説明

車両用サスペンション装置

【課題】実用的な車両用サスペンション装置を提供する。
【解決手段】 車体の一部に設けられた取付部16から上方に突出して取り付けられた車体側デバイス34を有する減衰力発生装置12を備えた車両用サスペンション装置10に、その突出する部分の突出量が減少するように、車体側デバイス34の少なくともその部分の変位を許容する突出部変位許容機構を備えさせる。突出部変位許容機構は、例えば、ソレノイド50のピン52により下方への移動が禁止されている車体側デバイス34を、ソレノイド50の励磁によりピン52を抜き出すことで移動の禁止を解除させ、それの下方への移動を許容する構造とする。つまり、減衰力発生装置12の上端部と取付部16の上方に設けられたフード90との間隔を拡大でき、その拡大された空間を利用して、フード90に対して上方から加わる衝撃を効果的に緩衝させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体を懸架する車両用サスペンション装置に関し、詳しくは、それを構成する懸架シリンダ等の減衰力発生装置の車体への取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両用サスペンション装置は、ショックアブソーバ等、減衰力を発生させるための減衰力発生装置としての懸架シリンダを備えている。その懸架シリンダは、一般的には、ハウジングとそれに挿通して配設されるロッドとを含んで構成されており、ハウジングとロッドとの一方を含んで構成された車輪側デバイスが車輪保持部材(サスペンションアーム等)に連結され、ハウジングとロッドとの他方を含んで構成された車体側デバイスが、車体の一部(タイヤハウジングの上部等)に取り付けられ、車輪と車体の一部との相対移動(接近・離間)に伴って伸縮可能な構造とされるとともに、その伸縮に対する抵抗を付与することによって減衰力を発生させるような構造とされている。上記車体側デバイスの車体の一部の取付構造は、例えば、下記特許文献1,2に記載されているように、車体の一部である取付部に車体側デバイスを挿通させる開口を設け、防振ゴム等を介して、車体側デバイスの上端部を取付部から上方に突出する状態で取り付けるような構造とされている。
【0003】
一方で、懸架シリンダを構成する車輪側デバイスと車体側デバイスとの一方に雄ねじ部を設け、車輪側デバイスと車体側デバイスとの他方に雄ねじ部と螺合してそれらデバイスの相対移動に伴って相対回転する雌ねじ部を設け、さらに、アクチュエータとしてのモータによってそれら雄ねじ部と雌ねじ部とに相対回転トルクを加えて両デバイスの相対移動に対する抵抗を付与し、その抵抗によって減衰力を発生させる型式の懸架シリンダも検討されている。このような懸架シリンダを備えたサスペンション装置は、いわゆる電磁式サスペンション装置と呼ばれる装置であり、例えば、特許文献3,4,5に記載されているような装置である。
【特許文献1】特開2002−120535号公報
【特許文献2】特開2003−327075号公報
【特許文献3】特開2003−343648号公報
【特許文献4】特開2001−180244号公報
【特許文献5】特開平8−197931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
懸架シリンダの車体の一部への取付部は、その取付部から上方に離間する位置に設けられたフード(ボンネット等)によって覆われている。しかし、歩行者等の何らかの物体が上方からフードに当接する場合に、取付部から突出する車体側デバイスの存在は、その当接に対する衝撃緩和を阻害する要因となる。つまり、効果的な衝撃緩和という観点からすれば、車体側デバイスの突出部の上端部とフードとの間隔、すなわち、懸架シリンダの上端部とフードとの間隔は、できるだけ大きくすることが望ましいのである。
【0005】
上記特許文献1,2に記載されたサスペンション装置では、突出する部分を傾斜させたり、また、フードの一部が防振ゴムに当接するようにして、衝撃緩和効果を高めるような工夫がなされているが、車体側デバイスが取付部に殆ど固定された状態であるため、その状態以上に、懸架シリンダの上端部とフードとの間の間隔を大きくすることができないという問題を抱える。また、上記特許文献3,4,5に記載されているようなサスペンション装置では、車体側デバイスがモータを備えているため、車体側デバイスの取付部からの突出量が大きく、懸架シリンダとフードとの間隔を大きくすることがさらに困難となる。つまり、車体側デバイスが取付部から上方に突出するように構成されたサスペンション装置は、効果的な衝撃緩和が可能となるような何らかの手段を設けることが切望されているのである。
【0006】
上記車体側デバイスの突出という問題は、従来のサスペンション装置が抱える1つの問題であるが、従来のサスペンション装置は、種々の問題を抱えており、その問題を克服すべく種々の改良を施すことにより、種々の面からの実用性を向上させることが可能である。本発明はそのような実情に鑑みてさされたものであり、実用的な車両用サスペンション装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンション装置は、減衰力発生装置を構成する車体側デバイスのそれが取り付けられた車体の一部から上方に突出した部分を、その部分の突出量が減少するように、車体側デバイスの少なくともその部分の変位を許容する突出部変位許容機構を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用サスペンション装置は、車体側デバイスの上記突出した部分である突出部の突出量の減少を許容するための機構として上記突出部変位許容機構を備えるものであり、その機構によって、例えば、減衰力発生装置の上端部と取付部の上方に設けられたフードとの間隔を拡大することが可能となる。したがって、本発明の車両用サスペンション装置によれば、上記間隔が拡大された空間を利用して、フードに対して上方から加わる衝撃を効果的に緩衝させることが可能となり、その点において実用的なサスペンション装置が実現する。
【発明の態様】
【0009】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0010】
なお、以下の各項において、(1)が請求項1に相当し、(4)項が請求項2に、(5)項が請求項3に、(6)項ないし(8)項を合わせたものが請求項4に、(9)項が請求項5に、(10)項が請求項6に、(11)項が請求項7に、(13)項が請求項8に、(14)項と(15)項とを合わせたものが請求項9に、(16)項が請求項10に、(17)項が請求項11に、(18)項が請求項12に、(24)項が請求項13に、それぞれ相当する。
【0011】
(1)車輪を保持する車輪保持部材に連結された車輪側デバイスと、車輪の上方に位置する車体の一部に設けられた取付部に上方の端部がその取付部から上方に突出して取り付けられた車体側デバイスとを備え、車輪と車体の一部との相対移動に伴なう前記車輪側デバイスと前記車体側デバイスとの相対移動に対する抵抗によって、車輪と車体の一部との相対移動に対する減衰力を発生させる減衰力発生装置と、
前記車体側デバイスの前記取付部から上方に突出した部分である突出部の前記取付部からの突出量が減少するように、前記車体側デバイスの少なくとも前記突出部の変位を許容する突出部変位許容機構と
を備えたことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【0012】
本項に記載の態様のサスペンション装置は、車体側デバイスの上記突出部の突出量の減少を許容するための機構として上記突出部変位許容機構を備えるものであり、その機構によって、例えば、減衰力発生装置と上記取付部の上方に設けられたボンネット等のフードとの間の空間、詳しく言えば、フードと車体側デバイスの上端部との間隔を拡大することが可能となる。したがって、本項の態様のサスペンション装置では、上記拡大される空間を利用して、フードに対して上方から加わる衝撃を効果的に緩和させることが可能となる。つまり、フードに対する衝撃によるフードの変形量を大きくすることができるため、衝撃を吸収するためのストロークを長くすることができ、効果的な衝撃吸収が可能となるのである。例えば、本項の態様のサスペンション装置は、車両と歩行者等とが接触し、歩行者等が上方からフードに当接するような場合において、歩行者等の受ける衝撃を効果的に緩和可能であり、そのような場合に有効的なサスペンション装置となる。以上のことから、本項の態様によれば、実用性の高い車両用サスペンション装置が実現する。なお、先に説明した特許文献に記載の従来のサスペンション装置では、車体側デバイスの実質的な変位が許容されておらず、上記空間は拡大されない。したがって、本項の態様のサスペンション装置は、従来のサスペンション装置と比較した場合においても、衝撃緩和という観点において優れたサスペンション装置となる。
【0013】
本項に記載のサスペンション装置における「減衰力発生装置」には、例えば、いわゆるショックアブソーバといったものが含まれる。具体的には、例えば、先に説明したように、ハウジングとそれに挿通して配設されるロッドとを含んで構成されており、車輪と車体の一部との相対移動(接近・離間)に伴ってそれらが伸縮可能な構造とされた懸架シリンダのようなものが含まれる。減衰力発生装置が懸架シリンダである場合、上記「車輪側デバイス」は、それらハウジングとロッドとの一方を含んで構成され、「車体側デバイス」は、それらハウジングとロッドとの他方を含んで構成される。懸架シリンダを採用する場合、例えば、ロッドがピストンを有してハウジングが2つの液室に区画され、ピストンにオリフィスが設けられて伸縮に伴って2つの液室間の作動液の流入,流出に対する抵抗を発生させるような構造のものを採用することが可能である。また、後に詳しく説明するような電磁式サスペンション装置を構成するような懸架シリンダを採用することも可能である。なお、車輪側デバイス,車体側デバイスは、ハウジング,ロッドのみから構成されるものであってもよく、上記オリフィスの断面積を変更して発生する減衰力の大きさを変更するためのアクチュエータを備えるような懸架シリンダである場合には、車輪側デバイス,車体側デバイスは、そのアクチュエータを含んで構成されるものであってもよい。また、後に説明する電磁式サスペンション装置である場合には、減衰力を発生させるためのモータを備えており、車輪側デバイス,車体側デバイスは、そのモータを含んで構成されるものであってもよい。
【0014】
「突出部変位許容機構」は、具体的な構成が特に限定されるものではなく、上記突出部の突出量が減少するような車体側デバイスの少なくとも突出部の変位が実現するようなものである限り、種々の構成のものを採用することができる。その構成として、例えば、後に説明するように、車体側デバイスの全体の移動,変形等が許容されることにより突出部の突出量が減少するような態様を採用することができ、また、突出部のみの移動,変形等が許容されることにより突出部の突出量が減少するような態様を採用することもできる。なお、突出部変位許容機構が採用可能な具体的な構成態様については、以下の項において詳しく説明する。
【0015】
本項に記載の態様では、突出部変位許容機構によって変位が許容された車体側デバイスの少なくとも突出部は、どのように変位させられてもよい。例えば、重力によって変位させられてもよく、また、フードに加わる衝撃の作用によって変位させられてもよい。さらには、後に詳しく説明するように、別途備えるアクチュエータの駆動力によって強制的に変位させられてもよい。なお、本項にいう「車体側デバイスの少なくとも突出部の変位」は、例えば、防振ゴム等の弾性部材によって支持された状態における若干の変位を意味するものではなく、本項の態様によって奏されるべき作用・効果から明らかなように、車体側デバイスの突出部とフードとの間隔が実質的に拡大する程度の変位を意味する。具体的には、例えば、突出部の突出量が1cm以上減少するような変位が許容されることが望ましく、突出部の突出量の減少が、2cm以上、3cm以上、4cm以上、5cm以上といった具合に、可及的に大きくなるような変位が許容されることがさらに望ましい。
【0016】
(2)当該サスペンション装置が、(a)一方が前記車輪側デバイスに上下方向に移動不能に設けられ他方が前記車体側デバイスに上下方向に移動不能に設けられて互いに螺合し、前記車輪側デバイスと車体側デバイスとの相対移動に伴って相対回転する雄ねじ部および雌ねじ部と、(b)それら雄ねじ部と雌ねじ部とに相対回転トルクを加えて前記車輪側デバイスと車体側デバイスとの相対移動に対する抵抗を付与するモータとを備えた(1)項に記載の車両用サスペンション装置
【0017】
本項に記載の態様には、いわゆる電磁式サスペンション装置等に関する態様が含まれ、例えば、車輪側デバイスと車体側デバイスとがボールねじ機構によって連結されたような懸架シリンダを有するサスペンション装置が、本項の態様に該当する。上記のようなサスペンション装置は、減衰力発生のためのアクチュエータとしてのモータを備える分、減衰力発生装置の長さが長くなり、先に説明した特許文献に記載されたサスペンション装置のように、車体側デバイスを車体の一部に設けられた取付部より上方に突出して取り付けられることが多い。したがって、車体側デバイスの突出部の突出量を減少させることの可能な上記突出部変位許容機構は、衝撃緩和機能を担保させるための手段として、電磁式サスペンション装置に対して特に有効であり、本項に記載の態様によれば、衝撃緩和機能に優れた電磁式サスペンション装置が実現することになる。
【0018】
(3)当該サスペンション装置が、並列に配置された弾性部材と液圧式ダンパとを備え、それらによって前記車体側デバイスが前記取付部に弾性支持される構成とされた(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0019】
車体側デバイスが本項の態様のように弾性支持されれば、車輪側デバイス,車体側デバイスを通じて車体に伝達される振動を効果的に抑制することが可能となる。したがって、本項の態様のサスペンション装置を採用すれば、車両の乗り心地を改善することが可能となる。この弾性支持させる構造を利用して上記突出部変位許容機構を構成する態様に関しては、後に詳しく説明する。なお、本項に記載の技術的特徴は、上記突出部変位許容機構を備えないサスペンション装置においても適用可能であり、そのようなサスペンション装置に本項の特徴を採用する態様も、実用的なサスペンション装置に関する態様として、請求可能発明となり得る。
【0020】
(4)前記突出部変位許容機構が、前記車体側デバイスの前記取付部に対する下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構である(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0021】
本項に記載の態様は、突出部変位許容機構を構成を具体的なものに限定した一態様である。平たく言えば、本態様は、車体側デバイス全体を、取付部に対して移動可能とする機構を備えた態様である。本項の態様のように、車体側デバイスを下方に移動可能とすることによって、容易に、減衰力発生装置と前述のフードとの間隔を拡大することが可能である。
【0022】
(5)当該サスペンション装置が、前記車体側デバイスを前記取付部に固定支持する支持部材を備え、前記車体側デバイス下方移動許容機構が、前記支持部材の支持力を低下させる支持力低下手段を備えた(4)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0023】
本項に記載の態様は、車体側デバイス下方移動許容機構の構成を具体的なものに限定した一態様である。車体側デバイスが上記支持部材によって支持されている場合、本項の態様のように、その部材の支持力を低下させれば、容易に、車体側デバイスを下方に移動させることが可能となる。一般的には、車体側デバイスはアッパサポートと呼ばれる防振ゴムを備えた支持部材によって支持されている場合が多く、本項の態様は、そのような支持部材を採用するサスペンション装置に広く適用可能である。
【0024】
(6)前記支持部材がゴム製の部材とされ、前記支持力低下手段が、その支持部材を加熱する手段とされた(5)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0025】
本項に記載の態様は、上記支持力低下手段の構成を具体的なものに限定した一態様である。本項に記載の態様は、上記防振ゴムを有した支持部材を採用するサスペンション装置に好適な態様である。具体的には、後に詳しく説明するように、例えば、ニクロム線等の発熱抵抗線が埋め込まれたようなゴム製の支持部材を採用し、その発熱抵抗線に通電することにより、支持部材を軟化、あるいは、焼切るようにすれば、その支持部材の支持力を容易に低下させることが可能である。
【0026】
(7)前記支持部材がゴム製の部材とされ、前記支持力低下手段が、その支持部材を切断する手段とされた(5)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0027】
本項に記載の態様は、上記支持力低下手段の構成を具体的なものに限定した一態様である。本項に記載の態様は、上記防振ゴムを採用した支持部材を採用するサスペンション装置に好適な態様である。具体的には、後に詳しく説明するように、カッタ等の刃状部材をフードに付設し、フードの変形に伴ってその刃状部材がゴム製の支持部材を切るあるいは突き刺すように構成すれば、容易に支持部材の支持力を低下させることが可能である。なお。本項においては、ゴム製の支持部材を完全に切断して支持力を0にまで低下させるような態様であってよく、また、その支持部材の一部のみを切断し、支持力を0でない何某かまで低下させるような態様であってもよい。
【0028】
(8)前記支持部材が液体を封入したゴム製の部材とされ、前記支持力低下手段がその支持部材から前記液体を排出させる手段とされた(5)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0029】
本項に記載の態様は、上記支持力低下手段の構成を具体的なものに限定した一態様である。上記防振ゴムには、防振特性の改善,調節等の目的で液体が封入されたタイプのものも存在する。本項に記載の態様は、そのような液封タイプの防振ゴムを有した支持部材を採用するサスペンション装置に好適な態様である。具体的には、後に詳しく説明するように、フードに先端が尖った穿孔部材を付設し、フードの変形に伴ってその穿孔部材の先端が支持部材に突き刺さるように構成すれば、容易に封入されている液体を排出させることができ、それによって、支持部材の支持力を容易に低下させることが可能である。
【0030】
(9)当該サスペンション装置が、前記車体側デバイスの前記取付部に対する下方への移動が可能な構成とされ、かつ、その移動を禁止する移動禁止手段を備え、前記車体側デバイス下方移動許容機構が、前記移動禁止手段による前記車体側デバイスの移動の禁止を解除する禁止解除手段を備えた(4)項ないし(8)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0031】
本項に記載の態様は、車体側デバイス下方移動許容機構の構成を具体的なものに限定した一態様である。平たく言えば、例えば、車体側デバイスがストッパ等何らかの係止部材によって係止されており、その係止部材による係止を解除することで、車体側デバイスの下方への移動が許容される態様である。簡便な構成によって、車体側デバイスを下方に移動させることが可能となる。上記係止の解除は、例えば、何らかのアクチュエータによってなされるものであってもよく、また、フードへの衝撃、フードの変形等に起因してなされるものであってもよい。
【0032】
(10)当該サスペンション装置が、並列に配置された弾性部材と液圧式ダンパとを備え、それらによって前記車体側デバイスが前記取付部に弾性支持される構成とされており、前記車体側デバイス下方移動許容機構が、前記液圧式ダンパの発生させる減衰力を低減させる減衰力低減手段を備え、それによって前記減衰力を低減させることで前記車体側デバイスの前記取付部に対する下方への移動を許容する構成とされた(4)項ないし(9)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0033】
本項に記載の態様は、先に説明した車体側デバイスが弾性支持される構造を利用して上記突出部変位許容機構を構成する一態様である。「液圧式ダンパ」は、例えば、ハウジングとそのハウジング内に配設されてハウジングを2つの液圧室に区画するピストンとを備え、ピストンのハウジング内の移動に伴ってそれら2つの液圧室間の作動液の流出・流入を許容するような構造とされるとともに、その作動液の流入・流出を制限可能に構成されたものを採用することが可能である。そのような構成の液圧式ダンパにおいては、作動液の比較的自由な流入・流出を許容することによって、そのダンパの減衰力を低下させることが可能である。後に具体的に説明するが、例えば、作動液の流入・流出を制限する状態において車体側デバイスが充分な支持力を有して支持された状態とされ、比較的自由な流出・流入が許容される状態において、支持力が低下させられて車体側デバイスの移動が許容される状態となるような態様が、本項に記載の態様に含まれる。
【0034】
(11)当該サスペンション装置が、前記車体側デバイス下方移動許容機構によって下方への移動が許容された前記車体側デバイスを強制的に下方へ移動させる車体側デバイス強制移動機構を備えた(4)項ないし(10)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0035】
本項に記載の態様のように、下方への移動が許容された車体側デバイスを強制的に移動させれば、減衰力発生装置とフードとの間隔をより確実に拡大させることが可能である。本項の態様において、車体側デバイス強制移動機構は、その具体的構成が特に限定されるものではなく、制御可能な何らかの力を加えることによって車体側デバイスを下方に移動させ得る構成のものを広く採用することが可能である。
【0036】
(12)前記車体側デバイス強制移動機構が、アクチュエータを備えてそのアクチュエータの駆動力により前記車体側デバイスを強制的に下方へ移動させる機構とされた(11)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0037】
本項に記載の態様における「アクチュエータ」は、例えば、電動モータ,液圧シリンダ装置等、種々のものを採用することができる。例えば、制御作動可能なアクチュエータを採用すれば、任意のタイミングで、車体側デバイスを強制的に下方へ移動させることが可能となり、衝撃緩和機能の高性能化を図ることが可能となる。
【0038】
(13)当該サスペンション装置が、(a)一方が前記車輪側デバイスに上下方向に移動不能に設けられ他方が前記車体側デバイスに上下方向に移動不能に設けられて互いに螺合し、前記車輪側デバイスと車体側デバイスとの相対移動に伴って相対回転する雄ねじ部および雌ねじ部と、(b)前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とに相対回転トルクを加えて前記車輪側デバイスと車体側デバイスとの相対移動に対する抵抗を付与するモータとを備え、
そのモータが、前記車体側デバイス強制移動機構が備える前記アクチュエータとして機能するものとされた(12)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0039】
本項に記載の態様は、先に説明した電磁式サスペンション装置等において有効な態様である。例えば、電磁式サスペンション装置では、懸架シリンダを制御作動させるためのアクチュエータとしてモータを備えており、本項に記載の態様のように、そのモータを車体側デバイス強制移動機構のアクチュエータとして利用すれば、別途アクチュエータを必要としないため、合理的なサスペンション装置を実現することが可能となる。
【0040】
(14)前記車体側デバイス強制移動機構が、車両の衝突が検知された場合に前記車体側デバイスを強制的に下方へ移動させるものとされた(11)項ないし(13)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0041】
本項に記載の態様によれば、例えば、車両が歩行者等に接触した時点で車体側デバイスを強制的に下方へ移動させるようにすることができる。そのようにすれば、その接触に起因して歩行者等が上方からフードに当接するような場合において、歩行者等の受ける衝撃の緩和効果を確実なものとすることが可能である。車両の衝突は、例えば、バンパ等への接触を検知するようなセンサ等によって検知することが可能である。なお、車両の衝突が検知された場合に作動させるという技術的特徴は、上記突出部変位許容機構に対しても適用できる。つまり、本項の態様と関連して、あるいは、本項の記載と関係なく、突出部変位許容機構を、車両の衝突が検知された場合に車体側デバイスの少なくとも突出部の変位を許容するような構成とすることも可能である。
【0042】
(15)前記車体側デバイス強制移動機構が、車両の衝突が予測された場合に前記車体側デバイスを強制的に下方へ移動させるものとされた(11)項ないし(14)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0043】
本項に記載の態様によれば、例えば、車両が歩行者等に接触する可能性の高い段階で車体側デバイスを強制的に下方へ移動させるようにすることができる。そのようにすれば、その接触に起因して歩行者等が上方からフードに当接するような場合において、歩行者等の受ける衝撃の緩和効果を確実なものとすることが可能である。車両の衝突の予測は、例えば、カメラ等によって認識された画像に基づいて行われるようなものであってもよく、また、レーダ,距離センサ等から得られる接触対象との距離の変化等に基づいて行われるようなものであってもよい。なお、車両の衝突が予測された場合に作動させるという技術的特徴は、上記突出部変位許容機構に対しても適用できる。つまり、本項の態様と関連して、あるいは、本項の記載と関係なく、突出部変位許容機構を、車両の衝突が予測された場合に車体側デバイスの少なくとも突出部の変位を許容するような構成とすることも可能である。
【0044】
(16)前記車体側デバイス強制移動機構が、強制的に下方へ移動させられた前記車体側デバイスを上方へ復帰させる機能を有する(11)項ないし(15)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0045】
車体側デバイスを下方へ強制移動させた場合、減衰力発生装置は、通常状態とは異なる状態とされることが多い。そのため、本項に記載の態様によれば、容易に、減衰力発生装置、すなわち、サスペンション装置を通常状態に復帰させることが可能となる。例えば、車両が歩行者等に接触した場合、あるいは、接触する可能性が高い場合に、車体側デバイスを強制移動させても、実際には、歩行者等がフードに当接しないとき、あるいは、歩行者等に接触しないときもある。そのような場合、本項に記載の態様によれば、速やかに減衰力発生装置を通常状態に復帰させることができるため、サスペンション装置の利便性が向上することになる。例えば、車体側デバイス強制移動機構がアクチュエータを備える態様の場合、そのアクチュエータによって、車体側デバイスを上方へ移動させるように構成することで、上記復帰機能を実現することが可能である。
【0046】
本項の態様において、上記突出部変位許容機構を、車体側デバイスが復帰させられた後に、車体側デバイスの少なくとも突出部の変位の許容を解除するような機能を有するように構成することも可能である。なお、そのような機能を有する突出部変位許容機構は、車体側デバイス強制移動機構を具備するか否かに拘わらず採用することも可能である。
【0047】
(17)前記突出部変位許容機構が、前記車体側デバイスの前記突出部が傾倒することを許容する突出部傾倒許容機構である(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0048】
本項に記載の態様は、突出部変位許容機構の構成を具体的なものに限定した一態様である。例えば、車体側デバイスの突出部のみを変位可能とする態様が、本項に記載の態様に含まれる。本項の態様のように、突出部の傾倒を可能とすれば、容易に、減衰力発生装置の上端部と前述のフードとの間隔を拡大することが可能となる。
【0049】
(18)当該サスペンション装置が、(a)一方が前記車輪側デバイスに上下方向に移動不能に設けられ他方が前記車体側デバイスに上下方向に移動不能に設けられて互いに螺合し、前記車輪側デバイスと車体側デバイスとの相対移動に伴って相対回転する雄ねじ部および雌ねじ部と、(b)前記車体側デバイスの構成要素としてそれの上方の端部に設けられ、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とに相対回転トルクを加えて前記車輪側デバイスと車体側デバイスとの相対移動に対する抵抗を付与するモータとを備え、
前記突出部傾倒許容機構が、前記モータの傾倒を許容する機構とされた(17)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0050】
本項に記載の態様は、先に説明した電磁式サスペンション装置等において有効な態様である。先に説明したように、例えば、電磁式サスペンション装置では、懸架シリンダを制御作動させるためのアクチュエータとしてモータを、車体側デバイスがそれの構成要素として、突出部に備える場合が多い。その場合、本項に記載の態様のように、モータの傾倒を許容すれば、容易に、モータと前述のフードとの間隔、つまり、減衰力発生装置の上端部とフードとの間隔を拡大することが可能となる。
【0051】
(19)当該サスペンション装置が、前記突出部変位許容機構によって変位が許容された前記車体側デバイスの少なくとも突出部を強制的に変位させる突出部強制変位機構を備えた(1)項ないし(18)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0052】
本項に記載の態様のように、変位が許容された車体側デバイスの少なくとも突出部を強制的に移動させれば、減衰力発生装置の上端部とフードとの間の空間をより確実に拡大させることが可能である。本項の態様において、「突出部強制変位機構」は、その具体的構成が特に限定されるものではなく、制御可能な何らかの力を加えることによって車体側デバイスの少なくとも突出部をその突出部の取付部からの突出量が減少するように変位させるものであれば広く採用することが可能である。なお、突出部変位許容機構が車体側デバイス下方移動許容機構である場合における車体側デバイス強制移動機構は、本項に記載の突出部強制変位機構の下位概念に属するものである。また、例えば、突出部変位許容機構が上述の突出部傾倒許容機構である場合において、当該突出部強制変位機構は、突出部を強制的に傾倒させる突出部強制傾倒機構とすることができる。
【0053】
(20)前記突出部強制変位機構が、アクチュエータを備えてそのアクチュエータの駆動力により前記車体側デバイスの少なくとも前記突出部を強制的に変位させる機構とされた(19)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0054】
本項に記載の態様における「アクチュエータ」は、先に説明した車体側デバイス強制機構の場合と同様、例えば、電動モータ,液圧シリンダ装置等、種々のものを採用することができる。例えば、制御作動可能なアクチュエータを採用すれば、任意のタイミングで、車体側デバイスの少なくとも突出部を強制的に変位させることが可能となり、衝撃緩和機能の高性能化を図ることが可能となる。
【0055】
(21)前記突出部強制変位機構が、車両の衝突が検知された時点において前記車体側デバイスの少なくとも突出部を強制的に変位させるものとされた(19)項または(20)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0056】
車体側デバイス強制移動機構における場合と同様、本項に記載の態様によれば、例えば、車両が歩行者等に接触した時点で車体側デバイスの少なくとも突出部を強制的に変位させるようにすることができる。そのようにすれば、その接触に起因して歩行者等が上方からフードに当接するような場合において、歩行者等が受ける衝撃の緩和効果を確実なものとすることが可能である。車体側デバイス強制移動機構における場合と同様、車両の衝突は、例えば、バンパ等への接触を検知するようなセンサ等によって検知することが可能である。
【0057】
(22)前記突出部強制変位機構が、車両の衝突が予測された時点において前記車体側デバイスの少なくとも突出部を強制的に変位させるものとされた(19)項または(20)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0058】
車体側デバイス強制移動機構における場合と同様、本項に記載の態様によれば、例えば、車両が歩行者等に接触する可能性の高い段階で車体側デバイスの少なくとも突出部を強制的に変位させるようにすることができる。そのようにすれば、その接触に起因して歩行者等が上方からフードに当接するような場合において、歩行者等の受ける衝撃の緩和効果を確実なものとすることが可能である。車体側デバイス強制移動機構における場合と同様、車両の衝突の予測は、例えば、カメラ等によって認識された画像に基づいて行われるようなものであってもよく、また、レーダ,距離センサ等から得られる接触対象との距離の変化等に基づいて行われるようなものであってもよい。
【0059】
(23)前記突出部強制変位機構が、強制的に変位させられた前記車体側デバイスの少なくとも突出部を復帰させる機能を有する(19)項ないし(22)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0060】
車体側デバイスの少なくとも突出部を変位させた場合、減衰力発生装置は、通常状態とは異なる状態とされることが多い。そのため、本項に記載の態様によれば、容易に、減衰力発生装置、すなわち、サスペンション装置を通常状態に復帰させることが可能となる。本項に記載の復帰機能は、先に説明した車体側デバイス強制移動機構が有する復帰機能の上位概念となる機能である。本項に記載の態様によれば、車体側デバイス強制移動機構における復帰機能について説明したのと同様の理由から、サスペンション装置の利便性が向上することになる。例えば、突出部強制変位機構がアクチュエータを備える態様の場合、そのアクチュエータによって、車体側デバイスの少なくとも突出部を復帰変位させるように構成することで、上記復帰機能を実現することが可能である。なお、本項の態様においても、突出部変位許容機構を、車体側デバイスの少なくとも突出部が復帰させられた後に、その車体側デバイスの少なくとも突出部の変位の許容を解除するような機能を有するように構成することが可能である。
【0061】
(24)当該サスペンション装置が、前記取付部の上方において前記車体側デバイスの上端部から離間した位置に配設されたフードを備える車両に搭載されるものであり、そのフードと前記取付部が設けられた車体の一部との間に配設されてフードに加わる衝撃を吸収するための衝撃吸収部材を備えた(1)項ないし(23)項のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【0062】
本項に記載の態様は、平たく言えば、取付部が設けられた車体の一部とフードとの間に衝撃吸収部材(「緩衝部材」ということもできる)を設けた態様において、上記突出部変位許容機構を備える態様である。本項の態様によれば、突出部変位許容機構によって車体側デバイスの上端部とフードとの間の間隔を拡大できることから、衝撃吸収部材による衝撃吸収のためのストロークを長くすることが可能であり、フードに加わる衝撃をより効果的に吸収させることができる。つまり、その衝撃が歩行者等がフードへの当接に起因するものである場合には、歩行者等が受ける衝撃をより効果的に緩和することが可能となる。
【0063】
本項の態様において、「衝撃吸収部材」は、その具体的な構成が特に限定されるものではない。例えば、ゴム,ばね等の弾性部材を始めとして、ウレタン,スチレン等の樹脂発泡材等の一般的な緩衝材料を広く採用することが可能である。また、フードあるいは車体の一部との少なくとも一方に、フードの変形に伴って塑性変形可能なリブを設けたり、塑性変形可能な構造物等を付設したりすることによって、それらリブ,構造物等の塑性変形に要する荷重を利用して、衝撃を吸収することも可能である。その場合、それらリブ,構造物が、衝撃吸収部材となる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明のいくつかの実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0065】
<第1実施例>
図1に、本発明の一実施例である車両用サスペンション装置10を示す。この車両用サスペンション装置10は、減衰力発生装置としての懸架シリンダ12とサスペンションスプリングとしてのコイルスプリング14とを含んで構成されるものである。懸架シリンダ12は、車体の一部に設けられた懸架シリンダ12の取付部として機能するマウント部16と、車輪を保持する車輪保持部材としてのサスペンションロアアーム18とに連結され、スプリング14の伸縮によって生じた車体の振動を減衰させるものである。
【0066】
懸架シリンダ12は、サスペンションロアアーム18に連結された筒状のハウジングとしてのシリンダ20と、そのシリンダ20内に配設されてそのシリンダ20の上端部から上方に突出するロッド22とを含んで構成されている。ロッド22は、雄ねじが螺設されたものであり、シリンダ20の内壁面上端部に上下方向に移動不能に設けられてベアリングボールを保持するナット24に螺合している。また、懸架シリンダ12は、モータ26(電動モータである)を含んで構成され、電磁式アクチュエータとして機能するものとされている。モータ26は、モータケース28に固定して収容され、回転軸であるモータ軸30がロッド22の上端部と一体的に接続されている。この懸架シリンダ12は、シリンダ20を含んで車輪側デバイス32が構成され、モータ26,モータケース28,ロッド22を含んで車体側デバイス34が構成された構造のものとなっており、車輪側デバイス32がサスペンションロアアーム18に連結され、車体側デバイス34がマウント部16に取り付けられる構造のものとなっている。また、ロッド22およびナット24は、ボールねじ機構を構成するとともに、それぞれが、車体側デバイス34,車輪側デバイス32に設けられた雄ねじ部,雌ねじ部として機能するものとなっている。
【0067】
車体側デバイス34は、アッパサポート40に支持されて、マウント部16に取り付けられている。具体的に言えば、アッパサポート40は、マウント部16の下部に固着される環状の防振ゴム42と、防振ゴム42の内周部に固着された円筒状のホルダ44とを含んで構成されており、車体側デバイス34は、モータケース28がホルダ44に緩く嵌められた状態で保持されることで、マウント部16に取り付けられている。モータケース28とホルダ44とには、それぞれ上下方向に延びるガイド46とガイド溝48とが設けられており、車体側デバイス34は、マウント部16に対して、回転不能かつ上下方向に移動可能とされている。モータケース28は、下端部の径が中間部の径より大きくされており、その下端部は、車体側デバイス34の上方への移動に対するストッパとして機能し、車体側デバイス34は、モータケース28の下端部がホルダ44の下端面に当接することによって、上方への移動が禁止されている。また、アッパサポート40には、ホルダ44の外周面の下部において、ソレノイド50が固定して設けられている。ソレノイド50は、ピン52を有するものであり、励磁されることによってピン52が引き込まれる構造とされている。一方、ホルダ44とモータケース28とには、それぞれピン孔54,56が、モータケース28が最も上方に位置する場合に同軸的となるように設けられており、上記のピン52が、それらピン孔54を挿通してピン孔56に挿入された状態とされている。このような状態において、車体側デバイス34は、最上方に位置させられるとともに、下方への移動が禁止されている。車体側デバイス34が最上方に位置させられた状態が通常状態であり、その通常状態において、モータ26およびモータケース28の上部は、マウント部16に設けられた開口58を貫通して、マウント部16から上方に突出した状態となっており、その突出する部分が、車体側デバイス34の突出部となっている。
【0068】
モータケース28とシリンダ20との間には、ロッド22を覆う蛇腹状のブーツ70が、両端部の各々がモータケース28とシリンダ20の各々に接続される状態で設けられており、そのブーツ70によって、外部からの土砂,水等のロッド22への付着,シリンダ20内への侵入を阻止するようにされている。また、コイルスプリング14は、アッパサポート40の一部をなしてホルダ44に付設された環状の上部リテーナ72と、シリンダ20の外周部に固定して設けられた下部リテーナ74とによって、それらに挟まれる状態で支持されている。
【0069】
上記のような構造により、車体の一部と車輪とが相対移動する場合には、ロッド22のシリンダ20に対する回転を伴いつつ(モータ軸30も回転する)、シリンダ20とロッド22とは、軸方向への相対移動が可能とされている。つまり、車体の一部と車輪との接近・離間に伴って、車輪側デバイス32と車体側デバイス34との相対移動が可能とされており、懸架シリンダ12が伸縮可能とされているのである。モータ26を駆動させてロッド22に回転トルクを付与することによって、ロッド22に形成された雄ねじとナット24とに相対回転トルクを付与することが可能であり、この相対回転トルクの向きおよび大きさを適切化することによって、車輪側デバイス32と車体側デバイス34との相対移動に対して、その相対移動を阻止する方向の適切な抵抗力を発生させることが可能である。この抵抗が、車体の一部と車輪との相対移動に対する減衰力となるのである。このような懸架シリンダ12の減衰力発生機能は受動的な機能と考えることができるが、本懸架シリンダ12は、能動的に機能させることも可能である。つまり、モータ26を回転させることによって、積極的に車輪側デバイス32と車体側デバイス34とを相対移動させて、車体の姿勢を安定化させるような機能,車高を調節するような機能を発揮させることも可能なのである。それらについての詳しい説明は省略する。ちなみに、このような懸架シリンダ12が配備された本実施例のサスペンション装置10は、電磁式サスペンション装置と呼ぶことができる。
【0070】
本実施例の車両用サスペンション装置10は、上述したように、通常状態においては、車体側デバイス34の上端部が突出部とされてマウント部16から上方に突出する構造とされている。この状態から、ソレノイド50を励磁すれば、ピン52が、引き込まれてモータケース28から抜き出されることになる。先に説明したように、モータケース28はホルダ44に緩やかに嵌められていることで、車体側デバイス34は、下方への移動が可能とされており、ピン52が抜き出されることによって、車体側デバイス34は、下方への移動が許容される状態となる。つまり、本実施例の車両用サスペンション装置10では、ピン52が、車体側デバイス34の下方への移動を禁止する移動禁止手段とされ、ソレノイド50が、その移動の禁止を解除する禁止解除手段とされている。そして、そのソレノイド50を含んで、車体側デバイス34のマウント部16に対する下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構(以下、「下方移動許容機構」と略する場合がある)が構成されており、この下方移動許容機構は、突出部である上端部のマウント部16からの突出量を減少するような車体側デバイス34の移動を許容する突出部変位許容機構の一種とされているのである。
【0071】
また、本車両用サスペンション装置10では、ピン52がモータケース28のピン孔56から抜き出された状態において、モータ26をロッド22がシリンダ20に対して下方へ移動する方向に回転させれば、車体側デバイス34が下方に移動することになる(図2参照)。つまり、本実施例の車両用サスペンション装置10は、下方への移動が許容された車体側デバイス34を強制的に移動させる車体側デバイス強制移動機構(以下、「強制移動機構」と略する場合があり、「突出部強制変位機構」の一種である)を備えるものとされているのである。なお、モータ26は、強制移動機構を駆動するアクチュエータとして機能するものとなっている。
【0072】
また、アッパサポート40には、係止爪80が、ばね82によってモータケース28を付勢する状態で設けられている。車体側デバイス34が所定量下方へ移動させられれば、その係止爪80は、モータケース28に設けられた係合溝84に係合し、車体側デバイス34を係止する。この車体側デバイス34が係止された位置が、車体側デバイス34の下方への移動端である退避位置とされる。この退避位置に位置する状態においては、車体側デバイス34は、その上端部がマウント部16から上方に突出しない状態とされる。本サスペンション装置10では、車体側デバイス34が退避位置に位置する状態においてソレノイド50を消磁することで、ピン52をモータケース28に設けられたもう1つのピン孔86に挿入して、車体側デバイス34のマウント部16に対する移動を禁止することが可能とされている。なお、図では、ソレノイド50,ピン孔56,ピン孔86と、係止爪80,係合溝84とが、モータケース28,ホルダ44の周方向における同じ位置に設けられているように示しているが、これは本サスペンション装置10の理解を容易にするための方便であり、実際には、ソレノイド50等と係止爪80等とは、周方向においてある程度の角度を有して隔てられて設けられている。
【0073】
また、本サスペンション装置10では、下方に移動させた車体側デバイス34を上方の位置に復帰させること、つまり、退避位置から通常状態位置に復帰させることが可能とされている。車体側デバイス34を復帰させる際には、まず、ソレノイド50を励磁させ、ピン52をピン孔86から引き抜き、車体側デバイス34の移動禁止状態を解除する。次に、モータ26をロッド22がシリンダ20に対して上方へ移動する方向に回転させることによって、車体側デバイス34は、マウント部16に対して上方に移動することになる。なお、その際、係止爪80は、係合溝84が有する傾斜面の作用によって後退させられる。車体側デバイス34は、モータケース28の下端部がホルダ44に当接する位置まで上方に移動させられ、その位置においてソレノイド50を消磁すれば、ピン52がピン孔56に挿入して、車体側デバイス34の移動が禁止されることになる。このようにして、車体側デバイス34は、通常状態位置に復帰させられるのである。つまり、モータ26等を含んで構成される上記強制移動機構は、下方に移動させられた車体側デバイス34を上方に復帰させる機能を有するものとされているのである。
【0074】
なお、車体側デバイス34が退避位置に位置する状態では、懸架シリンダ12の伸縮範囲、つまり、車体側デバイス34と車輪側デバイス32との相対移動の範囲は、通常状態位置に位置する状態と比較して、小さくされることになるが、懸架シリンダ12は、この小さくされた範囲において伸縮させられ、その範囲において適切な減衰力を発生させることになる。
【0075】
本実施例の車両用サスペンション装置10においては、マウント部16は、それから上方に離間した位置に設けられたボンネット90(フードの一種である)によって覆われている。また、ボンネット90の下部にはリブ92が付設されており、このリブ92は、ボンネット90とマウント部16が設けられている車体の一部との間に配設される状態となっている。このリブ92は、例えば、歩行者と車両との衝突に起因して歩行者がボンネット90に上方から当接する場合等において変形し、歩行者が受ける衝撃を緩和する緩衝材として機能するものとなっている。上記衝撃の緩和という観点からすれば、本サスペンション装置10では、通常状態において、車体側デバイス34の上端部がマウント部16から上方に突出した構造とされており、その突出部の存在は、衝撃緩和を阻害する要因となる。そこで、本サスペンション装置10では、後に詳しく説明するが、車両の衝突が検知された場合や、車両の衝突が予測された場合に、上記下方移動許容機構および強制移動機構とを作動させるものとされているのである。
【0076】
上記下方移動許容機構および強制移動機構の作動の制御(以下、「車体側デバイス移動制御」という場合がある)、詳しくは、ソレノイド50とモータ26との制御は、サスペンション電子制御ユニット(以下、「サスペンションECU」あるいは単に「ECU」という場合がある)100によって行われる。ECU100は、CPU,ROM,RAM,バス,I/O(入出力インタフェース)等を含んで構成されるコンピュータを主体とするものであり、モータ26,ソレノイド50等の駆動回路(ドライバ)をも含んで構成されている。上記モータ26およびソレノイド50は、コンピュータのI/Oに、それぞれの駆動回路を介して接続されている。また、I/Oには、車両の衝突を予測する車両衝突予測システム(PCS)102,当接センサ104,車体側デバイス34のマウント部16に対する上下方向の位置を検知する位置センサ106等も接続され、ECU100は、車体側デバイス移動制御を行う際に、それらからの各種情報を入手可能とされている。なお、当接センサ104は、バンパに設けられ、車両と何らかの物体とが当接した場合に、ECU100に、車両が衝突した旨の信号を送信するようにされている。また、車両衝突予測システム102は、レーダ,コンピュータ等を含んで構成され、車両の前方に存在する物体を特定し、その特定された物体との衝突の可能性を推認するシステムであり、特定された物体の衝突の可能性が高くなった場合に、ECU100に衝突の可能性がある旨の信号を送るようにされている。
【0077】
ECU100による車体側デバイス移動制御は、図3にフローチャートを示す車体側デバイス移動制御プログラムが実行されることによって行われる。その制御プログラムは、ECU100が有するコンピュータのROMに格納されており、車両のイグニッションスイッチがON状態とされた後、短い時間間隔(例えば、十〜数十msec)をおいて繰り返し実行される。以下、図3のフローチャートに従って、本サスペンション装置10における制御の内容を、順次説明する。
【0078】
車体側デバイス移動制御では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す、他のステップも同様である)において、当接センサ104により何らかの物体が車両に衝突した旨の信号が発せられているか否かが判定される。衝突した旨の信号が送られてきている場合には、S2において、位置センサ106の検知情報に基づいて車体側デバイス34が通常状態位置に位置しているか否かが判定され、車体側デバイス34が通常状態位置に位置している場合に、後に詳しく説明するところの、S3の車体側デバイス下方移動処理ルーチンが実行されて、車体側デバイス34が下方に移動させられることになる。なお、S2の判定において、車体側デバイス34が通常状態位置に位置していない場合は、車体側デバイス34が下方に移動中であるか、または、既に退避位置に位置しているとみなすことができるため、S3はスキップされる。
【0079】
車体側デバイス下方移動処理ルーチンは、図4にフローチャートで示すような処理を行うようなルーチンであり、時分割処理によって、車体側デバイス移動制御プログラムの実行と並行して実行される。まず、S10において、ソレノイド50が励磁させられる。これにより、ピン52がモータケース28のピン孔56から引き抜かれ、車体側デバイス34の下方への移動が許容される。続くS11において、モータ26が、ロッド22がシリンダ20に対して下方に移動する方向に回転させられる。それによって、車体側デバイス34が強制的に下方に移動させられる。次のS12において、位置センサ106の検知情報を基に、車体側デバイス34が退避位置に位置させられたか否かが判定される。車体側デバイス34が退避位置に位置させられるのを待って、S13において、S11で励磁させられているソレノイド50が消磁させられる。これによって、ピン52がピン孔86に挿入させられ、退避位置において、車体側デバイス34の移動が禁止される。なお、このルーチンが実行されることによる上記下方移動許容機構,強制移動機構の動作は、先に詳しく説明してあるため、ここでの説明はこの程度に留める。また、当接センサ104は、一旦何らかの物体が車両に衝突した場合には、衝突発生状態である旨の信号を発し続ける構造のものとされており、以後、S1の判定がYesと、S2の判定がNoとされ、車体側デバイス34が下方に位置させられた状態が、維持されることとなる。
【0080】
S1において、衝突が発生していないと判定されれば、S4において、車両衝突予測システム102からの信号に基づく判定がなされる。S4において、車両衝突予測システム102から衝突の可能性のある旨の信号が発せられている場合には、上記S2の判定が実行される。S2の判定において、車体側デバイス34が通常状態の位置にある場合は、先に説明したS3の車体側デバイス下方移動処理ルーチンが実行される。S2において、通常状態位置に位置していないと判断される場合は、先に説明したように、S3のルーチンはスキップされる。
【0081】
S4の判定において、車両衝突予測システム102から衝突の可能性がある旨の信号が発せられていない場合は、S5において、位置センサ106の検知情報に基づいて、車体側デバイス34が、退避位置に位置しているか否かが判定される。このS5において、車体側デバイス34が退避位置に位置している場合は、既にS3の車体側デバイス下方移動処理ルーチンが実行された後であり、衝突の可能性が高くはなくなったものと、つまり衝突が起きないとみなされ、この場合は、S6において、図5のフローチャートで表される車体側デバイス復帰処理ルーチンが実行される。
【0082】
車体側デバイス復帰処理ルーチンは、上記車体側デバイス下方移動処理ルーチンと同様に、時分割によって、車体側デバイス移動制御プログラムと並行して実行される。車体側デバイス復帰処理ルーチンは、退避位置に移動させられている車体側デバイス34を通常状態の位置に復帰させるものである。このルーチンでは、まず、S20において、ソレノイド50が励磁されてピン52がモータケース28から引き抜かれ、車体側デバイス34の移動が許容される。続くS21では、モータ26を回転させることで、車体側デバイス34を上方に移動させる。次のS22では、車体側デバイス34が通常状態位置に位置したか否かが判断され、車体側デバイス34が通常状態位置に位置させられるのを待って、S23が実行される。S23では、ソレノイド50が消磁され、ピン52がピン孔56に挿入されて、通常状態位置において車体側デバイス34の移動が禁止される。以上で、車体側デバイス復帰処理ルーチンの実行が終了する。なお、このルーチンが実行されることによる上記下方移動許容機構,強制移動機構の動作は、先に詳しく説明してあるため、ここでの説明はこの程度に留める。
【0083】
上記車体側デバイス移動制御プログラムの実行により、例えば、車両と歩行者との衝突が発生したときは、車体側デバイスが強制的に下方へ移動させられることになる。また、例えば、歩行者等が車両に衝突する可能性が高い段階で、車体側デバイスが強制的に下方へ移動させられ、また、衝突の可能性が高くはなくなった場合には、車体側デバイス34が通常状態に復帰させられることになる。
【0084】
なお、本実施例の車両用サスペンション装置10は、車体側デバイス下方移動許容機構によって下方への移動が許容された車体側デバイス34を、アクチュエータとしてのモータ26の駆動力によって、車体側デバイス34を強制的に下方へ移動させる機構を備えるものであったが、その強制移動機構を採用せずに、下方への移動が許容された車体側デバイス34が自重によって下方に移動するように構成されてもよく、また、ボンネット90への衝撃,ボンネット90の変形等によって、下方に移動するように構成されてもよい。
【0085】
<第2実施例>
図6に、第2実施例のサスペンション装置110を示す。なお、本実施例のサスペンション装置110は、第1実施例と同様に、モータを備えて車体側デバイスと車輪側デバイスとがボールねじ機構によって連結された電磁式サスペンション装置であり、かつ、車体側デバイスの下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構、および、車体側デバイスを強制的に下方へ移動させる車体側デバイス強制移動機構を備えたものとされている。本実施例の説明においては、第1実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
【0086】
車両用サスペンション装置110は、懸架シリンダ112と、コイルスプリング14の代わりとしてのエアスプリング114とを含んで構成されている。エアスプリング114は、ホルダ44に固定されたフレーム116と、シリンダ20に固定されたフレーム118と、それらフレーム116,118の間に設けられたゴム製のローリングダイヤフラム(以下、「ダイヤフラム」と略す場合がある)120とを含んで構成され、それら、フレーム116,118,ダイヤフラム120によって懸架シリンダ112の外側に形成された気密のエア室122を備えている。このエア室122は、エア通路124により図示を省略するエア給排装置が接続されており、そのエア給排装置によってエア室122の気体量が変更可能とされている。本車両用サスペンション装置110においては、車体側デバイス下方移動許容機構によって車体側デバイスの下方への移動が許容された車体側デバイスを強制的に下方へ移動させる場合には、その移動に伴ってエア室122の気体量を減少させ、車体側デバイスを通常状態に復帰させる場合には、エア室122の気体量を増加させるように構成されている。ちなみに、本実施例においては、第1実施例のものとは異なり、係止爪は設けられておらず、それの代わりとして、モータケース28の上部にはモータケース28より径の大きな上蓋126が付設されており、その上蓋126の外周部は、ホルダ44の上端に当接することで、車体側デバイス34の下方への移動に対するストッパとして機能するものとされている。
【0087】
<第3実施例>
図7に、第3実施例のサスペンション装置130を示す。なお、本実施例のサスペンション装置130は、第1実施例と同様に、モータを備えて車体側デバイスと車輪側デバイスとがボールねじ機構によって連結された電磁式サスペンション装置であり、かつ、車体側デバイスの下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構を備えたものとされている。本実施例の説明においては、第1実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
【0088】
本実施例のサスペンション装置130は、第1実施例と類似する懸架シリンダ132を備える。本サスペンション装置130では、モータ26を固定して収容するモータケース134がロアアーム18に連結され、シリンダ20がアッパサポート136によって支持される構造とされている。つまり、本サスペンション装置130においては、モータ26,モータケース134,ロッド22を含んで車輪側デバイス138が構成され、シリンダ20を含んで車体側デバイス140が構成されているのである。また、ロッド22およびナット24は、ボールねじ機構を構成するとともに、それぞれが、車輪側デバイス138,車体側デバイス140に設けられた雄ねじ部,雌ねじ部として機能するものとなっている。
【0089】
アッパサポート136は、防振ゴム150と円筒状のホルダ152とを含んで構成されており、シリンダ20が、ホルダ152に緩く嵌められた状態とされている。シリンダ20とホルダ152とには、それぞれ上下方向に延びるガイドとガイド溝(図示を省略する)とが設けられて、シリンダ20は、回転不能かつ上下方向に移動可能とされている。また、シリンダ20を構成する下部蓋154の外周端部は、ホルダ152に当接してシリンダ20の上方への移動を制限するストッパとして機能するもとのされている。シリンダ20とホルダ152とには、それぞれピン孔156,158が、下部蓋154がホルダ152の下端部に当接してシリンダ20が最も上方に位置する場合に同軸的に位置するように設けられている。一方、ホルダ152の外周部には、係止ピン160が、ばね162によってシリンダ20に向かう方向に付勢された状態で設けられており、その係止ピン160が、上記ピン孔156,158に挿入されている。このような状態が通常状態であり、通常状態において、車体側デバイス140は、係止ピン160の作用によって下方への移動が禁止される。通常状態では、シリンダ20の上部は、マウント部16に設けられた開口58を貫通して、マウント部16から上方に突出した状態となっており、その突出する部分が、車体側デバイス140の突出部となっている。
【0090】
上記係止ピン160は、ホルダ152の外周部に固定されたケーシング170に収容されている。ケーシング170には、その上部に保持穴172が設けられ、その保持穴172には、楔ピン174が嵌入する状態で保持されている。その楔ピン174は、車体の一部への車体側デバイス140の取付部であるマウント部16から、上方に突出した状態とされている。マウント部16はそれから上方に離間した位置に設けられたボンネット90によって覆われており、ボンネット90の下部には、その下面側に固定されて上記楔ピン174のすぐ上方にまで延びるプランジャロッド176が設けられている。なお、ボンネット90の下部には、歩行者が受ける衝撃を緩和する緩衝材として機能する樹脂発泡材からなるパッド材178が設けられている。
【0091】
本サスペンション装置130を備えた車両において、例えば、歩行者と車両との衝突に起因して歩行者がボンネット90に上方から当接する場合を想定する。その場合、ボンネット90は変形させられ、その変形によって、ボンネット90の下面側に固定されたプランジャロッド176が楔ピン174に当接し、楔ピン174を下方に押すことになる。係止ピン160には楔ピン174の先端部の傾斜面に対向する傾斜面を有する凹所180が設けられており、押された楔ピン174がその凹所180に係合させられ、係止ピン160は、それら傾斜面の作用によって後退させられ、シリンダ20のピン孔156から抜き出されることになる。この状態において、車体側デバイス140は、下方への移動が許容される。さらなるボンネット90の変形によって、ボンネット90の下面側に設けられたリブ182が、シリンダ20の上端部に当接するが、車体側デバイス140は、既に下方への移動が許容されているため、容易に下方へ移動し、ボンネット90の変形による衝撃吸収は阻害されない。
【0092】
以上のような構造から、係止ピン160等を含んで、車体側デバイス140のマウント部16に対する下方への移動を禁止する移動禁止手段が構成され、楔ピン174,プランジャロッド176等を含んで、移動禁止手段による車体側デバイス140の移動の禁止を解除する移動禁止解除手段が構成されている。また、本車両用サスペンション装置130は、上記移動禁止解除手段によって車体側デバイス140の下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構(突出部変位許容機構の一種である)を備えたものとされているのである。なお、本車両用サスペンション装置130は、第1実施例とは異なり、車体側デバイス強制移動機構は採用されておらず、ボンネット90への衝撃,ボンネット90の変形に伴って、車体側デバイス140を下方に移動させるような構造のものとされている。
【0093】
<第4実施例>
図8に、第4実施例の車両用サスペンション装置190を示す。なお、本実施例のサスペンション装置190は、突出部強制変位機構は採用されておらず、突出部変位許容機構を除き、第1実施例の装置と類似する構成とされているため、本実施例の説明においては、第1実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
【0094】
本実施例のサスペンション装置190は、懸架シリンダ192を主体として構成されるものであり、その懸架シリンダ192は、第1実施例と同様に、シリンダ20を含んで車輪側デバイス194が構成され、モータ26,モータケース28,ロッド22を含んで車体側デバイス196が構成された構造のものとなっており、車輪側デバイス194がサスペンションロアアーム18に連結され、車体側デバイス196がマウント部16に取り付けられた構造のものとなっている。ただし、本実施例におけるモータケース28は、モータ26の下部のみを収容するものとされている。また、ロッド22およびナット24は、ボールねじ機構を構成するとともに、それぞれが、車体側デバイス196,車輪側デバイス194に設けられた雄ねじ部,雌ねじ部として機能するものとなっている。
【0095】
車体側デバイス196は、支持部材としてのアッパサポート200に支持されて、マウント部16に取り付けられている。アッパサポート200は、マウント部16の下部に固着される環状の防振ゴム202を含んで構成されており、車体側デバイス196は、モータケース28が防振ゴム202の中央の穴に固着されることで、マウント部16に取り付けられている。この状態において、モータ26の上部は、マウント部16の開口58から上方に突出した状態となっており、その突出する部分が、車体側デバイス196の突出部となっている。
【0096】
防振ゴム202には、抵抗発熱線であるニクロム線204が螺旋状に埋設されており、ニクロム線204に通電することにより、防振ゴム202を軟化させることができる。それによってアッパサポート200の支持力が低下させられ、車体側デバイス196の下方への移動が許容される状態となるのである。ちなみに、例えば、ニクロム線204の埋設量を多くする、通電量を大きくする等して発熱量を大きくすれば、アッパサポート200の支持力をより小さくすることができ、場合によっては、防振ゴム202を焼き切って支持力を0とすることも可能である。
【0097】
以上のような構造から、本サスペンション装置190では、ニクロム線204を含んで、アッパサポート200を加熱することによってその支持力を低下させる支持力低下手段が構成され、本サスペンション装置190は、支持力低下手段によって車体側デバイス196の下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構(突出部変位許容機構の一種である)を備えたものとされているのである。なお、本車両用サスペンション装置190は、第3実施例と同様に、車体側デバイス強制移動機構は採用されておらず、ボンネット90への衝撃,ボンネット90の変形に伴って、車体側デバイス196を下方に移動させるような構造のものとされている。
【0098】
本実施例の車両用サスペンション装置190では、上記支持力低下手段の制御である支持力低下制御が、コンピュータを主体とするサスペンションECU100によって行われる。ECU100による支持力低下制御は、図9にフローチャートを示す支持力低下制御プログラムが実行されることによって行われる。その制御プログラムは、ECU100が有するコンピュータのROMに格納されており、車両のイグニッションスイッチがON状態とされた後、短い時間間隔(例えば、十〜数十msec)をおいて繰り返し実行される。以下、図9のフローチャートに従って、本サスペンション装置における支持力低下制御の内容を、順次説明する。
【0099】
支持力低下制御では、まず、S30において、車両衝突予測システム102からの信号に基づく判定がなされる。車両衝突予測システム102から衝突の可能性が高い旨の信号が発せられている場合には、S31において、衝突予測フラグがONにセットされているか否かが判定される。衝突予測フラグは、初期設定においてOFFとされているものであり、その内容については、後に説明する。S31において、衝突予測フラグがOFFである場合には、S32において、防振ゴム202に埋設されたニクロム線204に、防振ゴム202をそれに損傷を与えない程度に予熱可能に設定された予熱電流が流される。それに併せて、上記の衝突予測フラグがONにセットされる。S31において、フラグがONにセットされている場合は、既に、ニクロム線204に上記予熱電流が流されているため、S32はスキップされる。
【0100】
続いて、S33において、当接センサ104により何らかの物体が車両に衝突した旨の信号が発せられているか否かが判定される。衝突した旨の信号が送られてきている場合には、S34において、ニクロム線204に予熱電流より大きく設定された軟化電流を流して防振ゴム202を軟化させる(切断させてもよい)。これにより、車体側デバイスの下方への移動が許容されることになる。S34が実行された後、あるいは、S33において衝突が発生していないと判定されてS33がスキップされた後、支持力低下制御プログラムの1回の実行が終了する。
【0101】
S30の判定において、車両衝突予測システム102から衝突の可能性が高い旨の信号が発せられていない場合は、S35において、衝突予測フラグがONにセットされているか否かが判定される。衝突予測フラグがONにセットされている場合は、既に衝突が予測されS32においてニクロム線204に予熱電流が流されており、その場合には、衝突の可能性が高くはなくなったものと、つまり、衝突が起きないとみなされ、S36において、予熱電流の通電が解除され、併せて、衝突予測フラグがOFFにリセットされる。また、S35において、衝突予測フラグがOFFの場合は、S36がスキップされる。S35の実行の後、あるいは、S36がスキップされた後に、S33以降が実行される。
【0102】
以上説明した一連の処理を終了して、1回の支持力低下制御プログラムの実行が終了する。先に説明したように、この支持力低下制御プログラムは、イグニッションスイッチがOFFとされるまで、短い時間間隔をおいて連続して繰り返される。本サスペンション装置190では、上記支持力低下制御によって、歩行者等が車両に衝突する可能性が高い段階で防振ゴム202を予熱しておき、衝突が発生した場合には、速やかに車体側デバイスの下方への移動を許容することが可能である。また、例えば、歩行者等が衝突する可能性が高い段階でニクロム線に通電しても、実際には、歩行者等が衝突しなかった場合に、通電を解除して通常状態に復帰することが可能となる。
【0103】
<第5実施例>
図10に、第5実施例の車両用サスペンション装置210を示す。なお、本実施例のサスペンション装置210は、車体側デバイス下方移動許容機構を除き、第4実施例の装置と略同様の構成とされているため、本実施例の説明においては、第4実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
【0104】
本実施例のサスペンション装置210は、懸架シリンダ212を主体として構成されるものであり、懸架シリンダ212の車体側デバイス196を支持するアッパサポート214は、第4実施例のものと同様に、防振ゴム216を含んで構成されている。ただし、防振ゴム216には、ニクロム線は埋設されていない。一方、マウント部16を覆っているボンネット90の下面側には、下端部に刃が形成された円筒状のカッタ218が固定されている。カッタ218は、内径がモータケース28より大きく、かつ、外径がマウント部16に設けられた開口58よりは小さくされており、刃の部分が、防振ゴム216のすぐ上方に位置させられている。
【0105】
本サスペンション装置210を備えた車両において、例えば、歩行者と車両との衝突に起因して歩行者がボンネット90に上方から当接する場合、ボンネット90は変形させられる。その変形によって、ボンネット90に設けられたカッタ218の刃の部分が、防振ゴム216に当接し、さらなるボンネット90の変形によって、防振ゴム216を切断する。それによって、車体側デバイス34がマウント部16から分離され(アッパサポート214の支持力が0となる)、車体側デバイスは、自重によって下方へ移動することになる。また、その後のボンネット90の変形によって、カッタ218の内側の底面が、モータ26の上端部に当接するが、車体側デバイス196は、既に支持力が0とされて下方へ移動し始めているため、歩行者に衝撃を与えることはなく、車体側デバイス196は、ボンネット90の変形に伴ってさらに下方へ移動させられるだけである。
【0106】
以上のような構造から、カッタ218を含んで、支持部材であるアッパサポート214を切断することによって、その支持力を低下させる支持力低下手段が構成され、本サスペンション装置210は、支持力低下手段によって車体側デバイス34の下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構(突出部変位許容機構の一種である)を備えたものとされているのである。なお、本車両用サスペンション装置210は、車体側デバイス196の自重によって下方への移動を開始させ、さらに、ボンネット90への衝撃,ボンネット90の変形に伴って、車体側デバイス196を下方に移動させるような構造のものとされているのである。
【0107】
<第6実施例>
図11に、第6実施例の車両用サスペンション装置230を示す。なお、本実施例のサスペンション装置230は、車体側デバイス下方移動許容機構を除き、第4実施例の装置と略同様の構成とされているため、本実施例の説明においては、第4実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
【0108】
本実施例のサスペンション装置230は、懸架シリンダ232を主体として構成されるものであり、懸架シリンダ232の車体側デバイス196を支持するアッパサポート234は、第4実施例と同様に、防振ゴム236を含んで構成されている。ただし、防振ゴム236には、ニクロム線は埋設されておらず、内部に液体が封入された液封タイプの防振ゴムとされている。一方、車体の一部への取付部であるマウント部16を覆っているボンネット90の下面側には、下端部が尖形形状とされた1対の穿孔部材238が固定されている。
【0109】
本サスペンション装置230を備えた車両において、例えば、歩行者と車両との衝突に起因して歩行者がボンネット90に上方から当接する場合、ボンネット90は変形させられる。その変形によって、ボンネット90の下面側に固定された穿孔部材238の下端部が、防振ゴム236に当接し、さらなるボンネット90の変形によって、防振ゴム236に突き刺さる。それによって、防振ゴム236内部の液体が排出させられ、アッパサポート234の支持力が低下させられて、車体側デバイス196の下方への移動が許容される状態となるのである。
【0110】
以上のような構造から、穿孔部材238含んで、液体を封入した防振ゴム236から液体を排出させることによって、アッパサポート234の支持力を低下させる支持力低下手段が構成され、本サスペンション装置230は、支持力低下手段によって車体側デバイス196の下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構(突出部変位許容機構の一種である)を備えたものとされているのである。なお、本車両用サスペンション装置230は、ボンネット90への衝撃,ボンネット90の変形に伴って、車体側デバイス196を下方に移動させるような構造のものとされている。
【0111】
<第7実施例>
図12に、第7実施例の車両用サスペンション装置250を示す。なお、本実施例のサスペンション装置250は、第1実施例と同様に、モータを備えて車体側デバイスと車輪側デバイスとがボールねじ機構によって連結されたような電磁式サスペンション装置であり、かつ、車体側デバイスの下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構を備えたものとされているため、本実施例の説明においては、第1実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
【0112】
本実施例のサスペンション装置250が備える懸架シリンダ252は、第1実施例のものと同様に、電磁式アクチュエータとして機能するモータ26を含んで構成され、回転軸であるモータ軸30には、雄ねじが形成されたロッド254が一体的に接続されている。また、懸架シリンダ252は、サスペンションロアアーム18に連結された筒状のハウジングとしてのアウタチューブ256と、そのアウタチューブ256内に配設されてそのアウタチューブ256の上端部から上方に突出するインナチューブ258とを含んで構成されている。アウタチューブ256には、円筒状のシリンダ260がアウタチューブ256の底部内壁面に固定して設けられており、そのシリンダ260の内壁面上端部には、ベアリングボールを保持するナット262が固定して設けられている。一方、インナチューブ258は、その上端部がモータ26の下端部に固定され、インナチューブ258内部にロッド254が収まる構造とされている。それらロッド254とナット262とが螺合させられる状態で、インナチューブ258は、アウタチューブ256に嵌入されている。インナチューブ258は、その下端部に1対の凸部264が設けられ、アウタチューブ256に設けられた軸方向に延びる1対のガイド溝266に嵌められることで、アウターチューブ256に対して回転不能,軸方向に移動可能とされている。ちなみに、アウタチューブ256上端部には、シール268が設けられ、外部からの異物の侵入を阻止するようにされている。
【0113】
以上のように、懸架シリンダ252は、アウタチューブ256,シリンダ260を含んで車輪側デバイス280が構成され、ロッド254,インナチューブ258,モータ26を含んで車体側デバイス282が構成された構造のものとなっており、車輪側デバイス280がサスペンションロアアーム18に連結され、車体側デバイス282がマウント部16に取り付けられる構造のものとなっている。また、ロッド254およびナット262は、ボールねじ機構を構成するとともに、それぞれが、車体側デバイス282,車輪側デバイス280に設けられた雄ねじ部,雌ねじ部として機能するものとなっている。
【0114】
車体側デバイス282は、アッパサポート290に支持されて、マウント部16に取り付けられている。アッパサポート290は、マウント部16に固着される環状の防振ゴム292と、防振ゴム292の中央の穴に固着された概して筒状のホルダ294とを有する構造とされている。モータ26は、ホルダ294に挿入されて保持される。詳しく説明すれば、モータ26のハウジングの外周部には環状のリング296が嵌着されており、そのリング296の外周面とホルダ294の内周面とが摺接する状態とされ、また、ホルダ294の上端部および下端部の各々に設けられた内鍔298,300の内周部とモータ26のハウジングの外周部とが、シール302を介して摺接する状態とされている。そのような構造から、ホルダ294の内周面とモータ26の外周面とによって区画される空間は、リング296によって2つに区画されており、それぞれの空間内には作動液が充満させられている。それら2つの空間はそれぞれ液圧室304,306とされ、ホルダ294の上端部および下端部には、作動液を上記2つの空間に出入りさせるためのポート308,310が設けられており、それらのポート308,310は、電磁式切換弁312を介在させた液通路314によって繋がれている。また、液圧室304,306の各々には、弾性部材としての圧縮コイルスプリング316,318が配設されている。以上のような構造を有する支持機構を介して、車体側デバイス282は、マウント部16に取り付けられているのである。
【0115】
電磁式切換弁312は、3位置弁とされており、両方の液圧室304,306の連通を遮断する状態(第1状態)、両方の液圧室304,306を絞りを介して連通する状態(第2状態)、上方の液圧室304から下方の液圧室306への作動液の移動を禁止するとともにその逆の移動を許容する状態(第3状態)の3つの状態を相互に切り換えるようにされている。電磁式切換弁312は、通常状態においては、第2状態とされる。この状態においては、車体側デバイス282は、2つの圧縮コイルスプリング316,318のバネ力が釣り合う位置を中心として、絞りによる減衰力が作用する状態での移動が許容された状態とされる。つまり、車体側デバイス282は、マウント部16に、並列的に配設されたダンパばねとによって弾性支持された状態となり、車輪側デバイス280から車体側デバイス282を介してマウント部16に伝達される高周波的な振動が効果的に吸収されることになる。ちなみに、この通常状態において、モータ26の上端部は、マウント部16に設けられた開口58から上方に突出した状態となっており、その突出する部分が、車体側デバイス282の突出部となっている。
【0116】
車体側デバイス282の上端部が突出した状態である通常状態から、電磁式切換弁312を切り換えて上記第3状態とすれば、下方液圧室306から上方液圧室304への作動液の流れのみが許容される。つまり、車体側デバイス282は、下方への移動が許容される状態となる。さらに、その第3状態において、モータ26をロッド254がシリンダ260に対して下方へ移動する方向に回転させれば、車体側デバイス282が下方に移動することになる。つまり、本実施例の車両用サスペンション装置250では、電磁式切換弁312が、上記支持機構の発生させる減衰力を低減させる減衰力低減手段とされ、その電磁式切換弁312を含んで、車体側デバイス282のマウント部16に対する下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構(「突出部変位許容機構」の一種である)が構成されている。また、本車両用サスペンション装置250は、下方移動許容機構によって下方への移動が許容された車体側デバイス282を強制的に移動させる車体側デバイス強制移動機構(「突出部強制変位機構」の一種である)をも備えるものとされているのである。なお、モータ26は、強制移動機構を駆動するアクチュエータとして機能するものとなっている。
【0117】
車体側デバイス282は、上記強制移動機構によって下方に移動させられれば、スプリング318の収縮限界となる位置に到達し、その位置において、電磁式切換弁312を上記第1状態とすれば、車体側デバイス282は、その位置において移動が禁止されることになる。その位置は、退避位置であり、車体側デバイス282の上端部がマウント部16から上方に突出しない状態の位置である。
【0118】
また、本サスペンション装置250では、下方に移動させた車体側デバイス282を中立位置に復帰させること、つまり、退避位置から通常状態位置に復帰させることが可能とされている。車体側デバイス282を復帰させる際には、電磁式切換弁312を上記第2状態に切り換えることで、液圧室304,306の間の作動液の流れが許容され、スプリング316,318によって車体側デバイス282は上記釣合い位置に戻される。つまり、車体側デバイス282は、通常状態位置に復帰させられるのである。また、その場合、モータ26をロッド254がシリンダ260に対して上方へ移動する方向に回転させることによって、車体側デバイス282を上方に移動させることも可能である。
【0119】
本実施例のサスペンション装置250でも、第1実施例と同様に、車両の衝突が検知された場合や、車両の衝突が予測された場合に、上記下方移動許容機構および強制移動機構は、制御装置であるECU100によって作動させられる。本実施例においては、ECU100によって、電磁式切換弁312とモータ26との制御が行われるのである。本実施例の制御は、第1実施例の電磁ソレノイドに代えて電磁式切換弁312の制御を行うことを除いて、第1実施例とほぼ同様であるため、それについての説明は省略する。
【0120】
<第8実施例>
図13に、第8実施例の車両用サスペンション装置320を示す。なお、本実施例のサスペンション装置320は、第1実施例と同様に、モータを備えて車体側デバイスと車輪側デバイスとがボールねじ機構によって連結されたような電磁式サスペンション装置であるため、本実施例の説明においては、第1実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
【0121】
本実施例のサスペンション装置320は、第1実施例と類似する懸架シリンダ322を備えるものであるが、ロッド22の上部は、マウント部16に固定して設けられたロッド支持部材324によって、ベアリング326を介する状態で、マウント部16に回転可能かつ軸方向に移動不能に連結されている。また、ロッド22の上端部は、ユニバーサルジョイント328を介して、モータ26のモータ軸30に接続されている。つまり、本実施例の懸架シリンダ322は、シリンダ20を含んで第1実施例と同様の車輪側デバイス32が構成され、モータ26,ユニバーサルジョイント328,ロッド22を含んで車体側デバイス330が構成された構造のものとなっており、車輪側デバイス32がロアアーム18に連結され、車体側デバイス330がマウント部16に取り付けられる構造のものとなっている。
【0122】
モータ26は、一端部がマウント部16の上面に回動可能に支持されて他端部がモータ26から突出する1対のピン338に回動可能に連結された2対のリンク340,342によって、ロッド22と同軸的に支持された状態、言い換えれば、直立して支持された状態とされている。その状態において、モータ26およびユニバーサルジョイント328は、マウント部16から上方に突出した状態となっており、その突出する部分が、車体側デバイス330の突出部となっている。
【0123】
2対のリンクのうちの一方の対をなすリンク342は、それぞれが、2つのリンク部材344,346を含んで構成されており、それらリンク部材344,346の各々の一端部がそれぞれモータ26,マウント部16に回動可能に取り付けられ、それら各々の他端部が連結軸348によって互いに回転可能に連結されている。なお、その他端部どうしの連結は、比較的固い連結とされ、あたかも1本の棒状のものと等しい状態となっている。そのリンク342の各々には、受圧片350が固定され、ボンネット90の下部には、その下面側に固定されて、上記受圧片350の各々のすぐ上方にまで延びる1対のプランジャロッド352が設けられている。
【0124】
本サスペンション装置320を備えた車両において、例えば、歩行者と車両との衝突に起因して歩行者がボンネット90に上方から当接する場合、ボンネット90は変形させられる。その変形によって、ボンネット90に設けられたプランジャロッド352が受圧片350を下方に押すことになる。それによって、リンク342は、連結軸348を中心に折れ曲がり、モータ26は、ユニバーサルジョイント328を中心として図において時計回りの回転が許容されることになる。つまり、車体側デバイス330の突出部の一部であるモータ26の傾倒が許容される状態となるのである。さらなるボンネット90の変形によって、ボンネット90の下面側に設けられたリブ354が、モータ26の上端部に当接するが、モータ26は、既に傾倒することが許容されているため、図14に示すように、ユニバーサルジョイント328を中心としてマウント部16に接するまで回転させられる。なお、プランジャロッド352には、弱体部356が設けられており、受圧片350を押し込んだ後にマウント部16に当接した場合に、容易に折れ曲がるようにされている。二点差線で示す元のボンネット90の状態と比較して解るように、本サスペンション装置320おいては、ボンネット90への衝撃が加わった場合に、懸架シリンダ322の上端部であるモータ26の上端部とボンネット90との間隔が拡大されるのであり、歩行者が受ける衝撃を効果的に緩和可能となる。
【0125】
以上のような構造から、本車両用サスペンション装置320は、モータ26が傾倒することを許容する突出部傾倒許容機構を備えたものとされているのである。この突出部傾倒許容機構は、車体側デバイス330の突出部のマウント部16からの突出量を減少するような突出部の傾倒を許容する突出部変位許容機構の一種とされているのである。
【0126】
<第9実施例>
図15に、第9実施例の車両用サスペンション装置360を示す。なお、本実施例のサスペンション装置360は、第8実施例のものと同様の懸架シリンダ322を備えた電磁式サスペンション装置であり、突出部傾倒許容機構を除き、第8実施例と略同様の構成とされているため、本実施例の説明においては、第8実施例の装置と同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するあるいは簡略に行うものとする。
【0127】
モータ26は、一端部がモータ26の下端部に固定され、もう一方の他端部がマウント部16の上面に固定された、概ねZ形状をなす1対の破断部材としての樹脂製のモータ支持部材362によって、ロッド22と同軸的に支持された状態、言い換えれば、直立して支持された状態とされている。その状態において、モータ26およびユニバーサルジョイント328は、マウント部16から上方に突出した状態となっており、その突出する部分が、車体側デバイス330の突出部となっている。
【0128】
本サスペンション装置320を備えた車両において、例えば、歩行者と車両との衝突に起因して歩行者がボンネット90に上方から当接する場合、ボンネット90は変形させられる。その変形によって、ボンネット90の下面側に設けられたリブ354が、モータ26の上端部に衝突し、モータ26には、ユニバーサルジョイント328を中心として図において時計回りの力が加わることになる。モータ支持部材362には、弱体部364が設けられており、モータ26に加わった力によって、モータ支持部材362は弱体部364で破断し、モータ26が傾倒させられるのである。以上のような構造から、本車両用サスペンション装置360は、モータ26が傾倒することを許容する突出部傾倒許容機構(突出部変位許容機構の一種である)を備えたものとされているのであり、第8実施例と同様の効果が得られるのである。なお、本実施例の突出部傾倒許容機構において、破断部材としてのモータ支持部材362は、何らかのアクチュエータによって破断させられるようなものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】第1実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
【図2】図1に示す車体側デバイスが下方へ移動させられた状態を示す図である。
【図3】図1に示すサスペンション電子制御ユニットによって実行される車体側デバイス移動制御プログラムを表すフローチャートである。
【図4】図3に示す車体側デバイス移動制御プログラムの一部を構成する車体側デバイス下方移動処理ルーチンを表すフローチャートである。
【図5】図3に示す車体側デバイス移動制御プログラムの一部を構成する車体側デバイス復帰処理ルーチンを表すフローチャートである。
【図6】第2実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
【図7】第3実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
【図8】第4実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
【図9】図8に示すサスペンション電子制御ユニットによって実行される支持力低下制御プログラムを表すフローチャートである。
【図10】第5実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
【図11】第6実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
【図12】第7実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
【図13】第8実施例の車両用サスペンション装置の正面断面図である。
【図14】図13に示すモータが傾倒させられた状態を示す図である。
【図15】第9実施例の変形例としての車両用サスペンション装置の正面断面図である。
【符号の説明】
【0130】
10:車両用サスペンション装置 12:懸架シリンダ(減衰力発生装置) 14:コイルスプリング 16:マウント部(取付部) 18:サスペンションロアアーム(車輪保持部材) 22:ロッド(雄ねじ部) 24:ナット(雌ねじ部) 26:モータ 32:車輪側デバイス 34:車体側デバイス 40:アッパサポート 50:ソレノイド(禁止解除手段) 52:ピン(移動禁止手段) 90:ボンネット 92:リブ(衝撃吸収部材) 100:サスペンション電子制御ユニット(ECU) 102:車両衝突予測システム(PCS) 104:当接センサ 110:車両用サスペンション装置 112:懸架シリンダ 114:エアスプリング 130:車両用サスペンション装置 132:懸架シリンダ 136:アッパサポート 138:車輪側デバイス 140:車体側デバイス 160:係止ピン 174:楔ピン 176:プランジャロッド 178:パッド材(衝撃吸収部材) 190:車両用サスペンション装置 192:懸架シリンダ 194:車輪側デバイス 196:車体側デバイス 200:アッパサポート 204:防振ゴム 206:ニクロム線 210:車両用サスペンション装置 212:懸架シリンダ 214:アッパサポート 216:防振ゴム 218:カッタ 230:車両用サスペンション装置 232:懸架シリンダ 234:アッパサポート 236:防振ゴム(液封) 238:穿孔部材 250:車両用サスペンション装置 252:懸架シリンダ 254:ロッド 262:ナット 280:車輪側デバイス 282:車体側デバイス 294:ホルダ 304,306:液圧室 312:電磁式切換弁 316,318:圧縮コイルスプリング 320:車両用サスペンション装置 322:懸架シリンダ 330:車体側デバイス 340,342:リンク 350:受圧片 352:プランジャロッド 360:車両用サスペンション装置 362:モータ支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を保持する車輪保持部材に連結された車輪側デバイスと、車輪の上方に位置する車体の一部に設けられた取付部に上方の端部がその取付部から上方に突出して取り付けられた車体側デバイスとを備え、車輪と車体の一部との相対移動に伴なう前記車輪側デバイスと前記車体側デバイスとの相対移動に対する抵抗によって、車輪と車体の一部との相対移動に対する減衰力を発生させる減衰力発生装置と、
前記車体側デバイスの前記取付部から上方に突出した部分である突出部の前記取付部からの突出量が減少するように、前記車体側デバイスの少なくとも前記突出部の変位を許容する突出部変位許容機構と
を備えたことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
前記突出部変位許容機構が、前記車体側デバイスの前記取付部に対する下方への移動を許容する車体側デバイス下方移動許容機構である請求項1に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項3】
当該サスペンション装置が、前記車体側デバイスを前記取付部に固定支持する支持部材を備え、前記車体側デバイス下方移動許容機構が、前記支持部材の支持力を低下させる支持力低下手段を備えた請求項2に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項4】
前記支持力低下手段が、
前記支持部材がゴム製の部材とされた場合におけるその支持部材を加熱する手段と、前記支持部材がゴム製の部材とされた場合におけるその支持部材を切断する手段と、前記支持部材が液体を封入したゴム製の部材とされた場合におけるその支持部材から前記液体を排出させる手段とから選ばれるいずれかの手段とされた請求項3に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項5】
当該サスペンション装置が、前記車体側デバイスの前記取付部に対する下方への移動が可能な構成とされ、かつ、その移動を禁止する移動禁止手段を備え、前記車体側デバイス下方移動許容機構が、前記移動禁止手段による前記車体側デバイスの移動の禁止を解除する禁止解除手段を備えた請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項6】
当該サスペンション装置が、並列に配置された弾性部材と液圧式ダンパとを備え、それらによって前記車体側デバイスが前記取付部に弾性支持される構成とされており、前記車体側デバイス下方移動許容機構が、前記液圧式ダンパの発生させる減衰力を低減させる減衰力低減手段を備え、それによって前記減衰力を低減させることで前記車体側デバイスの前記取付部に対する下方への移動を許容する構成とされた請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項7】
当該サスペンション装置が、前記車体側デバイス下方移動許容機構によって下方への移動が許容された前記車体側デバイスを強制的に下方へ移動させる車体側デバイス強制移動機構を備えた請求項2ないし請求項6のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項8】
前記車体側デバイス強制移動機構が、アクチュエータを備えてそのアクチュエータの駆動力により前記車体側デバイスを強制的に下方へ移動させる機構とされ、
当該サスペンション装置が、(a)一方が前記車輪側デバイスに上下方向に移動不能に設けられ他方が前記車体側デバイスに上下方向に移動不能に設けられて互いに螺合し、前記車輪側デバイスと車体側デバイスとの相対移動に伴って相対回転する雄ねじ部および雌ねじ部と、(b)前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とに相対回転トルクを加えて前記車輪側デバイスと車体側デバイスとの相対移動に対する抵抗を付与するモータとを備え、
そのモータが、前記車体側デバイス強制移動機構が備える前記アクチュエータとして機能するものとされた請求項7に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項9】
前記車体側デバイス強制移動機構が、車両の衝突が検知された場合と車両の衝突が予測された場合とのいずれかにおいて、前記車体側デバイスを強制的に下方へ移動させるものとされた請求項7または請求項8に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項10】
前記車体側デバイス強制移動機構が、強制的に下方へ移動させられた前記車体側デバイスを上方へ復帰させる機能を有する請求項7ないし請求項9のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項11】
前記突出部変位許容機構が、前記車体側デバイスの前記突出部が傾倒することを許容する突出部傾倒許容機構である請求項1に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項12】
当該サスペンション装置が、(a)一方が前記車輪側デバイスに上下方向に移動不能に設けられ他方が前記車体側デバイスに上下方向に移動不能に設けられて互いに螺合し、前記車輪側デバイスと車体側デバイスとの相対移動に伴って相対回転する雄ねじ部および雌ねじ部と、(b)前記車体側デバイスの構成要素としてそれの上方の端部に設けられ、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とに相対回転トルクを加えて前記車輪側デバイスと車体側デバイスとの相対移動に対する抵抗を付与するモータとを備え、
前記突出部傾倒許容機構が、前記モータの傾倒を許容する機構とされた請求項11に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項13】
当該サスペンション装置が、前記取付部の上方において前記車体側デバイスの上端部から離間した位置に配設されたフードを備える車両に搭載されるものであり、そのフードと前記取付部が設けられた車体の一部との間に配設されてフードに加わる衝撃を吸収するための衝撃吸収部材を備えた請求項1ないし請求項12のいずれかに記載の車両用サスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−117158(P2006−117158A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308530(P2004−308530)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】