説明

車両制御装置

【課題】制御特性を走行路に適したものとするために周回路などの走行環境を容易に判定できる車両制御装置を提供する。
【解決手段】車両に対する入力とその入力に応じて車両が示す挙動との関係である制御特性を変更できる車両制御装置において、前記車両が走行して得られた走行軌跡を記憶する(ステップS3)とともに記憶されている走行軌跡に基づいて同一走行路を走行していることを判定し(ステップS4)、同一走行路を走行していることの判定が成立した場合には前記制御特性をその走行路に適する特性に設定する(ステップS5)ように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の制御特性をその車両の走行環境に応じた特性に設定する制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両は運転者の操作に基づいて加速し、また旋回するなどの挙動の変化を示す走行体であり、したがってその挙動は運転者の操作に基づいたものとなるが、運転者の操作量と、その操作を車両の挙動として実現するアクチュエータの動作量との関係は、操作機器とアクチュエータとの間をつなぐ装置によって種々異なる。このような関係を制御特性と言うことができ、例えばアクセル操作量と駆動力源のパワーもしくは出力トルクとの関係である動力特性は、両者が比例関係に近い関係になっていれば、アクセル操作量が小さい状態でも駆動力源のパワーが敏感に変化し、車両の挙動は機敏なものとなり、これとは反対にアクセル操作量に対して駆動力源のパワーが二次曲線的に変化するものとすれば、アクセル操作量が小さい領域では駆動力源のパワーの変化量が相対的に少なくなって車両の挙動はいわゆるマイルドなものとなる。このような関係すなわち制御特性は、変速特性についても同様である。さらに、車速や駆動力源回転数に上限を設定し、その上限値を大きくすれば、いわゆるハイパワーな特性の車両になり、これとは反対に上限値を小さくすれば、特に大きく加速することのない車両となる。
【0003】
このような制御特性は、車両の設計・製造の段階で決められるが、電気的な制御機器を搭載している車両では、その制御のためのパラメータやゲインを変更することにより、制御特性を適宜に変更できる。例えば、特許文献1には、ヨーレートと車速とに基づいて車両の走行コース(走行軌跡)を求め、その走行コースと、車速と、舵角と、アクセル開度ならびにブレーキの踏み込み量とに基づいて運転者の運転特性を係数として推定し、その係数に基づいて後輪操舵量のゲインを自動的に変更するように構成された装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、GPS(グローバル ポジショニング システム)によって自車両の位置を検出するとともに、その位置に対応する道路情報を求め、自車両が位置する道路の種類に応じて後輪舵角や操舵力アシスト量を変えるように構成された装置が記載されている。さらに、特許文献3には、GPS信号などに基づいて自車両がサーキットの中に入っているか否かを判断し、サーキットの中に入っていると判断される場合には、速度制限を解除し、反対にサーキットに入っていない場合には速度制限を行うように構成された装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−185947号公報
【特許文献2】特開平5−69848号公報
【特許文献3】特開2010−167827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された装置は、コーナへの進入やコーナからの脱出の際のアクセル操作量あるいは操舵角もしくはブレーキ操作量が、運転者の運転指向に応じて異なっていることを利用して運転特性指数を求めるように構成されている。すなわち、いわゆるスポーツ指向の強い運転者は、コーナ直前まで車速が高めであり、また操舵を大きくかつ素早く行うなどの特性があり、ラグジュアリー走行指向の強い運転者はこれとは反対の操作を行う傾向があるなどの特性がある。そこで、特許文献1に記載された装置は、走行コースと車速や操舵角などから運転特性指数を求めている。しかしながら、求めることのできる情報は、運転者の運転指向に限られ、またヨーレートと車速とから走行コース(走行軌跡)を求めているからそれ自体の演算が複雑になり、しかもこれに加えてアクセル開度や操舵角などの運転状態を取り込んで演算を行うように構成されているので、制御特性の切り替えあるいは設定のためのロジックあるいは演算処理が複雑になる可能性がある。
【0007】
また、特許文献2や特許文献3に記載された装置は、GPSでの位置情報を必須とするものであるから、この種のシステムを搭載していない車両には適用することができない。例えば一般道を走行することに加えてサーキットを走行することを大きな目的として構成された車両では、走行のため以外の設備を少なくする傾向が強いから、GPSを搭載しない場合が多く、そのために特許文献2や特許文献3に記載された発明は、このようなサーキットを走行することを大きな目的とした車両には適用することができない。
【0008】
この発明は上記の事情を背景としてなされたものであって、位置情報を直接求めたり、あるいは位置情報に基づく道路情報を直接求めることなく、制御特性をその時点の走行状況に応じて変更し、あるいは設定することのできる車両制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、車両に対する入力とその入力に応じて車両が示す挙動との関係である制御特性を変更できる車両制御装置において、前記車両が走行して得られた走行軌跡を記憶するとともに記憶されている走行軌跡に基づいて同一走行路を走行していることを判定し、同一走行路を走行していることの判定が成立した場合には前記制御特性をその走行路に適する特性に設定するように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記同一走行路を走行していることの判定は、同一もしくは類似する走行軌跡の繰り返しに基づいて行うように構成されていることを特徴とする車両制御装置である。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記同一走行路を走行していることの判定は、予め用意してある走行路形状と前記車両が走行して得られた前記走行軌跡とを比較して行われることを特徴とする車両制御装置である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記同一走行路は、車両が周回走行するためのサーキットを含むことを特徴とする車両制御装置である。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記車両の運転者の運転志向が前記車両の挙動が機敏になる運転志向であることを判定し、前記同一走行路を走行していることの判定および前記車両の挙動が機敏になる運転志向であることの判定が成立した場合に前記制御特性をその走行路に適する特性に設定するように構成されていることを特徴とする車両制御装置である。
【0014】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記走行路に適する特性は、車両の挙動が機敏になる制御特性であることを特徴とする車両制御装置である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、車両が走行している際にその軌跡が順次記憶され、その記憶されている走行軌跡を照らし合わせるなどのことにより、現在走行している走行路が直前に走行した走行路と同一であるか否かが判定される。その判定が成立すると、すなわち同一走行路を走行していることの判定が成立すると、その車両の制御特性が、繰り返し走行している現在の走行路に適した制御特性に設定される。したがって、この発明によれば、車両の現在位置およびその現在位置についての道路情報によらずに、現在走行している道路が直前に走行した道路と同一と否かによって制御特性が設定されるので、その制御特性の設定もしくは変更の基礎となる演算は、走行軌跡の記憶および記憶している走行軌跡もしくはそのデータの対比でよい。このようにこの発明によれば、制御特性の設定もしくは変更に要する演算や装置を簡素化することができる。
【0016】
特に請求項3の発明によれば、走行することにより得られた走行軌跡と、予め用意してある走行路形状とを比較することにより、繰り返し走行している現在の走行路を特定するので、演算もしくは装置をより簡素化でき、しかも走行路の特定あるいは走行路に適した制御特性の特定をより正確に行うことができる。
【0017】
その同一走行路あるいは予め用意してある走行路形状は、車両が周回走行するためのサーキットであってよく、サーキットを走行していることの判定が成立した場合には、車速の制限を解除したり、操舵のアシスト力を増大したり、さらにはサスペンションをいわゆる硬めにして車体の沈み込みを抑制するなど、車体の挙動が機敏になるように制御特性を設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係る車両制御装置によって実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明に係る車両制御装置によって実行される制御の他の例を説明するためのフローチャートである。
【図3】この発明の車両制御装置の制御対象とすることのできる車両を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係る車両制御装置を具体例を参照して説明すると、この発明で対象とする車両は、制御特性を少なくとも二種類に変更でき、より好ましくは無段階に変更できるように構成された車両である。その制御特性とは、要は車両に対する入力とその入力に応じて車両が示す挙動もしくはその変化の関係である。また、車両に対する入力は、人為的な操作による入力と、車両が走行することに伴って路面や大気あるいは降雨などの走行環境から車両に対して伝達される振動などの外力とのいずれをも含む。その制御特性の例を挙げると、入力としてのアクセル開度と駆動力源の出力もしくはトルクとの関係、入力としての車速もしくはアクセル開度と変速比との関係、入力としての操舵角もしくは操舵トルクと操舵アシストトルクもしくはアシスト量との関係、入力としての走行環境についての判定結果と車速制限との関係、入力としての路面からの振動と振動減衰量との関係などである。
【0020】
その制御特性を設定もしくは変更する制御は、例えばガソリンエンジンを駆動力源とし、かつ電子スロットルバルブを備えた車両ではアクセル開度に対するスロットル開度を変更する制御であり、アクセル開度に対してスロットル開度が二次曲線的に変化する特性とすれば、車体の挙動もしくは駆動トルクの変化が緩慢もしくはマイルドになり、これとは反対にスロットル開度とアクセル開度とが比例する関係に近くなれば、駆動トルクの変化が俊敏になっていわゆるスポーティな感じになる。また、変速比の制御特性について説明すれば、高車速あるいは高アクセル開度であっても変速比が相対的に大きくなる特性に設定すれば、車両の挙動は機敏になっていわゆるスポーティな走行を行うことが可能になり、これとは反対に相対的に小さい変速比を設定する特性とすれば、車両の挙動の機敏さは低下し、いわゆるマイルドもしくはラグジュアリーな走行に適することになる。さらに、上限車速を制限し、もしくは上限車速を相対的に低車速に設定すれば、車両の挙動の機敏さが制限され、これとは反対に上限車速の制限制御を解除すれば、機敏な走行が可能になる。そしてまた、サスペンション機構による振動の減衰力を弱くすれば、車体の沈み込みが生じるものの振動を吸収しやすくなっていわゆるマイルドもしくはラグジュアリーな走行が可能になり、これとは反対に減衰力を強くすれば、車体の沈み込みが小さくなっていわゆるスポーティな走行に適するようになる。またさらに、操舵アシストを増大させれば、小さい操舵で大きく回頭させることができるので、いわゆるスポーティな走行に適するようになり、これとは反対に操舵アシストを行うもののそのアシスト量を小さくすれば、操舵応答性が低下するので、車両の挙動の機敏さを抑えることができる。
【0021】
この発明で対象とする車両は、更に、走行軌跡を検出して記憶できるように構成されている。その走行軌跡は、この発明では、前述したGPSなどを利用したナビゲーションシステムを用いずに検出するように構成されている。車両の移動量(走行距離)や走行方向は、例えば、車速やヨーレートを積分することにより得られるので、この発明ではそれらのデータに基づいて走行軌跡を求め、かつその走行軌跡を記憶するように構成されている。そして、この発明に係る制御装置は、その記憶した走行軌跡に基づいて、現在走行している道路もしくは走行路(以下、これらをまとめて走行路と記す)が、過去に走行した走行路もしくは予め用意されている走行路形状と同一か否かを判定するように構成されている。より具体的には、走行時間を予め定めた所定の長さに区切り、その時間幅の間の走行軌跡が、現在時点から遡った所定の期間の間における走行軌跡と同一か、あるいは走行路形状をデータ化されて記憶装置に入力されている走行軌跡と同一か否かが判定されるように構成されている。
【0022】
この発明で判定の対象とされる走行軌跡の一例は、車両が周回走行するための施設として作られているサーキットである。サーキットを走行する場合、無駄なく短時間で走行するように運転するのが通常であるから、車両が辿る軌跡は、ほぼ一定になり、走行して得られる走行軌跡は、1周分を単位として繰り返すことになる。したがって、車両がサーキットを複数回、周回すると、記憶された走行軌跡に同一の軌跡が存在することになり、これらの走行軌跡を比較することによりサーキットを走行していることを判定することができる。
【0023】
また、サーキットの形状は、競技や走行試験などの所定の目的で決められているから、通常の道路とは異なる特徴的な形状の部分が存在することがあり、また全体の形状も通常の道路とは異なっている場合がある。したがって、サーキットを走行して得られた走行軌跡と、予め用意されているサーキットの走行路の形状とを比較し、それらが一致もしくは所定の誤差の範囲で一致した場合に、予めデータとして用意されていたサーキットを走行していることを判定することができる。
【0024】
この発明では、このようにして走行路が判定されると、その走行路に適した制御特性が設定される。その一例は、上述のようにしてサーキットを走行していることが判定された場合に、いわゆるサーキット特性(サーキットモード)が設定される例である。すなわち、サーキットは、通常、スピードを競う競技で走行するから、可及的に高速で走行できる制御特性とすることが好ましく、そこで、例えば車速やエンジン回転数などの上限値の制限を解除し、また俊敏に回頭できるように操舵アシスト量を増大させ、さらにサスペンション機構におけるショックアブソーバの減衰力を強くして車体の沈み込みやローリングなどを抑制し、またさらにアクセル操作に対する加減速の応答性が高くなるように動力特性あるいは変速特性を設定する。このような制御特性の設定もしくは変更は、制御ゲインを変更し、あるいは制御量や操作量に予め定めた補正係数を掛けるなどの処理によって行うことができる。
【0025】
上記の制御を行うように構成された車両は、運転者が所定の操作機器を操作することによって加減速し、また旋回する車両であり、その典型的な例は内燃機関やモータを駆動力源とした自動車である。その一例を図3にブロック図で示してある。ここに示す車両1は、操舵輪である左右の前輪2と、駆動輪である左右の後輪3との四輪を備えた車両であり、これらの四輪2,3のそれぞれはサスペンション機構4を介して車体(図示せず)を支持している。このサスペンション機構4は、従来知られているものと同様であって、スプリングとショックアブソーバー(ダンパー)とを主体として構成されており、図3にはそのショックアブソーバー5を示してある。このショックアブソーバー5は、気体や液体などの流体の流動抵抗を利用して緩衝作用を生じさせるように構成され、モータ6などのアクチュエータによってその流動抵抗を大小に変更できるように構成されている。すなわち、流動抵抗を大きくした場合には、車体が沈み込みにくく、いわゆる堅い感じとなり、車両の挙動としては、コンフォートな感じが少なくなって、スポーティ感が増大する。なお、これらのショックアブソーバー5に加圧気体を給排することによって車高の調整(ハイトコントロール)を行うように構成することもできる。
【0026】
上記の前後輪2,3には、図示しないブレーキ装置がそれぞれ設けられており、運転席に配置されているブレーキペダル7を踏み込むことにより各ブレーキ装置が動作して前後輪2,3に制動力を与えるように構成されている。
【0027】
また一方、車両1の駆動力源は、内燃機関やモータあるいはこれらを組み合わせた機構など、従来知られている構成の駆動力源である。図3には内燃機関(エンジン)8を搭載している車両を示してあり、このエンジン8の吸気管9には、吸気量を制御するためのスロットルバルブ10が設けられている。このスロットルバルブ10は、電子スロットルバルブと称される構成のものであって、モータなどの電気的に制御されるアクチュエータ11によって開閉動作させられ、かつ開度が調整されるように構成されている。そして、このアクチュエータ11は、運転席に配置されているアクセルペダル12の踏み込み量すなわちアクセル開度に応じて動作してスロットルバルブ10を所定の開度(スロットル開度)に調整する。
【0028】
アクセルペダル12の踏み込み量であるアクセル開度とスロットルバルブ10の開度との関係は適宜に設定でき、両者の関係が一対一に近いほど、いわゆるダイレクト感が強くなって車両の挙動は、スポーティな感じになる。これとは反対にアクセル開度に対してスロットル開度が相対的に小さくなるように制御特性を設定すれば、車両の挙動あるいは加速特性はいわゆるマイルドな感じになる。なお、駆動力源としてモータを使用した場合には、スロットルバルブ10に替えてインバータあるいはコンバータなどの電流制御器を設け、アクセル開度に応じてその電流を調整するとともに、アクセル開度に対する電流値の関係すなわち挙動特性もしくは加速特性を適宜に変更するように構成する。
【0029】
図3に示す例では、エンジン8の出力側に変速機13が連結されている。この変速機13は、入力回転数と出力回転数との比率すなわち変速比を適宜に変更するように構成されており、例えば従来知られている有段式の自動変速機やベルト式無段変速機あるいはトロイダル型無段変速機などのいずれかであってよい。したがって、変速機13は、図示しないアクチュエータを備え、そのアクチュエータを適宜に制御することにより変速比をステップ的(段階的)に変化させ、あるいは連続的に変化させるように構成されている。なお、その変速制御は、基本的には、燃費効率が良好になる変速比を設定するように行われる。具体的には、車速やアクセル開度などの車両の状態に対応させて変速比を決めた変速マップを予め用意し、その変速マップに従って変速制御を実行し、あるいは車速やアクセル開度などの車両の状態に基づいて目標出力を算出し、その目標出力と最適燃費線とから目標エンジン回転数を求め、その目標エンジン回転数となるように変速制御を実行する。
【0030】
なお、エンジン8と変速機13との間に、ロックアップクラッチ付きのトルクコンバータなどの伝動機構を、必要に応じて設けることができる。そして、変速機13の出力軸が終減速機であるデファレンシャルギヤ14を介して後輪3に連結されている。
【0031】
さらに、前輪2を転舵する操舵機構15について説明すると、ステアリングホイール16の回転動作を左右の前輪2に伝達するステアリングリンケージ17が設けられ、またステアリングホイール16の操舵角度もしくは操舵力をアシストするアシスト機構18が設けられている。このアシスト機構18は、図示しないアクチュエータによるアシスト量を調整できるように構成されており、したがってアシスト量を少なくすることにより操舵角と前輪2の実際の転舵角とが一対一の関係に近くなり、いわゆる操舵のダイレクト感が増して、車両の挙動特性がいわゆるスポーティな感じになり、また操舵アシスト量(アシスト力)を増大させると小さい操舵力で車両を旋回させることができるので、この場合もスポーティな走行が可能になるように構成されている。
【0032】
なお、特には図示しないが、上記の車両1には挙動あるいは姿勢を安定化させるためのシステムとして、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)やトラクションコントロールシステム、これらのシステムを統合して制御するビークルスタビリティコントロールシステム(VSC)などが設けられている。これらのシステムは従来知られているものであって、車体速度と車輪速度との偏差に基づいて車輪2,3に掛かる制動力を低下させ、あるいは制動力を付与し、さらにはこれらと併せてエンジントルクを制御することにより、車輪2,3のロックやスリップを防止もしくは抑制して車両の挙動を安定させるように構成されている。また、スポーツモードとノーマルモードおよび低燃費モード(エコモード)となどの走行モードを手動操作で選択するためのスイッチを設けてあってもよく、さらには登坂性能や加速性能あるいは回頭性などの挙動特性を変化させることのできる四輪駆動機構(4WD)を備えていてもよい。さらに、車速やエンジン回転数の上限値を制限し、またその制限を解除できるように構成されていてよい。
【0033】
上記のエンジン8や変速機13あるいはサスペンション機構4のショックアブソーバー5、前記アシスト機構18、上述した図示しない各システムなどを制御するためのデータを得る各種のセンサが設けられている。その例を挙げると、前後輪2,3の回転速度を検出する車輪速センサ19、アクセル開度センサ20、スロットル開度センサ21、エンジン回転数センサ22、変速機13の出力回転数を検出する出力回転数センサ23、操舵角センサ24、前後加速度を検出する前後加速度センサ25、横方向(左右方向)の加速度(横加速度)を検出する横加速度センサ26、ヨーレートセンサ27などが設けられている。これらのセンサ19,〜27は、電子制御装置(ECU)28に検出信号(データ)を伝送するように構成されており、また電子制御装置28はそれらのデータおよび予め記憶しているデータならびにプログラムに従って演算を行い、その演算結果を制御指令信号として上述した各システムあるいはそれらのアクチュエータに出力するように構成されている。
【0034】
この発明に係る車両制御装置で実行される制御の一例を図1にフローチャートで示してある。ここに示す例は、走行軌跡に基づいてサーキットの走行を判定し、サーキット走行に適した制御特性を設定するように構成した例であり、図1に示すルーチンは所定の短時間ごとに繰り返し実行される。先ず、車両の挙動履歴情報が記憶される(ステップS1)。この挙動履歴情報は、車両が走行することに伴って生じる車両の挙動を示すデータであって、具体的にはヨーレートや横加速度(横G)、前後加速度(前後G)、車速などであり、あるいはこれらの推定値である。なお、その推定は、アクセル開度や操舵角ならびに車速、道路勾配などに基づいて行うことができる。
【0035】
また、スポーツ走行が判定される(ステップS2)。スポーツ走行の判定とは、車両が機敏な挙動を示すように運転されているのか否かの判定であり、図1に示す制御例では、市街地を走行する場合には通常は行われない運転操作が行われているか否かを判断するために行うこととしている。その判定は、従来知られている種々の方法で行えばよく、例えばアクセル操作やブレーキ操作の速度や頻度、操舵速度や操舵の頻度、前後加速度の大小、あるいは前後加速度と横加速度との合成加速度の大小などに基づいてスポーツ走行(スポーティな運転志向)を判定することができる。
【0036】
ステップS2で肯定的に判定された場合、すなわち車両の挙動が機敏になるように運転操作されていることの判定が成立した場合、走行軌跡が推定もしくは検出され、かつ記憶される(ステップS3)。このステップS3の制御は、例えばヨーレートおよび前後加速度ならびに横加速度を時間積分し、これに走行時間を掛けて移動量を求め、その記録を開始した時点を原点として所定の座標に移動量および移動方向を描くことにより行うことができる。ついで、このようにして求められている走行軌跡と同一の軌跡を通過したか否かが判定される(ステップS4)。
【0037】
この判定では、先ず、上記の座標での車両の現在位置が求められる。これは、走行軌跡を上記のように原点から継続して求めておくことにより可能である。その現在位置の座標値と走行したことにより既に記憶されている軌跡との一致が判断され、一致していた場合に軌跡の同一性の判定が開始される。すなわち、現在の位置と記憶されている走行軌跡上での位置とが一致した点からの軌跡が同一か否か、もしくは走行軌跡が重なるか否かが判断される。軌跡の同一性もしくは重なりの判定は上記の判定開始点以降の走行軌跡と既に記憶されている過去もしくは直前の走行軌跡とを比較することにより行われ、その比較の範囲は上記の判定開始点以降の所定時間内のデータを比較すればよい。その所定時間は、一例として数十秒(例えば30秒〜60秒程度)であってよい。また、走行軌跡が同一であることの判定は、記憶されている軌跡と今回得られた軌跡とが完全に同一であるか否かを判定することに加えて、数m程度以内のズレの範囲に収まっているか否か、すなわち類似しているか否かを判断することとしてもよい。サーキットの周回路は車両数台分の幅がある上に、実際の走行レーンが完全に一致することは希であって、周回路の幅の範囲を限度として走行軌跡にズレがあっても周回走行していることに変わりがないからである。
【0038】
上記のステップS4で肯定的に判定された場合、すなわち走行軌跡が同一であることの判定が成立した場合、車両の制御特性がサーキットモードに切り替えられ(ステップS5)、その後、図1のルーチンを一旦終了し、スタートに戻る。
【0039】
サーキットモードとは、サーキットの走行に適した車両の各種の制御特性であり、これらの制御特性には駆動力特性や変速特性、操舵特性、懸架特性などが含まれる。そして、これらの各特性を決める係数や制御ゲインなどの値が、サーキット走行に適する値に予め定められ、それらの値がユニットとしてサーキットモードとして用意されている。例えばサーキットモードでは、懸架特性がいわゆる硬めに設定される。その具体例は、可変サスペンション機構(AVS:Adaptive Variable Suspention)にあっては複数段ある減衰特性のうち硬めの段数に固定される。また、電動パワーステアリング機構(EPS:Electric Power Steering)については、アシスト量が最大に設定される。これ以外に、アクセル開度に対するエンジンの出力特性を、小さいアクセル開度でも相対的に大きい出力となる特性に設定し、また変速特性として大きい変速比を高車速であっても設定する特性に設定してもよい。なお、これに対して通常モード(ノーマルモード)は、各特性を決める値が、サーキットモードでの値とは異なる値であって、一般道の走行に適する値に決められ、それらの値を一括して選択できるようになっている。
【0040】
一方、上記のステップS2で否定的に判定された場合、すなわちスポーツ走行の判定が成立しなかった場合、上述したサーキットモードがオフに設定され(ステップS6)、その後、図1のルーチンを一旦終了し、スタートに戻る。したがって、この場合、制御特性は、通常モード(ノーマルモード)に設定される。その場合、懸架特性は、走行路面の状態に応じていわゆる軟らかい感じとなるように設定され、また操舵特性は、アシスト力が働くものの大きく操舵する場合にはその操舵量に応じた操作力を必要とする程度のアシスト力に抑制される。また車速やエンジン回転数の上限値が相対的に低い値に制限され、駆動力源の出力はアクセル開度が小さいほど小さくなるように二次曲線で表される特性となるように設定され、さらに車速に応じて変速比が小さくなって燃費のよい走行を行う特性に設定される。
【0041】
なお、前述したステップS4で否定的に判定された場合、すなわち同一軌跡を通過したことの判定が成立しない場合には、図1に示すルーチンが一旦終了してスタートに戻り、従前の制御状態すなわちモードが維持される。
【0042】
上述したように図1に示す制御を行うように構成されたこの発明に係る制御装置によれば、実際に走行することにより得られた走行軌跡に基づいて車両の走行している環境(具体的にはサーキット)を判定され、その走行環境に適した制御特性を設定することができるので、GPSなどの位置検出システムと道路情報とを併用した制御機器を用いずに走行環境を判定でき、またその走行環境に適した制御特性を設定することができる。特に車両用の周回路であるサーキットの判別を容易に行い、またサーキット走行に適した駆動力特性や操舵特性などを自動的に設定することができる。さらに、走行軌跡の記憶(記録)とそれらの走行軌跡の同一性の判定によって走行環境を判別できるので、制御ロジックや演算処理を簡素化することができる。
【0043】
上述した図1に示す制御例は、最新の走行軌跡と過去もしくは直前に走行して得られた走行軌跡とを比較してサーキットを走行しているか否かを判定するように構成した例であるが、最新の走行軌跡と比較する走行軌跡は、直前に実際に走行して得られた走行軌跡以外に製造段階で予め用意して記憶装置に入力しておいたものであってもよい。その例を図2にフローチャートで示してある。この図2に示す制御例は、前述した図1におけるステップS4の制御を、最新に得られた走行軌跡がコース形状データベースと一致したか否かを判定するステップS41に置き換え、他の各制御ステップは図1に示す制御例と同様に構成した例である。
【0044】
すなわち、図2に示す制御例では、走行軌跡が得られると(ステップS3)、ステップS41では、先ず、算出された走行軌跡の現在の座標が既に記憶されている走行軌跡と重なった場合に軌跡およびコース形状の一致の判定が開始される。その判定の開始時点では、少なくとも1周分の走行軌跡が得られているから、その1周分の走行軌跡、言い換えれば、周回した走行路の形状と一致するコース形状が、予め用意されて入力されているコース形状データベース中にあるか否かが判定される。そして、その判定が成立してステップS41の判断結果が肯定的になった場合に、前述したステップS5に進んで、サーキットモードが設定される。したがって、図2に示す制御を実行するように構成した場合であっても、前述した図1を実行するように構成した場合と同様に、GPSなどの位置検出システムと道路情報とを併用した制御機器を用いずに走行環境を判定でき、またその走行環境に適した制御特性を設定することができる。特に車両用の周回路であるサーキットの判別を容易に行い、またサーキット走行に適した駆動力特性や操舵特性などを自動的に設定することができる。さらに、走行軌跡の記憶(記録)とそれらの走行軌跡の同一性の判定によって走行環境を判別できるので、制御ロジックや演算処理を簡素化することができる。
【0045】
なお、この発明に係る車両制御装置は、図1に例示する制御と図2に例示する制御とを共に実行するように構成してもよい。また、この発明は、車両専用のサーキットを検出もしくは判定する場合に限らず、一般道や高速道路あるいは自動車専用道路を走行する場合にその走行路を判定するように構成してもよい。さらに、コース形状データベースを利用する場合、コース全体の形状を比較の基準とする替わりに、コースの一部の特徴的な形状を比較の基準としてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…車両、 4…サスペンション機構、 5…ショックアブソーバー、 8…内燃機関(エンジン)、 15…操舵機構、 18…アシスト機構、 19…車輪速センサ、 20…アクセル開度センサ、 21…スロットル開度センサ、 22…エンジン回転数センサ、 23…出力回転数センサ、 24…操舵角センサ、 25…前後加速度センサ、 26…横加速度センサ、 27…ヨーレートセンサ、 28…電子制御装置(ECU)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に対する入力とその入力に応じて車両が示す挙動との関係である制御特性を変更できる車両制御装置において、
前記車両が走行して得られた走行軌跡を記憶するとともに記憶されている走行軌跡に基づいて同一走行路を走行していることを判定し、同一走行路を走行していることの判定が成立した場合には前記制御特性をその走行路に適する特性に設定するように構成されていることを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記同一走行路を走行していることの判定は、同一もしくは類似する走行軌跡の繰り返しに基づいて行うように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記同一走行路を走行していることの判定は、予め用意してある走行路形状と前記車両が走行して得られた前記走行軌跡とを比較して行われることを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記同一走行路は、車両が周回走行するためのサーキットを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記車両の運転者の運転志向が前記車両の挙動が機敏になる運転志向であることを判定し、前記同一走行路を走行していることの判定および前記車両の挙動が機敏になる運転志向であることの判定が成立した場合に前記制御特性をその走行路に適する特性に設定するように構成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記走行路に適する特性は、車両の挙動が機敏になる制御特性であることを特徴とする請求項5に記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−86632(P2013−86632A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228159(P2011−228159)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】