説明

車両用エンジン制御装置

【課題】運転者の停車意思を正確に判定しその停車意思に即して燃料カットを可及的に早期に実行することが可能な車両用エンジン制御装置を提供する。
【解決手段】燃料供給遮断許可手段96は、停車意思推定手段94によって前記停車意思があると判定された場合には、エンジン12への燃料供給を遮断することである燃料カットを、停車中だけでなく車両10の減速走行中にもエンジン始動停止制御手段98に対して許可する。従って、車速Vの履歴は運転者の車両走行に対する意思が反映された結果であると考えられるので、その車速Vの履歴から運転者の停車意思が正確に推定され、その停車意思がある場合にはその停車意思の有無を正確に判定することができる。そのため、正確に判定された上記停車意思に基づき燃料カットが車両10の減速走行中に許可されることとなるので、運転者の停車意思に即して燃料カットを可及的に早期に実行することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行停止に関連してエンジンを一時的に自動停止するアイドリングストップの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃料消費を抑えるためすなわち燃費向上を図るために、車両の走行停止に関連してエンジンを一時的に自動停止する車両用のエンジン制御装置がよく知られている。例えば、特許文献1のエンジン制御装置がそれである。その特許文献1のエンジン制御装置は、車輪を制動するための制動操作であるフットブレーキの踏込操作を検出するブレーキスイッチがオン(ブレーキオン)であり且つアクセルペダルが踏み込まれていないこと(アクセルオフ)を条件に含むエンジン停止条件(燃料カット条件)が成立したか否かを判断する。そして、そのエンジン停止条件が成立しており、且つ、車速センサにより検出される車速から停車したと判断された場合に、エンジンの燃料カットを行うアイドリングストップ制御を実行する。その場合、そのアイドリングストップ制御において、特許文献1のエンジン制御装置で用いられる前記車速センサの検出精度では約1km/h以下の低車速を検出することが困難であるので、その特許文献1のエンジン制御装置は、車両の減速中には上記車速センサで検出可能な下限車速まで車速を検出した上で、その下限車速に至るまでの車速の減速度と車速が上記下限車速になった時点からの経過時間とに基づいて、停車したか否かを推定し判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−215294号公報
【特許文献2】特開2005−180337号公報
【特許文献3】特開2000−230443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のエンジン制御装置のように、車両が停止してからエンジン停止をする場合には、前記アイドリングストップ制御によるエンジンの停止時間が燃費向上に寄与できる程度に十分長くならないことがあるので、前記エンジン停止条件(ブレーキオン、アクセルオフ等)の成立時に、例えば車両の停止に向かう減速中に所定の判定車速以下の車速でエンジンの燃料カットを行うことが考えられる。しかし、瞬時値としての車速を検出しその車速が上記判定車速以下であることに基づき上記燃料カットを行うと、運転者の意思に即したタイミングで上記燃料カットを行うことができない場合が考えられる。例えば、運転者が車速を維持し或いは再加速をこれからしようとしている場合もあり、そのような場合に燃料カットをするとエンジンの再始動が必要となりドライバビリティが低下することになる。一方で、運転者が停車の意思を持って減速操作や停車操作をした場合にできるだけ早期に燃料カットを実行できないとすれば、その燃料カットの継続時間が短くなり十分な燃料消費抑制効果が得られない。また、運転者の大まかなブレーキ操作、下り坂等でのブレーキ操作、路面状況が様々であること等を考慮すれば、ブレーキオンであることや車速及び減速度を瞬間的に捉えても、運転者が停車の意思を有しているか否かを正確に判定できない可能性があった。すなわち、瞬時値としての車速が前記判定車速以下であることに基づき前記燃料カットを行う場合には、運転者の停車意思に即しつつ燃料カットを可及的に早期に実行して燃費向上を図ることが困難であるという課題があった。なお、このような課題は未公知である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、運転者の停車意思を正確に判定しその停車意思に即して燃料カットを可及的に早期に実行することが可能な車両用エンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a)車両の走行停止に関連してエンジンを一時的に自動停止する車両用エンジン制御装置であって、(b)走行中の前記車両を停車させる運転者の停車意思を車速の履歴に基づいて推定し、(c)前記停車意思があると判定した場合には、前記エンジンへの燃料供給を遮断することを前記車両の減速走行中に許可することにある。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、前記車速の履歴は運転者の車両走行に対する意思が反映された結果であると考えられるので、その車速の履歴から運転者の停車意思が正確に推定され、その停車意思がある場合にはその停車意思の有無を正確に判定することができる。そのため、正確に判定された上記停車意思に基づき前記エンジンへの燃料供給を遮断すること(燃料カット)が車両の減速走行中に許可されることとなるので、運転者の停車意思に即して燃料カットを可及的に早期に実行することが可能である。そして、早期の燃料カットにより燃費向上を図ることが可能である。
【0008】
ここで、好適には、アクセルペダルが操作されておらず且つ車輪を制動装置に制動させるための制動操作が行われていることを条件に、前記停車意思があると判定する。このようにすれば、アクセルペダルが踏み込まれている場合又は上記制動操作が行われていない場合には運転者が停車意思を有さないことは明らかであるので、そのような運転者が停車意思を有さないことが明らかな場合には、前記停車意思があるとの判定を容易に否定することが可能である。
【0009】
また、好適には、(a)減速カウンタ計数値を、減速走行中には時間経過に従って所定の減速時変化割合で増加させる一方で、加速走行中には時間経過に従って前記減速時変化割合よりも大きな変化割合で減少させる減速カウンタを備えており、(b)前記減速カウンタ計数値が予め定められた減速カウンタ計数上限値を超えた場合に、前記停車意思があると判定する。このようにすれば、減速走行中に一時的に加速に転じても走行状態全体として減速走行であれば前記減速カウンタ計数値は増加させられ、車速の履歴全体の減速傾向を上記減速カウンタ計数値で定量的に把握することができ、その減速カウンタ計数値を用いて運転者の停車意思を容易且つ正確に推定できる。また、前記減速カウンタは、加速走行中には時間経過に従って前記減速時変化割合よりも大きな変化割合で前記減速カウンタ計数値を減少させるので、車両走行全体の中で減速走行の方が加速走行よりもある程度以上長時間にわたるときに前記減速カウンタ計数値が増加させられることになり、例えば加速走行中における前記減速カウンタ計数値の変化割合が前記減速時変化割合と等しい場合等と比較して、運転者が停車意思を有した車両の減速傾向を正確に前記減速カウンタ計数値に表すことが可能である。
【0010】
また、好適には、(a)加速カウンタ計数値を、加速走行中または等速走行中に時間経過に従って増加させると共に減速走行時には初期値に戻す加速カウンタを備えており、(b)前記減速カウンタは、前記加速カウンタ計数値が予め定められた加速カウンタ計数上限値を超えた場合には前記減速カウンタ計数値を初期値に戻す。このようにすれば、前記加速カウンタ計数値は、加速走行がある程度の時間継続したときに前記加速カウンタ計数上限値を超えることになり、その加速カウンタ計数値を、明らかな加速走行が発生したか否かを判断するための指標値として用いることができる。そして、明らかな加速走行が発生した場合には運転者は停車意思を有していないと考えられるので、そのような場合には前記減速カウンタ計数値が前記加速カウンタ計数値に基づいて初期値に戻され、運転者に停車意思がないことを前記減速カウンタ計数値に反映することが可能である。その結果として、前記減速カウンタ計数値に基づき前記停車意思があると判定することの正確性を十分に高くすることが可能である。
【0011】
また、好適には、前回の加速終了時からの車速の低下幅が予め定められた車速低下幅判定値を超えた場合に、前記停車意思があると判定する。このようにすれば、前記車速の履歴において前回の加速終了時からの車速の低下幅が大きい場合、例えば急な減速がなされた場合には、運転者は明らかに停車意思を有していると考えられるので、そのような場合に、上記前回の加速終了時からの車速の低下幅を用いて運転者の停車意思を容易且つ迅速に推定することが可能である。
【0012】
また、好適には、(a)車速の単位時間当たりの減少量である減速度が最新に近いほど絶対値が大きく算出されるように重み付けされたその減速度に相当する減速度相当値を、前記車速の履歴に基づいて算出し、(b)その算出した減速度相当値が予め定められた減速度判定値を超えた場合には前記停車意思があると判定する。このようにすれば、上記減速度の重み付けにより、そのような重み付けがなされない場合と比較して、前記燃料カットを許可する時に運転者に停車意思があるか否かを正確に推定しその停車意思の有無を正確に判定することが可能である。
【0013】
また、好適には、(a)前記減速度相当値は、前記エンジンへの燃料供給遮断を許可するための予め定められた前提条件が成立した時から所定時間が経過した場合に算出されるものであり、(b)その所定時間の経過前には、前記減速度が前記減速度判定値を超えた場合に前記停車意思があると判定する。このようにすれば、緩やかな減速時には前記減速度相当値を用いて前記停車意思の有無を正確に判定すると共に、急な減速時には上記減速度を用いて上記停車意思の有無を正確に判定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用される車両を構成するエンジンから駆動輪までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図2】図1の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する実施例1の機能ブロック線図である。
【図3】図2の電子制御装置による実施例1の制御作動の要部、すなわち、アイドリングストップ制御を実行するための制御作動を説明するためのフローチャートである。
【図4】図3のSA1の判断が肯定されたことを前提として、図3のフローチャートで説明した加速カウンタおよび減速カウンタの作動と、そのフローチャートにおいて減速判定フラグをオン状態に設定するセット条件およびその減速判定フラグをオフ状態に設定するクリア条件とをまとめた一覧表である。
【図5】図3のフローチャートによる制御作動を説明するための実施例1のタイムチャートであって、燃料供給遮断前提条件の成立後に、減速と加速とを繰り返しつつ全体的には緩やかな減速走行が継続した場合を例として、車速、基準車速、加速カウンタ計数値、および減速カウンタ計数値の推移を示したタイムチャートである。
【図6】図3のフローチャートによる制御作動を説明するための実施例1のタイムチャートであって、図5と同様のタイムチャートであるが、図5に対して車速が全体として大きく減少している例を示したタイムチャートである。
【図7】図3のフローチャートによる制御作動を説明するための実施例1のタイムチャートであって、燃料供給遮断前提条件の成立後に急な減速が行われた場合を例として、車速および基準車速の推移を示したタイムチャートである。
【図8】図1の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する実施例2の機能ブロック線図であって、図2に相当する図である。
【図9】図8の電子制御装置に車速の履歴として記憶される車速履歴マップの一例を示した図である。
【図10】図8の電子制御装置による実施例2の制御作動の要部、すなわち、アイドリングストップ制御を実行するための制御作動を説明するための、2つの図から構成されたフローチャートのうちの第1図である。
【図11】図8の電子制御装置による実施例2の制御作動の要部を説明するための、2つの図から構成されたフローチャートのうちの第2図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明が適用される車両10を構成するエンジン12から駆動輪14までの動力伝達経路の概略構成を説明する図であると共に、車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。図1において、変速機構部16は、例えば車両において横置きされるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に用いられる有段の自動変速機または無段の自動変速機(CVT)等であり、トルクコンバータ17を介してエンジン12に連結されている。走行用駆動力源としての内燃機関であるエンジン12からトルクコンバータ17を経て変速機構部16へ入力された動力は、カウンタギヤ対20の一方を構成する出力回転部材としての出力歯車18から、動力伝達装置としてのカウンタギヤ対20、ファイナルギヤ対22、差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)24、及び一対の車軸(ドライブシャフト(D/S))26等を順次介して一対の駆動輪14へ伝達される。これら変速機構部16、カウンタギヤ対20、ファイナルギヤ対22、差動歯車装置(ディファレンシャルギヤ)24等によりトランスアクスル(T/A)が構成される。
【0017】
エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であり、吸気管50に設けられスロットルアクチュエータ52により開閉駆動される電子スロットル弁54と、気筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置56と、その噴射された燃料に点火する点火装置58とを備えている。
【0018】
車輪制動装置64は、よく知られたドラムブレーキやディスクブレーキであり、各車輪(すなわち駆動輪14に従動輪を加えた各車輪)ごとに設けられており、フットブレーキペダル66の踏込操作により各車輪を制動する。すなわち、フットブレーキペダル66の踏込操作によって発生させられるブレーキ油圧によって各車輪を制動する。車輪制動装置64は、本発明の制動装置に対応する。
【0019】
車両10には、エンジン12を制御する車両用エンジン制御装置としての機能を含む電子制御装置80が備えられている。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御、変速機構部16の変速制御などを実行する。
【0020】
電子制御装置80には、例えばエンジン回転速度センサ28からのエンジン12のクランクシャフトのクランク角度(位置)ACR及びエンジン回転速度Nに応じたエンジン回転速度信号、入力回転速度センサ30からの変速機構部16の入力軸の回転速度NINに応じた入力回転速度信号、車速センサ32からの出力歯車18の回転速度NOUTに対応する車速Vを表す車速信号、各車輪速センサ34からの各車輪の回転速度Nに応じた車輪速信号、アクセル開度センサ36からのアクセルペダル68の操作の有無及びアクセルペダル68の操作量(アクセル開度Acc)を表す信号、車輪を車輪制動装置64に制動させるための制動操作の有無すなわちブレーキペダル66の踏込操作の有無を表すフットブレーキスイッチ38からの信号などが、それぞれ供給される。
【0021】
また、電子制御装置80からは、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号例えば電子スロットル弁54の開度θTH(スロットル弁開度θTH)を操作するスロットルアクチュエータ52への駆動信号や燃料噴射装置56によるエンジン12の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置58によるエンジン12の点火時期を指令する点火信号、変速機構部16の変速制御の為の変速制御指令信号等が、それぞれ出力される。例えば、電子制御装置80は、前記入力回転速度信号や出力回転速度信号等に基づいて変速制御指令信号を不図示の油圧制御回路などへ出力して変速機構部16のギヤ比の切換制御を実行する。また、電子制御装置80は、エンジン12の出力制御の一部として、基本的には、図示しない予め記憶された関係からアクセル開度信号Accに基づいてスロットルアクチュエータ52を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0022】
本実施例の電子制御装置80は、燃費向上のために、車両10の走行停止に関連してエンジン12を一時的に自動停止する所謂アイドリングストップ制御を実行する。そのアイドリングストップ制御を実行するための制御機能の要部を図2を用いて以下に説明する。なお、上記アイドリングストップ制御におけるエンジン12の一時的な停止とは、エンジン12への燃料供給が遮断されてそのエンジン12が非駆動状態になることであり、その非駆動状態においてエンジン回転速度Nが零であるとは限らないので、上記エンジン12の一時的な停止にはエンジン回転速度Nが零でない場合も含まれる。また、本実施例で燃費とは、例えば、単位燃料消費量当たりの走行距離等であり、燃費の向上とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が長くなることであり、或いは、車両10全体としての燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)が小さくなることである。逆に、燃費の低下とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が短くなることであり、或いは、車両10全体としての燃料消費率が大きくなることである。
【0023】
図2は、電子制御装置80に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図2に示すように、電子制御装置80は、走行状態検出部すなわち走行状態検出手段88と、燃料供給遮断前提条件判断部すなわち燃料供給遮断前提条件判断手段92と、停車意思推定部すなわち停車意思推定手段94と、燃料供給遮断許可部すなわち燃料供給遮断許可手段96と、エンジン始動停止制御部すなわちエンジン始動停止制御手段98とを備えている。そして、電子制御装置80は、加速カウンタ100と減速カウンタ102とを備えている。
【0024】
走行状態検出手段88は、車両10の走行状態を検出する。例えば、車両10が加速走行中、等速走行中、或いは減速走行中の何れであるのかを検出する。そのためには車速Vを得る必要があるので、走行状態検出手段88は、車速検出部すなわち車速検出手段90を備えている。その車速検出手段90は、車速センサ32から車速信号を受けてその車速信号に基づいて車速Vを検出する。具体的に、車速検出手段90は、10msec程度の極めて短い車速検出周期(単位は例えば「msec」)で車速Vを逐次検出する。本実施例の説明では、その逐次検出される車速Vにおいて、検出された最新の車速Vを車速V(n)と表し、その最新の車速Vの1つ前に検出された車速Vすなわち前回周期で検出された車速Vを車速V(n-1)と表すこととする。
【0025】
走行状態検出手段88は、上記車速検出手段90が検出した車速V(n),V(n-1)から、車両10の走行状態を検出し又は判断する。具体的には、走行状態検出手段88は、車速V(n)が車速V(n-1)よりも低い場合には車速Vが低下しているので、車両10が減速走行中であると判断する。また、車速V(n)が車速V(n-1)と等しい場合には車速Vが変化していないので、車両10が等速走行中であると判断する。また、車速V(n)が車速V(n-1)よりも高い場合には車速Vが上昇しているので、車両10が加速走行中であると判断する。走行状態検出手段88は、車速検出手段90が車速Vを検出する毎、すなわち、前記車速検出周期毎に、上記走行状態の検出(判断)を逐次実行する。ここで、走行状態検出手段88は、上記車速V(n)と車速V(n-1)との比較を厳密に行うのではなく、車速Vについての所定の精度の基で行うのが好ましい。例えば、その所定の精度が1km/hであれば、走行状態検出手段88は、車速V(n)と車速V(n-1)との単位を「km/h」として小数第1位を切り捨てた上で、車速V(n)と車速V(n-1)とを比較する。
【0026】
燃料供給遮断前提条件判断手段92は、予め定められた燃料供給遮断前提条件が成立したか否かを判断する。その燃料供給遮断前提条件とは、前記アイドリングストップ制御を実行するための前提となる車両条件であり、言い換えれば、エンジン12への燃料供給遮断を許可するための前提条件である。本実施例で例えば、上記燃料供給遮断前提条件は、(i)アクセルペダル68が操作されていないこと(アクセル開度Acc=0)すなわちアクセルオフであること、(ii)前記制動操作が行われていることすなわちブレーキオンであること、及び、(iii)車速検出手段90によって検出される車速V(n)が予め定められた前提条件車速判定値V0未満であること、の3つの条件から構成されており、上記(i)〜(iii)の3つの条件全てが満たされた場合に上記燃料供給遮断前提条件は成立する。前提条件車速判定値V0は、車速V(n)がそれ以上であれば前記アイドリングストップ制御を実行すべきでないと判断される予め実験的に設定された車速Vであり、例えば20km/h程度に設定されている。
【0027】
加速カウンタ100は、走行状態検出手段88によって判断される車両10の加速走行中、等速走行中、または減速走行中という走行状態に基づいて、加速カウンタ計数値NUMAを増減する。すなわち、加速カウンタ100は、走行状態検出手段88による判断に基づき、車両10が加速走行中または等速走行中である場合には、加速カウンタ計数値NUMAを、時間経過に従って予め設定された加速時変化割合で増加させる。例えば、その加速時変化割合は前記車速検出周期毎に加速カウンタ計数値NUMAを1ずつ変化させる変化割合に設定されており、要するに、加速カウンタ100は、車両10が加速走行中または等速走行中である間は、前記車速検出周期毎に加速カウンタ計数値NUMAを1ずつ増加させる。その一方で、加速カウンタ100は、車両10が減速走行中であると走行状態検出手段88により判断された場合すなわち減速走行時には、加速カウンタ計数値NUMAを初期値に戻す。
【0028】
但し、加速カウンタ100は、燃料供給遮断前提条件判断手段92によって前記燃料供給遮断前提条件が成立したと判断された場合に限り、加速カウンタ計数値NUMAを初期値よりも大きくするものである。言い換えると、加速カウンタ100は、走行状態検出手段88の判断に拘わらず、前記燃料供給遮断前提条件が成立から不成立に切り替われば加速カウンタ計数値NUMAを初期値に戻し、前記燃料供給遮断前提条件が不成立である限り加速カウンタ計数値NUMAを初期値のまま維持する。なお、加速カウンタ計数値NUMAは、上記のようにして増減されるので、車両10の等速走行から加速走行までの範囲内での走行状態が前記燃料供給遮断前提条件の成立後において継続した時間に対応する指標値であると言える。また、加速カウンタ計数値NUMAの初期値は、幾つであっても差し支えないが本実施例では零である。
【0029】
減速カウンタ102は、走行状態検出手段88によって判断される車両10の加速走行中、等速走行中、または減速走行中という走行状態に基づいて、減速カウンタ計数値NUMRを増減する。すなわち、減速カウンタ102は、走行状態検出手段88による判断に基づき、車両10が減速走行中である場合には、減速カウンタ計数値NUMRを、時間経過に従って所定の減速時変化割合で増加させる。例えば、その減速時変化割合は前記車速検出周期毎に減速カウンタ計数値NUMRを1ずつ変化させる変化割合に設定されており、要するに、減速カウンタ102は、車両10が減速走行中である間は、前記車速検出周期毎に減速カウンタ計数値NUMRを1ずつ増加させる。その一方で、減速カウンタ102は、車両10が加速走行中である場合には、減速カウンタ計数値NUMRを、時間経過に従って上記減速時変化割合よりも大きな変化割合(一時的加速時変化割合)で減少させる。例えば、その一時的加速時変化割合は前記車速検出周期毎に減速カウンタ計数値NUMRを2ずつ変化させる変化割合に設定されており、要するに、減速カウンタ102は、車両10が加速走行中である間は、前記車速検出周期毎に減速カウンタ計数値NUMRを2ずつ減少させる。更に、減速カウンタ102は、加速カウンタ100から加速カウンタ計数値NUMAを逐次取得しており、その加速カウンタ計数値NUMAが予め定められた加速カウンタ計数上限値C1を超えた場合には減速カウンタ計数値NUMRを初期値に戻す。上記加速カウンタ計数上限値C1は、加速カウンタ計数値NUMAがその値C1を超えれば明らかな加速走行が発生したものと判断できるように実験的に設定されており、例えば時間に換算すれば200msecに相当する程度の値に設定されている。加速カウンタ計数上限値C1が200msecに相当する程度とは、加速カウンタ計数値NUMAを増減する周期が本実施例では前記車速検出周期であり且つ加速カウンタ計数値NUMAの初期値が零であるので、その車速検出周期と加速カウンタ計数上限値C1との積が200msec程度になるということである。
【0030】
但し、減速カウンタ102は、燃料供給遮断前提条件判断手段92によって前記燃料供給遮断前提条件が成立したと判断された場合に限り、減速カウンタ計数値NUMRを初期値よりも大きくするものである。言い換えると、減速カウンタ102は、走行状態検出手段88の判断に拘わらず、前記燃料供給遮断前提条件が成立から不成立に切り替われば減速カウンタ計数値NUMRを初期値に戻し、前記燃料供給遮断前提条件が不成立である限り減速カウンタ計数値NUMRを初期値のまま維持する。なお、減速カウンタ計数値NUMRの初期値は、幾つであっても差し支えないが本実施例では零である。
【0031】
停車意思推定手段94は、運転者の停車意思を車速Vの履歴に基づいて推定し、その停車意思があるか否かを判定する。ここで、運転者の停車意思とは、運転者が走行中の車両10を停車させようとする意思である。また、車速Vの履歴は、時間経過に対して変化する車速Vの記録であり、例えば車速検出手段90によって検出された最新の車速V(n)や過去の車速V(n-1)は車速Vの履歴に含まれる。更に、減速カウンタ計数値NUMRは、現時点までの車速Vの減速傾向を示すので車速Vの履歴に含まれる。
【0032】
具体的に、停車意思推定手段94は、車速Vの履歴を示す一つの指標値である減速カウンタ計数値NUMRに基づいて、運転者の停車意思があるか否かを推定して判定する。すなわち、減速カウンタ計数値NUMRが予め定められた減速カウンタ計数上限値C2を超えた場合に、前記停車意思があるものと推定してその停車意思があると判定する。減速カウンタ計数上限値C2は、減速カウンタ計数値NUMRがその値C2を超えれば運転者が停車意思を有して減速していると判定できるように実験的に設定されており、例えば時間に換算すれば2000msecに相当する程度の値に設定されている。減速カウンタ計数上限値C2と上記時間(2000msec)との関係は前記加速カウンタ計数上限値C1の場合と同様である。
【0033】
上記のように、停車意思推定手段94は、運転者の停車意思があるか否かを減速カウンタ計数値NUMRに基づいて推定するだけでもよいが、本実施例では、強力な前記制動操作がなされた場合のような急な減速時には、減速カウンタ計数値NUMRを用いない別の方法で、車速Vの履歴に基づき運転者の停車意思があるか否かを推定するように作動する。すなわち、減速カウンタ計数値NUMRに基づいた運転者の停車意思の推定とは別に、停車意思推定手段94は、前回の加速終了時からの車速Vの低下幅ΔV(以下、車速低下幅ΔV、または、減速幅ΔVという)が、予め定められた車速低下幅判定値V2を超えた場合にも、前記停車意思があるものと推定してその停車意思があると判定する。
【0034】
具体的に、停車意思推定手段94は、上記停車意思の有無を推定するために、前回の加速終了時からの車速低下幅ΔVが車速低下幅判定値V2を超えたか否かを判断するが、その前提として、上記前回の加速終了時からの車速低下幅ΔVを算出する必要がある。そこで、停車意思推定手段94は、減速開始直前の車速Vすなわち前回の加速終了時の車速Vを基準車速Vkとして設定する。但し、前記燃料供給遮断前提条件が不成立のときは車速V(n)をそのまま基準車速Vkとして設定する。詳細に言えば、停車意思推定手段94は、前記燃料供給遮断前提条件が不成立であると燃料供給遮断前提条件判断手段92によって判断されている限り車速V(n)をそのまま基準車速Vkとして設定する。更に、前記燃料供給遮断前提条件が成立したと燃料供給遮断前提条件判断手段92によって判断された場合おいては、車両10が加速走行中であると走行状態検出手段88によって判断された場合に、車速V(n)を基準車速Vkとして設定しその基準車速Vkを更新する一方で、車両10が等速走行中又は減速走行中であると判断された場合には、基準車速Vkを更新せずにその設定を維持する。そして、停車意思推定手段94は、このようにして設定された基準車速Vkと車速V(n)との差である前回の加速終了時からの車速低下幅ΔVを下記式(1)のようにして逐次算出し、その算出した車速低下幅ΔVが車速低下幅判定値V2を超えた場合に、前記停車意思があるものと推定してその停車意思があると判定する。なお、車速低下幅判定値V2は、前回の加速終了時からの車速低下幅ΔVがその値V2を超えれば運転者が停車意思を有して減速していると判定できるように実験的に設定されており、例えば10km/h程度に設定されている。
ΔV=Vk−V(n) ・・・(1)
【0035】
このようにして、停車意思推定手段94は、減速カウンタ計数値NUMRが減速カウンタ計数上限値C2を超えた場合、または、前回の加速終了時からの車速低下幅ΔVが車速低下幅判定値V2を超えた場合に、前記停車意思があると判定する。逆に言えば、減速カウンタ計数値NUMRが減速カウンタ計数上限値C2以下であり、且つ、前回の加速終了時からの車速低下幅ΔVが車速低下幅判定値V2以下である場合には、前記停車意思がないと判定する。ここで、前述したように、燃料供給遮断前提条件判断手段92によって前記燃料供給遮断前提条件が成立したと判断されない限り、減速カウンタ計数値NUMRは初期値(=0)のままであり、基準車速Vkには車速V(n)が設定される。そして、減速カウンタ計数値NUMRが初期値のままであれば減速カウンタ計数上限値C2を超えることはなく、基準車速Vkが車速V(n)であれば前記式(1)で算出される車速低下幅ΔVは零であり車速低下幅判定値V2を超えることはない。従って、停車意思推定手段94は、前記燃料供給遮断前提条件が成立していることを条件に前記停車意思があると判定するものと言える。
【0036】
燃料供給遮断許可手段96は、停車意思推定手段94によって前記停車意思があると判定された場合には、エンジン12への燃料供給を遮断することである燃料カットを、停車中だけでなく車両10の減速走行中にもエンジン始動停止制御手段98に対して許可する。逆に、燃料供給遮断許可手段96は、停車意思推定手段94が前記停車意思があると判定しない場合には、前記燃料カットを許可しない。
【0037】
エンジン始動停止制御手段98は、前記アイドリングストップ制御を実行する。具体的には、エンジン始動停止制御手段98は、燃料供給遮断許可手段96が前記燃料カットを許可した場合には、その燃料カットを行う。車速V(n)が零になるのを待ってその燃料カットを行ってもよいが、本実施例では、その燃料カットを許可されれば減速走行中でも直ちに燃料カットを行う。例えば、燃料噴射装置56に燃料を噴射させないようにすることによってその燃料カットを行う。そして、エンジン始動停止制御手段98は、上記燃料カットの許可に基づく燃料カットの実行中にその燃料カットの許可が燃料供給遮断許可手段96によって解除された場合には、上記燃料カットを中止してエンジン12を始動する。例えば、そのエンジン12の始動では、スタータモータを駆動してエンジン回転速度Nをエンジン始動可能な所定回転速度まで上昇させた上で、燃料噴射装置56に燃料を噴射させると共に点火装置58に点火させる。
【0038】
図3は、電子制御装置80による本実施例の制御作動の要部、すなわち、前記アイドリングストップ制御を実行するための制御作動を説明するためのフローチャートである。この図3のフローチャートは、例えば、前記車速検出周期と同程度である数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0039】
先ず、図3のステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、前記燃料供給遮断前提条件が成立したか否かが判断される。(i)前記アクセルオフであること、(ii)前記ブレーキオンであること、及び、(iii)車速V(n)が前提条件車速判定値V0未満であること、の3つの条件全てが満たされた場合に上記燃料供給遮断前提条件は成立する。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、上記燃料供給遮断前提条件が成立した場合には、SA2に移る。一方、このSA1の判断が否定された場合には、SA12に移る。なお、SA1は燃料供給遮断前提条件判断手段92に対応する。
【0040】
走行状態検出手段88に対応するSA2においては、車両10が減速走行中であるか否か、すなわち、車速V(n)が車速V(n-1)よりも低いか否かが判断される。このSA2の判断が肯定された場合、すなわち、車速V(n)が車速V(n-1)よりも低い場合には、車両10が減速走行中であるのでSA3に移る。一方、このSA2の判断が否定された場合には、SA5に移る。
【0041】
加速カウンタ100に対応するSA3においては、加速カウンタ計数値NUMAが初期値である零に設定される。SA3の次はSA4に移る。
【0042】
減速カウンタ102に対応するSA4においては、減速カウンタ計数値NUMRが1だけ増加させられる。SA4の次はSA15に移る。
【0043】
走行状態検出手段88に対応するSA5においては、車両10が等速走行中であるか否か、すなわち、車速V(n)が車速V(n-1)と等しいか否かが判断される。このSA5の判断が肯定された場合、すなわち、車速V(n)が車速V(n-1)と等しい場合には、車両10が等速走行中であるのでSA6に移る。一方、このSA5の判断が否定された場合には、車両10が加速走行中であるのでSA9に移る。
【0044】
加速カウンタ100に対応するSA6においては、加速カウンタ計数値NUMAが1だけ増加させられる。SA6の次はSA7に移る。
【0045】
減速カウンタ102に対応するSA7においては、加速カウンタ計数値NUMAが加速カウンタ計数上限値C1を超えたか否かが判断される。このSA7の判断が肯定された場合、すなわち、加速カウンタ計数値NUMAが加速カウンタ計数上限値C1を超えた場合には、SA8に移る。一方、このSA7の判断が否定された場合には、SA15に移る。
【0046】
減速カウンタ102に対応するSA8においては、減速カウンタ計数値NUMRが初期値である零に設定される。SA8の次はSA15に移る。
【0047】
加速カウンタ100に対応するSA9においては、加速カウンタ計数値NUMAが1だけ増加させられる。SA9の次はSA10に移る。
【0048】
減速カウンタ102に対応するSA10においては、減速カウンタ計数値NUMRが2だけ減少させられる。但し、減速カウンタ計数値NUMRの最小値は初期値であって、減速カウンタ計数値NUMRが、初期値である零よりも小さくされることはない。例えば、減速カウンタ計数値NUMRが、SA10の実行前には1であったとすれば、SA10の実行により、−1にされるのではなく、初期値である零にされるということである。SA10の次はSA11に移る。
【0049】
停車意思推定手段94に対応するSA11においては、車速V(n)が基準車速Vkとして設定される。SA11の次はSA7に移る。
【0050】
加速カウンタ100に対応するSA12においては、加速カウンタ計数値NUMAが初期値である零に設定される。SA12の次はSA13に移る。
【0051】
減速カウンタ102に対応するSA13においては、減速カウンタ計数値NUMRが初期値である零に設定される。SA13の次はSA14に移る。
【0052】
停車意思推定手段94に対応するSA14においては、車速V(n)が基準車速Vkとして設定される。SA14の次はSA15に移る。
【0053】
停車意思推定手段94に対応するSA15においては、前回の加速終了時からの車速低下幅ΔVが、前記式(1)により算出される。そして、運転者の前記停車意思が推定されてその停車意思があるか否かが判定される。具体的には、減速カウンタ計数値NUMRが減速カウンタ計数上限値C2を超えた場合、または、前記式(1)により算出された車速低下幅ΔVが車速低下幅判定値V2を超えた場合に、上記停車意思があると判定される。このSA15の判定が肯定された場合、すなわち、減速カウンタ計数値NUMRが減速カウンタ計数上限値C2を超えた場合または上記算出された車速低下幅ΔVが車速低下幅判定値V2を超えた場合には、前記停車意思があるものと推定されるのでSA16に移る。一方、このSA15の判定が否定された場合には、前記停車意思がないものと推定されるのでSA17に移る。
【0054】
SA16では、エンジン12への燃料供給を遮断すること(燃料カット)が許可される。すなわち、運転者が停車意思を有して減速したと判定されたことを示す減速判定フラグがオン状態に設定される。一方で、SA17では、上記燃料カットが許可されない。すなわち、上記減速判定フラグがオフ状態に設定される。
【0055】
上記減速判定フラグがオン状態に設定されると前記燃料カットは行われるが、上記減速判定フラグがオフ状態であれば前記燃料カットは行われない。また、オン状態の上記減速判定フラグに基づく前記燃料カットの実行中に上記減速判定フラグがオン状態からオフ状態に設定変更されると、エンジン12が始動される。
【0056】
例えば、上記燃料カットの実行中に運転者が加速しようとしてブレーキペダル66の踏込操作を解除した場合には、SA1の判断が肯定から否定に切り替わり、SA13にて減速カウンタ計数値NUMRが零に設定されると共に、SA14にて車速V(n)が基準車速Vkとして設定される。それにより、減速カウンタ計数値NUMRが減速カウンタ計数上限値C2以下となり、且つ、前記式(1)により算出された車速低下幅ΔVが車速低下幅判定値V2以下となるので、SA15の判定が肯定から否定に切り替わり、SA17にて減速判定フラグがオフ状態になり、エンジン12が始動される。なお、SA16およびSA17は燃料供給遮断許可手段96に対応する。
【0057】
図4は、図3のSA1の判断が肯定されたことを前提として、図3のフローチャートで説明した加速カウンタ100および減速カウンタ102の作動と、そのフローチャートにおいて前記減速判定フラグをオン状態に設定するセット条件およびその減速判定フラグをオフ状態に設定するクリア条件とをまとめた一覧表である。図4では、所定のサイクルタイムで繰り返し実行される図3のフローチャートにおいて最新の加速カウンタ計数値NUMAおよび減速カウンタ計数値NUMRはそれぞれ加速カウンタ計数値NUMA(n)および減速カウンタ計数値NUMR(n)として表され、その最新に対して1つ前のサイクルで設定された加速カウンタ計数値NUMAおよび減速カウンタ計数値NUMRはそれぞれ加速カウンタ計数値NUMA(n-1)および減速カウンタ計数値NUMR(n-1)として表されている。
【0058】
図4の加速カウンタ100の作動を記載した欄に示すように、車両10が加速走行中または等速走行中である場合、すなわち、車速V(n)が車速V(n-1)以上である場合には、図3のSA6またはSA9にて、加速カウンタ計数値NUMA(n)は加速カウンタ計数値NUMA(n-1)に1を加えた値に設定される。しかし、車速V(n)が車速V(n-1)以上ではない場合には、図3のSA3にて、加速カウンタ計数値NUMA(n)は零に設定される。
【0059】
また、図4の減速カウンタ102の作動を記載した欄に示すように、加速カウンタ計数値NUMA(n)が、適合定数として設定された加速カウンタ計数上限値C1(=200msec相当程度)を超えた場合には、図3のSA8にて、減速カウンタ計数値NUMR(n)は零に設定される。また、車両10が加速走行中である場合、すなわち、車速V(n)が車速V(n-1)よりも高い場合には、図3のSA10にて、減速カウンタ計数値NUMR(n)は減速カウンタ計数値NUMR(n-1)から2を減じた値に設定される。また、車両10が減速走行中である場合、すなわち、車速V(n)が車速V(n-1)よりも低い場合には、図3のSA4にて、減速カウンタ計数値NUMR(n)は減速カウンタ計数値NUMR(n-1)に1を加えた値に設定される。
【0060】
また、図4の前記減速判定フラグのセット条件を記載した欄に示すように、減速カウンタ計数値NUMR(n)が、適合定数として設定された減速カウンタ計数上限値C2(=2000msec相当程度)を超えた場合、または、前記式(1)により算出される車速低下幅ΔVが、適合定数として設定された車速低下幅判定値V2(=10km/h程度)を超えた場合に、上記セット条件が成立し、図3のSA16にて、前記減速判定フラグがオン状態に設定される。その一方で、上記セット条件が不成立の場合には前記減速判定フラグのクリア条件が成立し、図3のSA17にて、上記減速判定フラグがオフ状態に設定される。図4の減速開始時車速とは減速開始直前の車速Vすなわち基準車速Vkのことである。
【0061】
図5は、前記燃料供給遮断前提条件の成立後に、減速と加速とを繰り返しつつ全体的には緩やかな減速走行が継続した場合を例として、車速V、基準車速Vk、加速カウンタ計数値NUMA、および減速カウンタ計数値NUMRの推移を示したタイムチャートである。また、図6も図5と同様のタイムチャートであるが、図6は、図5に対して車速Vが全体として大きく減少している例を示したタイムチャートである。以下の図5および図6の説明では、基本的に図5について説明し、図6については図5と相違する点を主として説明する。
【0062】
図5のtA1時点〜tA2時点の間、tA3時点〜tA4時点の間、およびtA5時点〜tA7時点の間では車速Vは上昇している、すなわち、車両10は加速走行中である。その加速走行中には、図3のSA9の実行により加速カウンタ計数値NUMAが増加しており、図3のSA10の実行により減速カウンタ計数値NUMRが減少しており、図3のSA11の実行により基準車速Vkが車速Vの変化に沿って更新されている。但し、tA6時点で、加速カウンタ計数値NUMAが加速カウンタ計数上限値C1を超えたので、図3のSA8の実行により減速カウンタ計数値NUMRが初期化されて零に戻り、tA6時点〜tA7時点の間では減速カウンタ計数値NUMRが零のまま推移している。
【0063】
一方で、図5のtA2時点〜tA3時点の間、tA4時点〜tA5時点の間、およびtA7時点以降では車速Vは低下している、すなわち、車両10は減速走行中である。その減速走行中には、図3のSA3の実行により加速カウンタ計数値NUMAが初期化されて零に設定されており、図3のSA4の実行により減速カウンタ計数値NUMRが増加している。また、減速走行中には、基準車速Vkは車速Vに応じて更新されないので、減速開始直前のまま推移している。具体的には、基準車速Vkは、tA2時点〜tA3時点の間においてはtA2時点の車速Vに設定されており、tA4時点〜tA5時点の間においてはtA4時点の車速Vに設定されており、tA7時点以降においてはtA7時点の車速Vに設定されている。
【0064】
図6では、tB1時点〜tB2時点の間、tB3時点〜tB4時点の間、およびtB5時点以降において車両10は減速走行中であり、その一方で、tB2時点〜tB3時点の間、およびtB4時点〜tB5時点の間において車両10は減速走行中である。図6では、図5と比較して、タイムチャート全体の期間内において車両10が減速走行中である合計時間から加速走行中である合計時間を差し引いた時間差が長く、タイムチャート全体としての減速傾向が強いので、減速カウンタ計数値NUMRがより大きくなっている。そのため、図6では、tB6時点にて減速カウンタ計数値NUMRが減速カウンタ計数上限値C2を超えて前記減速判定フラグのセット条件が成立し、減速判定フラグが図3のSA16の実行によりオン状態に設定されているが、図5では、減速カウンタ計数値NUMRがtA7時点以降でもあまり大きくならず減速カウンタ計数上限値C2以下で推移している。つまり、前記減速判定フラグは、図5のタイムチャートのように車速V推移の全体として減速傾向が小さい場合にはオン状態にならない。
【0065】
また、図5および図6を比較して判るように、減速走行全体が緩やかな減速であるほど一時的な加速を含む機会が増すので、減速カウンタ計数値NUMRが大きくなりにくい。そのため、減速走行全体が緩やかな減速であるほど、より長期的な車速Vの履歴に基づいて前記停車意思が推定されることになり、減速カウンタ計数値NUMRに基づいて前記減速判定フラグがオン状態に切り換わる場合にはその切換わり時の車速Vがより低くなる。
【0066】
なお、前記式(1)により算出される車速低下幅(減速幅)ΔVは、図5で減速走行中であるtA2時点〜tA3時点の間、tA4時点〜tA5時点の間、およびtA7時点以降と、図6で減速走行中であるtB1時点〜tB2時点の間、tB3時点〜tB4時点の間、およびtB5時点以降との何れの期間中にも、車速低下幅判定値V2を超えていない。
【0067】
図7は、前記燃料供給遮断前提条件の成立後に急な減速が行われた場合を例として、車速V、および基準車速Vkの推移を示したタイムチャートである。
【0068】
図7のtC1時点までは車両10は加速走行中であるので、図3のSA11の実行により基準車速Vkが車速Vの変化に沿って更新されている。その一方で、tC1時点で車両10は減速走行に転じたので、tC1時点以降において基準車速Vkは、車速Vに応じて更新されず、減速開始直前の車速VすなわちtC1時点の車速Vのまま推移している。
【0069】
そして、tC2時点において、前記式(1)により算出される車速低下幅(減速幅)ΔVが車速低下幅判定値V2を超えている。そのため、前記減速判定フラグのセット条件が成立し、減速判定フラグが図3のSA16の実行によりオン状態に設定されている。
【0070】
本実施例の電子制御装置80には次のような効果(A1)乃至(A6)がある。(A1)本実施例によれば、停車意思推定手段94は、運転者の停車意思を車速Vの履歴に基づいて推定する。そして、燃料供給遮断許可手段96は、停車意思推定手段94によって前記停車意思があると判定された場合には、エンジン12への燃料供給を遮断することである燃料カットを、停車中だけでなく車両10の減速走行中にもエンジン始動停止制御手段98に対して許可する。従って、車速Vの履歴は運転者の車両走行に対する意思が反映された結果であると考えられるので、その車速Vの履歴から運転者の停車意思が正確に推定され、その停車意思がある場合にはその停車意思の有無を正確に判定することができる。そのため、正確に判定された上記停車意思に基づきエンジン12への燃料供給を遮断すること(燃料カット)が車両10の減速走行中に許可されることとなるので、運転者の停車意思に即して燃料カットを可及的に早期に実行することが可能である。そして、早期の燃料カットによりその燃料カットの継続時間を長く確保して燃費向上を図ることが可能である。また、上記停車意思の有無を正確に判定することができるので、再加速時において、エンジン12の再始動に起因したエンジントルク上昇の遅れが運転者に認識されることを抑制することが可能である。
【0071】
(A2)また、本実施例によれば、停車意思推定手段94は、アクセルペダル68が操作されておらず(アクセルオフ)且つ車輪を車輪制動装置64に制動させるための前記制動操作が行われていること(ブレーキオン)を条件に、前記停車意思があると判定する。従って、アクセルペダル68が踏み込まれている場合又は上記制動操作が行われていない場合には運転者が停車意思を有さないことは明らかであるので、そのような運転者が停車意思を有さないことが明らかな場合には、前記停車意思があるとの判定を容易に否定することが可能である。
【0072】
(A3)また、本実施例によれば、減速カウンタ102は、減速カウンタ計数値NUMRを、減速走行中には時間経過に従って所定の前記減速時変化割合で増加させる一方で、加速走行中には時間経過に従って上記減速時変化割合よりも大きな変化割合で減少させる。そして、停車意思推定手段94は、減速カウンタ計数値NUMRが前記減速カウンタ計数上限値C2を超えた場合に、前記停車意思があるものと推定してその停車意思があると判定する。従って、車両10が減速走行中に一時的に加速に転じても走行状態全体として減速走行であれば減速カウンタ計数値NUMRは増加させられ、車速Vの履歴全体の減速傾向を減速カウンタ計数値NUMRで定量的に把握することができ、その減速カウンタ計数値NUMRを用いて運転者の停車意思を容易且つ正確に推定できる。また、減速カウンタ102は、加速走行中には時間経過に従って前記減速時変化割合よりも大きな変化割合で前記減速カウンタ計数値を減少させるので、車両走行全体の中で減速走行の方が加速走行よりもある程度以上長時間にわたるときに減速カウンタ計数値NUMRが増加させられることになり、例えば加速走行中における減速カウンタ計数値NUMRの変化割合が前記減速時変化割合と等しい場合等と比較して、運転者が停車意思を有した車両10の減速傾向を正確に減速カウンタ計数値NUMRに表すことが可能である。
【0073】
(A4)また、本実施例によれば、加速カウンタ100は、加速カウンタ計数値NUMAを、加速走行中または等速走行中に時間経過に従って増加させると共に減速走行時には初期値に戻す。そして、減速カウンタ102は、加速カウンタ計数値NUMAが前記加速カウンタ計数上限値C1を超えた場合には減速カウンタ計数値NUMRを初期値に戻す。従って、加速カウンタ計数値NUMAは、加速走行がある程度の時間継続したときに加速カウンタ計数上限値C1を超えることになり、加速カウンタ計数値NUMAを、明らかな加速走行が発生したか否かを判断するための指標値として用いることができる。そして、明らかな加速走行が発生した場合には運転者は停車意思を有していないと考えられるので、そのような場合には減速カウンタ計数値NUMRが加速カウンタ計数値NUMAに基づいて初期値に戻され、運転者に停車意思がないことを減速カウンタ計数値NUMRに反映することが可能である。その結果として、減速カウンタ計数値NUMRに基づき前記停車意思があると判定することの正確性を十分に高くすることが可能である。
【0074】
(A5)また、本実施例によれば、停車意思推定手段94は、前回の加速終了時からの車速低下幅ΔVが前記車速低下幅判定値V2を超えた場合に、前記停車意思があると判定する。そして、車速Vの履歴において前回の加速終了時からの車速低下幅ΔVが大きい場合、例えば急な減速がなされた場合には、運転者は明らかに停車意思を有していると考えられるので、そのような場合に、上記前回の加速終了時からの車速低下幅ΔVを用いて運転者の停車意思を容易且つ迅速に推定することが可能である。
【0075】
(A6)また、本実施例によれば、減速カウンタ102は、加速カウンタ計数値NUMAが前記加速カウンタ計数上限値C1を超えない短時間の加速では、減速カウンタ計数値NUMRを初期値に戻さないので、運転者の加速意思を反映しないラフなアクセル操作等を外乱として捉え、その外乱により前記停車意思について誤判定することを適切に抑制することが可能である。
【0076】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0077】
実施例2は実施例1の電子制御装置80を電子制御装置200に置き換えたものである。本実施例の電子制御装置200も、実施例1の電子制御装置80と同様に、前記停車意思があると推定して判定した場合には、エンジン12への燃料供給を遮断することを車両10の減速走行中に許可するが、具体的な制御内容が実施例1とは異なる。以下、実施例1に対して相違する点について主に説明する。
【0078】
図8は、電子制御装置200に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図8に示すように、電子制御装置200は、車速検出部すなわち車速検出手段212と、停車意思推定部すなわち停車意思推定手段214と、減速度相当値算出部すなわち減速度相当値算出手段216とを備えており、実施例1と共通の燃料供給遮断前提条件判断手段92と燃料供給遮断許可手段96とエンジン始動停止制御手段98とを備えている。
【0079】
車速検出手段212は、実施例1の車速検出手段90と同様に、車速センサ32から車速信号を受けてその車速信号に基づいて、例えば前記車速検出周期で車速Vを逐次検出する。本実施例では、逐次検出される車速Vにおいて前回周期で検出された車速V(n-1)を用いて説明することがないので、検出された最新の車速Vはそのまま車速Vと表すこととする。
【0080】
停車意思推定手段214は、前記燃料供給遮断前提条件が成立したと燃料供給遮断前提条件判断手段92が判断した場合において、運転者の停車意思を車速Vの履歴に基づいて推定し、その停車意思があるか否かを判定する。
【0081】
具体的には、停車意思推定手段214は、上記停車意思を推定するために、前記燃料供給遮断前提条件が成立した時から、車速検出手段212が検出する車速Vを逐次取得し、前記燃料供給遮断前提条件の成立時からの経過時間t(以下、「減速判定モード経過時間t」という)と、時刻Tとを計測し始める。そして、車速Vをそれが検出された時刻Tと関連付けて記憶する。例えば、現在の時刻をTNOW、現在の車速VをSPDNOWと表し、N秒前の車速VをSPDNOW-Nと表せば、図9に示すように、停車意思推定手段214は、車速Vの履歴として、車速Vが、時刻TNOWでは車速SPDNOWであり、時刻TNOW-1では1秒前の車速SPDNOW-1であり、時刻TNOW-2では2秒前の車速SPDNOW-2であり、時刻TNOW-3では3秒前の車速SPDNOW-3であり、時刻TNOW-4では4秒前の車速SPDNOW-4であると逐次更新しつつ記憶し、その車速Vの履歴を監視する。一方、停車意思推定手段214は、前記燃料供給遮断前提条件が不成立であると燃料供給遮断前提条件判断手段92によって判断された場合には、減速判定モード経過時間t、時刻T、及び図9のようにして記憶された車速Vの履歴を初期化する、例えば全パラメータを零にする。
【0082】
また、停車意思推定手段214は、車速Vの履歴として、前記燃料供給遮断前提条件が成立した時の車速Vを前提条件成立時車速V3として記憶する。例えば、この前提条件成立時車速V3は、前記燃料供給遮断前提条件が既にアクセルオフ且つブレーキオンである車両状態で車速Vが次第に低下することによって成立した場合には、前提条件車速判定値V0と等しくなる。
【0083】
また、停車意思推定手段214は、前記停車意思を推定するために、前記燃料供給遮断前提条件の成立後に、現在の車速V(SPDNOW)が予め定められた停車直前車速判定値V1以下であるか否かを判断する。そして、その車速SPDNOWが停車直前車速判定値V1以下である場合には、車速Vの単位時間当たりの減少量である減速度RV、または後述する減速度相当値Aに基づいて上記停車意思を推定する。ここで、上記停車直前車速判定値V1は、前提条件車速判定値V0よりも小さい車速Vが設定されており、前記燃料供給遮断前提条件の成立後に更に停車に向けて車速Vが低下していることを確認するための車速判定値であって、例えば10km/h程度に設定されている。また、上記停車意思を推定するために用いられる減速度RVは、前記燃料供給遮断前提条件の成立後の減速度RVであれば特に制限はないが、本実施例では、外乱等を排除するため、前記燃料供給遮断前提条件の成立時からの減速度RVを平均した平均減速度RVa(以下、「前提条件成立後平均減速度RVa」という)が上記停車意思を推定するために用いられる。その前提条件成立後平均減速度RVaは下記式(2)により算出され、その式(2)において、前提条件成立後平均減速度RVaの単位は「m/sec2」であり、現在の車速SPDNOW及び前提条件成立時車速V3の単位は「km/h」であり、減速判定モード経過時間tの単位は「sec」である。
RVa=(V3−SPDNOW)/(3.6×t) ・・・(2)
【0084】
上記のように停車意思推定手段214は、車速SPDNOWが停車直前車速判定値V1以下であると判断する場合に、前提条件成立後平均減速度RVaまたは減速度相当値Aに基づいて前記停車意思を推定するが、詳細には、減速判定モード経過時間tに応じて前提条件成立後平均減速度RVaまたは減速度相当値Aを使い分ける。すなわち、停車意思推定手段214は、エンジン12への燃料供給遮断を許可するための予め定められた前提条件(燃料供給遮断前提条件)が成立した時から所定時間t1が経過した場合、要するに、減速判定モード経過時間tが上記所定時間t1を超えた場合には、減速度相当値Aを減速度相当値算出手段216に算出させる減速度相当値算出指示を行うが、その一方で、上記所定時間t1の経過前である場合、要するに、減速判定モード経過時間tが上記所定時間t1以下である場合には、前記式(2)により前提条件成立後平均減速度RVaを算出しその算出した前提条件成立後平均減速度RVaが予め定められた減速度判定値a1を超えた場合に、前記停車意思があるものと推定してその停車意思があると判定する。ここで、減速度相当値算出手段216による減速度相当値Aの算出方法については後述する。また、上記所定時間t1は、減速度相当値Aを算出するために用いられる車速Vの履歴の期間(車速履歴期間)以上に設定されており、例えば、4秒前から現時点までの車速Vの履歴が減速度相当値Aの算出のために必要であれば、上記所定時間t1は、4secまたは4sec以上に設定されている。本実施例では上記所定時間t1は4secに設定されている。また、減速度判定値a1は、前提条件成立後平均減速度RVaがその値a1を超えれば運転者が停車意思を有して減速していると判定できるように実験的に設定されており、例えば「a1=0.3×G=2.94m/s2(Gは重力加速度であり、9.8m/s2)」程度に設定されている。
【0085】
減速度相当値算出手段216は、図9に示すような車速Vの履歴を停車意思推定手段214から取得し、停車意思推定手段214からの前記減速度相当値算出指示に従って上記車速Vの履歴に基づき減速度相当値Aを算出する。減速度相当値算出手段216は、減速度相当値Aを算出するために用いられる車速Vの履歴の期間(車速履歴期間)に特に制限はないが、本実施例では、4秒前から現時点までの車速Vの履歴を用いて減速度相当値Aを算出する。例えば、減速度相当値算出手段216は、1秒前から現時点までの減速度RVを平均した平均減速度(1秒平均減速度)RV01を下記式(3)により算出し、2秒前から現時点までの減速度RVを平均した平均減速度(2秒平均減速度)RV02を下記式(4)により算出し、3秒前から現時点までの減速度RVを平均した平均減速度(3秒平均減速度)RV03を下記式(5)により算出し、4秒前から現時点までの減速度RVを平均した平均減速度(4秒平均減速度)RV04を下記式(6)により算出する。そして、下記式(7)により減速度RVに相当する減速度相当値Aを算出する。ここで、下記式(3)〜式(7)において、SPDNOW,SPDNOW-1,SPDNOW-2,SPDNOW-3,SPDNOW-4の単位は「km/h」であり、RV01〜RV04および減速度相当値Aの単位は「m/sec2」である。また、下記式(7)においてp,q,r,sは「p>q>r>s」で且つ「p+q+r+s=1」の関係にあればよいが、本実施例では、「p=0.4」であり、「q=0.3」であり、「r=0.2」であり、「s=0.1」である。
RV01=(SPDNOW-1−SPDNOW)/(3.6×1) ・・・(3)
RV02=(SPDNOW-2−SPDNOW)/(3.6×2) ・・・(4)
RV03=(SPDNOW-3−SPDNOW)/(3.6×3) ・・・(5)
RV04=(SPDNOW-4−SPDNOW)/(3.6×4) ・・・(6)
A=RV01×p+RV02×q+RV03×r+RV04×s ・・・(7)
【0086】
上記式(7)において「p>q>r>s」の関係にあることから、減速度相当値Aは、平均減速度RV01〜RV04が直近の平均値であるほど減速度相当値Aの絶対値をより大きくするように重み付けされて算出される。言い換えれば、減速度相当値Aは、減速度RVが最新に近いほど減速度相当値Aの絶対値が大きく算出されるように重み付けされている。
【0087】
減速度相当値算出手段216が前記減速度相当値算出指示に従って減速度相当値Aを算出すると、停車意思推定手段214は、その算出された減速度相当値Aを減速度相当値算出手段216から取得し、前記式(2)により算出する前提条件成立後平均減速度RVaではなくその減速度相当値Aが前記減速度判定値a1を超えたか否かを判断する。そして、停車意思推定手段214は、減速度相当値Aが前記減速度判定値a1を超えた場合には、前記停車意思があるものと推定してその停車意思があると判定する。
【0088】
また、停車意思推定手段214は、上述したように、前記式(2)により算出した前提条件成立後平均減速度RVaまたは前記式(7)により算出された減速度相当値Aが前記減速度判定値a1を超えた場合に、前記停車意思があると判定するが、現在の車速V(SPDNOW)が零になった場合すなわち車両10が停止した場合には、上記前提条件成立後平均減速度RVa及び減速度相当値Aに拘わらず、前記停車意思があると判定する。
【0089】
停車意思推定手段214によって前記停車意思があると判定された場合には、実施例1と同様に、燃料供給遮断許可手段96は前記燃料カットを許可し、エンジン始動停止制御手段98はその許可に基づいて燃料カットを行う。また、停車意思推定手段214によって前記停車意思があると判定されない場合には、燃料供給遮断許可手段96は前記燃料カットを許可せず、エンジン始動停止制御手段98は燃料カットを行わない。
【0090】
図10および図11は、電子制御装置200による本実施例の制御作動の要部、すなわち、前記アイドリングストップ制御を実行するための制御作動を説明するためのフローチャートである。図10および図11は併せて1つのフローチャートを構成し、実施例1の図3に相当する。図10および図11のフローチャートは、例えば、前記車速検出周期と同程度である数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0091】
先ず、図10のSB1においては、図3のSA1と同様に、前記燃料供給遮断前提条件が成立したか否かが判断される。このSB1の判断が肯定された場合、すなわち、上記燃料供給遮断前提条件が成立した場合にはSB2に移り、前記停車意思を有して減速されているか否かを判定する減速判定モードに入る。一方、このSB1の判断が否定された場合にはSB3に移り、上記減速判定モードが解除される。なお、SB1は燃料供給遮断前提条件判断手段92に対応する。
【0092】
停車意思推定手段214に対応するSB2においては、前記燃料供給遮断前提条件の成立時からの経過時間tと、現在の時刻TNOWと、現在の車速SPDNOWとの計測が開始され、既に計測が開始されているときはその計測が継続される。また、前記SB1の判断が否定から肯定に切り替わったときには上記燃料供給遮断前提条件が成立した時の車速Vが前提条件成立時車速V3として記憶される。SB2の次はSB4に移る。
【0093】
停車意思推定手段214に対応するSB3においては、減速判定モード経過時間t、現在の時刻TNOW、及び、図9のようにして記憶された車速Vの履歴(SPDNOWなど)が初期化される。すなわち、それらのパラメータがクリアされる。
【0094】
停車意思推定手段214に対応するSB4においては、図9の車速履歴マップに示すように、車速Vの履歴として車速V(SPDNOW,SPDNOW-1,SPDNOW-2,SPDNOW-3,SPDNOW-4など)がそれの検出された時刻Tと関連付けられて記憶され、その車速Vの履歴が監視される。SB4の次はSB5に移る。
【0095】
停車意思推定手段214に対応するSB5においては、現在の車速SPDNOWが前記停車直前車速判定値V1以下であるか否かが判断される。このSB5の判断が肯定された場合、すなわち、現在の車速SPDNOWが前記停車直前車速判定値V1以下である場合には、SB6に移る。一方、このSB5の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了し再びSB1から開始する。
【0096】
停車意思推定手段214に対応するSB6においては、現在の車速SPDNOWが零であるか否か、すなわち、車両10が停止したか否かが判断される。このSB6の判断が肯定された場合、すなわち、現在の車速SPDNOWが零である場合には、図11のSB11に移る。一方、このSB6の判断が否定された場合には、SB7に移る。
【0097】
停車意思推定手段214に対応するSB7においては、減速判定モード経過時間tが前記所定時間t1(=4sec)以下であるか否かが判断される。このSB7の判断が肯定された場合、すなわち、減速判定モード経過時間tが所定時間t1以下である場合には、SB8に移る。一方、このSB7の判断が否定された場合には、図11のSB9に移る。
【0098】
停車意思推定手段214に対応するSB8においては、前提条件成立後平均減速度RVaが前記式(2)により算出され、その前提条件成立後平均減速度RVaが前記減速度判定値a1を超えたか否かが判定される。このSB8の判定が肯定された場合、すなわち、前提条件成立後平均減速度RVaが減速度判定値a1を超えた場合には、前記停車意思があると判定されたことになり、図11のSB11に移る。一方、このSB8の判定が否定された場合には、本フローチャートは終了し再びSB1から開始する。
【0099】
図11に移り、減速度相当値算出手段216に対応するSB9においては、前記式(3)により1秒平均減速度RV01が算出され、前記式(4)により2秒平均減速度RV02が算出され、前記式(5)により3秒平均減速度RV03が算出され、前記式(6)により4秒平均減速度RV04が算出される。そして、減速度相当値Aが、それらの平均減速度RV01,RV02,RV03,RV04に基づいて前記式(7)により算出される。SB9の次はSB10に移る。
【0100】
停車意思推定手段214に対応するSB10においては、SB9で算出された減速度相当値Aが前記減速度判定値a1を超えたか否かが判定される。このSB10の判定が肯定された場合、すなわち、減速度相当値Aが減速度判定値a1を超えた場合には、前記停車意思があると判定されたことになり、SB11に移る。一方、このSB10の判定が否定された場合には、本フローチャートは終了し再びSB1から開始する。
【0101】
エンジン始動停止制御手段98及び燃料供給遮断許可手段96に対応するSB11においては、前記燃料カットが許可される。すなわち、前記減速判定フラグがオン状態に設定される。そして、その減速判定フラグがオン状態に設定されると前記燃料カットが行われる、すなわち、エンジン12が停止させられる。
【0102】
本実施例の電子制御装置200には、実施例1の効果(A1)および(A2)に加え、次のような効果(B1)および(B2)がある。(B1)本実施例によれば、減速度相当値Aは、減速度RVが最新に近いほど減速度相当値Aの絶対値が大きく算出されるように重み付けされており、減速度相当値算出手段216は、車速Vの履歴に基づきその減速度相当値Aを算出し、停車意思推定手段214は、その算出された減速度相当値Aが前記減速度判定値a1を超えた場合には、前記停車意思があるものと推定してその停車意思があると判定する。従って、上記減速度RVの重み付けにより、そのような重み付けがなされない場合と比較して、前記燃料カットを許可する時に運転者に停車意思があるか否かを正確に推定しその停車意思の有無を正確に判定することが可能である。
【0103】
(B2)また、本実施例によれば、減速度相当値Aは、前記燃料供給遮断前提条件が成立した時から前記所定時間t1が経過した場合に算出されるものであり、停車意思推定手段214は、その所定時間t1の経過前には、上記燃料供給遮断前提条件の成立時からの平均減速度RVa(前提条件成立後平均減速度RVa)が前記減速度判定値a1を超えた場合に前記停車意思があると判定する。従って、このようにすれば、緩やかな減速時には減速度相当値Aを用いて前記停車意思の有無を正確に判定すると共に、急な減速時には前提条件成立後平均減速度RVaを用いて上記停車意思の有無を正確に判定することが可能である。
【0104】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0105】
例えば、前述の実施例1において、加速カウンタ計数値NUMAと減速カウンタ計数値NUMRとは、前記車速検出周期毎に増減されるパラメータであるが、上記車速検出周期毎でなくても差し支えない。但し、両者を増減させる周期が互いに一致しているのが好ましい。
【0106】
また、前述の実施例1において、前記加速時変化割合と前記減速時変化割合とは互いに同一の変化割合であるが、両者が同一である必要はない。
【0107】
また、前述の実施例1において、図3に示すフローチャートのSA15で、減速カウンタ計数値NUMRが減速カウンタ計数上限値C2を超えたか否かと、車速低下幅ΔVが車速低下幅判定値V2を超えたか否かとの両方について判断されているが、それらの何れか一方だけしか判断されないSA15も考え得る。例えば、SA15において、車速低下幅ΔVが車速低下幅判定値V2を超えたか否かを判断しないようにしても差し支えない。
【0108】
また、前述の実施例1において、前記燃料供給遮断前提条件として前記(i)〜(iii)の3つの条件が例示されているが、その燃料供給遮断前提条件はそれら(i)〜(iii)の3つの条件に限定されるものではない。例えば、その燃料供給遮断前提条件から前記(iii)の条件が外れていることも考え得る。
【0109】
また、前述の実施例2において、現在の時刻TNOWは、前記燃料供給遮断前提条件の成立時から計測されるのでその燃料供給遮断前提条件の成立時において「現在の時刻TNOW=0」であるが、その成立時よりも前から計測が開始されていても差し支えない。
【0110】
また、前述の実施例2において、図9に示すように、1秒毎の車速Vが車速Vの履歴として記憶される例が説明されているが、車速Vが記憶される時間間隔は1秒よりも長くても短くても差し支えない。
【0111】
また、前述の実施例2において、減速度相当値Aは前記式(3)〜式(7)によって算出されるが、これはあくまで例示であり、減速度相当値Aは、減速度RVが最新に近いほど減速度相当値Aの絶対値が大きく算出されるように重み付けされていれば他の算出方法で算出されても構わない。
【0112】
また、前述の実施例2において、図10に示すフローチャートにはSB5が設けられているが、このSB5が無く、SB4の次にSB6に移るフローチャートも考え得る。
【0113】
また、前述の実施例2において、図10に示すフローチャートにはSB8が設けられているが、このSB8が無く、SB7の判断が肯定された場合には終了するフローチャートも考え得る。
【0114】
また、前述の実施例2において、図10に示すフローチャートのSB8で、前提条件成立後平均減速度RVaが減速度判定値a1を超えたか否かが判定されるが、その減速度判定値a1と比較される減速度RVは、予め定められた一定時間前からの減速度RVを平均した平均減速度であってもよい。
【0115】
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
【0116】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0117】
10:車両
12:エンジン
14:駆動輪(車輪)
64:車輪制動装置(制動装置)
68:アクセルペダル
80,200:電子制御装置(車両用エンジン制御装置)
100:加速カウンタ
102:減速カウンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行停止に関連してエンジンを一時的に自動停止する車両用エンジン制御装置であって、
走行中の前記車両を停車させる運転者の停車意思を車速の履歴に基づいて推定し、
前記停車意思があると判定した場合には、前記エンジンへの燃料供給を遮断することを前記車両の減速走行中に許可する
ことを特徴とする車両用エンジン制御装置。
【請求項2】
アクセルペダルが操作されておらず且つ車輪を制動装置に制動させるための制動操作が行われていることを条件に、前記停車意思があると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用エンジン制御装置。
【請求項3】
減速カウンタ計数値を、減速走行中には時間経過に従って所定の減速時変化割合で増加させる一方で、加速走行中には時間経過に従って前記減速時変化割合よりも大きな変化割合で減少させる減速カウンタを備えており、
前記減速カウンタ計数値が予め定められた減速カウンタ計数上限値を超えた場合に、前記停車意思があると判定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用エンジン制御装置。
【請求項4】
加速カウンタ計数値を、加速走行中または等速走行中に時間経過に従って増加させると共に減速走行時には初期値に戻す加速カウンタを備えており、
前記減速カウンタは、前記加速カウンタ計数値が予め定められた加速カウンタ計数上限値を超えた場合には前記減速カウンタ計数値を初期値に戻す
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用エンジン制御装置。
【請求項5】
前回の加速終了時からの車速の低下幅が予め定められた車速低下幅判定値を超えた場合に、前記停車意思があると判定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用エンジン制御装置。
【請求項6】
車速の単位時間当たりの減少量である減速度が最新に近いほど絶対値が大きく算出されるように重み付けされた該減速度に相当する減速度相当値を、前記車速の履歴に基づいて算出し、
該算出した減速度相当値が予め定められた減速度判定値を超えた場合には前記停車意思があると判定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用エンジン制御装置。
【請求項7】
前記減速度相当値は、前記エンジンへの燃料供給遮断を許可するための予め定められた前提条件が成立した時から所定時間が経過した場合に算出されるものであり、
該所定時間の経過前には、前記減速度が前記減速度判定値を超えた場合に前記停車意思があると判定する
ことを特徴とする請求項6に記載の車両用エンジン制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−220138(P2011−220138A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87569(P2010−87569)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】