のフィードバック制御を表しており、後半の2項は直前の先行車両C2との間のフィードバック制御を表している。
【0057】
【数6】

【0058】
後続車両C2,C3の夫々の制御装置10は、その目標車両加減速度ufb2,ufb3となるよう各々後続車両C2,C3を制御して、車両C1〜C3を隊列走行させる。
【0059】
この車間自動制御システムにおいては、このようにLQ制御からPD制御に切り替えることで、そのLQ制御が適していないときでも隊列走行を継続させることができる。
【0060】
一方、上記の各種の状況が改善されたときには、PD制御から安定した車間制御の可能なLQ制御に切り替えさせることが好ましい。その改善されたときとは、PD制御による隊列走行制御実行中の車両の状況がLQ制御の方が望ましい状況へと変わったときのことを指す。例えば、隊列を成す全ての車両間で情報が共有化されて、LQ制御による隊列走行制御の実行許可条件が成立したときが該当する。また、通信途絶状態が解消されたとき、つまり隊列を成す全ての車両間での双方向の通信が安定したときについても該当する。
【0061】
ここでは、実行中の隊列走行制御に係る状況又は隊列走行制御を実行中の車両の状況に応じて、LQ制御(最適制御)の如きモデルベースの制御とPD制御の如き非モデルベースの制御とを使い分ける例にした。しかしながら、例えば別の車両モデルで上記とは異なる形態のLQ制御(最適制御)を構築可能ならば、制御装置10には、実行中の隊列走行制御に係る状況等に応じて、車両モデルの異なるLQ制御の間で切り替えさせてもよい。また、上述したLQ制御においては、評価関数Jの変更による制御形態の切り替えも可能である。更に、最適制御(LQ制御)においてマップデータを利用するならば、そのマップデータの変更による制御形態の切り替えを行ってもよい。また更に、上述した車間誤差L〜Lのように制御パラメータの信頼性が低下している場合には、その制御パラメータの補正が可能ならば、その補正による制御形態の切り替えを行ってもよく、その制御パラメータの削除が可能ならば、その削除による制御形態の切り替えを行ってもよい。
【0062】
このように、本実施例の車間自動制御システムにおいては、実行中の隊列走行制御に係る状況又は当該隊列走行制御を実行中の車両の状況に応じて当該隊列走行制御の制御形態を変更することができるので、その状況に応じた適切な隊列走行制御の使い分けが可能になる。
【0063】
ここで、上述した例示のLQ制御やPD制御は、通信で受信した他車の情報を利用している。これが為、他車の情報が受信できなくなったときには、従来から行われている直前の先行車両との間の車間制御に切り替えさせてもよい。つまり、この車間自動制御システムにおいては、従来の情報検出型の車間制御(ACC)も実行できるように構成してもよい。その情報検出型の車間制御とは、自車の前部に搭載している周辺物検出装置40で直前の先行車両との間の車間距離等の情報を測定し、その情報に基づき目標車速等の制御目標値を設定して行う車間制御のことである。
【0064】
ところで、上記の例示では5台の車両C1〜C5によるLQ制御と3台の車両C1〜C3によるPD制御を示したが、夫々の制御形態における制御対象の各車両は、その隊列を制御形態の変更前後で維持させてもよい。換言するならば、隊列を成す車両の台数を変えることなく、その台数を維持したまま上述した状況如何で制御形態を変更してもよい。また、隊列を成す車両の台数が変わらずとも、上述した状況如何で制御形態を変更してもよい。更に、隊列を成す車両の配置(順番)を変えることなく、また、その配置(順番)が変わらずとも、上述した状況如何で制御形態を変更してもよい。
【0065】
また、制御形態の変更前後において、隊列を成す車両の台数を変えることなく、その隊列内での車両の組み合わせを制御形態毎に変えることも可能である。例えば、3台の車両C1〜C3の隊列におけるLQ制御による車間制御の実行中に、上述したような制御形態の変更を要する状況になった場合を例に挙げる。この場合には、上述した状況に応じて、直接的な追従関係にある車両C1,C2の組と車両C2,C3の組とに分け、その夫々の組においてPD制御による車間制御又は従来の情報検出型の車間制御に変更させてもよい。また、この場合には、状況に応じて、その2組の内の一方をPD制御による車間制御に変更し、他方を従来の情報検出型の車間制御に変更してもよい。更に、例えば、3台の車両C1〜C3の隊列において、直接的な追従関係にある車両C1,C2の組でPD制御による車間制御が実行されながら、その組(厳密には車両C2)に追従するべく車両C3に対して従来の情報検出型の車間制御が実行されていると仮定する。この場合には、上述した状況に応じて、その車両C1,C2の組をLQ制御による車間制御に変更させ、直接的な追従関係にある車両C2,C3の組を新たに作ってLQ制御による車間制御に変更させることも可能である。
【0066】
また、周辺物検出装置40で自車の後方を監視することによって、自車の後方に現れた車両を検出することができる。これが為、この車間自動制御システムにおいては、単独走行中の自車の後方に周辺物検出装置40で車両を検出したときに、その車両間で情報通信型の車間制御を開始させるようにしてもよい。一方、この車間自動制御システムにおいては、隊列走行中の自車の後方に周辺物検出装置40で新たな車両が検出されたときに、その検出を自車から車群内の他の車両に送信したり、その新たな後続車両に車群識別情報を送信したりして、新たな隊列での情報通信型の車間制御を実行させるようにしてもよい。尚、新たな車両が検出されたときとは、最後尾を走行している自車の後に新たな車両が追従してきたときだけでなく、隊列の中を走行している自車の後に新たな車両が入り込んできたときも含む。
【0067】
更に、周辺物検出装置40で自車の側方を監視させてもよい。この場合、車間自動制御システムにおいては、自車とは別の車線を併走等している車両の検出ができるので、その車両が自車の前方又は後方に入り込んでくる可能性を予測できるようになる。
【0068】
ここで、その周辺物検出装置40による測定結果は、情報通信型の車間制御において使用してもよい。つまり、この車間自動制御システムにおいては、情報通信型の車間制御の実行中に周辺物検出装置40の測定結果に基づく情報検出型の車間制御を実行させ、車間制御の制御精度を高めるようにしてもよい。また、情報通信型の車間制御の実行中には、そのような情報検出型の車間制御の併用まで行わずとも、自車の直前に先行車両が実際に存在しているのか否かという確認などの為に、周辺物検出装置40による先行車両の検出結果のみを利用させてもよい。更に、この車間自動制御システムにおいては、自車の単独走行時に周辺物検出装置40で先行車両が検出されたときに、その車両間で情報通信型の車間制御を開始させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明に係る車両制御システムは、車両間における制御を適切に実行させる技術に有用である。
【符号の説明】
【0070】
10 制御装置
20 通信装置
31 GPS
32 カーナビゲーションシステム
33 車速検出装置
34 前後加速度検出装置
40 周辺物検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他車の情報を車外から受信する通信装置と、周辺の夫々の車両が共有する自車と他車の情報を用いて当該各車両間での走行制御を行う制御装置と、を各車両に備え、
前記制御装置は、実行中の前記走行制御に係る状況又は当該走行制御を実行中の車両の状況に応じて当該走行制御の制御形態を変更することを特徴とした車両制御システム。
【請求項2】
前記走行制御の制御対象となる車両の台数を維持したまま当該走行制御の制御形態を変更することを特徴とした請求項1記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記走行制御の制御目標値と当該制御目標値での走行制御実行に伴う実測値とのずれに基づいて当該走行制御の制御形態を変更することを特徴とした請求項1又は2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記走行制御の制御形態として、各車両間の車両モデルに基づくモデルベースの制御と、車両間の実測値を制御目標値に近づける比例制御及び車両間の実測値の制御目標値に対するずれを抑える微分制御を併用するPD制御と、を切り替えることを特徴とした請求項1,2又は3に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記走行制御は、複数台の車両による車間制御であることを特徴とした請求項1,2,3又は4に記載の車両制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−25352(P2012−25352A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168634(P2010−168634)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】