説明

車両制御装置

【課題】手動変速機を搭載した車両において走行中にエンジンを始動する場合のスタータの負荷を低減することができる車両制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジンと、エンジンと車両の駆動輪との動力の伝達を接続あるいは遮断するクラッチを有する手動変速機と、出力する動力によってエンジンを始動するときにエンジンに接続されるスタータと、を備え、クラッチがエンジンと駆動輪との動力の伝達を遮断し(S4否定)、かつエンジンが停止した(S3)惰性走行中にエンジンの始動要求がなされたときに、車速および手動変速機において選択されている変速段が、スタータに対する負荷の小さい車速および変速段である(S7否定)場合、クラッチがエンジンと駆動輪との動力の伝達を接続した状態でスタータによってエンジンを始動することを許容する(S8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンを停止して走行中にエンジンを始動する技術が知られている。例えば、特許文献1には、エンジンを停止した慣性走行状態において、エンジン再始動操作が行われた場合に、エンジンの点火制御を行うとともに、スタータモータの始動に代えて、所定の変速段を構成するとともにロックアップ係合を開始して駆動輪の回転駆動力をエンジン側に伝達する再始動制御部を備える自動変速装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−97701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
手動変速機を搭載した車両において走行中にエンジンを始動する場合、運転者の操作によってクラッチが係合されると、車速や選択されている変速段に応じてスタータに対する負荷が変化する。スタータに対する負荷を低減し、スタータを保護できることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、手動変速機を搭載した車両において走行中にエンジンを始動する場合のスタータの負荷を低減することができる車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両制御装置は、エンジンと、前記エンジンと車両の駆動輪との動力の伝達を接続あるいは遮断するクラッチを有する手動変速機と、出力する動力によって前記エンジンを始動するときに前記エンジンに接続されるスタータと、を備え、前記クラッチが前記エンジンと前記駆動輪との動力の伝達を遮断し、かつ前記エンジンが停止した惰性走行中に前記エンジンの始動要求がなされたときに、車速および前記手動変速機において選択されている変速段が、前記スタータに対する負荷の小さい車速および変速段である場合、前記クラッチが前記エンジンと前記駆動輪との動力の伝達を接続した状態で前記スタータによって前記エンジンを始動することを許容することを特徴とする。
【0007】
上記車両制御装置において、前記スタータに対する負荷の小さい車速および変速段とは、前記エンジンに対して前記スタータが駆動側となる車速および変速段であることが好ましい。
【0008】
上記車両制御装置において、前記エンジンの始動要求は、前記手動変速機において走行用の変速段が選択されている状態において、遮断していた前記エンジンと前記駆動輪との動力の伝達を接続する前記クラッチに対する操作入力であることが好ましい。
【0009】
上記車両制御装置において、前記エンジンの始動要求がなされたときに、前記クラッチが係合して前記エンジンと前記駆動輪との動力の伝達を接続することで前記駆動輪から前記エンジンに伝達される動力によって前記エンジンを始動可能な場合、前記クラッチが係合された後で前記駆動輪から前記エンジンに伝達される動力によって前記エンジンを始動することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両制御装置は、エンジンと車両の駆動輪との動力の伝達を接続あるいは遮断するクラッチを有する手動変速機と、出力する動力によってエンジンを始動するときにエンジンに接続されるスタータと、を備え、クラッチがエンジンと駆動輪との動力の伝達を遮断し、かつエンジンが停止した惰性走行中にエンジンの始動要求がなされたときに、車速および手動変速機において選択されている変速段が、スタータに対する負荷の小さい車速および変速段である場合、クラッチがエンジンと駆動輪との動力の伝達を接続した状態でスタータによってエンジンを始動することを許容する。本発明に係る車両制御装置によれば、スタータに対する負荷の小さい車速および変速段である場合にスタータによるエンジン始動を許容することで、走行中にエンジンを始動する場合のスタータの負荷を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施形態に係る制御の動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態に係る車両の概略構成図である。
【図3】図3は、クラッチペダルのストロークを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態に係る車両制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0013】
[実施形態]
図1から図3を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、車両制御装置に関する。図1は、実施形態に係る制御の動作を示すフローチャート、図2は、実施形態に係る車両の概略構成図、図3は、クラッチペダルのストロークを示す図である。
【0014】
本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジンとタイヤとを切り離し、エンジンを停止させて惰性走行するフリーランエコシステムを搭載したMT車両において、クラッチを切り続ける操作によって惰性走行に移行する。クラッチを切ったままのエンジン停止惰性走行状態から、クラッチを接続し加速あるいは減速を行う際、エンジンを始動する必要がある。ここで、エンジン始動をスタータによって行う場合、クラッチが接続されてエンジンと駆動輪とが接続されると、駆動輪から伝達される回転によってスタータが回される被駆動状態となり、スタータの負荷が過大となる虞がある。
【0015】
本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジン停止惰性走行状態からエンジンを再始動するときに、スタータの保護が必要な場合、スタータによるエンジン始動を禁止する。これにより、走行中にエンジンを始動するときのスタータの負荷を低減することができる。
【0016】
図2に示すように、車両100は、エンジン1、駆動輪7、スタータ9、手動変速機10、およびECU30を備える。また、本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジン1、手動変速機10、スタータ9およびECU30を備える。本実施形態の車両100は、エンジン1とタイヤ(駆動輪7)を切り離しエンジン1を停止させて惰性走行を行うフリーランエコランシステムを搭載したMT車両である。なお、本明細書において、「フリーラン」とは、手動変速機10において動力の伝達が遮断された状態でエンジン1を停止して車両100を惰性により走行させるエンジン停止惰性走行を示すものとする。
【0017】
エンジン1は、車両100の動力源である。エンジン1は、燃料の燃焼エネルギーをクランク軸の回転運動に変換して出力する。エンジン1は、手動変速機10および差動機構6を介して駆動輪7と接続されている。手動変速機10は、T/M(トランスミッション)2およびクラッチ3を有し、運転者によってシフトポジションおよびクラッチ3が操作される。T/M2は、運転者の変速操作によって変速段の切替えがなされる。T/M2は、例えば、走行用の変速段として前進用の複数の変速段および後進用の変速段に変速可能なものである。T/M2のシフトレバーは、前進用の各変速段(シフトポジション)に対応する複数のレンジの他に、R(後進)レンジ、N(中立)レンジに切替え可能である。シフトレバーが各レンジにシフトされると、T/M2において対応するシフトポジションへの切替えが機械的になされる。
【0018】
クラッチ3は、運転者の操作によって係合あるいは開放するものであり、T/M2を介したエンジン1と駆動輪7との動力の伝達を接続あるいは遮断することができる。クラッチ3は、摩擦係合式のクラッチ装置であって、図3に示すクラッチペダル4に対する運転者の踏込み操作によって、完全係合状態、半係合状態あるいは開放状態に操作可能である。クラッチペダル4は、支点4aを回転中心として回動可能に支持されており、予め定められたクラッチストロークの範囲内で運転者の踏込み操作に応じて回動することができる。
【0019】
図2に戻り、T/M2の出力軸は、差動機構6を介して駆動輪7に接続されている。エンジン1が出力する動力は、T/M2および差動機構6を介して駆動輪7に伝達される。
【0020】
エンジン1には、オルタネータ8が配置されている。オルタネータ8は、エンジン1からベルト12を介して伝達される動力によって駆動されて発電を行う発電機である。オルタネータ8によって発電された電力は、例えば、電気負荷やバッテリ5に供給される。バッテリ5は、充電および放電が可能な蓄電装置である。
【0021】
スタータ9は、供給される電力によって駆動されて回転するモータを有し、モータの出力する動力によってエンジン1を始動する始動装置である。スタータ9は、オルタネータ8およびバッテリ5と接続されており、オルタネータ8あるいはバッテリ5の少なくともいずれか一方から電力の供給を受けることができる。
【0022】
スタータ9は、エンジン1のクランク軸に対して随時係合する飛び込み式のものである。スタータ9は、エンジン1のクランク軸に連結されたリングギヤと、このリングギヤに対して係合可能なピニオンギヤとを有している。ピニオンギヤは、スタータ9の回転軸に対して軸方向に相対移動可能である。スタータ9の出力する動力によってエンジン1を始動する際は、ピニオンギヤがクランク軸のリングギヤに対して押し出されて飛び込み噛み合う。つまり、スタータ9は、スタータ9の出力する動力によってエンジン1を始動するときにエンジン1と接続される。一方、スタータ9は、エンジン1を始動するとき以外のときにはエンジン1と動力を伝達不能なようにエンジン1と切断される。
【0023】
図2に示すように、クラッチ3には、クラッチアッパースイッチ22およびクラッチロワースイッチ23が設けられている。各スイッチ22,23は、例えば、クラッチペダル4の近傍に設けられる。
【0024】
クラッチアッパースイッチ22は、クラッチペダル4が操作されていないことや、クラッチペダル4に対する踏み込みが浅い場合など、クラッチ3が完全係合状態であることを検出する。図3に示すように、クラッチアッパースイッチ22は、クラッチペダル4のストロークが第一閾値Stx以下(領域St1)である場合にONを出力し、クラッチペダル4のストロークが第一閾値Stxを超える(領域St2,St3)とOFFを出力する。第一閾値Stxは、クラッチ3が完全係合するクラッチストロークの範囲内の値である。
【0025】
クラッチロワースイッチ23は、クラッチペダル4が完全に踏み込まれてクラッチ3が開放状態であることを検出する。クラッチロワースイッチ23は、クラッチペダル4のストロークが第二閾値Sty以上である場合(領域St3)にONを出力し、クラッチペダル4のストロークが第二閾値Sty未満(領域St1,St2)であるとOFFを出力する。第二閾値Styは、クラッチ3が開放するクラッチストロークの範囲内の値である。
【0026】
クラッチ3は、ミートポイントStmにおいて開放状態から係合状態に、あるいは係合状態から開放状態に切り替わる。ミートポイントStmは、踏み込んでいたクラッチペダル4を戻すときにクラッチ3による動力の伝達が開始されるクラッチストロークである。ミートポイントStmは、第一閾値Stxよりも大きく、かつ第二閾値Styよりも小さなクラッチストロークである。
【0027】
図2に戻り、ECU30は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。ECU30は、エンジン1の運転、停止を含むエンジン1の動作を制御できるものである。クラッチアッパースイッチ22およびクラッチロワースイッチ23は、ECU30に接続されており、各スイッチ22,23の検出結果を示す信号は、ECU30に出力される。ECU30は、クラッチアッパースイッチ22がONからOFFに変化することによってクラッチ3が開放方向に操作されたことを検出することができる。また、ECU30は、クラッチロワースイッチ23がONであることによってクラッチ3の開放を検出することができる。また、ECU30は、クラッチロワースイッチ23がONからOFFに変化することによってクラッチ3が係合方向に操作されたことを検出することができる。
【0028】
ECU30には、勾配センサ21が接続されている。勾配センサ21は、車両100の前後方向の傾斜を検出するものである。ECU30は、勾配センサ21の検出結果に基づいて、車両100が走行する道路の進行方向の勾配を検出することができる。
【0029】
また、ECU30には、車輪速センサ28およびシフトポジションセンサ29が接続されている。車輪速センサ28は、車両100の各車輪の車輪回転速度を検出するものである。シフトポジションセンサ29は、T/M2のシフトポジションを検出するものである。シフトポジションセンサ29は、現在のシフトポジションが前進用の複数のシフトポジションおよび後退用のシフトポジションのいずれのシフトポジションであるかを検出することができる。また、シフトポジションセンサ29は、ニュートラルスイッチを有しており、シフトレバーが前進用あるいは後退用のいずれのレンジにも操作されていない中立(ニュートラル)のシフトポジションであることを検出することができる。
【0030】
車輪速センサ28およびシフトポジションセンサ29の検出結果を示す信号は、ECU30に出力される。ECU30は、車輪速センサ28の検出結果に基づいて車両100の車速を取得することができる。また、ECU30は、シフトポジションセンサ29の検出結果に基づいてT/M2のシフトポジションを取得することができる。
【0031】
本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジン1を自動で停止あるいは始動するエンジン停止始動制御を実行可能なものである。ECU30は、例えば、車両100の走行時にエンジン1を停止して惰性により車両100を走行させる惰性走行を実行可能である。本実施形態のECU30は、手動変速機10においてエンジン1と駆動輪7との動力の伝達が遮断されている場合にエンジン停止を許可する。例えば、クラッチ3が継続的に開放している場合や、T/M2においてシフトポジションがニュートラルである場合にエンジン1の停止が許可される。本実施形態では、走行中にクラッチ3が開放してエンジン1と駆動輪7との動力の伝達が遮断されている場合に、運転していたエンジン1を停止してエンジン停止惰性走行に移行することが許可される。
【0032】
ECU30は、エンジン停止惰性走行が開始されると、クラッチ3が切断されている間だけでなく、手動変速機10がニュートラルに変速されてクラッチ3が接続されてもエンジン停止惰性走行を継続する。言い換えると、ECU30は、加減速等のためにエンジン1と駆動輪7とを接続する操作入力が検出されるまでエンジン停止惰性走行を継続する。
【0033】
エンジン1と駆動輪7との動力の伝達が遮断されていると、駆動輪7に対してエンジンブレーキが作用せず、車両100は惰性により走行する惰性走行状態となる。このときに、エンジン1を停止してエンジン停止惰性走行を実行することで、エンジン1による燃料消費を抑制し、燃費の向上を図ることができる。
【0034】
ECU30は、エンジン1を停止した惰性走行中にエンジン1の始動要求がなされると、エンジン1を再始動する。ECU30は、クラッチペダル4等の操作子に対する運転者の操作入力を始動要求として検出する。ここで、エンジン停止惰性走行状態から、運転者がエンジン1を始動する際の操作には、以下の二つの流れが考えられる。
【0035】
(1)運転者がニュートラル(N)にギヤシフト操作を行い、クラッチペダル4を放した状態でフリーランを継続し、加速などの意思によりギヤをつなぐためにクラッチ3を切る操作。
(2)運転者が走行用の変速段(エンジン停止惰性走行の開始時のギヤ、もしくは別のギヤ)に入れてクラッチ3を切ったままの状態でフリーランを継続し、加速などの意思によりクラッチ3を接続する操作。
【0036】
ここで、「(2)クラッチ3を接続する操作」の操作入力に応じてスタータ9によってエンジン1を再始動する場合、クラッチ3が接続された状態でエンジン1を始動開始する可能性や、エンジン1の始動途中にクラッチ3が接続される可能性がある。言い換えると、駆動輪7からエンジン1に動力が伝達される状態でスタータ9によってエンジン1を始動する可能性がある。この場合、走行状態によってはクランク軸がスタータ9に対して駆動側となり、スタータ9がクランク軸によって回される被駆動状態となることがある。例えば、車速および手動変速機10の選択ギヤ段によって決まるクランク軸回転数が高い場合、スタータ9のピニオンギヤがクランク軸から回され、スタータ9の回転が高回転となったり、ギヤ歯に対する負荷が高くなったりする。
【0037】
スタータ9は、ピニオンギヤとクランク軸のリングギヤとが噛み合ったままで高回転で回転し続けることを前提に設計されてはいない。従って、スタータ9がクランク軸によって回されてスタータ9の負荷が大きくなることを抑制できることが望ましい。
【0038】
ここで、スタータ9やギヤ歯に対する負荷を低減する対策として、クランク軸からの駆動力がスタータのピニオンギヤには伝わらないようワンウェイクラッチを介在させた常噛みスタータを用いる方法や、MG、ベルトMGにより始動する方法、ギヤ歯の高耐久化などがある。しかし、いずれの対策も高コストとなり、また既存の構造に対する大幅な変更を伴うという問題がある。
【0039】
本実施形態の車両制御装置1−1は、クラッチ3が接続されたとした場合の予測エンジン回転数に基づいてスタータ9によるエンジン始動を許容するか否かを決定する。具体的には、車速および手動変速機10の選択ギヤ段の変速比に基づいて、スタータ9の回転数をエンジン1のクランク軸の回転数が上回る虞があると予測される場合、スタータ9によるエンジン始動が禁止される。スタータ9の回転数をクランク軸回転数が上回るような車速および変速段は、スタータ9に対する負荷が大きい車速および変速段である。
【0040】
ここで、スタータ回転数をクランク軸回転数が上回ることには、単純にクランク軸回転数がスタータ回転数を上回ることだけでなく、スタータ9のピニオンギヤとリングギヤとのギヤ比を考慮して、クランク軸側の回転数がリングギヤ9側の回転数を上回ることも含まれる。つまり、ECU30は、車速および選択ギヤ段の変速比に基づいて、クランク軸がスタータ9に対して駆動側となる虞があると予測される場合にスタータ9によるエンジン始動を禁止するようにしてもよい。
【0041】
一方、車両制御装置1−1は、スタータ9の回転数をエンジン1のクランク軸の回転数が上回る虞があると予測されない場合、すなわち、車速および選択ギヤ段が、スタータ9に対する負荷が小さい車速および変速段である場合、クラッチ3がエンジン1と駆動輪7との動力の伝達を接続した状態でスタータ9によってエンジン1を始動することを許容する。ECU30は、車速および選択ギヤ段の変速比に基づいて、クランク軸がスタータ9に対して駆動側となる虞があると予測されない場合にスタータ9によるエンジン始動を許容するようにしてもよい。
【0042】
このように、車両制御装置1−1は、クラッチ3がエンジン1と駆動輪7との動力の伝達を遮断し、かつエンジン1が停止した惰性走行中にエンジン1の始動要求がなされたときに、検出された車速および選択ギヤ段が、スタータ9に対する負荷の小さい車速および変速段である場合、クラッチ3がエンジン1と駆動輪7との動力の伝達を接続した状態におけるスタータ9によるエンジン始動を許容する。一方、検出された車速および選択ギヤ段が、スタータ9に対する負荷の小さい車速および変速段ではない場合、スタータ9によるエンジン始動を禁止する。
【0043】
よって、本実施形態の車両制御装置1−1によれば、スタータ9によるエンジン始動の開始時やエンジン始動中にクラッチ3が接続されたとしても、スタータ9の回転数が過大となることが抑制される。クラッチ3が接続され、駆動輪7とエンジン1とが接続されたとしても、エンジン1のクランク軸に対してスタータ9が駆動側となり、スタータ9の回転数が過大となることが抑制される。すなわち、本実施形態の車両制御装置1−1によれば、走行中にエンジン1を始動するときのスタータ9に対する負荷を低減することができる。
【0044】
なお、車両制御装置1−1は、クランク軸回転数とスタータ回転数との比較結果に代えて、あるいは比較結果に加えて、スタータ9の予測回転数に基づいて、スタータ9によるエンジン始動を許容するか否かを判定するようにしてもよい。より具体的には、スタータ9が被駆動側となる場合のスタータ9の予測回転数が閾値を超えるか否かに基づいてスタータ9によるエンジン始動を許容するか否かが判定されてもよい。クランク軸が駆動側となり、スタータ9が被駆動側となるときのスタータ9の回転数の予測値(以下、「予測スタータ回転数」と記載する。)は、車速および選択ギヤ段に基づいて算出可能である。ECU30は、この予測スタータ回転数が、スタータ9に対する負荷の小さい回転数である場合、手動変速機10によってエンジン1と駆動輪7とが接続された状態でスタータ9によってエンジン1を始動することを許容する。
【0045】
ここで、スタータ9に対する負荷の小さい回転数は、例えば、スタータ9の設計上限の回転数に基づいて定められる。一例として、スタータ9に対する負荷の小さい回転数とは、スタータ9の設計上限の回転数に対して所定の安全率を確保できる回転数の範囲内の回転数とすることができる。すなわち、設計上限の回転数に対して所定の安全率を確保できる回転数の上限値を閾値として、この閾値以下の回転数を「スタータ9に対する負荷の小さい回転数」とすることができる。この場合、上記閾値を超える回転数は、スタータ9に対する負荷が大きい回転数である。
【0046】
図1を参照して、本実施形態の制御について説明する。図1に示す制御フローは、車両100の走行時に実行されるものであり、例えば、所定の間隔で繰り返し実行される。
【0047】
まず、ステップS1では、ECU30により、クラッチ3が切断されているか否かが判定される。ECU30は、クラッチロワースイッチ23の検出結果を示す信号に基づいてステップS1の判定を行うことができる。ECU30は、クラッチロワースイッチ23がONを出力している場合、すなわちクラッチペダル4が深く踏み込まれてクラッチ3が開放状態であることが検出されている場合、ステップS1において肯定判定を行う。ステップS1の判定の結果、クラッチ3が切断されていると判定された場合(ステップS1−Y)にはステップS2に進み、そうでない場合(ステップS1−N)にはステップS11に進む。なお、ステップS1では、クラッチ3が切断された状態が所定時間以上継続している場合に肯定判定がなされるようにしてもよい。この所定時間は、例えば、変速操作がなされるときの平均的なクラッチ切断の継続時間よりも長い時間とされる。
【0048】
ステップS2では、ECU30により、エンジン回転数Neが閾値以下であるか否かが判定される。ECU30は、エンジン回転数Neが予め定められた閾値以下である場合にエンジン停止を許可する。ステップS2の判定の結果、エンジン回転数Neが閾値以下であると判定された場合(ステップS2−Y)にはステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)にはステップS11に進む。
【0049】
ステップS3では、ECU30により、フリーランが実施される。ECU30は、エンジン1を停止し、惰性によって車両100を走行させるフリーランを実施する。
【0050】
ステップS4では、ECU30により、ドライバがNへ変速しフリーランが継続しているか否かが判定される。ECU30は、フリーランの開始後に手動変速機10の変速段がニュートラル(N)に変速されると、クラッチペダル4がリリースされてクラッチ3が接続されてもエンジン停止惰性走行を継続する。手動変速機10の選択ギヤ段がニュートラルである場合と、走行用の変速段である場合とでは、フリーランから復帰してエンジン1を再始動する条件が異なる。選択ギヤ段がニュートラルである場合、接続されているクラッチ3を切断する操作入力がエンジン始動の条件となる。選択ギヤ段がニュートラルの状態でクラッチ3を切断する操作入力は、走行用の変速段に変速してエンジン1と駆動輪7とを接続する意思を示すものと推定可能である。
【0051】
一方、選択ギヤ段が走行用の変速段であり、かつクラッチ3が切断されている場合、クラッチ3を接続する操作入力を検出することがエンジン始動の条件となる。言い換えると、手動変速機10において走行用の変速段が選択されている状態において、遮断していたエンジン1と駆動輪7との動力の伝達を接続するクラッチ3に対する操作入力が、エンジン1の始動要求となる。
【0052】
ECU30は、選択ギヤ段がニュートラルでのフリーラン継続中であるか否かを、例えばフラグに基づいて判定することができる。ECU30は、フリーランの実行開始後に手動変速機10においてニュートラルに変速され、かつクラッチ3が接続されると、ニュートラルでのフリーラン継続中を示すフラグをONとする。また、ECU30は、フリーランの実行中に手動変速機10の選択ギヤ段が走行用の変速段であり、かつクラッチ3が切断されていると、上記フラグをOFFとする。これにより、ECU30は、フラグのON/OFFの状態に基づいて、選択ギヤ段がニュートラルでのフリーラン継続中であるか否かを判定することができる。
【0053】
ステップS4の判定の結果、ドライバがNへ変速しフリーランが継続していると判定された場合(ステップS4−Y)にはステップS5に進み、そうでない場合(ステップS4−N)にはステップS6に進む。
【0054】
ステップS5では、ECU30により、クラッチ切断によるエンジン始動が選択される。すなわち、ECU30は、クラッチペダル4を踏み込んでクラッチ3を切断する操作入力がなされると、エンジン1を始動する。具体的には、ECU30は、クラッチアッパースイッチ22の出力がONからOFFに変化すると、エンジン1を再始動する。このときのエンジン再始動では、ECU30は、スタータ9をエンジン1に接続し、スタータ9によってエンジン1を始動する。ステップS5が実行されると、本制御フローは終了する。
【0055】
ステップS6では、ECU30により、車速、ギヤ段より押しがけが可能か否かが判定される。ここで、押しがけとは、例えば、駆動輪7からエンジン1に伝達される動力によってエンジン1を回転させて始動することである。本実施形態では、フリーラン中にスタータ9を作動させることなく駆動輪7から伝達される動力によってエンジン1を回転させて始動するエンジン始動を押しがけと記載する。
【0056】
エンジン1を始動するためには、エンジン1に対して動力を与えることによりエンジン回転数Neを所定の回転数以上に上昇させることが必要となる。ECU30は、車両100の車速と選択ギヤ段とに基づいてエンジン1の押しがけが可能であるか否かを判定する。ECU30は、車速と選択ギヤ段の変速比とに基づくエンジン回転数Neが、予め定められた閾値Ne1以上である場合、ステップS6で肯定判定を行う。つまり、ECU30は、クラッチ3が係合してエンジン1と駆動輪7との動力の伝達を接続することで駆動輪7からエンジン1に伝達される動力によってエンジン1を始動可能な場合、ステップS6で肯定判定を行う。ステップS6の判定の結果、押しがけが可能と判定された場合(ステップS6−Y)にはステップS10に進み、そうでない場合(ステップS6−N)にはステップS7に進む。
【0057】
ステップS7では、ECU30により、車速、ギヤ段よりスタータ9へのダメージがあるか否かが判定される。ECU30は、クラッチ3が接続された状態でスタータ9によるエンジン始動を行った場合に、エンジン1のクランク軸回転数がスタータ9の回転数を上回るか否かを判定する。ECU30は、例えば、取得した車速および選択ギヤ段と予め記憶した閾値のマップとに基づいてステップS7の判定を行う。このマップは、例えば、各変速段に関してクランク軸がスタータ9に対して駆動側となるか被駆動側となるかの境界の車速を閾値として定めたものである。ECU30は、例えば、取得した車速が、選択変速段についての閾値を超える場合にステップS7において肯定判定を行う。ステップS7の判定の結果、スタータ9へのダメージがあると判定された場合(ステップS7−Y)にはステップS8に進み、そうでない場合(ステップS7−N)にはステップS9に進む。
【0058】
ステップS8では、ECU30により、スタータ始動が禁止される。ECU30は、スタータ9によるエンジン始動を禁止して、押しがけによるエンジン始動を選択する。この場合、ECU30は、走行用の変速段が選択されているエンジン停止惰性走行中に、クラッチ3を接続する操作入力が検出されると、クラッチ3の係合後にクラッチ3を介して駆動輪7からエンジン1に伝達される回転によってエンジン1を始動する。これにより、スタータ9によらずにエンジン1を再始動することができ、走行中にエンジン1を始動する場合のスタータ9の負荷を低減することができる。ステップS8が実行されると、本制御フローは終了する。
【0059】
ステップS9では、ECU30により、スタータ9によるエンジン始動が選択される。ECU30は、走行用の変速段が選択されているエンジン停止惰性走行中に、クラッチ3を接続する操作入力が検出されると、スタータ9によってエンジン1を始動する。ECU30は、スタータ9をエンジン1に対して接続し、スタータ9が出力する動力によってエンジン1を始動する。この場合、ECU30は、クラッチ3が接続された状態でエンジン始動を開始することやエンジン始動中にクラッチ3が接続状態となることを許容する。つまり、ECU30は、手動変速機10によってエンジン1と駆動輪7とが接続された状態でスタータ9によってエンジン1を始動することを許容する。予めステップS7においてスタータ9の回転数が過大とならないと予測されていることから、スタータ9に対する負荷を抑制しつつエンジン1を再始動することができる。ステップS9が実行されると、本制御フローは終了する。
【0060】
ステップS10では、ECU30により、スタータ9を使わない押しがけによるエンジン始動が選択される。ECU30は、走行用の変速段が選択されているエンジン停止惰性走行中に、クラッチ3を接続する操作入力が検出された場合、すなわちエンジン1の始動要求がなされた場合、押しがけによってエンジン1を始動する。つまり、ECU30は、スタータ9によるエンジン始動を行うことなく、クラッチ3が係合された後で駆動輪7からエンジン1に伝達される動力によってエンジン1を始動する。ステップS10が実行されると、本制御フローは終了する。
【0061】
ステップS1あるいはステップS2において否定判定がなされてステップS11に進むと、ステップS11では、ECU30により、通常走行がなされる。ECU30は、エンジン1を停止することなく車両100を走行させる。ステップS11が実行されると、本制御フローは終了する。
【0062】
本実施形態の車両制御装置1−1は、エンジン停止惰性走行中に始動要求がなされた場合、クラッチ3が接続されたとしてもスタータ9に対する負荷が小さいと予測される場合、スタータ9によるエンジン始動を許可し、クラッチ3が接続されるとスタータ9に対する負荷が大きいと予測される場合、スタータ9によるエンジン始動を禁止する。また、車両制御装置1−1は、スタータ9によるエンジン始動を禁止する場合、押しがけによってエンジン1を始動する。これにより、本実施形態の車両制御装置1−1によれば、走行中にエンジン1を始動するときのスタータ9の負荷を低減することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、押しがけが可能か否かの判定(ステップS6)後にスタータ9によるエンジン始動を許容するか否かが判定された(ステップS7)が、この判定順序は逆であってもよい。すなわち、まずスタータ9によるエンジン始動を許容するか否かの判定を行い、許容すると判定されない場合に押しがけによりエンジン始動可能であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0064】
[実施形態の第1変形例]
実施形態の第1変形例について説明する。上記実施形態では、車速および選択ギヤ段に基づいてスタータ9によるエンジン始動を許容するか否かが判定されたが、これに加えて、坂道等の走行環境に基づく補正がなされてスタータ9によるエンジン始動を許容するか否かが判定されてもよい。
【0065】
例えば、車速および選択ギヤ段に加えて、勾配センサ21の検出結果に基づいてスタータ9によるエンジン始動を許容するか否かが決定されてもよい。一例として、車両100の走路の勾配が登り勾配である場合、走路が平坦である場合よりも高車速の領域、あるいは低速側の変速段の少なくともいずれか一方において、スタータ9によるエンジン始動が許容されるようにしてもよい。また、これとは逆に、走路の勾配が下り勾配である場合、走路が平坦である場合よりも、スタータ9によるエンジン始動が許容される車速領域を低車速側の領域に限定すること、あるいはスタータ9によるエンジン始動が許容される変速段を高速側の変速段に限定することの少なくともいずれか一方がなされてもよい。
【0066】
走路の勾配に限らず、スタータ9に対する負荷に影響する走行環境に基づいて、スタータ9によるエンジン始動を許容するか否かの判定がなされるようにしてもよい。
【0067】
[実施形態の第2変形例]
実施形態の第2変形例について説明する。上記実施形態において、スタータ9によるエンジン始動が許容されるか否かを運転者に対して情報提供するようにしてもよい。例えば、車両制御装置1−1は、文字、画像、または音声等による案内装置を備えるようにすればよい。ECU30は、エンジン停止惰性走行中に、現在の走行状態でエンジン始動要求がなされたとすれば、スタータ9によるエンジン始動あるいは押しがけによるエンジン始動のいずれが選択されるかを案内装置によって運転者に情報提供する。
【0068】
ECU30は、更に、より良好な燃費でエンジン1を始動できるように運転者に対する情報提供を行うようにしてもよい。ECU30は、例えば、現在の車速において、押しがけによるエンジン始動がスタータ9によるエンジン始動よりも良好な燃費を実現できる場合、押しがけによるエンジン始動を選択できるようにする運転操作に関して情報提供する。具体的には、押しがけが可能となる変速段を提示し、当該変速段へ変速することで燃費の向上が実現可能な旨の情報提供を行うことなどが考えられる。
【0069】
また、ECU30は、加速応答性が良好となるエンジン始動方法を選択できるように運転者に対する情報提供を行うようにしてもよい。この場合、ECU30は、スタータ9によってエンジン1を始動する場合の加速応答性と、押しがけによってエンジン1を始動する場合の加速応答性とのいずれが高応答であるかを判定し、高応答のエンジン始動方法を選択できる運転操作に関して情報提供する。このようにすれば、加速を意図してエンジン1の始動要求を行おうとする運転者に対して、高応答のエンジン始動方法を実現するための操作について知らせることができる。
【0070】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0071】
1−1 車両制御装置
1 エンジン
2 T/M
3 クラッチ
7 駆動輪
9 スタータ
10 手動変速機
30 ECU
100 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンと車両の駆動輪との動力の伝達を接続あるいは遮断するクラッチを有する手動変速機と、
出力する動力によって前記エンジンを始動するときに前記エンジンに接続されるスタータと、
を備え、
前記クラッチが前記エンジンと前記駆動輪との動力の伝達を遮断し、かつ前記エンジンが停止した惰性走行中に前記エンジンの始動要求がなされたときに、車速および前記手動変速機において選択されている変速段が、前記スタータに対する負荷の小さい車速および変速段である場合、前記クラッチが前記エンジンと前記駆動輪との動力の伝達を接続した状態で前記スタータによって前記エンジンを始動することを許容する
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記スタータに対する負荷の小さい車速および変速段とは、前記エンジンに対して前記スタータが駆動側となる車速および変速段である
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記エンジンの始動要求は、前記手動変速機において走行用の変速段が選択されている状態において、遮断していた前記エンジンと前記駆動輪との動力の伝達を接続する前記クラッチに対する操作入力である
請求項1または2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記エンジンの始動要求がなされたときに、前記クラッチが係合して前記エンジンと前記駆動輪との動力の伝達を接続することで前記駆動輪から前記エンジンに伝達される動力によって前記エンジンを始動可能な場合、前記クラッチが係合された後で前記駆動輪から前記エンジンに伝達される動力によって前記エンジンを始動する
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−172578(P2012−172578A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34659(P2011−34659)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】